説明

多孔質構造体

【課題】耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性など物性バランスに優れた合成皮革、人工皮革、フィルター、クッション材などの用途に使用される多孔質構造体を提供する。
【解決手段】有機ジイソシアネート、ポリカーボネートジオール、及び鎖延長剤の反応生成物を含んでなるポリウレタン樹脂を湿式成膜することにより得られる多孔質構造体であって、該ポリカーボネートジオールの繰り返し単位の70〜100モル%は下記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位である、上記多孔質構造体。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性のバランスに優れた合成皮革、人工皮革、フィルター、クッション材などの用途に使用される多孔質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多孔質構造体としては、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオールを用いて重合されたポリウレタン樹脂溶液を繊維質基材や成膜坂に塗布し水中で凝固して得られるものがある。これらの多孔質構造体は、柔軟性に優れるものの、汗などの成分により分解を受けやすく耐久性に問題があった。また、ヒドロキシ化合物と二塩基酸を反応させて得られるポリエステルポリオールを用いて重合されたポリウレタン樹脂溶液を用い、凝固して得られる多孔質構造体が存在する。この多孔質構造体は、耐加水分解性に問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するため、ポリカーボネートジオールを用いて重合されたポリウレタン樹脂溶液を用いて多孔質構造体を得る方法が開示されている。しかしながら、ポリカーボネートジオールを用いて重合されたポリウレタン樹脂溶液は、湿式凝固性が不良であり風合いが硬くなるなどの問題があった。それを解決するため、特殊な成膜助剤を用いて湿式凝固する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、成膜助剤の量によっては、表面に濡れ感が出たり、耐久性などに問題が発生したりした。また、結晶性の強いポリカーボネートジオールを用いた場合、湿式凝固性が不良となる傾向が強いため、結晶性の低いコポリカーボネートジオールを用いて重合されたポリウレタン溶液を用いる方法が開示されている(特許文献2参照)。また、ポリウレタン皮膜層が、100%モジュラス20〜200kg/cmの非晶性ポリカーボネート系ポリウレタンで形成されていることを特徴とする合成皮革が開示されている(特許文献3参照)。また、繊維基材表面にポリウレタン樹脂接着層を介してポリウレタン樹脂表皮層が積層される合成皮革において、繊維基材層が両面編み組織を有する緯編布であり、かつポリウレタン樹脂表皮層を形成するポリウレタン樹脂がシリコーン変性無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタンである合成皮革が開示されている(特許文献4参照)。さらには、脂肪族ジオールとジアルキルカーボネートのエステル交換反応により得られる脂肪族オリゴカーボネートジオールと、活性水素基を有する化合物を開始剤として環状エステル化合物を開環付加重合することにより得られるポリエステルポリオールとのエステル交換反応で得られるポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリイソシアネート、及び鎖延長剤とからなるウレタン樹脂を用いてなる合成皮革表面皮膜層が開示されている(特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、これらの方法で得られた多孔質構造体は、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性を更にバランスよく併せ持つことが求められていた。上記に示すように、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性のバランスに優れた多孔質構造体が求められていた。
【0005】
一方、特定の構造のポリカーボネートジオールを用いることによって、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性、密着性などの物性のバランスに優れた多孔質構造体が開示されている(特許文献6参照)。しかしながら、該ポリカーボネートジオールの粘度が高いため取り扱い難く、さらには多孔質構造体を製造する過程を必要とし、多量の溶媒を必要とするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3305358号公報
【特許文献2】特開平5−186631号公報
【特許文献3】特開平5−5280号公報
【特許文献4】特開平9−31862号公報
【特許文献5】特開2005−346094号公報
【特許文献6】特開2008−37988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性のバランスに優れた合成皮革、人工皮革、フィルター、クッション材などの用途に使用される多孔質構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のポリカーボネートジオールを用いることにより上記の問題点を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリカーボネートジオール、及び(c)鎖延長剤の反応生成物を含んでなるポリウレタン樹脂を湿式凝固方式により湿式成膜することにより得られる多孔質構造体であって、該ポリカーボネートジオール(b)が、下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基とを有するポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の70〜100モル%は下記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位であり、
【化1】


(但し、式中のRは、炭素数2〜12の二価の脂肪族又は脂環族炭化水素基を表す。)
【化2】


(但し、式中のR及びRは、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは、同じでもよく異なってもよい。)
【化3】


(但し、式中のnは、2から12の整数。)
そして式(B)で表される繰り返し単位と式(C)で表される繰り返し単位との割合が、モル比率で1:99〜40:60であり、該ポリカーボネートジオール(b)の数平均分子量が300〜10000であることを特徴とする、上記多孔質構造体、
(2)前記ポリカーボネートジオール(b)において、前記式(C)で表される繰り返し単位の少なくとも一部が、下記式(D)で表される繰り返し単位であることを特徴とする、上記(1)に記載の多孔質構造体、
【化4】


(但し、式中のnは、4、5,又は6のいずれかの整数。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性のバランスに優れた合成皮革、人工皮革、フィルター、クッション材などの用途に使用される多孔質構造体を提供することができるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明について具体的に説明する。
【0012】
ポリウレタン樹脂
本発明において、ポリウレタン樹脂は、有機ジイソシアネート(a)、ポリカーボネートジオール(b)、及び鎖延長剤(c)の反応生成物を含んでなる。
【0013】
有機ジイソシアネート(a)
本発明で用いる有機ジイソシアネート(a)としては、2,4−トリレジンジイソシアネート、2,6−トリレジンジイソシアネート及びその混合物、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3´−ジメチル−4,4´ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、粗製TDI、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(PMDI)、粗製MDIなどの芳香族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、フェニレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート、4,4´−メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(水添MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水添XDI)などの脂肪族ジイソシアネートを挙げることができるが、これらには限定されない。通常は1種の有機ジイソシアネートを選択して用いるが、これらの有機ジイソシアネートから2種類以上を選択しそれらを混合して、又は逐次追加して用いても構わない。有機ジイソシアネートの使用量は、通常は、ポリカーボネートジオールと鎖延長剤の総量に対し、0.95〜1.2当量である。
【0014】
ポリカーボネートジオール(b)
本発明で用いるポリカーボネートジオール(b)は、ジオールと炭酸エステルを原料に用い、エステル交換に付すことで得ることができる。
【0015】
本発明では、ジオールとして、2,2−ジアルキル置換−1,3−プロパンジオール(以降、2,2置換PDLと称す。)と側鎖を持たないジオールが用いられるが、これらには限定されない。2,2置換PDLを原料に用いることで、ポリカーボネートジオール(b)中に、式(B)で表される繰り返し単位を導入することができる。側鎖を持たないジオールを原料に用いることで、ポリカーボネートジオール(b)中に、式(C)で表される繰り返し単位を導入することができる。
2,2置換PDLとしては、炭素数が1〜8の脂肪族炭化水素で2位の炭素が置換された1,3−プロパンジオールであり、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ペンチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられるが、これらには限定されない。
側鎖を持たない脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ナノジオール、1,10−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられるが、これらには限定されない。
2,2置換PDL及び側鎖を持たない脂肪族ジオールから、1種又は複数のジオールを選択して用いることができる。
【0016】
2,2置換PDLは、主鎖の炭素数が3と少ないため、それを用いて得られるポリカーボネートジオールは、カーボネート結合の密度が高くなる。それによって、多孔質構造体の耐汗性が向上する。一方、2,2置換PDLは、1つの炭素に2つのアルキル基が結合した嵩高い構造を有するため、その構造をポリカーボネートジオールに導入することで規則性が大きく低下する。さらに、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ペンチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールなどは、主鎖よりも多い炭素数の側鎖を有するため、分子間又は分子内におけるカーボネート結合間の相互作用が阻害されやすい。上記の効果により、2,2置換PDLを原料に用いたポリカーボネートジオールは、高い柔軟性を有するとともに、上記構造を持たないポリカーボネートジオールと比較すると、ポリウレタン溶液の粘度が低くなる。さらに、嵩高い構造を有する2,2置換PDLと、側鎖を持たない脂肪族ジオールを組み合わせることで、多孔質構造体の柔軟性と強度を制御することができる。1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、又は1,6−ヘキサンジオールを用いた場合、柔軟性と強度のバランスが好ましい。これら3種のジオールのいずれかを用いることにより、式(D)で表される繰り返し単位をポリカーボネートジオール(b)中に導入することができる。ポリカーボネートジオール(b)中の式(C)で表わされる繰り返し単位の少なくとも一部が式(D)で表わされる繰り返し単位であることが好ましく、式(C)で表わされる繰り返し単位の全部が式(D)で表わされる繰り返し単位であることが特に好ましい。
【0017】
分子中の2,2置換PDLに由来する繰り返し単位(上記式(B))と側鎖を持たないジオールに由来する繰り返し単位(上記式(C))の割合(以降、共重合比率と称し、上記式(B):上記式(C)で表す。)は、モル比で1:99〜40:60である。2,2置換PDLに由来する繰り返し単位のモル比が40以下であれば、強度が不足することもなく好ましい。一方、2,2置換PDLに由来する繰り返し単位のモル比が1以上であれば、耐汗性が不足することがなく、柔軟性も向上するので好ましい。共重合比率が3:97〜25:75である場合、柔軟で高い強度を有するとともに、耐汗性の高い多孔質構造体を得ることができるので好ましく、5:95〜15:85である場合最も好ましい。
【0018】
さらに、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールなどの側鎖を持ったジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパンなどの環状ジオールから、1種類又は2種類以上のジオールを原料として選択して用いることもできる。その量は、上記式(A)で表される繰り返し単位における上記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位の割合(以降、主成分比率と称する。)が、70モル%未満とならない範囲で決められる。主成分比率が、70%以上であれば、多孔質構造体の強度が低下したり、耐汗性が不足するなどの問題が抑制されるので好ましい。85%以上、さらに好ましくは90%以上であれば、高い強度と耐汗性を有する多孔質構造体を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係るポリカーボネートジオールの製造において、1分子に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどを少量用いることもできる。この場合、製造されたポリカーボネートジオールは、トリオール成分を一部有するため、正確には「ポリカーボネートポリオール」ではあるが、このような場合も、本明細書においては便宜上、「ポリカーボネートジオール」と称することにする。この1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物を余り多く用いると、ポリカーボネートの重合反応中に架橋してゲル化が起きてしまう。したがって1分子中に3以上のヒドロキシル基を持つ化合物を使用する場合は、2,2置換PDLと側鎖を持たない脂肪族ジオールの合計量に対し、0.1〜5モル%にするのが好ましい。より好ましくは0.1〜2モル%、さらに好ましくは0.1〜0.5モル%である。
【0020】
本発明で用いられるポリカーボネートジオール(b)の平均分子量の範囲は、数平均分子量で300〜10000、好ましくは400〜5000、さらに好ましくは400〜2500である
本発明のポリカーボネートジオールは、柔軟性を向上させる目的で、分子内に下記式(E)の繰り返し単位で表される構造を含むこともできる。
【化5】


(式中、Rはアルキレン基を表し、該アルキレン基は2種類以上であっても構わない。また、xは2以上の整数を表す。)
ポリカーボネートジオール分子中の式(E)の繰り返し単位の含有量は、本発明に影響しない範囲であれば特に限定するものではないが、その量が増えると耐熱性や耐薬品性が低下する。下記式(A)で表されるカーボネートの繰り返し単位に対し上記式(E)で表されるエーテルの繰り返し単位が0.05〜5モル%以下であることが好ましく、0.05〜3モル%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリカーボネートジオールとしては、アルキレンカーボネート、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネートなどの炭酸エステルを原料に用いるが、これらに限定されない。アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネートなどが、ジアルキレンカーボネートとしては、ジフェニルカーボネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。そのなかでも、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートを用いるのが好ましく、エチレンカーボネートを用いるのがより好ましい。
【0022】
本発明のポリカーボネートジオールの製造方法は、特に限定されない。例えば、Schnell著、ポリマー・レビューズ第9巻、p9〜20(1994年)に記載される種々の方法で製造することができる。
【0023】
鎖延長剤(c)
本発明に用いる鎖延長剤(c)としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの短鎖ジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミンなどのジアミン類及び水が挙げられるが、これらに限定されない。通常は1種の鎖延長剤を選択して用いるが、これらの鎖延長剤から2種類以上を選択しそれらを混合して用いても構わない。鎖延長剤の使用量は、通常は、ポリカーボネートジオール(b)のモル数を100として50〜500モルである。
【0024】
ポリウレタン樹脂の製造
本発明のポリウレタン樹脂は、ポリウレタン業界で公知の方法により得ることができる。例えば、ポリカーボネートジオールと有機ジイソシアネートを、20〜150℃で2〜12時間反応させて、末端がイソシアネート基となったウレタンプレポリマーを合成した後、これに鎖延長剤を加え、20〜150℃で2〜12時間反応させ目的とする分子量とするプレポリマー法、又は、ポリカーボネートジオールと有機イソシアネートと鎖延長剤を一括して添加し、20〜150℃で3〜12時間反応させることにより、目的とする分子量とするワンショット法がある。
【0025】
この反応において、必要に応じてウレタン反応触媒を添加することができる。触媒としては、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、モルホリンなどの含窒素化合物、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸スズなどの金属塩、ジブチルスズジラウレートなどの有機金属化合物が挙げられる。必要に応じて、重合停止剤を添加することもできる。重合停止剤としては、メタノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどの1価のアルコール類やジブチルアミンなどを使用することができる。これらの反応は、溶媒中で行ってもよく、無溶媒で反応した後に溶媒を添加し、ポリウレタン樹脂を溶解してもよい。
【0026】
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ジオキサン、アセトン、シクロヘキサン、トルエンなどを用いることができる。これらの有機溶媒は、1種類又は2種類以上の混合物として用いることができる。実用上好ましい有機溶媒としては、アミド系溶媒であり、特に好ましいのはDMFである。有機溶媒中ポリウレタン樹脂溶液の濃度は、一般的には5〜50重量%である。
【0027】
ポリウレタン樹脂溶液に成膜助剤を添加することもできる。成膜助剤としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、メリシン酸などの炭素数が比較的多い脂肪族カルボン酸、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの長鎖アルコールが挙げられる。さらに、炭素数1〜6のアルキルアルコールと炭素数6〜18の脂肪族カルボン酸から得られるカルボン酸エステル、グリセリンと炭素数10〜22の脂肪族カルボン酸モノエステル、ジエステル、トリエステル、ソルビタンと炭素数10〜22の脂肪族カルボン酸モノエステル、ジエステルトリエステルが挙げられる。
【0028】
ポリウレタン樹脂溶液には、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、撥水撥油剤、消臭剤、帯電防止剤、芳香剤、離型剤、滑剤、充填剤、発泡剤などの添加剤を単独で又は2種類以上を併せて添加することもできる。さらに、必要に応じて、合成ゴム、ポリ塩化ビニル又は塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル又は酢酸ビニル共重合体、アミノ酸樹脂、ポリウレタン/ポリアミノ酸ブロック共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリアミドなどの重合体を添加することもできる。
【0029】
多孔質構造体
本発明の多孔質構造体は、ポリウレタン樹脂溶液を基材に塗布又は含浸し、湿式凝固することで得ることができる。また、必要に応じ、得られた多孔質構造体を基材から剥離して使用してもよい。
【0030】
基材としては、種々のものが使用できる。例えば、繊維質基材としては、繊維を不織布、織布、網布などの形状にした繊維集合体、あるいは繊維集合体の各繊維間が弾性重合体で結合されたものなどが挙げられる。この繊維集合体に用いられる繊維は、木綿、麻、羊毛などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの再生又は半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリオレフィンなどの合成繊維が挙げられる。これらの繊維は、単独紡糸繊維でも混合紡糸繊維でも構わない。その他の基材としては、紙、離型紙、ポリエステルやポリオレフィンのプラスティックフィルム、アルミなどの金属板、ガラス板などが挙げられる。
【0031】
基材が、起毛布、編布、不織布の場合、その表面に塗布したポリウレタン樹脂溶液が基材の内部まで浸透しやすく、柔軟性が劣り品位の面で好ましくない。よって、予め基材に前処理を施すこともできる。その前処理方法としては、基材をフッ素系の撥水剤等で処理する方法、カレンダーに通し基材のふくらみを押しつぶして平滑にする方法などがある。
【0032】
ポリウレタン樹脂溶液の塗布や含浸は、一般的には用いられている方法で行われる。塗布方法の例としては、フローティングナイフコーター、ナイフオーバーロールコーター、リバースロールコーター、ロールドクターコーター、グラビアロールコーター、キスロールコーターなどを挙げることができる。
【0033】
湿式凝固の方法としては、例えば、ポリウレタン樹脂溶液を含浸又は塗布した基材を、ポリウレタン樹脂溶液の溶媒と親和性があり、ポリウレタン樹脂には親和性が無く非溶媒である凝固浴中に直接浸漬し、該有機溶媒を抽出することにより凝固させる方法がある。上記の有機溶媒と親和性がありポリウレタン樹脂とは親和性が無く非溶媒であるものとしては、水、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールモノエチルエーテル、ヒドロキシエチルアセテートなどが挙げられ、単独で又は2種類以上を混合して用いられる。さらに、任意の割合で有機溶媒を混合して使用することもできる。
【0034】
凝固浴の温度は、通常は30〜50℃である。30℃未満の又は50℃を超える温度では、ポリカーボネートジオール系ポリウレタン樹脂の場合、多孔質構造が得られないことが多く実用上好ましくない。凝固工程を数段に分けて連続的に行うこともできる。この場合、第一段の凝固浴温度は、30〜50℃であることが好ましい。第一段より後の凝固浴では、必要に応じ、温度を高温側にも低温側にも設定することができる。湿式凝固後は、通常の方法で洗浄、乾燥を行う。
【0035】
本発明において、基材が編布のように空隙率が大きい場合、ポリウレタン樹脂溶液を直接塗布又は含浸すると、ポリウレタン樹脂が基材の全体に浸透し柔軟性を低下させることもある。その場合は、接着剤を介在させたラミネート法を採用することもできる。接着剤としては、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリアミド系、ポリエステル系などを使用することができるが、ポリウレタン系を用いることが好ましい。接着剤の塗布方法は、多孔質構造体の表面全体に塗布することもできるが、風合いや透湿性の観点から、多孔質構造体表面に点状又は線状に接着剤を塗布して積層する方法が好ましい。
【0036】
得られた多孔質構造体は、そのまま使用することもできるが、更に各種特性を付与する目的から、ポリウレタン樹脂、塩化ビニルやセルロース系樹脂などのポリマー溶液やエマルジョンを塗布したり、別途離型紙の上に塗工した上記ポリマー溶液やエマルジョンを乾燥して得た塗膜と貼り合わせた後で、離型紙を剥がして得られる積層体として用いることもできる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例によって、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
1)ポリカーボネートジオールの平均分子量
無水酢酸とピリジンを用い、水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する「中和滴定法(JIS K 0070−1992)」によって水酸基価を決定し、下記数式(1)を用いて数平均分子量を計算した。
【0038】
数平均分子量=2/(OH価×10―3/56.1) (1)
2)ポリカーボネートジオールの共重合比率と主成分比率
100mlのナスフラスコにサンプルを1g取り、エタノール30g、水酸化カリウム4gを入れて、100℃で1時間反応する。室温まで冷却後、指示薬にフェノールフタレインを2〜3滴添加し、塩酸で中和する。冷蔵庫で1時間冷却後、沈殿した塩を濾過で除去し、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、上記(B)の繰り返し単位に由来する2,2置換PDLと上記式(C)に由来するジオールを定量した。GC分析は、カラムとしてDB−WAX(米国、J&W製)をつけたガスクロマトグラフィーGC−14B(日本、島津製作所製)を用い、ジエチレングリコールジエチルエステルを内標として、検出器をFIDとして行った。なお、カラムの昇温プロファイルは、60℃で5分保持した後、10℃/minで250℃まで昇温した。
(i) 共重合比率
上記の分析結果を用い、2,2置換PDLと2,2置換PDL以外のジオールとのモル比(2,2置換PDLのモル数:2,2置換PDL以外のジオールの全モル数)で表す。
(ii)主成分比率
上記の分析結果を元に下記数式(2)により求めた。
【0039】
主成分比率(モル%)=(B+C)/A×100 (2)
B:2,2置換PDLのモル数
C:上記式(C)に由来するジオールの全モル数
A:上記式(A)に由来するジオールの全モル数
3)粘度
コード01のロータを取り付けた粘度計TVE−20H(東機産業製)を用い、50℃で粘度を測定した。
4)耐汗性
汗の代替としてオレイン酸を用いた。試料を45℃のオレイン酸中に1週間浸漬し、表面を観察した。浸漬前と変化が無い場合を良(○)、ぬめり感が感じられる場合を可(△)、表面形状が変化している場合を不可(×)として、耐汗性を評価した。
5)耐候性
多孔質体を5cm×5cmに切断し、試料片を得た。この試験片をサンシャイン型ウエザオメーターWEL−SUN−DC(スガ試験機製)中で、1サイクル60分、内12分の降水の繰り返しで所定時間(200時間)経過した後、試験片表面の性状変化を目視で観察し、その変化を1級(未試験試験片と比較して変化無し)から5級(多孔質体が破壊されている)までの5段階で評価した。
6)柔軟性
柔軟性は、後述の比較例2で作成した多孔質構造体が従来から使用されている合成皮革材料に相当するため、この材料を基準にして、触感により、柔軟か否かを評価した。
[ポリカーボネートジオールの重合例1]
規則充填物を充填した精留塔と攪拌装置を備えた2Lのガラス製フラスコにエチレンカーボネートを655g(7.4mol)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールを150g(0.9mol)、1,6−ヘキサンジオールを750g(6.4mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、常圧で攪拌・加熱した。反応温度を140℃〜150℃、圧力3.0〜5.0kPaで、生成するエチレングリコールとエチレンカーボネートの混合物を留去しながら20時間反応を行った。その後、0.5kPaまで減圧し、エチレンカーボネートとジオールを留去しながら、150〜160℃でさらに14時間反応した。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は2007であり、主成分比率は100モル%であり、共重合比率は12:88であった。該ポリカーボネートジオールをPC1と称す。
[ポリカーボネートジオールの重合例2]
ポリカーボネートジオールの重合例1と同じ装置を用い、エチレンカーボネートを700g(8.0mol)、2−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオールを330g(2.1mol)、1,4−ブタンジオールを520g(5.9mol)仕込んだ。触媒としてチタンテトラブトキシド0.10gを加え、ポリカーボネートジオールの合成例1と同条件で反応を行った。得られたポリカーボネートジオールを分析したところ、数平均分子量は1989であり、主成分比率は100モル%であり、共重合比率は24:76であった。該ポリカーボネートジオールをPC2と称す。
[ポリカーボネートジオールの重合例3]
2−メチル−1,3−プロパンジオールを360g(4.0モル)、1,6−ヘキサンジオールを390g(3.3モル)、エチレンカーボネートを640g(7.3モル)用いた以外は、ポリカーボネートジオールの重合例1に示す装置及び条件で反応を行った、得られたポリカーボネートジオールの分子量は1997であり、主成分比率は49モル%であった。該ポリカーボネートジオールをPC3と称する。
[ポリカーボネートジオールの重合例4]
1,6−ヘキサンジオール705g(6.0モル)、エチレンカーボネート525(6.0モル)用いた以外は、ポリカーボネートジオールの重合例1に示す装置及び条件で反応を行った、得られたポリカーボネートジオールの分子量は1992であり、共重合比率は0:100であった。該ポリカーボネートジオールをPC4と称する。
[ポリウレタンの合成例1〜4]
還流冷却管、温度計、及び攪拌機を備えた反応機に、ポリカーボネートジオール(以降、PCDと略す。)とジメチルホルムアミド(以降、DMFと略す。)330gを入れ、充分に攪拌する。イソホロンジイソシアネート(以降、IPDIと略す。)と、触媒としてジブチルスズジラウレートを0.017g添加し、75℃で5時間反応し、末端がイソシアネートのプレポリマーを得た。温度を40℃に下げた後、イソホロンジアミン(以下、IPDAと略す。)を添加し、数平均分子量が70000になった時点で、n−ヘキシルアミンを1g添加して反応を停止した。
【0040】
下記表1にポリウレタンの原料の仕込み量を示す。得られたポリウレタンをPU1〜PU4と称する。
【0041】
【表1】


得られたポリウレタン溶液の粘度を下記表2に示す。表2に示す値は、合成例4のポリウレタンの粘度を1とする相対値で表した。
【0042】
【表2】


[実施例1]
70デニールのナイロン66基布(経密度136本/インチ、緯密度104本/インチ)を、0.8%のフッ素系撥水剤(明成化学株式会社製、アサヒガードLS317)を入れた浴に浸漬し、絞り率80%で絞った後、150℃の乾燥機で5分間乾燥した。該基布の上に、アプリケータを用いて、クリアランス100μmでポリウレタン樹脂溶液PU1を塗布した。25℃の10%DMF水溶液に5分間浸漬して湿式凝固した後、65℃の温水に5分間浸漬して溶媒を取り除いた後、絞液ロールで絞り、110℃で乾燥して多孔質構造体1を得た。
[実施例2]
ポリウレタン溶液PU2を用いた以外は実施例1と同様の方法で多孔質構造体2を得た。
[比較例1〜2]
ポリウレタン樹脂溶液PU3又はPU4を用いた以外は、実施例1と同様の方法で多孔質構造体(以下、ポリウレタン樹脂溶液PU3を用いた多孔質構造体を構造体3、ポリウレタン樹脂溶液4を用いた多孔質構造体を構造体4とそれぞれ称す。)を得た。
【0043】
得られた多孔質構造体に関し、耐候性、耐汗性、及び柔軟性を評価し、その結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0045】
耐汗性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性などの物性のバランスに優れた合成皮革、人工皮革、フィルター、クッション材などの用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリカーボネートジオール、及び(c)鎖延長剤の反応生成物を含んでなるポリウレタン樹脂を湿式凝固方式により湿式成膜することにより得られる多孔質構造体であって、該ポリカーボネートジオール(b)が、下記式(A)で表される繰り返し単位と末端ヒドロキシル基とを有するポリカーボネートジオールであって、式(A)で表される繰り返し単位の70〜100モル%は下記式(B)又は(C)で表される繰り返し単位であり、
【化1】


(但し、式中のRは、炭素数2〜12の二価の脂肪族又は脂環族炭化水素基を表す。)
【化2】


(但し、式中のR及びRは、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基を表し、RとRは、同じでもよく異なってもよい。)
【化3】


(但し、式中のnは、2から12の整数。)
そして式(B)で表される繰り返し単位と式(C)で表される繰り返し単位との割合が、モル比率で1:99〜40:60であり、該ポリカーボネートジオール(b)の数平均分子量が300〜10000であることを特徴とする、上記多孔質構造体。
【請求項2】
前記のポリカーボネートジオール(b)において、前記式(C)で表される繰り返し単位の少なくとも一部が、下記式(D)で表される繰り返し単位であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質構造体。
【化4】


(但し、式中のnは、4、5,又は6のいずれかの整数。)

【公開番号】特開2011−162645(P2011−162645A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26350(P2010−26350)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】