説明

多孔質炭素基材およびこれを用いたキャパシタ

【課題】キャパシタ電極として用いた場合に短絡を生じることのないように、基材表面の平滑度が高く、原料紙由来の繊維状炭素が表面に露出していない、紙由来の賦活した多孔質炭素基材の製造方法を提供する。
【解決手段】紙を炭化、賦活して得られる多孔質炭素基材の一方の表面に、繊維を含まない樹脂のみを炭化、賦活した層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高い比表面積と電子伝導性を有する多孔質炭素基材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタや、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子の電極には、静電容量を確保するために比表面積が大きいことや、充放電時に電子を輸送するための電子伝導性、成型体としての構造を維持するための強度などの機能が要求される。
【0003】
従来のキャパシタの電極には、木材や樹脂を炭化したものを粉砕して得る炭素材を水蒸気やアルカリにより賦活することで、比表面積を1000〜3000m2/g程度に増大した活性炭、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのバインダー、および、導電性を補助するための炭素粉末を混練したペーストをシート状に成形したものが多く使われている。
【0004】
一方、バインダーや導電補助剤は静電容量を発現しないため、これらの添加により電極質量あるいは体積あたりの静電容量が低下する。そこで、バインダーや導電補助剤の添加による静電容量低下を改善するため、フェノール樹脂を含浸した紙を積層したものを炭化したバルク状炭素基材を賦活することにより、比表面積を増加したものも使われている。
【0005】
このような電極材料を得る方法として、特許文献1には、セルロース質繊維と熱硬化性樹脂からなる組成物を炭化焼成後に粉砕してなるカーボン粉末をセルロース質繊維と共に抄紙したシートに、熱硬化性樹脂を含浸して硬化し、炭化焼成後、賦活処理することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、固相炭化する有機高分子繊維を抄紙したものに、フェノール樹脂液を含浸させた多孔質シートを焼成炭化して水蒸気賦活する、電極用多孔質活性炭素材の製造方法が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、パルプ、レーヨンなどの原料を抄紙して得た平均気孔径50〜150μm、気孔率50%以上の抄造紙を積層して基材とし、これにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸して加熱硬化、焼成炭化した後、炭酸ガス雰囲気下で賦活化処理して、多孔質ガラス状カーボンシートを製造することが記載されている。
【0008】
また、図3に示すように、これらの多孔質炭素に電解液を含浸させてなる1対の分極性電極1でセパレータ2を挟持し、外部に電流を取り出すための集電板3および密閉するためのガスケット4で構成された構造の電気二重層キャパシタが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−340103
【特許文献2】特開2000−143225
【特許文献3】特開2006−169058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術において、紙を炭化した多孔質炭素基材を賦活して得た電極基材は、活性炭粉末を混練したペーストをシート状に成形して作製した電極基材に比べ、基材表面の平滑度が低く、また、原料紙由来の繊維状炭素が電極表面に露出していた。それゆえ、この多孔質炭素基材を図3に示すようなキャパシタの電極1として用いた場合に、電極1のセパレータ2側の表面から突出した繊維状炭素がセパレータを貫通することによる短絡を生じやすいという課題があった。
【0011】
そこで本発明では、表面粗さの小さい多孔質炭素基材、および、電極の短絡のおそれのないキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明の多孔質炭素基材は、繊維および樹脂を炭化し賦活した多孔質炭素基材の一方の主面に、繊維を含有しない樹脂を炭化し賦活してなる樹脂炭化層を有するものとした。
【0013】
前記樹脂炭化層の表面の算術平均粗さは、2.0μm以下であることが好ましく、また、 前記樹脂炭化層の厚さは、1〜20μmであることが好ましい。
また上述の本発明に係る多孔質炭素基材を正極および負極の少なくとも一方に用いてキャパシタを構成し、前記多孔質炭素基材の樹脂炭化層側の主面をセパレータ側に対向配置したものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、バルク状の多孔質炭素基材の基材表面の粗さを低減することができ、これを電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子の電極に用いることで、短絡を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例にかかる多孔質炭素基材の製造工程を示すフロー図。
【図2】本発明に係る多孔質炭素基材の断面構造模式図。
【図3】電気二重層キャパシタの断面構造模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る多孔質炭素基材について、図1に示す製造工程のフローおよび図2を参照しながら説明する。
まず、繊維を含有する紙の原料を水に分散し、抄紙用スラリーを調整する(S1)。原料に用いられる繊維材料としては、パルプやカーボンファイバー、カーボンナノチューブを用いる事ができるが、安価であること、繊維長が長い事からパルプ、特に針葉樹パルプが望ましい。
また、繊維間の導電性を補助するために、炭素粉末や黒鉛粉末を混合してもよい。
【0017】
次に、抄紙用スラリーを抄紙機にて抄紙する(S2)。紙の厚さは、ハンドリング性の観点から0.1mm以上が好ましく、次の工程(S3)において紙の内部まで十分に樹脂を含浸するために、20mm以下に抄紙することが好ましい。
【0018】
抄紙により得られた紙に、樹脂を含浸する(S3)。含浸する樹脂としては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いる事ができるが、炭化後の残炭率が高いものが好ましく、フェノール樹脂が好適に用いられる。樹脂を含浸させた紙を熱風乾燥することにより、含浸樹脂を硬化し(S4)、樹脂含浸成型体を得る。
【0019】
次に、この樹脂含浸成型体の一方の主面上に、樹脂溶液を塗布する(S5)。塗布する樹脂には、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いる事ができるが、上記の含浸用の樹脂と同様に、フェノール樹脂が好ましい。
【0020】
また、樹脂溶液を塗布する以外の方法としては、高濃度の樹脂溶液中へ浸漬して引き上げる方法もあるが、例えばバーコーター等を用いて塗布する方法が簡便である。高密度で平滑な樹脂層を形成するため、塗布する樹脂の濃度は、高い方が好ましく、フェノール樹脂では50wt%以上が好ましい。
【0021】
次に、樹脂含浸成型体の表面に塗布した樹脂溶液を熱風乾燥により半硬化状態とし、この状態で熱プレスして完全に硬化させることにより、樹脂含浸成型体の表面に平滑な樹脂層が形成される(S6)。
【0022】
このようにして樹脂層が形成された樹脂含浸成形体は、不活性雰囲気下600〜1100℃で焼成することにより炭化して炭素基材とする(S7)。炭化温度が高いほど電子抵抗が減少するが、高すぎると後段の賦活工程(S8)において賦活反応が遅くなるため、600℃〜1100℃が好ましい。
【0023】
最後に炭素基材を賦活する(S8)。賦活方法はガス賦活、アルカリ賦活などがあるが、ガス賦活が簡便で良い。ガス種として水蒸気や二酸化炭素を用いることができる。800℃以上で数時間、賦活ガスを通流させた炉内で賦活処理をする事により、基材全体の比表面積が1000〜3000m/gの多孔質炭素基材が得られる。
【0024】
このようにして得られた図2に示す高比表面積の多孔質炭素基材5のうち、樹脂のみの層が炭化した樹脂炭化層6と、紙に樹脂を含浸させた成型体が炭化した樹脂含浸成型体炭化層7とでは、樹脂炭化層6の賦活反応速度の方が遅いため残炭率が高く、多孔質炭素基材5の樹脂炭化層6側の表面は高密度、かつ、平滑となる。
【0025】
なお、本発明に係る多孔質炭素基材5を電気二重層キャパシタ電極として用いる場合、主として静電容量を発現する部位は紙由来の炭素質であるため、樹脂炭化層6の厚さは薄い方が静電容量の観点からは好ましいが、短絡防止の点も鑑み、1〜20μmとすることが好ましい。樹脂炭化層6の厚さは、樹脂含浸成型体の表面へ塗布する樹脂の量により制御でき、焼成(炭化)工程(S7)における収縮を考慮し、塗布樹脂硬化(S6)後の樹脂層の厚さを、2〜40μmにすることが好ましい。
【0026】
このようにして、多孔質炭素基材5の一方の表面の算術平均粗さRaを、活性炭ペーストをシート状に形成した電極と同程度の2.0μm以下とすることができた。
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0027】
まず、針葉樹未晒クラフトパルプと、捲縮処理が施された炭素繊維(商品名「ドナカーボ・Sチョップ」ドナック社製)を、パルプ:炭素繊維=80:20(質量比)で混合し、水を加えてスラリー状の組成物とした。この組成物を抄紙機で抄紙して、厚さ2mmの紙材を得た。
【0028】
次に、この紙材に、フェノール樹脂50wt%メタノール溶液を含浸させた。フェノール樹脂は、フェノール樹脂と紙材合計の質量に占める割合が、35wt%となるように含浸させた。これを120℃で20分間、熱風乾燥することにより、樹脂を硬化させて厚さ2mmの樹脂含浸成型体を得た。
【0029】
次に、この樹脂含浸成型体の一方の表面に、フェノール樹脂50wt%メタノール溶液をバーコーターにより塗布し、60℃で10分乾燥して、半硬化状態とした後、120℃で熱プレスすることにより完全に硬化した。これにより、樹脂含浸成型体の表面に、厚さ30μmの樹脂層を作製した。
【0030】
次に、この樹脂含浸成型体を不活性ガス雰囲気下、900℃で2時間焼成することで、成型体を構成するパルプとフェノール樹脂を炭化すると共に、タールなどの余分な成分を除去した。これにより、炭素のみからなる多孔質炭素基材が得られた。得られた多孔質炭素基材は厚さ1.0mm、かさ密度は0.6g/ccであった。
【0031】
次に、得られた多孔質炭素基材6を1辺30mmの矩形に切り出し、炉の中に配置し、炉中に窒素ガスを導入して870℃まで昇温した。温度が安定した後、COガスに切り替えて、15時間賦活処理を行った。
【0032】
これにより得られた高比表面積の多孔質炭素基材の比表面積をN−BETにより測定したところ2000m/gであった。厚さは0.9mmであった。また、この多孔質炭素基材の表面のうち、樹脂層を炭化した側の表面を表面粗さ計で測定したところ、算術平均粗さRaが1.1μmであった。
【比較例1】
【0033】
比表面積1500m/gの粉末状活性炭(商品名:「活力炭」 ユー・イー・エス社製)と、PTFEディスパージョン(商品名:「PTFE 31-JR」三井デュポンフロロケミカル製)とを質量比9:1(PTFEディスパージョンは固形分の質量)で混練し、シート状に成形後乾燥させた多孔質炭素基材を作製した。このシート状多孔質炭素基材の表面粗さを表面粗さ計で測定したところ、算術平均粗さRaは0.7μmであった。
【比較例2】
【0034】
紙に樹脂を含浸し、熱風乾燥により硬化させて樹脂含浸成型体を得る工程(S4)までを実施例1と同様に製作した。
これにより得られた厚さ3mmの樹脂含浸成型体について、表面にフェノール樹脂を塗布することなく、実施例と同様の条件で炭化、賦活処理を行って、多孔質炭素基材を得た。得られた多孔質炭素基材の比表面積をN−BETにより測定したところ2200m/gであった。厚さは0.9mmであった。基材の表面粗さを表面粗さ計で測定したところ、算術平均粗さRaは16.4μmであった。
【比較例3】
【0035】
比較例2で作製した多孔質炭素基材の表面を♯600サンドペーパーにより研磨した多孔質炭素基材を製作した。研磨後の多孔質炭素基材の表面粗さを表面粗さ計で測定したところ、算術平均粗さRaは7.7μmであった。
炭化前の成型体にフェノール樹脂層を設ける事が、賦活後の高比表面積多孔質炭素基材の表面を平滑に製造できる効果を確認した。
【0036】
上述のとおり、本発明の実施例の多孔質炭素基材の樹脂層を形成して炭化した表面の粗さは、樹脂層を形成しなかった場合(比較例1)や、また、その表面を研磨して平滑化した場合(比較例2)と比べて、大幅に表面を平滑化できることができた。
【0037】
次に、実施例および比較例1〜3で得られた各多孔質炭素基材を正極および負極に用いて、表1に示す構成の電気二重層キャパシタセルを作成した。多孔質炭素基材の表面のうち、樹脂層を形成して炭化した側の表面をセパレータ側に配置して、電解液を入れずに図3に示すセルを組み、短絡の有無を評価した。なお、短絡は、抵抗が100kΩ以上あった場合を「短絡無し」と判定した。実施例および比較例の各基材の算術平均粗さRaおよび短絡有無の評価結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
この結果より、本発明により、バルク状の多孔質炭素基材であっても、表面の算術平均粗さRaをシート状電極と同程度とすることができ、短絡のない電気二重層キャパシタ等の電気化学素子を製造できることが確認できた。
【符号の説明】
【0041】
1 分極性電極
2 セパレータ
3 集電板
4 ガスケット
5 多孔質炭素基材
6 樹脂炭化層
7 樹脂含浸成型体炭化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維および樹脂を炭化し賦活した多孔質炭素基材であって、当該多孔質炭素基材の一方の主面に、繊維を含有しない樹脂を炭化し賦活してなる樹脂炭化層を備えることを特徴とする多孔質炭素基材。
【請求項2】
前記樹脂炭化層の表面の算術平均粗さが2.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素基材。
【請求項3】
前記樹脂炭化層の厚さが、1〜20μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質炭素基材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の多孔質炭素基材を正極および負極の少なくとも一方に用いたキャパシタであって、前記多孔質炭素基材の樹脂炭化層側の主面をセパレータ側に配置したことを特徴とするキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−63862(P2013−63862A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201961(P2011−201961)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】