説明

多孔質粉体塗料粒子及びその製造方法並びにエポキシ樹脂粉体塗料組成物

【課題】 粉体塗料組成物中の微粉量を大幅に低減し、微粉によって生じる不均一な塗装や凝集による不具合を低減し、長期塗装安定性に優れた粉体塗料組成物を提供する。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)を必須成分としてなるエポキシ樹脂粉体塗料組成物を構成する粉体塗料粒子であって、表面に細孔を有する多孔質粉体塗料粒子である。細孔の直径が、1μm〜20μmであることが好ましい。
また、エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤を分散、混合した後、混練することによって、エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤の混合物からなる粉体塗料粒子を製造する工程(I)、及び、
前記工程(I)で得られた粉体塗料粒子の混合物を破砕することによって、表面に細孔を有する多孔質粉体塗料粒子を製造する工程(II)からなる多孔質粉体塗料粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粉体塗料粒子及びその製造方法並びにエポキシ樹脂粉体塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は電気的特性、機械的特性、熱的特性に優れており、従来の溶剤型塗料と比較して、塗料中に溶剤を含有しないため、低公害で作業環境性にも優れたものである。さらに多層の重ね塗りが可能で塗膜を厚くできること、比較的安価であること、塗装時に余過剰分の塗料が回収利用できることなどの利点から、電子部品、OA機器、家電製品、建材、自動車部品等の絶縁保護装飾用塗料として近年需要が高い。
【0003】
電子部品や電装モーターへエポキシ樹脂粉体塗料を付着する際には、静電気を利用した静電塗装によって行われることが多い。近年、小型化に伴い、均一な塗装が可能である摩擦帯電方式を利用した静電塗装機が使用されている。この塗装方式では、粉体塗料の帯電はテフロン(登録商標)製の塗装機内壁との摩擦によって行う。高電圧を必要としない本方式ではファラデーケージ効果が起こらず、凹部への入り込み性に優れている。しかし本方式は静電気の発生が粉体粒子と塗装機内壁との接触による帯電のみによるため、粉体塗料の帯電量が少なく、塗装の際に十分な付着量を確保できないという問題が生ずる。また粉体塗料の組成によって帯電量が大きく異なるなどの問題も存在する。
【0004】
一方、従来からの粉体塗料の塗装方法としてコロナ式静電塗装がある。この塗装方法は高電圧を印加する事によりコロナ放電を起こして粉体に静電気を帯びさせる方法であり、高電圧を印可するため帯電部と被塗装物の間に電界が発生する。粉体付着または環境中の水分の影響を受けにくく、安定して粉体を付着させることができる。
【0005】
しかし、コロナ帯電方式では電圧の印加によってフリーイオンが大量に発生するため、ファラデーケージ効果の影響が非常に強くなり、被塗装物の凹部に粉体が入りにくく、逆に凸部には粉体が付着しすぎる傾向がある。このため、モーターのような複雑な形状をした塗装物に塗装した場合、モーター凹部が凸部に比べて極端に膜厚が薄くなる傾向があり、絶縁性の低下が懸念されている。一方、凹部の膜厚を増加させた場合、外側が極端に厚くなり、線積率(巻線回数)の低下を招く。
粉体塗料中の微粉量が増加すると端面への付着傾向が強くなり、モーター内部への付着が低下する傾向がある。さらに凝集による流動不良や塗装ライン中での粉舞いが発生し、作業性が悪化する。
一方、使いやすい粒度分布に調整する手段として溶融混練したエポキシ樹脂混練物を粉砕する際にサイクロン捕集機などの微粉回収機を使用する方法が行われている。しかし、微粉を大幅に低減する場合、歩留まりの低下や生産時間増加による生産コストの増加が大きな問題である。
【特許文献1】特開2004−210875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は粉体塗料組成物中の微粉量を大幅に低減し、微粉によって生じる不均一な塗装や凝集による不具合を低減することができる粉体塗料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(7)により達成される。
(1) エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)を必須成分としてなるエポキシ樹脂粉体塗料組成物を構成する粉体塗料粒子であって、該粉体塗料粒子の表面に細孔を有することを特徴とする多孔質粉体塗料粒子。
(2) 細孔の直径が、1μm〜20μmである前記(1)記載の多孔質粉体塗料粒子。
(3) 前記(1)又は(2)記載の多孔質粉体塗料粒子の製造方法であって、
エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤を分散、混合した後、混練することによって、エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤の混合物からなる粉体塗料粒子を製造する工程(I)、及び、
前記工程(I)で得られた粉体塗料粒子の混合物を破砕することによって、表面に細孔を有する多孔質粉体塗料粒子を製造する工程(II)からなることを特徴とする多孔質粉体塗料粒子の製造方法。
(4) 前記(1)又は(2)記載の多孔質粉体塗料粒子を含有してなるエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
(5) 前記(4)記載のエポキシ樹脂粉体塗料組成物で塗装された物品。
(6) 電子電気部品である前記(5)記載の物品。
(7) コロナ帯電方式の塗装機で塗装されたものである前記(5)又は(6)記載の物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質粉体塗料粒子は、表面に設けられた細孔に微粉を吸着することができるため、該多孔質粉体塗料粒子により構成されるエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、従来のエポキシ樹脂粉体塗料組成物と比較して微粉量が少ないため、ファラデーケージ効果や粉体凝集を抑え、優れた塗装性と作業性を有するエポキシ樹脂粉体塗料組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の多孔質粉体塗料粒子は、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)を含有する。以下、これらの成分について詳細に説明する。
本発明に用いられるエポキシ樹脂(A)としては特に限定されない。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などを用いることができ、これらを単独または混合して用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、塗膜が機械的特性、電気的特性に優れたものになり好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の分子量やエポキシ当量なども特に限定されず、粉体塗料の配合や要求される性状に合わせて適宜選択すればよい。
一例を挙げると、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、エポキシ当量が450〜2000であるのものを用いると、粉体塗料の塗装性が優れたものになり好ましい。
【0010】
エポキシ樹脂(A)の配合量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)の合計量に対して30〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。エポキシ樹脂(A)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと塗膜の平滑性が低下することがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗装後の硬化工程である焼成時にタレやトガリといった外観不良を起こすことがある。
【0011】
本発明に用いられる無機充填材(B)としては特に限定されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
無機充填材(B)の配合量についても特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)の合計量に対して30〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜55重量%である。無機充填材(B)をかかる範囲の配合量とすることで、粉体塗料の塗装性を良好なものにできる。配合量が上記下限値よりも少ないと焼成時にタレやトガリといった外観上の不具合を起こすことがあり、一方、上記上限値よりも多いと塗膜の平滑性が低下することがある。
また、無機充填材(B)の粒径は特に限定されないが、通常、平均粒径として30μm以下のものが用いられる。かかる平均粒径を有する無機充填材を用いることにより、粉体塗料に良好な流動性と塗膜の強度を付与することができる。
【0012】
本発明に用いられる硬化剤(C)としては特に限定されず、一般にエポキシ樹脂用の硬化剤として用いられている公知のものが使用できる。例えば、ジシアンジアミド、アジピン酸、イミダゾール化合物、アミン系硬化剤、芳香族系酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合は、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物、酸無水物を用いると、硬化性、密着性、耐熱性等が優れ好ましい。なお、硬化剤(C)の含有量についても特に限定されず、用いるエポキシ樹脂の種類、硬化剤の種類などを考慮して適宜設定すればよい。
【0013】
次に、本発明の多孔質粉体塗料粒子の成分以外の特徴について説明する。
本発明の多孔質粉体塗料粒子は、表面に細孔を有することを特徴とする。多孔質粉体塗料粒子が表面に細孔を有することで、多孔質粉体塗料粒子が構成するエポキシ樹脂粉体塗料組成物中の、直径が細孔径以下の微粉は細孔中に入り込むため、微粉量が低減される。そのため、ファラデーケージ効果による塗装不均一性や粉体凝集、粉舞いが抑えられる。
【0014】
本発明の多孔質粉体塗料粒子が表面に有する細孔の大きさは特に限定されないが、直径1〜20μm、好ましくは2〜10μmが望ましい。上記下限値以下では多量に発生する1〜10μm程度の微粉が細孔に入ることができず、微粉が十分に低減できない。一方、上記上限値以上では付着に適した20〜50μm程度の粉体が孔に入り込んで減少し、塗装量が低下する可能性がある。

【0015】
なお、本発明の多孔質粉体塗料粒子には上記配合物のほかにも、本発明の目的を損なわない範囲内で酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、レベリング剤、硬化促進剤等を配合してもよい。
【0016】
本発明の多孔質粉体塗料粒子は、例えば、所定の原材料組成としたものを分散混合する方法、あるいは、このようにして得られた原材料混合物をさらに溶融混練して粉砕する方法、などにより得ることができる。
所定の原材料組成としたものを分散混合する方法は、具体的には、所定の組成比で原材料成分を配合し、これをヘンシェルミキサー等の分散混合装置によって十分に均一混合するものである。
また、原材料混合物を溶融混練して粉砕する方法は、具体的には、上記の方法で得られた原材料混合物を、エクストルーダー、ロールなどの溶融混練装置により溶融混合し、これを、粉砕装置を用いて適当な粒度に粉砕した後、分級するものである。
【0017】
無機微粒子を添加する方法としては、粉砕時に微粉末を添加しながら混合する粉砕混合やヘンシェルミキサーなどによる乾式混合がある。
本発明の多孔質粉体塗料粒子の表面上に形成される細孔は、粉砕時に粉体同士が衝突することによって形成される。特に樹脂とフィラーの衝突によって樹脂側に細孔が形成されやすい。例えば、粉砕時の粉砕速度を調整することによって、細孔の直径を調整することができる。この他、粉砕時に平均粒径が細孔に近いフィラーを加え、衝突によって細孔を形成させる、あるいは、混練時の温度、粘度を調整してボイドを形成させる等の手段により、細孔を得ることができる。
【0018】
次に本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物について説明する。
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)を含有する多孔質粉体塗料粒子により構成される。
本発明の多孔質粉体塗料粒子が構成するエポキシ樹脂粉体塗料組成物は、単独に存在している微粉が減少するため、微粉が発生源となっている凝集、流動性の低下や塗装機の目詰まりや塗装エアーによる粉舞いも低減される。
粒度分布が狭い粉体塗料が得られるため、塗装安定性やリサイクル性に優れた粉体塗料となる。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物が、均一な膜厚を有する硬化物を得ることができる理由としては、コロナ塗装時にファラデーケージ効果によってモーター端面部分に付着しやすい微粉が減少しているためである。
上記粉体塗料組成物をコロナ帯電塗装装置により物品に塗装した後は、常法に従って、160〜200℃程度で10〜60分間程度焼付けを行うことにより、硬化塗膜を得ることができる。上記塗装方法によって形成されてなる塗膜は、塗膜にスケ等の不都合がなく充分な膜厚を有するものであり、かつ、平滑であり、塗膜の外観が良好である。本発明のエポキシ樹脂粉体塗料組成物により塗装された物品は、このような良好な性質を有する塗膜であり、このような塗装された物品、それが電気電子部品である物品もまた本発明の1つである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、表1に記載されている原材料の配合量は「重量部」を示す。
【0021】
<実施例1>
原材料成分を表1で示す配合比でヘンシェルミキサーにより20分間混合して、原材料混合物を調製した。これを、エクストルーダーを用いて混練後、粉砕装置にて4000rpmのミル回転速度で粉砕して得た平均粒子径60μmの粉体塗料を得た。無機微粒子はヘンシェルミキサーを使って混合を行った。
【0022】
<比較例1>
実施例と同様の配合で、粉砕速度1000rpmのミル回転速度で粉体塗料を得た。
<比較例2>
実施例と同様の配合で、粉砕速度7000rpmのミル回転速度で粉体塗料を得た。
【0023】
実施例及び比較例の粉体塗料について、その配合を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
使用原材料
(1)エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製・エピコート1055、エポキシ当量850)
(2)硬化剤:
3,3'-4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
(3)硬化促進剤:2−フェニルイミダゾール
(4)無機充填材:炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製・タンカルN−35、平均粒径22μm)
【0026】
粉体特性評価
(試験方法)
1.粒度分布:乾式測定器にて評価した。
2.細孔径:電子顕微鏡にて粉体10について観察を行い、表面上に観察できた細孔径の平均を求めた。
3.粉体流動性:塗装槽へ粉体を投入し、粉体が澱みなく流動を開始する圧力を測定した。
4.塗装条件:電装モーター(長65mm、直径60mm、スロット深さ15mm)にコロナ帯電式静電流動浸漬塗装機により60秒間塗装した。
5.硬化条件:300kHzの高周波により60秒で230℃まで加熱した。
6.膜厚差:塗装後のモーターを切断し、端面と中央膜厚を測定し、膜厚差から評価した。
【0027】
実施例1はエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を必須成分とし、粉体表面に細孔を設けた粉体塗料である。本細孔によって、粉体塗料の微粉量が減少し、塗装時の粉体凝集の抑性と粉舞いの低減、さらに膜厚均一性の向上が確認された。特に、実施例1については、ミル回転速度の速さが最適であったので、粉体表面に形成される細孔の大きさが適切な大きさとなり、微粉量を低減できるため、塗装性に優れたものとなった。
【0028】
一方、比較例1は回転速度が遅いため、表面上に十分な大きさの細孔が形成されなかったため、微粉量が低減出来ず、粉体の凝集と粉舞いが発生し、均一性も十分でなかった。
比較例2は回転速度が速すぎたために粉体の同士の衝撃が強くなり、粉体上に形成される孔の大きさは大きなものとなり、付着に適した粉体まで細孔に入り込んだために、均一性が低下する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は微粉が少なく、流動性や粉舞いの低減に有効であり、硬化物が均一な膜厚を有する電気電子部品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、無機充填材(B)及び硬化剤(C)を必須成分としてなるエポキシ樹脂粉体塗料組成物を構成する粉体塗料粒子であって、該粉体塗料粒子の表面に細孔を有することを特徴とする多孔質粉体塗料粒子。
【請求項2】
細孔の直径が、1μm〜20μmである請求項1記載の多孔質粉体塗料粒子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の多孔質粉体塗料粒子の製造方法であって、
エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤を分散、混合した後、混練することによって、エポキシ樹脂、無機充填材及び硬化剤の混合物からなる粉体塗料粒子を製造する工程(I)、及び、
前記工程(I)で得られた粉体塗料粒子の混合物を破砕することによって、表面に細孔を有する多孔質粉体塗料粒子を製造する工程(II)からなることを特徴とする多孔質粉体塗料粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の多孔質粉体塗料粒子を含有してなるエポキシ樹脂粉体塗料組成物。
【請求項5】
請求項4記載のエポキシ樹脂粉体塗料組成物で塗装された物品。
【請求項6】
電子電気部品である請求項5記載の物品。
【請求項7】
コロナ帯電方式の塗装機で塗装されたものである請求項5又は6記載の物品。


【公開番号】特開2013−72028(P2013−72028A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213089(P2011−213089)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】