説明

多孔質蛍光性セラミックス

【課題】 建設工事に伴って地上に排出される泥土の再利用を図り、環境破壊の防止および処理コストの削減に貢献するとともに、断熱材、装飾材、建材、道路資材、その他種々の分野で利用できる多孔質蛍光性セラミックを提供する。
【解決手段】 二酸化珪素、酸化アルミニウムおよび酸化カルシウムを主成分とする泥土、ガラスおよび蛍光物質とからなる焼結混合物であって、その体積膨張率が105〜250%であることを特徴とする多孔質蛍光性セラミックスであり、好ましくは前記泥土がソイル柱列工法によって地上に排出されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性と蛍光性の両特性を合わせ持つ多孔質蛍光性セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔体は種々の分野、用途に応用されている。例えば、高分子、セラミックおよび金属材料などを使用して断熱材、クッション材、浮揚材および担体透水材などが開発され、用いられている。
【0003】
また、蛍光体は電力を消費することなく光を発生させることが可能であることから、エネルギーの消費を極力抑えることができるので、今後、装飾材、建材、道路資材など、様々な分野への応用展開が期待されている。
【0004】
また、産業廃棄物は、環境破壊の防止、処理コスト削減などの面から再利用が求められている。
【0005】
従来、多孔質蛍光体に関連して「無機質蛍光性多孔質粒子、及びその製造方法」(特許文献1)、「蛍光粒子の製造方法」(特許文献2)、「蛍光ガラス及びその製造方法」(特許文献3)などが提案されている。
【特許文献1】特開平11−61113号公報
【特許文献2】特開平9−241634号公報
【特許文献3】特開2004−224604公報。
【0006】
前記各特許文献に記載の発明は、蛍光発泡粒子に関するもので、多孔質蛍光性セラミックスについての記載はなく、いずれも産業廃棄物を再利用するものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、まだ活用されることの少ない泥土から新たな利用分野をみつけ、特に、建設工事に伴って地上に排出される泥土の再利用を図り、環境破壊の防止および処理コストの削減に貢献するとともに、断熱材、装飾材、建材、道路資材、その他種々の分野で利用できる多孔質蛍光性セラミックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、二酸化珪素、酸化アルミニウムおよび酸化カルシウムを主成分とする泥土、ガラスおよび蛍光物質とからなる焼結混合物であって、その体積膨張率が105〜250%であることを特徴とする(請求項1)。また、好ましくは、前記泥土が、ソイル柱列工法によって地上に排出されたものであることを特徴とする(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ビル等の建設工事に伴って地上に排出される泥土から、適度の多孔質を有し、かつ優れた蛍光特性を有するセラミックスが得られ、それは耐摩耗性、硬度、圧縮強度、引張強度、高弾性率等の機械的強度に優れ、また抗菌性を有することから、断熱材、装飾材、建材、道路資材等々の用途に使用することができる。
【0010】
これまで、ほとんど利用されることがなかった、ソイル柱列工法等の建設工事の実施で発生する泥土を有効活用できることになり、環境保全を図りつつ廃棄物処理を可能とし、その際のコストも削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用される泥土は、二酸化珪素、酸化アルミニウムおよび酸化カルシウムを主成分とするものであって、これら三種類の酸化物は泥土中に60質量%以上、好ましくは、70質量%以上含有される。これらの主成分中に二酸化珪素が60質量%以上、好ましくは、65質量%以上を占めることが望ましい。
【0012】
これら三種類の酸化物が前記範囲内にあると、耐摩耗性、硬度、引張強度、高弾性率等の機械的強度に優れた多孔質体とすることができる。また、泥土中には前記酸化物以外に、酸化鉄、酸化マグネシウム等の各種の酸化物がさらに含有されていてもよい。
【0013】
前記泥土から由来する無機物質は、焼結混合物中に、4〜30質量%、好ましくは5〜25質量%含有される。この範囲にあると、機械的強度に優れた多孔質体とすることができる。そのような泥土の例として、ビル等の建設現場から発生するものを利用することができる。また、砂質土と呼ばれるものも使用できる。
【0014】
現在、ビルなどの構築物の地下建設工事の値伐工事に際し、隣接土地および建物への影響を防止するために境界部にソイル柱により連続壁を形成する工法、すなわち、ソイル柱列工法が採用されており、この工法の実施で発生する泥土を好適に使用することができる。
【0015】
前記連続壁を形成するソイル柱は、穿孔と同時に、あるいは穿孔後に、セメント、ベントナイト等の固結材および水、さらに造成地の現位置土が混合されて地中に形成される。前記穿孔と同時にソイル柱を形成した場合には、単純計算では、前記連続壁形成時に加えられた前記セメント、ベントナイト等の固結材と水の分量に相当する量の土砂との混合物が地上に排出されることになる。
【0016】
もっとも、加えられた固結材および水の一部は、周囲の地層に浸透するため、前記相当量の混合物が地上に排出されることはない。しかしながら、多数のソイル柱により連続壁を構成すると、地上に排出される前記固結材、水および土砂の混合物は大量になる。該混合物は、セメント、ベントナイト等の固結材が混合された泥土であって、本発明の多孔質蛍光性セラミックスの製造にあたり、乾燥粉末化して使用される。
【0017】
前記泥土の乾燥粉末(以下「RSパウダー」と言う。)は、現場の土質により異なるが、その化学組成(含有量)の一例を下記表1に示す。
【表1】

【0018】
本発明に係る焼結混合体には、さらにガラスが含有されている。ガラスは、一般に板ガラス等に使用されるガラスでもよいし、また一旦使用された廃ガラスでもよい。後者を使用すると、廃棄物の再利用になる。焼結混合体の製造に際しては、ガラスを乾燥粉末化してから混合使用される。
【0019】
このガラスは、焼結混合体中に、10〜75質量%、好ましくは15〜70質量%含有される。ガラスの含有量がこの範囲内にあると、混合物を焼結する際に泥土中の各種酸化物の粘結材になるとともに、他の成分と比べて大きな熱膨張率を有することから適度な発泡倍率得る発泡剤としても作用し、また、焼結混合体に高い機械的強度を付与する。
【0020】
また、本発明に使用可能な蛍光物質は、高い発光強度と長い残光時間を有する蓄光性を有する蛍光物質であればいかなる種類のものも含有させることができる。好ましい蛍光物質として、一般式MAlで表される化合物であって、ここでMは、Sr、Ca、Ba、Mgなどのアルカリ土類金属である。そのような一般式で表される化合物の例として、SrAl、CaAlを挙げることができる。
【0021】
必要ならば、前記MAlを主体として、さらに賦活剤としてユーロピウムEu等の希土類金属元素、また共賦活剤としてジスプロシウムDy等の希土類金属元素を含有させてもよい。焼結混合体の製造に際しては、各々の酸化物、例えば、Eu、Dyの形で使用される。
【0022】
賦活剤および共賦活剤は、MAlで表される化合物に対して各々一般に0.1〜10モル%の範囲で含有される。それらを含有させることによって、焼結混合体の発光特性がより良好に改善される。
【0023】
また、蛍光物質として、MAlで表される化合物より蛍光特性は弱いが、ZnSを含有させることもできる。この場合には、Mn、Ag、Zn、Cu等の酸化物を共存させることができる。
【0024】
MAlやZnS等の蛍光物物質は、泥土やガラス等を含む混合物中に、3〜50質量%、好ましくは、10〜45質量%含有される。蛍光物質の含有量が前記の範囲内であると、焼結した多孔質体に強い強度の蛍光を付与することができる。また、蛍光物質は、焼結混合体を製造する際に、適度な発泡倍率を付与する発泡剤としても作用する。
【0025】
本発明に係る焼結混合体には、例えば、ホウ酸および/または酸化ホウ素、酸化チタン、五酸化ニリン、ベントナイト等の各種の酸化物をさらに含有させることができる。それらは、焼結混合物中に5〜60質量%、好ましくは5〜50質量%含有させることができる。
【0026】
ホウ酸および/または酸化ホウ酸を含有させると、初期蛍光強度を高め、残光時間を長くするなど、蛍光特性をさらに高め、また、焼結混合体の製造時に発泡倍率を広い範囲で変化させる発泡剤としても作用させることができる。
【0027】
チタン、モリブデン、クロム、リン等の酸化物、水酸化カリウム、またベントナイトを含有させると、焼結混合体の製造時に発泡倍率を調整する助剤として作用する。二酸化チタンはその光触媒作用によって抗菌効果を示す。
【0028】
原料混合物を焼結するに際して、まず、原料混合物を細粒径の粉体へと粉砕し、乾燥混合し、その後、電気炉等の加熱炉を使用して焼結する。加熱温度は、600〜750℃の範囲が好ましく、通常大気中または真空中で10分〜3時間加熱してから徐冷する。その結果、多孔性で蛍光性のあるセラミックスを製造することができる。
【0029】
原料混合物中には、明らかに発泡剤と呼ばれる成分はないが、泥土以外の成分が焼結時に発泡剤的な役割をなし、その含有量と焼結条件によって発泡倍率が変化し、体積膨張率が105〜250%、好ましくは110〜240%の範囲にある多孔性セラミックスが得られる。また、その体積膨張率によって、圧縮強度、弾性率、硬度等の機械的強度物性を調整することができる。
【実施例1】
【0030】
以下に実施の一例を説明する。
【0031】
原料として、下記粉末状の乾燥物質を乳鉢を用いて十分に混合し、ついでプレス成形機を用いて20MPaの圧力をかけてペレットを製造した。その後、電気炉を用いて、大気中、一定温度で20分間加熱し、多孔質体を得た。加熱温度は、各回、600、650、700、750、800℃でそれぞれ行った。
【0032】
RSパウダー・・・・0.4g
廃ガラス・・・・・・1.6g
酸化ホウ素・・・・・1.5g
酸化チタン・・・・・0.25g
ベントナイト・・・・0.5g
水酸化カリウム・・・0.5g
蛍光物質・・・・・・1.9g
SrAl・・
Eu・・・・SrAlの5モル%
Dy・・・・SrAlの5モル%
焼結後、硬い多孔質体5.9gが得られた。その密度は1.39(g/cm)、体積膨張率は122.4%であった。
【0033】
蛍光性を調べるために、多孔質蛍光体の蛍光スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。なお、前記測定は、蛍光分光光度計(島津製作所製RF−5300PC)を用いて行った。参考のために、この実施例で使用した蛍光物質についても、蛍光スペクトルを測定して図1に併せて示した。
【0034】
520nmにグリーンに相当する吸収ピークが測定され、蛍光物質であるSrAlの吸収ピークと一致した。図1に示した結果から、600〜750℃で焼結した試料は、強い蛍光強度を示したが、800℃で焼結すると、蛍光強度が著しく低下することがわかった。
【0035】
さらに、得られた多孔質蛍光体のX線回析分析をフィリップス社製品APD1700を用いて行い、その結果を図2に示す。同図には、蛍光物質SrAlのX線回析ピークも参考のため併せて示した。
【0036】
前記によると650,750、800℃で焼結したX線回析ピーク位置および回析強度は、蛍光物質SrAlのそれとほとんど変わりなかった。800℃で焼結したときにX線回析分析結果に変化はないが、前記した図1の結果によると蛍光性が低下している。その原因は、蛍光物質中に含まれるユーロピウムがEu2+イオンからEu3+イオンへと酸化したことによるものと考えている。
【0037】
なお、密度測定は、アルキメデス法を用いて行った。すなわち、密度Pは、焼結体の乾燥試料の質量W、焼結体の蒸留水中での質量W、および蒸留水の密度Pwから、次式を用いて算出した。
【0038】
P=(W×Pw)/(W−W
また、体積膨張率は、まず、原料混合物を加圧成形によって予備成形体を作成し、その体積Vを求めてから、次の方法で算出した。
【0039】
焼結後の体積 V=総重量(g)/P
体積膨張率(%)=(V/V)×100
【実施例2】
【0040】
原料として次に示す粉末状の乾燥物質を乳鉢を用いて十分に混合し、次いでプレス成形機を用いて20MPaの圧力をかけてペレットを製造した。その後、電気炉を用いて、大気中、650℃で20分間加熱し、多孔質体12.5gを得た。
【0041】
砂質土・・・・二酸化珪素・・・・・・66%
酸化アルミニウム・・・17% 計3.0g
酸化カルシウム・・・・17%
ガラス・・・・・・・5.0g
酸化ホウ素・・・・・1.0g
五酸化ニリン・・・・・0.5g
水酸化カリウム・・・0.5g
蛍光物質・・・・・・3.0g
SrAl・・
Eu・・・・SrAlの5モル%
Dy・・・・SrAlの5モル%
得られた焼結体の密度は0.95(g/cm)、および体積膨張率は230%であった。また、蛍光分光分析によって蛍光を確認した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】多孔質蛍光体の蛍光スペクトル測定図である。
【図2】多孔質蛍光体のX線回析分析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化珪素、酸化アルミニウムおよび酸化カルシウムを主成分とする泥土、ガラスおよび蛍光物質とからなる焼結混合物であって、その体積膨張率が105〜250%であることを特徴とする多孔質蛍光性セラミックス。
【請求項2】
前記泥土がソイル柱列工法によって地上に排出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質蛍光性セラミックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−306644(P2006−306644A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129232(P2005−129232)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月1日 日本セラミックス協会主催の「EnCera 04」において文書をもって発表
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(390030487)株式会社アールエス ジャパンリーダー (3)
【Fターム(参考)】