説明

多孔質電極基材

【課題】燃料電池に用いた際に短絡電流や反応ガスのクロスリークが生じにくい多孔質電極基材が求められていた。
【解決手段】炭素短繊維を網目状炭素繊維及び/又は樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材であって、前記多孔質電極基材の少なくとも片面において、表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上である多孔質電極基材。短絡電流密度が0.1mA/cm以下である多孔質電極基材。短絡電流密度が0.1mA/cm以下である多孔質電極基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池のガス拡散層には、炭素繊維ペーパー、炭素繊維クロス、炭素繊維フェルト等の炭素繊維および炭化物を用いた多孔質電極基材が一般的に用いられる。これらの多孔質電極基材は炭素短繊維および炭化物によって高い導電性を示すだけでなく、多孔質材料であるため、燃料ガスおよび生成水などの液体の透過性が高いためガス拡散層に好適な材料である。
【0003】
しかしながら、ガス拡散層として用いられる多孔質電極基材は、燃料電池を製造する際のガス拡散層と電解質膜の接合工程やスタックの締結工程において生じる摩擦や圧縮などにより炭素繊維の毛羽立ちや炭素短繊維や炭素短繊維を結着する炭化物の脱落・折損が生じるおそれがある。これらの脱落・折損した炭素短繊維や炭化物は電解質膜に比べ剛直であるため、電解質膜に突き刺さることがある。電解質膜に突き刺さることにより、アノード極とカソード極との間に短絡電流が発生するといった不具合、アノード極側の水素ガス及び/又はカソード極側の酸素ガスがクロスリークするといった不具合を生じ、燃料電池の起電力や耐久性が著しく損なわれる傾向にあった。
【0004】
電解質膜への炭素短繊維および炭素材料の突き刺さりによるダメージを低減する方法として、例えば特許文献1には電解質膜や触媒層との接合工程やスタック締結工程においてガス拡散層に掛かる面圧を、あらかじめガス拡散層に付与し、生じる結着の弱い炭素短繊維および炭化物の脱落や破損したものをあらかじめ取り除く方法が開示されている。また、特許文献2にはガス拡散層に気体を吹きつけ同時に吸引することで、ガス拡散層製造時において結着の弱い炭素短繊維を取り除く方法が開示されている。さらに、特許文献3においては、ガス拡散層に超音波処理を施すことによって、結着の弱い炭素短繊維を取り除く方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−190951号公報
【特許文献2】特開2010−70433号公報
【特許文献3】特開2010−61964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法ではプレスにより後工程で生じる炭素粉を予め除去することはできるが、プレス時に付与する圧力やプレス後の除去処理が不十分であるため、発生した炭素粉が十分に除去されておらず、燃料電池に用いた際に短絡電流が生じてしまう恐れがあった。
【0007】
特許文献2に記載の方法では、ガス拡散層の表面はある程度清浄にできるが、電解質膜との接合工程など、ガス拡散層が圧縮された際には新たに炭素粉が発生してしまい、それらが電解質膜に突き刺さってしまって大きな短絡電流が発生してしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の方法を用いても、同様に後工程の圧縮により炭素粉が発生してしまうという問題があった。
本発明は、前記のような問題点を克服し、燃料電池に用いた際に短絡電流や反応ガスのクロスリークが生じにくい多孔質電極基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は以下の発明〔1〕〜〔2〕によって解決される。
【0010】
〔1〕炭素短繊維を網目状炭素繊維及び/又は樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材であって、前記多孔質電極基材の少なくとも片方の面において、表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上である多孔質電極基材。
【0011】
〔2〕以下の実験条件にて測定した短絡電流密度が0.1mA/cm以下である多孔質電極基材。
<実験条件>
(1)パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(ナフィオンNR211:デュポン(株):膜厚:25μm)の両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成した積層体を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合して燃料電池用膜−電極接合体(MEA)MEAを得る。
【0012】
(2)前記MEAを、JARI標準セル付属の蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、面圧が1.0MPaとなるように締結し、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成する。
【0013】
(3)得られた単セルの両極に端子を接続し、デジタルマルチメーターTR6487(アドバンテスト社製)を使用して電極間の電位差は1.0Vとし、短絡電流密度を測定する。
(ナフィオンは、イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニーの登録商標)
【発明の効果】
【0014】
燃料電池に用いた際に短絡電流や反応ガスのクロスリークが生じにくい樹脂炭化物が十分に少ない多孔質電極基材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に示す。
【0016】
<多孔質電極基材>
本発明の多孔質電極基材は、構造体中に分散された炭素短繊維(A)が、網目状炭素繊維(B)によって接合された構造体、または構造体中に分散された炭素短繊維(A)同士が、網目状炭素繊維(B)によって接合されかつ、樹脂炭化物(C)によって炭素短繊維(A)間および炭素短繊維(A)と網目状炭素繊維(B)間とが結着された構造体、または炭素短繊維(A)が樹脂炭化物(C)によって結着された構造体からなる。
【0017】
多孔質電極基材は、シート状、渦巻き状等の形状をとることができる。シート状にした場合、多孔質電極基材の目付けは15〜100g/m程度が好ましく、空隙率は50〜90%程度が好ましく、厚みは20μm以上400μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以上、300μm以下である。
【0018】
多孔質電極基材のガス透気度は500〜30000ml/hr/cm/mmAqであることが好ましい。また、多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、50mΩ・cm以下であることが好ましい。なお、多孔質電極基材のガス透気度および貫通方向抵抗の測定方法は、後述する。
【0019】
<炭素短繊維(A)>
炭素短繊維としては、その原料によらず用いることができるが、ポリアクリロニトリル(以後PANと略す。)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維から選ばれる1つ以上の炭素繊維を含むことが好ましく、PAN系炭素繊維あるいはピッチ系炭素繊維を含むことがより好ましい。炭素短繊維の平均直径は、3〜30μm程度が好ましく、4〜20μmがより好ましく、4〜12μmがさらに好ましい。この範囲内であると多孔質電極基材としての表面平滑性と導電性がよい。
【0020】
炭素短繊維の平均長は、2〜12mm程度であることが好ましい。この範囲内であるとシート化時の分散性と多孔質電極基材としての機械的強度が高くなる。
【0021】
ポリアクリロニトリル系炭素繊維は、原料として、アクリロニトリルを主成分とするポリマーを用いて製造されるものである。具体的には、PAN系繊維を紡糸する製糸工程、200〜400℃の空気雰囲気中で該繊維を加熱焼成して酸化繊維に転換する耐炎化工程、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中でさらに300〜2500℃に加熱して炭化する炭化工程を経て得ることのできる炭素繊維で、複合材料強化繊維として好適に使用される。そのため、他の炭素繊維に比べて強度が強く、機械的強度の強い炭素シートを形成することができる。
【0022】
<網目状炭素繊維(B)>
網目状炭素繊維は、炭素短繊維(A)同士を接合する繊維で、接合部において屈曲状または湾曲状になっている状態で存在し、それぞれが網目構造を形成しており、前駆体繊維(b)を加熱によって炭素化して得られる網目状炭素繊維を用いることができる。
【0023】
多孔質電極基材における網目状炭素繊維(B)の含有率は、10〜90質量%であることが好ましい。多孔質電極基材の導電性と機械的強度を十分なものに保つため、網目状炭素繊維(B)の含有率は、15〜80質量%であることがより好ましい。
【0024】
<前駆体繊維(b)>
前駆体繊維(b)としては、炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)の一方、もしくは両方を用いることができる。
【0025】
<炭素繊維前駆体短繊維(b1)>
炭素繊維前駆体短繊維(b1)は、後述するポリマー(例えば、アクリル系ポリマー)を用いて作製した長繊維状の炭素繊維前駆体繊維を適当な長さにカットしたものであることができる。炭素繊維前駆体短繊維(b1)の平均繊維長は、分散性の点から、2mm以上20mm以下が好ましい。なお、平均繊維長は、光学顕微鏡および電子顕微鏡により測定することができる。炭素繊維前駆体短繊維(b1)の断面形状は特に限定されないが、炭素化した後の機械的強度、製造コストの面から、真円度の高いものが好ましい。また、炭素繊維前駆体短繊維(b1)の平均直径は、炭素化時の収縮による破断を抑制する観点から、5μm以下であることが好ましい。なお、平均繊維径(直径)は、光学顕微鏡および電子顕微鏡により測定することができる。
【0026】
炭素繊維前駆体短繊維(b1)は、炭素化処理する工程における残存質量が20質量%以上であるポリマーを用いることが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、セルロース系ポリマー、フェノール系ポリマーが挙げることができる。紡糸性および低温から高温にかけて炭素短繊維(A)同士を接合させることができ、炭素化時の残存質量が大きい点、さらに、後述する交絡処理を行う際の繊維弾性、繊維強度を考慮すると、アクリロニトリル単位を50質量%以上含有するアクリル系ポリマーを用いることが好ましい。
【0027】
炭素繊維前駆体短繊維(b1)は、1種類であってもよく、繊維直径、ポリマー種が異なる複数種類であってもよい。これらの炭素繊維前駆体短繊維(b1)や後述するフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)の種類や炭素短繊維(A)との混合比、200℃以上300℃以下での酸化処理の有無によって、最終的に得られる多孔質電極基材中に網目状炭素繊維(B)として残る割合を調整することができる。
【0028】
<炭素繊維前駆体短繊維(b1)に用いるアクリル系ポリマー>
アクリル系ポリマーとしては、アクリロニトリルの単独重合体であっても、アクリロニトリルとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。アクリロニトリルと共重合されるモノマーとしては、一般的なアクリル系繊維を構成する不飽和モノマーであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0029】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、5万以上100万以下であることが好ましい。アクリル系ポリマーの重量平均分子量が5万以上であることで、紡糸性が向上すると同時に、繊維の糸質が良好になる傾向にある。アクリル系ポリマーの重量平均分子量が100万以下であることで、紡糸原液の最適粘度を与えるポリマー濃度が高くなり、生産性が向上する傾向にある。
【0030】
<フィブリル状炭素前駆体繊維(b2)>
フィブリル状炭素前駆体繊維(b2)としては、例えば以下のものを用いることができる。直径100μm以下の繊維状の幹より、直径が数μm以下(例えば0.1〜3μm)のフィブリルが多数分岐した構造を有する炭素前駆体繊維(b2−1)や、叩解によってフィブリル化した炭素前駆体短繊維(b2−2)を用いることができる。なお、以下、この2つのフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)をそれぞれ、繊維(b2−1)および繊維(b2−2)と称することがある。
【0031】
これらのフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)を用いることにより、前駆体シート中で炭素短繊維(A)とフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)が良く絡み合い、ハンドリング性と機械的強度の優れた前駆体シートを得ることが容易となる。フィブリル状炭素前駆体繊維(b2)の濾水度は特に限定されないが、一般的に濾水度が小さいフィブリル状繊維を用いると前駆体シートの機械的強度が向上するが、多孔質電極基材のガス透気度が低下する傾向がある。
【0032】
フィブリル状炭素前駆体繊維(b2)としては、繊維(b2−1)1種類、または繊維(b2−2)を1種類使用してもよく、また濾水度、繊維直径、ポリマー種等が異なるこれら繊維を複数種類併用してもよい。
【0033】
以下に、この2つのフィブリル状炭素前駆体繊維(b2)について詳しく説明する。
【0034】
<繊維(b2−1)>
繊維(b2−1)に用いられるポリマーは、炭素化処理工程における残存質量が20質量%以上であることが好ましい。このようなポリマーとしては、アクリル系ポリマー、セルロース系ポリマー、フェノール系ポリマーを挙げることができる。紡糸性および低温から高温にかけて炭素短繊維(A)同士を接合させることができ、炭素化時の残存質量が大きい点、さらに、炭素短繊維(A)との交絡、シート強度を考慮すると、アクリロニトリル単位を50質量%以上含有するアクリル系ポリマーを用いることが好ましい。アクリル系ポリマーとしては炭素繊維前駆体短繊維(b1)と同様のものを用いることができる。
【0035】
繊維(b2−1)の製造方法は特に限定されないが、濾水度のコントロールが容易な噴射凝固法を用いて製造することが好ましい。噴射凝固法による繊維(b2−1)は例えば以下の方法で製造できる。
【0036】
まず、アクリロニトリル系共重合体を溶媒に溶解させて紡糸原液を調製する。この溶媒としては、例えば、ジメチルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどを用いることができる。ついで、この紡糸原液を紡糸吐出口に通して混合セル内に吐出すると同時に、水蒸気を紡糸原液の吐出線方向に対して0度以上、90度未満の角度で混合セル内に噴出し、混合セル内でこのアクリロニトリル系共重合体を剪断流速の下で凝固させる。形成された凝固体を前記溶媒と水蒸気と共に混合セルから凝固液中に排出することで繊維(b2−1)が得られる。凝固液としては水または、水と前記溶媒との混合液を用いることができる。
【0037】
このようにして得られた繊維(b2−1)は、繊維径の細い繊維が集合したフィブリル部と水蒸気にあまり触れることなく凝固した繊維径の太い芯部(幹)を有している。繊維(b2−1)のフィブリル部は炭素短繊維Aや繊維(b2−1)のフィブリル部同士との絡みを良好とし、繊維(b2−1)の芯部はバインダーとしての強度を発現することができる。
【0038】
繊維(b2−1)のフィブリル部の繊維径は混合する炭素短繊維との絡みを良好にするため、2μm以下が好ましい。
【0039】
芯部は、多孔質電極基材の均質化の観点から直径100μm以下であることが好ましい。直径を100μm以下とすることにより、繊維(b2−1)が偏在することを容易に抑制でき、比較的少量の繊維(b2−1)によって容易に炭素短繊維Aを結着することができる。また、強度を発現する観点から、芯部の直径は10μm以上であることが好ましい。
【0040】
繊維(b2−1)が炭素短繊維Aに絡む機能の観点から、一つの芯部に対して繊維(b2−1)のフィブリル部が複数存在することが好ましく、一つの芯部に対してフィブリル部が多いほど好ましいと考えられる。
【0041】
一本の繊維(b2−1)において、芯部の太さは、一定であるか、あるいは無段階に変化するものが好ましい。このような繊維(b2−1)を用いることにより、芯部の太さの段階的な変化により段差の部分が弱くなることを容易に防ぐことができ、強度が低下することを容易に防ぐことができる。なお、上記方法で繊維(b2−1)を製造した場合、水蒸気がランダムに飛び散ることにより芯部の太さを一定に保つことが困難な場合があり、芯部の太さが変化することがある。しかし、芯部の太さの段階的な変化は、噴射する水蒸気が冷えて液滴状になった場合に見られる傾向があるため、水蒸気の噴出圧および温度を高くするなどの方法で芯部の太さが段階的に変化することを容易に防止することができる。
【0042】
<繊維(b2−2)>
繊維(b2−2)は、長繊維状の易割繊性海島複合繊維を適当な長さにカットしたものを、リファイナーやパルパーなどによって叩解しフィブリル化したものであることができる。長繊維状の易割繊性海島複合繊維は、共通の溶剤に溶解し、かつ非相溶性である2種類以上の異種ポリマーを用いて製造することができ、少なくとも1種類のポリマーが、炭素化処理工程における残存質量20質量%以上であることが好ましい。易割繊性海島複合繊維に用いられるポリマーのうち、炭素化処理工程における残存質量が20質量%以上であるものとしては、アクリル系ポリマー、セルロース系ポリマー、フェノール系ポリマーが挙げられる。中でも、紡糸性および炭素化処理工程における残存質量の観点から、アクリロニトリル単位を50質量%以上含有するアクリル系ポリマーを用いることが好ましい。
【0043】
アクリル系ポリマーとしては炭素繊維前駆体短繊維(b1)と同様のものを用いることができる。
【0044】
易割繊性海島複合繊維に用いられるポリマーのうちの1種類に、炭素化処理工程における残存質量が20質量%以上であるポリマーとして、上述するアクリル系ポリマーを用いた場合、他のポリマーとしては、そのアクリル系ポリマーと共通の溶剤に溶解し、両ポリマーを溶解した紡糸原液が安定に存在することが望まれる。すなわち、他のポリマーは、アクリル系ポリマーと共通の溶剤に溶解した場合に、アクリル系ポリマーに対して非相溶であり、紡糸の際に海島構造を形成できる程度の混和性を有することが望まれる。これにより、紡糸原液とした際に、2種のポリマーの非相溶性の度合いが大きい場合に生じる繊維の不均質性を容易に防ぐとともに、紡糸時における糸切れを容易に防ぐことができ、さらに、繊維賦形を容易にすることができる。また、他のポリマーは水に難溶性であることが望まれ、これにより湿式紡糸する場合に、凝固槽、および洗浄槽において他のポリマーが水に溶解して脱落が起こることを容易に防ぐことができる。
【0045】
これらの要望を満足する他のポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、酢酸セルロース、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられるが、酢酸セルロース、アクリル樹脂およびメタクリル樹脂は、前述した要望のバランスの点で、好ましい。他のポリマーは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0046】
繊維(b2−2)に用いる易割繊性海島複合繊維は、通常の湿式紡糸法で製造することができる。先ず、アクリル系ポリマーと他のポリマーとを溶剤に溶解して紡糸原液を調製する。または、アクリル系ポリマーを溶剤に溶解して得られる紡糸原液と、他のポリマーを溶剤に溶解して得られる紡糸原液とを、スタティックミキサー等で混合して紡糸原液としてもよい。溶剤としては、ジメチルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシドなどを用いることができる。これらの紡糸原液を紡糸機に供給してノズルより紡糸し、湿熱延伸、洗浄、乾燥および乾熱延伸を施こすことで、易割繊性海島複合繊維を得ることができる。
【0047】
易割繊性海島複合繊維の断面形状は、特に限定されない。分散性、炭素化時の収縮による破断を抑制するため、易割繊性海島複合繊維の繊度は、1dtex以上10dtex以下であることが好ましい。易割繊性海島複合繊維の平均繊維長は、叩解後の分散性の観点から、1mm以上20mm以下が好ましい。
【0048】
易割繊性海島複合繊維は、機械的外力により相分離界面の剥離により叩解して、その少なくとも一部分が割繊し、フィブリル化する。叩解方法は、特に限定されないが、例えば、リファイナーやパルパー、ビーター、または加圧水流の噴射(ウオータージェットパンチング)によりフィブリル化することが可能である。易割繊性海島複合繊維を機械的外力により相分離界面の剥離により叩解する際には、叩解方法、叩解時間に依存して、フィブリル化の状態は変化する。フィブリル化の度合いを評価する方法として、濾水度評価(JIS P8121(パルプ濾水度試験法:カナダ標準型))を用いることができる。繊維(b2−2)の濾水度は特に限定されない。
【0049】
<樹脂炭化物(C)>
樹脂炭化物は、炭素短繊維(A)間および炭素短繊維(A)と網目状炭素繊維(B)間とを結着する炭化物であり、樹脂を加熱によって炭素化して得られる炭素材を用いることができる。加熱によって炭素化可能な樹脂(c)としては、炭素化した段階で炭素短繊維(A)間および炭素短繊維(A)と網目状炭素繊維(B)間とを結着することのできる公知の樹脂から適宜選んで用いることができる。炭素化後に導電性物質として残存しやすいという観点から、樹脂(c)としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ピッチ等が好ましく、加熱による炭素化の際の炭化率の高いフェノール樹脂が特に好ましい。前記フェノール樹脂としては、アルカリ触媒存在下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって得られるレゾールタイプフェノール樹脂を用いることができる。また、レゾールタイプの流動性フェノール樹脂に公知の方法によって酸性触媒下においてフェノール類とアルデヒド類の反応によって生成する、固体の熱融着性を示すノボラックタイプのフェノール樹脂を溶解混入させることもできるが、この場合は硬化剤、例えばヘキサメチレンジアミンを含有した、自己架橋タイプのものが好ましい。フェノール樹脂としては、アルコールやケトン類の溶媒に溶解したフェノール樹脂溶液や、水などの分散媒に分散したフェノール樹脂分散液などを用いることができる。
【0050】
樹脂炭化物中には導電性をさらに向上させるため導電性物質を混合することも好ましい。導電性物質としては、導電性、耐酸性の観点より炭素質ミルド繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛粉などの炭素質材料が好ましい。加熱によって炭素化可能な樹脂(c)中の導電性物質を混合量は、樹脂に対して、1〜10質量%が好ましい。混合量が1質量%未満であると導電性改善の効果が小さいという点で不利であり、10質量%を越えると導電性改善の効果が飽和する傾向にあり、またコストアップの要因となるという点で不利である。
【0051】
多孔質電極基材における樹脂炭化物(C)の含有率は、10〜90質量%であることが好ましい。多孔質電極基材の導電性と機械的強度を十分なものに保つため、樹脂炭化物(C)の含有率は、15〜80質量%であることがより好ましい。
【0052】
<多孔質電極基材の製造方法>
本発明は、以下の工程を有する。
(1)炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを2次元平面内において分散させた前駆体シートを製造する工程。
(2)前記前駆体シートを100℃〜300℃の温度で加熱加圧処理する工程。
(3)加熱加圧した前駆体シートを1000℃以上の温度で炭素化処理する工程。
【0053】
また、工程(1)と(2)との間に以下の工程(4)を、工程(2)の前に以下の工程(5)を、工程(2)と(3)との間に以下の工程(6)を含むことができる。
(4)前駆体シートを交絡処理する工程。
(5)炭素化可能な樹脂を含浸する工程
(6)加熱加圧された前駆体シートを酸化処理する工程。
【0054】
以下に各工程を詳しく説明する。
【0055】
<前駆体シートを製造する工程(1)>
前駆体シートの製造方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを分散させて抄造する湿式法、空気中に炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを分散させて降り積もらせる乾式法、などの抄紙方法を適用できる。しかし、シートの均一性が高いという観点から湿式法を用いることが好ましい。
【0056】
炭素短繊維(A)が単繊維に開繊するのを助け、開繊した単繊維が再収束することを防止するためにも、前駆体繊維(b)を使用することが好ましい。また必要に応じて有機高分子化合物をバインダーとして使用して、湿式抄紙することもできる。
【0057】
この有機高分子化合物は、炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを含む前駆体シート中で、各成分をつなぎとめるバインダー(糊剤)としての役割を有する。この有機高分子化合物としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニルなどを用いることができる。特に、抄紙工程での結着力に優れ、炭素短繊維の脱落が少ないことから、ポリビニルアルコールが好ましい。本発明では、この有機高分子化合物を繊維形状にして用いることも可能である。
【0058】
前駆体繊維(b)を用いる場合は、バインダーとしての有機高分子化合物を用いずにシート化しても、炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)(例えばフィブリル状炭素前駆体繊維(b2))との適度な絡みにより前駆体シートを得ることができる。
【0059】
炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを分散させる媒体としては、例えば、水、アルコールなどの前駆体繊維(b)が溶解しない媒体が挙げられるが、生産性の観点から、水が好ましい。
【0060】
炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを混合する方法としては、水中で攪拌分散させる方法、これらを直接混ぜ込む方法が挙げられるが、均一に分散させる観点から、水中で拡散分散させる方法が好ましい。炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを混合し、抄紙して前駆体シートを製造することにより、前駆体シートの強度が向上する。また、その製造途中で、前駆体シートから炭素短繊維(A)が剥離し、炭素短繊維(A)の配向が変化することを防止することができる。
【0061】
前駆体シートは、連続法とバッチ法のいずれによっても製造できるが、前駆体シートの生産性および機械的強度の観点から、連続法で製造することが好ましい。
【0062】
前駆体シートの目付は、前駆体シートのハンドリング性および多孔質電極基材としたときのガス透過性、導電性、ハンドリング性の観点から10g/m以上、200g/m以下であることが好ましい。
また、前駆体シートの厚みは、ガス透過性、導電性、ハンドリング性の観点から、20μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以上、400μm以下である。
【0063】
前駆体繊維(b)を用いる場合は、その種類や炭素短繊維(A)との混合比、酸化処理の有無によって、最終的に得られる多孔質電極基材中に網目状炭素繊維(B)として残る割合を調整することができる。
【0064】
炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)との混合比は、炭素短繊維(A)100質量部に対して、前駆体繊維(b)が50質量部以上300質量部以下であることが好ましい。前駆体繊維(b)を50質量部以上とすることで、形成される網目状炭素繊維(B)の量が適度に多くなるため、多孔質電極基材シートの強度を容易に向上させることができる。前駆体繊維(b)を300質量部以下とすることで、炭素化時の前駆体繊維(b)の収縮を抑制する炭素短繊維(A)が少ないことに起因するシートの収縮を容易に抑制でき、多孔質電極基材シートの強度を容易に向上させることができる。
【0065】
<加熱加圧成型する工程(2)>
多孔質電極基材が、構造体中に分散された炭素短繊維(A)同士が、網目状炭素繊維(B)によって十分に接合された構造体、または構造体中に分散された炭素短繊維(A)同士が、網目状炭素繊維(B)によって十分に接合されかつ、樹脂炭化物(C)によって炭素短繊維(A)間および炭素短繊維(A)と網目状炭素繊維(B)間とが十分に結着された構造体、または炭素短繊維(A)が樹脂炭化物(C)によって十分に結着された構造体とし、かつ多孔質電極基材の厚みムラを低減させるために前駆体シートを300℃未満の温度で加熱加圧成型することが好ましい。加熱加圧成型は、前駆体シートを均等に加熱加圧成型できる技術であれば、いかなる技術も適用できる。例えば、前駆体シートの両面に平滑な剛板を当てて熱プレスする方法や、連続ロールプレス装置または連続ベルトプレス装置を用いる方法が挙げられる。
【0066】
連続的に製造された前駆体シートを加熱加圧成型する場合には、連続ロールプレス装置や連続ベルトプレス装置を用いる方法が好ましい。これによって、炭素化処理を連続で行うことができる。連続ベルトプレス装置におけるプレス方法としては、ロールプレスによりベルトに線圧で圧力を加える方法、液圧ヘッドプレスにより面圧でプレスする方法などが挙げられる。後者の方がより平滑な多孔質電極基材が得られるという点で好ましい。
【0067】
加熱加圧成型時の温度は、炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)および樹脂(c)の接合を十分なものとし、かつ多孔質電極基材前駆体シートの表面を効果的に平滑にするために、300℃未満が好ましく、120〜290℃がより好ましい。
【0068】
加熱加圧成型時の圧力は特に限定されないが、20kPa〜10MPa程度が好ましい。このとき必要以上にプレス圧を高くすると、加熱加圧成型時に炭素短繊維(A)が破壊されるという問題や、多孔質電極基材の組織が緻密になりすぎるという問題等が生じる可能性がある。
【0069】
加熱加圧成型の時間は、例えば5秒〜10分とすることができる。前駆体シートを2枚の剛板に挟む、または連続ロールプレス装置や連続ベルトプレス装置で加熱加圧成型する時は、剛板またはロールやベルトに前駆体繊維(b)および/また樹脂(c)などが付着しないように、あらかじめ剥離剤を塗っておくことや、前駆体シートと剛板またはロールやベルトとの間に離型紙を挟むことが好ましい。
【0070】
加熱加圧成型する際に1枚の前駆体シートを成型しても、複数枚の前駆体シートを重ね合わせて一体化するように成型しても良い。
【0071】
<炭素化処理する工程(3)>
工程(3)により、前駆体繊維(b)および/または樹脂(c)が炭素化され、網目状炭素繊維(B)および/または樹脂炭化物(C)となる。これにより、得られる多孔質電極基材の機械的強度および導電性が向上する。
【0072】
炭素化処理は、得られる多孔質電極基材の導電性を高めるために、不活性ガス中で行なうことが好ましい。炭素化処理は、通常1000℃以上の温度で行なわれる。炭素化処理する温度範囲は、1000〜3000℃が好ましく、1000〜2200℃がより好ましい。炭素化処理を行なう時間は、例えば10分〜1時間程度である。また、炭素化処理の前に、300〜800℃の程度の不活性雰囲気での焼成による前処理を行なうことができる。
【0073】
連続的に製造された前駆体シートを炭素化処理する場合は、製造コスト低減化の観点から、前駆体シートの全長にわたって連続で炭素化処理を行なうことが好ましい。多孔質電極基材を長尺にすれば、多孔質電極基材の生産性をさらに高くすることができ、かつその後のMEA(Membrane Electrode Assembly)製造も連続で行なうことができるので、燃料電池の製造コストを容易に低減できる。また、多孔質電極基材や燃料電池の生産性および製造コスト低減化の観点から、製造された多孔質電極基材を連続的に巻き取ることが好ましい。
【0074】
また本発明では、上述したように、工程(1)と、工程(2)との間に、前駆体シートを交絡処理する工程(4)を含むことができる。この際、工程(1)、(2)および(3)は、前述した方法により実施される。この形態では、交絡処理工程を含むため、前駆体シートおよび多孔質電極基材のハンドリンク性が向上する。さらに、交絡処理により多孔質電極基材の厚み方向の導電性が向上する。以下に、交絡処理工程について詳しく説明する。
【0075】
<交絡処理する工程(4)>
前駆体シート中の炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを交絡させる交絡処理は、交絡構造が形成される方法であればよく、公知の方法で実施できる。例えば、ニードルパンチング法などの機械交絡法、ウォータージェットパンチング法などの高圧液体噴射法、スチームジェットパンチング法などの高圧気体噴射法、或いはこれらの組み合わせによる方法を用いることができる。交絡工程での炭素短繊維(A)の破断を容易に抑制でき、かつ適度な交絡性が容易に得られるという点から、高圧液体噴射法が好ましい。以下、この方法について詳しく説明する。
【0076】
高圧液体噴射処理法とは、実質的に表面平滑な支持部材上に前駆体シートを載せ、例えば、1MPaの圧力で噴射される液体柱状流、液体扇形流、液体スリット流等を作用させることによって、前駆体シート中の炭素短繊維(A)、または炭素短繊維(A)と前駆体繊維(b)とを交絡させる処理方法である。ここで、実質的に表面平滑な支持部材としては、支持部材の模様が得られる交絡構造体に形成されることなく、かつ噴射された液体が速やかに除かれるようなものから必要に応じて選択して用いることができる。その具体例としては30〜200メッシュの金網又はプラスチックネット或いはロール等を挙げることができる。
【0077】
実質的に表面平滑な支持部材上で前駆体シートを製造した後、高圧液体噴射処理することが、交絡構造前駆体シートを連続的に製造でき、生産性の観点から好ましい。
【0078】
高圧液体噴射処理に用いる液体としては、前駆体シートを構成する繊維を溶解する溶剤以外なら何でもよいが、通常は水或いは温水を用いることが好ましい。高圧液体噴射ノズル中のそれぞれの噴射ノズルの孔径は、柱状流の場合、十分な交絡効果が得られるという観点から、0.03mm以上1.0mm以下が好ましく、0.05mm以上0.3mm以下がより好ましい。ノズル噴射孔と積層体の間の距離は、0.5cm以上5cm以下が好ましい。液体の圧力は、0.5MPa以上が好ましく、1.0MPa以上がより好ましい。交絡処理は、1列でもよく複数列で行ってもよい。複数列で行なう場合、1列目よりも2列目以降の高圧液体噴射処理の圧力を高めることが有効である。
【0079】
前駆体シートの高圧液体噴射による交絡処理は、複数回繰り返してもよい。即ち、前駆体シートに高圧液体噴射処理を行った後、更に前駆体シートを積層し、高圧液体噴射処理を行ってもよいし、出来つつある交絡構造前駆体シートを裏返し、反対側から、高圧液体噴射処理を行ってもよい。また、これらの操作を繰り返してもよい。
【0080】
交絡構造前駆体シートを連続的に製造する場合、1列または複数列のノズル孔を備える高圧液体噴射ノズルをシートの幅方向に振動させことにより、シート化方向にシートの疎密構造の形成に由来する筋状の軌跡パターンが形成されることを抑制することができる。シート化方向の筋状の軌跡パターンを抑制することにより、シート幅方向の機械的強度を発現することができる。また1列または複数列のノズル孔を備える高圧液体噴射ノズルを複数本使用する場合、高圧液体噴射ノズルをシートの幅方向に振動させる振動数、またその位相差を制御することにより交絡構造前駆体シートに現れる周期的な模様を抑制することもできる。
【0081】
次に、本発明では、加熱加圧工程(2)の前に、前駆体シートを樹脂(c)を含浸する工程(5)を含むことができる。この際、工程(1)、(2)および(3)は、前述した方法により実施される。この形態では、炭素短繊維(A)間および炭素短繊維(A)と網目状炭素繊維(B)間とを樹脂炭化物(C)で結着させることことができるため、多孔質電極基材のハンドリンク性が向上する。さらに、多孔質電極基材の厚み方向の導電性が向上する。以下に、樹脂含浸工程について詳しく説明する。
【0082】
<樹脂含浸工程(5)>
本発明においては、上述した炭素短繊維を含む前駆体シートに炭素化可能なを含浸し、加熱加圧により硬化し、次いで炭素化することにより燃料電池用多孔質電極基材とする。
【0083】
樹脂または樹脂と導電体の混合物を前駆体シートに含浸する方法としては、絞り装置を用いる方法もしくは樹脂フィルムを炭素シートに重ねる方法が好ましい。絞り装置を用いる方法は樹脂溶液もしくは混合液中に炭素シートを含浸し、絞り装置で取り込み液が炭素シート全体に均一に塗布されるようにし、液量は絞り装置のロール間隔を変えることで調節する方法である。比較的粘度が低い場合はスプレー法等も用いることができる。
【0084】
樹脂フィルムを用いる方法は、まず熱硬化性樹脂を離型紙に一旦コーティングし、熱硬化性樹脂フィルムとする。その後、炭素シートに前記フィルムを積層して加熱加圧処理を行い、熱硬化性樹脂を転写する方法である。
【0085】
次に、本発明では、加熱加圧工程(2)と炭素化処理工程(3)との間に、加熱加圧された前駆体シートを酸化処理する工程(6)を含むことができる。炭素短繊維(A)を、前駆体繊維(b)で良好に融着させ、かつ前駆体繊維(b)の炭素化率を向上させるという観点から、加熱加圧した前駆体シートを、酸化処理することが好ましい。以下に、酸化処理工程について詳しく説明する。
【0086】
<酸化処理する工程(6)>
酸化処理の温度は、炭素化率を向上させる観点から、200℃以上300℃未満とすることが好ましく、240℃以上290℃以下とすることがより好ましい。酸化処理の時間は、例えば1分間〜2時間とすることができる。酸化処理としては、加熱多孔板を用いた加圧直接加熱による連続酸化処理、または加熱ロール等を用いた間欠的な加圧直接加熱による連続酸化処理が、低コスト、かつ炭素短繊維(A)を前駆体繊維(b)で融着させることができるという点で好ましい。連続的に製造された前駆体シートを酸化処理する場合、前駆体シートの全長にわたって連続で酸化処理することが好ましい。これによって、炭素化処理を容易に連続して行なうことができる。
【0087】
<燃料電池に用いた際の短絡電流や反応ガスのクロスリークの抑制>
燃料電池に用いた際の短絡電流や反応ガスのクロスリークを抑制するためには、多孔質電極基材による電解質膜へのダメージを低減することが重要である。この電解質膜へのダメージは、多孔質電極基材中の炭素短繊維(A)や網目状炭素繊維(B)や樹脂炭化物(C)の脱落物の突き刺さりが原因となる。多孔質電極基材は燃料電池に組み込むときに反応ガスのシール性の確保とそれぞれの材料間での電気的な接触抵抗を低減することを目的として、0.5MPa〜3.5MPa程度の圧力で締結される。この圧力で多孔質電極基材中の炭素短繊維(A)や網目状炭素繊維(B)や樹脂炭化物(C)が破壊され、多孔質電極基材より脱落すると、電解質膜へ突き刺さり、短絡電流や反応ガスのクロスリークが発生し燃料電池の耐久性に大きな影響を与える。多孔質電極基材は繊維質からなる多孔質材料であるため、圧力を与えると繊維交点部分に大きな荷重が掛かることになる。この荷重による炭素短繊維(A)や網目状炭素繊維(B)や樹脂炭化物(C)の破壊を抑制するためには、繊維交点部分の面積を大きくすることと単位体積あたりの交点数を増やすことが必須となる。これを実現するためには、多孔質電極基材の嵩密度が0.30g/cm以上であることが好ましい。短絡電流を低減するという観点では多孔質電極基材の嵩密度は高ければ高いほどよいが、多孔質電極基材のガス拡散を考慮すると0.60g/cm以下であることが好ましい。
【0088】
また、電解質膜と接触する片方の面から厚さ30μm以内の多孔質電極基材中の炭素短繊維(A)や網目状炭素繊維(B)や樹脂炭化物(C)の脱落物は、電解質膜へのダメージの要因となるが、電解質膜と接触する片方の面から厚さ30μm以上の範囲での脱落物は多孔質基材である多孔質電極基材中に存在する状態となるため、燃料電池に組み込んだ際の締結圧においても電解質膜へのダメージの要因とはならない。
したがって、多孔質電極基材表面において結着が不十分な炭素短繊維や網目状炭素繊維および樹脂炭化物が十分に少なくし、燃料電池に組み込んだ際の締結圧において電解質膜へのダメージを低減するためには、多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上であることが好ましい。多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上であれば、多孔質電極基材全体がほぼ均一に嵩密度0.30g/cm以上であっても良く、多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上であれば、表面から厚さ30μm以上の嵩密度が0.30g/cm以下であってもよい。さらに、多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上であれば、表面から厚さ30μm以上の部分の嵩密度が、厚さ30μmまでの嵩密度以上であってもよい。
なお、多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度は、短絡電流を低減するという観点では多孔質電極基材の嵩密度は高ければ高いほどよいが、多孔質電極基材のガス拡散を考慮すると0.60g/cm以下であることが好ましい。
【0089】
多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上とする方法は特に限定されないが、前駆体シートを作製する際に、前駆体繊維(b)比率を大きくすること、樹脂(c)比率を大きくすること、加熱加圧工程での成型圧を大きくすることが好ましい。これらの方法は単一で用いることも、組み合わせて用いることも好ましい。
【0090】
多孔質電極基材の表面のうち少なくとも片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上とするために、前駆体繊維(b)比率を大きくすることのみを用いる場合は、少なくとも多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの部分の網目状炭素繊維(B)の含有率を30〜60質量%となるように前駆体繊維(b)比率を50質量%以上に制御することが好ましい。また、樹脂(c)比率を大きくすることのみを用いる場合は、少なくとも多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの部分の樹脂炭化物(C)の含有率を30〜60質量%となるように樹脂(c)比率を70質量%以上に制御することが好ましい。また、加熱加圧工程での成型圧を大きくすることのみを用いる場合は、少なくとも多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上となるように成型圧を制御することが好ましい。
【0091】
また、嵩密度が必要以上に大きくなるとガス拡散性低下などの問題が生じる可能性がある場合には、多孔質電極基材の厚み方向で、嵩密度を変化させることも好ましい。これらの方法も特に限定されないが、前駆シート中の前駆体繊維(b)の比率が変化するように、異なる繊維比率のシートを積層することや、樹脂(c)が偏在したシートを用いることなどが好ましい。
【0092】
異なる繊維比率のシートを積層する場合は、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上となるようにし、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の嵩密度が0.30g/cm以下となるようにすることで、多孔質電極基材のガス拡散性の低下を抑制することができる。多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上とするためには、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの部分の網目状炭素繊維(B)の含有率が30〜60質量%となるように前駆体繊維(b)比率を50質量%以上に制御することが好ましく、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の嵩密度が0.30g/cm以下となるようにするためには、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の網目状炭素繊維(B)の含有率が30質量%未満となるように前駆体繊維(b)比率を40質量%以下に制御することが好ましい。
【0093】
異なる繊維比率のシートを積層する方法は特に限定されないが、2枚以上の異なる繊維比率のシートを作製した後、加熱加圧工程や交絡処理工程で貼り合せる方法や、2種類以上の異なる繊維比率のスラリーを用意し漉き合わせる方法などを用いることができる。
【0094】
樹脂(c)が偏在したシートを用いる場合は、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上となるようにし、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の嵩密度が0.30g/cm以下となるようにすることで、多孔質電極基材のガス拡散性の低下を抑制することができる。多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上とするためには、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μmまでの部分の樹脂炭化物(C)の含有率が30〜60質量%となるように樹脂(c)比率を70質量%以上に制御することが好ましく、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の嵩密度が0.30g/cm以下となるようにするためには、多孔質電極基材中の片方の表面から厚さ30μm以上の部分の樹脂炭化物(C)の含有率が30質量%未満となるように樹脂(c)比率を60質量%以下に制御することが好ましい。
【0095】
樹脂(c)が偏在したシートを作製する方法も特に限定されないが、2枚以上の異なる樹脂比率のシートを作製した後、加熱加圧工程で貼り合せる方法や、スプレーコートやキスコートなどのシート片面から樹脂(c)を含浸させる方法や、厚み方向に繊維組成が変化するシートを用いることで、樹脂(c)を偏在させる方法などを用いることができる。
【0096】
<多孔質電極基材の嵩密度の測定方法>
本発明における多孔質電極基材の嵩密度の測定は、厚み方向に嵩密度に変化がないようにした多孔質電極基材の嵩密度は単位面積あたりの重量と多孔質電極基材の厚みより嵩密度を算出すればよい。厚み方向に嵩密度に変化がないので、こうして求めた嵩密度が表面から厚さ30μmまでの嵩密度となる。
【0097】
厚み方向に嵩密度に変化があるようにした多孔質電極基材の嵩密度は、断面試料作成装置(日本電子(株)製、商品名:クロスセクションポリッシャー)を用いて多孔質電極基材の断面を切断し、電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:走査型電子顕微鏡)により厚み方向の密度比率と厚み比率を測定し、単位面積あたりの重量と厚みより算出した全体の嵩密度を用いて、片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度を算出することができる。
【0098】
<短絡電流密度>
短絡電流密度は、燃料電池に両極間を短絡する電流密度であり、この値が大ききなると燃料電池外部に取り出せる電流密度、エネルギーが低下するだけでなく、局所的な熱の発生につながり燃料電池の耐久性に大きな影響を及ぼす。これを抑制するためには電解質膜の強度や厚みを増大させることも可能ではあるが、これに伴いプロトン伝導抵抗が増大するため、発電効率が低下してしまう。電解質膜の厚みにかかわらず、後述する短絡電流密度を0.1mA/cm以下、好ましくは0.08mA/cm以下とすることができる多孔質電極基材を用いることで燃料電池の耐久性、発電性能を高めることができる。
【0099】
<短絡電流密度の測定方法>
本発明においては、以下の実験条件にて短絡電流密度を測定する。
【0100】
(1)パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(ナフィオンNR211:デュポン(株):膜厚:25μm)の両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成した積層体を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合して燃料電池用膜−電極接合体(MEA)を得る。
【0101】
(2)前記MEAを、JARI標準セル付属の蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、面圧が1.0MPaとなるように締結し、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成する。
【0102】
(3)得られた単セルの両極に端子を接続し、デジタルマルチメーターTR6487(アドバンテスト社製)を使用して電極間の電位差は1.0Vとし、短絡電流密度を測定する。
【0103】
本発明においては、上記測定方法によるの短絡電流密度が0.1mA/cm以下である多孔質電極基材が好ましい。短絡電流密度は低ければ低いほどよい。短絡電流密度が大きいと燃料電池として取り出せる起電力が低下するだけでなく、耐久性が低下する。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。実施例中の各物性値等は以下の方法で測定した。「部」は「質量部」を意味する。
【0105】
〔短絡電流密度の測定方法〕
多孔質電極基材2組をカソード用、アノード用として用意した。またパーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(ナフィオンNR211:デュポン(株):膜厚:25μm)の両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成した積層体を用意した。この積層体を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合して燃料電池用膜−電極接合体(MEA)を得た。
【0106】
前記MEAを、JARI標準セル付属の蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、面圧が1.0MPaとなるように締結し、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成した。
【0107】
この単セルの両極に端子を接続し、デジタルマルチメーターTR6487(アドバンテスト社製)を使用し、電極間の電位差は1.0Vとし、短絡電流密度を測定した。
【0108】
〔片方の表面から厚さ30μm以内の嵩密度〕
厚み方向に嵩密度に変化がないようにした多孔質電極基材の嵩密度は単位面積あたりの重量と後述する厚みより嵩密度を算出した。
【0109】
厚み方向に嵩密度に変化がするようにした多孔質電極基材の嵩密度は、断面試料作成装置(日本電子(株)製、商品名:クロスセクションポリッシャー)を用いて多孔質電極基材の断面を切断し、電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:走査型電子顕微鏡)により厚み方向の密度比率と厚み比率を測定し、単位面積あたりの重量と後述する厚みより算出した全体の嵩密度を用いて、片方の表面から厚さ30μm以内の嵩密度を算出した。
【0110】
〔ガス透気度〕
JIS規格P−8117に準拠し、ガーレーデンソメーターを使用して200mLの空気が透過するのにかかった時間を測定し、ガス透気度(ml/hr/cm/mmAq)を算出した。
【0111】
〔厚み〕
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置ダイヤルシックネスゲージ((株)ミツトヨ製、商品名:7321)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
【0112】
〔貫通方向抵抗〕
多孔質電極基材の厚さ方向の電気抵抗(貫通方向抵抗)は、金メッキした銅板に多孔質電極基材を挟み、銅板の上下から1.0MPaで加圧し、10mA/cmの電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
【0113】
貫通方向抵抗(mΩ・cm)=測定抵抗値(mΩ)×試料面積(cm
〔網目状炭素繊維(B)の平均径〕
多孔質電極基材の表面の走査型電子顕微鏡写真から任意の50箇所における網目状炭素繊維(B)の直径を測定し、その平均値より算出した。
【0114】
〔網目状炭素繊維(B)の含有率〕
網目状炭素繊維(B)の含有率は、得られた多孔質電極基材の目付と使用した炭素短繊維(A)の目付から次式より算出した。
【0115】
網目状炭素繊維(B)の含有率(質量%)=[多孔質電極基材目付(g/m)−炭素短繊維(A)目付(g/m)]÷多孔質電極基材目付(g/m)×100
〔樹脂炭化物(C)の含有率〕
樹脂炭化物(C)の含有率は、得られた多孔質電極基材の目付と使用した炭素短繊維(A)の目付から次式または、用いた樹脂の炭素化率より算出した。
【0116】
樹脂炭化物(C)の含有率(質量%)=[多孔質電極基材目付(g/m)−炭素短繊維(A)目付(g/m)]÷多孔質電極基材目付(g/m)×100
〔実施例1〕
炭素短繊維として、長さ3mmにカットした平均直径7μmのPAN系炭素短繊維100質量部と、長さ3mmのポリビニルアルコール(PVA)繊維(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)を11質量部とを水中で分散し、連続的に金網上に抄造した後、乾燥して炭素繊維紙を得た。
【0117】
この炭素繊維紙100質量部に、フェノール樹脂(商品名:フェノライトJ−325、大日本インキ化学株式会社製)のメタノール溶液を含浸させ、室温でメタノールを十分に乾燥させ、フェノール樹脂の不揮発分を80質量部付着させたフェノール樹脂含浸炭素シートを得た。
【0118】
このフェノール樹脂含浸炭素シートを2枚重ねて、250℃の温度で10×10N/mの線力のロールプレスを行い、フェノール樹脂を硬化させた。その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中、1900℃で連続的に炭素化して、厚みが170μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。また、多孔質電極基材の樹脂炭化物(C)の含有率は32%であった。
【0119】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.05mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0120】
〔実施例2〕
フェノール樹脂の不揮発分を110質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、厚みが170μm、嵩密度が、0.35g/cmの炭素短繊維が樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.35g/cmである)。多孔質電極基材の樹脂炭化物(C)の含有率は41%であった。
【0121】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.04mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0122】
〔実施例3〕
フェノール樹脂の不揮発分を180質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、厚みが170μm、嵩密度が、0.44g/cmの炭素短繊維が樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.44g/cmである)。多孔質電極基材の樹脂炭化物(C)の含有率は53%であった。
【0123】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.02mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0124】
〔実施例4〕
炭素短繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意した。また、炭素繊維前駆体短繊維(b1)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状炭素前駆体繊維(b2−2)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.−C651、平均繊維長:3mm)を用意した。この炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状炭素前駆体繊維(b2−2)とが、質量比40:30:30に調製し、連続的に平織メッシュ上に抄造した。この抄造したシートに下記の3本のウォータージェットノズルを備えた加圧水流噴射処理装置を用いて交絡処理した後、乾燥して交絡シートを得た。
【0125】
ノズル1:孔径φ0.15mm、501孔、幅方向の孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)、1列配置、ノズル有効幅500mm。
【0126】
ノズル2:孔径φ0.15mm、501孔、幅方向の孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)、1列配置、ノズル有効幅500mm。
【0127】
ノズル3:孔径φ0.15mm、1002孔、幅方向の孔間ピッチ1.5mm、3列配置、列間ピッチ5mm、ノズル有効幅500mm。
【0128】
それぞれの加圧水流噴射圧力を2MPa(ノズル1)、3MPa(ノズル2)、2MPa(ノズル3)とした。
【0129】
次に、この前駆体シートの両面を、シリコーン系離型剤をコートした紙で挟んだ後、200℃の温度で10×10N/mの線力のロールプレスを行い、加圧加熱成型した。
【0130】
その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中、1900℃で連続的に炭素化して、厚みが150μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の目状炭素繊維(B)の含有率は31%であった。
【0131】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.07mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0132】
〔実施例5〕
炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状炭素前駆体繊維(b2−2)とが、質量比35:35:30に調製したこと以外は実施例4と同様にして、厚みが130μm、嵩密度が、0.34g/cmの炭素短繊維が樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.34g/cmである)。多孔質電極基材の樹脂炭化物(C)の含有率は36%であった。
【0133】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.05mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0134】
〔実施例6〕
フィブリル状炭素前駆体繊維(b2−1)として、噴射凝固によって製造した繊維状の幹より直径3μm以下のフィブリルが多数分岐したポリアクリロニトリル系パルプを用いた以外は実施例4と同様にして、厚みが150μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)の含有率は31%であった。
【0135】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.06mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0136】
〔実施例7〕
加圧水流噴射による交絡処理を実施しなかったこと以外は実施例6と同様にして、厚みが150μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)の含有率は31%であった。
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.05mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0137】
〔実施例8〕
炭素化処理工程の前に、加圧加熱成型した前駆体シートを大気中280℃、1分間酸化処理したこと以外は実施例6と同様にして、厚みが150μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)の含有率は31%であった。
【0138】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.05mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0139】
〔実施例9〕
炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状炭素前駆体繊維(b2−2)とが、質量比60:20:20に調製したこと以外は実施例4と同様にして、交絡シートを得た。この交絡シート100質量部に、水分散フェノール樹脂(商品名:PR−55464、住友ベークライト(株)製)を含浸させ、室温で十分に乾燥させ、フェノール樹脂の不揮発分を60質量部付着させたフェノール樹脂含浸シートを得た。
【0140】
このフェノール樹脂含浸シートを、250℃の温度で10×10N/mの線力のロールプレスを行い、フェノール樹脂を硬化させた。その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中、1900℃で連続的に炭素化して、厚みが150μm、嵩密度が、0.32g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維および樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.32g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)および樹脂炭化物(C)の含有率はそれぞれ、13%と25%であった。
【0141】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.03mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0142】
〔実施例10〕
フェノール樹脂の不揮発分を100質量部付着させたこと以外は実施例9と同様にして、厚みが150μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維および樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)および樹脂炭化物(C)の含有率はそれぞれ、10%と36%であった。
【0143】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.02mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0144】
〔実施例11〕
線力を13×10N/mとしたこと以外は実施例9と同様にして、厚みが140μm、嵩密度が、0.31g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維および樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.31g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)および樹脂炭化物(C)の含有率はそれぞれ、13%と25%であった。
【0145】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.03mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0146】
〔実施例12〕
炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b1)およびフィブリル状炭素前駆体繊維(b2−2)とが、質量比60:20:20に調製し、目付を実施例9の半分としたシートを2枚得たこと以外は実施例9と同様にして、交絡シートを得た。この交絡シート100質量部に、水分散フェノール樹脂(商品名:PR-55464、住友ベークライト(株)製)を含浸させ、室温で十分に乾燥させ、フェノール樹脂の不揮発分をそれぞれ40、80質量部付着させたフェノール樹脂含浸シートを2枚得た。
【0147】
このフェノール樹脂含浸シートを2枚重ねあわせ、250℃の温度で10×10N/mの線力のロールプレスを行い、フェノール樹脂を硬化させた。その後、不活性ガス(窒素)雰囲気中、1900℃で連続的に炭素化して、厚みが150μm、多孔質電極基材全体の嵩密度が、0.32g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維および樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た。断面観察より片方の表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.37g/cmであった。網目状炭素繊維(B)および樹脂炭化物(C)の含有率はそれぞれ、13%と25%であった。
【0148】
得られた多孔質電極基材の短絡電流密度は0.02mA/cmと低く、良好な特性を示した。またガス透気度、貫通方向抵抗もそれぞれ良好であった。評価結果を表1に示した。
【0149】
〔比較例1〕
フェノール樹脂の不揮発分を60質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、厚みが170μm、嵩密度が、0.28g/cmの炭素短繊維が樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.28g/cmである)。多孔質電極基材の樹脂炭化物(C)の含有率は27%であった。
【0150】
得られた多孔質電極基材のガス透気度、貫通方向抵抗はそれぞれ良好であったが、短絡電流密度は0.11mA/cmと高くなった。評価結果を表1に示した。
【0151】
〔比較例2〕
フェノール樹脂の含浸しなかった以外は実施例9と同様にして、厚みが170μm、嵩密度が、0.27g/cmの炭素短繊維が網目状炭素繊維で結着した多孔質電極基材を得た(得られた多孔質電極基材は厚み方向に嵩密度の変化がなく、表面から厚さ30μmまでの嵩密度は0.27g/cmである)。多孔質電極基材の網目状炭素繊維(B)の含有率は17%であった。
【0152】
得られた多孔質電極基材のガス透気度、貫通方向抵抗はそれぞれ良好であったが、短絡電流密度は0.15mA/cmと高くなった。評価結果を表1に示した。
【0153】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素短繊維を網目状炭素繊維及び/又は樹脂炭化物で結着した多孔質電極基材であって、前記多孔質電極基材の少なくとも片方の面において、表面から厚さ30μmまでの嵩密度が0.30g/cm以上である多孔質電極基材。
【請求項2】
以下の実験条件にて測定した短絡電流密度が0.1mA/cm以下である多孔質電極基材。
<実験条件>
(1)パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質膜(ナフィオンNR211:デュポン(株):膜厚:25μm)の両面に触媒担持カーボン(触媒:Pt、触媒担持量:50質量%)からなる触媒層(触媒層面積:25cm、Pt付着量:0.3mg/cm)を形成した積層体を、カソード用、アノード用の多孔質電極基材で挟持し、これらを接合して燃料電池用膜−電極接合体(MEA)を得る。
(2)前記MEAを、JARI標準セル付属の蛇腹状のガス流路を有する2枚のカーボンセパレーターによって挟み、面圧が1.0MPaとなるように締結し、固体高分子型燃料電池(単セル)を形成する。
(3)得られた単セルの両極に端子を接続し、デジタルマルチメーターTR6487(アドバンテスト社製)を使用して電極間の電位差は1.0Vとし、短絡電流密度を測定する。

【公開番号】特開2013−20842(P2013−20842A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153884(P2011−153884)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】