説明

多官能リビングラジカル重合開始剤および重合体の製造方法

【課題】 高分子量にいたる領域まで精密な分子量及び分子量分布(PD=Mw/Mn)の制御を可能とし、種々のブロックポリマー、アーム型ポリマー、両末端に反応性基を有するリビングラジカルポリマーを効率よく製造する方法を提供する。また、上記ポリマーを製造するためのリビングラジカル重合開始剤を提供する。
【解決手段】 特定構造を有するテルル含有化合物からなる多官能リビングラジカル重合開始剤を使用することにより、課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルル原子を含有する化合物からなる多官能リビングラジカル重合開始剤、および該重合開始剤を使用するビニル重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合は、その簡便性、経済性から工業的によく利用されているが、その活性種が中性であり停止反応を制御できないため分子量分布や分子構造をよくデザインされた高分子を合成することが難しいという欠点を有していた。一方、近年、ラジカル重合においても末端の活性種が生き続けて生長するというリビングラジカル重合法が開発された。エッジオ・リザルドらにより安定なニトロオキサイドラジカルをもちいたリビングラジカル方法が初めて報告された(特許文献1)。また、マイケルジョージスらによってTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニロキシ)を開始剤として用いたリビングラジカル重合法が報告されている(特許文献2)。これらの方法は、ラジカル重合にリビング性をもたらしたという意味では画期的方法であったが、重合できるモノマーは限定的であった。また分子量分布も汎用のラジカル重合法に比べては分布が狭いが十分なものではなかった。
【0003】
有機ハロゲン化物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする「原子移動ラジカル重合」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)がMatyjaszewskiらによって1995年に報告された。(特許文献3、4)。この方法は、得られたリビングポリマーの末端に官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を有し、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法として優れている。しかし、遷移金属による着色が著しく濃く、安全性の面からも金属を取り除く必要があり高コストになる。また、カルボン酸等の酸性化合物存在下では重合できない欠点を有する。
【0004】
特許文献5には、β置換ニトロキシキシラジカルによるリビング重合方法が報告されている。この方法ではアクリレートなどもリビング重合でき、TEMPO(特許文献2)より使用できるモノマー範囲が広がっている。例えばアクリル酸等も重合できる。しかしながら、分子量分布は、まだ十分に狭くなく満足できるものではない。また、メタクリレート類のモノマーは重合可能ではあるが、リビング重合といえる制御はできないという欠点を有し、十分に制御された種々のブロック共重合体や末端反応性を有するポリマーを合成するには困難がある。
【0005】
特許文献6には、テルル金属を用いた開始剤を使用するリビング重合が報告されている。この方法ではモノマーの選択範囲が広く、スチレン、様々な(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ビニルピロリドン等多くのビニルモノマーをリビング重合できる点で優れている。しかしながら、特許文献に開示された開始剤は1官能のものであり、ABA型、ABCBA型等のブロックポリマーを合成する際、一方向から生長させる必要があり、製造工程が多くなるばかりでなく、モノマーの順番に制限を受けたり、反応時間が長くなり失活成分が多くなることにより、分子量分布が広がりやすい等の欠点を有する。さらに、硬化性の樹脂に有用である両末端に反応性基を有するテレケリックポリマーの合成等も1官能開始剤では困難である。また、星型ポリマー等の複数本のアームを有するポリマーの合成も困難である欠点を有していた。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−89452号公報
【特許文献2】特開平6−199916号公報
【特許文献3】特表2000−500516号公報
【特許文献4】特表2000−514479号公報
【特許文献5】特表平9−511786号公報
【特許文献6】再公表04−14848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高分子量にいたる領域まで精密な分子量及び分子量分布(PD=Mw/Mn)の制御を可能とし、種々のブロックポリマー、アーム型ポリマー、両末端に反応性基を有するポリマーを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
式(1)、(2)、(3)で表される多官能型の有機テルル化合物からなるラジカル重合開始剤を用いてビニルモノマーを重合させることにより上記課題を達成した。
【発明の効果】
【0009】
ビニルモノマーを温和な条件下で重合させ、高分子量にいたる領域まで精密な分子量及び分子量分布(PD=Mw/Mn)の制御を可能とし、種々のブロックポリマー、アーム型ポリマー、両末端に反応性基を有するポリマーを効率よく製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多官能リビングラジカル重合開始剤は、下記の式(1)、(2)または(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなるものである。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)において、R1およびR2はそれぞれ独立に炭素数1〜18のアルキル基またはフェニル基を意味し、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を意味し、R7は2価の有機基を意味し、X1およびX2はそれぞれ独立に酸素原子または−NZ−を意味し、Nは窒素原子を意味し、Zは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を意味し、Teはテルル原子を意味する。
【0013】
【化2】

【0014】
式(2)において、R1、R2およびR10はそれぞれ独立に炭素数1〜18のアルキル基またはフェニル基を意味し、R3、R4、R5、R6、R8およびR9はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を意味し、R7は3価の有機基を意味し、X1、X2およびX3はそれぞれ独立に酸素原子または−NZ−を意味し、Nは窒素原子を意味し、Zは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を意味し、Teはテルル原子を意味する。
【0015】
【化3】

【0016】
式(3)において、R1、R2、R10およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜18のアルキル基またはフェニル基を意味し、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R11およびR12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を意味し、R7は4価の有機基を意味し、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に酸素原子または−NZ−を意味し、Nは窒素原子を意味し、Zは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又はフェニル基を意味し、Teはテルル原子を意味する。
【0017】
式(1)で示されるテルル含有化合物は、たとえば次のように合成される。まず、式(4)、式(5)、式(6)の化合物を反応させ、式(7)の化合物を合成する。アルキルリチウムと金属テルルを反応させることにより式(8)で表される化合物を合成する。式(8)で表される化合物と式(7)で表される化合物を反応させることによって式(1)で表される化合物を製造することが出来る。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
式(4)、(5)、(6)および(7)においてR3、R4、R6、及びR7は、式(1)と同じである。Yは、ハロゲン原子を示す。
【0023】
【化8】

【0024】
式(8)において、Rは式(1)のR1、R2と同じ意味である。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、Teはテルル金属を意味する。
【0025】
Yで示される基としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素等のハロゲン原子を挙げることができる。好ましくは、塩素、臭素が良い。
式(4)、(5)の具体的な化合物としては、2−ブロモ−2−メチルプロピオン酸ブロマイド、2−クロロ−2−メチルプロピオン酸クロライド等を挙げることができる。
式(6)の化合物はOH基を2つ有するものであればどれでもよいが、具体的化合物例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルキレングリコール、シクロアルカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のシクロアルカンジアルキルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール等が挙げられる。
上記、式(8)で用いられるRMは、具体的にはメチルリチウム、ブチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。
【0026】
式(2)で示されるテルル含有化合物は、たとえば次のように合成される。
まず、式(4)、式(5)、式(9)、式(10)の化合物を反応させ、式(11)の化合物を合成する。アルキルリチウムと金属テルルを反応させることにより式(12)を合成し、式(12)と式(11)を反応させることによって式(2)を製造することが出来る。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
式(9)、(10)および(11)において、R3、R4、R5、R6、R8、R9及びR7は、式(2)と同じ意味である。Yはハロゲン原子を意味する。
【0031】
【化12】

【0032】
式(12)において、Rは式(2)のR1、R2、R10と同じ意味である。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、Teはテルル金属を意味する。
【0033】
式(3)で示されるテルル含有化合物は、たとえば次のように合成される。
まず、式(4)、式(5)、式(9)、式(13)、式(14)の化合物を反応させ、式(15)の化合物を合成する。アルキルリチウムと金属テルルを反応させることにより式(16)を合成し、式(15)と式(16)を反応させることによって式(3)を製造することが出来る。
【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
式(13)、(14)および(15)において、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R11、R12及びR7は、式(3)と同じ意味である。Yはハロゲンを意味する。
【0038】
【化16】

【0039】
式(16)において、Rは式(3)のR1、R2、R10、R13と同じ意味である。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、Teはテルル金属を意味する。
【0040】
テルル含有化合物の製造方法について具体例を挙げて説明する。例として式(1)について記載する。
式(4)、(5)をTHF溶媒に溶解し、トリエチルアミン存在下、式(6)のジオールを添加する。使用できる溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラハイドロフラン(THF)等の極性溶媒やトルエン、キシレン等の芳香族溶媒、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ジアルキルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。溶媒の使用量としては適宜調節すればよい。反応時間は、反応温度や圧力により異なるが、通常5分〜24時間、好ましくは、10分〜12時間が良い。より好ましくは15分〜6時間がよい。反応温度としては、−20℃〜100℃がよい。好ましくは−10℃〜80℃、より好ましくは−5℃〜50℃がよい。圧力は、通常、常圧で行うが、加圧或いは減圧しても構わない。合成した式(7)をシリカゲルカラムで精製したのち再結晶で精製する。しかし、精製方法は精製ができれば特に問わない。
【0041】
次に窒素雰囲気下、金属テルルを溶媒THFに懸濁させて氷浴で冷却する。そこへアルキルリチウムエーテル溶液をゆっくり添加する。反応液は黒褐色から緑黄色の均一溶液に変化する。滴下終了後、氷浴をはずして室温で攪拌し、再び氷浴で冷却して、式(7)のTHF溶液をゆっくり加える。添加終了後、氷浴をはずして、室温で1-24時間攪拌する。合成された式(1)の化合物は、窒素雰囲気下、水洗精製したあと脱水、減圧乾燥を経て回収される。式(2)、式(3)の化合物も同様に製造できる。
【0042】
本発明で使用するビニルモノマーとしては、ラジカル重合可能なものであれば特に制限はないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸セカンダリーブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸ネオペンチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル等のアクリル酸アルキルエステル。アクリル酸グリシジル、アクリル酸アルコキシアルキル、アクリル酸ヒドロキシアルキル、アクリル酸ポリアルキレングリコール、アクリル酸ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル、アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン等のアクリル酸エステル。メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等のメタクリル酸アルキルエステル。メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アルコキシアルキル、メタクリル酸ヒドロキシアルキル、メタクリル酸ポリアルキレングリコール、メタクリル酸ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル、メタクリル酸ジアルキルアミノアルキル、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン等のメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0043】
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸等メチル等のカルボキシル基含有不飽和モノマー、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸のモノエステルおよびジエステル、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の3級アミン含有不飽和モノマー、N−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、N−メタクリロイルアミノエチル−N,N,N−ジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有不飽和モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、2−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレン、ジビニルベンゼンp−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等の芳香族不飽和モノマー(スチレン系モノマー)、2−ビニルチオフェン、N−メチル−2−ビニルピロール等のヘテロ環含有不飽和モノマー、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のビニルアミド、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等のα−オレフィン、ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン等のジエン、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン等のカルボニル基含有不飽和モノマー、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、(メタ)アリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー、塩化ビニル等を挙げることができる。
【0044】
この中でも好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、3級アミン含有不飽和モノマー、芳香族不飽和モノマー(スチレン系モノマー)、カルボニル基含有不飽和モノマー、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドが良い。特に好ましくは、メタアクリル酸エステルモノマー、芳香族不飽和モノマー(スチレン系モノマー)、カルボニル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド系モノマーが良い。
【0045】
好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル〔2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート〕が挙げられる。特に好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチルが良い。この中でも、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸プロピル、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル〔2−ヒドロキシエチルメタアクリレート〕が好ましい。好ましい3級アミン含有不飽和モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
好ましいスチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、p−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられる。特に好ましくは、スチレン、p−メトキシスチレン、p−クロロスチレンが良い。
【0046】
尚、上記の「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の総称である。また、多官能のビニルモノマーを使用してもよい。例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートやジビニルベンゼンが挙げられる。
【0047】
本発明は、式(1)、(2)、(3)で表されるテルル含有化合物からなる多官能リビングラジカル重合開始剤を用いて、ビニルモノマーを重合することを特徴とするリビングラジカルポリマーの製造方法、及びそれより得られるリビングラジカルポリマーを含む。式(1)、(2)、(3)で表されるテルル含有化合物は1種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明で使用するリビングラジカル重合開始剤式(1)、(2)、(3)の、R1、R2、R10、R13で示される基は、炭素数1〜18(C1〜C18)のアルキル基、フェニル基であり、具体的には次の通りである。
1〜C18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、、n−ラウリル基、、n−ステアリル基等の炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。好ましいアルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基が良い。
3、R4、R8、R11、R5、R6、R9、R12で示される各基は、水素、炭素数1〜2(C1〜C2)のアルキル基である。R7で示される基は多価の有機基であり、X1、X2、X3およびX4をつなぐものであればなんでもよい。式(1)においてR7は2価の有機基を意味し、式(2)においてR7は3価の有機基を意味し、式(3)においてR7は4価の有機基を意味する。式(1)におけるR7としては例えば、C1〜C18のアルキレン基(アルカンから水素原子2個が取り除かれた基)、シクロアルキレン基(シクロアルカンから水素原子2個が取り除かれた基)、シクロアルキルジアルキレン基(ジアルキルシクロアルカンから水素原子2個が取り除かれた基)が挙げられる。また、R7はポリアルキレングリコール骨格、ポリエステル骨格、ポリブタジエン骨格、水添ポリブタジエン骨格、ビスフェノール骨格などを含んでいてもよい。さらに水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。式(1)におけるR7として特に好ましいのはエチレン基(ジメチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基)、ヘキシレン基(ヘキサメチレン基)である。
1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立にO(酸素原子)又はNZである(Nは窒素原子)。Zは、水素原子、炭素数1〜8(C1〜C8)のアルキル基又はフェニル基である。特に好ましくはOである。
【0048】
本発明のリビングラジカルポリマーの製造方法について、詳細に説明する。
不活性ガスで置換した容器で、ビニルモノマーと式(1)で示される多官能リビングラジカル重合開始剤とラジカル重合開始剤を混合する。次に、上記混合物を撹拌しながら適切な温度で重合する。反応温度、反応時間は、得られるリビングラジカルポリマーの分子量或いは分子量分布やモノマー等により適宜選択されればよいが、通常、反応温度は30〜180℃、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜120℃、最も好ましくは60℃から100℃がよい。反応温度が30℃より低いと反応時間がかかりすぎ、生産効率が悪くなる。また、開始反応が遅いことから分子量分布が広くなる。反応温度が180℃より高いと重合が制御できなくなり、分子量分布が広くなったり、2分子停止反応や連鎖移動反応や切断反応が起こり、末端が失活したポリマーを多く生成しリビング重合性を失う。反応時間は0.5〜100時間撹拌するのが良い。より好ましくは1〜50時間、さらに好ましくは2〜20時間がよい。反応時間が0.5時間より短いと、反応が完結せず分子量をコントロールできない。また、重合時間が100時間より長いと2分子停止反応や連鎖移動反応等の停止反応が起こり、生長末端のリビング重合性が失われる。重合時の圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧或いは減圧しても構わない。
【0049】
反応終了後、常法により使用溶媒や残存モノマーを減圧下除去して目的ポリマーを取り出したり、目的ポリマー不溶溶媒を使用して再沈澱処理により目的物を単離する。また、残存モノマーを重合反応で消費し、そのまま製品として使用することもできる。反応処理については、目的物に支障がなければどのような処理方法でも行う事が出来る。上記重合は、無溶媒でも行うが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒を使用しても構わない。使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン、アルコール類等が挙げられる。また、水性溶媒も使用でき、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。また、上記溶媒を複数混合してもよい。溶媒の使用量としては適宜調節すればよいが、例えば、ビニルモノマー100質量部に対して、溶媒を1〜1000質量部、好ましくは、5〜200質量部、特に好ましくは10〜100質量部がよい。溶媒量が多いと溶媒への連鎖移動反応や2分子停止反応がおこり生長末端の活性が失われる。溶媒を使用しなくても反応自体に問題はないが、粘度が高すぎて攪拌できなくなる等の問題が生じる。
【0050】
上述の不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素が良い。多官能リビングラジカル重合開始剤は酸素で失活するので系内は十分に不活性ガスで置換されるのがよい。その方法は十分に原料および重合反応器内が不活性ガスで置換される方法であればなんでもよい。例えば、バブリング法や減圧-置換の繰り返しなどがあげられる。
【0051】
ビニルモノマーと式(1)で示される多官能リビングラジカル重合開始剤の使用量としては、得られるリビングラジカルポリマーの分子量或いは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、式(1)で示される多官能リビングラジカル重合開始剤1molに対して、ビニルモノマーを5〜10,000mol、好ましくは30〜5,000molとするのが良い。より好ましくは50〜500がよい。10000molより多いと2分子停止反応が生じリビング末端が失活する。5molより少ないと分子量分布が広がる欠点がある。
【0052】
上記リビング重合では、式(1)、式(2)または式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる多官能リビングラジカル重合開始剤以外のラジカル重合開始剤を併用するのが好ましいが、使用しなくてもよい。使用しない場合は反応温度を高く設定する必要があり、反応時間も長くなる。ラジカル重合開始剤は、一般のラジカル発生剤であればなんでもいが、炭素ラジカルを発生させるものが好ましい。酸素ラジカルは活性末端を失活させる。具体的にはアゾ系の開始剤が好ましい。例えば2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0053】
これらのアゾ開始剤は反応温度や反応溶媒に応じて適宜選択するのが好ましい。反応温度が低ければ、低温分解のアゾ開始剤、反応温度が高温であれば高温分解型のアゾ開始剤が好ましい。また重合系が有機溶媒であれば油溶性アゾ開始剤、水系であれば水溶性開始剤を選択するのがよいがこの限りではない。
【0054】
本発明のリビングラジカルポリマーの製造プロセスは、安全にポリマーを製造できればどんなプロセスでもよく、バッチプロセス(回分式)でも連続プロセスでもどちらでもよい。バッチプロセスでは反応速度が速い場合は温度を制御しやすくするためにモノマーをフィードするセミバッチプロセスがより好ましい。連続式では管式、塔式、連続攪拌槽式(CSTR)およびそれらを組み合わせたものでもよい。好ましいのは管式、塔式が分子量分布、組成分布を狭くでき好ましい。
【0055】
重合するビニルモノマーは複数使用することができる。例えば、2種以上のビニルモノマーを同時に反応させるとランダム共重合体を得ることができる。該ランダム共重合体は、モノマーの種類に関係なく、反応させるモノマーの比率(モル比)通りのポリマーを得ることができる。ビニルモノマーAとビニルモノマーBを同時に反応させランダム共重合体を得るとほぼ原料比(モル比)通りのものを得ることができる。また、2種のビニルモノマーを順次反応させるとブロック共重合体を得ることができる。該ブロック共重合体は、モノマーの種類に関係なく、反応させるモノマーの順番によるポリマーを得ることができる。ビニルモノマーAとビニルモノマーBを順番に反応させブロック共重合体を得ると、反応させる順番によりB−A−Bのものも、A−B−Aのものを得ることができる。特許文献6にある単官能開始剤ではトリブロック以上のブロック共重合体を得るためには、ビニルモノマーAを反応させ、反応を完結又はモノマー除去を行い、次にビニルモノマーBを反応させ、反応を完結又はモノマー除去を行い、さらにビニルモノマーAを順番に反応させる必要がある。この方法では、工程が多くかつ長くなり、同分子量のトリブロック共重合を得るためには、本発明の多官能リビング重合開始剤の2倍以上の反応時間を要し、2分子停止反応等の副反応を起こし分子量分布は広くなる。また、例えばモノマーAがリビング性が乏しいものの場合、単官能リビング重合開始剤の場合、A−B−A,B−A−Bのトリブロック共重合体の合成は難しい。一方、多官能リビング重合開始剤の場合、A−B−Aのトリブロック共重合体の合成は可能である。式(1)の2官能開始剤ではトリブロック共重合体をはじめとする直鎖の(2(n−1)+1)ブロック共重合体、式(2)の3官能開始剤では3本アームのテトラブロック共重合体、(3(n−1)+1) ブロック共重合体、式(3)の4官能開始剤では4本アームのペンタブロック共重合体、(4(n−1)+1) ブロック共重合体を得ることが出来る。
【0056】
請求項3などに記載されている第1工程、第2工程、・・・、第n工程において重合に供されるビニルモノマーは、それぞれ1種であっても2種以上であってもよい。
【0057】
本発明の多官能リビング重合開始剤をもちいれば、末端官能基を有する末端反応性ポリマーを合成できる。特許文献6の単官能リビング重合開始剤では、片末端にしか反応性基を導入できず、反対側の末端には官能基が導入されない。反応させても一方のみ反応するだけで架橋構造はとれない。式(1)の2官能リビング開始剤を用いれば両末端に反応性基を持ったテレケリックポリマーを合成することが出来、架橋、硬化させて使用した場合、高強度で高伸びの靭性の高い架橋を得ることが出来る。式(2)、式(3)の開始剤を使用した場合でも末端への反応性を導入すれば、全末端が反応し強靭な硬化物が得られる。また、ブロック共重合体の末端に反応性基を入れることも出来る。
【0058】
反応性基の導入方法は、様々な方法があり何でもよい。例えば。重合後、アルキルリチウムで末端をアニオン化した後、2酸化炭素を反応させると末端にカルボン酸を導入できる。また、2酸化炭素の代わりにエポキシ基、グリシジル基を反応させ、水でクエンチするとOH基が導入できる。また、Te末端に酸素を反応させるとOH基が導入される。
導入する反応性基としては、COOH基、OH基、アミノ基、イミン基、アミン期、グリシジル基、オキセタン基、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシアルキルシリル基、モノアルコキシジアルキルシリル基、イソシアネート基、オキサゾリン基、不飽和結合基等がある。
【0059】
本発明のリビングラジカル重合開始剤は、優れた分子量制御及び分子量分布制御を非常に温和な条件下で行うことができる。
本発明で得られるリビングラジカルポリマーの分子量は、反応時間、リビングラジカル重合開始剤の量、反応させるビニルモノマー量により調整可能であるが、数平均分子量500〜1,000,000のリビングラジカルポリマーを得ることができる。特に数平均分子量1,000〜500,000のリビングラジカルポリマー、更には数平均分子量2,000〜50,000のリビングラジカルポリマーを得るのに好適である。
本発明で得られるリビングラジカルポリマーの分子量分布(PD=Mw/Mn)は、1.05〜1.50の間で制御される。更に、分子量分布1.05〜1.30、更には1.05〜1.20、更には1.05〜1.15のより狭いリビングラジカルポリマーを得ることができる。
【0060】
特開2006−299278に開示されているように、モノマーの種類、条件によってはリビング制御できない場合がある。式(17)で表される化合物を併用するとリビング重合性は増大する。しかし、十分にリビング重合可能なモノマーにとっては重合速度を極端に遅くする欠点も有する。本多官能開始剤を用いたリビング重合にも式(17)の化合物を併用してもよい。例えば、併用したほうがよいモノマーとしてはメタクリレートが挙げられる。一方、アクリレートやスチレンの場合重合速度を極端に遅くする。
(R’Te)2 (17)
【0061】
例えば、メタクリレート−アクリレート−メタクリレートのトリブロック共重合体を合成する場合、メタクリレートの重合時に式(17)の化合物を用いると、単官能リビング重合開始剤では、アクリレート重合時に多大な時間を要する。しかし、本発明の式(1)の化合物を用いれば、1段目でアクリレート、2段目で式(17)の化合物存在下でメタクリレートを反応させれば、反応時間は短くトリブロックポリマーを合成できる。
【0062】
本発明で使用する式(17)で表される化合物は、次の通りである。
好ましい式(17)で示される化合物としては、R’がC1〜C4のアルキル基、フェニル基が良い。式(17)で示される化合物は、具体的には、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−sec−ブチルジテルリド、ジ−tert−ブチルテルリド、ジシクロブチルテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等が挙げられる。好ましくは、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジフェニルジテルリドが良い。特に好ましくは、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリドが良い。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが何らこれらに限定されるものではない。また、実施例及び合成例は以下の方法で行った。
合成例1:ブタンジオール−ビス(2−メチル−2−ブロモプロピオネート)の合成
メカニカルスターラー、100ml滴下漏斗を備えた1Lの4口フラスコに、窒素雰囲気下、1,4−ブタンジオール9.01gを含むジクロロメタン500ml溶液にトリエチルアミン42mlを加えて0℃に冷却した。この溶液に2−メチル−2−ブロモプロピオン酸ブロマイド50gを約20分かけて10℃以下を保ちながら滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌した。再び氷浴で冷却して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加えて反応を停止した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液400mlを加えて分液漏斗へ移し、有機層を抽出、更にジクロロメタン100mlで2回、抽出した。有機層は蒸留水500ml、飽和食塩水500mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過、溶媒を減圧留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)にて精製、更にヘキサンから再結晶することによって、1,4−ブタンジオール−ビス(ブロモイソブチレート)のうろこ状の結晶を26.1g(収率67%)得た。
【0064】
合成例2:ブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)の合成
窒素雰囲気下、マグネチックスターラー、100ml滴下漏斗を備えた300mlの4口フラスコに金属テルル(Aldrich Tellrium Powder −30mesh 99.997%) 5.72gにTHF(和光純薬 脱水グレード)を加えて懸濁させて、氷浴で冷却した。滴下漏斗からメチルリチウムエーテル溶液(関東化学 1.09M) 45.9mlを30分かけて滴下した。反応液は黒褐色から緑黄色の均一溶液に変化した。滴下終了後、氷浴をはずして、室温で30分攪拌した。再び氷浴で冷却して、滴下漏斗からブタンジオール−ビス(2−メチル−2−ブロモプロピオネート) 8.73gを含むTHF溶液 5mlを30分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴をはずして、室温で3時間攪拌した。この反応溶液を水洗、濾過し、溶媒を減圧留去しブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)を得た。濃縮後、キャヌラを用いて25mlナスフラスコに移送して、9.23g(収率80%)目的物を得た。
IR、HRMS、1H−NMR、13C−NMRによりブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)であることを確認した。1H−NMRスペクトルチャートを図1に示した。式(18)は、1H−NMRスペクトル(CDCl3中)の帰属を表示したものである。
【0065】
【化17】

【0066】
式(18)で表される、合成例2で得られたブタンジオ−ル−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)の化学シフトは以下のとおりである。
δ(CDCl3中)
c: 4.18−4.05(4H,OCH2
a: 2.14(6H,TeCH3
b+d: 1.74(16H,C(CH3)、CH2
【0067】
実施例1
50mlの2つ口フラスコにトリフルオロメチルベンゼン8.0g、ブチルアクリレート10.2g、アゾイソバレロニトリル(AIVN) 0.16gをとり混合し、アルゴンガス雰囲気にする。合成例2で製造したブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)0.217gをシリンジで添加する。オイルバスに浸し、反応液温が60℃になるようにバス温度を調整し6時間反応させた。反応終了後、ガスクロマトグラフ(GC)で残存するブチルアクリレートを測定し反応率を計算した。反応率は98.7%であった。ついでポリマーをヘキサンで沈殿精製し乾燥し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で分子量を測定した。理論Mn23700に対し、Mw=26700、Mn=22700、Mw/Mn=1.17と分子量分布の狭い2官能リビングポリマーが得られた。
【0068】
実施例2
50mlの2つ口フラスコにトリフルオロメチルベンゼン8.0g、メチルアクリレート6.9g、アゾイソバレロニトリル(AIVN) 0.16gをとり混合し、アルゴンガス雰囲気にする。合成例2で製造したブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)0.283gをシリンジで添加する。オイルバスに浸し、反応液温が60℃になるようにバス温度を調整し7時間反応させた。反応終了後、GCで残存するブチルアクリレートを測定し反応率を計算した。反応率は99.3%であった。ついでポリマーをヘキサンで沈殿精製し乾燥し、GPCで分子量を測定した。理論Mn12500に対し、Mw=11200、Mn=9490、Mw/Mn=1.18と分子量分布の狭い2官能リビングポリマーが得られた。
【0069】
実施例3
50mlの2つ口フラスコにトリフルオロメチルベンゼン8.0g、ブチルアクリレート7.0g、アゾイソバレロニトリル(AIVN) 0.15gをとり混合し、アルゴンガス雰囲気にする。合成例2で製造したブタンジオール−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)0.290gをシリンジで添加する。オイルバスに浸し、反応液温が60℃になるようにバス温度を調整し6時間反応させた。少量をサンプリングし分子量と反応率を求めた。反応率は99%、GPCによる分子量はMw=10500、Mn=9100、Mw/Mn=1.15であった。つづいて、十分にアルゴンガスで置換しておいたメチルアクリレートを2.0gをシリンジでフラスコヘ添加。4時間反応させた。反応終了後、GCで残存するメチルアクリレートを測定し反応率を計算した。反応率は98.0%であった。ついでポリマーをヘキサンで沈殿精製し乾燥し、GPCで分子量を測定した。理論Mn12500に対し、Mw=13500、Mn=11500、Mw/Mn=1.18と分子量分布の狭いメチルアクリレート/ブチルアクリレート/メチルアクリレートのトリブロックポリマーが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、温和な条件下で、精密な分子量及び分子量分布制御を可能とするリビングラジカルポリマーの製造方法を提供する。また、本発明の重合方法により得られるリビングラジカルポリマーは、トリブロックポリマーをはじめとするマルチブロックポリマーや星型ポリマー、末端基を他の官能基へ変換することによるテレケリックポリマーをはじめとする末端反応性ポリマーの製造が容易であり、さらに、マクロモノマーの合成、架橋点としての利用、相容化剤、ブロックポリマーの原料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】合成例2で得られたブタンジオ−ル−ビス(2−メチル−2−メチルテラニルプロピオネート)の1H−NMRスペクトルチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)、式(2)または式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる多官能リビングラジカル重合開始剤。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(1)、式(2)および式(3)において、R1、R2、R10およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜18のアルキル基またはフェニル基を意味し、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R11およびR12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を意味し、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立に酸素原子または−NZ−を意味し、Nは窒素原子を意味し、Zは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはフェニル基を意味し、Teはテルル原子を意味する。また、式(1)においてR7は2価の有機基を意味し、式(2)においてR7は3価の有機基を意味し、式(3)においてR7は4価の有機基を意味する。)
【請求項2】
式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)を使用してビニルモノマーを重合させることを特徴とするブロック重合体の製造方法。
【請求項3】
重合用反応槽に、式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、および第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程を備えるトリブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
重合用反応槽に、式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程、および第(n−1)工程の後に第nのビニルモノマーを仕込み第nのビニルモノマーを重合させる第n工程を備える(2(n−1)+1)ブロック共重合体の製造方法(ただし、nは3以上の整数であり、第2工程から第n工程の間には順に第3工程、…、第(n−1)工程が存在する。)。
【請求項5】
式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)を使用してビニルモノマーを重合させることを特徴とするブロック重合体の製造方法。
【請求項6】
重合用反応槽に、式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、および第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程を備えるテトラブロック共重合体の製造方法。
【請求項7】
重合用反応槽に、式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程、および第(n−1)工程の後に第nのビニルモノマーを仕込み第nのビニルモノマーを重合させる第n工程を備える(3(n−1)+1)ブロック共重合体の製造方法(ただし、nは3以上の整数であり、第2工程から第n工程の間には順に第3工程、…、第(n−1)工程が存在する。)。
【請求項8】
式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)を使用してビニルモノマーを重合させることを特徴とするブロック重合体の製造方法。
【請求項9】
重合用反応槽に、式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、および第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程を備えるペンタブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】
重合用反応槽に、式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)および第1のビニルモノマーを仕込み第1のビニルモノマーを重合させる第1工程、第1工程の後に第2のビニルモノマーを仕込み第2のビニルモノマーを重合させる第2工程、および第(n−1)工程の後に第nのビニルモノマーを仕込み第nのビニルモノマーを重合させる第n工程を備える(4(n−1)+1)ブロック共重合体の製造方法(ただし、nは3以上の整数であり、第2工程から第n工程の間には順に第3工程、…、第(n−1)工程が存在する。)。
【請求項11】
請求項1に記載の式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)、式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)または式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)を使用してビニルモノマーを重合させる重合工程、および該重合工程で生成した重合体が末端に有するリビング重合活性基に変性剤を反応させて上記重合体の末端に反応性基を導入する工程を備えることを特徴とする末端に反応性基を有する重合体の製造方法。
【請求項12】
反応性基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシアルキルシリル基、アルコキシジアルキルシリル基、グリシジル基またはイソシアネート基である請求項11に記載の末端に反応性基を有する重合体の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)、式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)および式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)からなる群(L群)から選択された1種以上のラジカル重合開始剤、およびL群に属さない1種以上のラジカル重合開始剤を併用してビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の式(1)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる2官能リビングラジカル重合開始剤(a)、式(2)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる3官能リビングラジカル重合開始剤(b)および式(3)に示す構造式で表されるテルル含有化合物からなる4官能リビングラジカル重合開始剤(c)からなる群(L群)から選択された1種以上のラジカル重合開始剤、およびジテルリドを併用してビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体の製造方法。
【請求項15】
ビニルモノマーは、カルボキシル基含有ビニルモノマー、スルホン酸基含有ビニルモノマー、アルコキシシリル基含有ビニルモノマー、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミドまたは(メタ)アクリルジアルキルアミドである、請求項2〜14のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項16】
請求項2〜14のいずれかに記載の方法により製造された重合体からなる顔料分散剤。
【請求項17】
請求項2〜14のいずれかに記載の方法により製造された重合体を含有する粘着剤組成物。
【請求項18】
請求項2〜14のいずれかに記載の方法により製造された重合体を含有する接着剤組成物。
【請求項19】
請求項2〜14のいずれかに記載の方法により製造された重合体からなる、乳化重合用、分散重合用または懸濁重合用分散剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−291216(P2008−291216A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80148(P2008−80148)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】