多層カーボンナノチューブの集合構造の評価方法
【課題】多層CNTの集合構造全体での構造評価をする。
【解決手段】多層CNTの集合構造に対して所定の入射角度でX線を入射するステップと、上記集合構造から出射する回折X線の検出位置を集合構造回りに走査しつつ変えていき、各検出位置で回折X線強度を測定するステップと、上記集合構造のX線入射位置を高さ方向に走査しつつ変えていき、各走査位置で透過X線の強度を測定するステップと、上記回折X線強度の測定データからピーク面積を、また、上記透過X線強度の測定データから減衰量を、それぞれ、演算するステップと、上記ピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析するステップと、を含む。
【解決手段】多層CNTの集合構造に対して所定の入射角度でX線を入射するステップと、上記集合構造から出射する回折X線の検出位置を集合構造回りに走査しつつ変えていき、各検出位置で回折X線強度を測定するステップと、上記集合構造のX線入射位置を高さ方向に走査しつつ変えていき、各走査位置で透過X線の強度を測定するステップと、上記回折X線強度の測定データからピーク面積を、また、上記透過X線強度の測定データから減衰量を、それぞれ、演算するステップと、上記ピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析するステップと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のグラフェンシートの2層以上からなる多層カーボンナノチューブ(以下、多層CNTと称する)の集合構造に対する評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層CNTは、2層以上の円筒状グラフェンシートが同軸管状になって構成されるものである。グラフェンシートは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(六角網目状ネットワーク)であり、このような構造を有する多層CNTは、周知されるように、電子放出能と耐久性に優れ、大画面フィールドエミッションディスプレイ用の電子放出材料等に有用視され、また、多層CNTは耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待される物質である。
【0003】
そして、多層CNTを基板上に成長させる製造方法としてCVD法における基板法がある。この基板法では、基板上に触媒膜を成膜し、熱処理して触媒膜を複数の触媒微粒子からなる触媒構造とすると共に、この触媒構造上の触媒微粒子にカーボンを含むガスを作用させて触媒微粒子を成長起点として多層CNTを成長させるようになっている。
【0004】
上記触媒構造を用いて多層CNTを製造した場合には、その断面構造は、個々の多層CNTが複雑に絡み合い、ランダム配向の構造や、螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合構造からなっている。
【0005】
このような集合構造となるのは、個々の多層CNTがチューブ直径の不均一性、全体が曲線形状をなしていることにその原因が存在すると考えられる。
【0006】
近年では、そうした螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合体ではなく、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない集合構造が要求されてきている。
【0007】
そこで本発明者らは、チューブ直径が全体的に均一でかつ直線性を有して個々の多層CNTが絡み合うことが少ない多層CNT集合体を開発するべく鋭意研究を重ね、特開2008−120658に開示されているような多層CNTの集合構造を開発できるに至った。
【0008】
このような開発にかかる多層CNTの集合構造に対し、それを構成する多層CNT個々の直径均一性、曲線性、直線性等の評価は、微小区間での評価でしかなく、集合構造全体での構造評価はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−120658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明により解決すべき課題は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTからなる集合構造に対して微小区間での評価ではなく、集合構造全体に対する評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りの複数の検出位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、上記各検出位置でのX線強度からX線強度のピーク面積を演算するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、測定したX線強度から当該X線強度減衰量を演算するステップとを含み、上記演算したピーク面積と、上記ステップで演算した減衰量とから上記集合構造内多層CNTの配向性を解析する。
【0013】
好ましくは、多層CNTのc面間隔に対応して、上記演算したピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅を演算するステップを含み、上記c面間隔に対する半値幅の対応関係から多層CNTの直線性を評価する。
【0014】
なお、上記集合構造は、平面視円形に限定されず、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通過面積が略一定であれば例えば部分円弧形状等でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多層CNTの集合構造全体での構造評価をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はX線の回折現象を説明するための図である。
【図2】図2は多層CNTに対するX線の回折現象を説明するための図である。
【図3】図3は本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の平面構成を示す図である。
【図4】図4は図3の側面構成を示す図である。
【図5】図5は多層CNTのc面においてブラッグ条件を説明するための図である。
【図6】図6は多層CNT集合構造を回転させつつ入射X線を照射した場合の透過X線と回折X線とを示す図である。
【図7】図7は多層CNT集合構造からの出射X線の検出位置に対して該出射X線の強度波形を示す図である。
【図8】図8は多層CNT集合構造に対して高さ方向に入射X線を走査する状態を示す図である。
【図9】図9は図8の入射X線の入射高さに対する出射X線の強度波形を示す図である。
【図10】図10は多層CNT集合構造(サンプル1,2,3)のSEM写真を示す図である。
【図11】図11は図10の各サンプル1,2,3に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
【図12】図12は図10の各サンプル1,2,3それぞれのc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
【図13】図13は図10の各サンプル1,2,3それぞれの高さ方向複数点におけるX線検出位置での回折X線強度を示す図である。
【図14】図14は図10の各サンプル1,2,3それぞれの高さ方向複数点におけるc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態に係る多層CNTの集合構造に対する評価方法を説明する。本実施形態においては、上記集合構造の評価をX線の回折現象を利用するので、まず、図1を参照してX線の回折現象を説明する。X線は波長0.001nmから数10nmの電磁波である。X線は一般にX線管内でフィラメントから出る熱電子を高電圧で加速し、金属ターゲットに衝突させることで発生する。実施形態では金属ターゲットとして例えばCuを用いる。
【0018】
この場合のX線波長は1.5418Åである。図1において、1a,1b,1cは、Cuを構成する原子2の配列線を示す。各線1a,1b,1cの間隔をdとし、かつ、入射X線3の入射角度をθとすると、入射X線3に対して回折X線4の光路差(A−O−A´)は2d×sinθとなる。上記光路差が、X線波長λの整数倍nであればブラッグ条件を満たし、原子2で散乱されたX線は互いに強め合って回折X線4となる。これを式で表すと、2d×sinθ=nλである。
【0019】
以上から入射したX線は出射するとき、入射X線と出射X線との間の光路差が上記ブラッグ条件を満たすと、回折X線4の強度が強くなる。
【0020】
そして、このようなブラッグ条件に関して、図2を参照して多層CNT7に対するX線の回折現象を説明する。図2で示す多層CNT7は、その断面構成で模式的に示されている。この多層CNT7は、複数のグラフェンシート7a,7b,…が同軸管状となっていて、そのグラフェンシート面がc面となり、グラフェンシートのc面間隔が上記ブラッグ条件における間隔dに相当する。なお、グラフェンシートの詳細は周知なので説明を略する。
【0021】
上記グラフェンシート面の接線9に対して所定の入射角度(θ±δφ)でX線5が入射すると共に、その入射したX線5はグラフェンシート面の接線9に対して所定の出射角度(θ±δφ)で回折して、回折X線8として出射する。このような回折においてブラッグ条件を満たしてX線回折を起こすことができる体積要素はわずかな角度(±δφ)内の結晶により与えられる。
【0022】
図3ないし図5を参照して本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の構成を説明する。図3に評価装置におけるX線発生装置と多層CNT集合構造の平面構成を示し、図4に同X線発生装置と多層CNT集合構造の側面構成を示す。また、図5に多層CNT集合構造内の多層CNTに対する入射X線と回折X線とを示す。X線発生装置は金属ターゲットが例えばCuのX線発生装置である。
【0023】
多層CNT19の集合構造14に対してX線入射側にスリット10−12が配置され、X線出射側にスリット13が配置される。入射側スリット10−12のうち、スリット10,11は所定間隔を隔てて対向配置されたX線幅制限スリットであり、スリット12は、両スリット10,11間に配置された散乱制限スリットである。これらスリット10−12は、入射X線15を半径方向線幅L1に、高さ方向線幅をL2以下に制限する。線幅L1は、集合構造14の直径D以下であり、線幅L2は、集合構造14の基板17上からの高さH以下である。ただし、上記線幅L1,L2は多層CNTの構造評価に関して本発明を限定するものではない。
【0024】
多層CNT集合構造14は、複数の多層CNT19が密集集合してなるものであり、その平面視における側面の外形形状は円形形状となっている。ただし、多層CNT集合構造14は、平面視円形形状に限定されるものではない。すなわち、多層CNT集合構造14は、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通
過面積が略一定であればその平面視形状は特に限定されない。
【0025】
多層CNT19は基板17上に触媒微粒子の作用で成長したものである。多層CNT集合構造14を配置した基板17は、回転台18上で図中の矢印A方向に自転駆動されるようになっている。なお、多層CNT集合構造14を回転させることは多層CNTの評価の平均化を図るものであり、必ずしも、回転させることが多層CNT集合構造の評価を行ううえで必須とはならない。
【0026】
以上において、入射X線15はスリット10−12により線幅L1,L2に制御されてから多層CNT集合構造14に一方側面14aから入射し、回折角度2θχで回折X線16として他方側面14bから出射する。
【0027】
多層CNT集合構造14に入射したX線15は当該集合構造14を透過X線20として透過したり、回折X線16として回折したりして出射するX線の強度を測定できるようにX線検出器21が配置されている。X線検出器21は、多層CNT集合構造14の中心回りを図中矢印B方向に走査することができると共に各走査位置を検出位置としている。入射X線15が回折せず透過X線20(図6参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器21の検出位置はP0で、また、入射X線15が回折し、回折X線16(図3−図6参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器21の検出位置はP1で表している。
【0028】
多数の多層CNT19が集合してなる多層CNT集合構造14全体に入射したX線15の挙動と、単一の多層CNT19に入射したX線15の挙動は同等と考えられ、図3では入射X線15は回折して回折X線16として集合構造14全体から出射された状態で示され、図5では入射X線15は回折して回折X線16として単一の多層CNT19から出射された状態で示される。この場合、図5で示す多層CNT19は、集合構造14を構成する個々の多層CNTであり、入射X線15は、例えば、その最表層19aのグラフェンシート面と、最表層内側の内層19bのグラフェンシート面とに入射する。そして、これら両グラフェンシート面での光路差により回折して回折X線16として出射される。そして、これら個々の多層CNT19が集合構造14として全体的に回折X線16として出射する。
【0029】
図6ないし図9を参照して実施形態の多層CNT集合構造14の評価方法を説明する。図6は、図3に対応するものであり、多層CNT19の集合構造14は、基板17上で多層CNT19が多数集合したものであり、その集合構造14の外側面14aは平面視円形形状の一部分である円弧形状になっている。この多層CNT集合構造14の側面14aに入射X線15が入射すると共に多層CNT集合構造14の上記円形形状の別部分の円弧形状をなす側面14b,14cから出射する。この出射されたX線のうち、側面14bから出射したX線は回折X線16として、また、側面14cから出射したX線は透過X線20としてX線検出器21の各検出位置で検出される。
【0030】
図7に、回折X線16の強度を縦軸に、また、X線検出器21の検出位置2θχを横軸にとって、検出位置ごとの回折X線強度をラインL1,L2,L3で示す。これらラインL1,L2,L3のうちL1は検出位置0−A間でのX線強度を示し、X線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。L2は検出位置A−C間においてX線強度がピーク状に変化するピークラインを構成する。L3は、検出位置C以降でX線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。
【0031】
ピークラインL2領域では、検出位置Aではピーク最小とし該検出位置AからX線強度がピークへ向けて強くなる方向に変化し、検出位置BでX線強度がピーク最大となり、検
出位置Bから検出位置Cへ向けてX線強度が弱くなる方向に変化し、検出位置Cでピーク最小となる。そして検出位置A−C間でピークラインL2に対してピークがない場合には、X線強度はベースラインL1、L3と共にベースラインL4(破線ライン)を構成する。そして、検出位置A−C間においてベースラインL4とピークラインL2とで囲む面積をピーク面積と定義することができる。ここでベースラインL4は、ベースラインL1の検出位置方向終端とベースラインL3の検出位置方向始端とを略直線で結ぶラインである。このピーク面積からは、集合構造14における多層CNT19の配向性と集合密度とが判る。
【0032】
図8で示すように、入射X線15を多層CNT集合構造14の高さ方向ZにおいてZ1−Z2の範囲で走査し、この走査において入射X線15に対する、透過X線20の強度を測定すると、図9における横軸が集合構造22の高さ位置Z、縦軸が透過X線20の強度とする波形図から各高さ位置での透過X線20の強度が判る。この場合、ΔAで示す部分が透過X線20の強度の減衰量となる。図8でZ1、図9で−Z1は、集合構造14の最高位置、図8でZ2、図9で−Z2は集合構造14の最低位置を示す。図9では多層CNT集合構造14の高さ位置−Z1と−Z2それぞれでの透過X線強度の差、すなわち、図9で示すΔAは入射X線が集合構造14に入射してから出射X線として出射するまでの当該X線強度に対して、入射X線の入射高さでのX線強度減衰量を表している。このX線強度減衰量は多層CNT集合構造14の多層CNT19の高さ方向における集合密度を示す。
【0033】
具体的には、入射X線の入射高さが−Z1より高いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL5とし、入射X線の入射高さが−Z1ないし−Z2の範囲のときの透過X線強度を示すラインを減衰量ラインL6とし、入射X線の入射高さが−Z2より低いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL7とした場合、X線強度減衰量は、ベースラインL5のX線強度と減衰量ラインL6のX線強度との差である。
【0034】
したがって、これら図7のピーク面積と図9のX線強度減衰量とからピーク面積/減衰量の式を演算することで、多層CNT集合構造14を構成する多層CNT19の配向性が判る。これはピーク面積は多層CNT19の配向性と密度、減衰量は密度の情報を示すので、上記式から配向性が判る。
【0035】
次に、図10、図11、および図12を参照して多層CNT集合構造14を構成する多層CNT19の直線性を説明する。
【0036】
図10には多層CNT集合構造においてそれを構成する多層CNTそれぞれの直線性が相違する3つのサンプル1,2,3に対してその高さ方向中央部分における同倍率SEM写真を示す。SEM写真から明らかであるように、3つのサンプル1,2,3のうちサンプル1における多層CNTの直線性が最も低く、サンプル2における多層CNTは直線性が中程度であり、サンプル3における多層CNTは直線性が最も高いことが明らかである。
【0037】
図11には各サンプル1,2,3それぞれに対して各検出位置における回折X線強度の波形(図7に対応する波形)を示す。ただし、図解のため、図11で縦軸方向は回折X線強度を示すが、各サンプル1,2,3の回折X線強度を示すのではないから、縦軸の表記を省略している。図11で示すように、各サンプル1,2,3それぞれの回折X線のピーク位置およびピーク高さ、ピーク波形形状、等が相違している。直線性が低いサンプルよりも直線性が最も高いサンプルでその回折X線強度のピークが明瞭に現れていることが判り、このことから、多層CNT集合構造の構造評価を行うことができる。すなわち、サンプル1では回折X線強度の振幅が検出位置変化に対して大きく変化し、ピークが不明瞭で
ある。また、サンプル2では回折X線強度の振幅が各検出位置に対してサンプル1よりも小さく変化し、ピークが比較的明瞭に現れている。そして、サンプル3では回折X線強度の振幅が各検出位置変化に対して最も小さく変化し、かつ、特定の検出位置でのピーク高さがきわめて明瞭に現れている。このことから、上記回折X線強度波形からでも相対的にサンプル内の多層CNTの直線性を評価することができる。
【0038】
図12に、図11で示す回折X線強度波形において、ピーク面積を構成するピーク波形において、c面間隔(d002)に対する各サンプル1,2,3それぞれの半値幅(d002FWHM)を示す。図12で示すように、サンプル1,2,3のうち、直線性が低いサンプル1ではc面間隔と半値幅とが共に大きく、直線性が中のサンプル2ではc面間隔と半値幅とが共に中であり、直線性が高いサンプル1ではc面間隔と半値幅とが共に小さい。このことから、多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
【0039】
図10ないし図12はサンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向中央検出位置でのX線強度波形から、c面間隔と半値幅の関係を求め、多層CNT集合構造高さ方向中央部分での直線性の評価をしたものであり、多層CNT集合構造高さ方向全体ではない。そこで、図13、図14を参照して多層CNT集合構造高さ方向全体での直線性評価を説明する。
【0040】
図13に、サンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向複数検出位置でのX線強度波形を示す。サンプル1,2,3それぞれの各検出位置でのX線強度波形は図解のため高さ方向離して示している。
【0041】
サンプル1の場合、その高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い多層CNT集合構造は直線性が低い多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0042】
サンプル2の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さはサンプル1より高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが中程度の多層CNT集合構造は、直線性が中程度の多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0043】
サンプル3の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さは最も高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが高い多層CNT集合構造は、直線性が高い多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0044】
図14に、図13で示すサンプル1,2,3それぞれのX線強度波形において、c面間隔(d002)に対するサンプル1,2,3それぞれの半値幅を示す。各サンプル1,2,3それぞれでは高さ方向複数の検出に対応して四角形(□)、三角形(△)、円形(○)で示す。図14で示すように直線性が低いサンプル1ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に大きい領域に集中し、直線性が中程度のサンプル2ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に中の領域に集中し、直線性が高いサンプル3ではc面間隔と半値幅とが共に小さい領域に集中している。
【0045】
このことからX線強度波形において、c面間隔(d002)に対する半値幅の関係から多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
【0046】
特に、図13、図14は多層CNT集合構造を構成する多層CNTを高さ方向にその直線性を評価することができるものであり、微小区間での直線性の評価ではなく、多層CNT集合構造全体での直線性を評価することができるようになる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りにX線検出器を走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造側面回りに出射される回折X線の強度を測定すると共に、上記測定した回折X線の強度からピーク面積を演算するステップとを含み、この演算したピーク面積から、多層CNTの配向性および集合密度に関する情報を得ることができる。
【0048】
また、上記入射X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造を透過する透過X線の強度を測定すると共に、上記測定した透過X線の強度から減衰量を演算するステップを含む場合は、上記演算したピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析することができる。
【0049】
さらに、ピーク面積を構成する回折X線強度波形ラインにおけるグラフェンシートのc面間隔とピーク面積半値幅とを演算するステップを含む場合は、そのc面間隔とピーク面積半値幅から多層CNT集合構造内の多層CNTの直線性を評価することができる。
【符号の説明】
【0050】
10−13 スリット
14 多層CNT集合構造
15 入射X線
16 回折X線
17 基板
18 回転台
19 多層CNT
20 透過X線
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のグラフェンシートの2層以上からなる多層カーボンナノチューブ(以下、多層CNTと称する)の集合構造に対する評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多層CNTは、2層以上の円筒状グラフェンシートが同軸管状になって構成されるものである。グラフェンシートは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(六角網目状ネットワーク)であり、このような構造を有する多層CNTは、周知されるように、電子放出能と耐久性に優れ、大画面フィールドエミッションディスプレイ用の電子放出材料等に有用視され、また、多層CNTは耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待される物質である。
【0003】
そして、多層CNTを基板上に成長させる製造方法としてCVD法における基板法がある。この基板法では、基板上に触媒膜を成膜し、熱処理して触媒膜を複数の触媒微粒子からなる触媒構造とすると共に、この触媒構造上の触媒微粒子にカーボンを含むガスを作用させて触媒微粒子を成長起点として多層CNTを成長させるようになっている。
【0004】
上記触媒構造を用いて多層CNTを製造した場合には、その断面構造は、個々の多層CNTが複雑に絡み合い、ランダム配向の構造や、螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合構造からなっている。
【0005】
このような集合構造となるのは、個々の多層CNTがチューブ直径の不均一性、全体が曲線形状をなしていることにその原因が存在すると考えられる。
【0006】
近年では、そうした螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合体ではなく、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない集合構造が要求されてきている。
【0007】
そこで本発明者らは、チューブ直径が全体的に均一でかつ直線性を有して個々の多層CNTが絡み合うことが少ない多層CNT集合体を開発するべく鋭意研究を重ね、特開2008−120658に開示されているような多層CNTの集合構造を開発できるに至った。
【0008】
このような開発にかかる多層CNTの集合構造に対し、それを構成する多層CNT個々の直径均一性、曲線性、直線性等の評価は、微小区間での評価でしかなく、集合構造全体での構造評価はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−120658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明により解決すべき課題は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTからなる集合構造に対して微小区間での評価ではなく、集合構造全体に対する評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りの複数の検出位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、上記各検出位置でのX線強度からX線強度のピーク面積を演算するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、測定したX線強度から当該X線強度減衰量を演算するステップとを含み、上記演算したピーク面積と、上記ステップで演算した減衰量とから上記集合構造内多層CNTの配向性を解析する。
【0013】
好ましくは、多層CNTのc面間隔に対応して、上記演算したピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅を演算するステップを含み、上記c面間隔に対する半値幅の対応関係から多層CNTの直線性を評価する。
【0014】
なお、上記集合構造は、平面視円形に限定されず、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通過面積が略一定であれば例えば部分円弧形状等でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多層CNTの集合構造全体での構造評価をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1はX線の回折現象を説明するための図である。
【図2】図2は多層CNTに対するX線の回折現象を説明するための図である。
【図3】図3は本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の平面構成を示す図である。
【図4】図4は図3の側面構成を示す図である。
【図5】図5は多層CNTのc面においてブラッグ条件を説明するための図である。
【図6】図6は多層CNT集合構造を回転させつつ入射X線を照射した場合の透過X線と回折X線とを示す図である。
【図7】図7は多層CNT集合構造からの出射X線の検出位置に対して該出射X線の強度波形を示す図である。
【図8】図8は多層CNT集合構造に対して高さ方向に入射X線を走査する状態を示す図である。
【図9】図9は図8の入射X線の入射高さに対する出射X線の強度波形を示す図である。
【図10】図10は多層CNT集合構造(サンプル1,2,3)のSEM写真を示す図である。
【図11】図11は図10の各サンプル1,2,3に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
【図12】図12は図10の各サンプル1,2,3それぞれのc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
【図13】図13は図10の各サンプル1,2,3それぞれの高さ方向複数点におけるX線検出位置での回折X線強度を示す図である。
【図14】図14は図10の各サンプル1,2,3それぞれの高さ方向複数点におけるc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態に係る多層CNTの集合構造に対する評価方法を説明する。本実施形態においては、上記集合構造の評価をX線の回折現象を利用するので、まず、図1を参照してX線の回折現象を説明する。X線は波長0.001nmから数10nmの電磁波である。X線は一般にX線管内でフィラメントから出る熱電子を高電圧で加速し、金属ターゲットに衝突させることで発生する。実施形態では金属ターゲットとして例えばCuを用いる。
【0018】
この場合のX線波長は1.5418Åである。図1において、1a,1b,1cは、Cuを構成する原子2の配列線を示す。各線1a,1b,1cの間隔をdとし、かつ、入射X線3の入射角度をθとすると、入射X線3に対して回折X線4の光路差(A−O−A´)は2d×sinθとなる。上記光路差が、X線波長λの整数倍nであればブラッグ条件を満たし、原子2で散乱されたX線は互いに強め合って回折X線4となる。これを式で表すと、2d×sinθ=nλである。
【0019】
以上から入射したX線は出射するとき、入射X線と出射X線との間の光路差が上記ブラッグ条件を満たすと、回折X線4の強度が強くなる。
【0020】
そして、このようなブラッグ条件に関して、図2を参照して多層CNT7に対するX線の回折現象を説明する。図2で示す多層CNT7は、その断面構成で模式的に示されている。この多層CNT7は、複数のグラフェンシート7a,7b,…が同軸管状となっていて、そのグラフェンシート面がc面となり、グラフェンシートのc面間隔が上記ブラッグ条件における間隔dに相当する。なお、グラフェンシートの詳細は周知なので説明を略する。
【0021】
上記グラフェンシート面の接線9に対して所定の入射角度(θ±δφ)でX線5が入射すると共に、その入射したX線5はグラフェンシート面の接線9に対して所定の出射角度(θ±δφ)で回折して、回折X線8として出射する。このような回折においてブラッグ条件を満たしてX線回折を起こすことができる体積要素はわずかな角度(±δφ)内の結晶により与えられる。
【0022】
図3ないし図5を参照して本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の構成を説明する。図3に評価装置におけるX線発生装置と多層CNT集合構造の平面構成を示し、図4に同X線発生装置と多層CNT集合構造の側面構成を示す。また、図5に多層CNT集合構造内の多層CNTに対する入射X線と回折X線とを示す。X線発生装置は金属ターゲットが例えばCuのX線発生装置である。
【0023】
多層CNT19の集合構造14に対してX線入射側にスリット10−12が配置され、X線出射側にスリット13が配置される。入射側スリット10−12のうち、スリット10,11は所定間隔を隔てて対向配置されたX線幅制限スリットであり、スリット12は、両スリット10,11間に配置された散乱制限スリットである。これらスリット10−12は、入射X線15を半径方向線幅L1に、高さ方向線幅をL2以下に制限する。線幅L1は、集合構造14の直径D以下であり、線幅L2は、集合構造14の基板17上からの高さH以下である。ただし、上記線幅L1,L2は多層CNTの構造評価に関して本発明を限定するものではない。
【0024】
多層CNT集合構造14は、複数の多層CNT19が密集集合してなるものであり、その平面視における側面の外形形状は円形形状となっている。ただし、多層CNT集合構造14は、平面視円形形状に限定されるものではない。すなわち、多層CNT集合構造14は、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通
過面積が略一定であればその平面視形状は特に限定されない。
【0025】
多層CNT19は基板17上に触媒微粒子の作用で成長したものである。多層CNT集合構造14を配置した基板17は、回転台18上で図中の矢印A方向に自転駆動されるようになっている。なお、多層CNT集合構造14を回転させることは多層CNTの評価の平均化を図るものであり、必ずしも、回転させることが多層CNT集合構造の評価を行ううえで必須とはならない。
【0026】
以上において、入射X線15はスリット10−12により線幅L1,L2に制御されてから多層CNT集合構造14に一方側面14aから入射し、回折角度2θχで回折X線16として他方側面14bから出射する。
【0027】
多層CNT集合構造14に入射したX線15は当該集合構造14を透過X線20として透過したり、回折X線16として回折したりして出射するX線の強度を測定できるようにX線検出器21が配置されている。X線検出器21は、多層CNT集合構造14の中心回りを図中矢印B方向に走査することができると共に各走査位置を検出位置としている。入射X線15が回折せず透過X線20(図6参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器21の検出位置はP0で、また、入射X線15が回折し、回折X線16(図3−図6参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器21の検出位置はP1で表している。
【0028】
多数の多層CNT19が集合してなる多層CNT集合構造14全体に入射したX線15の挙動と、単一の多層CNT19に入射したX線15の挙動は同等と考えられ、図3では入射X線15は回折して回折X線16として集合構造14全体から出射された状態で示され、図5では入射X線15は回折して回折X線16として単一の多層CNT19から出射された状態で示される。この場合、図5で示す多層CNT19は、集合構造14を構成する個々の多層CNTであり、入射X線15は、例えば、その最表層19aのグラフェンシート面と、最表層内側の内層19bのグラフェンシート面とに入射する。そして、これら両グラフェンシート面での光路差により回折して回折X線16として出射される。そして、これら個々の多層CNT19が集合構造14として全体的に回折X線16として出射する。
【0029】
図6ないし図9を参照して実施形態の多層CNT集合構造14の評価方法を説明する。図6は、図3に対応するものであり、多層CNT19の集合構造14は、基板17上で多層CNT19が多数集合したものであり、その集合構造14の外側面14aは平面視円形形状の一部分である円弧形状になっている。この多層CNT集合構造14の側面14aに入射X線15が入射すると共に多層CNT集合構造14の上記円形形状の別部分の円弧形状をなす側面14b,14cから出射する。この出射されたX線のうち、側面14bから出射したX線は回折X線16として、また、側面14cから出射したX線は透過X線20としてX線検出器21の各検出位置で検出される。
【0030】
図7に、回折X線16の強度を縦軸に、また、X線検出器21の検出位置2θχを横軸にとって、検出位置ごとの回折X線強度をラインL1,L2,L3で示す。これらラインL1,L2,L3のうちL1は検出位置0−A間でのX線強度を示し、X線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。L2は検出位置A−C間においてX線強度がピーク状に変化するピークラインを構成する。L3は、検出位置C以降でX線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。
【0031】
ピークラインL2領域では、検出位置Aではピーク最小とし該検出位置AからX線強度がピークへ向けて強くなる方向に変化し、検出位置BでX線強度がピーク最大となり、検
出位置Bから検出位置Cへ向けてX線強度が弱くなる方向に変化し、検出位置Cでピーク最小となる。そして検出位置A−C間でピークラインL2に対してピークがない場合には、X線強度はベースラインL1、L3と共にベースラインL4(破線ライン)を構成する。そして、検出位置A−C間においてベースラインL4とピークラインL2とで囲む面積をピーク面積と定義することができる。ここでベースラインL4は、ベースラインL1の検出位置方向終端とベースラインL3の検出位置方向始端とを略直線で結ぶラインである。このピーク面積からは、集合構造14における多層CNT19の配向性と集合密度とが判る。
【0032】
図8で示すように、入射X線15を多層CNT集合構造14の高さ方向ZにおいてZ1−Z2の範囲で走査し、この走査において入射X線15に対する、透過X線20の強度を測定すると、図9における横軸が集合構造22の高さ位置Z、縦軸が透過X線20の強度とする波形図から各高さ位置での透過X線20の強度が判る。この場合、ΔAで示す部分が透過X線20の強度の減衰量となる。図8でZ1、図9で−Z1は、集合構造14の最高位置、図8でZ2、図9で−Z2は集合構造14の最低位置を示す。図9では多層CNT集合構造14の高さ位置−Z1と−Z2それぞれでの透過X線強度の差、すなわち、図9で示すΔAは入射X線が集合構造14に入射してから出射X線として出射するまでの当該X線強度に対して、入射X線の入射高さでのX線強度減衰量を表している。このX線強度減衰量は多層CNT集合構造14の多層CNT19の高さ方向における集合密度を示す。
【0033】
具体的には、入射X線の入射高さが−Z1より高いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL5とし、入射X線の入射高さが−Z1ないし−Z2の範囲のときの透過X線強度を示すラインを減衰量ラインL6とし、入射X線の入射高さが−Z2より低いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL7とした場合、X線強度減衰量は、ベースラインL5のX線強度と減衰量ラインL6のX線強度との差である。
【0034】
したがって、これら図7のピーク面積と図9のX線強度減衰量とからピーク面積/減衰量の式を演算することで、多層CNT集合構造14を構成する多層CNT19の配向性が判る。これはピーク面積は多層CNT19の配向性と密度、減衰量は密度の情報を示すので、上記式から配向性が判る。
【0035】
次に、図10、図11、および図12を参照して多層CNT集合構造14を構成する多層CNT19の直線性を説明する。
【0036】
図10には多層CNT集合構造においてそれを構成する多層CNTそれぞれの直線性が相違する3つのサンプル1,2,3に対してその高さ方向中央部分における同倍率SEM写真を示す。SEM写真から明らかであるように、3つのサンプル1,2,3のうちサンプル1における多層CNTの直線性が最も低く、サンプル2における多層CNTは直線性が中程度であり、サンプル3における多層CNTは直線性が最も高いことが明らかである。
【0037】
図11には各サンプル1,2,3それぞれに対して各検出位置における回折X線強度の波形(図7に対応する波形)を示す。ただし、図解のため、図11で縦軸方向は回折X線強度を示すが、各サンプル1,2,3の回折X線強度を示すのではないから、縦軸の表記を省略している。図11で示すように、各サンプル1,2,3それぞれの回折X線のピーク位置およびピーク高さ、ピーク波形形状、等が相違している。直線性が低いサンプルよりも直線性が最も高いサンプルでその回折X線強度のピークが明瞭に現れていることが判り、このことから、多層CNT集合構造の構造評価を行うことができる。すなわち、サンプル1では回折X線強度の振幅が検出位置変化に対して大きく変化し、ピークが不明瞭で
ある。また、サンプル2では回折X線強度の振幅が各検出位置に対してサンプル1よりも小さく変化し、ピークが比較的明瞭に現れている。そして、サンプル3では回折X線強度の振幅が各検出位置変化に対して最も小さく変化し、かつ、特定の検出位置でのピーク高さがきわめて明瞭に現れている。このことから、上記回折X線強度波形からでも相対的にサンプル内の多層CNTの直線性を評価することができる。
【0038】
図12に、図11で示す回折X線強度波形において、ピーク面積を構成するピーク波形において、c面間隔(d002)に対する各サンプル1,2,3それぞれの半値幅(d002FWHM)を示す。図12で示すように、サンプル1,2,3のうち、直線性が低いサンプル1ではc面間隔と半値幅とが共に大きく、直線性が中のサンプル2ではc面間隔と半値幅とが共に中であり、直線性が高いサンプル1ではc面間隔と半値幅とが共に小さい。このことから、多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
【0039】
図10ないし図12はサンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向中央検出位置でのX線強度波形から、c面間隔と半値幅の関係を求め、多層CNT集合構造高さ方向中央部分での直線性の評価をしたものであり、多層CNT集合構造高さ方向全体ではない。そこで、図13、図14を参照して多層CNT集合構造高さ方向全体での直線性評価を説明する。
【0040】
図13に、サンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向複数検出位置でのX線強度波形を示す。サンプル1,2,3それぞれの各検出位置でのX線強度波形は図解のため高さ方向離して示している。
【0041】
サンプル1の場合、その高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い多層CNT集合構造は直線性が低い多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0042】
サンプル2の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さはサンプル1より高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが中程度の多層CNT集合構造は、直線性が中程度の多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0043】
サンプル3の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さは最も高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが高い多層CNT集合構造は、直線性が高い多層CNTが集合した構造であることが判る。
【0044】
図14に、図13で示すサンプル1,2,3それぞれのX線強度波形において、c面間隔(d002)に対するサンプル1,2,3それぞれの半値幅を示す。各サンプル1,2,3それぞれでは高さ方向複数の検出に対応して四角形(□)、三角形(△)、円形(○)で示す。図14で示すように直線性が低いサンプル1ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に大きい領域に集中し、直線性が中程度のサンプル2ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に中の領域に集中し、直線性が高いサンプル3ではc面間隔と半値幅とが共に小さい領域に集中している。
【0045】
このことからX線強度波形において、c面間隔(d002)に対する半値幅の関係から多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
【0046】
特に、図13、図14は多層CNT集合構造を構成する多層CNTを高さ方向にその直線性を評価することができるものであり、微小区間での直線性の評価ではなく、多層CNT集合構造全体での直線性を評価することができるようになる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りにX線検出器を走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造側面回りに出射される回折X線の強度を測定すると共に、上記測定した回折X線の強度からピーク面積を演算するステップとを含み、この演算したピーク面積から、多層CNTの配向性および集合密度に関する情報を得ることができる。
【0048】
また、上記入射X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造を透過する透過X線の強度を測定すると共に、上記測定した透過X線の強度から減衰量を演算するステップを含む場合は、上記演算したピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析することができる。
【0049】
さらに、ピーク面積を構成する回折X線強度波形ラインにおけるグラフェンシートのc面間隔とピーク面積半値幅とを演算するステップを含む場合は、そのc面間隔とピーク面積半値幅から多層CNT集合構造内の多層CNTの直線性を評価することができる。
【符号の説明】
【0050】
10−13 スリット
14 多層CNT集合構造
15 入射X線
16 回折X線
17 基板
18 回転台
19 多層CNT
20 透過X線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、
上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側の複数の検出位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、上記各検出位置でのX線強度からX線強度のピーク面積を演算するステップと、を含むことを特徴とする多層CNT集合構造の評価方法。
【請求項2】
X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、測定したX線強度から当該X線強度減衰量を演算するステップとを含み、請求項1で演算したピーク面積と、上記ステップで演算した減衰量とから上記集合構造内多層CNTの配向性を解析する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多層CNTのc面間隔に対応して、請求項1で演算したピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅を演算するステップを含み、上記c面間隔に対する半値幅の対応関係から多層CNTの直線性を評価する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項1】
基板上に配置した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、
上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側の複数の検出位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、上記各検出位置でのX線強度からX線強度のピーク面積を演算するステップと、を含むことを特徴とする多層CNT集合構造の評価方法。
【請求項2】
X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置で当該集合構造から出射されるX線強度を測定するステップと、測定したX線強度から当該X線強度減衰量を演算するステップとを含み、請求項1で演算したピーク面積と、上記ステップで演算した減衰量とから上記集合構造内多層CNTの配向性を解析する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多層CNTのc面間隔に対応して、請求項1で演算したピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅を演算するステップを含み、上記c面間隔に対する半値幅の対応関係から多層CNTの直線性を評価する、請求項1または2に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図10】
【公開番号】特開2011−215119(P2011−215119A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94102(P2010−94102)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月3日 社団法人 応用物理学会発行の「2010年春季 <第57回>応用物理学関係連合講演会 [講演予稿集](DVD)」に発表
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月3日 社団法人 応用物理学会発行の「2010年春季 <第57回>応用物理学関係連合講演会 [講演予稿集](DVD)」に発表
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】
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