多層プリント基板
【課題】本発明の目的は、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することである。
【解決手段】本発明の多層プリント基板は、第1の信号層と、第2の信号層とを含めた少なくとも3層以上の積層プリント基板を備える。また、第1の信号層と第2の信号層との間には磁性体層を有する。さらに、第1の信号層11に形成される第1の信号配線と、第2の信号層に形成される第2の信号配線とは、それぞれビアホールによって電気的に接続される。そして、当該ビアホールを取り囲むように、磁性体部材により構成される閉磁路が磁性体層に形成される。
【解決手段】本発明の多層プリント基板は、第1の信号層と、第2の信号層とを含めた少なくとも3層以上の積層プリント基板を備える。また、第1の信号層と第2の信号層との間には磁性体層を有する。さらに、第1の信号層11に形成される第1の信号配線と、第2の信号層に形成される第2の信号配線とは、それぞれビアホールによって電気的に接続される。そして、当該ビアホールを取り囲むように、磁性体部材により構成される閉磁路が磁性体層に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速デジタル信号伝送を行う多層プリント基板に関し、特に多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することにより、フィルタが一体構成される多層プリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今における、コンピュータに代表される電子情報機器の動作速度の高速化に伴い、LSI間で、GHzを越える高い周波数のデジタル信号を伝送する必要が生じている。このため、複数のLSIそれぞれの信号配線を伝搬する信号が相互に干渉することなく正確に伝送されることが要求されている。
【0003】
上記要求に対する解決法の一つとして、2本の伝送線路を対にして、それぞれを逆位相で動作させることにより、外来ノイズの影響を受けにくくした差動信号伝送方式が広く用いられている。しかしながら、外来ノイズやその他の原因で2本の伝送線路が同相で動くコモンモードノイズなどが差動伝送線路に重畳されると、差動信号伝送方式といえども正確に信号伝送を行うことが出来なくなる。
【0004】
このため、例えば特許文献1では、図1(a)〜(c)に示されるように、差動伝送線路を磁性体からなるコモンモードフィルタに貫通させることで、コモンモードノイズを除去する手法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、図2に示されるように、プリント基板上に磁性体からなるコモンモードチョークコイルを形成することで、コモンモードノイズを除去する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に開示された技術は、プリント基板に対応させて提案の行われた技術ではないので、提案内容そのままの形態ではプリント基板の内蔵型フィルタとして使用することは出来ない。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術は、プリント基板に対応させて提案の行われた技術であるものの、以下に示すような問題がある。第1の問題点は、プリント基板の一部を切削して除去する必要があるということである。このため、プリント基板の製造工程が複雑となり、コストアップにつながってしまう。第2の問題点は、閉磁路を形成する為にプリント基板上にも磁性体を積載する必要が生じるということである。これにより、プリント基板上に磁性体が凸型形状に露出することになり、ノートパソコンや携帯電話など部品を高密度に実装する必要のある用途には、この技術を適用することが困難となる。第3の問題点は、コモンモードノイズはマイクロストリップ線路とビアといったような信号線路のインピーダンスの不連続点にて発生することが知られており、本技術のように配線パターンとビアとが繰り返されると、逆にコモンモードノイズを発生させてしまう恐れがあることである。
【0007】
また、特許文献3に開示された技術は、図3に示されるように、チョークコイルおよびインダクタに関するものであるが、特許文献2に開示された技術とは異なり、プリント基板内に磁性体を内蔵しており、磁性体が基板上に凸型に飛び出ることはない。しかしながらこの技術にもいくつかの問題点がある。第1の問題点は、埋め込んだ磁性体を巻き回すように導体が形成されているために、この技術を高速信号伝送に適用した場合、巻き回すことにより線路長が増大する事に起因して、信号の遅延や減衰が生じてしまう。高速信号伝送ではGHzを越えるような高い周波数成分を信号伝送に使用するが、高周波になるほど信号は減衰し易いので、線路長が長いことは大きな問題になる。第2の問題点は、特許文献2に開示された技術と同様に、配線パターンとビアの繰り返し構造では、コモンモードノイズが発生してしまう恐れがあることである。
【0008】
また、特許文献4に開示された技術は、磁性体からなる電磁遮蔽層が基板中に形成されるものであるが、磁性体層とは異なる層にある信号配線パターンのノイズを低減しようとしているため、ノイズを低減したい信号配線領域と同じかそれ以上の面積の電磁遮蔽層が必要となり、高密度実装の妨げとなってしまう。また、ビアのような基板に垂直方向の信号配線に対する電磁遮蔽は考慮されていない。
【0009】
また、特許文献5に開示された技術は、ビアに磁性体を設けた構造となっているが、特許文献4に開示された技術が指摘するようなスルーホールメッキ時の課題が解決されていない。また昨今では、基板厚が3mm程度のプリント基板に直径が0.25mmのドリルにて穴を開け、その後スルーホールメッキを行う、という工程が普通に使用されている。このプリント基板に特許文献5の技術を適用する場合、外形が0.25mmで長さが3mmのチューブ状の磁性体をプリント基板に挿入する必要がある。更にその後にチューブ状の磁性体の内面をメッキする必要がある。こうした技術は現在のプリント基板製造技術では非常に難しく、製造コストの増加に繋がる。
【0010】
また、このような技術に関連して、特開平11−163221号公報に開示されている「配線基板」では、厚み方向に複数個の貫通孔を有する絶縁基体と、貫通孔内に充填され、一端が絶縁基体の上面に導出されて半導体素子の電極が接続される上部接続パッドを形成し、他端が絶縁基体の下面に導出されて外部電気回路基板の配線導体が接続される下部接続パッドを形成する複数個の配線層とから成る配線基板であって、絶縁基体は、Li2 Oを5〜30重量%含有する屈伏点が400〜800℃のリチウム珪酸ガラスを20〜80体積%と、クオーツ、クリストバライト、トリジマイト、エンスタタイト、フォルステライトの少なくとも1種から成るフィラー成分を20〜80体積%の割合で含む形成体を焼成して得られたクオーツ、クリストバライト、トリジマイト、エンスタタイトの少なくとも1種の結晶相を含有する焼結体から成り、かつ少なくとも貫通孔周辺に磁性材料が含有されている配線基板が提案されている。
【0011】
【特許文献1】特許第3431496号公報
【特許文献2】特開2005−005442号公報
【特許文献3】特開2004−235596号公報
【特許文献4】特開平10−303563号公報
【特許文献5】特開平01−201985号公報
【特許文献6】特開平11−163221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用する括弧付き符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであるが、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0014】
本発明の多層プリント基板(100)は、差動信号配線を形成する第1信号配線対(140a、140b)の形成された第1の信号層(110)と、差動信号配線を形成する第2信号配線対(160a、160b)の形成された第2の信号層(130)と、第1の信号層と第2の信号層との間に積層される磁性体層(120)とを備え、第1信号配線対と第2信号配線対とは、それぞれビアホール(150a、150b)により電気的に接続され、磁性体層には、ビアホールを取り囲むように、磁性体部材による閉磁路(170)が形成される。
【0015】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体層(120a、120b、120c)は、複数である。
【0016】
また、本発明の多層プリント基板(100)は、第1の信号層(110)と第2の信号層(130)との間に、さらに信号配線の形成される信号層を備える。
【0017】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体層(120)に形成される閉磁路(170)は複数である。
【0018】
また、本発明の多層プリント基板において、閉磁路(170)は、誘電体層上に形成される導体パターン(180)の上に積層されることにより構成される。
【0019】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体部材は、Ni−Znフェライトである。
【0020】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、閉磁路(170、1700)の厚さ、幅、および形状の設定に応じて、差動信号配線(140a、150a、160a、140b、150b、160b)を伝搬するコモンモードノイズの減衰量が調整される。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することができる。
【0022】
これによる本発明の第1の効果は、閉磁路を多層プリント基板の構成層である磁性体層に形成することで、プリント基板に削りなどの追加工をすることなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することができる。
【0023】
また、本発明の第2の効果は、多層プリント基板とは別に製造した磁性体を多層プリント基板に挿入することなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することが出来る。
【0024】
また、本発明の第3の効果は、閉磁路を多層プリント基板の構成層である磁性体層に形成することで、多層プリント基板上の実装面積を占有することなく、また基板の高さ方向に部品を実装することなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することができる。
【0025】
また、本発明の第4の効果は、磁性体を信号線路が巻く形態ではなく、磁性体の閉磁路により信号線路を巻く形態とすることで、信号線路長を長くすることなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することが出来る。
【0026】
また、本発明の第5の効果は、マイクロストリップ線路などと、ビアとの信号配線の不連続部にフィルタを形成することで、差動信号線路に生じるコモンモードノイズを発生源近くで除去することが出来、他の回路部分へ当該ノイズが伝搬する事による悪影響を抑えることが出来る。
【0027】
また、本発明の第6の効果は、多層プリント基板の垂直方向の信号伝送路に対するフィルタ効果を可能とすることが出来る。また、ビア周辺部における最小限の磁性体の配置のみで、信号の垂直伝送路のフィルタリングを可能とし、高密度実装を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
添付図面を参照して、本発明による多層プリント基板を実施するための最良の形態を以下に説明する。
【0029】
本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板の概略構成を図4に示す(本構成は実施の形態1に対応)。本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板100は、第1の信号配線140a、140bの形成された第1の信号層110と、第2の信号配線160a、160bの形成された第2の信号層130とを含めた少なくとも3層以上の積層プリント基板を備えている。また、第1の信号層と第2の信号層との間には、磁性体部材によるパターンの形成された磁性体層120を有している。さらに、第1の信号層110に形成される第1の信号配線140a、140bと、第2の信号層に形成される第2の信号配線160a、160bとは、それぞれビアホール150a、150bによって電気的に接続されている。そして、当該ビアホール150a、150bを取り囲むように、磁性体部材により構成される閉磁路170が、磁性体層120に印刷などの方法により形成される。
【0030】
本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板においては、上記したように磁性体層120に形成される閉磁路170を貫通するように、第1の信号配線140aとビア150aと第2の信号配線160aと、第1の信号配線140bとビア150bと第2の信号配線160bとからなる一連の信号線路対が形成されることにより、多層プリント基板内部に磁性体によるフィルタが一体形成される。本願の多層基板において一連の信号線路対に同相信号が流れた場合、同相信号をうち消すような磁束が閉磁路170に生成されることにより、一連の信号線路対において同相信号をうち消すフィルタ、つまりコモンモードフィルタとしての機能を備える。一方、一連の信号線路対に差動信号が流れた場合には、作動信号をうち消すような磁束は生成されず、差動信号はこのフィルタをそのまま通過することが出来る。
【0031】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板について、図4および図5を用いて詳細に説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板の斜視図である。図5は、図4のA−A’面での断面を示す図である。本実施の形態に係わる多層プリント基板100は、少なくとも3層により構成される多層プリント基板である。プリント基板100は、最上層に配置される第1の信号層110と、最下層に配置される第2の信号層130と、第1の信号層110と第2の信号層130との間に配置される磁性体層120とを備えている。第1の信号層110には信号配線140a、140bが、そして、第2の信号層130には信号配線160a、160bがそれぞれ形成されている。第1の信号層110の信号配線140a、140bと、第2の信号層130の信号配線160a、160bとは、それぞれビアホール150a、150bにより電気的に接続されている。図4においては、信号配線140a、140b、160a、160bの終端にはそれぞれ何も接続されていないが、実際の回路では、他の回路部品や配線などが接続される。
【0032】
本実施の形態に係わる多層プリント基板100においては、第1の信号層110と第2の信号層130との間に磁性体層120を備えており、磁性体層120には、上記ビアホール150a、150bが設けられている。磁性体層120では、ビアホール150aと150bとを囲むように閉磁路170が形成されている。閉磁路170の形成方法の例としてスクリーン印刷を挙げることが出来るが、閉磁路170の形成方法としては、磁性体層120上に磁性体で閉磁路170を形成できる方法であればスクリーン印刷に限定されることはない。
【0033】
図4では、一連の配線140a、150a、160aと、140b、150b、160bとが1対の配線を構成しており、これが差動信号線路として機能する。この差動信号線路に差動信号を伝送する際、外部から当該差動信号にコモンモードノイズが重畳されることがある。また、当該差動信号線路においては、信号線路140a、140bと、160a、160bとが、それぞれビアホール150a、150bにより接続されている為、信号線路とビアホールとの接続部においてコモンモードノイズが発生しやすい。コモンモードノイズは、差動信号線路を同相にて振動させる為、正確な信号伝送を妨げることがある。
【0034】
本実施の形態においては、信号配線であるビアホール150aおよび150bを取り囲むように閉磁路170が形成されているため、同相信号が伝送される場合には、これをうち消す機能を備えている。一方、差動信号線路に差動信号が伝送されている場合には、閉磁路170は差動信号に対してほとんど影響を及ぼさない。これは、同相信号が差動信号線路を伝送する場合、この同相信号をうち消すような磁界が閉磁路170上に発生する為である。一方、差動信号が差動信号線路を伝送する場合、このような磁界は発生しない。よって、本実施の形態においては、当該閉磁路がコモンモードフィルタとして作用する。
【0035】
次に、本実施の形態が実際のコモンモードフィルタとしての効果を有するシミュレーション結果を、図6A〜図8Bに示す。図6Aは、図4に示される本実施の形態において、磁性体層120に形成される閉磁路170の幅とビアホールからの距離を一定にして、閉磁路170の高さ方向の厚みをパラメータとして変化させた時の電磁界シミュレーションのモデルを示すものである。このシミュレーションモデルに基づいて行われたシミュレーション結果を図6Bに示す。図6Bは、閉磁路170の高さ方向の厚みをパラメータとして変化させた時に、コモンモードフィルタとしての効果が、閉磁路170を備えない場合と比較してどのように変化するかを示したものである。図6Bの縦軸がコモンモードノイズの透過量、横軸が閉磁路170の厚さである。透過量が負の値であるので、図の下へ行くほど減衰量が大きいことを表している。本シミュレーションでは磁性体の一例としてNi−Znフェライトをフェライトメッキ法で作成した場合を想定し、複素透磁率の虚数項=20、また、層間に介在する誘電体の比誘電率を4.4として計算を行った。本シミュレーションにおいては、比誘電率4.4、比透磁率20を用いているが、実際の多層基板において当該数値は、最適な使用部材の有する物性値に対応して変化する。同様に、図7Aは、閉磁路170の厚さと幅とを一定にして、ビアホールと閉磁路170との距離をパラーメータとして変化させる場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。図7Aのモデルにおいて、ビアホールと閉磁路170との距離をパラーメータとして変化させた場合のシミュレーション結果を図7Bに示す。また、図8Aは、閉磁路170の厚さとビアホールからの距離とを一定にして、閉磁路170の幅をパラメータして変化させた場合のシミュレーションモデルを示す。図8Aのモデルにおいて、閉磁路170の幅をパラメータとして変化させた場合のシミュレーション結果を図8Bに示す。図6B、図7Bおよび図8Bに示したシミュレーション結果は、それぞれ本実施の形態が閉磁路170を備えない場合と比較して、どれだけコモンモードノイズを抑制することが出来るかを差分値として示したものである。
【0036】
本発明における伝送信号は、主として、1GHz以上の周波数を有するデジタル信号を対象としており、信号自身はもとより、それらの高調波成分に至るまでの周波数帯域において、伝送信号に対するコモンモードノイズの重畳を抑制することを目的としている。このような目的から考えると、図6B、図7Bおよび図8Bに示されるシミュレーション結果から、本実施の形態が、閉磁路170を備えない場合と比較して、当該周波数帯域において効果的にコモンモードノイズを抑制することが判る。しかし、図6Bに示されるように、閉磁路170の厚さが30μmよりも薄くなると、急激に発明の効果が小さくなる。同様に、図7Bでは、閉磁路170とビアホール150a、150bとの距離が500μmを越えると、高い周波数での発明の効果が急激に小さくなる。よって、本実施の形態においては、閉磁路170が、厚さが30μm以上、ビアホール150a,150bからの距離が500μm以下の形態を有するのが最適であることが分かる。ここで、図8Bに示した閉磁路170の幅をパラメータとしたシミュレーション結果については、閉磁路170の幅を変化させても伝送信号の通過量に急激な変化はないものの、幅が小さくなるとコモンモードノイズを遮断する効果は小さくなる。よってコモンモードノイズの遮断量が図8Bに示した各周波数で1dB以上である幅30μm以上が最適である。
【0037】
上記してきたように、本実施の形態により、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することができる。
【0038】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係わる多層プリント基板の概略構成を図9に示す。また、図9のA−A’部の断面を図10に示す。本実施の形態に係わる基本的な構成は実施の形態の1のそれと同じである。但し、本実施の形態においては、複数の磁性体層120a、120b、120cを、第1の信号層110と第2の信号層130との間に備えている。本実施の形態では、複数の磁性体層を、磁性体層120aから磁性体層120cまでの3層構成としているが、磁性体層の数は、2層以上の任意の数とすることが出来るのは言うまでもない。
【0039】
図11Aは、実施の形態1と同様の電磁界シミュレーションにおいて、閉磁路170の厚さと幅とビアホールからの距離とを一定にして、磁性体層の層数をパラーメータとして変化させた場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。また、図11Aのモデルにおいて、磁性体層の層数をパラーメータとして変化させた場合のコモンモードノイズの減衰量を、閉磁路170が無い場合との差分として示した結果を図11Bに示す。図11Bに示されるように、本実施の形態においては、磁性体層の層数に比例して、コモンモードノイズの通過量が抑制されることが分かる。これにより、閉磁路170の厚さを増やすことが出来ない場合、閉磁路170の形成された磁性体層を複数備えた本実施の形態を採用することが有効となることが分かる。
【0040】
本実施の形態においては、磁性体層を複数備えることで、実施の形態1とくらべて、単一の磁性体層に形成される閉磁路の厚さを大きくせずとも、コモンモードノイズをより効果的に抑制することができる。また、本実施の形態においては、第1の信号層と第2の信号層との間に複数の磁性体層のみならず、必要に応じて少なくとも一層の信号層が積層されても良い。
【0041】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係わる多層プリント基板の概略構成を図12に示す。本実施の形態における閉磁路1700の磁性体層の面内形状は、実施の形態1および2に示されていた正方形に限定されない。本実施の形態においては、図12に示すように、閉磁路1700の磁性体層の面内形状を環状とする。
【0042】
図13Aは、実施の形態1および2と同様の電磁界シミュレーションにおいて、閉磁路1700の幅とビアホールからの距離とを一定にして、閉磁路1700の厚みをパラーメータとして変化させた場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。また、図13Aのモデルにおいて、閉磁路1700の厚みをパラーメータとして変化させた場合のコモンモードノイズの減衰量を、閉磁路1700が無い場合との差分として示した結果を図13Bに示す。図13Bに示されるとおり、閉磁路1700の形状は本実施の形態で示した環状でも、コモンモードノイズを十分に抑制することが分かる。本実施の形態に示されたように、閉磁路1700の形状は、閉ループを形成していればどのような形状でも良い。また、ビアホールを取り囲むように形成される閉磁路1700が、同一の磁性体層に複数あるような構造でも問題はない。
【0043】
このように、本実施の形態においては、実施の形態1および2の作用効果にくわえて、基板形状およびビアホールの配置形態を考慮した閉磁路1700の形状を採用することにより、差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することができる。
【0044】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係わる多層プリント基板の断面を図14に示す。本発明における閉磁路170の形成方法が任意の形成方法でよいことは前述の通りであるが、一般に、プリント基板は誘電体層の上に導体層をパターンニングすることにより形成されるので、この製造技術を流用して簡便に磁性体層および閉磁路を実現することが求められる。
【0045】
本実施の形態に係わる多層プリント基板では、このため、図14に示されるように、誘電体層の上に形成される導体180の上に閉磁路170を積層する構成としている。本実施の形態における当該構成は、実施の形態1から3までの全てに適用可能であり、本実施の形態により、磁性体層における閉磁路の形成を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の技術を示す特許文献1の図である。
【図2】従来の技術を示す特許文献2の図である。
【図3】従来の技術を示す特許文献3の図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図5】図4のA−A’部の断面を示す図である。
【図6A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図6B】図6Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図7A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図7B】図7Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図8A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図8B】図8Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図10】図9のA−A’部の断面を示す図である。
【図11A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図11B】図11Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図13A】実施の形態3の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図13B】図13Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態4に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
100…多層プリント基板
110…第1の信号層
120、120a、120b、120c…磁性体層
130…第2の信号層
140a、140b…第1の信号配線
150a、150b…ビアホール
160a、160b…第2の信号配線
170、170a、170b、170c、1700…閉磁路
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速デジタル信号伝送を行う多層プリント基板に関し、特に多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することにより、フィルタが一体構成される多層プリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今における、コンピュータに代表される電子情報機器の動作速度の高速化に伴い、LSI間で、GHzを越える高い周波数のデジタル信号を伝送する必要が生じている。このため、複数のLSIそれぞれの信号配線を伝搬する信号が相互に干渉することなく正確に伝送されることが要求されている。
【0003】
上記要求に対する解決法の一つとして、2本の伝送線路を対にして、それぞれを逆位相で動作させることにより、外来ノイズの影響を受けにくくした差動信号伝送方式が広く用いられている。しかしながら、外来ノイズやその他の原因で2本の伝送線路が同相で動くコモンモードノイズなどが差動伝送線路に重畳されると、差動信号伝送方式といえども正確に信号伝送を行うことが出来なくなる。
【0004】
このため、例えば特許文献1では、図1(a)〜(c)に示されるように、差動伝送線路を磁性体からなるコモンモードフィルタに貫通させることで、コモンモードノイズを除去する手法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、図2に示されるように、プリント基板上に磁性体からなるコモンモードチョークコイルを形成することで、コモンモードノイズを除去する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に開示された技術は、プリント基板に対応させて提案の行われた技術ではないので、提案内容そのままの形態ではプリント基板の内蔵型フィルタとして使用することは出来ない。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術は、プリント基板に対応させて提案の行われた技術であるものの、以下に示すような問題がある。第1の問題点は、プリント基板の一部を切削して除去する必要があるということである。このため、プリント基板の製造工程が複雑となり、コストアップにつながってしまう。第2の問題点は、閉磁路を形成する為にプリント基板上にも磁性体を積載する必要が生じるということである。これにより、プリント基板上に磁性体が凸型形状に露出することになり、ノートパソコンや携帯電話など部品を高密度に実装する必要のある用途には、この技術を適用することが困難となる。第3の問題点は、コモンモードノイズはマイクロストリップ線路とビアといったような信号線路のインピーダンスの不連続点にて発生することが知られており、本技術のように配線パターンとビアとが繰り返されると、逆にコモンモードノイズを発生させてしまう恐れがあることである。
【0007】
また、特許文献3に開示された技術は、図3に示されるように、チョークコイルおよびインダクタに関するものであるが、特許文献2に開示された技術とは異なり、プリント基板内に磁性体を内蔵しており、磁性体が基板上に凸型に飛び出ることはない。しかしながらこの技術にもいくつかの問題点がある。第1の問題点は、埋め込んだ磁性体を巻き回すように導体が形成されているために、この技術を高速信号伝送に適用した場合、巻き回すことにより線路長が増大する事に起因して、信号の遅延や減衰が生じてしまう。高速信号伝送ではGHzを越えるような高い周波数成分を信号伝送に使用するが、高周波になるほど信号は減衰し易いので、線路長が長いことは大きな問題になる。第2の問題点は、特許文献2に開示された技術と同様に、配線パターンとビアの繰り返し構造では、コモンモードノイズが発生してしまう恐れがあることである。
【0008】
また、特許文献4に開示された技術は、磁性体からなる電磁遮蔽層が基板中に形成されるものであるが、磁性体層とは異なる層にある信号配線パターンのノイズを低減しようとしているため、ノイズを低減したい信号配線領域と同じかそれ以上の面積の電磁遮蔽層が必要となり、高密度実装の妨げとなってしまう。また、ビアのような基板に垂直方向の信号配線に対する電磁遮蔽は考慮されていない。
【0009】
また、特許文献5に開示された技術は、ビアに磁性体を設けた構造となっているが、特許文献4に開示された技術が指摘するようなスルーホールメッキ時の課題が解決されていない。また昨今では、基板厚が3mm程度のプリント基板に直径が0.25mmのドリルにて穴を開け、その後スルーホールメッキを行う、という工程が普通に使用されている。このプリント基板に特許文献5の技術を適用する場合、外形が0.25mmで長さが3mmのチューブ状の磁性体をプリント基板に挿入する必要がある。更にその後にチューブ状の磁性体の内面をメッキする必要がある。こうした技術は現在のプリント基板製造技術では非常に難しく、製造コストの増加に繋がる。
【0010】
また、このような技術に関連して、特開平11−163221号公報に開示されている「配線基板」では、厚み方向に複数個の貫通孔を有する絶縁基体と、貫通孔内に充填され、一端が絶縁基体の上面に導出されて半導体素子の電極が接続される上部接続パッドを形成し、他端が絶縁基体の下面に導出されて外部電気回路基板の配線導体が接続される下部接続パッドを形成する複数個の配線層とから成る配線基板であって、絶縁基体は、Li2 Oを5〜30重量%含有する屈伏点が400〜800℃のリチウム珪酸ガラスを20〜80体積%と、クオーツ、クリストバライト、トリジマイト、エンスタタイト、フォルステライトの少なくとも1種から成るフィラー成分を20〜80体積%の割合で含む形成体を焼成して得られたクオーツ、クリストバライト、トリジマイト、エンスタタイトの少なくとも1種の結晶相を含有する焼結体から成り、かつ少なくとも貫通孔周辺に磁性材料が含有されている配線基板が提案されている。
【0011】
【特許文献1】特許第3431496号公報
【特許文献2】特開2005−005442号公報
【特許文献3】特開2004−235596号公報
【特許文献4】特開平10−303563号公報
【特許文献5】特開平01−201985号公報
【特許文献6】特開平11−163221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用する括弧付き符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであるが、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0014】
本発明の多層プリント基板(100)は、差動信号配線を形成する第1信号配線対(140a、140b)の形成された第1の信号層(110)と、差動信号配線を形成する第2信号配線対(160a、160b)の形成された第2の信号層(130)と、第1の信号層と第2の信号層との間に積層される磁性体層(120)とを備え、第1信号配線対と第2信号配線対とは、それぞれビアホール(150a、150b)により電気的に接続され、磁性体層には、ビアホールを取り囲むように、磁性体部材による閉磁路(170)が形成される。
【0015】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体層(120a、120b、120c)は、複数である。
【0016】
また、本発明の多層プリント基板(100)は、第1の信号層(110)と第2の信号層(130)との間に、さらに信号配線の形成される信号層を備える。
【0017】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体層(120)に形成される閉磁路(170)は複数である。
【0018】
また、本発明の多層プリント基板において、閉磁路(170)は、誘電体層上に形成される導体パターン(180)の上に積層されることにより構成される。
【0019】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、磁性体部材は、Ni−Znフェライトである。
【0020】
また、本発明の多層プリント基板(100)において、閉磁路(170、1700)の厚さ、幅、および形状の設定に応じて、差動信号配線(140a、150a、160a、140b、150b、160b)を伝搬するコモンモードノイズの減衰量が調整される。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することができる。
【0022】
これによる本発明の第1の効果は、閉磁路を多層プリント基板の構成層である磁性体層に形成することで、プリント基板に削りなどの追加工をすることなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することができる。
【0023】
また、本発明の第2の効果は、多層プリント基板とは別に製造した磁性体を多層プリント基板に挿入することなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することが出来る。
【0024】
また、本発明の第3の効果は、閉磁路を多層プリント基板の構成層である磁性体層に形成することで、多層プリント基板上の実装面積を占有することなく、また基板の高さ方向に部品を実装することなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することができる。
【0025】
また、本発明の第4の効果は、磁性体を信号線路が巻く形態ではなく、磁性体の閉磁路により信号線路を巻く形態とすることで、信号線路長を長くすることなく、多層プリント基板内部にフィルタを構成することが出来る。
【0026】
また、本発明の第5の効果は、マイクロストリップ線路などと、ビアとの信号配線の不連続部にフィルタを形成することで、差動信号線路に生じるコモンモードノイズを発生源近くで除去することが出来、他の回路部分へ当該ノイズが伝搬する事による悪影響を抑えることが出来る。
【0027】
また、本発明の第6の効果は、多層プリント基板の垂直方向の信号伝送路に対するフィルタ効果を可能とすることが出来る。また、ビア周辺部における最小限の磁性体の配置のみで、信号の垂直伝送路のフィルタリングを可能とし、高密度実装を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
添付図面を参照して、本発明による多層プリント基板を実施するための最良の形態を以下に説明する。
【0029】
本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板の概略構成を図4に示す(本構成は実施の形態1に対応)。本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板100は、第1の信号配線140a、140bの形成された第1の信号層110と、第2の信号配線160a、160bの形成された第2の信号層130とを含めた少なくとも3層以上の積層プリント基板を備えている。また、第1の信号層と第2の信号層との間には、磁性体部材によるパターンの形成された磁性体層120を有している。さらに、第1の信号層110に形成される第1の信号配線140a、140bと、第2の信号層に形成される第2の信号配線160a、160bとは、それぞれビアホール150a、150bによって電気的に接続されている。そして、当該ビアホール150a、150bを取り囲むように、磁性体部材により構成される閉磁路170が、磁性体層120に印刷などの方法により形成される。
【0030】
本発明の実施の形態に係わる多層プリント基板においては、上記したように磁性体層120に形成される閉磁路170を貫通するように、第1の信号配線140aとビア150aと第2の信号配線160aと、第1の信号配線140bとビア150bと第2の信号配線160bとからなる一連の信号線路対が形成されることにより、多層プリント基板内部に磁性体によるフィルタが一体形成される。本願の多層基板において一連の信号線路対に同相信号が流れた場合、同相信号をうち消すような磁束が閉磁路170に生成されることにより、一連の信号線路対において同相信号をうち消すフィルタ、つまりコモンモードフィルタとしての機能を備える。一方、一連の信号線路対に差動信号が流れた場合には、作動信号をうち消すような磁束は生成されず、差動信号はこのフィルタをそのまま通過することが出来る。
【0031】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板について、図4および図5を用いて詳細に説明する。図4は、本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板の斜視図である。図5は、図4のA−A’面での断面を示す図である。本実施の形態に係わる多層プリント基板100は、少なくとも3層により構成される多層プリント基板である。プリント基板100は、最上層に配置される第1の信号層110と、最下層に配置される第2の信号層130と、第1の信号層110と第2の信号層130との間に配置される磁性体層120とを備えている。第1の信号層110には信号配線140a、140bが、そして、第2の信号層130には信号配線160a、160bがそれぞれ形成されている。第1の信号層110の信号配線140a、140bと、第2の信号層130の信号配線160a、160bとは、それぞれビアホール150a、150bにより電気的に接続されている。図4においては、信号配線140a、140b、160a、160bの終端にはそれぞれ何も接続されていないが、実際の回路では、他の回路部品や配線などが接続される。
【0032】
本実施の形態に係わる多層プリント基板100においては、第1の信号層110と第2の信号層130との間に磁性体層120を備えており、磁性体層120には、上記ビアホール150a、150bが設けられている。磁性体層120では、ビアホール150aと150bとを囲むように閉磁路170が形成されている。閉磁路170の形成方法の例としてスクリーン印刷を挙げることが出来るが、閉磁路170の形成方法としては、磁性体層120上に磁性体で閉磁路170を形成できる方法であればスクリーン印刷に限定されることはない。
【0033】
図4では、一連の配線140a、150a、160aと、140b、150b、160bとが1対の配線を構成しており、これが差動信号線路として機能する。この差動信号線路に差動信号を伝送する際、外部から当該差動信号にコモンモードノイズが重畳されることがある。また、当該差動信号線路においては、信号線路140a、140bと、160a、160bとが、それぞれビアホール150a、150bにより接続されている為、信号線路とビアホールとの接続部においてコモンモードノイズが発生しやすい。コモンモードノイズは、差動信号線路を同相にて振動させる為、正確な信号伝送を妨げることがある。
【0034】
本実施の形態においては、信号配線であるビアホール150aおよび150bを取り囲むように閉磁路170が形成されているため、同相信号が伝送される場合には、これをうち消す機能を備えている。一方、差動信号線路に差動信号が伝送されている場合には、閉磁路170は差動信号に対してほとんど影響を及ぼさない。これは、同相信号が差動信号線路を伝送する場合、この同相信号をうち消すような磁界が閉磁路170上に発生する為である。一方、差動信号が差動信号線路を伝送する場合、このような磁界は発生しない。よって、本実施の形態においては、当該閉磁路がコモンモードフィルタとして作用する。
【0035】
次に、本実施の形態が実際のコモンモードフィルタとしての効果を有するシミュレーション結果を、図6A〜図8Bに示す。図6Aは、図4に示される本実施の形態において、磁性体層120に形成される閉磁路170の幅とビアホールからの距離を一定にして、閉磁路170の高さ方向の厚みをパラメータとして変化させた時の電磁界シミュレーションのモデルを示すものである。このシミュレーションモデルに基づいて行われたシミュレーション結果を図6Bに示す。図6Bは、閉磁路170の高さ方向の厚みをパラメータとして変化させた時に、コモンモードフィルタとしての効果が、閉磁路170を備えない場合と比較してどのように変化するかを示したものである。図6Bの縦軸がコモンモードノイズの透過量、横軸が閉磁路170の厚さである。透過量が負の値であるので、図の下へ行くほど減衰量が大きいことを表している。本シミュレーションでは磁性体の一例としてNi−Znフェライトをフェライトメッキ法で作成した場合を想定し、複素透磁率の虚数項=20、また、層間に介在する誘電体の比誘電率を4.4として計算を行った。本シミュレーションにおいては、比誘電率4.4、比透磁率20を用いているが、実際の多層基板において当該数値は、最適な使用部材の有する物性値に対応して変化する。同様に、図7Aは、閉磁路170の厚さと幅とを一定にして、ビアホールと閉磁路170との距離をパラーメータとして変化させる場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。図7Aのモデルにおいて、ビアホールと閉磁路170との距離をパラーメータとして変化させた場合のシミュレーション結果を図7Bに示す。また、図8Aは、閉磁路170の厚さとビアホールからの距離とを一定にして、閉磁路170の幅をパラメータして変化させた場合のシミュレーションモデルを示す。図8Aのモデルにおいて、閉磁路170の幅をパラメータとして変化させた場合のシミュレーション結果を図8Bに示す。図6B、図7Bおよび図8Bに示したシミュレーション結果は、それぞれ本実施の形態が閉磁路170を備えない場合と比較して、どれだけコモンモードノイズを抑制することが出来るかを差分値として示したものである。
【0036】
本発明における伝送信号は、主として、1GHz以上の周波数を有するデジタル信号を対象としており、信号自身はもとより、それらの高調波成分に至るまでの周波数帯域において、伝送信号に対するコモンモードノイズの重畳を抑制することを目的としている。このような目的から考えると、図6B、図7Bおよび図8Bに示されるシミュレーション結果から、本実施の形態が、閉磁路170を備えない場合と比較して、当該周波数帯域において効果的にコモンモードノイズを抑制することが判る。しかし、図6Bに示されるように、閉磁路170の厚さが30μmよりも薄くなると、急激に発明の効果が小さくなる。同様に、図7Bでは、閉磁路170とビアホール150a、150bとの距離が500μmを越えると、高い周波数での発明の効果が急激に小さくなる。よって、本実施の形態においては、閉磁路170が、厚さが30μm以上、ビアホール150a,150bからの距離が500μm以下の形態を有するのが最適であることが分かる。ここで、図8Bに示した閉磁路170の幅をパラメータとしたシミュレーション結果については、閉磁路170の幅を変化させても伝送信号の通過量に急激な変化はないものの、幅が小さくなるとコモンモードノイズを遮断する効果は小さくなる。よってコモンモードノイズの遮断量が図8Bに示した各周波数で1dB以上である幅30μm以上が最適である。
【0037】
上記してきたように、本実施の形態により、多層プリント基板の磁性体層に設けられる信号ビアを取り囲むように閉磁路を形成することによりフィルタを一体構成し、高速デジタル信号伝送を行う差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することのできるシンプル且つコンパクトな構成を備えた多層プリント基板を提供することができる。
【0038】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係わる多層プリント基板の概略構成を図9に示す。また、図9のA−A’部の断面を図10に示す。本実施の形態に係わる基本的な構成は実施の形態の1のそれと同じである。但し、本実施の形態においては、複数の磁性体層120a、120b、120cを、第1の信号層110と第2の信号層130との間に備えている。本実施の形態では、複数の磁性体層を、磁性体層120aから磁性体層120cまでの3層構成としているが、磁性体層の数は、2層以上の任意の数とすることが出来るのは言うまでもない。
【0039】
図11Aは、実施の形態1と同様の電磁界シミュレーションにおいて、閉磁路170の厚さと幅とビアホールからの距離とを一定にして、磁性体層の層数をパラーメータとして変化させた場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。また、図11Aのモデルにおいて、磁性体層の層数をパラーメータとして変化させた場合のコモンモードノイズの減衰量を、閉磁路170が無い場合との差分として示した結果を図11Bに示す。図11Bに示されるように、本実施の形態においては、磁性体層の層数に比例して、コモンモードノイズの通過量が抑制されることが分かる。これにより、閉磁路170の厚さを増やすことが出来ない場合、閉磁路170の形成された磁性体層を複数備えた本実施の形態を採用することが有効となることが分かる。
【0040】
本実施の形態においては、磁性体層を複数備えることで、実施の形態1とくらべて、単一の磁性体層に形成される閉磁路の厚さを大きくせずとも、コモンモードノイズをより効果的に抑制することができる。また、本実施の形態においては、第1の信号層と第2の信号層との間に複数の磁性体層のみならず、必要に応じて少なくとも一層の信号層が積層されても良い。
【0041】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係わる多層プリント基板の概略構成を図12に示す。本実施の形態における閉磁路1700の磁性体層の面内形状は、実施の形態1および2に示されていた正方形に限定されない。本実施の形態においては、図12に示すように、閉磁路1700の磁性体層の面内形状を環状とする。
【0042】
図13Aは、実施の形態1および2と同様の電磁界シミュレーションにおいて、閉磁路1700の幅とビアホールからの距離とを一定にして、閉磁路1700の厚みをパラーメータとして変化させた場合の電磁界シミュレーションモデルを示す。また、図13Aのモデルにおいて、閉磁路1700の厚みをパラーメータとして変化させた場合のコモンモードノイズの減衰量を、閉磁路1700が無い場合との差分として示した結果を図13Bに示す。図13Bに示されるとおり、閉磁路1700の形状は本実施の形態で示した環状でも、コモンモードノイズを十分に抑制することが分かる。本実施の形態に示されたように、閉磁路1700の形状は、閉ループを形成していればどのような形状でも良い。また、ビアホールを取り囲むように形成される閉磁路1700が、同一の磁性体層に複数あるような構造でも問題はない。
【0043】
このように、本実施の形態においては、実施の形態1および2の作用効果にくわえて、基板形状およびビアホールの配置形態を考慮した閉磁路1700の形状を採用することにより、差動伝送線路に重畳されるコモンモードノイズを効率良く抑制することができる。
【0044】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係わる多層プリント基板の断面を図14に示す。本発明における閉磁路170の形成方法が任意の形成方法でよいことは前述の通りであるが、一般に、プリント基板は誘電体層の上に導体層をパターンニングすることにより形成されるので、この製造技術を流用して簡便に磁性体層および閉磁路を実現することが求められる。
【0045】
本実施の形態に係わる多層プリント基板では、このため、図14に示されるように、誘電体層の上に形成される導体180の上に閉磁路170を積層する構成としている。本実施の形態における当該構成は、実施の形態1から3までの全てに適用可能であり、本実施の形態により、磁性体層における閉磁路の形成を容易にする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来の技術を示す特許文献1の図である。
【図2】従来の技術を示す特許文献2の図である。
【図3】従来の技術を示す特許文献3の図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図5】図4のA−A’部の断面を示す図である。
【図6A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図6B】図6Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図7A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図7B】図7Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図8A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図8B】図8Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図10】図9のA−A’部の断面を示す図である。
【図11A】実施の形態1の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図11B】図11Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態3に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【図13A】実施の形態3の効果を示すシミュレーションモデルを示す図である。
【図13B】図13Aに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態4に係わる多層プリント基板の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
100…多層プリント基板
110…第1の信号層
120、120a、120b、120c…磁性体層
130…第2の信号層
140a、140b…第1の信号配線
150a、150b…ビアホール
160a、160b…第2の信号配線
170、170a、170b、170c、1700…閉磁路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動信号配線を形成する第1信号配線対の形成された第1の信号層と、
差動信号配線を形成する第2信号配線対の形成された第2の信号層と、
前記第1の信号層と前記第2の信号層との間に積層される磁性体層と
を具備し、
前記第1信号配線対と前記第2信号配線対とは、それぞれビアホールにより電気的に接続され、前記磁性体層には、前記ビアホールを取り囲むように、磁性体部材による閉磁路が形成される多層プリント基板。
【請求項2】
請求項1に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体層は、複数である多層プリント基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多層プリント基板において、
前記第1の信号層と前記第2の信号層との間に、さらに信号配線の形成される信号層を備えた多層プリント基板。
【請求項4】
請求項1から3までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体層に形成される前記閉磁路は複数である多層プリント基板。
【請求項5】
請求項1から4までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記閉磁路は、誘電体層上に形成される導体パターンの上に積層されることにより構成される多層プリント基板。
【請求項6】
請求項1から5までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体部材は、Ni−Znフェライトである多層プリント基板。
【請求項7】
請求項1から6までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記閉磁路の厚さ、幅、および形状の設定に応じて、前記差動信号配線を伝搬するコモンモードノイズの減衰量が調整される多層プリント基板。
【請求項1】
差動信号配線を形成する第1信号配線対の形成された第1の信号層と、
差動信号配線を形成する第2信号配線対の形成された第2の信号層と、
前記第1の信号層と前記第2の信号層との間に積層される磁性体層と
を具備し、
前記第1信号配線対と前記第2信号配線対とは、それぞれビアホールにより電気的に接続され、前記磁性体層には、前記ビアホールを取り囲むように、磁性体部材による閉磁路が形成される多層プリント基板。
【請求項2】
請求項1に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体層は、複数である多層プリント基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多層プリント基板において、
前記第1の信号層と前記第2の信号層との間に、さらに信号配線の形成される信号層を備えた多層プリント基板。
【請求項4】
請求項1から3までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体層に形成される前記閉磁路は複数である多層プリント基板。
【請求項5】
請求項1から4までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記閉磁路は、誘電体層上に形成される導体パターンの上に積層されることにより構成される多層プリント基板。
【請求項6】
請求項1から5までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記磁性体部材は、Ni−Znフェライトである多層プリント基板。
【請求項7】
請求項1から6までの少なくとも一項に記載の多層プリント基板において、
前記閉磁路の厚さ、幅、および形状の設定に応じて、前記差動信号配線を伝搬するコモンモードノイズの減衰量が調整される多層プリント基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【公開番号】特開2007−220849(P2007−220849A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38884(P2006−38884)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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