説明

多層プロトン交換膜および膜電極アセンブリの調製方法

【課題】構造強度を保持する多層プロトン交換膜および膜電極アセンブリの調製方法を提供する。
【解決手段】多層プロトン交換膜(PEM)およびこのPEMを含む膜電極アセンブリ(MEA)の調製方法であり、(a)塗布に使える表面を有する、基材に接着したイオノマーの膜を含む物品を準備するステップ、(b)イオノマーの膜の表面に分散液または溶液を塗付するステップ、(c)分散液または溶液を乾燥して基材に接着した多層PEMを形成するステップ、および(d)多層PEMを基材から取り外すステップを含む。さらに、上記方法で作成した多層PEMを用いたMEAを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プロトン交換膜および膜電極アセンブリの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、電解槽、塩素−アルカリ電池などを含めた電気化学装置は一般に、膜電極アセンブリ(MEA)と呼ばれるユニットから構築されている。典型的な化学電池ではそのMEAは、陰電極層および陽電極層と接し、PtまたはPdなどの触媒材料を含むプロトン交換膜(PEM)を含んでいる。PEMは、陽極で形成されるプロトンを陰極へ運ぶ固体電解質として働き、電子の流れを電極に接続した外部回路に流す。PEMは、電子の導通または反応物ガスの通過を許してはならず、かつ通常の作動条件下でその構造強度を保持しなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一態様において本発明は、多層PEMの調製方法を特徴とする。このようなPEMが望ましい理由は、特定の化学的および/または物理的特性を有する膜を生成するようにその個々の層の数と独自性を個別仕様に合わせることができるためである。この方法には、(a)塗布に使える表面を有し、基材に接着したイオノマー含有層を含む物品を準備するステップ、(b)この膜の表面に分散液または溶液(例えばイオノマーの分散液または溶液)を塗付するステップ、(c)この分散液または溶液を乾燥して基材に接着した多層PEMを形成するステップ、および(d)基材から多層PEMを取り外すステップが含まれる。塗付のステップの間にこの基材に接着したイオノマー含有層は、分散液または溶液から溶剤を吸収し膨潤する。基材に接着している間にイオノマー含有層に分散液または溶液を塗付することによって、その層は独立してではなく主に層面に垂直な方向に膨潤するという制約を受ける。これは、基材不在の場合に起こる恐れのある、また膜の性能を損なう恐れのある皺、裂け、むら、および他の欠陥をできるだけ少なくする。
【0004】
この方法の別の用途には、PEMが基材に接着され、触媒溶液または分散液がそのPEMの露出面に塗付されるMEAおよびMEA前駆体の調製が含まれる。乾燥すると触媒は電極層を形成する。この構造体を第二電極層と組み合わせるとMEAが得られる。この方法は、皺、裂け、および制約を受けない膨潤に起因する他の欠陥をできるだけ少なくすると同時に、イオン結合性および最高の燃料電池性能にとって重要な触媒と電極の間の密着を実現する。
【0005】
本発明はまた、多層PEMおよびこのようなPEMを組み込んだMEAを特徴とする。例えば一実施形態ではこのPEMは複数層の層を含み、その少なくとも1層がイオノマーで、かつ全体の乾燥厚さが2ミル(50ミクロン)未満である。好ましくは個々の層の各厚さが1.5ミル(37.5ミクロン)以下、より好ましくは1ミル(25ミクロン)以下である。
【0006】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細を添付図面および下記の説明で述べる。本発明の他の特徴、目的、および利点は、この説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のMEAの分極曲線を示す。
【図2】実施例2のMEAの分極曲線を示す。
【図3】実施例3のMEAの分極曲線を示す。
【図4】実施例4のMEAの分極曲線を示す。
【図5】実施例5のMEAの分極曲線を示す。
【図6】実施例6のMEAの分極曲線を示す。
【図7】実施例7のMEAの分極曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
多層PEMは、基材に接着したイオノマー含有層の表面に溶液または分散液、好ましくはイオノマーを含む溶液または分散液をコーティングし、続いて乾燥して溶剤を除去することにより調製される。この方法は、所望の数の層を有するPEMを生成するために必要に応じて多数回繰り返すことができる。
【0009】
このイオノマー含有層は、単に基材上に載っているのではなく、後続の層の塗布および乾燥の間ずっと基材に接着している。接着は、複数の注型または塗布の方法を含めた周知の方法を用いてイオノマーの溶液または分散液を基材に塗付することによって達成することができる。例えばイオノマーの溶液または分散液を基材上に、手で塗付または手で刷毛塗り、ナイフコーティング、ロールコーティング、浸漬またはカーテンコーティング、ダイコーティング、スピンコーティング、押出、あるいはスロットコーティングすることができる。別法では予備成形フィルムを、例えば積層によって基材に貼り付けることができる。しかしながらその特定の塗付技術に関係なくイオノマー含有層の基材への接着は、その層が塗布の間に溶剤を吸収するとき、主として層面に垂直な方向に膨潤するように制約を受け、それによって皺、裂けなどを防止するのに十分な強さであるべきである。しかしながら塗布方法の終りにイオノマー含有層は、基材からきれいに剥がすことができなければならない。
【0010】
この基材は多孔質でも、また実質的に非多孔質でもよい。好適な基材には、ガラスおよびポリマーフィルム、例えばポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ナイロン、ポリイミド、ポリプロピレンなどから作られるフィルムなどが挙げられる。多層基材もまた用いることができる。
【0011】
イオノマー含有層に有用なイオノマーは、好ましくはフィルム形成性ポリマーであるが、非フィルム形成性ポリマーであってもよい。それらは部分フッ素化、より好ましくは完全フッ素化を含め、フッ素化することができる。それらはホスホニル、より好ましくはカルボニル、また最も好ましくはスルホニルなどのペンダント酸基を含有することができる。他の有用なフッ化炭化水素型イオノマーには、一般式(I)、CH2=CH−Ar−SO2−N-−SO2(C1+n3+2n)を有するアリールペルフルオロアルキルスルホニルイミドカチオン交換基を含有するオレフィンのコポリマーがある。式中、nは0〜11、好ましくは0〜3、最も好ましくは0であり、またArは任意の置換または非置換二価アリール基、好ましくは単環式のもの、最も好ましくは本明細書中でフェニルと呼ぶ二価フェニル基である。Arには、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン、フルオレン、シクロペンタジエン、およびピレンを含めた任意の置換または非置換芳香族部分を挙げることができ、これらの分子部分は好ましくは分子量が400以下、より好ましくは100以下である。Arは、本明細書で範囲を定める任意の基で置換することができる。このような樹脂の一つはp−STSI、すなわち式(II)、スチレニル−SO2-−SO2CF3を有するスチレニルトリフルオロメチルスルホニルイミド(STSI)のラジカル重合から得られるイオン伝導性材料である。最も好ましくはこのイオノマーは、ペンダントスルホン酸基を有するフィルム形成性フルオロポリマーである。好ましいフィルム形成性フルオロポリマーには、ナフィオン(NAFION)(デラウェア州ウィルミントンのデュポン(DuPont,Wilmington,DE))、フレミオン(FLEMION)(日本国東京の旭ガラス株式会社(Asahi Glass Co.Ltd.,Tokyo,Japan))などのペンダントスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレンコポリマー、ならびにテトラフルオロエチレンと、加水分解してスルホン酸を形成する式(III)、CF2=CF−O−(CF22−SO2Fを有するフッ化スルホニルモノマーとのコポリマーが挙げられる。また、例えばハムロック(Hamrock)らの米国特許第6,277,512号明細書に記載のブレンド物も使用することができる。
【0012】
PEMを形成するために最初のイオノマー含有層に塗付される層の数と独自性は、所望のPEMの化学的および物理的特性の関数である。例えば追加の層の1つまたは複数の層がイオノマー層であることができる。好適なイオノマーの例は上記のとおりである。これらのイオノマーは、最初のイオノマーと同一でも異なっていてもよい。例えば、それぞれが同じ化学組成だが異なる分子量を有する複数イオノマー層を形成することもできる。
【0013】
これらの層の1つまたは複数の層は、そのPEMの機械的、熱的、および/または化学的特性を改良するように選択された添加剤を含むことができる。好ましくはこれらの添加剤は熱に安定であり、かつ導電性でない。例えばPEMの機械強度は、そのPEMの1つまたは複数の層中に補強性粒子を混ぜることにより向上させることができる。好適な補強性粒子の例には、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニアなどの金属酸化物が挙げられる。このような充填剤および親水性添加剤はまた、PEMの水和特性を改良するためにそのPEMの1つまたは複数の層に組み込むことができる。例えば窒化ホウ素などの他の充填剤はPEMの熱伝導率を向上させるために用いることができ、一方チタン酸ホウ素はPEMの誘電率を増すことができる。ハムロック(Hamrock)らの米国特許第6,277,512号明細書に記載のようにヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンのコポリマーなどのフルオロポリマー充填剤もまた、これらの層の1つまたは複数の層に含めることができる。
【0014】
PEMの機械強度はまた、その構造体の1つまたは複数の層に架橋済みまたは架橋可能なポリマーを練り込むことにより向上させることもできる。好適な架橋済みまたは架橋可能なポリマーの例は、ハムロック(Hamrock)らの米国特許第6,277,512号明細書に記載されている。このポリマーは、熱または放射線架橋(例えば紫外線または電子線)および架橋剤の使用による架橋などの任意の周知の技術により架橋することができる。このポリマーはイオノマー膜に組み込む前に架橋することも、また膜に組み込んだ後にその場で架橋することもできる。
【0015】
また、これらの層の1つまたは複数の層は多孔質材料を含むこともできる。多孔質材料は、例えばポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン)、ポリアミド、ポリカーボネート、セルロース誘導体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリラート、ハロゲン化ポリマー(例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフルオロポリマー)、およびこれらの適切な組合せを含めた任意の適切なポリマーから作ることができる。織物および不織布の両方の材料もまた使用することができる。
【0016】
PEMの調製に加えてこの方法を用いて基材に接着したPEMを取得し、そのPEMの露出面に触媒溶液または分散液を塗付し、続いて乾燥して電極層を形成することによってMEAを調製することができる。しばしば「インク」と呼ばれるこの溶液または分散液は、バインダーポリマーと組み合わせた導電性触媒粒子(例えば白金、パラジウム、および炭素粒子上に担持された(Pt−Ru)Ox)を含む。この触媒インクは、ナイフまたはブレードによる展着、刷毛塗り、注入、吹付け、または注型を含めた任意の適切な技術により膜の表面に付着させることができる。この被膜は、繰返し塗付することにより所望の厚さまで厚くすることができる。
【0017】
電極層の一方または両方をこの方法に従ってPEMに貼り付けることができる。別法では電極層の一方を「転写」方法によって直接膜上に付着させることもできる。転写方法の一実施形態では第一触媒層を上記のとおり膜上にコーティングし、次いで第二触媒層を転写によって貼り付ける。転写方法の別の実施形態では触媒インクを基材上に塗布、塗装、吹付け、またはスクリーン印刷し、溶剤を除去する。次いで得られた転写物を後に基材から膜面に移し取り、一般に熱と圧力を加えることにより接着させる。
【実施例】
【0018】
触媒分散液
炭素に担持された触媒粒子(この触媒金属は、陰極に使用するためのPtまたは陽極に使用するためのPtプラスRuのいずれかである)を、ナフィオン(NAFION)1100(デラウェア州ウィルミントンのデュポン(DuPont,Wilmington,DE))の水性分散液中に分散させ、得られた分散液を標準磁気攪拌棒を用いて攪拌しながら100℃で30分間加熱する。次いでこの分散液を冷却し、続いてハンディシェア(HANDISHEAR)ハンドヘルドスターラー(ニューヨーク州ガーディナーのバーチス・カンパニー(Virtis Co.,Gardiner,NY))を用いて30,000rpmで高せん断攪拌を5分間行って触媒分散液を形成する。
【0019】
ガス拡散層および触媒塗布ガス拡散層
厚さ0.2mmの東レカーボン紙(カタログ番号TGP−H−060、日本国東京の東レ株式会社(Toray Industries,Inc.,Tokyo,Japan))の試料を、約1%のテフロン(商標)固形物の分散液(T−30という呼称でデラウェア州ウィルミントンのデュポン(DuPont,Wilmington,DE)から入手できる固形物60%の水性分散液を希釈することにより調製される)中に手で浸漬し、次いで50〜60℃のエアオーブン中で乾燥して水を追い出し、ガス拡散層(GDL)を形成する。
【0020】
このGDLを次のようにカーボンブラック分散液でコーティングする。水に溶かしたバルカン(VULCAN)(商標)X72カーボンブラック(マサチューセッツ州ウォルサムのキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.,Waltham,MA))の分散液を、7.6cmの羽根を備えたロス(Ross)ミキサー(ニューヨーク州ホーポージのチャールズ・ロス・アンド・ソン・カンパニー(Charles Ross & Son Co.,Hauppauge,NY))を用いた4500rpmの高せん断混合下で調製する。別個の容器中でテフロン(商標)(T−30、デラウェア州ウィルミントンのデュポン(DuPont,Wilmington,DE))の水性分散液を脱イオン水で固形物5%に希釈する。次いでカーボンブラック分散液をこのテフロン(商標)分散液に攪拌しながら加える。得られた混合物を真空下で濾過して、水、テフロン(商標)、およびカーボンブラックの固形物約20%の混合物である濃縮水を形成する。この糊状の混合物を約3.5重量%の界面活性剤(トリトン(TRITON)X−100、コネチカット州ダンベリーのユニオン・カーバイド・コーポレーション(Union Carbide Corp.,Danbury,CT))で処理し、続いてイソプロピルアルコール(IPA、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Co.,Milwaukee,WI))をIPA対ペーストのw/w比が1.2:1になるように加える。この希釈した混合物を再度、3枚羽根バーサミキサー(VERSAMIXER)(ニューヨーク州ホーポージのチャールズ・ロス・アンド・ソン・カンパニー(Charles Ross & Son Co.,Hauppauge,NY)、アンカーブレード80rpm、ディスパセータ7000rpm、およびロータステータ乳化機5000rpm)を用いた高せん断で10℃で50分間攪拌する。
【0021】
こうして得られた分散液を、ノッチバーコータを用いて乾燥した東レカーボン紙上に湿潤厚さ約0.050mmでコーティングする。このコーティングした紙を23℃で夜通し乾燥してIPAを除去し、続いて380℃で10分間オーブン乾燥して厚さ約0.025mm、坪量(カーボンブラックとテフロン(商標)の和)約15g/m2のカーボン塗布GDLを生成する。
【0022】
このカーボン塗布GDLに1平方センチメートル当たり触媒金属0.5mgを与えるのに十分な量で上記触媒分散液を手で刷毛塗りし、乾燥して触媒塗布ガス拡散層(CCGDL)を形成する。
【0023】
燃料電池性能の評価
MEAを試験電池台(ニューメキシコ州アルバカーキーのヒューエル・セル・テクノロジース・インコーポレーテッド(Fuel Cell Technologies,Inc.,Albuquerque,NM))に装着する。この試験台は、ガス流、圧力、および湿度を制御するために独立したアノードおよびカソードガス操作システムによる可変電子負荷装置を含む。この電子負荷装置およびガス流はコンピュータ制御される。燃料電池の分極曲線は次の試験パラメータ、すなわち電極面積50cm2、電池温度70℃、アノードガス圧0psig、アノードガス流量800sccm、カソードガス圧0psig、カソード流量1800sccmの下で得られる。陰極および陽極の加湿は蒸気の噴射によって得られ(インジェクター温度140℃)、夜通し平衡させて実施例1〜5では陰極および陽極で100%RHにし、また実施例6〜7では陽極で120%RH、陰極で100%RHにする。
【0024】
各燃料電池は、水素および空気の流れの下で70℃で作動条件に至らせる。試験計画を作動の12時間後に開始する。
【0025】
実施例1
基材イオノマーフィルムは、6.8ミルのPVCを下塗りしたポリエチレンテレフタレート(PET)基材上にノッチバーコータを用いてナフィオン1000の20重量%アルコール溶液をコーティングすることにより調製した。この基材フィルムの乾燥厚さは1.0ミルであった。テトラフルオロエチレンとCF2=CF−O−(CF22−SO2F(当量=酸1モル当たり800g)のコポリマーを水に溶かした形態のイオノマーの10重量%溶液の層をガードナーナイフで基材フィルム上に注型(湿潤厚さ=4ミル)し、乾燥して全体の乾燥厚さ(ナフィオンとイオノマー)が1.2ミルの2層プロトン交換膜を得た。縁部で基材フィルムの層間剥離および皺を招かないように基材フィルムの縁部を覆って溶液を注型しないように気をつけた。
【0026】
MEAを、触媒被膜が膜に面した状態の上記のように調製された2枚のCCGDL間にプロトン交換膜をはさむことにより調製した。また、テフロン(商標)コーティングしたガラス繊維のガスケットを各側部に置いた。これらのCCGDLは膜よりも表面積が小さいので各CCGDLはそれぞれガスケットの窓に嵌合する。ガスケットの高さは、アセンブリ全体を加圧した場合にCCGDLが30%圧縮可能なようにCCGDLの高さの70%である。厚さ50マイクロメートル、15cm×15cmのポリイミドの厚いシートを各側面に置いた。次いでこのアセンブリをカーバー・プレス(Carver Press)(インディアナ州ウォーバッシュのフレッド・カーバー・カンパニー(Fred Carver Co.,Wabash,IN))中で圧力30kg/cm2、温度130℃で10分間加圧して完成MEAを形成した。次いでポリイミドシートを剥がし、5層MEAを残す。
【0027】
4個の加湿したMEAを上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図1は、この実施例で調製したMEAの電位差測定ダイナミックスキャン(PDS)による分極グラフを示す。陽極(H2電極)および陰極(空気電極)に関して膜の向きを図中に示す。0.6と0.8Vの間のMEAの性能がプロトン交換膜の性能に関係する。一般にこの電圧領域内の電流密度(A/cm2)を最大にすることが望ましい。図1に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0028】
実施例2
ナフィオン1000を用いて乾燥厚さ0.7ミルの基材イオノマーフィルムを実施例1の記述と同様に調製した。テトラフルオロエチレンとCF2=CF−O−(CF22−SO2F(当量=酸1モル当たり800g)のコポリマーを水に溶かした形態のイオノマーの10重量%溶液の第二層をガードナーナイフで基材フィルム上に注型(湿潤厚さ=2ミル)した。次いで水に溶かしたこのイオノマーの第三層を第一層上に注型(湿潤厚さ=2ミル)して乾燥厚さ1.0ミルの3層プロトン交換膜を得た。
【0029】
両面に触媒を分散させた4個のMEAを実施例1の記述と同様に調製し、上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図2は、この実施例で調製したMEAのPDS分極グラフを示す。陽極(H2電極)および陰極(空気電極)に関して膜の向きを図中に示す。図2に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0030】
実施例3
基材イオノマーフィルムを、ガラス板に接着させた厚さ0.5ミルの多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルム(テトラテックス(Tetratex)06258−4、ペンシルバニア州フィースタービルのテトラテック(Tetratec,Feasterville,PA)から入手できる)上にナフィオン1000の20重量%アルコール溶液を手で展着することにより調製した。テトラテックス(Tetratex)およびナフィオンからなるこの基材フィルムの湿潤厚さは2ミルであった。
【0031】
ナフィオン1000の20%アルコール溶液を、エタノールに溶かしたA130(エアロジル(AEROSIL)、ニュージャージー州リッジフィールドパークのデグッサ(Degussa,Ridgefield Park,NJ)から入手できる表面積130m2/gの燻蒸シリカ)の10%分散液と混ぜ合わせ、一晩振とう機上に置いた。次いで基材フィルム上にこのナフィオン1000/A130のブレンドの層をガードナーナイフで注型して全体の乾燥厚さ0.7ミルのプロトン交換膜を得た。
【0032】
両面に触媒を分散させた2個のMEAを実施例1の記述と同様に調製し、半飽和状態に加湿した陰極を用いてデータを得たことを除いては上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図3は、この実施例で調製したMEAのPDS分極グラフを示す。陽極(H2電極)および陰極(空気電極)に関して膜の向きを図中に示す。符号「1X/0.5X」は、それぞれ陽極および陰極上の加湿量を意味する。図3に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0033】
実施例4
湿潤厚さ10ミルの基材イオノマーフィルムを、ガラス板上に手で展着したことを除いては実施例1の場合と同様に調製した。ナフィオン1000/A130のブレンドを実施例3の場合と同様に調製し、層をこの基材フィルム上にガードナーナイフで注型(湿潤厚さ=2ミル)して乾燥厚さ1.1ミルの3層プロトン交換膜を得た。
【0034】
両面に触媒を分散させた4個のMEAを実施例1の記述と同様に調製し、上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図4は、この実施例で調製したMEAのPDS分極グラフを示す。陽極(H2電極)および陰極(空気電極)に関して膜の向きを図中に示す。図4に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0035】
実施例5
メタノールとエタノールの50:50混合物を用いて繰返し蒸発させることにより、残留水をナフィオン1000の20%アルコール溶液からその溶液が非常に粘性になるまで除去した。メタノールに溶かしたフルオレル(FLUOREL)FC2145フルオロエラストマー樹脂(ミネソタ州オークデールのダイネオン(Dyneon,Oakdale,MN))の15%溶液と混ぜ合わせたとき、この混合物が安定になるまでこの方法を繰り返した。
【0036】
湿潤厚さ15ミルの基材イオノマーフィルムを実施例4の場合と同様に手で展着することにより調製した。ナフィオン1000/A130のブレンド溶液を実施例3の場合と同様に調製し、層をこの基材フィルム上にガードナーナイフで注型(湿潤厚さ=2ミル)して乾燥厚さ1.0ミルの3層プロトン交換膜を得た。
【0037】
両面に触媒を分散させた4個のMEAを実施例1の記述と同様に調製し、上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図5は、この実施例で調製したMEAのPDS分極グラフを示す。陽極(H2電極)および陰極(空気電極)に関して膜の向きを図中に示す。図5に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0038】
実施例6
アルコールに溶かしたナフィオン1000の20%分散液を、ビニルを下塗りした厚さ7ミルのPETライナー上に3フィート/分で注型し、125℃の8フィート乾燥オーブンを通過させ、ライナーに接着した厚さ1ミルのナフィオンフィルムを得た。次いで上記と同様に調製したPtおよびRu金属を含有する触媒分散液をこのナフィオンフィルム上に#48マイヤバーを用いて注型した。この被膜を空気中で乾燥し、そのビニルの下塗りされたライナーに接着したままの平坦な黒色の連続フィルムを得た。次にこの構造体を、ビニルの下塗りされたライナーから剥がした。上記と同様に調製したPt金属を含有する第二触媒分散液を転写法によりこのナフィオンフィルムの反対側に貼り付けた。この転写法は、マオ(Mao)らの米国特許第6,238,534号明細書に記載のタイプの125本/インチの線を有するミクロ構造ライナー上に触媒を#28マイヤバーを用いてコーティングすることを伴う。次いでこのコーティングされたライナーを270℃で3分間、6トンの荷重でそのナフィオンフィルムの露出面に貼り付けた。次に、得られた3層構造体の両側に上記と同様に調製したGDLを華氏270度で10分間、1.5トンの荷重で熱接着させた。
【0039】
得られた5層MEAを上記の燃料電池性能評価計画に従って試験した。図6は、この実施例で調製した2つのMEAの分極グラフを示す。図6に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0040】
実施例7
MEAを、カソード触媒塗料を膜上に手で刷毛塗りしたことを除いて実施例1で述べた手順に従って実施例6の場合と同様に調製し試験した。図7は、この実施例で調製した2つの5層MEAの分極グラフを示す。図7に示すグラフは、このMEAが0.6〜0.8Vの範囲で高い電流密度を達成したことを実証している。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態について述べた。それにもかかわらず様々な変更形態を本発明の精神および範囲から逸脱することなくなし得ることが理解されるはずである。それゆえに他の実施形態も別添の特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層プロトン交換膜の調製方法であって、
(a)基材に接着した層を備えた物品を準備するステップであって、前記層が第一のイオノマーを含み、かつ塗布に使える表面を有するステップ、
(b)前記層の前記表面に分散液または溶液を塗付するステップ、
(c)前記分散液または溶液を乾燥して前記基材に接着した多層プロトン交換膜を形成するステップ、および
(d)前記多層プロトン交換膜を前記基材から取り外すステップ、
を含む方法。
【請求項2】
前記第一のイオノマーが、ペンダントスルホン酸基を有するフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散液または溶液が第二のイオノマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第二のイオノマーが、ペンダントスルホン酸基を有するフルオロポリマーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記分散液または溶液が充填剤を含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
前記充填剤がシリカ充填剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記充填剤がフルオロポリマー充填剤を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記分散液または溶液が架橋済みまたは架橋可能なポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記膜中に多孔質材料を組み込むステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が、ポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記基材がポリエチレンテレフタレートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記基材がガラスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記基材が実質的に非多孔質である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法に従って調製される多層プロトン交換膜。
【請求項15】
多層物品の調製方法であって、
(a)塗布に使える表面を有し、基材に接着したプロトン交換膜を準備するステップ、
(b)前記膜の前記表面に触媒を含む分散液または溶液を塗付するステップ、
(c)前記分散液または溶液を乾燥して、前記膜および触媒層を備え、前記基材に接着した多層物品を形成するステップ、および
(d)前記物品を前記基材から取り外すステップ、
を含む方法。
【請求項16】
前記物品を第二の触媒層と組み合わせて膜電極アセンブリを形成するステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記プロトン交換膜が多層膜である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が、ポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記基材がポリエチレンテレフタレートを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記基材がガラスを含む、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記基材が実質的に非多孔質である、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
請求項15に記載の方法に従って調製される多層物品。
【請求項23】
(a)イオノマーを含む層を含む多層プロトン交換膜、および(b)前記層に接着した基材を含む物品。
【請求項24】
前記基材が実質的に非多孔質である、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
前記イオノマーが、ペンダントスルホン酸基を有するフルオロポリマーを含む、請求項23に記載の物品。
【請求項26】
前記基材が、ポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィン、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項23に記載の物品。
【請求項27】
前記基材がポリエチレンテレフタレートを含む、請求項23に記載の物品。
【請求項28】
前記基材がガラスを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1層がイオノマーを含む複数の層を備え、全体の乾燥厚さが2ミル(50ミクロン)未満であるプロトン交換膜。
【請求項30】
前記膜の各層の乾燥厚さが1.5ミル(37.5ミクロン)以下である、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項31】
前記膜の各層の乾燥厚さが1ミル(25ミクロン)以下である、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項32】
前記イオノマーが、ペンダントスルホン酸基を有するフルオロポリマーを含む、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項33】
前記膜が少なくとも2層を有する、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項34】
前記膜が少なくとも3層を有する、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項35】
前記層の少なくとも1層が充填剤を含む、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項36】
前記充填剤がシリカ充填剤を含む、請求項35に記載のプロトン交換膜。
【請求項37】
前記充填剤がフルオロポリマー充填剤を含む、請求項35に記載のプロトン交換膜。
【請求項38】
多孔質材料をさらに含む、請求項29に記載のプロトン交換膜。
【請求項39】
(a)少なくとも1層がイオノマーを含む複数の層を備え、全体の乾燥厚さが2ミル(50ミクロン)未満で、かつ一対の対向する面を有するプロトン交換膜と、
(b)前記プロトン交換膜の対向するそれぞれの面上の触媒層と
を備える膜電極アセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−45041(P2010−45041A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223430(P2009−223430)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2004−530808(P2004−530808)の分割
【原出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】