説明

多層光記録媒体

【課題】 多重反射の影響を低減できる多層光記録媒体の構造の最適化を図る。
【解決手段】 5つの情報記録層と、各情報記録層の間に設けられた光透過性を有するスペーサ層とを備え、隣り合う情報記録層のスペーサ層の厚さのうち、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さが他のスペーサ層の厚さと異なり、該他のスペーサ層の厚さが互いに略等しく、且つ、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層の光入射側から見た反射率が光入射側とは反対側から見た反射率より高い多層光記録媒体を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の情報記録層を備える多層光記録媒体に関し、特に、透明なスペーサ層を介して5層以上の情報記録層が積層された多層光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチメディア化に対応して、大量のデータを高密度で記録し、かつ迅速に記録再生する情報記録媒体として、光情報記録媒体(光ディスク)が開発されてきた。このような光ディスクとしては、例えば、CDまたはレーザーディスク等のようにディスク製作時にスタンピングされた情報の再生のみが行われる再生専用型ディスク、CD−R等のように一回だけの記録を可能とした追記型ディスク、光磁気記録方式や相変化記録方式を用いてデータの書き換え消去が複数回可能な書き換え型ディスク等が開発されている。
【0003】
これらの光ディスクへのデータの記録、及び、記録されたデータの再生は、レーザ光を対物レンズを用いて回折限界にまで絞り込んだ光スポットを光ディスクに照射して行われる。この光スポットの径は、レーザ光の波長λと対物レンズの開口数NAとした場合、λ/NA程度となる。近年の光ディスクの大容量化の要求に応えるべく、これらの光ディスク製品は高密度化され、これらに情報を記録再生するための光ヘッド装置は、光ディスク面上に集光するスポット径を小さくする必要があるために、レーザ光源の波長を650nmまたは635nmとしたり、対物レンズの開口数(NA)を0.6にしている。また、最近では、光記録において、レーザ光源の波長を400nm程度とし、NAを0.65以上とすることにより、さらに大きな記録密度を得る技術も開発されている。
【0004】
また、最近、上述した技術以外の新しい大容量化技術として、記録媒体の厚さ方向(深さ方向)への記録により更なる大容量化を図る方法も提案されている。その一つの方法として、複数の情報記録層を積み重ねる方法(多層型記録媒体の利用)がある。
【0005】
多層型の光記録媒体としては、現在、2層再生専用型光ディスク(2層DVD−ROM)や2層追記型光ディスク(2層DVD−R等)がすでに商品化されており、同様に、2層書き換え型光ディスクも開発が進められている。また、3層以上の情報記録層を有する多層光記録媒体では、情報記録層間における多重反射(いわゆる層間クロストーク)の影響を低減する為に、隣り合う情報記録層間に設けるスペーサの厚さを変える方式も検討されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、4層の場合には3つのスペーサの厚さを調整することにより、情報記録層間での多重反射を効果的に抑制している。
【0006】
【特許文献1】特開2004−213720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した情報記録層を多層化して大容量化を図る技術では、情報記録層の層数を増やすことにより容易に大容量化を図ることが可能であるが、情報記録層の層数を増えるほど(例えば、5層以上となると)、層間の多重反射も複雑となり、情報記録層間のスペーサの厚さ調整も複雑になる。本発明はこの課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、5層以上の情報記録層を備えた多層光記録媒体において、より簡易な構造で多重反射の影響を小さすることができる構造を有する多層光記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に従えば、所定方向から光を照射して情報の記録再生を行う多層光記録媒体であって、第1〜第5の情報記録層と、各情報記録層の間に設けられた光透過性を有するスペーサ層とを備え、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さが、他のスペーサ層の厚さと異なり、該他のスペーサ層の厚さが互いに略等しく、且つ、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層の光入射側から見た反射率が光入射側とは反対側から見た反射率より高いことを特徴とする多層光記録媒体が提供される。
【0009】
本発明者らは、5層以上の情報記録層を備えた多層光記録媒体では、情報記録層間の多重反射の問題だけでなく、次のような問題も生じることを見出した。多層光記録媒体において隣り合う情報記録層間の層間クロストークを考慮すると、情報記録層間の全てのスペーサ層の厚さ(層間距離)を少なくとも10μm程度にする必要がある。更に、通常、多層光記録媒体では光入射側にカバー層が設けられるが、チルトマージンや球面収差補正の許容範囲を考慮して、現状では、カバー層表面から、光入射側から最も遠い位置に配置された情報記録層まで距離を100μm程度にする必要がある。それゆえ、例えば、BD(Blue−ray Disc)のように情報記録層間の距離(スペーサ層の厚さ)を20μm程度として情報記録層を5層設けた場合、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さは約80μmとなり、カバー層の厚みは20μm程度しか確保することができない。しかしながら、カバー層の厚みは、ゴミなどによる欠陥の問題等があり、あまり薄くできない。また、カバー層を厚くすると、カバー層表面から、光入射側から最も遠い位置に配置された情報記録層まで距離が厚くなり、球面収差補正が困難となる。
【0010】
従って、多層光記録媒体においてカバー層の厚みを十分確保しつつ、球面収差補正等の課題も解決するためには、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さをできるだけ薄くする必要がある。例えば、6層の情報記録層を備える多層光記録媒体では、現在のドライブの性能等を考慮すると、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さの上限は約75μm程度になる。また、一般的には、製造マージンや記録再生系のサーボマージンなどを考慮すると、すべてのスペーサ層の厚さを揃えることが好ましい。
【0011】
また、従来技術(例えば、特許文献1に記載の技術等)では、情報記録層間の多重反射による層間クロストークを低減するために、例えば、図3(b)に示すように、隣り合うスペーサの厚さが互い異なるような構成の多層光記録媒体が提案されている。このような構成を有する5層以上の情報記録層を有する光記録媒体では、スペーサの厚みが2種類以上必要となる。それゆえ、図3(b)に示すような多層光記録媒体では、例えば、図3(a)に示すような全てのスペーサが薄い厚さのスペーサで構成された多層光記録媒体に比べて、光入射側に最も近い情報記録層(図3(b)中のL5)から光入射側に最も遠い情報記録層(図3(b)中のL0)までのトータルの厚さが厚くなり、隣り合うスペーサの厚さの差によっては球面収差の影響で、光入射側から一番遠い情報記録層への光ビームの焦点合わせができなくなってしまう恐れがある。このような問題は、現状のドライブ性能を考えると、特に、情報記録層が5層以上の場合に顕著となる。
【0012】
本発明は、情報記録層間の多重反射の影響を低減するとともに、上記課題を解決するためになされたものである。本発明の多層光記録媒体では、情報記録層間の多重反射の影響を低減するとともに、上記課題を解決するために、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さのみを他のスペーサ層の厚さとは変え、且つ、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層において光入射側から見た反射率が光入射側とは反対側から見た反射率より高くなるような構成にした。このような構成により上記課題を解決できる理由を以下に説明する。
【0013】
ここで、まず、一例として、情報記録層を6層備えた多層光記録媒体における情報記録層間の多重反射による不要光(ゴーストスポット)の発生形態について図4を用いて説明する。図4は、6層光記録媒体の再生特性に影響を与える主な不要光の発生形態(モード)を示した図である。図4では、光入射側から遠い情報記録層からL0層,L1層,L2層…L5層とし、各情報記録層間のスペーサ層は同じ厚さとした6層光記録媒体における不要光の発生形態(モード)を示した図である。
【0014】
また、図4中の表記「MODEk_mn」の不要光とは、Lk層に光を照射した際に(Lk層に光を集光して情報再生を行った際に)、Lk層より光入射側に位置するLm層で反射した光がLm層より光入射側に位置するLn層で焦点を結び(集光され)、次いで、その光がLn層で反射して再度Lm層に戻り、その後、信号光(Lk層からの反射光)と同一経路で検出される不要光のことである。より具体的には、例えば、図4(a)に示した「MODE0_12」は、光4をL0層に照射して情報再生を行った際に、L0層より光入射側に位置するL1層からの反射光4’がL1層より光入射側に位置するL2層で集光され、L2層で集光された光がL2層で反射して再度L1層に戻り、その後、信号光4と同一経路で検出される形態(モード)の不要光を示している。なお、図4に示した不要光のモード以外のモード、例えば、複数回多重反射した後、再生しようとする情報記録層以外の情報記録層で集光し(焦点を結んで)、戻ってくる不要光も存在するが、本発明者らの検討によれば、それらの不要光は複数回多重反射するので、光強度も非常に小さくなり、再生特性に与える影響も非常に小さくなるので、ここでは無視している。
【0015】
図4に示した6層光記録媒体において、多重反射による不要光の影響をシミュレーションで調べた結果を図5に示した。図5は、所定の情報記録層に光を照射した際の再生信号に対する図4に示した各モードの不要光の相対強度をdB表示したグラフである。図5中の縦軸のゴーストスポットクロストークのdB値は、所定の情報記録層に光を照射した際の戻り光の信号強度Isとし、その際の不要光の信号強度をInとしたときに、計算式10×log(In/Is)で求めた値である。図5の結果を見る限り、MODE1_35(図5中の□印)及びMODE3_45(図5中の△印)が他のモードに比べてクロストーク値が低く、影響が小さいことが分かる。実際、MODE1_35及びMODE3_45では、図5に示すように、情報記録層L1及びL3の実効反射率(図5中のメインスポット反射率)を3.0%以下にした場合には、クロストーク値が−27dB以下となり、この場合、後述するように、再生信号のジッタ値は10%以下となり、情報記録層L1及びL3の再生特性に大きな影響を与えないことが分かっている。
【0016】
上述したような種々のモードの不要光に対して、本発明の多層光記録媒体では、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層(例えば、図4中のL1層)と3番目に遠い第3情報記録層(例えば、図4中のL2層)との間のスペーサ層の厚さ(層間距離)のみが他のスペーサ層の厚さとは異なるので、例えば、図4(a)〜図4(d)に示すような不要光は発生せず、情報記録層間の多重反射による不要光の影響が小さくなる。このことを、図4(b)のモード(MODE0_24)を例に取り、図6を用いてより具体的に説明する。例えば、図6に示すように、L1層(第2情報記録層)とL2層(第3情報記録層)との間のスペーサ層の厚さt1を、他のスペーサ層の厚さ(t0及びt2〜t4)より大きくすると、光4をL0層に照射した際、L2層で反射した光(図6中の破線)はL4層で集光されない(焦点を結ばない)。それゆえ、本発明の多層光記録媒体では、図4(b)に示すようなモードの不要光が発生なくなる。すなわち、本発明の多層光記録媒体では、例えば、図4(a)〜図4(d)に示すような不要光はデフォーカスされ、再生特性に対する不要光の影響が小さくなる。
【0017】
また、本発明の多重光記録媒体では、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層(例えば、図4中のL4層)の光入射側から見た反射率が、第5情報記録層の光入射側とは反対側から見た反射率より高くなるような構造、すなわち、第5情報記録層の光入射側とは反対側の表面を反射防止構造(AR(Anti−Reflection)構造)にしている。それゆえ、L4層(第5情報記録層)に集光される不要光、例えば、図4(b)及び(e)に示すような不要光(MODE0_24及びMODE2_34)のL4層における反射を抑制することができる。その結果、本発明の多重光記録媒体では、図4(b)及び(e)に示すようなモードの不要光を低減することができる。なお、ここでいう、各情報記録層の「反射率」とは、複数の情報記録層を積層しない状態(単層状態)での各情報記録層の未記録部分の反射率のことをいう。
【0018】
なお、上記説明では6層光記録媒体を例にとり説明したが、情報記録層を5層以上有する多層光記録媒体であれば、少なくとも図4(a)、(b)、(c)及び(e)に示したモードの不要光は発生するので、情報記録層を5層または7層以上有する多層光記録媒体に対して本発明を適用した場合でも、同様の原理でそれらの不要光が抑制できる。
【0019】
なお、上述したように、本発明者らの検証では、図4(f)に示すようなL5層(第6情報記録層)に反射光が集光されるような不要光(MODE3_45)の影響は小さいことが分かっているが、図4(f)に示すような不要光の影響を低減するために、L5層の光入射側から見た反射率を、光入射側とは反対側から見た反射率より高くなるような構造(AR構造)にしても良い。
【0020】
さらに、本発明の多層光記録媒体では、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さ(図6中のt1)のみを他のスペーサ層の厚さとは変えているので、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さの増大を最小限にすることができる。それゆえ、本発明の多層光記録媒体では、球面収差補正が容易となり且つ十分な厚みのカバー層を設けることができる。
【0021】
本発明の多層光記録媒体では、第2情報記録層と第3情報記録層との間の上記スペーサ層の厚さが、上記他のスペーサ層の厚さより厚いことが好ましい。
【0022】
本発明の多層光記録媒体では、第3情報記録層及びそれより光入射側に位置する情報記録層の光入射側から見た反射率が、光入射側とは反対側から見た反射率より高いことが好ましい。
【0023】
本発明の多層光記録媒体では、第5情報記録層のみで、光入射側から見た反射率が、光入射側とは反対側から見た反射率より高いことが好ましい。
【0024】
本発明の多層光記録媒体では、第2情報記録層と第3情報記録層との間の上記スペーサ層の厚さと、上記他のスペーサ層の厚さとの差が2μm以上であることが好ましい。なお、第2情報記録層と第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さと、他のスペーサ層の厚さとの差の上限値は、情報記録層の層数、用いるドライブの球面収差補正の性能等に応じて変化し得るが、例えば、現在のドライブ性能では、6層光記録媒体においては、その上限値は15μm程度である。
【0025】
本発明の多層光記録媒体では、光を所定の情報記録層に集光した際の所定の情報記録層からの戻り光の検出光量をRmとし、その際の所定の情報記録層より光入射側に位置する情報記録層間の多重反射により発生する不要光の検出光量をRgとしたときに、所定の情報記録層に光を集光した際の該不要光によるクロストーク値CT=10×log(Rg/Rm)が−27dB以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の多層光記録媒体では、情報記録層の数が6層であり、各情報記録層の実効反射率が3.0%以下であることが好ましい。なお、ここでいう情報記録層の「実効反射率」とは、全ての情報記録層を積層した状態(製造後の多層光記録媒体)で、所定の情報記録層に光を集光した際の光入射側から見た該所定の情報記録層の未記録部分の反射率のことである。
【0027】
本発明者らの検証により、各情報記録層の実効反射率を3.0%以下にすることにより、不要光のクロストーク値が−27dB以下となり、不要光の影響を低減できることが分かった。なお、各情報記録層の実効反射率が3.0%より大きくなると、信号光の強度も増大するが、同時に不要光の信号強度も大きくなるので好ましくない。また、各情報記録層の実効反射率を小さくすれば不要光の影響を低減できるが、実効反射率が小さすぎると情報の読み取りも困難になる。それゆえ、各情報記録層の実効反射率の下限値はドライブの信号検出の性能により変わり得るが、現状のドライブ性能では、少なくとも2%程度の実効反射率は必要である。
【0028】
本発明の多層光記録媒体では、第3情報記録層及びそれより光入射側に位置する情報記録層のうち少なくとも一つの情報記録層が、第1誘電体層と、第1誘電体層より光入射側から遠い位置に設けられた第2誘電体層と、第1及び第2誘電体層の間に設けられた記録層とを備え、第1誘電体層の厚さが第2誘電体層の厚さより厚く、且つ、第1及び第2誘電体層の屈折率が上記スペーサ層の屈折率より大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の多層光記録媒体によれば、光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さと、他のスペーサ層の厚さとが異なり、該他のスペーサ層の厚さが互いに略等しく、且つ、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層の光入射側から見た反射率が光入射側とは反対側から見た反射率より高くなるような構成にすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができる。それゆえ、本発明の多層光記録媒体では、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の多層光記録媒体の実施例を図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0031】
[媒体構成]
実施例1では追記可能な6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体の概略構成を図1に示した。この例の6層光記録媒体100は、図1の左図に示すように、基板1と、基板1上に形成された6つの情報記録層L0〜L5(以下、それぞれL0層〜L5層ともいう)と、各情報記録層間に設けられたスペーサ層10〜14と、L5層上に設けられたカバー層2とから構成される。なお、この例の6層光記録媒体100では、図1に示すように、カバー層2側からレーザ光4が入射され、光入射側から、L5層,L4層(第5情報記録層),L3層,L2層(第3情報記録層),L1層(第2情報記録層)及びL0層をこの順で配置した。レーザ光4は、対物レンズ3を介して6層光記録媒体100に照射される。この例では、レーザ光4の波長は405nmとし、対物レンズ3の開口数NAは0.85とした。
【0032】
この例では、基板1に、厚さ1.1mmの透明基板を用いた。なお、図1の右図に示すように、基板1のL0層側の表面には溝1aを形成した。また、この例では、スペーサ層10〜14は紫外線硬化型樹脂(屈折率1.6)により形成し、L1層とL2層との間のスペーサ層11の厚さ(第2情報記録層と第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さ)t1を17μmとし、その他のスペーサ層10,12,13及び14の厚さ(他のスペーサ層の厚さ)は全て12μmとした。また、カバー層はポリカーボネートシートで形成し、その厚さは35μmとした。
【0033】
この例の6層光記録媒体100では、カバー層2の表面から、光入射側から最も遠い位置に配置されている情報記録層(L0層)までの距離は、約100μm程度(35μm+17μm+12μm×4)となる。それゆえ、この例の6層光記録媒体では、光入射側に最も近い情報記録層から光入射側に最も遠い情報記録層までのトータルの厚さを球面収差補正が十分容易に行えるような厚さにすることができ、作製マージンを増大させることができる。また、この例では、L1層とL2層との間のスペーサ層11の厚さのみを変えているので、より簡易な構造で且つ安価な多層光記録媒体を提供することができる。なお、上記厚さ計算では、下記表1に示すように、各情報記録層L0〜L5の厚さ(数十nm)が、スペーサ層の厚さに比べると非常に薄いので無視して計算している。
【0034】
また、この例では、L0層の構成を、図1の右図に示すように、反射層104上に、第2誘電体層103、熱吸収層102及び第1誘電体層をこの順で積層した構成とした。また、L1層もL0層と同様の構成とした。L2層〜L5層は、第2誘電体層、熱吸収層及び第1誘電体層をこの順で積層した構成(すなわち、図1の右図中の反射層103が無い構成)とした。なお、この例では、各情報記録層の熱吸収層はBiGeの窒化膜で形成し、第1及び第2誘電体層はZnS−SiO膜で形成し、そして、反射膜はAgPdCu膜で形成した。この例で用いた6層光記録媒体100の熱吸収層、第1及び第2誘電体層、並びに、反射層の膜厚、屈折率n及び吸収係数kの詳細は、下記表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
なお、この例では、表1に示すように、L1層〜L5層において、第2誘電体層の厚さを第1誘電体層の厚さより厚くして、各情報記録層の光入射側から見た反射率が、光入射側とは反対側から見た反射率より大きくなるようにした(各情報記録層の光入射側とは反対側の表面を反射防止構造にした)。それゆえ、表1中の各情報記録層の順入射単層未記録部反射率(各情報記録層の光入射側から見た反射率)は、逆入射単層未記録部反射率(光入射側とは反対側から見た反射率)より大きくなっている。
【0037】
図4(a)〜(f)に示すような不要光は、不要光が焦点を結ぶ情報記録層(L2層〜L5層)の光入射側からみて反対側の面から反射される光により発生し、不要光が焦点を結ぶ情報記録層の光入射側とは反対側から見た反射率(表1中の逆入射単層未記録部反射率)に比例して大きくなるので、不要光の低減には、不要光が焦点を結ぶ情報記録層の逆入射単層反射率を低減する事が重要である。それゆえ、この例のように、逆入射単層未記録部反射率が順入射単層未記録部反射率より小さくなるような構成(反射防止構造)にすることにより、不要光の信号強度を小さくすることができ、不要光の影響を低減することができる。
【0038】
なお、この例では、順入射単層未記録部反射率を、逆入射単層未記録部反射率より高くするために、スペーサ層(屈折率1.6)より屈折率が大きい第1及び第2誘電体層(屈折率2.3)で熱吸収層を挟み、且つ、光入射側に位置する第1誘電体層の膜厚を光入射側とは反対側に位置する第2誘電体層の膜厚を厚くする構成としたが、本発明はこれに限定されない。スペーサ層より屈折率の小さい材料(例えば、屈折率1.4程度のフッ化マグネシウム)で第1及び第2誘電体層を形成した場合には、光入射側に位置する第1誘電体層の膜厚を光入射側とは反対側に位置する第2誘電体層の膜厚を薄くすることにより、順入射単層未記録部反射率を、逆入射単層未記録部反射率より高くすることができる。
【0039】
また、この例では、表1に示すように、情報記録再生装置で検出される各情報記録層の未記録部の実効反射率(表1中の未記録部検出反射率)が、いずれも約2.7%になるように、各情報記録層の第1及び第2誘電体の膜厚を制御した。
【0040】
[評価結果]
上記構成の6層光記録媒体において、情報再生時の情報記録層間の多重反射による不要光の影響を調べた。具体的には、6層記録媒体では、図4に示したように、不要光の影響が発生するのはL0層〜L3層の再生時であるので、L0層〜L3層の再生時における不要光のクロストーク値CT(以下、単に不要光クロストークともいう)を求めた。なお、不要光クロストークCTは、計算式CT=10×log(Rg/Rm)で求めた。式中のRmは、再生光を所定の情報記録層(L0層〜L3層のいずれか)に照射した際の所定の情報記録層からの戻り光の検出光量であり、Rgは所定の情報記録層より光入射側に位置する情報記録層間の多重反射により発生する不要光の検出光量である。上記評価結果を上記表1の右端欄(表1のt1=17μmの欄)に記載した。
【0041】
なお、この例では、比較のため、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1を他のスペーサ層の厚さ(t0,t2〜t4)と同じ厚さ(t1=12μm)にし、且つ、その他の構造は実施例1と同様にした6層光記録媒体(比較例1)の不要光クロストークも求め、その結果を表1に併せて記載した(表1のt1=12μmの欄)。
【0042】
表1から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークはいずれも−40dB以下となった。また、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはそれぞれ−30dB及び−32dBとなった。すなわち、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層のいずれにおいても、情報再生時に不要光の影響を十分に低減できること分かった。
【0043】
一方、比較例1(t1=12μm)の6層光記録媒体では、表1に示すように、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはこの例の媒体と同等の結果が得られた。しかしながら、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ、−22dB及び−26dBとなり、この例の媒体に比べて不要光クロストークが大きくなった。すなわち、比較例1の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時に不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0044】
この原因は、比較例1の媒体では、すべてのスペーサ層の厚みを等しくしたことにより、図4(a)〜(d)で示したMODE0_12、MODE0_24、MODE1_23及びMODE1_35の不要光が抑制できないためであると考えられる。具体的には、比較例1の媒体のL0層に光を集光して再生した際には、L1層及びL2層で反射した光がそれぞれL2層及びL4層の裏面(光入射側とは反対側の面)で集光され、次いで、その集光光がL2層及びL4層の裏面で反射され、その後、信号光(L0層からの反射光)と同一の経路で戻ったためと考えれる(MODE0_12及びMODE0_24の不要光)。また、比較例1の媒体のL1層に光を集光して再生した際には、L2層及びL3層で反射した光がそれぞれL3層及びL5層の裏面で集光され、次いで、その集光光がL3層及びL5層の裏面で反射され、その後、信号光と同一の経路で戻ったためと考えられる(MODE1_23及びMODE1_35の不要光)。
【0045】
それに対して、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1をその他のスペーサ層の厚さと変えたことにより、図4(a)〜(d)で示したMODE0_12、MODE0_24、MODE1_23及びMODE1_35の不要光は、L2層〜L5層の裏面でデフォーカスされる。その結果、そのL2層〜L5層の裏面で反射した光は、信号光と同一の経路には戻らないので、光検出器(不図示)で検出される不要光の光量を低減することができる。
【0046】
また、この例では、不要光のクロストーク値と再生信号のジッタ値との関係を調べた。その結果を図2に示した。図2に示すように、不要光のクロストーク値が−30dBより大きくなると、再生光のジッタ値が悪化し始め、−28dB以上になると急激にジッタ値が悪化した。また、図2の結果から、不要光クロストークを−27dB以下にすることにより、ジッタ値が10%以下となり良好な再生特性が得られることが分かった。上記図2の結果から、不要光のクロストーク値の好適な範囲は、−27dB以下、好ましくは−28dB以下、より好ましくは−30dB以下であることが分かった。この不要光のクロストーク値と再生信号のジッタ値との関係の評価結果を、上記表1の不要光クロストークの欄に◎、○及び×で記載した。なお、◎、○及び×の評価基準は以下の通りである。
◎:不要光クロストークが−30dBより小さい
○:不要光クロストークが−27dB〜−30dB
×:不要光クロストークが−27dBより大きい
【0047】
上述のように、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層のみを他のスペーサ層より厚くし、且つ、L4層の光入射側とは反対側の反射率を低くすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層L5から光入射側に最も遠い情報記録層L0までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができることが分かった。すなわち、この例の6層光記録媒体では、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができることが分かった。
【実施例2】
【0048】
実施例2では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1を14μmとしたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表2に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の情報再生時における不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表2の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表2の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0051】
また、この例では、比較のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は実施例2の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(比較例2)に対しても、同様に上記評価を行った。比較例2の媒体に対する評価結果も表2に併せて記載した(表2中のt1=12μmの欄)。
【0052】
表2から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークは、それぞれ−28dB、−31dB、−30dB及び−32dBとなり、L0層〜L3層のいずれの再生時においても、不要光の影響を十分に低減できることが分かった。
【0053】
一方、比較例2(t1=12μm)の6層光記録媒体では、表2に示すように、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはこの例の媒体と同等の結果が得られた。しかしながら、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ、−22dB及び−26dBとなり、この例の媒体に比べて不要光クロストークが大きくなった。すなわち、比較例2の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時に不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0054】
上述のように、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層のみを他のスペーサ層より厚くし、且つ、L4層の光入射側とは反対側の反射率を低くすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層L5から光入射側に最も遠い情報記録層L0までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができることが分かった。すなわち、この例の6層光記録媒体においても、実施例1と同様に、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができることが分かった。
【0055】
また、ここで、この例の6層光記録媒体と実施例1の6層光記録媒体とを比較すると、表1及び表2に記載の評価結果から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、実施例1の6層光記録媒体に比べて、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークが大きくなっていることが分かる。これは、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1と、他のスペーサ層の厚さとの差(2μm)を、実施例1の6層光記録媒体(5μm)に比べて小さくしたため、図4(a)〜(d)で示したMODE0_12、MODE0_24、MODE1_23及びMODE1_35の不要光のL2層〜L5層の裏面におけるデフォーカスの度合いが実施例1に比べて小さくなり、その結果、L2層〜L5層の裏面で反射した光の経路が、信号光の経路により近くなり、光検出器での不要光と信号光との分離が実施例1に比べて不十分になったためであると考えられる。
【0056】
上記実施例1及び2の評価結果から、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1と、他のスペーサ層の厚さとの差を2μmよりさらに小さくすると、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがさらに大きくなり、−27dB(ジッタ値が10%)より大きくなることが予測される。それゆえ、上記実施例1及び2の評価結果から、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1と、他のスペーサ層の厚さとの差は、2μm以上にすることがより好ましいことが分かった。
【0057】
なお、実施例1及び2では、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1を、他のスペーサ層の厚さより2μm以上厚くしたが、逆に、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1を、他のスペーサ層の厚さより2μm以上薄くしても良い。ただし、上述したように、情報記録層間のスペーサ層の厚さ(層間距離)は少なくとも10μm程度必要であるので、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1を、他のスペーサ層の厚さより2μm以上薄くする場合には、他のスペーサ層を厚くする必要がある。それゆえ、この場合には、カバー層の表面から光入射側に最も遠い情報記録層までの距離が大きくなり、上述した層間における球面収差補正量が増大してしまう恐れがある。それゆえ、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1は、他のスペーサ層の厚さより2μm以上厚くすることがより好ましい。なお、L1層とL2層との間のスペーサ層の厚さt1と、他のスペーサ層の厚さとの差の上限値は、情報記録層の層数、用いるドライブの球面収差補正の性能等に応じて変化し得るが、例えば、現在のドライブ性能では、6層光記録媒体において、その上限値は15μm程度である。
【実施例3】
【0058】
実施例3では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、各情報記録層の第1及び第2誘電体層並びに熱吸収層の膜厚を変えて、各情報記録層の実効反射率(未記録部検出反射率)が約2.9%〜3.0%になるように調整した。第1及び第2誘電体層並びに熱吸収層の膜厚を変えたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表3に示した。
【0059】
【表3】

【0060】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の情報再生時における不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表3の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表3の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0061】
また、この例では、比較のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は実施例3の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(比較例3)に対しても同様に上記評価を行った。比較例3の媒体に対する評価結果も表3に併せて記載した(表3中のt1=12μmの欄)。
【0062】
表3から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ−40dB以下、−40dB以下、−28dB及び−31dBとなり、L0層〜L3層のいずれ再生時においても、不要光の影響を十分に低減できることが分かった。
【0063】
一方、比較例3の媒体では、表3から明らかなように、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはこの例の媒体と同等の結果が得られた。しかしながらが、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ、−20dB及び−25dBとなり、比較例3の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時に不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0064】
上述のように、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層のみを他のスペーサ層より厚くし、且つ、L4層の光入射側とは反対側の反射率を低くすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層L5から光入射側に最も遠い情報記録層L0までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができることが分かった。すなわち、この例の6層光記録媒体においても、実施例1と同様に、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができることが分かった。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、各情報記録層の第1及び第2誘電体層並びに熱吸収層の膜厚を変えて、各情報記録層の実効反射率(未記録部検出反射率)が約3.1%〜3.3%になるように調整した。各情報記録層の第1及び第2誘電体層並びに熱吸収層の膜厚を変えたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の情報再生時における不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表4の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表4の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0068】
また、この例では、比較のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は実施例4の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(比較例4)に対しても同様に上記評価を行った。比較例4の媒体に対する評価結果も表4に併せて記載した(表4中のt1=12μmの欄)。
【0069】
表4から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ−40dB以下、−40dB以下、−27dB及び−29dBとなり、L0層〜L3層のいずれの再生時においても、不要光の影響を十分に低減できることが分かった。
【0070】
一方、比較例4の媒体では、表4から明らかなように、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはこの例の媒体と同等の結果が得られた。しかしながらが、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ、−20dB及び−25dBとなり、比較例4の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0071】
上述のように、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層のみを他のスペーサ層より厚くし、且つ、L4層の光入射側とは反対側の反射率を低くすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層L5から光入射側に最も遠い情報記録層L0までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができることが分かった。すなわち、この例の6層光記録媒体においても、実施例1と同様に、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができることが分かった。
【実施例5】
【0072】
実施例5では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、各情報記録層の第1及び第2誘電体層を屈折率2のSiN膜で形成し且つ第1及び第2誘電体層並びに熱吸収層の膜厚を変えて、各情報記録層の実効反射率(未記録部検出反射率)が約2.0%〜2.1%になるように調整した。各情報記録層の第1及び第2誘電体層の形成材料及び膜厚並びに熱吸収層の膜厚を変えたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表5に示した。
【0073】
【表5】

【0074】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表5の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表5の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0075】
また、この例では、比較のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は実施例5の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(比較例5)に対しても同様に上記評価を行った。比較例5の媒体に対する評価結果も表5に併せて記載した(表5中のt1=12μmの欄)。
【0076】
表5から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ−40dB以下、−40dB以下、−35dB及び−36dBとなり、L0層〜L3層のいずれの再生時においても、不要光の影響を十分に低減できることが分かった。また、この例の6層光記録媒体では、上記実施例1〜4に比べて、L2層及びL3層の不要光クロストークがより低減できることが分かった。
【0077】
一方、比較例5の媒体では、表5から明らかなように、L1層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークは十分に低減できているが、L0層の情報再生時の不要光クロストークが−25dBとなり、L0層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0078】
ここで、実施例1及び実施例3〜5の6層光記録媒体の不要光クロストークを比較すると(表1及び表3〜5を参照)、各情報記録層の実効反射率(表中の未記録部検出反射率)が大きくなると、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークが大きくなっていることが分かる。また、図2に示した不要光クロストークとジッタ値との関係からすると、不要光クロストークが−28dBでジッタ値が急激に増加し始めているので、より安定して良好な再生特性を得るためには、不要光クロストークが−28dB以下とすることが好ましいことが分かる。以上の評価結果からすると、各情報記録層の実効反射率は約3.0以下にすることが好ましいことが分かる。
【実施例6】
【0079】
実施例6では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、不要光が集光される得るL2〜L5層のうち、L4層のみで、第1誘電体層の膜厚を第2誘電体層の膜厚より薄くした。すなわち、不要光が集光される得るL2〜L5層のうち、L4層のみで、光入射側から見た反射率(下記表6中の順入射単層未記録部反射率)を光入射側とは反対側から見た反射率(下記表6中の逆入射単層未記録部反射率)より大きくした。また、L2層、L3層及びL5層では第1及び第2誘電体層の膜厚を同じにし、入射側から見た反射率と光入射側とは反対側から見た反射率を同じにした。L4層で、第1誘電体層の膜厚を第2誘電体層の膜厚より薄くし、L2層、L3層及びL5層で第1及び第2誘電体層の膜厚を同じにしたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表6に示した。
【0080】
【表6】

【0081】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表6の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表6の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0082】
また、この例では、比較のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は実施例6の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(比較例6)に対しても同様に上記評価を行った。比較例5の媒体に対する評価結果も表6に併せて記載した(表6中のt1=12μmの欄)。
【0083】
表6から明らかなように、この例の6層光記録媒体では、L0層〜L3層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ−32dB、−40dB以下、−30dB及び−29dBとなり、L0層〜L3層のいずれの再生時においても、不要光の影響を十分に低減できることが分かった。
【0084】
一方、比較例6の媒体では、表6から明らかなように、L2層及びL3層の情報再生時の不要光クロストークはこの例の媒体と同等の結果が得られた。しかしながら、L0層及びL1層の情報再生時の不要光クロストークがそれぞれ、−18dB及び−22dBとなり、比較例6の6層光記録媒体では、L0層及びL1層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0085】
上述のように、この例の6層光記録媒体では、L1層とL2層との間のスペーサ層のみを他のスペーサ層より厚くし、且つ、不要光が集光される得るL2〜L5層のうち、L4層のみで光入射側とは反対側の反射率を低くすることにより、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、光入射側に最も近い情報記録層L5から光入射側に最も遠い情報記録層L0までのトータルの厚さをできる限り薄くすることができることが分かった。すなわち、この例の6層光記録媒体においても、実施例1と同様に、より簡易な構造で、各情報記録層間の多重反射の影響を軽減するとともに、球面収差補正が容易となり、多層記録媒体の作製マージンが増え且つ安価な多層光記録媒体を提供することができることが分かった。
【0086】
なお、実施例6では、L0層及びL1層を実施例1と同様の構造にし、L0層及びL1層の第1誘電体層及び第2誘電体層を異なる膜厚で形成した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。L0層及びL1層は不要光が集光されない情報記録層であるので、L0層及びL1層の第1誘電体層及び第2誘電体層の膜厚を同じ膜厚で形成してもよい。
【0087】
[比較例7]
比較例7では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、不要光が集光され得るL2層〜L5層の第1誘電体層の膜厚を第2誘電体層の膜厚を同じにした。すなわち、L2層〜L5層では入射側から見た反射率(下記表7中の順入射単層未記録部反射率)と光入射側とは反対側から見た反射率(下記表7中の逆入射単層未記録部反射率)を同じにし、L1層のみで、光入射側から見た反射率を光入射側とは反対側から見た反射率より大きくした。L2層〜L5層において第1及び第2誘電体層の膜厚を同じにしたこと以外は、実施例1と同じ構造とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表7に示した。
【0088】
【表7】

【0089】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表7の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表7の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0090】
また、この例では、参考のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は比較例7の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(参考例1)に対しても同様に上記評価を行った。参考例1の媒体に対する評価結果も表7に併せて記載した(表7中のt1=12μmの欄)。
【0091】
表7から明らかなように、比較例7の6層光記録媒体では、L0層、L1層及びL3層の情報再生時における不要光クロストークは十分に低減されているが、L2層の情報再生時における不要光クロストークが−26dBとなり、比較例7の6層光記録媒体では、L2層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。これは、比較例7では、実施例1〜6の6層光記録媒体のようにL4層を不要光に対して反射防止構造でない(光入射側から見た反射率とその反対側から見た反射率とが同じである)ので、図4(e)に示したMODE2_34の不要光の影響を低減することができないためであると考えられる。
【0092】
また、参考例1の6層光記録媒体では、L3層の情報再生時における不要光クロストークは十分に低減されているが、L0層〜L2層の情報再生時における不要光クロストークがそれぞれ−18dB、−22dB及び−26dBとなり、参考例1の6層光記録媒体では、L0層〜L2層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。
【0093】
[比較例8]
比較例8では、実施例1と同様に、6層光記録媒体について説明する。この例の6層光記録媒体では、L0層とL1層との間のスペーサ層の厚さt0を17μmとし、その他のスペーサ層の厚さを全て12μmとした。スペーサ層の膜厚を変えたこと以外は、実施例1と同様の構成とした。この例の6層光記録媒体の膜構成の詳細を下記表8に示した。
【0094】
【表8】

【0095】
この例の6層光記録媒体に対しても、実施例1と同様にして、L0層〜L3層の不要光のクロストーク値CTを求め、その評価結果を表8の不要光クロストークの欄に記載した。なお、表8の不要光クロストークの欄に記載の評価◎、○及び×の基準は実施例1と同様である。
【0096】
また、この例では、参考のため、スペーサ層の厚さを全て同じにし且つそれ以外の構成は比較例8の6層光記録媒体と同様にした6層光記録媒体(参考例2)に対しても同様に上記評価を行った。参考例2の媒体に対する評価結果も表8に併せて記載した(表8中のt1=12μmの欄)。
【0097】
表8から明らかなように、比較例8の6層光記録媒体では、L0層、L2層及びL3層の情報再生時における不要光クロストークは十分に低減されているが、L1層における不要光クロストークが−26dBとなり、比較例8の6層光記録媒体では、L1層の情報再生時には不要光の影響を低減できないことが分かった。比較例8では、L0層とL1層との間のスペーサ層の厚さt0のみを変えているが、この場合、図4(c)及び4(d)に示したMODE1_23及びMODE1_35の不要光は集光する情報記録層においてデフォーカスされないので、これらのMODE1_23及びMODE1_35の不要光の影響を低減できない。それゆえ、この例の6層光記録媒体では、L1層の情報再生時の不要光クロストークが増大しているものと考えられる。
【0098】
上記実施例1〜6では、情報記録層を6層有する多層光記録媒体について説明したが、本発明は、これに限定されず、情報記録層を5層以上有する多層光記録媒体であれば適用可能である。情報記録層が5層または7層以上になっても、少なくとも図4(a)、(b)、(c)及び(e)に示した不要光は発生するので、情報記録層を5層または7層以上有する多層光記録媒体に対して本発明を適用しても、上述した原理と同様の原理でそれらの不要光を抑制することができるので、同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の情報記録層を5層以上有する多層光記録媒体では、より簡易な構造で、不要光の影響を低減すると共に、多層化(光入射側の最も近い情報記録層から最も遠い情報記録層までの距離の増大)に伴う球面収差補正等の問題が解消される。それゆえ、本発明の多層光記録媒体は、情報記録層を5層以上有する多層光記録媒体として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、実施例1の多層光記録媒体の概略構成図である。
【図2】図2は、不要光クロストークとジッタ値との関係を示した図である。
【図3】図3は、従来の多層光記録媒体の概略構成図であり、図3(a)はスペーサ層の厚さが全て同じ場合の多層光記録媒体の概略構成図であり、図3(b)は隣り合うスペーサ層の厚さを変化させた場合の多層光記録媒体の概略構成図である。
【図4】図4は、不要光の発生形態を説明するための模式図であり、図4(a)がMODE0_12の不要光であり、図4(b)がMODE0_24の不要光であり、図4(c)がMODE1_23の不要光であり、図4(d)がMODE1_35の不要光であり、図4(e)がMODE2_34の不要光であり、そして、図4(f)がMODE3_45の不要光である。
【図5】図5は、情報記録層の実効反射率と不要光クロストークとの関係を示した図である。
【図6】図6は、本発明の6層光記録媒体において、不要光の影響が低減できる原理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0101】
1 基板
2 カバー層
10〜14 スペーサ層
100 6層光記録媒体
101 第1誘電体層
102 熱吸収層
103 第2誘電体層
104 反射層
L0〜L5 情報記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向から光を照射して情報の記録再生を行う多層光記録媒体であって、
第1〜第5の情報記録層と、
各情報記録層の間に設けられた光透過性を有するスペーサ層とを備え、
光入射側から2番目に遠い第2情報記録層と3番目に遠い第3情報記録層との間のスペーサ層の厚さが、他のスペーサ層の厚さと異なり、該他のスペーサ層の厚さが互いに略等しく、且つ、光入射側から5番目に遠い第5情報記録層の光入射側から見た反射率が光入射側とは反対側から見た反射率より高いことを特徴とする多層光記録媒体。
【請求項2】
第2情報記録層と第3情報記録層との間の上記スペーサ層の厚さが、上記他のスペーサ層の厚さより厚いことを特徴とする請求項1に記載の多層光記録媒体。
【請求項3】
第3情報記録層及びそれより光入射側に位置する情報記録層の光入射側から見た反射率が、光入射側とは反対側から見た反射率より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の多層光記録媒体。
【請求項4】
第5情報記録層のみで、光入射側から見た反射率が、光入射側とは反対側から見た反射率より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の多層光記録媒体。
【請求項5】
第2情報記録層と第3情報記録層との間の上記スペーサ層の厚さと、上記他のスペーサ層の厚さとの差が2μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多層光記録媒体。
【請求項6】
光を所定の情報記録層に集光した際の所定の情報記録層からの戻り光の検出光量をRmとし、その際の所定の情報記録層より光入射側に位置する情報記録層間の多重反射により発生する不要光の検出光量をRgとしたときに、所定の情報記録層に光を集光した際の該不要光によるクロストーク値CT=10×log(Rg/Rm)が−27dB以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の多層光記録媒体。
【請求項7】
情報記録層の数が6層であり、各情報記録層の実効反射率が3.0%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層光記録媒体。
【請求項8】
第3情報記録層及びそれより光入射側に位置する情報記録層のうち少なくとも一つの情報記録層が、第1誘電体層と、第1誘電体層より光入射側から遠い位置に設けられた第2誘電体層と、第1及び第2誘電体層の間に設けられた記録層とを備え、第1誘電体層の厚さが第2誘電体層の厚さより厚く、且つ、第1及び第2誘電体層の屈折率が上記スペーサ層の屈折率より大きいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層光記録媒体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−293572(P2008−293572A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136860(P2007−136860)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】