説明

多層塗工膜の製造方法及び多層積層体

【課題】粘度を調整して積層させるためのゲル化剤等を多量に用いることなく、複数の塗工液を一括で塗布することにより、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該方法により得られる多層塗工膜からなる多層積層体を提供する。
【解決手段】複数の塗工液(A、B)を予め多層化し、多層化した塗工液(A、B)を基材4上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法において、各層用の塗工液(A、B)に固形分濃度勾配を与え、各層が、層内における塗工液の固形分濃度の高い帯域同士で接する構成とすることを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層塗工膜の製造方法及び多層積層体に関する。さらに詳しくは、複数の塗工液を一括で塗布することにより、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を、簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該方法により得られる多層塗工膜からなる多層積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行する基材上に1回の塗布プロセスにより多層を形成する多層塗工方式があり、写真フィルム等の塗工プロセスに広く利用されている。この方式による塗工方法は、図1に示すように、塗布ヘッド1における複数の狭いスリットから塗工液A及びBを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、重なりあった塗工液A及びBをロール3によって、走行する基材4上に転移させて多層塗工膜を形成するものである。
このような方法は、水溶系において有効であり、ゼラチンをバインダーとするハロゲン化乳化剤を同時多層塗布し、その後冷却する方法が知られている。この方法は、ゼラチンのゾル−ゲル変換特性を利用して多層膜をゲル化させて超高粘状態にし、層間の混合を起こり難くしたうえで熱風乾燥等により塗膜(塗工膜)を形成するものである。
【0003】
一方、有機溶剤系は、水系に比較して表面張力が低いため、層間の混合が起こりやすく、また有機溶剤において有効なゾル−ゲル変換物質は見出されていない。従って、有機溶剤系では、1層ずつ逐次塗布し、乾燥する方法がとられていた。このような逐次塗布乾燥方法は、多大な製造コストと製造時間を要するため、これまで、有機溶剤系においても、1回の塗布プロセスにより多層を形成する方法が提案されている。
例えば、増粘剤等の粘度調整成分を添加することにより、接する2層の界面における流動性や、混合の度合いを制御する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、粘度調整用に、一定量の増粘剤が必要であり、これら添加物は、一般に低分子量有機材料であり、多層塗工、積層体形成後に層中、層間を移動し、機械的特性や、層間の密着性の低下が想定され、用途によっては適用できない場合があった。
多層積層を実現するために通常用いられるゲル化剤や増粘剤は、添加する塗工液組成にもよるが、その効果を得るためには多くの添加量を要することが多く、積層後に、層中、層間を移動して、界面や表面に多く析出して、機械的強度や、層間の密着性を低下させるなどの懸念が生じる。また、ゲル化剤や増粘剤は、水系インキ及びアルコール系塗工液向けには、様々な種類の材料が提案されているものの、有機溶剤系インキ向けとしては、効果的な材料があまり提案されていないのが実状である。
【0004】
また、2種類の有機溶剤系塗工液を使用し、何れか一方の塗工液に界面活性剤を添加して塗工液の表面張力を制御することにより、2層塗工液の界面を維持させた状態で同時多層塗工する方法が提案されている(特許文献2参照)。
他にも、2種以上の非水系塗布液の少なくとも1種に電子線硬化性化合物を含有させ、同時多層塗布後、電子線を照射して塗布層を硬化あるいは増粘させ、乾燥することで多層塗工膜を得る方法が提案されている(特許文献3参照)。
さらに、各層が反応性基を有しており、接する各層を反応させて共有結合を形成することによる多層塗装膜の製造方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−20584号公報
【特許文献2】特開平7−136578号公報
【特許文献3】特開昭61−74675号公報
【特許文献4】特開平7−179631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法では、一定量の界面活性剤を添加するため、多層塗工、積層体形成後に層中、層間を移動し、機械的特性や、層間の密着性低下が想定され、用途によっては適用できない場合があった。特許文献3に記載の方法では、塗布工程の後、塗布液が混合しないうちに、電子線照射工程を行う必要があり、操作が煩雑であるとともに、おおがかりな装置が必要となるという問題点がある。
特許文献4に記載の方法では、共有結合を形成するためには、通常、多くの時間が必要(例えば、段落[0067]では24時間要している。)であるため、多層塗工膜を得るにはタンデム塗工方式しか採用できないという問題がある。
本発明は、このような状況下になされたものであり、粘度を調整して積層させるためのゲル化剤等を多量に用いることなく、複数の塗工液を一括で塗布することにより、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を簡便かつ生産性良く製造する方法、及び該方法により得られる多層塗工膜からなる多層積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、各層に固形分濃度勾配を与えて特定の構成をとることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]に関する。
[1]複数の塗工液を予め多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法において、各層用の塗工液に固形分濃度勾配を与え、各層が、層内における塗工液の固形分濃度の高い帯域同士で接する構成とすることを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。
[2]塗工液がいずれも有機溶剤系塗工液である、上記[1]に記載の多層塗工膜の製造方法。
[3]塗工液の固形分濃度勾配が、同一成分を含有するが固形分濃度が異なる塗工液を積層することにより得られたものである、上記[1]又は[2]に記載の多層塗工膜の製造方法。
【0008】
[4]多層塗工膜が、「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の2層構成又は「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の3層構成(但し、固形分濃度の高低は、相対的なものである。)を有する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により得られる多層塗工膜からなる多層積層体。
[6]「ポリカーボネート層/ポリエステル系樹脂層/アクリル系樹脂層」の3層構成を有する、上記[5]に記載の多層積層体。
[7]光学フィルム用である、上記[5]又は[6]に記載の多層積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、大量の粘度調整用ゲル化剤等を用いることなく、接する層間の混合を抑制しながら、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を簡便かつ生産性良く製造することができる。たがって、本発明の方法を用いることで、光学フィルムなどの多層フィルムを、諸物性の低下を伴うことなく、高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の多層塗工膜を製造するための装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、2層の同時多層塗工膜の製造方法を中心に説明することがあるが、本発明は2層に限定されるものではなく、3層以上の同時多層塗工膜の製造にも適用が可能である。
本発明の多層塗工膜の製造方法は、上層用の塗工液及び下層用の塗工液を予め多層化し、多層化した塗工液を、基材上に転移させて多層塗工膜を製造する工程を含む。
上層用の塗工液及び下層用の塗工液を予め多層化する方法に特に制限は無いが、例えば(1)傾斜したスライド面上にて多層化させる方法、(2)水平な平面状にて多層化させる方法、(3)円形シリンダー上にて多層化させる方法、(4)傾斜した放物面上にて多層化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、通常、方法(1)が好ましく利用される。
【0012】
本発明は、上層用の塗工液と下層用の塗工液それぞれに固形分濃度勾配を与え、各層が、層内における塗工液の固形分濃度の高い帯域同士で接する構成とすることにより、各層の混合を抑制でき、多層を維持したまま、基材に転移させることができるものであり、特にゲル化剤等を用いる必要性が無い。本発明では、上記の通り、層間の混合を抑制するものの、必ずしも完全な抑制ではなく、若干の混合(各層の好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下での混合)が生じる傾向にある。このことが、層間の密着性を極めて高くする要因になっているものと推測される。
各層用の塗工液に固形分濃度勾配を与える方法に特に制限は無いが、例えば、同一成分を含有するが固形分濃度の異なる塗工液を積層し、固形分濃度の高低分布を有する1つの層(塗工液)とする方法が簡便であり好ましい。
例えば、2層塗工膜を得る場合は、上層を「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)」の構成からなる塗工液の積層とし、下層を「(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の構成からなる塗工液の積層とすることにより、「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の2層構成の塗工膜を得ることができる。なお、本明細書において、塗工液A/塗工液Bの様な表記は、塗工液Aが上層であり、塗工液Bが下層であることを示す。
また、3層塗工膜を得る場合は、上層を「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)」の構成からなる塗工液の積層とし、中間層を「(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)」の構成からなる塗工液の積層とし、下層を「(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の構成からなる塗工液の積層とすることにより、「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の3層構成の塗工膜を得ることができる。
【0013】
上記固形分濃度の高低は相対的なものであり、各層の形成に使用する塗工液の固形分濃度に差がある限り、それらの濃度差に特に制限は無い。各層の混合を抑制する観点からは、高固形分濃度が低固形分濃度の1.2倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることがさらに好ましい。また、各層の混合を抑制するという観点では、通常、高固形分濃度は低固形分濃度の6倍以下でよく、5倍以下、4倍以下、さらには3.5倍以下で十分である。
以上の様に、各層の固形分濃度の高い帯域同士が接する構成とすることで、各層の混合を抑制することが可能となった。これは、1つの層において、高固形分濃度の塗工液から低固形分濃度の塗工液への拡散が起こり易く、塗工液の拡散の動きが、例えば3層であれば「(低固形分濃度の塗工液←高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液→低固形分濃度の塗工液←高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液→低固形分濃度の塗工液)」となっており、各層間での拡散が生じ難い環境下に置かれたためと考えられる。
【0014】
(塗工膜形成成分;固形分)
本発明における塗工膜形成成分としては、該塗工液に用いられる溶剤に溶解し、かつ被膜形成性を有する樹脂であれば、特に制限は無く、例えばポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、変性アクリル系樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは数万〜数百万であり、より好ましくは3万〜50万である。本発明では、特に、光学フィルムとして有用な「ポリカーボネート層/ポリエステル系樹脂層/アクリル系樹脂層」の3層構成からなる多層積層体を製造することも可能である。
【0015】
また、本発明においては、活性エネルギー線硬化型化合物も用いることができる。
活性エネルギー線硬化型化合物は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、架橋、硬化する化合物である。この活性エネルギー線硬化型化合物としては、以下の活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又は活性エネルギー線硬化型モノマーを用いることができる。
【0016】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系のオリゴマー等が挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量(例えば5000未満)のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。
ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
上記活性エネルギー線硬化型オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲である。
このオリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えばジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、前記活性エネルギー線硬化型化合物と共に、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光重合開始剤を使用する場合、その使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよいが、通常、活性エネルギー線硬化型化合物に対して0.001〜0.5倍質量の範囲で使用するのが好ましい。
なお、塗工液中の塗工膜形成成分の含有量に特に制限は無いが、通常、塗工液全体に対して、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは7〜60質量%、さらに好ましくは10〜60質量%である。この値は、後述するその他の添加成分を含有させない場合、又は該その他の添加成分を含有させるが、塗工液中で固形分となる添加成分が無い場合には、塗工液の固形分濃度に相当するものである。
【0019】
(溶剤)
塗工液に用いる溶剤としては、水や、塗工膜のコーティングに通常用いられる有機溶剤を用いればよいが、層間の混合が起こりやすい有機溶剤を使用する場合に、本発明の効果が顕著に現れる。なお、溶剤として有機溶剤を用いた塗工液を、有機溶剤系塗工液と称する。
該有機溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族系有機溶剤;トルエン、キシレン、ブロモベンゼン等の芳香族系有機溶剤;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;エチルセロソルブ等のセロソルブ系有機溶剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
塗工液中の溶剤の含有量は、塗工液が塗工可能な粘度となり、かつ均一な塗工液となる量であれば特に制限は無いが、塗工液中の塗工膜形成成分の含有量(濃度)が上記範囲となるように調整することが好ましい。
(その他の添加成分)
当該塗工液には、さらに各種添加剤を含有させてもよい。該添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
【0020】
(基材)
前記塗工液を塗布する基材に特に制限はなく、多層塗工膜を有する部材の用途によって適宜選択することができる。特に本発明に係る多層塗工膜を光学用部材に用いる場合、光学用フィルムの基材として、公知のプラスチックフィルムの中から適宜選択して用いることができる。このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0021】
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好ましい。
これらの基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から、好ましく用いられる。
【0022】
本発明においては、前述の通り、複数の塗工液を予め多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる方法が採られる。
多層化する際に傾斜したスライド面を利用する場合、塗工液を流動させるための、傾斜したスライド面を有するものとしては、例えば図1に示すようなスライドコーターが好ましく挙げられる。
スライド面の傾斜角度は、水平方向に対して5〜40度が好ましく、10〜35度がより好ましく、15〜35度がさらに好ましい。また、スライド面上への塗工液の吐出口の中心と、隣り合う塗工液の吐出口の中心との距離は、8〜30cmが好ましく、10〜28cmがより好ましく、12〜26cmがさらに好ましい。さらに、複数のスライド面上への塗工液の吐出口の内、塗工液を基材へ転移する部位に最も近い吐出口の中心と、基材との距離は、2〜14cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、4〜11cmがさらに好ましい。特に、このように設計されたスライドコーターを使用した場合に、本発明の効果が顕著に現れる傾向にある。
以下に、図1のスライドコーターを参照して、塗工液を多層化する方法の一例を詳細に説明する。
塗布ヘッド1における2つのスリット状の吐出口から、それぞれ固形分濃度勾配を与えた塗工液A及び塗工液Bを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、塗工液A及び塗工液Bを多層化する。多層化した塗工液(塗工膜)は、ロール3によって走行する基材4上に転移させる。
【0023】
(多層積層体の形成)
塗工液中の塗工膜形成成分が、前述した熱可塑性樹脂である場合、前記のようにして基材上に多層塗工膜を形成した後、適宜加熱乾燥させることにより、多層積層体を形成することができる。加熱乾燥温度は、通常40〜150℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは60〜90℃である。加熱乾燥の時間に特に制限は無いが、通常、1〜5分間程度が好ましい。
一方、塗工液中の塗工膜形成成分が、前述した活性エネルギー線硬化型化合物である場合には、前記のようにして基材上に多層塗工膜を形成した後、加熱乾燥させ、活性エネルギー線を照射して硬化処理を行い(但し、加熱乾燥と硬化処理の順序は逆でもよい。)、多層積層体を形成する。活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線等が挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプ等で得られる。一方、電子線は、電子線加速器等によって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、光重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができる。活性エネルギー線が紫外線の場合、その光量は、50〜200mJ/cm2程度が好ましい。
なお、基材上に多層塗工膜を形成した後、各層の混合抑制の観点から、好ましくは0.1〜10秒後、より好ましくは0.5〜8秒後、さらに好ましくは1〜5秒後に加熱乾燥又は硬化処理を行なう。
このようにして形成された多層塗工膜の厚さは、特に制限されるものではないが、通常、好ましくは0.1〜30μm程度、より好ましくは1〜15μmである。
なお、塗工膜中の層分離構造の有無は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において使用する、上層用、中間層用及び下層用の塗工液について、「塗工液A/塗工液B」又は「塗工液A/塗工液B/塗工液C」という表記によって1つの塗工液として表しているが、いずれの塗工液も別々のスリットへ通して別々の吐出口から出ているものである(つまり、同一成分である塗工液の重なりを1つの層として見て、上記表記としている。)。上記塗工液の順序は、吐出口から流れ出た後に重なり合った際の上下関係を示している。
【0025】
また、実施例で得られた積層構造体の密着性の評価を、以下に示す方法に従って行った。
(密着性の測定)
JIS K5600−5−6に準拠し、層間の密着性を測定した。なお、剥離後の残りをパーセンテージで表した。剥離後の残りが100%に近いほど、層間の密着性が良好である。
【0026】
<製造例1>
以下の成分を室温で混合して、均一な赤色の塗工液1(固形分濃度:40質量%)を得た。
ポリメチルメタクリレート(関東化学株式会社製) 40g
メチルイソブチルケトン(関東化学株式会社製) 58g
識別用着色剤「ソルベントレッド24」(関東化学株式会社製) 0.5g
【0027】
<製造例2>
製造例1において、ポリメチルメタクリレートの添加量を6.5gに変えたこと以外は同様にして、均一な赤色の塗工液2(固形分濃度:10質量%)を得た。
【0028】
<製造例3>
以下の成分を室温で混合して、均一な無色の塗工液3(固形分濃度:43質量%)を得た。
非晶性ポリエステル「バイロン(登録商標)200」(東洋紡績株式会社製)43g
酢酸エチル(関東化学株式会社製) 56g
(識別用着色剤なし)
【0029】
<製造例4>
製造例3において、非晶性ポリエステルの添加量を6gに変えたこと以外は同様にして、均一な無色の塗工液4(固形分濃度:10質量%)を得た。
【0030】
<製造例5>
以下の成分を室温で混合して、均一な青色の塗工液5(固形分濃度:45質量%)を得た。
ポリカーボネート(関東化学株式会社製) 38g
トルエン(関東化学株式会社製) 46g
識別用着色剤「ソルベントブルー63」(関東化学株式会社製) 0.5g
【0031】
<製造例6>
製造例5において、ポリカーボネートの添加量を5gに変えたこと以外は同様にして、均一な青色の塗工液6(固形分濃度:10質量%)を得た。
【0032】
<製造例7>
製造例1において、ポリメチルメタクリレートの添加量を10gに変えたこと以外は同様にして、均一な赤色の塗工液7(固形分濃度:15質量%)を得た。
【0033】
<製造例8>
以下の成分を室温で混合して、均一な無色の塗工液8(固形分濃度:18質量%)を得た。
非晶性ポリエステル「バイロン(登録商標)200」(東洋紡績株式会社製)11g
酢酸エチル(関東化学株式会社製) 52g
(識別用着色剤なし)
【0034】
<製造例9>
製造例5において、ポリカーボネートの添加量を8gに変えたこと以外は同様にして、均一な青色の塗工液9(固形分濃度:15質量%)を得た。
【0035】
<実施例1>
図1に示すような装置(スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗工液を基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と基材との距離;10cm。但し、スリット状の吐出口が7つの装置を用いた。)を用いて、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム「コスモシャイン(登録商標)A4100」(東洋紡績株式会社製)上に表1に示す塗工液をコーティングした。
【0036】
【表1】

【0037】
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしてから5秒後に80℃のオーブン中で3分間加熱乾燥することにより、目視によると若干の層の混合はあるものの、ポリカーボネート層/ポリエステル層/アクリル樹脂層の3層構成からなる積層体(膜厚:約10μm)を確認した。
「ポリカーボネート層/ポリエステル層/アクリル樹脂層」の密着性は100%であった。
【0038】
<実施例2>
実施例1において、上記表1に示す塗工液を下記表2に示す塗工液に代えたこと以外は同様にして塗工液をコーティングした。
【0039】
【表2】

【0040】
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしてから5秒後に80℃のオーブン中で3分間加熱乾燥することにより、目視によると若干の層の混合はあるものの、ポリカーボネート層/ポリエステル層/アクリル樹脂層の3層構成からなる積層体(膜厚:約10μm)を確認した。
「ポリカーボネート層/ポリエステル層/アクリル樹脂層」の密着性は100%であった。
【0041】
<比較例1>(固形分濃度勾配無し)
実施例1において、上層用として塗工液5のみを、中間層用として塗工液3のみを、下層用として塗工液1のみを使用した(但し、スリット状の吐出口が3つの装置を用いた。)こと以外は同様にして塗工液をコーティングした。
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしたものの、加熱乾燥前に既に各層が混合しており、積層化できなかった。
【0042】
<比較例2>
実施例1において、上記表1に示す塗工液を下記表3に示す塗工液に代えたこと以外は同様にして塗工液をコーティングした。
【0043】
【表3】

【0044】
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしたものの、加熱乾燥前に既に各層が混合しており、3層構成からなる積層体の形成が不可能であった。
【0045】
<比較例3>
実施例1において、上記表1に示す塗工液を下記表4に示す塗工液に代えたこと以外は同様にして塗工液をコーティングした。
【0046】
【表4】

【0047】
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしたものの、加熱乾燥前に既に上層と中間層が混合(それぞれの層のおおよそ80質量%が混合)しており、3層構成からなる積層体の形成が不可能であった。
【0048】
<比較例4>
実施例1において、上記表1に示す塗工液を下記表5に示す塗工液に代えたこと以外は同様にして塗工液をコーティングした。
【0049】
【表5】

【0050】
ポリエチレンテレフタレートフィルム上にコーティングしたものの、加熱乾燥前に既に中間層と下層が混合(それぞれの層のおおよそ80質量%が混合)しており、3層構成からなる積層体の形成が不可能であった。
【0051】
以上より、本発明の製造方法によれば、接する層間の混合を抑制しながら、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を簡便かつ生産性良く製造することができる。このように、ほとんど各層が混合せずに多層積層体を形成することができたのは、各層において、親和性の高い同成分同士における固形分濃度勾配があるため、固形分が「各層内」でより濃度の希薄な方向へ拡散しようとする作用が働いたものと推測する。
一方、比較例のように、層内における固形分の拡散が、接する層へ向かっている場合、その接する層との混合が進行してしまい、多層積層体の形成が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によると、大量の粘度調整用ゲル化剤等を用いることなく、接する層間の混合を抑制しながら、層間の密着性に極めて優れた多層塗工膜を簡便かつ生産性良く製造することができるため、光学フィルム等の多層フィルムの製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1:塗布ヘッド
2:スライド面
3:ロール
4:基材
A:上層塗工液
B:下層塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の塗工液を予め多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法において、各層用の塗工液に固形分濃度勾配を与え、各層が、層内における塗工液の固形分濃度の高い帯域同士で接する構成とすることを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。
【請求項2】
塗工液がいずれも有機溶剤系塗工液である、請求項1に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項3】
塗工液の固形分濃度勾配が、同一成分を含有するが固形分濃度が異なる塗工液を積層することにより得られたものである、請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項4】
多層塗工膜が、「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の2層構成又は「(低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液/高固形分濃度の塗工液)/(高固形分濃度の塗工液/低固形分濃度の塗工液)」の3層構成(但し、固形分濃度の高低は、相対的なものである。)を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる多層塗工膜からなる多層積層体。
【請求項6】
「ポリカーボネート層/ポリエステル系樹脂層/アクリル系樹脂層」の3層構成を有する、請求項5に記載の多層積層体。
【請求項7】
光学フィルム用である、請求項5又は6に記載の多層積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−72879(P2011−72879A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225455(P2009−225455)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】