説明

多層成形体

【課題】 ポリカーボネート樹脂に対して優れた接着性を有し、シール性、耐熱性及び耐油性に優れた熱可塑性エラストマー組成物と、ポリカーボネート樹脂とを積層してなる多層成形体を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂からなる層と、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を含有する層を積層してなる多層成形体。
成分(A):アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):グラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部に対して60質量部以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂からなる層とシール性、耐熱性及び耐油性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を含有する層を積層してなる多層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車窓枠、建材窓枠、家電機器、携帯電話、各種情報機器、インクタンク、燃料タンク、各種容器等のシール性が要求される部品、自動車内装品、工具、雑貨、筆記具等のグリップ性が要求される部品においては、硬質樹脂と軟質樹脂の多層成形体が使用される場合がある。特に自動車関連においては、グレージングと呼ばれるポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の硬質樹脂と熱可塑性エラストマー等の軟質樹脂の多層成形体が挙げられる。このような多層成形体を簡便に製造する方法としては、多色射出成形法、インサート射出成形法、共押出成形法等の加熱による接着する方法が知られている。
【0003】
軟質樹脂にシール性、耐熱性及び耐油性に優れたアクリル系ゴムと、オレフィン系重合体セグメント及びビニル系重合体セグメントからなるグラフト共重合体と、架橋剤と、共架橋剤とを溶融混練して得られるオレフィン系熱可塑性エラストマー(特許文献1を参照)が有用であるが、ポリカーボネート樹脂との相溶性、密着性がないため、上記のような製造方法は適用できず、このような多層成形体を製造する場合は、接着剤等を樹脂表面に塗布し、接着させる工程が必要となってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−002651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的とするところは、ポリカーボネート樹脂と、ポリカーボネート樹脂に対して優れた接着性を有し、シール性、耐熱性及び耐油性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を積層してなる多層成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の発明の多層成形体は、ポリカーボネート樹脂からなる層と、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を含有する層を積層したことを特徴とするものである。
【0007】
成分(A):アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部に対して60質量部以下。
【0008】
第2の発明の多層成形体は、第1の発明において、成分(D)がトリメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤から選ばれることを特徴とするものである。
【0009】
第3の発明の多層成形体は、第1または第2のいずれかの発明において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤(成分(E))で動的架橋することによって得られることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層成形体は、ポリカーボネート樹脂と熱可塑性エラストマー組成物が良好な接着性を有しており、多色射出成形、インサート射出成形、共押出成形等の加熱による接着を利用した成形方法により、接着剤を使わずに、簡便に製造することができる。さらに熱可塑性エラストマー組成物は、シール性、耐熱性及び耐油性に優れている。このため、自動車内外装用途、建材用途、家電機器用途、携帯電話用途、各種情報機器用途等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の多層成形体は、ポリカーボネート樹脂からなる層と、成分(A)のアクリルゴム、成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)のグラフト共重合体又はその前駆体及び成分(D)の可塑剤からなる熱可塑性エラストマー組成物を含有する層を積層することで得られるものである。
以下、多層成形体の各成分について詳細に説明する。
〔ポリカーボネート樹脂〕
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、
1274675862000_0
に優れたエンジニアリングプラスチックスの一種であり、市販の全てのポリカーボネート樹脂を使用可能である。ポリカーボネート樹脂以外に必要に応じて、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、着色剤、加工助剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0012】
〔成分(A)アクリルゴム〕
成分(A)のアクリルゴムは、熱可塑性エラストマー組成物のシール性、耐熱性及び耐油性を発揮できる成分である。係るアクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合して得られるものである。
【0013】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの中で優れたシール性と耐油性を発揮できるという点で特に好ましいのは、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである。
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステル、例えばアクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、アクリル酸−2−ブトキシエチル等が挙げられる。これらの中で優れた耐油性を発揮できるという点で特に好ましいのは、アクリル酸−2−メトキシエチルである。これらの単量体は1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0014】
アクリルゴム中に含まれるアクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種の含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。この含有量が85質量%未満の場合には、熱可塑性エラストマー組成物のシール性等の物性が低下し、99.5質量%を越える場合には相対的にエポキシ基含有単量体の含有量が少なくなってアクリルゴムの架橋が十分に行われなくなる傾向を示す。
エポキシ基含有単量体とは、分子内にエポキシ基を有するビニル系単量体を意味する。このエポキシ基含有単量体としては、一般的なエポキシ基含有単量体を全て使用することができる。その例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。好ましいエポキシ基含有単量体は、(メタ)アクリル酸グリシジルである。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。アクリルゴム中に共重合されるエポキシ基含有単量体の含有量は0.5〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。エポキシ基含有単量体の含有量が0.5質量%未満の場合にはアクリルゴムの架橋が十分に行われず、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が劣り、15質量%を越える場合にはアクリルゴムが過度に架橋されるため、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が低下し、良好な外観を得ることができない。
【0015】
また、シール性、成形加工性、耐油性等の物性を向上させる目的で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−2−エトキシエチル等のメタクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテート等の活性塩素含有単量体;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル等のフッ素系(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のビニルアミド;エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;二官能性(メタ)アクリレート類、三官能性(メタ)アクリレート類及び酢酸ビニル、塩化ビニル等の共重合性単量体をアクリルゴム中に共重合させることができる。
【0016】
これらの共重合性単量体の共重合量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この共重合量が40質量%を越える場合、熱可塑性エラストマーのシール性、成形加工性、耐油性、低温特性等の物性のバランスを損なうおそれがある。
成分(A)のアクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は好ましくは−15℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。Tgが−15℃よりも高いと、熱可塑性エラストマー組成物の脆化温度が高くなるため、実用的な使用に耐えることができなくなる場合がある。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(A)のアクリルゴムの含有量は、成分(A)と成分(B)の合計量を100質量部としたとき、50〜85質量部であると、成形加工性とシール性のバランスに優れるため好ましい。アクリルゴムの含有量が50質量部未満の場合、熱可塑性エラストマー組成物のシール性が損なわれるため好ましくなく、85質量部を越える場合、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が損なわれるため好ましくない。
【0017】
〔成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂〕
成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性を向上させ、耐熱性及び耐油性を発揮させる成分である。係る熱可塑性ポリエステル樹脂は、主鎖中にエステル結合を持つ全ての熱可塑性飽和ポリエステルが含まれる。熱可塑性ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジヒドロキシ成分との重縮合、オキシカルボン酸成分の重縮合、又はこれら三成分の重縮合等の公知の方法により得ることができ、ホモポリエステル、コポリエステルのいずれであってもよい。熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用される。
【0018】
熱可塑性ポリエステル樹脂は非結晶性であってもよいが、結晶性であるほうが耐熱性及び耐油性に優れるという点から好ましい。また、融点が100℃以上であることが好ましく、さらに160〜280℃の間にあることが高温下での耐熱性と耐油性に優れるという点で最も好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレートが挙げられる。
熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計量を100質量部としたとき、15〜50質量部であると、成形加工性とシール性のバランスに優れるため好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量が15質量部未満の場合、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が損なわれるため好ましくなく、50質量部を越える場合、熱可塑性エラストマー組成物のシール性が損なわれるため好ましくない。
【0019】
〔成分(C)グラフト共重合体〕
成分(C)のグラフト共重合体は、前記成分(A)アクリルゴムと成分(B)熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性(親和性)を増し、成分(A)の機能と成分(B)の機能とを十分に発揮させるとともに、相乗的作用を発現させる成分である。このグラフト共重合体により、熱可塑性エラストマー組成物のシール性を維持しながら、良好な成形加工性を付与することができる。係るグラフト共重合体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメンとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体である。
【0020】
オレフィン系重合体セグメントは、エチレン及び極性単量体から形成されるものであり、その具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸−n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ジメチルアミノメチル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレンオキサイド付加物、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体又はエチレン−メタクリル酸共重合体の分子間をナトリウム、亜鉛等の金属イオンで分子間結合したアイオノマー等が挙げられる。
【0021】
オレフィン系重合体セグメントにおける極性単量体の割合は、エチレンと極性単量体の合計100質量部に対して5〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましい。極性単量体の割合が5質量部未満の共重合体は、硬度が高く、耐油性が低いため、熱可塑性エラストマー組成物のシール性や耐油性を損なう場合がある。一方、極性単量体が50質量部を越える共重合体は、低硬度、耐油性に優れるという反面、機械的強度に劣るため、熱可塑性エラストマー組成物の引張強度、伸び等の機械的物性が低下する。
ビニル系共重合体セグメントは、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成される。ビニル系共重合体セグメントは、成分(A)のアクリルゴムと相溶することによって、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性及び外観を向上させ、さらに機械的物性を向上させることができる。
【0022】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの中で、耐油性と成分(A)のアクリルゴムとの相溶性の点で特に好ましいのは、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル等のアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである。
ビニル系共重合体セグメント100質量部中に含まれるアクリル酸アルキルエステルは20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。アクリル酸アルキルエステルが20質量部未満の場合、グラフト共重合体とアクリルゴムとの相溶性が十分に得られないため、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度の低下や外観の悪化が起こるため好ましくない。
【0023】
ビニル系共重合体セグメントはアクリル酸アルキルエステルに加えて、1種又は2種以上のビニル系単量体を共重合させることができる。共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、;(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体、;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体、;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体、;スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニル化合物;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル等が挙げられる。これらのビニル系単量体はビニル系共重合体セグメント100質量部中に好ましくは80質量部以下共重合させることができ、より好ましくは70質量部以下共重合させることができる。
【0024】
ビニル系共重合体セグメントとなるビニル系共重合体の数平均重合度は、通常5〜10,000、好ましくは10〜5,000、最も好ましくは100〜2,000である。この数平均重合度が5未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の成形性を向上させることは可能であるが、成分(A)アクリルゴムとの相溶性が低下し、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性及び外観が悪化する傾向にある。一方、数平均重合度が10,000を越えると、溶融粘度が高くなり、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が低下する。
グラフト共重合体100質量部中に含まれるオレフィン系重合体セグメントの割合は、通常5〜95質量部、好ましくは20〜90質量部、最も好ましくは30〜85質量部である。従って、ビニル系共重合体セグメントの割合は、通常5〜95質量部、好ましくは10〜80質量部、最も好ましくは15〜70質量部である。オレフィン系重合体セグメントの割合が5質量部未満の場合には熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性が不十分となり、95質量部を越える場合には成分(A)のアクリルゴムとの相溶性が低くなり、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性や外観が悪化する傾向にある。
【0025】
前述のように、グラフト共重合体は、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されているマトリックス相中に分散相を形成している多相構造体である。一方のセグメントは他方のセグメント中に平均粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成しているものである。分散相の平均粒子径が0.001μm未満の場合及び10μmを越える場合のいずれも、成分(C)のグラフト共重合体と成分(A)のアクリルゴムとの相溶性が低くなり、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性や外観が悪化する傾向にある。
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でもよいが、下記に示す方法が最も好ましい。その理由は、製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメントの二次的凝集が起こらず、成分(C)のグラフト共重合体を成分(A)のアクリルゴムや成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂と混合しやすくなるためである。
【0026】
以下に、そのようなグラフト共重合体の製造方法を説明する。水中に懸濁させたエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体に、少なくともアクリル酸アルキルエステルを有するビニル系単量体を含むビニル系単量体、下記の一般式(1)又は(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物及びラジカル重合開始剤を含浸させる。その後、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体中で共重合させて、グラフト化前駆体を得る。グラフト共重合体は、このグラフト化前駆体を溶融混練することにより得ることができる。
【0027】
グラフト化前駆体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体粒子中に、少なくともアクリル酸アルキルエステルを有するビニル系単量体を含むビニル系単量体とラジカル重合性有機化酸化物との共重合体が分散した構造体である。グラフト化前駆体は、その中に分散されているビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物の共重合体が、活性酸素として0.003〜0.73質量%を含有していることが好ましい。活性酸素量が0.003質量%未満の場合、グラフト化前駆体のグラフト化能が極度に低下し好ましくない。一方、0.73質量%を越える場合、グラフト化の際にゲルの生成が多くなるため好ましくない。なお、この場合の活性酸素量は、グラフト化前駆体から溶剤抽出によりビニル系共重合体を抽出し、このビニル系共重合体の活性酸素量をヨードメトリー法により求めることができる。
前記ラジカル重合性有機過酸化物とは、エチレン性不飽和基と過酸化結合基とを有する単量体である。好ましくは下記一般式(1)又は(2)で示される化合物である。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、R1は水素原子又は炭素数1又は2のアルキル基、R2は水素原子又はメチル基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R5は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は水素原子又はメチル基、R8及びR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
【0032】
一般式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート等が挙げられる。
一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアリルカーボネート、tert−アミルペルオキシアリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、tert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシアリルカーボネート又はtert−ブチルペルオキシメタリルカーボネートである。
【0033】
成分(C)グラフト共重合体は、グラフト化前駆体を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練中の加熱により、ビニル系共重合体中の過酸化結合が開裂し、生成したラジカルがオレフィン系重合体に対して水素引き抜き反応を行い、それに引き続くグラフト化反応によりグラフト共重合体が製造される。溶融混練する際の混練機としては、具体的には、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等が使用される。混練温度は通常100〜300℃、好ましくは120〜280℃の範囲である。上記温度が100℃未満の場合、溶融が不完全な場合や、溶融粘度が高すぎる場合があるため、混合が不十分となって、グラフト共重合体の相分離や層状剥離が現れるため好ましくない。一方、300℃を越える場合、グラフト化時に分解又はゲル化が起こり易くなるため好ましくない。
【0034】
このようにして得られる成分(C)のグラフト共重合体は、そのオレフィン系重合体セグメントが成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂に配向し(相溶性を示し)、ビニル系重合体セグメントが成分(A)のアクリルゴムに配向する(相溶性を示す)ものと考えられる。そして、熱可塑性エラストマー組成物中において、成分(A)と成分(B)とが成分(C)によって相溶化され、成分(A)及び成分(B)の機能が相乗的に発揮されるものと推測される。
熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(C)のグラフト共重合体の割合は、成分(A)のアクリルゴムと成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂の合計100質量部に対し1〜35質量部である。グラフト共重合体の割合が1質量部未満の場合は、成形加工性の改良効果が不十分で外観が劣る傾向となり、35質量部よりも多い場合は、熱可塑性エラストマーの耐油性が損なわれるため好ましくない。
〔成分(D)可塑剤〕
【0035】
熱可塑性エラストマー組成物には可塑剤を含ませることができる。可塑剤としては、フタル酸系、アジピン酸系、アゼライン酸系、セバシン酸系、リン酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系、エポキシ系、ポリエステル系又はポリエーテルエステル系或いはそれらの混合物を可塑剤として含ませることができる。可塑剤を含ませることによる具体的な利点は、熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性、シール性、耐油性及び耐寒性が向上する点にある。一方で、可塑剤の耐熱性が低い場合や揮発性が高い場合には熱可塑性エラストマー組成物に悪影響を及ぼす場合がある。すなわち、可塑剤の分解による熱可塑性エラストマー組成物の劣化や可塑剤の揮発による熱可塑性エラストマー組成物の硬化や収縮などである。このような熱可塑性エラストマー組成物の劣化、硬化及び収縮が起こる場合、シール性が低下するといった問題が発生する。従って、熱可塑性エラストマー組成物に含ませる可塑剤としては耐熱性が高く、揮発性の低いものが好ましい。好ましく使用することができる可塑剤としては、トリメリット酸系、ポリエステル系、ポリエーテルエステル系である。トリメリット酸系としては、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。ポリエステル系としては、フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、トリメリット酸系ポリエステル、ピロメリット酸系ポリエステル等が挙げられる。ポリエーテルエステル系としては、ポリエーテルポリエステル系等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0036】
可塑剤の配合量は、成分(A)のアクリルゴム100質量部に対して60質量部以下であることが好ましい。可塑剤の配合量が60質量部を越える場合、可塑剤のブリードアウトが起き、熱可塑性エラストマー組成物の外観の悪化、機械的物性の低下が大きくなる傾向にある。
さらに、本実施形態の多層成形体は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤(成分(E))で動的架橋することによって得られる熱可塑性エラストマー組成物を成形することで得られるものである。
以下、熱可塑性エラストマー組成物の成分(E)について詳細に説明する。
【0037】
〔成分(E)架橋剤〕
熱可塑性エラストマー組成物を得るために使用する架橋剤は、アクリルゴムのエポキシ基と共有結合することによりアクリルゴムを架橋する機能を有する。係る架橋剤としては、エポキシ基と反応する官能基を有するものであれば使用可能である。例えば、ポリアミン、ポリオール、ポリカルボン酸、酸無水物、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩、ブロックカルボン酸等を挙げることができ、この中で特に好ましいのはポリカルボン酸、酸無水物である。
【0038】
ポリカルボン酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロペンタントリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、フタル酸、トリメット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。酸無水物の具体例としては、これらのポリカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
架橋剤の使用量は、選択する架橋剤の種類によって異なるが、一般的に成分(A)のアクリルゴム100質量部に対して0.05〜5質量部の範囲で設定される。架橋剤量の使用量が0.05質量部未満の場合、十分な架橋が行われず、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性や耐油性が低下し、5質量部を越える場合、熱可塑性エラストマー組成物が過度に架橋されるため、良好な成形加工性が得られない。
【0039】
〔その他配合剤〕
熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に種々の添加剤を適する量で含ませることができる。そのような添加剤として例えば、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、ヒンダードアミンのような光安定剤、紫外線吸収剤、アクリル系高分子加工助剤、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ワックス類、低分子量ポリエチレン類等の加工助剤、発泡剤、粘着防止剤、粘着付与剤、帯電防止剤、二酸化チタンのような着色剤及び顔料等が挙げられる。添加剤の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してそれぞれ10質量部以下であることが好ましい。また、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、タルク等に代表される充填剤が挙げられる。充填剤の表面は、ステアリン酸、オレイン酸、パルチミン酸またはそれらの金属塩、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはそれらの変性物、有機シラン、有機ボラン、有機チタネート等を使用して表面処理を施すことが好ましい。水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等に代表される無機難燃剤、ハロゲン系及びリン系に代表される有機難燃剤等の難燃剤が挙げられる。充填剤、難燃剤の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して70質量部以下であることが好ましい。
【0040】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
熱可塑性エラストマー組成物は、前記各成分よりなる組成物について溶融混練を行うことによって製造される。溶融混練を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。また架橋剤の添加による動的架橋は、成分(A)のアクリルゴム、成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)のグラフト共重合体及び成分(D)の可塑剤を、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点より高い温度で溶融混練し、混練中に高剪断の下でアクリルゴムのエポキシ基を架橋することを意味する。通常、こうして動的に架橋されたアクリルゴムは、熱可塑性ポリエステル樹脂のマトリックス相に微分散される。このような相構造を形成することにより、アクリルゴムが架橋されているにも関わらず、エラストマー組成物は熱可塑性を有する。従って、熱可塑性エラストマー組成物は、射出成形法、押出成形法等のような従来の熱可塑性樹脂の成形方法(加工技術)及び成形装置により加工及び再加工することができる。
【0041】
熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、グラフト共重合体ではなく、グラフト化前駆体を材料として使用することもできる。なぜならば、グラフト化前駆体は熱可塑性エラストマー組成物を製造する過程の溶融混練によってグラフト化反応を起こし、グラフト共重合体となるからである。つまり、グラフト化前駆体を使用することによって、グラフト化反応工程と動的架橋工程を同時に行うことができるのである。このようにグラフト化前駆体を使用して熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法は、製造工程の簡略化という面から好ましい。
【0042】
前記架橋反応は溶融混練中に成分(E)の架橋剤を添加することによって進行する。成分(E)の架橋剤は、成分(A)のアクリルゴム、成分(B)の熱可塑性ポリエステル樹脂、成分(C)のグラフト共重合体又はグラフト化前駆体及び成分(D)の可塑剤と共に混練機へ同時に投入して動的架橋を行うことができる。多くの場合、アクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂、グラフト共重合体又はグラフト化前駆体及び可塑剤を混練機に投入し、十分に溶融、混練を行った後に架橋剤を投入して動的架橋を行う方が有効である。但し、反応速度の遅い架橋剤又は遅効性架橋剤を使用するような場合には、アクリルゴム、熱可塑性ポリエステル樹脂、グラフト共重合体が十分に溶融、混練される前に架橋剤を添加することができる。架橋剤を添加して架橋反応が開始されると、組成物の粘度が上昇し、粘度が一定となったときが架橋反応の完了である。一定値となるまでの粘度の変化は様々であるが、例えば粘度の最大値を迎えた後に下降して一定値になる場合、上昇し続けて一定値になる場合等がある。
【0043】
一般的に、種々の添加剤は、架橋剤を添加する前に組成物中に十分に混合(ブレンド)されていることが好ましい。それは、架橋反応の途中や反応が終了した後に種々の添加剤を添加しても、組成物中に十分に分散されない場合が多いからである。従って、種々の添加剤は混練の最初又は途中から添加し、組成物中に十分に混合された後に架橋剤を添加する方法が好ましい。
溶融、混合及び動的架橋を行う温度としては、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは150〜300℃であり、特に好ましくは180〜280℃である。
【0044】
〔多層成形体〕
本実施形態の多層成形体を製造する方法は、特に限定されるものではなく、成形体の形状、用途に応じて一般的に用いられる成形方法を使用可能である。例えば、多色射出成形法、インサート射出成形法、共押出成形法、プレス成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。
このように製造される多層成形体の具体例としては、自動車関連において、グレージングと呼ばれるポリカーボネート樹脂からなる板状体の周縁部に本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるガスケットが加熱接着されたものが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例及び比較例で使用した材料の合成例を以下に示す。
【0046】
〔合成例1、アクリルゴム(A−1)の製造〕
攪拌機、温度計、冷却器、滴下装置、窒素ガス導入管のついたフラスコにイオン交換水1000g、ドデシル硫酸ナトリウム10g、亜硫酸水素ナトリウム0.5g、硫酸第一鉄0.005g、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01を仕込んだ後、窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に30℃まで昇温させた。その後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム5gを添加し、そこへ、単量体混合物(アクリル酸エチル250g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g、メタクリル酸グリシジル(GMA)20g)500gを3時間かけて滴下した後、さらに3時間重合を行うことにより乳化液を得た。次に、この乳化液を0.5質量%塩化カルシウム水溶液に1時間かけて滴下することにより塩析を行った。そして十分に水洗した後、80℃で乾燥して、GMAを4質量部含むアクリルゴム(A−1)を得た。このアクリルゴム(A−1)のTgは−25℃であった。
【0047】
〔合成例2、アクリルゴム(A−2)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル268.5g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g、GMA1.5gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを0.3質量部含むアクリルゴム(A−2)を製造した。このアクリルゴム(A−2)のTgは−28℃であった。
合成したアクリルゴムの各成分の使用量を表1に示す。
【0048】
〔合成例3、グラフト化前駆体(C−1)の製造〕
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2000g、懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体(LOTADER8840、メタクリル酸グリシジル8質量部、ARKEMA(株)製)700gを入れ、攪拌、分散させた。そこへ重合開始剤として、ベンゾイルペルオキシド(日油(株)製、ナイパーBW)2g、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート6g、ビニル系単量体混合物(アクリル酸−n−ブチル150g、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル150g)300gからなる混合単量体を前記オートクレーブ中に投入した。次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、2時間攪拌することにより、重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体中に含浸させた。次いで、80〜85℃に昇温し、その温度で6時間維持して重合を完結させた後、水洗、乾燥してグラフト化前駆体(C−1)を得た。このグラフト化前駆体(C−1)を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造体であった。
【0049】
〔合成例4、グラフト共重合体(C−2)の製造〕
tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートを8g、ビニル系単量体混合物の組成を、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル150g、スチレン150gに変更した以外は合成例3と同様にして、グラフト化前駆体を得た。得られたグラフト化前駆体をラボプラストミル単軸押出機((株)東洋精機製作所)により180℃、回転数100rpmにて押出し、グラフト化反応をさせることによりグラフト共重合体(C−2)を得た。このグラフト共重合体は平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造体であった。
【0050】
【表1】

【0051】
合成したグラフト化前駆体及びグラフト共重合体の各成分の使用量を表2に示す。
その他の材料として、以下に記載する市販品を使用した。
ポリカーボネート樹脂:レキサン341R(SABICイノベーティブプラスチックス社製)
熱可塑性ポリエステル樹脂:ジュラネックス300FP(ポリブチレンテレフタレート、融点225℃、ウィンテックポリマー(株)製)
可塑剤:ポリサイザーW230H(アジピン酸系ポリエステル、DIC(株)製)
酸化防止剤:イルガノックス1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)、ノクラックCD(アミン系酸化防止剤、大内新興化学(株)製)
架橋剤:リカシッドBT−W(ブタンテトラカルボン酸、新日本理化(株)製)
【0052】
【表2】

【0053】
〔評価〕
本実施例に示す、熱可塑性エラストマー組成物の評価は、以下に示す方法で行った。
(硬度)
JIS K 6253に準拠し、スプリング硬さ試験機A形によって硬さを測定した。試験片は260℃の加熱プレスにて作成した。
(圧縮永久歪)
JIS K 6262に準拠し、圧縮率25%にて120℃の温度下で72時間後の圧縮永久歪(%)を測定した。試験片は260℃の加熱プレスにて作成した。
(耐油性)
JIS K 6258に準拠し、IRM903油に150℃、1000時間浸漬した後の質量変化率(%)を測定した。試験片は260℃の加熱プレスにて作成した。
【0054】
(接着強度)
射出成形機にて多層成形体を得るために、予め、金型内(金型温度:50℃)にポリカーボネート樹脂の成形体(厚み:1mm)をセットした後、各実施例及び比較例の熱可塑性エラストマー組成物との多層成形体(厚み:2mm)を作成した。この多層成形体から、テストサンプル(基材:15mm、接着面:15mm×100mm)を切り出し、オートグラフ((株)島津製作所)を使用して接着強度を測定した。テストスピードは200mm/min、剥離面(角度)は90°の条件で測定した。
〔実施例1〕
【0055】
合成例1のアクリルゴムA−1を70質量部、ジュラネックス300FPを30質量部、合成例3のグラフト化前駆体C−1を5質量部、ポリサイザーW230Hを24質量部、イルガノックス1010を0.5質量部及びノクラックCDを1質量部の割合で260℃に加熱した加圧ニーダーに投入した。そして、回転数32rpmにて溶融混練を行った。全ての材料が溶融し、均一に混合されることによってトルクが一定値を示すまで混練した。トルクが一定になったところで、架橋剤としてリカシッドBT−Wを0.3質量部を投入し、混練を続けた。架橋剤を投入した直後からトルクが上昇する様子が観察され、トルクが一定値となったところで混練を終了した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物をニーダーから排出し、ニーダールーダーに投入し、240℃でストランド状に押出し、冷却後カットして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。これを用いて、前記の各種評価を実施した。
【0056】
〔実施例2、3〕
表3に示す配合割合で実施例1と同様の操作にて熱可塑性エラストマー組成物を製造した。各成分の配合割合や各種評価を実施した結果を表3に示す。
〔比較例1〜3〕
表3に示す配合割合で実施例1と同様の操作にて熱可塑性エラストマー組成物を製造した。各成分の配合割合や各種評価を実施した結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
(まとめ)
【0059】
表3に示したように、ポリカーボネート樹脂の成形体上に、熱可塑性エラストマー組成物を多層成形した際に、ポリカーボネート樹脂との接着性に優れていることがわかった。さらに、熱可塑性エラストマー組成物からなる層が、圧縮永久歪が良好なことから、シール性に優れ、かつ耐熱性及び耐油性に優れる多層成形体が得られていることがわかった(実施例1〜実施例3)。
グラフト化前駆体の配合量を過剰にした場合(比較例1)、ポリカーボネート樹脂との密着性が低下し、耐油性も低下する結果となった。
熱可塑性ポリエステル樹脂の配合量を過剰にした場合(比較例2)には、圧縮永久歪が悪化し、シール性が低下した。
アクリルゴムの配合量を過剰にした場合(比較例3)には、射出成形性が悪化し、多層成形体を作成することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂からなる層と、下記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を含有する層を積層してなる多層成形体。
成分(A):アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、エポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれた単量体混合物を共重合してなるアクリルゴムを成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中50〜85質量部。
成分(B):熱可塑性ポリエステル樹脂を成分(A)及び成分(B)の合計100質量部中15〜50質量部。
成分(C):エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントが他方のセグメントにより形成されるマトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体を、成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜35質量部。
成分(D):可塑剤を成分(A)100質量部に対して60質量部以下。
【請求項2】
前記成分(D)がトリメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の多層成形体。
【請求項3】
前記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる熱可塑性エラストマー組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤(成分(E))で動的架橋することによって得られることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の多層成形体。

【公開番号】特開2011−245633(P2011−245633A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118180(P2010−118180)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】