説明

多層断熱材

【課題】従来の多層断熱材は、層間の結束部分においてフィルム同士が実質的に接触状態となり、これにより断熱性能が低下するという問題点があった。
【解決手段】低熱放射性の表面を有する複数の断熱フィルム1と、断熱フィルム1同士の間に配置した断熱セパレータ2とでシート状の積層体Sを形成すると共に、積層体Sの平面における任意の位置に対して、断熱フィルム1の層間に介装する断熱部材3と、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を積層方向に結束する止着手段としての糸状部材4を備えた多層断熱材A1としたことで、層間の結束部分の熱伝導を抑制して、断熱性能の向上を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星や宇宙ステーションなどの各種宇宙機において、外装材として用いられる多層断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の多層断熱材としては、例えば、非特許文献1及び2に記載されているものがある。非特許文献1及び2に記載の多層断熱材は、MLI(Multilayer insulation)と呼ばれるものであって、アルミニウム等の金属を蒸着した樹脂製フィルムを複数積層することにより、高い断熱性能を得るものである。また、この多層断熱材には、とくに、非特許文献2に記載されているように、フィルム同士の間にネット状のセパレータを配置することで、フィルム同士が直接接触しないようにして、断熱性能をより高めたものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】『Satellite Thermal Control Handbook』The Aerospace Corporation、1994、p.4-82
【非特許文献2】『第2版 航空宇宙工学便覧』丸善株式会社、平成4年9月30日、p.1037
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の多層断熱材は、宇宙機の被覆部分の大きさや形態に応じて裁断すると共に、適宜の箇所を縫合により結束して一定の形状を維持するようにしており、縫合する際には、形状を維持するためにある程度の力で締め付けておく必要がある。
【0005】
このため、従来の多層断熱材では、セパレータがあるにも関わらず、層間の結束部分においてフィルム同士が実質的に接触状態となり、これにより断熱性能が低下するという問題点があり、このような問題点を解決することが課題になっていた。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、層間の結束部分の熱伝導を抑制して断熱性能を高めることができる多層断熱材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多層断熱材は、低熱放射性の表面を有する複数の断熱フィルムと、断熱フィルム同士の間に配置した断熱セパレータとでシート状の積層体を形成すると共に、積層体の平面における任意の位置に対して、断熱フィルムの層間に介装する断熱部材と、断熱フィルム、断熱セパレータ及び断熱部材を積層方向に結束する止着手段を備えた構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多層断熱材によれば、層間の結束部分の熱伝導を抑制して、断熱性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の多層断熱材の一実施形態を説明する層間結束前の断面図(A)及び層間結束後の断面図(B)である。
【図2】断熱部材の一例を示す平面図(A)及び断熱部材の他の例を示す平面図(B)である。
【図3】本発明の多層断熱材の他の実施形態を説明する層間結束前の断面図(A)及び層間結束後の断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の多層断熱材の一実施形態を示す図である。図示の多層断熱材A1は、低熱放射性の表面を有する複数の断熱フィルム1と、断熱フィルム1同士の間に配置した断熱セパレータ2とでシート状の積層体Sを形成している。図1には、3枚の断熱フィルム1と2枚の断熱セパレータ2を例示したが、実際には、例えば10枚程度若しくはそれ以上の断熱フィルム1と、適数枚の断熱セパレータ2を用いることもある。
【0011】
断熱フィルム1は、素材である樹脂製フィルムに金属を蒸着したものであって、樹脂製フィルムの材料としては、例えばポリイミドなどを用いることができ、蒸着する金属としては、例えばアルミニウムなどを用いることができる。これにより、断熱フィルム1は、表面の熱放射率が極めて低いものとなる。また、断熱セパレータ2は、ネット状を成すものであり、その材料としては、例えばポリエステルなどを用いることができる。
【0012】
さらに、多層断熱材A1は、積層体Sの平面における任意の位置に対して、断熱フィルム1の層間に介装する断熱部材3と、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を積層方向に結束する止着手段を備えている。
【0013】
ここで、多層断熱材A1は、宇宙機の外装材などに使用するものであるから、宇宙機における被覆部分の大きさや形態に応じて裁断されると共に、その形状を一定に維持し得るように適宜の箇所を結束することとなる。したがって、断熱部材3及び止着手段を設ける位置は、多層断熱材A1が所望の形状を維持するのに必要な位置であって、前記被覆部分の大きさや形態に応じて任意に設定する平面上の位置である。
【0014】
断熱部材3は、止着手段による結束部分に配置する小面積の平坦な部材である。断熱部材3は、その形状が限定されるものではないが、先に述べたように、多層断熱材A1の形状を維持するのに必要な位置に設けるものであるから、例えば、図2(A)に示すように、ピンポイントで配置する円形状のものや、図2(B)に示すように、直線的に配置する帯状のものなどがあり、それ以外にも様々な形状を選択することができる。
【0015】
また、断熱部材3は、この実施形態では、図1及び図2に示すように、断熱フィルム1同士の間において、断熱セパレータ2の片側(上側)に配置してあり、さらに、積層体Sの平面における任意の位置に対して、表裏両側となる最外層の断熱フィルム1の外側面にも配置してある。この断熱部材3の材料としては、例えば、ポリイミド発泡材、グラスウール、ポリエチレン発泡材、及びポリスチレン発泡材などを用いることができ、このような材料や厚さ寸法等を選択することで、断熱性能のさらなる向上を図ることができる。
【0016】
止着手段は、この実施形態では、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を縫合する糸状部材4である。この糸状部材4の材料としては、ポリエステル、ガラス繊維、メタ系アラミド繊維(ノーメックス:登録商標)などを用いることができ、このような材料を選択することで、機械的な強度や耐熱性を確保しつつ断熱性能のさらなる向上を図ることができる。
【0017】
そして、多層断熱材A1は、図1(A)に示すように、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3に、糸状部材4を少なくとも一往復分貫通させた後、同糸状部材4を締めることにより、図1(B)に示すように、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を積層方向に結束する。この際、糸状部材4は、図2(A)に示す如く円形状の断熱部材3を用いた場合には、ピンポイントで各部材を結束(縫合)し、図2(B)に示す如く帯状の断熱部材3を用いた場合には、連続的に各部材を結束(縫合)する。
【0018】
上記構成を備えた多層断熱材A1は、断熱フィルム1及び断熱セパレータ2により、高い断熱機能を発揮する。すなわち、宇宙空間(真空空間)では、輻射若しくは部材中の熱伝導により熱が伝達されるので、低熱放射性の表面を有する複数の断熱フィルム1と、断熱フィルム1同士の直接的な接触を阻止する断熱セパレータ2とを組み合わせることにより、熱伝導を阻止して高い断熱機能を得ることができる。そして、多層断熱材A1は、適宜の箇所を結束することで一定の形状を維持している。
【0019】
上記の多層断熱材A1は、結束部分においては、断熱フィルム1同士の間に断熱部材3を介装したうえで、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を糸状部材(止着手段)4で積層方向に結束したので、断熱フィルム1同士の接触を完全に阻止することとなる。これにより、多層断熱材A1は、層間の結束部分の熱伝導を小さく抑制して、全体として、断熱機能の向上を実現することができる。
【0020】
また、多層断熱材A1は、最外層の断熱フィルム1の外側面にも断熱部材3を配置したことにより、積層体Sにおいて、表側の断熱フィルム1から糸状部材4を介して裏側の断熱フィルム1に至る経路の熱伝導を小さくして、断熱機能のさらなる向上に貢献することができる。
【0021】
さらに、多層断熱材A1は、止着手段として糸状部材4を採用したことにより、止着手段自体の熱伝導をより小さなものにすることができ、しかも、最外層の外側面の断熱部材3と糸状部材4を採用したので、その断熱部材3が当て布の働きをもすることとなり、結束部分の強度を高めることができる。
【0022】
図3は、本発明の多層断熱材の他の実施形態を示す図である。なお、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図示の多層断熱材A2は、止着手段が、断熱フィルム1、断熱セパレータ2及び断熱部材3を貫通するボルト5と、このボルト5に螺着するナット6を備えている。このような構成を備えた多層断熱材A2にあっても、先の実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0023】
上記の多層断熱材A2は、とくに止着手段としてボルト5及びナット6を採用したので、先の実施形態のように糸状部材を採用した構成に比べると、止着手段自体の熱伝導性が増すことになるが、機械的強度や耐久性のさらなる向上を実現することができる。そして、この実施形態の場合には、最外層の外側面の断熱部材3がワッシャの働きをもし、結束部分の強度を高めることができる。
【0024】
なお、本発明の多層断熱材は、その構成が上記各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各部材の材料、数や形態などの構成の細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
A1 A2 多層断熱材
S 積層体
1 断熱フィルム
2 断熱セパレータ
3 断熱部材
4 糸状部材(止着手段)
5 ボルト(止着手段)
6 ナット(止着手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱放射性の表面を有する複数の断熱フィルムと、断熱フィルム同士の間に配置した断熱セパレータとでシート状の積層体を形成すると共に、
積層体の平面における任意の位置に対して、断熱フィルムの層間に介装する断熱部材と、断熱フィルム、断熱セパレータ及び断熱部材を積層方向に結束する止着手段を備えたことを特徴とする多層断熱材。
【請求項2】
積層体の平面における任意の位置に対して、最外層の断熱フィルムの外側面にも断熱部材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の多層断熱材。
【請求項3】
止着手段が、断熱フィルム、断熱セパレータ及び断熱部材を縫合する糸状部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層断熱材。
【請求項4】
止着手段が、断熱フィルム、断熱セパレータ及び断熱部材を貫通するボルトと、このボルトに螺着するナットであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−132494(P2012−132494A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283974(P2010−283974)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】