説明

多層比色センサ

被検物質の存在を検出するための方法及び装置が本明細書で開示される。そのような方法及び装置は、少なくとも高被検物質反応性サブ層と低被検物質反応性サブ層とを含む、少なくとも1層の光学的反応性層を含んだ、少なくとも1つの検出エレメントを含むことができる。そのような検出エレメントの製造及び使用方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
化学被検物質、例えば有機化学被検物質を検出する能力は、環境監視などを含む多くの用途において重要である。そのような被検物質の検出及び/又は監視は、例えば、個人用モニタ(例えば、個人が着用又は携帯することができるもの)、及び/又は領域モニタ(例えば、所望の環境に配置することができるもの)において、特に、用途が見い出されることができる。
【0002】
例えば光学的測定、重量測定、微小電気機械測定、及び比色分析などの、化学被検物質の検出のための多くの方法が開発されてきた。比色分析装置は、現在広範な被検物質に関して存在するが、多くは検出のために染料又は有色化学指示薬を使用している。そのような化合物は通常、選択的であり、様々な種類の化合物を検出するのに、複数のセンサが必要であろうことを意味する。更に、これらのシステムの多くには、光漂白剤又は望ましくない副反応のために寿命が限定される問題がある。そのようなシステムの多くはまた、光学的応答を実施するために、複雑又は嵩高のオプトエレクトロニクス構成部品を必要とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
被検物質の存在を検出するための方法及び装置が本明細書で開示される。そのような方法及び装置は、少なくとも高被検物質反応性サブ層(highly analyte-responsive sublayer)と低被検物質反応性サブ層(minimally analyte-responsive sublayer)とを含む、少なくとも1層の光学的反応性層を含んだ、少なくとも1つの検出エレメントを含むことができる。
【0004】
ここで一態様において、本明細書で開示されるのは、ある被検物質を検出するための光学的応答が可能な検出エレメントであり、これは、反射層と準反射層との間にある光学的反応性層を含み、光学的反応性層は、少なくとも高被検物質反応性第1サブ層と、低被検物質反応性第2サブ層と、を含む。
【0005】
ここで別の一態様において、本明細書で開示されるのは、被検物質を検出するための検出エレメントの製造方法であり、これは、光学的に透明な基材上に準反射層を形成する工程と、その準反射層の上に低被検物質反応性材料の層を形成する工程と、その低被検物質反応性材料の層の上に高被検物質反応性材料の層を形成する工程と、その高被検物質反応性材料の層の上に被検物質浸透性反射層を形成する工程と、を含む。
【0006】
ここで更に別の一態様において、本明細書で開示されるのは、検出エレメントの製造方法であり、これは、被検物質を検出するための光学的応答が可能な検出エレメント(これには、反射層と準反射層との間にある光学的反応性層が含まれ、この光学的反応性層は、少なくとも高被検物質反応性第1サブ層と、低被検物質反応性第2サブ層とを含む)を提供する工程と、この検出エレメントを、対象の被検物質を含む可能性のある雰囲気に曝露させる工程と、を含む。
【0007】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の「発明を実施するための形態」から明らかになるであろう。しかし、決して、上記要約は、請求された主題に関する限定として解釈されるべきでなく、主題は、手続処理の間補正することができる添付の「特許請求の範囲」によってのみ規定される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】代表的な検出エレメント部分の側面断面図。
【図2】代表的な検出エレメント部分の側面断面図。
【図3】代表的な検出エレメントが呈する反射率スペクトルの一般的なグラフ。
【図4】ある検出エレメントの光学的反応性層を示す側面断面図。
【図5】様々な検出エレメントについて、様々な濃度の試験被検物質に曝露した際に観察された波長シフトを示す、実験的に得られたデータのプロット。
【0009】
様々な図面において、類似参照記号は類似要素を表す。特に指定されない限り、本文献における全ての図面及び図は、一定の縮尺ではなく、本発明の異なる実施形態を例示する目的で選択される。特に、様々な構成要素の寸法は、指示のない限り、例示的な用語としてのみ記述され、様々な構成要素の寸法間の関係は、図面から推測されるべきではない。本開示において、「最上部」、「最下部」、「上部」、「下部」、「下」、「上」、「前」、「後ろ」、「外」、「内」、「上へ」及び「下へ」、並びに「第1の」及び「第2の」などの用語が使用され得るが、これらの用語は、特に断りのない限り、それらの相対的な意味においてのみ使用されることを理解されたい。特に、所定の文脈における特定のパラメータ(例えば濃度)が「低い」、「中程度」、及び/又は「高い」と特徴付けられる場合は、その所定の文脈内での相対的(比較的)意味において解釈されるべきことが理解されよう(例えば、「中程度」の濃度は、同じ文脈に関して言及される「低い」濃度と「高い」濃度の間である)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示されるのは、図1及び2の様々な代表的実施形態に示されている、検出エレメント2である。検出エレメント2は、反射層240と準反射層220との間に光学的反応性層230を少なくとも含む多層構造であり、これらの層を組み合わせて、被検物質の存在下で変化し得る反射率スペクトルを呈する、いわゆる干渉フィルタを含む。検出エレメント2は、図3に示す一般的な描示に示されている一般的なタイプの反射スペクトルを呈し、これには異なる周波数で1つ以上のピーク(例えば、181、183、及び184)並びに谷(例えば、185)が含まれ、これは、被検物質の存在において又は被検物質濃度の変化によって、変化し得る(ここ及び本明細書における他の全ての濃度についての言及は、検出エレメントが曝露される雰囲気中の被検物質濃度を指す)。例えば、十分な被検物質が存在すると、図3のピーク及び谷がより高い(長い)波長へとシフトし得る。検出エレメント2が呈する反射率スペクトルは、十分な被検物質に曝露されることによって変化し得る外観(例えば、相対的ドミナントカラー、色相、又は暗度など)として、目視検査で明らかになり得る。したがって、十分な濃度の被検物質に曝露されると、検出エレメント2は、第1(初期)外観から、第2の外観(第1の外観と視覚的に区別される)へと変化し得る。
【0011】
検出エレメント2は、入射光40(図1及び2に示す)に検出エレメント2が曝露され、検出エレメント2で反射された光を観察することによって、光学的応答を行うことができる。光線40を供給するのに、専用の(外部)光源は必要ない(ただし、望ましい場合は1つ以上の専用光源を使用してよい)。光線40は、単一の独立した光源から発したものであってよく、又は、環境光(幾つかの独立光源から発したもの、独立光源からの光と反射光との組み合わせ、日光など)を、光線40の光源として使用してよい。
【0012】
図1に例示されている一般的なタイプの実施形態において、検出エレメント2は、順に準反射層220、光学的反応性層230、反射層240、及び基材210を備える。検出エレメント2の応答において、光線40は準反射層220に突き当たる。光線40の一部は、準反射層220から光線41として反射することができる。光線40の別の部分は、準反射層220を通り抜け、光学的反応性層230を通過して、反射層240に当たってよい。これら光線の少なくとも一部が反射層240を反射し、検出エレメント2から光線42として抜け出ることができる。光線41及び42は合わせて(例えば、建設的及び/又は破壊的に干渉することによって)全体として反射率スペクトルを提供し、これは、被検物質の存在下で、又は被検物質の濃度変化によって、変化し得る。
【0013】
図1の代表的な設計において、被検物質は、準反射層220を浸透して、光学的反応性層230に到達することができる。これにより、層230の少なくとも一部(例えば、本明細書で後で詳しく開示されるように、層230のサブ層)の光学的特性(例えば、光学的厚さ)が変化し、これにより検出エレメント2から反射する光の反射率スペクトルが、被検物質の存在、及び/又は濃度を検出又は監視するのに十分なだけ変化し得る。
【0014】
図1に示す設計を組み込んだ実施形態において、準反射層220は、被検物質浸透性であり、この特性は、本明細書で後で議論するように提供することができ、光学的反応性層230と流体連通しており、これにより被検物質は、層220を通って層230に入り込むことができる。図1の設計において、反射層240は、被検物質浸透性であってもよく、そうでなくともよい。図1の設計において、検出エレメント2の光学的応答中に、光は、基材210を通り抜ける必要も、又は基材210と相互作用する必要もなく、したがって基材210は、何らかの特定の光学的特性(例えば、透明)である必要はない。
【0015】
別の代表的な検出エレメント2が図2に示されている。図2に示す設計を組み入れた実施形態において、検出エレメント2は、順に(所望により)基材210、準反射層220、光学的反応性層230、及び反射層240を含む。光線40は、基材210に突き当たってこれを通り抜ける。光線40の一部は、準反射層220で反射し、検出エレメント2から光線41として抜け出ることができる。光線40の別の部分は、準反射層220を通り抜け、光学的反応性層230を通過して、反射層240に当たってよい。これら光線の少なくとも一部が反射層240を反射し、検出エレメント2から光線42として抜け出ることができる。光線41及び42は合わせて全体として反射スペクトルを提供し、これは、被検物質の存在下で、又は被検物質の濃度変化によって、変化することができる。
【0016】
図2の代表的な設計において、被検物質は、反射層240を浸透して、光学的反応性層230に到達し得る。これにより、層230の少なくとも一部(例えば、本明細書で後で詳しく開示されるように、層230のサブ層)の光学的特性(例えば、光学的厚さ)が変化し、これにより検出エレメント2から反射する光の反射率スペクトルが、被検物質の存在、及び/又は濃度を検出又は監視するのに十分なだけ変化し得る。図2に示す設計を組み込んだ実施形態において、反射層240は、被検物質浸透性であり、この特性は、本明細書で後述する方法により提供することができ、光学的反応性層230と流体連通している。図2の設計において、準反射層220は、被検物質浸透性であってもよく、そうでなくともよい。図2の代表的な設計において、光は、基材210を通過することができ、これにより基材210は、対象の波長において光学的に透明であるべきである。
【0017】
光学的反応性層230、及び、もし存在する場合は、基材210、準反射層220、及び/又は反射層240の特性、製造方法等が、ここで詳しく記述される。そのような特性は、一般的に反射性(例えば、干渉に基づく)検出エレメント、特に、図1及び2を参照して上記で開示されている代表的実施形態のいずれか(ただし特定の実施形態に適用されると指定されている場合を除く)の製造に適用されると考えられる。上記に参照した層を指定するのに、同じ参照番号が使用されているが、これらの指定された層は、構成及び/又は組成が同じであってもまた異なっていてもよいことが、当業者には容易に評価されよう。
【0018】
光学的反応性層230は、被検物質に反応して少なくとも一部が変化し得る光学的厚さ(物理的厚さに屈折率を掛けたもの)を含む層として定義され、これにより、対象の濃度の対象の被検物質に検出エレメント2が曝露されることによって、光学的反応性層230に好適な反射層240及び準反射層220を組み合わせることによって達成された反射率スペクトルが、十分にシフトし得る(例えば、検出エレメント2の視覚的外観における変化が、検出エレメント2を使用している通常の条件下において観察できる)。具体的には、光学的反応性層230が、好適な反射層240と準反射層220との間に提供された場合、1000ppmのスチレン(対象の好適な代表的有機被検物質である)を含む環境に曝露されたときに、少なくとも約15nmシフトする反射率スペクトルを呈する。反射率スペクトルのシフトに対する、この言及及び本明細書の他の全ての言及は、本開示の「試験被検物質に対するサンプルの反応」に概説されている手順に従って実施される測定を参照している。層230に関する光学的反応性とは、層230の合計(物理的)厚さ(その全てのサブ層を含む)が、一般に可視光(すなわち、約100nm〜約2000nm)の波長にほぼ近似していることを更に意味する。様々な具体的実施形態において、層230の物理的合計厚さは、約200nm〜約1500nm、約400nm〜約1000nm、又は約500nm〜約800nmであり得る。(特記されている場合を除き、本明細書に記載される厚さは全て、光学的厚さではなく物理的厚さを指す)。
【0019】
光学的反応性層230は、図4に示すように、少なくとも2層のサブ層232及び236を含むことができる。サブ層232は、本明細書で定義されるように、高被検物質反応性サブ層であり、サブ層236は、本明細書で定義されるように、低被検物質反応性サブ層である。様々な実施形態において、高被検物質反応性サブ層232の厚さは、約100nm〜約700nmであってよい。様々な実施形態において、低被検物質反応性のサブ層236の厚さは、約700nm〜約100nmであることができる。様々な実施形態において、サブ層232と236を合わせた厚さは、約200nm〜約1500nmであり得る。特定の実施形態において、サブ層232と236を合わせた厚さは、約400nm〜約1000nm、又は約500nm〜約800nmであることができる。様々な実施形態において、サブ層232の厚さとサブ層236の厚さとの比は、約1:8〜約8:1の範囲であることができる。特定の実施形態において、サブ層232の厚さとサブ層236の厚さとの比は、約1:4〜約4:1、又は約1:2〜約2:1の範囲であることができる。
【0020】
様々な実施形態において、サブ層232と236は互いに直接接触していてもよく、完全に重なり合って(例えば、互いに重なり合った位置関係で、同一の形状と大きさの境界線を共有して)いてもよい。更なる実施形態において、光学的反応性層230は、反射層240及び/又は準反射層220と完全に重なり合っていてもよい。
【0021】
サブ層232は、対象の被検物質に対して高い反応性を有し、この特性は、サブ層232を含む材料の選択によって達成される。この文脈において、被検物質に対して高い反応性を有するとは、サブ層232が被検物質に対して十分に浸透性であり、サブ層232内に被検物質が存在することによってサブ層232の光学的厚さ、ひいては層230の光学的厚さに、十分な変化を引き起こし、検出エレメント2が呈する反射率スペクトルにおいて観察可能なシフトが生じることを意味する。具体的には、高被検物質反応性という用語は、層232が、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層からなる場合に、スチレン50ppmを含む雰囲気に曝露されると、少なくとも約15nmシフトする反射スペクトルを呈するような材料からなることを意味する。(上述のように、ここで及び本明細書中の他の場所においては、スチレンが、有用な代表的有機被検物質として、すなわち、本明細書の発明において有用な材料の反応性を特徴付ける目的のために便利な被検物質として、使用されることができる。このようなスチレンの使用は、いかなる意味においても、本明細書で開示される発明の使用をスチレンの監視に限定するものと解釈されるべきではない)。様々な実施形態において、高被検物質反応性サブ層232は、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層からなる場合に、スチレン50ppmを含む環境に曝露されると、少なくとも約25nm、少なくとも約35nm、又は少なくとも約45nmシフトする反射率スペクトルを呈するような材料から作成される。
【0022】
サブ層236は対象の被検物質に対して低反応性を有し、この特性は、サブ層236を含む材料の選択によって達成される。この文脈において、被検物質に対する低反応性とは、サブ層236が被検物質に対して十分な程度浸透性でない、及び/又はサブ層236内の被検物質の存在によって、サブ層236の光学的厚さに変化が生じず、すなわち層230の光学的特性の変化として現われず、検出エレメント2が呈する反射率スペクトルに観察可能なシフトをもたらさないということを示す。具体的には、低被検物質反応性という用語は、サブ層236が、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層からなる場合に、スチレン20ppmを含む環境に曝露されると、呈する反射率スペクトルのシフトが約10nm以下であるような材料から作成されていることを意味する。様々な実施形態において、低被検物質反応性サブ層236は、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層からなる場合に、スチレン20ppmを含む環境に曝露されると、呈する反射率スペクトルのシフトが約5nm以下、約3nm以下、又は約1nmであるような材料から作成される。
【0023】
高被検物質反応性材料を含むサブ層232と、低被検物質反応性材料を含むサブ層236とを備える、光学的反応性層230を用いることによって、被検物質の所定濃度に対する層230(すなわち検出エレメント2)の反応は、両方のサブ層の寄与によって支配され得る。例えば、低被検物質反応性サブ層236を備える光学的反応性層230を含んだ検出エレメントは、同様の厚さであるがサブ層236を備えない光学的反応性層230を含む検出エレメントに比べて、反射率スペクトルにおいて同じシフトをもたらすのに、被検物質のより高い濃度が必要となり得る。
【0024】
例えば、一実施形態において、検出エレメント2は、高被検物質反応性サブ層232と、低被検物質反応性サブ層236とを備えた光学的反応性層230を含み、これにより、200ppmのスチレンを含む環境に曝露されたときに約40nm以下の反射率スペクトルシフトを呈するように、検出エレメント2を構成することができる(たとえ、高被検物質反応性サブ層232が、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層からなる場合に、スチレン200ppmを含む環境に曝露されると、例えば、約100nmシフトする反射率スペクトルを呈するような材料から作成されているにもかかわらず)。更なる実施形態において、そのような検出エレメントは、200ppmのスチレンを含む環境に曝露された際に、約30nm以下、又は約20nm以下の反射率スペクトルシフトを検出エレメント2が呈するように構成されたサブ層232及びサブ層236を備えることができる。
【0025】
加えて、低被検物質反応性サブ層236を選択された厚さで使用することにより(この厚さは、選択された厚さのサブ層232と組み合わせて光学的反応性層230の選択された合計厚さを提供するために選択された厚さである)、検出エレメント2の初期反射率スペクトル(例えば、被検物質が存在しない又は検出不能な濃度で存在するときのスペクトル)を確立することができる(例えば、検出エレメント2に対し、目視検査に際しての特定の外観(色など)を付与するため)。すなわち、サブ層232及び236を擁する検出エレメント2は、高被検物質反応性材料のみを有する(例えば、サブ層236を有さない)検出エレメント2によって呈され得るのと同様の初期外観を備え、かつ高被検物質反応性材料のみを有する検出エレメント2とは異なる被検物質の(例えば、より高い)濃度に反応するよう製造することができる。
【0026】
要約すると、サブ層232及び236を含む光学的反応性層230の使用により、検出エレメント2が反応し得るよう選択される被検物質の濃度範囲を選択することができ、かつ検出エレメント2の初期外観を選択することも可能になる。この組み合わせは、顕著な利点を提供することができる。
【0027】
高被検物質反応性サブ層232を、低被検物質反応性サブ層236と組み合わせて使用することにより、少なくとも幾つかの実施形態において、追加の利点を提供することができる。特に、本明細書で記述される一般的なタイプの反射率センサは、ラップアラウンドと呼ばれる現象を呈する可能性があることが、当業者には周知である。ラップアラウンド(被検物質の十分に高濃度に曝露されたときに起こる)においては、反射率スペクトルが大きくシフトすることによって、検出エレメントが外観を変えて、被検物質の非存在下で検出エレメントが呈する初期外観に似た外観に戻ってしまう。(被検物質のより高い濃度に曝露されると、更なる外観変化が起こり得る)。発明者らは、高被検物質反応性サブ層232を低被検物質反応性サブ層236と組み合わせて含む光学的反応性層230を使用すると、ラップアラウンドの起こりにくい検出エレメント2を提供することができることを、驚きとともに見出した。特定の実施形態において、サブ層232及び236の特性及び厚さは、非常に高濃度の被検物質が存在する場合でも、検出エレメント2がラップアラウンドを呈さないように選択することが可能である。例えば、様々な実施形態において、検出エレメント2は、200、400、又は1000ppmもの濃度の有機被検物質、例えば、スチレンに曝露しても、ラップアラウンドを呈さないことができる。
【0028】
様々な特定の実施形態において、ラップアラウンドを呈さないそのような性能は、有機被検物質(例えば、スチレン)の200ppmに曝露されたときに、約100nm未満、約80nm未満、又は約60nm未満の反射率スペクトルシフトを呈する検出エレメントに対応することができる。更なる特定の実施形態において、ラップアラウンドを呈さないそのような性能は、有機被検物質(例えば、スチレン)の400ppmに曝露されたときに、約100nm未満、約80nm未満、又は約60nm未満の反射率スペクトルシフトを呈する検出エレメントに対応することができる。更に追加の特定の実施形態において、ラップアラウンドを呈さないそのような性能は、有機被検物質(例えば、スチレン)の1000ppmに曝露されたときに、約100nm未満、約80nm未満、又は約60nm未満の反射率スペクトルシフトを呈する検出エレメントに対応することができる。
【0029】
高被検物質反応性サブ層232は、例えば、組み合わせて使用される特定の低被検物質反応性サブ層236に比べて、被検物質に対し十分に高い反応性を呈するような任意の材料を含むことができる。したがって、サブ層232は、対象の被検物質に対して十分に浸透性であり、選択した濃度の被検物質に曝露されたときに十分に変化することができる光学的厚さを備え、これにより、本明細書に記述される検出エレメント2の望ましい機能が可能になる。何らかの理論又はメカニズムに束縛あるいは限定されるものではないが、サブ層232の光学的厚さは、例えば、孔充填(例えば、サブ層232を少なくとも一部分構成する多孔質材料の孔)を介して、これにより少なくとも屈折率を増加させることによって光学的厚さを増加させ得ることで、被検物質に反応して変化することが可能である。サブ層232の光学的厚さは、膨潤によっても、被検物質に反応して変化することができ、膨潤は、少なくとも層の物理的厚さを増加させることによって、光学的厚さを増加させるよう作用し得る。一部の材料は、両方の反応の混合を呈することがあり、特定の被検物質濃度で主に一方の反応を呈し、他の被検物質濃度で別の反応を呈することがあり、その他同様である。
【0030】
幾つかの実施形態において、サブ層232は、多孔質材料を含む。この文脈において、「多孔質」とは、その材料が、少なくとも部分的に相互連結している内部孔を含むことを意味する。材料は、例えば、約100nm未満の平均孔サイズ(例えば、収着等温手順によって特徴付けられる)となるように選択することができる。様々な実施形態において、材料は、平均孔サイズが、約20nm未満、約10nm未満、又は約2nm未満となるように選択することができる。サブ層232は、均質であっても、又は不均質であってもよく、例えば、1つ以上の無機構成成分、1つ以上の有機構成成分、又は無機構成成分と有機構成成分との混合物から作成されてもよい。サブ層232に使用できる代表的な無機材料としては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物及び好適な光学的反応をもたらすのに適切な厚さの透明な(そして望ましい場合は多孔質の)層に形成することができる他の無機材料が挙げられる。例えば、サブ層232は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化チタン、酸窒化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、ゼオライト又はこれらの組み合わせを含むことができる。
【0031】
多孔質シリカは、被検物質反応性層に特に望ましい無機材料であってよい。多孔質シリカは、例えば、ゾル−ゲルプロセス経路を使用して調製することができ、有機テンプレートあり又はなしで製造することができる。代表的な有機テンプレートには、界面活性剤(例えば、アニオン性又は非アニオン性界面活性剤、例えばアルキルトリメチルアンモニウム塩)、ポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)ブロックコポリマー及びその他の界面活性剤又はポリマーが挙げられる。ゾル−ゲル混合物は、ケイ酸塩へと変換することができ、有機テンプレートを除去して、孔の網状組織をシリカ内に残すことができる。様々な有機分子もまた、有機テンプレートとして採用されることができる。例えば、グルコース及びマンノースなどの糖を有機テンプレートとして使用して、多孔質ケイ酸塩を生成することができる。有機置換シロキサン又は有機−bis−シロキサンは、微小孔をより疎水性にし、水蒸気の収着を制限するために、このゾル−ゲル組成物内に含めることができる。プラズマ化学蒸着もまた、多孔質無機被検物質反応性材料を生成するのに使用することができる。この方法論は一般的に、ガス状前駆体からプラズマを形成し、プラズマを基材上に堆積して非晶質ランダム共有結合網状層を形成し、次に非晶質ランダム共有結合網状層を加熱して、多孔質非晶質ランダム共有結合網状層を形成する工程を含む。そのような方法及び材料は、国際(PCT)公開特許出願U.S.2008/078281号、「ORGANIC CHEMICAL SENSOR COMPRISING PLASMA−DEPOSITED MICROPOROUS LAYER,AND METHOD OF MAKING AND USING」に詳しく記述されており、これは、この目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0032】
幾つかの実施形態において、光学的反応性層230は少なくとも部分的に、多孔質有機ケイ酸塩材料を含み、本明細書において、これは、幾つかの有機官能基Rを含む、共有結合により連結した3次元シリカ網状組織(−Si−O−Si−)を含んだ混成物である組成物として定義され、Rは、少なくとも1つのSi−C結合によってシリカ網状組織に連結した、炭化水素基又はヘテロ原子置換炭化水素基である。そのような材料及びその製造方法は、米国特許仮出願第61/140131号、「AMORPHOUS Microporous Organosilicate Compositions」に詳しく記述されており、これは、この目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0033】
幾つかの実施形態において、高被検物質反応性層232は、いわゆる「固有のミクロ孔質ポリマー」(以下、PIMと称する)を含む材料群から選択された構成成分から少なくとも部分的に作成される。この群のポリマーは、例えば、「Polymers of Intrinsic Microporosity(PIMs):Robust,Solution−Processable,Organic Microporous Materials」、Buddら、Chem.Commun.,2004,pp.230〜231、「Polymers of Intrinsic Microporosity(PIMs)」、McKeownら、Chem.Eur.J.,2005,11,No.9,2610〜2620、米国特許出願公開第2006/0246273号(McKeownら)、及び国際(PCT)公開特許出願WO 2005/012397A2号(McKeownら)に記述され、特徴付けられており、これらは全て、この目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0034】
PIMは、内部にねじれた構造を生じるための十分な構造的特徴が存在する、非常に剛性があるポリマーとなるモノマーの任意の組み合わせの使用によって配合することができる。様々な実施形態において、PIMは、剛性リンカーによって連結されるほぼ平面的な種からなる有機高分子を含む場合があり、この剛性リンカーは、剛体リンカーによって連結される2つの近接する平面的な種が非同一平面上の配向に維持されるように、ねじれ点を有する。更なる実施形態では、このような材料が、剛性リンカーによって大部分が最高で2つの他の第1の種に連結される第1のほぼ平面的な種からなる有機高分子を含むことができ、この剛性リンカーは、リンカーによって連結される2つの近接する第1の平面的な種が非同一平面上の配向に維持されるように、ねじれ点を有する。様々な実施形態において、このようなねじれ点は、スピロ基、架橋環部、又は立体的に密集した単一の共有結合を含んでよく、この周囲では回転が制限される。
【0035】
このような剛性があるねじれた構造を有するポリマーでは、ポリマー鎖が互いに有効に密集することができず、したがってポリマーは、固有のミクロ孔質を有する。したがって、PIMは、材料の熱履歴に著しく依存することのない、ミクロ孔質を備えることの利益を有する。PIMはしたがって、大量に再生可能に製造可能であるという点で、及び老朽化、及び貯蔵寿命などによって変化する特性を呈さないという点で、利益を提供することがある。
【0036】
幾つかの実施形態において、光学的反応性層230は少なくとも部分的に、例えば「Styrosorb」として知られる超架橋スチレン樹脂(これは、例えばV.A.Davankov及びP.Tsyurupa、Pure and Appl.Chem.,vol.61,pp.1881〜89(1989)及びL.D.Belyakova、T.I.Schevchenko、V.A.Davankov及びM.P.Tsyurupa、Adv.in Colloid and Interface Sci.vol.25,pp.249〜66(1986)に記述されている)のような、高度に架橋された多孔質のポリマー材料を含んでおり、これには、商品名StyrosorbとしてPurolite(Bala Cynwyd,PA)から販売されている材料が挙げられる。
【0037】
数多くの用途において、サブ層232が疎水性であると、利点があり得る。そのような実施形態においては、これは、水蒸気(又は液体の水)がサブ層232の反応に変化を引き起こして被検物質の検出(例えば、有機溶剤蒸気の検出)を妨げる可能性を低減する。幾つかの実施形態において、高被検物質反応性サブ層232は、好適な反射層と好適な準反射層との間に厚さ400〜800nmの層として提供されている場合に、湿度90%を含む環境に曝露されると、呈する反射率スペクトルのシフトが15nm以下であるような材料から作成される。
【0038】
サブ層232に有用な好適な材料の更なる詳細及び属性と、そのような材料からサブ層232を製造する方法は、例えば、米国特許公開出願第2008/0063874号に記述されており、これは、この目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0039】
様々な実施形態において、サブ層232は、上述の材料の組み合わせ(例えば、混合物、配合物、複合体構造、及び同様物)、並びに/又はそのような材料の多層を含むことができる。
【0040】
低被検物質反応性サブ層236は、第1に、組み合わせて使用されている特に高被検物質反応性サブ層232に比べて、被検物質に対する(及び対象の被検物質の検出を阻害し得るその他の任意の物質に対する)十分に低い(存在しない、及び/又は測定不能である状態を含む)光学的反応性を呈し、第2に、サブ層232を製造するのに使用されるプロセス方法(本明細書で後述される)に適合し、第3に、サブ層232と光学的に適合するような、任意の材料を含むことができる。光学的に適合するとは、サブ層236が、光に対して十分に透明であり、かつサブ層232と十分に近似の屈折率を備える材料からなり、これにより検出エレメント2の機能が可能であることを意味する。すなわち、サブ層232及び236の屈折率の差は、検出エレメント2の機能を妨げる(例えば、光がサブ層236を通過してサブ層232に達しなければならない構成において、特定の量の光が、高被検物質反応性サブ層232に達するのを、許容できないほど妨げることによって)のに十分なほど、サブ層232と236との間の界面から発する反射を生じるような大きさであるべきではない。サブ層236に関する光学的適合性とは、サブ層236が、検出エレメント2の反射率スペクトルを許容できないほど妨げるような光の反射、吸収、及び/又は散乱を起こすのに十分な、界面、粒子、充填材、空洞などを含まないことを更に意味する。
【0041】
サブ層236は、対象の被検物質に対して比較的非浸透性であるために、反応を引き起こすほどサブ層236に被検物質が十分に浸透しないことによって、低被検物質反応性であることができる。したがって、様々な実施形態において、サブ層236は、強化されたバリア特性を備えた材料を含むことができる。(そのような場合、サブ層236は、好ましくは、高被検物質反応性サブ層232(ここから被検物質が検出エレメント2に浸透し、被検物質がサブ層232に達することができる)とは反対側の面に配置することができる)。したがって、サブ層236は、少なくとも部分的に、半晶質ポリマー材料(例えば、高い融点(T)を有する)、及び/又はガラス状材料(例えば、高いガラス転移温度(T)を有する)、無機網状組織材料(相互連結した孔がない)、及び同様物を含むことができる。幾つかの実施形態において、サブ層236は、被検物質に対して少なくともある程度浸透性であるが、サブ層236内に被検物質が存在しても(少なくともある程度の濃度まで)、光学的反応を起こさない(例えば、サブ層236の光学的厚さが変化しない)ような性質を所有してよい。したがって、特定の材料(例えば、水、有機蒸気など)の存在下で、例えば膨潤する傾向をほとんど呈さないよう、好適に架橋された材料を選択することができる。
【0042】
幾つかの実施形態において、サブ層236は、非多孔質材料を含む。他の実施形態において、サブ層236は、多孔性の材料を含むが、その多孔性は、その材料が低被検物質反応性であることを阻害しない。例えば、そのような材料は、非常に低い多孔性を備えることができ、及び/又は相互に連結されていない孔(したがって、材料への被検物質の浸透性は低い)を含むことができ、あるいは含まれている孔のサイズが大きく、対象の被検物質が、対象の濃度範囲を上回った濃度で存在するようになるまで検出エレメント孔に濃縮されないほどであってよい。
【0043】
様々な実施形態において、サブ層236は、疎水性の材料を含む(これは、水によって特定の被検物質の検出が妨げられる可能性を最小限に抑えることができる)。幾つかの実施形態において、低被検物質反応性サブ層236は、好適な反射層と準反射層との間に厚さ400〜800nmの層を含む場合に、湿度90%を含む環境に曝露されると、呈する反射率スペクトルのシフトが15nm以下であるような材料から作成される。
【0044】
特に、高被検物質反応性サブ層232が、低被検物質反応性サブ層236上に、溶液コーティングにより堆積される実施形態(後述される)においては、サブ層232を堆積させるのに使用される溶液によって溶解、分解、又は別の形で損傷することに対し、サブ層236の材料が耐性となるようにすると、有利であり得る。層232が前述の固有のミクロ孔質ポリマー(PIM)を含む場合、サブ層236は、PIMを可溶化するのに一般に使用される溶媒(例えば、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、及び/又はこれらの混合物)に対して耐性であると有用であり得る。
【0045】
幾つかの実施形態において、サブ層236は、非架橋の有機ポリマー材料を含む。そのような場合において、そのポリマー材料は、対象の被検物質(例えば、有機蒸気及び同様物)の吸収に対して耐性をもつよう、及び/又は吸収の結果の膨潤に対して耐性をもつよう、選択することができる。有用であり得る代表的な材料には、ポリ(メタクリロニトリル)及びそれらのコポリマー並びに混合物が挙げられる。この種の特定の材料を採用した検出エレメントの例は、実施例1〜5の議論に記載されている。(例えば、比較的高いT及び/又はTを含み、比較的疎水性であるという点で)好適な候補であり得るその他のポリマー材料には、例えばポリ(シアノメチルアクリレート)、ポリ(3,5−ジメチルアダマンチルクロトネート)、ポリ(1−アダマンチルアクリレート)、ポリ(アダマンチルクロトネート)、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、ポリ(ペンタクロロフェニルアクリレート)、ポリ(アダマンチルメタクリレート)、ポリ(4−シアノフェニルメタクリレート)、ポリ(3,5−ジアダマンチルメタクリレート)、ポリ(3−テトラシクロドデシルメタクリレート)、ポリ(2,6−キシレニルメタクリレート)、ポリ(メチルβ−クロロアクリレート)、ポリ[4−(4−ビフェニリル)スチレン]、ポリ[3−(4−ビフェニリル)スチレン]、ポリ(2−カルボキシスチレン)、ポリ(2,4−ジイソプロピルスチレン)、ポリ(2,5−ジイソプロピルスチレン)、ポリ[4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)スチレン]、ポリ[4−(1−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)スチレン]、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(4−ヨードスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(ペルフルオロスチレン)、及びポリ(4−フェニルスチレン)を挙げることができる。
【0046】
幾つかの実施形態において、サブ層236は、架橋された有機ポリマー材料を含む。そのような架橋は、対象の被検物質の吸収に対する耐性、及び/又は吸収の結果の膨潤に対する耐性を強化した材料を提供することができ、したがって、幅広い様々な材料を、サブ層236に使用するのに有用なものにすることができる。例えば、サブ層236は、架橋ポリスチレン材料を含むことができる。そのような材料を採用した検出エレメントの例は、実施例7の議論に記載されている。しかしながら、当該技術分野で周知であるような、任意の望ましい組成物又は構造の、好適な架橋有機ポリマー材料が、所望により添加物及び同様物を含めて、使用可能である。
【0047】
幾つかの実施形態において、サブ層236は、多官能基モノマー(例えば周知のアクリレート及びメタクリレートモノマー)の重合及び/又は反応によって達成された架橋有機ポリマー網状構造を含む。そのようなモノマーの混合物は、例えば堆積させ(液体として、あるいは例えば米国特許第5877895号に開示されているように蒸気凝縮法によって)、反応させて(例えば、放射線硬化)、架橋層を形成することができる。そのような目的に使用可能である好適なモノマー、オリゴマーなどは、例えば米国特許第7,449,146号に開示されており、これは、この目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。前述のように、そのような層は、サブ層236として使用するのに好適になるような特性(例えば、高度の架橋)を達成するような条件で調製すべきである。他の蒸気コーティング有機ポリマー材料も、サブ層236に使用することができ、これには、例えば商品名Paryleneとして様々な供給源から入手できる周知のコーティングが挙げられる。架橋されているか否かを問わず、前述のように、サブ層236は、疎水性であることが望ましい可能性がある。
【0048】
サブ層236はまた、例えば、多孔性を有さない無機材料を含むこともできる。上述のように、無機材料の屈折率は、検出エレメント2の適切な機能を可能にするために、サブ層232と十分に近似であるべきである。例えば、サブ層236は、酸化ケイ素を含むことができる(例えば、蒸気コーティングで堆積される)。そのような無機材料は、サブ層236の合計厚さを構成することができる。あるいは、サブ層236は、無機バリアサブ層の裏にあって、サブ層236の望ましい合計厚さをもたらすように存在する裏材サブ層(例えば、有機ポリマー材料からなる)を備えた、サブ層232に隣接する無機材料のバリアサブ層を含むことができる。(そのようなアプローチを採用した検出エレメントの例は、実施例6の議論に記載されている)。無機材料が、被検物質に対して十分に非浸透性である場合、この裏材層は、任意の好適な材料(例えば、被検物質に対して非浸透性である必要を特に問わず)を含み得る。なぜなら、この構成では、裏材層は単に隙間充填材として用いられ、バリア特性及び/又は被検物質に対する反応性は関係がなくなるからである。
【0049】
様々な実施形態において、サブ層236は、上述の材料の組み合わせ(例えば、混合物、配合物、複合体構造、及び同様物)、並びに/又はそのような材料の多層を含むことができる。
【0050】
検出エレメント2は、反射層240を含むことができる。幾つかの実施形態において、反射層240は、前に形成された光学的反応性層230の表面上に堆積され得(例えば、本明細書に記述されている様々な方法によって)、あるいは反射層240は、基材210上に検出エレメント2の他の層及び/又はサブ層を堆積してから、その上に堆積させることができる。
【0051】
反射層240は、十分な反応性を提供できるような任意の好適な材料を含むことができる。反射層に好適な材料としては、アルミニウム、クロム、金、ニッケル、ケイ素、チタン、白金、パラジウム、及び銀のような金属又は半金属を挙げることができる。反射層に含まれ得るその他の好適な材料には、金属酸化物を挙げることができる。幾つかの実施形態において、約500nmの波長で、反射層は、少なくとも約90%の反射率(すなわち、最大約10%の透過率)であってよく、また幾つかの実施形態においては、約99%の反射率(すなわち、約1%の透過率)であってよい。
【0052】
幾つかの実施形態において(例えば、図2の設計を組み込んで)、反射層240は、対象の被検物質に対して有利に浸透性であってよい。これは、例えば、ビー玉を重ねたような形態で配置された金属ナノ粒子で反射層240を形成することによって提供されることができ、被検物質がこれを通って浸透し、光学的反応性層230に達して侵入することができる。
【0053】
様々な金属ナノ粒子を採用することができる。代表的な金属には、銀、ニッケル、金、プラチナ及びパラジウム並びにこれらの任意のものを含む合金が挙げられる。ナノ粒子形状にすると酸化しやすい金属(例えば、アルミニウム)は使用することもできるが、望ましくは回避して、空気感受性の低い金属を選ぶものとする。金属ナノ粒子は、全体にモノリシックであってよく、又は層状構造を有してもよい(例えば、Ag/Pd構造などのコア−シェル構造)。このナノ粒子は、例えば、平均粒径約1〜約100nm、約3〜約50nm、又は約5〜約30nmを有することができる。金属ナノ粒子層の全体の厚さは、例えば、約500nm未満又は約200nm未満であってよく、層の最小厚さは、例えば、少なくとも約5nm、少なくとも約10nm、又は少なくとも約20nmであってよい。大きな粒径のナノ粒子を適用して単層を形成することもできるが、そのナノ粒子層は典型的に、ナノ粒子数個分の厚さ、例えば、少なくとも2個以上、3個以上、4個以上、又は5個以上のナノ粒子の厚さになり、合計の厚さは最大5個、最大10個、最大20個、又は最大50個のナノ粒子の厚さとなる。金属ナノ粒子の反射層は、例えば、500nmにおいて、少なくとも約40%、少なくとも約50%、又は少なくとも約60%の反射率を有することができる。様々な実施形態において、この金属ナノ粒子反射層は、約500nmの波長において、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は少なくとも約99%の反射率を有することができる。
【0054】
好適な金属ナノ粒子の溶液又は懸濁液は、幾つかの供給元から入手でき、インクジェット銀導電体インクAG−IJ−G−100−S1(Cabot Printable Electronics and Displays);SILVERJET(商標)DGH 50及びDGP 50インク(Advanced Nano Products);SVW001、SVW102、SVE001、SVE102、NP1001、NP1020、NP1021、NP1050及びNP1051インク(Nippon Paint(米国));METALON(商標)FS−066及びJS−011インク(Novacentrix Corp.)並びにNPシリーズナノ粒子ペースト(Harima Chemicals,Inc.)が挙げられる。金属ナノ粒子は、水、及び有機溶媒(例えばメタノール、ヘプタン、デカンなど)を含む様々な担体に浮遊させることができる。金属ナノ粒子はまた、重合性モノマー結合剤に染み込ませてもよいが、望ましくは、かかる結合剤は、浸透性ナノ粒子層を提供できるように、適用したコーティングから(例えば、溶媒抽出又は焼結を用いて)除去する。
【0055】
層240は、光学的反応性層230に対し、金属ナノ粒子の希釈したコーティング溶液又は懸濁液を適用し、この溶液又は懸濁液を乾かして浸透性反射層240を形成することによって、形成することができる。この希釈濃度は、例えば、好適に液体浸透性又は蒸気浸透性の金属ナノ粒子をもたらすようなコーティング溶液又は懸濁液を提供するような濃度であり得、例えば固形物濃度が30重量%未満、20重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、又は4重量%未満であることができる。納品された市販の金属ナノ粒子製品を、追加の溶媒で希釈し、その希釈した溶液又は懸濁液を適用及び乾燥することによって、液体浸透性又は蒸気浸透性の層を得ることができる。様々なコーティング技法を用いてこの金属ナノ粒子溶液又は懸濁液を適用することができ、これには、スワブ塗布、ディップコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、インクジェットコーティング、スクリーン印刷(例えば、回転スクリーン印刷)、グラビア印刷、フレキソ印刷及び当業者に周知であるその他の技法が挙げられる。したがって、適切な高速及び高温で好適な基材上にスピンコーティングする場合は、固形物濃度が低い幾つかの銀ナノ粒子懸濁液(例えば5重量% SVW001銀(Nippon Paint)又は10重量% SILVERJET DGH−50若しくはDGP−50(Advanced Nano Products))を、納品されたままの形態で、更なる希釈なしで使用することが可能である。金属ナノ粒子層は、適用した後に焼結することができ(例えば、約125〜約250℃に約10分〜約1時間加熱することによって)、ただしこれは、その焼結によって適切な浸透性が失われない場合に限る。この結果として得られる反射層は、もはや容易に識別可能なナノ粒子を含んでいない可能性があるが、それが作成された方法を特定するために、ナノ粒子反射層と呼ぶことができることが理解されよう。
【0056】
反射層240に有用な好適な被検物質浸透性材料、特に金属ナノ粒子材料の更なる詳細及び属性は、例えば、米国特許公開出願第2008/0063874号に記述されており、これは、この目的のため、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0057】
検出エレメント2は、準反射層220を含むことができる。様々な実施形態において、準反射層220は、前に形成された光学的反応性層230の表面上に堆積されることができ(例えば、本明細書に記述される様々な方法によって)、あるいは、準反射層220は、基材210上に堆積させてから、検出エレメント2の他の層及び/又はサブ層を準反射層220の上に堆積させることができる。
【0058】
準反射層220は、反射層240と同様、又はそれより低い反射率を含むことができる。準反射層220は、好適な準反射性を提供することができる(例えば、適切な厚さのときに)任意の好適な材料を含むことができる。好適な材料には、アルミニウム、クロム、金、ニッケル、ケイ素、パラジウム、白金、チタン及び銀など、金属及び半金属を挙げることができる。他の好適な材料には、金属酸化物を挙げることができる。
【0059】
様々な実施形態において、約500nmの波長で、準反射層220は、約30%〜約70%の反射率、又は約40%〜約60%の反射率を有することができる。
【0060】
幾つかの実施形態において(例えば、図1の設計を組み込んだタイプの実施形態で)、準反射層220は、対象の被検物質に対して有利に浸透性であってよい。したがって、この場合、適切な反射性を提供するために、被検物質に準反射層220を浸透させて、光学的反応性層230に達して侵入するよう、適切な厚さでの準反射層220を提供することが望ましい場合がある。幾つかの場合において、全体に5〜10nmの範囲の厚さが望ましい可能性がある(例えば、準反射層220が蒸着されて金属層を形成する場合)。具体的な望ましい厚さは、層を形成するのに使用される材料、検出する被検物質に依存し、必要に応じて設定することができる。
【0061】
準反射層220及び反射層240は、類似又は同じ材料から作成することができる(例えば、異なる厚さ又はコーティング重量で堆積させ、これにより反射率の望ましい差を付与する)。準反射層220及び反射層240は、特定の用途に望ましい反射率及び浸透性の特性が提供されている限りにおいて、連続性であっても不連続であってもよい。好適な準反射層及び反射層の詳細、特性、及びその製造方法は、例えば米国特許出願公開第2008/0063874号に記述されており、これは、この目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。
【0062】
基材210は、存在する場合、検出エレメントに支持体を提供することができる、任意の好適な材料(例えば、ガラス、プラスチックなど)を含むことができる。検出エレメント2が応答するために、基材210を光が通過するような実施形態において、基材210は光学的に透明でなければならず(すなわち、対象の波長で十分な透明性を有さなければならず)、許容できないほど光学的信号に影響し得るようなその他の特性(例えば、蛍光など)を有してはならない。基材210の好適な材料には、例えば周知のポリマーのポリエステル群(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)及びポリ(エチレンナフタレート))を挙げることができる。
【0063】
上述のように、光学的反応性層230の合計厚さは、一般に400〜800nmの範囲であってよく、サブ層232及び236厚さはそれぞれ、100〜700nmの範囲であってよい。サブ層232及び/又はサブ層236を遊離したフィルムとして検出エレメント2に組み込むこと(例えば、ラミネーションによって)は、実用的ではない可能性がある。なぜならそのような薄い厚さの遊離フィルムは、製造及び/又は取扱いが難しい可能性があるからである。したがって、様々な実施形態において、サブ層232及び/又は236は、例えば溶液堆積、蒸着、及び同様の方法によって、順次堆積させることができる(例えば、基材210の上にある準反射層220などの既存の層の上に堆積させる)。そのような方法には例えば、スピンコーティング、溶液コーティング、押し出し被覆、プラズマ蒸着、プラズマ重合などを挙ることができる。サブ層236は例えば、溶液コーティングによって堆積させ、次に溶媒を除去し、所望により次に、様々な既知の方法に従って架橋処置を行うことができる。別の方法としては、サブ層236は、多官能基モノマー及び/又はオリゴマーの堆積(例えば、本明細書において前に開示された方法によって)を、次に硬化させ、架橋させることにより提供されることができる。サブ層236が前述の無機材料を含む場合は、これは、上述のものを含む任意の既知の堆積方法によって提供されることができる。望ましい場合は、サブ層232及び/又は236は、これらの様々なプロセスの任意のものによって堆積された複数の層を含むことができる。
【0064】
反射層240及び/又は準反射層220は、蒸着コーティング方法(例えばスパッタリング、蒸発、化学蒸着、プラズマ蒸着、及び同様物を含む)によって、又は溶液からのコーティング若しくはめっきによって、提供することができる。
【0065】
図2に示す一般的なタイプの検出エレメント2の代表的な製造方法において、光学的に透明な基材210が入手され(例えばポリエステルフィルム又は同様物を含む)、その上に準反射層220が堆積される。次に低被検物質反応性サブ層236を、準反射層220の上に堆積させる。次に高被検物質反応性サブ層232を、サブ層236の上に堆積させ、このとき、サブ層236が許容できないほど除去されたり、破壊されたり、又は破損したりしないようにする。次に被検物質浸透性反射層240を、本明細書に開示されている方法によりサブ層232の上に堆積させ、これによりサブ層232と流体連通した状態にする。検出エレメント2の機能が保全される限りにおいて、その他の層、基材、保護カプセル材、担体等を追加することができる。
【0066】
使用の前に、本明細書で開示される検出エレメントは、対象の被検物質が実質的にない環境中で保持され得る(例えばパッケージ中)。そのような環境において、及び/又は被検物質の反応を引き起こすのに十分な環境濃度に曝露される前に、検出エレメントは第1外観(例えば、色)を呈してよい。対象の被検物質の十分に高い濃度を含む雰囲気に曝されると、検出エレメント2が呈する反射スペクトルが変化し(例えば、典型的には長波長側にナノメートル値がシフトする)、これにより検出エレメントは、第1外観から、第1外観とは異なる第2外観へと、視覚に観察可能な変化を起こす。
【0067】
検出エレメントが呈する光学的反応は典型的に、可視光線範囲で観察可能であり、外観の変化が人間の目で検出することができる。そのような外観の変化には、第1色から第2色への変化、検出エレメントの知覚される輝度の変化(例えば、全体に同じ色の範囲であっても)、比較的無色の外観からよりカラフルな外観への変化、全体的に均一な外観からより不均一な(多彩な)外観への変化、及び同様のその他の変化を含むことができる。光学的応答は、幾つかの実施形態において、(例えば、人間による)目視検査によって実施されることができるが、幾つかの実施形態においては、他の応答方法も使用されることができ、これには、例えば分光光度計、光検出器、電荷結合素子、フォトダイオード、デジタルカメラ、及び同様物などの外部応答装置が挙げられる。検出エレメント2の応答におけるそのような光エレクトロニクス方法の利用は、米国特許仮出願第61/164496号に記述されており、これは、この目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。
【0068】
本明細書で開示される検出エレメントは、1つ以上の対象の被検物質を検出及び/又は監視するために使用することができる。そのような被検物質は、監視することが望ましい、環境中(しばしば、大気環境中)に存在し得る蒸気又は気体を含むことができる。幾つかの実施形態において、被検物質は、有機蒸気(例えば、揮発性有機化合物)である。特定の実施形態において、被検物質は、高沸点の有機化合物であり、これは、本明細書において、沸点が100℃以上の有機化合物として定義される。代表的な有機被検物質には、アルカン、シクロアルカン、芳香族化合物、アルコール、アルデヒド、エーテル、エステル、ケトン、ハロカーボン、アミン、有機酸、シアネート、チオール、ニトロ化物、及びニトリルを含む、置換又は非置換の炭素化合物を挙げることができ、これには例えばn−オクタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、二硫化炭素、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、2−エトキシエタノール、酢酸、2−アミノピリジン、エチレングリコールモノメチルエーテル、トルエン−2,4−ジイソシアネート、ニトロメタン、アセトニトリル、及び同様物がある。(これらのうち、本明細書で述べたように、検出エレメント2、光学的反応性層230、高被検物質反応性サブ層232、及び/又は低被検物質反応性サブ層236の反応を特徴付けるのに有用な代表的な有機被検物質としてスチレンを用いることができる。他のものもまた、利用することができる)。
【0069】
幾つかの場合において、検出エレメント2は、水を検出するのに使用することができる(例えば、湿度センサとして)。他の実施形態において、検出エレメント2は、水の存在に対して最小限の反応を有するよう設計することができる(例えば、サブ層232及び/又は236に疎水性材料を選択することによって)。
【0070】
本明細書に記述される検出エレメントは、様々な用途に使用することができる。幾つかの実施形態において、検出エレメント2は、呼吸保護装置(例えば、雰囲気中の特定の物質を除去するための、フィルタエレメント、収着媒体などを含むことができるレスピレータ)に関連して使用することができ、呼吸保護装置にあるフィルタエレメント、収着媒体などを少なくとも部分的に通過する空気流を含む大気を監視し、例えばそのフィルタエレメント、収着媒体などによる、その空気流から被検物質を除去する能力が尽きかけている可能性を指示することができるような、いわゆる使用寿命終了インジケータ(ESLI)を提供することができる。単一の検出エレメント2は、単独で使用することができ、又は複数の検出エレメント2を含むアレイを使用することができる。ESLI用途における検出エレメント2、及び検出エレメント2のアレイの利用については、本出願と同時に出願される、同時係属の米国特許仮出願第xx/xxxxxxxx/xxxxxx号、整理番号第65359US002号、題名「MULTILAYER COLORIMETRIC SENSOR ARRAYS」に記述されており、これは、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0071】
検出エレメント2は(ここでも単独又はアレイとして)、個人用モニタ及び/又は領域モニタ用途に使用することができ、この一般的なタイプについては、米国特許仮出願第61/148228号に記述されており、これは、参照によって本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0072】
これらの実施例に使用された試薬及び材料は全て、他に記載のない限り、Sigma−Aldrich、St.Louis,MO)から入手した。
【0073】
TFTN−PIM 1の調製:
2.0Lの三口丸底フラスコで、33.4357gの3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビスインダン−5,5’,6,6’−テトロール(テトロール)及び19.8016gのテトラフルオロテレフタロニトリル(TFTN)を、900mLの無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かした。この溶液を機械的攪拌器で攪拌し、この溶液中に窒素の泡を1時間通気した。この溶液に、81.4491gの炭酸カリウム(EMD Chemicals、Gibbstown,NJ)を加えた。フラスコを68℃の油浴に入れた。混合物をこの高温で、窒素環境中、65時間攪拌した。この重合混合物を9.0Lの水中に注いだ。形成された沈殿を減圧濾過で分離し、600mLのMeOH(VWR、West Chester,PA)で洗った。分離した物質をバットに広げ、一晩空気乾燥した。この固形物をジャーに入れ、68℃で4時間、減圧下で乾燥した。結果として得られた黄色い粉末を、450mLのTHF(EMD)に溶かした。この溶液をゆっくりと、9.0Lのメタノールに注いだ。形成された沈殿を減圧濾過により分離した。分離した物質をバットに広げ、一晩空気乾燥した。この固形物をジャーに入れ、68℃で4時間、減圧下で乾燥した。メタノール中での沈殿をもう1回実施した。結果として得られた乾燥した明るい黄色のポリマーの重量は42.80gであった。光散乱検出を用いたGPCによるポリマー分析では、この物質のMが約30,900であることが示された。
【0074】
TFTN−PIM 2の調製:
2.0Lの三口丸底フラスコで、33.4365gのテトロール及び19.8011gのTFTNを、900mLの無水DMFに溶かした。この溶液を機械的攪拌器で攪拌し、この溶液中に窒素の泡を1時間通気した。この溶液に、81.4480gの炭酸カリウムを加えた。フラスコを68℃の油浴に入れた。混合物をこの高温で、窒素環境中、67.5時間攪拌した。この重合混合物を9.0Lの水中に注いだ。形成された沈殿を減圧濾過で分離し、600mLのMeOHで洗った。分離した物質をバットに広げ、一晩空気乾燥した。この固形物をジャーに入れ、68℃で4時間、減圧下で乾燥した。結果として得られた黄色い粉末を、450mLのTHFに溶かした。この溶液をゆっくりと、9.0Lのメタノールに注いだ。形成された沈殿を減圧濾過により分離した。分離した物質をバットに広げ、一晩空気乾燥した。この固形物をジャーに入れ、68℃で4時間、減圧下で乾燥した。メタノール中での沈殿をもう1回実施した。結果として得られた乾燥した明るい黄色のポリマーの重量は43.22gであった。光散乱検出を用いたGPCによるポリマー分析では、この物質のMが約35,800であることが示された。
【0075】
サンプル1の調製:
10nm厚さのNi金属層を、Melinex ST505(Dupont Teijin)透明PETの上に蒸着することにより、金属堆積したポリエチレンテレフタレート(PET)基材を調製した。クロロベンゼン(Alfa Aesar、Ward Hill,MA)中、4重量%のTFTN−PIM 1溶液を調製し、NiコーティングされたPETの上に、スロットダイコーティングによって堆積し、厚さ約600nmとした。スロットダイコーティングにより、100gのナノ銀ストック懸濁液(DGP−40LT−15C、Advanced Nanoproducts(Korea)、銀40重量%)を150gの1−メトキシ−2−プロパノール(Dow Chemical、Midland,MI)で希釈したものを用いて、銀ナノ粒子層を、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。
【0076】
サンプル2の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。ニトロメタン(EMD)中、6重量%のポリ(メタクリロニトリル)(PMAN)(Scientific Polymer Products,Inc.、Ontario,NY、M約20,000)の溶液を調製し、WS−400B−8NPP−Lite Single Waferスピンプロセッサ(Laurell Technologies,Corp.(North Wales,PA)製造)を使用し、この溶液を2100rpmで2分間のスピンコーティングにより、Ni−PET基材上にコーティングした。クロロベンゼン中、2重量%のTFTN−PIM2溶液を調製し、1500rpmのスピンコーティングによって、PMAN層の上にコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PMAN/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約100nmであった。
【0077】
サンプル3の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。シクロヘキサノン(EMD)中、6重量%のPMAN溶液を調製し、この溶液を、1100rpmのスピンコーティングによって、Ni−PET基材の上にコーティングした。クロロベンゼン中、3重量%のTFTN−PIM2溶液を調製し、1500rpmのスピンコーティングによって、PMAN層の上にコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PMAN/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約200nmであった。
【0078】
サンプル4の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。シクロヘキサノン中、6重量%のPMAN溶液を調製し、この溶液を、1500rpmのスピンコーティングによって、Ni−PET基材の上にコーティングした。クロロベンゼン中、4重量%のTFTN−PIM 2溶液を調製し、3000rpmのスピンコーティングによって、PMAN層の上にコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PMAN/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約250nmであった。
【0079】
サンプル5の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。シクロヘキサノン中、6重量%のPMAN溶液を調製し、この溶液を、1900rpmのコーティングによって、Ni−PET基材の上にコーティングした。クロロベンゼン中、4重量%のTFTN−PIM2溶液を調製し、2000rpmのスピンコーティングによって、PMAN層の上にスピンコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PMAN/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約300nmであった。
【0080】
サンプル6の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。シクロヘキサノン中、10重量%のポリ(ビニリデンクロリド−co−アクリロニトリル−co−メチルメタクリレート)(Sigma−Aldrich、M約13,000、M約84,000)(PVnCl)の溶液を調製し、この溶液を1500rpmのスピンコーティングによって、Ni−PET基材の上にコーティングした。500オングストロームのSiO層をPVnCl層の上に蒸着した。クロロベンゼン中、4重量%のTFTN−PIM 2溶液を調製し、3000rpmのスピンコーティングによって、SiO層の上にコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PVnCl/SiO/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約250nmであった。
【0081】
サンプル7の調製:
サンプル1の調製に記述されているように、NiコーティングされたPET基材を調製した。トルエン中、7重量%のポリスチレン(Sigma−Aldrich、分子量約280,000)(PSt)を調製し、この溶液を、この溶液を2500rpmのスピンコーティングによって、Ni−PET基材の上にコーティングした。サンプルを殺菌灯の下に置き、18時間照射した。クロロベンゼン中、4重量%のTFTN−PIM 2溶液を調製し、3000rpmのスピンコーティングによって、架橋したPSt層の上にコーティングした。サンプル1の調製で記述した、市販の銀ナノ粒子懸濁液0.5gを、1mLのメタノールで希釈した。この銀ナノ粒子懸濁液を、1000rpmのスピンコーティングによって、TFTN−PIM層の上にコーティングした。堆積後、全体のセンサ構成体を150℃で1時間加熱し、銀ナノ粒子を焼結させた。PSt/TFTN−PIMの全体の厚さは約600nmであり、TFTN−PIM層の厚さは約250nmであった。
【0082】
試験被検物質に対するサンプルの反応
単純な貫流のカスタム構築デリバリーシステムを使用して、検出エレメントに既知の濃度の試験被検物質(スチレン)を送達し、測定した。デリバリーシステム全体にわたって、テフロンチューブを使用した。液体スチレン(Alfa Aesar、99%、製品番号A18481)を、特定の流量で、Harvard Apparatusシリンジポンプによって、加熱した圧盤上に供給した。この圧盤は、500mL丸底フラスコ内に配置され、これを通る乾燥空気(相対湿度約5%未満)の流量20L/分が維持された。気流中のスチレンの濃度は、赤外線分光計(商標名Miran Sapphire、ThermoElectron、Waltham,MA)から入手可能)の使用によって検量された。ガス状スチレンの流れを、検出エレメントサンプルの入ったサンプルチャンバ(室温に維持された)内に導入した。
【0083】
このようにして様々な個々の検出エレメントサンプルを順に、50〜1300ppmの濃度範囲のスチレンを含むガスの流れに曝露させた。個々の濃度のスチレンに対するそれぞれのサンプルの曝露時間の長さは典型的に約50〜60分間であった。曝露中、サンプルは、スペクトロメータ(Ocean Opticsから商標名USB 2000として入手可能)を介して光学的応答させ、LS−1タングステン−ハロゲンランプを光源として使用し、光ファイバー反射プローブを用い、波長スペクトル(例えば、図3に一般的に示されているものに類似)が記録された。それぞれの曝露レベルについて、波長シフト(ピーク(典型的には、波長約570nmでの極大点のピーク)のシフトとしてナノメートル単位で測定)が記録された(被検物質の非存在下での初期ピーク位置に対する比較)。本試験のサンプル1〜7の結果が図5にプロットされている。
【0084】
個々のサンプル1〜7は全て、試験被検物質に対する曝露の前は、同様の視角から観察したときに、同様の初期外観(緑色)を呈していた。これらサンプル全体に、約25nmの波長シフト(上述のように測定)があり、検出エレメントの外観が緑から赤へと目視観測可能な変化をともなっていた。このように、サンプル1は、約20ppmのスチレンを含む環境に曝露されたときに、サンプル5は約50ppmで、サンプル4は約80ppmで、サンプル3は約300ppmで、及びサンプル2は約800ppmで、緑から赤に変化することが予測された。
【0085】
約400nm〜約800nmの合計厚さ(光学的反応性層230の厚さ)を含むこのタイプの代表的な検出エレメントでは一般に、約80nmの波長シフトで、ラップアラウンドを伴うことを発明者らは見出した(例えば、検出エレメントが赤色から緑色に戻り、これは被検物質非存在下で最初に呈していた色に類似していた)。したがって、サンプル1(光学的反応性層が厚さ約600nmの高被検物質反応性(PIM)層のみからなっており、低被検物質反応性層が存在しない)は、約100ppmのスチレンを含む環境に曝露されるとラップアラウンドを呈すると予測された。注目に値することに、サンプル2〜7(これらは全て厚さ約300nm以下のPIMS層を備え、このそれぞれが、光学的反応性層の合計厚さ約600nmとするための厚さの低被検物質反応性層を含んでいた)のいずれも、比較的高濃度のスチレンに曝露されても、80nmの波長シフト(これはラップアラウンドをもたらすと見込まれる)を呈さなかった。例えば、1300ppmのスチレンに曝露されたサンプル4でも、80nmの閾値に達しなかった。
【0086】
上記の試験及び試験結果は予測ではなく例示のみを意図したものであり、試験方法が変われば異なる結果が生じ得ると考えられる。実施例の項における定量的な値は全て、用いられる方法に伴う一般的に知られた許容誤差を考慮した近似的な値であるものと理解される。上記の詳細な説明及び実施例はあくまで理解を助けるために示したものである。これらによって不要な限定をするものと理解されるべきではない。
【0087】
本明細書で開示された具体的な代表的構造、機能、詳細、構成などは、改変することができ、及び/又は数多くの実施形態で組み合わせることができることが、当業者には明らかであろう。そのような改変及び組み合わせは全て、本発明の範囲内にあるものとして発明者らによって想到される。よって、本発明の範囲は、本明細書に記述されている具体的な説明のための構造に限定されるべきではなく、むしろ、請求項の文によって記述される構造、並びにこれらの構造の同等物によって限定されるべきものである。本発明明細書と、本明細書において参照により組み込まれたあらゆる文書における開示との間に、衝突又は矛盾がある場合は、その範囲において、本発明明細書が優先される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を検出するための、光学的に応答可能な検出エレメントであって、
反射層と準反射層との間にある光学的反応性層を含み、
該光学的反応性層は、少なくとも、高被検物質反応性第1サブ層と、低被検物質反応性第2サブ層とを含む、検出エレメント。
【請求項2】
前記高被検物質反応性サブ層が、固有のミクロ孔質ポリマーを含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項3】
前記光学的反応性層が、約400nm〜約1000nmの合計厚さを含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項4】
前記高被検物質反応性第1サブ層の厚さと、前記低被検物質反応性第2サブ層の厚さとの比が、約1:8〜約8:1である、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項5】
前記高被検物質反応性サブ層が、約500nm未満の厚さを含み、前記低被検物質反応性サブ層が、約200nmを超える厚さを含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項6】
前記高被検物質反応性サブ層が、約300nm未満の厚さを含み、前記低被検物質反応性サブ層が、約300nmを超える厚さを含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項7】
前記低被検物質反応性サブ層が、前記被検物質に対して非浸透性である、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項8】
前記低被検物質反応性サブ層が、疎水性材料を含み、かつ前記高被検物質反応性サブ層が、疎水性材料を含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項9】
前記低被検物質反応性サブ層が、架橋されたポリマー網状組織材料を含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項10】
前記低被検物質反応性サブ層が、少なくとも無機非多孔性材料の層を含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項11】
前記無機非多孔性材料の層が、低被検物質反応性層を含む、請求項10に記載の検出エレメント。
【請求項12】
前記低被検物質反応性サブ層が、前記高被検物質反応性サブ層に隣接する少なくとも無機非多孔性の被検物質非浸透性層と、前記高被検物質反応性層から該無機非多孔性層によって分離されている有機ポリマー層と、を含む、請求項10に記載の検出エレメント。
【請求項13】
前記反射層が、前記被検物質に対して浸透性である、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項14】
前記反射層が、焼結されたナノ粒子を含むナノ多孔性層である、請求項13に記載の検出エレメント。
【請求項15】
前記準反射層が、前記被検物質に対して浸透性である、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項16】
前記検出エレメントが、200ppmのスチレンを含む雰囲気に曝露されるとき、約40nm未満の反射スペクトルシフトを含む、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項17】
前記検出エレメントが、200ppmのスチレンを含む雰囲気に曝露されるとき、約25nm未満の反射スペクトルシフトを含む、請求項16に記載の検出エレメント。
【請求項18】
前記検出エレメントが、1000ppmの有機被検物質を含む雰囲気に曝露されても、ラップアラウンドを呈さない、請求項1に記載の検出エレメント。
【請求項19】
前記検出エレメントが、約1000ppmのスチレンを含む雰囲気に曝露されるとき、約80nm未満の反射スペクトルシフトを含む、請求項18に記載の検出エレメント。
【請求項20】
被検物質を検出するための検出エレメントの製造方法であって、
光学的に透明な基材上に準反射層を形成する工程と、
該準反射層の上に、低被検物質反応性材料の層を形成する工程と、
該低被検物質反応性材料の層の上に、高被検物質反応性材料の層を形成する工程と、
該高被検物質反応性材料の層の上に、被検物質浸透性反射層を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項21】
前記低被検物質反応性材料の層の形成が、前記準反射層の上に溶液を堆積させ、該溶液から溶媒を除去して、低被検物質反応性材料の乾燥した層を形成する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記低被検物質反応性材料の乾燥した層の材料を架橋する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記低被検物質反応性材料の層の形成が、前記準反射層の上に、蒸気凝縮により、多官能基モノマー及び/又はオリゴマーを堆積させる工程と、該モノマー及び/又はオリゴマーを反応させて、低被検物質反応性材料の架橋した網状組織を形成する工程と、を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記高被検物質反応性材料の層の形成が、前記低被検物質反応性材料の層の上に溶液を堆積させ、該溶液から溶媒を除去して、高被検物質反応性材料の乾燥した層を形成する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記低被検物質反応性材料が、前記高被検物質反応性材料の層を形成するのに使用される溶液に溶解性でない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記低被検物質反応性材料の層の形成が、非多孔性無機材料の層を堆積させる工程を含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−527624(P2012−527624A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511986(P2012−511986)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/035378
【国際公開番号】WO2010/135413
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】