説明

多層無端ベルトおよびその製造方法

【課題】弾性層との密着性に優れ、且つ離型性にも優れる離型層を有する多層無端ベルト、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂からなる基材層2上に、イミド変性エラストマーからなる弾性層3およびポリイミド樹脂層4からなる離型層を、この順で積層してなる多層無端ベルト1である。この多層無端ベルトの製造方法は、遠心成形により、円筒形金型の内表面に、ポリイミド樹脂からなる基材層を形成する工程と、前記基材層上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーからなる弾性層を形成する工程と、更に前記弾性層上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂からなる離型層を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の中間転写ベルト、チップ割り無端ベルト等に使用される多層無端ベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラープリンター、複写機等の画像形成装置の中間転写用ベルトとして、ポリイミド単層ベルトが広く用いられているが、高画質、高速印刷の要求から、基材層であるポリイミド樹脂層の上に弾性層を設けてトナー転写性を向上させ、さらに最外層にトナー離型性を確保するためにフッ素樹脂層などの離型層を設けた多層無端ベルトが提案されている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
上記多層無端ベルトにおいては、離型層として用いられるフッ素樹脂層が弾性層との密着性が低いという問題があった。
【0004】
また、このような多層ベルトは、弾性層の耐溶剤性が低いため、膨潤による変形が生じやすく、従って、遠心成型による連続成型が困難であった。そのため、ポリアミド酸溶液を遠心成形後熱処理してイミド化後、得られたポリイミド単層ベルトを脱型し、これに、コーティング、インジェクションなどの手法によって、弾性層および離型層を成型していた。
【0005】
従って、弾性層と離型層との密着性に優れ、かつポリイミド樹脂層である基材層、弾性層および離型層を、連続的に遠心成形によって形成することができる多層無端ベルトの製造方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3248455号公報
【特許文献2】特開2007−240939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、弾性層との密着性に優れ、且つ離型性にも優れる離型層を有する多層無端ベルトを提供することにある。
本発明の他の目的は、基材層、弾性層および離型層を、連続的に遠心成形によって形成することができる多層無端ベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、ポリイミド樹脂がタック性が低く、離型性に優れることから離型層として好適であり、ポリイミド樹脂層である基材層に、イミド変性エラストマー樹脂層を弾性層とし、且つポリイミド樹脂層を離型層として用いる多層ベルトによれば、該離型層が弾性層との密着性および離型性に優れ、しかもこれらの基材層、弾性層および離型層を連続的に遠心成形によって形成することができ、得られる多層無端ベルトは画像形成装置の中間転写ベルト等として好適であること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の多層無端ベルトは、以下の構成を有する。
(1) ポリイミド樹脂層である基材層上に、イミド変性エラストマー樹脂層である弾性層およびポリイミド樹脂層である離型層をこの順で積層したことを特徴とする多層無端ベルト。
(2)前記イミド変性エラストマー樹脂が、イミド変性ポリウレタンエラストマーである上記(1)記載の多層無端ベルト。
(3)前記イミド変性ポリウレタンエラストマーが、下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]で表されるものである上記(2)記載の多層無端ベルト。
(4)前記イミド変性エラストマーの弾性率が1.0×106〜5.0×108Paである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の多層無端ベルト。
(5)画像形成装置の中間転写用ベルトである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の多層無端ベルト。
【0010】
本発明に係る多層無端ベルトの製造方法は、以下の構成を有する。
(6)遠心成形により、円筒形金型の内表面に、ポリイミド樹脂からなる基材層を形成する工程と、前記基材層上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーからなる弾性層を形成する工程と、更に前記弾性層上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂からなる離型層を形成する工程とを含む多層無端ベルトの製造方法。
(7)前記基材層、弾性層および離型層は、それぞれ遠心成形と同時または遠心成形後に熱処理する(6)記載の多層無端ベルトの製造方法。
(8)遠心成形により、金型表面に、ポリイミド樹脂の前駆体溶液の層を形成し、ついでこの層を熱処理してポリイミド樹脂からなる基材層を形成する工程と、前記基材層上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーの前駆体溶液の層を積層する工程と、更にこの層上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂の前駆体溶液の層を積層する工程と、得られた積層体を熱処理する工程とを含む、前記基材層上に、イミド変性エラストマーからなる弾性層およびポリイミド樹脂からなる離型層がこの順で積層された(6)または(7)記載の多層無端ベルトの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる基材層と、イミド変性エラストマーからなる弾性層およびポリイミド樹脂層からなる離型層を積層した構造であるため、弾性を備え且つ離型性にも優れるという効果がある。
また、本発明の多層無端ベルトは、構造的に類似したポリイミド樹脂とイミド変性エラストマーとを交互に積層した構造であるため、各層間の密着性に優れ、耐久性にも優れるという効果がある。
従って、本発明の多層無端ベルトは、画像形成装置の中間転写ベルト用として、好適に使用できる。また、セラミック製のチップ抵抗器等のチップ割り用の無端ベルト(例えば特開2008-254376号公報)やその他の用途にも好適に使用可能である。
【0012】
また、本発明の多層無端ベルトの製造方法によれば、ポリイミド樹脂からなる基材層と、イミド変性エラストマーからなる弾性層およびポリイミド樹脂層からなる離型層を連続的に遠心成形によって形成するので、効率よく多層無端ベルトを得ることができる。このように従来困難であった連続遠心成形が可能になったのは、ポリイミド樹脂からなる基材層を遠心成形後に、イミド変性エラストマーを遠心成形するので、これに続くポリイミド樹脂からなる離型層の遠心成形時に、イミド変性エラストマーがポリイミド樹脂ワニスに含まれる溶媒で膨潤して変形するのを、基材層であるポリイミド樹脂が抑制しているためであろうと推測される。
更に、本発明の多層無端ベルトの製造方法は、基材層、弾性層および離型層を連続的に遠心成形によって形成するので、広幅の多層無端ベルトを容易に作製することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の多層無端ベルトの一実施形態を示す拡大概略断面図である。
【図2】本発明の多層無端ベルトの製造方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<多層無端ベルト>
以下、本発明の多層無端ベルトの一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の多層無端ベルトの一実施形態を示す拡大概略断面図である。同図に示すように、本実施形態にかかる多層無端ベルト1は、ポリイミド樹脂からなる基材層2と、この基材層2上に設けられるイミド変性エラストマーからなる弾性層3と、この弾性層3上に設けられるポリイミド樹脂層からなる離型層4とで構成されている。
【0015】
基材層2を形成しているポリイミド樹脂は、特に限定されるものではなく、一般に、酸無水物とジアミン化合物から合成されたポリアミド酸を熱および触媒等によってイミド化することで得られる。具体的には、前記酸無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ビフェニル−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノン−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−(2,2'−ヘキサフルオロイソプロピリジン)ジフタル酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、前記ジアミン化合物としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5'−ジオキシド、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4'−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン等が挙げられ、例えば特許第2560727号公報に記載されているものが挙げられる。ポリイミド樹脂は、その構造上、高強度、高耐熱、低緩和特性等といった特性を有しており、これは精密回転が必要とされる用途に用いられるベルト材料に適している。したがって、ポリイミド樹脂を基材層2に用いると、該ポリイミド樹脂が低伸張かつ高強度の張力保持体として機能し、ベルト1の精密駆動が可能になる。前記ポリイミド樹脂は熱硬化性であるのが好ましい。
【0016】
ベルト1を中間転写ベルトとして用いる場合には、半導電性を付与する上で、ポリイミド樹脂に導電剤を分散させる必要がある。これは、中間転写ベルトは、その表面に静電気を使ってトナーを担持するが、この時、導電率が低いとトナーを担持させるのに充分な帯電が行われず、導電率が高いとトナーが飛散してしまうためである。このため中間転写ベルトでは、ベルト表面抵抗値を、一般に、109〜1011Ω/cm2の範囲にコントロールする必要がある。前記導電剤としては、導電性もしくは半導電性の微粉末を使用でき、具体例としては、カーボンブラック,グラファイト等の導電性炭素系物質、アルミニウム,銅合金等の金属または合金、さらには酸化錫,酸化亜鉛,酸化アンチモン,酸化インジウム,チタン酸カリウム,酸化アンチモン−酸化錫複合酸化物(ATO),酸化インジウム−酸化錫複合酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
導電材の含有量としては、導電剤の種類やベルト表面抵抗値に応じて任意に選定すればよく、特に限定されるものではないが、例えばカーボンブラックの場合には、通常、ポリイミド樹脂100重量%に対して15〜20重量%程度の割合で含有するのが好ましい。
【0018】
基材層2の厚みは20〜100μm程度であるのが好ましく、60〜80μm程度であるのがより好ましい。これにより、ベルト1の剛性が高くなり、ベルト1の回転時に発生するスラスト方向の荷重に対しても強くなる。
【0019】
ここで、前記ポリイミド樹脂は機械特性に優れているため、例えばベルト1を中間転写ベルトとして用いる場合には、バイアスロールで中間転写ベルトを像担持体に押圧した時に、その押圧力によるベルトの変形が小さい。そして、このような状態で、電界を作用させてトナー像を静電的に中間転写ベルトに転写すると、 一次転写部においてバイアスロールによる押圧力の荷重が集中し、その結果、トナー像が凝集して電荷密度が高くなるため、トナー層内部で放電が発生してトナーの極性を変化させることがある。このような要因によって、ライン画像が中抜けするホローキャラクタの画質欠陥が発生するが、この画質欠陥を防止する対策として、基材層2上にイミド変性エラストマー樹脂の弾性層3が設けられる。すなわち、ポリイミド樹脂の基材層2上に弾性層のイミド変性エラストマー層3を設けると、ベルト1の表面に適度の弾性を付与することができる。
【0020】
そして、弾性層3は用途や装置に応じてその弾性率を任意に調整する必要があるが、本実施形態では、この弾性層3がイミド変性エラストマーからなることにより、該イミド変性エラストマー中のイミド成分の含有率を調整すると、該エラストマーの弾性率を簡単に調整することができ、弾性層3が所望の弾性率を有するようになる。該弾性率は、特に限定されるものではないが、通常、1.0×106〜5.0×108Paの範囲になるように調整される。また、弾性層3は、基材層2との親和性に優れるので、両者が剥離することによる耐久性の低下を抑制することができる。なお、前記弾性率は、後述するように、動的粘弾性測定装置を用いて測定して得られる50℃での貯蔵弾性率E'の値である。
【0021】
前記イミド変性エラストマーとは、イミド成分を有するエラストマーのことを意味する。具体的には、該エラストマー中のエラストマー成分としては、例えばポリウレタン、不飽和オレフィン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、フッ素ゴム系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー等が挙げられ、イミド成分としては、例えば脂環式モノマー、複素環式モノマー、フェニルエーテル系モノマー、アルキル側鎖モノマー等が挙げられる。
【0022】
本実施形態では、上記で例示したこれらのイミド変性エラストマーのうち、ポリウレタンをエラストマー成分とするイミド変性ポリウレタンエラストマー(以 下、「ポリイミドウレタンエラストマー」や「PIUE」とも言う。)が柔軟性やポリイミド樹脂からなる基材層2との接着性等に優れる上で好ましく、特に、上記一般式(I)で表されるPIUE(以下、「PIUE(I)」とも言う。)が好ましい。
【0023】
PIUE(I)は、ポリウレタン(ポリウレタンプレポリマー)をエラストマー成分として含有すると共に、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、弾性率を簡単に調整することができ、かつ柔軟性や基材2との接着性等に優れるという効果がある。
【0024】
具体的には、上記一般式(I)において前記R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(A)に従ってポリウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるジイソシアナート(a)の残基等が挙げられる。
【0025】
前記R2は、重量平均分子量100〜10,000、好ましくは300〜5,000の2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば反応行程式(A)に従ってポリウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるポリオール(b)の残基等が挙げられる。
【0026】
前記R3は、 芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(B)に従ってポリウレタン−ウレア 化合物(e)を合成する際に用いるジアミン化合物(d)の残基等が挙げられる。前記脂肪族鎖は、炭素数1のものも含む。
【0027】
前記R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(C)に従ってイミド変性エラストマー(I)を合成する際に用いるテトラカルボン酸二無水物(f)の残基等が挙げられる。nは1〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。mは2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。
【0028】
前記一般式(I)で表されるPIUEの具体例としては、下記式(1)で表されるPIUE等が挙げられる。
【化2】


[式中、nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは10〜100の整数を示す。]
【0029】
前記一般式(I)で表されるPIUEは、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であるのが好ましい。このような PIUEは、例えば以下に示すような反応工程式(A)〜(C)を経て製造することができる。
【0030】
[反応行程式(A)]
【化3】


[式中、R1,R2,nは、前記と同じである。]
【0031】
(ポリウレタンプレポリマー(c)の合成)
上記反応行程式(A)に示すように、まず、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)から分子両末端にイソシアナート基を有するポリウレタンプレポリマー(c)を得る。PIUE(I)は、このポリウレタンプレポリマー(c)をエラストマー成分とするので、ゴム状領域(室温付近)の弾性率が低くなり、よりエラスティックにすることができると共に、このポリウレタンプレポリマー(c)の分子量を制御することにより、主鎖に連続した2つのイミドユニットを、 その分布を制御しつつ所望の割合で導入することが可能となる。
【0032】
具体的には、前記ジイソシアナート(a)としては、例えば2,4−トリレンジイソシアナート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート(TDI)、 4,4'−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ポリメリックMDI、ジアニシジンジイソシアナート(DADL)、ジフェニル エーテルジイソシアナート(PEDI)、ピトリレンジイソシアナート(TODI)、ナフタレンジイソシアナート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアナー ト(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、リジンジイソシアナートメチルエステル(LDI)、メタキシリレンジイソシアナート(MXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアナート(DDI)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(IPCI)、シクロヘキシルメタンジ イソシアナート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート(水添TDI)、TDI2量体(TT)が挙げられ、これらは1種または2種以上を混 合して用いてもよく、減圧蒸留したものを用いるのが好ましい。
【0033】
前記ポリオール(b)としては、例えばポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリマーポリオール等のポリエーテルポリオール;アジペート系ポリオール(縮合ポリエステルポリオール)、ポリカプロラクトン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリエステルポリオール;ポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
ポリオール(b)は、70〜90℃、1〜5mmHg、10時間〜30時間程度の条件で減圧乾燥したものを用いるのが好ましい。また、ポリオール(b)の重量平均分子量は100〜10,000、好ましくは300〜5,000であるのが好ましい。前記重量平均分子量は、ポリオール(b)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0035】
反応は、上記で例示したジイソシアナート(a)とポリオール(b)とを所定の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温で1時間〜5時間程度反応させればよい。ジイソシアナート(a)とポリオール(b)との混合比(モル)は、ジイソシアナート(a):ポリオール (b)=1.1:1.0〜2.0:1.0の範囲にするのが好ましい。これにより、得られるポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を、下記で説明 する所定の値にすることができる。
【0036】
得られるポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量は、300〜50,000、好ましくは500〜45,000であるのがよい。この範囲内でポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を制御して、イミドユニットを所望の割合で導入すると、柔軟性や基材ポリイミド層2との接着性等に優れるPIUE(I)を得ることができる。
【0037】
また、ポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量が、前記範囲内において小さいほど、ハードなPIUE(I)を得ることができる。これに対し、前記分子量が300より小さいと、PIUE(I)がハードになりすぎ、50,000より大きいと、ソフトになりすぎるおそれがあるので好ましくない。前記重量 平均分子量は、ポリウレタンプレポリマー(c)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0038】
[反応行程式(B)]
【化4】


[式中、R1〜R3,n,mは、前記と同じである。]
【0039】
(ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成)
上記で得られたポリウレタンプレポリマー(c)を用いて、反応行程式(B)に従ってイミド前駆体であるポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する。すなわち、ポリウレタンプレポリマー(c)をジアミン化合物(d)でウレア結合により鎖延長してポリウレタン−ウレア化合物(e)を得る。
【0040】
具体的には、前記ジアミン化合物(d)としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン(別名:p−フェニレンジアミン、略称:PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(別名:m−フェニレンジアミン、略称:MPD)、2,4−ジアミノトルエン(別名:2,4−トルエンジアミン、略称:2、4−TDA)、4,4'− ジアミノジフェニルメタン(別名:4,4'−メチレンジアニリン、略称:MDA)、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(別名:4,4'−オキシジアニリン、略称:ODA、DPE)、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル(別名:3,4'−オキシジアニリン、略称:3,4'−DPE)、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル(別名:o−トリジン、略称:TB)、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル(別名:m−トリジン、略 称:m−TB)、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル(略称:TFMB)、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェ ン−5,5−ジオキシド(別名:o−トリジンスルホン、略称:TSN)、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド(別名:4,4'−チオジアニリン、略称:ASD)、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン(別 名:4,4'−スルホニルジアニリン、略称:ASN)、4,4'−ジアミノベンズアニリド(略称:DABA)、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5、略称:DAnMG)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン(略称:DANPG)、1,2−ビス [2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン(略称:DA3EG)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(略称:FDA)、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:TPE−Q)、1,3−ビス (4−アミノフェノキシ)ベンゼン(別名:レゾルシンオキシジアニリン、略称:TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(略 称:APB)、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(略称:BAPB)、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス (4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(略称:BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパ ン(略称:HFBAPP)、3,3'−ジカルボキシ−4,4'−ジアミノジフェニルメタン(略称:MBAA)、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレン ジアミン(別名:4,6−ジアミノレゾルシン)、3,3'−ジヒドロキシ−4,4'−ジアミノビフェニル(別名:3,3'−ジヒドロキシベンジジン、略称:HAB)、3,3',4,4'−テトラアミノビフェニル(別名:3,3'−ジアミノベンジジン、略称:TAB)等の炭素数6〜27の芳香族ジアミン化 合物;1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1,8−オクタメチレンジアミン(OMDA)、1,9−ノナメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン(DMDA)、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の炭素数6〜24の脂肪族または脂環式ジアミン化合物;1,3−ビス(3−アミノプロピ ル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等のシリコーン系ジアミン化合物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
特に、1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)を用いるのが、強度に優れるPIUE(I)を得ることができるうえで好ましい。また、上記で例示したジアミン化合物(d)の選択によっても、PIUE(I)の弾性率を調整することができる。
【0041】
反応は、ウレタンプレポリマー(c)と、上記で例示したジアミン化合物(d)とを等モル、好ましくはNCO/NH2比が1.0程度の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃において、2時間〜30時間程度で溶液重合反応または塊状重合反応させればよい。
【0042】
前記溶液重合反応に使用できる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリド ン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン等が挙げられ、特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル −2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドンが好ましい。これらの溶媒は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、定法に従い脱水処理したものを用いるのが好ましい。
【0043】
[反応行程式(C)]
【化5】


[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0044】
(PIUE(I)の合成)
上記で得られたポリウレタン−ウレア化合物(e)を用いて、反応行程式(C)に従って一般式(I)で表されるPIUEを合成する。すなわち、テトラカルボン酸二無水物(f)でウレア結合部にイミドユニットを導入してブロック共重合体であるPIUE(I)を得る。
【0045】
具体的には、前記テトラカルボン酸二無水物(f)としては、例えば無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニル−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノン−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジフェニルスルホン−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4'−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、m(p)−ターフェニル−3,4,3',4'−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
反応は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)とのイミド化反応である。該イミド化反応は、溶媒下、無溶媒下のいずれであっ てもよい。溶媒下でイミド化反応を行う場合には、まず、ポリウレタン−ウレア化合物(e)と、上記で例示したテトラカルボン酸二無水物(f)とを所定の割合で溶媒に加え、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、1時間〜10時間程度反応させて、下記式(g)で表されるポリウレタンアミド酸(PUA)を含む溶液(PUA溶液)を得る。
【化6】


[式中、R1〜R4,n,mは、前記と同じである。]
【0047】
ここで、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成で使用したジアミン化合物(d)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合比(モル)が、ジアミン化合物(d):テトラカルボン酸二無水物(f)=1:2〜1:2.02の範囲となる割合で混合するのが好ましい。これにより、確実にウレア結合部にイミドユニットを導入することができる。
【0048】
使用できる溶媒としては、上記反応行程式(B)の溶液重合反応に使用できる溶媒で例示したものと同じ溶媒を例示することができる。なお、反応行程式(B)において溶液重合反応でポリウレタン−ウレア化合物(e)を得た場合には、該溶媒中でイミド化反応を行えばよい。
【0049】
ついで、上記で得たPUA溶液を例えば円筒金型に注入して、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、100〜2,000rpm、30分〜2時間程度で円筒金型を回転させながら、遠心成形によりPUAをフィルム状に成膜する。
【0050】
ついで、フィルム状のPUAを加熱処理(脱水縮合反応)することにより、フィルム状の一般式(I)で表されるPIUEを得ることができる。加熱処理は、PUAが熱分解しない条件であるのが好ましく、例えば減圧条件下において150〜450℃、好ましくは150〜250℃、1時間〜5時間程度であるのがよい。
【0051】
上記のようにして得られるPIUE(I)は、ガラス転移温度(Tg)が、通常、−30〜−60℃であると共に、高い弾性を有し、かつゴム状弾性領域の温度範囲が広いものになる。
【0052】
PIUE(I)の重量平均分子量は10,000〜1000,000、好ましくは50,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000であるのがよい。前記重量平均分子量は、上記式(g)で表されるポリウレタンアミド酸(PUA)を含むPUA溶液をゲルパー ミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値から導き出した値である。なお、PIUE(I)ではなく、PUA溶液をGPCで測定するのは、PIUE(I)は、GPCの測定溶媒に不溶なためである。
【0053】
また、PIUE(I)のイミド分率(イミド成分含有率)、すなわちイミド変性エラストマー中のイミド成分の割合を調整すると、弾性率を簡単に調整することができる。イミド分率は、弾性率等に応じて任意に選定すればよく、特に限定されるものではないが、通常、25重量%以下、好ましくは15重量%以下であるのがよく、下限値としては、通常、5重量%以上が妥当である。前記イミド分率は、原料、すなわちジイソシアナート(a)、ポリオール(b)、ジアミン化合物(d)およびテトラカルボン酸二無水物(f)の仕込み量から算出される値であり、より具体的には、下記式(α)から算出される値である。
【0054】
【数1】

【0055】
イミド変性エラストマーからなる弾性層3の厚みは20〜150μm程度であるのが好ましく、80〜130μm程度であるのがより好ましい。これにより、トナーの転写効果等が優れたものになる。これに対し、該弾性層3の厚みが20μmより薄いと、該弾性層3に要求される柔軟性が低下し、150μmより大きいと、ベルトの総厚みが増して屈曲性などに悪影響を及ぼすので好ましくない。
【0056】
ポリイミド樹脂からなる離型層4は、ベルト1に表面性やトナーの離型性等を付与するためのものである。本実施形態にかかる離型層であるポリイミド層4を形成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、タック性が低く、離型性、耐熱性、屈曲耐性等に優れる点で、基材層2を形成しているポリイミド樹脂と同様の樹脂を用いるのが好ましい。
【0057】
離型層4は、トナーおよび紙粉の離型性等を確保し、かつ弾性層3の柔軟性を損なわないような厚さで該弾性層3上に設けるのが好ましい。具体的な離型層4の厚みとしては10〜40μm程度が好ましく、10〜30μm程度であるのがより好ましい。これに対し、離型性樹脂層4の厚みが10μmより薄いと、十分な離型性が得られず耐久性にも劣り、40μmより大きいと、弾性層層3の柔軟性を損なうおそれがある。
また、離型層のポリイミド層4に、上記で説明した導電剤を分散させて、帯電によるオフセット等を防止するようにしてもよい。
【0058】
<製造方法>
次に、本発明の多層無端ベルト1の製造方法の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態の多層無端ベルトの製造方法を示す概略断面図である。図2に示される実施形態においては、(a)遠心成形により、円筒形ドラムである金型5の内面に、ポリイミド樹脂からなる基材層2を形成する工程と、(b)前記基材層2上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーからなる弾性層3を形成する工程と、(c)更に前記弾性層3上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂からなる離型層4を形成する工程とを含む。
【0059】
以下、弾性層3にイミド変性エラストマー樹脂としてPIUE(I)を用い、基材層2および離型層4に同じイミド樹脂を使用した場合について説明するが、基材層2および離型層4に相異なるイミド樹脂を使用してもよいことは勿論である。
【0060】
まず、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸のワニス(ポリイミドワニス)と、PIUE(I)の前駆体であるPUAの溶液とを調製する。ポリイミドワニスは、特に限定されるものではなく、ポリアミド酸を適当な溶剤に加えてワニス化したものの他、市販のものを用いてもよく、具体例としては、宇部興産(株)社製の商品名「UワニスA」等が挙げられる。PUA溶液は、固形分量を10〜30重量%、好ましくは20重量%程度に調製するのが好ましい。
【0061】
なお、ベルトを中間転写ベルトとして用いる場合には、基材層2となるポリイミドワニスに導電性を付与させる上で導電剤を配合する必要がある。具体的には、導電剤として例えばカーボンブラックを配合する場合には、カーボンブラックをポリイミド樹脂100重量部に対して10〜30重量部、好ましくは20重量部程度加えた後、攪拌機で30分〜2時間、好ましくは1時間程度攪拌し、脱泡処理を行って遠心成形用のワニス溶液を調整する。該ワニス溶液の固形分量としては、10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%、より好ましくは18重量%程度であるのがよい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば東海カーボン社製の商品名「トーカブラック#5500F」等が挙げられる。
なお、体積抵抗率および表面抵抗率を制御するために、導電剤を基材層2だけでなく、弾性層3および離型層4のいずれか一方または両方に、基材層2と同様にして配合してもよい。
【0062】
工程(a)において、ドラム金型5内にポリアミド酸溶液を、遠心成形機を用いて、遠心成形後熱処理してイミド化して、ポリイミド樹脂層2である基材層を形成する。遠心成形の条件としては、110〜130℃程度に加熱したドラム金型5を200〜600rpm程度の回転数で、60〜120分間程度遠心成形するのが好適である。これにより、筒状のポリアミド酸シートを得る。得られたポリアミド酸シートは、成型ドラムごと熱オーブン等で、300〜400℃程度に加熱処理してポリイミドシートを得る。なお、遠心成形機の金型5の内面には、あらかじめ離型剤を塗布する、あるいは離型性樹脂の層を形成するなどして離型処理しておくのが、下記のようにして得られる多層ベルトを遠心成型機から簡単に取り外すことができる上で好ましい。
【0063】
工程(b)において、上記のポリイミドシートを成型ドラムごと遠心成形機に戻し、このポリイミド樹脂層2上に、PUA溶液を注入し、遠心成形して、PUA溶液を充分に延伸させ、ポリウレタンアミド酸シートを得る。遠心成形の条件としては、110〜130℃程度で、200〜600rpm程度の回転数で、60〜120分間程度遠心成形するのが好適である。これにより、筒状のポリウレタンアミド酸シートを得る。なお、PUA溶液は、固形分量を10〜30重量%程度に調製するのが好ましい。
【0064】
工程(c)において、上記遠心成形機中のポリウレタンアミド酸シート上に、ポリアミド酸溶液を注入し、遠心成形して、ポリアミド酸溶液を充分に延伸させ、ポリアミド酸シートを得る。遠心成形の条件としては、110〜130℃程度で、200〜600rpm程度の回転数で、60〜120分間程度遠心成形するのが好適である。これにより、筒状のポリアミド酸シートを得る。なお、このポリアミド酸溶液は、固形分量を10〜30重量%、好ましくは20重量%程度に調製するのが好ましい。
【0065】
次いで、得られた三層フィルムを、ドラム毎取り出し、200℃程度で加熱処理することによって、イミド変性ポリウレタンエラストマーからなる弾性層3およびポリイミドからなる離型層4を形成する。室温まで冷却した後、ドラムから脱型することによって、本発明の多層無端ベルト1が製造される。必要に応じて、得られたフィルムを適当な大きさにスリットしてもよい。
【0066】
上記のようにして得たシームレスなベルト1を中間転写ベルトとして用いる場合には、総厚み100〜150μm程度とするのが好ましい。一方、ベルト1の総厚みが前記したこれらの厚みよりも薄いと、必要な機械特性を満足させることが困難である。また、これらの厚みよりも大きいと、ロール屈曲部での変形によって、ベルト表面の応力が集中して、離型層4にクラックが発生する等の問題が生じるおそれがある。
【0067】
以上の説明では、本発明の多層無端ベルトを画像形成装置の中間転写用ベルトに適用する場合について説明したが、本発明の多層無端ベルトは、この用途のみに限定されるものではなく、弾性と離型性が要求される種々の用途、例えば特開2008-254376に開示のようなチップ割り無端ベルトなどにも適用可能である。
【実施例】
【0068】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の各例のみによって、限定されるものではない。
【0069】
[合成例1]
(ポリウレタンプレポリマーの合成)
まず、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)[日本ポリウレタン工業(株)社製]を減圧蒸留した。また、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)[保土谷化学(株)社製の商品名「PTMG1000」、重量平均分子量:1,000]を80℃、2〜3mmHg、24時間の 条件で減圧乾燥した。
ついで、上記MDIの28.6gと、PTMG76.2gとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、80℃で2時間攪拌して、分子両末端にイソシアナート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。このポリウレタンプレポリマーをGPCで測定した結果、ポリスチレン換算した値で重量平均分子量は4.6×104であった。
【0070】
(ポリウレタン−ウレア化合物の合成)
上記で得たポリウレタンプレポリマー10gを脱水処理したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)60mlに溶解させたものと、4,4'−ジアミノジ フェニルメタン(MDA)0.755gを脱水処理したNMP20mlに溶解させたものとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、室温(23℃)で24時間攪拌して、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
【0071】
(PIUE(1)の合成)
上記で得たポリウレタン−ウレア化合物の溶液中に、無水ピロメリット酸(PMDA)1.662gを加え、アルゴンガス雰囲気下、150℃で2時間攪拌して、ポリウレタンアミド酸(PUA)溶液を得た。ついで、該PUA溶液を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してPUAシートを得た。このPUAシートを減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)して、厚さ100μmのシート状のPIUE(1)を得た(イミド分率:25重量%)。なお、前記イミド分率は、前記式(α)から算出して得た値である。
得られたPIUE(1)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した。その結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0072】
[合成例2]
MDIを33.37gにし、PTMG76.2gに代えて、ポリカーボネート系ポリオール(PCD)[日本ポリウレタン工業(株)社製の商品名「ニッポラン981」]を76.2g用いた以外は、上記合成例1と同様にして、重量平均分子量が2.5×104のポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、MDA0.755gを1.133gにした以外は、上記合成例1と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物の溶液を得た。
このポリウレタン−ウレア化合物の溶液中に加えるPMDA1.662gを2.493gにした以外は、上記合成例1と同様にしてシート状の PIUE(2)を得た(イミド分率:35重量%)。得られたPIUE(2)について、上記合成例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。その結果、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0073】
上記で得たPIUE(1),(2)について、弾性率を測定した。その測定方法を以下に示すと共に、結果を表1に示す。
(弾性率の測定方法)
セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用いて、10Hz、5℃/分、−100〜400℃の昇温過程にて、50℃での貯蔵弾性率E'を測定した。
【0074】
【表1】



表1から明らかなように、イミド分率を調整すると弾性率を調整できるのがわかる。したがって、この結果から、弾性層の弾性率を簡単に適切な弾性率に調整することができるのがわかる。
【0075】
(シート耐溶剤性試験)
下記の各種シート材料について、耐溶剤性を調べた。
(i)PTMG系イミド変性ポリウレタンエラストマー単層(PIUE(1))
(ii)PCD系イミド変性ポリウレタンエラストマー単層(PIUE(2))
(iii)シリコーンゴム単層
(iv)ポリウレタン樹脂単層(日本ポリウレタン社製のC85Aシート)
(v)PIUE(1)/ポリイミド樹脂積層(後述する実施例に記載の材料を遠心成形および熱処理して得た2層積層体)
【0076】
各シートの耐溶剤性を評価するために、以下の試験を実施した。遠心成型した単層および積層シートを金属板上に貼り付け、表面にポリアミド酸溶液の溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を滴下し、60分後の状態を観察した。結果を表2に示す。
【表2】

表2から明らかなように、PIUE(1)単層、PIUE(2)単層、シリコーンゴム単層およびポリウレタン樹脂単層のいずれも、耐溶剤性が劣るのに対して、PIUE(1)/ポリイミド樹脂積層の場合は、耐溶剤性が優れていることが分かった。
【0077】
[実施例1]
ポリアミド酸溶液(宇部興産(株)製、商品名「UワニスA」)を、遠心成型機を用いて120℃、286rpmで90分間遠心成型して、筒状のアミド酸シートを得た。このアミド酸シートを、成型ドラムごと熱オーブンを用い、320℃、60分加熱処理することで、厚さ20μmのポリイミド樹脂シートを得た。
このシートを成型ドラムごと遠心成型機に戻し、ドラム内面に、前記PIUE(1)の合成において得たポリウレタンアミド酸(PUA)溶液を注入し、120℃、165rpmで90分間遠心成型して、厚み120μmの筒状の積層シートを得た。
【0078】
さらにこの積層シート内面にポリアミド酸溶液(宇部興産(株)製、商品名「UワニスA」)を120℃、286rpmで90分遠心成型して、三層の積層シートを得た。
このシートを、ドラムごと熱オーブンを用い200℃、120分加熱処理し、冷却後ドラムから外すことにより、表層にポリイミド樹脂層、中間層にイミド変性ポリウレタンエラストマー層、基材層にポリイミド樹脂層を持つ、本発明の多層無端ベルトを得た。
【0079】
[実施例2]
PIUE(1)の合成において得たポリウレタンアミド酸(PUA)溶液に代えて、PIUE(2)の合成において得たポリウレタンアミド酸(PUA)溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、本発明の多層無端ベルトを得た。
【0080】
[比較例1]
前記PIUE(1)の合成において得たポリウレタンアミド酸(PUA)溶液を、遠心成型機を用いて120℃、165rpmで90分間遠心成型して、筒状のポリウレタンアミド酸シートを得た。このポリウレタンアミド酸シートを、成型ドラムごと、熱オーブンを用い、200℃、120分加熱処理することで、厚さ100μmのイミド変性ポリウレタンエラストマーシートを得た。
【0081】
このシートを、成型ドラムごと遠心成型機に戻し、ドラム内面にポリアミド酸溶液(宇部興産(株)製、商品名「UワニスA」)を注入し、120℃、165rpmで90分遠心成型したところ、表面に荒れが発生していた。
【0082】
[比較例2]
前記PIUE(2)の合成において得たポリウレタンアミド酸(PUA)溶液を、遠心成型機を用いて120℃、165rpmで90分間遠心成型して、筒状のポリウレタンアミド酸シートを得た。このポリウレタンアミド酸シートを、成型ドラムごと、熱オーブンを用い、200℃、120分加熱処理することで、厚さ100μmのイミド変性ポリウレタンエラストマーシートを得た。
【0083】
このシートを、成型ドラムごと遠心成型機に戻し、ドラム内面にポリアミド酸溶液(宇部興産(株)製、商品名「UワニスA」)を注入し、120℃、165rpmで90分遠心成型したところ、表面に荒れが発生していた。
【符号の説明】
【0084】
1 多層無端ベルト
2 基材層
3 弾性層
4 離型層
5 成型金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂からなる基材層上に、イミド変性エラストマーからなる弾性層およびポリイミド樹脂層からなる離型層を、この順で積層したことを特徴とする多層無端ベルト。
【請求項2】
前記イミド変性エラストマー樹脂が、イミド変性ポリウレタンエラストマーである請求項1記載の多層無端ベルト。
【請求項3】
前記イミド変性ポリウレタンエラストマーが、下記一般式(I):
【化1】


[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。]で表されるものである請求項2記載の多層無端ベルト。
【請求項4】
前記イミド変性エラストマーの弾性率が1.0×106〜5.0×108Paである請求項1〜3のいずれかに記載の多層無端ベルト。
【請求項5】
画像形成装置の中間転写用ベルトである請求項1〜4のいずれかに記載の多層無端ベルト。
【請求項6】
遠心成形により、円筒形金型の内表面に、ポリイミド樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーからなる弾性層を形成する工程と、
更に前記弾性層上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂からなる離型層を形成する工程と
を含むことを特徴とする多層無端ベルトの製造方法。
【請求項7】
前記基材層、弾性層および離型層は、それぞれ遠心成形と同時または遠心成形後に熱処理する請求項6記載の多層無端ベルトの製造方法。
【請求項8】
遠心成形により、金型表面に、ポリイミド樹脂の前駆体溶液の層を形成し、ついでこの層を熱処理してポリイミド樹脂からなる基材層を形成する工程と、
前記基材層上に、遠心成形により、イミド変性エラストマーの前駆体溶液の層を積層する工程と、
更にこの層上に、遠心成形により、ポリイミド樹脂の前駆体溶液の層を積層する工程と、
得られた積層体を熱処理する工程と
を含む、前記基材層上に、イミド変性エラストマーからなる弾性層およびポリイミド樹脂からなる離型層がこの順で積層された請求項6または7記載の多層無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−217777(P2010−217777A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66980(P2009−66980)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】