説明

多層熱収縮性ポリエステル系フィルム及びその製造方法、熱収縮性ラベル

【課題】 ボトルのフルラベル用の熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、収縮によるシワ、収縮斑、歪みの発生が極めて少なく、印刷後の経時においてもラベルの収縮時に折れ込み等の不具合が発生しにくく、かつ帯電防止性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供すること。
【解決手段】 A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上であり、B層として全ポリエステル樹脂成分中における非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上であり、かつ前記ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間5秒で5〜60%であり、85℃・5秒で75%以上であり、主収縮方向と直交する方向において、85℃・5秒で10%以下であり、かつフィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下ことを特徴とする多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくはラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム及びその製造方法と該熱収縮性ポリエステル系フィルムからなる熱収縮性ラベルに関するものである。特にラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。さらに詳しくは、熱収縮によるシワ、収縮斑、歪みの発生が極めて少なく、収縮不足が発生しにくく帯電防止性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装品の、外観向上のための外装、内容物の直接衝撃を避けるための包装、ガラス瓶またはプラスチックボトルの保護と商品の表示を兼ねたラベル包装等を目的として、熱収縮プラスチックフィルムが広範に使用されている。これらの目的で使用されるプラスチック素材としては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。
【0003】
しかし、ポリ塩化ビニル系フィルムは収縮特性には優れるが、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となるなどの問題を抱えている。また、熱収縮性塩化ビニル系樹脂フィルムをPET容器などの収縮ラベルとして用いると、容器をリサイクル利用する際に、ラベルと容器を分離しなければならないという問題がある。
【0004】
一方、ポリスチレン系フィルムは、収縮後の仕上がり外観性が良好な点は評価できるが、耐溶剤性に劣るため、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない。また、ポリスチレン系樹脂は、高温で焼却する必要がある上に、焼却時に多量の黒煙と異臭が発生するという問題がある。
【0005】
これらの問題のないポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムに代わる収縮ラベルとして非常に期待されており、PET容器の使用量増大に伴って、使用量も増加傾向にある。
【0006】
近年、ペットボトルのリサイクルに関して着色ボトルは再生に不向きであることからその代案が検討されてきた。その中に無着色ボトルを使用し、印刷ラベルをボトル全体に収縮させる方法がある。また、ガラス瓶のリターナブル耐性を高める為に瓶の頭部から底部までラベルを収縮させる方法もある。
【0007】
しかし、ボトルのフルラベルとして使用する場合、ボトル形状が複雑でかつ多くの種類があるため、従来の熱収縮性フィルムでは収縮仕上がり性において問題が発生する場合がある。特に飲料ボトル等で、飲み口部分が細く胴部との径の差が大きいボトルのフルラベルの場合、従来の熱収縮性フィルムはボトルの上部(頭部や首部)に収縮不足が発生する。
【特許文献1】特開2000−135737号公報
【0008】
このようなボトルのフルラベルに使用する熱収縮性フィルムは、高収縮率などの熱収縮特性が必要である。 また、印刷加工から経時したラベルにおいては収縮時にラベルの一部が折れ込む等の不具合が発生しやすいといった問題点もある。
【0009】
またフィルムは絶縁体であるので静電気の発生や蓄積を生じやすく、静電気障害による種々のトラブルを惹起するという欠点を有していた。例えば、印刷工程、チュービング工程あるいはラベルの装着工程においてロールへの巻き付き、人体への電気ショック、取扱い性の困難さ等の作業効率の低下や、いわゆる印刷ヒゲの発生、口開き不良、フィルム表面の汚れなど商品価値の低下をもたらす原因となるという欠点があった。この問題に対し、フィルムの表面抵抗値を1×1013(Ω/□)以下とする方法などが提案されてきた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−1583号公報
【0010】
常温常湿下での前記加工性に関しての問題はないものの特に冬場等の低湿度雰囲気下での帯電防止性能の低下による加工時トラブルが発生してそのさらなる改良が求められていた。
【0011】
このようにラベル用途の場合、これまでのポリエステル系熱収縮性フィルムでは性能が不十分であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、その目的とするところは、ボトルのフルラベル用、特にペットボトルやガラス瓶の熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、収縮不足が発生しにくく、特に収縮によるシワ、収縮斑、歪みの発生が極めて少ない上に、かつ、溶剤接着性と帯電防止性に優れる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上であり、B層として全ポリエステル樹脂成分中における非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上であり、かつ前記ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間5秒で5〜60%であり、85℃・5秒で75%以上であり、主収縮方向と直交する方向において、85℃・5秒で10%以下であり、かつフィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下であることを特徴とする多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであり、そのことより課題が解決される。
【0014】
本願発明は、A層およびB層からなる多層フィルムとし、A層およびB層にそれぞれ異なる特性を付与することで多機能化を達成するものである。
A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上とすることにより、印刷加工後の経時においてラベルの折れ込み不良等の不具合を発生しにくくなり、より好ましくは25モル%以上である。
【0015】
また、B層として全ポリステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上とすることにより、溶剤接着性等の二次加工特性を満足させやすくなり、特に20モル%以上であることが好ましい。
【0016】
この場合において、前記フィルムが全ポリステル樹脂成分中における非晶質成分となりうるモノマーがネオペンチルグリコール、及び又は1,4−シクロヘキサンジメタノールであることが好適である。
【0017】
さらに、本発明での熱収縮性ポリエステル系フィルムは、少なくとも片面の帯電減衰率の半減時間が、JIS−L−1094法に準じた、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下での測定で30秒以下であることが好ましい。該特性を有するフィルムは、特に印刷・チュービング工程でのロールへの巻き付きにおいてさらに優れた加工性能を付与することが可能である。
【0018】
本発明における好ましい実施様態は、界面活性剤からなる帯電防止剤を塗布してなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
【0019】
前記フィルムを用いて、A層側を内面、B層側を外面となるように作成されたラベルがボトルに好適な用途である。特に両性系界面活性剤からなる帯電防止剤をB層側に塗布しているのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ボトルのフルラベルとして使用する場合、熱収縮によるシワ、収縮斑、歪み及び収縮不足の発生が極めて少ない良好な仕上がりが可能であり、かつ帯電防止性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0022】
本発明で使用するポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸(例えばアジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)を含有させる場合、含有率は3モル%未満であることが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸を3モル%以上含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、高速装着時のフィルム腰が不十分である。
【0024】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物等)を含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0025】
本発明で使用するポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは炭素数3〜6個を有するジオール(例えばプロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうち1種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を60〜80℃に調整したポリエステルが好ましい。
【0027】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは少なくともA層、B層の2層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムである。各層とも、ポリエチレンテレフタレートと他のポリエステル樹脂をブレンドすることが、生産性を向上せる点で好ましい。A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレート由来のエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは25モル%以上である。
【0028】
また、B層として全ポリステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中の非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上であることが好ましく、18モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが特に好ましい。
ここで非晶質成分となりうるモノマーとは、例えばネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジオールが挙げられる。
つまり、A層およびB層からなる多層フィルムとし、A層およびB層にそれぞれ異なる特性を付与することで多機能化を達成するものである。A層とB層の厚み比率は15/85〜85/15の範囲内、好ましくは30/70〜70/30であることが後述の収縮時のカールを制御する上で好ましい。
【0029】
本発明の熱収縮性フィルムは、熱収縮の際に片面側にカールすることを特徴とするが、該カールを適正な範囲内に制御するためには、各層の面配向度の差を0.005〜0.03の範囲内とすることが好ましく、0.01〜0.28の範囲内とすることがより好ましい。面配向度の差が0.005以下ではカールが発現せず、0.03を超えると層界面の接着強度が低下して収縮時剥離が発生する。各層の面配向度の差を上記範囲内とするには、前述の原料処方と後述の製造方法、条件を採用することが好ましい。
【0030】
フィルムのカール量は後述の評価方法で1%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。なお、本発明においてフィルム又はラベルが収縮時に片面側にカールするとは、後述の評価方法においてカール量が1%以上であることをさす。
【0031】
A層とB層に共通することとして、炭素数8個以上のジオール(例えばオクタンジオール等)、又は3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)は、含有させないことが好ましい。これらのジオール、又は多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0032】
また、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールはできるだけ含有させないことが好ましい。特にジエチレングリコールは、ポリエステル重合時の副生成成分のため、存在しやすいが、本発明で使用するポリエステルでは、ジエチレングリコールの含有率が4モル%未満であることが好ましい。
【0033】
さらに、本発明での多層熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下であることが好ましい。該湿度下での表面固有抵抗値を確保することにより、冬場等の低湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。また、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下では表面固有抵抗値が1×1012(Ω/□)以下であることが好ましい。該湿度下での表面固有抵抗値を確保することにより、常湿雰囲気下および夏場等の高湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。
【0034】
さらに、本発明での多層熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面同士の動摩擦係数が温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.30以下であることが好ましい。該滑性を確保することによって、高湿度から低湿度雰囲気下においてさらに優れた加工性能を付与することができる。
【0035】
さらに、本発明での多層熱収縮性ポリエステル系フィルムは、少なくとも片面の帯電減衰率の半減時間が、JIS−L−1094法に準じた、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下での測定で30秒以下であることが好ましい。該特性を有するフィルムは、特に印刷・チュービング工程でのロールへの巻き付きにおいてさらに優れた加工性能を付与することが可能である。
【0036】
本発明における好ましい実施様態は、フィルムの少なくとも片面に界面活性剤からなる帯電防止剤を塗布してなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムである。界面活性剤としてはアミノ酸系あるいはベタイン系の両性型界面活性剤が好ましく、特にベタイン系界面活性剤が低湿度下の帯電防止性を確保する上で好ましい。
(化1)でベタイン系両性型界面活性剤を挙げる。
【0037】
【化1】

【0038】
(化1)の両性型界面活性剤をフィルムの少なくとも片面に適正量塗布することにより、本発明における好ましい範囲内の表面固有抵抗値、動摩擦係数および帯電減衰率の半減時間に制御することが可能である。好ましい塗布量の範囲は、0.004(g/m2)〜0.060(g/m2)、より好ましくは0.006(g/m2)〜0.030(g/m2)、である。該下限塗布量を下回ると、本発明における好ましい範囲内の表面固有抵抗値に制御することが困難となり、該上限塗布量を超えるとフィルムの溶剤接着性を阻害するので溶剤接着によりラベルを作成する際に剥離を発生する可能性があり、いずれも好ましくない。
【0039】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、温水中で無荷重状態で処理して収縮前後の長さから、
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)
の式で算出したフィルムの熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間5秒で5〜60%であり、好ましくは10〜30%であり、85℃・5秒で75%以上であり、好ましくは75〜95%である。また、主収縮方向と直交する方向において、85℃・5秒で10%以下であり、好ましくは6%以下である。
【0040】
主収縮方向の熱収縮率が70℃・5秒で5%未満の場合は、低温収縮性が不足し、例えば収縮温度を高くする必要があり好ましくない。一方、60%を越える場合は、例えば熱収縮によるラベルの飛び上がりが発生し易く好ましくない。
【0041】
85℃・5秒の熱収縮率は好ましくは75〜95%であり、75%未満の場合は、例えばボトルの頭部の収縮が不十分になり好ましくない。一方、95%を越える場合は加熱収縮後もさらに収縮する力が強く残るため、例えばラベルが飛び上がりやすくなる等の不具合が発生し易く好ましくない。
【0042】
次に本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造法について、具体例を説明するが、この製造法に限定されるものではない。
【0043】
本発明に用いるポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥し、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。押し出しに際してはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用して構わない。本発明の多層フィルムを積層する方法は、特に限定されるものではないが、共押出しによるフィードブロック方式での積層あるいは、ダイス内での積層が好ましい。押し出し後、急冷して未延伸フィルムを得る。
【0044】
次に、得られた未延伸フィルムを、Tg−5℃以上、Tg+15℃未満の温度で、横方向に4.0倍以上、好ましくは4.5倍以上、特に5倍以上延伸するのが好適である。
【0045】
次に、必要により、65〜100℃の温度で熱処理して、熱収縮性ポリエステル系フィルムを得る。
【0046】
延伸の方法は、テンターでの横1軸延伸のみでなく、付加的に縦方向に延伸し2軸延伸することも可能である。このような2軸延伸は、逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法のいずれの方法によってもよく、必要に応じて縦方向または横方向に再延伸を行ってもよい。
【0047】
前記横延伸工程の前後で前述の帯電防止剤を塗布して乾燥させる工程を含む。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
本発明のフィルムの評価方法は下記の通りである。
【0050】
(1)熱収縮率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度±0.5℃の温水中において、無荷重状態で所定時間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記(1)式に従いそれぞれ熱収縮率を求めた。該熱収縮率の大きい方向を主収
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) (1)
【0051】
(2)収縮仕上り性
熱収縮性フィルムに、あらかじめ東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷した。印刷面はフィルムのA層側とした。該印刷フィルムより折径108.5mm、高さ195mmのサイズでラベルを作製した。ラベルは印刷面を内側とした。
【0052】
Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間10秒、ゾーン温度90℃で、334mlのガラス瓶(高さ190cm、中央部直径6.9cm)(アサヒビール(株)のスタイニースーパードライに使用されているボトル)を用いてテストした(測定数=20)。
評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
○:シワ、飛び上り、収縮不足の何れも未発生
×:シワ、飛び上り、又は収縮不足が発生
【0053】
(3)印刷経時後のラベル折れ込み
上記印刷済みラベルを20℃で2ヶ月間エージングさせた後、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間5秒、ゾーン温度90℃で、334mlのガラス瓶(高さ190cm、中央部直径6.9cm)(アサヒビール(株)のスタイニースーパードライに使用されているボトル)を用いてテストした(測定数=20)。
評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
○:ラベル上部の折れ込みなし
×:ラベル上部の折れ込みあり
【0054】
(4)Tg(ガラス転移点)
セイコー電子工業(株)製のDSC(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム10mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度20℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(ガラス転移点)とした。
【0055】
(5)極限粘度 試料200mgをフェノール/テトラクロロエタン=50/50の混合溶媒20mlに加え、110℃で1時間加熱した後、30℃で測定した。
【0056】
実施例に用いたポリエステルは以下の通りである。
【0057】
ポリエステルA:ポリエチレンテレフタレート(極限粘度(IV):0.75dl/g)
ポリエステルB:ネオペンチルグリコール30モル%とテレフタル酸とからなるポリエ
ステル(IV:0.72dl/g)
ポリエステルC:エチレングリコール70モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノー
ル30モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル
(IV:0.81dl/g)
ポリエステルD:ポリブチレンテレフタレート(IV:1.24dl/g)
ポリエステルエラストマー:ポリブチレンテレフタレート70重量%、εーカプロラク
トン30重量%とからなるポリエステルエラストマー
(IV:1.30dl/g)
【0058】
(7)フィルム組成
共重合ポリエステルの組成比
積層フィルム各面から削り出した測定対象層のポリマー片サンプル約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(体積比9/1)0.7mlに溶解し、1H−NMR(varian製、UNITY50)を使用して求めた。
【0059】
(8)温湯カール率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、主収縮方向と直行する方向に長さ1cm×幅1cmの切り込みを入れた後、70±0.5℃の温水中において、無荷重状態で3秒間処理して熱処理させた。該フィルムの切り込み部について下記式よりカール率を求めた。
式:カール率(%)=(L1÷L2)×100
L1:切り込み先端部位の角部と角部を直線で結んだ長さ(mm)
L2:切り込み根本部位の長さ(mm)
○:片面へカールあり(カール量1%以上)
×:カールなし(カール量1%未満)
【0060】
(9)フィルム表裏面の面配向度差
ATAGO社製アツベ屈折計1Tを使用し、それぞれの面から屈折率を測定し下記式より面配向度を求め、その差を求めた。
【0061】
(10)フィルム表裏面の面配向度差
ATAGO社製アツベ屈折計1Tを使用し、それぞれの面から屈折率を測定し下記式
より面配向度を求め、その差を求めた。
式:AO=(Nx+Ny)÷2−Nz
AO:面配向度
Nx:主収縮方向の屈折率
Ny:主収縮方向と直交する方向の屈折率
Nz:フィルム厚み方向の屈折率
【0062】
(11)表面固有抵抗値
タケダ理研社製固有抵抗測定器で、印加電圧500Vの条件で23℃・30RH%雰囲気下でフィルムの表面固有抵抗値を測定した。
【0063】
(12)引抜き抵抗
温度23℃、相対湿度25RH%雰囲気下の部屋にフィルムを24時間以上置く。その後 15cm×15cm四方のフィルムの表面と裏面を2枚1組にした物を5組作成しそれぞれ重ねる。そのフィルム上に底辺が3cm×3cm・高さ1cmの100gのおもりを載せ その状態で重ねた真中の1組のフィルムをアイコーエンジニアリング株式会社製のCPUゲージMODEL-9500を使用して引抜きつつ その時の抵抗値の最大値を測定した値である。
【0064】
実施例に用いたポリエステルは以下の通りである。
【0065】
ポリエステルA:ポリエチレンテレフタレート(極限粘度(IV):0.75dl/g)
ポリエステルB:エチレングリコール70モル%、ネオペンチルグリコール30モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル(IV:0.72dl/g)
ポリエステルC:エチレングリコール70モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノール30モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル
(IV:0.81dl/g)
ポリエステルD:ポリブチレンテレフタレート(IV:1.24dl/g)
ポリエステルエラストマー:ポリブチレンテレフタレート70重量%、εーカプロラクトン30重量%とからなるポリエステルエラストマー
(IV:1.30dl/g)
【0066】
(実施例1)
A層としてポリエステルA37重量%、ポリエステルB26.5重量%、ポリエステルC26.5重量%、ポリエステルD10重量%を混合したポリエステルを、B層としてポリエステルA15重量%、ポリエステルB35重量%、ポリエステルC35重量%、ポリエステルD10重量%を混合したポリエステルをそれぞれ280℃で溶融し、層厚み比率がA層/B層=50/50となるようにTダイから共押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸多層フィルムを得た。この未延伸多層フィルムのTgは67℃であっ
た。
該未延伸フィルムを、フィルム温度が85℃になるまで予備加熱した後、テンターで横方向に72℃で5倍に延伸し、厚み50μmのフィルムを得た。
またB層にベタイン系両性界面活性剤水溶液(商品名「ビスターCAP−Y」:松本油脂製薬(株)社製)をイソプロピルアルコール/水=7/3(重量比)の溶液で希釈して塗布液とし、コート量0.020(g/m2)塗布した。
【0067】
(実施例2)
A層としてポリエステルA37重量%、ポリエステルB53重量%、ポリエステルD10重量%を混合したポリエステルを、B層としてポリエステルA15重量%、ポリエステルB75重量%、ポリエステルD10重量%、を混合したポリエステルをそれぞれ280℃で溶融し、層厚み比率がA層/B層=50/50となるようにTダイから共押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸多層フィルムを得た。この未延伸多層フィル
ムのTgは66℃であった。これ以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0068】
(実施例3)
A層としてポリエステルA37重量%、ポリエステルB26.5重量%、ポリエステルC26.5重量%、ポリエステルエラストマー10重量%を混合したポリエステルを、層としてポリエステルA6重量%、ポリエステルB39.5重量%、ポリエステルC39.5重量%、ポリエステルラストマー15重量%を混合したポリエステルをそれぞれ280℃で溶融し、層厚み比率がA層/B層=50/50となるようにTダイから共押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸多層フィルムを得た。この未延伸多層フィル
ムのTgは63℃であった。これ以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0069】
(実施例4)
A層としてポリエステルA30重量%、ポリエステルB30重量%、ポリエステルC30重量%、ポリエステルD10重量%を混合したポリエステルを、B層としてポリエステルA6重量%、ポリエステルB39.5重量%、ポリエステルC39.5重量%、ポリエステルラストマー15重量%を混合したポリエステルをそれぞれ280℃で溶融し、層厚み比率がA層/B層=50/50となるようにTダイから共押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸多層フィルムを得た。この未延伸多層フィルムのTgは63℃
であった。これ以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0070】
(実施例5)
層厚み比率をA層/B層=40/60とした以外は実施例1と同様にして厚み50μmのフィルムを得た。
【0071】
(比較例1)
ポリエステルA6重量%、ポリエステルB79重量%、ポリエステルエラストマー15重量%を混合したポリエステルを、280℃で溶融しTダイから押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムのTgは58℃であ
った。これ以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0072】
(比較例2)
ポリエステルA6重量%、ポリエステルC79重量%、ポリエステルエラストマー15重量%を混合したポリエステルを、280℃で溶融しTダイから押出し、チルロールで急冷して厚み260μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムのTgは64℃であ
った。これ以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0073】
(比較例3)
未延伸多層フィルムの厚みを200μmに、延伸倍率を4.0倍にそれぞれ変更した以
外は実施例1に記載した方法と同様にして、厚み50μmの熱収縮性ポリエステルフィルムを得た。
【0074】
(比較例4)
コート量を0.002(g/m2)とした以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0075】
(比較例5)
コート剤をベタイン系両性界面活性剤水溶液(商品名「ビスターCAP−Y」:松本油脂製薬(株)社製)からアルキルスルホン酸ナトリウム(商品名「TB214」:松本油脂製薬(株)社製)とした以外は実施例1と同様の方法で実施した。
【0076】
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたフィルムの評価結果を表に示す。表から明らかなように、実施例1〜5で得られたフィルムはいずれも収縮仕上り性が良好であった。また印刷経時後の収縮時のラベル折れ込みもなかった。また帯電防止性も良好であった。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは高品質で実用性が高く、特に収縮ラベル用として好適である。
【0077】
比較例1、2、3で得られた熱収縮性フィルムは、収縮によってシワ、収縮不足や印刷経時後のラベルの収縮時に折れ込みが発生し、いずれも収縮仕上り性が劣る。また比較例4、5は帯電防止性が劣った。このように比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムはいずれも品質が劣り、実用性が低いものであった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ボトルのフルラベルとして使用する場合、熱収縮によるシワ、収縮斑、歪み及び収縮不足の発生が極めて少ない良好な仕上がりが可能であり、かつ帯電防止性も良好でありボトルのラベル用途として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上であり、B層として全ポリエステル樹脂成分中における非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上であり、かつ前記ポリエステル系フィルムの熱収縮率が、主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間5秒で5〜60%であり、85℃・5秒で75%以上であり、主収縮方向と直交する方向において、85℃・5秒で10%以下であり、かつフィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下であることを特徴とする多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
収縮時に片面側へカールすることを特徴とする請求項1に記載の多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
少なくとも2層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層として全ポリエステル樹脂成分中におけるポリエチレンテレフタレートユニットが20モル%以上であり、B層として全ポリエステル樹脂成分中における非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分の合計が16モル%以上であり、かつ前記ポリエステル系フィルムの熱収縮率が主収縮方向において、処理温度70℃・処理時間5秒で5〜60%であり、85℃・5秒で75%以上であり、主収縮方向と直交する方向において、85℃・5秒で10%以下でフィルム片面表面の屈折率を測定して算出した面配向度と反対面側表面の屈折率を測定して算出した面配向度の差が0.005以上であり、かつフィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下であることを特徴とする多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムを構成する全ポリステル樹脂成分中における非晶質成分となりうるモノマーがネオペンチルグリコール、及び又は1,4−シクロヘキサンジメタノールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
フィルムの少なくとも片面に帯電防止剤を塗布してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いて作成された熱収縮性ラベル。
【請求項7】
A層側を内面、B層側を外面とし、かつ帯電防止剤がB面側に塗布されてなる請求項6に記載の熱収縮性ラベル。
【請求項8】
未延伸ポリエステル系フィルム又は1軸延伸ポリエステル系フィルムの少なくとも片面に、両性界面活性剤よりなる帯電防止剤を含む塗布液を塗布後、乾燥、延伸することを特徴とする請求項5に記載の多層熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−144933(P2007−144933A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345523(P2005−345523)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】