説明

多層熱成形容器

【課題】 ポリプロピレン系シートを融点以下の温度で固相圧空成形することにより得られる、足部として作用する脚部が隙間なく強固に融着した多層熱成形容器を成形する。
【解決手段】 特定のエチレン−プロピレン共重合体を含むプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系シートを、プラグアシスト成形に従った、融点以下の温度で固相圧空成形すると、シートの折り曲げにより形成される容器の脚部は、隙間なく強固に融着した状態になっている、脚部を有する容器が収得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層熱成形容器に関し、さらに詳しくは、ポリプロピレン系シートを融点以下の温度で固相圧空成形することにより得られる、足部が隙間なく強固に融着した深絞り多層熱成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いた容器が製造されている。熱可塑性樹脂の中でも、プロピレン系重合体は、耐熱性、剛性、耐衝撃性、あるいは、衛生面に優れていることから、食品等の容器として好適に用いられており、特に、高い耐熱性を必要とする電子レンジでのレンジアップ容器、高温充填が必要な容器等に使用範囲が広がってきている。
【0003】
食品容器として、容器の口径に対して内容物を収容する本体が長い容器、いわゆる深絞り容器は、口径に比較し内容量を多くできるといった点で有効である。このような深絞り容器は、射出成形によって成形される場合がある。射出成形は、用いる金型によって所望の形状に成形し易いという利点から、意匠性の優れた深絞り容器を得るのに適しており、特に、要望の高い、内容物が高温の場合でも底部を手で持つことが可能な、本体底面部の外方に突き出した足部を有する深絞り容器を製造することが多い。しかし、射出成形は、多数個取りにした場合の金型費用が高い、生産スピードが熱成形容器と比較し遅い、薄肉成形品を生産しにくいという問題を有している。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂をシート状に押出成形した後、そのシートを再加熱して所望の容器を得る、真空成形、真空圧空成形、固相圧空成形等の熱成形法は、成形し易く生産性が高いことから、大量生産に向く上、多層化製品を得るのも容易なことから、広く普及している。しかし、真空成形、真空圧空成形等のシートを溶融した状態で容器を成形する熱成形法は、融点以上の温度まで再加熱して容器とするため、(深さ/口径比の大きい)深絞り容器を得にくく、また、固相圧空成形等のシートを溶融させない(軟化させた)状態で熱成形する熱成形法では、一度カップ状に成形した底型を上昇させることにより、外周を折りたたむことで足部を形成する際、折りたたみ部が充分に融着されず、隙間(図6右)ができてしまうという欠点を有している。また、融着された場合でも、レトルト処理等で容器に内圧がかかった場合に容易に剥がれてしまうといった欠点を有している。
【0005】
特許文献1および2には、雄雌型を用いて容器の底部に足部(糸尻)を設計することにより、容器の安定性を向上させるという発明が開示されている。しかし、このようにして得た足部は、シート同士が密着されておらず、隙間(溝)ができてしまっているため、その隙間に内容物が入ってしまうため衛生上好ましくない、溶融状態の成形では不衛生容器となる問題を有していた。
【0006】
特許文献3および4には、このような問題点に対し、製造装置や製造方法によって、隙間のない足部を設計するという発明が開示されている。しかし、製造装置や製造方法からの解決手法だけでは充分とは言えず、ポリプロピレン系シートの素材面からの解決を求められているのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点に鑑み、ポリプロピレン系シートを融点以下の温度で固相圧空成形することにより得られる、足部が隙間なく強固に融着(図6左)した多層熱成形容器に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のエチレン−プロピレン共重合体を含むプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系シートを、融点以下の温度で固相圧空成形すると、得られた容器の足部は、隙間なく強固に融着することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の特徴点は、ポリプロピレン系シートを用い、固相圧空成形により得られる、内容物を収容する本体と本体底面部の外方に突き出した足部を有する多層熱成形容器において、多層熱成形容器の最内層には、下記の要件(i)〜(iii)を満たすエチレン−プロピレン共重合体(A)が50〜100重量%の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(X)が用いられ、また、多層熱成形容器の足部は、ポリプロピレン系シートの最内層同士が折りたたまれ、引張試験機により測定される剥離強度において、70N以上に熱融着されており、本体は、深さ/口径の比が1以上の深絞り構造を有することを特徴とする多層熱成形容器、にある。
要件(i):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が1〜20g/10分である。
要件(ii):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が1.5〜3.5である。
要件(iii):オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
【0010】
本発明の第2の特徴点は、前記エチレン−プロピレン共重合体(A)は、メタロセン触媒を用いて重合されているものであることを特徴とする前記の多層熱成形容器、にある。
本発明の第3の特徴点は、多層熱成形容器が少なくとも最内層と主層とより成り、主層には、下記の要件(iv〜v)を満たすプロピレン系重合体(B)が80重量%以上の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(Y)が用いられていることを特徴とする前記の多層熱成形容器、にある。
要件(iv):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.2〜5g/10分である。
要件(v):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度(融点)が160℃以上である。
【0011】
本発明の第4の特徴点は、エチレン−プロピレン共重合体(A)とプロピレン系重合体(B)との融点差が20℃以上であることを特徴とする前記ののいずれかに記載の多層熱成形容器、にある。
本発明の第5の特徴点は、ポリプロピレン系シートの最内層の厚みが20〜200μmであり、最内層と主層の厚み比(最内層/主層)が、0.2以下であることを特徴とする前記の多層熱成形容器、にある。
【0012】
本発明の第6の特徴点は、プロピレン系重合体を主体とする主層と、エチレン−プロピレン共重合体を主体とする内層から構成され、その層の融点較差が20〜60℃である積層構造のポリプロピレン系シートを、主層がキャビ型側をなるように、熱成形用キャビ型ユニットとプラグユニットとの間に介在させ、主層の融点以下であり、且つ融点較差20〜60℃の範囲になるような温度で加熱をすることにより軟化させ、次に、アシストプラグを押し下げることにより、該ポリプロピレン系シートを容器状に固相圧空成形により容器状に予備賦形をして、引き続き、該予備賦形部分に対し、空気圧を付加して該ポリプロピレン系シートをキャビ型に密着させてから、底部金型を押し上げて該ポリプロピレン系シートの最内層同士が密着するような状態に折りたたみ、最内層同士を全周に渡って、引張試験機により測定される剥離強度において70N以上に熱融着させることにより容器脚部を形成させることを特徴とする前記の脚部付多層熱成形容器の固相圧空プラグアシスト成形方法、にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層熱成形容器は、足部が強固に融着し、隙間が無く、内容物が入り込まないため、特に液体や高温物の場合等に、広く適用できる。
特に、本発明は、特定のポリプロピレン系シートを用いて、それにプラグアシスト成形における、固相圧空成形法を適用すれば、容器の大小、形状の違いがあるにもかかわらず、容器の底の脚部部分に剥離構造が無い状態で、容器状の成形品を、歩留まりがよく、比較的高速サイクルで、安定に容易に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の多層熱成形容器の断面図である。
【図2】固相圧空成形におけるアシストプラグ押し込み前の状態図である。
【図3】固相圧空成形におけるアシストプラグ押し込み時の状態図である。
【図4】固相圧空成形におけるエアー吹き込み時の状態図である。
【図5】固相圧空成形における多層熱成形容器の底上げ時の状態図である。
【図6】多層熱成形容器の足部断面の密着状態を示す拡大図である。 (a)図;内層の完全な融着により密着した状態 (b)図;不完全な密着状態で隙間ができた状態
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多層熱成形容器は、内容物を収容する本体と本体底面部の外方に突き出した足部を有する多層熱成形容器であり、多層熱成形容器の最内層は、下記の要件(i)〜(iii)に示す特性・性状を有するエチレン−プロピレン共重合体(A)50〜100重量%を含むプロピレン系樹脂組成物(X)が用いられ、また、多層熱成形容器の足部は、ポリプロピレン系シートの最内層同士が、折りたたまれ、引張試験機により測定される剥離強度において、10N以上に熱融着されており、本体は、深さ/口径の比が1以上の深絞り構造を有する。
要件(i):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が1〜20g/10分である。
要件(ii):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が1.5〜3.5である。
要件(iii):オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
【0016】
以下、項目毎に、順次説明する。
I.プロピレン系樹脂組成物(X)
本発明には、ポリプロピレン系シートの最内層に、エチレン−プロピレン共重合体(A)が50〜100重量%の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(X)が用いられている。エチレン−プロピレン共重合体(A)の配合量が、この範囲未満であると足部の融着強度が低下する。
エチレン−プロピレン共重合体(A)を50〜100重量%の範囲で含むプロピレン系樹脂組成物(X)の残りの0〜50重量%の部分は、汎用の各種エチレン−プロピレン共重合体、E−P−R、ポリプロピレン(共)重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体等のような樹脂、充填剤、添加剤のような材料が任意に配合でき、これらの配合材料は、エチレン−プロピレン共重合体(A)の溶着性のような特性に悪影響を与えず、主層である基剤層と積層しても、層剥離せず、しかも容器内層としての役割を果たすので、安全、衛生的なものでなければならない。
【0017】
1.エチレン−プロピレン共重合体(A)
係るエチレン−プロピレン共重合体(A)は、前記要件(i)〜(iii)に示す特性・性状を有するものである。
以下、項目毎に、順次説明する。
【0018】
要件(i)メルトフローレート(MFR):
本発明に係るエチレン−プロピレン共重合体(A)は、前記要件(i)に示すとおり、温度230℃、2.16Kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が1〜20g/10分であることを必要とし、好ましくは2〜15g/10分、更に好ましくは3〜10g/10分である。
エチレン−プロピレン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)が1g/10分未満では、溶融流動性が低下し容器表面荒れが発生する。一方、MFRが20g/10分を超えると、シート成形時のドローダウンが激しくなりシート成形が困難になる恐れがある。
【0019】
尚、メルトフローレート(MFR)は、JIS K6921−2の「プラスチック−ポリプロピレン(PP)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠して、試験条件:230℃、荷重2.16kgfで測定した値である。
エチレン−プロピレン共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、エチレン−プロピレン共重合体(A)の重合条件である温度や圧力を調節したり、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量を制御することにより、容易に調整を行なうことができる。
【0020】
要件(ii)Mw/Mn比(以下、Q値という。)
本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)は、Q値が、1.5〜3.5、好ましくは2〜3.5、さらに好ましくは2.5〜3.3の範囲のものである。
Q値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC:Gel Permeation Chromatography)により、測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)として求められる値であり、この値は、小さいほど分子量が均一で、分子量分布が狭いことを意味する。
本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)のQ値は、1.5未満では、シートの表面荒れが発生する。一方、Q値が3.5を超えると、容器成形時にプラグへのシート張り付きが発生する恐れがある。
【0021】
エチレン−プロピレン共重合体(A)のQ値を調整する方法は、後述するメタロセン触媒を用いることが有効である。また、2種以上のメタロセン触媒成分の併用した触媒系や2種以上のメタロセン錯体を併用した触媒系を用いて重合する、または重合時に2段以上の多段重合を行うことにより、Q値を広く制御することができる。逆にQ値を狭く調整するためには、エチレン−プロピレン共重合体(A)を重合後、有機過酸化物を使用し、溶融混練することにより調整することができる。
【0022】
Q値の具体的測定は、以下の条件により、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比を測定して求める。
GPC装置:ウォーターズ社製ISOC−ALC/GPC
溶媒:O−ジクロルベンゼン(ODCB)
測定温度:140℃
流速:1ml/min
標準材:東ソー社製単分散ポリスチレン
【0023】
試料の調製は、試料をODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して、溶解させて行う。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図2のように行う。
また、GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー社製の以下の銘柄である。
銘柄:F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して、較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
分子量への換算に使用する粘度式:[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PP:K=1.03×10−4、α=0.78
【0024】
要件(iii)オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF):
本発明に係るエチレン−プロピレン共重合体(A)は、前記要件(iii)に示すとおり、昇温溶出分別(TREF)測定によって得られる溶出曲線において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下であり、好ましくは2.0重量%以下であり、更に好ましくは1.0重量%以下あり、非常に好ましくは0.5重量%以下である。
る。
40℃以下の温度で溶出する成分は、低結晶性成分であり、この成分の量が多いと、製品全体の結晶性が低下し、製品の剛性といった機械的強度が低下してしまうと共に、容器成形時にプラグへのシート張り付きが発生する恐れがある。
エチレン−プロピレン共重合体(A)のオルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)は、共重合の際にメタロセン錯体を用いることにより、一般的に低く抑えることが可能であるが、触媒の純度を一定以上に保つことに加え、触媒の製造方法や重合時の反応条件を、極端に高温にしないことやメタロセン錯体に対する有機アルミの量比を上げすぎないことが必要である。
【0025】
昇温溶出分別(TREF)による溶出成分の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料を140℃でオルトジクロロベンゼンに溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後、8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却後、10分間保持する。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼンを1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で40℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
カラムサイズ:4.3mmφ×150mm
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
溶媒:オルトジクロロベンゼン
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
検出器:波長固定型赤外検出器、FOXBORO社製、MIRAN、1A
測定波長:3.42μm
【0026】
融点
本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)により、測定された融解ピーク温度である融点が、プロピレン系重合体(B)より20℃以上低いものが好ましく、30℃以上低いものがより好ましい。エチレン−プロピレン共重合体(A)とプロピレン系重合体(B)との融点差が20℃未満であると、足部の融着強度が低下する恐れがある。
融点を調整するには、重合反応系へ供給するエチレンの量を制御することにより、容易に調整することができる。
なお、融点の具体的測定は、セイコー社製DSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度を融点とした(単位:℃)。
本発明のエチレン−プロピレン共重合体(A)単独、またはその共重合体(A)を約50〜100重量%程度含むプロピレン系樹脂組成物(X)の融点は、一般には約95〜160℃程度であるが、容器の内層であり、熱湯を注ぐと溶融することも有り得るから、融解が100℃以上、好ましくは110〜130℃の範囲のものが任意に使用されるが、実際のポリプロピレン系シートの内層である被覆層に使用する場合には、主層である基材層より融点が低く、しかも20℃以上の較差を有すること、好ましくは、25〜50℃程度の較差を有する材料を選択することが好ましい。
【0027】
2.エチレン−プロピレン共重合体(A)の製造方法
本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)は、メタロセン触媒を使用し、前記製造条件に留意しながら共重合することにより得ることができる。この際、用いられるメタロセン触媒は、一種類でも、二種類以上の混合物であってもよい。
メタロセン触媒は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の周期律表第4〜6族遷移金属と、シクロペンタジエニル基あるいはシクロペンタジエニル誘導体基との錯体を使用した触媒である。
メタロセン触媒において、シクロペンタジエニル誘導体基としては、ペンタメチルシクロペンタジエニル等のアルキル置換体基、あるいは2以上の置換基が結合して飽和もしくは不飽和の環状置換基を構成した基を使用することができ、代表的にはインデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、あるいはこれらの部分水素添加物を挙げることができる。また、複数のシクロペンタジエニル基がアルキレン基、シリレン基、ゲルミレン基等で結合したものも好ましく用いられる。
【0028】
メタロセン錯体として、具体的には次の化合物を好ましく挙げることができる。
(1)メチレンビス(シクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(2)メチレン(シクロペンタジエニル)(3,4−ジメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(3)イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3,4−ジメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(4)エチレン(シクロペンタジエニル)(3,5−ジメチルペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(5)メチレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、(6)エチレンビス(2−メチルインデニル)ハフニウムジクロリド、(7)エチレン1,2−ビス(4−フェニルインデニル)ハフニウムジクロリド、(8)エチレン(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ハフニウムジクロリド、(9)ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(テトラメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(10)ジメチルシリレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、(11)ジメチルシリレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ハフニウムジクロリド、(12)ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ハフニウムジクロリド、(13)ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(オクタヒドロフルオレニル)ハフニウムジクロリド、(14)メチルフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4,5−ベンゾ(インデニル)]ハフニウムジクロリド、(15)ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)]ハフニウムジクロリド、(16)ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(17)ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(18)ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(19)ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−ナフチル−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(20)ジフェニルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(21)ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(フェニルインデニル))]ハフニウムジクロリド、(22)ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(フェニルインデニル))]ハフニウムジクロリド、(23)ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−ナフチル−4H−アズレニル)]ハフニウムジクロリド、(24)ジメチルゲルミレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリド、(25)ジメチルゲルミレン(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ハフニウムジクロリド。
【0029】
また、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物などの他の第4、5、6族遷移金属化合物についても、上記と同様の化合物が挙げられる。本発明の触媒成分および触媒については、これらの化合物を併用してもよい。
また、これらの化合物のクロリドの一方あるいは両方が臭素、ヨウ素、水素、メチルフェニル、ベンジル、アルコキシ、ジメチルアミド、ジエチルアミド、アルキル基等に代わった化合物も例示することができる。
さらに、上記のハフニウムの代わりに、チタン、ジルコニウム等に代わった化合物も、例示することができる。
その中でも溶融張力、透明性、成形性に優れたエチレン−プロピレンランダム共重合体が得られ、シートの肌荒れがおきにくい、ハフニウムを使用した触媒が本発明には好適である。
【0030】
助触媒として、アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してメタロセン化合物成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物もしくはルイス酸、固体酸、あるいは、イオン交換性層状珪酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられる。
また、必要に応じて、これら化合物と共に、有機アルミニウム化合物を添加することができる。
アルミニウムオキシ化合物としては、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、プロピルアルモキサン、ブチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、メチルエチルアルモキサン、メチルブチルアルモキサン、メチルイソブチルアルモキサン等が例示される。また、トリアルキルアルミニウムとアルキルボロン酸との反応物を使用することもできる。例えば、トリメチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1の反応物、トリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の2:1反応物、トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとメチルボロン酸の1:1:1反応物、トリエチルアルミニウムとブチルボロン酸の2:1反応物などである。
【0031】
イオン交換性層状珪酸塩としては、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族などの珪酸塩が用いられる。
これらの珪酸塩は、化学処理を施したものであることが好ましい。ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。
具体的には、(イ)酸処理、(ロ)アルカリ処理、(ハ)塩類処理、(ニ)有機物処理等が挙げられる。これらの処理は、表面の不純物を取り除く、層間の陽イオンを交換する、結晶構造中のAl、Fe、Mg等の陽イオンを溶出させ、その結果、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体等を形成し、表面積や層間距離、固体酸性度等を変えることができる。これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
また、必要に応じてこれら化合物と共にトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド等の有機アルミニウム化合物を使用してもよい。
また、本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)は、プロピレンから誘導される構成単位(以下、「プロピレン単位」という)の好ましい割合は、全構成単位中90〜99.9重量%であり、エチレンから誘導される構成単位(以下、「エチレン単位」という)は、0.1〜10重量%であることが望ましい。
【0032】
また、本発明に用いられるエチレン−プロピレン共重合体(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のα−オレフィンを併用することも可能である。例えば、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチル−1−ブテン、ヘキセン−1、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ドデセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1、オクタデセン−1、エイコセン−1等を例示でき、これらは、一種類でも二種類以上併用して用いてもよい。
なかでも、ブテン−1は好適であり、エチレン−プロピレン共重合体(A)において、プロピレン単位は、全構成単位中90〜99.9重量%であり、エチレンおよびα−オレフィンから誘導される構成単位(以下、「コモノマー単位」という)は0.1〜10重量%であるエチレン−ブテン−1−プロピレン3元ランダム共重合体が好ましい。
【0033】
2.その他の配合剤
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(X)には、通常ポリオレフィンに使用する公知の他の重合体を0〜50重量%の割合で配合することができる。
他の重合体としては、プロピレン単独あるいはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の重合体、各種熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0034】
また、プロピレン系樹脂組成物(X)には、酸化防止剤、中和剤、核剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤など、通常ポリプロピレンに用いることのできる各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤およびチオ系酸化防止剤などが例示でき、中和剤としては、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩類が例示でき、光安定剤および紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン類、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。
【0035】
II.プロピレン系樹脂組成物(Y)
本発明には、ポリプロピレン系シートの主層に、プロピレン系重合体(B)が80重量%以上の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(Y)が用いられている。プロピレン系重合体(B)の配合量が、80重量%未満であると容器成形時のシート温度が低下し、足部の融着強度が低下する恐れがある。
【0036】
1.プロピレン系重合体(B)
係るプロピレン系重合体(B)は、前記要件(iv)〜(v)に示す特性・性状を有するものである。
要件(iv)メルトフローレート(MFR):
本発明に係るプロピレン系重合体(B)は、前記要件(iv)に示すとおり、温度230℃、2.16Kg荷重で測定するメルトフローレート(MFR)が0.2〜5g/10分であることが好ましく、0.5〜2g/10分がより好ましく、0.5〜1g/10分がさらに好ましい。
MFRが0.2g/10分未満では、溶融流動性が低下する上に、剛性も低下する恐れがある。一方、MFRが5g/10分を超えると、シート成形時のドローダウンが激しくなりシート成形が困難になると共に容器成形時の成形温度が低下し、足部の融着強度が低下する恐れがある。
尚、メルトフローレート(MFR)は、JIS K6921−2の「プラスチック−ポリプロピレン(PP)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び性質の求め方」に準拠して、試験条件:230℃、荷重2.16kgfで測定した値である。
プロピレン系重合体(B)のメルトフローレート(MFR)は、プロピレン系重合体(B)の重合条件である温度や圧力を調節したり、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量を制御することにより、容易に調整を行なうことができる。
【0037】
要件(v)融点
本発明に用いられるプロピレン系重合体(B)は、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)により、測定された融解ピーク温度である融点が160℃以上が好ましく、163℃以上がさらに好ましい。融点が160℃未満の場合は、容器の剛性および耐熱性が低下するとともに、容器成形時の成形温度が低下することで、足部融着がし難くなる恐れがある。
融点を調整するには、重合反応系へ供給するα−オレフィン等の共重合モノマーの量を制御することにより、容易に調整することができる。
なお、融点の具体的測定は、セイコー社製DSCを用い、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度を融点とした(単位:℃)。
【0038】
2.プロピレン系重合体(B)の製造方法
本発明で用いられるプロピレン系重合体(B)の重合用触媒としては、チーグラーナッタ型触媒、メタロセン触媒等が挙げられ、特に限定はされないが、160℃以上の融点の重合体を得るためには、塩化マグネシウム担持チーグラーナッタ触媒が好ましい。
本発明で用いられるプロピレン系重合体(B)の重合方法としては、スラリー法、バルク法、溶液法、気相法等の汎用プロセスが適用できる。これら重合反応は、単独反応器だけでなく、複数用いることができ、重合方法も、複数組み合わせて用いることもできる。
本発明で用いられるプロピレン系重合体(B)としては、プロピレンの単独ホモ重合体、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合ゴム成分を含むブロック共重合体等が挙げられ、一種類でも、二種類以上の混合物としても、用いることができる。
【0039】
これら共重合体に用いるα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1等が挙げられ、このα−オレフィンは、一種類でなく、二種類以上の多元系共重合体でもよい。
具体的には、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ペンテン−1共重合体、プロピレン−ペンテン−1共重合体、プロピレン−ヘキセン−1共重合体、プロピレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体、プロピレン−オクテン−1共重合体のような、各種二元、三元共重合体が挙げられる。α−オレフィンの割合は、0.5〜20モル%程度あれば十分である。
【0040】
また、本発明で用いられるプロピレン系重合体(B)は、融点の高いプロピレンホモ重合体が好ましく、例えば、日本ポリプロ社製「ノバテックPP」が挙げられる。
本発明に係る触媒は、これにオレフィンを接触させて少量重合されることからなる予備重合処理に付される。予備重合処理を行うことにより、本重合を行った際に、ゲルの生成を防止できる。その理由としては、本重合を行った際の重合体粒子間で長鎖分岐が均一に分布させることができるためと考えられ、また、そのことにより溶融物性を向上することができる。
ポリプロピレン系重合体(B)、またはそれを80重量%以上含むプロピレン系樹脂組成物(Y)の融点は、130〜180℃、と広範囲のものが想定できるが、典型的な市販のポリプロピレンの融点約165℃の上下を範囲とした、130〜170℃のポリプロピレンが適している。これは、主層である基材層を構成するものであるから、内層である被覆層の融点より、少なくとも融点が20℃高いものを選定することが要求される。
【0041】
予備重合時に使用するオレフィンは、特に限定はないが、プロピレン、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等を例示することができる。オレフィンのフィード方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持するフィード方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせる等、任意の方法が可能である。予備重合温度、時間は、特に限定されないが、各々−20℃〜100℃、5分〜24時間の範囲であることが好ましい。また、予備重合量は、予備重合ポリマー量が触媒成分に対し、好ましくは0.01〜100、さらに好ましくは0.1〜50である。また、予備重合時に触媒成分を添加、又は追加することもできる。また、予備重合終了後に洗浄することも可能である。
また、上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させる等の方法も可能である。
【0042】
(2−1)触媒の使用/プロピレン重合について
重合様式は、前記触媒成分を含むオレフィン重合用触媒とモノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。
具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いる、所謂バルク法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーをガス状に保つ気相法などが採用できる。また、連続重合、回分式重合を行う方法も適用される。また、単段重合以外に、2段以上の多段重合することも可能である。
スラリー重合の場合は、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独又は混合物が用いられる。
【0043】
また、重合温度は、0℃以上、150℃以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は80℃以下が好ましく、更に好ましくは75℃以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、40℃以上が好ましく、更に好ましくは50℃以上である。また上限は100℃以下が好ましく、更に好ましくは90℃以下である。
重合圧力は、1.0MPa以上、5.0MPa以下である。特に、バルク重合を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は4.0MPa以下が好ましく、更に好ましくは3.5MPa以下である。
さらに、気相重合を用いる場合には、1.5MPa以上が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以上である。また上限は2.5MPa以下が好ましく、更に好ましくは2.0MPa以下である。
【0044】
さらに、分子量調節剤として、また活性向上効果のために、補助的に水素を用いることができる。
水素は、プロピレンに対してフィード比で、0〜1mol%の範囲で用いるのがよく、好ましくは0.0001mol%以上であり、さらに好ましくは0.001mol%以上用いるのがよい。
使用する水素の量を変化させることで、生成する重合体の平均分子量の他に、分子量分布、分子量分布の高分子量側への偏り、非常に高い分子量成分、分岐(量、長さ、分布)を制御することができ、そのことにより、溶融張力、溶融延展性といった溶融物性を制御することができる。
【0045】
また、プロピレンモノマー以外に、炭素数2〜20(モノマーとして使用するものを除く)程度のα−オレフィンをコモノマーとして使用する共重合を行ってもよい。プロピレン系重合体中の(総)コモノマー含量は、0モル%以上、20モル%以下の範囲であり、上記コモノマーを複数種使用することも可能である。具体的には、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンである。
この中では、本発明に係るプロピレン系重合体(X)を溶融物性と触媒活性をバランスよく得るためには、エチレンを5モル%以下で用いるのが好ましい。特に剛性の高い重合体を得るためには、重合体中に含まれるエチレンを1モル%以下になるように、エチレンを用いるのがよく、更に好ましくはプロピレン単独重合である。
【0046】
2.その他の配合剤
本発明に用いられるプロピレン系樹脂組成物(Y)には、通常ポリオレフィンに使用する公知の他の重合体を0〜20重量%の割合で配合することができる。
他の重合体としては、プロピレン単独あるいはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の重合体、各種熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
詳細には、プロピレン系重合体(B)を80重量%以上含むプロピレン系樹脂組成物(Y)の残りの0〜20重量%の部分は、汎用の各種プロピレン(共)重合体、E−P−R、低密度または高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリレート共重合体、各種エラストマー等のような樹脂、エラストマー、充填剤、添加剤のような材料が任意に配合できる。これらの配合材料は、プロピレン共重合体(B)の主層である基材層としての役割を果たす特性を備えたものである。
【0047】
また、プロピレン系樹脂組成物(Y)には、酸化防止剤、中和剤、核剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、金属不活性剤など、通常ポリプロピレンに用いることのできる各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤およびチオ系酸化防止剤などが例示でき、中和剤としては、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩類が例示でき、光安定剤および紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン類、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。
【0048】
III.ポリプロピレン系シート
本発明で使用されるポリプロピレン系シートは、少なくともプロピレン系樹脂組成物(X)を用いた最内層とプロピレン系樹脂組成物(Y)を用いた主層とからなる多層シートであり、3層以上の多層構造であってもなんら差し支えない。例えば、主層と最内層との間に、EVOHやPAといったバリア性樹脂層および接着層を配置したバリアシートをも置けても、最外層に高光沢層や低光沢層といった意匠性を持たせた層を配置することも可能である。
このように、本発明のプロピレン系シートは、容器本体部分を構成する主層ともいえる基材層と、容器の内層部分を構成する最内層ともいえる被覆層からなる、少なくとも二層構造からなる積層体である。しかし、この二層の中間層として、または、基材層の外表面層として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH),ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン(PVDC),無水マレイン酸変性PP、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、非結晶ポリエチレンテレフタレート、低発泡ポリスチレンなどからなる各種材料を積層した、ガスバリヤー性を考慮した、いわゆる3層構造、4層構造の積層体とすることもできる。
【0049】
本発明で使用されるポリプロピレン系シートの厚みは、0.3〜4mmであることが好ましく、0.5〜3.5mmがさらに好ましく、0.8〜3mmが特に好ましい。厚みが0.3mmを大きく下回る場合は、容器の剛性が損なわれ、厚みが4mmを大きく上回る場合は、シート成形が困難になる恐れがある。
また、本発明で使用されるポリプロピレン系シートの最内層の厚みは、20〜200μmであることが好ましく、40〜150μmがより好ましく、50〜130μmがさらに好ましい。最内層の厚みが20μm未満であると容器成形時に最内面層の切れが発生し、200μ以上であると、容器の剛性低下を招く恐れがある。
さらに、本発明で使用されるポリプロピレン系シートの最内層と主層の厚み比(最内層/主層)は、0.2以下であることが好ましく、0.15以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。最内層と主層の厚み比が0.2を超えると、容器の剛性が低下する恐れがある。
【0050】
このようなポリプロピレン系シートは、通常ポリプロピレンの成形に用いられる複数のダイを備えた押出機を用い、フィードブロックやマルチマニホールドを用いて複数層のポリプロピレン系シートに成形することができる。
ポリプロピレン系シートの具体的製造法としては、プロピレン系樹脂組成物(X)および(Y)を、公知の単軸又は二軸のスクリュー押出機に通して、コートハンダーダイからシート状に押出した後、(内部で冷却水や油が循環している)金属ロール表面に、エアーナイフ、エアーチャンバー、硬質ゴムロール、スチールベルト、金属ロールにて押さえつけ冷却固化されることによって得ることができる。又、シート両面をスチールベルトで挟んで冷却固化することもできる。
このようなシートの冷却方法の中では、シート両面に金属ロール及び/又はスチールベルトを使用する方法が表面凹凸の少ないシート表面、つまり透明性に優れたシートを得られることから最も好ましい方法である。
【0051】
IV.多層熱成形容器
本発明の多層熱成形容器は、ポリプロピレン系シートを用い、固相圧空成形により得られる、内容物を収容する本体と本体底面部の外方に突き出した足部を有する多層熱成形容器であり、ポリプロピレン系シートの最内層同士が、折りたたまれ、引張試験機により測定される剥離強度において、70N以上に熱融着されており、本体は、深さ/口径の比が1以上の深絞り構造を有するものである。
本発明の容器の形状の概要を、図1に基づいて説明をすれば、容器の口の大きさともいえる内径に相当する寸法を口径(D)と表し、容器の口外周の水平面から容器の底までの寸法を深さ(H)とすれば、H/D>1以上ということであって、容器の口の大きさに比して、若干深めの容器の成形において、本発明のポリプロピレン系シート、固相圧空成形、およびプラグアシスト成形の組み合わせが優れた機能を発現して、足部(F)ともいえる脚部を構成するポリプロピレン系シートの折り曲げにより形成される重なり部分に剥離の無い完全な容器が成形される。
【0052】
本発明の多層熱成形容器は、容器の形状が角型や丸型に関係無く、容器本体の底面部までの(最大)深さと容器本体の(最大)幅(口径)との比である絞り比が1.0以上である必要があり、好ましくは1.2以上であることが望ましい。絞り比が1.0以上であるものは、一般に深絞り容器と呼ばれ、プラグアシスト固相圧空成形で得られ、容器の剛性、衝撃強度に優れたものであるが、固相圧空成形ではこのような足付き深絞り容器は得られにくい。しかし、本発明の構成により、容易に足付き深絞り容器は得られる。
【0053】
本発明の多層熱成形容器の足部は、ポリプロピレン系シートの最内層同士が、折りたたまれ、熱融着されることによって得られる。この折りたたまれた接触層同士が全周に渡って強固に融着されている必要があり、引張試験機により測定される剥離強度において、70N以上でなければならない。剥離強度が70N以上になるように熱融着させると、接触層同士が全周に渡って隙間なく融着し、また、接触層同士が強固に融着していることから隙間を発生させることがないため、内容物が足部隙間に入り込み、意匠性を低下させたり、衛生性を低下させたりすることがない。一方、剥離強度が70N以下では、容器の移送中や落下時に融着部の剥がれが発生したり、レトルト処理等で容器内圧が上昇した場合にも剥がれが発生する恐れがある。
この構造を、図6に示す足部拡大図に基づいて説明をすれば、容器の足部(F)である脚部を示す図6(a)図は、ポリプロピレン系シート(L)を構成する最内層(L)が、図示8を起点にして折り曲げられ、最内層面が、図示7の部分で、隙間無く完全に融着により接合した本発明の容器の状態を示すものである。一方、図6(b)に示すように、シートが完全に接合しなく、剥離状態のクラックである隙間7’を有する、図示9のような不完全な底部に隙間を有する容器が形成される例である。
【0054】
この様な多層熱成形容器は、ポリプロピレン系シートを用い、該シートを主層の融点以下の温度で軟化させ、通常ポリプロピレンシートの成形に用いられるプラグアシスト固相圧空成形機により得ることができる。このような成形における加熱方法としては、間接加熱、熱板加熱、熱ロール加熱などが挙げられる。該シートの融点を越える温度で成形を行なうと、得られる多層熱成形容器の透明性、光沢、肉厚均一性が悪化し、さらに最内層がアシストプラグ付着し、成形不能となる。
本発明では、このような固相圧空成形は、ポリプロピレン系シート(L)を構成する内層(L)を構成する主相のプロピレン系重合体(B)またはプロピレン系樹脂組成物(Y)の融点より低い温度でプラグアシスト成形をする。
【0055】
本発明は、実質的にプロピレン系重合体からなる主層と、実質的にエチレン−プロピレン共重合体からなる内層から構成され、その層の融点較差が20〜60℃である積層構造のポリプロピレン系シートを、主層がキャビ型側となるように、熱成形用キャビ型ユニットとプラグユニットとの間に介在させ、主層の融点以下であり、且つ融点較差20〜60℃の範囲になるような温度で加熱をすることにより軟化させ、次に、アシストプラグを押し下げることにより、該ポリプロピレン系シートを容器状に固相圧空成形により容器状に予備賦形をして、引き続き、該予備賦形部分に対し、空気圧を付加して該ポリプロピレン系シートをキャビ型に密着させてから、底部金型を押し上げて該ポリプロピレン系シートの最内層同士が密着するような状態に折りたたみ、最内層同士を全周に渡って、引張試験機により測定される剥離強度において70N以上に熱融着させることにより容器脚部を形成させることを特徴とする脚部付容器の固相圧空プラグアシスト成形方法を達し得たものである。
【0056】
具体的には、熱成形用キャビ型ユニットとプラグユニットとの間に、ポリプロピレン系シートを主層がキャビ型に向くように介在させ、加熱により軟化させる(図2)。次に、アシストプラグを押し下げることにより、ポリプロピレン系シートに容器型の窪みを付ける(図3)。引き続き、該窪みに対し、ポリプロピレン系シートがキャビ型に密着するようにエアーを吹き込む(図4)。最後に、底部金型を押し上げ、ポリプロピレン系シート最内層同士が密着するように折りたたみ、最内層同士を全周に渡って融着させ、容器足部を形成させる(図5)。この際、押し上げる底部金型とキャビ金型の隙間を調整することで、折りたたみ部を完全に融着することができる。隙間が大きすぎると折りたたみ部に隙間ができてしまう恐れがある。
【0057】
本発明を、具体的に、図に基づいて説明をする。本発明の多層熱成形容器は、詳細には、図1に示すような、断面構造を有する。口径(D)と深さ(H)の寸法を有するものであり、足部(F)に相当する脚部と上げ底を有する構造のものである。足部に相当する脚部の高さの寸法は0.1〜80mm、好ましくは1〜50mmのものが任意に成型できる。本発明の多層熱成形容器の成形方法を説明すると、図2には、プラグ押し込み前の状態であり、熱成形用キャビ型ユニット(M)とアシストプラグユニット(P)との間に、図示の3方向から、ポリプロピレン系シート(L)を主層(L)がキャビ型(M)に向くように介在させ、加熱(図示省略)により軟化させる。この加熱は、ポリプロピレン系シート(L)の主層(L)、内層(L)の融点較差20〜60℃を考慮して決める。次に、図3に示すように、アシストプラグ(P)を図示の1方向に押し下げることにより、ポリプロピレン系シート(L)に略容器型に相当する窪みを賦形する予備成形をする。
【0058】
引き続き、図4に示すように、キャビ型(M)と上型(U)により、ポリプロピレン系シート(L)を密封状態になるように挟み、次いで、高圧エアー6(図示省略)吹き込み、予備成形のポリプロピレン系シート(L)が、キャビ型(M)の所定の容器状の型内面である6’に沿って密着するような状態になる負荷圧をかけて賦形をした状態を維持する。
次に、図5に示すように、脚部の内径の寸法を有する底部金型(B)を図示の2方向に押し上げて、ポリプロピレン系シート(L)の最内層(L)同士が密着するように重ね図示の7のように折りたたむことにより、最内層(L)同士を全周に渡って融着させ、容器足部を形成させる。この際、押し上げる底部金型とキャビ金型の隙間8を調整することで、折りたたみ部を完全に融着することができる。図示の隙間が大きすぎると折りたたみ部に隙間ができるし、隙間が小さいと、折り畳みがうまくいかないので、隙間の調整が温度制御同様に重要である。足部(F)である脚部の高さは、ポリプロピレン系シート(L)の折りたたみの大きさにより決まる。
本発明の多層熱成形容器は、図6に示すとおり、特に図6(a)には、ポリプロピレン系シートが折り返された、足部(F)に相当する脚部に7に示すような剥離の部分が無い内層(L)が、理想的に全面が融着により接合されている状態の足部(F)に相当する脚部が形成されている。一方、図6(b)は、ポリプロピレン系シートが折り返されるが、不完全な融着により内層間に7’のような剥離の部分が有る足部(F)に相当する脚部が形成されている状態の容器である。
【0059】
V.多層熱成形容器の用途
本発明の多層熱成形容器は、意匠性および内容物が高温の場合の使用に優れたものであるため、食品容器、洗剤容器、医療用容器等の各種分野の容器に用いることができ、特に、飲料食品分野などにおいて、広く用いることができる。

【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、多層熱成形容器またはその構成成分についての諸物性は、下記の評価方法に従って測定、評価し、また、使用した樹脂(使用材料)としては下記のものを用いた。
【0061】
1.評価方法
(1)メルトフローレート(MFR)[単位:g/10分]:
エチレン−プロピレン共重合体(A)およびプロピレン系重合体(B)は、JIS K7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した。
【0062】
(2)融点(Tm):
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、シート状にしたエチレン−プロピレン共重合体(A)もしくはプロピレン系重合体(B)を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して、結晶化させた時の結晶最大ピーク温度(℃)として結晶化温度(Tc)を求め、その後、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)として融点(Tm)を求めた。
(3)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値):
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、上記本明細書記載の方法で、測定した。
【0063】
(4)40℃可溶分:
40℃可溶分は、下記の装置を用い、上記本明細書記載した通りである。
(i)TREF部
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ 4方バルブ
(ii)試料注入部
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
【0064】
(iii)検出部
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル 光路長1.5mm 窓形状2φ×4mm長丸 合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(iv)ポンプ部
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
(v)測定条件
溶媒:o−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速 :1mL/分
【0065】
(5)プラグ付着性
実施各例によって得られたポリプロピレン系シートを用いて30分間連続して容器成形を行い、プラグへの融着物が発生するかを確認した。
○:付着なし
△:若干発生するが、成形は可能
×:付着発生し、成形不能
【0066】
(6)内面層切れ
実施各例によって得られたポリプロピレン系シートを用いて多層熱成形容器を成形する際に、最内面層での切れ(周方向の割れ)の発生を目視で確認した。
○:切れなし
△:時々、切れ発生
×:ほぼ全てで、切れ発生
【0067】
(7)足部剥離強度
得られた多層熱成形容器の足部を融着方向と垂直に幅1cmの短冊状に切り出し、引張試験機で剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
【0068】
2.使用材料
(1)プロピレン系重合体
WFX4:エチレン−プロピレン共重合体(A)
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(メタロセン触媒使用、MFR=7g/10min、Q値=2.8、TREFによる40℃以下可溶分=1.8重量%)
WFX6:エチレン−プロピレン共重合体(A)
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(メタロセン触媒使用、MFR=2g/10min、Q値=2.8、TREFによる40℃以下可溶分=1.6重量%)
WSX02:
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(メタロセン触媒使用、MFR=25g/10min、Q値=2.6、TREFによる40℃以下可溶分=1.7重量%)
FX4G:
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(チグラー触媒使用、MFR=5g/10min、Q値=4.5、TREFによる40℃以下可溶分=17.1重量%)
FW4B:
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(チグラー触媒使用、MFR=7g/10min、Q値=4.5、TREFによる40℃以下可溶分=5.4重量%)
PP−1(下記製造例1に得られたプロピレン系樹脂):
(メタロセン触媒使用、MFR=2g/10min、Q値=4.0、TREFによる40℃以下可溶分=2.2重量%)
【0069】
(製造例1)
(i)メタロセン化合物の合成
(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウムの合成は、特開平11−240909号公報に記載の方法に準じて行った。
【0070】
(ii)化学処理イオン交換性層状珪酸塩の調製
10リットルの攪拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧ろ過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、ろ過した。この洗浄操作を、洗浄液(ろ液)のpHが、3.5を超えるまで実施した。
回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の重量は、705gの化学処理珪酸塩を得た。
先に化学処理した珪酸塩を、キルン乾燥機によりさらに乾燥した。乾燥機の仕様、条件は以下の通りである。
回転筒:円筒状、内径50mm、加湿帯550mm(電気炉)、かき上げ翼付き回転数:2rpm、傾斜角;20/520、珪酸塩の供給速度;2.5g/分、ガス流速;窒素、96リットル/時間、向流乾燥温度:200℃(粉体温度)
【0071】
(iii)固体触媒の調製
内容積13リットルの攪拌機の付いた金属製反応器に、上記で得た乾燥珪酸塩0.20kgと日石三菱社製ヘプタン(以下、ヘプタンという。)0.74リットルの混合物を導入し、さらにトリノルマルオクチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.04M)1.26リットルを加え、系内温度を25℃に維持した。1時間の反応後、ヘプタンにて十分に洗浄し、珪酸塩スラリーを2.0リットルに調製した。
(r)−ジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム2.44g(3.30mmol)にヘプタンを0.80リットル加え、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)を33.1ミリリットル加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間攪拌後、ヘプタンを追加して5.0リットルに調整した。
続いて、温度40℃にて、プロピレンを100g/時間の速度で供給し、4時間予備重合を行った。さらに1時間、後重合した。
予備重合終了後、残モノマーをパージした後、触媒をヘプタンにて十分に洗浄した。続いて、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液0.17L添加した後に、45℃で減圧乾燥を実施した。この操作により、乾燥した予備重合触媒0.60kgを得た。
【0072】
(iv)重合
内容積200リットルの撹拌式オートクレーブ内をプロピレンで十分に置換した後、トリイソブチルアルミニウム・n−ヘキサン溶液を500ml(0.12mol)、水素を2.3NLを加え、エチレンを1.94kg加え、これに十分に脱水した液化プロピレン45kgを導入した。40℃に昇温し、製造例1で調製した予備重合触媒2.2gをアルゴンで圧入した。40分間かけて62℃まで昇温し、本条件で2時間重合を行った。その後エタノール100mlを圧入して反応を停止し、残ガスをパージし、生成物を乾燥し、プロピレン・エチレンランダム共重合体(PP1パウダー)を得た。
(v)プロピレン系樹脂
得られたプロピレン単独重合体(PP1パウダー)100重量部に対し、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製、商品名イルガノックス1010)を0.05重量部、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ製、商品名イルガフォス168)を0.05重量部配合し、ヘンシェルミキサーにて750rpm、1分間混合後、50mmφ単軸押出機を用い、押出温度230℃にてペレット化し、プロピレン系樹脂(PP−1)を得た。
【0073】
(2)プロピレン系重合体
EA9FT: プロピレン系重合体(B)
日本ポリプロ社製のプロピレン重合体(MFR=0.5g/10min、融点165℃)
EA6A:プロピレン系重合体(B)
日本ポリプロ社製のプロピレン重合体(MFR=1.9g/10min、融点165℃)
FY6:
日本ポリプロ社製のプロピレン重合体(MFR=2.5g/10min、融点162℃)
WEG7T:
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR=1.5g/10min、融点152℃)
MA3:
日本ポリプロ社製のプロピレン重合体(MFR=1.9g/10min、融点165℃)
FX4G:
日本ポリプロ社製のプロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR=5g/10min、融点128℃)
【0074】
[実施例1]
スクリュウ口径50mmの押出機に前記EA9FTペレットを投入し、スクリュウ口径40mmの押出機に前記WFX4ペレットを投入し、樹脂温度230℃にて加熱溶融可塑化してT型ダイスより押出して得たポリプロピレン系シートを、表面温度が60℃に制御された鏡面仕上げの金属製キャストロ−ルにて挟み冷却固化させながら1m/minの速度で連続的に引き取り、幅500mm、WFX4の層厚み0.1mm、全体厚み1.6mmの2種2層シートを得た。
次いで、このシートを、WFX4層が内面となるように熱成形用キャビ型ユニットとプラグユニットとの間にセットし、過熱温度155℃でシートを軟化させた後、底部金型とキャビ金型の隙間を0.7mmに調整した金型を用い、固相圧空成形機RDM50K(イーリッヒ社製)で、口径75mmφ、深さが80mm、足の高さ5mmの足付き多層熱成形容器を成形した。
この多層熱成形容器について、前述の各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
WFX4の代わりに、WFX6を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例3]
WFX4の代わりに、WFW4を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例4]
WFX4の代わりに、WFX4を60重量%とEA6Aを40重量%とブレンドした重合体混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
EA9FTの代わりに、EA6Aを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例6]
EA9FTの代わりに、FY6を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0077】
[実施例7]
EA9FTの代わりに、WEG7Tを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例8]
EA9FTの代わりに、EA9FTを80重量%とWEG7Tを20重量%とブレンドした重合体混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例9]
EA9FTの代わりに、EA9FTを60重量%とWEG7Tを40重量%とブレンドした重合体混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例10]
WFX4層の厚みを0.02mmにした以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例11]
WFX4層の厚みを0.2mmにした以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[実施例12]
WFX4層の厚みを0.4mmにした以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
WFX4の代わりに、WSX02を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[比較例2]
WFX4の代わりに、PP−1を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[比較例3]
WFX4の代わりに、WFX4を40重量%とEA6Aを60重量%とブレンドした重合体混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[比較例4]
WFX4の代わりに、FX4Gを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。プラグ付着が激しく、成形不能であった。その評価結果を表1に示す。
【0080】
[比較例5]
WFX4の代わりに、FW4Bを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。プラグ付着が激しく、成形不能であった。その評価結果を表1に示す。
[比較例6]
EA9FTの代わりに、MA3を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。シート成形時のドローダウンが激しく、シート成形不能であった。その評価結果を表1に示す。
[比較例7]
EA9FTの代わりに、FX4Gを用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0081】
[比較例8]
EA9FTの代わりに、EA9FTを30重量%とWEG7Tを70重量%とブレンドした重合体混合物を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
[比較例9]
底部金型とキャビ型の隙間を1.0mmに調整した金型を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。その評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
上記の表1から明らかなように、本発明の構成をすべて満足する実施例1〜12では、固相圧空成形で足部が完全に融着した多層熱成形容器が安定的に得られたのに対し、本発明の構成を満たさない比較例1〜8では、得られた多層熱成形容器は、成形が不安定となったり、足部の融着が不完全であり、折りたたみ部分に隙間が発生したり、レトルトなどの加熱処理や運搬時の衝撃により隙間が発生する多層熱成形容器であった。

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の多層熱成形容器は、固相圧空成形による意匠性に優れた、足部が完全に融着した容器であるため、内容物が足部に入り込むことを嫌う食品容器や飲料容器分野などにおいて、広く用いることができる。そのため、その産業上の利用可能性は非常に大きい。

【符号の説明】
【0085】
D;口径
H;深さ
F;足部
P;アシストプラグ
U;上型ユニット
M;キャビ型
B;底部金型
L;ポリプロピレン系シート
;主層
;内層
1;アシストプラグ(P)の移動方向
2;底部金型の移動方向
3;ポリプロピレン系シートの供給方向
4;上型(U)の移動方向
5;キャビ型(M)と上型(U)の密封部分
6;高圧エアー吹き込み部
6’;キャビ型内面に沿って賦形された状態の部分
7;折りたたみ部
7’;剥離により隙間が形成されている部分
8;底部金型と雌金型の隙間
9;隙間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0086】
【特許文献1】特開昭63−172629号公報
【特許文献2】特開平4−168031号公報
【特許文献3】特開2000−225642号公報
【特許文献4】特開2003−200917号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系シートを用い、固相圧空成形により得られる、内容物を収容する本体と本体底面部の外方に突き出した足部を有する多層熱成形容器において、多層熱成形容器の最内層には、下記の要件(i)〜(iii)を満たすエチレン−プロピレン共重合体(A)が50〜100重量%の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(X)が用いられ、また、多層熱成形容器の足部は、ポリプロピレン系シートの最内層同士が折りたたまれ、引張試験機により測定される剥離強度において、70N以上に熱融着されており、本体は、深さ/口径の比が1以上の深絞り構造を有することを特徴とする多層熱成形容器。
要件(i):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が1〜20g/10分である。
要件(ii):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Q値)が1.5〜3.5である。
要件(iii):オルトジクロロベンゼン(ODCB)による昇温溶出分別(TREF)において、40℃以下の温度で溶出する成分が3.0重量%以下である。
【請求項2】
前記エチレン−プロピレン共重合体(A)は、メタロセン触媒を用いて重合されているものであることを特徴とする請求項1に記載の多層熱成形容器。
【請求項3】
多層熱成形容器が少なくとも最内層と主層とより成り、主層には、下記の要件(iv〜v)を満たすプロピレン系重合体(B)が80重量%以上の割合で含まれるプロピレン系樹脂組成物(Y)が用いられていることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の多層熱成形容器。
要件(iv):メルトフローレート(MFR)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.2〜5g/10分である。
要件(v):示差走査熱量計(DSC)で測定された融解ピーク温度(融点)が160℃以上である。
【請求項4】
エチレン−プロピレン共重合体(A)とプロピレン系重合体(B)との融点差が20℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層熱成形容器。
【請求項5】
ポリプロピレン系シートの最内層の厚みが20〜200μmであり、最内層と主層の厚み比(最内層/主層)が、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層熱成形容器。
【請求項6】
プロピレン系重合体を主体とする主層と、エチレン−プロピレン共重合体を主体とする内層から構成され、その層の融点較差が20〜60℃である積層構造のポリプロピレン系シートを、主層がキャビ型側となるように、熱成形用キャビ型ユニットとプラグユニットとの間に介在させ、主層の融点以下であり、且つ融点較差20〜60℃の範囲になるような温度で加熱をすることにより軟化させ、次に、アシストプラグを押し下げることにより、該ポリプロピレン系シートを容器状に固相圧空成形により容器状に予備賦形をして、引き続き、該予備賦形部分に対し、空気圧を付加して該ポリプロピレン系シートをキャビ型に密着させてから、底部金型を押し上げて該ポリプロピレン系シートの最内層同士が密着するような状態に折りたたみ、最内層同士を全周に渡って、引張試験機により測定される剥離強度において70N以上に熱融着させることにより容器脚部を形成させることを特徴とする請求項1に記載の脚部付多層熱成形容器の固相圧空プラグアシスト成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−79152(P2011−79152A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231187(P2009−231187)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】