説明

多層積層回路基板

本発明の多層積層回路基板10Aは、積層トランス10と、積層部品が形成された積層部品シート30と、回路パターンが形成された配線シート50とが積層されたものである。多層積層回路基板10Aでは、積層トランス10を内蔵することにより、積層トランス10のパッケージが省略されるとともに、積層トランス10と他の部品との配線も最小限になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、半導体技術分野における多層積層回路基板に関し、詳しくは電磁気的な特性を有するシートを積層してコイル及びコアを形成した積層トランスを内蔵したものに関する。
【背景技術】
近年、電子機器の小型化の急速な進展に伴い、軽く小さく、しかも薄い積層トランスが注目されている。図13は、従来の積層トランスを示す分解斜視図である。図14は、積層後の図13におけるXIV−XIV線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
従来の積層トランス80は、一次巻線81a,81cが形成された一次巻線用の磁性シート82b,82dと、二次巻線81b,81dが形成された二次巻線用の磁性シート82c,82eと、磁性シート82b〜82eを挟持する磁性シート82a,82gとを備えたものである。
また、磁性シート82eと磁性シート82gとの間には、磁気飽和特性を改善するための磁性シート82fが介挿されている。磁性シート82a〜82eには、一次巻線81a,81cを接続するスルーホール90,91,92及び二次巻線81b,81dを接続するスルーホール93,94,95が設けられている。磁性シート82aの下面には、一次巻線用の外部電極96,97及び二次巻線用の外部電極98,99が設けられている。スルーホール90〜96内には導電体が充填されている。磁性シート82a〜82gが積層トランス80のコアとなっている。
なお、図13及び図14は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線81a,81c及び二次巻線81b,81dの巻数やスルーホール90〜96の位置が、図13と図14とで対応していない。
積層トランス80の一次側では、外部電極96→スルーホール92→一次巻線81c→スルーホール91→一次巻線81a→スルーホール90→外部電極97、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス80の二次側では、外部電極99→スルーホール95→二次巻線81d→スルーホール94→二次巻線81b→スルーホール93→外部電極98、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線81a,81cを流れる電流は、磁性シート82a〜82gに磁束85(図14)を発生させる。その磁束85は、巻数比に応じた起電力を二次巻線81b,81dに発生させる。このようにして、積層トランス80が動作する。
ここで、一次巻線81a,81cの自己インダクタンスをL1、二次巻線81b,81dの自己インダクタンスをL2、一次巻線81a,81cと二次巻線81b,81dとの相互インダクタンスをMとすると、電磁結合係数kは次式で定義される。
k=|M|/√(L1・L2) (k≦1)
電磁結合係数kは、トランス性能の指標の一つであり、大きいほど洩れ磁束(洩れインダクタンス)が少ないので電力変換効率が高い。
〔解決すべき課題〕
積層トランス80は、例えば個別部品として、プリント配線板に実装されていた。しかしながら、このような従来技術では、電子機器の更なる小型化の要求に、応えることが難しくなりつつある。
また、積層トランス80では、一次巻線81a,81cと二次巻線81b,81dとの間が磁性体層(磁性シート82c〜82e)であることにより、洩れ磁束86(図14)が発生するので、十分な電磁結合係数kを得られなかった。この問題を解決するために、スクリーン印刷又はペースト塗布によって一次巻線81a,81c上及び二次巻線81b,81d上に誘電体層(図示せず)を設け、この誘電体層から拡散する物質によって磁性体層の透磁率を小さくする技術(以下「従来の積層トランス」という。)が考えられる。
しかしながら、この従来の積層トランスでは、一次巻線81a,81c上及び二次巻線81b,81d上に塗布された誘電体ペーストに、一次巻線81a,81c及び二次巻線81b,81dから導電性物質(例えばAg粒子)が拡散することにより、一次巻線81a同士、一次巻線81c同士、二次巻線81b同士、及び二次巻線81d同士の絶縁性が低下するおそれがあった。ペーストは、例えば有機溶媒などによって液体状になっているので、物質が拡散しやすいためである。
また、誘電体層を設けて洩れ磁束を減らしたとしても、一次巻線81a,81cと二次巻線81b,81dとの間隔が「磁性体層+誘電体層」になって広くなる。このことは、その間隔に洩れ磁束が入り込みやすくなるので、逆に電磁結合係数kを小さくする方向に作用する。したがって、従来の積層トランスでは、電磁結合係数kを大きくすることが極めて困難であった。
〔発明の目的〕
そこで、本発明の主な目的は、積層トランスの軽く小さく薄いという利点を十分に生かすことにより、電子機器の更なる小型化を実現する技術を提供することにある。また、本発明の他の目的は、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数を増大できる積層トランスを提供することにある。
【発明の開示】
本発明に係る多層積層回路基板は、磁性シートと一次巻線及び二次巻線と非磁性体からなる誘電シートとを積層してなる積層トランスを内蔵するとともに、回路パターンが形成された配線シートを備えたものである)。また、好ましい実施形態では、配線シートは積層トランスの上又は下に積層された、又は配線シートの一部に積層トランスが設けられた、としてもよい。更に、積層部品が形成された積層部品シートを更に備えた、又は厚膜及びチップ受動素子並びにチップ能動素子が表面に実装された、としてもよい。このとき、厚膜若しくはチップ受動素子又はチップ能動素子が表面に実装された、としてもよい。なお、ここでいう「非磁性体」とは、少なくとも磁性シートよりも小さい透磁率を有する物質という意味である。「誘電シート」とは、少なくとも磁性シートよりも大きい抵抗率を有するシートという意味であり、誘電体シート又は絶縁シートと呼んでもよい。
従来技術では、積層トランスを個別部品としてプリント配線板に実装していたが、積層トランスのパッケージを小型にすることも、積層トランスと他の部品との配線を縮小することも限界に達していた。そこで、本発明では、積層トランスを多層積層回路基板に内蔵させることにした。その結果、多層積層回路基板をパッケージングするので、積層トランスのパッケージが省略される。しかも、積層方向に配線できることから、配線の占有面積が減少するので、積層トランスと他の部品との配線も最小限になる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板に内蔵された積層トランスは、次の積層体を備えたものである。その積層体は、第一の磁性シートと、この第一の磁性シート上に積層されるとともに中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる第一の誘電シートと、この第一の誘電シート上の貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、この第一の巻線上に積層されるとともに第一の誘電シートの周縁及び貫通孔で第一の磁性シートに接する第二の磁性シートと、この第二の磁性シート上に積層されるとともに中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる第二の誘電シートと、この第二の誘電シート上の貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、この第二の巻線上に積層されるとともに第二の誘電シートの周縁及び貫通孔で第二の磁性シートに接する第三の磁性シートとを含んでなる。また、望ましくは、この積層体が更に複数積層され、上端を除く第三の磁性シートがその上の積層体で第一の磁性シートとして兼用され、複数の一次巻線同士及び複数の二次巻線同士をそれぞれ接続するスルーホールが磁性シート及び誘電シートに設けられた、としてもよい。
誘電シートは、巻線上に誘電体ペーストを塗布して形成された誘電体層に比べて、次の利点を有する。▲1▼.固形のシート状であるので、すなわちペースト状ではないので、巻線の有無に関係なく膜厚が均一になる。そのため、巻線の有る部分でも、十分な膜厚を確保できる。▲2▼.ペースト状ではないので、巻線からの拡散物質は極めて少ない。そのため、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性を劣化させることがない。
また、望ましくは、誘電シートの中央に貫通孔を設け、誘電シートの大きさを磁性シートよりも小さくしている。これにより、誘電シートを一対の磁性シートで挟持すると、誘電シートの中央及び周縁で磁性シート同士が接するので、磁性シートのコアが形成される。一次巻線と二次巻線との間には、誘電シートが介在しているので、絶縁性にも優れる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板に内蔵された積層トランスは、中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる誘電シートと、この誘電シートの一方の面上かつ貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、誘電シートの他方の面上かつ貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、誘電シート、第一の巻線及び第二の巻線を挟持するとともに誘電シートの周縁及び貫通孔で互いに接する一対の磁性シートとを備えたものである。
望ましくは、誘電シートは一枚でも積層した複数枚でもよい。一次巻線と二次巻線とが誘電シートを挟んで対向していれば、誘電シートの一方の面に一次巻線と二次巻線とを交互に配置し、他方の面に一次巻線と二次巻線とを交互に配置してもよい。誘電シートが複数枚である場合は、これらの誘電シートを挟んで一次巻線及び二次巻線を複数本設けることができる。このとき、これらの一次巻線同士及び二次巻線同士をそれぞれ接続するスルーホールを、誘電シートに設けてもよい。
従来の積層トランスでは、一次巻線と二次巻線との間が磁性体層になっているため、この磁性体層に洩れ磁束が発生することにより、電磁結合係数が小さくなっていた。そこで、本発明における積層トランスでは、まず一次巻線と二次巻線との間を非磁性体層(誘電シート)とした。これだけではコアを形成できないので、誘電シートの中央に貫通孔を設けて、この貫通孔と誘電シートの周縁とで一対の磁性シートを接触させることにより、コアを形成した。したがって、本発明における積層トランスでは、一次巻線と二次巻線との間が非磁性体層(誘電シート)であるので、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線上及び二次巻線上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線と二次巻線との間隔も広がらない。
また、好ましい実施形態では、誘電シートの周縁に収められた磁性枠と、貫通孔に収められた磁心とを更に備え、一対の磁性シートが誘電シートを挟持するとともに磁性枠及び磁心を介して互いに接する、としてもよい。この場合も、誘電シートは、一枚でも複数枚(積層)でもよい。誘電シートが複数枚であるときは、これらの誘電シートを挟んで一次巻線及び二次巻線が複数本設けられる。このとき、これらの一次巻線同士及び二次巻線同士をそれぞれ接続するスルーホールを、誘電シートに設けてもよい。
望ましくは、第一の磁性シートと第二の磁性シートとの間に、誘電シートが挟まれており、また、誘電シートの両面には、それぞれ一次巻線と二次巻線とが位置している。そして、誘電シートの周縁には磁性枠が収まり、誘電シートの中央の貫通孔には磁心が収まっている。そのため、一対の磁性シートは、誘電シートの周縁及び中央での窪みが少ない。したがって、一対の磁性シートをあまり屈曲させなくてもよいので、製造が容易である。しかも、磁路の断面積を十分にとれるので、磁気飽和特性も向上する。この作用は、誘電シートの積層枚数が多い程、顕著に現われる。
特に、磁性枠の厚み(複数枚ならば総和)と磁心の厚み(複数枚ならば総和)と誘電シートの厚み(複数枚ならば総和)とを一致させると、極めて平坦な積層トランスが得られる。したがって、積層トランスの上に配線シートを積層しても、配線シートの歪みが抑えられるので、配線シートの信頼性が向上する。
また、好ましい実施形態では、磁性枠及び磁心が支持部を介して互いに連結された磁性シートからなる、としてもよい。この場合は、磁性枠及び磁心を同時に形成でき、しかも積層時の位置合わせも同時にできる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板に内蔵された積層トランスは、中央及び周縁を磁性パターンとし中央及び周縁以外の部分を非磁性体からなる誘電パターンとした混成シートと、誘電パターンの一方の面上かつ中央の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、誘電パターンの他方の面上かつ中央の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、混成シート、第一の巻線及び第二の巻線を挟持するとともに磁性パターンを介して互いに接する一対の磁性シートとを備えたものである。
望ましくは、混成シートは一枚でも積層した複数枚でもよい。一次巻線と二次巻線とが混成シートの誘電パターンを挟んで対向していれば、混成シートの一方の面に一次巻線と二次巻線とを交互に配置し、他方の面に一次巻線と二次巻線とを交互に配置してもよい。混成シートが複数枚である場合は、これらの混成シートを挟んで一次巻線及び二次巻線を複数本設けることができる。このとき、これらの一次巻線同士及び二次巻線同士をそれぞれ接続するスルーホールを、混成シートに設けてもよい。
従来の積層トランスでは、一次巻線と二次巻線との間が磁性体層になっているため、この磁性体層に洩れ磁束が発生することにより、電磁結合係数が小さくなっていた。そこで、本発明における積層トランスでは、まず一次巻線と二次巻線との間を非磁性体層(誘電パターン)とした。これだけではコアを形成できないので、混成シートの中央及び周縁を磁性パターンとし、この磁性パターンで一対の磁性シートを接触させることにより、コアを形成した。したがって、本発明における積層トランスでは、一次巻線と二次巻線との間が非磁性体層(誘電パターン)であるので、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線上及び二次巻線上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線と二次巻線との間隔も広がらない。
また、好ましい実施形態では、前述の混成シートを第一の巻線又は第二の巻線と磁性シートとの間に介挿してもよい。この混成シートは、一次巻線又は二次巻線の絶縁性を高める働きをする。
好ましい実施形態では、混成シートは、磁性パターンの膜厚と誘電パターンの膜厚とが等しい、としてもよい。この場合は、混成シートの膜厚がどこでも一定になるので、混成シートを挟持する一対の磁性シートも平坦になる。したがって、積層トランスの上に配線シートを積層しても、配線シートの歪みが抑えられるので、配線シートの信頼性が向上する。
本発明に係る多層積層回路基板によれば、積層トランスを内蔵することにより、積層トランスのパッケージを省略できるとともに、積層トランスと他の部品との配線も最小限にできる。したがって、積層トランスの軽く小さく薄いという利点を十分に生かすことができるので、電子機器の更なる小型化を実現できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、誘電シート上に巻線を配置したことにより、巻線の有る部分でも、誘電体層の膜厚を十分に確保できる。しかも、誘電シートは固形であってペースト状ではないので、巻線から誘電シートへの拡散物質が極めて少ないため、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性を劣化させることもない。したがって、巻線相互の絶縁性を大幅に向上させることができる。しかも、中央に貫通孔を設けた誘電シートを一対の磁性シートで挟持することにより、誘電シートの中央及び周縁で磁性シート同士が接するので、磁性シートからなるコアを単純な構成かつ簡単な方法で形成できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、一次巻線と二次巻線との間を誘電シートとし、誘電シートの中央に貫通孔を設けて、この貫通孔と誘電シートの周縁とで一対の磁性シートを接触させてコアを形成したことにより、一次巻線と二次巻線との間が非磁性体層である積層トランスを実現できたので、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線上及び二次巻線上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線と二次巻線との間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数を増大できる。更に、従来の磁性シートに代わって誘電シートが介在することによって、一次巻線と二次巻線との絶縁性も向上できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、これに加え、誘電シートを挟持する一対の磁性シートが誘電シートの周縁及び貫通孔で互いに接することにより、磁性シート自体が磁心及び磁性枠として機能するので、部品点数を削減できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、誘電シートの周縁に磁性枠が収められ、誘電シートの中央の貫通孔に磁心が収められ、これらを一対の磁性シートが挟持していることにより、誘電シートの周縁及び中央での磁性シートの屈曲を低減できる。したがって、磁性シートをあまり又は全く屈曲させなくてもよいので、製造を容易化できる。しかも、磁路の断面積を十分にとれるので、磁気飽和特性も向上できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、磁性枠及び磁心が支持部を介して連結された磁性シートからなるので、磁性枠及び磁心を同時に形成でき、しかも積層時の位置合わせも同時にできるので、製造を容易化できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、一次巻線と二次巻線との間を混成シートの誘電パターンとし、混成シートの中央及び周縁を磁性パターンとし、この磁性パターンで一対の磁性シートを接触させてコアを形成したことにより、一次巻線と二次巻線との間が非磁性体層である積層トランスを実現できたので、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線上及び二次巻線上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線同士及び二次巻線同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線と二次巻線との間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数を増大できる。更に、従来の磁性シートに代わって誘電パターンが介在することによって、一次巻線と二次巻線との絶縁性も向上できる。
また、誘電パターンと磁性パターンとの両方が一枚の混成シートに形成されていることにより、誘電体のみからなる誘電シートと磁性体のみからなる磁性シートとを積層して同じ構造を形成する場合に比べて、シート枚数を少なくできるとともに、積層方法も簡略化できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、これに加え、前述の混成シートと同じものを一次巻線又は二次巻線と磁性シートとの間に介挿することにより、一次巻線又は二次巻線を電気的に保護できるので、絶縁性を向上できる。
本発明の好ましい実施形態における多層積層回路基板における積層トランスによれば、磁性パターンの膜厚と誘電パターンの膜厚とが等しいことにより、混成シートの膜厚がどこでも一定になるので、混成シートを挟持する一対の磁性シートを平坦にできる。したがって、磁性シート上に回路パターン等を精度よく形成できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る多層積層回路基板の第一実施形態を示す分解斜視図であり、図2は、積層後の図1におけるII−II線縦断面図である。
図3は、本発明に係る多層積層回路基板の第二実施形態を示す部分断面図であり、図4は、図1の多層積層回路基板の製造方法を示す工程図である。
図5は、本発明に係る多層積層回路基板の第三実施形態を示す分解斜視図であり、図6は、積層後の図5におけるVII−VII線縦断面図である。
図7は、本発明に係る多層積層回路基板の第四実施形態を示す分解斜視図であり、図8は、積層後の図7におけるVIII−VIII線縦断面図である。
図9は、本発明に係る多層積層回路基板の第五実施形態を示す分解斜視図であり、図10は、積層後の図9におけるX−X線縦断面図である。
図11は、本発明に係る多層積層回路基板の第六実施形態を示す分解斜視図であり、図12は、積層後の図11におけるXII−XII線縦断面図である。
図13は、従来の積層トランスを示す分解斜視図であり、図14は、積層後の図13におけるXIV−XIV線縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1は、本発明に係る多層積層回路基板の第一実施形態を示す分解斜視図である。図2は、積層後の図1におけるII−II線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
本実施形態の多層積層回路基板10Aは、積層トランス10と、積層部品が形成された積層部品シート30と、回路パターンが形成された配線シート50とが、この順に積層されたものである。多層積層回路基板10Aでは、積層トランス10を内蔵することにより、積層トランス10のパッケージが省略されるとともに、積層トランス10と他の部品との配線も最小限になっている。その理由は、多層積層回路基板10A全体をパッケージングするので、積層トランス10のパッケージが不要となるためである。及び、積層方向に配線できることから、配線の占有面積が減少するので、積層トランス10と他の部品との配線も最小限になるからである。また、積層トランス10は、後述する第三実施形態のように、配線シートの一部に設けてもよい。
積層トランス10は積層体15aを備えたものである。積層体15aは、磁性シート11aと、磁性シート11a上に積層されるとともに中央に貫通孔12aが形成された非磁性体からなる一次巻線用の誘電シート13aと、誘電シート13a上の貫通孔12aの周囲に位置する一次巻線14aと、一次巻線14a上に積層されるとともに誘電シート13aの周縁及び貫通孔12aで磁性シート11aに接する磁性シート11bと、磁性シート11b上に積層されるとともに中央に貫通孔12bが形成された非磁性体からなる二次巻線形成用の誘電シート13bと、誘電シート13b上の貫通孔12bの周囲に位置する二次巻線14bと、二次巻線14b上に積層されるとともに誘電シート13bの周縁及び貫通孔12bで磁性シート11bに接する磁性シート11cとからなる。
また、磁性シート11a,11b及び誘電シート13a,13bには、一次巻線14aを接続するスルーホール15,16及び二次巻線14bを接続するスルーホール17,18が設けられている。配線シート50の上面には、一次巻線用の外部電極19,20及び二次巻線用の外部電極21,22が設けられている。スルーホール15〜18内には導電体が充填されている。磁性シート11a〜11cは、積層トランス10のコアとなっている。
積層部品シート30は、二次巻線14bで高周波ノイズを遮断するためのローパスフィルタを例示したものである。つまり、積層部品シート30は、積層トランス10との電気的及び磁気的絶縁性を高めるための誘電シート13cと、磁性シート11d,11e及びコイル巻線31からなる積層インダクタ32と、高誘電率の誘電シート13d及び平行平板電極33a,33bからなる積層コンデンサ34とを備えている。コイル巻線31に流れる電流は、磁性シート11d,11eに磁束35(図2)を発生させる。平行平板電極33a,33b間に印加される電圧は、平行平板電極33a,33bに電荷を蓄積させる。
配線シート50は、絶縁基板としての誘電シート13eの上面に、積層トランス10の外部電極19〜22、配線ライン51、部品ランド52、積層抵抗器53等が形成されたものである。部品ランド52には、チップ部品54(図2)等が実装される。
なお、図1及び図2は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線14a、二次巻線14b及びコイル巻線31の巻数や位置、並びに配線ライン51、部品ランド52、積層抵抗器53等の位置が、図1と図2とで対応していない。また、図2では、膜厚方向(上下方向)を幅方向(左右方向)よりも拡大して示している。
積層トランス10の一次側では、外部電極19→スルーホール15→一次巻線14a→スルーホール16→外部電極20、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス10の二次側では、外部電極21→スルーホール17→二次巻線14b→スルーホール18→コイル巻線31→スルーホール23→外部電極22、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線14aを流れる電流は、磁性シート11a〜11cに磁束24(図2)を発生させる。その磁束24は、巻数比に応じた起電力を二次巻線14bに発生させる。このようにして、積層トランス10が動作する。なお、磁束24は、誘電シート13cが介在しているので、磁束35と干渉することがない。
また、誘電シート13a〜13bは、一次巻線14a及び二次巻線14bの絶縁性を高めている。主に、誘電シート13aは外部と一次巻線14aとの間、誘電シート13bは一次巻線14aと二次巻線14bとの間、それぞれの絶縁性を高めている。
積層トランス10では、誘電シート13a上に一次巻線14aが配置され、誘電シート13b上に二次巻線14bが配置されている。誘電シート13a,13bは、巻線上に誘電体ペーストを塗布して直接形成された誘電体層に比べて、次の利点を有する。▲1▼.固形のシート状であるので、すなわちペースト状ではないので、巻線の有無に関係なく膜厚が均一になる。そのため、巻線の有る部分でも、十分な膜厚を確保できる。便宜上、図2では、一次巻線14a及び二次巻線14bの下の誘電シート13a,13bを窪ませて示している。しかし、実際には、図3に示すように、誘電シート13a,13bの膜厚は巻線の有無に関係なく均一になる。▲2▼.ペースト状ではないので、一次巻線14a及び二次巻線14bからの拡散物質は極めて少ない。そのため、一次巻線14a同士及び二次巻線14b同士の絶縁性を劣化させることがない。
なお、誘電シート13a上に一次巻線14a及び二次巻線14bの両方を形成することにより、磁性シート11c及び誘電シート13bを省略することもできる。また、二次巻線14bと外部との間の絶縁性を高めるために、誘電シート13bと磁性シート11cとの間に、誘電シートを介挿してもよい。
図3は、本発明に係る多層積層回路基板の第二実施形態を示す部分断面図である。以下、この図面に基づき説明する。ただし、図1及び図2と同じ部分は同じ符号を付すことにより説明を省略する。
本実施形態の多層積層回路基板における積層トランス60は、積層体15aの上に更に積層体15b,…が積層されている。磁性シート11cは、積層体15a,15bの両方で兼用されている。積層体15bは、積層体15aと同じように、磁性シート11c,11f,11g、誘電シート13f,13g、一次巻線14c及び二次巻線14dを備えている。また、図示しないが、一次巻線14a,14c,…同士及び二次巻線14b,14d,…同士をそれぞれ接続するスルーホールが、磁性シート11a,…及び誘電シート13a,…に設けられている。
誘電シート13a,…は、一次巻線14a,14c及び二次巻線14b,14dの絶縁性を高めている。主に、誘電シート13aは外部と一次巻線14aとの間、誘電シート13bは一次巻線14aと二次巻線14bとの間、誘電シート13fは二次巻線14bと一次巻線14cとの間、誘電シート13gは一次巻線14cと二次巻線14dとの間、それぞれの絶縁性を高めている。本実施形態における積層トランス60も、第一実施形態における積層トランス10と同様の作用及び効果を奏する。
ここで、各構成要素の実際の寸法を例示する。磁性シート11a,…は、膜厚が80μm、幅が8mm、奥行きが6mmである。誘電シート13a,…は、膜厚が40μm、幅が7mm、奥行きが5mmである。一次巻線14a,…及び二次巻線14b,…は、膜厚が12μm、線幅が200μm、線間が150μmである。積層トランス10,60を構成するシートの積層枚数は、10〜50枚程度が実用的である。
図4は、図1の多層積層回路基板の製造方法を示す工程図である。以下、図1及び図4に基づき説明する。
まず、磁性体スラリーを作成する(工程61)。磁性材料は例えばNi−Cu−Zn系である。続いて、ドクターブレード法を用いてPET(polyethylene terephthalate)フィルム上に磁性体スラリーを載置することにより、磁性体シートを成形する(工程62)。続いて、この磁性体シートを切断することにより、磁性シート11a〜11eを得る(工程63)。同様に、低誘電率及び高誘電率の非磁性体スラリーを別々に作成する(工程64)。続いて、ドクターブレード法を用いてPETフィルム上に非磁性体スラリーを載置することにより、非磁性体シートを成形する(工程65)。続いて、この非磁性体シートを切断することにより、誘電シート13c〜13eを得る(工程66)。誘電シート13c,13eは低誘電率とし、誘電シート13dは高誘電率とする。
別途、低誘電率の非磁性体ペースト(ガラスペースト)を作成する(工程67)。続いて、スクリーン印刷法を用いて非磁性体ペーストをPETフィルム上に載置することにより、誘電シート13a,13bを作成する(工程68)。続いて、誘電シート13a〜13e及び磁性シート11a〜11eに対し、プレス等によりスルーホール15,…を形成する(工程69)。続いて、誘電シート13eにのみ抵抗体ペーストをスクリーン印刷することにより、積層抵抗器53を形成する(工程70)。続いて、Ag系導電ペーストをスクリーン印刷することにより、一次巻線14a及び二次巻線14b、コイル巻線31、配線ライン51、部品ランド52等を形成するとともに、スルーホール15,…に導電体を充填する(工程71)。
続いて、工程71で得られた磁性シート11a〜11e及び誘電シート13a〜13eをPETフィルムから剥がして積層し、これらを静水圧プレスを用いて密着させて多層積層回路基板10Aとする(工程72)。続いて、この多層積層回路基板10Aを所定の大きさに切断する(工程73)。最後に、900℃前後で同時焼成を行う(工程74)。
なお、後述する各実施形態における多層積層回路基板の製造方法も、本実施形態に準ずる。したがって、後述する実施形態では、製造方法の説明を省略する。
図5は、本発明に係る多層積層回路基板の第三実施形態を示す分解斜視図である。図6は、積層後の図5におけるVI−VI線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
本実施形態の多層積層回路基板100は、回路パターンが形成された配線シート101上に、積層トランス110が積層されたものである。多層積層回路基板100では、積層トランス110を内蔵することにより、積層トランス110のパッケージが省略されるとともに、積層トランス110と他の部品との配線も最小限になっている。なお、配線シート101は、前述した第一実施形態のように、積層トランス110の上に積層してもよい。
配線シート101は、多数の誘電シート102a,102b,102c,…が積層されたものである。最上層の誘電シート102aの上面には、積層トランス110の外部電極122〜125、配線ライン103、部品ランド104、積層抵抗器105等が形成されている。部品ランド104には、チップ部品106(図6)等が実装される。内部の誘電シート102b,102c,…(図6)には、配線ライン107、スルーホール108、積層抵抗器109等が形成されている。なお、配線シート101には、図示しない積層コンデンサや積層インダクタが形成されている。
積層トランス110は、中央に貫通孔111aが形成され貫通孔111aの周囲に一次巻線112が形成された非磁性体からなる一次巻線用の誘電シート113と、誘電シート113に積層されるとともに中央に貫通孔111bが形成され貫通孔111bの周囲に二次巻線114が形成された非磁性体からなる二次巻線用の誘電シート115と、誘電シート113,115を挟持するとともに誘電シート113,115の周縁及び貫通孔111a,111bで互いに接する磁性シート116,117とを備えている。
また、誘電シート113,114及び磁性シート116には、一次巻線112を接続するスルーホール118,119、及び二次巻線114を接続するスルーホール120,121が設けられている。磁性シート116の下面には、一次巻線用の外部電極122,123及び二次巻線用の外部電極124,125が設けられている。スルーホール118〜121内には導電体が充填されている。磁性シート116,117が積層トランス110のコアとなっている。
なお、図5及び図6は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線112及び二次巻線114の巻数及び位置、並びにスルーホール118〜121、配線ライン103、部品ランド104、積層抵抗器105等の位置が、図5と図6とで対応していない。また、図6では、膜厚方向(上下方向)を幅方向(左右方向)よりも拡大して示している。
積層トランス110の一次側では、外部電極122→スルーホール118→一次巻線112→スルーホール119→外部電極123、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス110の二次側では、外部電極124→スルーホール120→二次巻線114→スルーホール121→外部電極125、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線112を流れる電流は、磁性シート116,117に磁束126(図6)を発生させる。その磁束126は、巻数比に応じた起電力を二次巻線114に発生させる。このようにして、積層トランス110が動作する。
積層トランス110では、一次巻線112と二次巻線114との間が非磁性体層(誘電シート115)であることにより、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線112及び二次巻線114上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線112同士及び二次巻線114同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線112と二次巻線114との間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数kを増大できる。これに加え、誘電シート115が介在することによって、一次巻線112と二次巻線114との絶縁性も高まる。
本実施形態における積層トランス110は、誘電シート113,114の積層枚数が少ない場合に好適である。なぜなら、誘電シート113,114の積層枚数が少ないと、磁性シート116,117の屈曲部での曲率が小さくなるので、製造が容易であるとともに、中央及び周縁での磁性体層の厚みも十分に得られるからである。
なお、誘電シート115の両面に一次巻線112及び二次巻線114をそれぞれ形成することにより、誘電シート113を省略することもできる。二次巻線114は、誘電シート115上ではなく、磁性シート117上に形成してもよい。二次巻線114と磁性シート117との間に、二次巻線112の絶縁性を高める誘電シートを介挿してもよい。誘電シートを複数枚積層した場合には、ところどころに磁性シートを介挿してもよい。また、各構成要素の寸法は、後述する第四実施形態に準ずる。
図7は、本発明に係る多層積層回路基板の第四実施形態を示す分解斜視図である。図8は、積層後の図7におけるVIII−VIII線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
本実施形態の多層積層回路基板は、積層トランス130を除き、第一及び第三実施形態と同じである。したがって、積層トランス130についてのみ説明する。
積層トランス130は、中央に貫通孔131aが形成され貫通孔131aの周囲に一次巻線132aが形成された非磁性体からなる一次巻線用の誘電シート133と、中央に貫通孔131bが形成され貫通孔131bの周囲に一次巻線132bが形成された非磁性体からなる一次巻線用の誘電シート134と、誘電シート133に積層されるとともに中央に貫通孔135aが形成され貫通孔135aの周囲に二次巻線136aが形成された非磁性体からなる二次巻線用の誘電シート137と、誘電シート134に積層されるとともに中央に貫通孔135bが形成され貫通孔135bの周囲に二次巻線136bが形成された非磁性体からなる二次巻線用の誘電シート138と、誘電シート133,134,137,138の周縁に収まる磁性枠139a,139bと、貫通孔131a,131b,135a,135bに収まる磁心140a,140bと、誘電シート133,134,137,138を挟持するとともに磁性枠139a,139b及び磁心140a,140bを介して互いに接する磁性シート141,142とを備えている。
また、磁性枠139aと磁心140aとは、四本の支持部143aを介して接続され、磁性シート144を構成している。磁性枠139bと磁心140bとは、四本の支持部143bを介して接続され、磁性シート145を構成している。誘電シート137と磁性シート144との間には、誘電シート137と同じ大きさで中央に貫通孔146aが形成された二次巻線保護用の誘電シート147が介挿されている。誘電シート138と磁性シート145との間には、誘電シート138と同じ大きさで中央に貫通孔146bが形成された二次巻線保護用の誘電シート148が介挿されている。ここでいう「巻線保護」とは、巻線の絶縁性を高めるという意味である。
誘電シート133,134,137,147及び磁性シート141には、一次巻線132a,132bを接続するスルーホール149,150,151が設けられている。誘電シート133,134,137,138,147及び磁性シート141には、二次巻線136a,136bを接続するスルーホール152,153,154が設けられている。磁性シート141の下面には、一次巻線用の外部電極155,156及び二次巻線用の外部電極157,158が設けられている。スルーホール149〜154内には導電体が充填されている。磁性シート141,142,144,145が積層トランス130のコアとなっている。
なお、図7及び図8は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線132a,132b及び二次巻線136a,136bの巻数やスルーホール149〜154の位置が、図7と図8とで対応していない。また、図7では、膜厚方向(上下方向)を幅方向(左右方向)よりも拡大して示している。
各構成要素の実際の寸法を例示する。磁性シート141,142,144,145は、膜厚が100μm、幅が8mm、奥行きが6mmである。誘電シート133,134,137,138,147,148は、膜厚が33μm、幅が7mm、奥行きが5mmである。一次巻線132a,132b及び二次巻線136a,136bは、膜厚が15μm、線幅が200μmである。積層トランス110,130を構成するシートの積層枚数は、10〜50枚程度が実用的である。
積層トランス130の一次側では、外部電極156→スルーホール151→一次巻線132a→スルーホール150→一次巻線132b→スルーホール149→外部電極155、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス130の二次側では、外部電極157→スルーホール154→二次巻線136a→スルーホール153→二次巻線136b→スルーホール152→外部電極158、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線132a,132bを流れる電流は、磁性シート141,142,144,145に磁束159(図8)を発生させる。その磁束159は、巻数比に応じた起電力を二次巻線136a,136bに発生させる。このようにして、積層トランス130が動作する。
積層トランス130では、一次巻線132a,132bと二次巻線136a,136bとの間が非磁性体層(誘電シート134,137,138,147)であることにより、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線132a,132b及び二次巻線136a,136b上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線132a同士、一次巻線132b同士、二次巻線136a同士、及び二次巻線136bの絶縁性が劣化することもなく、一次巻線132a,132bと二次巻線136a,136bとの間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数kを増大できる。これに加え、誘電シート137,138が介在することによって、一次巻線132a,132bと二次巻線136a,136bとの絶縁性も高まる。
本実施形態の積層トランス130は、誘電シート133,…の積層枚数が多い場合に好適である。なぜなら、誘電シート133,…の積層枚数が多くても、誘電シート133,…の周縁に磁性枠139a,139bが収まるとともに、貫通孔131a,…に磁心140a,140bが収まることにより、磁性シート141,142がほとんど屈曲しないので、製造が容易であるとともに、中央及び周縁での磁性体層の厚みも十分に得られるからである。
なお、磁性枠139aと磁心140aとは、支持部143aで連結せずに、分離してもよい。磁性枠139b及び磁心140bについても同様である。誘電シート147,148は省略してもよい。磁性シート144,145はどちらか一方のみとしてもよい。
図9は、本発明に係る多層積層回路基板の第五実施形態を示す分解斜視図である。図10は、積層後の図1におけるX−X線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
本実施形態の多層積層回路基板は、積層トランス210を除き、第一及び第三実施形態と同じである。したがって、積層トランス210についてのみ説明する。
積層トランス210は、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン211a及び周縁磁性パターン212aと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン213aとからなる混成シート214aと、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン211b及び周縁磁性パターン212bと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン213bとからなる混成シート214bと、誘電パターン213aの一方の面上かつ中央の周囲に位置する一次巻線215aと、誘電パターン213bの一方の面上かつ中央の周囲に位置する二次巻線215bと、混成シート214a,214b、一次巻線215a及び二次巻線215bを挟持するとともに中央磁性パターン211a,211b及び周縁磁性パターン212a,212bを介して互いに接する一対の磁性シート216a,216bとを備えたものである。すなわち、一次巻線215aは誘電パターン213bの他方の面上に位置し、二次巻線215bは誘電パターン213bの一方の面上に位置する、と言い換えることができる。
また、混成シート214a,214b及び磁性シート216aには、一次巻線215aを接続するスルーホール218,219、及び二次巻線215bを接続するスルーホール220,221が設けられている。磁性シート216aの下面には、一次巻線用の外部電極222,223及び二次巻線用の外部電極224,225が設けられている。スルーホール218〜221内には導電体が充填されている。中央磁性パターン211a,211b、周縁磁性パターン212a,212b及び磁性シート216,217が、積層トランス210のコアとなっている。
なお、図9及び図10は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線215a及び二次巻線215bの巻数やスルーホール218〜221の位置が、図9と図10とで対応していない。また、図10では、膜厚方向(上下方向)を幅方向(左右方向)よりも拡大して示している。
積層トランス210の一次側では、外部電極222→スルーホール218→一次巻線215a→スルーホール219→外部電極223、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス210の二次側では、外部電極224→スルーホール220→二次巻線215b→スルーホール221→外部電極225、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線215aを流れる電流は、磁性シート216a,216bに磁束226(図10)を発生させる。その磁束226は、巻数比に応じた起電力を二次巻線215bに発生させる。このようにして、積層トランス210が動作する。
積層トランス210では、一次巻線215aと二次巻線215bとの間が非磁性体層(誘電パターン213b)であることにより、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線215a及び二次巻線215b上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線215a同士及び二次巻線215b同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線215aと二次巻線215bとの間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数kを増大できる。これに加え、誘電パターン213bが介在することによって、一次巻線215aと二次巻線215bとの絶縁性も高まる。
また、混成シート214aは、中央磁性パターン211a及び周縁磁性パターン212aの膜厚と、誘電パターン213bの膜厚とが等しくなっている。混成シート214bも同様である。そのため、混成シート214a,214bの膜厚がどこでも一定になるので、混成シート214a,214bを挟持する一対の磁性シート216a,216bも平坦になる。混成シート214aは、一枚のPETフィルム上に中央磁性パターン211aと周縁磁性パターン212aとをスクリーン印刷で形成し、これをPETフィルムから剥がしたものである。
なお、混成シート214bの両面に一次巻線215a及び二次巻線215bをそれぞれ形成することにより、混成シート214aを省略することもできる。二次巻線215bは、混成シート214b上ではなく、磁性シート216b上に形成してもよい。二次巻線215bと磁性シート216bとの間に、二次巻線215bの絶縁性を高める混成シートを介挿してもよい。また、各構成要素の寸法は、後述する六実施形態に準ずる。
図11は、本発明に係る多層積層回路基板の第六実施形態を示す分解斜視図である。図12は、積層後の図11におけるXII−XII線縦断面図である。以下、これらの図面に基づき説明する。
本実施形態の多層積層回路基板は、積層トランス230を除き、第一及び第三実施形態と同じである。したがって、積層トランス230についてのみ説明する。
積層トランス230は、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン231a及び周縁磁性パターン232aと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン233aとからなる一次巻線形成用の混成シート234aと、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン231b及び周縁磁性パターン232bと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン233bとからなる二次巻線形成用の混成シート234bと、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン231c及び周縁磁性パターン232cと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン233cとからなる一次巻線形成用の混成シート234cと、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン231d及び周縁磁性パターン232dと中央及び周縁以外の部分に形成された非磁性体の誘電パターン233dとからなる二次巻線形成用の混成シート234dと、中央及び周縁にそれぞれ形成された中央磁性パターン231e及び周縁磁性パターン232eと中央及び周縁以外の中央に形成された非磁性体の誘電パターン233eとからなる二次巻線保護用の混成シート234eと、誘電パターン233aの一方の面上かつ中央の周囲に位置する一次巻線235aと、誘電パターン233bの一方の面上かつ中央の周囲に位置する二次巻線235bと、誘電パターン233cの一方の面上かつ中央の周囲に位置する一次巻線235cと、誘電パターン233dの一方の面上かつ中央の周囲に位置する二次巻線235dと、混成シート234a〜234e、一次巻線235a,235c及び二次巻線235b,235dを挟持するとともに中央磁性パターン231a〜231e及び周縁磁性パターン232a〜232eを介して互いに接する一対の磁性シート236a,236bとを備えたものである。
すなわち、一次巻線235aは誘電パターン233bの他方の面上に位置し、二次巻線235bは誘電パターン233bの一方の面上に位置し、二次巻線235bは誘電パターン233cの他方の面上に位置し、一次巻線235cは誘電パターン233cの一方の面上に位置し、一次巻線235cは誘電パターン233dの他方の面上に位置し、二次巻線235dは誘電パターン233dの一方の面上に位置する、と言い換えることができる。
混成シート234a〜234c及び磁性シート236aには、一次巻線235a,235cを接続するスルーホール240,241,242が設けられている。混成シート234a〜234d及び磁性シート236aには、二次巻線235b,235dを接続するスルーホール243,244,245が設けられている。磁性シート236aの下面には、一次巻線用の外部電極246,247及び二次巻線用の外部電極248,249が設けられている。スルーホール240〜245内には導電体が充填されている。中央磁性パターン231a〜231e、周縁磁性パターン232a〜232e及び磁性シート236a,236bが、積層トランス230のコアとなっている。
なお、図11及び図12は概略図であるので、厳密に言えば一次巻線235a,235c及び二次巻線235b,235dの巻数やスルーホール240〜245の位置が、図11と図12とで対応していない。また、図12では、膜厚方向(上下方向)を幅方向(左右方向)よりも拡大して示している。
各構成要素の実際の寸法を例示する。磁性シート236a,236bは、膜厚が100μm、幅が8mm、奥行きが6mmである。混成シート234a〜234eは、膜厚が50μm、幅が8mm、奥行きが6mmである。一次巻線235a,235c及び二次巻線235b,235dは、膜厚が15μm、線幅が200μmである。積層トランス210,230を構成するシートの積層枚数は、10〜50枚程度が実用的である。
積層トランス230の一次側では、外部電極246→スルーホール242→一次巻線235c→スルーホール241→一次巻線235a→スルーホール240→外部電極247、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一方、積層トランス230の二次側では、外部電極249→スルーホール245→二次巻線235d→スルーホール244→二次巻線235b→スルーホール243→外部電極248、の順又はこの逆の順で電流が流れる。一次巻線235a,235cを流れる電流は、中央磁性パターン231a〜231e、周縁磁性パターン232a〜232e及び磁性シート236a,236bに磁束250(図12)を発生させる。その磁束250は、巻数比に応じた起電力を二次巻線235b,235dに発生させる。このようにして、積層トランス230が動作する。
積層トランス230では、一次巻線235a,235cと二次巻線235b,235dとの間が非磁性体層(誘電パターン233b〜233d)であることにより、洩れ磁束を抑制できる。しかも、従来の積層トランスと異なり、一次巻線235a,235cと二次巻線235b,235d上に誘電体ペーストを塗布して誘電体層を形成する必要がないので、一次巻線235a同士、一次巻線235c同士、二次巻線235b同士及び二次巻線235d同士の絶縁性が劣化することもなく、一次巻線235a,235cと二次巻線235b,235dとの間隔も広がらない。したがって、巻線相互の絶縁性を維持したまま電磁結合係数kを増大できる。これに加え、誘電パターン234b〜234dが介在することによって、一次巻線235a,235cと二次巻線235b,235dとの絶縁性も高まる。
また、混成シート234aは、中央磁性パターン231a及び周縁磁性パターン232aの膜厚と、誘電パターン233aの膜厚とが等しくなっている。混成シート234b〜234eも同様である。そのため、混成シート234a〜234eの膜厚がどこでも一定になるので、混成シート234a〜234eを挟持する一対の磁性シート236a,236bも平坦になる。
なお、本発明は、言うまでもなく、上記第一乃至第六実施形態に限定されるものではない。例えば、各シートの枚数、一次巻線及び二次巻線の本数は幾つでもよい。一次巻線及び二次巻線の形状は、螺旋状に限らず、L字状のものを多数重ねたものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
本発明の多層積層回路基板によれば、積層トランスの軽く小さく薄いという利点を十分に生かすことにより、電子機器の更なる小型化を実現することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性シートと一次巻線及び二次巻線と非磁性体からなる誘電シートとを積層してなる積層トランスを内蔵するとともに、回路パターンが形成された配線シートを備えた多層積層回路基板。
【請求項2】
前記配線シートは前記積層トランスの上又は下に積層された、
請求項1記載の多層積層回路基板。
【請求項3】
前記配線シートの一部に前記積層トランスが設けられた、
請求項1又は2記載の多層積層回路基板。
【請求項4】
積層部品が形成された積層部品シートを更に備えた、
請求項1乃至3のいずれかに記載の多層積層回路基板。
【請求項5】
厚膜及びチップ受動素子並びにチップ能動素子が表面に実装された、
請求項1乃至4のいずれかに記載の多層積層回路基板。
【請求項6】
前記積層トランスは、第一の磁性シートと、この第一の磁性シート上に積層されるとともに中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる第一の誘電シートと、この第一の誘電シート上の前記貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、この第一の巻線上に積層されるとともに前記第一の誘電シートの周縁及び前記貫通孔で前記第一の磁性シートに接する第二の磁性シートと、この第二の磁性シート上に積層されるとともに中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる第二の誘電シートと、この第二の誘電シート上の前記貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、この第二の巻線上に積層されるとともに前記第二の誘電シートの周縁及び前記貫通孔で前記第二の磁性シートに接する第三の磁性シートとを含んでなる積層体を備えた、
請求項1乃至5のいずれかに記載の多層積層回路基板。
【請求項7】
前記積層トランスは、前記積層体が更に複数積層され、上端を除く前記第三の磁性シートがその上の積層体で前記第一の磁性シートとして兼用された、
請求項6記載の多層積層回路基板。
【請求項8】
前記積層トランスは、中央に貫通孔が形成された非磁性体からなる誘電シートと、この誘電シートの一方の面上かつ前記貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、前記誘電シートの他方の面上かつ前記貫通孔の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、前記誘電シート、前記第一の巻線及び前記第二の巻線を挟持するとともに当該誘電シートの周縁及び前記貫通孔で互いに接する一対の磁性シートとを備えた、
請求項1乃至5のいずれかに記載の多層積層回路基板。
【請求項9】
前記積層トランスは、前記誘電シートの周縁に収められた磁性枠と、前記貫通孔に収められた磁心とを更に備え、前記一対の磁性シートが前記誘電シートを挟持するとともに前記磁性枠及び前記磁心を介して互いに接する、
請求項8記載の多層積層回路基板。
【請求項10】
前記磁性枠及び前記磁心が支持部を介して互いに連結された磁性シートからなる、
請求項9記載の多層積層回路基板。
【請求項11】
前記積層トランスは、中央及び周縁を磁性パターンとし前記中央及び周縁以外の部分を非磁性体からなる誘電パターンとした混成シートと、前記誘電パターンの一方の面上かつ前記中央の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか一方又は両方からなる第一の巻線と、前記誘電パターンの他方の面上かつ前記中央の周囲に位置するとともに一次巻線及び二次巻線のどちらか他方又は両方からなる第二の巻線と、前記混成シート、前記第一の巻線及び前記第二の巻線を挟持するとともに前記磁性パターンを介して互いに接する一対の磁性シートとを備えた、
請求項1乃至5のいずれかに記載の多層積層回路基板。
【請求項12】
前記積層トランスは、中央及び周縁を磁性パターンとし前記中央及び周縁以外の部分を非磁性体からなる誘電パターンとした混成シートが、前記第一の巻線又は前記第二の巻線と前記磁性シートとの間に介挿された、
請求項11記載の多層積層回路基板。
【請求項13】
前記混成シートは、前記磁性パターンの膜厚と前記誘電パターンの膜厚とが等しい、
請求項11又は12記載の多層積層回路基板。

【国際公開番号】WO2005/032226
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509194(P2005−509194)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012431
【国際出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(390005223)株式会社タムラ製作所 (526)
【Fターム(参考)】