説明

多層配線基板

【課題】複数の貫通導体が平面視で重なる場合でも、貫通導体等における機械的な破壊を抑制することが可能な多層配線基板を提供する。
【解決手段】樹脂絶縁層1と薄膜配線層2とが交互に積層され、上下の薄膜配線層2が貫通導体3によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部4を有し、貫通導体3は、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されたものを含んでおり、平面視で重なる複数の貫通導体3(3a,3b)のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなる多層配線基板5である。弾性率が低い錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aによって複数の貫通導体3が平面視で重なることによる応力を緩和し、貫通導体3の内部等におけるクラック等の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の薄膜配線層が樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を上面の端子に接続し、この端子と電気的に接続された下面の接続パッドを外部電気回路に電気的に接続するための多層配線基板として、複数の薄膜配線層と複数の樹脂絶縁層とが交互に積層されてなる薄膜多層部が、セラミック基板等の基板の上面に配置されてなる多層配線基板が知られている。このような多層配線基板は、例えば、半導体素子の電気的なチェックを行なう、いわゆるプローブカード用の基板として用いられている。
【0003】
このような多層配線基板におけるセラミック基板は、例えば、酸化アルミニウム質焼結体等からなる絶縁基体の上下面および内部に、タングステン等の金属材料からなるメタライズ配線層や貫通導体等の配線導体が配置された構造である。そして、薄膜多層部の上面に露出して形成された薄膜配線層が半導体素子と接続される端子として機能し、セラミック基板の下面に形成された配線導体が外部接続用の接続パッドとして機能する。
【0004】
薄膜多層部は、高い密度で電極が配置された半導体素子に対応して薄膜配線層が形成されたものであり、近年の半導体素子の電極の高密度化に対応するために、より一層の薄膜配線層の高密度化が求められている。また、この高密度化のために、薄膜配線層を上下に接続する貫通導体についてもより一層の高密度化が必要である。そして、この貫通導体の高密度化のために、上下に連続する複数の樹脂絶縁層にわたって、それぞれの樹脂絶縁層の貫通導体を平面視で互いに重なるようにして形成すること(いわゆるスタックドビアとすること)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−218531号公報
【特許文献2】特開2006−173333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように複数の樹脂絶縁層にわたって、貫通導体が平面視で重なるように形成した場合には、貫通導体を形成する銅等の金属材料と樹脂絶縁層との間で熱膨張率(線膨張係数)が異なるため、この熱膨張率の差に起因して、樹脂絶縁層と貫通導体との間に大きな熱応力が生じやすい。そして、この熱応力によって、貫通導体や、貫通導体と樹脂絶縁層との界面においてクラックや断線等の機械的な破壊が生じやすいという問題点があった。このような機械的な破壊が生じた場合には、例えば、薄膜多層部の上面側の薄膜配線層と下面側の薄膜配線層との間で、電気抵抗の増加や電気的な接続の信頼性の低下等の不具合を生じる。
【0007】
本発明は上記従来の技術の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、貫通導体が、上下に連続する複数の樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されている場合でも、貫通導体や貫通導体と樹脂絶縁層との界面等に機械的な破壊が生じることを効果的に抑制することが可能であり、小型化が容易で、かつ信頼性が高い多層配線基
板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層配線基板は、樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の前記薄膜配線層が前記樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板であって、前記貫通導体は、上下に連続する複数の前記樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されたものを含んでおり、平面視で重なる複数の前記貫通導体のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、上下に連続する3層以上の前記樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に前記貫通導体が形成されており、これらの貫通導体のうちの上下方向の中央部分に位置する前記樹脂絶縁層に形成されているものが錫を主成分とする金属材料からなり、他のものが銅を主成分とする金属材料からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、前記貫通導体のうちの錫を主成分とする金属材料からなるものの一端面が位置する前記樹脂絶縁層の層間において、上下の前記樹脂絶縁層同士が、前記貫通導体に対応した位置に貫通孔を有する樹脂接着層を介して互いに接着されているとともに、上下の前記樹脂絶縁層の前記貫通導体同士が、前記樹脂接着層の前記貫通孔内に充填された錫を主成分とする金属材料によって互いに電気的に接続されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、前記樹脂接着層の前記貫通孔に充填された錫を主成分とする前記金属材料は、側面の少なくとも一部が凸状に湾曲していることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、複数の前記貫通導体をそれぞれ上下に電気的に接続する前記金属材料が充填された前記貫通孔が前記樹脂接着層に複数個配置されており、前記金属材料の前記側面は、平面視で前記樹脂接着層の中心部から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線と交差する部分のうち前記中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、または該交差部において他の部分よりも大きく凸状に湾曲していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層配線基板によれば、薄膜多層部において、貫通導体は、上下に連続する複数の樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されたものを含んでおり、平面視で重なる複数の貫通導体のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなることから、上下の貫通導体を連続させた、いわゆるスタックドビアを有する場合でも、貫通導体と樹脂絶縁層との間に生じる熱応力を銅よりも弾性率が低い錫を主成分とする金属材料によって緩和することができる。そのため、貫通導体や貫通導体と薄膜配線層との界面等にクラック等の機械的な破壊が生じることが抑制される。また、複数の貫通導体のうち一部のもののみが錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなるものであることから、複数の貫通導体における合計の電気抵抗を低く抑えることができる。そのため、多層配線基板としての電気抵抗が高くなるようなことは効果的に抑制される。
【0014】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、上下に連続する3層以上の樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に貫通導体が形成されており、これらの貫通導体のうちの上下方向の中央部分に位置する樹脂絶縁層に形成されているものが錫を主成分
とする金属材料からなり、他のものが銅を主成分とする金属材料からなる場合には、貫通導体における熱応力の緩和をより一層効果的に行なわせることができる。
【0015】
すなわち、薄膜多層部において、上下に連続する3層以上の樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に貫通導体が形成されているときに、応力が集中しやすい上下方向の中央部分に位置する樹脂絶縁層の貫通導体において弾性率を低く抑えることができるため、熱応力の緩和をより有効なものとすることができる。
【0016】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、貫通導体のうちの錫を主成分とする金属材料からなるものの一端面が位置する樹脂絶縁層の層間において、上下の樹脂絶縁層同士が、貫通導体に対応した位置に貫通孔を有する樹脂接着層を介して互いに接着されているとともに、上下の樹脂絶縁層の貫通導体同士が、樹脂接着層の貫通孔内に充填された錫を主成分とする金属材料によって互いに電気的に接続されている場合には、貫通導体における熱応力の緩和に有効であるとともに、生産性を高める上でも有効な多層配線基板とすることができる。
【0017】
すなわち、この場合には、貫通導体を有する複数の樹脂絶縁層を、錫を主成分とする金属材料で貫通導体が形成された部分を境にして上下に分けて製作し、これらを樹脂接着層で接着して多層配線基板を生産することができるため、薄膜多層部の生産性を向上させることが容易であり、多層配線基板としての生産性を高める上でも有効である。この場合、錫(融点:約232℃)を主成分とする金属材料の融点が比較的低いため、上下の貫通導体
を接続させるために樹脂接着層の貫通孔内に金属材料を溶融させて充填させることも容易である。また、錫を主成分とする金属材料は、例えば錫−銀はんだを用いることができ、銅を主成分とする金属材料からなる貫通導体に対する接合が容易である。
【0018】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、樹脂接着層の貫通孔に充填された錫を主成分とする金属材料の側面の少なくとも一部が凸状に湾曲している場合には、金属材料と薄膜配線層との接続の信頼性をさらに向上させることができる。
【0019】
すなわち、この場合には、樹脂絶縁層と樹脂接着層との熱膨張率の差に起因して生じる横方向(つまり、樹脂絶縁層と樹脂接着層との界面に沿った水平方向)の熱応力が貫通孔内の金属材料に対してせん断応力として作用することを抑制することができる。これは、上記応力が金属材料に作用したときに、湾曲した側面に沿って上下斜め方向に分散され、横方向にせん断応力として作用する成分が小さくなることによる。
【0020】
したがって、応力による金属材料と貫通導体(または金属材料と貫通導体との間に介在している薄膜配線層)との間の亀裂等の機械的な破壊をより確実に抑制して、金属材料と貫通導体および薄膜配線層との接続信頼性をさらに向上させることができる。
【0021】
また、本発明の多層配線基板は、上記構成において、複数の貫通導体をそれぞれ上下に電気的に接続する金属材料が充填された貫通孔が樹脂接着層に複数個配置されており、金属材料の側面が、平面視で樹脂接着層の中心部から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線と交差する部分のうち中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、またはこの交差部において他の部分よりも大きく凸状に湾曲している場合には、複数の貫通導体に対応して配置された樹脂接着層のそれぞれの金属材料にせん断応力として作用する熱応力をより効果的に緩和することができる。
【0022】
すなわち、この場合には、樹脂接着層において、中心から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線に沿った方向に、金属材料に大きな熱応力が作用する傾向がある。そのため、これらの金属材料に対しては、上記仮想の直線が交差する部分においてより大きな熱応
力(せん断応力)が作用する傾向があり、特に、いわゆる昇温過程において上記交差する部分のうち中心部に近い側に位置する交差部において応力による金属材料と貫通導体や薄膜配線層との間の断線が生じやすい。
【0023】
これに対して、上記構成を備えている場合には、金属材料において、熱応力が集中しやすい側面が大きく湾曲していることで熱応力が分散され、応力を緩和する効果を高めることができる。したがって、複数の金属材料が配置されている構成において、金属材料の側面の湾曲の範囲を小さく抑えながら、金属材料と貫通導体や薄膜配線層との接続信頼性を効果的に向上させることができる。
【0024】
言い換えれば、上記構成において、金属材料の、仮想の直線と交差する部分のうち中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、またはこの部分において他の部分よりも大きく湾曲している(より外側に突出している)場合には、金属材料の側面について湾曲させる部分、つまり外側に張り出させる範囲を小さく抑えながら応力を緩和することができるため、金属材料(および貫通導体)の高密度化の上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す多層配線基板の要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図3】本発明の多層配線基板の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ本発明の多層配線基板の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図5】(a)は本発明の多層配線基板の実施の形態の他の例における樹脂接着層の部分を平面視した平面図(透視図)であり、(b)は(a)の要部を拡大して示す要部拡大平面図である。
【図6】(a)および(b)はそれぞれ本発明の多層配線基板の実施の形態の他の例における要部を拡大して示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の多層配線基板を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の多層配線基板の実施の形態の一例を示す断面図であり、図2は、図1に示す多層配線基板の要部を拡大して示す要部拡大断面図である。図1および図2において、1は樹脂絶縁層,2は薄膜配線層,3は貫通導体,4は薄膜多層部である。樹脂絶縁層1,薄膜配線層2および貫通導体3によって薄膜多層部4が構成され、薄膜多層部4がセラミック基板6の上面に積層されて多層配線基板5が構成されている。
【0027】
樹脂絶縁層1は、例えば長方形状や正方形状等の四角形状、または円形状等で、厚みが約25μm程度の層状に形成されている。また、図1に示す例において、複数の樹脂絶縁層1は、平面視でそれぞれの外形寸法および形状が同様であり、多層配線基板5の外側面に凹凸が生じないように積層されている。積層された複数の樹脂絶縁層1は、薄膜多層部4における絶縁性の基体部分(符号なし)となるものであり、例えば上面に半導体素子等の電子部品(図示せず)が搭載され、下面がセラミック基板6等の剛性の高い基板上に取着される。
【0028】
これらの樹脂絶縁層1は、例えば、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,液晶ポリマー等の樹脂材料により形成されている。
【0029】
樹脂絶縁層1を厚み方向に貫通する貫通導体3および薄膜配線層2は、多層配線基板5に搭載される半導体素子等の電極をプリント回路基板等の外部の電気回路(図示せず)に
電気的に接続するための導電路となる部分である。例えば、薄膜多層部4の上面の中央部に半導体素子を搭載するとともに、その電極を薄膜多層部4の最上面に露出する薄膜配線層2にはんだやプローブ等を介して電気的に接続すれば、半導体素子の電極が薄膜配線層2および貫通導体3を介して薄膜多層部4の最下面の薄膜配線層2と導通される。そして、この薄膜多層部4の最下面の薄膜配線層2を、例えばセラミック基板6にあらかじめ形成しておいた配線導体7を介して外部の電気回路に電気的に接続すれば、半導体素子の電極と外部の電気回路とが電気的に接続される。
【0030】
なお、図1に示す例においては、セラミック基板6も、平面視で薄膜多層部4と同様の形状および寸法で形成されている。つまり、多層配線基板5は、例えば全体が四角板状や円板状等であり、上面が、実装や電気チェックを行なう半導体素子等の電子部品を搭載(半導体素子を多層配線基板5に電気的および機械的に接続して半導体装置とするための実装、または半導体素子に対して電気的なチェックを施すための一時的な載置)するための部位として使用される。半導体素子としては、ICやLSI等の半導体集積回路素子や、半導体基板の表面に微小な電子機械機構が形成されてなるマイクロマシン(いわゆるMEMS素子)等が挙げられる。
【0031】
薄膜配線層2は、例えば、銅や銀,パラジウム,金,白金,アルミニウム,クロム,ニッケル,コバルト,チタン等の金属材料またはこれらの金属材料の合金材料からなる。
【0032】
また、薄膜配線層2は、上記の金属材料をスパッタリング法や蒸着法,めっき法等の方法で樹脂絶縁層1の上面等の表面に被着させ、必要に応じてマスキングやエッチング等のトリミング加工を施すことによって、所定のパターンで樹脂絶縁層1の表面に被着させることができる。
【0033】
貫通導体3は、例えば上記の樹脂絶縁層1の一部にCOレーザやYAGレーザによるレーザ加工,RIE(リアクティブ イオン エッチング)または溶剤によるエッチング等の孔あけ加工で厚み方向に貫通する貫通孔(符号なし)を形成し、この貫通孔内に貫通導体3となる導体材料を、スパッタリング法や蒸着法,めっき法,導体ペーストの充填等の方法で充填することによって形成することができる。
【0034】
このような貫通導体3も、例えば、銅や銀,パラジウム,金,白金,アルミニウム,クロム,ニッケル,コバルト,チタン,タングステン等の金属材料またはこれらの金属材料の合金材料からなるものとすることができるが、後述する、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成された貫通導体3については、平面視で重なる複数の貫通導体3のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなるものとする必要がある。
【0035】
すなわち、本発明の多層配線基板5においては、薄膜多層部4の貫通導体3が、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されたものを含んでおり、平面視で重なる複数の貫通導体3のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aであり、他が銅を主成分とする金属材料からなる貫通導体3bである。
【0036】
このように、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって、平面視でそれぞれの貫通導体3を互いに重ならせた、つまり複数の貫通導体3を上下に(必要に応じて薄膜配線層2を介して)連続させた、いわゆるスタックドビアを有する薄膜多層部4においては、貫通導体3と樹脂絶縁層1との間に生じる熱応力を、銅よりも弾性率が低い錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aによって効果的に緩和することができる。そのため、貫通導体3(特に、貫通導体3の内部のうち、特に薄膜配線層2と接する部分の端部分等)
や貫通導体3と薄膜配線層2との界面等にクラック等の機械的な破壊が生じるようなことが抑制される。また、電気抵抗が低い銅(錫の抵抗率が約11.5Ω・mであるのに対し、銅の抵抗率が約1.7Ω・cmである。)を主成分とする金属材料からなる貫通導体3bによ
って貫通導体3全体の電気抵抗を低く抑えることができる。
【0037】
また、このような平面視で重なる位置に形成された貫通導体3a,3bを有することによって、薄膜多層部4および多層配線基板5全体の平面視における面積を小さく抑えることができる。
【0038】
この場合、銅のヤング率が約129.8GPaであるのに対して、錫のヤング率が約49.9G
Paであり、銅に比べて錫の方が同じ応力に対して変形量が約2.6倍大きい。そのため、
上記のような応力の緩和を有効に行なわせることができる。
【0039】
なお、銅を主成分とする金属材料は、銅を20質量%程度以上含むものであることが、貫通導体3における電気抵抗を効果的に低く抑える上で好ましい。銅を主成分とする金属材料において、銅に添加する材料としては、例えばチタンやクロム,ニッケル,コバルト等を挙げることができる。
【0040】
また、錫を主成分とする金属材料は、錫を質量90%程度以上含むものであることが、貫通導体3における応力の緩和を効果的なものとする上で好ましい。錫を主成分とする金属材料において、錫に添加する金属材料としては銀や銅,ビスマス,インジウム等を用いることができる。このような金属材料を添加した錫としては、例えば低融点ろう材(いわゆる鉛フリーはんだ等)となるものを用いることもできる。例えば、錫に銀を5質量%程度添加した場合であれば、錫が100質量%である場合に比べてウィスカ発生防止等の効果を
得ることができる。
【0041】
貫通導体3は、電気抵抗を低く抑える上では横断面(電流が流れる方向に直交する方向における断面)の面積が大きいほど好ましく、多層配線部4の外形の寸法を小さく抑える上では横断面が小さいほど好ましい。また、貫通孔導体3のうち特に上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されているもの3a,3bについては、上記のように応力を緩和してクラックを抑制する上では円形が好ましい。
【0042】
このような貫通導体3の横断面については、上記の要件を考慮しながら、適宜設定すればよく、例えば、貫通導体3の長さ(樹脂絶縁層1の厚み方向の寸法)が15〜30μm程度の場合であれば、直径が30〜50μm程度の円形状や、長軸の長さが30〜50μm程度で短軸の長さが30〜50μm程度の楕円形状等とすればよい。
【0043】
なお、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されている貫通導体3a,3bについて、図1においては、3層の樹脂絶縁層1においてそれぞれの貫通導体3a,3bが平面視で互いに重なる位置に形成された例を示しているが、4層以上または2層の樹脂絶縁層1においてそれぞれの貫通導体3a,3bが平面視で互いに重なる位置に形成されていてもよい。このような場合でも、平面視で互いに重なる上下の貫通導体3の一部(少なくとも1つ樹脂絶縁層1の貫通導体3)が錫を主成分とする金属材料からなるもの3aであれば、全部の貫通導体3を銅を主成分とする金属材料からなるもの3bとした場合に比べて、応力を緩和して貫通導体3等におけるクラックの発生を低減することができる。
【0044】
ただし、薄膜多層部4において、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で重なる位置に貫通導体3が形成されている部分においては、上下方向の中央部分に位置する樹脂絶縁層1に、錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aを配置することが
好ましい。これは、上下の貫通導体3が平面視で重なる位置に形成されている場合には、上下方向の中央部に位置する樹脂絶縁層1の貫通導体3において上下両方向からの熱応力が集中するため、この中央部に位置する樹脂絶縁層1の貫通導体3に作用する応力が大きくなる傾向があり、この部分で応力をより効果的に緩和することが、貫通導体3や貫通導体3と薄膜配線層2との界面におけるクラック等の機械的な破壊を抑制する上で効果的であるためである。
【0045】
すなわち、本発明の多層配線基板5において、上下に連続する3層以上の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に貫通導体3(3a,3b)が形成されており、これらの貫通導体3のうちの上下方向の中央部分に位置する樹脂絶縁層1に形成されているものが錫を主成分とする金属材料からなり、他のものが銅を主成分とする金属材料からなる場合には、貫通導体3における熱応力の緩和をより一層効果的に行なわせることができる。
【0046】
そして、上下に連続する3層以上の樹脂絶縁層1にわたって、それぞれの貫通導体3が互いに平面視で重なっているときに、応力が集中しやすい中央の樹脂絶縁層1の、錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aにおいて弾性率を低く抑えることができるため、貫通導体3と樹脂絶縁層1との熱膨張率の差等に起因する熱応力の緩和をより有効に行なわせることができる。
【0047】
この場合、樹脂絶縁層1の厚みが、前述した樹脂材料による形成が容易な約15〜30μm程度である場合には、個々の貫通導体3の長さも約15〜30μm程度になる。そして、このような場合には、上下に連続する樹脂絶縁層1について、5層程度までであれば、それぞれの貫通導体3が平面視で互いに重なる位置に形成されていても、上下方向の中央部に位置する1層の樹脂絶縁層1において錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aを形成すれば、熱応力をより効果的に緩和することができる。
【0048】
以上のような薄膜多層部4を有する多層配線基板5は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0049】
まず、セラミック基板6等の比較的剛性が高い基板を準備する。この基板は、剛性が低い薄膜多層部4をその上面に被着させて剛性の高い多層配線基板5とするためのものである。セラミック基板6は、例えば酸化アルミニウム質焼結体や窒化アルミニウム質焼結体,ムライト質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ガラス母材中に結晶成分を析出させた結晶化ガラスまたは雲母やチタン酸アルミニウム等の微結晶焼結体からなる、金属材料とほぼ同等の精密な機械加工が可能なセラミック材料(いわゆるマシナブルセラミックス)等のセラミック材料により形成されている。
【0050】
セラミック基板6は、例えば酸化アルミニウム質焼結体からなる場合であれば、次のようにして製作することができる。すなわち、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素等の原料粉末に適当な有機バインダおよび有機溶剤を添加混合して作製したスラリーをドクターブレード法やリップコータ法等のシート成形技術でシート状に成形することによってセラミックグリーンシートを作製して、その後、セラミックグリーンシートを切断加工や打ち抜き加工によって適当な形状および寸法とするとともに、これを約1300〜1500℃の温度で焼成することによって製作することができる。
【0051】
また、セラミック基板6には、必要に応じて配線導体7を、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウム,金,白金等の金属材料を用いて、メタライズ法やめっき法等の方法で被着させておく。配線導体7は、例えばタングステンからなる場合であれば、タングステンのペーストをセラミック基板6となるセラミックグリーンシートの表面
やあらかじめ形成しておいた貫通孔の内部等に塗布または充填し、セラミックグリーンシートと同時焼成することによって被着させることができる。
【0052】
次に、セラミック基板6の上面に、上記の樹脂材料(ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂,ポリエーテルイミド樹脂,液晶ポリマー等)の未硬化物を層状に塗布して硬化させ樹脂絶縁層1を被着させるとともに、樹脂絶縁層1の一部を厚み方向に貫通させるように、COレーザやYAGレーザによるレーザ加工,RIE(リアクティブ イオン エッチング)または溶剤によるエッチング等の孔あけ加工を施して貫通孔を形成する。その後、樹脂絶縁層1の上面および貫通孔の内部に上記の金属材料(銅や銀,パラジウム,金,白金,アルミニウム,クロム,ニッケル,コバルト,チタン,タングステン)をスパッタリング法や蒸着法,めっき法等の方法でパターン状に被着または充填することよって、薄膜配線層2および貫通導体3を形成する。この際に、貫通導体3のうち、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に形成するものについては、一部を、錫を主成分とする金属材料で形成する必要があり、他のものを、銅を主成分とする金属材料で形成する必要がある。
【0053】
錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aは、例えば錫−銀系の低融点ろう材(いわゆる鉛フリーはんだ)のペーストを上記樹脂絶縁層1の貫通孔内に充填して加熱すれば、形成することができる。
【0054】
また、銅を主成分とする金属材料からなる貫通導体3bは、例えば、樹脂絶縁層1の内側面にスパッタリング法によってチタン等の薄膜金属層を被着させておき、この薄膜金属層上にめっき法によって銅を被着させて貫通孔を銅のめっき層で充填することによって形成することができる。
【0055】
そして、この樹脂絶縁層1,薄膜配線層2および貫通導体3を形成する工程を繰り返せば、セラミック基板6の上面に薄膜多層部4が配置され、薄膜多層部4において、上下に連続する複数の樹脂絶縁層1にわたって平面視で互いに重なる位置に、錫を主成分とする金属材料からなる貫通導体3aと、銅を主成分とする貫通導体3bとが形成された多層配線基板5を製作することができる。
【0056】
本発明の多層配線基板5においては、上記いずれの構成においても、例えば図3に示すように、貫通導体3のうちの錫を主成分とする金属材料からなるもの3aの一端面が位置する樹脂絶縁層1の層間において、上下の樹脂絶縁層1同士が、貫通導体3(3a,3b)に対応した位置に貫通孔(符号なし)を有する樹脂接着層8を介して互いに接着されているとともに、上下の樹脂絶縁層1の貫通導体3(3a,3b)同士が、樹脂接着層8の貫通孔内に充填された錫を主成分とする金属材料9によって互いに電気的に接続されている場合には、多層配線基板5としての生産性を高める上で有効である。
【0057】
すなわち、貫通導体3(3a,3b)を有する複数の樹脂絶縁層1を、錫を主成分とする金属材料で貫通導体3aが形成された部分で上下に分けて作り、これらを樹脂接着層8で接着して多層配線基板5を生産することができるため、多層配線基板5としての生産性を高めることが容易である。言い換えれば、薄膜多層部4を、例えばセラミック基板6の上面に順次樹脂絶縁層1等を積層させるのではなく、これらの樹脂絶縁層1等を複数のブロックに分けて並行して製作することができるので、生産性を高めることができる。
【0058】
また、錫(融点:約232℃)を主成分とする金属材料9の融点が比較的低いため、上下
の貫通導体3(3a,3b)を接続させるために樹脂接着層8の貫通孔内に金属材料9を溶融させて充填させることも容易である。この場合、錫を主成分とする金属材料9(以下、単に金属材料9という場合がある)は、例えば錫−銀はんだを用いることができ、銅を
主成分とする金属材料からなる貫通導体3bに対する接合も容易である。
【0059】
樹脂接着層8としては、樹脂絶縁層1と同様の樹脂材料を用いることができるが、硬化温度がより低いものが好適に使用される。これは、錫を主成分とする金属材料9を樹脂接着層8内に配置した状態で樹脂接着層8を熱硬化させるときの金属材料9の変形の抑制や、作業性等を考慮することによる。この場合、樹脂絶縁層1と樹脂接着層8との間で熱膨張率が異なり、熱応力が生じる可能性がある。また、樹脂接着層8の貫通孔は、樹脂絶縁層1の場合と同様に、レーザ加工やRIE,溶剤によるエッチング等の方法で形成することができる。
【0060】
樹脂接着層8内に充填された錫を主成分とする金属材料9は、錫を主成分とする貫通導体3aと同様のものでもよい。この場合には、例えば、貫通導体3aとなる錫を主成分とする金属材料(低融点ろう材のペースト等)を樹脂絶縁層1の貫通孔内に充填する際に、その金属材料が貫通孔の上端からはみ出すような量としておいて、このはみ出した金属材料を樹脂接着層8の貫通孔内に充填させるようにすれば、樹脂接着層8の貫通孔への金属材料の充填が容易となるため、多層配線基板5の生産性をより高くすることができる。
【0061】
また、この場合には、例えば図3に示すように、上下の貫通孔(樹脂絶縁層1の貫通孔と樹脂接着層8の貫通孔)の互いに接続し合う部分における開口を他の部分よりも広くしておいた方が、低融点ろう材のペースト等の充填をより容易とする上で好ましい。この場合には、樹脂接着層8からその下側に接する樹脂絶縁層1にかけて、錫を主成分とする金属材料からなる一続きの貫通導体(符号なし)が形成されているとみなすこともできる。そして、この一続きの貫通導体を介して、銅を主成分とする金属材料からなる上下の貫通導体3bが互いに電気的に接続されている。
【0062】
なお、樹脂接着層8の錫を主成分とする金属材料9と貫通導体3との電気的な接続は、必ずしも互いに直接に接続させて行なわせる必要はなく、間に薄膜配線層2を介在させて行なうようにしてもよい。例えば、図3に示す例において、金属材料9の上側の端面は薄膜配線層2と直接に接続され、この薄膜配線層2を介して上側の貫通導体3(3b)と電気的に接続されている。
【0063】
また、本発明の多層配線基板5は、上下の樹脂絶縁層1同士が樹脂接着層8を介して互いに接着されているとともに、上下の樹脂絶縁層1の貫通導体3同士が金属材料9によって互いに電気的に接続されている上記構成において、金属材料9の側面の少なくとも一部が凸状に湾曲している場合には、金属材料9と貫通導体3および薄膜配線層2との接続信頼性を向上させることができる。これについて、他の実施形態として以下に説明する。なお、金属材料9の側面を上記のように湾曲させるためには、この金属材料9が充填されている樹脂接着層8の貫通孔の内側面も同様に湾曲している必要がある。
【0064】
本発明の多層配線基板5の実施の形態の他の例を図4に示す。なお、図4(a)〜(c)は、それぞれ本発明の多層配線基板5の実施の形態の他の例における要部を示す要部断面図である。図4において図1および図3と同様の部位には同様の符号を付している。
【0065】
図4(a)に示すように、樹脂接着層8内に充填された錫を主成分とする金属材料9の側面の一部が凸状に湾曲している場合には、樹脂接着層8と金属材料9との間に生じる熱応力が、樹脂接着層8の貫通孔内に充填された錫を主成分とする金属材料9に対してせん断応力として作用することを抑制することができる。これは、上記応力が金属材料9に作用したときに、湾曲した側面に沿って斜め方向に分散され、せん断応力として作用する成分が小さく抑えられることによる。
【0066】
したがって、応力による金属材料9と薄膜配線層2との間の亀裂等をより確実に抑制して、金属材料9と薄膜配線層2との接続信頼性をさらに向上させることができる。
【0067】
なお、図4(a)に示す例は、図3に示すような傾斜した金属材料9の側面のうち下側が凸状に湾曲した例である。この例において、湾曲した側面のうち最も外側に出ている部分(最突出部)は金属材料9の側面の上下方向の途中にあり、この最突出部から下端にかけて再び金属材料9の中心方向に曲がっている。つまり、側面の上下方向の途中の一部が外側に突出して凸部分になっている。
【0068】
金属材料9が上記形状の場合には、斜め方向に分散された上記応力のうち金属材料9に対して上下方向に圧縮させる成分が凸部分の上下で互いに打ち消しあうため、応力が金属材料9と薄膜配線層2とを引き剥がす方向に作用することが抑制される。そのため、金属材料9と薄膜配線層2との接続信頼性をさらに向上させる上で有効である。
【0069】
また、図4(b)に示すように、金属材料9の側面の全体が凸状に湾曲している場合には、金属材料9の側面の上端から下端にかけて(つまり側面のより広い範囲で)応力を分散させることができる。そのため、この場合にも、金属材料9と薄膜配線層2との接続信頼性をさらに向上させることができる。
【0070】
なお、図4(b)に示す例においては、金属材料9の湾曲した側面の曲がり方(金属材料9の縦断面における側面に相当する弧状の線の曲率半径)が途中で変化し、下部において上部よりも大きく湾曲している(より外側に突出している)。このような場合には、金属材料9の側面の上端から下端にかけて湾曲させた構造において、図4(a)に示す例のような、側面の一部のみを湾曲させたときの効果(分散させた応力が金属材料9と薄膜配線層2とを引き剥がす方向に作用することの抑制)をある程度得ることもできる。
【0071】
また、図4(c)に示す例は、金属材料9の側面のうち下側が凸状に湾曲しているとともに、最突出部が下端に位置している例である。言い換えれば、樹脂接着層8の金属材料9が充填されている貫通孔の開口径が、下端において最も大きくなっている例である。
【0072】
この例のように、上下の貫通孔(樹脂絶縁層1の貫通孔と樹脂接着層8の貫通孔)の互いに接続し合う部分における開口を他の部分よりも広くしておいた方が、金属材料9となる低融点ろう材のペースト等の貫通孔への充填をより容易とする上で好ましい。
【0073】
金属材料9について、側面の少なくとも一部を凸状に湾曲させるには、例えば以下のようにすればよい。
【0074】
すなわち、まず、未硬化で、ある程度塑性変形が可能な状態の樹脂接着層8に図3に示すような貫通孔を、前述した樹脂絶縁層1の場合と同様にレーザ加工やRIE,溶剤によるエッチング等の孔あけ加工で形成する。
【0075】
その後、例えば上記のように樹脂絶縁層1の貫通孔の上端から貫通導体3(3a)となる金属の材料(低融点ろう材のペースト)をはみ出させておいて、このはみ出した金属の材料を樹脂接着層8の貫通孔内に充填させるようにして、その後、未硬化の樹脂接着層8を硬化させることで形成することができる。はみ出した金属の材料が樹脂接着層8の貫通孔内に充填される際に、貫通孔の体積に比べて金属材料9の体積を多くしておくことによって樹脂接着層8が塑性変形し(貫通孔が横方向に膨れて)、貫通孔の内側面が湾曲する。これに応じて、金属材料9の側面が湾曲する。
【0076】
また、本発明の多層配線基板5は、例えば図5に示すように、複数の貫通導体3をそれ
ぞれ上下に電気的に接続する金属材料9が充填された貫通孔が樹脂接着層8に複数個配置されているときに、材料9の側面が、平面視で樹脂絶縁層1の中心から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線Lと交差する部分のうち中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、またはこの交差部において他の部分よりも大きく湾曲している場合には、複数の貫通導体3に対応して配置された樹脂接着層8のそれぞれの金属材料9にせん断応力として作用する熱応力をより緩和することができる。なお、図5(a)は本発明の多層配線基板5の実施の形態の他の例における樹脂接着層8の部分を平面視した平面図(透視図)であり、図5(b)は、図5(a)の要部を拡大して示す要部拡大平面図である。図5において図1および図3と同様の部位には同様の符号を付している。
【0077】
この構成における断面の要部の一例を図6に示す。なお、図6(a)および(b)は、それぞれ本発明の多層配線基板5の実施の形態の他の例における要部を示す要部断面図である。図6において図1および図3と同様の部位には同様の符号を付している。
【0078】
図6(a)に示す例において、金属材料9の側面は、平面視で樹脂絶縁層1の中心から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線Lと交差する部分のうち前記中心部に近い側に位置する交差部において他の部分よりも大きく湾曲している。この場合には、複数の金属材料9が樹脂接着層8に配置されている多層配線基板5において、金属材料9における熱応力をより緩和することができる。
【0079】
すなわち、金属材料9において、熱応力がより大きく作用する傾向がある側面の一部(仮想の直線Lと交差する中心部に近い側の交差部)が湾曲していることで、熱応力が上下方向(斜め方向)により一層効果的に分散され、緩和効果を高めることができる。したがって、上記構成において、金属材料9と貫通導体3や薄膜配線層2との接続信頼性を効果的に向上させることができる。
【0080】
また、図6(b)に示すように、平面視で樹脂絶縁層1の中心から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線Lと交差する部分のうち前記中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲している場合には、金属材料9のうち凸状に湾曲させる範囲をより小さく抑えながら、金属材料9と薄膜配線層2との界面に働くせん断応力をより効果的に低減することができる。
【0081】
言い換えれば、上記構成において、金属材料9の、仮想の直線Lと交差する部分のうち中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、またはこの部分において他の部分よりも大きい場合には、金属材料9の側面について湾曲させる部分、つまり外側に張り出させる範囲を小さく抑えながら応力を緩和することができるので、金属材料9(および貫通導体3)の高密度化の上で有利である。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
酸化アルミニウム質焼結体からなるセラミック基板の上面に、厚みが約20μmのエポキシ樹脂からなる樹脂絶縁層と、厚みが約10μmの銅からなる薄膜配線層とを交互に10層積層するとともに、各樹脂絶縁層に直径が約400μmの貫通導体を形成して上下の薄膜配線
層を互いに電気的に接続させた多層配線基板を用いて、本発明の多層配線基板における効果を確認した。
【0083】
樹脂絶縁層のうち上から3〜5層目の上下に連続する3層の樹脂絶縁層にわたって、平面視で互いに重なる位置に貫通導体を形成し、その3層の貫通導体のうち上下方向の中央に位置する1つのもの(上から4層目)を、錫を主成分として95質量%含有し、銀を質量5%含有する金属材料によって形成した。また、他の2つの貫通導体を、銅を主成分とし
て約99質量%含有し、チタンおよびニッケルを含む金属材料で形成した。これらの3層の貫通導体以外の貫通導体も、上記同様の銅を主成分とする金属材料で形成した。
【0084】
また、比較例として、すべての貫通導体を上記と同様の銅を主成分とする金属材料で形成したこと以外は上記の実施例の多層配線基板と同様にして作製した従来技術による多層配線基板を準備した。
【0085】
なお、セラミック基板は、酸化アルミニウム質焼結体からなる厚みが1mmの第1セラミック基板の表面および内部にタングステンからなるメタライズ導体で配線導体を形成したものを使用した。
【0086】
これらの実施例および比較例の多層配線基板について、加速試験として温度サイクル試験を+125℃〜−55℃の条件で500サイクル行なった後に、貫通導体の内部および貫通導体と薄膜配線層との境界におけるクラックと断線の有無を、複数の貫通導体を直列に接続したデイジーチェーンサンプルを用いて抵抗変動をデジタルマルチメータで測定することによって検査した。抵抗値に変動(抵抗の増加)等の異常が見られた試料については、貫通導体部分の断面を観察してクラック等の有無を確認した。
【0087】
その結果、実施例の多層配線基板では20%を超える抵抗変動(電気抵抗の増加)および
断線の発生が見られなかったのに対し、比較例の多層配線基板では20個中6個において断線の発生が見られ、20個中9個に20%を超える抵抗変動が見られた。以上のように、本発
明の多層配線基板においては、複数の樹脂絶縁層にわたって、貫通導体が平面視で重なるように形成した場合でも、貫通導体や貫通導体と樹脂絶縁層との界面等に機械的な破壊が生じることを効果的に抑制することが可能であり、小型化が容易で、かつ信頼性が高い多層配線基板を提供することができることが確認できた。
【0088】
(実施例2)
実施例1において、樹脂絶縁層のうち上から3層目と4層目との間に樹脂接着層を介在させるとともに、錫を主成分として95質量%含有し、銀を質量5%含有する金属材料を樹脂接着層に貫通させて配置し、金属材料を介して、3層目の銅を主成分とする貫通導体と4層目の錫を主成分とする貫通導体とを電気的に接続させ、錫を主成分とする金属材料の側面の一部を凸状に湾曲させた。湾曲の形態は、図4(a)に示す例と同様にした。これ以外は実施例1と同様にして実施例2の多層配線基板を準備した。比較例の多層配線基板は実施例1の場合と同様にして準備した。
【0089】
これらの実施例2および比較例の多層配線基板について、加速試験として温度サイクル試験を+125℃〜−55℃の条件で1000サイクル行なった後に、貫通導体の内部および貫通
導体と薄膜配線層との境界におけるクラックと断線の有無を、複数の貫通導体を直列に接続したデイジーチェーンサンプルを用いて抵抗変動をデジタルマルチメータで測定することによって検査した。抵抗値に変動(抵抗の増加)等の異常が見られた試料については、貫通導体部分の断面を観察してクラック等の有無を確認した。
【0090】
その結果、実施例の多層配線基板では20%を超える抵抗変動(電気抵抗の増加)および
断線の発生が見られなかったのに対し、比較例の多層配線基板では20個中11個において断線の発生が見られ、20個中9個に20%を超える抵抗変動が見られた。
【0091】
言い換えれば、実施例2の多層配線基板においては、樹脂接着層を樹脂絶縁層の間に介在させた(つまり、熱応力が生じやすい)構成において、温度サイクルの回数(つまり、熱応力の作用回数)を増やしても、金属材料と貫通導体との間の接続を確保することができた。
【0092】
以上のように、金属材料の側面の少なくとも一部を湾曲させることによって、信頼性を向上させる効果を得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0093】
1・・・樹脂絶縁層
2・・・薄膜配線層
3・・・貫通導体
4・・・薄膜多層部
5・・・多層配線基板
6・・・セラミック基板
7・・・配線導体
8・・・樹脂接着層
9・・・錫を主成分とする金属材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂絶縁層と薄膜配線層とが交互に積層され、上下の前記薄膜配線層が前記樹脂絶縁層を厚み方向に貫通する貫通導体によって互いに電気的に接続されてなる薄膜多層部を有する多層配線基板であって、
前記貫通導体は、上下に連続する複数の前記樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に形成されたものを含んでおり、平面視で重なる複数の前記貫通導体のうちの一部が錫を主成分とする金属材料からなり、他が銅を主成分とする金属材料からなることを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
上下に連続する3層以上の前記樹脂絶縁層にわたって平面視で互いに重なる位置に前記貫通導体が形成されており、これらの貫通導体のうちの上下方向の中央部分に位置する前記樹脂絶縁層に形成されているものが錫を主成分とする金属材料からなり、他のものが銅を主成分とする金属材料からなることを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記貫通導体のうちの錫を主成分とする金属材料からなるものの一端面が位置する前記樹脂絶縁層の層間において、上下の前記樹脂絶縁層同士が、前記貫通導体に対応した位置に貫通孔を有する樹脂接着層を介して互いに接着されているとともに、上下の前記樹脂絶縁層の前記貫通導体同士が、前記樹脂接着層の前記貫通孔内に充填された錫を主成分とする金属材料によって互いに電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記樹脂接着層の前記貫通孔に充填された錫を主成分とする前記金属材料は、側面の少なくとも一部が凸状に湾曲していることを特徴とする請求項3に記載の多層配線基板。
【請求項5】
複数の前記貫通導体をそれぞれ上下に電気的に接続する前記金属材料が充填された前記貫通孔が前記樹脂接着層に複数個配置されており、前記金属材料の前記側面は、平面視で前記樹脂接着層の中心部から外辺に向かって放射状に伸びる仮想の直線と交差する部分のうち前記中心部に近い側に位置する交差部のみが凸状に湾曲しているか、または該交差部において他の部分よりも大きく凸状に湾曲していることを特徴とする請求項4に記載の多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−222945(P2011−222945A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240992(P2010−240992)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】