説明

多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法、そのプログラム及び記録媒体

【課題】所望の多彩模様塗膜を生成可能な塗料の配合情報及び基材の視覚的特徴の決定方法、プログラム及び記録媒体を提供すること。
【解決手段】決定方法では、制御手段および表示手段を備えたコンピュータにおいて、制御手段が、多彩模様のカラー画像上の複数の斑の視覚的情報を決定し、各々の記斑の視覚的情報を再現するための着色粒子および基材を決定し(S2)、カラー画像の各画素に複数の視覚的情報の内の何れかの視覚的情報を対応させ、同じ視覚的情報を対応させた画素の数に応じて着色粒子の配合比率を決定し(S3)、着色粒子に対応する視覚的情報、基材に対応する視覚的情報、配合比率、及び着色粒子の大きさを用いて、多彩模様画像データを生成するための条件を求め(S4、S6)、求めた条件に基づいて多彩模様画像データを生成して表示手段に表示(S5、S7)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の表面に所望の多彩模様塗膜を形成するために使用される多彩模様形成塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を決定する方法に関し、所望の多彩模様画像を作成して画像表示装置に表示し、該画像を解析して、多彩模様形成塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装壁面や外装壁面に、特徴をもたせることを目的として、多彩模様意匠を付与する場合がある。多彩模様意匠を付与する方法としては、これまで天然の素材の適用、フィルムの貼り付け、塗装等の手法が用いられてきた。
【0003】
この中で、石材等の天然の素材を適用する場合、高級感に優れた意匠を実現できるが、その加工が難しい、施工が難しい、意匠の変更が困難である、同一の意匠を再現することが難しい、天然資源の枯渇につながる等の問題点がある。
【0004】
フィルムを貼り付ける場合には、多様な意匠を表現することができ、比較的安価で再現性に優れるものであるが、曲面や凹凸面に貼り付けることが難しい、高級な質感を実現するのが難しい等の問題点がある。
【0005】
塗装によって多彩模様意匠を付与する場合には、施工が比較的容易で設計の自由度に優れ、さらに水性塗料を使用することで環境にも優しい等の利点がある。しかし、液状の塗料組成物を塗装することによって、多彩模様意匠を付与するため、塗料組成物の配合及び塗装条件によって、形成される意匠が異なる。そこで、所望の多彩模様意匠を得るために、塗料組成物の配合や塗装条件を決定することが重要となる。
【0006】
例えば、下記特許文献1には、多彩模様形成用塗料(以下、多彩模様塗料とも記す)の原料塗料を、容易にかつ短時間で決定する方法が開示されている。即ち、下記特許文献1では、多彩模様塗膜のイメージ画像を準備し、このイメージ画像を構成する色の種類を解析し、解析された多彩模様塗膜のイメージ画像を構成する色と、各々の色が多彩模様塗膜の画像に占める面積比率を決定し、この面積比率に基づいて着色塗料粒子の配合割合を決定する。
【特許文献1】特開平9−220508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1には、多彩模様塗膜を構成する着色粒子の色を決定する方法については何ら開示も示唆もされていない。
【0008】
本発明の目的は、着色された基材に、透明な塗膜形成成分及び不定形な着色粒子を含む多彩模様塗料を塗装して多彩模様塗膜を生成する場合に、所望の多彩模様塗膜を生成するための多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的特徴の決定方法、そのプログラム及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的特徴の決定方法は、制御手段および表示手段を備えたコンピュータを用いて、着色された基材に塗装されて多彩模様塗膜を生成する、透明な塗膜形成成分及び不定形な着色粒子を含む多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を決定する方法であって、前記配合情報が、前記着色粒子の視覚的情報および配合比率であり、前記制御手段が、多彩模様のカラー画像上の複数の斑の視覚的情報を決定し、各々の前記斑の前記視覚的情報を塗装によって再現するための前記着色粒子および前記基材を決定する第1ステップと、前記制御手段が、前記カラー画像の各画素に複数の前記視覚的情報の内の何れかの視覚的情報を対応させ、同じ視覚的情報を対応させた画素の数に応じて、前記着色粒子の配合比率を決定する第2ステップと、前記制御手段が、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報、前記基材に対応する前記視覚的情報、前記配合比率、及び前記着色粒子の大きさを用いて、多彩模様画像データを生成するための条件を求める第3ステップと、前記制御手段が、前記条件に基づいて多彩模様画像データを生成し、前記表示手段に表示する第4ステップとを含むことを特徴としている。
【0010】
上記の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的特徴の決定方法は、前記第1ステップの前に、前記制御手段が、前記カラー画像を前記表示手段に表示する第5ステップをさらに含み、前記第1ステップが、前記制御手段が、前記表示手段に表示された前記カラー画像上で、所定領域の指定を受け付ける第6ステップと、前記制御手段が、前記所定領域内の画素の視覚的情報を平均して平均の視覚的情報を求め、該平均の視覚的情報を用いて、前記斑の前記視覚的情報を決定する第7ステップとを含むことができる。
【0011】
また、前記第2ステップは、前記制御手段が、前記平均の視覚的情報を用いて色見本番号を有する色見本帳データベースを検索し、前記平均の視覚的情報に最も近い色見本の色見本番号を決定し、該色見本番号に基づいてCCMを行なって、複数の前記着色粒子の配合比率を決定するステップであることができる。
【0012】
また、前記第2ステップは、前記制御手段が、前記カラー画像の各画素データを、複数の前記視覚的情報の何れかで置き換え、置き換えられた後のカラー画像において、同じ視覚的情報を有する画素の数から前記配合比率を計算するステップであってもよい。
【0013】
また、前記第2ステップにおいて、前記制御手段は、前記カラー画像における各画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求め、求めた該視覚的情報と複数の前記斑の前記視覚的情報との幾何学距離を求め、最も幾何学距離が近い前記視覚的情報で前記画素データを置き換えることができる。
【0014】
また、前記第2ステップは、前記制御手段が、前記カラー画像における画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求める第10ステップと、前記制御手段が、前記斑の複数の前記視覚的情報の中から、前記第10ステップで求めた前記視覚的情報と幾何学距離が最も近い視覚的情報を決定し、前記幾何学距離が所定値以下であれば、予め前記視覚的情報毎に初期値を0として割り当てた変数のうち、決定した前記視覚的情報に対応する変数を1増大させる第11ステップとを含み、前記カラー画像の全画素に対して前記第10及び第11ステップを実行した後に、前記変数を用いて、前記着色粒子の前記配合比率を決定するステップであってもよい。
【0015】
また、前記第2ステップは、前記制御手段が、前記カラー画像における画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求める第12ステップと、前記制御手段が、前記斑の複数の前記視覚的情報の中から、前記第12ステップで求めた前記視覚的情報と幾何学距離が最も近い視覚的情報を決定し、前記距離と前記距離に応じた寄与係数とを乗算して得られた数値を、予め前記視覚的情報毎に初期値を0として割り当てた変数のうち、決定した前記視覚的情報に対応する変数に加算する第13ステップとを含み、前記カラー画像の全画素に対して前記第12及び第13ステップを実行した後に、前記変数を用いて、前記着色粒子の前記配合比率を決定するステップであってもよい。
【0016】
また、前記多彩模様画像データを生成するための前記条件は、スレッドの数、スレッド毎の塗料の色データ、スレッド毎の待ち時間、スレッド毎の描画する粒子の粒度分布であり、前記スレッドの数は、前記第1ステップで決定した着色粒子の種類の数であり、前記スレッド毎の塗料の色データは、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報であり、前記スレッド毎の待ち時間yは、xを着色粒子の面積比率として、前記着色粒子の前記大きさに応じた回帰係数a、bを用いた回帰式 y=a・x によって計算され、前記粒度分布が、前記着色粒子の前記大きさから求められる描画される図形の大きさの分布であり、前記第4ステップは、前記制御手段が、前記条件で、マルチスレッドを用いたコンピュータグラフィックによって前記多彩模様画像データを描画するステップであることができる。
【0017】
また、前記多彩模様画像データを生成するための前記条件は、前記着色粒子の視覚的情報と乱数の範囲を表す情報とを対応させた対応情報を含み、前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、前記対応情報を用いて、生成した前記乱数に対応する前記着色粒子の視覚的情報を決定し、該視覚的情報を用いて前記多彩模様画像データを生成してもよい。
【0018】
また、前記多彩模様画像データを生成するための前記条件は、着色粒子毎の描画に使用する色データ、着色粒子毎の粒度分布、及び、着色粒子として描画する図形の総数をさらに含み、着色粒子毎の描画に使用する前記色データが、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報であり、前記総数が、前記透明な塗膜形成成分に対する前記着色粒子全体の比率を用いて決定され、前記着色粒子の前記視覚的情報に対応する前記乱数の範囲が、前記配合比率を用いて決定され、前記粒度分布が、前記着色粒子の前記大きさから求められる描画される前記図形の大きさの分布であり、前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、前記総数と同じ回数だけ乱数を発生し、発生した乱数毎に決定した前記色データを用いて前記図形を描画してもよい。
【0019】
また、前記着色粒子の前記視覚的情報に対応する前記乱数の範囲は、さらに前記着色粒子相互の、1個の平均の面積比率を用いて決定されることができる。
【0020】
また、前記粒度分布は、対数正規分布であることができる。
【0021】
また、前記第4ステップにおいて、前記制御手段は、中心の座標をランダムに発生させ、該中心と頂点との距離が前記粒度分布によって決定される多角形の内側領域を、前記着色粒子毎の描画に使用する前記色データで描画して、前記多彩模様画像データを生成することができる。
【0022】
また、前記第4ステップにおいて、前記制御手段は、前記スレッド毎に中心の座標をランダムに発生させ、該中心と頂点との距離が前記粒度分布によって決定される多角形の内側領域を、前記スレッド毎の塗料の色データで描画して、前記多彩模様画像データを生成してもよい。
【0023】
また、上記の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法は、前記第4ステップの前に、前記基材に対応する前記視覚的情報を各画素データとする画像を生成した後、該画像上のランダムに決定した画素に、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報に対応する色データを設定することができる。
【0024】
本発明に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラムは、制御手段および表示手段を備えたコンピュータにおいて実行される、有色の基材に塗装されて多彩模様塗膜を生成する、透明な塗膜形成成分及び不定形な着色粒子を含む多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラムであって、前記配合情報が、前記着色粒子の視覚的情報および配合比率であり、前記制御手段に、多彩模様のカラー画像上の複数の斑の視覚的情報を決定し、各々の前記斑の前記視覚的情報を塗装によって再現するための着色粒子および基材を決定する第1の機能と、前記カラー画像の各画素に複数の前記視覚的情報の内の何れかの視覚的情報を対応させ、同じ視覚的情報を対応させた画素の数に応じて、前記着色粒子の配合比率を決定する第2の機能と、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報、前記基材に対応する前記視覚的情報、前記配合比率、及び前記着色粒子の大きさを用いて、多彩模様画像データを生成するための条件を求める第3の機能と、前記条件に基づいて多彩模様画像データを生成し、前記表示手段に表示する第4の機能とを実現させることを特徴としている。
【0025】
前記第4機能において、前記制御手段に、前記対応情報を用いて、生成した前記乱数に対応する前記着色粒子の視覚的情報を決定し、該視覚的情報を用いて前記多彩模様画像データを生成する機能をさらに実現させることができる。
【0026】
本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、上記の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラムを記録していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、多彩模様を容易にシミュレーションでき、多彩模様形成塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を精度よく且つ効率的に決定することができる。
【0028】
また、自然界に実際に存在する物の多彩模様を取り込んだ画像データを解析することによって、自然界の多彩模様に近い多彩模様塗膜を実現することができる。
【0029】
また、シミュレーションにおいて微小な着色粒子をノイズとして描画するので、CG画像の生成時間を短縮することができ、画像の質感がより実際の多彩模様に近いCG画像を生成することができる。
【0030】
また、シミュレーションにおいて、着色粒子を、大きさが対数正規分布する複数種類の多角形として描画するので、より実際の多彩模様に近いCG画像を生成することができる。
【0031】
また、決定した配合情報で、複数種類の着色粒子を混合した1種類の多彩模様塗料を生成することができるので、塗料毎にガンを使用することなく、1つの塗装ガンで多彩模様塗膜を効率的に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法を実施するために用いるコンピュータシステムの概略構成を示す図である。本システムは、操作手段を有する処理装置101と、処理装置101に接続されたフルカラー画像の表示が可能な画像表示装置(以下、表示装置と略記する)102と、多彩模様が表面に存在する測定対象物104の表面の画像を電子データとして取得して処理装置101に伝送する画像入力装置103とを備えて構成されている。
【0034】
処理装置101は、例えば、操作手段としてコンピュータ用キーボードおよびマウスを備えたコンピュータである。表示装置102は、例えばCRT表示装置、液晶表示装置などである。また、画像入力装置103は、例えば、イメージスキャナーやCCDカメラなどであり、測定対象物104の表面から電子データの多彩模様画像を取得する。尚、多彩模様画像をデザイナーが作成したり、インターネットなどの通信回線を介して処理装置101に取り込んだりする場合には、画像入力装置103を備えていなくてもよい。
【0035】
本発明の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法の概要を説明すると、次の通りである。
【0036】
まず、所望の多彩模様、即ち不定形の着色粒子が分布して形成された模様(例えば、御影石などの各種の天然素材)の画像データを取得し、各着色粒子に対応する斑(画像上の同じ色もしくは近似する色が連続する領域)の視覚的情報、即ち斑の代表色を決定する。図2の(a)に多彩模様の一例を示す。(a)は御影石(チャイナピンク)の表面をスキャナーで取り込んだ画像である。
【0037】
次に、多彩模様の斑を、その代表色を再現可能な既知の塗料の着色粒子で再現するために、斑の面積比率を求めて、これを着色粒子の配合比率とし、代表色および配合比率(配合情報)を用いて、コンピュータグラフィック(以下、CGと記す)によって多彩模様画像を描画する。図2の(b)は(a)の画像を画像処理で4色に階調を低減した画像である。例えば、(b)の画像から画像処理を用いて面積比率を計算し、配合比率とすることができる。
【0038】
最後に、描画された画像が所望の多彩模様に近いか否かを評価し、所望の画像が得られた場合、その画像の描画に用いた配合情報を実際の着色粒子の配合情報とする。
【0039】
決定された着色粒子の配合情報を用いて、多彩模様塗料(着色粒子が混合された塗料)が製造され、対象物に塗布される(図3参照)。図4は、形成された多彩模様塗膜を概念的に示す断面図である。図4において、最上位層が多彩模様塗膜であり、最上位層内の小さい図形が各着色粒子を表している。着色粒子の各々が、多彩模様画像の斑を再現することになる。
【0040】
(第1の実施の形態)
次に、本発明の第1の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法に関して、詳細に説明する。図5は、図1に示したシステムを用いた多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法を説明するためのフローチャートである。以下の説明において、処理装置101が、観察者(デザイナーなど)による操作を受けて行う処理は、内部の演算素子(以下、CPUと記す)が、内部の記録手段(ハードディスクドライブなど)から所定のデータを、内部の一時記憶手段(以下、メモリと記す)に読み出し、メモリをワーク領域として使用して行う処理であり、CPUは適宜処理結果を記録手段に記録することとする。
【0041】
ステップS1において、測定対象物104が準備され、観察者によって画像入力装置103が操作され、測定対象物104の表面の画像が、電子データ(多彩模様画像)として処理装置101に取り込まれる。測定対象物104は、その表面に多彩模様を、即ち不定形の着色粒子が分布して形成された模様を有する物である。従って、処理装置101に取り込まれた多彩模様画像(電子データ)には、上記で説明したように斑が存在する。処理装置101に取り込まれた多彩模様画像が、建造物等の表面に付与されるイメージ画像である。なお、本発明では、流し塗りのような模様が表面に形成されている物は、測定対象物とはしない。また、既に電子データとなっている素材データを、インターネットなどの通信回線を介して取得して使用することも可能である。
【0042】
ここで、電子画像データの形式は特に限定されないが、sRGB(standard RGB)空間におけるデータ形式とすることが好ましい。sRGBは、IEC(国際電気標準会議)が1998年10月に策定した色空間の国際標準規格であり、機種依存性がない色の表現形式を定めたものである。電子画像データは、sRGB形式から、人間の目視による印象に近い表色形式であるL*a*b*形式に変換されてもよく、その変換法は公知であるので説明を省略する(実際には、sRGB形式からXYZ形式に変換され、XYZ形式からL*a*b*形式に変換される)。sRGBの色空間では、他の色空間に比べて表現できる色の範囲が狭く、エメラルドグリーン、濃いシアン、オレンジ、明るい赤や黄色などを適切に表現することは難しいが、建築物の内外装を目的とした塗料の分野では、それらの彩度が高い色は扱わないため問題とはならない。
【0043】
ステップS2において、多彩模様形成塗料の着色粒子の視覚的情報及び基材の視覚的情報を決定する。具体的には、観察者が処理装置101の操作手段を操作して、多彩模様画像(電子データ)上の各色の斑を塗装によって再現するための着色粒子の色および基材の色を、次のようにして決定する。
【0044】
先ず、処理装置101が、ステップS1で取得した多彩模様画像を表示装置102にカラー画像として表示し、操作部の操作を受け付ける。表示する多彩模様画像の大きさ、形状は任意(例えば、1辺が256画素の正方形)である。次に、観察者が、操作手段を操作(例えば、コンピュータ用マウスのボタンを押下)して、表示された多彩模様画像上で所定位置を指定すると、処理装置101は、指定され位置を中心とする所定領域を決定し、その領域内の全画素の視覚的情報、即ちRGB値を平均し、得られた平均値をsRGB値と仮定して、XYZ値に変換し、さらにL*a*b*値に変換する。最後に、処理装置101は、得られたL*a*b*値と、あらかじめ記録部に記録された複数の色票の視覚的情報、即ち色データとを用いて、得られたL*a*b*値に最も近い色票、すなわちL*a*b*空間内での幾何学距離(色差)ΔEが最も小さい色票を決定する。処理装置101は、観察者が所定位置を指定する毎に、これらの処理を繰り返す。従って、観察者が、表示装置102に表示された多彩模様画像上で、ある色の斑内の画素を適切に指定すれば、異なる色の斑毎に対応する色票が決定される。即ち、斑を再現するための塗料の着色粒子の色および基材の色が決定される。通常、1つの画像から、基材を含めて3〜4色の色が決定される。ステップS3以降の処理を具体的に説明するために、ここでは、4種類の色の斑に対応して、基材1色、着色粒子3色の合計4色の色票が決定された(色票0が素材に対応し、色票1〜3が着色粒子に対応する)と仮定する。
【0045】
なお、RGB値の平均値を求める所定領域の一例を、図2の(a)に正方形で示した。所定領域には、通常、一辺が10〜20画素四方の小領域を用いるが、多彩模様画像上の斑内にほぼ含まれる領域であれば良く、例えば正方形の場合、一辺を8〜256画素とすることができる。また、色形式の変換には、JAVA(登録商標)言語の標準関数として公知のtoCIEXYZを使用することができる。または、インターネット上(http://www005.upp.so-net.ne.jp/fumoto/linkp25.htm)で公開されている関数を使用することもできる。
【0046】
色票には、日本塗料工業会発行の塗料用標準色見本帳等を使用することができる。他にDICカラーガイド、マンセル色票などを使用してもよい。日本塗料工業会の色見本帳は、塗料を使用する場合の色見本であるため、その色票が特に好ましい。
【0047】
また、色空間(表色系)に関しては、目視の感覚に近いものが上記したL*a*b*形式であるが、これに限定されず、RGB、Lab、HSI等を使用してもよい。
【0048】
上記では、観察者が目視で、代表色を決定するための位置を指定する場合を説明したが、図2の(b)で示したように、多彩模様画像の全画素のRGB、HSI等を解析して、画像処理によって減色処理(階調数の低減処理)を行い、代表色を抽出することも可能である。また、画像から着色粒子の色を選択するのではなく、予め基材の色、着色粒子の色を標準色として複数設定しておいて、画像の全画素から近似色検索を行なって、基材の色及び着色粒子の色を決定することも可能である。
【0049】
決定した色見本番号の色票の実測反射率と色材のKS値から、クベルカ-ムンクのKS理論を用いたCCMを用いて色材の配合比率を計算することができる。尚、以下では、公知のCCMによる方法ではなく、多彩模様画像データから配合比率を求める方法について詳細に説明する。
【0050】
次に、ステップS3において、処理装置101は、斑の代表色、即ち着色粒子の代表色の面積比率を求める。具体的には、先ず、代表色すなわち色票j(j=1〜3)に近似する着色粒子の数を表す変数Nj(j=1〜3)に初期値として“0”をセットする。そして、多彩模様画像の1つの画素を選択し、その画素値RGBをL*a*b*に変換し、得られたL*a*b*と、ステップS2で決定した各色票jのL*a*b*値との色差ΔEを計算する。そして、複数の色票j(j=1〜3)の中で最も色差ΔEが小さい色票jを決定し、その色票jの変数Njに1を加算し、新たな変数Njとする。これらの処理を、多彩模様画像の全画素について実行すれば、変数Nj(j=1〜3)は、各着色粒子の代表色に色が近似する画素の数となる。そして、全画素数Nallとの比率(Nj/Nall)を計算し、画像中の斑(着色粒子)の面積比率を求める。この面積比率(Nj/Nall)が、多彩模様形成塗料における各着色粒子の配合情報(配合比率)である。着色粒子の粒度分布、比重がどの色も同じであると仮定すると面積比率は、着色粒子の個数に比例する。
【0051】
上記では、面積比率を、最も色差ΔEが小さい色票を用いて求めたが、別の方法として、多彩模様画像の各画素と色票との色差ΔEを求め、これに「重み付け」して面積比率を求めてもよい。一つの「重み付け」方法として、L*a*b*色空間において決定した色票のL*a*b*と各画素のL*a*b*との色差ΔEを計算し、ΔEが所定値以下、例えばΔEが3以下の画素の数を累計し、その累計値から各着色粒子の配合情報(配合比率)を決定してもよい。これによって、より目視の印象に近いように、画像の色を塗料配合として決定できる。
【0052】
また別の「重み付け」方法として、上記と同様に求めた色差ΔEが所定値以下の画素について、ΔEに応じた寄与係数をΔEに乗じて得られた値を累計し、その累計値から各着色粒子の配合情報(配合比)を決定してもよい。例えば、ΔE≦1であれば、寄与係数=1とし、ΔE=1〜3であれば、寄与係数=0.8とし、ΔE≧3であれば寄与係数=0.2とする。これによっても、より目視の印象に近いように、画像の色を塗料配合として決定できる。
【0053】
以上のステップS1〜S3での処理の結果、基材および各着色粒子の色票と各着色粒子の面積比率とが求められたので、以下に示すステップでは、得られたこれらの情報を用いて多彩模様塗料を生成し、基材に塗装した場合に所望する多彩模様が得られるか否かを、シミュレーションによって評価する。
【0054】
ステップS4において、シミュレーションの条件を指定する。例えば、観察者が、ステップS1〜S3での結果を考慮して、基材の色、着色粒子の色、ビヒクルと着色粒子との質量比率、着色粒子の量、および着色粒子の大きさを、操作手段を介して処理装置101に入力する。図6に入力画面の一例を示す。図6では、基材がbg、3色の着色粒子がc1〜c3である。着色粒子の色はRGB値、即ち各8ビット(0〜255)のRed、Green、Blueで入力されている。ビヒクル(「糊」の役割をする材料)成分と着色粒子の質量比率は、ビヒクル/着色粒子=60/40〜70/30の範囲で指定され、通常65/35である。実際の塗料においては、塗膜外観と性能の点から、着色粒子の総量を規定するので、着色粒子の量Haigoは、全量に対する配合割合(%)で指定されている。着色粒子の大きさDiaは3色全て10.0(画素)と指定されている。なお、着色粒子は、基材や重なり合った他の着色粒子を完全に隠蔽するので、塗料の濁度haseは100(%)が指定されている。
【0055】
着色粒子の色については、上記のようにRGB値が直接入力されてもよいが、色票番号が入力されてもよい。図6では、colorの欄に日本塗料工業会発行の塗料用標準色見本帳の色票番号(C15-75B、C25-90Aなど)が表示されている。即ち、色票番号を指定すれば、対応するRed、Green、Blueが自動的に設定されるようにすることもできる。
【0056】
ステップS5において、処理装置101は、ステップS4で入力された情報を用いて、着色粒子の色のノイズを描画する。ここでは、ステップS1〜S3での結果に対応して、ステップS4において、ビヒクル/着色粒子=65/35、着色粒子の色が茶、白、灰の3色のRGB値、それぞれの量(配合割合)として茶/白/灰=12/26/62が入力されたとする。なお、茶/白/灰=12/26/62は、ステップS3で求めた各着色粒子数Nj(j=1〜3)の比率に近く、合計が100になる正の実数値の組み合わせである。従って、ここに例示した正の整数値に限らず、小数点以下の桁を含む値であってもよい。
【0057】
実際の着色粒子の写真を図7に示す。これは、水性反応硬化形アクリル樹脂系塗料(白色)を、着色顔料ペーストを使用して任意の色に調色した着色塗料に、アルギン酸ナトリウムを加え、水酸化カルシウム水溶液に滴下、攪拌後濾過して調整した着色粒子である。このような粒子であるので、素地(基材の表面)を隠蔽する。図7から分かるように、着色粒子は不定形な粒子であり、その大きさは一定ではなく、大きさの分布は広い。図8は、実際の着色粒子の粒径を測定して得られた粒度分布を示すグラフである。図8に示した計測結果から、目視で粒子と認識することができない直径0.2mm以下の着色粒子を、基材へのノイズとして描画する。これにより、CG描画処理が速くなること、及び画像の質感がより実際の塗膜に近くなるという利点がある。
【0058】
図9を参照して、ノイズを描画する処理を具体的に説明する。先ず、図9の(a)に示すように、処理装置101は、所定サイズで基材の色を描画する。次に、処理装置101は、3色の着色粒子のうちの1色(色票j)を選択し、描画するRGB値を決定する。次に、処理装置101は、基材の色の画像上でランダムに1画素を選択し、選択された画素に色票jのRGB値を設定する処理を、画像中のその着色粒子の数だけ繰り返す。例えば、画像のサイズ512画素×512画素の場合、茶の着色粒子に関して、512(縦の画素数)×512(横の画素数)×0.35(総画素数に対する総着色粒子数の割合)×0.12(総着色粒子の量に対する各着色粒子の量の割合)≒11010の画素をランダムに描画する。同様に、白色のノイズを23855(≒512×512×0.35×0.26)個、灰色のノイズを56885(≒512×512×0.35×0.62)個、ランダムに描画する。図9の(b)は、1色の着色粒子に関してノイズを描画した状態の画像である。
【0059】
本来は、図8に示したように直径が0.2mm以下の斑だけをノイズとして描画すべきである。しかし、後述するように、直径が0.2mmよりも大きい斑を多角形(塗りつぶし)として描画するので、実際に描画される斑の面積は、円形(塗りつぶし)を描画する場合よりも小さくなってしまうことから、その差を補うために、各着色粒子の全粒子数だけノイズを描画する。実験によって、1種類の色の着色粒子に関して、
円で描画した面積=多角形で描画した面積+ノイズを描画した面積
となるように「ノイズを描画した面積」を求めた結果、上記したように、
描画するノイズの数=画像全体の総画素数×総画素数に対する総着色粒子数の割合×総着色粒子の量に対する各着色粒子の量の割合
とすることが望ましいことが分かった。
【0060】
着色粒子は複数(ここでは茶、白、灰の3色)使用するので、配合量が少ない着色粒子のノイズから順に描画する方が、配合量が多い色の着色粒子によるノイズが隠れることがないため、実際の塗膜に近い印象の画像が得られる。従って、ここでは、茶、白、灰の順でノイズを描画するのが望ましい。
【0061】
次に、ステップS6において、処理装置101は、CGによって、直径0.2mmよりも大きい着色粒子を描画するための条件を、ステップS4で入力された情報から求める。後述するステップS7におけるCG画像の生成には、JAVA(登録商標)言語によるマルチスレッドを用いて、複数色の着色粒子を同時に描画する。即ち、公知技術(「Java完全マスターブック」(高田美樹著、技術評論社、平成16年5月)のpp.97〜109参照)であるJAVA(登録商標)マルチスレッドを用いた描画方法を採用する。これは、1つの塗装用ガンで行う噴霧塗装に対応する描画処理を、コンピュータプログラムの単位であるスレッドとして作成し、ガンの数と同じ数のスレッドを用意して、複数のスレッドを同時に実行しながら描画するものである。尚、実際の多彩模様塗料は、複数の色の着色粒子が混合された1種類の塗料であるが、本シミュレーションでは、複数のガンでの塗装を模してCG画像を生成する。
【0062】
描画条件は、使用するスレッドの数(塗料数、色数に対応)、スレッド毎の塗料の色(RGB値)、スレッド毎の待ち時間ST、スレッド毎の描画する粒子の粒度分布である。スレッドの数、スレッド毎の塗料の色は、ステップS4で入力されたデータをそのまま用いる。待ち時間STは、ステップS4で入力された、ビヒクルと着色粒子との質量比率、着色粒子の量から以下に示すように計算される。また、描画する粒子の粒度分布には、対数正規分布が用いられる。
【0063】
先ず、スレッド毎の着色粒子の面積比率(%)を、ステップS4で入力されたビヒクルと着色粒子との質量比率、着色粒子の量(配合比率)から求める。例えば、ビヒクル/着色粒子=65/35、茶/白/灰=12/26/62である場合、着色粒子が重ならずに表面に配向すると仮定すれば、灰色の着色粒子の面積の画像全体の面積に対する割合は0.35×0.62=0.217(21.7%)と考えられる。しかし、実際には、着色粒子は相互に重なり合う。また、上記したように微細な粒子(粒径が0.2mm以下)をノイズとして既に描画したので、以降の処理で描画する面積比率は、21.7%よりも小さくすべきである。実際の塗膜の計測結果から、ステップS4で指定した配合から推定される面積に0.6を乗じた値を面積比率とすることが望ましいことが分かった。
【0064】
従って、例えば、灰色の着色粒子の面積の画像全体に対する面積比率は0.35×0.62×0.6=0.1302(13.02%)とする。同様に、茶色、白色の着色粒子の面積の画像全体に対する面積比率は、それぞれ0.0252(=0.35×0.12×0.6)(2.52%)、0.35×0.26×0.6=0.0546(5.46%)とする。
【0065】
次に、着色粒子の面積比率(%)からスレッド毎の待ち時間STを計算する。待ち時間STとは、1つのスレッドが、1つの色で内部を塗りつぶした多角形(多角形の生成については後述する)を描いた後、次の多角形を描くまでの時間であり、通常はmsec(ミリセカンド)で指定する。待ち時間STが短ければ単位時間当たりに描画する多角形の数が多くなり、密な着色粒子画像が描画され、待ち時間STが長ければ逆に疎な着色粒子画像が描画される。具体的には、予め回帰式として式1を求め、これを用いて待ち時間STを決定する。
y=a・x (式1)
ここで、xは着色粒子の面積比率(%)、yは待ち時間ST(msec)である。
【0066】
また、式1の回帰係数a、bは、着色粒子の大きさに応じて、小、中、大の3つのモデルで予め求められている。
小:粒径(画素)≦7、0.1≦平均粒子径(mm)≦0.5の場合であり、粒径が5画素で求めた式を使用
中:7<粒径(画素)<15、0.5<平均粒子径(mm)<1.5の場合であり、粒径が10画素で求めた式を使用
大:粒径(画素)≧15、1.5≦平均粒子径(mm)≦3の場合であり、粒径が20画素で求めた式を使用
図10は、大きさが10画素(D=10)の多角形(多角形の生成については後述)を、60秒間描画して得られた面積比率xと待ち時間STとの関係を表わすグラフである(「中」モデルの場合)。図10のグラフから、回帰係数がa=4.41、b=−1.01である回帰式 y=e4.41・x−1.01 が得られた。相関係数がR=0.996と高く、強い相関を有しており、式1の回帰式での再現性が良いことが分かる。
【0067】
次に、描画する粒子の粒度分布として、対数正規分布を求める。CGで多角形領域を繰り返し描画するとき、例えば、ステップS4で指定された着色粒子の大きさの多角形を描画するとき、中心と多角形の頂点との距離Rを適度に変化させながら、実際の塗装の粒度分布に近い分布で描画すれば、実際の多彩模様に近くなる。様々な粒径分布を検討した結果、対数正規分布が実際の塗板にもっとも近い分布であった。対数正規分布をCG画像で実現するには、以下の手順で描画する多角形の形状を決定すればよい。
【0068】
まず、公知のアルゴリズム(「JAVAによるアルゴリズム事典」(奥村晴彦ら、技術評論社、平成15年5月)のpp.152〜153記載の正規分布発生アルゴリズム)で、正規分布(平均値=0、標準偏差=1)する変数fを発生させ、次式2のように、変数fを指数とするexp(f)を計算し、それにexp(0.5)を乗じ、さらにこれにステップS4で指定された着色粒子の大きさDiaを乗じて、対数正規分布する粒度分布、即ち対数正規分布する変数である粒子の大きさgを生成する。
g=Dia×exp(f)/exp(0.5) (式2)
さらに、式2で生成された粒子の大きさgを用いて次式3から、描画する多角形の中心と多角形の頂点との距離Rを決定する。
R=0.5×g (式3)
ここで、平均値μ=0、標準偏差σ=1の正規分布と対数正規分布との間には次式4の関係があり、係数exp(0.5)は、対数正規分布の平均値を0に合わせるための係数である。
対数正規分布の期待値=exp(μ+σ/2)=exp(0+1/2)=exp(0.5)=1.64872 (式4)
ステップS7において、以上によって決定されたパラメータ(スレッドの数、スレッド毎の塗料の色、スレッド毎の待ち時間ST、スレッド毎の描画する粒子の粒度分布)を用いてCG描画を行う。即ち、マルチスレッドが起動され、各スレッド(各着色粒子に対応)が、待ち時間ST毎に、多角形の頂点の数n(nは3以上の自然数)及び中心の位置座標を発生し、式2及び式3を用いて対数正規分布する距離Rをn回生成し、中心から頂点までの距離がRであるn多角形内の画素データを、スレッド毎の塗料のRGB値で上書きする。
【0069】
図11を参照して、多角形の描画に関して具体的に説明する。実際の着色粒子は、不定形であり、さらに、塗装してから塗膜形成時に変形することも考えられる。したがって多彩模様塗膜においては、不定形の多角形となる。そこで、本ステップS7では多角形を描画する。即ち、描画する多角形の中心座標を一様ランダム関数で生成し、n角形毎に指定した確率で、形状がランダムなn多角形を生成する。例えば、三角形(n=3)を1/3の確率で、四角形(n=4)を1/3の確率で、五角形(n=5)を1/3の確率で発生させる(図11の(a)参照)。そして、多角形の頂点の数nが決まれば、式2及び式3を用いて対数正規分布する距離Rをn回生成する。図11の(b)では、n=4であり、中心Oから四角形の各頂点までの距離RをL1〜L4で表している。そして、中心からの距離がRである位置座標をn個決定し、決定したn個の位置を頂点とするn角形の内側に位置する画素に、スレッド毎の塗料のRGB値を設定する。図11の(c)は、このようにして生成された多彩模様の画像である。なお、ここでは、n角形の頂点の位置は、中心からの距離Rが指定されるだけで、任意に決定されるので、描画される多多角形は必ずしも凸多角形ではない。従って、凹多角形や、辺が交差した多角形の場合もあるので、n角形の内側とは、少なくとも3本の辺で囲まれた領域を意味する。
【0070】
このように順次描画処理が実行され、ビデオメモリ上のデータがCG画像として表示装置102に表示される。処理装置101は、任意のタイミングで描画停止の指令が入力された場合、各スレッドの実行を停止し、その時点での静止画像が多彩模様として画像表示装置102に表示される。描画の停止は、例えば、観察者による操作手段の操作によって指示されてもよく、描画開始からの時間を記録しながら描画を行い、予め設定された時間が経過した後に自動的に停止するようにしてもよい。
【0071】
ステップS8において、ステップS7で描画され、表示装置102に表示されたCG画像の多彩模様の図柄を、観察者が、自分のイメージに近いか否かを目視で判断する。観察者のイメージに近ければ、観察者の操作を受けて、処理装置101は、上記したCGによるシミュレーションを停止し、最後に使用した描画パラメータを記録部に記録し、ステップS9に移行する。観察者が了承しなければ、処理装置101は指示を受けて、再びシミュレーションを行うために、ステップS4に戻る。このとき、測定対象物104そのもの、またはステップS1で取り込んだ測定対象物104の表面の多彩模様画像と比較して、表示装置102に表示されるCG画像の多彩模様の図柄を評価することができる。
【0072】
以上の一連の処理によって、基材の色と、着色粒子の色および配合比率とに基づいて、多彩模様塗料を生成し、それを塗装して得られる多彩模様塗膜を、CG画像によって予想することが可能となる。
【0073】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法に関して説明する。使用するコンピュータシステムの構成は図1と同じである。また、第2の実施の形態における処理の概要を示すフローチャートは図5と同じであり、第1の実施の形態と同じ処理が含まれている。即ち、第2の実施の形態におけるステップS1〜S5の処理は、上記した第1の実施の形態と同じである。従って、ここではそれらの説明を省略し、第1の実施の形態と異なるステップS6以降の処理について説明する。
【0074】
第2の実施の形態では、ステップS6において、処理装置101は、CGによって直径0.2mmよりも大きい着色粒子を表す図形を描画するための条件を、ステップS4で入力された情報から求める。後述するステップS7におけるCG画像の生成では、着色粒子の個数の割合に応じた頻度で、着色粒子を表す図形を描画するために、乱数を用いる。
【0075】
描画条件は、(i)着色粒子の色(描画色)、(ii)色毎の着色粒子の粒度分布(着色粒子の粒径によって決まる)、(iii)生成する乱数(詳細は後述する)と着色粒子の色との対応関係 である。これらの条件のうち、着色粒子の色、着色粒子の粒径は、ステップS4で入力された値をそのまま用いる。乱数と着色粒子の色との対応関係は、ステップS4で入力された、ビヒクルと着色粒子との質量比率および着色粒子の量(配合比率)を用いて、以下に説明するように計算される。また、描画する粒子の粒度分布には、対数正規分布を用いる。
【0076】
図12は、ステップS6の処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS61において、描画する全種類の着色粒子の総数NTを式5で求める。
T=画像全体の画素数×着色粒子の割合×実行効率×係数 (式5)
ここで、着色粒子の数とは、画素数のことではなく、描画する図形の個数のことであり、着色粒子の割合とは、ステップS4で入力された、ビヒクルに対する着色粒子の質量比率である。
【0077】
式5で「実行効率」を導入したのは、実際の塗装においては、着色粒子は塗膜内部に分布し、全ての着色粒子が表面に位置することはなく(図4の多彩模様塗膜参照)、且つ、微細な粒子(粒径が0.2mm以下)は目視で着色粒子としては認識できないからである。微細な粒子(粒径が0.2mm以下)に関しては、ステップS5においてノイズとして既に描画されている。実験結果から、実行効率=0.6が望ましいことが分かった。
【0078】
また、「係数」は、描画した多彩模様の画像と実際の塗板との違いを調整するためのパラメータである。多数の絵柄を描画して得た画像と実際の塗板とを目視で比較した結果、係数=0.4が望ましいことが分かった。
【0079】
例えば、ビヒクルに対する着色粒子の質量比率=0.35(ビヒクル/着色粒子=65/35)であれば、1辺が512画素の正方形の画像を描画する場合、NT=512×512×0.35×0.6×0.4≒22020 である。
【0080】
ステップS62において、ステップS4で設定された各着色粒子の粒径Diaが同じか否かを判断し、全て同じ値であればステップS63に移行し、1つでも異なればステップS64に移行する。
【0081】
着色粒子の粒径が色に依らず同じである場合、着色粒子の個数比率(描画する図形の総数NTに対する割合)は面積比率に等しいので、ステップS63において、着色粒子の個数比率に、対応する着色粒子の配合比率を設定する。
【0082】
色に依って着色粒子の粒径が異なる場合、ステップS63において、着色粒子1個の面積比率に応じて着色粒子の個数比率を求める。実際の塗板と描画して得た画像とから、着色粒子の大小関係、例えば大中小の3段階の関係をピクセル単位で表すと、およそ次の範囲であることが分かった。
小 粒径≦7(実際には、0.1≦平均粒径(mm)≦0.5)
中 7<粒径≦15(実際には、0.5<平均粒径(mm)≦1.5)
大 粒径>15(実際には、1.5<平均粒径(mm)≦3.0)
従って、各平均粒径、即ち平均直径を次のように決定する。
小 平均直径=5
中 平均直径=10
大 平均直径=15
このとき、各着色粒子1個の平均の面積比率は、小/中/大=5/10/15=0.25/1/2.25 となる。従って、各色iの着色粒子の配合比率αiを、これらの面積比率のうち粒径に対応する値βjで除算(αi/βj)し、得られた除算値の総和Sを求め、この総和Sに対する各除算値の割合(αi/βj)/S を求め、着色粒子の個数比率とする。
【0083】
具体的に一例を示せば次の通りである。例えば、ビヒクル/着色粒子=65/35、茶/白/灰=26/12/62であり、ステップS4で指定された茶色、白色、灰色の着色粒子の粒径Diaが、それぞれ中、小、大に分類される値である場合、茶色の着色粒子の除算値は、26/1=26となる。同様に、白色、灰色の着色粒子の除算値はそれぞれ、12/0.25=48、62/2.25≒28となる。従って、茶色の個数比率を、26/(26+48+28)≒0.26とする。同様に、白色、灰色の個数比率をそれぞれ、48/(26+48+28)≒0.47、28/(26+48+28)≒0.27とする。ここで計算結果のまるめ処理は適宜行えばよい。
【0084】
尚、着色粒子1個の大きさの分類は、上記の3段階(大中小)に限定されず、4段階以上に分類してもよい。また、粒径を分類する基準も上記した値(3段階に分類する場合、7、15ピクセル)に限定されない。
【0085】
次にステップS65において、ステップS63又はS64で求めた着色粒子の個数比率から、描画時に発生する乱数と対応させる着色粒子の色(描画色)との関係を決定する。即ち、色iの着色粒子の個数比率βiに応じて、発生する乱数の範囲rmin〜rmaxを比例配分し、描画色に対応させる乱数の範囲を決定する。
【0086】
具体的に一例を示せば次の通りである。例えば、上記のステップS63(粒径が同じ場合)において、茶色、白色、灰色の着色粒子の個数比率がそれぞれ、0.26、0.12、0.62と決定され、一様乱数を0.0〜1.0の範囲で発生する場合、各描画色に対応する乱数の範囲を、
茶色用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.26
白色用の乱数rの範囲 0.26<r≦0.38(=0.26+0.12)
灰色用の乱数rの範囲 0.38<r≦1.0
と決定することができる。
【0087】
また、例えば、上記のステップS64(粒径が異なる場合)において、茶色、白色、灰色の着色粒子の個数比率がそれぞれ、0.26、0.47、0.27と決定され、一様乱数を0.0〜1.0の範囲で発生する場合、各描画色に対応させる乱数の範囲を、
茶色用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.26
白色用の乱数rの範囲 0.26<r≦0.73(=0.26+0.47)
灰色用の乱数rの範囲 0.73<r≦1.0
と決定することができる。
【0088】
尚、各描画色に対応させる乱数の範囲は、個数比率に応じて比例配分されていればよく、上記以外の範囲であってもよい。例えば、上記したステップS63の例では、乱数の下限値0.0を含む範囲を白色に対応させて、
白色用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.12
茶色用の乱数rの範囲 0.12<r≦0.38(=0.12+0.26)
灰色用の乱数rの範囲 0.38<r≦1.0
と決定してもよく、
白色用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.12
灰色用の乱数rの範囲 0.12<r≦0.74(=0.12+0.62)
茶色用の乱数rの範囲 0.74<r≦1.0
と決定してもよい。
【0089】
さらには、各描画色に対応させる乱数rの範囲は連続する領域でなくてもよい。例えば、茶色用の乱数の範囲を次のように2つに分けてもよい。
【0090】
茶色用の乱数rの範囲 0.0≦r≦0.10
白色用の乱数rの範囲 0.10<r≦0.22(=0.10+0.12)
茶色用の乱数rの範囲 0.22<r≦0.38(=0.26+0.12)
灰色用の乱数rの範囲 0.38<r≦1.0
なお、描画する粒子の粒度分布として使用する対数正規分布に関しては、第1の実施の形態と同じなので説明を省略する。
【0091】
ステップS7において、以上によって決定されたパラメータ(着色粒子の描画に使用する色、着色粒子の色毎の粒度分布、生成する乱数と描画色との対応関係)を用いてCG描画を行う。即ち、
(A) 0.0〜1.0の範囲で一様乱数を発生し、
(B) 発生した乱数rと描画色との対応関係(上記のステップ6で決定)に従って描画色(RGB値)を決定し、
(C) 多角形の頂点の数n(nは3以上の自然数)及び中心の位置座標を発生し、
(D) (B)で決定した描画色に対応する粒径Diaを用いて、式2及び式3から対数正規分布する距離Rをn回生成し、
(E) 画像領域上でランダムに決定した点を中心とし、中心から頂点までの距離がRであるn多角形内の画素データを、(D)で決定した描画色で上書きする
という一連の処理(A)〜(E)を、描画する着色粒子の総数NTの回数(NT回)だけ繰り返す。
【0092】
ここで、(E)で決定する多角形の中心位置は、0.0〜1.0の範囲の一様乱数を発生して決定すればよい。例えば、1辺が512画素の正方形の画像の場合、発生させた乱数r1を用いて、r1×512(画素)を超えない整数値をX座標とし、次に発生させた乱数r2を用いて、r2×512(画素)超えない整数値をY座標とすることができる。
【0093】
なお、多角形の描画に関しては、第1の実施の形態と同じなので説明を省略する。
【0094】
ステップS8において、ステップS7で描画され、表示装置102に表示されたCG画像の多彩模様の図柄を、観察者が、自分のイメージに近いか否かを目視で判断する。観察者のイメージに近ければ、観察者の操作を受けて、処理装置101は、上記したCGによるシミュレーションを停止し、最後に使用した描画パラメータを記録部に記録し、ステップS9に移行する。観察者が了承しなければ、処理装置101は指示を受けて、再びシミュレーションを行うために、ステップS4に戻る。このとき、測定対象物104そのもの、またはステップS1で取り込んだ測定対象物104の表面の多彩模様画像と比較して、表示装置102に表示されるCG画像の多彩模様の図柄を評価することができる。
【0095】
以上の一連の処理によって、基材の色と、着色粒子の色および配合比率とに基づいて、多彩模様塗料を生成し、それを塗装して得られる多彩模様塗膜を、CG画像によって予想することが可能となる。
【0096】
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されない。
【0097】
例えば、上記では、多彩模様の斑の視覚的情報を決定した後、ステップS4において観察者が、ステップS3での結果を考慮して、対応するシミュレーション条件(基材の色、着色粒子の色、ビヒクルと着色粒子との質量比、着色粒子の量、および着色粒子の大きさ)を入力する場合を説明したが、これらの条件を自動的に決定してもよい。そして、自動的に決定されたシミュレーション条件を用いてCG画像を描画し、観察者の評価を受けた後、必要に応じて、シミュレーション条件の一部を少し変化させて、再びCG画像を描画する処理を繰り返すようにしてもよい。
【0098】
また、複数種類の多彩模様を標準模様色見本(以下、標準色と記す)として決定し、それらを再現できる多彩模様形成用塗料(混合塗料)を販売することが考えられ、さらに、それら標準色における各着色粒子の色や混合割合を微調整して、オリジナルの多彩模様形成用塗料を作成することも考えられる。こうした場合に本発明を適用すれば、オリジナルの多彩模様形成用塗料を容易にシミュレーションすることができる。
【0099】
また、標準色の模様に不満がない場合にも、本発明を適用して、標準色と異なる色相(例えば、白、黒およびピンクを含む花崗岩の多彩模様において、ピンクをブルーに変更し、白黒を反逆転させる)の多彩模様を再現可能な塗料の配合を容易に決定することができる。
【0100】
なお、これらのカスタマイズを実行する場合、多彩模様のシミュレーション条件を広い範囲で変更することが可能であるが、実際に塗料として再現できる範囲にシミュレーション条件を制限することが望ましい。また、色彩調和が不自然なCG画像を生成しないようにシミュレーション条件を制限してもよい。そのためには、例えば、着色粒子の色の数、各着色粒子の色、各着色粒子の数などの可変量を、それぞれに応じた所定範囲内に制限すればよい。
【0101】
また、元になる画像には、多彩模様画像に限らず、ユーザの好みの任意の画像(風景写真、グラビア写真、抽象画など)を使用することができる。例えば、任意の画像に画像処理を施して得られた画像に本発明を適用し、複数の色(塗料)とそれらの配合を決定することができる。
【0102】
また、建築物の内部(レストラン、ホテル、オフィス等の特定の部屋)に多彩模様の内装を施す場合などに、本発明を適用することもできる。その場合、対象物の3次元構造データによって決まる所定の壁面に対して、上記したステップS5〜S7と同様の処理を行うことによって、所定の壁面が多彩模様で装飾された3次元CG画像を生成することができる。また、2次元の多彩模様画像を上記したステップS5〜S7によって予め生成しておき、これを所定の壁面にマッピングすることによって3次元CG画像を生成してもよい。
【実施例1】
【0103】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確に示す。ここでは、第1の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法の実施例について説明する。
【0104】
先ず3種類の着色粒子を生成し、これを用いて多彩模様形成用塗料を6種類調整した。得られた多彩模様形成用塗料を塗装して多彩模様塗膜の塗板を6枚作成した。そして、CG画像による多彩模様塗膜の再現性を評価した。尚、以下に示す単位「部」は「重量部」を意味する。
【0105】
(1)エマルションの製造
容量2リットルの4つ口フラスコに、脱イオン水285部及びニューコール707SF(商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン系界面活性剤、不揮発分30%)1部を加え、窒素置換後、85℃に保持した。その中に、表1の組成のエマルション化してなるプレエマルションの3%分と、過硫酸アンモニウム3部を脱イオン水120部に溶解させた開始剤水溶液123部のうちの41部とをそれぞれ添加し、添加20分後より、残りのプレエマルションと残りの過硫酸アンモニウム水溶液とを4時間かけて滴下した。
【0106】
【表1】

滴下終了後、さらに2時間85℃に保持した後に、40℃に降温した。次いで、アンモニア水にてpH8.3に調整し、固形分55%のエマルション(A)を得た。
【0107】
(2)水性クリヤー塗料の製造
容量2リットルのステンレス容器に表2の成分を仕込み、回転攪拌機にて30分間攪拌混合して、水性クリヤー塗料(B)を得た。
【0108】
【表2】

(3)白顔料ペーストの製造
容量0.5リットルのステンレス容器に表3の成分を仕込み、回転攪拌機にて30分間攪拌混合して、白顔料ペーストを得た。
【0109】
【表3】

(4)水性液状組成物(茶 C15−75B)の製造
容量2リットルのステンレス容器に表4の成分を仕込み、回転攪拌機にて30分攪拌混合して、水性液状組成物(茶 C15−75B)を得た。
【0110】
【表4】

(5)水性液状組成物(白 C25−90A)の製造
容量2リットルのステンレス容器に表5の成分を仕込み、回転攪拌機にて30分攪拌混合して、水性液状組成物(白 C25−90A)を得た。
【0111】
【表5】

(6)水性液状組成物(灰 C15−50B)の製造
容量2リットルのステンレス容器に表6の成分を仕込み、回転攪拌機にて30分攪拌混合して、水性液状組成物(灰 C15−50B)を得た。
【0112】
【表6】

(7)着色粒子(茶 C15−75B)の製造
容量4リットルのステンレス容器に、0.15%水酸化カルシウム水溶液(25℃の脱イオン水100gに対して、水酸化カルシウムを0.15g溶解させた水溶液)を1300部仕込み、75mm径の攪拌羽根を使用して回転速度2500rpmで攪拌しながら、上記した水性液状組成物(茶 C15−75B)650部を徐々に容器内に滴下し、着色粒子を生成させた。次いで回転を維持して容器内液を15分攪拌した後に、200メッシュの金網を使用して濾別し、着色粒子(茶 C15−75B)を得た。
【0113】
(8)着色粒子(白 C25−90A)の製造
水性液状組成物(茶 C15−75B)に替えて、水性液状組成物(白 C25−90A)を使用する以外には、着色粒子(茶 C15−75B)の製造と同様にして、着色粒子(白 C25−90A)を得た。
【0114】
(9)着色粒子(灰 C15−50B)の製造
水性液状組成物(茶 C15−75B)に替えて、水性液状組成物(灰 C15−50B)を使用する以外には、着色粒子(茶 C15−75B)の製造と同様にして、着色粒子(灰 C15−50B)を得た。
【0115】
(10)多彩模様形成用塗料の作成
容量500ミリリットルのステンレス容器に表7に示す成分を順次攪拌しながら仕込み、全量投入後にさらに攪拌して、多彩模様形成用塗科6種類を得た。表7の数値の単位は「部」である。
【0116】
【表7】

(11)塗板の作成
スレート板(150×70×3mm)上に、EPシーラー透明(商品名、関西ペイント社製、水系アクリルエマルション系シーラー)を、塗付量が100g/mになるようにローラーで塗装し、1日間放置して乾燥させた後、さらにビニデラックス300白(商品名、関西ペイント社製、JIS K 56631種適合アクリルエマルション系塗料)を塗付量が100g/mになるようにローラーで塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で1日間乾燥させたものを被塗板とした。この被塗板に、表7の6種類の多彩模様形成用塗料を、塗付量が300g/mになるようにエアスプレーで塗装し、気温23℃、相対湿度60%の条件下で7日間乾燥させて多彩模様塗膜の塗板を作成した。
【0117】
(12)CG画像による多彩模様塗膜の再現性の評価
作成した6枚の塗板表面の多彩模様塗膜をイメージスキャナーで取り込み、6枚の画像データを取得し、上記したようにステップS2〜S5の処理を行なって基材および各着色粒子の色票と面積比を決定し、ステップS6の処理を行ってスレッド毎の待ち時間および粒度分布を決定した後、マルチスレッドを用いるステップS7の処理を行って6種類の多彩模様塗膜のCG画像を生成した。
【0118】
以上の後、模様を認識しない距離から観察した場合(視認距離が大きい場合)を想定して生成したCG画像の評価を行なった。具体的には、生成したCG画像と、多彩模様塗膜をイメージスキャナーで取り込んだ画像とに関して、画像の中心部分(256×256画素)のRGB値の平均値を求め、上記した方法でL*a*b*に変換し、色差ΔEを求めた。その結果、表8に示すように、色差ΔEが1.3〜3.2の範囲内であり、視認距離が大きい場合の一致度としては十分であった。
【0119】
次に、「新編画像処理ハンドブック、東京大学出版、2004年9月」の第709ページに記載の分散(variance)を使用して、柄の評価を行なった。具体的には、各々のカラー画像をグレー256階調に変換し、全画素(512×512=262144(画素))について、グレーレベル(0〜255)の分散を計算した。その結果を表8に示す。var−imgがイメージスキャナーで取り込んだ画像の分散値、var−simが生成したCG画像の分散値である。これらの値から、相関係数が0.983と高いことが確認された。
【0120】
【表8】

最後に、目視での評価を行った。それぞれ6枚のイメージスキャナーで取り込んだ画像およびCG画像を同一のインクジェットプリンターを使用して、マット紙に印刷し、それぞれ対応する2枚の画像の一致度を、建築外装担当デザイナー5名が目視で評価した。次の3段階評価を行った結果を、表8の右端列に示している。
○:実物の意匠を概ね再現できている。
△:色若しくは柄のいずれかが再現できていない。
×:色も柄も再現できていない。
【0121】
以上のことから、生成したCG画像は、実際の多彩模様塗膜を良好に再現できたことが分かる。
【実施例2】
【0122】
第2の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法の実施例について説明する。本実施例2では、実施例1において作成した6枚の多彩模様塗膜の塗板をイメージスキャナーで取り込んで得た6枚の画像データを使用した。これら6枚の画像データに対してステップS2〜S5の処理を行なって基材および各着色粒子の色票と面積比を決定し、図12のフローチャートに従って乱数と描画色との対応関係を決定した後、乱数を発生させてこの対応関係を用いて描画色を決定するステップS7の処理を行って6種類の多彩模様塗膜のCG画像を生成した。
【0123】
そして、実施例1と同様に、模様を認識しない距離から観察した場合(視認距離が大きい場合)を想定して生成したCG画像の評価を行なった。その結果、表9に示すように、色差ΔEが1.2〜3.4の範囲内であり、視認距離が大きい場合の一致度としては十分であった。
【0124】
次に、実施例1と同様に、柄の評価を行なった。その結果を表9に示す。表9中のvar−img、var−simの意味は表8と同じである。これらの値から、相関係数が0.974と高いことが確認された。
【0125】
【表9】

最後に、実施例1と同様に、目視での3段階評価を行った。その結果を、表9の右端列に示している。
【0126】
以上のことから、生成したCG画像は、実際の多彩模様塗膜を良好に再現できたことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法を実施するために用いるシステムの概略構成を示す模式図である。
【図2】多彩模様の一例を示す図である。
【図3】本発明によって決定された多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を用いて、多彩模様塗料が生成され、対象物に塗布され、多彩模様塗膜が形成される様子を示す概念図である。
【図4】形成された多彩模様塗膜を概念的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る多彩模様塗料の配合及び基材の視覚的情報の決定方法を示すフローチャートである。
【図6】シミュレーション条件の入力画面の一例を示す図である。
【図7】実際の着色粒子の写真である。
【図8】実際の着色粒子の粒径を測定して得られた粒度分布を示すグラフである。
【図9】ノイズの描画処理を説明するための図である。
【図10】着色粒子の面積比と待ち時間との関係の一例を示すグラフである。
【図11】多角形の描画処理を説明するための図である。
【図12】第2の実施の形態における描画パラメータを決定する処理(ステップS6)を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0128】
101 処理装置
102 画像表示装置
103 画像入力装置
104 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御手段および表示手段を備えたコンピュータを用いて、有色の基材に塗装されて多彩模様塗膜を生成する、透明な塗膜形成成分及び不定形な着色粒子を含む多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報を決定する方法であって、
前記配合情報が、前記着色粒子の視覚的情報および配合比率であり、
前記制御手段が、多彩模様のカラー画像上の複数の斑の視覚的情報を決定し、各々の前記斑の前記視覚的情報を塗装によって再現するための前記着色粒子および前記基材を決定する第1ステップと、
前記制御手段が、前記カラー画像の各画素に複数の前記視覚的情報の内の何れかの視覚的情報を対応させ、同じ視覚的情報を対応させた画素の数に応じて、前記着色粒子の配合比率を決定する第2ステップと、
前記制御手段が、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報、前記基材に対応する前記視覚的情報、前記配合比率、及び前記着色粒子の大きさを用いて、多彩模様画像データを生成するための条件を求める第3ステップと、
前記制御手段が、前記条件に基づいて多彩模様画像データを生成し、前記表示手段に表示する第4ステップとを含むことを特徴とする多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項2】
前記第1ステップの前に、前記制御手段が、前記カラー画像を前記表示手段に表示する第5ステップをさらに含み、
前記第1ステップが、
前記制御手段が、前記表示手段に表示された前記カラー画像上で、所定領域の指定を受け付ける第6ステップと、
前記制御手段が、前記所定領域内の画素の視覚的情報を平均して平均の視覚的情報を求め、該平均の視覚的情報を用いて、前記斑の前記視覚的情報を決定する第7ステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項3】
前記第2ステップが、前記制御手段が、前記平均の視覚的情報を用いて色見本番号を有する色見本帳データベースを検索し、前記平均の視覚的情報に最も近い色見本の色見本番号を決定し、該色見本番号に基づいてCCMを行なって、複数の前記着色粒子の配合比率を決定するステップであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項4】
前記第2ステップが、前記制御手段が、前記カラー画像の各画素データを、複数の前記視覚的情報の何れかで置き換え、置き換えられた後のカラー画像において、同じ視覚的情報を有する画素の数から前記配合比率を計算するステップであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項5】
前記第2ステップにおいて、前記制御手段が、前記カラー画像における各画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求め、求めた該視覚的情報と複数の前記斑の前記視覚的情報との幾何学距離を求め、最も幾何学距離が近い前記視覚的情報で前記画素データを置き換えることを特徴とする請求項4に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項6】
前記第2ステップが、
前記制御手段が、前記カラー画像における画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求める第10ステップと、
前記制御手段が、前記斑の複数の前記視覚的情報の中から、前記第10ステップで求めた前記視覚的情報と幾何学距離が最も近い視覚的情報を決定し、前記幾何学距離が所定値以下であれば、予め前記視覚的情報毎に初期値を0として割り当てた変数のうち、決定した前記視覚的情報に対応する変数を1増大させる第11ステップとを含み、
前記カラー画像の全画素に対して前記第10及び第11ステップを実行した後に、前記変数を用いて、前記着色粒子の前記配合比率を決定するステップであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項7】
前記第2ステップが、
前記制御手段が、前記カラー画像における画素データから、前記斑の前記視覚的情報と同じ色空間での視覚的情報を求める第12ステップと、
前記制御手段が、前記斑の複数の前記視覚的情報の中から、前記第12ステップで求めた前記視覚的情報と幾何学距離が最も近い視覚的情報を決定し、前記距離と前記距離に応じた寄与係数とを乗算して得られた数値を、予め前記視覚的情報毎に初期値を0として割り当てた変数のうち、決定した前記視覚的情報に対応する変数に加算する第13ステップとを含み、
前記カラー画像の全画素に対して前記第12及び第13ステップを実行した後に、前記変数を用いて、前記着色粒子の前記配合比率を決定するステップであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項8】
前記多彩模様画像データを生成するための前記条件が、スレッドの数、スレッド毎の塗料の色データ、スレッド毎の待ち時間、スレッド毎の描画する粒子の粒度分布であり、
前記スレッドの数が、前記第1ステップで決定した着色粒子の種類の数であり、
前記スレッド毎の塗料の色データが、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報であり、
前記スレッド毎の待ち時間yが、xを着色粒子の面積比率として、前記着色粒子の前記大きさに応じた回帰係数a、bを用いた回帰式 y=a・x によって計算され、
前記粒度分布が、前記着色粒子の前記大きさから求められる描画される図形の大きさの分布であり、
前記第4ステップが、前記制御手段が、前記条件で、マルチスレッドを用いたコンピュータグラフィックによって前記多彩模様画像データを描画するステップであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項9】
前記多彩模様画像データを生成するための前記条件が、前記着色粒子の視覚的情報と乱数の範囲を表す情報とを対応させた対応情報を含み、
前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、前記対応情報を用いて、生成した前記乱数に対応する前記着色粒子の視覚的情報を決定し、該視覚的情報を用いて前記多彩模様画像データを生成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項10】
前記多彩模様画像データを生成するための前記条件が、着色粒子毎の描画に使用する色データ、着色粒子毎の粒度分布、及び、着色粒子として描画する図形の総数をさらに含み、
着色粒子毎の描画に使用する前記色データが、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報であり、
前記総数が、前記透明な塗膜形成成分に対する前記着色粒子全体の比率を用いて決定され、
前記着色粒子の前記視覚的情報に対応する前記乱数の範囲が、前記配合比率を用いて決定され、
前記粒度分布が、前記着色粒子の前記大きさから求められる描画される前記図形の大きさの分布であり、
前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、前記総数と同じ回数だけ乱数を発生し、発生した乱数毎に決定した前記色データを用いて前記図形を描画することを特徴とする請求項9に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項11】
前記着色粒子の前記視覚的情報に対応する前記乱数の範囲が、さらに前記着色粒子相互の、1個の平均の面積比率を用いて決定されることを特徴とする請求項10に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項12】
前記粒度分布が、対数正規分布であることを特徴とする請求項8、10及び11のいずれか1項に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項13】
前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、中心の座標をランダムに発生させ、該中心と頂点との距離が前記粒度分布によって決定される多角形の内側領域を、前記着色粒子毎の描画に使用する前記色データで描画して、前記多彩模様画像データを生成することを特徴とする請求項10又は11に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項14】
前記第4ステップにおいて、前記制御手段が、前記スレッド毎に中心の座標をランダムに発生させ、該中心と頂点との距離が前記粒度分布によって決定される多角形の内側領域を、前記スレッド毎の塗料の色データで描画して、前記多彩模様画像データを生成することを特徴とする請求項8に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項15】
前記第4ステップの前に、前記基材に対応する前記視覚的情報を各画素データとする画像を生成した後、該画像上のランダムに決定した画素に、前記着色粒子に対応する前記視覚的情報に対応する色データを設定することを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定方法。
【請求項16】
制御手段および表示手段を備えたコンピュータにおいて実行される、有色の基材に塗装されて多彩模様塗膜を生成する、透明な塗膜形成成分及び不定形な着色粒子を含む多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラムであって、
前記配合情報が、前記着色粒子の視覚的情報および配合比率であり、
前記制御手段に、
多彩模様のカラー画像上の複数の斑の視覚的情報を決定し、各々の前記斑の前記視覚的情報を塗装によって再現するための着色粒子および基材を決定する第1の機能と、
前記カラー画像の各画素に複数の前記視覚的情報の内の何れかの視覚的情報を対応させ、同じ視覚的情報を対応させた画素の数に応じて、前記着色粒子の配合比率を決定する第2の機能と、
前記着色粒子に対応する前記視覚的情報、前記基材に対応する前記視覚的情報、前記配合比率、及び前記着色粒子の大きさを用いて、多彩模様画像データを生成するための条件を求める第3の機能と、
前記条件に基づいて多彩模様画像データを生成し、前記表示手段に表示する第4の機能とを実現させることを特徴とする多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラム。
【請求項17】
前記第4機能において、前記制御手段に、前記対応情報を用いて、生成した前記乱数に対応する前記着色粒子の視覚的情報を決定し、該視覚的情報を用いて前記多彩模様画像データを生成する機能をさらに実現させることを特徴とする請求項16に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラム。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の多彩模様塗料の配合情報及び基材の視覚的情報の決定プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図2】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−30018(P2008−30018A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26492(P2007−26492)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】