説明

多板クラッチおよびクラッチハブの製造方法

【課題】スプライン歯の歯面の乱れやコストアップ、クラッチハブの大型化を抑制しつつクラッチ板を良好に潤滑・冷却することができる多板クラッチの提供。
【解決手段】多板クラッチを構成するクラッチハブ3は、外周に複数のスプライン歯33が形成されると共に各スプライン歯33の内側に凹部34が形成された筒状部32を有し、各凹部34の一端には、クラッチハブ3の半製品の筒状部320の開放端でスプライン歯33の一部を内側に窪ませて窪み部350を形成すると共に窪み部350の一部を残して筒状部320の当該窪み部350の一部よりも開放端の部分を除去することにより堰部35が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部を有するクラッチハブと、クラッチハブの筒状部の外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板とを含む多板クラッチおよび複数のクラッチ板と共に多板クラッチを構成するクラッチハブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の多板クラッチとしては、クラッチハブ側に連結される受動側クラッチ板とクラッチリテーナ(クラッチドラム)側に連結される駆動側クラッチ板とを交互に複数枚ずつ重合させた重合クラッチ板をピストンと共にクラッチリテーナに組み込むことにより構成された自動変速機用多板クラッチが知られている(例えば、特許文献1参照)。この多板クラッチでは、クラッチリテーナ内に組み込まれる重合クラッチ板の外側端面が、当該重合クラッチ板のエンドプレート分を加えた位置でクラッチリテーナの外周部を内方向に突出させた突出部に係止される。そして、かかる突出部は、クラッチリテーナの外側縁部あるいは外側縁部よりやや入り込んだ位置でスプライン溝の外周面側よりの山部を内方に突き出したり、クラッチリテーナの外側縁部を内側へ折り曲げたりすることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−180242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような多板クラッチは、一般に、クラッチ板の潤滑や冷却のためにクラッチハブの外周に形成された連通穴を介してクラッチ板に作動油を供給できるように構成される。ここで、クラッチハブの外周に形成された連通穴からクラッチ板に充分な量の作動油を供給するためには、スプライン溝の山部の裏側の凹部に作動油を溜めると共にクラッチハブの開放端からの作動油の流出が抑制されるようにクラッチハブの開放端に堰部を設けると好ましい。このような堰部をクラッチハブの開放端に形成するに際しては、上記従来の多板クラッチのクラッチリテーナに形成された突出部のように、スプライン溝の山部を内方に突き出すことが考えられる。しかしながら、かかる手法によりクラッチハブに堰部を形成しても、堰部(突出部)の両側等に隙間が形成されてしまうのでクラッチハブの開放端からの作動油の流出を充分に抑制することができず、しかもスプラインの歯面に乱れが生じることによりクラッチハブの全長(軸方向長さ)を大きくせざるを得なくなるおそれがある。また、クラッチハブの外側縁部を内側へ折り曲げてもクラッチハブの開放端に堰部を形成することができるが、この場合にも、外側縁部を内側へ折り曲げる分だけクラッチハブの全長(軸方向長さ)が大きくなってしまう。更に、クラッチハブの端部にスナップリングを装着すれば、当該スナップリングにより堰部を構成することができるが、この場合には、クラッチハブの全長(軸方向長さ)が大きくなると共に部品点数すなわちコストの増加を招いてしまう。更に、クラッチハブを切削加工により形成すれば、クラッチハブの開放端からの作動油の流出を良好に抑制可能な堰部を形成可能となるが、クラッチハブの製造コストが大幅に増加してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、スプライン歯の歯面の乱れやコストアップ、クラッチハブの大型化を抑制しつつクラッチ板を良好に潤滑・冷却することができる多板クラッチの提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による多板クラッチおよびクラッチハブの製造方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による多板クラッチは、
筒状部を有するクラッチハブと、該クラッチハブの筒状部の外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板とを含む多板クラッチにおいて、
前記クラッチハブの筒状部の外周には複数のスプライン歯が形成されると共に、各スプライン歯の内側には凹部が形成されており、各凹部の一端には、前記筒状部の一端側で前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて窪み部を形成すると共に前記窪み部の一部を残して前記筒状部の該窪み部の一部よりも前記一端側の部分を除去することにより堰部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
この多板クラッチを構成するクラッチハブは、外周に複数のスプライン歯が形成されると共に各スプライン歯の内側に凹部が形成された筒状部を有し、各凹部の一端には、筒状部の一端側でスプライン歯の一部を内側に窪ませて窪み部を形成すると共に窪み部の一部を残して筒状部の窪み部の一部よりも一端側の部分を除去することにより堰部が形成されている。このように、スプライン歯の一部を内側に窪ませると共に窪み部の一部を残して筒状部の一端側の部分を除去して堰部を形成すれば、堰部周辺のスプライン歯の歯面の乱れを良好に抑制すると共に、クラッチハブの全長(軸方向長さ)の増加を抑制しつつ、全体に均一な高さを有する堰部を得ることができる。そして、このような堰部は、比較的単純なプレス加工(半抜き加工)および切断加工により得ることができることから、クラッチハブの製造コストの増加を抑制することができる。従って、このクラッチハブを用いることで、スプライン歯の歯面の乱れやコストアップ、クラッチハブの大型化を抑制しつつクラッチ板を良好に潤滑・冷却可能な多板クラッチを得ることができる。
【0009】
また、前記クラッチハブの筒状部には、該筒状部の外側と前記凹部とを連通する連通穴が形成されてもよい。これにより、堰部によりクラッチハブの凹部の一端から作動流体が流出するのを抑制しつつ連通穴からクラッチ板側に充分な量の作動流体を供給してクラッチ板を良好に潤滑・冷却することが可能となる。
【0010】
本発明によるクラッチハブの製造方法は、
外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板と共に多板クラッチを構成するクラッチハブの製造方法であって、
(a)筒状部を有する部材の外周に複数のスプライン歯を形成すると共に各スプライン歯の内側に凹部を形成するステップと、
(b)前記筒状部の一端側で前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて窪み部を形成するステップと、
(c)前記窪み部の一部を残して前記筒状部の該窪み部の一部よりも前記一端側の部分を除去することにより前記凹部の一端に堰部を形成するステップと、
を含むものである。
【0011】
この方法によれば、堰部周辺のスプライン歯の歯面の乱れを良好に抑制すると共に、クラッチハブの全長(軸方向長さ)の増加を抑制しつつ、最終的な高さ(窪み部の深さ)は若干低くなるものの全体に均一な高さを有する堰部をクラッチハブに形成することができる。また、ステップ(b)では比較的単純なプレス加工を用いればよく、ステップ(c)では比較的単純な切断加工を用いればよいので、この方法によれば、クラッチハブの製造コストの増加を抑制することができる。従って、この方法により製造されたクラッチハブを用いることで、スプライン歯の歯面の乱れやコストアップ、クラッチハブの大型化を抑制しつつクラッチ板を良好に潤滑・冷却可能な多板クラッチを得ることができる。
【0012】
また、ステップ(b)は、半抜き加工により前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて前記窪み部を形成するものであってもよい。これにより、スプライン歯の歯面の乱れを抑制しつつ全体に均一な深さ(高さ)を有する窪み部を筒状部に形成することができる。
【0013】
更に、ステップ(a)は、プレス加工により前記筒状部に前記スプライン歯および前記凹部を形成するものであってもよい。これにより、筒状部を有する部材の外周に複数のスプライン歯および凹部を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例に係る多板クラッチ1を含む変速装置10を例示する概略構成図である。
【図2】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の要部を示す要部拡大図である。
【図3】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造手順を示す説明図である。
【図4】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造手順を示す説明図である。
【図5】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造手順を示す説明図である。
【図6】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造手順を示す説明図である。
【図7】多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る多板クラッチ1を備えた変速装置を示す概略構成図である。同図に示す変速装置10は、車両に搭載される有段自動変速機であり、トルクコンバータを介してエンジンのクランクシャフトに連結されるインプットシャフト11や、複数の遊星歯車や複数のブレーキ、クラッチを含む変速機構、デファレンシャルギヤを介して車両の駆動輪に連結される図示しないアウトプットシャフト等を含む。実施例の多板クラッチ1は、油圧クラッチとして構成されており、変速装置10のインプットシャフト11と変速機構に含まれる遊星歯車12のプラネタリキャリア13とを連結すると共に両者の連結を解除することができるものである。
【0017】
図1に示すように、多板クラッチ1は、インプットシャフト11に固定されるクラッチドラム2と、遊星歯車12のプラネタリキャリア13に固定されるクラッチハブ3と、クラッチドラム2の内周に摺動自在にスプライン嵌合される複数の環状のクラッチ板(ドリブンプレート)4と、クラッチハブ3の外周に摺動自在にスプライン嵌合される複数の環状のクラッチ板(ドライブプレート)5と、クラッチドラム2内に軸方向に摺動自在に配置されてクラッチ板4,5に向けて移動可能なクラッチピストン6と、クラッチピストン6よりもアウトプットシャフト側に配置されると共にクラッチドラム2内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室をクラッチピストン6と共に画成するキャンセルプレート7と、クラッチピストン6とキャンセルプレート7との間に配置されるリターンスプリング8とを含む。このように構成される多板クラッチ1は、オイルポンプに接続された油圧制御ユニット(何れも図示せず)から供給される作動油の油圧を用いてクラッチピストン6を複数のクラッチ板4,5に向けて移動させ、クラッチピストン6とスナップリング21を介してクラッチドラム2に固定されたリテーニングプレート22との間に複数のクラッチ板4,5を挟み付けることによりクラッチドラム2とクラッチハブ3とを連結する。これにより、クラッチドラム2とクラッチハブ3とが一体に回転可能となり、エンジンからの動力をインプットシャフト11からクラッチドラム2およびクラッチハブ3を介して遊星歯車12のプラネタリキャリア13へと伝達することができる。
【0018】
上述の多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3は、図1からわかるように、有底筒体として構成されており、中心に開口を有すると共に遊星歯車12のプラネタリキャリア13に固定される基部31と、基部31から軸方向に延出されると共に基部31とは反対側の端部が開放された筒状部32とを有する。図1および図2に示すように、筒状部32の外周には、上述のクラッチ板5を摺動自在に支持するための複数のスプライン歯33がそれぞれクラッチハブ3の軸方向に延びるように複数形成されており、各スプライン歯33の内側(裏側)には、クラッチハブ3の軸方向に延びる凹部34が形成されている。また、各凹部34の先端(図1における左端)には、堰部35が形成されている。各堰部35は、図2に示すように、筒状部32の開放端の内面から対応する凹部34の先端をある程度塞ぐように径方向内側に向けて延出されている。更に、筒状部32には、堰部35の近傍に位置すると共に各スプライン歯33の内側の凹部34と筒状部32の外側とを連通するように連通穴36が形成されている。
【0019】
このように構成されるクラッチハブ3を備えた多板クラッチ1では、車両の走行(エンジンの運転)に伴ってオイルポンプが作動すると、インプットシャフト11に形成された油路等を介して作動油がクラッチハブ3の内部にも供給される。そして、クラッチハブ3内に供給された作動油は、クラッチハブ3の内周に形成された複数の凹部34内に溜まった後、連通穴36を介してクラッチ板4,5の周囲に流れ込む。この際、クラッチハブ3の各凹部34の先端には、上述の堰部35が形成されていることから、作動油がクラッチハブ3の開放端側すなわち各凹部34の先端側から流出するのが抑制される。従って、実施例の多板クラッチ1では、各連通穴36からクラッチ板4,5側に充分な量の作動油を供給して複数のクラッチ板4,5を良好に潤滑・冷却することが可能となる。なお、クラッチ板4,5を潤滑・冷却した作動油は、クラッチドラム2の外周に形成された油穴23等を介して図示しないオイルパンに流れ込む。
【0020】
次に、図3から図8等を参照しながら、上述の多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3の製造行程について説明する。
【0021】
クラッチハブ3の製造に際しては、まず、金属板に対して図示しないプレス成型装置を用いて打ち抜き加工と絞り加工とを施すことにより、中心に開口を有する基部と当該基部から軸方向に延出された円筒部とを有する金属製の有底筒体を得る。次いで、こうして得られた有底筒体に対して図示しないスプライン成型用のプレス成形装置を用いたプレス加工を施すことにより、当該有底筒体の円筒部の外周に複数のスプライン歯33を形成すると共に各スプライン歯33の内側に凹部34をスプライン歯33と同時に形成する。これにより、図3および図4に示すように、基部31と、外周に複数のスプライン歯33を有すると共に各スプライン歯33の内側に凹部34を有する筒状部320とを含むクラッチハブ3の半製品30を得る。このように、プレス加工を用いれば、円筒を有する有底筒体の外周に複数のスプライン歯33および凹部34を容易に形成することができる。ここで、半製品30の筒状部320は、その軸方向長さが最終的に得られるクラッチハブ3の筒状部32の軸方向長さよりも長くなるように形成される。そして、筒状部320には、各スプライン歯33の内側の凹部34と筒状部32の外側とを連通するように連通穴36が形成される。
【0022】
続いて、半製品30に対して半抜き加工を施すことにより、筒状部320の開放端側で各スプライン歯33の一部を内側に窪ませる。実施例では、図4および図5に示すように、複数(例えば2〜5本程度)のスプライン歯33に対して筒状部320の内側から半抜きダイ100を押し当てると共に当該複数のスプライン歯33に筒状部320の外側から半抜きパンチ101を押し当てることにより、対象となるスプライン歯33の一部を内側に窪ませる。これにより、図5および図6に示すように、スプライン歯33には、筒状部320の開放端側に位置するように凹部34内に突出する窪み部350が形成される。こうした半抜き加工は、複数本のスプライン歯33ごとに施工され、最終的にすべてのスプライン歯33に対して窪み部350が形成される。なお、図5の例では、図示するような半抜きダイ100を用いて窪み部350の開放端側(図中左側)の一部をスプライン歯33から切り離しているが、これに限られるものではない。すなわち、窪み部350は、要求される深さを有していればよく、他の半抜きダイを用いて、窪み部350をスプライン歯33と完全に繋がった状態に形成してもよい。
【0023】
そして、すべてのスプライン歯33に対して窪み部350が形成された半製品30に切断加工を施し、窪み部350の一部を残して筒状部320の当該窪み部350の一部よりも開放端側の部分を除去する。実施例では、図7に示すように、複数(例えば2〜5本程度)のスプライン歯33に対して筒状部320の内側からダイ200を押し当てた状態で当該複数のスプライン歯33に対応した筒状部320の開放端側の部分をパンチ201により切断する。これにより、図2および図7に示すように、スプライン歯33の内側(裏側)の凹部34の一端には、当該凹部34の開放端をある程度塞ぐように径方向内側に向けて延びる堰部35が形成される。なお、筒状部320の軸方向における切断位置は、除去されることなく残される窪み部350の高さが堰部35に要求される高さとなるように定められる。こうした切断加工は、複数本のスプライン歯33ごとに施工され、最終的に、すべての凹部34の一端に堰部35が形成され、こうしてクラッチハブ3の製造が完了する。なお、必要に応じて、クラッチハブ3の筒状部32の端面(開放端側の端面)に表面仕上加工を施してもよい。
【0024】
以上説明したように、実施例の多板クラッチ1を構成するクラッチハブ3は、外周に複数のスプライン歯33が形成されると共に各スプライン歯33の内側に凹部34が形成された筒状部32を有し、各凹部34の一端には、筒状部32すなわち半製品30の筒状部320の一端側(開放端側)でスプライン歯33の一部を内側に窪ませて窪み部350を形成すると共に窪み部350の一部を残して筒状部320の当該窪み部350の一部よりも一端側の部分を除去することにより堰部35が形成されている。このように、スプライン歯33の一部を内側に窪ませると共に窪み部350の一部を残して筒状部320(32)の一端側(開放端側)の部分を除去して堰部35を形成すれば、堰部35の周辺におけるスプライン歯33の歯面の乱れを良好に抑制すると共に、クラッチハブ3の全長(軸方向長さ)の増加を抑制しつつ、最終的な高さ(窪み部350の深さ)は若干低くなるものの全体に均一な高さを有する堰部35を得ることができる(図2参照)。
【0025】
クラッチハブ3の内周側の各凹部34の一端に上述のような堰部35を形成することにより、堰部35によってクラッチハブ3の各凹部34の一端から作動油が流出するのを抑制しつつ連通穴36からクラッチ板4,5側に充分な量の作動油を供給してクラッチ板4,5を良好に潤滑・冷却することが可能となる。そして、上述の堰部35は、比較的単純なプレス加工すなわち半抜き加工および切断加工により得ることができることから、堰部35の形成に伴うクラッチハブ3の製造コストの増加を抑制することができる。従って、上述の堰部35を有するクラッチハブ3を用いることで、スプライン歯33の歯面の乱れやコストアップ、クラッチハブ3の大型化を抑制しつつクラッチ板4,5を良好に潤滑・冷却可能な多板クラッチ1を得ることができる。
【0026】
また、上記実施例のように、半抜き加工によりスプライン歯33の一部を内側に窪ませて窪み部350を形成すれば、堰部35の周辺におけるスプライン歯33の歯面の乱れを抑制しつつ全体に均一な深さ(高さ)を有する窪み部350を筒状部32に形成することが可能となる。そして、堰部35の周辺におけるスプライン歯33の歯面の乱れを減らすことで、上記実施例において最もクラッチピストン6側に位置するクラッチ板4のクラッチハブ3に対する摺動範囲をできるだけ筒状部32の開放端側まで拡大することが可能となる。
【0027】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、筒状部32を有するクラッチハブ3とクラッチハブ3の筒状部32の外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板4とを含む多板クラッチ1が「多板クラッチ」に相当し、クラッチハブ3の筒状部32の外周に形成された複数のスプライン歯33が「スプライン歯」に相当し、各スプライン歯33の内側に形成された凹部34が「凹部」に相当し、各凹部34の一端に形成された堰部35が「堰部」に相当し、筒状部32すなわち半製品30の筒状部320の一端側でスプライン歯33の一部を内側に窪ませることにより形成される窪み部350が「窪み部」に相当し、筒状部32の外側と凹部34とを連通する連通穴36が「連通穴」に相当する。ただし、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0028】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、多板クラッチの製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 多板クラッチ、2 クラッチドラム、3 クラッチハブ、4 クラッチ板、5 クラッチ板、6 クラッチピストン、7 キャンセルプレート、8 リターンスプリング、10 変速装置、11 インプットシャフト、12 遊星歯車、13 プラネタリキャリア、21 スナップリング、22 リテーニングプレート、23 油穴、30 半製品、31 基部、32,320 筒状部、33 スプライン歯、34 凹部、34 凹部、35 堰部、36 連通穴、100 半抜きダイ、101 半抜きパンチ、200 ダイ、201 パンチ、350 窪み部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部を有するクラッチハブと、該クラッチハブの筒状部の外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板とを含む多板クラッチにおいて、
前記クラッチハブの筒状部の外周には複数のスプライン歯が形成されると共に、各スプライン歯の内側には凹部が形成されており、各凹部の一端には、前記筒状部の一端側で前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて窪み部を形成すると共に前記窪み部の一部を残して前記筒状部の該窪み部の一部よりも前記一端側の部分を除去することにより堰部が形成されていることを特徴とする多板クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の多板クラッチにおいて、
前記クラッチハブの筒状部には、該筒状部の外側と前記凹部とを連通する連通穴が形成されていることを特徴とする多板クラッチ。
【請求項3】
外周にスプライン嵌合される複数のクラッチ板と共に多板クラッチを構成するクラッチハブの製造方法であって、
(a)筒状部を有する部材の外周に複数のスプライン歯を形成すると共に各スプライン歯の内側に凹部を形成するステップと、
(b)前記筒状部の一端側で前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて窪み部を形成するステップと、
(c)前記窪み部の一部を残して前記筒状部の該窪み部の一部よりも前記一端側の部分を除去することにより前記凹部の一端に堰部を形成するステップと、
を含むクラッチハブの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のクラッチハブの製造方法において、
ステップ(b)は、半抜き加工により前記スプライン歯の一部を内側に窪ませて前記窪み部を形成することを特徴とするクラッチハブの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のクラッチハブの製造方法において、
ステップ(a)は、プレス加工により前記筒状部に前記スプライン歯および前記凹部を形成することを特徴とするクラッチハブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77831(P2012−77831A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222779(P2010−222779)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】