説明

多次元生体材料およびその製造方法

多次元構造を有し、かつ分化したMSC組織および脱灰骨基質を含む生体材料であって、前記脱灰骨基質は分化したMSC組織内に分散されている生体材料、その製造方法および使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多次元組織もしくは生体材料もしくは基質の製造のための間葉系幹細胞およびそれらの分化の分野に関する。本発明の製品は、リウマチ学、組織再建および/または外科、特に外傷学、整形外科、形成外科および顎顔面外科において有用となり得る。特に、本発明の製品は、骨もしくは軟骨修復またはそれらの置換において有用となり得る。
【背景技術】
【0002】
組織工学は成長分野であり、この分野では、体内に移植するための新しい材料が開発されている。1つの重要な領域では、外傷または疾患(例えば腫瘍切除)によって失われた骨の領域を置換するために骨移植材料が必要とされる。伝統的に、移植材料は、移植材料を受け入れる個体の骨から採取される。しかし、これにより、さらなる外科手術およびさらなる回復が必要となる。骨は他人から、または死体からでさえも採取可能であるが、これによって生体適合性の問題ならびに疾患転移のリスクが生じる。
【0003】
組織を製造するために、幹細胞分化の分野では研究が行われている。例えば、国際公開第2007/103442号は、絹の足場と、脂肪由来の幹細胞である成体幹細胞とを含む組成物を開示している。
【0004】
(技術的な問題)
しかし、骨移植または骨の補強あるいは骨の再建に使用される多次元組織の製造には、現実的な技術的問題が残されている。軟骨再建または軟骨欠損の軽減においても同じ問題が残されている。
【0005】
従って、完全に生体適合性であり、かつ指定された用途にとって適当な機械的特徴を提供する組織工学材料が当該技術分野において今もなお必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、分化した間葉系幹細胞(MSC)組織および脱灰骨基質(DBM)を含み、前記脱灰骨基質が分化したMSC組織内に分散されている、多次元構造を有する自然のヒト骨誘導性生体材料に関する。
【0007】
分化したMSC組織を製造するために使用されるMSCは、ヒトまたは動物由来であってもよい。
【0008】
第1の実施形態によれば、MSCは脂肪組織から単離されたものであり、以下、脂肪組織間葉系幹細胞(AMSC)と呼ぶ。
【0009】
別の実施形態によれば、MSCは骨髄から単離されたものであり、以下、骨髄幹細胞(BMSC)と呼ぶ。好ましくは、本発明の生体材料に含まれるMSCは、継代培養後期の脂肪組織由来幹細胞である。
【0010】
本発明の生体材料は、ヒトまたは動物の体内に移植することを目的としている。移植される生体材料は自家由来であっても同種異系であってもよい。本発明の生体材料は、骨もしくは軟骨領域に移植可能であってもよい。本発明の生体材料は、ヒトまたは動物の体の異例な領域に移植してもよい。
【0011】
本発明の生体材料は生体適合性である。
【0012】
典型的には、本発明の生体材料は均質であり、それは本生体材料の構造および/または構成が組織全体にわたって類似していることを意味する。典型的には、本発明の生体材料は、自然の疾患領域への移植に必要とされる望ましい取扱いおよび機械的特性を有する。
【0013】
特定の実施形態によれば、本発明の生体材料は、引き裂かれることなく外科手術器具で保持することができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、本生体材料は、粘着剤(cohesiveness agent)も結合剤も全く含んでいない。
【0015】
好ましい実施形態によれば、本発明に係る生体材料は3次元である。本実施形態では、本発明の生体材料は、少なくとも1mmの厚さを有する厚膜を形成してもよい。本生体材料の大きさは、使用に好都合なように適合させてもよい。別の実施形態では、本生体材料によって足場が形成されるため、本発明の生体材料は、さらなる合成の足場の使用を全く必要としない。
【0016】
別の実施形態によれば、本発明の生体材料は1mm未満の薄膜を形成してもよい。本実施形態では、本生体材料は前記2次元である。
【0017】
第1の実施形態によれば、本発明の生体材料は、オステオカルシン発現および無機化特性を有する本物の骨と同じ特性を有する。すなわち、本生体材料は、骨細胞および相互結合組織を含む。特定の実施形態によれば、本発明の生体材料は、骨細胞(骨細胞様細胞ともいう)と、コラーゲン(好ましくは、石灰化し、無機化したコラーゲン)と、骨基質と、骨細胞上の無機質コーティングとを含み、このコーティングは組織化されたリンカルシウム結晶(phosphocalcic crystal)である。典型的には、本発明の生体材料は、自然の骨に近い気孔率を有する。
【0018】
第2の実施形態によれば、本発明の生体材料は本物の軟骨と同じ特性を有する。すなわち、本生体材料は、軟骨細胞と、コラーゲンおよびプロテオグリカンを含む細胞外基質とを含む。
【0019】
本発明の生体材料の再コロニー形成特性は、本生体材料が移植される環境に依存していてもよく、本発明の生体材料は、骨環境に配置された場合は再コロニー形成可能であってもよく、非骨環境に配置された場合は再コロニー形成不可能であってもよい。
【0020】
本発明の生体材料は、生体材料の細胞の分化が終点に達したものであり、移植された場合に生体材料の表現型は変化しない。本発明のインプラントは多層であってもよい。すなわち、本インプラントは、例えば外科用接着剤または任意の好適な固定手段などの任意の好適な手段によって互いに縫合または固定され得る少なくとも二層の生体材料を含む。
【0021】
典型的には、本発明の生体材料は、50〜2500μmの平均径を有する粒子の形態の脱灰骨基質を含み、第1の実施形態では、粒子は50〜125μmの平均径を有し、第2の実施形態では、粒子は125〜200μmの平均径を有し、第3の実施形態では、粒子は500〜1000μmの平均径を有する。典型的には、脱灰骨基質は、40歳未満のドナーから得られる。一実施形態によれば、骨基質の脱灰率は90〜99%、好ましくは95〜98%、さらにより好ましくは約97%である。この脱灰率は、有利には、HCl(0.6N)を用いた3時間のプロセスによって生じる。具体的な実施形態によれば、脱灰骨基質は滅菌されている。
【0022】
特定の実施形態によれば、脱灰骨基質は、大学組織バンク(University Tissue Bank)(ルーバン大学医学部付属病院(Cliniques universitaires Saint−Luc)、ベルギーのブリュッセル)から提供される。
【0023】
本発明は、骨芽細胞培地および/または軟骨形成培地でMSCを15〜25日間インキュベートし、次いで前記培地に脱灰骨基質を添加し、かつ15〜30日間、好ましくは15〜25日間、より好ましくは20日間のさらなる期間にわたってインキュベーションを維持し、このさらなる期間の間に、好ましくは脱灰骨基質を取り出さずに培地を2日に1回取り替えることを含む、多次元生体材料の製造方法にも関する。
【0024】
脱灰骨基質の添加前にMSCをインキュベートすることは、本発明の方法の重要な工程である。そのような工程は、MSCの軟骨形成細胞および/または骨芽細胞への分化を可能にするために必要である。さらに、この工程は、3次元骨様構造を得るために必要である。
【0025】
好ましい実施形態によれば、MSCは、継代培養後期の脂肪組織間葉系幹細胞である。
【0026】
一実施形態によれば、培地1ml当たり1〜20mgの脱灰骨基質を添加する。好ましい実施形態によれば、培地1ml当たり1〜10mgの脱灰骨基質を添加する。
【0027】
最も好ましくは、培地1ml当たり5〜10mgの脱灰骨基質を添加する。脱灰骨基質の前記量は、生体材料の3次元骨様構造を得るために最適な濃度である。
【0028】
一実施形態によれば、全ての培地は、動物タンパク質を含んでいない。
【0029】
第2の実施形態によれば、分化培地はヒト血清を含んでいる。有利には、分化培地は動物血清を全く含んでおらず、好ましくは、ヒト血清以外の血清を含んでいない。
【0030】
本発明は、本発明に係る方法によって得られる多次元生体材料にも関する。本発明の方法によって得られる生体材料は、ヒトまたは動物の体内に移植することを目的としている。移植される本生体材料は自家由来であっても同種異系であってもよい。本発明の生体材料は、骨もしくは軟骨領域に移植可能であってもよい。本生体材料は、ヒトまたは動物の体の異例な領域に移植してもよい。
【0031】
本発明の方法によって得られる生体材料は生体適合性である。
【0032】
本生体材料は均質であり、それは生体材料の構造および/または構成が組織全体にわたって類似していることを意味する。好ましくは、本生体材料は、自然の疾患領域への移植に必要とされる望ましい取扱いおよび機械的特性を有する。典型的には、本発明の方法によって得られる生体材料は、引き裂かれることなく外科手術器具で保持することができる。
【0033】
本発明の一実施形態では、本生体材料は、粘着剤も結合剤のどれも含んでいない。
【0034】
別の実施形態では、本発明の方法によって得られる生体材料は3次元である。本実施形態では、本生体材料は、少なくとも1mmの厚さを有する厚膜を形成してもよい。本生体材料の大きさは、使用に好都合なように適合させてもよい。別の実施形態では、本生体材料によって足場が形成されるため、本発明の方法によって得られる生体材料は、さらなる合成の足場の使用を全く必要としない。
【0035】
さらに他の実施形態では、本発明の方法によって得られる生体材料は、1mm未満の薄膜を形成してもよい。本実施形態では、本生体材料は2次元である。
【0036】
第1の実施形態によれば、本発明の方法によって得られる生体材料は、オステオカルシン発現および石灰化特性の点で本物の骨と同じ特性を有する。すなわち、本生体材料は、骨細胞および相互結合組織を含む。一実施形態では、本生体材料は、骨細胞(骨細胞様細胞ともいう)と、コラーゲン(好ましくは、石灰化し、無機化したコラーゲン)と、骨基質と、骨細胞上の無機質コーティングとを含み、この無機質コーティングは、組織化されたリンカルシウム結晶である。典型的には、本生体材料は自然の骨に近い気孔率を有する。
【0037】
第2の実施形態によれば、本発明の方法によって得られる生体材料は本物の軟骨と同じ特性を有する。すなわち、本生体材料は、軟骨細胞と、コラーゲンおよびプロテオグリカンを含む細胞外基質とを含む。
【0038】
本発明の方法によって得られる生体材料は、生体材料の細胞の分化が終点に達したものであり、移植された場合も生体材料の表現型は変化しない。本発明のインプラントは多層であってもよい。すなわち、本インプラントは、例えば外科用接着剤または任意の好適な固定手段などの任意の好適な手段によって互いに縫合または固定され得る少なくとも二層の生体材料を含む。
【0039】
本発明の方法によって得られる生体材料は、50〜2500μmの平均径を有する粒子の形態の脱灰骨基質を含み、第1の実施形態では、粒子は50〜125μmの平均径を有し、第2の実施形態では、粒子は125〜200μmの平均径を有し、第3の実施形態では、粒子は500〜1000μmの平均径を有する。典型的には、脱灰骨基質は、40歳未満のドナーから得られる。一実施形態によれば、骨基質の脱灰率は90〜99%、好ましくは95〜98%、さらにより好ましくは約97%である。この脱灰率は、有利には、HCl(0.6N)を用いた3時間のプロセスによって生じる。好ましい実施形態によれば、脱灰骨基質は滅菌されている。
【0040】
典型的には、脱灰骨基質は、大学組織バンク(ルーバン大学医学部付属病院、ベルギーのブリュッセル)から提供される。
【0041】
本発明は、医療機器として、または医療機器に含まれるものとして、あるいは医薬組成物としての本発明の生体材料の任意の使用に関する。
【0042】
本発明は、本発明の生体材料と、例えば、外科用接着剤もしくは組織接着剤、または生体適合性で、外科的使用に対して毒性がなく、かつ生体吸収性であって、特に生物組織を互いにまたは移植された生体材料に接合するための任意の接着剤組成物などの好適な固定手段とを含む医療機器を含むキットにも関する。
【0043】
さらに、本発明は、本発明の生体材料と、例えば外科用接着剤もしくは組織接着剤、または生体適合性で、外科的使用に対して毒性がなく、かつ生体吸収性であって、特に生物組織を互いにまたは移植された生体材料に接合するための任意の接着剤組成物などの好適な固定手段とを含むキットに関する。
【0044】
別の態様では、本発明は、骨もしくは軟骨欠損を軽減または治療する方法で使用される本発明に係る生体材料に関する。
【0045】
本発明は、哺乳類における骨もしくは軟骨欠損を軽減または治療する方法であって、本明細書に説明するように、骨もしくは軟骨欠損を有する前記哺乳類に生体材料の治療的有効量を投与することを含む方法にも関する。
【0046】
本生体材料は、哺乳類における骨もしくは軟骨欠損を軽減または治療するための治療的有効量で使用される。
【0047】
骨もしくは軟骨欠損の非限定的な例としては、骨折、生まれつきの虚弱、骨塩量の減少、関節炎、骨粗鬆症、骨軟化症、骨減少症、骨癌、パジェット病、硬化性病変、骨の浸潤性疾患、代謝性骨減少症(metabolic bone loss)である。
【0048】
本発明は、整形外科、特に顎顔面外科または形成外科における本生体材料の使用にも関する。本発明の生体材料はリウマチ学においても使用してもよい。
【0049】
さらに、本発明は、関節の先天的もしくは後天的な異常部分、頭蓋顔面上顎骨、歯科矯正処置部分、術後の骨もしくは関節骨の置換部分、外傷または他の先天的もしくは後天的な異常部分を支持または矯正するため、および他の筋骨格インプラント、特に人工および合成インプラントを支持するために本発明の生体材料を使用する方法に関する。
【0050】
別の態様では、本発明は、ヒトまたは動物の体にある骨空洞を充填するために使用される本発明の生体材料に関する。
【0051】
さらに別の態様では、本発明は、再建もしくは美容整形手術に使用される本発明の生体材料に関する。本発明の生体材料は自家であっても同種異系でもあってもよい。本生体材料を組織移植に使用してもよい。
【0052】
さらに、本発明は、本発明の生体材料を投与する工程を含むヒトまたは動物の体内の空胴を充填する方法に関する。
【0053】
本発明の生体材料は、同種異系インプラントとして、あるいは自家インプラントとして使用してもよい。
【0054】
また、本生体材料は、非免疫原性であるという点および免疫調節性を有するという点で有利である。驚くべきことに、本発明の生体材料では、未分化MSCの免疫調節特性が保持され、そのため、ヒトまたは動物の体内への本発明の生体材料の移植によっては、どんな炎症反応も起きない。それどころか、本生体材料の存在によって移植部位の炎症は軽減される。
【0055】
従って、本発明の生体材料は、抗炎症薬の代わりとして、あるいは前記炎症の結果に苦しむ患者に必要な抗炎症薬の量を減少させる手段として、関節炎、特に炎症性関節炎の治療に特に適している。
【0056】
本発明の生体材料は、血管新生を刺激するためにさらに有利である。実際、本生体材料のMSCは、新しい血管の成長を刺激する血管内皮増殖因子(VEGF)を放出する。そのような本発明の態様は、骨もしくは軟骨形成にとって最適な条件を提供するため、非常に有望である。
【0057】
(定義)
本発明の意味において、「組織」という用語は、自然のヒト組織内で類似した機能を果たす相互に結合した細胞の集合体(collection)を指す。
【0058】
本発明の意味において、「間葉系幹細胞」またはMSCという用語は、様々な細胞型に分化させることができる多分化能幹細胞のことである。
【0059】
「脂肪」は任意の脂肪組織を指す。脂肪組織は、茶色、黄色または白色脂肪組織であってもよい。好ましくは、脂肪組織は、皮下白色脂肪組織である。脂肪組織は、脂肪細胞および間質を含む。脂肪組織は、動物の体内全体に存在している場合もある。例えば、哺乳類では、脂肪組織は、網、骨髄、皮下腔、脂肪体(例えば、肩甲骨または膝蓋下脂肪体)に存在し、大部分の臓器を取り囲んでいる。脂肪組織から得られる細胞は、初代細胞培養物または前駆細胞株を含んでもよい。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物に由来していてもよい。
【0060】
「脂肪組織由来細胞」という用語は、脂肪組織に由来する細胞を指す。脂肪組織から単離される最初の細胞集団は、間質血管画分(SVF)細胞などのこれらに限定されない異種細胞集団である。
【0061】
本明細書に使用されている「脂肪組織間葉系幹細胞」(AMSC)という用語は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などのこれらに限定されない様々な異なる細胞型の前駆体として用いることができる脂肪組織に由来する間質細胞を指す。
【0062】
本明細書に使用されている「継代培養後期の脂肪組織間葉系幹細胞」という用語は、より初期に継代された細胞と比較した場合、より低度の免疫原特性を呈している細胞を指す。脂肪組織に由来する間質細胞の免疫原性は、継代の数に対応する。好ましくは、脂肪組織は、少なくとも第4継代まで培養され、より好ましくは少なくとも第6継代まで培養され、最も好ましくは少なくとも第6継代まで培養される。
【0063】
本明細書に使用されている「生体適合性」とは、哺乳類に移植された場合に、哺乳類において有害な反応を誘発しない任意の材料を指す。生体適合性材料は、個体に導入された場合に、有毒でなく、その個体を損傷せず、また、哺乳類において当該材料の免疫拒絶を誘導しない。
【0064】
本明細書に使用されている「自家」とは、その材料が後で再導入される同じ個体に由来する生物学的材料を指す。
【0065】
本明細書に使用されている「同種異系」とは、その材料が導入される個体と同じ種の遺伝的に異なる個体由来の生物学的材料を指す。
【0066】
本明細書に使用されている「移植片」とは、典型的には欠損部を置換、矯正またはそれ以外の方法で解決するために個体に移植される細胞、組織または臓器を指す。組織または臓器は、同じ個体に由来する細胞で構成されていてもよく、この移植片を、本明細書では、「自己移植片」、「自家移植体」、「自家インプラント」および「自家移植片」という言い換え可能な用語で呼ぶ。同種の遺伝的に異なる個体からの細胞を含む移植片は、本明細書では、「同種移植片」、「同種異系移植体」、「同種異系インプラント」および「同種異系移植片」という言い換え可能な用語で呼ぶ。ある個体からその一卵性双生児への移植片は、本明細書では、「種族内移植片」、「同系移植体」、「同系インプラント」または「同系移植片」と呼ぶ。「異種移植片」「異種移植体」または「異種インプラント」は、ある個体から異なる種の別の個体への移植片を指す。
【0067】
本明細書に使用されている「組織移植」および「組織再建」という用語はどちらも、骨欠損または軟骨欠損などの組織欠損を治療または軽減するために個体に移植片を移植することを指す。
【0068】
本明細書に使用されている、疾患、欠損、障害または病気を「軽減する」とは、疾患、欠損、障害または病気の1つまたは複数の症状の重症度を減少させることを意味する。
【0069】
本明細書に使用されている「治療する」とは、患者が経験する疾患、欠損、障害または病気などの症状の頻度を減少させることを意味する。
【0070】
本明細書に使用されている「治療的有効量」とは、本発明の組成物が投与される個体に有益な効果を与えるのに十分な本組成物の量である。
【0071】
本明細書に使用されている「骨欠損」とは、骨折、ひび割れ、部分的欠損またはそれ以外の方法で損傷を受けた骨を指す。そのような損傷は、先天性奇形、疾患、疾患治療、外傷または骨感染症によるものであってもよく、急性であっても慢性であってもよい。例えば、骨減少は、腫瘍切除によって骨欠損が生じたことによるものであってもよい。骨欠損の非限定的な例としては、骨折、骨/脊椎変形、骨肉腫、骨髄腫、骨異形成症、脊柱側弯症、骨粗鬆症、骨軟化症、くる病、線維性骨炎、線維性骨異形成症、腎性骨異栄養症および骨のパジェット病が挙げられる。
【0072】
本明細書に使用されている「軟骨欠損」は、喪失したか、量が減少したか、あるいはそれ以外の方法で損傷を受けた軟骨組織を指す。軟骨組織欠損は、先天性奇形、疾患、疾患治療または外傷によって生じたものであってもよく、急性であっても慢性(骨関節炎)であってもよい。
【0073】
本明細書に使用されている「骨芽細胞培地および/または軟骨形成培地」という用語は、骨芽細胞および/または軟骨形成細胞の増殖および分化を促進する培地を指すことを意図している。
【0074】
有利には、骨形成は、ヒトまたは動物血清(好ましくは、ウシ胎児もしくはウシ血清(FCS、FBS))、デキサメタゾン、アスコルビン酸ナトリウム、ジヒドロリン酸ナトリウム、ペニシリンおよびストレプトマイシンを標準的な培地に添加することによって誘導される。細胞は、2日ごとに培地を取り替えて、骨形成培養物中に維持する。
【0075】
好ましい実施形態では、骨芽細胞培地は、10%v/vのヒト血清、1μMのデキサメタゾン、50μg/mlのアスコルビン酸ナトリウム、36mg/mlのジヒドロリン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンが添加された標準的な培地(好ましくはDMEM)である。
【0076】
有利には、軟骨形成は、ヒトまたは動物血清(好ましくは、ウシ胎児もしくはウシ血清(FCS、FBS))、デキサメタゾン、TGF−B3、L−プロリン、アスコルビン酸ナトリウム、ジヒドロリン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン(例えば、Sigma社から入手可能なインスリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム培地添加用凍結乾燥粉末由来)、ペニシリンおよびストレプトマイシンを標準的な培地に添加することによって誘導される。
【0077】
好ましい軟骨形成培地は、10%v/vのヒト血清、1μMのデキサメタゾン、10ngのTGF−B3、40μg/mlのL−プロリン、50μg/mlのアスコルビン酸ナトリウム、36mg/mlのジヒドロリン酸ナトリウム、100μg/mlのピルビン酸ナトリウム、100μl/mlのITS(インスリン−トランスフェリン−セレン(例えば、Sigma社から入手可能なインスリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム培地添加用凍結乾燥粉末由来)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンが添加された標準的な培地(好ましくはDMEM)である。
【0078】
骨形成および軟骨形成培地の両方に適した標準的な培地としては、DMEM、EMEM、RPMIおよびGMEMが挙げられるがこれらに限定されず、DMEMが好ましい標準的な培地である。
【0079】
本明細書に使用されている「足場」とは、薄膜(例えば、実質的に3次元よりも大きな2次元を有する形態)、リボン、ひも、シート、平たい円盤、円筒体、球体、3次元非晶質形状などのこれらに限定されない形態の構造を指す。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】ヒト血清およびDBMが添加された骨形成培地におけるヒトAMSCの分化を示す。組織の退縮および相互結合組織(B)を有する多層構造(A)を、マッソン三色染色法(C)で染色して確認した。
【図2】DBMを含まない軟骨形成培地(A、B)およびDBMを含む軟骨形成培地(C、D、E)におけるAMSCの分化を示す。コンフルエントな細胞を有する単層構造(A)は、DBMを含まない軟骨形成培地(B)で生成された。対照的に、細胞組織の退縮(D)によって得られた多層構造(C)は、アルシアンブルーによって染色された軟骨形成様基質(ギムザ染色によるEおよび長方形)で構成されていた。
【図3】DBMを含まない骨形成培地(A、B、C)およびDBMを含む骨形成培地(D、E、F)におけるヒトAMSCの分化を示す。個々の骨小節(アリザリンレッド染色、B)および小節間コラーゲン組織(C)からなる単層構造(A)は、DBMを含まない骨形成培地で生成された。対照的に、オステオカルシンを発現している細胞(F、右側長方形)を有する無機化コラーゲン(F、黒のフォン・コッサ染色:左側長方形)からなる相互結合組織(E)を有する細胞組織の退縮(D)。
【図4】ヌードラットの傍脊柱筋における、移植から60日後のBM−MSCおよびAMSCの生存率を示す。GFPおよびオステオカルシン抗体に対する免疫組織化学によって間葉系幹細胞を検出した。骨を単独で移植した場合、GFPおよびオステオカルシン染色細胞の発現は全く認められなかった。「MSC−ヒト骨移植片」からなる複合移植の場合には、GFPおよびオステオカルシンの細胞が検出された。
【図5】DBMを添加した骨形成培地(A〜C)および軟骨形成培地(E〜F)でインキュベートしたAMSCについての多次元構造の発達を示す。組織の退縮(A、D)、DBM相互結合(B、E)およびオステオカルシン(C)およびプロテオグリカン(F)タンパク質の発現。
【図6】AMSC対BM−MSCの血管新生の可能性を示す。異なる酸素濃度(0.1、3、5および21%のO)での両細胞のインキュベーションによって生体外での可能性が認められた。AMSCは、各O濃度において、BM−MSCよりも有意に高いVEGFの放出を示した。
【実施例】
【0081】
(実施例1)本発明に係る多次元生体材料の調製
前臨床モデルにおけるAMSCの動物源
骨髄および脂肪細胞幹細胞のドナーとして緑色蛍光遺伝子導入ブタを使用した(Brunetti D, Cloning Stem Ceils, eupb 2008)。ベルギー農業および動物管理省(Belgian Ministry of Agriculture and Animal Care)の指針に従って動物を収容した。全ての手順は、ルーヴァン・カトリック大学の地域動物実験倫理委員会によって認可されていた。
【0082】
動物由来のAMSCの供給源
コラゲナーゼ(0.075g)をハンクス液(カルシウムイオンを含む)で再構成し、消化前に2〜8℃で保存する。脂肪組織(平均15g)を0.009%NaClで3回洗浄し、ペトリ皿の中で切断して、血管および線維結合組織を除去した。脂肪を消化前に計量し、酵素を含む50mlのファルコン管に移す。この組織を、60分間連続的に撹拌しながら37℃の振盪水浴に入れる。消化後、コラゲナーゼを、50mlのヒト血清、L−グルタミン(5ml)および5mlの抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加したDMEM(500ml)で失活させる。回収した組織を、室温(20〜25℃)、1500rpmで10分間遠心分離する。成熟脂肪細胞を含む上澄みを吸引する。このペレットを、10%ヒト血清および抗生物質(100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)を添加したDMEMからなる20mlの増殖培地(MP)に再懸濁し、500μmのメッシュスクリーンで濾過する。回収した組織(濾過後)を、室温(20〜25℃)、1500rpmで10分間遠心分離し、このペレットをMPに再懸濁し、間質血管画分(SVF)細胞として特定する。初代細胞の最初の継代を継代0(P0)と呼んだ。5%CO中37℃で24〜48時間インキュベートした後、培養物をPBSで洗浄し、P4(第4継代)までMP中に維持した後、特異的培地(下記参照)で分化させた。
【0083】
ヒト由来のAMSCの供給源
ヒト脂肪組織(皮下脂肪組織の小片、1〜2g、n=4)を、ルーチンな手術(腹部および整形外科手術)の間に取り出し、処理のために研究室に運ぶまで4℃の冷たい生理溶液に保存した。ブタ脂肪組織処理について上述したように、ヒトの脂肪の消化を行った。消化後、ヒトAMSCをMP中で培養し、(i)ウシ胎児血清(10%v/v)または(ii)ヒト血清(10%v/v)を添加した特異的培地(正確な組成については下記参照)中で分化させた。
【0084】
FBSを含む分化培地およびヒト血清を含む分化培地の両方においてAMSCが分化したことが観察された。
【0085】
脱灰骨基質の供給源
ヒト脱灰骨基質は、大学組織バンク(ルーバン大学医学部付属病院、ベルギーのブリュッセル)から提供され、多臓器ヒトドナーから産生された。大腿骨または脛骨の骨幹を切断し、脱灰処理(下記参照)のために1000μm以下の粒子に粉砕する。
【0086】
ヒトDBMは、選択したヒトのドナーからの皮質骨を粉砕して行う。最初に、ヒトの骨組織をアセトン(99%)浴で一晩脱脂し、次いで、脱灰水で2時間洗浄する。脱灰は、室温で撹拌しながら、0.6NのHCLに3時間浸漬(骨1グラム当たり20mlの溶液)することによって行う。次いで、脱灰骨粉を2時間脱灰水でリンスし、pHを制御する。pHは、酸性が強すぎる場合には、DBMを撹拌しながら0.1Mのリン酸塩溶液で緩衝する。最後に、DBMを乾燥し、計量する。DBMを、凍結温度でガンマ照射(25キログレイ)によって滅菌する。
【0087】
幹細胞の分化および特徴づけ
脂肪生成
AMSCのコンフルエントな培養物を、20%ヒト血清、L−グルタミン(5ml)、ウシのインスリン(5μg/ml)、インドメタシン(50μM)、3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX、0.5mM)、デキサメタゾン(1μM)、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)からなる脂肪細胞誘導培地でMPを置き換えて脂肪生成を引き起こすように誘導した(Mauney JR, Biomaterials 2005, vol 26: 6167)。2日ごとに培地を取り替えて、脂肪生成培養物中に細胞を維持した。培養物をPBSでリンスし、ホルマリン溶液で固定し、中性脂質をオイルレッドで染色して脂肪細胞分化を測定した。
【0088】
骨形成
AMSCのコンフルエントな培養物を、ヒト血清(10%v/v)、デキサメタゾン(1μM)、アスコルビン酸ナトリウム(50μg/ml)、ジヒドロリン酸ナトリウム(36mg/ml)、ペニシリン(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)をDMEMに添加して得られる骨形成培地を用いて骨形成を引き起こすように誘導した(図3A、図3B、図3Cを参照)。2日ごとに培地を取り替えて、骨形成培養物中に細胞を維持した。培養物をPBSでリンスし、70%エタノールで固定し、リン酸カルシウムをアリザリンレッドで染色して骨形成分化を測定した。さらに、オステオカルシンの免疫組織化学法およびフォン・コッサ染色を行って「骨」の表現型を確認した(図4を参照)。
【0089】
軟骨形成
AMSCのコンフルエントな培養物を、ヒト血清(10%v/v)、デキサメタゾン(1μM)、TGF−B3(10ng)、L−プロリン(40μg/ml)、アスコルビン酸ナトリウム(50μg/ml)、ジヒドロリン酸ナトリウム(36mg/ml)、ピルビン酸ナトリウム(100μg/ml)、ITS(インスリン−トランスフェリン−セレン(例えば、Sigma社から入手可能なインスリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム培地添加用凍結乾燥粉末由来)(100μg/ml)、ペニシリン(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)をDMEMに添加して得られる軟骨形成培地を用いて軟骨形成を引き起こすように誘導した(Taipaleenmaki H, Experimental Cell Research 2008 vol 314: 2400)。2日ごとに培地を取り替えて、軟骨形成培養物中に細胞を維持した。
【0090】
分化培地(AMSCによる骨形成および軟骨形成)増殖の影響
細胞および培養条件
AMSCを増殖培地(MP)で増殖させ、約85〜90%コンフルエントになるまで37℃(95%空気および5%CO)に維持した。培地を2日ごとに取り替えた。細胞毒性アッセイ用に細胞を懸濁するために、0.25%トリプシン−EDTA混合物を用いて37℃で10分間、培養フラスコから細胞を剥離し、培地に再懸濁した。細胞を、1×10細胞/ウェルの密度で、MTS(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−5−[3−カルボキシメトキシフェニル]−2−[4−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウムブロミド)のために、96ウェルマイクロプレートに播種した。それらを、異なる試験培地(i)MP、(ii)骨形成培地および(iii)軟骨形成培地に5日間曝露する前に、コンフルエントに近い状態まで37℃で96時間増殖させた。
【0091】
MTSアッセイ
抽出物と細胞の接触から24時間後、20μlの「Cell titer 96(登録商標)AQueousOne Solution Cell Proliferation Assay」(Promega社、ウィスコンシン州マディソン)を、100μlの抽出物培地を含む各ウェルに直接添加した。細胞を37℃で3時間インキュベートした。マイクロタイタープレート分光光度計(Multiskan Ex、Labsystems社、ベルギーのブリュッセル)を用いて492nmで吸光度を測定した。参照波長は690nmであった。光学濃度差OD=OD492nm−OD690nmを試算した。
【0092】
特異的分化培地を使用した場合のみに分化が生じたことが観察された。
【0093】
多次元構造の発達
特異的培地(骨形成もしくは軟骨形成)におけるAMSC(第4継代)のインキュベーションを15〜20日間行った後に、骨形成および軟骨形成培地に脱灰骨基質(DBM)を添加することにより、さらなる20日の期間に多次元構造(分化培地1mlあたり1mgのDBM)が得られた。この培地を、DBMを除去せずに2日ごとに取り替える。
【0094】
分化終了後、培養物をPBSでリンスし、オステオカルシンの組織学的検査、アルシアンブルーおよびギムザ染色による骨および軟骨形成の特徴づけのために、ホルマリン溶液で固定した(図2C、図2D、図2E、図3D、図3E、図3F)。
【0095】
細胞ペレットを4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した。連続切片(厚さ5μm)を、脱塩水と共にガラス製のスライドに乗せ、37℃で12時間乾燥し、免疫学的古典的検出(immuno−classical detection)または組織化学的検査の処理をした。切片を過酸化水素水(0.3%H)中に30分間置いて内因性ペルオキシダーゼ活性を阻止した。Tris−Triton緩衝生理食塩水(TBS−0.05M、0.05%、pH=7.4)で洗浄した後、スライドを、正常なヤギ血清(1:10;BIOSYS社、フランスのブッサン)と共に室温で30分間インキュベートし、そして1:100に希釈したオステオカルシンを染色するための一次抗体(抗オステオカルシンマウスモノクローナル抗体;ABCAM社、英国ケンブリッジ)と共に一晩インキュベートした。Tris−TBSで洗浄した後、免疫ペルオキシダーゼの検出のために、二次抗マウス免疫グロブリンGと共にスライドを1時間インキュベートした。
【0096】
コラーゲンの構造を、全種類の未分化/分化細胞の各試料に対するマッソン三色染色法によって調査した。増殖および分化(骨形成、軟骨形成および脂肪生成)培地中でインキュベートした線維芽細胞を陰性対照として用いた。
【0097】
プロテオグリカンを分泌している軟骨細胞を、アルシアンブルーおよびギムザで染色した。
【0098】
AMSCを、フィコエリトリン(PE)にコンジュゲートしたCD90モノクローナル抗体の飽和量で染色した。少なくとも15,000の事象を、Celiquestソフトウェアを備えたフローサイトメトリー(FACScan、BD Biosciences社)で分析した。
【0099】
骨形成および軟骨形成分化培地において、DBMの添加によって、細胞構築、コラーゲン合成および脱灰骨基質粒子の再編成による3次元構造の発達が誘導された(図5A〜図5Eを参照)。顕微鏡によって、オステオカルシン発現およびプロテオグリカン分泌がそれぞれ、骨形成(図5C)および軟骨形成(図5F)条件において明らかとなった。
【0100】
生体内移植および組織学的分析
骨芽細胞の分化したGFP−ブタAMSCを、大学組織バンク(ルーバン大学医学部付属病院(University clinical hospital Saint−Luc)、ベルギーのブリュッセル)から提供されたヒトの処理済み/脱細胞化骨基質に播種した(Dufrane D, Eur Cell Mater, vol 1: 52, 2001)。複合移植片を、ヌードラット(1レシピエントにつき2つのインプラント、n=10)(雄、6〜8週齢)の傍脊椎領域に皮下移植した。60日後、動物を屠殺し、免疫組織化学的処理のためにインプラントを外植した。次いで、インプラントをHCLで脱灰し、処理し、パラフィンに包埋し、薄片(5μm)にした。次いで、オステオカルシンおよび「緑色蛍光タンパク質」(モノクローナル抗体)に対して、マッソン三色染色法および免疫組織化学的検査を行った。
【0101】
(実施例2)脂肪間葉系幹細胞からの多次元骨様移植片の可能性
材料および方法
ブタおよびヒトAMSCの単離
実験のために、実施例1に開示したように、ブタおよびヒトAMSCの単離を行った。
【0102】
AMSCの血管新生の可能性
生体外
正常酸素圧および低酸素条件において生体外での幹細胞の血管新生促進能力を評価するために、ブタの骨髄MSCおよび脂肪MSCを、0.1、3、5および21%Oの低酸素室に24、48および72時間置き、VEGFの放出をELISA試験で定量化した。
【0103】
脱灰骨基質による多次元構造の最適化
AMSCを、ウシ胎児血清(FBS、10%v/v)、デキサメタゾン(1μM)、アスコルビン酸ナトリウム(50μg/ml)、ジヒドロリン酸ナトリウム、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンをMPに添加して骨形成を引き起こすように誘導した。2日ごとに培地を取り替えて、骨形成培養物中に細胞を維持した(Post et Al. Bone 2008, 43,1; 32−39, Qu et Al In Vitro Cell. Dev. Biol. Anim. 2007; 43; 95−100)。培養物をPBSでリンスし、70%エタノールで固定し、リン酸カルシウムをアリザリンレッドで染色して骨形成分化を測定した。さらに、オステオカルシンの免疫組織化学法およびフォン・コッサ染色を行って「骨」の表現型を確認した。
【0104】
AMSCを含む多次元構造を、大学組織バンク(ルーバン大学医学部付属病院、ベルギーのブリュッセル)によって調達された「脱灰骨基質(DBM)」の存在下で共インキュベーションによって行った。脱灰骨基質の製造は、実施例1の「脱灰骨の供給源」に開示されている。
【0105】
基質
DBMの効力を以下によって評価する:(i)脱灰プロセス後の残留カルシウム濃度の測定(97%超の[カルシウム]低下)、および(ii)移植から1ヵ月後の生体内での(ヌードラットにおける)骨生成の可能性。平均15〜18日間の骨芽細胞培地におけるAMSC(第4継代)のインキュベーション後に、異なる濃度(0/1/5/10および20mg/ml)のDBMを特異的分化培地に添加する。培地を、DBMを除去せずに2日ごとに取り替える。3次元構造の程度、細胞構造、オステオカルシン発現およびフォン・コッサ染色(カルシウム沈着のため)を評価して、3次元骨様構造にとって適当なDBM濃度を選択する。
【0106】
移植手順ならびに脱灰骨基質およびAMSCを含む多次元構造の追跡調査
(多次元構造にとって)最適なDBM濃度を有する骨形成培養物(第4継代)から得られたAMSCを移植のために回収した。
− ヌードラット(Charles River Laboratories International社、米国マサチューセッツ州ウィルミントン)をレシピエントとして使用した。細胞を傍脊柱筋に移植した。脊柱を中心とした縦切開を行い、皮下組織を切開して筋膜を露出させた。多次元構造を傍脊柱筋組織に直接移植した(大学組織バンク、ルーヴァン・カトリック大学、ベルギーのブリュッセル)。対照は、同じラットの反対側の傍脊柱筋に凍結乾燥した海綿骨を単独で移植して確保した。移植部位の早期回復を可能にするために、再吸収不可能な縫合糸を用いて筋膜を閉じた。動物を屠殺し、全身麻酔下でのT61心臓内注射(Intervet Int.社、ドイツ)による移植から30日後に外植を行った。次いで、インプラントを回収し、組織学およびマイクロコンピュータ断層撮影のために処理した。
− ブタのレシピエント。2つの異なる外科的モデルで移植片を試験する。本発明者らは(i)大腿皮質骨欠損部におけるそれらの架橋能力および(ii)腰椎前方固定術(ALIF)におけるそれらの融合性を分析する。
− (i)皮質骨欠損モデルは、実験的整形外科において、および主にC.Delloye教授の研究を通して本発明者らの研究室においてよく知られている。ブタを類似モデルに使用し、骨幹骨欠損部を長骨上に形成した後、そこに移植材料を充填するか空のままにする。本発明者らの実験では、ブタの両大腿部を手術する。1.5cmの皮質骨欠損部を形成し、標準的な4.5mmのチタン製ロッキング圧迫プレートによって安定させる。片方の大腿骨欠損部を空のままにし、反対側の脚にAMSC移植片を移植する。
− (ii)ブタの実験的外科手術においてALIFモデルが十分に確立されている。本発明者らの技術は、後側方到達法による4つのレベルのALIF法からなる。融合は、椎体間ポリエチルポリエチルケトン(PEEK)ケージによって得られる。椎間板を開き、髄核を除去し、軟骨を広げて軟骨下骨を露出させた後、PEEKケージを挿入する。これらのケージは空として設計するが、様々な実験材料を充填することができる。この場合、各レベルに異なる移植片組織を入れて、4つの異なる群を構成する。1つのケージは、陰性対照として空のままにし、1つのケージは、凍結乾燥した照射済み海綿骨を充填し(臨床分野で実施される場合が多い)、1つのケージは自家海綿骨移植片を含み(融合法における至適基準であるため、本発明者らの陽性対照とみなす)、最後のケージはAMSC移植片を有する。動物を屠殺し、全身麻酔下でのT61心臓内注射(Intervet Int.社、ドイツ)による移植から7週間後に外植を行った。次いで、インプラントを回収し、組織学およびコンピュータ断層撮影のために処理した。
【0107】
追跡調査
ヌードラット:
外植したインプラントをHCLで脱灰し、処理し、パラフィンに包埋し、薄片にした(5μm)。組織学的染色のために、ヘマルン・エオシン(Hemalun Eosin)染色、マッソン緑色三色(Masson’s Green Trichrom)染色、オステオカルシンおよびフォン・コッサ染色による標準的な呈色反応を使用した。オステオカルシン染色は、Envision Rsystemモノクローナル抗体(Dako社、デンマーク)によって公開されたモノクローナル抗体(OC4−30、Abcam社、ケンブリッジ)によって得られた。回収したインプラントのミクロ構造を、pQCT(末梢骨用定量的コンピュータ断層装置、XCT Research SA型、Stratec社、ドイツのプフォルツハイム)を用いて分析した。皮質および総骨密度を、各インプラントの複数のスライドを用いて測定した。フォンヴィルブラント染色(von Willebrandt staining)(上記参照)後に、新しく形成された血管の定量化によって生体内での血管新生の定量化を行った。
【0108】
ブタ:
食品および水を自由に摂取できる状態でブタを個々に収容する。術後処置および鎮痛は、実験動物管理のための標準的な実験計画書に従って行う。自家移植片モデルでは、生物学的追跡調査は、血液試料による炎症評価で構成される。
【0109】
放射線学的追跡調査によって、移植から1、5および7週間後にコンピュータ断層撮影(CT)スキャンによって生体内での骨形成を比較することができる。臨床CTスキャンの高解像度および多断面変換は非常に精密であるため、本発明者らは、生体内でのPEEKケージの内容を分析することができ、従って、融合プロセスの評価が可能となる。
【0110】
1回のスキャン掃引によって集められた全ての情報を用いて、大腿骨に対して同じ手順を使用する。マイクロCTによって外植した移植片を処理することによって、安楽死後にさらにより良好な解像度が得られる。外植した移植片に対する組織学的および免疫組織化学的調査は、自然の皮質の架橋および融合能力と比較して、新生骨形成および移植片血管再建(血管内皮増殖因子、CD51、フォンウィルブランド因子)、硬化(オステオカルシン)および無機化(フォン・コッサ)を評価するために現在行われている。
【0111】
脱灰プロセスによって、移植した材料の組織学的および免疫組織化学的調査が可能となる。組織学、組織形態計測およびマイクロラジオグラフィは、組織を石灰化された状態に維持する必要があるため、非脱灰処理も必須となる。
【0112】
統計
ボンフェローニのポストホックテストを含む一元配置分散分析法によって群間の差の統計的有意性を試験した。Systatバージョン8.0によって統計的検定を行った。差はp<0.05で有意であるとみなした。
【0113】
結果
最適なDBM濃度を有する多次元構造についての構想の証明:生体外での骨様構造
AMSC細胞移植の生物学的支持体を回避するために、多次元構造をDBMと組み合わせて発達させた。ヌードラットにおいて生体内で骨形成分化促進能力を有する脱灰骨基質(平均径700μm)(AMSCに接触させて用いる前に品質管理が必要とされる)は、AMSCとの共インキュベーションにおいて生体外細胞リモデリングを達成するために必要となる。
【0114】
両方の骨形成分化培地において、DBMの添加によって、DBMを含まない単独のAMSCと比較して、細胞収縮、コラーゲン合成およびDBM粒子の再編成による3次元構造の発達が誘導された。多次元構造の発達を最適化するために、段階的なDBM用量を試験した。極端な濃度(20mg/ml超)は適していないことが分かった。1mg/mlでは、外科的用途のための移植処理に最適な3次元構造は発達しなかった。対照的に、5および10mg/mlでは、移植片除去および外科的用途に最適な組織の退縮が生じることが分かった。顕微鏡によって、オステオカルシン発現および無機化プロセス(フォン・コッサ染色)がこれらの最新のDBM濃度によって明らかとなった。骨形成条件においてAMSCを含む3次元構造を得るために、平均20±3日のDBMとの共インキュベーションが必要となる。
【0115】
最適なDBM濃度を有する多次元構造についての構想の証明:生体内での骨形成
ヌードラット
ヌードラットにおける移植から30日後に、DBMを含まない単独のAMSCでは、新しい骨様構造の形成は誘導されなかった。フォン・コッサによって染色された小さい骨小節(オステオカルシン+)のみがヌードラット筋肉組織内にまばらに分散していた。対照的に、多次元構造の移植は、移植部位の良好な局在化によって容易に行われた。移植から30日後に、小型で強力な骨様構造が、DBM粒子内の顕微鏡的に高密度の結合組織を有する筋肉内に認められた。骨様構造は、オステオカルシン染色結合組織および無機化プロセスに認められた。
【0116】
ブタのレシピエント
移植から5週間後に、ブタにおいて、CTスキャンによって示されるように、大腿骨の欠損部(処理なし)には自然発生の硬化が全く認められなかった。足場を全く使用せずに、骨欠損部に多次元構造を組み込むことは容易であった。この最新の移植は、自然の皮質骨欠損部を架橋する骨様構造によって、移植後の初期(移植から5週間後)に骨硬化を有意に向上させる。
【0117】
最適なDBM濃度を有する多次元構造についての構想の証明:生体内での血管新生
正常酸素圧および低酸素条件において、生体外で幹細胞の血管新生促進能力を評価するために、前臨床ブタ骨髄MSCおよび脂肪MSCを、0.1、3、5および21%Oの低酸素室内に24、48および72時間置き、VEGFの放出をELISAで定量化した。BM−MSCは、正常酸素圧条件よりも低酸素条件においてより多くのVEGFを放出し、24時間よりも48および72時間(より高レベルのVEGFを有する時間)後に、この分泌を維持した(p<0.05)。対照的に、AMSCからのVEGFの放出は、複数の異なる培養条件において類似していたが、有意なより高レベルのVEGFは、BM−MSCよりもAMSCによって放出された(それぞれ2364±94pg/ml対11274±679、p<0.05)(図6)。
【0118】
これらの結果は、BM−MSCおよびAMSCの移植後に生体内で確認された。有意なより高い血管新生は、BM−MSCと比較して、骨形成AMSC移植の場合に認められた(p<0.05)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多次元構造を有し、かつ分化したMSC組織および脱灰骨基質を含む生体材料であって、前記脱灰骨基質が前記分化したMSC組織内に分散されており、前記MSCが脂肪組織由来幹細胞である生体材料。
【請求項2】
前記分化したMSC組織を製造するために使用される前記MSCはヒトまたは動物由来である、請求項1に記載の生体材料。
【請求項3】
前記MSCは、継代培養後期の脂肪組織由来幹細胞である、請求項1または2に記載の生体材料。
【請求項4】
3次元である請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項5】
無機質コーティングでコーティングされた骨細胞と、コラーゲンを含む相互結合組織とを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項6】
軟骨細胞と、コラーゲンおよびプロテオグリカンを含む細胞外基質とを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項7】
前記脱灰骨基質は、50〜2500μmの平均径を有する粒子の形態である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体材料を含むインプラント。
【請求項9】
骨芽細胞培地および/または軟骨形成培地でMSCを15〜25日間インキュベートし、次いで前記培地に脱灰骨基質を添加し、かつ15〜30日のさらなる期間にわたってインキュベーションを維持することを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多次元生体材料の製造方法。
【請求項10】
前記骨芽細胞培地は、ヒト血清、デキサメタゾン、アスコルビン酸ナトリウム、ジヒドロリン酸ナトリウム、ペニシリンおよびストレプトマイシンが添加された標準的な培地である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記軟骨形成培地は、ヒト血清、デキサメタゾン、TGF−B3、L−プロリン、アスコルビン酸ナトリウム、ジヒドロリン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、インスリン−トランスフェリン−セレン、ペニシリンおよびストレプトマイシンが添加された標準的な培地である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記脱灰骨基質を5〜10mg/mlの量で前記培地に添加する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法によって得られる多次元生体材料。
【請求項14】
請求項1〜7および13のいずれか1項に記載の生体材料を含む医療機器。
【請求項15】
請求項1〜7および13のいずれか1項に記載の生体材料と、好適な固定手段とを含むキット。
【請求項16】
骨もしくは軟骨欠損を軽減または治療する方法で使用される請求項1〜7および13のいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項17】
関節の先天的もしくは後天的な異常部分、頭蓋顔面上顎骨、歯科矯正処置部分、術後の骨もしくは関節骨の置換部分、外傷もしくは他の先天的もしくは後天的な異常部分を支持または矯正するため、または他の筋骨格インプラント、特に人工および合成インプラントを支持するための方法で使用される、請求項1〜7および13のいずれか1項に記載の生体材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528643(P2012−528643A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513635(P2012−513635)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057847
【国際公開番号】WO2010/139792
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511294534)ウニベルシテ カソリーク デ ルーベン (1)
【出願人】(511294545)クリニークス ウニベルシタレス セント−ルーク (1)
【Fターム(参考)】