説明

多段式栽培システム

【課題】上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとの入れ替えを容易にすることができる多段式の栽培システムを提供する。
【解決手段】上下をターン部として周回動作を行うようになされたチェーン2が備えられ、該チェーン2に、その周回経路に沿って、複数の栽培ベッド1…が、上下方向に複数段配置となるように間隔的に保持され、前記チェーン2の周回動作によって、各栽培ベッド1…が、同じ姿勢状態を維持したまま、下段側の栽培ベッドが上段側に、上段側の栽培ベッドが下段側に入れ替わるようになされている。周回経路に沿う特定の位置に位置した栽培ベッドに対して養液を供給する養液供給部11が備えられ、各栽培ベッド1…への養液の供給が、前記特定の位置において行われるようになされているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビニールハウス等の施設栽培などにおいて用いられる多段式栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビニールハウス等の施設栽培では、一段式の栽培ベッドで作物の栽培を行うのが普通であるが、それでは、生産量を増やすのに限界があることから、棚を組んで栽培ベッドを上下方向に多段に配置して栽培を行うようにすることもある。
【特許文献1】特開2008−182951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような多段式では、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとの入れ替えを行わなければならないような場合、例えば、ビニールハウスのような太陽の日射を利用した施設栽培において、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとで日射量に差を生じてしまうような場合などにおいて、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとの入れ替えを手作業で行わなければならず、多大な労力を必要とするという問題がある。
【0004】
また、栽培ベッドを上下方向に多段配置にすると、各段の栽培ベッドに対する養液の供給が非常に厄介なものになってしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとの入れ替えを容易にすることができる多段式の栽培システムを提供することを主たる課題とする。
【0006】
また、本発明は、各段の栽培ベッドへの養液の供給を簡素な構成でかつ容易にすることができる多段式栽培システムを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、上下をターン部として周回動作を行うようになされた周回軌道部材が備えられ、該周回軌道部材に、その周回経路に沿って、複数の栽培ベッドが、上下方向に複数段配置となるように間隔的に保持され、前記周回軌道部材の周回動作によって、各栽培ベッドが、同じ姿勢状態を維持したまま、下段側の栽培ベッドが上段側に、上段側の栽培ベッドが下段側に入れ替わるようになされていることを特徴とする多段式栽培システムによって解決される(第1発明)。
【0008】
このシステムでは、栽培ベッドが上下方向に複数段配置となっているので、作物を生産性良く栽培することができるのはもちろん、
周回軌道部材の周回動作によって、各栽培ベッドが、同じ姿勢状態を維持したまま、下段側の栽培ベッドが上段側に、上段側の栽培ベッドが下段側に入れ替わるようになされているので、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとを、周回軌道部材に周回動作を行わせることで、容易に入れ替えることができる。
【0009】
第1発明において、前記入れ替わりによって、各栽培ベッドが日射を均等的に受けるようになされているとよい(第2発明)。この場合は、ビニールハウスのような日射を利用した施設栽培において、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとで日射量に差を生じないようにするのを容易にすることができる。
【0010】
第1,2発明において、周回経路に沿う特定の位置に位置した栽培ベッドに対して養液を供給する養液供給部が備えられ、各栽培ベッドへの養液の供給が、前記特定の位置において行われるようになされているとよい(第3発明)。
【0011】
この場合は、養液供給部を、特定の位置に位置した栽培ベッドに対して養液が供給されるように備えさせれば、周回軌道部材の周回動作によって、下段側の栽培ベッドが上段側に、上段側の栽培ベッドが下段側に入れ替わるようになされていることとの組み合わせで、養液を、簡素な構成により、各段の栽培ベッドに供給することができる。
【0012】
しかも、周回軌道部材の周回動作と養液供給部からの養液の供給とを管理していくだけでよく、養液を各段の栽培ベッドに管理容易に供給していくことができる。
【0013】
第1〜第3発明において、前記周回軌道部材に、周回経路と直交する水平方向に向けられた栽培ベッド保持用の複数のバー材が、周回経路に沿って間隔的に取り付けられ、各栽培ベッドは、前記各バー材の下側に位置してそのバー材に吊り下げ保持状態にされ、自重によって同じ姿勢状態を維持しながら周回するようになされているとよい(第4発明)。
【0014】
この場合は、周回経路に沿って各栽培ベッドを周回させる構成において、各栽培ベッドを吊り下げ保持状態にし、その自重を利用して同じ姿勢状態を維持する構成としているので、周回する各栽培ベッドを簡素な構成により同じ姿勢状態に維持することができる。
【0015】
第4発明において、上下のターン部間において、上下方向に延びるガイドが設けられ、上下のターン部間を昇降する栽培ベッドが、該ガイドに案内されることによって、バー材軸線回りでの振り子運動を抑制ないしは阻止されるようになされているとよい(第5発明)。この場合は、各栽培ベッドを吊り下げ保持状態にすることと、各栽培ベッドの自重を利用することとによって生じうる、各栽培ベッドの、バー材軸線回りでの振り子運動を、簡素な構成によって、有効的に抑制ないしは阻止することができ、各栽培ベッドのスムーズな周回動作を実現することができる。
【0016】
第1〜第5発明において、前記各栽培ベッドが周回経路外に引出し可能である場合は(第6発明)、定植から出荷までを同じ栽培ベッドで行うことができて、一元管理が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多段式栽培システムは、以上のとおりのものであるから、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとの入れ替えを容易にすることができる。また、各段の栽培ベッドへの養液の供給を簡素な構成でかつ容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1及び図2に示す実施形態の多段式栽培システムを構成する設備において、1…は栽培ベッド、2,2は周回軌道部材としての左右のチェーンであり、各チェーン2は、左右方向に間隔をおいて、同径の上下のスプロケット3,3に掛け渡されると共に、上側のスプロケット同士と下側のスプロケット同士はそれぞれ回転軸線を左右方向に向けて同軸状態となるように配置され、駆動源としてのモーター4を駆動してスプロケット3を回転することにより、左右のチェーン2,2が、上下をターン部とした同期的な周回動作を行うようになされている。
【0020】
そして、左右のチェーン2,2には、栽培ベッド保持用の複数のバー材5…が、周回経路と直交する水平方向に向けられ、これらチェーン2,2にわたすようにして、周回経路に沿って間隔的に取り付けられ、栽培ベッド1…は、各バー材5…に吊り下げ状態に保持されて上下方向に複数段配置、例えば図示するような4段配置にされ、左右のチェーン2,2の同期的な周回動作により、同じ姿勢状態を維持したまま、下段側の栽培ベッド1が上段側に、上段側の栽培ベッド1が下段側に入れ替わるようになされている。
【0021】
周回過程における各栽培ベッド1…の姿勢維持は、次のような構成によって達せられるようになされている。即ち、各栽培ベッド1は、平面視方形状をしていて、図3に示すように、左右方向における各端部において、前後方向の中央部に、先端部に引掛け用の折返し部6aを有する帯状の中央吊り下げ部材6の基端部が前後方向に回動できるように枢着されると共に、該中央吊り下げ部材6の基端枢着部を挟む前後に、先端部に引掛け用の折返し部7a,8aを有する線状の前後の吊り下げ部材7,8の基端部が前後方向に回動できるように枢着されている。各栽培ベッド1は、左右の各端部の側において、これら吊り下げ部材6,7,8の各先端折返し部6a,7a,8aをバー材5の外周部に引っ掛けた状態にすることによって吊り下げ保持状態にされ、バー材5が自軸回りに回転できるようにチェーン2に取り付けられているか、あるいは、各吊り下げ部材6,7,8の引掛け用折返し部6a,7a,8aがバー材5の外周部に回転変位可能に引っ掛けられていることなどによって、周回過程において、自重により同じ姿勢状態を維持するようになされている。このような構成の採用により、周回する各栽培ベッド1…を簡素な構成により同じ姿勢状態に維持することができる。
【0022】
また、本実施形態では、図1及び図2に示すように、上下のターン部間において、前側の栽培ベッド1…の後側、及び、後側の栽培ベッド1…の後側のそれぞれに、上下方向に延びるガイド9が左右に対で設けられており、栽培ベッド1が、バー材5の軸線回りでの振り子運動によって後方に変位しようとすると、ガイド9に当接して、その振り子運動が抑制ないしは阻止されるようになされて、スムーズな周回動作が行われるようになされている。また、各栽培ベッド1の後部にはローラー10が備えられ、該ローラー10がガイド9に当接するようになされて、栽培ベッド1の昇降動作中におけるガイド9への当接がスムーズなものになるようにされている。
【0023】
また、各栽培ベッド1は、図4に示すように、後側の吊り下げ部材8の先端引掛け部8aとバー材5との掛合状態を保ったまま、中央及び前側の吊り下げ部材6,7の先端引掛け部6a,7aをバー材5から外した状態にすることができるようになされており、それにより、栽培ベッド1の前側の縁部を手で支えて手前側に引き出すことができるようになされており、定植から出荷までを同じ栽培ベッドで行って一元管理を実現できるようになされている。なお、設備の寸法は、高さが例えば2.5m、幅が例えば3〜4mであり、栽培ベッド1は、1.7m程度の高さ位置において手前側へ引き出しことができるようになされているとよい。
【0024】
そして、図1及び図2に示すように、特定の位置としての最上段位置に位置した栽培ベッド1に対して養液を供給する養液供給部11が備えられ、各栽培ベッド1…への養液の供給が、前記最上段の位置において行われるようになされている。
【0025】
12は制御部で、該制御部12は、モーター4の駆動を制御して、栽培ベッド1…に周回動作を行わせるタイミングや周回動作の態様等を制御すると共に、それらの制御との関係において、養液供給部11からの養液供給のタイミング等を制御するようになされている。
【0026】
上記のシステムでは、栽培ベッド1…が上下方向に複数段配置となっているので、作物を生産性良く栽培することができることはいうまでもない。
【0027】
のみならず、例えば、ビニールハウスのような日射を利用した施設栽培に上記のような設備を採用した場合は、チェーン2,2を周回動作させるだけで、下段側の栽培ベッド1が上段側に、上段側の栽培ベッド1が下段側に入れ替わって、各栽培ベッド1…に日射を均等的に受けさせることができ、上段側の栽培ベッドと下段側の栽培ベッドとで日射量に差を生じないようにするのを容易にすることができる。
【0028】
また、各段に蛍光灯やLED等の人工照明を取り付けて栽培を行う完全制御型植物工場に上記のようなシステムを採用する場合は、各栽培ベッド1…に日射を均等的に受けさせるためにチェーン2,2に周回動作を行わせる必要はないが、チェーン2,2の周回動作と、養液供給部11からの養液供給のタイミング等を制御することによって、養液を、簡素な構成により、各段の栽培ベッド1…に供給することができ、しかも、チェーン2,2の周回動作と養液供給部からの養液供給のタイミングを管理していくだけでよく、養液を各段の栽培ベッド1に管理容易に供給していくことができる。
【0029】
もちろん、日射を利用した施設栽培において、周回動作によって日射量に差を生じないようにすると共に、養液の供給もその周回動作を利用して行うようにするのもよい。その場合には、周回動作のための機構が、日射量の均等化と養液供給の両方の用いられて、多機能を簡素な機構により実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】多段式栽培システムを構成する設備の実施形態を示す側面図である。
【図2】同正面図である。
【図3】図(イ)及び図(ロ)はそれぞれ、栽培ベッドの側部に備えられた吊り下げのための機構部分を示す側面図である。
【図4】栽培ベッドの引出し方法の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0031】
1…栽培ベッド
2…チェーン(周回軌道部材)
5…バー材
9…ガイド
11…養液供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下をターン部として周回動作を行うようになされた周回軌道部材が備えられ、該周回軌道部材に、その周回経路に沿って、複数の栽培ベッドが、上下方向に複数段配置となるように間隔的に保持され、前記周回軌道部材の周回動作によって、各栽培ベッドが、同じ姿勢状態を維持したまま、下段側の栽培ベッドが上段側に、上段側の栽培ベッドが下段側に入れ替わるようになされていることを特徴とする多段式栽培システム。
【請求項2】
前記入れ替わりによって、各栽培ベッドが日射を均等的に受けるようになされている請求項1に記載の多段式栽培システム。
【請求項3】
周回経路に沿う特定の位置に位置した栽培ベッドに対して養液を供給する養液供給部が備えられ、各栽培ベッドへの養液の供給が、前記特定の位置において行われるようになされている請求項1又は2に記載の多段式栽培システム。
【請求項4】
前記周回軌道部材に、周回経路と直交する水平方向に向けられた栽培ベッド保持用の複数のバー材が、周回経路に沿って間隔的に取り付けられ、各栽培ベッドは、前記各バー材の下側に位置してそのバー材に吊り下げ保持状態にされ、自重によって同じ姿勢状態を維持しながら周回するようになされている請求項1乃至3のいずれか一に記載の多段式栽培システム。
【請求項5】
上下のターン部間において、上下方向に延びるガイドが設けられ、上下のターン部間を昇降する栽培ベッドが、該ガイドに案内されることによって、バー材軸線回りでの振り子運動を抑制ないしは阻止されるようになされている請求項4に記載の多段式栽培システム。
【請求項6】
前記各栽培ベッドが周回経路外に引出し可能である請求項1乃至5のいずれか一に記載の多段式栽培システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−130934(P2010−130934A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309252(P2008−309252)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】