説明

多段式鍛造プレス機のトランスファー装置

【課題】ワークの搬送トラブルを小さい段階で確実に検出することができ、そのトラブルの原因を追求し分析することが容易にできるようにする。
【解決手段】開閉動作するフィンガー10を有した複数のチャック機構CH(CH0〜CH3)と、チャック機構を往復動させてワークを前工程から後工程へと順次移動させるトランスファー駆動ロッド3及びトランスファービーム4とを備えた多段式鍛造プレス機のトランスファー装置1において、チャック機構のフィンガーが動作する際の可動部分の変位を検出するチャック機構変位センサ50と、チャック機構を移動させるための移動機構の可動部分の変位を検出する移動機構変位センサ60と、チャック機構変位センサの検出データと移動機構変位センサの検出データとを一緒に時系列の波形データとして表示部110に表示させる制御部100とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段式鍛造プレス機のトランスファー装置に係り、特に搬送トラブルを検出する機能を備えたトランスファー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の鍛造プレス工程を順番に経由することでワークを所定形状に加工する熱間フォーマー(横型鍛造機)等の多段式鍛造プレス機が知られている。この多段式鍛造プレス機には、各鍛造プレス工程ごとに設けられた鍛造プレス加工部(例えば、ダイスとパンチの組)の動作に応じてワークを次の工程へ順次搬送するトランスファー装置が備わっている。
【0003】
トランスファー装置は、各鍛造プレス加工部に対応して設けられてワークを把持したり把持を解除したりするために開閉動作するワーク把持部(フィンガー)を有した複数のチャック機構と、該複数のチャック機構を往復動させてワークを前工程から後工程へと順次移動させる移動機構と、を具備している。
【0004】
ところで、この種の多段式鍛造プレス機においては、トランスファー装置によってワークを自動的に各プレス位置に搬送する場合に、チャック機構のワーク把持部(フィンガー)によってワークを把持して次工程に搬送するのであるが、その搬送の際に、特に重量の大きなワークを高速で搬送する場合などにおいて、僅かな不具合箇所により搬送トラブルが発生することが多かった。
【0005】
搬送トラブルが起きた際には、原因を究明し、対策を施さなくてはならないが、従来、搬送トラブルが起きた際には、作業者が機内に入り、各所を点検していき、そのトラブルの原因を究明していた。しかし、原因究明だけでも長時間を要し、真の原因究明に至らないケースも多かった。
【0006】
そこで、その対策の例として、特許文献1〜3に、ワークをチャッキングしたか否かでミスチャックを検出する手段を設け、ミスチャックを検出したときに設備を異常停止させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−94070号公報
【特許文献2】特開2004−136337号公報
【特許文献3】特開平8−126986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1〜3に示されるような、ワークをチャッキングしたか否かのみを検出して設備を異常停止させる装置では、ワークの向きが変わった状態でチャッキングした場合にミスチャックを検出できないことがあり、ミスチャックを見逃してしまう可能性があった。また、ミスチャックの原因を追求するための装置ではなく、設備を異常停止させることに限ったものであり、設備が異常停止した後に真の原因が分からないままに設備を再稼働してしまうケースも考えられる。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワークの搬送トラブルを小さい段階で確実に検出することができ、しかも、そのトラブルの原因を追求し分析することが容易にできる多段式鍛造プレス機のトランスファー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る多段式鍛造プレス機のトランスファー装置は、下記(1)〜(8)を特徴としている。
(1) 複数の鍛造プレス工程を順番に経由することでワークを所定形状に加工する多段式鍛造プレス機に備えられ、前記各鍛造プレス工程ごとに設けられた鍛造プレス加工部の動作に応じてワークを次の工程へ順次搬送する多段式鍛造プレス機のトランスファー装置であって、
前記各鍛造プレス加工部に対応して設けられてワークを把持したり把持を解除したりするために開閉動作するワーク把持部を有した複数のチャック機構と、
該複数のチャック機構を往復動させてワークを前工程から後工程へと順次移動させる移動機構と、
前記チャック機構のワーク把持部が動作する際の可動部分の変位を検出するチャック機構変位センサと、
前記チャック機構変位センサの検出データを時系列の波形データとして表示する波形表示手段と、
を具備する。
(2) 上記(1)の構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記チャック機構を移動させるための前記移動機構の可動部分の変位を検出する移動機構変位センサを更に備えており、
前記波形表示手段が、前記チャック機構変位センサの検出データと前記移動機構変位センサの検出データとを一緒に時系列の波形データとして表示する。
(3) 上記(1)または(2)の構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記変位センサが、直線的な動きをする可動部分の変位を検出する位置に設けられている。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記波形表示手段が、前記波形データに基づく良否判定を有効とする時系列上の有効範囲を前記波形データと共に表示する。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかの構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記チャック機構変位センサの検出データによる前記波形データを、予め設定された正常動作時の波形データと比較することにより、前記チャック機構の動作の良否を判定する良否判定手段を備えている。
(6) 上記(5)の構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記波形データに基づく前記良否判定手段の判定を有効とする時系列上の有効範囲を予め設定しておき、当該有効範囲においてのみ前記判定手段の判定を有効とする。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかの構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記チャック機構変位センサの検出データの上限値を設定し、該上限値を超えたデータが検出された場合に、前記多段式鍛造プレス機を異常停止させる異常停止手段を備える。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかの構成の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置において、
前記波形データをロギングする手段を備える。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)の構成によれば、表示された現在の波形データを正常時の波形データと比較することにより、異常があったかどうかを小さい段階で速やかに確実に判断して対処することができる。即ち、検出した波形データに異常があった場合は、異常ピークの位置や大きさあるいは波形データの形状などから、搬送トラブルの状況や原因を適切に且つ容易に分析することができ、速やかな対応が可能である。例えば、搬送トラブルの原因が、素材、金型、チャック、設備のいずれにあるかを波形データに基づいて追求することができるので、速やかにトラブルの種類を分類することができて、分析時間の短縮が図れる。従って、搬送トラブルが生じた場合でも、設備の稼働率の向上が図れる。
【0012】
上記(2)の構成によれば、チャック機構変位センサと移動機構変位センサのデータとを一緒に表示することにより、ミスチャック等の搬送トラブルの原因の分析精度をより一層向上させることができる。つまり、移動機構によるどの移動タイミングでチャック機構変位センサのデータに異常が出ているかが直ぐに分かるため、搬送トラブルの原因追求がやりやすくなり、分析精度が上がる。
【0013】
上記(3)の構成によれば、変位センサが直線的な動きをする可動部分の変位を検出する位置に設けられているので、単純なセンサにより精度よく変位を検出することができ、分析精度の向上に寄与することができる。
【0014】
上記(4)の構成によれば、チャック機構のワーク把持部の振動などのように、正常時においても通常発生する波形の振幅をミスチャックとして誤って拾ってしまわないようにすることができる。
【0015】
上記(5)の構成によれば、良否判定手段により、検出した波形データに基づいて自動的に良否判定を行うことができるので、管理者の指示がない場合でも、自動停止などを行うことによって安全操業することができ、トラブルの悪化を防ぐことができる。
【0016】
上記(6)の構成によれば、チャック機構のワーク把持部の振動などのように、正常時においても通常発生する波形の振幅をミスチャックとして誤って拾ってしまわないようにすることができる。
【0017】
上記(7)の構成によれば、予め設定した上限値を超えるような変位のデータが検出された場合に鍛造プレス機を異常停止させることができるので、復旧を伴うような搬送トラブルには至ってはいないが僅かな波形の振れ幅で機械が異常停止した場合の原因分析と対策を速やかに行うことができる。この場合、上限値を微調整することによって、異常を検出する際の感度の調整ができるため、正確に僅かなチャックミスなども見逃さずに鍛造プレス機を停止させることができる。
【0018】
上記(8)の構成によれば、波形表示手段によって表示された現在の波形データを見ながらリアルタイムでミスチャック等の異常判定を行うことができるのは勿論、波形データをロギング(データを時系列で記録に残すこと)するので、ミスチャックなどの異常が生じた際に、過去に遡って波形データを分析することにより、その発生原因を追求することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のトランスファー装置の説明図で、(a)はトランスファー装置を含む多段式鍛造プレス機の構成の概要を示す図、(b)は各工程ごとのワークの加工内容を示す図である。
【図2】前記トランスファー装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】同トランスファー装置の原理構成を示す図で、(a)はカム機構によりトランスファー駆動ロッドを軸線方向に往復駆動する機構部分の構成図、(b)は(a)図のIIIb−IIIb矢視断面図で、別のカム機構によりトランスファー駆動ロッドを揺動駆動する機構部分の構成図である。
【図4】同トランスファー装置の中のチャック機構の構成図で、(a)は3本のフィンガー(ワーク把持部)を閉じてワークを把持しているときの状態を示す正面図、(b)はフィンガーを開いてワークの把持を解除したときの状態を示す正面図である。
【図5】同チャック機構の側面図で、トランスファー駆動ロッドの揺動運動をチャック機構の開閉動作として伝える機構部分の構成を示す図である。
【図6】同トランスファー装置において得られた異常波形を含む波形データの第1実施例を示す図である。
【図7】図6における異常の内容の説明図で、(a)はチャック機構によってワークを搬送する際に次工程のダイにワークが接触したことを示す側面図、(b)は正面図である。
【図8】同トランスファー装置において得られた波形データの第2実施例を示す図で、(a)は現在の異常を含む波形データを示す図、(b)はその比較として正常時の波形データを示す図である。
【図9】同トランスファー装置において得られた波形データの第3実施例を示す図である。
【図10】同トランスファー装置において得られた波形データに基づいて良否判定する場合の時系列上の有効範囲を示す図である。
【図11】同トランスファー装置において得られた波形データの第4実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る多段式鍛造プレス機のトランスファー装置を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に示す多段式鍛造プレス機Mは、複数の鍛造プレス工程S1〜S4を順番に経由することで、ワークWを所定形状(図示例では軸受の軌道輪の形状)に加工するもので、各鍛造プレス工程S1〜S4ごとに設けられた鍛造プレス加工部K1〜K4と、これらの鍛造プレス加工部K1〜K4の動作に応じてワークWを次の工程へ矢印A1のように順次搬送するトランスファー装置1を備えている。なお、図中S0は準備工程、K0は準備工程用の加工部を示す。準備工程S0では加工部K0により材料(ワークW)を切断する。また、♯1の工程S1〜♯4の工程S4までの間に必要な加工を順番に行う。
【0022】
トランスファー装置1は、各鍛造プレス加工部K1〜K4に対応して設けられてワークWを把持したり把持を解除したりするために開閉動作するフィンガー(ワーク把持部)10を有した複数(♯0〜♯3)のチャック機構CH0〜CH3と、該複数のチャック機構CH0〜CH3を往復動させてワークWを前工程から後工程へと矢印A1のように順次移動させる移動機構(後述するトランスファー駆動ロッド3などを主要素する機構)とを備えている。工程間距離は、例えば300mm〜400mm程度である。
【0023】
このトランスファー装置1の♯0のチャック機構CH0は、図中矢印Bのように移動することで、準備工程S0から第1の鍛造プレス工程S1へワークWを移送する。また、♯1〜♯3のチャック機構CH1〜CH3は、図中矢印Bのように移動することで、順次次の工程へワークWを移送する。即ち、♯1のチャック機構CH1は、第1の鍛造プレス工程S1から第2の鍛造プレス工程S2へ、♯2のチャック機構CH2は、第2の鍛造プレス工程S2から第3の鍛造プレス工程S3へ、♯3のチャック機構CH3は、第3の鍛造プレス工程S3から第4の鍛造プレス工程S4へ、それぞれワークWを移送する。各工程に搬送されたワークWは、各工程ごとの鍛造プレス加工部K1〜K4で段階的に加工され、第4の鍛造プレス工程S4で鍛造製品が完成する。完成した鍛造製品は、図示しない搬出装置により機外に搬出される。
【0024】
各段の加工部K0〜K4は水平な直線上に一定の間隔をおいて配置されており、トランスファー装置1は、加工部K0〜K4の配列に平行に配設されたトランスファー駆動ロッド3とトランスファービーム4とを備えている。これらトランスファー駆動ロッド3とトランスファービーム4は、互いに連結されており、機台2(図2参照。)に対して長手方向(加工部K0〜K4の配列方向)にスライド自在に設けられ、往復駆動用のカム機構30により矢印Xのように往復駆動される。また、トランスファー駆動ロッド3は回動自在に支持されており、揺動駆動用のカム機構40により矢印Rのように揺動駆動される。両方のカム機構30、40は、ギヤ80を介して同一の駆動源であるモータ90に連結されており、トランスファー駆動ロッド3の揺動運動とトランスファー駆動ロッド3及びトランスファービーム4の往復運動は、鍛造プレス加工部K1〜K4の動きと同期するようになっている。なお、カム機構30、40以外の要素を用いて、トランスファー駆動ロッド3の揺動運動とトランスファー駆動ロッド3及びトランスファービーム4の往復運動を、鍛造プレス加工部K1〜K4の動きと同期するように構成することも可能である。
【0025】
図2及び図3に示すように、トランスファー駆動ロッド3とトランスファービーム4は、互いに連結部材6によって連結されており、機台2によってX方向スライド自在に支持されている。図中、5はトランスファービーム4のスライドを案内するガイドレールである。また、トランスファー駆動ロッド3は、自身の軸線周りに回動自在に支持されている。トランスファー駆動ロッド3の一部にはスプライン部3aが形成されており、揺動運動用のカム機構40の揺動レバー41のボス部42がトランスファー駆動ロッド3のスプライン部3aにスプライン結合されている。従って、トランスファー駆動ロッド3は、揺動運動用のカム機構30によるスライド運動を許容された状態で、揺動レバー41から揺動運動を伝達されるようになっている。
【0026】
往復運動用のカム機構30は、トランスファービーム4にピン31を介して回動自在に連結された連結ロッド32と、この連結ロッド32に一端がピン33で回動自在に連結され、揺動軸35周りに揺動自在に支持されたベルクランク34と、ベルクランク34の他端に設けられたカムフォロア36と、カムフォロア36が摺動するカム37と、で構成され、カム軸81がモータ90からの駆動回転を受けて回転することにより、トランスファービーム4を矢印X方向に往復運動させるようになっている。つまり、カム37が矢印X1のように一方向に回転すると、カムフォロア36が矢印X2のように揺動し、ベルクランク34の一端が矢印X3のように揺動することで、トランスファービーム4が矢印X方向に往復運動する。
【0027】
揺動運動用のカム機構40は、トランスファー駆動ロッド3にスプライン結合された揺動レバー41と、この揺動レバー41の先端にピン43を介して回動自在に連結された連結ロッド44と、この連結ロッド44に一端がピン45で回動自在に連結され、揺動軸47周りに揺動自在に支持されたベルクランク46と、ベルクランク46の他端に設けられたカムフォロア48と、カムフォロア48が摺動するカム49と、で構成され、カム軸82がモータ90からの駆動回転を受けて回転することにより、トランスファー駆動ロッド3を矢印R方向に揺動運動させるようになっている。つまり、カム49が矢印R1のように一方向に回転すると、カムフォロア48が矢印R2のように揺動し、ベルクランク47の一端が矢印R3のように揺動することで、揺動レバー41が矢印R4のように揺動し、その動きでトランスファー駆動ロッド3が矢印Rのように揺動する。
【0028】
次にチャック機構CH(CH0〜CH3)について説明する。
チャック機構CH(CH0〜CH3)は、トランスファービーム4に一定の間隔(鍛造プレス加工部K1〜K4の間隔と等しい間隔)をおいて装備されており、トランスファービーム4と一緒に各工程間を往復動する。また、各チャック機構CHには、図2に示すように、トランスファー駆動ロッド3にそれぞれ結合された駆動アーム8が係合しており、駆動アーム8がトランスファー駆動ロッド3と一体に揺動することにより、チャック機構CHのフィンガー10が開閉駆動されるようになっている。
【0029】
図4はチャック機構CHの構成図で、(a)は3本のフィンガー(ワーク把持部)10を閉じてワークWを把持しているときの状態を示す正面図、(b)はフィンガー10を開いてワークWの把持を解除したときの状態を示す正面図である。また、図5はチャック機構CHの側面図で、トランスファー駆動ロッド3の揺動運動をチャック機構CHの開閉動作として伝える機構部分の構成を示す図である。
【0030】
チャック機構CHは、トランスファービーム4に固定されたチャックベース20と、チャックベース20の先端にピン21を介してそれぞれの基端11a、12aが回動自在に連結された一対のL形の回動アーム11、12と、各回動アーム11、12の先端11b、12bに突設された合計3本のワークWを把持するためのフィンガー(ワーク把持部)10と、各回動アーム11、12の曲がり部11c、12cにピン13で先端が回動自在に連結された一対の作動ロッド15と、一対の作動ロッド15の基端に両端がピン16を介して回動自在に連結された作動バー14と、作動バー14の中央部に結合され、チャックベース20に設けたガイド18に沿ってスライドするスライダ17と、で構成され、スライダ17を駆動アーム8の揺動運動により矢印T1のようにスライドさせることで、作動ロッド15が矢印T2のように移動し、その動きで回動アーム11、12が矢印T3のように回動して、それにより、フィンガー10が矢印T4のように閉じたり開いたりするようになっている。
【0031】
この種のチャック機構CHを備えたトランスファー装置1は、特に重量の大きなワークWを高速搬送するような場合に、わずかな不具合箇所により搬送トラブルを起こすことが多い。搬送トラブルの例としては、ワークWを搬送する際に、不安定な状態でワークWを掴んだり、搬送途中のワークWが金型などに干渉したりすることで、ワークWが落下する場合や、ワークWの向きが変わった状態で次工程の金型に挿入されることで、製品の品質不良を起こしたり、金型・部品の破損を引き起こしたりする場合などが挙げられる。
【0032】
搬送トラブルが起きた際には、原因を究明し、対策を施さなくてはならないが、従来、搬送トラブルが起きた際には、作業者が機内に入り、各所を点検していき、そのトラブルの原因を究明していた。しかし、そうすると、原因究明だけでも長時間を要し、真の原因究明に至らないケースも多かった。また、多段式鍛造プレス機の加工部は、高温で多量の水や油、酸化スケールなどが飛散し、水蒸気が漂う過酷な環境下にあり、搬送トラブルを目視により確認することは困難な状況にあった。
【0033】
そこで、本発明の実施形態のトランスファー装置1では、図1に示すように、チャック機構CH(CH0〜Ch3)に、フィンガー10が動作する際の可動部分の変位を検出するチャック機構変位センサ50を設けると共に、チャック機構CHを往復移動させるための移動機構に、当該移動機構の可動部分の変位を検出する移動機構変位センサ60を設け、それらチャック機構変位センサ50の検出データと移動機構変位センサ60の検出データとを一緒に、波形表示手段を含む制御部(パソコン等)100により表示部(パソコンのモニタ等)110に、時系列の波形データとして表示させるようにしている。
【0034】
この場合、チャック機構変位センサ(以下、「チャックセンサ」とも称す。)50は、渦電流方式の変位センサであり、図4に示すように、チャックベース20のブラケット22に固定されている。また、このチャック機構変位センサ50で変位量を検出する検出板52は、フィンガー10を開閉駆動する作動ロッド15に固定されている。作動ロッド15は、直線的な動きをする可動部分に相当し、この部分の変位を、検出板52との距離によってチャック機構変位センサ50で検出する。つまり、チャック機構変位センサ50によってフィンガー10の開き量に相当する変位量を検出することができる。
【0035】
また、移動機構変位センサ60(以下、「トランスファーセンサ」とも称す。)は、リニアのアブソコーダよりなり、図1に示すように、直線移動するトランスファービーム4の変位量を検出できる位置に設けられている。
【0036】
また、制御部100は、チャック機構変位センサ50や移動機構変位センサ60の検出した波形データに基づく良否判定を有効とする時系列上の有効範囲を波形データと共に表示する機能を有している。また、チャック機構変位センサ50の検出データの上限値(微調整可能)を設定し、その上限値を超えたデータが検出された場合に、多段式鍛造プレス機Mを異常停止させる機能(異常停止手段)も有している。また、収集した波形データをハードディスク等の記憶手段にロギングする機能(手段)も有している。
【0037】
以下、4つの測定例を実施例1〜4として説明する。
【実施例1】
【0038】
図6は実施例1の波形図であって、搬送途中でチャック機構の波形に異常なピークが生じた波形データの例を示している。この波形データを観察することにより、次のような分析が可能となる。具体的な分析結果の一例を挙げる。
【0039】
ここでは、♯2のチャック機構CH2のチャックセンサの波形に突発的な異常ピークが発生(外力によりフィンガー10が開かせられている)しており、このピークが上限値を超えることで、ミスチャック検出により鍛造プレス機Mが異常停止した。トランスファーセンサの波形データを用いて確認すると、このピーク発生位置は、♯2のチャック機構CH2が搬送を完了するまでの距離dだけ手前の位置であることがわかる。
【0040】
図7に示すように、搬送が完了するまでの距離dだけ手前の位置は、搬送されている製品(ワークW)の図7で右端部の水平方向位置が♯3の加工部K3のダイ99の図7で左端部の水平方向位置に達する位置にほぼ一致する。従って、本件の異常ピークは、搬送の途中で製品(ワーク)が所定の位置よりも奥側にずれて把持されていたため、あるいは、ダイ99が所定の位置よりも手前側に出た状態でセットされていたため、♯3の加工部K3のダイ99に接触し、その弾みで♯2のチャック機構CH2の片方(準備工程S0のカッター側)の2本のフィンガー10が力Qによって開かされたために生じたものと推測ができ、本トラブルの防止策を迅速に講じることができる。
【0041】
ここで、上記のようなトラブルの分析手段が無ければ、機内に入り、各所を点検していき、そのトラブルの原因を究明しなければならない。原因究明だけでも長時間を要し、真の原因究明に至らないケースも多い。従って、本発明の採用により、原因を特定するまでの時間を著しく短縮することができて、鍛造プレス機の稼働率の向上を図ることができる。また、より正確な原因を推測することができるので、適切な対策を講じることができ、再発防止においても効果的である。
【実施例2】
【0042】
図8は実施例2の波形図であって、3つのチャック機構CH(CH1〜CH3)が閉じた直後の波形の振れ幅が正常時1.3mmに対して4.3mmと異常に大きい値を示した波形データの例を示している。この波形データを観察することにより、次のような分析が可能となる。具体的な分析結果の一例を挙げる。
【0043】
本実施形態のトランスファー装置1では、チャック機構CH(CH1〜CH3)の開閉は、カム機構40により駆動する構造になっている。振れ幅の異常は、全部のチャックセンサの波形に出ている。そこで、そのカム機構40を構成するカム49の軌道面のうち、チャック機構CHのクローズ開始部付近に一部剥離が発生し、そのために生じた異常波形であると推測できる。
【0044】
つまり、カム49の剥離箇所にカムフォロア48が乗り上げたときに衝撃が発生し、それがチャック機構CHまで伝わり、チャック機構CHの作動ロッド15が振動して、チャック機構CHが閉じた直後の波形の振れ幅が正常時と比べて大きくなったと考えられる。この状態は、搬送のトラブルが懸念されるため、早期に発見できるのが望ましい。このようにチャックセンサの波形を確認することにより、早期のカム49の損傷を発見できる。
【0045】
従って、チャック機構CHの保全といった観点においても有効であることが考えられる。上記のようなトラブルの分析手段が無ければ、実施例2においては、搬送事故などの明確な異常が現れないと、本トラブルに気づくことが困難である。本発明の採用により、搬送系の設備の不具合を早期に発見でき、不具合箇所の修理を行うことができ、搬送系の設備の保全においても効果を発揮することができる。
【実施例3】
【0046】
図9は実施例3の波形図である。この例では、チャックセンサの検出したデータが、予め設定した上限値(あるいは下限値)を超えた場合に、搬送のミスチャック検出と判定し、ミスチャックと判定した際に、鍛造プレス機Mを異常停止させる仕組みとしている。この場合の上限値は、確実に異常を検出し且つ誤動作しないように検討した。また、図10に示すように、正常動作時の空運転において、チャック機構CHのフィンガー10の振動などによりチャック機構CHが閉じた直後に波形のピークが生じる傾向にあるが、ミスチャック検出の時系列上の有効範囲(カムの回転における有効角度範囲)は、この正常動作時のピークを拾わないよう考慮し、最も重要と考えられる搬送中に絞り、搬送開始から搬送完了までとした。搬送するタイミングをクランク角度で表すと315°〜60°となるが、確実に異常を検出するように余裕を持たせて310°〜60°に設定した。
【0047】
また、チャックセンサの上限値は、定量的に十分に小さい値とした。この上限値を調整することで、検出感度を微調整できるため、正確に僅かなチャックミスも見逃さずに鍛造プレス機Mを停止させることができるようになる。
【0048】
この実施例によれば、僅かなチャックミスも見逃さずに鍛造プレス機Mを停止させることができるため、搬送トラブルを未然に防止できる。なお、搬送トラブルが発生すると、設備にダメージを与える場合もあるため、搬送トラブルは極力避けなければならない。以上の搬送トラブルの未然防止により鍛造プレス機Mの稼働率の向上と設備の保全を図ることができる。
【実施例4】
【0049】
図11は、実施例4の波形図である。この例では、ワークWを把持すべきタイミングでワークWを把持していない現象を検出しており、具体的には、チャックの移動位置に対して下限値を設定し、該移動位置が下限値を下回ったときにワークWが把持されていないという異常を検出させ、設備を停止させる。
この例は、成形直後にワークWが加工部を構成するパンチからうまく離れなかったことにより、ワークWがダイから脱落し、チャック機構により把持できなかったケースである。
【0050】
従来、このような不具合を検出するために、パンチに残ってしまったワークWに検出部材を衝突させて検出する等の方法を行なっていたが、検出機構が大掛かりになる、衝突の衝撃で検出部材その他の設備にダメージを与える、等の問題があった。本実施例は、そのような問題を解決することができる。
【0051】
以上の説明のように、本発明の実施形態のトランスファー装置は、チャック機構CHのフィンガー10が動作する際の可動部分(作動ロッド15)の変位を検出するチャック機構変位センサ(チャックセンサ)50と、チャック機構CHを移動させるための移動機構の可動部分(トランスファービーム4)の変位を検出する移動機構変位センサ(トランスファーセンサ)60と、両変位センサ50、60の検出データを一緒に時系列の波形データとして表示部110に表示させる制御部100と、を備えているので、表示された現在の波形データを正常時の波形データと比較することにより、異常があったかどうかを速やかに目視判断して対処することができる。即ち、検出した波形データに異常があった場合、異常ピークの位置や大きさあるいは波形データの形状などから、搬送トラブルの状況や原因を分析することができ、速やかな対応が可能である。例えば、搬送トラブルの原因が、素材、金型、チャック、設備のいずれにあるかを波形データに基づいて追求することができるので、速やかにトラブルの種類を分類することができて、分析時間の短縮が図れる。特に、変位センサ50、60が直線的な動きをする可動部分(作動ロッド15やトランスファービーム4)の変位を検出する位置に設けられているので、単純なセンサにより精度よく変位を検出することができ、分析精度を向上させることができる。
【0052】
また、波形データに基づく良否判定を有効とする時系列上の有効範囲を波形データと共に表示するので、チャック機構CHのフィンガー10や作動ロッド15の空運転時の振動などのように、正常時においても通常発生する波形の振幅を、ミスチャックとして誤って拾ってしまわないようにすることができる。
【0053】
予め設定した上限値を超えるような変位のデータが検出された場合に鍛造プレス機Mを停止させるようにしているので、復旧を伴うような搬送トラブルには至ってはいないが僅かな波形の振れ幅で機械が異常停止した場合に原因分析と対策を速やかに行うことができる。この場合、上限値を微調整することによって、異常を検出する際の感度を微調整できるため、正確に僅かなチャックミスも見逃さずに鍛造プレス機Mを停止させることができる。
【0054】
また、表示部110に表示された現在の波形データを見ながらリアルタイムでミスチャック等の異常判定を行うことができるのは勿論、波形データをロギング(データを時系列で記録に残すこと)するので、ミスチャック等の異常が生じた際に、過去に遡って波形データを分析することにより、その発生原因を追求することができる。
【0055】
なお、波形データを表示する表示部(モニタ)および波形データの分析ソフトの操作部を鍛造プレス機の操作盤の近くに設置するようにすれば、リアルタイムの波形データにより、異常な波形を発見した場合やミスチャック検出により鍛造プレス機が異常停止した場合に、速やかに原因分析ができるようになる。
【0056】
また、搬送トラブルの発生に至らないまでも、正常波形に対して僅かながら波形が変化し、その後トラブルが発生してしまいそうな場合に、人の判断で設備を停止することができる。そして、異常波形データから、原因の分析と対策を講じることができ、搬送トラブルを未然に防止することができる。
【0057】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0058】
例えば、チャック機構変位センサ50の検出データによる波形データを、予め設定された正常動作時の波形データと比較することにより、チャック機構CHの動作の良否を自動判定することもできる(良否判定手段)。その際、波形データに基づく良否判定を有効とする時系列上の有効範囲を予め設定しておき、当該有効範囲においてのみ判定を有効とするのがよい。このようにした場合、検出した波形データに基づいて自動的に良否判定を行うことができるので、管理者の指示がない場合でも、自動停止などを行うことによって安全操業することができ、トラブル内容の悪化を防ぐことができる。
【0059】
また、チャック機構変位センサ50やトランスファー変位センサ60以外にも、荷重センサ、温度センサ等、所望のセンサを追加することで、同じ時系列上に所望の波形データを表示させ、原因分析精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 トランスファー装置
3 トランスファー駆動ロッド(移動機構、可動部分)
4 トランスファービーム(移動機構、可動部分)
10 フィンガー(ワーク把持部)
50 チャック機構変位センサ
60 トランスファー変位センサ
M 多段式鍛造プレス機
W ワーク
S0〜S4 鍛造プレス工程
K0〜K4 鍛造プレス加工部
CH,CH0〜CH3 チャック機構
100 制御部(波形表示手段、良否判定手段、異常停止手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍛造プレス工程を順番に経由することでワークを所定形状に加工する多段式鍛造プレス機に備えられ、前記各鍛造プレス工程ごとに設けられた鍛造プレス加工部の動作に応じてワークを次の工程へ順次搬送する多段式鍛造プレス機のトランスファー装置であって、
前記各鍛造プレス加工部に対応して設けられてワークを把持したり把持を解除したりするために開閉動作するワーク把持部を有した複数のチャック機構と、
該複数のチャック機構を往復動させてワークを前工程から後工程へと順次移動させる移動機構と、
前記チャック機構のワーク把持部が動作する際の可動部分の変位を検出するチャック機構変位センサと、
前記チャック機構変位センサの検出データを時系列の波形データとして表示する波形表示手段と、
を具備することを特徴とする多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項2】
前記チャック機構を移動させるための前記移動機構の可動部分の変位を検出する移動機構変位センサを更に備えており、
前記波形表示手段が、前記チャック機構変位センサの検出データと前記移動機構変位センサの検出データとを一緒に時系列の波形データとして表示することを特徴とする請求項1に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項3】
前記変位センサが、直線的な動きをする可動部分の変位を検出する位置に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項4】
前記波形表示手段が、前記波形データに基づく良否判定を有効とする時系列上の有効範囲を前記波形データと共に表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項5】
前記チャック機構変位センサの検出データによる前記波形データを、予め設定された正常動作時の波形データと比較することにより、前記チャック機構の動作の良否を判定する良否判定手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項6】
前記波形データに基づく前記良否判定手段の判定を有効とする時系列上の有効範囲を予め設定しておき、当該有効範囲においてのみ前記判定手段の判定を有効とすることを特徴とする請求項5に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項7】
前記チャック機構変位センサの検出データの上限値を設定し、該上限値を超えたデータが検出された場合に、前記多段式鍛造プレス機を異常停止させる異常停止手段を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。
【請求項8】
前記波形データをロギングする手段を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多段式鍛造プレス機のトランスファー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−78791(P2013−78791A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221135(P2011−221135)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】