説明

多段混合マイクロデバイス

【課題】複数のユニットを連結して形成されたマイクロチャンネルでプロセス流体の多段混合を行うことができ、プロセス流体の流通時の温度ないし滞留時間をそれぞれのステップで独立に制御しうる多段混合マイクロデバイスを提供する。また、混合操作の設定条件の通常の変更に対しても、対象となるユニット部位のみを交換することで柔軟に対応することができる多段混合マイクロデバイスを提供する。
【解決手段】着脱自在な複数のユニットをパイプレスで連結した、プロセス流体の多段混合を行うマイクロデバイスであって、前記複数のユニットの連結により前記デバイスの内部に前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネルと熱交換用媒体を流通させるチャンネルとをなし、かつ、前記デバイスを部分的に独立して温度制御可能とした多段混合マイクロデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の流体を多段混合するマイクロデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微小な流路断面積の反応流路を用いて化学反応をおこなう技術、いわゆる「マイクロ化学プロセス技術」の開発が進められている(特許文献1)。この「マイクロ化学プロセス技術」とは、マイクロ加工技術などにより固体基板上に作製された幅数μm〜数百μmのマイクロ流路内で発現する化学・物理現象を利用した物質生産・化学分析技術である。
【0003】
マイクロ空間では通常レイノルズ数が小さく層流支配になり、流体の混合は界面を通じた分子拡散により行われる場合が多い。そしてマイクロ空間では界面の比表面積は大きく、分子移動距離を小さくできるため、界面を通じた分子拡散により瞬時に混合が行われる。よって通常のマクロなスケールでの攪拌装置による乱流混合に比べて精密高速混合が可能となる。また、一般にフローで反応を行うので流速も精密コントロールでき精密に反応時間の制御が行える。さらに、熱移動が容易であるため、精密温度コントロールも可能である。
【0004】
しかしながら、これまで提案されているマイクロデバイスでは、流体を複数の段階で混合・反応させるために、1つのマイクロデバイスで得られた生成物を一度取り出し、次のマイクロデバイスに供給する必要があった。この場合、2つのマイクロデバイスを連結するにしても、継ぎ手で接続する必要がある。したがって、この接続部分の内容積を小さくすることには限界があり、接続部分で温度や、滞留時間を制御することは難しい。特に、逐次化学反応で第1ステップでの滞留時間を例えば約0.1秒オーダー以内とし、次の第2ステップの反応に進まないと目的生成物が選択的にえられないようなケースには対応できない。たとえばマイクロリアクターを適用したハロゲン−リチウム交換反応のような場合(特許文献2)、マイクロデバイスの接合部分の容積が大きくなりすぎ、対応できない。
【0005】
これに対し、ガラス基板もしくは金属基板を重ね合わせてマイクロチャンネルを加工したデバイス、あるいはそれを集積したものが検討されている(特許文献3、4)。しかしこれらのデバイスでは、多段ステップの中で1ステップでも滞留時間の変更が生じると大幅にデバイスを作り直す必要がある。また混合ステップごとに温度等を独立して制御することが構造上難しく、その適用範囲は限定的にならざるをえない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−298109号公報
【特許文献2】特開2006−241065号公報
【特許文献3】特開平10−337173号公報
【特許文献4】特開2005−161125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数のユニットを連結して形成されたマイクロチャンネルでプロセス流体の多段混合を行うことができ、プロセス流体の流通時の温度ないし滞留時間をそれぞれのステップで独立に制御しうる多段混合マイクロデバイスの提供を目的とする。また、本発明は混合操作の設定条件の適宜の変更に対しても、対象となるユニット部位のみを交換することで柔軟に対応することができる多段混合マイクロデバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)着脱自在な複数のユニットをパイプレスで連結した、プロセス流体の多段混合を行うマイクロデバイスであって、前記複数のユニットの連結により前記デバイスの内部に前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネルと熱交換用媒体を流通させるチャンネルとをなし、かつ、前記デバイスを部分的に独立して温度制御可能としたことを特徴とする多段混合マイクロデバイス。
(2)前記複数のユニットを連結して形成した熱交換構造における熱交換能力が単位時間あたりの温度変化で100K/s以上であることを特徴とする(1)に記載の多段混合マイクロデバイス。
(3)所定の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体のマイクロチャンネルと、その次の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体のマイクロチャンネルとの間における、前記熱交換用媒体と相対しない前記プロセス流体のマイクロチャンネルの流路容積が1ml以下である(1)又は(2)に記載の多段混合マイクロデバイス。
(4)前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネル及び前記熱交換用媒体を流通させるチャンネルが、前記複数のユニットの連結によって形成された同心軸多重円筒流路で構成されており、
該同心軸多重円筒流路をなすデバイス部分が、
流路の外壁面をなす外側円管部と、その内側に配した先端が封じられた円筒部とを有し、前記外側円管部と前記円筒部とが薄片状の層流として前記プロセス流体を流通させる円管状のマイクロチャンネルをなし、
前記円筒部の更に内側に内側円管部を有し、該内側円管部と前記円筒部とが前記熱交換用媒体を流通させる円管状のチャンネルをなし、前記内側円管部の内側の空洞を通じ熱交換後の前記熱交換用媒体を排出する構造をもつ(1)〜(3)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(5)前記プロセス流体を供給するための流体供給ユニットと、前記プロセス流体を混合する流体混合ユニットとの間に、少なくとも一部が断熱材からなるユニットを配置することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(6)前記流体供給ユニットから導入したプロセス流体の複数の流れを前記マイクロチャンネル中で合流させ、その後別に導入したプロセス流体と混合する構造を持つ(1)〜(5)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(7)前記マイクロチャンネルの等価直径が1μm〜1000μmである(1)〜(6)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(8)前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネルにおいて、前記熱交換用媒体と相対する部分の等価直径を1μm〜1000μmとした(1)〜(7)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(9)所定の段階でプロセス流体を混合し、その次の段階でプロセス流体を混合するまでの時間が1秒以下となるようにしたことを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
(10)少なくとも2種のプロセス流体を混合して反応させるようにした(1)〜(9)のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロデバイスは、複数のユニットを連結してパイプレス接続により高い寸法精度のマイクロチャンネルが形成され、そこでプロセス流体の多段混合を行うことができ、このプロセス流体を流通させる各ステップで独立に温度ないし滞留時間を制御することができるという優れた作用効果を奏する。さらに本発明のマイクロデバイスは、上記の優れた性能を維持して、プロセス流体の極めて短い滞留時間と高い熱交換効率とを実現しながら、十分な流体流量をも確保することができ、従来困難とされていたような精密混合、精密化学反応を可能とする。さらにまた、本発明のマイクロデバイスは、滞留時間及び/又は流体温度を変更するために、デバイス全体の再製作などの余計な工程を要さずに、所定のユニットのみを追加、削除、変更することで対応することができ、例えば混合ステップの数を簡便かつ自在に増減することができるという優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関し詳しく説明する。
本発明の多段混合マイクロデバイスは、着脱自在な複数のユニットをパイプレスで連結した、プロセス流体の多段混合を行うものである。ここで、前記複数のユニットの連結によりデバイス内にプロセス流体を流通させるマイクロチャンネルと熱交換用媒体を流通させるチャンネルとが形成される。また、デバイスを部分的に独立して温度制御しうるようにされている。
本発明において、「プロセス流体」とは、反応や混合に用いられる、気体、液体、および液体として扱うことができる液体混合物を含むものを意味する。上記の液体として扱うことができる液体混合物としては、固体および/または気体を含む液体が挙げられ、例えば粉末のような微小な固体(たとえば金属微粒子)および/または微細な気泡を含む液体混合物であってもよい。また液体は、溶解していない他の種類の液体を含むものであってよく、たとえばエマルジョンであってよい。上記のプロセス流体には超臨界流体もしくは亜臨界流が含まれる。また流体が気体であるとき固体または固体の微粒子を含んでもよい。
【0011】
本発明のマイクロデバイスにおけるマイクロチャンネルの等価直径は、好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは1μm〜1000μmであり、特に好ましくは10〜500μmである。特に、後述する合流流路(管状流路43、93)の等価直径を上記の範囲とすることが好ましい。また流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、更に好ましくは5mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。ここで等価直径について以下に説明する。等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径とも呼ばれ、本発明では、機械工学の分野で通常用いられる意味で用いられる。すなわち、任意断面形状の配管(流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a/4a=a、一辺aの正三角形管では次式:deq=a・√3 のとおりとなる。
【0012】
さらに、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0013】
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。すなわちレイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
Re=D<υ>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υ>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶが、臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000>Re>2300 過渡状態
【0014】
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路が好ましいサイズである1mm以下のマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq/α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。このような反応場をマイクロ反応場と定義する。
【0015】
本発明のマイクロデバイスは、供給する2つ以上の流れのプロセス流体をそれぞれ独立して合流領域に供給し、この合流領域においてもしくはその前後において、別のプロセス流体と混合ないしそれによる反応を行うデバイスであることが好ましい。あるいは、上記の合流領域の前後の流路において、又は合流領域を含む流路において所定の時間をかけてプロセス流体を混合する(必要により混合による反応を行う)ものであることが好ましい。ここで流体を独立して供給するとは、マイクロデバイスに流入した各流体が、合流領域に到達するまで別々の流路を通過することを意味し、異なる流れをなす流体が同じ経路を経由しないことを意味する。なお、本発明においては「合流」と「混合」とを区別して用い、「合流」とは1種もしくは2種以上の流体の複数の流れが互いに相合して1つの流れをなすことをいい、「混合」とは2種以上の流体がまじりあうことをいう。
【0016】
本発明のマイクロデバイスにおいてはマイクロチャンネルに流体を流し、必要により上述のようにそこで流体を合流させることができる。そして、この合流領域もしくはその前後、又はマイクロチャネルの所定の領域でプロセス流体の混合、反応、熱交換等の操作を行うことができる。ここでマイクロデバイスとは広くマイクロチャネルを有するデバイスを意味し、これとは概念的に区別して、具体的に混合を主目的とするものを特にマイクロミキサーといい、反応を主目的とするものを特にマイクロリアクターといい、熱交換を主目的とするものを特にマイクロ熱交換器(マイクロヒートエクスチェンジャー)という。
【0017】
本発明のマイクロデバイスの流路の好ましい作製方法を以下に説明する。流路の等価直径が1mm以上のサイズの場合は従来の機械加工技術を用いることで比較的容易に作成可能であるが、サイズが1mm以下のマイクロサイズ、特に500μm以下になると格段に作製が難しくなる。マイクロサイズの流路(マイクロ流路)は固体基板上に微細加工技術を用いて作成される場合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でもよい。例えば、金属(例えば、ステンレス、ハステロイ(ニッケル−鉄系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、プラスチック、シリコーン、テフロン(登録商標)またはセラミックスなどである。本発明のマイクロデバイスにおける断熱材部分には伝熱係数が小さい合成樹脂材料が好ましい。合成樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等があるが、特に強度、耐熱性、酸、アルカリ耐性の観点からポリイミド樹脂が断熱ユニット用部材として好ましい。
【0018】
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
【0019】
マイクロ流路を作成する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、フッ化水素水溶液を用いた接合、金−ケイ素共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
【0020】
本発明のマイクロデバイスではユニット中に例えばスーパーエンジニアリングプラスチックを素材とした断熱材を用いてプロセス流体を部分的に独立して温度制御することができる。この断熱材として用いるスーパーエンジニアリングプラスチックとしては、強度が500kgf/cm以上であることが好ましく、曲げ弾性率が2.4GPa(24000kgf/cm)以上、耐熱性が150℃以上の特性を有する熱可塑性樹脂であることがより好ましい。スーパーエンジニアリングプラスチックの中で結晶性のものとしてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)があり、非晶性のものとしてはポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアリレート(PAR)がある。
【0021】
PEEKは芳香族ポリエーテルケトン類の中でも耐熱性が高い樹脂であり、ガラス転移温度が143℃、融点が334℃であり、短期耐熱性で300℃以上、長期耐熱性で250℃である。耐疲労性も良好で、高い性能が要求される用途向けに成型材料として用いられる。例えばHPLC用チューブ、チューブ継ぎ手として耐熱性、耐腐性、耐圧性の観点でステンレスが使用できない液を用いる場合に広く普及している。またさらに耐熱温度が高い樹脂として芳香族ポリイミド樹脂があり、例えばビフェニルテトラカルボン酸二無水(BPDA)とジアミンとの縮重合による全芳香族系ポリイミド樹脂の成形体「セプラ」は最高で500℃、連続で300℃の耐熱性がある。
【0022】
次に本発明のマイクロデバイスについて図面を参照して具体的に説明する。
図1(図1A及び図1B)は本発明の一実施形態としての逐次2段混合用マイクロデバイスを一部切欠して模式的に示す分解斜視図である。なお、図1Aではユニット1〜5を示し、図1Bではユニット6〜10を示す。図2は図1に示したデバイスの組み立てた状態におけるII−II線断面を示す断面図である。ユニット1は突起先端部分が開放されている円管部17を有しており、この円管部17がユニット2の貫通穴24に隙間なく挿入される。このとき円管部17の内側流路(空洞)13は流路11aと通じ熱交換用媒体pの熱交換後の排液流路をなす。この熱交換用媒体pは、流路11b、11cが円管部17の外側に通じ、ユニット1とユニット2の連結により生じる管状流路23に供給される。その後、上述のように流路13を介して排出される。
【0023】
プロセス流体qは、ユニット2の流路22a及び22b、ユニット3の流路32a及び32bを経由してユニット(円管部)4の外壁46で囲まれた中空ペンシル構造内部の流路43に通じる。ここでユニット2の円筒部28は先端が閉じた中空ペンシル構造にされている。ユニット3は断熱素材よりなり、ユニット2の円筒部28はユニット3の貫通穴34に隙間なく挿入される。ユニット4はプロセス流体qと熱交換用媒体pによる熱交換を行う外壁機能を示すペンシル型の中空構造の外壁46をもつ。そしてユニット2の円筒部28とユニット4の外壁46とがペンシル型円管状の間隙を形成する。この間隙がマイクロ流路(合流領域)43をなし、ここにプロセス流体qが流れ、好ましくは薄片状の層流をなす。
【0024】
ユニット5の流路(混合領域)53内において、プロセス流体qと流路52a及び52bを通じて供給したプロセス流体rとが混合させられる。この混合により生じたプロセス流体sは2つに分岐され流路52c及び52dを介し、ここまでの混合1段目j(図2)から混合2段目kに送られる。その後、プロセス流体sはユニット6で熱交換用媒体tと接触しないように通過し、ユニット7及び8をさらに通過して、混合2段目kのユニット9にまでスムーズに流れるように導入される。
【0025】
ここでユニット6の円柱部68は断熱材料からなり、一方円管部67はステンレスからなる。そして上記のように流路62c及び62dを流れるプロセス液sと接液しない配置で、熱交換用媒体tを流路61b及び61cから供給し円管部67内の流路63を介して流路61aから排出する。ユニット7は先端が閉じている中空ペンシル構造の円筒部78を有する。ここでプロセス流体sは流路72c及び72dを通じて円筒部78の外側に、他方熱交換用媒体tは流路71b及び71cは円管状流路73にそれぞれ供給される。ユニット8は断熱素材よりなり、ユニット7の円筒部78を貫通穴83に隙間なく挿入して連結される。そしてプロセス流体sは流路82c及び82dを通じて、次のユニット9の円管状流路(合流流域)94に供給される。ユニット9はプロセス流体sと熱交換用媒体tによる熱交換を行う外壁機能を示すペンシル型の中空構造外壁96をもつ。ユニット7の円筒部78とユニット9の外壁96とはペンシル型円管状の間隙を形成し、この間隙にプロセス流体sが流れ、好ましくは薄片状の層流をなす。
【0026】
ユニット10においては、流路(混合領域)95内のプロセス流体sと流路92a及び92bから供給されたプロセス流体uとが混合させられる。この混合により生じた流体vは流路92cを通じてデバイスの外部に送り出される。
【0027】
本実施形態において、ユニット1、ユニット2、ユニット4、ユニット5、ユニット7、ユニット9、ユニット10の材質は熱伝導性材料であれば特に限定されないがSUS316であることが好ましい。また本実施形態において、ユニット3、6、8の材料は所定の部分が断熱材料であれば特に限定されないが、ユニット3、ニット8の材質はセプラであることが好ましい。ユニット6は前記のとおり円柱部分68の材質がセプラで突起円管部67の材質がSUS316であることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、多段混合マイクロデバイスに供給される5種の流体としてプロセス流体q、r、及びuを、温度調節用(熱交換用)流体p及びtを用いているが、これらは図1及び図2において矢印で示すように外部からデバイス内に供給される。このとき、混合1段目jにおいて、流体qと流体rとが混合され(場合により両者が反応して)流体sとなり、この流体sと流体uとが混合2段目kにおいて混合され(場合により両者が反応して)流体vとなる。
【0029】
本実施形態のデバイスは10個のユニットよりなり、詳しくは円柱状形態のユニット1〜10よりなる。この組立には、流路を接続するパイプを必要とせず、各要素の周辺部分に円柱を貫通するボアを等間隔に設けてボルト/ナットでこれらの要素を一体に締結すればよい。本実施形態のマイクロデバイスにおいては、図1のII−II線断面にそって各導入流路を設けているが、さらにこれに直行する方向等に導入流路を設けてもよい。具体的にユニット2についていえば導入流路22a及び22bの他に、これに直行する導入流路を2本設け、合計4本の導入流路にしてもよい。また、上記導入流路22a及び22bに対して別の流路を4本設け、合計6本の放射状導入流路としてもよい。このように導入流路を多く設けることにより、合計流路43での流体の合流が行われやすく、均一に熱交換されるため好ましい。
【0030】
本実施形態のデバイスにおいて複数のユニットを連結して形成した「熱交換構造」についてさらに詳しく説明する。本実施形態においては、混合1段目jの熱交換構造(熱交換領域)hにおいてユニット1〜5を連結して円管状の流路23及び43を有する2重円筒流路構造を形成している。これにより流体q、r、及びsの滞留温度が制御される。また流体の滞留時間の調整は、例えば流体sの流量に応じてユニット3等を変えて、混合領域53に至る流路長あるいは流路幅を調整することにより行うことができる。さらに詳しくいうと、本実施形態のマイクロデバイスにおいては、混合領域53を有するユニット5に向かってプロセス流体qとプロセス流体rとが、それぞれユニット2の導入流路とユニット5の導入流路から供給される。そしてユニット2から導入されたプロセス流体qは、断熱材ユニット3を経て、熱交換用媒体が相対する領域hにおいて円管状の間隙流路43を通過中に流路23の熱交換用媒体pにより熱交換される。このようにして流体qは温度制御されて、ユニット5の混合領域53に供給される(本発明において、熱交換用媒体が相対するとは、熱交換用媒体が熱源となりプロセス流体に熱的に影響を及ぼす、つまりプロセス流体の加熱もしくは冷却が自然的な変化を超え進行する関係にあることをいう。)。このとき熱交換用媒体(温度調節用流体pはユニット1より供給されて、ユニット2、ユニット3を通過しながら、領域hを流れるプロセス流体qに対して作用し熱交換を行う。その後、熱交換用媒体pはユニット4の最中心部の流路13を通過し、ユニット3、ユニット2を経由して、ユニット1より排出される。このようにして、熱交換されたプロセス流体qを、ユニット5の混合領域53においてプロセス流体rと所望の温度で衝突・接触させ混合させることができる。
【0031】
このとき混合する流体どうしが相互に反応性である場合には、混合領域53においてプロセス流体qとプロセス流体rとの接触により反応がはじまり、それによって生成する流体sは反応生成物もしくはこれを含むものになる。この後、プロセス流体qとプロセス流体rとの混合流体であるプロセス流体sはユニット5で分岐し混合2段目kに送られる。そして、プロセス流体sは、断熱材ユニット6、ユニット7、断熱材ユニット8を経由し、熱交換ユニット9で、円管状の間隙からなる流路94を通過中に流路73の熱交換用媒体tにより熱交換され温度制御される。すなわち、プロセス流体sは熱交換用媒体tが相対する領域iにおいて所望の温度にされ合流領域95に供給される。
ここでプロセス流体qとrとが反応性の流体の場合、混合2段目kのマイクロチャネルを通過中に更に反応を継続して進行させることができ、例えば熱交換構造iにおいて混合1段目jとは異なる温度に調節して反応させることができる。このとき、2段逐次反応の1段目の反応において最適な反応時間になるようにユニット7とユニット9によって形成される円管状の間隙(流路94)の幅を調整する、あるいはユニット9の全長を調整して流路94から混合領域95にかけての滞留時間を変化させることができる。滞留時間を最初に設定した値より長くする場合に熱交換効率の観点からは円筒状の間隙(流路94の幅)を広くすることよりも、ユニット9の長さを変え流路94の行路長を長くするほうが好ましい。また、上述のようにプロセス流体sの反応性を制御するために、プロセス流体qとプロセス流体rの混合後の温度を保持するように熱交換媒流体tの温度を調整する、あるいは熱交換効率が高いことを利用して急激に昇温したり、冷却したりすることも可能である。
【0032】
熱交換用媒体tはユニット6より供給されて、ユニット7、ユニット8を経由して、熱交換用媒体tが相対する熱交換構造(熱交換領域)iにおいてプロセス流体sの熱交換を行う。その後、流体tはユニット9の最中心部の流路63を通過し、ユニット8、ユニット7を経由して、ユニット6より排出される。このようにして熱交換されたプロセス流体sを、ユニット10の合流領域95においてプロセス流体uと衝突・接触させ混合させることができる。混合する流体が相互に反応性である場合には、プロセス流体sとプロセス流体uとの接触により反応がはじまり、混合によって生成する流体vは反応生成物もしくはそれを含むことになる。
【0033】
ここで複数のユニットを連結して形成した熱交換構造における熱交換能力が単位時間あたりの温度変化で100K/s以上であることが好ましく、200〜2000k/sであることがより好ましい。ここで前記熱交換用媒体用チャンネルの等価直径は10mm以下が好ましく、0.01〜1mmであることがより好ましい。また、所定の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体の熱交換構造(領域h)と、その次の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体の熱交換構造(領域i)との間で、前記熱交換用媒体と相対しない前記プロセス流体の熱交換構造(領域m)の流路容積が1ml以下であることが好ましく、0.01〜0.1mlであることがより好ましい。
ここで所定の段階で複数のプロセス流体を混合した後、その次の段階で複数のプロセス流体を混合するまでの時間(部位n2からn4にまでプロセス流体が流通するのにかかる時間)を1秒以下とすることが好ましく、0.001〜0.1秒とすることがより好ましい。
【0034】
さらに本発明においては、断熱構造部をデバイス内に設け、部分的に独立して流体の温度を制御しうるようにすることが好ましい。具体的には、前記プロセス流体を供給するための流体供給ユニット(例えば前記実施形態のユニット1、6)と、前記プロセス流体が混合する流体混合ユニット(前記ユニット5、10)との間に、少なくとも一部が断熱材からなるユニット(前記ユニット3、8)を配置することが好ましい。
【0035】
以上のとおり、本発明のマイクロデバイスの好ましい実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態では、3種類のプロセス流体(q、r、u)に対して逐次2段混合の場合について記載した。ここで本発明の多段混合マイクロデバイスは2段以上の混合を行うものであればよく、必要とされる逐次混合の段数に応じてユニットを追加することで、逐次3段、逐次4段というように複雑な操作を要さず効率良く混合段数を増減することができる。すなわち、多様な混合ないし反応条件にフレキシブルに対応可能である。また、本発明のマイクロデバイスは、複数のユニットを連結してパイプレスで接続することにより、デバイス内に供給流体用マイクロチャンネルと熱交換媒体用チャンネルとを形成することで、マイクロメートルオーダーの寸法精度を維持しながら大きな熱交換伝熱面積を確保できる。さらには、流路長の変更により寸法精度、熱交換効率、流体流量を維持しながら滞留時間のみを目的に合致する値にすることができる。これにより従来困難であった精密制御を要する化学反応や、多様な条件変更を要する化合物の製造等に好適に利用することができる。
【0036】
本発明のマイクロデバイスは、流体の混合および/または反応に利用できる。また、微細流路において従来極めて困難であった流体の精密な温度制御性・滞留時間制御性を可能とし、均一な混合および反応、あるいは連続反応の場合は目的物選択性を向上させることが可能となる。このように優れた機能を有する本発明のマイクロデバイスを種々の化学プロセスに適用することができる。具体的には、化学工業や医薬品工業において流体を混合させたり反応させたりする、2種以上の流体を多段で混合するマイクロデバイスやマイクロリアクターとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】本発明の一実施形態としての逐次2段混合用マイクロデバイス(ユニット1〜5)を一部切欠して模式的に示す分解斜視図である。
【図1B】本発明の一実施形態としての逐次2段混合用マイクロデバイス(ユニット6〜10)を一部切欠して模式的に示す分解斜視図である。
【図2】図1に示したデバイスのII−II線断面を組み立てた状態で示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 ユニット
11a、11b、11c、13、21b、21c、22a、22b、23、32a、32b、43、52a、52b、52c、52d、53、61a、61b、61c、62c、62d、63、71b、71c、72c、72d、73、82c、82d、93、95、92a、92b、92c 流路(マイクロチャンネル)
17、67 円管部
28、78 円筒部
24、34、74、84 貫通孔
46、96 外壁
100 マイクロデバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱自在な複数のユニットをパイプレスで連結した、プロセス流体の多段混合を行うマイクロデバイスであって、前記複数のユニットの連結により前記デバイスの内部に前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネルと熱交換用媒体を流通させるチャンネルとをなし、かつ、前記デバイスを部分的に独立して温度制御可能としたことを特徴とする多段混合マイクロデバイス。
【請求項2】
前記複数のユニットを連結して形成した熱交換構造における熱交換能力が単位時間あたりの温度変化で100K/s以上であることを特徴とする請求項1に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項3】
所定の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体のマイクロチャンネルと、その次の段階で複数のプロセス流体を混合するときの前記熱交換用媒体と相対する前記プロセス流体のマイクロチャンネルとの間における、前記熱交換用媒体と相対しない前記プロセス流体のマイクロチャンネルの流路容積が1ml以下である請求項1又は2に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項4】
前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネル及び前記熱交換用媒体を流通させるチャンネルが、前記複数のユニットの連結によって形成された同心軸多重円筒流路で構成されており、
該同心軸多重円筒流路をなすデバイス部分が、
流路の外壁面をなす外側円管部と、その内側に配した先端が封じられた円筒部とを有し、前記外側円管部と前記円筒部とが薄片状の層流として前記プロセス流体を流通させる円管状のマイクロチャンネルをなし、
前記円筒部の更に内側に内側円管部を有し、該内側円管部と前記円筒部とが前記熱交換用媒体を流通させる円管状のチャンネルをなし、前記内側円管部の内側の空洞を通じ熱交換後の前記熱交換用媒体を排出する構造をもつ請求項1〜3のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項5】
前記プロセス流体を供給するための流体供給ユニットと、前記プロセス流体を混合する流体混合ユニットとの間に、少なくとも一部が断熱材からなるユニットを配置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項6】
前記流体供給ユニットから導入したプロセス流体の複数の流れを前記マイクロチャンネル中で合流させ、その後別に導入したプロセス流体と混合する構造を持つ請求項1〜5のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項7】
前記マイクロチャンネルの等価直径が1μm〜1000μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項8】
前記プロセス流体を流通させるマイクロチャンネルにおいて、前記熱交換用媒体と相対する部分の等価直径を1μm〜1000μmとした請求項1〜7のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項9】
所定の段階でプロセス流体を混合し、その次の段階でプロセス流体を混合するまでの時間が1秒以下となるようにしたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。
【請求項10】
少なくとも2種のプロセス流体を混合して反応させるようにした請求項1〜9のいずれか1項に記載の多段混合マイクロデバイス。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−39699(P2009−39699A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210487(P2007−210487)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発・省エネルギー技術開発プログラム「革新的マイクロ反応場利用部材技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願」)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】