説明

多目的ベッド装置

【課題】1台で複数の使用形態に対応することができる多目的ベッド装置を提供する。
【解決手段】健常者用として或いは被介護者用として多目的な用途に使用可能なベッド装置について、左右の側枠12、13及びそれらを結合する前後の結合部材14を有し、被介護者、装備及び付属品を含む全荷重を負担する構造強度を有するベッド本体11と、被介護者の上半身側に位置して、上記上半身側を起こすか、或いは持ち上げるように前後複数点で支持された上部可動床21及びその駆動手段と、被介護者の下半身側に位置して、上記下半身側を起こすとともに持ち上げるように前後複数点で支持された下部可動床37及びその駆動手段とを具備して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療、養生中の者における看護用の機能、要介護者における介護用の機能、さらには健常者における身体ケアやリハビリテーション用の機能等を備えた多目的ベッド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
けがや病気で療養中の患者に対する看護であるとか、要介護者或いは被介護者などと呼ばれる人たちは(以下、被介護者と略称する。)、ベッド上での生活時間が長く、いわゆるケアのための介護活動は必然的にベッド上での生活状態において行われることが多い。このためより快適な生活のために、また、看護や介護を行う看護師や介護福祉士(以下、看護師等と略称する。)などの負担を少なくするためにも、例えば上半身を起こした状態に支える構造や、ベッドに寝たままでの排便を可能にした構造など、便利な構造、機能を備えたベッドが考案され、使用されていることは周知のとおりである。
【0003】
本件の発明者は、療養生活の経験を活かして様々な形態のベッド装置を開発しており、その成果の一部に付いて、逐次提案してきた。例えば、特開2003−79694号は、ベッド上でのシャワーを可能にした装置であり、特開2009−72321号はベッド上での排泄をさらに容易にした装置である。また、特開2009−82388号は、ベッド上での排泄に加えて身体の洗浄を可能にしたものである。これらの発明を実施した製品は好評をもって迎えられている。
【0004】
しかしながら、看護用と介護用のベッドには共通する目的があるにもかかわらず、看護師や介護福祉士の要求が相違することなどから構造の異なる点も多く、そのため使い勝手が微妙に異なり、戸惑うことがあるという問題があった。共通する目的に対して、共通する構造を備えたベッドであれば、1台のベッドで複数の使用形態にこたえることができるというものは見当たらない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−79694号
【特許文献2】特開2009−72321号
【特許文献3】特開2009−82388号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、1台のベッドで複数の使用形態に対応することができる多目的ベッド装置を提供することである。また、本発明の他の課題は、多目的ベッド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するための手段として、本発明は、健常者用として或いは被介護者用として多目的な用途に使用可能なベッド装置について、左右の側枠及びそれらを結合する前後の結合部材を有し、被介護者、装備及び付属品を含む全荷重を負担する構造強度を有するベッド本体と、被介護者の上半身側に位置して、上記上半身側を起こすか、或いは持ち上げるように前後複数点で支持された上部可動床及びその駆動手段と、被介護者の下半身側に位置して、上記下半身側を起こすとともに持ち上げるように前後複数点で支持された下部可動床及びその駆動手段とを具備しているものである。
【0008】
本発明の装置は、1台のベッドで、被介護者用として或いは健常者用として多目的な用途に使用可能なベッド装置である。そのために、被介護者の上半身側に位置して、上半身側を起こすか、或いは持ち上げるように前後複数点で支持された上部可動床を備えているとともに、被介護者の下半身側に位置して、上記下半身側を起こすとともに持ち上げるように前後複数点で支持された下部可動床を備えている。これによって、ベッド上における生活に必要な姿勢を、被介護者が取りやすいように企図しているものである。
【0009】
上部可動床は左右の床枠を有し、それらの間に回転可能に左右方向のローラーを、間にわずかな間隙を設けて密に配列して構成され、下部可動床は、左右の床枠を有し、それらの間に、前後方向の帯板状部材を複数個左右に間隔を設けて配置して構成されていることが望ましい。ローラーによって、被介護者を例えば洗髪に便宜な位置へ移動させたり、頭部の高さを調節したりすることが容易になる。また、左右方向のローラーと前後方向の帯板状部材は、シャワー作業における水処理のために有益である。
【0010】
上部可動床の駆動手段は、ベッド本体に前部にて軸支されたリンクアームと、リンクアームの後端部に自体の後端部にて軸支された上記の上部可動床と、上部可動床を前部にて支える回転アームと、上記リンクアームにその軸支点の近傍にて軸支された昇降アームを有し、上記回転アームと昇降アームは1基の駆動機構によって駆動されていることが望ましい。上記の構成は、上部駆動床を傾斜させることと、傾斜させることなく上昇させることを、容易に行えるようにする一つの有効な手段である。
【0011】
下部可動床は、中間のヒンジ部分において接続された前後2部分からなり、上記前後の部分は折り曲げ可能に設けられ、前後の部分を個別的に昇降操作するための昇降機構を駆動手段として備えていることが望ましい。この構成によって、腰を下から支えることと。支えるのを弱めることが選択できるようになり、鬱血の防止や床擦れの軽減、血流の亢進等の改善を図ることができる。
【0012】
ベッド本体は、その左右の側枠の少なくとも前端部に、前枠を取り外し可能に設けた構成とすることができる。前枠を取り外し可能としたことによって、洗髪作業の際などに、被介護者の頭部のすぐ下に洗髪ワゴンなどを配置することが可能になる(その際、被介護者は上部可動床のローラーによって、頭部がベッド本体の前端部よりも外へ出るように、その位置を移動させているものとする)。使用時、被介護者等は上部可動床及び下部可動床の上に横たわることになるが、その際、直に横たわることもできるし、また、マット類を敷いて横たわっても良い。
【0013】
本発明の多目的ベッド装置における特徴の一つには、ベッドを使用する向きとして、枕側(前部)と足側(後部)とを厳密に規定せずに、自由に決めることができるという点がある。従って、本発明において前部イコール上半身側イコール枕側、或いは後部イコール下半身側イコール足側というのは、飽くまでも標準となる使用方法における位置関係のことであり、或いは説明の便宜上のことである。上記の特徴によって、本発明においては、標準的使用時に上半身に加えられる動きを、体勢を反転して下半身に加えることができ、また逆に、標準的使用時に下半身に加えられる動きを、体勢を反転して上半身に加えることができるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、1台のベッドで健常者用として或いは被介護者用として、複数の使用形態に対応することができ、多目的な用途に使用可能なベッド装置を提供することができるという効果を奏する。また、本発明の多目的ベッド装置によれば、主としてベッド上を生活の場とする被介護者における、飲食等の日常生活、腰を伸ばしたり浮かしたりする運動や、脚部の上下運動などを含むリハビリテーションの実施、排泄処理、尻部のみの洗浄、洗髪ないし身体全体の洗浄、血流の亢進、鬱血や浮腫の防止、床ずれの予防、さらにはベッドに寝たままで手足を伸ばすことによる爽快感等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明に係る多目的ベッド装置10の一例を示す正面図であり、11はベッド本体を示している。このベッド本体11は床方向に伸びた左右の側枠12、13と、これらを結合する結合部材14を複数個と、ベッドを支えるためにその四隅に相当する側枠12、13の前後の端部に設けた脚柱部分15、16、15′、16′とを有しており、上記結合部材14は少なくとも前後2か所に設けられている(図2及び図3参照)。また、それらの間には後述する上部可動床21の駆動機構20が配置されているので、図示されていないがその取り付け構造部分も左右の側枠12、13を結合する役割を負担している。
【0016】
前部脚柱部分15、15′と後部脚柱部分16、16′には、前枠17と後枠18とがそれぞれの下部を上方から差し込むことによって、着脱可能に取り付けられている。上記前枠17と後枠18は同形同大のもので、前後の区別をなくしており、また、濡れたタオルなどを掛けて干す目的で通気性の良い柵状に設けられている。さらに、取り外せることによってベッド側方でなく前後方向からのストレッチャーへの乗り降りを可能とし、かつ洗髪等の便宜を図っている。19はキャスターとして図示した車輪であり、全ての脚柱部分15、16、15′、16′の下部に設けられており、ブレーキ又はストッパーを備えている。しかし、車輪19はこれを取り外してパッド状の部材と交換可能(図示せず)として、移動型から据え置き型のベッドに変換することもできる。
【0017】
上記のような構成を有するベッド本体11には、床を形成する部分として、主として上半身側に位置する上部可動床21と、主として下半身側に位置する下部可動床37が配置されている。上部可動床21は左右の床枠21l、21rを有し、それらの間に回転可能に左右方向のローラー22を、間にわずかな間隙を設けて密に配列したもので、上部可動床後部23を軸支点として回転させることで前部の上下動が可能になっており、かつまた、側枠12、13の上には、リンクアーム25が、アーム前部24を軸支点として後部を上下動可能に取り付けられており、このリンクアーム25はその後端部にて上部可動床21の後端部に軸支されている(図2参照)。上記ローラー22は中央部22aが小径に形成され、被介護者の背中に脊柱の出っ張りが顕著な場合、それを受容して抵触するのを回避できるようになっている。なお、リンクアーム25は上部可動床21よりも短く設定されている。
【0018】
上部可動床21の駆動機構20は、動力源26である電動機と、その回転出力を減速する減速機27とを有しており、従って電動機による駆動手段として構成されている。減速機27は、多段減速機構によって上記回転出力を減速するとともに強力なトルクを得て、上部可動床21を押し上げる構成を有している。図4の例における減速機27はaからjから成る10段の減速ギヤを有し、例えば1500rpmの上記回転出力を約6rpmに減速するものである。図4に示したa〜jはギヤを示しており、実線で囲まれている部分は一体であって、例えばaとjは1個のギヤ、bないしh及びiは大小2個のギヤが一体になっているものを表している。また、一方の軸28にはギヤaが固定されているが、それ以外のギヤc、e、g、i及び他方の軸29のギヤb、d、f、h、jは固定されておらず、軸28、29に対して空転する構成である。ギヤdと噛み合うギヤlは高速中トルクの回転(例えば減速比8:1程度)を取り出し、ギヤhと噛み合うギヤmは低速超大トルクの回転(例えば減速比128:1程度)を取り出すもので、上記ギヤkはその中間の大トルクの回転(例えば減速比32:1程度)を取り出す設定である。上記の減速比は例示であり、モーター出力及び電力等によって変わるべきものである。なお、軸28には手動操作のための回転ハンドル30が取り付けられている。
【0019】
減速機27の出力は適当なギヤ段において、ギヤkによって取り出され、リンクアーム25を昇降させるために使われる。すなわち、ギヤkにはその側面にピン31が植設されており、リンクアーム25には上端32にて軸支された昇降アーム33が吊り下げられ、下端の係合部34にてピン31に係合可能に設けられている。なお、昇降アーム33は、図示されていない不正手段によって上記係合方向へ付勢されている。また、減速機27の出力は、上部可動床昇降用の回転アーム35を昇降させるためにも使用される。回転アーム35は減速機27の最終段のギヤiに基部にて取り付けられており、先端部に取り付けられたローラー36によって上部可動床21を下面にて支えている。
【0020】
下半身側に位置する下部可動床37は、左右の床枠37l、37rを有し、それらの間に、前後方向の帯板状部材38dを複数個左右に間隔を設けて配置し、中間のヒンジ部分38cにおいて接続された前後2部分から成り、前後の部分38A、38Bを折り曲げ可能に設けられている。前部分38Aは大腿部分を受け持ち、後部分38Bは膝から下の部分を受け持ち、前端部39にて、左右の床枠37l、37rに軸支されている。
【0021】
下部可動床37は、図2及び図5に示されているように、前後の部分38A、38Bを個別的に昇降操作するための昇降機構40A、40Bを駆動手段として具備している。各昇降機構40A、40Bは、側枠12に軸41、42によって取り付けた押し上げレバー43、44とその操作のための押し上げハンドル45、46を備えており、各押し上げレバー43、44は小ロール43a、44aによって前後の部分38A、38Bの下面に接している。なお、下部可動床37は、洗浄の容易な、すのこ状の構造を有している。
【0022】
図中、47l、47rは主として上半身側に対する前部落下防止柵、48l、48rは主として下半身側に対する後部落下防止柵で、上部可動床21は左右の床枠21l、21rと、下部可動床37の左右の床枠37l、37rに、それぞれ上方から差し込んで着脱可能に設けられている。これらの前部落下防止柵47l、47r、48l、48rは被介護者の腕を左右へ伸ばせるように、腕伸ばし空所を下部に有している。そして、ベッド本体11の前部及び後部には着脱式枕50を取り付ける枕脚差し込み口49が形成されており、また、前枠17を取り外して洗髪ワゴン51を枕元まで進入できるように構成されている。52は排便容器部であり、下部可動床37の下に配置して使用する。
【0023】
次に、このように構成された本発明の多目的ベッド装置10の作用に付いて説明する。なお、図6以下の各図において、本発明の多目的ベッド装置10とその使用者との間にはマットもクッションも何も敷いていないが、これは説明の便宜上記載していないだけで、必要に応じてシートやマット、クッション等をマット類として使用できることは、前にも触れたとおりである。マット類は、ベッド本体の側枠部分の立ち上がりと、着脱式枕又はそれに替わるストッパー、また、下部可動床37の後部分38Bに設けられているストッパー38dで、左右と前後の外れ止めがなされる。
【0024】
ここでマット類の形態について説明を補足すると、マット類は1枚構造のものよりも、複数枚に分割されたものを用いる方が良く、その例は図17に示されている。マット類は使用により部分的にへたりを生じて快適性を損なわれるが、分割式とすることでへたりを生じたマット部分のみ交換し、快適性を維持することができる。身体とマット類の位置ずれを修正するときには、寝返り体勢にして分割部分を左右どちらか半分ずつ動かすことで行い、また、日常の排泄や、シャワー洗浄、洗髪などのときには、該当箇所のマット部分のみ取り外して行うことができる。図17のAは上下左右の4分割構造のマット類53、BはAの上下をさらに2分割した8分割構造のマット類54、Cは上下方向にのみ6分割した構造のマット類55を示すもので、これらのマット類53、54、55は厚さ数センチ程度のスポンジ製が最良である。スポンジの硬度についてはソフトなものからハードなものを用意しておくことが望ましく、目的によってはいわゆる綿(わた)の入った布団型のものも使用することが可能である。何れのマット類も各マット部分はばらばらで接続していなくても良い。
【0025】
図6は、上部可動床21及び下部可動床37の何れもほぼ水平、かつ同一平面の、通常の寝姿勢であり、要介護者、健常人の区別はない。仮に脊柱の出っ張りが顕著な被介護者等Pが仰向けの姿勢を取った場合であっても、多数のローラー22の中央部22aのへこみによって出っ張りが受容されるので、圧迫も苦痛も感じずに済む。また、被介護者等Pの上半身の体重は多数のローラー22に分散して受け支えられ、脊柱の両側に連結している肋骨の付け根に適度の指圧効果として加わり、血流の亢進を促す。図6の状態は排泄後の下半身の洗浄を行う際の作業姿勢でもある。
【0026】
図7は、昇降アーム33と回転アーム35の作動により、上部可動床21をほぼ水平のままやや上昇させ、後部昇降機構40Bの作動により下部可動床37の後部を上昇させることで、尻下部から大腿裏面ないしふくらはぎ裏までの間に空間Sを形成しやすくする。これによって上記部分における下半身の筋肉を圧迫から解放するので、特に、被介護者等Pが要介護者の場合は尻下部と床部上面との間に空間を形成しやすくなり、おしめの脱着交換作業等を容易に実施できるようにする。
【0027】
図8は、回転アーム35の作動により、上部可動床21を、前部を比較的浅い角度に上昇させて被介護者等Pの上半身をやや起こし気味にし、下部可動床37は図6のままにしたもので、快適な寝姿勢が得られることを目的としている。上部可動床21が浅い傾斜で立ち上がる態勢であり、腹部に力を入れ易いので、被介護者Pが排泄を行う姿勢としても好適であるとともに、その後の洗浄や拭き取り作業にも適している。上部可動床21をさらに立ち上げれば、被介護者Pは椅子に座ったような姿勢になり、飲食に適した使用状態になる。
【0028】
図9は、上部可動床21と下部可動床37の後の部分38Bを少しばかり上昇させて、ほぼ水平、かつ同一平面にするとともに、下部可動床37の前の部分38Aは前部昇降機構40Aの作動により前傾状態として、尻部の出っ張りを受容するへこみを作り体重圧迫から回避するものである。これによって、腰(骨盤)の負担を軽減し、疲労回復及び腰痛の軽減ないし防止を期待できる。さらに、寝姿勢がほぼ水平で足先が尻部よりも押し上げられたことで、下半身の血流の亢進が促される。上記の作用は被介護者にとってもほぼ同様に期待することができる。
【0029】
図10は、図9の状態から、上部可動床21の前部を浅い角度に上昇させて被介護者等Pの上半身をやや起こし気味にしたもので、尻部や腰部に対する体重の圧迫を回避して、安らぎを得ることができる姿勢である。特に、被介護者Pにおいては、へこんだ状態にある下部可動床37の前の部分38Aによって、体重圧迫がなくなるか、著しく軽減されるので、健常者における場合と全く同様の快適性が得られる。
【0030】
図11は、図10の状態から、上部可動床21を、前部が浅い角度に下降するようにして被介護者等Pの上半身をやや反らせ気味にしたもので、腰(骨盤)のS字状曲線部分を背後から押し上げ、腰部に対して反り伸ばす姿勢が得られる。これによって、腰痛の軽減ないし防止を期待でき、上半身の血流循環促進効果とともに、背中や骨盤伸ばしによる、快適性を得ることができる。この状態において、敷きマット類を使用せず、背中をローラー22上でずらし、位置を変えることで背中の筋肉のもみほぐし効果と、血流の亢進効果を得ることができる。特に、寝たきりの被介護者等Pの場合、全身の筋肉を柔軟にするのに最適である。
【0031】
図12は、図6と同じ状態であり、健常人については特に必要というわけではないが、マットを取り外して、多数のローラー22により背中の筋肉に対する指圧効果が得られ、うっ血防止や疲労回復を期待することができる。しかし、被介護者等Pにとっては、この姿勢のままで洗髪ワゴン51を枕際に配置し、洗髪サービスを受けることができる。すなわち、ベッド本体11の前枠17を取り外し、被介護者等Pは枕50に頚部背面を載せて支えているので、看護師等は被介護者等Pの頭の重さを支える必要はなく、被介護者等Pの身体をローラー22によって適切な位置に配置した後は、自分の作業位置と姿勢を確保しながら、十分に洗髪に従事することができる。よって、ほとんど何の制限も受けずに、洗髪を行うことができるが、このようなことは従来のベッド上の生活者においては、期待することすらかなわないというのが状況であった。
【0032】
図13は、前部が頭部になる、図6に示した通常の使用方法における寝姿勢に対して、後部に頭部が来るようにした寝姿勢であり、背中に感じる上部可動床21のローラー22から与えられる接触感覚と、下部可動床37の前後の部分38A、38Bの、すのこ形状から与えられる接触感覚の違いから、新たな気分を得ることができる。この前後逆位置利用の状態においても、ベッド本体11の後枠18を取り外し、被介護者等Pは枕50に頚部背面を載せて支えるとともに、洗髪ワゴン51を配置して、図12のときと同じように洗髪を行うことができ、また、全身に対するシャワー洗浄も可能である。
【0033】
図14は、前後逆利用に状態においても、脚部や要部、背部などに対する上昇と下降ないしは角度の変化などあらゆる作動が全く同じように行えることを示したものである。図14において、背中は下部可動床37によって、通常の寝姿勢のままほぼ平行に持ち上げられており、図6から図12までの使用方法では得ることのできない姿勢を体験することができる。
【0034】
図15は、下部可動床37の前の部分38Aの前部を下げるとともに、後の部分38Bを上げて、被介護者等Pの腰部を落とした姿勢とし、さらに上部可動床21を傾斜させて脚部をこれまでの例よりも大きく持ち上げられるようにしたもので、脚部全体の鬱血状態を緩和することができる。健常人にとっても脚部の疲労回復に効果があるが、血流が頭部に下がる傾向となるので、このことに留意した監督が必要である。
【0035】
さらに、本発明の多目的ベッド装置においては、ベッド本体11を傾斜させることが可能であり、これと上記の作動が組み合わされることによって、より変化に富んだ作動を作り出すことができる。図16はその一例を示しており、回転アーム35を前記とは逆の反時計方向へ回転させてローラー36を床Fに押し付け、ベッド本体11の前部を押し上げた状態を示している。これによって、身体全体が頭部から足元まで同じ角度に傾斜した姿勢を取ることができるので(このとき、車輪19をブレーキ又はストッパーによって固定しておくことは言うまでもない)、例えば低血圧症の者に起こりがちな立ちくらみの防止に効果的である。以上の操作は、コントローラー56によって自動的に行うことができ、また、ハンドル30によって手動的にも操作し得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る多目的ベッド装置の一例を示す斜視図である。
【図2】同上の装置の機械的構成を示す側面説明図である。
【図3】同上における平面図である。
【図4】同じく上部可動床に対する駆動手段の一例を示す平面図である。
【図5】同じく下部可動床の昇降機構の一例を示す側面説明図である。
【図6】本発明の装置の使用状態で、仰向けに寝た姿勢を示す説明図である。
【図7】同じく下部可動床の作動を示す説明図である。
【図8】同じく上部可動床の作動を示す説明図である。
【図9】同じく上部駆動床と下部可動床の作動を示す説明図である。
【図10】同じく上部可動床と下部可動床の作動を示す説明図である。
【図11】同じく上部可動床と下部可動床の作動を示す説明図である。
【図12】同じく被介護者を前部方向へ移動させた状態を示す説明図である。
【図13】同じくベッドを使用する被介護者の向きを前後逆にした使用状態で、仰向けに寝た姿勢を示す説明図である。
【図14】同上における下部可動床の作動を示す説明図である。
【図15】同じく上部可動床と下部可動床の作動を示す説明図である。
【図16】同じく本発明に係る多目的ベッド装置の作動を示す説明図である。
【図17】同じく分割式のマット類の例を示すもので、Aは4分割式の、Bは8分割式の、Cは6分割式の各平面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 多目的ベッド装置
11 ベッド本体
12、13 左右の側枠
14 結合部材
15、15′、16、16′ 前後の脚柱部分
17 前枠
18 後枠
19 車輪
20 上部可動床の駆動機構
21 上部可動床
22、36 ローラー
23 上部可動床の後部
24 アーム前部
25 リンクアーム
26 動力源
27 減速機
28、29、41、42 軸
30 ハンドル
31 ピン
32 上端
33 昇降アーム
34 係合部
35 回転アーム
37 下部可動床
38A、38B 下部可動床の前部分、後部分
39 前端部
40A、40B 昇降機構
43、44 押し上げレバー
45、46 ハンドル
47l、47r 前部落下防止柵
48l、48r 後部落下防止柵
49 枕脚差し込み口
50 着脱式枕
51 洗髪ワゴン
52 排便容器部
53、54、55 マット類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常者用として或いは被介護者用として多目的の用途に使用可能なベッド装置であって、左右の側枠及びそれらを結合する前後の結合部材を有し、被介護者、装備及び付属品を含む全荷重を負担する構造強度を有するベッド本体と、被介護者の上半身側に位置して、上記上半身側を起こすか、或いは持ち上げるように前後複数点で支持された上部可動床及びその駆動手段と、被介護者の下半身側に位置して、上記下半身側を起こすとともに持ち上げるように前後複数点で支持された下部可動床及びその駆動手段とを具備して構成された多目的ベッド装置。
【請求項2】
上部可動床は左右の床枠を有し、それらの間に回転可能に左右方向のローラーを、間にわずかな間隙を設けて密に配列して構成され、下部可動床は、左右の床枠を有し、それらの間に、前後方向の帯板状部材を複数個左右に間隔を設けて配置して構成されている請求項1記載の多目的ベッド装置。
【請求項3】
上部可動床の駆動手段は、ベッド本体に前部にて軸支されたリンクアームと、リンクアームの後端部に自体の後端部にて軸支された上記の上部可動床と、上部可動床を前部にて支える回転アームと、上記リンクアームにその軸支点の近傍にて軸支された昇降アームを有し、上記回転アームと昇降アームは1基の駆動機構によって駆動されている請求項1記載の多目的ベッド装置。
【請求項4】
下部可動床は、中間のヒンジ部分において接続された前後2部分からなり、上記前後の部分は折り曲げ可能に設けられ、前後の部分を個別的に昇降操作するための昇降機構を駆動手段として備えている請求項1記載の多目的ベッド装置。
【請求項5】
ベッド本体は、その左右の側枠の少なくとも前端部に、前枠を取り外し可能に設けた構成を有している請求項1記載の多目的ベッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−125484(P2011−125484A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286379(P2009−286379)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(391028764)
【出願人】(397072569)
【Fターム(参考)】