説明

多相ナノ複合材料及びその製造方法

電気化学的電極又は触媒として有用な多相複合材料は、電気化学的に活性なアモルファス材料である第1活性相;及び金属、カーボン、セラミックス、及び金属間化合物の1つ以上を含む第2安定化相を含む。安定化相は、その間に配置された活性相を有する複数の離間領域として構成される。活性相は、Sn、Sb、Bi、Pb、Ag、In、Si、Ge、及びAlの1つ以上を含んでもよい。安定化相は、Fe、Zr、Ti、及びCの1つ以上を含んでもよい。また、さらに前記材料を含む電極及び電池も開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
本件特許出願は2003年1月17日に出願した発明の名称「多相ナノ複合材料及びその製造方法」の米国仮特許出願番号60/440,675の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に合成材料に関する。より詳細には、本発明は、電気化学的に活性なアモルファス材料が分散した安定化相(stabilizer phase)の離間領域を有する多相ナノ複合材料に関する。また、本発明は、これらの材料を含む電極、特に再充電可能なリチウム電池のアノードに関する。
【0003】
(発明の背景)
電気化学的に活性な材料は、電池システムが充電又は放電する場合に生じる反応のような電気化学的反応又は化学種が電極表面で酸化又は還元される場合に生じる反応を促進及び維持するために機能する。同様に、電気化学的に活性な材料は、外部から加えられた電流の存在下で、又は前記電流の非存在下で、電子が反応種の間で交換される化学反応を促進する触媒として機能できる。電気化学的に活性な材料は、電池用電極、燃料電池用電極、電気化学センサー、触媒などとして有用である。本発明は、電気化学的に活性である新しい種類のナノ複合材料に向けられている。以下でさらに詳細に説明されるように、本発明の材料は、電池用電極、特にリチウム電池システム用の電極として非常に有用である。本発明の材料は非常に高い効率を示す。さらに、使用時に優れた化学的及び機械的安定性を示す。本発明の材料は相対的に低コストである。さらに、本発明は、ナノ複合材料を製造するための特別な方法を提供する。これらの方法はコストを著しく下げ、大量のナノ複合材料を製造するために容易にスケールアップ可能である。
本発明のこれらの、及び他の利点は添付図面及び以下の詳細な説明によって明らかとなるであろう。
【0004】
(発明の簡単な説明)
本明細書において、電気化学的に活性なアモルファス材料である第1活性相、及び金属、カーボン、セラミックス、金属間化合物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む第2安定化相を含む多相複合材料が開示される。安定化相は、その間に配置された活性相を有する複数の離間領域として構成される。本発明の特定の実施態様において、活性相は、重量ベースで、材料の30〜60%を構成し、この活性相は、Sn、Sb、Bi、Pb、Ag、In、Si、Ge、及びAlの1つ以上を含んでもよい。特定の実施態様において、活性相は、その中に電気化学的に活性な材料のナノ相ドメインを含む。
いくつかの実施態様において、安定化相は、Fe、Zr、Ti及びCからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む。特定の実施態様において、安定化相は、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物、及びこれらの組合せの1つ以上を含んでもよい。安定化相は、アモルファス又は結晶であってもよく、電気化学的に活性又は不活性であってもよい。
また、本明細書において、メカニカルアロイング法の使用による複合材料の作製方法が開示される。これらの方法としては、ボールミリング法、アトライターミリング法又は他のグラインディング法などが挙げられる。
また、本明細書において、複合材料から作製された電極及び電池が開示される。
【0005】
(発明の詳細な説明)
本発明は、電気化学的に活性な、かつ、電極材料として有用であるナノ複合材料に関する。特に、本発明の材料は、リチウム電池用の電極材料として有利に使用できる。本発明の材料は、また他の化学的及び電気化学的デバイスに関して使用する場合、触媒材料として有用である。リチウム電池用の電極として使用する場合、本発明の材料は高い電荷保持を示し、使用時に非常に安定である。
本発明の複合材料は、その中に安定化材料を分散することによって安定化された新しいクラスの電気化学的に活性なアモルファス材料を含む。この開示の脈絡の中で、電気化学的に活性な材料は、リチウム電池の電極の成分として使用される場合、電池が充電及び放電されるときにリチウムの可逆的な蓄電及び放電を示す材料であると理解される。この開示の脈絡の中で、アモルファス材料は、長距離秩序に欠けている材料であると理解されるが、アモルファス材料は、短又は中距離秩序を有してもよく、又は時には結晶性含有物すら含んでいてもよい。
【0006】
本発明の材料において、電気化学的に活性なアモルファス材料は、それゆえ分散される安定化相によって安定化される。安定化相は、充電及び放電サイクルを通じてアモルファス材料を安定化するのに役立ち、その結果その電荷蓄積容量を保持する。推測によって束縛されることを望まないが、本発明者らは、前記安定化は安定化材料の表面と電気化学的に活性な材料との間の界面効果の結果であると推定する。この効果は、電気的、化学的又は熱力学的であってもよい。安定化材料は、また物理的効果によって機能してもよい。例えば、安定化材料は、充電及び放電サイクルの際に電気化学的に活性な材料の膨張及び収縮を調整し、又はそれに適合させてもよく、又はリチウムが材料のバルクを通ることができるパスを提供してもよい。
好ましい群の材料において、前記材料の電気化学的に活性な相は、重量ベースで、バルク材料の約30〜60%を構成する。前記材料の電気化学的に活性なアモルファス成分は、典型的にはSn、Sb、Bi、Pb、Ag、In、Si、Ge及びAlの1つ以上を含む。1つの実施態様において、電気化学的に活性なアモルファス材料はSn、Si及び/又はAlをベースとする。この材料はさらに他の元素(それ自体は電気化学的に不活性な元素を含む)を含んでもよいが、それが電気化学的な活性を維持することを条件とする。そのような他の元素は、アモルファス材料の融点を調整するため、そのアモルファス性を維持するのを助けるため、又はその特性を他の方法により抑制するために機能できる。ジルコニウムは、錫又はシリコンベースのアモルファス相の性能を改善する元素の1つの例である。ジルコニウムはアモルファス材料のガラス形成成分であることが知られており、錫の融点を高くする。
【0007】
安定化材料は、離れた領域でアモルファス材料全体にわたって分散され、この安定化材料は、一般にセラミックス、金属、カーボン及び金属間化合物のような金属化合物の1つ以上を含む。安定化材料は、本明細書に定義したように、通常電気化学的に不活性であるが、ある場合には、安定化材料は、それが組み込まれた電池又は他のデバイスの機能にある程度電気化学的に寄与してもよい。典型的には、安定化材料は結晶性であるが、ある場合には、アモルファスであってもよく、又はアモルファス材料と結晶性材料との組み合わせであってもよい。安定化材料として有用であるいくつかのセラミック材料は、金属炭化物、酸炭化物、ホウ化物、酸ホウ化物、窒化物及び酸窒化物を含む。ある場合には、安定化材料は、部分的に、電気化学的に活性なアモルファス成分を含む材料から誘導されてもよい。例えば、FeSn2のような鉄と錫の化合物は、電気化学的に不活性であり、錫ベースの電気化学的に活性なアモルファス種についての安定化材料として機能できる。Zrは同様に機能することが分かっている。安定化材料の他の成分はTi、C及びBを含んでもよい。
X線回折分析に基づくと、安定化材料の領域のミクロ構造は、結晶性の程度が低いナノ相ドメインによって特徴付けられる金属マトリックス複合材料として記載できるのが最もよいように見える。これらの領域の平均微結晶サイズは約10〜30nmである。活性相は、微結晶で囲まれた多成分金属ガラス又はアモルファス合金マトリックスであるように見える。
【0008】
前記材料がリチウム電池用の電極として使用される場合、その作用機序はLixM(式中、M=Si、Sn、Al又は電気化学的に活性なアモルファス材料のいくつかの他の成分であり、xは1よりも大きい)の形成に基づいてリチウムの可逆的な蓄積を含むと考えられる。ある場合においては、xは約4.4であると決定されている。電気化学的に活性なアモルファス材料は、非常に小さな短距離秩序の活性成分Mのナノ相ドメインを含んでもよい。さらに、アモルファスマトリックスの膨張特性は、それによってナノ相ドメインにおける成分Mと合金を作ることができるLiの通過を促進する。推測によって束縛されることを望まないが、本発明者らは、このメカニズムが安定でないバルク材料から作製される電極と比較してこれらの材料から作製される電極によって示される非常に急激な充電及び放電挙動の原因であるかもしれないと推測する。また、アモルファス領域における高い不規則性は、サイクル中材料を安定化して活性成分Mの凝集(これは効率の損失を生じ得る)を最小化すると考えられる。
【0009】
本発明の材料は、その特定のナノ構造を提供できる方法によって製造してもよい。蒸発、スパッタリング、化学気相蒸着法などのような蒸着法及びアロイング、融解紡糸及びプラズマ溶射法のような熱プロセスが本発明の材料を製造するために使用してもよいと考えられるが、製造方法の1つの好ましい群はメカニカルアロイング法を含む。メカニカルアロイング法は、運動エネルギーを使用して本発明のナノ構造材料の形成を生じる粒子間相互作用を引き起こす。メカニカルアロイング法は、実施及び制御が比較的容易であり、低コストであり、生産量のスケールアップが容易である。したがって、前記方法は本発明で使用するのに特に有利である。
典型的なメカニカルアロイング法において、元素材料、合金、混合物、化合物などの形態の材料の成分は、材料の構造的特長を生成する粒子間相互作用を引き起こし、かつ、合金、金属間化合物、ガラス材料などの形成を引き起こす高入力レベルの運動エネルギーを受ける。中でも、本発明で使用してもよい好ましいメカニカルアロイング法は、グラインディング法であり、材料はグラインダーブレード又は他のそのような媒体との接触の結果高レベルのせん断力及び圧力を受ける。ボールミリングは、グラインディングの1つのタイプであり、材料はセラミック又は硬化金属のような非常に硬い材料のボール又はペレットを含むミリング媒体と一緒に硬い密封可能な容器に入れられる。密封容器を回転(rotated or tumbled)させて、充填された材料をミリング媒体及び/又は容器の壁に衝突させる。ミリングの程度は、容器を回転させるスピード、容器内のミリング媒体のサイズ、性質及び容量、及びミリング方法の所要時間をコントロールすることによって調整される。アトライターミルは、本発明に有用であるボールミルの1つの特定の態様である。アトライターミルにおいて、ローターはミリング容器内に伸び、ミリング媒体を回転及び攪拌するのに役立つ。ローターは非常に高速で回転でき、ミリングされる材料にかなりの運動エネルギーを与えることができる。
【0010】
(実施例)
(実施例1)
第1の実験系において、組成Sn4Zr2Fe4(CV)5を有する本発明の多相ナノ複合材料を、材料のすべての成分を同時に加工するボールミリング法によって調製した。この方法を複数回実施し、どの場合にも10gバッチの出発材料を3.97gのSn(Cerac, -325mesh)、1.526gのZr(Cerac, 3-5mesh)、1.896gのFe(Cerac, -325mesh)及び26.9gのVC(Cerac, -325mesh)から調製した。これらの材料をAr充填グローブボックス内で十分に混合して均一な色及び組織とし、その後硬化鋼バイアルにアルミナミリングボールと一緒に充填した。ボールと材料の質量比は約1.5〜2:1の範囲であり、ボールは直径12mm又は6mmのいずれかであってもよいことが見出されている。バイアルキャップをバイアルに載せ、手で硬く閉め、その後バイアルをグローブボックスから取り出し、上述のタイプのボールミルのクランプに挿入した。ミルを10時間、連続的に行い、ミリングの完了によって、バイアルをグローブボックスに戻して開封した。戻した材料を篩にかけて106μm未満にし、前記方法の典型的な収量は一般に7〜9gの範囲である。得られた生成物は、実施例1に記載される10gバッチで生成されたSn4Zr2Fe4(VC)5材料のX線回折パターンを含む図1に示されるFeSn2及びV87部分の存在と一致するX線回折ピークを示す結晶性の低い多相材料として特徴付けられる。図1における材料を特定するために使用される表記は化合物を参照しないが、化合物の各成分のモル含量を参照する。
前記方法を、さらに2gバッチについて繰り返し、同様の結果を得た。2gの実施において、7:1のボール:材料比を用い、ミリング時間は3〜5時間のオーダーであった。
【0011】
(実施例2)
前記実施例において、組成の全成分を一度にミルに充填したが、種々の成分を段階的に組み込むことができた。それ自体は不活性なアモルファス又は結晶性合金を、活性成分の添加前に形成してもよい。そのようは方法は、FeSn2のような不活性な合金における活性相の消費量/溶解性を最小限にする利点を有する。例えば、予想されているように、Sn又はSiの添加前に、Zr及びFeを一緒にミリングしてFeZr2又はFe2Zrのような合金を形成することができた。このコンセプトの延長は、Fe、Zr及びVCを含むことであり、活性成分を加える前に不活性複合材料を形成する。活性成分を添加して、材料をさらにミリングすると所望のナノ複合構造が得られる。おそらく、工程間で、例えばグローブボックスの使用によって空気への曝露を最小限にするようにサンプルを処理する。
【0012】
(実施例3)
この実施例は成分置換の段階的なアロイングを参照し、この実施例において、実施例2のように、材料の出発成分を異なった時間で加えて得られる生成物のミクロ構造をコントロールできる。この実施例は、最初のミリング段階で、活性成分が最初に材料に添加されるという点で、実施例2とは概念上異なる。第2段階において、熱力学的安定性を高めることによって、第1段階の合金における活性成分に代えて優先的に用いる成分を加える。第1段階の合金の活性成分を、次いで材料の粒界に押し出して、又はミリングプロセスの際に再結晶化する。この挙動は、実際の実験条件の下で観測及び確認されており、この挙動の最もよい例はSn-Zr-Si系で観測された。この実験において、Sn及びZrを含む2gバッチの材料を最初に3時間ボールミルでミリングし、Zr5Sn3の大きなアモルファスの合金を生成した(元素Snは観測されなかった)。プロセスの第2段階において、Siを添加し、ミリングを続けた。ミリングプロセスの際種々の段階で材料のサンプルを取り、X線回折によって分析し、その結果を図2に示す。
図2における最初のトレースは、調製したSn-Zr材料のX線回折パターンを示す。トレース2はシリコンの存在下で1時間ミリングした後の材料を示し、明らかなように、この混合物は基本的に混合した元素シリコンを有するSn-Zr材料を含む。トレース3は、2時間のミリングの結果を示し、遊離した錫の存在を示すピークが現れていることがわかる。トレース4は4時間のミリングの結果を示し、押し出しミリングによって、遊離したSiが徐々に消滅し、Snのナノ結晶領域の形成と共に結晶ZrSi2に置き換わることがわかる。
【0013】
(実施例4)
前記実施例には、本発明の材料の調製においてボールミルの使用を記載したが、同様の結果は、より高速でより大きいバッチを処理できるという追加の利点を与えるアトライターミルを使用しても得られる。この実施例において、アトライターミルを用いて実施例1に記載したものと一般的には同様の一連の材料を生成した。これらの実施において、出発材料を実施例1に記載した不活性雰囲気条件下で調製したが、これらの実施は約100〜200gの材料のバッチを含んでいた。ミリング媒体(ボール)と材料との質量比は約10:1であった。サンプルを一旦ミルに入れ、メカニカルアロイング法を実施した。典型的なミリング速度は900〜1300rpmの範囲であり、ある場合には、ミリング速度はプロセス中変化した(典型的には数時間実施した)。得られた生成物は、X線回折及び電気化学的特性によって確認したが、実施例1のボールミル法で生成されたものと非常に似ていた。
アトライターミルは、同様に実施例2及び3の段階的なアロイング法に関しても使用でき、同様の結果を得ると予想される。
前記実施例は、すべて周囲温度で行った。しかしながら、アロイング法は、ある場合には、プロセスの動力学をコントロールし、及び/又は材料のミクロ構造を変えるために高温で、又は低温で行ってもよい。温度コントロールは、ジャケット付きミリングチャンバー、内部若しくは外部ヒーター、又は技術的に知られた他のその様な手段の使用によって達成してもよい。典型的な低プロセス温度は0℃にまで及び、典型的な高プロセス温度は100℃にまで及ぶ。しかしながら、これらの範囲外の温度もある特定の場合には使用してもよい。
本発明に従って調製した材料の他の組成のいくつかの例を下記表1に示す。


































【0014】
表1

【0015】
表1の種々の材料について、X線回折分析を行い、この分析の結果を図3に示す。どの場合にも、活性領域がガラス材料又はサイズが10nm未満の結晶を有するナノ結晶材料であることを示唆するX線回折によって、元素活性成分の結晶領域を観測することはできなかった。
本発明の選択したナノ複合材料について、走査型電子顕微鏡法及び透過型電子顕微鏡法を行った。走査型電子顕微鏡写真は、直径が1〜100μmの大きさの粒子の塊を含む相対的に均一な材料を示し、図4はその様な写真の1つである。エネルギー分散型分光法は、この材料の組成が、このスケールで、材料のバルク組成と非常に似ていることを示す。前記材料の透過型電子顕微鏡写真は、それがよりアモルファスな材料に埋め込まれた錫の豊富なナノスケールの結晶を含むことを確認する。前記材料の通常の組成は、39.7重量%のSn、15.5重量%のZr、18.9重量%のFe及び26.9重量%のVCである。しかしながら、ナノ結晶領域は、典型的には70〜90重量%のSn、1〜3重量%のZr及び6〜10重量%のFeを含む。
【0016】
(電気化学的評価)
本発明の材料は、電池用電極として、特にリチウムイオン電池用アノードとして非常に優れていることが分かった。その点において、リチウムイオン電池に関連して、種々の材料を評価した。複合材料電極粉末を導電性カーボン(約5〜8重量%の表示Super Pのカーボン固体)と混合することによって、本発明のナノ構造材料の電極を調製し、その後、5〜12重量%のPVDFバインダー(二フッ化ポリビニリデン、Aldrich)をn-メチルピロリジノン(Aldrich)の溶液に加えた。材料、カーボン及びバインダーの混合物をペースト粘度に撹拌し、ドクターブレードドローダウン法を用いてクリーンな銅箔上にキャストした。この電極材料を、次いでリチウムイオン電池に組み込まれる個々のアノードにカットした。
典型的な電池の配置は、銅バッキング箔上に配置した本発明の材料を含むアノード、Celanese Corporationにより市販されているCelgard(商標)3501膜のようなセパレーター膜、及びリチウム箔対極を含む。こうして調製した電池において、プロピレンカーボネートを電解質として使用した。プロピレンカーボネートは、カーボン電極材料への溶媒の同時インターカレーションによって、従来技術の炭素質アノード材料と相性が良くないため、これは重要である。プロピレンカーボネートは、低コストで、カーボンベースアノードに関して使用する必要のあるタイプの電解質と比較して、より低温で改善された導電性を与えるため、好ましい電解質である。典型的には、少量のビニレンカーボネートを電解質に加えて安定な電極-電解質界面を生成することによって材料のサイクル特性を改善する。こうして調製された電池スタックは、技術的に知られるステンレス鋼缶又はラミネートパウチを含んでもよい電池容器内に密封される。
【0017】
Liに対して1.2〜0.05ボルトの定電流充電放電サイクルによって、こうして調製された電池を試験した。電流の範囲は、典型的には約2時間(すなわち、C/2)で1回の充電又は放電工程を達成するように設定されるが、より高い、及びより低い電流でも試験される。図5は、通常の組成SnZr0.5Fe(VC)1.25を有する本発明のアノードを含む電池の長期サイクリング特性を示す。明らかなように、充電及び放電容量のデータポイントは基本的に一致する。これは、アノード材料が高いクーロン効果(coulometric efficiency)を有する事実、すなわち材料に蓄積される電荷の基本的にすべてを放出することを示す。本発明の材料は密度が非常に高いために、単位容量あたりの容量が非常に高く、実際の圧縮電極形成において900mAh/cm3程度の容量が達成され、この値は、従来技術のカーボンベース電極によって達成される値の約2倍である。
本発明の材料は、マトリックス内における活性成分の非常に高い分散を与え、この高い分散はリチウム挿入及び非リチウム挿入による活性相の膨張及び収縮による崩壊を最小限にする材料による安定化効果を有する。材料のこの機械的安定性は、従来技術の材料と比較して優れたサイクル寿命を与える。図6は、従来技術の材料、すなわちVC/Snと比較した本発明の材料、すなわちVC/Sn/Zrの電気化学的電圧-時間特性をグラフで示したものである。このグラフは、両材料について規格化した時間-電圧を示し、明らかなように、従来技術の材料の電圧-時間特性は、相転移に相当すると考えられている多くの急激な崩壊を示すが、本発明の材料は非常にスムースな充電-放電曲線を示す。これらの曲線は時間について規格化されており、プロファイルの形状を直接比較することができ、注目すべきは、従来技術のサンプルの実際の容量が本発明の実際の容量よりも一般にいくらか高いことである。しかしながら、この材料は、典型的には20サイクル以内に崩壊するため、望ましくないが、本発明の材料は優れた長期安定性を有する。
【0018】
優れたサイクル特性及び高い容積測定の容量を示すことに加えて、本発明の材料は、また図7に示される優れたレート特性及び低T特性を示す。図7は、本発明のアノード及び従来技術のグラファイトアノードのレート特性を比較し、充電速度の関数としてアノードの容積測定の容量を示す。明らかなように、本発明の材料は非常に高いレートで充電できる。
本発明のアノード材料を組み込む電池は、また優れた低温特性及び安定性を示す。この点について、上述のようにSnZr0.5Fe(VC)1.25を含むアノード材料を用いてリチウム電池を調製した。前記電池は、2:1:1のプロピレンカーボネート/DMC/EMC溶媒中1.0MのLiPF6を用いた。前記電池を-40℃の温度で繰り返し使用し、その充電容量は35サイクルにわたって約100mAh/gで安定であった(この時点で実験を終えた)。
本発明は、電池用電極材料、特にリチウム電池用アノード材料として特に有用である新規ナノ複合材料を提供する。上で示したように、本発明の材料は非常に高い電荷蓄積能力を有し、相対的に高いレートで充電及び放電できる電池の製造を可能にする。本発明の電池は、安定な充電及び放電特性を有し、優れた低温作動特性を有する。本発明の材料は電池でのその使用に関連して一般に記載されているが、当然のことながら、これらの材料は、また安定な高い活性を有するナノ複合材料を必要とする他の電気化学的及び非電気化学的用途において有用である。したがって、これらの材料は電極及び他の電流輸送デバイスとして有用であり、さらに触媒などとして有用でもある。ある特定の材料及び方法が本明細書に開示されているが、当然のことながら、そのような開示は詳細に説明することを目的とし、限定することを目的とするものではない。種々の他の材料、その製造方法及び用途は当業者にとって極めて明らかであろう。それは、本発明の範囲を画定する特許請求の範囲(すべての均等物を含む)である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1つの材料のX線回折パターンである。
【図2】本発明の1つの材料の一連の電子線回折パターンであり、その製造方法における種々の段階で得たものである。
【図3】本発明の一連の4つの材料の一連のX線回折パターンである。
【図4】本発明の材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の材料を含むアノードを含む電池の長期サイクル特性を示すグラフである。
【図6】本発明の材料の特性を従来技術の材料と比較した電気化学的電圧-時間特性を示すグラフである。
【図7】本発明の材料を組み込んだアノードのレート特性を従来技術のグラファイトアノード材料と比較するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む多相複合材料:
電気化学的に活性なアモルファス材料を含む第1活性相;及び
金属、カーボン、セラミックス、金属間化合物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む第2安定化相であって、その間に配置された前記活性相を有する複数の離間領域として構成される前記安定化相。
【請求項2】
前記活性相が重量ベースで前記材料の30〜60%を構成する、請求項1記載の材料。
【請求項3】
前記活性相がSn、Sb、Bi、Pb、Ag、In、Si、Ge、Al及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む、請求項1記載の材料。
【請求項4】
前記活性相がSn、Si、Al及びこれらの組合せからなる群より選ばれる1つを含む、請求項1記載の材料。
【請求項5】
前記活性相が前記電気化学的に活性な材料のナノ相ドメインを含む、請求項3記載の材料。
【請求項6】
前記ナノ相ドメインが10〜30nmの範囲の大きさを有する、請求項5記載の材料。
【請求項7】
前記ナノ相ドメインが錫を含む、請求項5記載の材料。
【請求項8】
前記安定化相がFe、Zr、Ti及びCからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む、請求項1記載の材料。
【請求項9】
前記安定化相が金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる1つを含む、請求項1記載の材料。
【請求項10】
前記安定化相の離間領域が1〜100nmの範囲の大きさを有する、請求項1記載の材料。
【請求項11】
前記安定化相がアモルファス材料を含む、請求項1記載の材料。
【請求項12】
前記安定化相が結晶性材料を含む、請求項1記載の材料。
【請求項13】
前記安定化相が電気化学的に不活性である、請求項1記載の材料。
【請求項14】
前記安定化相が電気化学的に活性である、請求項1記載の材料。
【請求項15】
前記安定化相が鉄-錫材料を含む、請求項1記載の材料。
【請求項16】
前記安定化相がFeSn2を含む、請求項1記載の材料。
【請求項17】
前記材料がメカニカルアロイング法によって調製される、請求項1記載の材料。
【請求項18】
前記メカニカルアロイング法がボールミリング法である、請求項17記載の材料。
【請求項19】
前記メカニカルアロイング法がアトライターミリング法である、請求項17記載の材料。
【請求項20】
前記メカニカルアロイング法がグラインディング法である、請求項17記載の材料。
【請求項21】
以下を含む電極:
以下を含む多相複合材料:電気化学的に活性なアモルファス材料を含む第1活性相;及び金属、カーボン、セラミックス、金属間化合物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む第2安定化相であって、その間に配置された前記活性相を有する複数の離間領域として構成される前記安定化相。
【請求項22】
前記活性相がSn、Sb、Bi、Pb、Ag、In、Si、Ge、Al及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む、請求項21記載の電極。
【請求項23】
前記安定化相がFe、Zr、Ti及びCからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む、請求項21記載の電極。
【請求項24】
前記安定化相が金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる1つを含む、請求項21記載の電極。
【請求項25】
多相複合材料を含む少なくとも1つの電極を含む電池であって、多相複合材料は以下を含む:
電気化学的に活性なアモルファス材料を含む第1活性相;及び
金属、カーボン、セラミックス、金属間化合物及びこれらの組合せからなる群より選ばれる材料を含む第2安定化相であって、その間に配置された前記活性相を有する複数の離間領域として構成される前記安定化相。
【請求項26】
多相複合材料の製造方法であって、
前記多相複合材料を構成する元素を含む複数の成分を調製する工程、及び
メカニカルアロイング法によって前記複数の成分から前記多相複合材料を形成する前記方法。
【請求項27】
前記メカニカルアロイング法が段階的な方法を含み、前記複数の成分の第1部分を第1メカニカルアロイング法に供して前記多相複合材料の第1成分を生成し、続いて前記成分の第2部分を前記第1成分と一緒に第2メカニカルアロイング法に供する請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記メカニカルアロイング法が置換法であり、第1工程で、前記多相複合材料の第1及び第2元素を含む第1組成物を前記多相複合材料の第3元素と一緒にメカニカルアロイング法に供し、前記第3元素が前記第1組成物の前記第2元素と置き換わって前記第1及び第3元素を含む第2組成物を形成する請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記第3元素を遊離元素の形態で前記第1化合物と一緒に前記メカニカルアロイング法に供する請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記第3元素を第3組成物の形態で前記第1組成物と一緒に前記メカニカルアロイング法に供し、前記第3組成物が前記多相複合材料の前記第3元素及び第4元素を含む、請求項28記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−502525(P2007−502525A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532257(P2006−532257)
【出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/001258
【国際公開番号】WO2005/048381
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500539848)ティ/ジェイ テクノロジーズ インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】