説明

多結晶MgO焼結体及びその製造方法、並びにスパッタリング用MgOターゲット

【課題】焼結密度が理論密度に近く、機械的性質及び熱伝導率が良好で、ガス発生による雰囲気の汚染を低減できるMgO焼結体及びその製造方法を提供すること
【解決手段】一軸圧力を加えた面に(111)面を多く配向させた独自の結晶異方性を有する多結晶MgO焼結体である。係る多結晶Mg体焼結体は、粒径が1μm以下のMgO原料粉末を一軸加圧焼結する工程と、その後、酸素が0.05体積%以上存在する雰囲気下にて1273K以上の温度で1分間以上熱処理する工程とを経ることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgO原料粉末を焼結して得られる多結晶MgO焼結体(以下、単に「MgO焼結体」という。)及びその製造方法、並びにMgO焼結体を用いたスパッタリング用MgOターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
MgOは、優れた熱伝導率、耐熱性、化学的安定性、耐酸化性及び絶縁性を備える材料であることから、耐熱用途を始めとして様々な用途に使用されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
このMgOは比較的焼結性が良好であり、普通焼結でも相対密度で99%近傍までの緻密さを得ることができる。しかしながら、理論密度まで焼結密度を上げることは難しく、焼結体にはマイクロポアや数μmに及ぶポア、すなわち気孔が残存する。焼結密度向上(気孔低減)のために焼結温度を上げることが考えられるが、焼結密度向上を最優先に焼結温度を上げることは結晶粒子の成長を促進することとなり、粗大な結晶粒子の中に気孔が残存し、この気孔はその後の高温高圧によるHIP処理でも消滅させることは困難である。
【0004】
このように、従来のMgO焼結体は、その焼結密度が十分でなく、焼結密度を上げようとすると粒成長が生じることから、とくに治工具や断熱板などの構造用部材として適用するには以下の問題がある。
【0005】
1)機械的性質の低下
(1)強度の低下
強度には、曲げ強度、圧縮強度、せん断強度などがあるが、いずれも焼結体内部の残存気孔に依存する。また、焼結時の粒成長による粗大粒子も破壊の起点になりやすい。気孔と粒成長による強度不足は構造用部材としての使用において、破損、欠損といった致命的な損傷を引き起こす。
【0006】
(2)硬さの低下
気孔と粒成長の存在は、硬さを低下させる要因にもなるため、耐摩耗性の低下につながり、摩耗に起因する寿命低下を引き起こす。
【0007】
2)面粗度の低下
焼結体内部に気孔と粒成長があることは面粗度が低下することを意味する。構造用部材としての用途において、使用面での高い面粗度が要求される用途は多い。面粗度が低いと、(1)摺動面での気孔が欠けの起源となって面粗度の低下を助長し、寿命が低下する、(2)面粗度の低下により、摩擦係数が増大し、異常発熱や相手材との反応、凝着などの問題が発生する、などの問題が生じる。
【0008】
3)熱伝導率の低下
MgOには熱伝導率が高いという特性があるが、それを損なう要素の一つに気孔の存在がある。すなわち、粒界に気孔や不純物があると熱伝導が妨げられ、本来の熱伝導率が得られない。よって、高い熱伝導率を得るためには気孔を減らす、言い換えれば、焼結体の相対密度を理論密度近くまで上げることが必要である。
【0009】
4)ガス発生による雰囲気の汚染
焼結体中に存在する気孔の中には焼結雰囲気のガスが封入される。たとえば、大気焼結では窒素ガスや二酸化炭素、酸素などの大気成分、Arや窒素ガス雰囲気焼結ではこのような雰囲気ガスが気孔として封入されることになる。このガスは焼結体が高温度域で使用されて粒界が軟化すると焼結体から噴出される。とくに半導体製造などの微量の不純物でも許容されない用途では致命的な欠陥となる。
【0010】
一方、MgO焼結体は、スパッタリング用ターゲットとしても多用されているが(特許文献3、4参照)、このターゲット用途においても、スパッタリング時の割れや剥離を防止する上で、その機械的性質や熱伝導性の向上は重要であり、またスパッタリング装置内の雰囲気の汚染を防止する上で、焼結体からのガス発生を低減することも重要である。
【特許文献1】特開平7−133149号公報
【特許文献2】特開2006−169036号公報
【特許文献3】特開平10−158826号公報
【特許文献4】特開2005−330574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、焼結密度が理論密度に近く、機械的性質及び熱伝導率が良好で、ガス発生による雰囲気の汚染を低減できるMgO焼結体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のMgO焼結体は、MgO原料粉末を一軸加圧焼結する工程を経て得られるMgO焼結体であって、MgO焼結体中のMgOのX線回折による強度比が、式(1)で表される(111)面の比率α(111)の値に関し、一軸圧力を加えた面の値をαV(111)、一軸圧力を加えた面に垂直な面の値をαH(111)としたときに、αV(111)/αH(111)>1.5であることを特徴とするものである。
α(111)={−0.4434(Ra)2+1.4434*Ra} … (1)
ここで、Ra=I(111)/(I(111)+I(200))
I(111):MgOの(111)面のX線回折強度
I(200):MgOの(200)面のX線回折強度
【0013】
すなわち、本発明は、上記課題を解決するために、MgO焼結体に独自の結晶異方性を持たせるようにしたものである。より具体的には、普通焼結で得られる通常のMgO焼結体は(200)面が主体となり、結晶粒子の成長が見られるのに対し、一軸加圧焼結を採用し、その圧力を加えた面に(111)面を増加させることによって焼結密度を理論密度に近づけることができ、機械的性質等を向上させることができるという知見に基づき完成されたものである。
【0014】
なお、一軸加圧焼結時の温度を上げたり、保持時間を長くすることによって結晶粒子が粗大化してαV(111)が増加し、αV(111)/αH(111)の値が大きくなるが、結晶粒子の粗大化は強度や硬さの低下を招き、例えば耐摩耗部材としての性能を損なうこととなる。したがってαV(111)/αH(111)は20以下であることが好ましい。
【0015】
MgO焼結体は固相焼結体であることから、結晶粒子径が大きくなるにしたがって強度や硬さが低下する。したがって、とくに構造用部材としての特性を確保するためには、平均結晶粒子径は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0016】
また、MgO焼結体の純度は、クリーン環境下での汚染に影響を与えるため、極力高くすることが肝要であり、好ましくは99.99%以上とする。
【0017】
本発明のMgO焼結体は、構造用部材のほかスパッタリング用ターゲットとして好適に使用できる。MgOターゲットのスパッタリングは二次電子放出が支配的であることから、結晶面としては(111)面が多い方がスパッタリング効率が向上する。本発明のMgO焼結体は上述のとおり、一軸圧力を加えた面に(111)面が多く配向しているため、二次電子放出が促進され、スパッタリング効率が向上する。
【0018】
このような結晶異方性を有する本発明のMgO焼結体は、粒径が1μm以下のMgO原料粉末を一軸加圧焼結し、その後、酸素が0.05体積%以上存在する雰囲気下にて1273K以上の温度で1分間以上熱処理することによって得ることができる。
【0019】
すなわち、上述のような結晶異方性を有する本発明のMgO焼結体を得るには、以下に詳述するように(1)MgO原料粉末の微細化、(2)一軸加圧焼結、(3)酸素雰囲気熱処理が必須である。
【0020】
(1)MgO原料粉末の微細化
MgOは易焼結性セラミックスであり単体でも焼結できるので結晶粒子が成長しやすいが、原料の段階で微細な粉末を使用することによって通常形成する(200)面が多い結晶から(111)面を増加させることが可能になる。MgO原料粉末の粒径は1μm以下であれば異方性の促進は可能となるが、0.5μm以下が好ましい。
【0021】
(2)一軸加圧焼結
焼結時に圧力を加えると焼結性が改善され普通焼結よりも焼結温度を下げることができる。焼結温度を下げることができれば、結晶粒成長を抑制でき、微細結晶からなる緻密な焼結体を得ることができる。さらに、一軸加圧焼結により、焼結時に一軸方向に圧力を加えると、その一軸圧力を加えた面に(111)面が増加し、本発明の結晶異方性が発現する。この結晶異方性を確実に発現するためには5MPa以上の圧力をかけることが好ましい。加圧方法については、焼結時にプレス体上にウェイトなどで5MPa以上の荷重を加える方法でもよいが、ホットプレス法を用いることが望ましい。なお、MgO焼結体中の気孔をより確実になくすためには、一軸加圧焼結を行った後、さらにHIP焼結を行うことが好ましい。
【0022】
(3)酸素雰囲気熱処理
還元雰囲気下で焼結されたMgO焼結体では一部が酸素欠陥状態にある結晶となり、色調も灰白色を呈する不均一な組織となっている。この酸素欠陥は本発明が目的とする(111)面の結晶形成を妨げる要因となる。よって、焼結後、酸素雰囲気下で熱処理を行うことにより、MgO原料粉末の微細化と一軸加圧焼結により得られた独自の結晶異方性を促進することができる。雰囲気の酸素濃度は0.05体積%以上であれば、残りは窒素ガスやアルゴンなどの非酸化性ガスでもよい。好ましくは、雰囲気の酸素濃度は0.1体積%以上とする。熱処理の温度は1273K以上で少なくとも1分間以上の保持が必要で、好ましくは、1673K以上の温度で1時間以上の熱処理を行えば酸素欠陥を消滅させて(111)面の結晶形成を促進できる。
【0023】
また、本発明において使用するMgO原料粉末は、Mg(OH)を0.01〜0.2質量%含有するものであることが好ましい。Mg(OH)は焼結を活性化する挙動を有しており、焼結段階で吸着水分や結晶水を連続的に放出してMgOに変化するため、MgO焼結体の純度を低下させることなく、焼結密度を上げることができる。ただし、Mg(OH)の含有量が0.2質量%を超えるとMg(OH)を焼結過程で完全に脱水することが難しく、焼結体内部に気孔が残存しやすくなる。一方、Mg(OH)の含有量が0.01質量%未満では、焼結を活性化する効果が得られない。
【0024】
MgO原料粉末中の不純物は、焼結性あるいは焼結体特性を阻害したり、クリーン環境下での汚染に関与するため、極力少なくすることが肝要であり、好ましくは不純物濃度は0.01質量%未満とする。なお、Mg(OH)は、MgO原料粉末の不純物ではないため、上記の不純物濃度はMg(OH)を除いたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のMgO焼結体は、一軸圧力を加えた面に(111)面が多く存在するという独自の結晶異方性を有するようにしたことで、焼結体中の気孔が少なくなり、焼結密度を理論密度近くまで向上させることができる。すなわち、等方的に結晶が成長する普通焼結に比べ、焼結時に一軸圧力を加えることにより結晶成長に異方性が生じ、これによって気孔が粒界に沿って外に出やすくなり、結晶の再配列によって緻密化が可能となる。その結果、以下の効果を奏する。
【0026】
1)機械的性質の向上
(1)強度及び靱性の向上
気孔率の低減はMgO焼結体の強度の向上に大きく寄与する。とくに曲げ強度の向上には、気孔を始めとする内部欠陥の除去と結晶粒子の微細化が最も効果が高く、本発明により曲げ強度を大幅に向上させることができる。また、破壊靭性も同時に向上し、従来のMgO焼結体では対応できなかった、高強度・高靱性が要求される構造用部材の用途にも適用できる。
【0027】
(2)耐摩耗性(硬さ)の向上
構造用部材には、強度、靭性とともに、耐摩耗性(硬さ)が要求されることが多い。従来のMgO焼結体は結晶粒子径が大きいことによる低強度が原因で、耐摩耗部品などの用途には採用されることはなかった。しかしながら、結晶粒子径が小さく、強度が改善された本発明のMgO焼結体は耐摩耗性が向上し、さらに結晶粒子が微細でその結合強度が向上しているため、ブラスト摩耗評価においても、異方性がない従来の常圧焼結MgO焼結体よりも優れた特性が得られる。
【0028】
2)熱伝導率の向上
熱伝導率は焼結体内部のMgO純度、気孔率、結晶粒界の状態等に依存し、とくに気孔が存在すると熱伝導率が低下する。本発明のMgO焼結体では、緻密化による気孔率の低減の効果で熱伝導率が向上する。よって、総体的に、従来の普通焼結MgO焼結体よりも熱伝導性に優れる焼結体が得られる。
【0029】
3)ガス発生の低減
気孔率の低減により、気孔に封入されるガス量も低減し、使用時に焼結体から噴出するガス量を低減でき、雰囲気の汚染を低減できる
【0030】
さらに、本発明のMgO焼結体は、一軸圧力を加えた面に(111)面が多く配向しているため、スパッタリング用ターゲットとして使用すると、二次電子放出が促進され、スパッタリング効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0032】
主成分として、平均粒子径が0.2μmのMgO(酸化マグネシウム)粉末を、メタノール溶媒中にてナイロンボールを入れたナイロンポット中にて20時間分散混合し、MgOスラリーを得た。得られたMgOスラリーをナイロンポットから取り出した後、アルコール系のバインダーを添加して、クローズドスプレードライヤーにより窒素雰囲気中で造粒混合を行った。
【0033】
得られた造粒粉を金型プレスで成形することにより、各種評価用試料の成形体を得、各成形体を大気雰囲気中1673Kの温度で常圧焼結(一次焼結)した後、Arガス雰囲気中1773Kの温度でホットプレス装置にて焼結時に20MPaの圧力を加えながらホットプレス焼結(二次焼結)し、焼結体を得た。
【0034】
一部の焼結体に対しては、焼結体の緻密性をさらに上げて気孔をなくす目的で、1673K〜1823Kの温度域、Arガスを用いて圧力100MPaでHIP焼結(三次焼結)を行った。
【0035】
その後、焼結時に不活性ガス雰囲気で還元された焼結体を、酸素が18体積%存在する酸化雰囲気中1823Kの温度で5時間酸化処理し、還元された箇所の酸化処理を行った。得られた焼結体を研削加工して所定サイズの試料を作製し、各評価に供した。
【0036】
比較試料として、常圧焼結のみで作製した試料(以下「普通焼結品」という。)、焼結後に酸素雰囲気熱処理を行わなかった試料、及びMg(OH)を原料粉末とした試料を作製し、各評価に供した。
【0037】
表1に各試料の処理工程とX線回折による結晶異方性の評価結果を示す。
【表1】

【0038】
表1において、○印はその焼結あるいは酸素雰囲気熱処理を行ったことを示す。また、結晶異方性については、前記の式(1)で表される(111)面の比率α(111)の値に関し、基準面としてホットプレス圧力、すなわち一軸圧力を加えた面の値をαV(111)、一軸圧力を加えた面に垂直な面の値をαH(111)として、αV(111)/αH(111)の値で評価した。すなわち、αV(111)/αH(111)の値が大きいほど、一軸圧力を加えた面に(111)面が多く存在し、結晶異方性が大きいということであり、αV(111)/αH(111)>1.5が本発明の条件である。なお、一軸加圧焼結を行っていない比較試料については、基準面の値をαV(111)、その面に垂直な面の値をαH(111)としてαV(111)/αH(111)の値を求めた。
【0039】
表1からホットプレス焼結(HP焼結)工程と酸素雰囲気熱処理工程を含んで作製された本発明のMgO焼結体(本発明品)は、いずれもαV(111)/αH(111)の値が1.5を超えており、独自の結晶異方性を有していることがわかる。また、本発明品の平均結晶粒子径は、いずれも10μm程度であった。
【0040】
なお、本実施例において本発明品ではすべて常圧焼結(一次焼結)を行っているが、この常圧焼結(一次焼結)は省略することもできる。
【0041】
表2に表1に示した各試料の評価結果を示す。
【表2】

【0042】
各試料の評価としては、密度(最終到達密度、相対密度)、気孔率、曲げ強度、硬さを測定し、これらの測定結果に基づいて、構造用部材としての特性を総合的に評価した。構造用部材としての特性について表2では、十分に使用できるものを◎、条件によっては使用できるものを△、使用できないものを×で示した。
【0043】
また、おもにスパッタリング用ターゲット材としての特性を評価するために、不純物付着性、真空度低下、割れを評価した。
【0044】
不純物付着性については、各試料を30×30×5mmに加工し、純水溶媒中に入れて超音波をかけ、パーティクルカウンターで混入した不純物や粒子脱落を調査した。表2では不純物付着や粒子脱落が無いまたは微量なものを◎、少量付着または少量脱落するものを△、大量に付着または脱落が多いもの×で示した。真空度低下については、各試料を30×30×5mmに加工し、加熱可能な真空容器に入れて温度を毎分1Kで昇温し、気孔に吸着した揮発性不純物や封入されたガスが粒界を通じて放出されることによる真空度の低下を観察した。表2では真空度の低下が見られないまた低下が僅かなものを◎、真空計の範囲内の低下があるものを△、真空計の範囲外まで低下するものを×で示した。割れについては、ターゲットとして使用した後、割れを確認した。表2では割れていないものを◎、割れることがあるが頻度が少ないものを△、割れの頻度が大きいものを×で示した。
【0045】
以下、表2に示す評価結果について解説する。
【0046】
(1)密度と気孔率
本発明品は普通焼結品に比べて焼結密度が高く、気孔が極めて少ないことがわかる。普通焼結品(試料No.9〜11)は相対密度で95%程度であることから焼結体中にはかなり気孔が残っており、曲げ強度の大幅な差として現れている。曲げ強度の低下は構造用部材や耐摩耗部材としての用途において致命的な欠陥となる。本発明品では相対密度が99%以上の緻密で微細な結晶組織を有する焼結体が得られ、普通焼結品に比べて優れた機械的性質を示している。
【0047】
(2)曲げ強度
曲げ強度は構造用部材として、使用中の破損やチッピングに対する抵抗として重要な特性である。その向上にはさまざまな方法がある。効果のあるものとして、(ア)気孔率の低減、(イ)結晶粒子の微細化、(ウ)結晶異方性による強化、などがある。本発明品ではこの三要素のすべてが改善の方向に有利な効果を出しており、普通焼結品を始めとした比較品に比べ、曲げ強度が向上している。
【0048】
(3)硬さ
硬さは曲げ強度同様に、構造用部材として耐摩耗性を改善するためには重要な機械的性質の一つである。これを向上させるための要素は曲げ強度の場合と同様で、本発明品では、普通焼結品を始めとした比較品に比べ、硬さが向上している。
【0049】
(4)構造用部材としての特性
本発明品は、上述のとおりの機械的性質の向上によって、これまで使用できなかった構造用部材としての用途にも応用することができる。
【0050】
(5)スパッタリング用ターゲットとしての特性
ターゲット中に気孔があると不純物粒子を取り込みやすく、半導体製造用などの不純物がないことが重要な用途には使えないが、本発明品のように気孔が実質的に皆無であれば不純物粒子の付着や混入、あるいは真空度の低下がなく、スパッタリング用ターゲットとして好適に使用できる。ターゲット中の気孔が実質的に皆無になることは機械的性質の改善と同時にターゲットに内在するガスが実質的に皆無になることを意味する。ターゲットはスパッタリングの進行に伴って摩耗し、それに伴って内部が露出する。このとき気孔があれば、それが開放されてガスが噴出し、スパッタリング装置内の雰囲気が汚染されることとなる。気孔に封入されたガスは焼結段階での環境に存在するガスであり、大気雰囲気焼結では酸素、窒素などが、非酸化雰囲気ではアルゴンや窒素などが封入されることとなる。その量はターゲットの気孔率に依存しており、本発明では0.5%以下の気孔率を達成しているので、従来品に比較して60分の1以下のガス量になり、装置内の不純物汚染が飛躍的に改善できる。また、ターゲットは使用時にその表面が加熱されると同時に、裏面側は冷却されるため、熱衝撃を受けている状態にあり、この熱衝撃により割れやすい傾向にある。熱衝撃抵抗は曲げ強度及び熱伝導率に比例し、熱膨張係数に反比例するため、本発明によれば、ターゲットの割れに対する抵抗力を向上させることができる。
【0051】
さらに、MgOターゲットのスパッタリングは二次電子放出が支配的であり、結晶面では(111面)が多いほうが有利となる。しかしながら、従来の普通焼結で製造したMgOターゲットは(200)面が主体であり、二次電子放出の観点では不向きな材料であった。本発明では微細粉末を利用して焼結段階での加圧によってスパッタリング面に(111)面を多く形成させることができ、二次電子放出が促進され、スパッタリング効率が向上する。すなわち、本発明品は、スパッタリング面における(111)面の結晶面比率が高く、このことが緻密化による気孔率の削減及び二次電子放出の促進というターゲットとして有用な効果を奏する。
【0052】
表3には、酸素雰囲気熱処理前後の結晶形成の違いを示す。表3に示すように、酸素雰囲気熱処理により、ホットプレス圧力(一軸圧力)を加えた面のαV(111)の値が増加しており、(111)面の比率が増加していることがわかる。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のMgO焼結体は、電子部品製造用の高温冶工具、あるいは炉壁や断熱板などの構造用部材に好適に利用できるほか、スパッタリング用ターゲットにも好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO原料粉末を一軸加圧焼結する工程を経て得られる多結晶MgO焼結体であって、多結晶MgO焼結体中のMgOのX線回折による強度比が、式(1)で表される(111)面の比率α(111)の値に関し、一軸圧力を加えた面の値をαV(111)、一軸圧力を加えた面に垂直な面の値をαH(111)としたときに、αV(111)/αH(111)>1.5である多結晶MgO焼結体。
α(111)={−0.4434(Ra)+1.4434*Ra} … (1)
ここで、Ra=I(111)/(I(111)+I(200))
I(111):MgOの(111)面のX線回折強度
I(200):MgOの(200)面のX線回折強度
【請求項2】
平均結晶粒子径が30μm以下である請求項1に記載の多結晶MgO焼結体。
【請求項3】
MgO純度が99.99%以上である請求項1または請求項2に記載の多結晶MgO焼結体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の多結晶MgO焼結体からなるスパッタリング用MgOターゲット。
【請求項5】
請求項1に記載の多結晶MgO焼結体を製造する方法であって、粒径が1μm以下のMgO原料粉末を一軸加圧焼結する工程と、この一軸加圧焼結する工程の後に、酸素が0.05体積%以上存在する雰囲気下にて1273K以上の温度で1分間以上熱処理する工程とを含む多結晶MgO焼結体の製造方法。
【請求項6】
MgO原料粉末がMg(OH)を0.01〜0.2質量%含有する請求項5に記載の多結晶MgO焼結体の製造方法。
【請求項7】
MgO原料粉末の不純物濃度が0.01質量%未満である請求項5または請求項6に記載の多結晶MgO焼結体の製造方法。
【請求項8】
一軸加圧焼結する工程で印加する圧力が5MPa以上である請求項5から請求項7のいずれかに記載の多結晶MgO焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2009−173502(P2009−173502A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16246(P2008−16246)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】