説明

多翼遠心ファン

【課題】送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる多翼遠心ファンを提供することを目的とする。
【解決手段】スクロール状ケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられている多翼遠心ファンにおいて、羽根車の回転軸中心とケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準にして羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、ケーシング内の底面4における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<140°の範囲に、羽根車の回転軸方向に突出する複数個の渦発生体14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール状のケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられている多翼遠心ファンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクロール状のケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられた構成の多翼遠心ファンは、冷凍、空調あるいは換気装置等における送風用あるいは換気用のファンとして、幅広く採用されている。かかる多翼遠心ファンにおいて、羽根車のブレード枚数(Z)と回転数(N)の積を一次成分とする離散周波数騒音、いわゆるNZ音が発生することは周知である。このNZ音は、ケーシングの舌部付近でブレード間から遠心方向に吹き出された気流やその二次流れが舌部と干渉することが原因で発生すると考えられている。
【0003】
NZ音の発生を抑制するために、従来からブレードのピッチを不均一にして周期性を崩したり、スクロール状ケーシングの舌部(Tongue)とブレードとが平行とならないようにしたりする等の様々な対策が実施されている。しかし、これらの対策によっても十分にNZ音のレベルを低減できていないのが現状であり、また、舌部以外にも原因があるのではないかと考えられているが、未だ解明がなされていない。
【0004】
一方、特許文献1には、ケーシング内を気流が流れる際のエネルギー損失を抑制するために、ケーシングの内面に羽根車の回転軸方向に沿う突条を含む多数の突起を設け、この突起の近傍を流れる気流を境界層内で乱流にして安定化させ、境界層の発達を防止することによって、エネルギー損失を抑制するようにした技術が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−5090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多翼遠心ファンでは、ケーシング内の舌部付近で発生する逆流に対して、羽根車のブレードが通過するごとに発生する流れの乱れが原因で大きな渦が形成される。また、子午面断面(回転軸を通る縦断面)を通過する風量は、下流方向(周方向)に行くにつれて増加し、上記渦の二次流れとして反対方向に循環する渦がケーシングの下側に形成され、下流側に向って成長する。舌部以外でのNZ音の発生は、これらの渦がNZの周波数の圧力変動成分を持っているため、該渦がケーシングの下流側に伝搬し、ケーシングの側面や底面と干渉することにより発生していると考えられる。
【0007】
このことは、ケーシング内部での気流の流れを詳細に分析した結果、低負荷大風量時および高負荷小風量時のそれぞれにおいて、乱流運動エネルギーが大きくなる箇所(渦による乱れが大きくなる箇所)では、ケーシングの側面や底面で発生する圧力変動のピーク周波数がNZ音の周波数と一致していたことによって裏付けられた。これにより、NZ音を低減するには、舌部以外にケーシングの側面や底面で発生するNZ音を低減する必要があることが明らかとなった。
【0008】
特許文献1には、NZ音の低減については些かも触れられていない。しかし、仮にケーシングの内面に設けた突起がNZの周波数を持つ圧力変動成分を分散させる機能を有していたとしても、ケーシングの内面全域に突起を設けた構成としているため、突起により圧力損失が増大し、風量の低下は避けられないものである。従って、特許文献1に示された技術は、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立させることは困難なものであった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる多翼遠心ファンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の多翼遠心ファンは、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる多翼遠心ファンは、スクロール状のケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられている多翼遠心ファンにおいて、前記羽根車の回転軸中心と前記ケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準に前記羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、前記ケーシング内の側面における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<180°の範囲に、前記羽根車の回転軸方向に平行な複数個の突起が設けられていることを特徴とする。
【0011】
スクロール状ケーシングを有する多翼遠心ファンでは、羽根車のブレード枚数と回転数の積を一次成分とする離散周波数騒音(NZ音)が発生することが知られている。このNZ音は、ケーシングの舌部付近でブレード間から遠心方向に吹き出された気流やその二次流れが舌部と干渉することが原因と考えられている。しかし、ケーシング内の流れを分析した結果、舌部以外においても、ブレードが舌部付近の逆流域を通過することにより発生した渦が下流に向うにつれて成長し、その渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分がケーシング内の側面や底面と干渉してNZ音を発生していることが見出された。
本発明によれば、羽根車の回転軸中心とケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準に羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、ケーシング内の側面における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<180°の範囲に、羽根車の回転軸方向に平行な複数個の突起を設けているため、ブレードが舌部付近の逆流域を通過するときに発生し、下流に向って成長、伝搬する渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分を、ケーシング内の側面に設けられている複数個の突起により乱し分散させることができる。従って、NZ音のピークレベルを低減することができる。また、突起をNZ音の低減に有効な範囲に選択的に設けているため、突起による圧力損失を最小限とし、風量の低下を抑制することができる。よって、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる。
【0012】
さらに、本発明の多翼遠心ファンは、上記の多翼遠心ファンにおいて、前記突起は、前記ケーシングの側面の高さ方向に沿って漸次高さが低くかつ断面積が小さくされていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、突起がケーシング側面の高さ方向に沿って漸次高さが低くかつ断面積が小さくされているため、ケーシング側面の高さ方向において突起と気流との干渉具合を変化させ、渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分をより効果的に分散させることができる。従って、NZ音の低減効果を一段と高めることができる。また、突起の高さを漸次低く、断面積を漸次小さくすることにより形成される勾配をケーシング成形時の抜き勾配とすることができるため、突起を設けたケーシングを容易に製造することができる。
【0014】
さらに、本発明の多翼遠心ファンは、上述のいずれかの多翼遠心ファンにおいて、前記突起の周方向間隔は、前記ブレードの平均ピッチに対して最小公倍数を持たないように設定されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、突起の周方向間隔がブレードの平均ピッチに対して最小公倍数を持たないように設定されているため、突起とブレードとの干渉の位相を周期的にずらすことができる。従って、NZの周波数成分が一致することによって強められることはなく、NZ音を効果的に低減することができる。
【0016】
さらに、本発明の多翼遠心ファンは、上述のいずれかの多翼遠心ファンにおいて、前記ケーシングは、側面の高さ方向に沿って上下に分割され、前記突起は、分割された前記各ケーシング内の側面にそれぞれ分割面に向って漸次高さが低くかつ断面積が小さくなるように設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、ケーシングが上下に分割され、突起が分割された各ケーシング内の側面にそれぞれ分割面に向って漸次高さが低くかつ断面積が小さくなるように設けられているため、気流の流速が速くなるケーシングの高さ方向中央部付近での突起による流路抵抗を小さくすることができる。従って、突起による圧力損失を更に低減し、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる。また、ケーシングを分割構造としても、突起に改めて成形時の抜き勾配を設定する必要がなく、突起を設けたケーシングを容易に製造することができる。
【0018】
さらに、本発明の多翼遠心ファンは、上述のいずれかの多翼遠心ファンにおいて、前記ケーシングは、側面の高さ方向に沿って上下に分割され、前記突起は、分割された前記各ケーシング内の側面に互いに周方向に位置をずらして設けられていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、ケーシングが上下に分割され、突起が分割された各ケーシング内の側面に互いに周方向に位置をずらして設けられているため、上下の突起群によって渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分との干渉具合を変化させ、圧力変動成分をより効果的に分散させることができる。従って、NZ音の低減効果を一段と高めることができる。
【0020】
また、本発明にかかる多翼遠心ファンは、スクロール状のケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられている多翼遠心ファンにおいて、前記羽根車の回転軸中心と前記ケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準に前記羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、前記ケーシング内の底面における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<140°の範囲に、前記羽根車の回転軸方向に突出する複数個の渦発生体が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、羽根車の回転軸中心とケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準に羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、ケーシング内の底面における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<140°の範囲に、羽根車の回転軸方向に突出する複数個の渦発生体を設けているため、ブレードが舌部付近の逆流域を通過するときに発生し、下流に向って成長、伝搬する渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分を、ケーシング内の底面に設けられている複数個の渦発生体により乱し分散させることができる。従って、NZ音のピークレベルを低減することができる。また、渦発生体をNZ音の低減に有効な範囲に選択的に設けているため、渦発生体による圧力損失を最小限とし、風量の低下を抑制することができる。よって、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる。
【0022】
また、本発明の多翼遠心ファンは、上記の多翼遠心ファンにおいて、前記渦発生体は、気流方向に対して千鳥状に配置されていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、渦発生体が気流方向に対して千鳥状に配置されているため、千鳥配置された渦発生体群によって渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分をより効果的に分散させることができる。従って、NZ音を効果的に低減することができる。
【0024】
さらに、本発明の多翼遠心ファンは、上述のいずれかの多翼遠心ファンにおいて、前記渦発生体は、羽根車の回転軸方向に突出され、断面積が漸次小さくされた柱状または錐状の突起とされていることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、渦発生体が羽根車の回転軸方向に突出され、断面積が漸次小さくされた柱状または錐状の突起とされているため、渦発生体をケーシングと一体に射出成形等によって容易に成形することができる。従って、渦発生体を設けても特にコストアップ要因となることはない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、ブレードが舌部付近の逆流域を通過するときに発生し、下流に向って成長、伝搬する渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分を、ケーシング内の側面あるいは底面に設けられている複数個の突起あるいは渦発生体により乱し分散させることができる。従って、NZ音のピークレベルを低減することができる。また、突起あるいは渦発生体をNZ音の低減に有効な範囲に選択的に設けているため、突起あるいは渦発生体による圧力損失を最小限とし、風量の低下を抑制することができる。よって、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る多翼遠心ファンのケーシング内の気流の流れを模式化した斜視図である。
【図2】図1に示す多翼遠心ファンの横断面図である。
【図3】図1に示す多翼遠心ファンの羽根車の回転軸線を通る縦断面図(子午面断面)である。
【図4】図1に示す多翼遠心ファンのケーシング側面に設けられる突起の一例の設置状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示す多翼遠心ファンのケーシング側面に設けられる突起の別例の設置状態を示す斜視図である。
【図6】図1に示す多翼遠心ファンのケーシング底面に設けられる渦発生体の一例の設置状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る多翼遠心ファンのケーシングおよび突起の縦断面図である。
【図8】多翼遠心ファンのケーシング内面での流れの乱れによる渦度が一定値以上となる領域を示す低負荷大風量時(A)と高負荷小風量時(B)の状態図である。
【図9】本発明の多翼遠心ファンによる風量の低下量を示す比較図である。
【図10】本発明の多翼遠心ファンによるNZ音の低減量を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図6および図8ないし図10を用いて説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に係る多翼遠心ファンのケーシング内の気流の流れを模式化した斜視図が示され、図2には、その横断面図、図3には、羽根車の回転軸線を通る縦断面図(子午面断面)が示されている。多翼遠心ファン1は、スクロール状の樹脂材製ケーシング2を備えている。
【0029】
ケーシング2は、上面3、底面4、および側面5から構成され、舌部6を基点として渦巻き形状に形成されている。ケーシング2の上面3には、ベルマウス7を有する空気吸い込み口8が設けられており、また、舌部6の上流側から接線方向に吹き出し口9が延長されている。このケーシング2の内部には、多数のブレード11を備えた羽根車10が底面4側に設けられる図示省略のモータを介して回転自在に支持されている。
【0030】
上記の多翼遠心ファン1において、ケーシング2内での気流の流れを詳しく分析したところ、低負荷大風量時および高負荷小風量時のそれぞれで乱流運動エネルギーが大きくなる箇所、すなわち渦による気流の乱れが大きく、その渦度が一定値以上となる箇所は、羽根車10の回転軸中心S1とケーシング2の舌部6のアール中心S2とを結ぶ直線を基準に羽根車10の回転方向への角度をΘ(図2参照)としたとき、図8(A),(B)に示されるように、低負荷大風量時と高負荷小風量時とで若干の違いはあるが、ケーシング2内の側面5では、概ね0°<Θ<45°、および90°<Θ<180°の範囲であり、ケーシング2内の底面4では、概ね0°<Θ<45°、および90°<Θ<140°の範囲であることが明らかとなった。
【0031】
なお、図8は、多翼遠心ファンのケーシング内面での流れの乱れによる渦度が一定値以上となる領域を、羽根車10の回転軸中心S1とケーシング2の舌部6のアール中心と2とを結ぶ直線を基準に羽根車10の回転方向への角度(deg)をΘ(図2参照)、ブレード(羽根)11の高さ位置(無次元値)をH(図3参照)として表したときの低負荷大風量時(A)と高負荷小風量時(B)の状態を示した図である。
【0032】
本実施形態では、ケーシング2内の側面5において、上記したΘの範囲、すなわち0°<Θ<45°、および/または90°<Θ<180°の範囲に、図4または図5に示されるように、羽根車10の回転軸方向に平行な複数個の突起12または13を設けた構成としている。この突起12,13は、図示の通り、側面5の高さ方向に沿って段階的または連続的に漸次高さが低くかつ断面積が小さくなる形状とされている。
【0033】
また、上記の突起12または13は、ケーシング2内の側面5に周方向に沿って所定の間隔(ピッチ)で複数個設けられるが、その間隔は、羽根車10のブレード11の平均ピッチに対して最小公倍数を持たないように設定されている。
【0034】
さらに、ケーシング2内の底面4においては、上記したΘの範囲、すなわち0°<Θ<45°、および/または90°<Θ<140°の範囲に、図6に示されるように、羽根車10の回転軸方向に突出する複数個の渦発生体14を設けた構成としている。この渦発生体14は、断面積が漸次小さくされた柱状または錐状の突起により形成されており、気流方向に対して千鳥状に配置されている。
【0035】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
羽根車10の回転によりベルマウス7を介して空気吸い込み口8から軸方向に吸い込まれた空気は、羽根車10の複数枚のブレード11間を通って内周側から外周側へと遠心方向に圧送される。この空気は、スクロール状のケーシング2の内面に沿って周方向へと送られ、吹き出し口9から外部へと吹き出される。
【0036】
羽根車10の回転によって上記の空気流が生成される中、ケーシング2の舌部6付近において発生する逆流に対して、羽根車10のブレード11が通過することで発生する流れの乱れが原因となって大きな渦が形成され、乱れの大きい乱流領域が生じることが知られている。この乱流領域をブレード11が通過することによる圧力変動はNZの周波数成分を持ち、そのままケーシング2内を舌部6の下流側へと伝搬され、ケーシング2の内面と干渉することによって、NZ音を発生する。
【0037】
この圧力変動の発生領域は、図8(A),(B)に示されるように、ケーシング2の側面5では、舌部6からの角度Θが、概ね0°<Θ<45°、および90°<Θ<180°の範囲であり、ケーシング2内の底面4では、概ね0°<Θ<45°、および90°<Θ<140°の範囲である。従って、この0°<Θ<45°、および/または90°<Θ<180°の領域の側面5に突起12または13を設け、また、0°<Θ<45°、および/または90°<Θ<140°領域の底面4に渦発生体14を設けることによって、ケーシング2内の側面5および底面4のそれぞれにおいて、NZの周波数を持つ圧力変動成分を突起12,13および渦発生体14で乱し分散させることができる。なお、ケーシング2内の底面4と側面5における圧力変動の発生領域の違いは、ブレード11から半径方向外向きに流出した流れおよびケーシング2の半径方向外向きになるほど高くなる静圧分布により発生する二次流れと、ケーシング2内を回転方向に流れる主流との干渉効果によって発生する。
【0038】
この結果、NZ音のピークレベルを低減し、多翼遠心ファン1における送風騒音を低減することができる。また、突起12,13および渦発生体14をそれぞれNZ音の低減に有効な範囲に限定して設けているため、突起12,13および渦発生体14を設けることによる圧力損失を最小限に抑え、風量の低下を抑制することができる。
【0039】
図9および図10は、突起12,13および渦発生体14の設置範囲を上記の通り限定した場合と、ケーシング2の内面全域に設けた場合とにおいて、風量の低下量およびNZ音の低減量を比較して示したものである。NZ音の低減量の差は1dB未満と小さく、一方、風量の低下量の差は大きい。この比較結果から明らかな通り、本実施形態によれば、送風性能の確保とNZ音の低減とを両立することができる。
【0040】
また、突起12,13は、ケーシング2の側面5の高さ方向に沿って漸次高さが低くかつ断面積が小さくされている。このため、側面5の高さ方向において突起12,13と気流との干渉具合を変化させ、渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分をより効果的に分散させることができ、NZ音の低減効果を一段と高めることができる。また、突起12,13の高さを漸次低く、断面積を漸次小さくすることにより形成される勾配をケーシング成形時の抜き勾配とすることができる。このため、突起12,13を設けたケーシング2を容易に製造することができる。
【0041】
さらに、複数個設けられる突起12,13の周方向の間隔(ピッチ)を、羽根車10のブレード11の平均ピッチに対して最小公倍数を持たないように設定しているので、突起12,13とブレード11との干渉の位相を周期的にずらすことができる。このため、NZの周波数成分が一致することによって強められることはなく、NZ音をより効果的に低減することができる。
【0042】
また、ケーシング2の底面4に設けられる渦発生体14は、気流方向に対して千鳥状に配置されており、この千鳥配置された渦発生体14群によって渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分をより効果的に分散させることができるため、NZ音の低減効果を更に高めることができる。さらには、渦発生体14を断面積が漸次小さくされた柱状または錐状の突起としているので、渦発生体14をケーシング2と一体に射出成形等によって容易に成形することができ、このため、渦発生体14を設けても特にコストアップ要因となることはない。
【0043】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について、図7を用いて説明する。
本実施形態は、上記した第1実施形態に対して、ケーシングおよび突起の構成が異なっている。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、ケーシング2を側面5の高さ方向の略中央部付近で上下にケーシング2A,2Bに2分割した構成とし、この上下に2分割された各ケーシング2A,2B内の側面5A,5Bに対して、それぞれ分割面に向って漸次高さが低くかつ断面積が小さくなる突起12A,12Bまたは13A,13Bを設けた構成としている。
【0044】
上記のように、ケーシング2を上下ケーシング2A,2Bに分割し、突起12A,12Bまたは13A,13Bを分割されたケーシング2A,2B内の側面5A,5Bにそれぞれ分割面に向って漸次高さが低くかつ断面積が小さくなるように設けることにより、気流の流速が速くなるケーシング2の高さ方向の中央部付近での突起12A,12Bまたは13A,13Bによる流路抵抗を小さくし、突起12A,12Bまたは13A,13Bによる圧力損失を更に低減することができる。
【0045】
従って、本実施形態によっても、第1実施形態と同様に、送風性能の確保とNZ音の低減効果の両立が可能である。また、ケーシング2A,2Bを分割構造としても、突起12A,12Bまたは13A,13Bに改めて成形時における金型の抜き勾配を設定する必要がなく、突起12A,12Bまたは13A,13Bを設けたケーシング2A,2Bを容易に製造することができる。
【0046】
また、本実施形態において、ケーシング2A側に設ける突起12Aまたは13Aと、ケーシング2B側に設ける突起12Bまたは13Bとを互いに周方向に位置をずらして設けることができる。このように、上下に分割された各ケーシング2A,2Bの側面に設けられる突起12A,12Bまたは13A,13Bを互いに周方向に位置をずらして設けることにより、上下の突起12A,12Bまたは13A,13B群によって渦に含まれるNZの周波数を持つ圧力変動成分との干渉具合を変化させ、圧力変動成分をより効果的に分散させることができる。このため、NZ音をより効果的に低減することができる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、ケーシング2内の側面5に突起12または13を設け、底面4に渦発生体14を設けた例について説明したが、いずれか一方だけを設けてもよいことはもちろんである。また、ケーシング2内の側面5に設けられる突起12,13および底面4に設けられる渦発生体14については、上記した実施形態のものに限らず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 多翼遠心ファン
2,2A,2B ケーシング
4 底面
5,5A,5B 側面
6 舌部
10 羽根車
11 ブレード
12,12A,12B,13,13A,13B 突起
14 渦発生体
Θ 突起および渦発生体の設置範囲


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロール状のケーシング内に多数のブレードを備えた羽根車が回転自在に設けられている多翼遠心ファンにおいて、
前記羽根車の回転軸中心と前記ケーシングの舌部のアール中心とを結ぶ直線を基準に前記羽根車の回転方向への角度をΘとしたとき、前記ケーシング内の底面における0°<Θ<45°および/または90°<Θ<140°の範囲に限定して、前記羽根車の回転軸方向に突出する複数個の渦発生体が設けられていることを特徴とする多翼遠心ファン。
【請求項2】
前記渦発生体は、気流方向に対して千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多翼遠心ファン。
【請求項3】
前記渦発生体は、羽根車の回転軸方向に突出され、断面積が漸次小さくされた柱状または錐状の突起とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の多翼遠心ファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−57319(P2013−57319A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253297(P2012−253297)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−132405(P2008−132405)の分割
【原出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】