多能性細胞の誘導法
ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)を生成するための再プログラム化法の遅い動態および低い効率は、生物医学的適用におけるそれらの有用性に大きい制限を課す。ここで発明者らは、処理後7日以内に、ヒト線維芽細胞からのiPSC生成の効率を劇的に改善する(>200倍)化学的アプローチを記載する。これはヒト体細胞を再プログラム化するためのより安全で、より効率的な、非ウイルス法を開発する基礎を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年10月16日提出の米国特許仮出願第61/252,548号の35 U.S.C. § 1.119(e)の下での恩典を主張し、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)の生成における最近の進歩(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007)(非特許文献1);Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007) (非特許文献2);Muller, L.U.W., et al., Mol. Ther. 17, 947-53 (2009) (非特許文献3))により、生物医学的研究および臨床適用におけるそれらの有用性について希望が高まってきた。しかし、iPSC生成はまだ、不均質な細胞集団を生じる、非常に遅く(約4週間)、非効率的(<0.01%(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007) (非特許文献1);Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007) (非特許文献1))プロセスである。そのような混合物から完全に再プログラム化されたiPSCを同定することは冗長で、ヒト多能性細胞培養における特定の専門技術を必要とする。
【0003】
外因性再プログラム化因子のゲノム挿入の危険は克服されつつあるが、再プログラム化の低い効率および遅い動態はヒトiPSCの究極の適用に対する手ごわい問題を提示し続けている。例えば、遺伝的または後成的異常の増大が再プログラム化プロセス中に起こることがあり、ここで腫瘍サプレッサーが阻害され、発癌経路が活性化されると考えられる。最近の研究は、元の4つの因子に加えて、遺伝子操作による再プログラム化の効率改善を報告している(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009) (非特許文献4))が、そのような操作は典型的にプロセスをより複雑にし、遺伝子変化および腫瘍原性のリスクを高める。したがって、ヒトiPSCを生成し、再プログラム化の基本的メカニズムの特定および特徴づけを促進するための、より安全で、容易かつ効率が高い手順がまだおおいに必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007)
【非特許文献2】Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007)
【非特許文献3】Muller, L.U.W., et al., Mol. Ther. 17, 947-53 (2009)
【非特許文献4】Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、混合物(例えば、iPSCを誘導するのに有用な)を提供する。いくつかの態様において、混合物は、
哺乳動物細胞;
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
Rho GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤
を含む。
【0006】
いくつかの態様において、細胞の少なくとも99%は非多能性細胞である。いくつかの態様において、すべてまたは基本的にすべての細胞は非多能性細胞である。
【0007】
いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。
【0008】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0009】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0010】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0011】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0012】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0013】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0014】
いくつかの態様において、阻害剤の濃度は、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分なものである。
【0015】
いくつかの態様において、混合物はGSK3阻害剤および/またはHDAC阻害剤をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、ポリペプチドはOct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Mycから選択される。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞、非ヒト動物細胞、マウス細胞、非ヒト霊長類、または他の動物細胞から選択される。
【0017】
本発明は、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へと誘導する方法も提供する。いくつかの態様において、方法は、
少なくともいくつかの細胞を多能性幹細胞にするよう誘導するのに十分な条件下で、非多能性細胞を、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
と接触させる段階
を含む。
【0018】
いくつかの態様において、条件は、少なくとも1つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの外因性転写因子はOctポリペプチドであり、細胞をヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とさらに接触させる。
【0019】
いくつかの態様において、転写因子はOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される。
【0020】
いくつかの態様において、方法は、少なくとも2つ、3つ、または4つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含み、ここで該転写因子はOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される。いくつかの態様において、ポリペプチドはOct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Mycから選択される。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞、非ヒト動物細胞、マウス細胞、非ヒト霊長類、または他の動物細胞から選択される。
【0021】
いくつかの態様において、少なくとも1つの転写因子が、ポリヌクレオチドを非多能性細胞に導入することにより導入され、ここで該ポリヌクレオチドは該少なくとも1つの外因性転写因子をコードし、それにより細胞内で該転写因子を発現する。
【0022】
いくつかの態様において、少なくとも1つの転写因子が、外因性ポリペプチドを非多能性細胞に接触させることにより導入され、ここで該ポリペプチドは該転写因子のアミノ酸配列を含み、ここで該導入は該ポリペプチドを該細胞に導入する条件下で実施される。いくつかの態様において、ポリペプチドは、細胞膜を越える輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0023】
いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。
【0024】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0025】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0026】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0027】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0028】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0029】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0030】
いくつかの態様において、阻害剤の濃度は、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分なものである。
【0031】
いくつかの態様において、混合物はGSK3阻害剤をさらに含む。
【0032】
本発明は、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキットも提供する。いくつかの態様において、キットは、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む。
【0033】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0034】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0035】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0036】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0037】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0038】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0039】
いくつかの態様において、キットはGSK3阻害剤および/またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤をさらに含む。
【0040】
他の態様は本開示の残りの部分から明らかになる。
【0041】
定義
「Octポリペプチド」とは、転写因子の八量体ファミリーの天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似の(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持しているその変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例示的なOctポリペプチドには、Oct-1、Oct-2、Oct-3/4、Oct-6、Oct-7、Oct-8、Oct-9、およびOct-11が含まれる。例えば、Oct3/4(本明細書において「Oct4」と呼ぶ)は、Pit-1、Oct-1、Oct-2、およびuric-86中に保存されている150アミノ酸配列である、POUドメインを含む。Ryan, A.K. & Rosenfeld, M.G. Genes Dev. 11, 1207-1225 (1997)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号NP_002692.2(ヒトOct4)またはNP_038661.1(マウスOct4)に挙げられているものなどの天然Octポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Octポリペプチド(例えば、Oct3/4)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0042】
「Klfポリペプチド」とは、ショウジョウバエ(Drosophila)胚パターン調節因子クルッペルのものに類似のアミノ酸配列を含むジンクフィンガータンパク質である、クルッペル様因子(Klf)のファミリーの天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持している天然メンバーの変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。Dang, D.T., Pevsner, J. & Yang, V.W.. Cell Biol. 32, 1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なKlfファミリーメンバーには、Klf1、Klf2、Klf3、Klf-4、Klf5、Klf6、Klf7、Klf8、Klf9、Klf10、Klf11、Klf12、Klf13、Klf14、Klf15、Klf16、およびKlf17が含まれる。Klf2およびKlf-4は、マウスでiPS細胞を生成可能な因子であることが判明し、関連する遺伝子Klf1およびKlf5も同様であったが、効率は低かった。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAX16088(マウスKlf4)またはCAX14962(ヒトKlf4)に挙げられているものなどの天然Klfポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Klfポリペプチド(例えば、Klf1、Klf4、およびKlf5)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。Klfポリペプチドは、本明細書において記載される範囲では、エストロゲン関連受容体β(Essrb)ポリペプチドと置き換えることができる。したがって、本明細書に記載の各Klfポリペプチド態様について、Klf4ポリペプチドの代わりにEssrbを用いての対応する態様が同等に記載されることが意図される。
【0043】
「Mycポリペプチド」とは、Mycファミリーの天然メンバー(例えば、Adhikary, S. & Eilers, M. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 6:635-645 (2005)参照)、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持しているその変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例示的なMycポリペプチドには、例えば、c-Myc、N-MycおよびL-Mycが含まれる。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAA25015(ヒトMyc)に挙げられているものなどの天然Mycポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Mycポリペプチド(例えば、c-Myc)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0044】
「Soxポリペプチド」とは、高移動度(HMG)ドメインの存在によって特徴づけられる、SRY関連HMG-box(Sox)転写因子の天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持している天然メンバーの変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例えば、Dang, D.T., et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 32:1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なSoxポリペプチドには、例えば、Sox1、Sox-2、Sox3、Sox4、Sox5、Sox6、Sox7、Sox8、Sox9、Sox10、Sox11、Sox12、Sox13、Sox14、Sox15、Sox17、Sox18、Sox-21、およびSox30が含まれる。Sox1はSox2と同様の効率でiPS細胞を生じることが明らかにされており、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18もiPS細胞を生成することが示されているが、効率はSox2よりも幾分低かった。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAA83435(ヒトSox2)に挙げられているものなどの天然Soxポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Soxポリペプチド(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、またはSox18)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0045】
「H3K9」とは、ヒストンH3リジン9を指す。遺伝子活性に関連するH3K9改変には、H3K9アセチル化および異質染色質に関連するH3K9改変が含まれ、H3K9のジメチル化またはトリメチル化が含まれる。例えば、Kubicek, et al., Mol. Cell473-481 (2007)を参照されたい。
【0046】
「多能性の」または「多能性」なる用語は、適当な条件下で、3つすべての胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)に由来する細胞系統に関連した特性を集合的に示す細胞型への分化を起こしうる子孫細胞を生じる能力を持つ細胞を指す。多能性幹細胞は出生前、生後または成体動物のすべての胚由来組織に寄与しうる。8〜12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力などの、標準の当技術分野において認められている試験を用いて細胞集団の多能性を確立することができるが、様々な多能性幹細胞特性の同定を用いて多能性細胞を検出することもできる。
【0047】
「多能性幹細胞特性」とは、他の細胞から多能性幹細胞を区別する細胞の特性を指す。適当な条件下で、3つすべての胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)に由来する細胞系統に関連した特性を集合的に示す細胞型への分化を起こしうる子孫を生じる能力は、多能性幹細胞特性である。分子マーカーの特定の組み合わせの発現または非発現も多能性幹細胞特性である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的リストから少なくともいくつかを、いくつかの態様においてはすべてのマーカーを発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rex1、およびNanog。多能性幹細胞に関連した細胞の形態も多能性幹細胞特性である。
【0048】
本明細書において用いる「非多能性細胞」とは、多能性細胞ではない哺乳動物細胞を指す。そのような細胞の例には、分化細胞ならびに前駆細胞が含まれる。分化細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織および末梢血から選択される組織由来の細胞が含まれるが、それらに限定されない。例示的な細胞型には、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、およびT細胞が含まれるが、それらに限定されない。
【0049】
得られた多能性細胞で個体を治療すべきいくつかの態様において、本発明の方法に従い、個体自身の非多能性細胞を用いて多能性細胞を生成する。
【0050】
細胞は、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物由来でありうる。例示的な非ヒト哺乳動物には、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、および非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、マカク、および類人猿)が含まれるが、それらに限定されない。
【0051】
「組換え」ポリヌクレオチドは、その天然の状態ではないポリヌクレオチドであり、例えば、ポリヌクレオチドは、天然には見いだされないヌクレオチド配列を含むか、またはポリヌクレオチドは、それが天然に見いだされるもの以外の状況にある、例えば、それが典型的には天然において近くにあるヌクレオチド配列、もしくはそれが典型的には近くにない隣接(または近接する)ヌクレオチド配列から分離されている。例えば、問題となっている配列をベクターにクローニングするか、またはそうでなければ1つもしくは複数の追加の核酸と組み換えることができる。
【0052】
「発現カセット」とは、タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーターまたは他の調節配列を含むポリヌクレオチドを指す。
【0053】
「プロモーター」および「発現制御配列」なる用語は本明細書において、核酸の転写を誘導する一連の核酸制御配列を指すために用いる。本明細書において用いるプロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメントなどの、転写の出発部位近くの必要な核酸配列を含む。プロモーターは任意で遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含み、これらは転写の開始部位から数千塩基対もの位置でありうる。プロモーターには構成および誘導プロモーターが含まれる。「構成」プロモーターは、ほとんどの環境条件および発生条件下で活性なプロモーターである。「誘導」プロモーターは、環境調節または発生調節下で活性なプロモーターである。「機能的に連結された」なる用語は、核酸発現制御配列(プロモーター、または一連の転写因子結合部位など)と第二の核酸配列との間の機能的連結を指し、ここで発現制御配列は第二の配列に対応する核酸の転写を誘導する。
【0054】
本明細書において用いる「異種配列」または「異種核酸」とは、特定の宿主細胞にとって外来の供給源由来のもの、または同じ供給源由来である場合、その元の形から改変されているものである。したがって、細胞における異種発現カセットは、例えば、染色体DNAではなく発現ベクターからのヌクレオチド配列に連結されている、異種プロモーターに連結されている、レポーター遺伝子に連結されているなどにより、特定の宿主細胞にとって内因性ではない発現カセットである。
【0055】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」なる用語は、本明細書において互換可能に用いられ、一本鎖または二本鎖のいずれかの形のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびその重合体を指す。この用語には、公知のヌクレオチド類似体を含む核酸、または修飾された骨格残基を含む核酸、または連結を含む核酸が含まれ、これらは合成、天然、および非天然であり、これらは参照核酸と類似の結合特性を有し、かつこれらは参照ヌクレオチドと同様の様式で代謝される。そのような類似体の例には、ホスホロチオエート、ホスホラミデート、ホスホン酸メチル、キラル-ホスホン酸メチル、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)が含まれるが、それらに限定されない。
【0056】
特に記載がないかぎり、特定の核酸配列はその保存的に改変された変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列、ならびに明確に示された配列も含む。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第三位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することにより達成しうる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0057】
発現または活性の「阻害剤」、「活性化剤」、および「調節剤」はそれぞれ、記載する標的タンパク質(またはコードするポリヌクレオチド)、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびにそれらの相同体および模擬物質の発現または活性についてのインビトロおよびインビボアッセイを用いて同定した、阻害分子、活性化分子、または調節分子を指すために用いる。「調節剤」なる用語は阻害剤および活性化剤を含む。阻害剤は、例えば、記載する標的タンパク質、例えば、アンタゴニストの発現を阻害し、またはそれに結合して、部分的もしくは完全に刺激もしくはプロテアーゼ阻害剤活性をブロックし、その活性化を減少し、低減し、防止し、遅延させ、その活性を不活化し、脱感作し、またはダウンレギュレートする物質である。活性化剤は、例えば、記載する標的タンパク質の発現を誘導もしくは活性化し、または記載する標的タンパク質(またはコードするポリヌクレオチド)、例えば、アゴニストに結合して、その活性化もしくはプロテアーゼ阻害剤活性を刺激し、増大させ、開放し、活性化し、促進し、増強し、その活性を感作もしくはアップレギュレートする物質である。調節剤には、天然および合成リガンド、アンタゴニストおよびアゴニスト(例えば、アゴニストまたはアンタゴニストのいずれかとして機能する化学低分子、抗体など)が含まれる。阻害剤および活性化剤についてのそのようなアッセイは、例えば、記載する標的タンパク質を発現する細胞に推定調節化合物を適用し、次いで前述のとおり、記載する標的タンパク質活性における機能的効果を判定することを含む。活性化剤、阻害剤、または調節剤の可能性を有する物質で処理した、記載する標的タンパク質を含む試料またはアッセイを、阻害剤、活性化剤、または調節剤なしの対照試料と比較して、効果の程度を調べる。対照試料(調節剤で未処理)に相対活性値100%を割り当てる。記載する標的タンパク質の阻害は、対照に対する活性値が約80%、任意で50%または25、10%、5%もしくは1%である場合に達成される。記載する標的タンパク質の活性化は、対照に対する活性値が110%、任意で150%、任意で200、300%、400%、500%もしくは1000〜3000%またはそれ以上である場合に達成される。
【0058】
化学置換基が、左から右へと書いたそれらの通常の化学式によって規定される場合、それらは構造を右から左へと書くことから生じる化学的に同じ置換基を等しく含み、例えば、-CH2O-は-OCH2-と同等である。
【0059】
「アルキル」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、直鎖(すなわち、非分枝)もしくは分枝鎖、またはその組み合わせを意味し、これらは完全飽和、一不飽和または多不飽和であってもよく、示した数の炭素原子を有する二価および多価の基を含んでいてもよい(すなわち、C1-C10は1から10個の炭素を意味する)。飽和炭化水素基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどの同族体および異性体などの基が含まれるが、それらに限定されない。不飽和アルキル基は、1つまたは複数の二重結合または三重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-および3-プロピニル、3-ブチニル、ならびにより高級の同族体および異性体が含まれるが、それらに限定されない。
【0060】
「アルキレン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、-CH2CH2CH2CH2-により例示されるが、それらに限定されない、アルキルから誘導される二価の基を意味する。典型的には、アルキル(またはアルキレン)基は1から24個の炭素原子を有し、10個以下の炭素原子を有する基が本発明において例示される。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、一般には8個以下の炭素原子を有する、より短鎖のアルキルまたはアルキレン基である。
【0061】
「ヘテロアルキル」なる用語は、それ自体で、または別の用語との組み合わせで、特に記載がないかぎり、少なくとも1つの炭素原子ならびにO、N、P、SiおよびSからなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子からなる、安定な直鎖もしくは分枝鎖、または環式炭化水素基、あるいはその組み合わせを意味し、ここで窒素および硫黄原子は任意で酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は任意で四級化されていてもよい。ヘテロ原子O、N、P、SiおよびSはヘテロアルキル基の任意の内部の位置またはアルキル基が分子の残部に連結している位置にあってもよい。例には、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2,-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、-CH=CH-N(CH3)-CH3、O-CH3、-O-CH2-CH3および-CNが含まれるが、それらに限定されない。例えば、-CH2-NH-OCH3および-CH2-O-Si(CH3)3のように、最大2個までのヘテロ原子が連続していてもよい。同様に、「ヘテロアルキレン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-および-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-により例示されるが、それらに限定されない、ヘテロアルキルから誘導される二価の基を意味する。ヘテロアルキレン基について、ヘテロ原子は鎖の末端のいずれか、または両方を占有することもできる(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらに、アルキレンおよびヘテロアルキレン連結基について、連結基の配向が連結基の式を書く方向によって示されることはない。例えば、式-C(O)2R'-は-C(O)2R'-および-R'C(O)2-の両方を意味する。前述のとおり、本明細書において用いるヘテロアルキル基には、分子の残部に-C(O)R'、-C(O)NR'、-NR'R''、-OR'、-SR'、および/または-SO2R'などのヘテロ原子を通じて連結されている基が含まれる。「ヘテロアルキル」の記載に続いて-NR'R''などの具体的なヘテロアルキル基が列挙される場合、ヘテロアルキルおよび-NR'R''なる用語は重複ではないまたは相互排他的なものではないことが理解されよう。むしろ、具体的なヘテロアルキル基は明確性を付与するために列挙される。したがって、「ヘテロアルキル」なる用語は本明細書において-NR'R''などの具体的なヘテロアルキル基を除外すると解釈すべきではない。
【0062】
「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」なる用語は、それ自体で、または他の用語との組み合わせで、特に記載がないかぎり、それぞれ「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環式バージョンを意味する。加えて、ヘテロシクロアルキルについて、ヘテロ原子は、複素環が分子の残部に連結している位置を占有していてもよい。シクロアルキルの例には、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどが含まれるが、それらに限定されない。ヘテロシクロアルキルの例には、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどが含まれるが、それらに限定されない。「シクロアルキレン」および「ヘテロシクロアルキレン」とは、それぞれシクロアルキルおよびヘテロシクロアルキルから誘導される二価の基を指す。
【0063】
「ハロ」または「ハロゲン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。加えて、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば、「ハロ(C1-C4)アルキル」なる用語は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むことを意味するが、それらに限定されない。
【0064】
「アリール」なる用語は、特に記載がないかぎり、単環または縮合もしくは共有結合により連結している複数の環(好ましくは1から3つの環)でありうる、多不飽和、芳香族、炭化水素置換基を意味する。「ヘテロアリール」なる用語は、N、O、およびSから選択される1から4個のヘテロ原子を含むアリール基(または環)を指し、ここで窒素および硫黄原子は任意で酸化されていてもよく、窒素原子は任意で四級化されていてもよい。ヘテロアリール基は分子の残部に炭素またはヘテロ原子を通じて連結されうる。アリールおよびヘテロアリール基の非限定例には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリルが含まれる。前述のアリールおよびヘテロアリール環系それぞれの置換基は、下記の許容される置換基の群から選択される。「アリーレン」および「ヘテロアリーレン」とは、それぞれアリールおよびヘテロアリールから誘導される二価の基を指す。
【0065】
簡略のために、「アリール」なる用語は、他の用語との組み合わせで用いる場合(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)、前述のアリールおよびヘテロアリール環の両方を含む。したがって、「アリールアルキル」なる用語は、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば、酸素原子によって置き換えられている(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)アルキル基を含む、アリール基がアルキル基に連結している基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含むことを意味する。
【0066】
本明細書において用いる「オキソ」なる用語は、炭素原子に二重結合で結合している酸素を意味する。
【0067】
本明細書において用いる「アルキルスルホニル」なる用語は、式-S(O2)-R'を有する部分を意味し、ここでR'は上で定義したアルキル基である。R'は規定の数の炭素原子を有していてもよい(例えば、「C1-C4アルキルスルホニル」)。
【0068】
前述の用語(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」および「ヘテロアリール」)はそれぞれ、示した基の置換および非置換型の両方を含むことを意味する。各型の基の例示的な置換基を以下に示す。
【0069】
アルキルおよびヘテロアルキル基(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルとしばしば呼ばれる基を含む)の置換基は下記から選択されるが、それらに限定されない、様々な基の1つまたは複数でありうる:ゼロから(2m'+1)の範囲の数の-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CNおよび-NO2、ここでm'はそのような基の炭素原子の総数である。R'、R''、R'''、およびR''''はそれぞれ好ましくは独立に水素、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール(例えば、1〜3個のハロゲンで置換されているアリール)、置換もしくは非置換アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基を指す。本発明の化合物が、例えば、1つより多くのR基を含む場合、R'、R''、R'''およびR''''基の1つより多くが存在する場合のこれらの基と同様、R基はそれぞれ独立に選択される。R'およびR''が同じ窒素原子に連結している場合、これらは窒素原子と一緒になって4、5、6、または7員環を形成しうる。例えば、-NR'R''は1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含むことを意味するが、それらに限定されない。前述の置換基の議論から、当業者であれば、「アルキル」なる用語は、ハロアルキル(例えば、-CF3および-CH2CF3)およびアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)などの、水素基以外の基に結合している炭素原子を含む基を含むことを意味すると理解するであろう。
【0070】
アルキル基について記載した置換基と同様、アリールおよびヘテロアリール基の置換基は多様で、例えば下記から選択される:ゼロから芳香環系の開原子価の総数までの範囲の数のハロゲン、-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CNおよび-NO2、-R'、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ、ならびにフルオロ(C1-C4)アルキル;ここでR'、R''、R'''およびR''''は好ましくは独立に水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリールおよび置換または非置換ヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が、例えば、1つより多くのR基を含む場合、R'、R''、R'''およびR''''基の1つより多くが存在する場合のこれらの基と同様、R基はそれぞれ独立に選択される。
【0071】
アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-T-C(O)-(CRR')q-U-の環を形成してもよく、ここでTおよびUは独立に-NR-、-O-、-CRR'-または一重結合であり、かつqは0から3の整数である。または、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-A-(CH2)r-B-の置換基で置き換えられていてもよく、ここでAおよびBは独立に-CRR'-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR'-または一重結合であり、かつrは1から4の整数である。そのように形成された新しい環の一重結合の1つは任意で二重結合で置き換えられていてもよい。または、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-(CRR')s-X'-(C''R''')d-の置換基で置き換えられていてもよく、ここでsおよびdは独立に0から3の整数であり、かつX'は-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR'-である。置換基R、R'、R''およびR'''は好ましくは独立に水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリール、および置換または非置換ヘテロアリールから選択される。
【0072】
本明細書において用いる「ヘテロ原子」または「環ヘテロ原子」なる用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)、およびケイ素(Si)を含むことを意味する。
【0073】
本明細書において用いる「置換基(substituent group)」とは、以下の部分から選択される基を意味する:
(A)-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、オキソ、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(B)下記から選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール:
(i)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(ii)下記から選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール:
(a)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(b)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、および非置換ヘテロアリールから選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリール。
【0074】
本明細書において用いる「サイズ限定置換基(size-limited substituent)」または「サイズ限定置換基(size-limited substituent group)」とは、「置換基」について前述したすべての置換基から選択される基を意味し、ここで置換または非置換アルキルはそれぞれ置換または非置換C1-C20アルキルであり、置換または非置換ヘテロアルキルはそれぞれ置換または非置換の2から20員ヘテロアルキルであり、置換または非置換シクロアルキルはそれぞれ置換または非置換C4-C8シクロアルキルであり、かつ置換または非置換ヘテロシクロアルキルはそれぞれ置換または非置換の4から8員ヘテロシクロアルキルである。
【0075】
本明細書において用いる「低級置換基(lower substituent)」または「低級置換基(lower substituent group)」とは、「置換基」について前述したすべての置換基から選択される基を意味し、ここで置換または非置換アルキルはそれぞれ置換または非置換C1-C8アルキルであり、置換または非置換ヘテロアルキルはそれぞれ置換または非置換の2から8員ヘテロアルキルであり、置換または非置換シクロアルキルはそれぞれ置換または非置換C5-C7シクロアルキルであり、かつ置換または非置換ヘテロシクロアルキルはそれぞれ置換または非置換の5から7員ヘテロシクロアルキルである。
【0076】
「薬学的に許容される塩」なる用語は、本明細書に記載の化合物において見られる特定の置換基に応じて、比較的非毒性の酸または塩基を用いて調製される活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性型を十分な量の所望の塩基と、ニートまたは適切な不活性溶媒中のいずれかで接触させることにより、塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩の例には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、有機アミノ塩、もしくはマグネシウム塩、または類似の塩が含まれる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性型を十分な量の所望の酸と、ニートまたは適切な不活性溶媒中のいずれかで接触させることにより、酸付加塩を得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、硫酸、一水素硫酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などの無機酸から誘導されるもの、ならびに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的非毒性の有機酸から誘導される塩が含まれる。同様に、アルギネートなどのアミノ酸の塩、およびグルクロン酸またはガラクツロン酸などの有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge et al., "Pharmaceutial Salts", Journal of Pharmaceutical Science, 1977, 66, 1-19を参照されたい)。本発明のある特定の化合物は、化合物を塩基または酸付加塩のいずれかに変換しうる、塩基性および酸性官能基の両方を含む。
【0077】
したがって、本発明の化合物は薬学的に許容される酸との塩として存在してもよい。本発明はそのような塩を含む。そのような塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、硝酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩(例えば(+)-酒石酸塩、(-)-酒石酸塩、またはラセミ混合物を含むその混合物、コハク酸塩、安息香酸塩およびグルタミン酸などのアミノ酸との塩が含まれる。これらの塩は当業者には公知の方法によって調製してもよい。
【0078】
化合物の中性型は好ましくは、塩を塩基または酸と接触させ、親化合物を通常の様式で単離することによって再生する。化合物の親型は、極性溶媒への溶解性などの特定の物理的性質において様々な塩型と異なる。
【0079】
塩型に加えて、本発明はプロドラッグ型の化合物を提供する。本明細書に記載の化合物のプロドラッグは、生理的条件下で容易に化学変化を受けて本発明の化合物を提供する化合物である。加えて、プロドラッグはエクスビボ環境において化学的または生化学的方法により本発明の化合物へと変換することができる。例えば、プロドラッグは、適切な酵素または化学試薬と共に経皮パッチレザバー内に入れると、本発明の化合物へとゆっくり変換することができる。
【0080】
本発明の特定の化合物は、非溶媒和型ならびに水和型を含む溶媒和型で存在することができる。一般に、溶媒和型は非溶媒和型と等価であり、本発明の範囲内に含まれる。本発明の特定の化合物は、複数の結晶型または非結晶型で存在してもよい。一般に、すべての物理的な型は本発明によって企図される使用に関して等価であり、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0081】
本発明の特定の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有し;ラセミ体、ジアステレオマー、互変異性体、幾何異性体、および個々の異性体は本発明の範囲内に含まれる。本発明の化合物には、当技術分野において合成および/または単離するには不安定すぎることが公知のものは含まれない。
【0082】
また、本発明の化合物は、そのような化合物を構成する1つまたは複数の原子において、非天然な比率の原子同位体を含んでいてもよい。例えば、化合物を、例えばトリチウム(3H)、ヨウ素125(125I)または炭素14(14C)などの放射性同位体で放射標識しうる。本発明の化合物のすべての同位体変異体は、放射性であるかないかに関わらず、本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(a)SB431542およびPD0325901の組み合わせ処理を4TFと共に用いてのヒトiPSC誘導のタイムライン。処理を4TF形質導入の7日後に細胞を再播種することで開始し、7日間維持した。
【図1B】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(b)7日以内に未処理(左)または2化合物処理した(右)培養物中に現れたALP+コロニーの染色。
【図1C】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(c)2化合物処理した培養物中の多能性マーカーOCT4およびNANOGの内因性mRNA発現上昇を示すRT-PCR。
【図1D】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(d)2化合物処理なし(左)または処理した(右)、第14日のTRA-1-81染色。スケールバー、50μm。
【図1E】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(e)異なる処理条件下での第14日のNANOG+コロニーの数をプロットしている。
【図1F】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(f)D14 iPSCによって示されたhESC特異的マーカー(NANOGおよびSSEA4)の典型的染色。スケールバー、50μm。
【図2A】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(a)SB431542、PD0325901およびチアゾビビンを用いてのヒトiPSC誘導のタイムライン。
【図2B】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(b)第30日のiPSCは多能性マーカーNANOG、SSEA4およびTRA-1-81を発現した。スケールバー、50μm。
【図2C】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(c)3化合物処理した(上図)または処理なし(下図)の、第30日の培養物のALP染色。左図の囲んだ領域を右図で拡大している。スケールバー、200μm。
【図2D】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(d)異なる処理条件下、分割なしでの、第30日のNANOG+コロニーの数。
【図2E】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(e)示したとおりにトリプシン処理した、3化合物処理培養物からの、第30日のNANOG+コロニーの数。
【図2F】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(f)3化合物処理により得られたiPSCコロニーのRT-PCRは内因性多能性マーカーの再活性化発現を示す。HDF:ヒト皮膚線維芽細胞。
【図3】図3は、3化合物処理により生成されたiPSCのインビトロおよびインビボでの分化を示す図である。(a)顕微鏡写真は、iPSCから生じた胚様体(EB)ならびにインビトロでの外胚葉(βIIIチューブリン)、中胚葉(ブラキュリ)および内胚葉(PDX1)細胞型への分化を示している。スケールバー、EB:100μm;その他:10μm。(b)分化した細胞における代表的な系統マーカーの発現およびOCT4 mRNA発現のないことを示すRT-PCR。U-未分化、D-分化。(c)ヌードマウスにおいてiPSC(試験した3つの独立のコロニー)から生じた奇形腫は3つすべての胚葉に由来する組織からなる。左図:1-筋肉、2-神経上皮;中図:1-皮膚、2-腸上皮;右図:1-骨、2-軟骨。スケールバー、20μm。
【図4】図4は、化合物処理がiPS細胞生成を用量依存的様式で増強したことを示す図である。
【図5】図5は、チアゾビビンの化学構造を示す図である。
【図6A】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6B】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6C】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6D】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6E】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6F】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図7】図7は、化合物処理を通じて生成された安定に増殖したiPS細胞が、正常な核型を示したことを示す図である。
【図8A】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(a)0.5μM PD0325901(PD)および0.5μM A-83-01(A83)による処理は、4TF(4F、OKSM)または3TF(3F、OKS)のいずれかを形質導入した初代ヒト角化細胞からのiPSCの生成を有意に改善した。NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種した。
【図8B】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(b)さらなる化学的スクリーニングにより、2TF(OK)を形質導入した初代ヒト角化細胞の再プログラム化を実質的に増強しうるPS48、NaB、およびそれらの組み合わせを同定した。NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種した。
【図8C】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(c)1つの再プログラム化遺伝子であるOCT4を形質導入した初代ヒト角化細胞からのヒトiPSC生成の実験スキーム。KCM、角化細胞培養培地;hESCM、ヒトESC培養培地。
【図8D】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(d)コロニー回収前の2TF/OKまたは1TF/OCT4を形質導入した初代ヒト角化細胞から生成したiPSCコロニーのTRA-1-81による生細胞免疫染色。
【図8E】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(e)樹立ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞は、ALP(アルカリ性ホスファターゼ)、OCT4、SOX2、NANOG、SSEA-4およびTRA-1-81を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図9A】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(a)内因性多能性遺伝子ならびに外因性OCT4およびKLF4のRT-PCRによる発現解析。GAPFHはインプット対照として用いた。
【図9B】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(b)バイサルフェート(bisulfate)ゲノムシーケンシングによるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化解析。白丸および黒丸はそれぞれプロモーター領域における非メチル化およびメチル化CpGを示している。
【図9C】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(c)iPSC-O細胞とNHEKおよびhESCとの間の包括的遺伝子発現パターンを比較する散乱プロット。多能性遺伝子OCT4、NANOG、およびSOX2の位置を矢印で示している。黒線は試料間の遺伝子発現レベルにおける線形の等価および二倍の変化を示す。
【図9D】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(d)ヒトiPSC-OKおよびiPSC-Oは、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図9E】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(e)EB法を用いた、分化したヒトiPSCからの3つの胚葉マーカーの定量的PCR試験:外胚葉(PAX6、βIIIチューブリン)、中胚葉(FOXF1、HAND1)および内胚葉(AFP、GATA6)。データは未分化親ヒトiPSCに対するGAPDHで正規化した変化倍数を示す。
【図9F】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(f)SCIDマウスにおいて、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-Oは有効に完全奇形腫を生じることができ、これは3つの胚葉に分化した細胞を含む。
【図10A】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(a)OCT4を形質導入したHUVECからのヒトiPSC生成の実験スキーム。HCM、HUVEC培地;hESCM、ヒトESC培地。
【図10B】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(b)HUVECから樹立したhiPSC-O細胞は、NANOGおよびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図10C】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(c)内因性多能性遺伝子のRT-PCRによる発現解析。GAPDHをインプット対照として用いた。
【図10D】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(d)バイサルフェートゲノムシーケンシングによるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化解析。白丸および黒丸はそれぞれプロモーター領域における非メチル化およびメチル化CpGを示している。
【図10E】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(e)HUVECからのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図10F】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(f)SCIDマウスにおいて、hiPSC-O細胞は有効に完全奇形腫を生じることができ、これは3つの胚葉に分化した細胞を含む。
【図11】図11は、AHEKからのヒトiPSC-O細胞の特徴づけを示す図である。(a)成人角化細胞から樹立したhiPSC-O細胞は、NANOG、SOX2およびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。(b)これらのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図12】図12は、AFDCからのヒトiPSC-O細胞の特徴づけを示す図である。(a)羊水由来細胞から樹立したhiPSC-O細胞は、NANOG、SOX2およびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。(b)これらのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図13】図13は、さらなるhiPSC細胞株が典型的な多能性マーカーを発現することを示す図である。他の樹立hiPSC-O細胞株は、NANOGおよびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図14】図14は、hiPSC細胞株の無フィーダー培養を示す図である。hiPSCをMatrigel/ECMコーティングしたプレート上、以前に報告された化学的に規定されたhESC培地中に分割した。これらのhiPSCは無フィーダー環境で維持し、増殖させることができた。ICCは多能性マーカーであるOCT4およびSSEA4の発現を示した。核をDAPIで染色した。
【図15】図15は、hiPSCの遺伝子型解析を示す図である。ゲノムDNAを用いてのRT-PCR解析は、OCT4導入遺伝子のみがhiPSC-O株(hiPSC-O#1、hiPSC-O#3、hiPSC-O#21、hiPSC-O#26およびhiPSC-O#31)のゲノムに組み込まれたことを示している。NHEK(a)およびHUVEC(b)を陰性対照として用い、ベクターを陽性対照として用いた。
【図16】図16は、hiPSCへのOCT4導入遺伝子の組み込みを示す図である。ゲノムDNA(10μg)をEcoRIで消化し、OCT4 cDNAプローブ(pSin-EF2-OCT4-PurのEcoRI/SpeI断片)とハイブリダイズさせた。複数の導入遺伝子組み込みが検出された。
【図17】図17は、hiPSC細胞株の核型解析を示す図である。hiPSC-O#1(a)およびhiPSC-O#21(b)の中期スプレッドは、15回の継代後に正常な核型を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
発明の詳細な説明
I. 序論
本発明は、ALK5阻害剤、MEK阻害剤、およびROCK阻害剤の組み合わせが、4つの転写因子で形質転換された非多能性哺乳動物細胞において、多能性誘導の効率を大きく改善するという驚くべき発見に基づいている。したがって、本発明は、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導する方法であって、非多能性細胞を少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤と、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤との、および特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤との組み合わせで接触させる段階を含む方法を提供する。
【0085】
II. TGFβ受容体/ALK5阻害剤
アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK-5)はTGF-βに対する細胞応答を仲介する主要なTGFβ受容体である(Massague J. Annu Rev Biochem 67:753-791 (1998);Massague J, Chen YG. Genes Dev 14:627-644 (2000);Franzen P, et al., Cell 75:681-692 (1993))。リガンド結合後、構成性に活性なTβRIIキナーゼはALK-5をリン酸化し、これは次いで下流のシグナル伝達カスケードを活性化する。ALK-5により活性化されるSmad2およびSmad3リン酸化は最も顕著な経路である(Massague J, Chen YG. Genes Dev 14:627-644 (2000))。いったん活性化されると、Smad2/3はSmad4と会合して核に移行し、ここで複合体は標的遺伝子発現を転写的に調節する。
【0086】
TGFβ受容体(すなわちALK5)阻害剤には、TGFβ受容体(例えば、ALK5)の抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体、ならびにTGFβ受容体の発現を抑制するsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤には、SB431542(例えば、Inman, et al., Molecular Pharmacology 62(1):65-74 (2002)参照)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとしても公知のA-83-01(例えば、Tojo, et al., Cancer Science 96(11):791-800 (2005)を参照されたく、例えば、Toicris Bioscienceから市販されている);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、BMP4(Dalton、上記参照)、GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibert, et al., Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221 (2006)参照)、SM16(例えば、Suzuki, et al., Cancer Research 67(5):2351-2359 (2007)参照)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kim, et al., Xenobiotica 38(3):325-339 (2008)参照)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouville, et al., Drug News Perspective 19(2):85-90 (2006)参照)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド)(例えば、DaCosta, et al., Molecular Pharmacology 65(3):744-752 (2004)参照)およびピリミジン誘導体(例えば、Stiefl, et al., WO2008/006583に挙げられているものを参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)が含まれるが、それらに限定されない。さらに、「ALK5阻害剤」は非特異的キナーゼ阻害剤を含むことを意図していないが、「ALK5阻害剤」は、例えば、SB-431542(例えば、Inman, et al., J, Mol. Phamacol. 62(1):65-74 (2002)参照などの、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤を含むことが理解されるはずである。
【0087】
ALK5を阻害する効果を示す本明細書のデータを考慮して、TGFβ/アクチビン経路の阻害は同様の効果を有するであろうと考えられる。したがって、TGFβ/アクチビン経路の任意の阻害剤(例えば、上流または下流)を、本明細書の各パラグラフに記載のALK5阻害剤と組み合わせて、またはそのALK5阻害剤の代わりに用いることができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤には、TGFβ受容体阻害剤、SMAD 2/3リン酸化の阻害剤、SMAD 2/3およびSMAD 4の相互作用の阻害剤、ならびにSMAD 6およびSMAD 7の活性化剤/アゴニストが含まれるが、それらに限定されない。さらに、以下に記載する分類は単に組織化を目的とするものであり、当業者であれば化合物は経路内の1つまたは複数の点に影響をおよぼすことができ、したがって化合物は規定の範疇の1つより多くにおいて機能しうることを承知しているであろう。
【0088】
TGFβ受容体阻害剤には、TGFβ受容体の抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体、およびTGFβ受容体を標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸が含まれうる。阻害剤の具体例には、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド(SB-505124);レルデリムマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリベック;3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;およびTGFβ受容体を標的とするアンチセンス形質移入腫瘍細胞が含まれるが、それらに限定されない。(例えば、Wrzesinski, et al., Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270 (2007);Kaminska, et al., Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337 (2005);およびChang, et al., Frontiers in Bioscience 12:4393-4401 (2007)参照。加えて、発明者らはTGFβ阻害剤BMP-4およびBMP-7が実施例に記載のALK5阻害剤と同様の細胞再プログラム化効果を有することを見いだし、それによりTGFβ阻害剤を再プログラム化のために用いうる(例えば、MEK/ERK経路阻害剤およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤との組み合わせで)とのさらなる証拠を提供する。例示的なヒトBPM-4およびBPM-7タンパク質配列は、例えば、米国特許第7,405,192号に示されている。
【0089】
SMAD 2/3リン酸化の阻害剤には、SMAD2またはSMAD3の抗体、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸が含まれうる。阻害剤の具体例には、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)が含まれる。(例えば、Wrzesinski、上記;Kaminska、上記;Shimanuki, et al., Oncogene 26:3311-3320 (2007);およびKataoka, et al., EP1992360を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる。)
【0090】
SMAD 2/3およびsmad4の相互作用の阻害剤には、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4の抗体、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD2、SMAD3および/またはsmad4を標的とするアンチセンス核酸が含まれうる。SMAD 2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤の具体例には、Trx-SARA、Trx-xFoxH1bおよびTrx-Lef1が含まれるが、それらに限定されない。(例えば、Cui, et al., Oncogene 24:3864-3874 (2005)およびZhao, et al., Molecular Biology of the Cell, 17:3819-3831 (2006)参照。)
【0091】
SMAD 6およびSMAD 7の活性化剤/アゴニストには、SMAD 6またはSMAD 7の抗体、SMAD 6またはSMAD 7のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD 6またはSMAD 7を標的とするアンチセンス核酸が含まれるが、それらに限定されない。阻害剤の具体例には、smad7-as PTO-オリゴヌクレオチドが含まれるが、それらに限定されない。例えば、Miyazono, et al., US6534476、およびSteinbrecher, et al., US2005119203を参照されたく、いずれも参照により本明細書に組み入れられる。
【0092】
当業者であれば、TGFβ受容体/ALK5阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。一般に、細胞培養物中のTGFβ受容体/ALK5阻害剤の濃度はIC20〜IC100の範囲となる(すなわち、細胞において20%阻害から100%阻害が達成される濃度)。例えば、SB432542は0.5〜10μM、最適には約1〜5μMで用いる。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるTGFβ受容体/ALK5阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0093】
III. MEK/ERK経路阻害剤
MEK/ERK経路とは、シグナル伝達経路の一部を構成するMEKおよびERKセリン/トレオニンキナーゼを指す。一般に、活性化RasはRAFキナーゼのタンパク質キナーゼ活性を活性化する。RAFキナーゼはMEKをリン酸化して活性化し、これは次いでマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)をリン酸化して活性化する。MAPKは元は「細胞外シグナル調節キナーゼ」(ERK)および微小管結合タンパク質キナーゼ(MAPK)と呼ばれていた。したがって、「ERK」および「MAPK」は同義に用いられる。
【0094】
MEK/ERK経路阻害剤とは、Raf/MEK/ERK経路の一部であるMEKまたはERKのいずれかの阻害剤を指す。発明者らはMEK阻害剤がiPSCの誘導を改善する上で有効であることを見いだしたため、またMEKはERK活性を直接制御するため、本発明に関して記載するMEK阻害剤は望まれる場合にはERK阻害剤で置き換えることができると考えられる。
【0095】
MEKの阻害剤(すなわち、MEK1(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ1としても公知)および/またはMEK2(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ2としても公知))には、MEKの抗体、MEKのドミナントネガティブ変異体、ならびにMEKの発現を抑制するsiRNAおよびsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。MEK阻害剤の具体例には、PD0325901、(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22: 4456-4462 (2004)参照)、PD98059(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、SL 327(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えば、Array Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えば、Klein, et al., Neoplasia 8:1-8 (2006)参照)、PD184352(CI-1040)(例えば、Mattingly, et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 316:456-165 (2006)参照)、スニチニブ(例えば、Voss, et al., US2008004287を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、ソラフェニブ(Voss上記参照)、バンデタニブ(Voss上記参照)、パゾパニブ(例えば、Voss上記参照)、アキシチニブ(Voss上記参照)およびPTK787(Voss上記参照)が含まれるが、それらに限定されない。
【0096】
現在のところ、いくつかのMEK阻害剤が臨床試験の評価を受けている。CI-1040は癌についての第I相および第II相臨床試験で評価が行われた(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22(22):4456-4462 (2004)参照)。臨床試験で評価中の他のMEK阻害剤には、PD184352(例えば、English, et al., Trends in Pharmaceutical Sciences 23(1):40-45 (2002)参照)、BAY 43-9006(例えば、Chow, et al., Cytometry (Communications in Clinical Cytometry) 46:72-78 (2001)参照)、PD-325901(同じくPD0325901)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEA119、AZD6244(同じくARRY-142886またはARRY-886)、RO5126766、XL518およびAZD8330(同じくARRY-704)が含まれる。(例えば、ウェブ上のclinicaltrials.govにある国立衛生研究所からの情報ならびにウェブ上のcancer.gov/clinicaltrialsにある国立癌研究所の情報を参照されたい。
【0097】
例示的なERK(すなわち、ERK1(MAPK3としても公知)および/またはERK2(MAPK1としても公知))阻害剤には、PD98059(例えば、Zhu, et al., Oncogene 23:4984-4992 (2004)参照)、U0126(Zhu、上記参照)、FR180204(例えば、Ohori, Drug News Perspective 21(5):245-250 (2008)参照)、スニチニブ(例えば、US2008004287を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、ソラフェニブ、バンデタニブ、パゾパニブ、アキシチニブおよびPTK787が含まれる。
【0098】
当業者であれば、MEK/ERK経路阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるMEK/ERK経路阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0099】
IV. Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤
本発明は、Rho-GTPアーゼ/ROCK経路の阻害剤の使用およびそれらを含む組成物を提供する。この経路は下流タンパク質ミオシンIIを含み、これはROCKのさらに下流である(Rho-ROCK-ミオシンIIは経路/軸を形成する)。したがって、本明細書に記載の効果を達成するために、Rho GTPアーゼ阻害剤、ROCK阻害剤、またはミオシンII阻害剤のいずれか、またはすべてを用いることができる。当業者であれば、Rho-GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。さらなる態様において、2つまたはそれ以上の異なるRho-GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0100】
いかなるRho GTPアーゼも本発明の方法および組成物において有効であるはずである。Rho GTPアーゼの阻害剤には、Rho GTPアーゼに結合する抗体、Rho GTPアーゼのドミナントネガティブ変異体、ならびにRho GTPアーゼを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なRho GTPアーゼ阻害剤は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)C3毒素である。
【0101】
いかなるミオシンII阻害剤も本発明の方法および組成物において有効であるはずである。ミオシンIIの阻害剤には、ミオシンIIに結合する抗体、ミオシンIIのドミナントネガティブ変異体、ならびにミオシンIIを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なミオシンII阻害剤はブレビスタチンである。発明者らは、実施例の項に記載の混合物および方法において、効果は低下するもののブレビスタチンをSB431542(ALK5阻害剤)の代わりに用いうることを見いだした。他の阻害剤には、米国特許第7,585,844号に記載のものが含まれるが、それらに限定されない。
【0102】
本明細書において用いる「ROCK」とは、Rhoの下流で作用するセリン/トレオニンキナーゼを指す。ROCK I(ROKβまたはp160ROCKとも呼ぶ)およびROCK II(ROKαまたはRhoキナーゼとも呼ぶ)はいずれもRhoAによって調節される。例えば、Riento, K. and Ridley, A.J., Nat. Rev. Mol. Cell. Biol, 4, 446-456 (2003)参照。「ROCK阻害剤」とは、ROCKの両方またはいずれかを阻害する物質を指す。ROCKの阻害剤には、ROCKに結合する抗体、ROCKのドミナントネガティブ変異体、ならびにROCKを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。いくつかの例示的なROCK阻害剤には、国際公開公報:第98/06433号、第00/78351号、第01/17562号、第02/076976号、第02/076977号、第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号、第2004/039796号、第03/082808号、第05/035506号、第05/074643号および米国特許出願:第2005/0209261号、第2005/0192304号、第2004/0014755号、第2004/0002508号、第2004/0002507号、第2003/0125344号および第2003/0087919号が含まれるが、それらに限定されない。ROCK阻害剤には、例えば、(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、またはWf536;4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-(4-ピリジル)ベンズアミドモノヒドロクロリドまたはファスジル;5-(ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イルスルホニル)イソキノリンヒドロクロリドまたは化合物1;4-[(トランス-4-アミノシクロヘキシル)アミノ]-2,5-ジフルオロベンズアミドまたは化合物2;4-[(トランス-4-アミノシクロヘキシル)アミノ]-5-クロロ-2-フルオロベンズアミドまたは化合物3;2-[4-(1H-インダゾル-5-イル)フェニル]-2-プロパンアミンジヒドロクロリドまたは化合物4;N-(3-メトキシベンジル)-4-(4-ピリジル)ベンズアミド、Y-27632(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、ファスジル(HA1077とも呼ぶ)(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、sc-3536(例えば、Darenfed, H., et al. Cell Motil. Cytoskeleton. 64: 97-109, 2007参照)、H-1152(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol 52(4): 319-324 (2003)参照)、Y-30141(米国特許第5,478,838号に記載)およびその誘導体、ならびにROCKのアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、抗体-ScFV断片、ドミナントネガティブ変異体およびその発現ベクターが含まれる。
【0103】
前述の化合物は、必要に応じて、薬学的に許容される無機酸または有機酸との酸付加塩として作成してもよい。酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸およびグルタミン酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ジヒドロキシベンゼンスルホン酸などのスルホン酸との塩が含まれる。
【0104】
化合物およびその酸付加塩はその無水物、水和物または溶媒和物であってもよい。
【0105】
本発明を実施するために、ROCK阻害剤は一般に、阻害剤がRhoキナーゼ(ROCK)の機能を阻害しうるかぎり、限定なく適切であり、適切な阻害剤にはY-27632(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、sc-3536(例えば、Darenfed, H., et al. Cell Motil. Cytoskeleton. 64: 97-109, 2007参照)、ファスジル(HA1077とも呼ぶ)(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、H-1152(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)、Y-30141(米国特許第5,478,838号に記載)およびその誘導体、ならびにROCKのアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、抗体-ScFV断片、ドミナントネガティブ変異体およびその発現ベクターが含まれる。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として公知であるため、そのような化合物またはその誘導体も本発明において用いることができる(例えば、米国特許出願第20050209261号、第20050192304号、第20040014755号、第20040002508号、第20040002507号、第20030125344号および第20030087919号、ならびに国際公開公報第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号および第2004/039796号参照)。本発明において、ROCK阻害剤の1つまたは2つまたはそれ以上の組み合わせを用いることもできる。
【0106】
さらなるROCK阻害剤には、例えば、HA1100、3-(4-ピリジル)-1H-インドールおよびN-(4-ピリジル)-N'-(2,4,6-トリクロロフェニル)尿素が含まれ、これらはそれぞれ市販されている(例えば、Alexis Biochemicals (Plymouth Meeting, PA)から)。
【0107】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式(I)において、環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0108】
L1は-C(O)-NR2-または-NR2-C(O)-である。L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンである。
【0109】
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0110】
いくつかの態様において、環Aは置換または非置換アリールである。環Aは置換または非置換フェニルであってもよい。
【0111】
他の態様において、環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。環Bは置換または非置換ヘテロアリールであってもよい。さらに他の態様において、環Bは置換もしくは非置換ピラゾリル、置換もしくは非置換フラニル、置換もしくは非置換イミダゾリル、置換もしくは非置換イソキサゾリル、置換もしくは非置換オキサジアゾリル、置換もしくは非置換オキサゾリル、置換もしくは非置換ピロリル、置換もしくは非置換ピリジル、置換もしくは非置換ピリミジル、置換もしくは非置換ピリダジニル、置換もしくは非置換チアゾリル、置換もしくは非置換トリアゾリル、置換もしくは非置換チエニル、置換もしくは非置換ジヒドロチエノ-ピラゾリル、置換もしくは非置換チアナフテニル、置換もしくは非置換カルバゾリル、置換もしくは非置換ベンゾチエニル、置換もしくは非置換ベンゾフラニル、置換もしくは非置換インドリル、置換もしくは非置換キノリニル、置換もしくは非置換ベンゾトリアゾリル、置換もしくは非置換ベンゾチアゾリル、置換もしくは非置換ベンゾオキサゾリル、置換もしくは非置換ベンズイミダゾリル、置換もしくは非置換イソキノリニル、置換もしくは非置換イソインドリル、置換もしくは非置換アクリジニル、置換もしくは非置換ベンゾイサゾリル、または置換もしくは非置換ジメチルヒダントインである。
【0112】
L2は置換または非置換C1-C10アルキルであってもよい。いくつかの態様において、L2は非置換C1-C10アルキルである。L2は置換または非置換メチレン(例えば、非置換メチレン)であってもよい。
【0113】
R2は水素であってもよい。R1は水素または非置換C1-C10アルキルであってもよい。いくつかの態様において、R1は単純に水素である。
【0114】
式(I)のいくつかの態様において、環Aは置換または非置換アリールであり、環Bは置換または非置換ヘテロアリールであり、R1は水素であり、かつL2は非置換C1-C10アルキルである。
【0115】
別の態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式(II)において、yは0から3の整数であり、かつzは0から5の整数である。Xは-N=、-CH=または-CR4=である。R1およびL2は式(I)の定義において上で定義したとおりである。
【0116】
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよい。
【0117】
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0118】
いくつかの態様において、L2は置換または非置換C1-C10アルキルである。L2は非置換C1-C10アルキルであってもよい。または、L2は置換または非置換メチレン(例えば、非置換メチレン)である。
【0119】
他の態様において、Xは-N=または-CH=である。記号zは2であってもよい。さらに他の態様において、隣接する頂点の2つのR3部分は一緒になって置換または非置換ヘテロシクロアルキルを形成する。記号zは1であってもよい。記号yは0または1であってもよい。R3は-OR18であってもよい。R18は水素または非置換C1-C10アルキルであってもよい。
【0120】
いくつかの態様において、L2は置換または非置換メチレン(例えば、置換メチレン)であり、Xは-N=または-CH=であり、R1は水素であり、かつyおよびzは0である。
【0121】
他の態様において、化合物は以下の式を有する。
【0122】
V. GSK3阻害剤
様々な態様において、1つまたは複数のGSK3阻害剤が本発明の方法、混合物およびキットに含まれうる。発明者らは、GSK3阻害剤を少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤と共に、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤と組み合わせて、特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤と組み合わせて含むことを見いだした。GSK3の阻害剤には、GSK3に結合する抗体、GSK3のドミナントネガティブ変異体、ならびにGSK3を標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。GSK3阻害剤の具体例には、ケンパウロン、1-アザケンパウロン、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418(例えば、Gould, et al., The International Journal of Neuropsychopharmacology 7:387-390 (2004)参照)、CT 99021(例えば、Wagman, Current Pharmaceutical Design 10:1105-1137 (2004)参照)、CT 20026(Wagman、上記参照)、SB216763(例えば、Martin, et al., Nature Immunology 6:777-784 (2005)参照)、AR-A014418(例えば、Noble, et al., PNAS 102:6990-6995 (2005)参照)、リチウム(例えば、Gould, et al., Pharmacological Research 48: 49-53 (2003)参照)、SB 415286(例えば、Frame, et al., Biochemical Journal 359:1-16 (2001)参照)およびTDZD-8(例えば、Chin, et al., Molecular Brain Research, 137(1-2):193-201 (2005)参照)が含まれるが、それらに限定されない。Calbiochemから入手可能なさらなる例示的なGSK3阻害剤(例えば、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)には、BIO (2'Z,3'£)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(GSK3阻害剤IX);BIO-アセトキシム (2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-アセトキシム(GSK3阻害剤X);(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン(GSK3阻害剤XIII);ピリドカルバゾール-シクロペナジエニルルテニウム錯体(GSK3阻害剤XV);TDZD-8 4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(GSK3β阻害剤I);2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(1-ピリジル)-[1,3,4]-オキサジアゾール(GSK3β阻害剤II);OTDZT 2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン(GSK3β阻害剤III);α-4-ジブロモアセトフェノン(GSK3β阻害剤VII);AR-AO 14418 N-(4-メトキシベンジル)-N'-(5-ニトロ-1,3-チアゾル-2-イル)尿素(GSK-3β阻害剤VIII);3-(1-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン(GSK-3β阻害剤XI);TWS1 19 ピロロピリミジン化合物(GSK3β阻害剤XII);L803 H-KEAPPAPPQSpP-NH2またはそのミリストイル化型(GSK3β阻害剤XIII);2-クロロ-1-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン(GSK3β阻害剤VI);AR-AO144-18;SB216763;およびSB415286が含まれるが、それらに限定されない。阻害剤と相互作用するGSK3bの残基が同定されている。例えば、Bertrand et al., J. Mol Biol. 333(2): 393-407 (2003)参照。GSK3阻害剤は、例えば、Wnt/β-カテニン経路を活性化することができる。β-カテニン下流遺伝子の多くは多能性遺伝子ネットワークを同時調節する。例えば、GSK阻害剤はcMyc発現を活性化し、ならびにそのタンパク質安定性および転写活性を増強する。したがって、いくつかの態様において、GSK3阻害剤を細胞内の内因性MYCポリペプチドを刺激するために用いることができ、それにより多能性を誘導するためにMYC発現の必要性をなくす。
【0123】
当業者であれば、GSK3阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるGSK3阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0124】
VI. 多能性を誘導する方法
今日までに、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)へと誘導するための多くの異なる方法およびプロトコルが確立されている。本明細書に記載の物質は、iPSCを生成するための基本的に任意のプロトコルとの組み合わせで用い、それによりプロトコルの効率を改善することができると考えられる。したがって、本発明は、iPSC細胞を生成するための任意のプロトコルと組み合わせての、非多能性細胞の、少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤とのインキュベーション、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤、および特定の態様において、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤と組み合わせてのインキュベーションを提供する。プロトコルの選択を以下に記載し、それぞれはプロトコルの効率を改善するために本発明の物質と組み合わせることができると考えられる。
【0125】
iPSC生成プロトコルの効率の改善は、プロトコルおよび本発明のどの物質を用いるかに依存する。いくつかの態様において、効率は、本発明の物質(すなわち、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤)を含まない同じプロトコルと比較して、少なくとも10%、20%、50%、75%、100%、150%、200%、300%またはそれ以上改善される。効率は特定の時間枠内で生成されたiPSCの数またはiPSCが生成されるスピードの改善に関して評価する。
【0126】
試験により、ESCにおいて高度に発現される4つの転写因子(Oct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Myc)をマウス線維芽細胞にレトロウイルス形質導入すると、誘導多能性幹(iPS)細胞を生成することが明らかにされている。Takahashi, K. & Yamanaka, S. Cell 126, 663-676 (2006);Okita, K., Ichisaka, T. & Yamanaka, S. Nature 448, 313-317 (2007);Wernig, M. et al. Nature 448, 318-324 (2007);Maherali, N. et al. Cell Stem Cell 1, 55-70 (2007);Meissner, A., Wernig, M. & Jaenisch, R. Nature Biotechnol. 25, 1177-1181 (2007);Takahashi, K. et al. Cell 131, 861-872 (2007);Yu, J. et al. Science 318, 1917-1920 (2007);Nakagawa, M. et al. Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007);Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P. & Jaenisch, R. Cell Stem Cell. 2, 10-12 (2008)参照。iPS 細胞は、奇形腫形成およびキメラ寄与率により判断して、形態、増殖、および多能性においてESCと類似している。
【0127】
前述のとおり、元のプロトコルは非多能性細胞への4つの転写因子の導入を含んでいたが、最近になっていくつかの転写因子を省略しうることが判明した。したがって、いくつかの態様において、プロトコルはOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、または3つを非多能性細胞に、非多能性細胞がiPSCになることを可能にする条件下で導入することを含む。例えば、Maherali and Konrad Hochedlinger, "Tgfβ Signal Inhibition Cooperates in the Induction of iPSCs and Replaces Sox2 and cMyc" Current Biology (2009)およびWO/2009/117439はそれぞれ、多能性を誘導するのに4つの転写因子すべてを必要とするわけではないプロトコルを記載している。さらに、発明者らは、Oct4だけを細胞に導入し、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤と共にインキュベートすることにより、iPSCを生成しうることを見いだした。例えば、十分な量のSB431542、PD0325901、Tzv、およびバルプロ酸または酪酸ナトリウム存在下、外因性Oct4を哺乳動物細胞に導入すると、iPSC細胞をうまく生成した。
【0128】
例示的なHDAC阻害剤には、1つまたは複数のHDACに結合する抗体、HDACのドミナントネガティブ変異体、ならびにHDACを標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれうる。HDAC阻害剤には、TSA(トリコスタチンA)(例えば、Adcock, British Journal of Pharmacology 150:829-831 (2007)参照)、VPA(バルプロ酸)(例えば、Munster, et al., Journal of Clinical Oncology 25:18S (2007): 1065参照)、酪酸ナトリウム(NaBu)(例えば、Han, et al., Immunology Letters 108:143-150 (2007)参照)、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸またはボリノスタット)(例えば、Kelly, et al., Nature Clinical Practice Oncology 2:150-157 (2005)参照)、フェニル酪酸ナトリウム(例えば、Gore, et al., Cancer Research 66:6361-6369 (2006)参照)、デプシペプチド(FR901228、FK228)(例えば、Zhu, et al., Current Medicinal Chemistry 3(3):187-199 (2003)参照)、トラポキシン(TPX)(例えば、Furumai, et al., PNAS 98(1):87-92 (2001)参照)、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド1(CHAP1)(Furumai上記参照)、MS-275(例えば、Carninci, et al., WO2008/126932を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる))、LBH589(例えば、Goh, et al., WO2008/108741を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)およびPXD101(Goh、上記参照)が含まれるが、それらに限定されない。一般には、世界的レベルで、多能性細胞はより多くのヒストンアセチル化を有し、分化した細胞はヒストンアセチル化が少ない。ヒストンアセチル化はヒストンおよびDNAメチル化の調節にも関与している。いくつかの態様において、HDAC阻害剤はサイレンシングされた遺伝子の活性化を促進する。
【0129】
組み込まれた外来配列を有する標的細胞ゲノムから生じる安全性の問題に取り組むために、いくつかの改変した遺伝学的プロトコルがさらに開発されている。これらのプロトコルは潜在的にリスクが低減されたiPS細胞を作製し、再プログラム化遺伝子を送達するための非組み込みアデノウイルス(Stadtfeld, M., et al. (2008) Science 322, 945-949)、再プログラム化プラスミドの一過性形質移入(Okita, K., et al. (2008) Science 322, 949-953)、piggyBac転位システム(Woltjen, K., et al. (2009). Nature 458, 766-770, Kaji, K., et al. (2009) Nature 458, 771-775)、Cre切除可能ウイルス(Soldner, F., et al. (2009) Cell 136, 964-977)、およびoriP/EBNA1に基づくエピソーム発現システム(Yu, J., et al. (2009) Science DOI: 10.1126)を含む。さらに、特定の細胞型において内因性遺伝子発現を活用する戦略も、より容易な再プログラム化を可能にし、かつ/または外因性遺伝子の必要性が低かった(Shi, Y., et al. (2008b). Cell Stem Cell 2, 525-528;Aasen, T., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 1276-1284;Kim, J.B., et al. (2008). Nature 454, 646-650)。さらに、再プログラム化効率を増強し、特定の再プログラム化因子に置き換わる低分子が同定された(Shi, Y., et al. (2008) Cell Stem Cell 2, 525-528、Shi, Y., et al., (2008) Cell Stem Cell 3, 568-574、Li, W., et al. (2009) Cell Stem Cell 4, 16-19;Huangfu, D., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 1269-1275、Huangfu, D., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 795-797)。
【0130】
さらに、最近、転写因子が外因性タンパク質として非多能性細胞へと送達されて、iPSCを生成しうることが明らかにされている。例えば、WO/2009/117439;Zhou et al., Cell Stem Cell 4:381-384 (2009)参照。ポリペプチドをコードするポリペプチドの導入を含まない、いくつかの異なる方法によって、外因性ポリペプチド(すなわち、細胞の外部から提供され、かつ/または細胞によって産生されないタンパク質)を細胞に導入することができる。したがって、いくつかの態様において、非多能性細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤と、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤との、および特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤および1つまたは複数の外因性転写因子タンパク質、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つすべてとの組み合わせで、接触させる。
【0131】
関連するタンパク質因子を標的細胞に導入するための様々な様式が記載されている。1つの態様において、細胞へのポリペプチドの導入は、1つまたは複数の発現カセットを含むポリヌクレオチドを細胞に導入して発現を誘導し、それにより発現カセットからの転写および翻訳によりポリペプチドを細胞に導入することを含みうる。
【0132】
または、1つまたは複数のタンパク質を、標的細胞存在下、細胞へのタンパク質の導入を可能にする条件下で、単純に培養することもできる。例えば、Zhou H et al., Generation of induced pluripotent stem cells using recombinant proteins. Cell Stem Cell. 2009 May 8;4(5):381-4参照。いくつかの態様において、外因性タンパク質は、転写因子の細胞(およびいくつかの態様においては細胞核)に入る能力を増強するポリペプチドに連結(例えば、融合タンパク質として連結、またはそうでなければ共有結合もしくは非共有結合により連結)された、関心対象の転写因子ポリペプチドを含む。
【0133】
膜を越える輸送を増強するポリペプチド配列の例には、ショウジョウバエホメオタンパク質アンテナペディア転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al., New Biol. 3: 1121-34, 1991;Joliot et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 1864-8,1991;Le Roux et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 9120-4,1993)、単純ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O'Hare, Cell 88: 223-33,1997);HIV-1転写活性化因子TATタンパク質(Green and Loewenstein, Cell 55: 1179-1188, 1988;Frankel and Pabo, Cell 55: 1289-1193, 1988);米国特許第6,730,293号に記載のものなどの送達増強トランスポーター(少なくとも7〜25の近接アルギニンを含むペプチド配列を含むが、それに限定されない);ならびに市販のPenetratin(商標)1ペプチド、およびフランス、パリのDaitos S.A.から入手可能なVectocell(登録商標)プラットフォームのDiatos Peptide Vectors(「DPV」)が含まれるが、それらに限定されない。WO/2005/08418およびWO/2007/123667ならびにそれらにおいて記載される他のトランスポーターも参照されたい。これらのタンパク質が原形質膜を越えるだけでなく、本明細書に記載の転写因子などの他のタンパク質の接着は、これらの複合体の細胞取り込みを刺激するのに十分である。
【0134】
いくつかの態様において、本明細書に記載の転写因子ポリペプチドは、リポソーム、または市販のFugene6およびLipofectamineなどの脂質カクテルの一部として外因性に導入される。別の代替態様において、転写因子タンパク質は微量注入することもでき、またはそうでなければ標的細胞に直接導入することもできる。
【0135】
WO/2009/117439の実施例に記載のとおり、細胞を本発明の転写因子ポリペプチドと共に長時間インキュベートすることは細胞にとって有毒である。したがって、本発明は、非多能性哺乳動物細胞のKlfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドの1つまたは複数との間欠的インキュベーションであって、細胞インキュベーションの間の期間は1つまたは複数のポリペプチド非存在下であるインキュベーションを提供する。いくつかの態様において、ポリペプチド存在下および非存在下でのインキュベーションの周期は2、3、4、5、6回、またはそれ以上の回数繰り返すことができ、多能性細胞の発生を達成するのに十分な長さの期間(すなわち、タンパク質存在下および非存在下でのインキュベーション)実施する。方法の効率を改善するために、様々な物質(例えば、MEK/ERK経路阻害剤および/またはGSK3阻害剤および/またはTGFβ/ALK5阻害剤および/またはRho GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤)を含むことができる。
【0136】
様々な阻害剤(例えば、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、特定の態様において、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤、および/またはGSK3阻害剤など)を非多能性細胞に、プログラム化転写因子の送達(例えば、発現カセットにより、またはタンパク質として送達)の前、同時、または後のいずれかに接触させることができる。便宜上、再プログラム化因子を送達する日を「第1日」とする。いくつかの態様において、阻害剤を細胞に集合体で(すなわち、「カクテル」として)およそ第3〜7日に接触させ、7〜14日間続ける。または、いくつかの態様において、カクテルを細胞に第0日(すなわち、前プログラム化因子の前日)に接触させ、約14〜30日間インキュベートする。
【0137】
他の態様において、異なる阻害剤を異なる時点で加える。いくつかの態様において、再プログラム化因子の送達の1〜7日後に、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤(例えば、SB431542)およびROCK阻害剤の化合物の組み合わせと1〜8日間接触させた後、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤、ROCK阻害剤およびMEK/ERK経路阻害(例えば、PD0325901)と1〜8日間接触させる。この後、任意でTGFβ受容体/ALK5阻害剤およびMEK/ERK経路阻害剤と(ROCK阻害剤とは必ずしも接触させない)1〜4日間接触させた後、MEK/ERK経路阻害剤と(TGFβ受容体/ALK5阻害剤またはROCK阻害剤とは接触させない)接触させ、任意で最後に阻害剤を含まない基本(例えば、基本ヒト)ES培地と1〜4日間接触させることができる。他の組み合わせを用いることもできる。
【0138】
IV. 形質転換
本発明は、組換え遺伝学の分野における慣行的技術を用いる。本発明における使用の一般的方法を開示している基本の教科書には、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory Manual (3rd ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994))が含まれる。
【0139】
いくつかの態様において、細胞および発現させるタンパク質の種は同じである。例えば、マウス細胞を用いる場合、マウス相同分子種を細胞に導入する。ヒト細胞を用いる場合、ヒト相同分子種を細胞に導入する。
【0140】
細胞中で2つまたはそれ以上のタンパク質を発現させる場合、1つまたは複数の発現カセットを用いうることが理解されよう。例えば、1つの発現カセットが複数のポリペプチドを発現する場合、多シストロン性発現カセットを用いることができる。
【0141】
A. プラスミドベクター
特定の態様において、宿主細胞を形質転換するのに用いるために、プラスミドベクターが企図される。一般に、宿主細胞と適合性の種由来のレプリコンおよび制御配列を含むプラスミドベクターを、これらの宿主と関連して用いる。ベクターは複製部位、ならびに形質転換細胞において表現型選択を提供することができるマーキング配列を担持することができる。
【0142】
B. ウイルスベクター
特定のウイルスが持つ、受容体仲介エンドサイトーシスを介して細胞に感染する、または細胞に侵入する能力、および宿主細胞ゲノムに組み込まれて、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現する能力により、それらのウイルスは外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入するための魅力的な候補となっている。本発明の核酸を送達するために用いうるウイルスベクターの非限定例を以下に記載する。
【0143】
i. アデノウイルスベクター
核酸送達のための特定の方法はアデノウイルス発現ベクターの使用を含む。アデノウイルスベクターはゲノムDNAに組み込まれる能力が低いことが公知であるが、この特徴はこれらのベクターが提供する高効率の遺伝子導入によって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングを支持し、かつ(b)最終的にその中でクローン化された組織または細胞特異的構築物を発現するのに十分な、アデノウイルス配列を含む構築物を含むことを意味する。遺伝的構成またはアデノウイルス、すなわち約36kbの直鎖、二本鎖DNAウイルスの知識があれば、大きいアデノウイルスDNA片の7kbまでの外来配列による置換が可能である(Grunhaus et al., Seminar in Virology, 200(2):535-546, 1992))。
【0144】
ii. AAVベクター
アデノウイルス補助形質移入を用いて核酸を細胞に導入してもよい。形質移入効率の増大がアデノウイルス結合システムを用いた細胞システムで報告されている(Kelleher and Vos, Biotechniques, 17(6):1110-7, 1994;Cotten et al., Proc Natl Acad Sci USA, 89(13):6094-6098, 1992;Curiel, Nat Immun, 13(2-3):141-64, 1994.)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は高頻度の組み込みを有し、非分裂細胞に感染しうるため、魅力的なベクターシステムであり、したがって、例えば、組織培養中(Muzyczka, Curr Top Microbiol Immunol, 158:97-129, 1992)またはインビボで哺乳動物細胞に遺伝子を送達するのに有用となる。rAAVベクターの生成および使用に関する詳細は米国特許第5,139,941号および第4,797,368号に記載されており、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0145】
iii. レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、それらの遺伝子を宿主ゲノムに組み込み、大量の外来遺伝物質を導入し、広範囲の種および細胞型に感染する能力、および特定の細胞株にパッケージングされる能力があるため、遺伝子送達ベクターとして見込みがある(Miller et al., Am. J. Clin. Oncol., 15(3):216-221, 1992)。
【0146】
レトロウイルスベクターを作成するために、核酸(例えば、ある関心対象のコード遺伝子)をウイルスゲノムの特定のウイルス配列の位置に挿入して、複製に欠陥のあるウイルスを作製する。ビリオンを作製するために、gag、pol、およびenv遺伝子を含むが、LTRのないパッケージング細胞株およびパッケージング成分を作成する(Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。cDNAをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共に含む組換えプラスミドを特定の細胞株に導入すると(例えば、リン酸カルシウム沈澱により)、パッケージング配列は組換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子にパッケージングさせ、これらは次いで培地中に分泌される(Nicolas and Rubinstein, In: Vectors: A survey of molecular cloning vectors and their uses, Rodriguez and Denhardt, eds., Stoneham: Butterworth, pp. 494-513, 1988;Temin, In: Gene Transfer, Kucherlapati (ed.), New York: Plenum Press, pp. 149-188, 1986;Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。次いで、組換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意で濃縮し、遺伝子導入のために用いる。レトロウイルスベクターは多様な細胞型に感染することができる。しかし、組み込みおよび安定な発現は典型的には宿主細胞の分裂に関与する(Paskind et al., Virology, 67:242-248, 1975)。
【0147】
レンチウイルスは複雑なレトロウイルスで、これらは一般的なレトロウイルス遺伝子のgag、pol、およびenvに加えて、調節または構造機能を有する遺伝子を含む。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えば、Naldini et al., Science, 272(5259):263-267, 1996;Zufferey et al., Nat Biotechnol, 15(9):871-875, 1997;Blomer et al., J Virol., 71(9):6641-6649, 1997;米国特許第6,013,516号および第5,994,136号参照)。レンチウイルスのいくつかの例には、ヒト免疫不全症ウイルス:HIV-1、HIV-2およびサル免疫不全症ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターはHIVビルレンス遺伝子を多様に減弱することにより生成されており、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させて、ベクターを生物学的に安全にする。
【0148】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することが可能で、インビボおよびエクスビボの両方での遺伝子導入および核酸配列発現のために用いることができる。例えば、適切な宿主細胞にパッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを担持する2つまたはそれ以上のベクターを形質移入した、非分裂細胞に感染可能な組換えレンチウイルスが、米国特許第5,994,136号に記載されており、参照により本明細書に組み入れられる。特定の細胞型の受容体を標的とするために、エンベロープタンパク質の抗体または特定のリガンドとの連結により組換えウイルスを標的としてもよい。例えば、特定の標的細胞上の受容体に対するリガンドをコードする別の遺伝子と共に、関心対象の配列(調節領域を含む)をウイルスベクターに挿入することにより、ベクターは標的特異的となる。
【0149】
iv. 改変ウイルスを用いた送達
送達する核酸を、特異的結合リガンドを発現するよう操作された感染性ウイルス内に収容してもよい。したがって、ウイルス粒子は標的細胞の同種の受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングを可能にするよう設計された新規アプローチが、ウイルスエンベロープに乳糖残基を化学的に付加することによるレトロウイルスの化学的改変に基づいて開発された。この改変は、シアロ糖タンパク質受容体を介しての肝細胞の特異的感染を可能にしうる。
【0150】
レトロウイルスエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を用いる、組換えレトロウイルスのターゲティングへの別のアプローチが設計された。ストレプトアビジンを用いることによりビオチン成分を介して抗体が結合された(Roux et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:9079-9083, 1989)。主要組織適合抗原複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いて、インビトロでこれらの表面抗原を有する様々なヒト細胞のエコトロピックウイルスによる感染が示された(Roux et al., 1989)。
【0151】
C. ベクター送達および細胞形質転換
本発明により用いるための細胞、組織または生物の形質転換のための適切な核酸送達法は、本明細書に記載のとおり、または当業者には公知であるとおり、核酸(例えば、DNA)を細胞、組織または生物に導入しうる、実質的に任意の方法を含むと考えられる。そのような方法には、任意でFugene6(Roche)またはLipofectamine(Invitrogen)を用いた、エクスビボ形質移入(Wilson et al., Science, 244:1344-1346, 1989, Nabel and Baltimore, Nature 326:711-713, 1987)、微量注入(Harland and Weintraub, J. Cell Biol., 101:1094-1099, 1985;米国特許第5,789,215号、参照により本明細書に組み入れられる)を含む注入(米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号および第5,580,859号、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);電気穿孔法(米国特許第5,384,253号、参照により本明細書に組み入れられる;Tur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6:716-718, 1986;Potter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 81:7161-7165, 1984);リン酸カルシウム沈澱(Graham and Van Der Eb, Virology, 52:456-467, 1973;Chen and Okayama, Mol. Cell Biol., 7(8):2745-2752, 1987;Rippe et al., Mol. Cell Biol., 10:689-695, 1990);DEAE-デキストランと、続くポリエチレングリコールの使用(Gopal, Mol. Cell Biol., 5:1188-1190, 1985);直接音波ローディング(Fechheimer et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 84:8463-8467, 1987);リポソーム仲介形質移入(Nicolau and Sene, Biochim. Biophys. Acta, 721:185-190, 1982;Fraley et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 76:3348-3352, 1979;Nicolau et al., Methods Enzymol., 149:157-176, 1987;Wong et al., Gene, 10:87-94, 1980;Kaneda et al., Science, 243:375-378, 1989;Kato et al., J Biol. Chem., 266:3361-3364, 1991)および受容体仲介形質移入(Wu and Wu, Biochemistry, 27:887-892, 1988;Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262:4429-4432, 1987);ならびにそのような方法の任意の組み合わせなどによるDNAの直接送達が含まれるが、それらに限定されるわけではなく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
VII. 混合物
本発明は、iPSC生成の効率を改善する混合物を提供する。例えば、本発明は、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤の混合物を、特定の態様において、哺乳動物細胞と共に提供する。例えば、混合物は、細胞と共に、または細胞なしで、細胞培養の培地に含まれうる。細胞培養培地の内容は一般に当技術分野において公知である。例示的な細胞培養培地は実施例において詳細に記載する。一般に、哺乳動物細胞および本発明の物質(TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤)を含む細胞培養物は、最初はすべて、または実質的にすべて非多能性の細胞を含む。しかし、経時的に、特に本明細書に記載のプロトコルの条件下で、細胞の一部は多能性(すなわちiPSC)となる。
【0153】
多能性へと誘導する細胞を、当技術分野において公知の任意の方法に従って培養することができる。iPSCを生成するための培養条件についての一般的指針は、例えば、Maherali, et al., Cell Stem Cell 3:595-605 (2008)において見いだすことができる。
【0154】
いくつかの態様において、細胞をフィーダー細胞と接触させて培養する。例示的なフィーダー細胞には、線維芽細胞、例えば、マウス胚線維芽細胞(MEF)が含まれるが、それらに限定されない。フィーダー細胞上で細胞を培養する方法は当技術分野において公知である。
【0155】
いくつかの態様において、細胞をフィーダー細胞非存在下で培養する。例えば、細胞を固形の培養表面(例えば、培養プレート)に、分子テザーにより直接連結することができる。発明者らは、多能性へと誘導する細胞の培養において、細胞を固形培養表面に直接連結した場合の多能性への誘導効率は、フィーダー細胞上で培養し、その他は同一に処理した細胞の効率に比べて、はるかに高い(すなわち、より多くの細胞が多能性を獲得する)ことを見いだした。例示的な分子テザーには、Matrigel(登録商標)、細胞外基質(ECM)、ECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、またはコラーゲンが含まれるが、それらに限定されない。しかし、当業者であれば、これは非限定リストであり、細胞を固形表面に連結するために他の分子を用いうることを理解するであろう。テザーの固形表面への最初の連結法は当技術分野において公知である。
【0156】
本明細書に記載のとおり、いくつかの態様において、本発明の混合物は哺乳動物細胞(多能性または非多能性細胞を含む)、およびHDAC阻害剤、GSK3阻害剤、またはL型Caチャネルアゴニストの1つまたは複数;cAMP経路の活性化因子;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤;核受容体リガンド、例えば、PCT WO/2009/117439に記載のものを含むこともでき、または除外することもできる。
【0157】
VIII. キット
本発明は、例えば、誘導多能性幹細胞の生成において用いるためのキットも提供する。そのようなキットは、本明細書に記載のTGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、および/またはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤を含むが、それらに限定されない、本明細書に記載の試薬のいずれか、またはすべてを含みうる。これらの3つの物質、またはそのサブセットは、別々のバイアル中で、または混合物として一緒に、キットに含まれうる。本発明のキットは、HDAC阻害剤、GSK3阻害剤、またはL型Caチャネルアゴニストの1つまたは複数;cAMP経路の活性化因子;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤;および核受容体リガンドも含みうる。
【0158】
1つの態様において、本発明のキットは1つまたは複数の型の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラットなど)細胞および/または細胞培養培地を含む。
【0159】
特定の態様において、本発明のキットは、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つまたは複数を発現するための発現カセットを含む1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む。加えて、または代わりに、キットは1つまたは複数の単離転写因子タンパク質、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つすべてを含みうる。別の特定の態様において、転写因子タンパク質の細胞膜を越える輸送を増強するために、転写因子タンパク質をポリペプチド配列に融合することができる。
【0160】
VI. 多能性細胞の使用
本発明は、予防的または治療的使用を含むが、それらに限定されない、幹細胞技術のさらなる試験および開発を可能にする。例えば、いくつかの態様において、本発明の細胞(多能性細胞または望まれる細胞の運命にそって分化するよう誘導された細胞のいずれか)を、器官、組織、または細胞型の再生を必要としている個体を含むが、それらに限定されない、それを必要としている個体に導入する。いくつかの態様において、細胞は元は個体からの生検で得て;本明細書に記載のとおり多能性へと誘導し、任意で分化するよう誘導し(例えば、特定の所望の前駆細胞へと)、次いで個体に移植し戻す。いくつかの態様において、細胞を個体への導入の前に遺伝子改変する。
【0161】
いくつかの態様において、本発明の方法に従って生成した多能性細胞を続いて、例えば、造血(幹/前駆)細胞、神経(幹/前駆)細胞(および任意で、サブタイプ特異的ニューロン、乏突起膠細胞などのより分化した細胞)、膵細胞(例えば、内分泌前駆細胞または膵ホルモン発現細胞)、肝細胞、心血管(幹/前駆)細胞(例えば、心筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞)、網膜細胞などを形成するよう誘導する。
【0162】
所望の細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するために、様々な方法が公知である。様々な細胞運命への幹細胞の分化を誘導する方法を記載している最近の特許公報の非限定例は以下のとおりである:米国特許公報第2007/0281355号;第2007/0269412号;第2007/0264709号;第2007/0259423号;第2007/0254359号;第2007/0196919号;第2007/0172946号;第2007/0141703号;第2007/0134215号。
【0163】
本発明の多能性細胞の、特定の傷害された組織への導入、および任意でターゲティングにより、様々な疾患を改善しうる。組織傷害に起因する疾患の例には、神経変性疾患、脳梗塞、閉塞性血管疾患、心筋梗塞、心不全、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、気管支炎、間質性肺疾患、喘息、B型肝炎(肝損傷)、C型肝炎(肝損傷)、アルコール性肝炎(肝損傷)、肝硬変(肝損傷)、肝機能不全(肝損傷)、膵炎、糖尿病、クローン病、炎症性結腸炎、IgA糸球体腎炎、糸球体腎炎、腎機能不全、褥瘡、熱傷、縫合創傷、裂傷、切創、咬創、皮膚炎、瘢痕ケロイド、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈潰瘍、および静脈潰瘍が含まれるが、それらに限定されない。
【0164】
1つの態様において、iPSCの生存および/または分化を促進することを含むが、それらに限定されない、それらの機能を調節する分子を特定するための様々なアッセイおよびスクリーニングにおいてiPSCを用いることができる。
【実施例】
【0165】
以下の実施例は、特許請求する本発明を例示するために提供するが、本発明を限定するためではない。
【0166】
実施例1:ヒトiPSCの誘導改善のための化学的プラットフォーム
「4因子」(OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYC;以後4TF)で再プログラム化した間葉型線維芽細胞は、明確な細胞極性、境界および細胞-細胞相互作用を有するiPSCを生じる、劇的な形態変化を起こした。再プログラム化した細胞は、ヒト胚幹細胞(hESC)においても高度に発現される、上皮細胞のマーカーであるE-カドヘリンを発現した(Hay, E.D., Acta Anat. (Basel) 154, 8-20 (1995))。発明者らは、TGFβ経路アンタゴニストなどの間葉-上皮転換(MET)を促進する因子は再プログラム化プロセスに対して直接の影響を有するであろうと推論した。加えて、MEK-ERK経路阻害は以前、再プログラム化の様々な段階において重要な役割を果たすことが示された(Chen, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 10482-87 (2007);Shi, Y. et al., Cell Stem Cell 2, 525-8 (2008))。さらに、細胞の生存を促進する因子も、再プログラム化効率を改善する上で有益でありうる。したがって、低分子は生物学的プロセスを試験する上で多くの利点を有し(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009);Shi, Y. et al., Cell Stem Cell 2, 525-8 (2008);Xu, Y. et al., Nature 453, 338-44 (2008))、遺伝子操作よりも安全な選択肢であるため、発明者らはこれら3つのプロセスおよび経路を調節しうる低分子に焦点を合わせた。ここで、発明者らは、はるかに速く、効率的なプロセスによる、線維芽細胞からの完全に再プログラム化されたヒトiPSCの生成を実質的に促進する単純な化学的プラットフォームを記載する。
【0167】
発明者らは、4TFをレトロウイルスにより形質導入した1×104(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009))のヒト初代線維芽細胞(CRL2097またはBJ)において、TGFβ受容体およびMEKの公知の阻害剤の再プログラム化動態に対する効果および効率を試験した(詳細は図1a参照)。感染後第7日(D7)に、化合物を個別または組み合わせで加え、その後の1〜3週間、培養物をiPSCについて試験した。
【0168】
処理後第7日(D14)に、発明者らはALK5阻害剤SB431542(2μM)およびMEK阻害剤PD0325901(0.5μM)の組み合わせで処理した培養物で最も強い効果を観察し、特徴的なhESC様形態を有する約45の大きいALP+コロニーを生じ(図1b)、そのうち24を超えるコロニーがTRA-1-81+であり(図1d)、約6〜10のコロニーが、異所性に導入されていない成熟多能性因子であるSSEA4およびNANOGについて陽性染色された(図1eおよび1f)。さらに、処理した培養物は多能性遺伝子の内因性mRNAの高レベルの発現を示した(図1c)。これに対し、未処理の対照培養物(図1eおよび図4a)またはPD0325901単独で処理した培養物(図4a)では、NANOG+コロニーは観察されなかった。しかし、SB431542だけで処理した培養物では、発明者らは1〜2つのALP+ hESC様コロニーを観察した(図4a)。重要なことに、両方の阻害剤の組み合わせ効果(図4bおよび4c)、ならびにSB431542の単独効果は用量依存的であった。
【0169】
発明者らがSB431542およびPD0325901で処理した培養物を分割せずに30日間維持したところ、ウェルごとに約135のiPSCコロニーが得られ(図2d)、通常の方法よりも効率が100倍を超えて改善された。以前の報告(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))と一致して、4TFを担持する未処理の対照では、いくつかの粒状コロニーに加えて1〜2つのiPSCコロニーが観察された(図2c)。これらの粒状構造は部分的に再プログラム化されたコロニーであると示唆されている(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))。発明者らはSB431542処理した培養物中にも粒状コロニーを観察し、これは少数のhESC様コロニーの数よりも数倍多かった。面白いことに、粒状コロニーの数はSB431542およびPD0325901の組み合わせ処理で劇的に低減し、それに伴いhESC様コロニーの数が増大することになった。このことは、ALK5およびMEKの組み合わせ阻害は部分的再プログラム化コロニーを完全再プログラム化状態へと誘導し、それにより全体の再プログラム化プロセスを改善することを示唆するものであった。さらに、発明者らが処理後7日という早期にiPSCの誘導改善を観察したという事実は、これらの低分子による処理は再プログラム化プロセスの効率を改善しただけでなく、その動態をも加速させたことを示唆している(図1a)。この段階で再プログラ化された細胞が本当に、未処理の培養物中よりも早く外因性再プログラム化因子と完全に無関係になるかどうかを判定するためには、さらなる実験が必要である。
【0170】
hESC培養物と同様に、iPSCコロニーを回収して増殖させたが、トリプシン処理により分割した培養物は生存率が低い結果となった。発明者らの研究室で行った最近のスクリーニングから、トリプシン処理後にhESCの生存率を劇的に改善した新規低分子のチアゾビビン(図5)を同定した。発明者らのSB431542およびPD0325901のカクテルにチアゾビビンを加えることでも、トリプシン処理による分割後のiPSCの生存をおおいに改善し(図2a)、多数の再プログラム化コロニーが得られた。最初に播種した10,000個の細胞から、第14日の1回の1:4分割により第30日に約1,000のhESC様コロニーが得られた(図2e)が、2回の分割(第14日および第21日(1:10))では第30日に約11,000のhESC様コロニーが得られた(図2cおよび2e)。これらのコロニーは多能性マーカーの高レベルの内因性mRNA(図2f)およびタンパク質発現(図2bおよび2c)を示したが、4つの導入遺伝子の発現はほとんど検出できなかった(図2f)。これに対し、トリプシン処理した未処理または2化合物処理試料からはiPSCコロニーは得られなかった(表1)。
【0171】
(表1)第30日の未処理、2化合物処理および3化合物処理培養物において観察されたiPSCコロニー数の比較
【0172】
チアゾビビンの陽性効果が単に分割後のコロニーの生存によるかどうか、またはSB431542およびPD0325901の組み合わせ処理の再プログラム化効果も増強するかどうかを調べるために、発明者らは分割を行わなかった4TF形質導入細胞における3化合物カクテルを試験した。これらの培養物において、第14日までに、発明者らはすべてNanogを発現している約25の大きいコロニーを観察した(図1e)。第30日までに、発明者らは約205の非常に大きいNANOG+コロニーを観察し(図2d)、これらはTRA-1-81+およびSSEA4+でもあり(データは示していない)、すなわち化合物なしの処理に比べて効率が200倍を超えて改善され、2化合物処理に比べて2倍増大したことになる。
【0173】
再プログラム化因子をレトロウイルスシステムではなくレンチウイルスを用いて導入した場合、2化合物処理は未処理対照に比べて多数のアルカリ性ホスファターゼ陽性コロニーも生じた(図6a)。さらに、3化合物カクテルはレトロウイルスベクターからの再プログラム化因子発現に影響しないようであった(図6b〜f)。
【0174】
3化合物カクテルを用いて生成したiPSCコロニーは、通常のhESC培養条件下で長期にわたり容易かつ安定に増殖し(20継代以上)、形態、典型的な多能性マーカー発現および分化能力に関して、hESCと非常に類似していた。これらは正常な核型を示し(図7)、インビトロ(図3aおよび3b)およびインビボ(図3c)の両方で3つすべての胚葉の類似体に分化することができた。これらの結果から、はるかに簡便なトリプシン処理手順に関連する短期有害効果は見られないことも示唆された。
【0175】
TGFβおよびMEK-ERK経路阻害が線維芽細胞再プログラム化を改善したとの証明は、プロセスにおけるこれら2つのシグナル伝達経路およびMETメカニズムの重要な役割を示唆するものであった。一貫して、TGFβを加えると、線維芽細胞の4因子仲介性再プログラム化に対する阻害効果が見られた(データは示していない)。TGFβおよびそのファミリーメンバーはESCの自己再生および分化において重要な文脈上の役割を果たす(Watabe, T. and Miyazono, K., Cell Res. 19, 103-15 (2009))。さらに、TGFβは上皮-間葉転換(EMT)の誘導および間葉状態の維持の原型となるサイトカインである(Willis, B.C. and Borok, Z., Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol.293, L525-34 (2007))。このシグナル伝達の主要な終点は、この文脈において、E-カドヘリンのダウンレギュレーションである(Thiery, J.P. and Sleeman, J.P., Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 131-42 (2006))。E-カドヘリンはESCの多能性の維持にとって重要であることが示されており、最近、NANOG発現の調節因子であると示唆されている(Chou, Y.F. et al., Cell 135, 449-61 (2008))。したがって、上皮の運命の抑制解除をもたらすTGFβシグナル伝達の阻害は、複数の様式で再プログラム化プロセスに役立ちうる。ERKシグナル伝達もEMTを促進し(Thiery, J.P. and Sleeman, J.P., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 131-42 (2006))、プロセスにおいてTGFβの下流である(Chou, Y.F. et al., Cell 135, 449-61 (2008))。発明者らは以前、筋芽細胞を多分化能状態へと再プログラム化しうる低分子、レベルシンの効果は、部分的には、MEK-ERKの阻害を通じて仲介されることを明らかにしている(Chen, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 104, 10482-87 (2007))。これは、TGFβ阻害と組み合わせた際の、再プログラム化において観察される効果を説明していると考えられる。
【0176】
本明細書に記載の化学的プラットフォームは、上流のシグナル伝達経路を調節し、線維芽細胞のような一般的細胞型における再プログラム化を根本的に改善しうるという点で独特である。本明細書に記載の化学的条件は、ウイルスおよびDNAに基づかない(Zhou, H. et al., Cell Stem Cell 4, 381-84, (2009))、より効率的で安全な再プログラム化法のための基本的プラットフォームを提供し、これは様々な適用のために安全なヒトiPSCを無制限に供給しうる。
【0177】
方法
細胞培養
初代皮膚線維芽細胞CRL2097およびBJ(新生児包皮)をATCCから購入した。すべての細胞培養培地はInvitrogen Corporation, CAから購入した。細胞を、10%FBS(10439-024)、1×MEM可欠アミノ酸(11140-050)、1×Glutamax(35050-061)、10mM Hepes(15630-080)および0.11mM 2-メルカプトエタノール(21985-023)を含むDMEM(10313-021)中で維持した。細胞を、0.05%(1×)トリプシン-EDTA(25300-054)を用いて1:5で継代した。
【0178】
プラスミド
以前に記載された(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))、OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4のヒトcDNAをコードするpMXベクターは、ADDGENEから入手した。マウスSlc7a1 ORFをpWPXLD(Addgene)に、以前に記載のとおりに(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))クローン化した。
【0179】
レトロウイルス感染およびiPS細胞生成
OCT4、NANOG、SOX2およびLIN28を担持するレンチウイルスを以前に記載のとおりに(Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007))生成した。レトロウイルス作製のために、PLAT-Eパッケージング細胞を6穴プレートに1×106細胞/ウェルで播種した。24時間後、細胞に、OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4 cDNAを担持するpMXベクターを、Fugene 6形質移入試薬(Roche)を製造者の指示通りに用いて形質移入した。形質移入の24時間後、培地を新鮮培地で置き換え、プレートをレトロウイルス作製のために32℃に移した。48時間および72時間の時点でウイルスを回収し、形質導入の前に0.45μmフィルターでろ過した。
【0180】
第1日にSlc7a1を発現するヒト線維芽細胞を6穴プレートに1×105細胞/ウェルで播種した。第2日に、各レトロウイルス上清0.25mlを6μg/mlのポリブレン存在下で細胞に加えた。第3日に2回目の形質導入を行った。感染効率を、GFPまたはRFP遺伝子担持レトロウイルスを並行に形質導入した細胞で、蛍光顕微鏡により推定した。最初の形質導入の7日後、線維芽細胞をトリプシン処理により回収し、マトリゲル(1:50希釈、カタログ354234、BD Biosciences)でコーティングした6穴プレートに1×104細胞/ウェルで再度播種した。化合物処理のために、細胞をヒト再プログラム化培地(DMEM/F12、20%ノックアウト血清代替物、1×MEM可欠アミノ酸、1×glutamax、0.11mM 2-メルカプトエタノール、20ng/ml bFGFおよび1,000U/ml LIF)中で培養し、2μM SB431542(Stemgent)、0.5μM PD0325901(Stemgent)、0.5μMチアゾビビン、または化合物の組み合わせで処理した。培地を細胞密度に応じて2〜3日ごとに替えた。化合物処理の7日後、プレートを固定し、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性について染色するか、もしくはタンパク質マーカーについて染色し、または培養を第30日までトリプシン処理による指定の分割を行って、もしくは行わずに続けた。分割培養のために、細胞を分割(1:4)し、6穴プレートの各ウェル中の放射線照射CF-1 MEFフィーダー層(2.5×105細胞/ウェル)上に再度播種し、第21日に再度分割(1:10)した。細胞を、PD0325901(D14では0.5μMおよびD21では1μM)およびSB431542(D14後は0.5〜1μM)の濃度以外は、前述の同じ培地および化合物カクテル中で維持した。続いてiPSCコロニーを前述の化合物非存在下、通常のhESC培地中で維持した。
【0181】
アルカリ性ホスファターゼ染色および免疫細胞化学
アルカリ性ホスファターゼ染色を、ALP検出キット(カタログ番号:SCR004、Chemicon)を製品説明書通りに用いて実施した。免疫細胞化学のために、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し(10分、室温)、PBSで2回洗浄し、5%正常ロバ血清(Chemicon)および0.1%TritonX-100を用いてブロックし(15分、室温)、次いで一次抗体により4℃で終夜処理した。用いた一次抗体は抗NANOG(カタログ番号:AB9220、Chemicon、1:1,000);抗OCT4(カタログ番号:sc-5279、Santa Cruz biotech、1:200)、抗SSEA 4(カタログ番号:mab4304、Chemicon、1:500)、抗Tra-1-81(カタログ560123、BD Biosciences、1:100)、抗Tra-1-81(mAb 4381、Chemicon、1:500)、抗βIIIチューブリン(カタログ番号:MMS-435P、Covance Research Products Inc、1:1000)、抗PDX 1(1:500)(Dr. C. Wrightから供与)、抗ブラキュリ(カタログ番号:AF2085、R&D、最終濃度0.2μg/ml)であった。細胞をPBSで2回洗浄し、次いで二次抗体により室温で1時間処理した。用いた二次抗体はAlexa fluor 488ロバ抗ウサギまたは抗マウスIgG(Invitrogen、1:1,000)およびAlexa fluor 555ロバ抗ウサギまたは抗マウスIgG(Invitrogen、1:1,000)であった。核を0.5μg/ml DAPI(Sigma)で染色した。画像を測光CoolSnap HQ2カメラを備えたNikon Eclipse TE2000-U/X-cite 120 EXFO顕微鏡を用いて捕捉した。
【0182】
インビトロ分化および奇形腫アッセイ
胚様体の生成およびインビトロ分化を他所(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))に記載のとおりに実施した。奇形腫アッセイのために、300〜500万細胞をSCIDマウスの腎被膜下に注射した。31日後、腫瘍を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、TSRI組織学中心施設で組織学的に解析した。SCIDマウスの使用はUCSD動物研究委員会によって承認された。
【0183】
RT-PCR
全RNAを細胞からRNeasyミニキット(Qiagen)を用いて抽出した。cDNAを製品説明書に従い、superscript III第一鎖合成キット(Invitrogen)を用いて合成した。2マイクロリットルの反応産物を、それぞれのプライマーを用いた24〜28 PCRサイクルのために用いた。プライマーの配列は他所に記載する(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))。
【0184】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー解析のために、培養物をゆるやかにトリプシン処理し、6穴プレートから回収した。細胞を洗浄し、FACS緩衝液(PBS、2mM EDTA、2mM HEPES、1% FBS)に懸濁し、FACS Calibur血球計算器(Becton Dickinson, San Jose, CA)でCellQuestプログラムにより解析した。
【0185】
実施例2:N-(シクロプロピルメチル)-4-(4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)ベンゼンスルホンアミド(チアゾビビン)の合成
n-ブタノール(10mL)中に2,4-ジクロロピリミジン(372mg、2.5mmol)、6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン(489mg、3mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(0.52mL、3mmol)を含む反応フラスコを40℃で終夜加熱した。溶媒を蒸発させ、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、2-クロロ-4-(6-メトキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(551mg、80%)を得た。次いで、この中間体(250mg、0.91mmol)をジクロロメタンに溶解し、BBr3(ジクロロメタン中1M)(1mL、1mmol)により-78℃で処理した。反応混合物を室温までゆっくり加温して1時間撹拌し、水に加え、ジクロロメタンで抽出した。合わせた有機物を無水Na2SO4で乾燥して濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、2-クロロ-4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(154mg、65%)を得た。DMF(0.5mL)中の2-クロロ-4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(29mg、0.11mmol)および4-アミノ-N-(シクロプロピルメチル)ベンゼンスルホンアミド(27mg、0.12mmol)の溶液を撹拌しながら、これにp-トルエンスルホン酸(ジオキサン中2M)(55μL、0.11mmol)を加えた。反応混合物を90℃で終夜撹拌し、次いでHPLCで精製して、表題化合物(27mg、56%)を得た。
【0186】
実施例3:OCT4および化学化合物によるヒト初代体細胞の再プログラム化
ここで発明者らは、OCT4だけの外因性発現によるiPSCへのヒト初代体細胞の再プログラム化を可能にする新規低分子カクテルを報告する。
【0187】
いくつかの容易に入手可能な初代ヒト体細胞型の中で、ヒト皮膚または毛包から容易に単離しうる角化細胞は内因性にKLF4およびcMYCを発現するため、再プログラム化の魅力的な細胞源であり、通常の4つのTFまたは3つのTF(MYCなし)を用いてより効率的に再プログラム化されると報告された(Aasen, T. et al., Nat Biotechnol 26:1276-1284 (2008);Maherali, N. et al., Cell Stem Cell 3, 340-345(2008))。最近、発明者らは、低分子(すなわち、それぞれSB431542およびPD0325901)を用いてのTGFβおよびMAPK/ERK経路の二重阻害は、4つの外因性TF(すなわち、OSKM)によるヒト線維芽細胞の再プログラム化のためのおおいに増強された条件を提供することを報告した(Lin, T. et al., Nat Methods 6:805-808 (2009))。さらに、発明者らは、そのような二重経路阻害は、2つの外因性TF(すなわち、OK)ならびに2つの低分子、Parnate(リジン特異的デメチラーゼ1の阻害剤)およびCHIR99021(GSK3阻害剤)によるヒト角化細胞の再プログラム化も増強しうることを示した(Li, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。しかし、そのような2-TF再プログラム化プロセスは非常に非効率的かつ複雑で(例えば、2つの外因性TFおよび4つの化学物質に関与する)、1つ少ないTFによる再プログラム化でも気力をくじくようである。OCT4だけの再プログラム化に向けて、発明者らは再プログラム化条件を改良し、新しい再プログラム化化学実体を同定する際の段階的戦略を開発した。発明者らはまず、以前に報告したヒトiPSC特徴づけ法(Lin, T. et al., Nat Methods 6:805-808 (2009))を用いてTGFβおよびMAPK経路の様々な阻害剤を異なる濃度で試験することにより、新生児ヒト表皮角化細胞(NHEK)における4または3TF(すなわち、OSKMまたはOSK)条件下の再プログラム化プロセスをさらに最適化することを試みた。励みになることに、発明者らは、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01(より強力で選択的なTGFβ受容体阻害剤)の組み合わせは、OSKMまたはOSKを形質導入したヒト角化細胞の再プログラム化増強においてより有効であることを見いだした(図8a)。顕著に、発明者らがウイルス形質導入を2因子/OKだけにさらに減らした場合、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01で処理するとNHEKからiPSCをまだ生成することができたが、効率は低かった。次いで、発明者らは以前に報告したとおり、様々な濃度の一連の公知の生物活性化合物からさらなる低分子のスクリーニングを開始した。これまでに試験した何十もの化合物の中で、驚くことに発明者らは、再プログラム化においてこれまで報告されたことのないPDK1(3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1)の低分子活性化因子、PS48(5μM)が再プログラム化効率を約15倍有意に増強しうることを見いだした。面白いことに、発明者らは、OK条件下でのiPSC生成について、0.25mM酪酸ナトリウム(NaB、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)が以前に報告した0.5mM VPAよりもはるかに信頼性が高く、効率的であることも見いだした(図8b)。その後の追跡試験により、5μM PS48および0.25mM NaBの組み合わせが、再プログラム化効率を25倍を超えてさらに増強しうることが判明した(図8bおよび表4)。2つだけのTF下でNHEKを再プログラム化する際のそのような前例のない効率により、発明者らは異なる処理ウィンドウ中のこれらの低分子の組み合わせを改良することにより、OCT4だけでiPSCを生成する可能性をさらに探究した。初代NHEKにOCT4を形質導入し、化学物質で処理した(図8c)。様々な条件の中で、最初の4週間、0.25mM NaB、5μM PS48および0.5μM A-83-01で処理し、続いてさらに4週間、0.25mM NaB、5μM PS48、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901で処理した、OCT4感染NHEKにおいて、hESCに類似の小さいiPSCコロニー(1,000,000個の播種細胞から4から6つのコロニー)が出現した(図8c)。そのようなTRA-1-81陽性iPSCコロニー(図8d)は通常のhESC培地下でより大きく増殖し、逐次継代して安定なiPSCクローンを生じることができ、これらをさらに特徴づけた(図8eおよび9)。より顕著に、この化学カクテルに2μM Parnateおよび3μM CHIR99021(OK条件下でNHEKの再プログラム化を改善することが示されている)を加えることにより、OCT4だけのiPSCをヒト成人角化細胞から生成することもできた。OCT4および低分子によるiPSCへの初代角化細胞の信頼性の高い再プログラム化後に、発明者らはこの条件を、HUVEC(分化した中胚葉細胞)およびAFDC(羊水由来細胞)を含む他のヒト初代細胞型にさらに適用した。同様に、TRA-1-81陽性iPSCコロニーが化学物質で処理したOCT4感染HUVECおよびAFDC中に出現した。顕著に、OCT4および低分子条件下で、HUVECおよびAFDCの再プログラム化はNHEKの再プログラム化よりも効率的で、速かった(表4)。各細胞型からのiPSCの2つのクローンを通常のhESC培養条件下で20継代以上長期増殖させ、さらに特徴づけた(表5)。
【0188】
これらの安定に増殖させたhiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞はhESCと形態学的に識別不能で、無フィーダーおよび化学的に規定された条件下でECMコーティングした表面上で培養することができた(図8eおよび13)。これらはアルカリ性ホスファターゼ(ALP)について陽性染色され、免疫細胞化学/ICCにより検出される、OCT4、SOX2、NANOG、TRA-1-81およびSSEA4を含む、典型的な多能性マーカーを発現した(図8e、10b、図11〜12)。加えて、RT-PCR解析により、内因性ヒトOCT4、SOX2、NANOG、REX1、UTF1、TDGF2、FGF4遺伝子の発現、ならびに外因性OCT4およびKLF4のサイレンシングが確認された(図9aおよび10c)。さらに、バイサルファイト(bisulfite)シーケンシング解析により、hiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞のOCT4およびNANOGプロモーターはおおいに脱メチル化されることが判明した(図9bおよび10d)。この結果から、hiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞における多能性転写プログラムの再活性化の証拠が得られる。hiPSC-O細胞、NHEKおよびhESCの網羅的遺伝子発現解析により、hiPSC-O細胞はNHEK(ピアソン相間値:0.87)とは異なり、hESCに最も類似している(ピアソン相間値:0.98)ことが示された(図9c)。遺伝子型解析により、hiPSC-O細胞はOCT4導入遺伝子だけを含み、導入遺伝子KLF4またはSOX2の混入はないことが示された(図15)。サザンブロット解析により、異なるクローンの中でOCT4導入遺伝子の複数の異なる取り込み部位があることが示された(図16)。加えて、核型解析の結果から、hiPSC-Oは全再プログラム化および増殖プロセス中、正常な核型を維持することが明らかとなった(図17)。さらに、DNAフィンガープリント試験は、これらのhiPSCが実験室でのhESC混入から生じた可能性を除外した(表6)。これらのhiPSC-O細胞の発生能力を調べるために、これらを標準の胚様体(EB)分化法によりインビトロで分化させた。ICC解析により、これらはβIII-チューブリン+特徴的ニューロン細胞(外胚葉)、SMA+中胚葉細胞、およびAFP+内胚葉細胞へと効果的に分化しうることが明らかとなった(図9dおよび10e)。定量的PCR解析により、外胚葉細胞(βIII-チューブリンおよびNESTIN)、中胚葉細胞(MSX1およびMLC2a)、および内胚葉細胞(FOXA2およびAFP)を含む、これら、および追加の系統特異的マーカー遺伝子の発現がさらに確認された(図9e)。EBプロトコルに従い、これらのhiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞は律動的に拍動する心筋細胞を生じることもできた。これらのインビボでの多能性を試験するために、これらをSCIDマウスに移植した。4〜6週間後、これらのhiPSC-O細胞は3つの胚葉すべての派生物を含む典型的な奇形腫を有効に生じた(図9fおよび10f)。ひとまとめにして、これらのインビトロおよびインビボでの特徴づけにより、規定の低分子カクテルと組み合わせた、1つの転写因子、OCT4は、いくつかのヒト初代体細胞を多能性hESCと形態学的、分子的および機能的に類似のiPSCへと再プログラム化するのに十分であることが明らかとなった。
【0189】
前述の試験はいくつかの重要な意味を有する:(1)胎仔NSCはOct4だけの異所性発現によってiPSCに再プログラム化されることが示されたが、外因性Oct4遺伝子だけで内因性にSox2(再プログラム化における2つの主要な多能性遺伝子の1つ)を発現しない他のより実用的なヒト体細胞を再プログラム化するのに十分であるかどうか、より後期の発生段階(例えば、早期胚/胎仔に対し出生後/成体)であるかどうか、および個体に重大な害をおよぼすことなく得られるかどうかの、かなりの懐疑論があった。発明者らの知るかぎり、我々の試験は、iPSCを1つの外因性再プログラム化遺伝子、Oct4を形質導入した、容易に入手可能な初代ヒト体細胞(例えば、角化細胞)から誘導しうることの最初の実証である。脳由来の神経幹細胞とは対照的に、角化細胞はより到達しやすく、侵襲性の低い手順で出生後の個体から容易に入手することができる。これは、より安全なアプローチおよび/またはより高い質でiPSCを生成するための、様々な実用的に到達可能なヒト体細胞を活用する戦略をさらに強化するものである。したがって、この新しい方法およびそのさらなる開発は、様々な適用のための患者特異的な多能性幹細胞の作製をおおいに促進すると考えられる。(2)1つまたは2つだけの再プログラム化TFに代わる低分子およびそれらの組み合わせが同定されたが、より多くの外因性再プログラム化TFを一緒に省略すると、iPSCの生成は指数関数的に難しくなる。Oct4だけでiPSC生成を可能にする際の、3つの主要な転写因子すべて(すなわち、Sox2、Klf4およびcMyc)と機能的に置き換わる、この新しい低分子カクテルの同定は、低分子だけによる究極の再プログラム化に向けての別の主要な段階であり、iPSCへの化学的アプローチをさらに立証し、固めた。(3)この示された単一遺伝子条件は、タンパク質誘導多能性幹細胞(piPSC)技術に対する重大な意味も有する。piPSC技術に対する実際の課題は、それぞれ製造において異なる挙動をする(例えば、それらの発現、折りたたみ、安定性など)、4つの形質導入可能な再プログラム化タンパク質の大規模かつ信頼できる産生である。明らかに、この低分子カクテルと単一の形質導入可能なタンパク質とを組み合わせることで、piPSC技術がおおいに単純化され、その適用が促進されると考えられる。(4)より重大なことに、発明者らは再プログラム化の増強において、新しい標的/メカニズムを有する新しい低分子、PS48を同定した。PS48は、Akt/PKB(Alessi et al., Curr Biol 7, 261-269 (1997))を含むいくつかのAGCキナーゼの重要な上流キナーゼである、PDK1のアロステリックな低分子活性化因子である。その再プログラム化増強効果は部分的には、細胞の増殖および生存を促進するAkt/PKBの活性化に起因すると考えられる(Manning, B. D., Cantley, L. C., Cell 129, 1261-1274 (2007))。PDK1に関与するメカニズムが再プログラム化中にいかにして正確に調節されるかについての、さらなる徹底的な特徴づけは、再プログラム化および多能性の根元にあるさらなる洞察を提供すると考えられる。さらに、再プログラム化の低い効率および遅い動態による、さらに大きい隠されたリスクがありうる(例えば、より些細な遺伝的および/または後成的異常が再プログラム化プロセス中に発生または選択されうる)ため、本試験において再度例示したとおり、再プログラム化を増強するための新しい低分子の同定は、ヒトiPSC生成のためのより安全で、容易かつ効率の高い手順に対し、常に非常に価値があると考えられる。(5)最後に、再プログラム化のためのこの新しく、強力な低分子カクテルは、究極の純粋に化学物質誘導多能性幹細胞に対する段階的な化学的最適化の有効性を検証した。さらに、ヒト角化細胞におけるA-83-01およびNaBのより良い再プログラム化増強活性によって例示される、同じ標的/メカニズムを調節する異なる低分子は異なる状況において再プログラム化に対し有意に異なる効果を有しうるとの知見は、特定の再プログラム化の状況のための、異なる方法による「個別化された」最適化および処理の重要性を示唆している。
【0190】
細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞(Lonza)を角化細胞培養培地(KCM、Lonza)中で維持した。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、Millipore)をEndoGRO-VEGF Complete Medium(HCM、CHEMICON)中で維持した。ヒトESCおよびhiPSCを通常のヒトESC培養培地(hESCM:DMEM/F12、15%ノックアウト血清代替物、1%Glutamax、1%可欠アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mMβ-メルカプトエタノールおよび10ng/ml bFGF)中のMEFフィーダー細胞上で培養した。すべての細胞培養製品は、特に記載がないかぎり、Invitrogen/Gibco BRLからのものである。
【0191】
レンチウイルス作製
レンチウイルス上清を以前に記載のとおりに作製して回収した(Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007))。レンチウイルス作製に用いたプラスミドには、pSin-EF2-Puro-hOCT4、pSin2-EF2-Puro-hSOX2、pLove-mKlf4、pLove-mMyc、パッケージングプラスミドpsPAX2およびエンベロープ-コーディングプラスミドpMD2.Gが含まれる(Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007)およびLi, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。
【0192】
NHEKの再プログラム化
NHEKを100mm組織培養皿で培養し、新しく作製したレンチウイルス上清で3回形質導入(各形質導入に3〜4時間)した。1,000,000個の形質導入NHEKを100mm皿のx線照射不活化CF1 MEFフィーダー細胞上に播種し、KCM中で培養し、5μM PS48、0.25mM NaB(Stemgent)および0.5μM A-83-01(Stemgent)で2週間と、続いて培地の半量をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01を補足してさらに2週間処理した。次いで、細胞培養培地をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901(Stemgent)を補足してさらに4週間処理した。化学物質なしの培地中で培養した同じOCT4感染角化細胞を対照として用いた。培養物をAccutase(Millipore)により分割し、分割後第1日に1μMチアゾビビン(Stemgent)で処理した。Alexa Fluor 555 Mouse抗ヒトTRA-1-81抗体(BD Pharmingen)により陽性染色されたiPSCコロニーを、hESCM中のフィーダー細胞上で増殖させるために回収し、慣行的に培養した。
【0193】
HUVECの再プログラム化
HUVECを100mm組織培養皿で培養し、新しく作製したレンチウイルス上清で2回形質導入(各形質導入に4〜6時間)した。200,000個の形質導入HUVECをゼラチンコーティングした100mm皿上に播種し、HCM中で培養し、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01で2週間と、続いて培地の半量をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01を補足してさらに2週間処理した。次いで、細胞培養培地をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901を補足してさらに1〜2週間処理した。Alexa Fluor 555 Mouse抗ヒトTRA-1-81抗体により陽性染色されたiPSCコロニーを、hESCM中のフィーダー細胞上で増殖させるために回収し、慣行的に培養した。培養物をAccutaseにより分割し、分割後第1日に1μMチアゾビビンで処理した。
【0194】
インビトロ分化
hiPSCのインビトロでの分化を、標準の胚体(EB)法により実施した。簡単に言うと、hiPSCをAccutase(Millipore)により解離させ、超低接着6穴プレートで8日間培養し、次いでMatrigelコーティングした6穴プレートの分化培地中に移した。8日後に、細胞を免疫細胞化学解析のために固定するか、またはRT-PCR試験のために回収した。分化培地:DMEM/F12、10%FBS、1%Glutamax、1%可欠アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mMβ-メルカプトエタノール。
【0195】
アルカリ性ホスファターゼ染色および免疫細胞化学アッセイ
アルカリ性ホスファターゼ染色をAlkaline Phosphatase Detection Kit(Stemgent)を用い、製造者のプロトコルに従って実施した。標準の免疫細胞化学アッセイを以前に報告したとおりに行った(Li, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。用いた一次抗体を表3に示す。二次抗体はAlexa Fluor 488ロバ抗マウスまたは抗ウサギIgG(1:1000)(Invitrogen)であった。核をDAPI(Sigma-Aldrich)染色により可視化した。画像をNikon Eclipse TE2000-U顕微鏡を用いて捕捉した。
【0196】
RT-PCRおよびqRT-PCRによる遺伝子発現解析
RT-PCRおよびqRT-PCR解析のために、RNeasy Plus Mini KitをQIAshredder(Qiagen)との組み合わせで用いて、全RNAをヒトiPSCから抽出した。第一鎖逆転写を2μg RNAによりiScript(商標)cDNA Synthesis Kit(BioRad)を用いて実施した。多能性マーカーの発現を、Platinum PCR SuperMix(Invitrogen)を用いてRT-PCRにより解析した。分化後の系統特異的マーカーの発現をiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いてqRT-PCRにより解析した。プライマーを表2に示す。
【0197】
マイクロアレイ解析
ヒトRef-8_v3発現Beadchip(Illumina, CA, USA)を、NHEK、hiPSCおよびhES細胞の網羅的遺伝子発現を調べるために、マイクロアレイハイブリダイゼーションに用いた。ビオチン-16-UTP標識cRNAを500ngの全RNAから、Illumina TotalPrep RNA増幅キット(Ambion AMIL1791, Foster City, CA, USA)を用いて合成した。750ngの標識した増幅cRNAを含むハイブリダイゼーション混合物をIllumina BeadStation 500x System Manual(Illumina, San Diego, CA, USA)に従い、供給された試薬およびGE Healthcare Streptavidin-Cy3染色溶液を用いて調製した。Illumina Human Ref-8_v3発現BeadchipへのハイブリダイゼーションはBeadChip Hyb Wheel上、55℃で18時間であった。アレイをIllumina BeadArray Readerを用いてスキャンした。すべての試料を2つの生物学的複製に調製した。マイクロアレイデータの処理および解析をIllumina BeadStudioソフトウェアで実施した。データは背景を差し引き、ランク不変オプションを用いて規格化した。
【0198】
バイサルフェートゲノムシーケンシング
ゲノムDNAをNon Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を用いて単離し、次いでEZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research Corp., Orange, CA)で処理した。次いで、処理DNAを鋳型として用い、関心対象の配列を増幅した。OCT4およびNANOGプロモーター断片増幅に用いたプライマーを表2に示す。得られた断片をシーケンシングのためのTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen)を用いてクローン化し、シーケンシングした。
【0199】
hiPSCの遺伝子型解析
hiPSC株の遺伝子型解析を、特異的プライマー(表2;Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007)およびLi, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))を使用したゲノムDNAのRT-PCRを用いて実施した。
【0200】
奇形腫形成
hiPSC株を、0.05%トリプシン-EDTAを用いて回収した。5,000,000個の細胞をSCIDマウス(n=3)の腎被膜下に注射した。4〜6週間後、十分に発生した奇形腫を回収し、固定し、次いでTSRI組織学中心施設で組織学的に解析した。
【0201】
(表2)用いたプライマー
【0202】
(表3)適用した一次抗体
【0203】
(表4)再プログラム化実験の概要
【0204】
NHEK、新生児ヒト表皮角化細胞;HUVEC、ヒト臍静脈内皮細胞;AHEK、成人ヒト表皮角化細胞;AFDC、羊水由来細胞。用いた化学物質濃度:PD、0.5μM PD0325901;A83、0.5μM A-83-01;PS48、5μM PS48;VPA、0.5mMバルプロ酸;NaB、0.25mM酪酸ナトリウム;Par、2μM Parnate;CHIR、3μM CHIR99021。4因子または3因子誘導再プログラム化のために、NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種し、4週間後に陽性コロニーを計数した;2因子誘導再プログラム化のために、NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種し、6週間後に陽性コロニーを計数した;1因子誘導再プログラム化のために、NHEKおよびAHEKを10cmのプレートに形質導入細胞1,000,000個の密度で播種し、8週間後に陽性コロニーを計数した;HUVECおよびAFDCを10cmのプレートに形質導入細胞200,000個の密度で播種し、6週間後に陽性コロニーを計数した。
【0205】
(表5)樹立ヒトiPSC細胞株の特徴づけ
【0206】
特徴づけた細胞株を通常のhESC培養条件下、20継代を超えて長期増殖させ、マーカー発現および多能性についてさらに特徴づけを行い;その一方、樹立した他の細胞株を継代5または6で保存した。ブランクの項目は判定していないことを示す。
【0207】
(表6)Oct4誘導iPSCおよび親細胞株におけるDNAフィンガープリント解析
【0208】
15の多形性短鎖直列型反復配列(STR)DNA遺伝子座および性染色体マーカーアメロゲニンを調べた。
【0209】
本明細書に記載の実施例および態様は例示を目的とするにすぎないこと、およびそれらを考慮して様々な改変または変化が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書において引用するすべての出版物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年10月16日提出の米国特許仮出願第61/252,548号の35 U.S.C. § 1.119(e)の下での恩典を主張し、その内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)の生成における最近の進歩(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007)(非特許文献1);Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007) (非特許文献2);Muller, L.U.W., et al., Mol. Ther. 17, 947-53 (2009) (非特許文献3))により、生物医学的研究および臨床適用におけるそれらの有用性について希望が高まってきた。しかし、iPSC生成はまだ、不均質な細胞集団を生じる、非常に遅く(約4週間)、非効率的(<0.01%(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007) (非特許文献1);Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007) (非特許文献1))プロセスである。そのような混合物から完全に再プログラム化されたiPSCを同定することは冗長で、ヒト多能性細胞培養における特定の専門技術を必要とする。
【0003】
外因性再プログラム化因子のゲノム挿入の危険は克服されつつあるが、再プログラム化の低い効率および遅い動態はヒトiPSCの究極の適用に対する手ごわい問題を提示し続けている。例えば、遺伝的または後成的異常の増大が再プログラム化プロセス中に起こることがあり、ここで腫瘍サプレッサーが阻害され、発癌経路が活性化されると考えられる。最近の研究は、元の4つの因子に加えて、遺伝子操作による再プログラム化の効率改善を報告している(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009) (非特許文献4))が、そのような操作は典型的にプロセスをより複雑にし、遺伝子変化および腫瘍原性のリスクを高める。したがって、ヒトiPSCを生成し、再プログラム化の基本的メカニズムの特定および特徴づけを促進するための、より安全で、容易かつ効率が高い手順がまだおおいに必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007)
【非特許文献2】Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007)
【非特許文献3】Muller, L.U.W., et al., Mol. Ther. 17, 947-53 (2009)
【非特許文献4】Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、混合物(例えば、iPSCを誘導するのに有用な)を提供する。いくつかの態様において、混合物は、
哺乳動物細胞;
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
Rho GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤
を含む。
【0006】
いくつかの態様において、細胞の少なくとも99%は非多能性細胞である。いくつかの態様において、すべてまたは基本的にすべての細胞は非多能性細胞である。
【0007】
いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。
【0008】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0009】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0010】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0011】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0012】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0013】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0014】
いくつかの態様において、阻害剤の濃度は、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分なものである。
【0015】
いくつかの態様において、混合物はGSK3阻害剤および/またはHDAC阻害剤をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、ポリペプチドはOct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Mycから選択される。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞、非ヒト動物細胞、マウス細胞、非ヒト霊長類、または他の動物細胞から選択される。
【0017】
本発明は、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へと誘導する方法も提供する。いくつかの態様において、方法は、
少なくともいくつかの細胞を多能性幹細胞にするよう誘導するのに十分な条件下で、非多能性細胞を、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
と接触させる段階
を含む。
【0018】
いくつかの態様において、条件は、少なくとも1つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む。いくつかの態様において、少なくとも1つの外因性転写因子はOctポリペプチドであり、細胞をヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とさらに接触させる。
【0019】
いくつかの態様において、転写因子はOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される。
【0020】
いくつかの態様において、方法は、少なくとも2つ、3つ、または4つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含み、ここで該転写因子はOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される。いくつかの態様において、ポリペプチドはOct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Mycから選択される。いくつかの態様において、細胞はヒト細胞、非ヒト動物細胞、マウス細胞、非ヒト霊長類、または他の動物細胞から選択される。
【0021】
いくつかの態様において、少なくとも1つの転写因子が、ポリヌクレオチドを非多能性細胞に導入することにより導入され、ここで該ポリヌクレオチドは該少なくとも1つの外因性転写因子をコードし、それにより細胞内で該転写因子を発現する。
【0022】
いくつかの態様において、少なくとも1つの転写因子が、外因性ポリペプチドを非多能性細胞に接触させることにより導入され、ここで該ポリペプチドは該転写因子のアミノ酸配列を含み、ここで該導入は該ポリペプチドを該細胞に導入する条件下で実施される。いくつかの態様において、ポリペプチドは、細胞膜を越える輸送を増強するアミノ酸配列を含む。
【0023】
いくつかの態様において、細胞はヒト細胞である。
【0024】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0025】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0026】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0027】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0028】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0029】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0030】
いくつかの態様において、阻害剤の濃度は、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分なものである。
【0031】
いくつかの態様において、混合物はGSK3阻害剤をさらに含む。
【0032】
本発明は、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキットも提供する。いくつかの態様において、キットは、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む。
【0033】
いくつかの態様において、TGFβ受容体/ALK5阻害剤はSB431542である。
【0034】
いくつかの態様において、MEK阻害剤はPD0325901である。
【0035】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する化合物である:
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0036】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式中、yは0から3の整数であり;zは0から5の整数であり;Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;R3、R4およびR5は独立にCN、S(O)nR6、NR7R8、C(O)R9、NR10-C(O)R11、NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつR6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0037】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する。
【0038】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下である。
【0039】
いくつかの態様において、キットはGSK3阻害剤および/またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤をさらに含む。
【0040】
他の態様は本開示の残りの部分から明らかになる。
【0041】
定義
「Octポリペプチド」とは、転写因子の八量体ファミリーの天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似の(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持しているその変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例示的なOctポリペプチドには、Oct-1、Oct-2、Oct-3/4、Oct-6、Oct-7、Oct-8、Oct-9、およびOct-11が含まれる。例えば、Oct3/4(本明細書において「Oct4」と呼ぶ)は、Pit-1、Oct-1、Oct-2、およびuric-86中に保存されている150アミノ酸配列である、POUドメインを含む。Ryan, A.K. & Rosenfeld, M.G. Genes Dev. 11, 1207-1225 (1997)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号NP_002692.2(ヒトOct4)またはNP_038661.1(マウスOct4)に挙げられているものなどの天然Octポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Octポリペプチド(例えば、Oct3/4)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0042】
「Klfポリペプチド」とは、ショウジョウバエ(Drosophila)胚パターン調節因子クルッペルのものに類似のアミノ酸配列を含むジンクフィンガータンパク質である、クルッペル様因子(Klf)のファミリーの天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持している天然メンバーの変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。Dang, D.T., Pevsner, J. & Yang, V.W.. Cell Biol. 32, 1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なKlfファミリーメンバーには、Klf1、Klf2、Klf3、Klf-4、Klf5、Klf6、Klf7、Klf8、Klf9、Klf10、Klf11、Klf12、Klf13、Klf14、Klf15、Klf16、およびKlf17が含まれる。Klf2およびKlf-4は、マウスでiPS細胞を生成可能な因子であることが判明し、関連する遺伝子Klf1およびKlf5も同様であったが、効率は低かった。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAX16088(マウスKlf4)またはCAX14962(ヒトKlf4)に挙げられているものなどの天然Klfポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Klfポリペプチド(例えば、Klf1、Klf4、およびKlf5)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。Klfポリペプチドは、本明細書において記載される範囲では、エストロゲン関連受容体β(Essrb)ポリペプチドと置き換えることができる。したがって、本明細書に記載の各Klfポリペプチド態様について、Klf4ポリペプチドの代わりにEssrbを用いての対応する態様が同等に記載されることが意図される。
【0043】
「Mycポリペプチド」とは、Mycファミリーの天然メンバー(例えば、Adhikary, S. & Eilers, M. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 6:635-645 (2005)参照)、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持しているその変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例示的なMycポリペプチドには、例えば、c-Myc、N-MycおよびL-Mycが含まれる。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAA25015(ヒトMyc)に挙げられているものなどの天然Mycポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Mycポリペプチド(例えば、c-Myc)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0044】
「Soxポリペプチド」とは、高移動度(HMG)ドメインの存在によって特徴づけられる、SRY関連HMG-box(Sox)転写因子の天然メンバー、または最も近い関連する天然ファミリーメンバーと比較して類似した(少なくとも50%、80%、または90%の活性の範囲内)転写因子活性を維持している天然メンバーの変異体、または少なくとも天然ファミリーメンバーのDNA結合ドメインを含むポリペプチドのいずれかを指し、転写活性化ドメインをさらに含みうる。例えば、Dang, D.T., et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 32:1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なSoxポリペプチドには、例えば、Sox1、Sox-2、Sox3、Sox4、Sox5、Sox6、Sox7、Sox8、Sox9、Sox10、Sox11、Sox12、Sox13、Sox14、Sox15、Sox17、Sox18、Sox-21、およびSox30が含まれる。Sox1はSox2と同様の効率でiPS細胞を生じることが明らかにされており、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18もiPS細胞を生成することが示されているが、効率はSox2よりも幾分低かった。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、上に挙げたものまたはGenbankアクセッション番号CAA83435(ヒトSox2)に挙げられているものなどの天然Soxポリペプチドファミリーメンバーと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を有する。Soxポリペプチド(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、またはSox18)はヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物由来でありうる。一般に、操作する細胞の種と同じ種のタンパク質を用いる。
【0045】
「H3K9」とは、ヒストンH3リジン9を指す。遺伝子活性に関連するH3K9改変には、H3K9アセチル化および異質染色質に関連するH3K9改変が含まれ、H3K9のジメチル化またはトリメチル化が含まれる。例えば、Kubicek, et al., Mol. Cell473-481 (2007)を参照されたい。
【0046】
「多能性の」または「多能性」なる用語は、適当な条件下で、3つすべての胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)に由来する細胞系統に関連した特性を集合的に示す細胞型への分化を起こしうる子孫細胞を生じる能力を持つ細胞を指す。多能性幹細胞は出生前、生後または成体動物のすべての胚由来組織に寄与しうる。8〜12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力などの、標準の当技術分野において認められている試験を用いて細胞集団の多能性を確立することができるが、様々な多能性幹細胞特性の同定を用いて多能性細胞を検出することもできる。
【0047】
「多能性幹細胞特性」とは、他の細胞から多能性幹細胞を区別する細胞の特性を指す。適当な条件下で、3つすべての胚芽層(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)に由来する細胞系統に関連した特性を集合的に示す細胞型への分化を起こしうる子孫を生じる能力は、多能性幹細胞特性である。分子マーカーの特定の組み合わせの発現または非発現も多能性幹細胞特性である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的リストから少なくともいくつかを、いくつかの態様においてはすべてのマーカーを発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rex1、およびNanog。多能性幹細胞に関連した細胞の形態も多能性幹細胞特性である。
【0048】
本明細書において用いる「非多能性細胞」とは、多能性細胞ではない哺乳動物細胞を指す。そのような細胞の例には、分化細胞ならびに前駆細胞が含まれる。分化細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織および末梢血から選択される組織由来の細胞が含まれるが、それらに限定されない。例示的な細胞型には、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、およびT細胞が含まれるが、それらに限定されない。
【0049】
得られた多能性細胞で個体を治療すべきいくつかの態様において、本発明の方法に従い、個体自身の非多能性細胞を用いて多能性細胞を生成する。
【0050】
細胞は、例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物由来でありうる。例示的な非ヒト哺乳動物には、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、および非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、マカク、および類人猿)が含まれるが、それらに限定されない。
【0051】
「組換え」ポリヌクレオチドは、その天然の状態ではないポリヌクレオチドであり、例えば、ポリヌクレオチドは、天然には見いだされないヌクレオチド配列を含むか、またはポリヌクレオチドは、それが天然に見いだされるもの以外の状況にある、例えば、それが典型的には天然において近くにあるヌクレオチド配列、もしくはそれが典型的には近くにない隣接(または近接する)ヌクレオチド配列から分離されている。例えば、問題となっている配列をベクターにクローニングするか、またはそうでなければ1つもしくは複数の追加の核酸と組み換えることができる。
【0052】
「発現カセット」とは、タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーターまたは他の調節配列を含むポリヌクレオチドを指す。
【0053】
「プロモーター」および「発現制御配列」なる用語は本明細書において、核酸の転写を誘導する一連の核酸制御配列を指すために用いる。本明細書において用いるプロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーターの場合、TATAエレメントなどの、転写の出発部位近くの必要な核酸配列を含む。プロモーターは任意で遠位エンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含み、これらは転写の開始部位から数千塩基対もの位置でありうる。プロモーターには構成および誘導プロモーターが含まれる。「構成」プロモーターは、ほとんどの環境条件および発生条件下で活性なプロモーターである。「誘導」プロモーターは、環境調節または発生調節下で活性なプロモーターである。「機能的に連結された」なる用語は、核酸発現制御配列(プロモーター、または一連の転写因子結合部位など)と第二の核酸配列との間の機能的連結を指し、ここで発現制御配列は第二の配列に対応する核酸の転写を誘導する。
【0054】
本明細書において用いる「異種配列」または「異種核酸」とは、特定の宿主細胞にとって外来の供給源由来のもの、または同じ供給源由来である場合、その元の形から改変されているものである。したがって、細胞における異種発現カセットは、例えば、染色体DNAではなく発現ベクターからのヌクレオチド配列に連結されている、異種プロモーターに連結されている、レポーター遺伝子に連結されているなどにより、特定の宿主細胞にとって内因性ではない発現カセットである。
【0055】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」なる用語は、本明細書において互換可能に用いられ、一本鎖または二本鎖のいずれかの形のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびその重合体を指す。この用語には、公知のヌクレオチド類似体を含む核酸、または修飾された骨格残基を含む核酸、または連結を含む核酸が含まれ、これらは合成、天然、および非天然であり、これらは参照核酸と類似の結合特性を有し、かつこれらは参照ヌクレオチドと同様の様式で代謝される。そのような類似体の例には、ホスホロチオエート、ホスホラミデート、ホスホン酸メチル、キラル-ホスホン酸メチル、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)が含まれるが、それらに限定されない。
【0056】
特に記載がないかぎり、特定の核酸配列はその保存的に改変された変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列、ならびに明確に示された配列も含む。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(またはすべての)コドンの第三位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することにより達成しうる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0057】
発現または活性の「阻害剤」、「活性化剤」、および「調節剤」はそれぞれ、記載する標的タンパク質(またはコードするポリヌクレオチド)、例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびにそれらの相同体および模擬物質の発現または活性についてのインビトロおよびインビボアッセイを用いて同定した、阻害分子、活性化分子、または調節分子を指すために用いる。「調節剤」なる用語は阻害剤および活性化剤を含む。阻害剤は、例えば、記載する標的タンパク質、例えば、アンタゴニストの発現を阻害し、またはそれに結合して、部分的もしくは完全に刺激もしくはプロテアーゼ阻害剤活性をブロックし、その活性化を減少し、低減し、防止し、遅延させ、その活性を不活化し、脱感作し、またはダウンレギュレートする物質である。活性化剤は、例えば、記載する標的タンパク質の発現を誘導もしくは活性化し、または記載する標的タンパク質(またはコードするポリヌクレオチド)、例えば、アゴニストに結合して、その活性化もしくはプロテアーゼ阻害剤活性を刺激し、増大させ、開放し、活性化し、促進し、増強し、その活性を感作もしくはアップレギュレートする物質である。調節剤には、天然および合成リガンド、アンタゴニストおよびアゴニスト(例えば、アゴニストまたはアンタゴニストのいずれかとして機能する化学低分子、抗体など)が含まれる。阻害剤および活性化剤についてのそのようなアッセイは、例えば、記載する標的タンパク質を発現する細胞に推定調節化合物を適用し、次いで前述のとおり、記載する標的タンパク質活性における機能的効果を判定することを含む。活性化剤、阻害剤、または調節剤の可能性を有する物質で処理した、記載する標的タンパク質を含む試料またはアッセイを、阻害剤、活性化剤、または調節剤なしの対照試料と比較して、効果の程度を調べる。対照試料(調節剤で未処理)に相対活性値100%を割り当てる。記載する標的タンパク質の阻害は、対照に対する活性値が約80%、任意で50%または25、10%、5%もしくは1%である場合に達成される。記載する標的タンパク質の活性化は、対照に対する活性値が110%、任意で150%、任意で200、300%、400%、500%もしくは1000〜3000%またはそれ以上である場合に達成される。
【0058】
化学置換基が、左から右へと書いたそれらの通常の化学式によって規定される場合、それらは構造を右から左へと書くことから生じる化学的に同じ置換基を等しく含み、例えば、-CH2O-は-OCH2-と同等である。
【0059】
「アルキル」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、直鎖(すなわち、非分枝)もしくは分枝鎖、またはその組み合わせを意味し、これらは完全飽和、一不飽和または多不飽和であってもよく、示した数の炭素原子を有する二価および多価の基を含んでいてもよい(すなわち、C1-C10は1から10個の炭素を意味する)。飽和炭化水素基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどの同族体および異性体などの基が含まれるが、それらに限定されない。不飽和アルキル基は、1つまたは複数の二重結合または三重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-および3-プロピニル、3-ブチニル、ならびにより高級の同族体および異性体が含まれるが、それらに限定されない。
【0060】
「アルキレン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、-CH2CH2CH2CH2-により例示されるが、それらに限定されない、アルキルから誘導される二価の基を意味する。典型的には、アルキル(またはアルキレン)基は1から24個の炭素原子を有し、10個以下の炭素原子を有する基が本発明において例示される。「低級アルキル」または「低級アルキレン」は、一般には8個以下の炭素原子を有する、より短鎖のアルキルまたはアルキレン基である。
【0061】
「ヘテロアルキル」なる用語は、それ自体で、または別の用語との組み合わせで、特に記載がないかぎり、少なくとも1つの炭素原子ならびにO、N、P、SiおよびSからなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子からなる、安定な直鎖もしくは分枝鎖、または環式炭化水素基、あるいはその組み合わせを意味し、ここで窒素および硫黄原子は任意で酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は任意で四級化されていてもよい。ヘテロ原子O、N、P、SiおよびSはヘテロアルキル基の任意の内部の位置またはアルキル基が分子の残部に連結している位置にあってもよい。例には、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2,-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、-CH=CH-N(CH3)-CH3、O-CH3、-O-CH2-CH3および-CNが含まれるが、それらに限定されない。例えば、-CH2-NH-OCH3および-CH2-O-Si(CH3)3のように、最大2個までのヘテロ原子が連続していてもよい。同様に、「ヘテロアルキレン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-および-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-により例示されるが、それらに限定されない、ヘテロアルキルから誘導される二価の基を意味する。ヘテロアルキレン基について、ヘテロ原子は鎖の末端のいずれか、または両方を占有することもできる(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらに、アルキレンおよびヘテロアルキレン連結基について、連結基の配向が連結基の式を書く方向によって示されることはない。例えば、式-C(O)2R'-は-C(O)2R'-および-R'C(O)2-の両方を意味する。前述のとおり、本明細書において用いるヘテロアルキル基には、分子の残部に-C(O)R'、-C(O)NR'、-NR'R''、-OR'、-SR'、および/または-SO2R'などのヘテロ原子を通じて連結されている基が含まれる。「ヘテロアルキル」の記載に続いて-NR'R''などの具体的なヘテロアルキル基が列挙される場合、ヘテロアルキルおよび-NR'R''なる用語は重複ではないまたは相互排他的なものではないことが理解されよう。むしろ、具体的なヘテロアルキル基は明確性を付与するために列挙される。したがって、「ヘテロアルキル」なる用語は本明細書において-NR'R''などの具体的なヘテロアルキル基を除外すると解釈すべきではない。
【0062】
「シクロアルキル」および「ヘテロシクロアルキル」なる用語は、それ自体で、または他の用語との組み合わせで、特に記載がないかぎり、それぞれ「アルキル」および「ヘテロアルキル」の環式バージョンを意味する。加えて、ヘテロシクロアルキルについて、ヘテロ原子は、複素環が分子の残部に連結している位置を占有していてもよい。シクロアルキルの例には、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどが含まれるが、それらに限定されない。ヘテロシクロアルキルの例には、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどが含まれるが、それらに限定されない。「シクロアルキレン」および「ヘテロシクロアルキレン」とは、それぞれシクロアルキルおよびヘテロシクロアルキルから誘導される二価の基を指す。
【0063】
「ハロ」または「ハロゲン」なる用語は、それ自体で、または別の置換基の一部として、特に記載がないかぎり、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を意味する。加えて、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキルおよびポリハロアルキルを含むことを意味する。例えば、「ハロ(C1-C4)アルキル」なる用語は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むことを意味するが、それらに限定されない。
【0064】
「アリール」なる用語は、特に記載がないかぎり、単環または縮合もしくは共有結合により連結している複数の環(好ましくは1から3つの環)でありうる、多不飽和、芳香族、炭化水素置換基を意味する。「ヘテロアリール」なる用語は、N、O、およびSから選択される1から4個のヘテロ原子を含むアリール基(または環)を指し、ここで窒素および硫黄原子は任意で酸化されていてもよく、窒素原子は任意で四級化されていてもよい。ヘテロアリール基は分子の残部に炭素またはヘテロ原子を通じて連結されうる。アリールおよびヘテロアリール基の非限定例には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソキサゾリル、4-イソキサゾリル、5-イソキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンズイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、および6-キノリルが含まれる。前述のアリールおよびヘテロアリール環系それぞれの置換基は、下記の許容される置換基の群から選択される。「アリーレン」および「ヘテロアリーレン」とは、それぞれアリールおよびヘテロアリールから誘導される二価の基を指す。
【0065】
簡略のために、「アリール」なる用語は、他の用語との組み合わせで用いる場合(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)、前述のアリールおよびヘテロアリール環の両方を含む。したがって、「アリールアルキル」なる用語は、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば、酸素原子によって置き換えられている(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)アルキル基を含む、アリール基がアルキル基に連結している基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含むことを意味する。
【0066】
本明細書において用いる「オキソ」なる用語は、炭素原子に二重結合で結合している酸素を意味する。
【0067】
本明細書において用いる「アルキルスルホニル」なる用語は、式-S(O2)-R'を有する部分を意味し、ここでR'は上で定義したアルキル基である。R'は規定の数の炭素原子を有していてもよい(例えば、「C1-C4アルキルスルホニル」)。
【0068】
前述の用語(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」および「ヘテロアリール」)はそれぞれ、示した基の置換および非置換型の両方を含むことを意味する。各型の基の例示的な置換基を以下に示す。
【0069】
アルキルおよびヘテロアルキル基(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、およびヘテロシクロアルケニルとしばしば呼ばれる基を含む)の置換基は下記から選択されるが、それらに限定されない、様々な基の1つまたは複数でありうる:ゼロから(2m'+1)の範囲の数の-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CNおよび-NO2、ここでm'はそのような基の炭素原子の総数である。R'、R''、R'''、およびR''''はそれぞれ好ましくは独立に水素、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール(例えば、1〜3個のハロゲンで置換されているアリール)、置換もしくは非置換アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、またはアリールアルキル基を指す。本発明の化合物が、例えば、1つより多くのR基を含む場合、R'、R''、R'''およびR''''基の1つより多くが存在する場合のこれらの基と同様、R基はそれぞれ独立に選択される。R'およびR''が同じ窒素原子に連結している場合、これらは窒素原子と一緒になって4、5、6、または7員環を形成しうる。例えば、-NR'R''は1-ピロリジニルおよび4-モルホリニルを含むことを意味するが、それらに限定されない。前述の置換基の議論から、当業者であれば、「アルキル」なる用語は、ハロアルキル(例えば、-CF3および-CH2CF3)およびアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)などの、水素基以外の基に結合している炭素原子を含む基を含むことを意味すると理解するであろう。
【0070】
アルキル基について記載した置換基と同様、アリールおよびヘテロアリール基の置換基は多様で、例えば下記から選択される:ゼロから芳香環系の開原子価の総数までの範囲の数のハロゲン、-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CNおよび-NO2、-R'、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ、ならびにフルオロ(C1-C4)アルキル;ここでR'、R''、R'''およびR''''は好ましくは独立に水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換ヘテロアルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリールおよび置換または非置換ヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が、例えば、1つより多くのR基を含む場合、R'、R''、R'''およびR''''基の1つより多くが存在する場合のこれらの基と同様、R基はそれぞれ独立に選択される。
【0071】
アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-T-C(O)-(CRR')q-U-の環を形成してもよく、ここでTおよびUは独立に-NR-、-O-、-CRR'-または一重結合であり、かつqは0から3の整数である。または、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-A-(CH2)r-B-の置換基で置き換えられていてもよく、ここでAおよびBは独立に-CRR'-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR'-または一重結合であり、かつrは1から4の整数である。そのように形成された新しい環の一重結合の1つは任意で二重結合で置き換えられていてもよい。または、アリールまたはヘテロアリール環の隣接原子上の置換基の2つは任意で式-(CRR')s-X'-(C''R''')d-の置換基で置き換えられていてもよく、ここでsおよびdは独立に0から3の整数であり、かつX'は-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、または-S(O)2NR'-である。置換基R、R'、R''およびR'''は好ましくは独立に水素、置換または非置換アルキル、置換または非置換シクロアルキル、置換または非置換ヘテロシクロアルキル、置換または非置換アリール、および置換または非置換ヘテロアリールから選択される。
【0072】
本明細書において用いる「ヘテロ原子」または「環ヘテロ原子」なる用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)、およびケイ素(Si)を含むことを意味する。
【0073】
本明細書において用いる「置換基(substituent group)」とは、以下の部分から選択される基を意味する:
(A)-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、オキソ、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(B)下記から選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール:
(i)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(ii)下記から選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール:
(a)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、および
(b)オキソ、-OH、-NH2、-SH、-CN、-CF3、-NO2、ハロゲン、非置換アルキル、非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、非置換ヘテロシクロアルキル、非置換アリール、および非置換ヘテロアリールから選択される少なくとも1つの置換基で置換されているアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリール。
【0074】
本明細書において用いる「サイズ限定置換基(size-limited substituent)」または「サイズ限定置換基(size-limited substituent group)」とは、「置換基」について前述したすべての置換基から選択される基を意味し、ここで置換または非置換アルキルはそれぞれ置換または非置換C1-C20アルキルであり、置換または非置換ヘテロアルキルはそれぞれ置換または非置換の2から20員ヘテロアルキルであり、置換または非置換シクロアルキルはそれぞれ置換または非置換C4-C8シクロアルキルであり、かつ置換または非置換ヘテロシクロアルキルはそれぞれ置換または非置換の4から8員ヘテロシクロアルキルである。
【0075】
本明細書において用いる「低級置換基(lower substituent)」または「低級置換基(lower substituent group)」とは、「置換基」について前述したすべての置換基から選択される基を意味し、ここで置換または非置換アルキルはそれぞれ置換または非置換C1-C8アルキルであり、置換または非置換ヘテロアルキルはそれぞれ置換または非置換の2から8員ヘテロアルキルであり、置換または非置換シクロアルキルはそれぞれ置換または非置換C5-C7シクロアルキルであり、かつ置換または非置換ヘテロシクロアルキルはそれぞれ置換または非置換の5から7員ヘテロシクロアルキルである。
【0076】
「薬学的に許容される塩」なる用語は、本明細書に記載の化合物において見られる特定の置換基に応じて、比較的非毒性の酸または塩基を用いて調製される活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性型を十分な量の所望の塩基と、ニートまたは適切な不活性溶媒中のいずれかで接触させることにより、塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容される塩基付加塩の例には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、有機アミノ塩、もしくはマグネシウム塩、または類似の塩が含まれる。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性型を十分な量の所望の酸と、ニートまたは適切な不活性溶媒中のいずれかで接触させることにより、酸付加塩を得ることができる。薬学的に許容される酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、一水素炭酸、リン酸、一水素リン酸、二水素リン酸、硫酸、一水素硫酸、ヨウ化水素酸、または亜リン酸などの無機酸から誘導されるもの、ならびに酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などの比較的非毒性の有機酸から誘導される塩が含まれる。同様に、アルギネートなどのアミノ酸の塩、およびグルクロン酸またはガラクツロン酸などの有機酸の塩も含まれる(例えば、Berge et al., "Pharmaceutial Salts", Journal of Pharmaceutical Science, 1977, 66, 1-19を参照されたい)。本発明のある特定の化合物は、化合物を塩基または酸付加塩のいずれかに変換しうる、塩基性および酸性官能基の両方を含む。
【0077】
したがって、本発明の化合物は薬学的に許容される酸との塩として存在してもよい。本発明はそのような塩を含む。そのような塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、硝酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩(例えば(+)-酒石酸塩、(-)-酒石酸塩、またはラセミ混合物を含むその混合物、コハク酸塩、安息香酸塩およびグルタミン酸などのアミノ酸との塩が含まれる。これらの塩は当業者には公知の方法によって調製してもよい。
【0078】
化合物の中性型は好ましくは、塩を塩基または酸と接触させ、親化合物を通常の様式で単離することによって再生する。化合物の親型は、極性溶媒への溶解性などの特定の物理的性質において様々な塩型と異なる。
【0079】
塩型に加えて、本発明はプロドラッグ型の化合物を提供する。本明細書に記載の化合物のプロドラッグは、生理的条件下で容易に化学変化を受けて本発明の化合物を提供する化合物である。加えて、プロドラッグはエクスビボ環境において化学的または生化学的方法により本発明の化合物へと変換することができる。例えば、プロドラッグは、適切な酵素または化学試薬と共に経皮パッチレザバー内に入れると、本発明の化合物へとゆっくり変換することができる。
【0080】
本発明の特定の化合物は、非溶媒和型ならびに水和型を含む溶媒和型で存在することができる。一般に、溶媒和型は非溶媒和型と等価であり、本発明の範囲内に含まれる。本発明の特定の化合物は、複数の結晶型または非結晶型で存在してもよい。一般に、すべての物理的な型は本発明によって企図される使用に関して等価であり、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0081】
本発明の特定の化合物は、不斉炭素原子(光学中心)または二重結合を有し;ラセミ体、ジアステレオマー、互変異性体、幾何異性体、および個々の異性体は本発明の範囲内に含まれる。本発明の化合物には、当技術分野において合成および/または単離するには不安定すぎることが公知のものは含まれない。
【0082】
また、本発明の化合物は、そのような化合物を構成する1つまたは複数の原子において、非天然な比率の原子同位体を含んでいてもよい。例えば、化合物を、例えばトリチウム(3H)、ヨウ素125(125I)または炭素14(14C)などの放射性同位体で放射標識しうる。本発明の化合物のすべての同位体変異体は、放射性であるかないかに関わらず、本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1A】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(a)SB431542およびPD0325901の組み合わせ処理を4TFと共に用いてのヒトiPSC誘導のタイムライン。処理を4TF形質導入の7日後に細胞を再播種することで開始し、7日間維持した。
【図1B】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(b)7日以内に未処理(左)または2化合物処理した(右)培養物中に現れたALP+コロニーの染色。
【図1C】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(c)2化合物処理した培養物中の多能性マーカーOCT4およびNANOGの内因性mRNA発現上昇を示すRT-PCR。
【図1D】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(d)2化合物処理なし(左)または処理した(右)、第14日のTRA-1-81染色。スケールバー、50μm。
【図1E】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(e)異なる処理条件下での第14日のNANOG+コロニーの数をプロットしている。
【図1F】図1は、7日間の化合物処理が、4つの再プログラム化因子を形質導入したヒト線維芽細胞から多能性幹細胞を誘導するのに十分であることを示す図である。(f)D14 iPSCによって示されたhESC特異的マーカー(NANOGおよびSSEA4)の典型的染色。スケールバー、50μm。
【図2A】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(a)SB431542、PD0325901およびチアゾビビンを用いてのヒトiPSC誘導のタイムライン。
【図2B】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(b)第30日のiPSCは多能性マーカーNANOG、SSEA4およびTRA-1-81を発現した。スケールバー、50μm。
【図2C】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(c)3化合物処理した(上図)または処理なし(下図)の、第30日の培養物のALP染色。左図の囲んだ領域を右図で拡大している。スケールバー、200μm。
【図2D】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(d)異なる処理条件下、分割なしでの、第30日のNANOG+コロニーの数。
【図2E】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(e)示したとおりにトリプシン処理した、3化合物処理培養物からの、第30日のNANOG+コロニーの数。
【図2F】図2は、長期の化合物処理および細胞継代が再プログラム化コロニーの数を劇的に増大させたことを示す図である。(f)3化合物処理により得られたiPSCコロニーのRT-PCRは内因性多能性マーカーの再活性化発現を示す。HDF:ヒト皮膚線維芽細胞。
【図3】図3は、3化合物処理により生成されたiPSCのインビトロおよびインビボでの分化を示す図である。(a)顕微鏡写真は、iPSCから生じた胚様体(EB)ならびにインビトロでの外胚葉(βIIIチューブリン)、中胚葉(ブラキュリ)および内胚葉(PDX1)細胞型への分化を示している。スケールバー、EB:100μm;その他:10μm。(b)分化した細胞における代表的な系統マーカーの発現およびOCT4 mRNA発現のないことを示すRT-PCR。U-未分化、D-分化。(c)ヌードマウスにおいてiPSC(試験した3つの独立のコロニー)から生じた奇形腫は3つすべての胚葉に由来する組織からなる。左図:1-筋肉、2-神経上皮;中図:1-皮膚、2-腸上皮;右図:1-骨、2-軟骨。スケールバー、20μm。
【図4】図4は、化合物処理がiPS細胞生成を用量依存的様式で増強したことを示す図である。
【図5】図5は、チアゾビビンの化学構造を示す図である。
【図6A】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6B】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6C】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6D】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6E】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図6F】図6は、導入遺伝子発現およびサイレンシングは化合物処理と無関係であることを示す図である。
【図7】図7は、化合物処理を通じて生成された安定に増殖したiPS細胞が、正常な核型を示したことを示す図である。
【図8A】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(a)0.5μM PD0325901(PD)および0.5μM A-83-01(A83)による処理は、4TF(4F、OKSM)または3TF(3F、OKS)のいずれかを形質導入した初代ヒト角化細胞からのiPSCの生成を有意に改善した。NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種した。
【図8B】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(b)さらなる化学的スクリーニングにより、2TF(OK)を形質導入した初代ヒト角化細胞の再プログラム化を実質的に増強しうるPS48、NaB、およびそれらの組み合わせを同定した。NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種した。
【図8C】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(c)1つの再プログラム化遺伝子であるOCT4を形質導入した初代ヒト角化細胞からのヒトiPSC生成の実験スキーム。KCM、角化細胞培養培地;hESCM、ヒトESC培養培地。
【図8D】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(d)コロニー回収前の2TF/OKまたは1TF/OCT4を形質導入した初代ヒト角化細胞から生成したiPSCコロニーのTRA-1-81による生細胞免疫染色。
【図8E】図8は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いた初代角化細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成を示す図である。(e)樹立ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞は、ALP(アルカリ性ホスファターゼ)、OCT4、SOX2、NANOG、SSEA-4およびTRA-1-81を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図9A】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(a)内因性多能性遺伝子ならびに外因性OCT4およびKLF4のRT-PCRによる発現解析。GAPFHはインプット対照として用いた。
【図9B】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(b)バイサルフェート(bisulfate)ゲノムシーケンシングによるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化解析。白丸および黒丸はそれぞれプロモーター領域における非メチル化およびメチル化CpGを示している。
【図9C】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(c)iPSC-O細胞とNHEKおよびhESCとの間の包括的遺伝子発現パターンを比較する散乱プロット。多能性遺伝子OCT4、NANOG、およびSOX2の位置を矢印で示している。黒線は試料間の遺伝子発現レベルにおける線形の等価および二倍の変化を示す。
【図9D】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(d)ヒトiPSC-OKおよびiPSC-Oは、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図9E】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(e)EB法を用いた、分化したヒトiPSCからの3つの胚葉マーカーの定量的PCR試験:外胚葉(PAX6、βIIIチューブリン)、中胚葉(FOXF1、HAND1)および内胚葉(AFP、GATA6)。データは未分化親ヒトiPSCに対するGAPDHで正規化した変化倍数を示す。
【図9F】図9は、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-O細胞の詳細な特徴づけを示す図である。(f)SCIDマウスにおいて、ヒトiPSC-OKおよびiPSC-Oは有効に完全奇形腫を生じることができ、これは3つの胚葉に分化した細胞を含む。
【図10A】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(a)OCT4を形質導入したHUVECからのヒトiPSC生成の実験スキーム。HCM、HUVEC培地;hESCM、ヒトESC培地。
【図10B】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(b)HUVECから樹立したhiPSC-O細胞は、NANOGおよびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図10C】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(c)内因性多能性遺伝子のRT-PCRによる発現解析。GAPDHをインプット対照として用いた。
【図10D】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(d)バイサルフェートゲノムシーケンシングによるOCT4およびNANOGプロモーターのメチル化解析。白丸および黒丸はそれぞれプロモーター領域における非メチル化およびメチル化CpGを示している。
【図10E】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(e)HUVECからのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図10F】図10は、1つの遺伝子OCT4と低分子とを用いたヒト臍静脈内皮細胞からのヒト誘導多能性幹細胞の生成および特徴づけを示す図である。(f)SCIDマウスにおいて、hiPSC-O細胞は有効に完全奇形腫を生じることができ、これは3つの胚葉に分化した細胞を含む。
【図11】図11は、AHEKからのヒトiPSC-O細胞の特徴づけを示す図である。(a)成人角化細胞から樹立したhiPSC-O細胞は、NANOG、SOX2およびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。(b)これらのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図12】図12は、AFDCからのヒトiPSC-O細胞の特徴づけを示す図である。(a)羊水由来細胞から樹立したhiPSC-O細胞は、NANOG、SOX2およびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。(b)これらのhiPSC-O細胞は、EB法を用い、インビトロで神経外胚葉細胞(βIIIチューブリン)、中胚葉細胞(SMA)、および内胚葉細胞(AFP)を含む3つの胚葉の細胞へと有効に分化することができた。
【図13】図13は、さらなるhiPSC細胞株が典型的な多能性マーカーを発現することを示す図である。他の樹立hiPSC-O細胞株は、NANOGおよびSSEA-4を含む典型的な多能性マーカーを発現する。核をDAPIで染色した。
【図14】図14は、hiPSC細胞株の無フィーダー培養を示す図である。hiPSCをMatrigel/ECMコーティングしたプレート上、以前に報告された化学的に規定されたhESC培地中に分割した。これらのhiPSCは無フィーダー環境で維持し、増殖させることができた。ICCは多能性マーカーであるOCT4およびSSEA4の発現を示した。核をDAPIで染色した。
【図15】図15は、hiPSCの遺伝子型解析を示す図である。ゲノムDNAを用いてのRT-PCR解析は、OCT4導入遺伝子のみがhiPSC-O株(hiPSC-O#1、hiPSC-O#3、hiPSC-O#21、hiPSC-O#26およびhiPSC-O#31)のゲノムに組み込まれたことを示している。NHEK(a)およびHUVEC(b)を陰性対照として用い、ベクターを陽性対照として用いた。
【図16】図16は、hiPSCへのOCT4導入遺伝子の組み込みを示す図である。ゲノムDNA(10μg)をEcoRIで消化し、OCT4 cDNAプローブ(pSin-EF2-OCT4-PurのEcoRI/SpeI断片)とハイブリダイズさせた。複数の導入遺伝子組み込みが検出された。
【図17】図17は、hiPSC細胞株の核型解析を示す図である。hiPSC-O#1(a)およびhiPSC-O#21(b)の中期スプレッドは、15回の継代後に正常な核型を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
発明の詳細な説明
I. 序論
本発明は、ALK5阻害剤、MEK阻害剤、およびROCK阻害剤の組み合わせが、4つの転写因子で形質転換された非多能性哺乳動物細胞において、多能性誘導の効率を大きく改善するという驚くべき発見に基づいている。したがって、本発明は、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導する方法であって、非多能性細胞を少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤と、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤との、および特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤との組み合わせで接触させる段階を含む方法を提供する。
【0085】
II. TGFβ受容体/ALK5阻害剤
アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK-5)はTGF-βに対する細胞応答を仲介する主要なTGFβ受容体である(Massague J. Annu Rev Biochem 67:753-791 (1998);Massague J, Chen YG. Genes Dev 14:627-644 (2000);Franzen P, et al., Cell 75:681-692 (1993))。リガンド結合後、構成性に活性なTβRIIキナーゼはALK-5をリン酸化し、これは次いで下流のシグナル伝達カスケードを活性化する。ALK-5により活性化されるSmad2およびSmad3リン酸化は最も顕著な経路である(Massague J, Chen YG. Genes Dev 14:627-644 (2000))。いったん活性化されると、Smad2/3はSmad4と会合して核に移行し、ここで複合体は標的遺伝子発現を転写的に調節する。
【0086】
TGFβ受容体(すなわちALK5)阻害剤には、TGFβ受容体(例えば、ALK5)の抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体、ならびにTGFβ受容体の発現を抑制するsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害剤には、SB431542(例えば、Inman, et al., Molecular Pharmacology 62(1):65-74 (2002)参照)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとしても公知のA-83-01(例えば、Tojo, et al., Cancer Science 96(11):791-800 (2005)を参照されたく、例えば、Toicris Bioscienceから市販されている);2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、BMP4(Dalton、上記参照)、GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えば、Gellibert, et al., Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221 (2006)参照)、SM16(例えば、Suzuki, et al., Cancer Research 67(5):2351-2359 (2007)参照)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えば、Kim, et al., Xenobiotica 38(3):325-339 (2008)参照)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えば、de Gouville, et al., Drug News Perspective 19(2):85-90 (2006)参照)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド)(例えば、DaCosta, et al., Molecular Pharmacology 65(3):744-752 (2004)参照)およびピリミジン誘導体(例えば、Stiefl, et al., WO2008/006583に挙げられているものを参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)が含まれるが、それらに限定されない。さらに、「ALK5阻害剤」は非特異的キナーゼ阻害剤を含むことを意図していないが、「ALK5阻害剤」は、例えば、SB-431542(例えば、Inman, et al., J, Mol. Phamacol. 62(1):65-74 (2002)参照などの、ALK5に加えてALK4および/またはALK7を阻害する阻害剤を含むことが理解されるはずである。
【0087】
ALK5を阻害する効果を示す本明細書のデータを考慮して、TGFβ/アクチビン経路の阻害は同様の効果を有するであろうと考えられる。したがって、TGFβ/アクチビン経路の任意の阻害剤(例えば、上流または下流)を、本明細書の各パラグラフに記載のALK5阻害剤と組み合わせて、またはそのALK5阻害剤の代わりに用いることができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害剤には、TGFβ受容体阻害剤、SMAD 2/3リン酸化の阻害剤、SMAD 2/3およびSMAD 4の相互作用の阻害剤、ならびにSMAD 6およびSMAD 7の活性化剤/アゴニストが含まれるが、それらに限定されない。さらに、以下に記載する分類は単に組織化を目的とするものであり、当業者であれば化合物は経路内の1つまたは複数の点に影響をおよぼすことができ、したがって化合物は規定の範疇の1つより多くにおいて機能しうることを承知しているであろう。
【0088】
TGFβ受容体阻害剤には、TGFβ受容体の抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体、およびTGFβ受容体を標的とするsiRNAまたはアンチセンス核酸が含まれうる。阻害剤の具体例には、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソル-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジンヒドロクロリド(SB-505124);レルデリムマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリベック;3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;およびTGFβ受容体を標的とするアンチセンス形質移入腫瘍細胞が含まれるが、それらに限定されない。(例えば、Wrzesinski, et al., Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270 (2007);Kaminska, et al., Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337 (2005);およびChang, et al., Frontiers in Bioscience 12:4393-4401 (2007)参照。加えて、発明者らはTGFβ阻害剤BMP-4およびBMP-7が実施例に記載のALK5阻害剤と同様の細胞再プログラム化効果を有することを見いだし、それによりTGFβ阻害剤を再プログラム化のために用いうる(例えば、MEK/ERK経路阻害剤およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤との組み合わせで)とのさらなる証拠を提供する。例示的なヒトBPM-4およびBPM-7タンパク質配列は、例えば、米国特許第7,405,192号に示されている。
【0089】
SMAD 2/3リン酸化の阻害剤には、SMAD2またはSMAD3の抗体、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸が含まれうる。阻害剤の具体例には、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)が含まれる。(例えば、Wrzesinski、上記;Kaminska、上記;Shimanuki, et al., Oncogene 26:3311-3320 (2007);およびKataoka, et al., EP1992360を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる。)
【0090】
SMAD 2/3およびsmad4の相互作用の阻害剤には、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4の抗体、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD2、SMAD3および/またはsmad4を標的とするアンチセンス核酸が含まれうる。SMAD 2/3およびSMAD4の相互作用の阻害剤の具体例には、Trx-SARA、Trx-xFoxH1bおよびTrx-Lef1が含まれるが、それらに限定されない。(例えば、Cui, et al., Oncogene 24:3864-3874 (2005)およびZhao, et al., Molecular Biology of the Cell, 17:3819-3831 (2006)参照。)
【0091】
SMAD 6およびSMAD 7の活性化剤/アゴニストには、SMAD 6またはSMAD 7の抗体、SMAD 6またはSMAD 7のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD 6またはSMAD 7を標的とするアンチセンス核酸が含まれるが、それらに限定されない。阻害剤の具体例には、smad7-as PTO-オリゴヌクレオチドが含まれるが、それらに限定されない。例えば、Miyazono, et al., US6534476、およびSteinbrecher, et al., US2005119203を参照されたく、いずれも参照により本明細書に組み入れられる。
【0092】
当業者であれば、TGFβ受容体/ALK5阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。一般に、細胞培養物中のTGFβ受容体/ALK5阻害剤の濃度はIC20〜IC100の範囲となる(すなわち、細胞において20%阻害から100%阻害が達成される濃度)。例えば、SB432542は0.5〜10μM、最適には約1〜5μMで用いる。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるTGFβ受容体/ALK5阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0093】
III. MEK/ERK経路阻害剤
MEK/ERK経路とは、シグナル伝達経路の一部を構成するMEKおよびERKセリン/トレオニンキナーゼを指す。一般に、活性化RasはRAFキナーゼのタンパク質キナーゼ活性を活性化する。RAFキナーゼはMEKをリン酸化して活性化し、これは次いでマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)をリン酸化して活性化する。MAPKは元は「細胞外シグナル調節キナーゼ」(ERK)および微小管結合タンパク質キナーゼ(MAPK)と呼ばれていた。したがって、「ERK」および「MAPK」は同義に用いられる。
【0094】
MEK/ERK経路阻害剤とは、Raf/MEK/ERK経路の一部であるMEKまたはERKのいずれかの阻害剤を指す。発明者らはMEK阻害剤がiPSCの誘導を改善する上で有効であることを見いだしたため、またMEKはERK活性を直接制御するため、本発明に関して記載するMEK阻害剤は望まれる場合にはERK阻害剤で置き換えることができると考えられる。
【0095】
MEKの阻害剤(すなわち、MEK1(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ1としても公知)および/またはMEK2(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ2としても公知))には、MEKの抗体、MEKのドミナントネガティブ変異体、ならびにMEKの発現を抑制するsiRNAおよびsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。MEK阻害剤の具体例には、PD0325901、(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22: 4456-4462 (2004)参照)、PD98059(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(例えば、Cell Signaling Technologyから入手可能)、SL 327(例えば、Sigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えば、Array Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えば、Klein, et al., Neoplasia 8:1-8 (2006)参照)、PD184352(CI-1040)(例えば、Mattingly, et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 316:456-165 (2006)参照)、スニチニブ(例えば、Voss, et al., US2008004287を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、ソラフェニブ(Voss上記参照)、バンデタニブ(Voss上記参照)、パゾパニブ(例えば、Voss上記参照)、アキシチニブ(Voss上記参照)およびPTK787(Voss上記参照)が含まれるが、それらに限定されない。
【0096】
現在のところ、いくつかのMEK阻害剤が臨床試験の評価を受けている。CI-1040は癌についての第I相および第II相臨床試験で評価が行われた(例えば、Rinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22(22):4456-4462 (2004)参照)。臨床試験で評価中の他のMEK阻害剤には、PD184352(例えば、English, et al., Trends in Pharmaceutical Sciences 23(1):40-45 (2002)参照)、BAY 43-9006(例えば、Chow, et al., Cytometry (Communications in Clinical Cytometry) 46:72-78 (2001)参照)、PD-325901(同じくPD0325901)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEA119、AZD6244(同じくARRY-142886またはARRY-886)、RO5126766、XL518およびAZD8330(同じくARRY-704)が含まれる。(例えば、ウェブ上のclinicaltrials.govにある国立衛生研究所からの情報ならびにウェブ上のcancer.gov/clinicaltrialsにある国立癌研究所の情報を参照されたい。
【0097】
例示的なERK(すなわち、ERK1(MAPK3としても公知)および/またはERK2(MAPK1としても公知))阻害剤には、PD98059(例えば、Zhu, et al., Oncogene 23:4984-4992 (2004)参照)、U0126(Zhu、上記参照)、FR180204(例えば、Ohori, Drug News Perspective 21(5):245-250 (2008)参照)、スニチニブ(例えば、US2008004287を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)、ソラフェニブ、バンデタニブ、パゾパニブ、アキシチニブおよびPTK787が含まれる。
【0098】
当業者であれば、MEK/ERK経路阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるMEK/ERK経路阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0099】
IV. Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤
本発明は、Rho-GTPアーゼ/ROCK経路の阻害剤の使用およびそれらを含む組成物を提供する。この経路は下流タンパク質ミオシンIIを含み、これはROCKのさらに下流である(Rho-ROCK-ミオシンIIは経路/軸を形成する)。したがって、本明細書に記載の効果を達成するために、Rho GTPアーゼ阻害剤、ROCK阻害剤、またはミオシンII阻害剤のいずれか、またはすべてを用いることができる。当業者であれば、Rho-GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。さらなる態様において、2つまたはそれ以上の異なるRho-GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0100】
いかなるRho GTPアーゼも本発明の方法および組成物において有効であるはずである。Rho GTPアーゼの阻害剤には、Rho GTPアーゼに結合する抗体、Rho GTPアーゼのドミナントネガティブ変異体、ならびにRho GTPアーゼを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なRho GTPアーゼ阻害剤は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)C3毒素である。
【0101】
いかなるミオシンII阻害剤も本発明の方法および組成物において有効であるはずである。ミオシンIIの阻害剤には、ミオシンIIに結合する抗体、ミオシンIIのドミナントネガティブ変異体、ならびにミオシンIIを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。例示的なミオシンII阻害剤はブレビスタチンである。発明者らは、実施例の項に記載の混合物および方法において、効果は低下するもののブレビスタチンをSB431542(ALK5阻害剤)の代わりに用いうることを見いだした。他の阻害剤には、米国特許第7,585,844号に記載のものが含まれるが、それらに限定されない。
【0102】
本明細書において用いる「ROCK」とは、Rhoの下流で作用するセリン/トレオニンキナーゼを指す。ROCK I(ROKβまたはp160ROCKとも呼ぶ)およびROCK II(ROKαまたはRhoキナーゼとも呼ぶ)はいずれもRhoAによって調節される。例えば、Riento, K. and Ridley, A.J., Nat. Rev. Mol. Cell. Biol, 4, 446-456 (2003)参照。「ROCK阻害剤」とは、ROCKの両方またはいずれかを阻害する物質を指す。ROCKの阻害剤には、ROCKに結合する抗体、ROCKのドミナントネガティブ変異体、ならびにROCKを標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。いくつかの例示的なROCK阻害剤には、国際公開公報:第98/06433号、第00/78351号、第01/17562号、第02/076976号、第02/076977号、第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号、第2004/039796号、第03/082808号、第05/035506号、第05/074643号および米国特許出願:第2005/0209261号、第2005/0192304号、第2004/0014755号、第2004/0002508号、第2004/0002507号、第2003/0125344号および第2003/0087919号が含まれるが、それらに限定されない。ROCK阻害剤には、例えば、(+)-(R)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、またはWf536;4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-(4-ピリジル)ベンズアミドモノヒドロクロリドまたはファスジル;5-(ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン-1-イルスルホニル)イソキノリンヒドロクロリドまたは化合物1;4-[(トランス-4-アミノシクロヘキシル)アミノ]-2,5-ジフルオロベンズアミドまたは化合物2;4-[(トランス-4-アミノシクロヘキシル)アミノ]-5-クロロ-2-フルオロベンズアミドまたは化合物3;2-[4-(1H-インダゾル-5-イル)フェニル]-2-プロパンアミンジヒドロクロリドまたは化合物4;N-(3-メトキシベンジル)-4-(4-ピリジル)ベンズアミド、Y-27632(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、ファスジル(HA1077とも呼ぶ)(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、sc-3536(例えば、Darenfed, H., et al. Cell Motil. Cytoskeleton. 64: 97-109, 2007参照)、H-1152(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol 52(4): 319-324 (2003)参照)、Y-30141(米国特許第5,478,838号に記載)およびその誘導体、ならびにROCKのアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、抗体-ScFV断片、ドミナントネガティブ変異体およびその発現ベクターが含まれる。
【0103】
前述の化合物は、必要に応じて、薬学的に許容される無機酸または有機酸との酸付加塩として作成してもよい。酸付加塩の例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸およびグルタミン酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ジヒドロキシベンゼンスルホン酸などのスルホン酸との塩が含まれる。
【0104】
化合物およびその酸付加塩はその無水物、水和物または溶媒和物であってもよい。
【0105】
本発明を実施するために、ROCK阻害剤は一般に、阻害剤がRhoキナーゼ(ROCK)の機能を阻害しうるかぎり、限定なく適切であり、適切な阻害剤にはY-27632(例えば、Ishizaki et al., Mol. Pharmacol. 57, 976-983 (2000);Narumiya et al., Methods Enzymol. 325,273-284 (2000)参照)、sc-3536(例えば、Darenfed, H., et al. Cell Motil. Cytoskeleton. 64: 97-109, 2007参照)、ファスジル(HA1077とも呼ぶ)(例えば、Uenata et al., Nature 389: 990-994 (1997)参照)、H-1152(例えば、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232 (2002)参照)、Wf-536(例えば、Nakajima et al., Cancer Chemother Pharmacol. 52(4): 319-324 (2003)参照)、Y-30141(米国特許第5,478,838号に記載)およびその誘導体、ならびにROCKのアンチセンス核酸、RNA干渉誘導核酸(例えば、siRNA)、競合ペプチド、アンタゴニストペプチド、阻害抗体、抗体-ScFV断片、ドミナントネガティブ変異体およびその発現ベクターが含まれる。さらに、他の低分子化合物がROCK阻害剤として公知であるため、そのような化合物またはその誘導体も本発明において用いることができる(例えば、米国特許出願第20050209261号、第20050192304号、第20040014755号、第20040002508号、第20040002507号、第20030125344号および第20030087919号、ならびに国際公開公報第2003/062227号、第2003/059913号、第2003/062225号、第2002/076976号および第2004/039796号参照)。本発明において、ROCK阻害剤の1つまたは2つまたはそれ以上の組み合わせを用いることもできる。
【0106】
さらなるROCK阻害剤には、例えば、HA1100、3-(4-ピリジル)-1H-インドールおよびN-(4-ピリジル)-N'-(2,4,6-トリクロロフェニル)尿素が含まれ、これらはそれぞれ市販されている(例えば、Alexis Biochemicals (Plymouth Meeting, PA)から)。
【0107】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式(I)において、環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0108】
L1は-C(O)-NR2-または-NR2-C(O)-である。L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンである。
【0109】
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0110】
いくつかの態様において、環Aは置換または非置換アリールである。環Aは置換または非置換フェニルであってもよい。
【0111】
他の態様において、環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。環Bは置換または非置換ヘテロアリールであってもよい。さらに他の態様において、環Bは置換もしくは非置換ピラゾリル、置換もしくは非置換フラニル、置換もしくは非置換イミダゾリル、置換もしくは非置換イソキサゾリル、置換もしくは非置換オキサジアゾリル、置換もしくは非置換オキサゾリル、置換もしくは非置換ピロリル、置換もしくは非置換ピリジル、置換もしくは非置換ピリミジル、置換もしくは非置換ピリダジニル、置換もしくは非置換チアゾリル、置換もしくは非置換トリアゾリル、置換もしくは非置換チエニル、置換もしくは非置換ジヒドロチエノ-ピラゾリル、置換もしくは非置換チアナフテニル、置換もしくは非置換カルバゾリル、置換もしくは非置換ベンゾチエニル、置換もしくは非置換ベンゾフラニル、置換もしくは非置換インドリル、置換もしくは非置換キノリニル、置換もしくは非置換ベンゾトリアゾリル、置換もしくは非置換ベンゾチアゾリル、置換もしくは非置換ベンゾオキサゾリル、置換もしくは非置換ベンズイミダゾリル、置換もしくは非置換イソキノリニル、置換もしくは非置換イソインドリル、置換もしくは非置換アクリジニル、置換もしくは非置換ベンゾイサゾリル、または置換もしくは非置換ジメチルヒダントインである。
【0112】
L2は置換または非置換C1-C10アルキルであってもよい。いくつかの態様において、L2は非置換C1-C10アルキルである。L2は置換または非置換メチレン(例えば、非置換メチレン)であってもよい。
【0113】
R2は水素であってもよい。R1は水素または非置換C1-C10アルキルであってもよい。いくつかの態様において、R1は単純に水素である。
【0114】
式(I)のいくつかの態様において、環Aは置換または非置換アリールであり、環Bは置換または非置換ヘテロアリールであり、R1は水素であり、かつL2は非置換C1-C10アルキルである。
【0115】
別の態様において、ROCK阻害剤は以下の式を有する:
式(II)において、yは0から3の整数であり、かつzは0から5の整数である。Xは-N=、-CH=または-CR4=である。R1およびL2は式(I)の定義において上で定義したとおりである。
【0116】
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよい。
【0117】
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【0118】
いくつかの態様において、L2は置換または非置換C1-C10アルキルである。L2は非置換C1-C10アルキルであってもよい。または、L2は置換または非置換メチレン(例えば、非置換メチレン)である。
【0119】
他の態様において、Xは-N=または-CH=である。記号zは2であってもよい。さらに他の態様において、隣接する頂点の2つのR3部分は一緒になって置換または非置換ヘテロシクロアルキルを形成する。記号zは1であってもよい。記号yは0または1であってもよい。R3は-OR18であってもよい。R18は水素または非置換C1-C10アルキルであってもよい。
【0120】
いくつかの態様において、L2は置換または非置換メチレン(例えば、置換メチレン)であり、Xは-N=または-CH=であり、R1は水素であり、かつyおよびzは0である。
【0121】
他の態様において、化合物は以下の式を有する。
【0122】
V. GSK3阻害剤
様々な態様において、1つまたは複数のGSK3阻害剤が本発明の方法、混合物およびキットに含まれうる。発明者らは、GSK3阻害剤を少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤と共に、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤と組み合わせて、特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤と組み合わせて含むことを見いだした。GSK3の阻害剤には、GSK3に結合する抗体、GSK3のドミナントネガティブ変異体、ならびにGSK3を標的とするsiRNA、microRNA、アンチセンス核酸、および他のポリヌクレオチドが含まれうる。GSK3阻害剤の具体例には、ケンパウロン、1-アザケンパウロン、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418(例えば、Gould, et al., The International Journal of Neuropsychopharmacology 7:387-390 (2004)参照)、CT 99021(例えば、Wagman, Current Pharmaceutical Design 10:1105-1137 (2004)参照)、CT 20026(Wagman、上記参照)、SB216763(例えば、Martin, et al., Nature Immunology 6:777-784 (2005)参照)、AR-A014418(例えば、Noble, et al., PNAS 102:6990-6995 (2005)参照)、リチウム(例えば、Gould, et al., Pharmacological Research 48: 49-53 (2003)参照)、SB 415286(例えば、Frame, et al., Biochemical Journal 359:1-16 (2001)参照)およびTDZD-8(例えば、Chin, et al., Molecular Brain Research, 137(1-2):193-201 (2005)参照)が含まれるが、それらに限定されない。Calbiochemから入手可能なさらなる例示的なGSK3阻害剤(例えば、Dalton, et al., WO2008/094597を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)には、BIO (2'Z,3'£)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(GSK3阻害剤IX);BIO-アセトキシム (2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-アセトキシム(GSK3阻害剤X);(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン(GSK3阻害剤XIII);ピリドカルバゾール-シクロペナジエニルルテニウム錯体(GSK3阻害剤XV);TDZD-8 4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(GSK3β阻害剤I);2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(1-ピリジル)-[1,3,4]-オキサジアゾール(GSK3β阻害剤II);OTDZT 2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン(GSK3β阻害剤III);α-4-ジブロモアセトフェノン(GSK3β阻害剤VII);AR-AO 14418 N-(4-メトキシベンジル)-N'-(5-ニトロ-1,3-チアゾル-2-イル)尿素(GSK-3β阻害剤VIII);3-(1-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン(GSK-3β阻害剤XI);TWS1 19 ピロロピリミジン化合物(GSK3β阻害剤XII);L803 H-KEAPPAPPQSpP-NH2またはそのミリストイル化型(GSK3β阻害剤XIII);2-クロロ-1-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン(GSK3β阻害剤VI);AR-AO144-18;SB216763;およびSB415286が含まれるが、それらに限定されない。阻害剤と相互作用するGSK3bの残基が同定されている。例えば、Bertrand et al., J. Mol Biol. 333(2): 393-407 (2003)参照。GSK3阻害剤は、例えば、Wnt/β-カテニン経路を活性化することができる。β-カテニン下流遺伝子の多くは多能性遺伝子ネットワークを同時調節する。例えば、GSK阻害剤はcMyc発現を活性化し、ならびにそのタンパク質安定性および転写活性を増強する。したがって、いくつかの態様において、GSK3阻害剤を細胞内の内因性MYCポリペプチドを刺激するために用いることができ、それにより多能性を誘導するためにMYC発現の必要性をなくす。
【0123】
当業者であれば、GSK3阻害剤の濃度はどの特定の阻害剤を用いるかに依存することを理解するであろう。特定の態様において、2つまたはそれ以上の異なるGSK3阻害剤の組み合わせを用いることもできる。
【0124】
VI. 多能性を誘導する方法
今日までに、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)へと誘導するための多くの異なる方法およびプロトコルが確立されている。本明細書に記載の物質は、iPSCを生成するための基本的に任意のプロトコルとの組み合わせで用い、それによりプロトコルの効率を改善することができると考えられる。したがって、本発明は、iPSC細胞を生成するための任意のプロトコルと組み合わせての、非多能性細胞の、少なくともTGFβ受容体/ALK5阻害剤とのインキュベーション、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤、および特定の態様において、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤と組み合わせてのインキュベーションを提供する。プロトコルの選択を以下に記載し、それぞれはプロトコルの効率を改善するために本発明の物質と組み合わせることができると考えられる。
【0125】
iPSC生成プロトコルの効率の改善は、プロトコルおよび本発明のどの物質を用いるかに依存する。いくつかの態様において、効率は、本発明の物質(すなわち、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤)を含まない同じプロトコルと比較して、少なくとも10%、20%、50%、75%、100%、150%、200%、300%またはそれ以上改善される。効率は特定の時間枠内で生成されたiPSCの数またはiPSCが生成されるスピードの改善に関して評価する。
【0126】
試験により、ESCにおいて高度に発現される4つの転写因子(Oct-3/4、Sox2、KLF4およびc-Myc)をマウス線維芽細胞にレトロウイルス形質導入すると、誘導多能性幹(iPS)細胞を生成することが明らかにされている。Takahashi, K. & Yamanaka, S. Cell 126, 663-676 (2006);Okita, K., Ichisaka, T. & Yamanaka, S. Nature 448, 313-317 (2007);Wernig, M. et al. Nature 448, 318-324 (2007);Maherali, N. et al. Cell Stem Cell 1, 55-70 (2007);Meissner, A., Wernig, M. & Jaenisch, R. Nature Biotechnol. 25, 1177-1181 (2007);Takahashi, K. et al. Cell 131, 861-872 (2007);Yu, J. et al. Science 318, 1917-1920 (2007);Nakagawa, M. et al. Nature Biotechnol. 26, 101-106 (2007);Wernig, M., Meissner, A., Cassady, J. P. & Jaenisch, R. Cell Stem Cell. 2, 10-12 (2008)参照。iPS 細胞は、奇形腫形成およびキメラ寄与率により判断して、形態、増殖、および多能性においてESCと類似している。
【0127】
前述のとおり、元のプロトコルは非多能性細胞への4つの転写因子の導入を含んでいたが、最近になっていくつかの転写因子を省略しうることが判明した。したがって、いくつかの態様において、プロトコルはOctポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、または3つを非多能性細胞に、非多能性細胞がiPSCになることを可能にする条件下で導入することを含む。例えば、Maherali and Konrad Hochedlinger, "Tgfβ Signal Inhibition Cooperates in the Induction of iPSCs and Replaces Sox2 and cMyc" Current Biology (2009)およびWO/2009/117439はそれぞれ、多能性を誘導するのに4つの転写因子すべてを必要とするわけではないプロトコルを記載している。さらに、発明者らは、Oct4だけを細胞に導入し、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤と共にインキュベートすることにより、iPSCを生成しうることを見いだした。例えば、十分な量のSB431542、PD0325901、Tzv、およびバルプロ酸または酪酸ナトリウム存在下、外因性Oct4を哺乳動物細胞に導入すると、iPSC細胞をうまく生成した。
【0128】
例示的なHDAC阻害剤には、1つまたは複数のHDACに結合する抗体、HDACのドミナントネガティブ変異体、ならびにHDACを標的とするsiRNAおよびアンチセンス核酸が含まれうる。HDAC阻害剤には、TSA(トリコスタチンA)(例えば、Adcock, British Journal of Pharmacology 150:829-831 (2007)参照)、VPA(バルプロ酸)(例えば、Munster, et al., Journal of Clinical Oncology 25:18S (2007): 1065参照)、酪酸ナトリウム(NaBu)(例えば、Han, et al., Immunology Letters 108:143-150 (2007)参照)、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸またはボリノスタット)(例えば、Kelly, et al., Nature Clinical Practice Oncology 2:150-157 (2005)参照)、フェニル酪酸ナトリウム(例えば、Gore, et al., Cancer Research 66:6361-6369 (2006)参照)、デプシペプチド(FR901228、FK228)(例えば、Zhu, et al., Current Medicinal Chemistry 3(3):187-199 (2003)参照)、トラポキシン(TPX)(例えば、Furumai, et al., PNAS 98(1):87-92 (2001)参照)、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド1(CHAP1)(Furumai上記参照)、MS-275(例えば、Carninci, et al., WO2008/126932を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる))、LBH589(例えば、Goh, et al., WO2008/108741を参照されたく、参照により本明細書に組み入れられる)およびPXD101(Goh、上記参照)が含まれるが、それらに限定されない。一般には、世界的レベルで、多能性細胞はより多くのヒストンアセチル化を有し、分化した細胞はヒストンアセチル化が少ない。ヒストンアセチル化はヒストンおよびDNAメチル化の調節にも関与している。いくつかの態様において、HDAC阻害剤はサイレンシングされた遺伝子の活性化を促進する。
【0129】
組み込まれた外来配列を有する標的細胞ゲノムから生じる安全性の問題に取り組むために、いくつかの改変した遺伝学的プロトコルがさらに開発されている。これらのプロトコルは潜在的にリスクが低減されたiPS細胞を作製し、再プログラム化遺伝子を送達するための非組み込みアデノウイルス(Stadtfeld, M., et al. (2008) Science 322, 945-949)、再プログラム化プラスミドの一過性形質移入(Okita, K., et al. (2008) Science 322, 949-953)、piggyBac転位システム(Woltjen, K., et al. (2009). Nature 458, 766-770, Kaji, K., et al. (2009) Nature 458, 771-775)、Cre切除可能ウイルス(Soldner, F., et al. (2009) Cell 136, 964-977)、およびoriP/EBNA1に基づくエピソーム発現システム(Yu, J., et al. (2009) Science DOI: 10.1126)を含む。さらに、特定の細胞型において内因性遺伝子発現を活用する戦略も、より容易な再プログラム化を可能にし、かつ/または外因性遺伝子の必要性が低かった(Shi, Y., et al. (2008b). Cell Stem Cell 2, 525-528;Aasen, T., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 1276-1284;Kim, J.B., et al. (2008). Nature 454, 646-650)。さらに、再プログラム化効率を増強し、特定の再プログラム化因子に置き換わる低分子が同定された(Shi, Y., et al. (2008) Cell Stem Cell 2, 525-528、Shi, Y., et al., (2008) Cell Stem Cell 3, 568-574、Li, W., et al. (2009) Cell Stem Cell 4, 16-19;Huangfu, D., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 1269-1275、Huangfu, D., et al. (2008) Nat Biotechnol 26, 795-797)。
【0130】
さらに、最近、転写因子が外因性タンパク質として非多能性細胞へと送達されて、iPSCを生成しうることが明らかにされている。例えば、WO/2009/117439;Zhou et al., Cell Stem Cell 4:381-384 (2009)参照。ポリペプチドをコードするポリペプチドの導入を含まない、いくつかの異なる方法によって、外因性ポリペプチド(すなわち、細胞の外部から提供され、かつ/または細胞によって産生されないタンパク質)を細胞に導入することができる。したがって、いくつかの態様において、非多能性細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤と、好ましくはMEK/ERK経路阻害剤との、および特定の態様においてはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤および1つまたは複数の外因性転写因子タンパク質、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つすべてとの組み合わせで、接触させる。
【0131】
関連するタンパク質因子を標的細胞に導入するための様々な様式が記載されている。1つの態様において、細胞へのポリペプチドの導入は、1つまたは複数の発現カセットを含むポリヌクレオチドを細胞に導入して発現を誘導し、それにより発現カセットからの転写および翻訳によりポリペプチドを細胞に導入することを含みうる。
【0132】
または、1つまたは複数のタンパク質を、標的細胞存在下、細胞へのタンパク質の導入を可能にする条件下で、単純に培養することもできる。例えば、Zhou H et al., Generation of induced pluripotent stem cells using recombinant proteins. Cell Stem Cell. 2009 May 8;4(5):381-4参照。いくつかの態様において、外因性タンパク質は、転写因子の細胞(およびいくつかの態様においては細胞核)に入る能力を増強するポリペプチドに連結(例えば、融合タンパク質として連結、またはそうでなければ共有結合もしくは非共有結合により連結)された、関心対象の転写因子ポリペプチドを含む。
【0133】
膜を越える輸送を増強するポリペプチド配列の例には、ショウジョウバエホメオタンパク質アンテナペディア転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al., New Biol. 3: 1121-34, 1991;Joliot et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 1864-8,1991;Le Roux et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 9120-4,1993)、単純ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O'Hare, Cell 88: 223-33,1997);HIV-1転写活性化因子TATタンパク質(Green and Loewenstein, Cell 55: 1179-1188, 1988;Frankel and Pabo, Cell 55: 1289-1193, 1988);米国特許第6,730,293号に記載のものなどの送達増強トランスポーター(少なくとも7〜25の近接アルギニンを含むペプチド配列を含むが、それに限定されない);ならびに市販のPenetratin(商標)1ペプチド、およびフランス、パリのDaitos S.A.から入手可能なVectocell(登録商標)プラットフォームのDiatos Peptide Vectors(「DPV」)が含まれるが、それらに限定されない。WO/2005/08418およびWO/2007/123667ならびにそれらにおいて記載される他のトランスポーターも参照されたい。これらのタンパク質が原形質膜を越えるだけでなく、本明細書に記載の転写因子などの他のタンパク質の接着は、これらの複合体の細胞取り込みを刺激するのに十分である。
【0134】
いくつかの態様において、本明細書に記載の転写因子ポリペプチドは、リポソーム、または市販のFugene6およびLipofectamineなどの脂質カクテルの一部として外因性に導入される。別の代替態様において、転写因子タンパク質は微量注入することもでき、またはそうでなければ標的細胞に直接導入することもできる。
【0135】
WO/2009/117439の実施例に記載のとおり、細胞を本発明の転写因子ポリペプチドと共に長時間インキュベートすることは細胞にとって有毒である。したがって、本発明は、非多能性哺乳動物細胞のKlfポリペプチド、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、および/またはSoxポリペプチドの1つまたは複数との間欠的インキュベーションであって、細胞インキュベーションの間の期間は1つまたは複数のポリペプチド非存在下であるインキュベーションを提供する。いくつかの態様において、ポリペプチド存在下および非存在下でのインキュベーションの周期は2、3、4、5、6回、またはそれ以上の回数繰り返すことができ、多能性細胞の発生を達成するのに十分な長さの期間(すなわち、タンパク質存在下および非存在下でのインキュベーション)実施する。方法の効率を改善するために、様々な物質(例えば、MEK/ERK経路阻害剤および/またはGSK3阻害剤および/またはTGFβ/ALK5阻害剤および/またはRho GTPアーゼ/ROCK経路阻害剤)を含むことができる。
【0136】
様々な阻害剤(例えば、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、特定の態様において、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤、および/またはGSK3阻害剤など)を非多能性細胞に、プログラム化転写因子の送達(例えば、発現カセットにより、またはタンパク質として送達)の前、同時、または後のいずれかに接触させることができる。便宜上、再プログラム化因子を送達する日を「第1日」とする。いくつかの態様において、阻害剤を細胞に集合体で(すなわち、「カクテル」として)およそ第3〜7日に接触させ、7〜14日間続ける。または、いくつかの態様において、カクテルを細胞に第0日(すなわち、前プログラム化因子の前日)に接触させ、約14〜30日間インキュベートする。
【0137】
他の態様において、異なる阻害剤を異なる時点で加える。いくつかの態様において、再プログラム化因子の送達の1〜7日後に、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤(例えば、SB431542)およびROCK阻害剤の化合物の組み合わせと1〜8日間接触させた後、細胞をTGFβ受容体/ALK5阻害剤、ROCK阻害剤およびMEK/ERK経路阻害(例えば、PD0325901)と1〜8日間接触させる。この後、任意でTGFβ受容体/ALK5阻害剤およびMEK/ERK経路阻害剤と(ROCK阻害剤とは必ずしも接触させない)1〜4日間接触させた後、MEK/ERK経路阻害剤と(TGFβ受容体/ALK5阻害剤またはROCK阻害剤とは接触させない)接触させ、任意で最後に阻害剤を含まない基本(例えば、基本ヒト)ES培地と1〜4日間接触させることができる。他の組み合わせを用いることもできる。
【0138】
IV. 形質転換
本発明は、組換え遺伝学の分野における慣行的技術を用いる。本発明における使用の一般的方法を開示している基本の教科書には、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory Manual (3rd ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994))が含まれる。
【0139】
いくつかの態様において、細胞および発現させるタンパク質の種は同じである。例えば、マウス細胞を用いる場合、マウス相同分子種を細胞に導入する。ヒト細胞を用いる場合、ヒト相同分子種を細胞に導入する。
【0140】
細胞中で2つまたはそれ以上のタンパク質を発現させる場合、1つまたは複数の発現カセットを用いうることが理解されよう。例えば、1つの発現カセットが複数のポリペプチドを発現する場合、多シストロン性発現カセットを用いることができる。
【0141】
A. プラスミドベクター
特定の態様において、宿主細胞を形質転換するのに用いるために、プラスミドベクターが企図される。一般に、宿主細胞と適合性の種由来のレプリコンおよび制御配列を含むプラスミドベクターを、これらの宿主と関連して用いる。ベクターは複製部位、ならびに形質転換細胞において表現型選択を提供することができるマーキング配列を担持することができる。
【0142】
B. ウイルスベクター
特定のウイルスが持つ、受容体仲介エンドサイトーシスを介して細胞に感染する、または細胞に侵入する能力、および宿主細胞ゲノムに組み込まれて、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現する能力により、それらのウイルスは外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入するための魅力的な候補となっている。本発明の核酸を送達するために用いうるウイルスベクターの非限定例を以下に記載する。
【0143】
i. アデノウイルスベクター
核酸送達のための特定の方法はアデノウイルス発現ベクターの使用を含む。アデノウイルスベクターはゲノムDNAに組み込まれる能力が低いことが公知であるが、この特徴はこれらのベクターが提供する高効率の遺伝子導入によって相殺される。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)構築物のパッケージングを支持し、かつ(b)最終的にその中でクローン化された組織または細胞特異的構築物を発現するのに十分な、アデノウイルス配列を含む構築物を含むことを意味する。遺伝的構成またはアデノウイルス、すなわち約36kbの直鎖、二本鎖DNAウイルスの知識があれば、大きいアデノウイルスDNA片の7kbまでの外来配列による置換が可能である(Grunhaus et al., Seminar in Virology, 200(2):535-546, 1992))。
【0144】
ii. AAVベクター
アデノウイルス補助形質移入を用いて核酸を細胞に導入してもよい。形質移入効率の増大がアデノウイルス結合システムを用いた細胞システムで報告されている(Kelleher and Vos, Biotechniques, 17(6):1110-7, 1994;Cotten et al., Proc Natl Acad Sci USA, 89(13):6094-6098, 1992;Curiel, Nat Immun, 13(2-3):141-64, 1994.)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は高頻度の組み込みを有し、非分裂細胞に感染しうるため、魅力的なベクターシステムであり、したがって、例えば、組織培養中(Muzyczka, Curr Top Microbiol Immunol, 158:97-129, 1992)またはインビボで哺乳動物細胞に遺伝子を送達するのに有用となる。rAAVベクターの生成および使用に関する詳細は米国特許第5,139,941号および第4,797,368号に記載されており、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0145】
iii. レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、それらの遺伝子を宿主ゲノムに組み込み、大量の外来遺伝物質を導入し、広範囲の種および細胞型に感染する能力、および特定の細胞株にパッケージングされる能力があるため、遺伝子送達ベクターとして見込みがある(Miller et al., Am. J. Clin. Oncol., 15(3):216-221, 1992)。
【0146】
レトロウイルスベクターを作成するために、核酸(例えば、ある関心対象のコード遺伝子)をウイルスゲノムの特定のウイルス配列の位置に挿入して、複製に欠陥のあるウイルスを作製する。ビリオンを作製するために、gag、pol、およびenv遺伝子を含むが、LTRのないパッケージング細胞株およびパッケージング成分を作成する(Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。cDNAをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共に含む組換えプラスミドを特定の細胞株に導入すると(例えば、リン酸カルシウム沈澱により)、パッケージング配列は組換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子にパッケージングさせ、これらは次いで培地中に分泌される(Nicolas and Rubinstein, In: Vectors: A survey of molecular cloning vectors and their uses, Rodriguez and Denhardt, eds., Stoneham: Butterworth, pp. 494-513, 1988;Temin, In: Gene Transfer, Kucherlapati (ed.), New York: Plenum Press, pp. 149-188, 1986;Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。次いで、組換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意で濃縮し、遺伝子導入のために用いる。レトロウイルスベクターは多様な細胞型に感染することができる。しかし、組み込みおよび安定な発現は典型的には宿主細胞の分裂に関与する(Paskind et al., Virology, 67:242-248, 1975)。
【0147】
レンチウイルスは複雑なレトロウイルスで、これらは一般的なレトロウイルス遺伝子のgag、pol、およびenvに加えて、調節または構造機能を有する遺伝子を含む。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えば、Naldini et al., Science, 272(5259):263-267, 1996;Zufferey et al., Nat Biotechnol, 15(9):871-875, 1997;Blomer et al., J Virol., 71(9):6641-6649, 1997;米国特許第6,013,516号および第5,994,136号参照)。レンチウイルスのいくつかの例には、ヒト免疫不全症ウイルス:HIV-1、HIV-2およびサル免疫不全症ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターはHIVビルレンス遺伝子を多様に減弱することにより生成されており、例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させて、ベクターを生物学的に安全にする。
【0148】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することが可能で、インビボおよびエクスビボの両方での遺伝子導入および核酸配列発現のために用いることができる。例えば、適切な宿主細胞にパッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを担持する2つまたはそれ以上のベクターを形質移入した、非分裂細胞に感染可能な組換えレンチウイルスが、米国特許第5,994,136号に記載されており、参照により本明細書に組み入れられる。特定の細胞型の受容体を標的とするために、エンベロープタンパク質の抗体または特定のリガンドとの連結により組換えウイルスを標的としてもよい。例えば、特定の標的細胞上の受容体に対するリガンドをコードする別の遺伝子と共に、関心対象の配列(調節領域を含む)をウイルスベクターに挿入することにより、ベクターは標的特異的となる。
【0149】
iv. 改変ウイルスを用いた送達
送達する核酸を、特異的結合リガンドを発現するよう操作された感染性ウイルス内に収容してもよい。したがって、ウイルス粒子は標的細胞の同種の受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達する。レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングを可能にするよう設計された新規アプローチが、ウイルスエンベロープに乳糖残基を化学的に付加することによるレトロウイルスの化学的改変に基づいて開発された。この改変は、シアロ糖タンパク質受容体を介しての肝細胞の特異的感染を可能にしうる。
【0150】
レトロウイルスエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を用いる、組換えレトロウイルスのターゲティングへの別のアプローチが設計された。ストレプトアビジンを用いることによりビオチン成分を介して抗体が結合された(Roux et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:9079-9083, 1989)。主要組織適合抗原複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を用いて、インビトロでこれらの表面抗原を有する様々なヒト細胞のエコトロピックウイルスによる感染が示された(Roux et al., 1989)。
【0151】
C. ベクター送達および細胞形質転換
本発明により用いるための細胞、組織または生物の形質転換のための適切な核酸送達法は、本明細書に記載のとおり、または当業者には公知であるとおり、核酸(例えば、DNA)を細胞、組織または生物に導入しうる、実質的に任意の方法を含むと考えられる。そのような方法には、任意でFugene6(Roche)またはLipofectamine(Invitrogen)を用いた、エクスビボ形質移入(Wilson et al., Science, 244:1344-1346, 1989, Nabel and Baltimore, Nature 326:711-713, 1987)、微量注入(Harland and Weintraub, J. Cell Biol., 101:1094-1099, 1985;米国特許第5,789,215号、参照により本明細書に組み入れられる)を含む注入(米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号および第5,580,859号、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);電気穿孔法(米国特許第5,384,253号、参照により本明細書に組み入れられる;Tur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6:716-718, 1986;Potter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 81:7161-7165, 1984);リン酸カルシウム沈澱(Graham and Van Der Eb, Virology, 52:456-467, 1973;Chen and Okayama, Mol. Cell Biol., 7(8):2745-2752, 1987;Rippe et al., Mol. Cell Biol., 10:689-695, 1990);DEAE-デキストランと、続くポリエチレングリコールの使用(Gopal, Mol. Cell Biol., 5:1188-1190, 1985);直接音波ローディング(Fechheimer et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 84:8463-8467, 1987);リポソーム仲介形質移入(Nicolau and Sene, Biochim. Biophys. Acta, 721:185-190, 1982;Fraley et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 76:3348-3352, 1979;Nicolau et al., Methods Enzymol., 149:157-176, 1987;Wong et al., Gene, 10:87-94, 1980;Kaneda et al., Science, 243:375-378, 1989;Kato et al., J Biol. Chem., 266:3361-3364, 1991)および受容体仲介形質移入(Wu and Wu, Biochemistry, 27:887-892, 1988;Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262:4429-4432, 1987);ならびにそのような方法の任意の組み合わせなどによるDNAの直接送達が含まれるが、それらに限定されるわけではなく、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0152】
VII. 混合物
本発明は、iPSC生成の効率を改善する混合物を提供する。例えば、本発明は、TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、Rho GTPアーゼ/ROCK阻害剤の混合物を、特定の態様において、哺乳動物細胞と共に提供する。例えば、混合物は、細胞と共に、または細胞なしで、細胞培養の培地に含まれうる。細胞培養培地の内容は一般に当技術分野において公知である。例示的な細胞培養培地は実施例において詳細に記載する。一般に、哺乳動物細胞および本発明の物質(TGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、およびRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤)を含む細胞培養物は、最初はすべて、または実質的にすべて非多能性の細胞を含む。しかし、経時的に、特に本明細書に記載のプロトコルの条件下で、細胞の一部は多能性(すなわちiPSC)となる。
【0153】
多能性へと誘導する細胞を、当技術分野において公知の任意の方法に従って培養することができる。iPSCを生成するための培養条件についての一般的指針は、例えば、Maherali, et al., Cell Stem Cell 3:595-605 (2008)において見いだすことができる。
【0154】
いくつかの態様において、細胞をフィーダー細胞と接触させて培養する。例示的なフィーダー細胞には、線維芽細胞、例えば、マウス胚線維芽細胞(MEF)が含まれるが、それらに限定されない。フィーダー細胞上で細胞を培養する方法は当技術分野において公知である。
【0155】
いくつかの態様において、細胞をフィーダー細胞非存在下で培養する。例えば、細胞を固形の培養表面(例えば、培養プレート)に、分子テザーにより直接連結することができる。発明者らは、多能性へと誘導する細胞の培養において、細胞を固形培養表面に直接連結した場合の多能性への誘導効率は、フィーダー細胞上で培養し、その他は同一に処理した細胞の効率に比べて、はるかに高い(すなわち、より多くの細胞が多能性を獲得する)ことを見いだした。例示的な分子テザーには、Matrigel(登録商標)、細胞外基質(ECM)、ECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、またはコラーゲンが含まれるが、それらに限定されない。しかし、当業者であれば、これは非限定リストであり、細胞を固形表面に連結するために他の分子を用いうることを理解するであろう。テザーの固形表面への最初の連結法は当技術分野において公知である。
【0156】
本明細書に記載のとおり、いくつかの態様において、本発明の混合物は哺乳動物細胞(多能性または非多能性細胞を含む)、およびHDAC阻害剤、GSK3阻害剤、またはL型Caチャネルアゴニストの1つまたは複数;cAMP経路の活性化因子;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤;核受容体リガンド、例えば、PCT WO/2009/117439に記載のものを含むこともでき、または除外することもできる。
【0157】
VIII. キット
本発明は、例えば、誘導多能性幹細胞の生成において用いるためのキットも提供する。そのようなキットは、本明細書に記載のTGFβ受容体/ALK5阻害剤、MEK/ERK経路阻害剤、および/またはRho GTPアーゼ/ROCK阻害剤を含むが、それらに限定されない、本明細書に記載の試薬のいずれか、またはすべてを含みうる。これらの3つの物質、またはそのサブセットは、別々のバイアル中で、または混合物として一緒に、キットに含まれうる。本発明のキットは、HDAC阻害剤、GSK3阻害剤、またはL型Caチャネルアゴニストの1つまたは複数;cAMP経路の活性化因子;DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)阻害剤;および核受容体リガンドも含みうる。
【0158】
1つの態様において、本発明のキットは1つまたは複数の型の哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラットなど)細胞および/または細胞培養培地を含む。
【0159】
特定の態様において、本発明のキットは、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つまたは複数を発現するための発現カセットを含む1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む。加えて、または代わりに、キットは1つまたは複数の単離転写因子タンパク質、例えば、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドの1つ、2つ、3つ、または4つすべてを含みうる。別の特定の態様において、転写因子タンパク質の細胞膜を越える輸送を増強するために、転写因子タンパク質をポリペプチド配列に融合することができる。
【0160】
VI. 多能性細胞の使用
本発明は、予防的または治療的使用を含むが、それらに限定されない、幹細胞技術のさらなる試験および開発を可能にする。例えば、いくつかの態様において、本発明の細胞(多能性細胞または望まれる細胞の運命にそって分化するよう誘導された細胞のいずれか)を、器官、組織、または細胞型の再生を必要としている個体を含むが、それらに限定されない、それを必要としている個体に導入する。いくつかの態様において、細胞は元は個体からの生検で得て;本明細書に記載のとおり多能性へと誘導し、任意で分化するよう誘導し(例えば、特定の所望の前駆細胞へと)、次いで個体に移植し戻す。いくつかの態様において、細胞を個体への導入の前に遺伝子改変する。
【0161】
いくつかの態様において、本発明の方法に従って生成した多能性細胞を続いて、例えば、造血(幹/前駆)細胞、神経(幹/前駆)細胞(および任意で、サブタイプ特異的ニューロン、乏突起膠細胞などのより分化した細胞)、膵細胞(例えば、内分泌前駆細胞または膵ホルモン発現細胞)、肝細胞、心血管(幹/前駆)細胞(例えば、心筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞)、網膜細胞などを形成するよう誘導する。
【0162】
所望の細胞型への多能性幹細胞の分化を誘導するために、様々な方法が公知である。様々な細胞運命への幹細胞の分化を誘導する方法を記載している最近の特許公報の非限定例は以下のとおりである:米国特許公報第2007/0281355号;第2007/0269412号;第2007/0264709号;第2007/0259423号;第2007/0254359号;第2007/0196919号;第2007/0172946号;第2007/0141703号;第2007/0134215号。
【0163】
本発明の多能性細胞の、特定の傷害された組織への導入、および任意でターゲティングにより、様々な疾患を改善しうる。組織傷害に起因する疾患の例には、神経変性疾患、脳梗塞、閉塞性血管疾患、心筋梗塞、心不全、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、気管支炎、間質性肺疾患、喘息、B型肝炎(肝損傷)、C型肝炎(肝損傷)、アルコール性肝炎(肝損傷)、肝硬変(肝損傷)、肝機能不全(肝損傷)、膵炎、糖尿病、クローン病、炎症性結腸炎、IgA糸球体腎炎、糸球体腎炎、腎機能不全、褥瘡、熱傷、縫合創傷、裂傷、切創、咬創、皮膚炎、瘢痕ケロイド、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈潰瘍、および静脈潰瘍が含まれるが、それらに限定されない。
【0164】
1つの態様において、iPSCの生存および/または分化を促進することを含むが、それらに限定されない、それらの機能を調節する分子を特定するための様々なアッセイおよびスクリーニングにおいてiPSCを用いることができる。
【実施例】
【0165】
以下の実施例は、特許請求する本発明を例示するために提供するが、本発明を限定するためではない。
【0166】
実施例1:ヒトiPSCの誘導改善のための化学的プラットフォーム
「4因子」(OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYC;以後4TF)で再プログラム化した間葉型線維芽細胞は、明確な細胞極性、境界および細胞-細胞相互作用を有するiPSCを生じる、劇的な形態変化を起こした。再プログラム化した細胞は、ヒト胚幹細胞(hESC)においても高度に発現される、上皮細胞のマーカーであるE-カドヘリンを発現した(Hay, E.D., Acta Anat. (Basel) 154, 8-20 (1995))。発明者らは、TGFβ経路アンタゴニストなどの間葉-上皮転換(MET)を促進する因子は再プログラム化プロセスに対して直接の影響を有するであろうと推論した。加えて、MEK-ERK経路阻害は以前、再プログラム化の様々な段階において重要な役割を果たすことが示された(Chen, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 10482-87 (2007);Shi, Y. et al., Cell Stem Cell 2, 525-8 (2008))。さらに、細胞の生存を促進する因子も、再プログラム化効率を改善する上で有益でありうる。したがって、低分子は生物学的プロセスを試験する上で多くの利点を有し(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009);Shi, Y. et al., Cell Stem Cell 2, 525-8 (2008);Xu, Y. et al., Nature 453, 338-44 (2008))、遺伝子操作よりも安全な選択肢であるため、発明者らはこれら3つのプロセスおよび経路を調節しうる低分子に焦点を合わせた。ここで、発明者らは、はるかに速く、効率的なプロセスによる、線維芽細胞からの完全に再プログラム化されたヒトiPSCの生成を実質的に促進する単純な化学的プラットフォームを記載する。
【0167】
発明者らは、4TFをレトロウイルスにより形質導入した1×104(Feng, B. et al., Cell Stem Cell 4, 301-12 (2009))のヒト初代線維芽細胞(CRL2097またはBJ)において、TGFβ受容体およびMEKの公知の阻害剤の再プログラム化動態に対する効果および効率を試験した(詳細は図1a参照)。感染後第7日(D7)に、化合物を個別または組み合わせで加え、その後の1〜3週間、培養物をiPSCについて試験した。
【0168】
処理後第7日(D14)に、発明者らはALK5阻害剤SB431542(2μM)およびMEK阻害剤PD0325901(0.5μM)の組み合わせで処理した培養物で最も強い効果を観察し、特徴的なhESC様形態を有する約45の大きいALP+コロニーを生じ(図1b)、そのうち24を超えるコロニーがTRA-1-81+であり(図1d)、約6〜10のコロニーが、異所性に導入されていない成熟多能性因子であるSSEA4およびNANOGについて陽性染色された(図1eおよび1f)。さらに、処理した培養物は多能性遺伝子の内因性mRNAの高レベルの発現を示した(図1c)。これに対し、未処理の対照培養物(図1eおよび図4a)またはPD0325901単独で処理した培養物(図4a)では、NANOG+コロニーは観察されなかった。しかし、SB431542だけで処理した培養物では、発明者らは1〜2つのALP+ hESC様コロニーを観察した(図4a)。重要なことに、両方の阻害剤の組み合わせ効果(図4bおよび4c)、ならびにSB431542の単独効果は用量依存的であった。
【0169】
発明者らがSB431542およびPD0325901で処理した培養物を分割せずに30日間維持したところ、ウェルごとに約135のiPSCコロニーが得られ(図2d)、通常の方法よりも効率が100倍を超えて改善された。以前の報告(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))と一致して、4TFを担持する未処理の対照では、いくつかの粒状コロニーに加えて1〜2つのiPSCコロニーが観察された(図2c)。これらの粒状構造は部分的に再プログラム化されたコロニーであると示唆されている(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))。発明者らはSB431542処理した培養物中にも粒状コロニーを観察し、これは少数のhESC様コロニーの数よりも数倍多かった。面白いことに、粒状コロニーの数はSB431542およびPD0325901の組み合わせ処理で劇的に低減し、それに伴いhESC様コロニーの数が増大することになった。このことは、ALK5およびMEKの組み合わせ阻害は部分的再プログラム化コロニーを完全再プログラム化状態へと誘導し、それにより全体の再プログラム化プロセスを改善することを示唆するものであった。さらに、発明者らが処理後7日という早期にiPSCの誘導改善を観察したという事実は、これらの低分子による処理は再プログラム化プロセスの効率を改善しただけでなく、その動態をも加速させたことを示唆している(図1a)。この段階で再プログラ化された細胞が本当に、未処理の培養物中よりも早く外因性再プログラム化因子と完全に無関係になるかどうかを判定するためには、さらなる実験が必要である。
【0170】
hESC培養物と同様に、iPSCコロニーを回収して増殖させたが、トリプシン処理により分割した培養物は生存率が低い結果となった。発明者らの研究室で行った最近のスクリーニングから、トリプシン処理後にhESCの生存率を劇的に改善した新規低分子のチアゾビビン(図5)を同定した。発明者らのSB431542およびPD0325901のカクテルにチアゾビビンを加えることでも、トリプシン処理による分割後のiPSCの生存をおおいに改善し(図2a)、多数の再プログラム化コロニーが得られた。最初に播種した10,000個の細胞から、第14日の1回の1:4分割により第30日に約1,000のhESC様コロニーが得られた(図2e)が、2回の分割(第14日および第21日(1:10))では第30日に約11,000のhESC様コロニーが得られた(図2cおよび2e)。これらのコロニーは多能性マーカーの高レベルの内因性mRNA(図2f)およびタンパク質発現(図2bおよび2c)を示したが、4つの導入遺伝子の発現はほとんど検出できなかった(図2f)。これに対し、トリプシン処理した未処理または2化合物処理試料からはiPSCコロニーは得られなかった(表1)。
【0171】
(表1)第30日の未処理、2化合物処理および3化合物処理培養物において観察されたiPSCコロニー数の比較
【0172】
チアゾビビンの陽性効果が単に分割後のコロニーの生存によるかどうか、またはSB431542およびPD0325901の組み合わせ処理の再プログラム化効果も増強するかどうかを調べるために、発明者らは分割を行わなかった4TF形質導入細胞における3化合物カクテルを試験した。これらの培養物において、第14日までに、発明者らはすべてNanogを発現している約25の大きいコロニーを観察した(図1e)。第30日までに、発明者らは約205の非常に大きいNANOG+コロニーを観察し(図2d)、これらはTRA-1-81+およびSSEA4+でもあり(データは示していない)、すなわち化合物なしの処理に比べて効率が200倍を超えて改善され、2化合物処理に比べて2倍増大したことになる。
【0173】
再プログラム化因子をレトロウイルスシステムではなくレンチウイルスを用いて導入した場合、2化合物処理は未処理対照に比べて多数のアルカリ性ホスファターゼ陽性コロニーも生じた(図6a)。さらに、3化合物カクテルはレトロウイルスベクターからの再プログラム化因子発現に影響しないようであった(図6b〜f)。
【0174】
3化合物カクテルを用いて生成したiPSCコロニーは、通常のhESC培養条件下で長期にわたり容易かつ安定に増殖し(20継代以上)、形態、典型的な多能性マーカー発現および分化能力に関して、hESCと非常に類似していた。これらは正常な核型を示し(図7)、インビトロ(図3aおよび3b)およびインビボ(図3c)の両方で3つすべての胚葉の類似体に分化することができた。これらの結果から、はるかに簡便なトリプシン処理手順に関連する短期有害効果は見られないことも示唆された。
【0175】
TGFβおよびMEK-ERK経路阻害が線維芽細胞再プログラム化を改善したとの証明は、プロセスにおけるこれら2つのシグナル伝達経路およびMETメカニズムの重要な役割を示唆するものであった。一貫して、TGFβを加えると、線維芽細胞の4因子仲介性再プログラム化に対する阻害効果が見られた(データは示していない)。TGFβおよびそのファミリーメンバーはESCの自己再生および分化において重要な文脈上の役割を果たす(Watabe, T. and Miyazono, K., Cell Res. 19, 103-15 (2009))。さらに、TGFβは上皮-間葉転換(EMT)の誘導および間葉状態の維持の原型となるサイトカインである(Willis, B.C. and Borok, Z., Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol.293, L525-34 (2007))。このシグナル伝達の主要な終点は、この文脈において、E-カドヘリンのダウンレギュレーションである(Thiery, J.P. and Sleeman, J.P., Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 131-42 (2006))。E-カドヘリンはESCの多能性の維持にとって重要であることが示されており、最近、NANOG発現の調節因子であると示唆されている(Chou, Y.F. et al., Cell 135, 449-61 (2008))。したがって、上皮の運命の抑制解除をもたらすTGFβシグナル伝達の阻害は、複数の様式で再プログラム化プロセスに役立ちうる。ERKシグナル伝達もEMTを促進し(Thiery, J.P. and Sleeman, J.P., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 131-42 (2006))、プロセスにおいてTGFβの下流である(Chou, Y.F. et al., Cell 135, 449-61 (2008))。発明者らは以前、筋芽細胞を多分化能状態へと再プログラム化しうる低分子、レベルシンの効果は、部分的には、MEK-ERKの阻害を通じて仲介されることを明らかにしている(Chen, S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 104, 10482-87 (2007))。これは、TGFβ阻害と組み合わせた際の、再プログラム化において観察される効果を説明していると考えられる。
【0176】
本明細書に記載の化学的プラットフォームは、上流のシグナル伝達経路を調節し、線維芽細胞のような一般的細胞型における再プログラム化を根本的に改善しうるという点で独特である。本明細書に記載の化学的条件は、ウイルスおよびDNAに基づかない(Zhou, H. et al., Cell Stem Cell 4, 381-84, (2009))、より効率的で安全な再プログラム化法のための基本的プラットフォームを提供し、これは様々な適用のために安全なヒトiPSCを無制限に供給しうる。
【0177】
方法
細胞培養
初代皮膚線維芽細胞CRL2097およびBJ(新生児包皮)をATCCから購入した。すべての細胞培養培地はInvitrogen Corporation, CAから購入した。細胞を、10%FBS(10439-024)、1×MEM可欠アミノ酸(11140-050)、1×Glutamax(35050-061)、10mM Hepes(15630-080)および0.11mM 2-メルカプトエタノール(21985-023)を含むDMEM(10313-021)中で維持した。細胞を、0.05%(1×)トリプシン-EDTA(25300-054)を用いて1:5で継代した。
【0178】
プラスミド
以前に記載された(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))、OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4のヒトcDNAをコードするpMXベクターは、ADDGENEから入手した。マウスSlc7a1 ORFをpWPXLD(Addgene)に、以前に記載のとおりに(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))クローン化した。
【0179】
レトロウイルス感染およびiPS細胞生成
OCT4、NANOG、SOX2およびLIN28を担持するレンチウイルスを以前に記載のとおりに(Yu, J. et al., Science 318, 1917-20 (2007))生成した。レトロウイルス作製のために、PLAT-Eパッケージング細胞を6穴プレートに1×106細胞/ウェルで播種した。24時間後、細胞に、OCT4、SOX2、c-MYCおよびKLF4 cDNAを担持するpMXベクターを、Fugene 6形質移入試薬(Roche)を製造者の指示通りに用いて形質移入した。形質移入の24時間後、培地を新鮮培地で置き換え、プレートをレトロウイルス作製のために32℃に移した。48時間および72時間の時点でウイルスを回収し、形質導入の前に0.45μmフィルターでろ過した。
【0180】
第1日にSlc7a1を発現するヒト線維芽細胞を6穴プレートに1×105細胞/ウェルで播種した。第2日に、各レトロウイルス上清0.25mlを6μg/mlのポリブレン存在下で細胞に加えた。第3日に2回目の形質導入を行った。感染効率を、GFPまたはRFP遺伝子担持レトロウイルスを並行に形質導入した細胞で、蛍光顕微鏡により推定した。最初の形質導入の7日後、線維芽細胞をトリプシン処理により回収し、マトリゲル(1:50希釈、カタログ354234、BD Biosciences)でコーティングした6穴プレートに1×104細胞/ウェルで再度播種した。化合物処理のために、細胞をヒト再プログラム化培地(DMEM/F12、20%ノックアウト血清代替物、1×MEM可欠アミノ酸、1×glutamax、0.11mM 2-メルカプトエタノール、20ng/ml bFGFおよび1,000U/ml LIF)中で培養し、2μM SB431542(Stemgent)、0.5μM PD0325901(Stemgent)、0.5μMチアゾビビン、または化合物の組み合わせで処理した。培地を細胞密度に応じて2〜3日ごとに替えた。化合物処理の7日後、プレートを固定し、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)活性について染色するか、もしくはタンパク質マーカーについて染色し、または培養を第30日までトリプシン処理による指定の分割を行って、もしくは行わずに続けた。分割培養のために、細胞を分割(1:4)し、6穴プレートの各ウェル中の放射線照射CF-1 MEFフィーダー層(2.5×105細胞/ウェル)上に再度播種し、第21日に再度分割(1:10)した。細胞を、PD0325901(D14では0.5μMおよびD21では1μM)およびSB431542(D14後は0.5〜1μM)の濃度以外は、前述の同じ培地および化合物カクテル中で維持した。続いてiPSCコロニーを前述の化合物非存在下、通常のhESC培地中で維持した。
【0181】
アルカリ性ホスファターゼ染色および免疫細胞化学
アルカリ性ホスファターゼ染色を、ALP検出キット(カタログ番号:SCR004、Chemicon)を製品説明書通りに用いて実施した。免疫細胞化学のために、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し(10分、室温)、PBSで2回洗浄し、5%正常ロバ血清(Chemicon)および0.1%TritonX-100を用いてブロックし(15分、室温)、次いで一次抗体により4℃で終夜処理した。用いた一次抗体は抗NANOG(カタログ番号:AB9220、Chemicon、1:1,000);抗OCT4(カタログ番号:sc-5279、Santa Cruz biotech、1:200)、抗SSEA 4(カタログ番号:mab4304、Chemicon、1:500)、抗Tra-1-81(カタログ560123、BD Biosciences、1:100)、抗Tra-1-81(mAb 4381、Chemicon、1:500)、抗βIIIチューブリン(カタログ番号:MMS-435P、Covance Research Products Inc、1:1000)、抗PDX 1(1:500)(Dr. C. Wrightから供与)、抗ブラキュリ(カタログ番号:AF2085、R&D、最終濃度0.2μg/ml)であった。細胞をPBSで2回洗浄し、次いで二次抗体により室温で1時間処理した。用いた二次抗体はAlexa fluor 488ロバ抗ウサギまたは抗マウスIgG(Invitrogen、1:1,000)およびAlexa fluor 555ロバ抗ウサギまたは抗マウスIgG(Invitrogen、1:1,000)であった。核を0.5μg/ml DAPI(Sigma)で染色した。画像を測光CoolSnap HQ2カメラを備えたNikon Eclipse TE2000-U/X-cite 120 EXFO顕微鏡を用いて捕捉した。
【0182】
インビトロ分化および奇形腫アッセイ
胚様体の生成およびインビトロ分化を他所(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))に記載のとおりに実施した。奇形腫アッセイのために、300〜500万細胞をSCIDマウスの腎被膜下に注射した。31日後、腫瘍を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、TSRI組織学中心施設で組織学的に解析した。SCIDマウスの使用はUCSD動物研究委員会によって承認された。
【0183】
RT-PCR
全RNAを細胞からRNeasyミニキット(Qiagen)を用いて抽出した。cDNAを製品説明書に従い、superscript III第一鎖合成キット(Invitrogen)を用いて合成した。2マイクロリットルの反応産物を、それぞれのプライマーを用いた24〜28 PCRサイクルのために用いた。プライマーの配列は他所に記載する(Takahashi, K. et al., Cell 131, 861-72 (2007))。
【0184】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー解析のために、培養物をゆるやかにトリプシン処理し、6穴プレートから回収した。細胞を洗浄し、FACS緩衝液(PBS、2mM EDTA、2mM HEPES、1% FBS)に懸濁し、FACS Calibur血球計算器(Becton Dickinson, San Jose, CA)でCellQuestプログラムにより解析した。
【0185】
実施例2:N-(シクロプロピルメチル)-4-(4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)ベンゼンスルホンアミド(チアゾビビン)の合成
n-ブタノール(10mL)中に2,4-ジクロロピリミジン(372mg、2.5mmol)、6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロキノリン(489mg、3mmol)およびジイソプロピルエチルアミン(0.52mL、3mmol)を含む反応フラスコを40℃で終夜加熱した。溶媒を蒸発させ、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、2-クロロ-4-(6-メトキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(551mg、80%)を得た。次いで、この中間体(250mg、0.91mmol)をジクロロメタンに溶解し、BBr3(ジクロロメタン中1M)(1mL、1mmol)により-78℃で処理した。反応混合物を室温までゆっくり加温して1時間撹拌し、水に加え、ジクロロメタンで抽出した。合わせた有機物を無水Na2SO4で乾燥して濃縮した。残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、2-クロロ-4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(154mg、65%)を得た。DMF(0.5mL)中の2-クロロ-4-(6-ヒドロキシ-3,4-ジヒドロキノリン-1(2H)-イル)ピリミジン(29mg、0.11mmol)および4-アミノ-N-(シクロプロピルメチル)ベンゼンスルホンアミド(27mg、0.12mmol)の溶液を撹拌しながら、これにp-トルエンスルホン酸(ジオキサン中2M)(55μL、0.11mmol)を加えた。反応混合物を90℃で終夜撹拌し、次いでHPLCで精製して、表題化合物(27mg、56%)を得た。
【0186】
実施例3:OCT4および化学化合物によるヒト初代体細胞の再プログラム化
ここで発明者らは、OCT4だけの外因性発現によるiPSCへのヒト初代体細胞の再プログラム化を可能にする新規低分子カクテルを報告する。
【0187】
いくつかの容易に入手可能な初代ヒト体細胞型の中で、ヒト皮膚または毛包から容易に単離しうる角化細胞は内因性にKLF4およびcMYCを発現するため、再プログラム化の魅力的な細胞源であり、通常の4つのTFまたは3つのTF(MYCなし)を用いてより効率的に再プログラム化されると報告された(Aasen, T. et al., Nat Biotechnol 26:1276-1284 (2008);Maherali, N. et al., Cell Stem Cell 3, 340-345(2008))。最近、発明者らは、低分子(すなわち、それぞれSB431542およびPD0325901)を用いてのTGFβおよびMAPK/ERK経路の二重阻害は、4つの外因性TF(すなわち、OSKM)によるヒト線維芽細胞の再プログラム化のためのおおいに増強された条件を提供することを報告した(Lin, T. et al., Nat Methods 6:805-808 (2009))。さらに、発明者らは、そのような二重経路阻害は、2つの外因性TF(すなわち、OK)ならびに2つの低分子、Parnate(リジン特異的デメチラーゼ1の阻害剤)およびCHIR99021(GSK3阻害剤)によるヒト角化細胞の再プログラム化も増強しうることを示した(Li, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。しかし、そのような2-TF再プログラム化プロセスは非常に非効率的かつ複雑で(例えば、2つの外因性TFおよび4つの化学物質に関与する)、1つ少ないTFによる再プログラム化でも気力をくじくようである。OCT4だけの再プログラム化に向けて、発明者らは再プログラム化条件を改良し、新しい再プログラム化化学実体を同定する際の段階的戦略を開発した。発明者らはまず、以前に報告したヒトiPSC特徴づけ法(Lin, T. et al., Nat Methods 6:805-808 (2009))を用いてTGFβおよびMAPK経路の様々な阻害剤を異なる濃度で試験することにより、新生児ヒト表皮角化細胞(NHEK)における4または3TF(すなわち、OSKMまたはOSK)条件下の再プログラム化プロセスをさらに最適化することを試みた。励みになることに、発明者らは、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01(より強力で選択的なTGFβ受容体阻害剤)の組み合わせは、OSKMまたはOSKを形質導入したヒト角化細胞の再プログラム化増強においてより有効であることを見いだした(図8a)。顕著に、発明者らがウイルス形質導入を2因子/OKだけにさらに減らした場合、0.5μM PD0325901および0.5μM A-83-01で処理するとNHEKからiPSCをまだ生成することができたが、効率は低かった。次いで、発明者らは以前に報告したとおり、様々な濃度の一連の公知の生物活性化合物からさらなる低分子のスクリーニングを開始した。これまでに試験した何十もの化合物の中で、驚くことに発明者らは、再プログラム化においてこれまで報告されたことのないPDK1(3'-ホスホイノシチド依存性キナーゼ-1)の低分子活性化因子、PS48(5μM)が再プログラム化効率を約15倍有意に増強しうることを見いだした。面白いことに、発明者らは、OK条件下でのiPSC生成について、0.25mM酪酸ナトリウム(NaB、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)が以前に報告した0.5mM VPAよりもはるかに信頼性が高く、効率的であることも見いだした(図8b)。その後の追跡試験により、5μM PS48および0.25mM NaBの組み合わせが、再プログラム化効率を25倍を超えてさらに増強しうることが判明した(図8bおよび表4)。2つだけのTF下でNHEKを再プログラム化する際のそのような前例のない効率により、発明者らは異なる処理ウィンドウ中のこれらの低分子の組み合わせを改良することにより、OCT4だけでiPSCを生成する可能性をさらに探究した。初代NHEKにOCT4を形質導入し、化学物質で処理した(図8c)。様々な条件の中で、最初の4週間、0.25mM NaB、5μM PS48および0.5μM A-83-01で処理し、続いてさらに4週間、0.25mM NaB、5μM PS48、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901で処理した、OCT4感染NHEKにおいて、hESCに類似の小さいiPSCコロニー(1,000,000個の播種細胞から4から6つのコロニー)が出現した(図8c)。そのようなTRA-1-81陽性iPSCコロニー(図8d)は通常のhESC培地下でより大きく増殖し、逐次継代して安定なiPSCクローンを生じることができ、これらをさらに特徴づけた(図8eおよび9)。より顕著に、この化学カクテルに2μM Parnateおよび3μM CHIR99021(OK条件下でNHEKの再プログラム化を改善することが示されている)を加えることにより、OCT4だけのiPSCをヒト成人角化細胞から生成することもできた。OCT4および低分子によるiPSCへの初代角化細胞の信頼性の高い再プログラム化後に、発明者らはこの条件を、HUVEC(分化した中胚葉細胞)およびAFDC(羊水由来細胞)を含む他のヒト初代細胞型にさらに適用した。同様に、TRA-1-81陽性iPSCコロニーが化学物質で処理したOCT4感染HUVECおよびAFDC中に出現した。顕著に、OCT4および低分子条件下で、HUVECおよびAFDCの再プログラム化はNHEKの再プログラム化よりも効率的で、速かった(表4)。各細胞型からのiPSCの2つのクローンを通常のhESC培養条件下で20継代以上長期増殖させ、さらに特徴づけた(表5)。
【0188】
これらの安定に増殖させたhiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞はhESCと形態学的に識別不能で、無フィーダーおよび化学的に規定された条件下でECMコーティングした表面上で培養することができた(図8eおよび13)。これらはアルカリ性ホスファターゼ(ALP)について陽性染色され、免疫細胞化学/ICCにより検出される、OCT4、SOX2、NANOG、TRA-1-81およびSSEA4を含む、典型的な多能性マーカーを発現した(図8e、10b、図11〜12)。加えて、RT-PCR解析により、内因性ヒトOCT4、SOX2、NANOG、REX1、UTF1、TDGF2、FGF4遺伝子の発現、ならびに外因性OCT4およびKLF4のサイレンシングが確認された(図9aおよび10c)。さらに、バイサルファイト(bisulfite)シーケンシング解析により、hiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞のOCT4およびNANOGプロモーターはおおいに脱メチル化されることが判明した(図9bおよび10d)。この結果から、hiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞における多能性転写プログラムの再活性化の証拠が得られる。hiPSC-O細胞、NHEKおよびhESCの網羅的遺伝子発現解析により、hiPSC-O細胞はNHEK(ピアソン相間値:0.87)とは異なり、hESCに最も類似している(ピアソン相間値:0.98)ことが示された(図9c)。遺伝子型解析により、hiPSC-O細胞はOCT4導入遺伝子だけを含み、導入遺伝子KLF4またはSOX2の混入はないことが示された(図15)。サザンブロット解析により、異なるクローンの中でOCT4導入遺伝子の複数の異なる取り込み部位があることが示された(図16)。加えて、核型解析の結果から、hiPSC-Oは全再プログラム化および増殖プロセス中、正常な核型を維持することが明らかとなった(図17)。さらに、DNAフィンガープリント試験は、これらのhiPSCが実験室でのhESC混入から生じた可能性を除外した(表6)。これらのhiPSC-O細胞の発生能力を調べるために、これらを標準の胚様体(EB)分化法によりインビトロで分化させた。ICC解析により、これらはβIII-チューブリン+特徴的ニューロン細胞(外胚葉)、SMA+中胚葉細胞、およびAFP+内胚葉細胞へと効果的に分化しうることが明らかとなった(図9dおよび10e)。定量的PCR解析により、外胚葉細胞(βIII-チューブリンおよびNESTIN)、中胚葉細胞(MSX1およびMLC2a)、および内胚葉細胞(FOXA2およびAFP)を含む、これら、および追加の系統特異的マーカー遺伝子の発現がさらに確認された(図9e)。EBプロトコルに従い、これらのhiPSC-OKおよびhiPSC-O細胞は律動的に拍動する心筋細胞を生じることもできた。これらのインビボでの多能性を試験するために、これらをSCIDマウスに移植した。4〜6週間後、これらのhiPSC-O細胞は3つの胚葉すべての派生物を含む典型的な奇形腫を有効に生じた(図9fおよび10f)。ひとまとめにして、これらのインビトロおよびインビボでの特徴づけにより、規定の低分子カクテルと組み合わせた、1つの転写因子、OCT4は、いくつかのヒト初代体細胞を多能性hESCと形態学的、分子的および機能的に類似のiPSCへと再プログラム化するのに十分であることが明らかとなった。
【0189】
前述の試験はいくつかの重要な意味を有する:(1)胎仔NSCはOct4だけの異所性発現によってiPSCに再プログラム化されることが示されたが、外因性Oct4遺伝子だけで内因性にSox2(再プログラム化における2つの主要な多能性遺伝子の1つ)を発現しない他のより実用的なヒト体細胞を再プログラム化するのに十分であるかどうか、より後期の発生段階(例えば、早期胚/胎仔に対し出生後/成体)であるかどうか、および個体に重大な害をおよぼすことなく得られるかどうかの、かなりの懐疑論があった。発明者らの知るかぎり、我々の試験は、iPSCを1つの外因性再プログラム化遺伝子、Oct4を形質導入した、容易に入手可能な初代ヒト体細胞(例えば、角化細胞)から誘導しうることの最初の実証である。脳由来の神経幹細胞とは対照的に、角化細胞はより到達しやすく、侵襲性の低い手順で出生後の個体から容易に入手することができる。これは、より安全なアプローチおよび/またはより高い質でiPSCを生成するための、様々な実用的に到達可能なヒト体細胞を活用する戦略をさらに強化するものである。したがって、この新しい方法およびそのさらなる開発は、様々な適用のための患者特異的な多能性幹細胞の作製をおおいに促進すると考えられる。(2)1つまたは2つだけの再プログラム化TFに代わる低分子およびそれらの組み合わせが同定されたが、より多くの外因性再プログラム化TFを一緒に省略すると、iPSCの生成は指数関数的に難しくなる。Oct4だけでiPSC生成を可能にする際の、3つの主要な転写因子すべて(すなわち、Sox2、Klf4およびcMyc)と機能的に置き換わる、この新しい低分子カクテルの同定は、低分子だけによる究極の再プログラム化に向けての別の主要な段階であり、iPSCへの化学的アプローチをさらに立証し、固めた。(3)この示された単一遺伝子条件は、タンパク質誘導多能性幹細胞(piPSC)技術に対する重大な意味も有する。piPSC技術に対する実際の課題は、それぞれ製造において異なる挙動をする(例えば、それらの発現、折りたたみ、安定性など)、4つの形質導入可能な再プログラム化タンパク質の大規模かつ信頼できる産生である。明らかに、この低分子カクテルと単一の形質導入可能なタンパク質とを組み合わせることで、piPSC技術がおおいに単純化され、その適用が促進されると考えられる。(4)より重大なことに、発明者らは再プログラム化の増強において、新しい標的/メカニズムを有する新しい低分子、PS48を同定した。PS48は、Akt/PKB(Alessi et al., Curr Biol 7, 261-269 (1997))を含むいくつかのAGCキナーゼの重要な上流キナーゼである、PDK1のアロステリックな低分子活性化因子である。その再プログラム化増強効果は部分的には、細胞の増殖および生存を促進するAkt/PKBの活性化に起因すると考えられる(Manning, B. D., Cantley, L. C., Cell 129, 1261-1274 (2007))。PDK1に関与するメカニズムが再プログラム化中にいかにして正確に調節されるかについての、さらなる徹底的な特徴づけは、再プログラム化および多能性の根元にあるさらなる洞察を提供すると考えられる。さらに、再プログラム化の低い効率および遅い動態による、さらに大きい隠されたリスクがありうる(例えば、より些細な遺伝的および/または後成的異常が再プログラム化プロセス中に発生または選択されうる)ため、本試験において再度例示したとおり、再プログラム化を増強するための新しい低分子の同定は、ヒトiPSC生成のためのより安全で、容易かつ効率の高い手順に対し、常に非常に価値があると考えられる。(5)最後に、再プログラム化のためのこの新しく、強力な低分子カクテルは、究極の純粋に化学物質誘導多能性幹細胞に対する段階的な化学的最適化の有効性を検証した。さらに、ヒト角化細胞におけるA-83-01およびNaBのより良い再プログラム化増強活性によって例示される、同じ標的/メカニズムを調節する異なる低分子は異なる状況において再プログラム化に対し有意に異なる効果を有しうるとの知見は、特定の再プログラム化の状況のための、異なる方法による「個別化された」最適化および処理の重要性を示唆している。
【0190】
細胞培養
正常ヒト表皮角化細胞(Lonza)を角化細胞培養培地(KCM、Lonza)中で維持した。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC、Millipore)をEndoGRO-VEGF Complete Medium(HCM、CHEMICON)中で維持した。ヒトESCおよびhiPSCを通常のヒトESC培養培地(hESCM:DMEM/F12、15%ノックアウト血清代替物、1%Glutamax、1%可欠アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mMβ-メルカプトエタノールおよび10ng/ml bFGF)中のMEFフィーダー細胞上で培養した。すべての細胞培養製品は、特に記載がないかぎり、Invitrogen/Gibco BRLからのものである。
【0191】
レンチウイルス作製
レンチウイルス上清を以前に記載のとおりに作製して回収した(Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007))。レンチウイルス作製に用いたプラスミドには、pSin-EF2-Puro-hOCT4、pSin2-EF2-Puro-hSOX2、pLove-mKlf4、pLove-mMyc、パッケージングプラスミドpsPAX2およびエンベロープ-コーディングプラスミドpMD2.Gが含まれる(Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007)およびLi, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。
【0192】
NHEKの再プログラム化
NHEKを100mm組織培養皿で培養し、新しく作製したレンチウイルス上清で3回形質導入(各形質導入に3〜4時間)した。1,000,000個の形質導入NHEKを100mm皿のx線照射不活化CF1 MEFフィーダー細胞上に播種し、KCM中で培養し、5μM PS48、0.25mM NaB(Stemgent)および0.5μM A-83-01(Stemgent)で2週間と、続いて培地の半量をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01を補足してさらに2週間処理した。次いで、細胞培養培地をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901(Stemgent)を補足してさらに4週間処理した。化学物質なしの培地中で培養した同じOCT4感染角化細胞を対照として用いた。培養物をAccutase(Millipore)により分割し、分割後第1日に1μMチアゾビビン(Stemgent)で処理した。Alexa Fluor 555 Mouse抗ヒトTRA-1-81抗体(BD Pharmingen)により陽性染色されたiPSCコロニーを、hESCM中のフィーダー細胞上で増殖させるために回収し、慣行的に培養した。
【0193】
HUVECの再プログラム化
HUVECを100mm組織培養皿で培養し、新しく作製したレンチウイルス上清で2回形質導入(各形質導入に4〜6時間)した。200,000個の形質導入HUVECをゼラチンコーティングした100mm皿上に播種し、HCM中で培養し、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01で2週間と、続いて培地の半量をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaBおよび0.5μM A-83-01を補足してさらに2週間処理した。次いで、細胞培養培地をhESCMに替え、5μM PS48、0.25mM NaB、0.5μM A-83-01および0.5μM PD0325901を補足してさらに1〜2週間処理した。Alexa Fluor 555 Mouse抗ヒトTRA-1-81抗体により陽性染色されたiPSCコロニーを、hESCM中のフィーダー細胞上で増殖させるために回収し、慣行的に培養した。培養物をAccutaseにより分割し、分割後第1日に1μMチアゾビビンで処理した。
【0194】
インビトロ分化
hiPSCのインビトロでの分化を、標準の胚体(EB)法により実施した。簡単に言うと、hiPSCをAccutase(Millipore)により解離させ、超低接着6穴プレートで8日間培養し、次いでMatrigelコーティングした6穴プレートの分化培地中に移した。8日後に、細胞を免疫細胞化学解析のために固定するか、またはRT-PCR試験のために回収した。分化培地:DMEM/F12、10%FBS、1%Glutamax、1%可欠アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mMβ-メルカプトエタノール。
【0195】
アルカリ性ホスファターゼ染色および免疫細胞化学アッセイ
アルカリ性ホスファターゼ染色をAlkaline Phosphatase Detection Kit(Stemgent)を用い、製造者のプロトコルに従って実施した。標準の免疫細胞化学アッセイを以前に報告したとおりに行った(Li, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))。用いた一次抗体を表3に示す。二次抗体はAlexa Fluor 488ロバ抗マウスまたは抗ウサギIgG(1:1000)(Invitrogen)であった。核をDAPI(Sigma-Aldrich)染色により可視化した。画像をNikon Eclipse TE2000-U顕微鏡を用いて捕捉した。
【0196】
RT-PCRおよびqRT-PCRによる遺伝子発現解析
RT-PCRおよびqRT-PCR解析のために、RNeasy Plus Mini KitをQIAshredder(Qiagen)との組み合わせで用いて、全RNAをヒトiPSCから抽出した。第一鎖逆転写を2μg RNAによりiScript(商標)cDNA Synthesis Kit(BioRad)を用いて実施した。多能性マーカーの発現を、Platinum PCR SuperMix(Invitrogen)を用いてRT-PCRにより解析した。分化後の系統特異的マーカーの発現をiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いてqRT-PCRにより解析した。プライマーを表2に示す。
【0197】
マイクロアレイ解析
ヒトRef-8_v3発現Beadchip(Illumina, CA, USA)を、NHEK、hiPSCおよびhES細胞の網羅的遺伝子発現を調べるために、マイクロアレイハイブリダイゼーションに用いた。ビオチン-16-UTP標識cRNAを500ngの全RNAから、Illumina TotalPrep RNA増幅キット(Ambion AMIL1791, Foster City, CA, USA)を用いて合成した。750ngの標識した増幅cRNAを含むハイブリダイゼーション混合物をIllumina BeadStation 500x System Manual(Illumina, San Diego, CA, USA)に従い、供給された試薬およびGE Healthcare Streptavidin-Cy3染色溶液を用いて調製した。Illumina Human Ref-8_v3発現BeadchipへのハイブリダイゼーションはBeadChip Hyb Wheel上、55℃で18時間であった。アレイをIllumina BeadArray Readerを用いてスキャンした。すべての試料を2つの生物学的複製に調製した。マイクロアレイデータの処理および解析をIllumina BeadStudioソフトウェアで実施した。データは背景を差し引き、ランク不変オプションを用いて規格化した。
【0198】
バイサルフェートゲノムシーケンシング
ゲノムDNAをNon Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を用いて単離し、次いでEZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research Corp., Orange, CA)で処理した。次いで、処理DNAを鋳型として用い、関心対象の配列を増幅した。OCT4およびNANOGプロモーター断片増幅に用いたプライマーを表2に示す。得られた断片をシーケンシングのためのTOPO TA Cloning Kit(Invitrogen)を用いてクローン化し、シーケンシングした。
【0199】
hiPSCの遺伝子型解析
hiPSC株の遺伝子型解析を、特異的プライマー(表2;Yu, J. et al., Science 318:1917-1920 (2007)およびLi, W. et al., Stem Cells 27:2992-3000 (2009))を使用したゲノムDNAのRT-PCRを用いて実施した。
【0200】
奇形腫形成
hiPSC株を、0.05%トリプシン-EDTAを用いて回収した。5,000,000個の細胞をSCIDマウス(n=3)の腎被膜下に注射した。4〜6週間後、十分に発生した奇形腫を回収し、固定し、次いでTSRI組織学中心施設で組織学的に解析した。
【0201】
(表2)用いたプライマー
【0202】
(表3)適用した一次抗体
【0203】
(表4)再プログラム化実験の概要
【0204】
NHEK、新生児ヒト表皮角化細胞;HUVEC、ヒト臍静脈内皮細胞;AHEK、成人ヒト表皮角化細胞;AFDC、羊水由来細胞。用いた化学物質濃度:PD、0.5μM PD0325901;A83、0.5μM A-83-01;PS48、5μM PS48;VPA、0.5mMバルプロ酸;NaB、0.25mM酪酸ナトリウム;Par、2μM Parnate;CHIR、3μM CHIR99021。4因子または3因子誘導再プログラム化のために、NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種し、4週間後に陽性コロニーを計数した;2因子誘導再プログラム化のために、NHEKを10cmのプレートに形質導入細胞100,000個の密度で播種し、6週間後に陽性コロニーを計数した;1因子誘導再プログラム化のために、NHEKおよびAHEKを10cmのプレートに形質導入細胞1,000,000個の密度で播種し、8週間後に陽性コロニーを計数した;HUVECおよびAFDCを10cmのプレートに形質導入細胞200,000個の密度で播種し、6週間後に陽性コロニーを計数した。
【0205】
(表5)樹立ヒトiPSC細胞株の特徴づけ
【0206】
特徴づけた細胞株を通常のhESC培養条件下、20継代を超えて長期増殖させ、マーカー発現および多能性についてさらに特徴づけを行い;その一方、樹立した他の細胞株を継代5または6で保存した。ブランクの項目は判定していないことを示す。
【0207】
(表6)Oct4誘導iPSCおよび親細胞株におけるDNAフィンガープリント解析
【0208】
15の多形性短鎖直列型反復配列(STR)DNA遺伝子座および性染色体マーカーアメロゲニンを調べた。
【0209】
本明細書に記載の実施例および態様は例示を目的とするにすぎないこと、およびそれらを考慮して様々な改変または変化が当業者に示唆され、本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書において引用するすべての出版物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞;
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む、混合物。
【請求項2】
細胞の少なくとも99%が非多能性細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項3】
基本的にすべての細胞が非多能性細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項4】
細胞がヒト細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項5】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項1記載の混合物。
【請求項6】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項1記載の混合物。
【請求項7】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項1記載の混合物:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項8】
ROCK阻害剤が以下の式を有する、請求項1記載の混合物:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項9】
ROCK阻害剤が以下の式を有する、請求項1記載の混合物:
。
【請求項10】
ROCK阻害剤が以下である、請求項1記載の混合物:
。
【請求項11】
阻害剤の濃度が、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分である、請求項1記載の混合物。
【請求項12】
GSK3阻害剤をさらに含む、請求項1記載の混合物。
【請求項13】
少なくともいくつかの細胞を多能性幹細胞にするよう誘導するのに十分な条件下で、非多能性細胞を、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
と接触させる段階を含む、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へと誘導する方法。
【請求項14】
条件が、少なくとも1つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの外因性転写因子がOctポリペプチドであり、細胞をヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とさらに接触させる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
転写因子が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される少なくとも2つ、3つ、または4つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの転写因子が、ポリヌクレオチドを非多能性細胞に導入することにより導入され、該ポリヌクレオチドは該少なくとも1つの外因性転写因子をコードし、それにより細胞内で該転写因子を発現する、請求項14記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの転写因子が、外因性ポリペプチドを非多能性細胞に接触させることにより導入され、該ポリペプチドは該転写因子のアミノ酸配列を含み、該導入は該ポリペプチドを該細胞に導入する条件下で実施される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
ポリペプチドが、細胞膜を越える輸送を増強するアミノ酸配列を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
細胞がヒト細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項22】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項13記載の方法。
【請求項23】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項13記載の方法。
【請求項24】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項25】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項26】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
。
【請求項27】
ROCK阻害剤が以下である、請求項13記載の方法:
。
【請求項28】
阻害剤の濃度が、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分である、請求項13記載の方法。
【請求項29】
混合物がGSK3阻害剤をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項30】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキット。
【請求項31】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項30記載のキット。
【請求項32】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項30記載のキット。
【請求項33】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項34】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項35】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
。
【請求項36】
ROCK阻害剤が以下である、請求項30記載のキット:
。
【請求項37】
GSK3阻害剤および/またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤をさらに含む、請求項30記載のキット。
【請求項1】
哺乳動物細胞;
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む、混合物。
【請求項2】
細胞の少なくとも99%が非多能性細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項3】
基本的にすべての細胞が非多能性細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項4】
細胞がヒト細胞である、請求項1記載の混合物。
【請求項5】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項1記載の混合物。
【請求項6】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項1記載の混合物。
【請求項7】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項1記載の混合物:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項8】
ROCK阻害剤が以下の式を有する、請求項1記載の混合物:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項9】
ROCK阻害剤が以下の式を有する、請求項1記載の混合物:
。
【請求項10】
ROCK阻害剤が以下である、請求項1記載の混合物:
。
【請求項11】
阻害剤の濃度が、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分である、請求項1記載の混合物。
【請求項12】
GSK3阻害剤をさらに含む、請求項1記載の混合物。
【請求項13】
少なくともいくつかの細胞を多能性幹細胞にするよう誘導するのに十分な条件下で、非多能性細胞を、
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
と接触させる段階を含む、非多能性哺乳動物細胞を誘導多能性幹細胞へと誘導する方法。
【請求項14】
条件が、少なくとも1つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの外因性転写因子がOctポリペプチドであり、細胞をヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤とさらに接触させる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
転写因子が、Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
Octポリペプチド、Klfポリペプチド、Mycポリペプチド、およびSoxポリペプチドからなる群より選択される少なくとも2つ、3つ、または4つの外因性転写因子を非多能性細胞に導入することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの転写因子が、ポリヌクレオチドを非多能性細胞に導入することにより導入され、該ポリヌクレオチドは該少なくとも1つの外因性転写因子をコードし、それにより細胞内で該転写因子を発現する、請求項14記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの転写因子が、外因性ポリペプチドを非多能性細胞に接触させることにより導入され、該ポリペプチドは該転写因子のアミノ酸配列を含み、該導入は該ポリペプチドを該細胞に導入する条件下で実施される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
ポリペプチドが、細胞膜を越える輸送を増強するアミノ酸配列を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
細胞がヒト細胞である、請求項13記載の方法。
【請求項22】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項13記載の方法。
【請求項23】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項13記載の方法。
【請求項24】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項25】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項26】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項13記載の方法:
。
【請求項27】
ROCK阻害剤が以下である、請求項13記載の方法:
。
【請求項28】
阻害剤の濃度が、誘導多能性幹細胞への細胞の変換を誘導するのに十分な条件に混合物を供した場合に、混合物中の非多能性細胞の、誘導多能性幹細胞への誘導の効率を、少なくとも10%改善するのに十分である、請求項13記載の方法。
【請求項29】
混合物がGSK3阻害剤をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項30】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤;
MEK阻害剤;および
ROCK阻害剤
を含む、非多能性哺乳動物細胞において多能性を誘導するためのキット。
【請求項31】
TGFβ受容体/ALK5阻害剤がSB431542である、請求項30記載のキット。
【請求項32】
MEK阻害剤がPD0325901である、請求項30記載のキット。
【請求項33】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
式中、
環Aは置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
環Bは置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり;
L1は-C(O)-NR2-または-C(O)-NR2-であり;
L2は結合、置換もしくは非置換アルキレンまたは置換もしくは非置換ヘテロアルキレンであり;かつ
R1およびR2は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項34】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
式中、
yは0から3の整数であり;
zは0から5の整数であり;
Xは-N=、-CH=または-CR5=であり;
R3、R4およびR5は独立に-CN、-S(O)nR6、-NR7R8、-C(O)R9、-NR10-C(O)R11、-NR12-C(O)-OR13、-C(O)NR14R15、-NR16S(O)2R17、-OR18、-S(O)2NR19、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールであり、ここでnは0から2の整数であり、ここでzが1よりも大きい場合、2つのR3部分は、一緒になって置換もしくは非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールを形成していてもよく;かつ
R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18およびR19は独立に水素、置換もしくは非置換アルキル、置換もしくは非置換ヘテロアルキル、非置換シクロアルキル、置換もしくは非置換ヘテロシクロアルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリールである。
【請求項35】
ROCK阻害剤が以下の式を有する化合物である、請求項30記載のキット:
。
【請求項36】
ROCK阻害剤が以下である、請求項30記載のキット:
。
【請求項37】
GSK3阻害剤および/またはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤をさらに含む、請求項30記載のキット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2013−507932(P2013−507932A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534403(P2012−534403)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/052896
【国際公開番号】WO2011/047300
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/052896
【国際公開番号】WO2011/047300
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】
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