説明

多重腫瘍異常生長遺伝子

【課題】種々の良性および悪性いずれの腫瘍にも見られる異常細胞成長に関連する遺伝子およびタンパク質の提供。
【解決手段】高速移動群タンパク質遺伝子またはLIMタンパク質遺伝子(これらの修飾体を含む)の成員の一つの鎖の一つのヌクレオチド配列を有する多重腫瘍異常生長(MAG)遺伝子および多重腫瘍成長因子。遺伝子およびその誘導体は、非生理的増殖を有する細胞の診断、種々の腫瘍、その他診断的および治療的利用に供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の良性および悪性いずれの腫瘍にも見られる異常細胞生長にしばしば関連する遺伝子ファミリーとして、高速移動群(HMG)タンパク質遺伝子ファミリーの同定に関する。本発明は特に、多くの腫瘍に関与する広範な作用の12番染色体切断点領域遺伝子として、多くのHMG遺伝子ファミリーの同定に関する。これらの腫瘍には、限定はしないが、間葉腫瘍過誤腫(例えば乳房および肺)、脂肪腫、多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫、血管筋腫、胸部線維腺腫、子宮内膜のポリープ、動脈硬化性プラークおよび他の良性腫瘍、さらに肉腫(例えば横紋筋肉腫、骨肉腫)および癌腫(例えば乳房、肺、皮膚、甲状線の)などの種々の悪性腫瘍、さらに白血病およびリンパ腫が含まれる。本発明は、また6番染色体の切断に関連するのが見い出されたHMG遺伝子ファミリーの他の成員にも関する。
【0002】
さらに、本発明は、これらの腫瘍における型特異切断点領域遺伝子の他の型およびHMG遺伝子の頻回融合相手として、LIMタンパク質ファミリーの成員の同定に関する。このファミリーのLPP(脂肪腫−先取相手)遺伝子は、脂肪腫に特異的であることが判明した。本発明は特に、診断および治療においてHMGおよびLIG遺伝子ファミリーおよびそれらの誘導体を使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
多くの独立した細胞遺伝子学的研究が、種々の良性および悪性の固形腫瘍型に12番染色体の領域q13−q15が関連していることを示している。良性固形腫瘍については、12q13−q15の関与が良性脂肪性組織腫瘍[1](非特許文献1)、子宮平滑筋腫[2,3](非特許文献2,3)および唾液腺の多形態性腺腫[4,5](非特許文献4,5)においてしばしば観察される。同じ領域の関与が子宮内膜ポリープ[6,7](非特許文献6,7)、血管外皮細胞腫[8](非特許文献8)および軟骨腫瘍[9,10,11,12](非特許文献9,10,11,12)についても報告されている。最近、染色体12q13−q15の関与が肺軟骨様過誤腫[13,14](非特許文献13,14)について報告された。最後に、染色体領域12q13−q15の関与する固形腫瘍のいくつかの症例報告が公表されている。例えば、乳房腫瘍[15,16](非特許文献15,16)、拡散星状細胞腫[17](非特許文献17)および骨の巨人細胞腫瘍[18](非特許文献18)である。12q13−q15における再発異常を有する悪性腫瘍型には、粘膜様脂肪肉腫[19](非特許文献19)、軟組織明細胞肉腫[20,21,22](非特許文献20,21,22)および横紋筋肉腫[23](非特許文献23)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sreekantaiah, C., Leong, S.L.P., Karakousis, C.P., McGee, D.L., Rappaport, W.D., Villar, H.V., Neal, D., Fleming, S., Wankel, A., Herrington, P.N., Carmona, R. and Sandberg, A.A. (1991). Cytogenetic profile of 109 lipomas. Cancer Res. 51: 422-433.
【非特許文献2】Nilbert, M. and Heim, S. (1990). Uterine leiomyoma cytogenetics. Genes Chrom. Cancer 2: 3-13.
【非特許文献3】Pandis, N., Heim, S., Willen, H., Bardi, G., Floderus, U.M., Mandahl, N. and Mitelman, F. (1991). Chromosome analysis of 96 uterine leiomyomas. Cancer Genet. Cytogenet. 55: 11-18.
【非特許文献4】Sandros, J., Stenman, G. and Mark, J. (1990). Cytogenetic and molecular observations in human and experimental salivary gland tumours. Cancer Genet. Cytogenet. 44: 153-167.
【非特許文献5】Bullerdiek. J.. Wobst, G., Meyer-Bolte. K., Chilla, R., Haubrich, J., Thode, B. and Bartnitzke, S. (1993). Cytogenetic subtyping of 220 salivary gland pleomorphic adenomas: correlation to occurrence, histological subtype, and in vitro cellular behavior. Cancer Genet. Cytogenet. 65: 27-31
【非特許文献6】Walter. T.A., Xuan Fan, S., Medchill, M.T., Berger, C.S., Decker, H-J.H and Sandberg, A.A. (1989). Inv(12)(p11.2ql3) in an endometrial polyp.Cancer Genet. Cytogenet. 41: 99-103.
【非特許文献7】Vanni, R., Dal Cin, P., Marras, S., Moerman, P., Andrtia, A., Valdes, E., Deprest, J., and Van den Berghe, H., (1993). Endometrial polyp: Another benign tumor characterized by 12q13-q15 changes. Cancer Genet. Cytogenet. 68: 32-33.
【非特許文献8】Mandahl, N., Orndal, C., Heim, S., willen, H., Rydholm, A., Bauer, H.C.F. and Mitelman, F. (1993). Aberrations of chromosome segment 12q13-15characterize a subgroup of hemangiopericytomas. Cancer 71: 3009-3013.
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【非特許文献11】Hirabayashi, Y., Yoshida, M.A., Ikeuchi, T., Ishida,T., Kojima, T. Higaki, S., Machinami, R. and Tonomura, A. (1992). Chromosome rearrangements at 12q13 in two cases of chondrosarcomas. Cancer Geaet. Cytogenet. 60: 35-40.
【非特許文献12】Mandahl, N., Willen, H., Rydholm, A. and Mitelman, F. (1993). Rearrangement of band q13 on both chromosomes 12 in a periosteal chondroma. Genes Chrom. Cancer 6: 121-123.
【非特許文献13】Dal Cin, P., Kools, P., De Jonge, I., Moerman, Ph., Van de Ven W., Van den Berghe H. (1993a). Rearrangement of 12q14-15 in Pulmonary Chondroid Hamartoma. Genes Chrom. Cancer, 8, 131-133.
【非特許文献14】Schoenberg Fejzo, M., Yoon, S.J., Montgomery, K.T., Rein, M.S.,Weremowicz, S., Krauter, K.S., Dorman, T.E., Fletcher, J.A., Mao, J., Moir, D.T., KucherlApati, R.S., and Morton, C.C. (1995). IdentificAtian of a YAC spanning the translocatian breakpoints in uterine leiomyomata, pulmonary chondroid hamartama and lipoma. Physical mapping of the 12q14-15 breakpoint region in uterine leiomyomata. Genomics 26: 265-275.
【非特許文献15】Birdsal, S.H., MacLennan, K.A. and Gusterson, B.A. (1992). t(6;12)(q23;q13) and t(10;16)(q22;p11) in a phyllodes tumor of the breast. Cancer Genet. Cytogenet. 60: 74-77.
【非特許文献16】Rohen, C.. Bont, U., Staats, B.. Bartnizke, S. and Bullerdiek, J. (1993). Two human breast tumors with translocatians involving 12q13-15 as the sole cytogenetic abnormality. Cancer Genet. Cytogenet., 69: 68-71.
【非特許文献17】Jenkins, R.B., Kilmmell, D.W., Moertel, C.A., Schulz, C.A., Menezes, R.M., Scheihauer, B.. Kelly, P.J. and Dewald, G.W. (1989). Recurrent cytogenetic abnormalities in 80 gliomas. Cytogenet. Cell Genet. 51: 1019.
【非特許文献18】Noguera, R., Llombart-Bosch, A., Lopez-Gines, C., Carda, C. and Fernandez, C1. (1989). Giant-cell tumor of bone, stage II, displaying translocation t(12;14)(q13:q13). Virchows Archiv A Pathol. Anat. 415: 377-382.
【非特許文献19】Turc-Carel, C., Limon, J., DaI Cin, P., Rao, U., Karakousis, C., andSandberg, A.A. (1986). Cytogenetic studies of adipose tissue tumours. ll.Recurrent reciprocal translocat.ion t(12;16)(q13;p11) in myxoid liposarcomas. Cancer Genet. Cytogenet. 23: 291-299.
【非特許文献20】Rodiguez, E., Sreekantaiah, C., Reuter, V.E., Motzer, R.J. and Chaganti, R.S.K. (1992). t(12;22)(q13;q13) and trisomy 8 are nonrandom aberrations in clear-cell sarcoma. Cancer Genet. Cytogenet. 64:107-110.
【非特許文献21】Reeves, B.R., Fletcher, C.D.M. and Gusterson, B.A. (1992). Translocation t(12;22)(q13;qI3) is a nonrandom rearrangement in clear cell sarcoma. Cancer Genet. Cytogenet. 64: 101-103.
【非特許文献22】Fletcher, J.A. (1992). Translocation (12;22)(q13-14;q12) is a nonrandom aberration in soft-tissue clear cell sarcoma. Genes Chrom. Cancer 5: 184.
【非特許文献23】Roberts, P., Browne, C.F., Lewis, I.J., Bailey, C.C., Spice, R.D., Williams, J. and Batcup, G. (1992). 12q13 Abnormality in rhabdomyosarcoma. A nonrandom Occurrence? Cancer Genet. Cytogenet. 60: 135-140.
【発明の概要】
【0005】
これらの研究は、12番染色体の同じ細胞遺伝子学的領域がこれらの固形腫瘍における転座(トランスロケーション)のような染色体異常にしばしば関与することを示唆しているが、種々の腫瘍における12番染色体切断点の正確な本質は、なお分かっていない。転座によって直接どの遺伝子が影響を受けるのかも確認されていない。
以前の物理的マッピング研究において、脂肪腫、多形態性唾液腺腫および子宮平滑筋腫における染色体12q切断点は座D12S8とCHOP遺伝子との間に位置づけられ、D12S8はCHOPの末端にあることが示された。最近、FISH解析によって、乳房過誤腫、血管粘液腫および多重肺軟骨様過誤腫における染色体12q切断点は、このDNA間隙内に位置していることも発見された。種々の腫瘍における染色体12q13−q15異常により影響される遺伝子を分子的にクローニングする努力において、本発明者らは、これらの切断点を包含するDNA領域を明確にするための構造的アプローチとして方向性染色体歩行を選択した。
染色体歩行の出発点として、座D12S8を用いた。これらの歩行研究において、多数の子宮平滑筋腫−誘導細胞系中に存在する染色体切断点は445kb染色体断片内にクラスター状に群がっていることが示され、これは、12番染色体上の子宮平滑筋腫クラスター領域 Uterine Leiomyoma Cluster Region on chromosome 12(ULCR12)と名付けられた[12]。続いて、12番染色体上の1.7Mb領域に、子宮平滑筋腫−、脂肪腫−および唾液腺腫−細胞の12番染色体切断点が種々の腫瘍型重複の切断点クラスター領域を有して、存在することが判明した[25、添付1]。12番染色体の長腕上のこの1.7Mb領域は、明らかにULCR12を含み、この特性を反映して多重異常領域 Multiple Aberration Region(MAR)と名付けられた。領域マッピング研究においてMARは最近、12q15に割り当てられた。
【0006】
このように、基本的に1.7Mb領域における12番染色体地図のすべての切断点が"多重異常領域"すなわちMARとして関係することが分かった。更なる研究によって、この領域における高速移動群遺伝子ファミリーの成員であるHMGI−C遺伝子が仮定多重腫瘍異常生長遺伝子(MAG)として同定され得ることが明らかにされた。同じことが、染色体異常に関与するのが発見されたLIMファミリーの成員についても適用される。それらのうち3番染色体−誘導脂肪腫−先取相手(LPP)は、特に脂肪腫に関係している。
【0007】
LIMタンパク質は、システイン富化・亜鉛結合ドメイン、いわゆるLIMドメインを有するタンパク質である。これはタンパク質−タンパク質相互作用に関与する[総説について、参考文献80を参照]。タンパク質ファミリーの成員の一つは、ここに開示された3番染色体に位置するLPPタンパク質である。
【0008】
本発明によると、12番染色体上のHMGI−C遺伝子および3番染色体上のLPP遺伝子における異常は、良性および悪性腫瘍におけるHMGおよびLIM遺伝子ファミリーの成員の関与についての、より一般的な概念を明らかにするモデルとして用いられる。染色体再編成により影響を受けたときに、腫瘍生長の特定群に到達する遺伝子ファミリーの、より一般的な概念が存在することを明らかにするために、本発明者らは、HMGファミリーの成員であるHMGI(Y)遺伝子が6番染色体中の切断に関与することを明らかにした。両HMGおよびLIM遺伝子ファミリーはそれ自体知られているが、本発明に至るまでは、これらのファミリーと、転座、欠失、挿入および内返しのような腫瘍を起こす染色体異常との相関は予想されていなかった。さらに、現在まで、該遺伝子ファミリーの成員の生理的発現レベルにおける異常が腫瘍の発育に関係しているであろうことは、かつて明らかにされなかった。本発明によって、正常成人の細胞においてHMGI−C遺伝子の発現レベルが実際的には検出不可能であり、一方、異常に生長した細胞においては発現レベルが有意に増加していることが明らかになった。
【0009】
これらの知見を基にして、本発明は、該遺伝子ファミリーの成員またはその誘導体を分離した形で、および診断および治療におけるその使用を提供する。さらに、該遺伝子の位置およびヌクレオチド配列の知識は、その再編成または発現を研究するために、およびその発現レベルにおける潜在的増大または低下および細胞の生長に対するその作用を同定するために、用いることができる。この情報に基づき、診断検査法や治療的処置が設計される。
【0010】
本出願において、用語"多重腫瘍異常生長(またはMAG)遺伝子"は、種々の型の癌におけるこれら型の遺伝子の関与を示すために用いられる。この用語は、非生理的な増殖生長に関与するHMGおよびLIM遺伝子ファミリーのすべての成員を意味し、特に動脈硬化的プラークを含む悪性および良性の腫瘍に関与するものを意味する。しかし、本発明によって更に、実際の遺伝子外側の切断でも、その近隣であれば異常生長が結果として生じることもあるのが判明した。従って、用語MAG遺伝子は該遺伝子の直接の近隣も含むことを意味している。"直接の近隣"が上記に明確にした非生理的増殖生長をもたらす切断または再編成がなされる遺伝子の周りを含むと理解されるべきことは、当業者は容易に分かるであろう。
【0011】
用語"野生型細胞"は、異常染色体を保有していない細胞または関連遺伝子が生理的な発現レベルにある細胞を意味する。"野生型"すなわち"正常"染色体は、非異常染色体を意味する。
【0012】
本発明は、該遺伝子から誘導される情報に基づく種々の診断的および治療的利用を提供する。この情報は、遺伝子から誘導される遺伝子産物のヌクレオチド配列やアミノ酸配列を包含するのみでなく、遺伝子の複製または翻訳レベルをも含む。
【0013】
このように本発明は2重性である。一つは、細胞における異常が遺伝子またはその近隣で起きる物理的切断によって直接的または間接的に生じ得る。他方、細胞における異常が遺伝子の非生理的発現レベルによって生じ得る。この非生理的発現レベルは切断によって生じうるか、または遺伝子を活性化または不活性化する他の刺激によるものであり得る。現在のところ、異常細胞生長の正確なメカニズムまたは起源は分かっていない。しかし、このメカニズムについての正確な知識は、診断方法あるいは処置を確立するのに必要でない。
【0014】
本発明の診断方法は、染色体における異常が染色体の外観または生化学的反応について検出可能な変化をもたらすとの事実に基づいている。例えば、転座は、染色体(および、その結果としてMAG遺伝子の)の第一部分が他の(第二)部分に置換されること(以後、"第一および第二置換部分"と言う)が結果として生じる。第一部分は、第二部分を生みだした他の染色体と違った場所にしばしば現れる。結果として、ハイブリドは、両(三重転座の場合は、より以上)染色体の残りの部分と転座相手により提供された置換部分との間で形成される。切断がMAG遺伝子において生じることが判明したので、これはそのMAG遺伝子のハイブリド遺伝子産物をもたらす。RNA、DNAまたはDNA/RNAハイブリドのようなハイブリド分子または抗生物質などのマーカーは、該ハイブリドをDNAレベルおよびRNAまたはタンパク質レベルのいずれでも検出することができる。
【0015】
例えば、ハイブリドの転写物は、遺伝子/染色体の残りの部分により提供される領域を含んでいるが、転座された置換部分により提供される領域を欠いている。内返し、欠失および挿入の場合、遺伝子は等しく障害を受ける。
【0016】
転座も細胞遺伝学的に常に検出可能である。他の異常は、細胞遺伝子レベルでみることがしばしばできないので、見い出すことはより難しい。本発明は、これらすべての型の染色体異常を診断し得る可能性を提供するものである。
【0017】
転座において染色体の残りおよび置換部分についてのMAG遺伝子に基づくマーカーまたはプローブは元の染色体についての残り部分をインサイトゥ検出するが、他の染色体、転座相手についての置換部分を検出しない。
【0018】
内返しにおいては例えば、2つのプローブは野生遺伝子において特殊な距離でハイブリダイズする。しかし、この距離は内返しにより変化することがある。インサイトゥかかる内返しは、一組の適当なプローブを蛍光ラベルなどの同じまたは相違するマーカーでラベルすることにより可視化される。欠失および挿入は同様の方法により検出される。
【0019】
本発明により、上記インサイトゥ利用は、FISH法を用いて非常に都合よく実施され得る。マーカーは例えば2コスミドであり、うち1つはMAG遺伝子のエキソン1−3を含み、他の1つはエキソン4および5を含む。両コスミドは相違する蛍光マーカー、例えば青および黄でラベルされる。正常な染色体は両ラベルの結合を示すのでグリーンの信号となり、一方、転座は1つの染色体の残りの部分(例えば12番)に青信号として見られ、黄信号は置換部分を含む他の染色体に見られる。同じレベルを両プローブに用いた場合、正常染色体に対する信号強度は100%であり、一方異常染色体に対しては50%である。内返しの場合、信号の一つが正常染色体上の一つの場所から異常染色体上の他の場所に変わる。
【0020】
上記の利用において比較のために参考が含まれねばならない。常に2つの染色体の一つが障害を受ける。このように正常染色体を内部参考として利用することは大変便利である。さらに、染色体の残りの未変化部分についてのマーカーを一つ、および置換または逆方向部分について他の一つを選択することが重要である。12番染色体のMAG遺伝子の場合、本発明が示すように、切断は、エキソン3と4の間の大きいイントロンに通常は見い出される。さらに切断はエキソン4と5の間に検出された。エキソン1−3および4および5に基づくプローブ、またはエキソン4か5に基づくプローブは非常に有用である。別法として、両転座または融合相手に基づくプローブの組み合わせを用い得る。例えば、脂肪腫の同定に、一方、HMGI−C遺伝子のエキソン1−3に基づき、および他方、LPP−C遺伝子のエキソン1−3に基づくプローブを用いることができる。
【0021】
さらに、切断が遺伝子の外側、すなわちその5'または3'でも起こり得ることが見い出された。プローブの選択は勿論遺伝子の5'または3'に位置するDNA配列にハイブリダイズする少なくとも一つのプローブを含む。
【0022】
ここで用いられる"プローブ"は、広く解釈されるべきで、限定しないが、線状DNAまたはDNA鎖、イースト人工遺伝子(YACs)または環状DNA形、例えばプラスミド、ファージ、コスミドなどを含む。
これらのインサイトゥ方法は中間層および間層染色体に用いられる。
【0023】
上記のインサイトゥ方法以外に、種々の診断方法がより多くの生化学レベルで実施され得、例えばDNA、RNAまたはタンパク質における変化または遺伝子の生理的発現レベルにおける変化に基づいている。
【0024】
染色体の生化学行動における変化に基づく方法の基礎は、適当なプローブを選択することにより、遺伝子中の長さまたは構成、転写物またはタンパク質における多重性がゲルまたはブロット上で検出されることにある。正常遺伝子、転写物またはタンパク質がゲルまたはブロット上の他の位置に現れ、次いで異常遺伝子が現れるので、長さの変化が見られ得る。転座の場合、正常数よりも多くのスポットが現れる。
【0025】
上記の原則を基にして本発明は、例えば、非生理的増殖能を有する細胞を診断する方法に関し、この方法は、診断すべき細胞の生体を採取し、それからMAG遺伝子−関連マクロ分子を分離し、得たマクロ分子を非生理的増殖能がない細胞から、望ましくは同じ個体から生じた参考分子と比較して分析する段階を含んでいる。MAG遺伝子−関連マクロ分子はDNA、RNAまたはタンパク質であり得る。MAG遺伝子は、HMGファミリーまたはLIMファミリーのいずれかの成員である。
【0026】
この型の診断方法の特定的実施態様において本発明は、診断すべき細胞の生検を採取し、その全RNAを抽出し、全RNA抽出物またはそのポリ−A−選択フラクション中のmRNA種の第一鎖cDNAを調製し(cDNAは適当なティルを含む);MAG遺伝子特異的cDNAを増幅させるためにMAG遺伝子特異的プライマーおよびティル−特異的プライマーを用いてPCRを行い;ゲル上のPCR産物を分離してバンドのパターンを得;異常バンドの存在を、野生型バンド、望ましくは同じ個体から得たもの、と比較して、調べる段階を含む。
【0027】
別の増幅方法が核酸配列に基づく増幅技法(NASBA)[81]またはその変法により実施され得る。
【0028】
他の実施態様において、該方法は、診断すべき細胞の生検を採取し、それから全タンパク質を単離し、ゲル上でタンパク質を分離して基本的に個人のバンドを得、任意でバンドをウエスタン・ブロットに転移し、得たバンドを、MAG遺伝子の残りの部分によりコードされるタンパク質の部分に対する、およびMAG遺伝子の置換部分によりコードされるタンパク質の部分に対する抗体と共にハイブリダイズし;抗原−抗体反応を可視化し、そして異常バンドの存在を、野生型タンパク質からのバンド、望ましくは同じ個体から得たバンドと比較して確認する段階を含む。
【0029】
更なる実施態様において、該方法は、診断すべき細胞の生検を採取し、その全DNAを単離し、1以上のいわゆる"希切断"制限酵素(典型的には"6−または以上の切断")でもってDNAを消化し、ゲル上に調製された消化物を分離して、分離パターンを得、任意で分離パターンをサーザン・ブロットに転移し;ゲル中またはブロット上の分離パターンを一組のプローブとハイブリダイズ条件でハイブリダイズし;ハイブリダイゼイションを可視化し、そして異常バンドの存在を野生型バンド、望ましくは同一個体から得たバンドとの比較により確認する段階を含む。
【0030】
遺伝子の発現レベルにおける変化は、mRNAレベルまたはタンパク質レベルを適当なプローブの手段で測定することにより検定できる。
【0031】
遺伝子の異常発現レベルに基づく診断方法は、診断すべき細胞のサンプルを採取し、それからmRNAを単離し、望むMAG遺伝子から転写されたmRNAの存在および/または(比較の)量を対照と比較して確認する段階を含む。mRNAの存在および/または(比較の)量の確認は、MAGのmRNAの少なくとも部分をRT−PCRまたは類似の増幅技術により増幅して達成される。別の実施態様において、発現レベルは、例えばモノクローナル抗体の手段で遺伝子産物(例えばタンパク質)の存在および量を測定することにより確認される。
【0032】
本発明の診断方法は、非生理的増殖能を有する細胞が間葉腫瘍過誤腫(例えば乳房および肺)、脂肪性組織腫瘍(例えば脂肪腫)、多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫、血管筋腫、胸部線維腺腫、子宮内膜のポリープ、動脈硬化性プラークおよび他の良性腫瘍、さらに肉腫(例えば横紋筋肉腫、骨肉腫)および癌腫(例えば乳房、肺、皮膚、甲状線の)などの種々の悪性腫瘍からなるグループから選択される疾患に用いられる。本発明は、いわゆる良性または悪性固形腫瘍の診断および治療に限定されず、その原理は、白血病およびリンパ腫のような血液学的悪性腫瘍にも適用できることが分かった。
【0033】
最近の報告によると、動脈硬化性プラークが主に平滑筋細胞の異常な増殖[26]も含み、動脈硬化性プラークが良性腫瘍を形成すると推測された[27]。従って、この型の障害も、MAG遺伝子ファミリーの使用、特に診断的および治療的利用できるであろう適応症であることが分かる。
【0034】
上述したように、ある種の悪性腫瘍においてHMGの発現レベルが増大することは知られている[28]。現在まで、この観察の関連性は理解されなかった。従って、本発明の別の側面は、治療におけるMAG遺伝子の同定を行うことに関する。例えば本発明は、遺伝子の発現を調節して、非生理的増殖能を有する細胞の疾患を処置するのに用いられるMAG遺伝子のアンチセンス分子または発現阻止剤を提供する。非生理的高発現は、細胞に投与されるかまたは発現され、そしてmRNAを結合するアンチセンスRNAによる手段、または遺伝子産物に対する抗体による手段で正常化され得るであろう。これらの手段は順に細胞生長の正常化をもたらすであろう。実施例は、白血症細胞中のアンチセンスRNAの発現が正常に反する細胞の再−区別を結果として生じること、を表すであろう。
【0035】
本発明は、MAG遺伝子の誘導体および/または診断に使用するその直接の環境および治療的組成物の調製を提供する。該誘導体は、センスおよびアンチ−センスcDNAまたはそのフラグメント、該遺伝子の転写物またはそのフラグメント、アンチセンスRNA、分子または他の型の"転写締め具"を誘発する三重ラセン、該遺伝子のフラグメントまたはその相補的鎖、該遺伝子またはそのフラグメントによりコードされたタンパク質、タンパク質核酸(PNA)、該遺伝子、該cDNA、該転写物、該タンパク質または該フラグメントに対する抗体、および抗体フラグメントからなる群から選択される。診断および治療における遺伝子およびその周辺(はさむ配列)の直接的利用以外に、発現阻害剤または発現促進剤のような他の分子が本発明による治療的処置に用いられる。この型の分子の例は、RNA分子を破壊するリゾチームである。
【0036】
上記した治療的および予防的方法以外に、本発明の原理は、MAG遺伝子関連の悪性または良性腫瘍および動脈硬化性プラーグの処置のための医薬品を試験するのに役立つ形質転換動物モデルをつくるのに用いられる。実施例の1つはかかる動物モデルの産生を記述する。
【0037】
本発明の原理は、説明の目的のために、12番染色体におけるHMGI−C遺伝子マッピングおよび6番染色体におけるHMGI(Y)遺伝子マッピングおよび3番染色体上のLPP遺伝子についてのみ記載されたことが理解されるべきである。本発明により提供された情報に基づき、本発明の一般的概念の範囲を出ないで、当業者は、該遺伝子の対応遺伝子を単離し、配列し、そして本発明の原則を、遺伝子およびその配列を用いて利用し得るであろう。
【0038】
本発明は下記の実施例によりさらに明らかになるであろう。これらは発明の範囲の制限を意図するものでない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1−1】75個の重複CEPH YACクローンから構成され、様々な良性充実性腫瘍に存在する12番染色体q切断点に及ぶYACコンティグ由来の、ヒト12番染色体長腕上にある6Mb領域の長距離物理的地図。YAC挿入物によりカバーされる複合ゲノムDNAの長距離物理的地図は、示した微量切断酵素の様々な制限部位の相対位置と共に黒線で示す。特定の制限酵素の付加的切断部位がみられるDNA領域は矢印で示す。多様な種類の制限エンドヌクレアーゼ部位はアステリスクで示す。他の研究者により単離され定義されたDNAマーカーは緑で示す。我々が得たDNAマーカーはボックスで示し、頭字語で標識する(図IおよびII参照)。これらのDNAマーカーの長距離物理的地図における相対位置を示し、特定のYAC末端に対応する位置を点線でこれらと結ぶ。DNAマーカーのいくつかはDNA区間にあたり、これは矢印で示す。白いボックス中のDNAマーカーとして、STSが成長され、プライマーセットを表IIに示す。黄色のボックス中のものについては、何のプライマーセットも成長されていない。RAP1B、EST01096、またはIFNG含有のDNA区間を表示する。適用可能な場合においては、D番号割り当てを示す。長距離物理的地図の下流には、共通した長距離の制限地図に一致する重複YACクローンのサイズおよび相対位置を青の線で示す。共通の長距離の制限地図中内に適合しないYAC挿入物のDNA領域は点線の青い線で示す。YACクローンのCEPHマイクロタイターアドレスを載せる。12番染色体上にあるYACコンティグの方位が与えられる。ULCR12およびMARの相対位置が対応する頭文字により表示された赤い線により示す。STSのアクセス番号は表Iには載せていない:CH9(#U27142);RM1(#U29049);RM110(#U29022);RM111(#U29023);RM130(#U27139);RM131(#U29001);RM132(#U27138);RM133(#U27137)。制限部位:B:BssHII;K:KspI(=SacII);M:MluI;N:NotI;P:PvuI;Sf:SfiI。
【図1−2】図1−1の続きを示す図である。
【図1−3】図1−2の続きを示す図である。
【図1−4】図1−3の続きを示す図である。
【図2】約445kbのMAR断片に及ぶ、重複コスミドのコンティグ、長い範囲の制限およびSTS地図。コンティグ成分を数え、下記のリストで定義する。LL12NC01−由来のコスミドクローンはそのマイクロタイタープレートアドレスにちなんで名前がついている。様々なSTSの遺伝子バンク・アクセス番号(#)が下記に記載されている。STSは略語で記載し、例えばSTS12−RM33ではなくRM33と記載する。コスミドコンティグ中のSTS"K"および"O"の間の40kbの差はλクローン(クローン38および40)およびPCR産物(クローン37および39)によりカバーされている。12番染色体上の長腕上のコンティグの方位、ならびに37個のSTSの順序も与えられる(ボックス内に示すか、または丸で囲んだ大文字で表記)。図の上端にあるいくつかのSTS記号のまわりの斜めの線および矢印は、特定のSTSが割り当てられている領域を示す。コスミドコンティグは大量でないことを認識すべきであり;黒い四角はコスミド末端のSTSを示しており、ここで内部コスミド配列に対応するSTSの存在は点で表現されている。長い範囲の制限地図:Bs:BssHII;K:KspI(=SacII);M:MluI;N:NotI;P:PvuI;Sf:SfiI。図の末端に、詳細な制限地図においてHMGI−C遺伝子のエキソン(下記のボックス)を含んでいる領域が示されている。非コード領域が白抜きのボックスで、コード領域が黒のボックスで示す。イントロンの推定サイズ(kb)を表示する。HMGI−C遺伝子中の翻訳開始コドン(ATG)および終止コドン(TAG)の相対位置ならびに可能性あるポリ−アデニル化信号を矢印で示す。詳細な制限地図:B:BamHI;E:EcoRI;H:HindIII。MAR:複合異常領域;DBD:DNA結合ドメイン。 1=140A3, 2=202A1, 3=78F11, 4=80C9, 5=109B12, 6=148C12, 7=14H6, 8=51F8, 9=57C3, 10=86A10, 11=142G8, 12=154A10, 13=163D1, 14=42H7, 15=113A5, 16=191H5, 17=248E4, 18=33H7, 19=50D7, 20=68B12, 21=124D8, 22=128A7, 23=129F9, 24=181C1, 25=238E1, 26=69B1, 27=260C7, 28=156A4, 29=27E12, 30=46G3, 31=59A1, 32=101D8, 33=175C7, 34=185H2, 35=189C2, 36=154B12, 37=pRM150, 38=pRM144, 39=PKXL, 40=pRM147, 41=128A2, 42=142H1, 43=204A10, 44=145E1, 45=245E8, 46=154F9, 47=62D8, 48=104A4, 49=184A9, 50=56C2, 51=65E6, 52=196E1, 53=215A8, 54=147G8, 55=211A9, 56=22D8, 57=116B7, 58=144D12, A = STS 12-EM12(#U27145), I = STS 12-CH12(#U27153), Q = STS 12-RM120(#U27161), B = STS 12-EM30(#U27146), J = STS 12-EM10(#U27154), R = STS 12-RM118(#U27162), C = STS 12-EM14(#U27147), K = STS 12-EM37(#U27155), S = STS 12-RM119(#U27163), D = STS 12-EM31(#U27148), L = STS 12-RM146(#U27156), T = STS 12-EM2(#U27164), E = STS 12-CH11(#U27149), M = STS 12-RM145(#U27157), U = STS 12-EM4(#U27165), F = STS 12-EM18(#U27150), N = STS 12-RM151(#U27158), V = STS 12-EM3(#U27166), G = STS 12-EM11(#U27151), O = STS 12-EM16(#U27159), W = STS 12-EM15(#U27167), H = STS 12-CH10(#U27152), P = STS 12-EM1(#U27160), X = STS 12-EM17(#U27168), STS 12-CH5(#U27136), STS 12-CH9(#U27142), STS 12-RM33(#U27131), STS 12-RM53(#U27134), STS 12-RM76(#U27132), STS 12-RM86(#U27133), STS 12-RM98(#U26647), STS 12-RM99(#U27130), STS 12-RM103(#U26689), STS 12-RM130(#U27139), STS 12-RM132(#U27138), STS 12-RM133(#U27137), STS 12-RM151(#U27158)
【図3】我々の以前のFISH研究に続く連続した実験において、8個の脂肪腫、10個の子宮平滑筋腫、および8個の多形態性唾液腺腫細胞系を含めた12番染色体q13−q15異常を有する腫瘍細胞系で得られたFISH地図の図示。使用したプローブはファージクローンpRM144(対応するSTS:RM86およびRM130)およびpRM147(RM151)、およびコスミドクローン7D3または152F2(RM103)、154F9(CH9)、27E12(EM11)、211A9(RM33)、245E8(RM53)、185H2(RM76)、202A1(RM98)、142H1(RM99)、154B12(RM132)、および124D8(RM133)。RM33およびRM98の間のDNA区間は約445kbであると推定されている。点は、分子プローブとして上記のボックスで与えられたSTSを含むクローンを使用して、特定の細胞系の中期染色体上で行われたFISH実験を示す。線は、DNA区間を示し、特定の細胞系の切断点が位置づけられている。白抜きの三角形はFISH解析中に観察された欠失を示す。白抜きの丸は、細胞遺伝学的に正常な3番染色体上のハイブリダイゼーション信号と共にLi−501/SV40細胞の中期染色体上のFISH実験の結果を示す。MARの外に位置する腫瘍細胞系の12番染色体の切断点の位置は矢印で示す。LM−30.1/SV40およびLM−608/SV40の分子的にクローン化した切断点はアステリスクで示す。コスミド27E12(EM11)を分断している様々な子宮平滑筋細胞系中の切断点は『二重斜線』で示す。
【図4】HMGI−C遺伝子の一部およびLPP遺伝子の一部間の接合部位を含む3'−RACE産物。使用したプライマーおよび接合部位を示している。cDNA合成は内部的にプライムし、真のポリ(A)テイル上ではない。
【図5−1】LPP遺伝子の部分的cDNA配列
【図5−2】図5−1の続きを示す図である。
【図5−3】図5−2の続きを示す図である。
【図6】LPP遺伝子のアミノ酸配列。LIMドメインを四角で囲む。切断点を矢印で示す。
【図7−1】HMGI−C(U28749)であればヌクレオチド配列。Manfioletti et al. が提案した翻訳開始部位を図示。(67)を開始部位として任意に選択した。配列は完全なコード配列を含む。
【図7−2】図7−1の続きを示す図である。
【図8】実施例5に記載のようにして得たPCR産物のゲル。
【実施例】
【0040】
実施例1
1.序
この実施例は、75の一部重複するYACクローンの分離および分析、ならびに、遺伝子座D12S8の周囲の約6MbのゲノムDNAにわたっており且つMARを含んでいるYACコンティグ(一部重複するクローンの集合体)の確立を記載するものである。12番染色体の長腕上のYACコンティグの向きは、二色FISH分析により決定された。STS含量マッピングおよび制限酵素分析に基づき、この6Mb DNA領域の広範囲物理的地図が確立された。このコンティグは、様々な12番染色体異常により直接影響を受ける遺伝子を包含する、12q15に位置する遺伝子の同定を目的とする、cDNA捕捉の有用な供給源を表す。
【0041】
2.材料および方法
2.1.細胞系
体細胞ハイブリッドを用いる染色体割り当て(CASH)実験には、細胞系PK89−12およびLIS−3/SV40/A9−B4を使用した。ハムスターの遺伝的背景中に唯一のヒト染色体として12番染色体を含むPK89−12は、前に記載した[29]。PK89−12細胞は、10%ウシ胎児血清、200IU/mlペニシリン、および200μg/mlストレプトマイシンを添加したDME−F12培地中で生育させた。体細胞ハイブリッドLIS−3/SV40/A9−B4は、t(12;16)(q13;p11.2)を有する粘液様脂肪肉腫細胞系LIS−3/SV40、およびマウスA9細胞の融合時に得られた。これは、der(16)を含むが、der(12)および正常な12番染色体のいずれをも含まないことが以前に示されていたものである[30]。LIS−3/SV40/A9−B4細胞は、選択的AOA培地(10%ウシ胎児血清、0.05mMアデニン、0.05mMウワバイン、および0.01mMアザセリンを添加したDME−F12培地で構成されるAOA培地)中で生育させた。両細胞系は標準的細胞遺伝学技術により頻繁に検定した。
【0042】
2.2.ヌクレオチド配列分析およびオリコヌクレオチド
T7ポリメラーゼ配列決定キット(ファルマシア/LKB)またはdsDNAサイクル配列決定システム(ギブコ/BRL)を用いるジデオキシチェーンターミネーション法に従い、ヌクレオチド配列を決定した。DNAフラグメントをpGEM−3Zf(+)中でサブクローニングし、FITC標識した標準SP6もしくはT7プライマー、または新たに得られた配列に基づき合成された特異的プライマーを用いて配列決定した。配列決定の結果は、自動レーザー蛍光(A.L.F.)DNAシークエンサー(ファルマシア・バイオテク)および標準的な30cm、6%ハイドロリンク(商標)、ロング・レインジ(商標)ゲル(ATバイオケム)を使用して得た。ヌクレオチド配列は、配列分析ソフトウェアジーンプロ(リヴァーサイド・サィエンティフィック)、PC/ジーン(インテリジェネティクス)、インテリジェネティクス・スイート・ソフトウェア・パッケージ(インテリジェネティクス、Inc.)、およびオリゴを使用して分析した[31]。オリゴヌクレオチドは全てファルマシア・バイオテクから購入した。
【0043】
2.3.染色体の調製および蛍光インサイトゥハイブリダイゼーション(FISH)
YACクローンのFISH分析を実施してそれらの染色体上位置を確認し、そしてキメラクローンを同定した。YAC挿入物末端のSTSに相当するコスミドクローンのFISH分析を実施して、それらの染色体上位置を確認した。コスミドは、ヒトゲノムライブラリーCMLW−25383から分離する[32]か、または、ローレンス・リヴァーモア・ナショナル・ラボラトリーにおいて標準法に従って組み立てられた、整列させた12番染色体特異的ライブラリー(LL12NC01、参考文献33)から分離された[34]。本質的には前記と同様にして常套的FISH分析を実施した[30、35]。DNAは、キーヴィッツ等のプロトコルを用いてビオチン−11−dUTP(ベーリンガー)で標識した[36]。DABCO(2g/100ml、シグマ)、0.1MトリスHCl pH8、0.02%チメロサール、およびグリセロール(90%)より成りヨウ化プロピジウム(0.5μg/ml、シグマ)を対比染色として含有する抗退色媒質を加え、15分後に、FITC/テキサスレッドに対するダブルバンド通過フィルター(オメガ・オプティカル、Inc.)を用いるザイス・アキシオフォト蛍光顕微鏡上で標本を分析した。結果はスコッチ(3M)640ASAフィルム上に記録した。
二色FISH実験のために、LLNL12NCO1−96C11をジゴキシゲニン−11−dUTP(ベーリンガー)で、そしてコスミドLLNL12NCO1−1F6および−193F10をビオチン−11−dUTPで標識した。各プローブの等量を合し、この混合物をハイブリダイゼーションに使用した。ハイブリダイゼーションの後、スライドをアビジン−FITCと共に20分間インキュベートし、次いでキーヴィッツ等により記載されるように洗浄した[36]。その後の一連の、TNB緩衝液(0.1MトリスHCl pH7.5、0.15M NaCl、0.5%ベーリンガー遮断剤(ベーリンガー))中でのインキュベーション、および洗浄工程は、TNT緩衝液(0.1MトリスHCl pH7.5、0.15M NaCl、0.05%トゥイーン20)中で実施し、全てのインキュベーションは37℃で30分間行った。第二のインキュベーションの間にヤギ−α−アビジン−ビオチン(ベクター)およびマウス−α−ジゴキシゲニン(シグマ)を同時に適用した。第三のインキュベーションの間にアビジン−FITCおよびウサギ−α−マウス−TRITC(シグマ)を適用した。最後のインキュベーションの間にヤギ−α−ウサギ−TRITC(シグマ)を適用した。TNT緩衝液中での最後の洗浄の後、試料を1xPBSで二回洗浄し、次いでエタノール系列(70%、90%、100%)により脱水した。対比染色として75ng/μlDAPI(セルヴァ)を含有する抗退色媒質を使用した。標本を上記のようにザイス・アキシオフォト蛍光顕微鏡で分析した。
【0044】
2.4.YACライブラリーのスクリーニング
サートル・デテュドゥ・デュ・ポリフォルミズム・ヒュメ(CEPH)より取得可能となったCEPHヒトゲノムYACライブラリーマーク1および3からYACクローンを分離した[37、38]。前記のようにスクリーニングを実施した[39]。時に遭遇するカンジダ・パラサイロシスの混入を、成長培地にテルビナフィン(ディーター・レーマー博士、サンド・ファルマ・LTD、バースル、スイス、の好意により提供された)を添加(最終濃度:25μg/ml)することにより根絶した。分離されたYACクローンを、STS含有量マッピング、カントゥア・クランプト均質電場(CHEF)ゲル電気泳動[40]、制限マッピング、ならびにハイブリダイゼーション−およびFISH分析により特性決定した。
【0045】
2.5.PCR反応
PCR増幅は、10mMトリスHCl pH8.3、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.01%ゼラチン、2mM dNTP、各アンプリマー20pmole、アンプリタク2.5単位(パーキン−エルマー・シータス)、およびDNA100ng(スーパープール用)または20ng(プール用)を含有する最終容量100μl中で、ファルマシア/LKB・ジーン・ATAQ・コントローラー(ファルマシア/LKB)を使用して実施した。94℃5分間の最初の変性の後、各々94℃1分間の変性、適当な温度で1分間のアニーリング(表Iを参照されたい)および72℃1分間の伸長で構成される35サイクルの増幅を実施した。PCR反応は72℃5分間の最後の伸長により完結した。結果を、ポリアクリルアミドミニゲル上で反応生成物10μlを分析することにより評価した。
【0046】
2.6.パルスフィールドゲル電気泳動およびサザンブロット分析
パルスフィールドゲル電気泳動およびサザンブロット分析は、ショーンメイカーズ等による記載に厳密に従って実施した[39]。高分子量YAC DNAを含むアガロース充填剤(約1x108酵母細胞に相当)をTE緩衝液(pH8.0)およそ25ml中、50℃で30分間2回平衡化し、引き続き室温で同様の平衡化を2回行った。その後充填剤を丸底2mlエッペンドルフ管に移し、適当な制限温度で適当な1x制限緩衝液500μl中、30分間2回平衡化した。その後、消化反応当たり30単位の制限エンドヌクレアーゼを使用し供給者(ベーリンガー)の指示に従って、DNAを充填剤中で4時間消化した。消化後、適当な分子量マーカーと共に充填剤を1%アガロース/0.25xTBEゲル上にロードし、LMPアガロースで密封し、そして120度のパルス角および10秒間(300kbpまでの分離)から20秒間(500kbpまでの分離)まで変化する定パルス時間を用いて、CHEF装置(バイオラド)上で18時間6.0V/cmでサイズ分画した。大きな制限フラグメントの場合、500kbpより大きなサイズのフラグメントの分離を目指して、さらなる泳動を行った。電気泳動は0.25xTBE中14℃で実施した。分子量マーカーとしては、λラダー(プロメガ)および制限エンドヌクレアーゼHindIIIで切断したλDNAを含有する自家製充填剤を使用した。電気泳動の後、ゲルをエチジウムブロミドで染色し、撮影し、そして120mJの設定でストラタリンカー(ストラタジーン)を用いてUV照射した。続いて0.4N NaOHを転移緩衝液として使用し、DNAをハイボンドN+膜(アマーシャム)上に4−16時間ブロッティングした。ブロッティング後、この膜を80℃で15分間乾燥し、2xSSPE中で短時間中和し、そして50%ホルムアミド、5xSSPE、5xデンハート、0.1%SDSおよび200μg/mlヘパリンで構成される溶液50ml中、42℃で少なくとも3時間プレハイブリダイズした。続いて、50%ホルムアミド、5xSSPE、1xデンハート、0.1%SDS、100μg/mlヘバリン、0.5%硫酸デキストランおよび標識化したプローブ2−3x106cpm/mlで構成される溶液10ml中、フィルターを42℃で16時間ハイブリダイズした。その後、膜を、まず2xSSPE/0.1%SDS中室温で5分間2回、次いで2xSSPE/0.1%SDS中42℃で30分間、そして最後に0.1xSSPE/0.1%SDS中65℃で20分間洗浄した。プローブの挙動に応じてコダックXAR−5フィルムを−80℃で3−16時間露光した。補力スクリーン(キョッコー・スペシャル500)を使用した。
【0047】
2.7.YAC挿入物末端からのSTSの作成
YAC挿入物末端由来のSTSは、本質的にはギャーツ等の記載に従って、直接的DNA配列決定分析と組み合わせたベクトレットPCR法を用いて取得した[41]。基本的には上記の方法に従い、プライマーの組を創出し、ヒトゲノムDNA上で試験した。本明細書全体を通じ、STSは簡便のためその略称で呼称する(例えば、STS12−RM1の代わりにRM1)。
【0048】
3.結果
3.1.遺伝子座D12S8の周囲のYACコンティグの組み立て
先の研究において[39]、D12S8の周囲の800kb YACコンティグが記載された。このコンティグは、部分的に重複した以下の3個の非キメラCEPHYACクローンで構成されていた:258F11、320F6、および234G11。このコンティグを染色体歩行プロジェクトのための出発点として使用して、様々な良性の充実性腫瘍の切断点を包含する、12番染色体の長腕上のDNA領域を明確にするが、これらは全てD12S8の近位およびCHOPの遠位に位置している。最初に、染色体歩行を、コンティグの大きさがその向きの信憑性ある決定を可能にするまで、二方向的に実施した。この二方向性およびその後の一方向性染色体歩行工程においては、以下の一般法を使用した。まず、YACクローンの末端の救出および配列決定は、これらの左および右側に特性を与えるDNAマーカーを産んだ(表I)。40のYAC挿入物の末端の配列データに基づき、DNAの特異的増幅のためのプライマーの組を創出し、STSを確立した(表II)。12q13−qterへのそれらの局在が、CASHによって、そして対応するコスミドクローンを分離した後、FISHによって決定された。さらに、分離されたYACクローンはしばしばFISH分析によって評価され、したがってそれら挿入物の染色体起源が明らかにされるのみならず、幾つかの場合については、それらのキメラ的性格が確立され規定されたことに留意すべきである。さらに、一部重複するYACクローンの制限エンドヌクレアーゼ分析により得られるデータは、YACクローンの評価およびその後の並列の際に考慮されたことを強調すべきである。連続的に選択され評価されたプライマーの組により、YACおよびコスミドライブラリーのスクリーニングが実施され、コンティグ組み立てのための構築ブロックが分離された。故に、FISH−およびSTS−含有量マッピングならびに制限エンドヌクレアーゼ分析から誘導されるデータを使用して、コンティグ組み立てを実施した。このアプローチを使用して本発明者等は、およそ6MbのDNAをカバーする75の部分重複するYACクローンから成るYACコンティグを確立した(図1)。このコンティグは、研究された全ての腫瘍由来細胞系の12番染色体切断点を包含しているように見受けられた。このコンティグの構築に使用されたYACの特性を表Iに示す。
【0049】
3.2.YACコンティグの染色体方向の確立
12番染色体の動原体に向かう一方向性染色体歩行を可能にするため、STSRM14およびRM26に隣接するDNA領域(およその大きさ:1450kb)の向きを、二色間期FISH分析によって決定した。これらのSTSに対応するコスミドクローン(即ちLL12NC01−1F6(RM14)およびLL12NC01−96C11(RM26))を別個に標識すると、それぞれ緑色または赤色のシグナルを示した。対照遺伝子座としてコスミドLL12NC01−193F10を標識したところ、検出時に緑色シグナルを示した。LL12NC01−193F10はかつて、脂肪腫細胞系Li−14/SV40および子宮平滑筋腫細胞系LM−30.1/SV40において、LIS−3/SV40(即ちCHOP)の切断点の遠位および染色体12q切断点の近位にマッピングされた。LL12NC01−1F6およびLL12NC01−96C11は、脂肪腫細胞系Li−14/SV40および子宮平滑筋腫細胞系LM−30.1/SV40において、12q切断点の遠位にマッピングされることが判明した。故に、LL12NC01−193F10は、RM14およびRM26の両方に対して近位にマッピングされると結論付けられた(未発表の結果)。150の採点された有用な間期のうち、18%は赤−緑−緑のシグナル順序を示し、一方72%が緑−赤−緑のシグナル順序を示した。これらの観察に基づき、本発明者等は、RM26がRM14に対し近位にマッピングされると結論付け、よって本発明者等は、YACコンティグを、本発明者等のコンティグのRM26(即ち近位)側からのみ伸長させ続けた。RM14およびRM26を含むコスミドのみが二色間期マッピングによって順序付けられ、他の全ての順序はYACコンティグのデータから推理された。最後に、二色間期FISH研究の結果に基づいて提起されたコンティグの染色体方向が、YACコンティグを、種々の腫瘍細胞系中に存在する12番染色体切断点を超えて伸長させた後に、個別に確認されたことに留意すべきである。この確認情報は膨大なFISH研究で得られ、そこでは、YACおよびコスミドクローンの位置が、一次脂肪腫、子宮平滑筋腫、多形態性唾液腺腫、および肺軟骨様過誤腫または誘導細胞系の染色体12q13−q15切断点に対して相対的に決定された[24、42、25、43]。
【0050】
3.3.D12S8周囲の6Mb YACコンティグからの稀切断物理的地図の組み立て
稀切断酵素(材料および方法を参照されたい)で完全に消化しCHEFゲル上で分離した、YAC DNAを加えた総酵母のサザンブロットを、i)問題のYACの最初のスクリーニングのために使用されたSTS、ii)pYAC4右腕配列、iii)pYAC4左腕配列、およびiv)ヒトALU−反復プローブ(BLUR−8)を用いて連続的にハイブリダイズした。このようにして得られた広範囲の制限地図を、PCR分離されたSTS/YAC末端プローブでプロービングすることにより完成した。時に二重消化を行った。個々のYACクローンの制限地図を並置し、共通制限地図を確立した。ここで、共通稀切断地図全体は、完全な内部一致を示す少なくとも2個の独立したクローンによって支持されることに留意することが重要である。
【0051】
3.4.CA反復および単形態性STS/ESTの物理的地図作成
ヒト12番染色体に関する第二回国際ワークショプで明らかとなった統合されたマッピングデータに基づき[44]、幾つかの公表されているマーカーが、本明細書に提示されるYACコンティグ内にマッピングされることが期待された。本発明者等のマッピングデータを他者により得られたデータと完全に統合させるため、幾つかのマーカーを本発明者等のコンティグ上にSTS含量マッピングし、そして陽性であると判明したものをその後YACサザンブロット上の(プライマー)ハイブリダイゼーションによってさらに位置決定した。本明細書中に提示されるコンティグ内に存在することが判明したマーカーのうちには、CA反復D12S313(AFM207xf2)およびD12S335(AFM273vg9)[45]、D12S375(CHLC GATA3F02)、およびD12S56があった[46]。さらに、一般に入手し得る配列データに基づき本発明者等が開発したプライマーの組を使用して、インターフェロンγ遺伝子(IFNG)[47]、ラス関連蛋白遺伝子Rap1B[48]、および発現された配列タグEST01096[49]がマッピングされた(表IIを参照されたい)。試験され陰性であるとわかったマーカーは、D12S80(AFM102xd6)、D12S92(AFM203va7)、D12S329(AFM249xh9)およびD12S344(AFM296xd9)を包含した。
【0052】
4.考察
本実施例においては、YACコンティグ、および、幾つかの頻発する良性充実性腫瘍の染色体異常をマッピングすることが知られているMARを含むヒト12番染色体の長腕上の領域である、12q15上のおよそ6Mbをカバーする稀切断物理的地図の確立が例示された。
コンティグの全長をおよそ6Mbにおいて、個々のYAC間の重複の程度を注意深く測定した(図1)。YACクローンの幾つかについての本発明者等の寸法別分類データは、CEPHにより決定された大きさと僅かに相違することに留意すべきである[50]。これは恐らく異なる研究所におけるパルスフィールドゲルの稼働のためのパラメータの相違に起因するというのが本発明者等の見解である。
【0053】
制限マッピングおよびSTS含有量分析を使用して、共通する広範囲の物理的地図(図1)を組み立てた。全体の複合地図は少なくとも2倍のカバレッジにより支持される。合計で30Mb以上のYAC DNAが制限およびSTS含有量分析により特性決定され、これは約5倍の平均コンティグカバレッジに相当する。このパルスフィールド電気泳動の技術に伴う「生来の」限定された分析では、非常に正確なサイズの判断はできないものの、本明細書に提示されるYACコンティグ内に含まれる500kbコスミドコンティグから得られる制限マッピングデータとの比較は、極めて良好な相関を示した。コスミドデータからの外挿で、本発明者等は、本明細書に提示された稀切断物理的地図の精度を約10kbと評価する。
【0054】
本発明者等の物理的マッピング研究の結果は、3個の遺伝子特異的および他者により分離された名称の無い5個のマーカーの統合を可能にした(図1の矢印の間に示される)。この名称の無いマーカーは、1個の単形態性および4個の多形性マーカーを含む。かつて公刊された5個のYAC末端由来の単コピーSTS(RM1、RM4、RM5、RM7、およびRM21)ならびに4個の公刊されているCA反復(D12S56、D12S313、D12S335、およびD12S375)および3個の公刊されている遺伝子付随STS/EST(RAP1B、EST01096、およびIFNG)が同じ物理的地図上に置かれたが、これは、その領域中にマッピングされる幾つかの特性/疾病遺伝子の(連鎖)マッピングおよび同定を容易にするであろう。さらに本発明者等は、同じ物理地図上に、染色体歩行の工程中に開発した、72のYAC末端由来(表I)および8個のコスミド末端−またはインターALU−由来のDNAマーカー(CH9、RM1、RM110、RM111、RM130、RM131、RM132、およびRM133)を置くことができた。PYTHIA@anl.govのPYTHIA自動通信サーバーを使用して、これらDNAマーカーの誘導された配列を反復の存在についてスクリーニングした。これら72のDNAマーカーのうち43について(表IIに列挙されている)、プライマーの組を創出し、PCRおよびヒトゲノムDNAのサザンブロット分析により、対応するSTSが単コピーであることを決定した。残りの29のDNAマーカー(黄色の囲み内に示される)はYAC末端誘導配列を表し、これらについては本発明者等はプライマーの組を作らなかった。これらのYAC末端配列は、制限地図作成に基づき12番染色体にマッピングされると思われる。最後の写真は、70kb内にほぼ1個という、この領域における通算のマーカー密度を明らかにしている。
【0055】
本明細書に提示されるコンティグの分析は、ハウスキーピング遺伝子に頻繁に付随することが知られているHTF島であるかも知れない、多数の富CpG領域を明らかにした。これらCpG島は、まだ未確認の遺伝子の5'末端に位置する可能性が高い:YAC DNA中、3またはそれ以上の稀切断制限部位が一致する、90%の事例において、付随遺伝子のあることが示されている[51]。これは、この領域内で尚同定されるべき遺伝子の数の過小評価であると思われ、何故なら、組織特異的遺伝子の60%はCpG島を伴わない[52]からであり、また、一つの島から2個の遺伝子が別の向きに転写されることが起こり得るからである。
【0056】
CEPH YACライブラリーマーク1から分離されたYACクローンの幾つかはキメラであることが判明したが、FISH、制限マッピングおよびSTS含有量分析に基づき非キメラであるように見受けられる部分重複YACクローンがそれぞれのスクリーニングで得られ、これは、該ライブラリーの報告されている複雑性に合致するものである。CEPH YACライブラリーマーク1についてのキメラ性の程度が、本明細書中で研究されている領域について18%(68のうち12)であると決定された。CEPH YACライブラリーマーク3由来のYACの少数(この研究には7個のMEGA YACのみが含まれた)では、このライブラリー中に存在するキメラクローンのパーセンテージの信頼し得る評価ができなかった。マーク1ライブラリーから誘導されたYACの平均サイズは381kbであると算出され;非キメラ性YAC(n=58)は平均サイズが366kbであり、一方キメラ性YAC(n=12)はかなり大きな平均サイズ、即ち454kbを持つとわかった。
【0057】
要約すると、本発明者等は、様々な良性充実性腫瘍において頻繁に再編成されるヒト染色体領域に対応する6Mb YACコンティグを提示する。このコンティグは、3個の遺伝子付随STSを含む84の遺伝子座を連結している。さらに、制限地図作成により本発明者等は、そこに存在する遺伝子を暗示し得る少なくとも12のCpG島を同定した。最後に、このコンティグ内に4個のCA反復を位置決定した。該領域の遺伝学的、物理学的、および転写地図の統合は、12番染色体のこの領域のさらなる研究のための基本的枠組みを提供する。初期の研究はMARおよびULCR12に収束するようであったが、これは、これらの領域が少なくとも3つの別個の型の充実性腫瘍の切断点クラスター領域を含むためである。本発明者等が本明細書に記載する種々のYACクローンは、このような研究のための貴重な資源である。それらは、この領域に存在する遺伝子の探索および種々の良性充実性腫瘍の12番q染色体異常により直接影響を受けるものの同定を容易にするに相違ない。
【0058】
実施例2
1.序
ヒト染色体12q15上の1.7Mb複合異常領域は、異なる良性充実性腫瘍
型にしばしば見いだされる頻発する12番染色体切断点を持っていることが判明した。この実施例においては、病因上の関連があるように見えるMAR内のHMG遺伝子の同定を述べる。ポジショナルクローニングのアプローチを用いて、高速移動群蛋白遺伝子HMGI−CをMARの175kbセグメント内部に同定し、そのゲノム機構の特性決定を行った。FISHによりこの遺伝子内部に、7つの異なる良性充実性腫瘍型の切断点の大半が精確に指摘された。サザンブロットおよび3'−RACE分析により、HMGI−Cにおける矛盾のない再編成および/または変化したHMGI−C転写物の発現が立証された。これらの結果は、HMG遺伝子ファミリーの一員と良性充実性腫瘍の発達との間の連鎖を示すものである。
【0059】
2.材料および方法
2.1.細胞培養および一次腫瘍標本
図3に列挙される腫瘍細胞系は、トランスフェクション法により確立され[54]、前に[39、24]で、そして本出願に付属文書1として添付されているヴァン・ドウ・ヴェン等、Genes Chromosom. Cancer、12、296−303(1995)という文献中に記載されている。20%ウシ胎児血清を添加したTC199培地で細胞を生育させ、標準的細胞遺伝学技術により規則正しい間隔で検定した。ヒト肝細胞性癌腫細胞系Hep 3BおよびHep G2をATCCより取得し(受理番号ATCC HB 8064およびATCC HB 8065)、4%アルトロサーを添加したDMEM/F12(ギブコ/BRL)中で培養した。一次充実性腫瘍は様々な大学診療所から入手した。
【0060】
2.2.YACおよびコスミドクローン
YACクローンは、PCRに基づくスクリーニング[59]およびコロニーハイブリダイゼーション分析の組み合わせを用いてCEPHマーク1[57]およびマーク3[58]YACライブラリーから分離した。コスミドクローンは、ローレンス・リヴァーモア・ナショナル・ラボラトリーから入手した(P.ドゥ・ジョングの好意による)整列させたヒト12番染色体特異的コスミドライブラリー(LL12NC01)から分離した[60]。LL12NC01由来のコスミドクローンは、それらの微量定量プレート上の番地により表示される;即ち例えば27E12というように。
【0061】
コスミドDNAは、キアゲンチップ(ディアゲン)での精製を含む標準技術を用いて抽出した。高分子量酵母+YAC DNA(1x109細胞ml-1に相当)を含有するアガロース充填剤を前記[61]のように調製した。充填剤を、T10E1(pH8.0)25ml4回、その後1x制限緩衝液0.5ml2回に対し完全に透析した後、それらをパルスフィールド制限酵素マッピングまたはYAC末端救出のいずれかに付した。YAC末端救出は、前記参考文献61に記載のように、直接固相DNA配列決定と組み合わせたベクトレット−PCR法を用いて実施した。インターAluPCR生成物は、公表されているオリゴヌクレオチドTC65または517を用いて分離し[62]、クローニングを容易にするためここにSalI尾を付加した。配列分析後、OLIGOコンピューターアルゴリズムを用いてプライマー対を開発した[61]。
【0062】
2.3.DNA標識化
YAC、コスミド、PCR生成物およびオリゴヌクレオチドからのDNAを様々な技術を用いて標識した。FISHのために、コスミドクローンまたはYACのインターAluPCR生成物をニック翻訳によりビオチン−11−dUTP(ベーリンガー)でビオチニル化した。フィルターハイブリダイゼーションのために、ランダム六量体を用いてプローブをα−32P−dCTPで放射標識した[62]。サイズが200bpより小さいPCR生成物の場合、同様のプロトコルを適用したが、標識化反応を開始させるために特異的オリゴヌクレオチドを使用した。オリゴヌクレオチドはγ−32P−ATPを用いて標識した。
【0063】
2.4.ヌクレオチド配列分析およびPCR増幅
ヌクレオチド配列は実施例1に記載のように決定した。配列決定結果は、A.L.F.DNAシークエンサー(商標)(ファルマシア・バイオテク)を使用し標準的30cm、6%ハイドロリンク(商標)、ロングレインジ(商標)ゲル(ATバイオテク)上で分析した。PCR増幅は本質上前記と同様に実施した[39]。
【0064】
2.5.cDNA末端の迅速増幅(RACE)
3'cDNA末端の迅速増幅(3'−RACE)は、ギブコ/BRL3'−ETプロトコルの一部を僅かに改変した方法を用いて行った。第一鎖cDNA合成のためには、アダプタープライマー(AP2)AAG GAT CCG TCG ACAT C(T)17を使用した。第一および第二回目のPCRの両者のために、不変増幅プライマー(UAP2)CUA CUA CUA CUA AAG GAT CCG TCG ACA TCを「逆プライマー」として使用した。PCRの第一回目では以下の特異的「前進プライマー」を使用した:i)5'−CTT CAG CCC AGG GAC AAC−3'(エキソン1)、ii)5'−CAA GAG GCA GAC CTA GGA−3'(エキソン3)、またはiii)5'−AAC AAT GCA ACT TTT AAT TAC TG−3'(3'−UTR)。PCRの第二回目では以下の特異的前進プライマー(第一回目で使用されたものと比較して入れ子状のプライマー)を使用した:i)5'−CAU CAU CAU CAU CGC CTC AGA AGA GAG GAC−3'(エキソン1)、ii)5'−CAU CAU CAU CAU GTT CAG AAG AAG CCT GCT−3'(エキソン4)、またはiii)5'−CAU CAU CAU CAU TTG ATC TGA TAA GCA AGA GTG GG−3'(3'−UTR)。入れ子状特異的プライマーのCUA/CAU尾は、指向性のクローンアンプクローニング系(ギブコ/BRL)の使用を可能にした。
【0065】
3.結果
3.1.コスミドコンティグおよびMARセグメントのSTS地図の開発
ヒト12番染色体の長腕に焦点を絞ったポジショナルクローニング作業工程の間に本発明者等は、約6Mbにわたる、そして75の部分重複YACから成る酵母人工染色体(YAC)コンティグを組み立てた。その説明については実施例1を参照されたい。このコンティグはMARを包含しており(図2をも参照されたい)、そこでは、様々な一次良性充実性腫瘍(これまで試験された8つの異なる型の34の腫瘍;表5)および腫瘍細胞系(これまで試験された26。脂肪腫、子宮平滑筋腫、および多形態性唾液腺腫より誘導;図3)に存在する殆どの染色体12q13−q15の切断点の殆どが密集しているように見える。本発明者等は広範囲STSおよびMARの稀切断物理的地図の両者を開発し、FISH分析により、MARの445kb亜領域内にマッピングされる切断点の殆どがSTS RM33およびRM98の間に位置することを見いだした(図2および図3を参照されたい)。大規模な品質管理を含むFISH実験を、常法に従い前記のように実施した[25、39、24、42、36]。この445kb MARセグメント内部の切断点の分布をさらに精密にするため、54の一部重複コスミドクローンで構成されるコスミドコンティグを開発し、稠密なSTS地図(図2)を確立した。このコスミドコンティグは、稀切断物理的地図との比較およびSTS含有量マッピングによって二重確認した。
【0066】
3.2.MARの175kbDNAセグメント内部への染色体12q切断点の密集
研究された様々な腫瘍細胞系中の染色体12q切断点が、FISHによりコスミドコンティグ内部に精確に指摘された(図3)。本発明者等の品質管理FISH実験の一部として[25、39、24、42]、選択されたコスミドをまず、正常リンパ球から誘導された中期拡散について試験した。FISHの結果は、これら腫瘍細胞系中の12番染色体切断点の大多数(少なくとも26例のうちの18)がRM99およびRM133の間の175kbDNA間隔の中に密集して見いだされることを示し、これは、この間隔が中心的な切断的クラスター領域を構成することを示すものである。Li−501/SV40で得られたFISH結果は、MARの一部は見掛け上正常な第3染色体に転座する事(応用細胞遺伝学により目撃された染色体異常)を示した。最後に、子宮平滑筋腫細胞系LM−5.1/SV40、LM−65/SV40、およびLM−608/SV40の切断点が同じコスミドクローン、即ちコスミド27E12内部にマッピングされる事が見いだされたという事実は、興味を持って注目される。
本発明者はさらに、染色体12q13−q15の異常を有する8つの異なる型の一次良性充実性腫瘍についてFISH実験を行った(表4)。コスミドクローン27E12および142H1の混合物を分子プローブとして使用した。要約すると、一次腫瘍のFISH研究の結果は、腫瘍細胞系について得られた結果と矛盾しなかった。試験された7つの異なる腫瘍型の各々の切断点がMARの同じ175kb DNA間隔内部に見いだされたという観察は、この間隔がこれらの腫瘍の発達と決定的に関連し、故に可能性あるMAG遺伝子座またはその重要な部分を有しているかも知れないということを示唆した。
【0067】
3.3.MAR内部にマッピングされる候補遺伝子の同定
STS RM99およびRM133の間のMARの175kb亜領域内部にマッピングされる候補遺伝子を同定する試みにおいて、本発明者等は3'−末端エキソン捕捉およびゲノム配列サンプリング(GSS)を使用した[63]。GSSアプローチを使用して本発明者等はコスミド27E12の4.9kbBamHIサブフラグメントの末端のDNA配列データを得、これはFISH分析により、試験された子宮平滑筋腫細胞系のうち3個において12番染色体の異常によって分断されることが示された。BLAST[64]探索は、これらの配列の一部が、HMG遺伝子ファミリーの一員である[66]高速移動群(HMG)蛋白遺伝子HMGI−C[65]の一般に入手し得る部分的cDNA配列(EMBL受理番号Z31595)と配列一致を示すことを明らかにした。これらの観察に照らし、HMGI−Cは候補MAG遺伝子であると考えられ、さらに詳細に研究した。
【0068】
3.4.HMGI−Cのゲノム機構および良性充実性腫瘍における再編成
HMGI−C転写物は1200ヌクレオチド(報告されたサイズはおよそ4kb[65、67])が一般に入手し得るのみであるため、本発明者等はまず、HMGI−C転写物(ジェンバンク、#U28749)の残りのヌクレオチド配列の殆どを決定した。この事は、本発明者等にとって該遺伝子のゲノム機構の実質的な確立を可能にした。この配列データについて興味深く注目される事は、CT反復がHMGI−Cの5'−UTRに、そしてGGGGTペンタヌクレオチド反復が3'−UTRに存在することであり、これらは調節上の関連があるかも知れない。当該遺伝子の転写されたものをゲノムDNA配列(ジェンバンク、#U28750、U28751、U28752、U28753、およびU28754)と比較することにより、HMGI−Cが少なくとも5個のエキソンを含むことが明らかとなった(図2)。遺伝子の転写方向は染色体の長腕のテロメアに向かっている。最初の3個のエキソンの各々は、可能性あるDNA結合ドメイン(DBD)をコードしており、そしてエキソン5は、エキソン4によりコードされているスペーサードメインにより3個のDBDから分離されている酸性ドメインをコードしている。3個のDBDコード化エキソンは、互いに比較的近接して位置しており、約140kbの大きなイントロンによって他の2個のエキソンと分離され、そしてこの2個は互いに約11kb離れている。ここで特段の興味を持って強調されることは、5個のエキソンは少なくとも160kbのゲノム領域にわたって散在しており、したがって上記の175kbの主要MAR切断点クラスター領域全体を殆どカバーしているという事である。分子プローブとしてコスミド142H1(エキソン1−3を含む)および27E12(エキソン4および5を含む)の混合物を使用した分子細胞遺伝学的研究の結果は、HMGI−C遺伝子が、評価された腫瘍および腫瘍細胞系の大多数において観察された12番染色体の異常に直接影響を受けていることを明確に証明する(図3;表4)。これらの細胞遺伝学的観察は、LM−608/SV40(結果は示されていない)、LM−30.1/SV40[24]、およびAd−312/SV40(使用されたプローブはCH76、RM118−A、およびEM26を包含した)の事例におけるサザンブロット分析によって独立して確認された。これら3つのプローブのいずれを用いてもLM−65/SV40、LM−609/SV40、Ad−211/SV40、Ad−263/SV40、Ad−302/SV40、Li−14/SV40、およびLi−538/SV40の切断点を検出できなかったという事は、MAR中の切断点の相対位置を確立したFISHデータとも合致した(図3参照)。これらの結果により、HMGI−Cが、仮定的MAG遺伝子の第一候補とされた。
【0069】
3.5.良性充実性腫瘍細胞における異常HMGI−C転写物の発現
追跡的研究の内容において、可能性ある異常HMGI−C発現について試験することは興味深いものであった。最初のノーザンブロット研究により、HMGI−Cの転写物は、試験された多様な正常組織(脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、胎盤、骨格筋)ならびに図3に列挙される幾つかの腫瘍細胞系で検出することができないことが明らかとなった(データは示されていない)。正常な分化した組織中のHMGI−CmRMAレベルは悪性組織中よりもずっと低いことが知られている[65、67]。本発明者等のノーザン研究の対照として、本発明者等は、比較的高いレベルのHMGI−Cを発現することが知られる肝癌細胞系Hep3Bを含めた。本発明者等は、大きさがおよそ3.6および3.2kbである二つの主要なHMGI−C転写物を容易に検出した(分子量の相違はそれらの5'−非コード化領域の相違に起因するというのが最もありそうなことである)。HMGI−Cまたは3'−異常HMGI−C転写物を検出する代替の且つより感受性の高いアプローチにおいて、本発明者等は3'−RACE実験を行った。多様なHMGI−C転写レベル(Hep 3B肝癌細胞では高レベル、Hep G2肝癌細胞では中等度、そして子宮筋層、正常脂肪組織、および偽粘液腫では低レベル)を有する幾つかの組織を用いた対照実験において、本発明者等は、3つの選択されたプライマーの組のいずれが使用されようとも、分子クローニングおよびヌクレオチド配列分析時に3'−HMGI−CmRNA配列の完璧な部分cDNAコピーを表すように見える3'−RACEクローンを取得した(方法論を参照されたい)。潜在性のまたは異常にスプライスされたHMGI−C転写物に対応する可能性が最も高いRACE生成物が時に観察され、それらの異所性配列は、HMGI−Cイントロン3または4に戻ってマッピングされた。
【0070】
10の異なる一次腫瘍または脂肪腫、子宮平滑筋腫、および多形態性唾液腺腫から誘導された腫瘍細胞系の同様な3'−RACE分析において、本発明者等は定常的および特異なPCR生成物の両者を検出した。定常的PCR生成物は殆どの場合3'−HMGI−CmRNA配列の完璧な部分cDNAコピーを表すように見えた。それらは恐らくは変化を受けていないHMGI−C対立遺伝子に起源する可能性が最も高く、内部対照として考えられるかも知れない。ここに提示された10の腫瘍細胞試料の特異なPCR生成物は、HMGI−C配列と融合した異所性配列を含むように見受けられた。殆どの場合、異所性配列は、確立された転座相手から誘導されることが見いだされ、したがって、HMGI−C遺伝子の、転座で誘発される再編成のための独立した証拠を提供するものである。これらのRACE生成物の異所性配列のヌクレオチド配列、転換点、および染色体起源に関する情報を表5に要約する。異所性配列の染色体起源は、コリエル・セル・レポジトリーズから入手したNIGMS ヒト/齧歯類体細胞ハイブリッドマッピングパネル2を用いてCASH(体細胞ハイブリッドを用いる染色体割り当て)によって確立されたことに留意すべきである。染色体割り当ては、表5にさらに概説されるように、pCH1111、pCH172、pCH174、pCH193、およびpCH117の事例についてさらなるデータにより個別に確認された。常套的細胞遺伝学的分析の限界を考慮すると、複雑な核型の場合には特に、異所性配列の染色体割り当ては、かつての転座の細胞遺伝学的記載と良好に一致する。
【0071】
得られる分子細胞遺伝学的分析が、その12番染色体切断点がHMGI−C遺伝子の遥か外側(1Mb以上)にマッピングされることを示したという、Ad−312/SV40で得られたデータは、幾分予想外であった[42]。異所性配列は、確立された転座相手である第1染色体(より正確には、部分的に1p22にマッピングされるM.I.T.YACコンティグWC−511内部のセグメント)に起源を発するように見えた(図2)。この特別の事例における異常HMGI−C遺伝子の機能的発現への影響を正確に解明するためにはさらなる分子解析が必要とされる。ここでさらに興味を持って注目されることは、GGGGT反復がRACE生成物中に存在しないことから、第1染色体に由来する配列が、HMGI−Cの3'−UTR領域に観察されるGGGGT反復を除去するらしいことである。対照的に、やはり3'−UTRに切断点を有することが示された一次子宮平滑筋腫LM−#58(t(8;12)(q24;q14−q15))においては、この反復はRACE生成物中に存在するらしく思われた。故に、この反復の除去は、十中八九腫瘍の発達にとって決定的ではない。X染色体が細胞遺伝学的に指定された転座相手である、一次腫瘍LM−#168.1に関する結果は、異所性配列が、平滑筋腫における優先的転座相手である第14染色体から誘導されることを明らかにした。第14染色体の関与は、Li−501/SV40の場合にそうであると判明したように、この特別の事例での標準的核型決定によっては検出できない可能性がある。一次脂肪腫Li−#294(t(8;12)(q22;q14))では、これに代わる2個の異所性配列が検出された。ヒト第8染色体に対するプローブの領域位置決定のためのハイブリッド細胞マッピングパネルを使用したさらなるCASH分析[68]は、これらが共に染色体8q22−qterから誘導されていることを明らかにした(表5)。これらのRACE生成物が、選択的にスプライシングされた転写物に相当するということは極めて可能性が高い。最後に、事例のうち4つにおいて(表5、pCH114、pCH110、pCH109、pCH116)、対応する異所性配列がHMGI−Cイントロン3または4のいずれかから誘導されると判明したことから、RACE生成物は潜在性のまたは異常にスプライスされたHMGI−C転写物に相当するように見えた。このようなRACE生成物は上記の対照実験でも観察されている。結論として、腫瘍細胞における異常HMGI−C転写物の検出は、HMGI−Cが様々な12番染色体異常により一貫して再編成されていることをさらに強く支持するものである。様々な事例における異常HMGI−C転写物は、生物学的な関わりについて何らかの最終的結論を引き出す前に、全長を特性決定すべきであるということに留意すべきである。
【0072】
分離された異所性配列の最初のそして予備的評価は、変動する長さの、位相が同じオープンリーディングフレームを明らかにした。例えば一次腫瘍LM−#25の場合、その異所性配列の第二コドンが既に終止コドンであるらしい(表5)。配列データは2回の大規模な(恐らく突然変異を誘発する)PCRを経て生成されたクローンについてのみ得られているため、ここでは注意することがふさわしい。興味を持って注目されることは、Li−501/SV40については、ノーザンブロット分析において、分離された異所性配列が、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、胎盤、および骨格筋を包含する種々の組織に10kb以上の転写物を検出したが、脳には検出されなかった(データは示されていない)ということである。第3染色体は脂肪腫中の染色体12q13−q15転座の好ましい相手であり、また種々の脂肪腫の第3染色体切断点はYACクローンCEPH192B10を横切っていることが見いだされたことから、検出された転写物は、可能性ある脂肪腫を好む相手遺伝子(LPP)に相当するのかも知れない。
【0073】
4.考察
付属文書1において、脂肪腫、多形態性唾液腺腫、および子宮平滑筋腫の染色体12q13−q15切断点は、過去にそれらが12番染色体のセグメントq13、q14、またはq15に細胞遺伝学的に割り当てられたことに関わりなく、全てMARと呼称される1.7Mb DNA間隔内部に全て密集している。3つの腫瘍型のうち2つで12番染色体転座切断点にかかっているCEPHメガ−YACを同定しているシェーンベルク・フェッツォ等の最近の研究[14]は、この主張されている切断点の密集を支持している。本研究において本発明者等は、FISH分析により、7つの異なる充実性腫瘍型の12番染色体切断点が、MARの比較的小さな(175kb)セグメント内部に密集していることを決定的に立証した。幾つかの腫瘍細胞系についてはサザンブロットデータが得られ、これらは常にFISH結果を支持した。これら全ての観察から、本発明者等は、MARのこのセグメントはこれらの腫瘍における12番染色体異常のための主たる標的領域を構成していること、そしてそれは可能性あるMAG遺伝子座:これらの腫瘍における共通した通性と考えられ得る多腫瘍異常増殖遺伝子座を表していそうなことを結論付ける。
【0074】
この175kb MARセグメント内部に、本発明者等はHMGI−C遺伝子を同定し、そのゲノム機構の特性を決定した。構造的にはこのHMGI−Cコード化燐蛋白は、3個の可能性あるDNA結合ドメイン、1個のスペーサー領域、および酸性カルボキシ末端ドメインで構成され、カゼインキナーゼIIおよびp34/cdc2の両者のための燐酸化の可能性ある部位を含んでいる[65、67]。本発明者等は、HMGI−Cが本明細書中で研究された様々な腫瘍型に関わる第一候補の標的遺伝子である強力な証拠を提供した。FISH研究において、33の一次腫瘍のうち29の切断点は、2つの極めて有用なコスミド142H1および27E12の間にマッピングされることが判明した。第一のコスミドは3個のDBDコード化エキソンを含み、第二のコスミドは別の2個のドメインをコードしている残りのエキソンを含んでいる。故に、切断点の大多数は該遺伝子の内部にマッピングされ、それらの殆どは恐らく140kbイントロン(イントロン3)内部にあり、これは、評価された26の腫瘍細胞系で得られたFISH結果とも合致する。HMGI−C遺伝子の5'末端はまだ完全には特性決定されていないことにも留意すべきである。この遺伝子ファミリーの別の成員であるHMGI(Y)は様々な代替第一エキソンを持っていることが知られていることから[69]、HMGI−C遺伝子の大きさは、想像されているよりも大きいかも知れない。HMGI−Cが12番染色体異常の影響を受けていることのさらなる支持は、3'−RACE実験の結果から導くことができる。新たに獲得された配列に融合した転写されたHMGI−C配列で構成される異常HMGI−C転写物が、腫瘍細胞に検出されたが、明らかに殆どの場合、細胞遺伝学的に転座相手として同定された染色体に起源を発している。多くの染色体が、研究された腫瘍中の転座相手として発見されているという事は注目すべきである。これらの転座に関与する相互切断点領域に観察されるこの不均一性は、MLL遺伝子を含む染色体11q23再編成を伴う様々な血液学的悪性腫瘍のそれと似ており[70]、その翻訳産物はHMGI蛋白のDNA結合モチーフに関連するアミノ末端モチーフを持っている。
【0075】
興味をそそる論点は、HMGI−C遺伝子の発現に及ぼす12番染色体異常の影響および直接の生理学的関わりに関係している。HMGI−Cの幾つかの機能的特徴は知られているか、または他のファミリー成員の研究から推測により導くことができる。それはDNAの小溝で結合することから、HMGI−Cはサテライトクロマチンの組織化において役割を果たしているか、または転写因子として働いていると示唆されている[71、72]。HMGI−Cに最も密接に関連する成員であるHMGI(Y)に関する研究は、HMGI(Y)はNF−κ B転写活性のためのプロモーター特異的副因子として機能し得る事を示唆した。HMGI(Y)はさらに、明瞭な転写因子ATF−2イソ型のDNA結合を刺激または阻害することが示されている[74]。どちらの研究も、該蛋白はプロモーター/エンハンサー事情において機能する転写装置の構造要素を構成しているに過ぎないことを示している。HMGI−Cと類似のドメイン構造を持ち、遺伝子転写において準転写因子として働くHMG遺伝子ファミリーのさらに別の成員である、高速移動群蛋白1(HMG1)に関する最近の報告では、酸性カルボキシ末端領域を欠く末端切除HMG1蛋白が遺伝子転写を阻害することが示された[75]。DNA結合により惹起される抑制の排除に加えて遺伝子発現の増強のためには、HMG1分子の酸性末端が必須であることが提唱された。12番染色体切断点の殆どが140kbイントロンに存在するらしいことから、酸性カルボキシ末端ドメインからのDBDの分離は頻繁に起こっていると思われる。HMGI−Cの酸性ドメインがHGMI(Y)のそれと同様の機能を有する場合、12番染色体異常の結果は遺伝子発現に影響する可能性がある。最後に、酸性カルボキシ末端領域をコードしている配列の結末はまだ知られていないことに留意すべきである。
【0076】
HMGI−Cは、良性腫瘍の発達に関わり得るHMG遺伝子ファミリーの最初の成員であるため、このファミリーの他の成員もまた関与しているのかという疑問が生まれる。HMG蛋白ファミリーは3つのサブファミリーで構成される:i)HMGIおよび2型蛋白。これらはインビトロで転写を促進することが判明しており、またHMGボックスを有するずっと大きなクラスの調節物質の成員であり得る。ii)まだ知られていない機能を有するランダムコイル蛋白HMG14および17。iii)HMGI−型蛋白。これらは小溝に結合し、HMGI−C、HMGI、およびHMGI−Yを包含する。後者の二つは同じ遺伝子によりコードされている。HMGファミリー成員の公表されているマッピング位置が、本明細書で研究されているような良性充実性腫瘍の公表されている染色体切断点と一致するということは、興味を持って注目される。例えばHMGI(Y)遺伝子はヒト染色体6q21にマッピングされている[69]が、これは、子宮平滑筋腫、脂肪腫、および多形態性唾液腺腫で観察される頻出する転座に関与していることが知られている[76]。ヒトゲノムデータベースに列挙されるように、HMGファミリーの既知の成員全てが染色体上に割り当てられている訳ではないが、それらの幾つかについては比較的正確なマッピング位置が確立されている。例えば、HMG17は染色体1p36.1−p35に、HMG1Lは13q12に、そしてHMG14は21q22.3に割り当てられ、腫瘍型の染色体切断点が本明細書中で研究されている染色体セグメントは全て報告されている[76]。HMGI(Y)またはこれらHMG成員のうちの他のいずれかが実際にこれらの腫瘍の他の亜群に影響を及ぼしているかどうかは依然として確立されねばならない。さらに、バンナヤン−ゾナナ(マッククシック#153480)、プロテウス(マッククシック#176920)、およびコウデン(マッククシック#158350)のような症候群(後者の症候群は多発性過誤腫症候群とも呼ばれる)を記載することは興味深い。先天性バンナヤン−ゾナナ症候群を有する個体の60%には、中胚葉過誤腫を伴う家族性巨大頭蓋、離散した脂肪腫および血管腫が見いだされた[70]。
【0077】
最後に、本発明者等の結果の一つの局面を見逃すべきではない。この研究で評価された全ての腫瘍は間葉起源または間葉成分を含んでいた。観察されたHMGI−Cの関与が間葉特異的であるのかまたは非間葉起源の腫瘍にも見いだされるのかを解明することは非常に興味深いことであろう。本発明者等がここに記載する様々なDNAクローンは、この重要な問題に取り組むための貴重な原資であり、HMGI−C遺伝子を腫瘍発生に最終的に関連付ける研究を容易にするに違いない。
【0078】
実施例3
HMG遺伝子ファミリーの他の成員の再編成
1.序
この実施例は、もしHMGI−C遺伝子またはHMGI(Y)遺伝子のいずれかが染色体再編成により影響を受けるならば、与えられた腫瘍実体(例えば肺軟骨様過誤腫、子宮平滑筋腫、子宮内膜ポリープ)内部に、組織学的に実際上互いに区別不可能な腫瘍が発生することを明確に証明する。したがって、HMGI−CおよびHMGI(Y)を包含する(但しこれらに限定されない)異常な間葉増殖につながる遺伝子の一群を、実際に解明することができる。
【0079】
2.材料および方法
2.1.染色体の調製
染色体の調製は常法に従う。細胞をコルセミド(10μg/ml)30μlで2−3時間処理し、次いで、トリプシン法(0.05%トリプシン、0.02%EDTA)、その後室温下で20分間の6倍希釈の培地TC199中の低張性ショックおよびメタノール:酢酸(3:1)固定を用いて収穫した。次いで染色体をGTGバンド化した。
【0080】
2.2.インサイトゥハイブリダイゼーション
インサイトゥハイブリダイゼーションは前記実施例の一つに概説されるようにして実施した。
【0081】
2.3.PACライブラリースクリーニング
PACライブラリー(ゲノム・システムズ・ライブラリー・スクリーニング・サーヴィス、セントルイス、ミズーリ、USA)を、HMGI(Y)遺伝子に特異的なプライマーの組を用いてPCRによりスクリーニングした。スクリーニングのために本発明者等は、配列:
5'−CTC CAA GAC AGG CCT CTG ATG T−3'(イントロン3)
を有する前進プライマー、および逆プライマー:
5'−ACC ACA GGT CCC CTT CAA ACT A−3'(イントロン3)
を設計し、338bpのフラグメントが生成した。増幅のため、以下の熱循環を使用した:94℃、5分間(94℃、1分間、59℃、1分間、72℃、2分間)x30、72℃、10分間。
【0082】
2.4.PACクローンからのDNAの調製
単一のPACクローンを含む細菌コロニーをLB培地に接種し、37℃で一夜増殖させた。この一夜培養660μlをLB培地25ml中に希釈し、0.05−0.1のOD550となるまで増殖させた。最終濃度0.5mMとなるまでIPTGを添加することによりP1溶菌性レプリコンを誘導した。IPTG添加後、OD550が0.5−1.5となるまで増殖を継続し、そしてゲノムシステムズの推奨するアルカリ溶菌法を用いてプラスミドDNAを抽出した。
【0083】
3.結果
ヒトPACライブラリーをスクリーニングするためのプライマーの組は、HMGI(Y)のイントロン3に属する配列から設計した。HMGI−CおよびHMGI(Y)の間の配列相同性の故に、増幅された338bpの配列を、HMGI(Y)にのみ特異的である相同性探索によって試験した。ライブラリースクリーニングの結果、挿入物の平均の長さがおよそ100kbである3個の陽性PACクローンが得られた。これらのクローンのうち2個(Pac604、Pac605)を以下のFISH研究に使用した。HMGI(Y)が単純または複雑な形で6p21.3を含む転座を伴う腫瘍において再編成されているか否かを証明するために、本発明者等は、全て6p21.3の異常を伴う4つの一次肺軟骨様過誤腫および2つの子宮内膜ポリープ由来の中期拡散についてFISH分析を実施した。各々の場合について20の中期を採点した。上に記載した2つのPACクローンPac604およびPac605のうち少なくとも一方は、分析した6例全てにおいて切断点と交差していた。これらの結果は、本明細書で調査された6p21異常を伴う腫瘍の切断点がHMGI(Y)遺伝子内部またはその近傍のいずれかに密集していることを明白に示している。
【0084】
実施例4
脂肪腫細胞におけるハイブリッドHMGI−C
第3染色体由来の脂肪腫を好む相手遺伝子LPP(>50kb)のcDNAクローンを分離し、そのヌクレオチド配列を確立した。複合cDNAのデータを図4に示す。ニワトリのジキシンに対しアミノ酸配列類似性(50%以上)を有する蛋白(612アミノ酸(aa))のためのオープンリーディングフレームを同定した。ジキシンは、その成員が全ていわゆるLIMドメインを有するLIM蛋白ファミリーの一員である[78]。LIMドメインは、転写レギュレーター、プロトオンコジーン生成物、および付着斑構成成分を包含する、種々の機能を有する漸増する数の蛋白に見いだされる、システインに富む亜鉛結合蛋白である。LIMファミリー成員の多くは、細胞シグナル生成および発達過程の細胞の運命の制御において役割を果たしていると考えられてきた。近年、LIMドメインはモジュラー蛋白結合界面であることが証明された[79]。細胞外マトリックスへのおよび他の細胞への細胞接着部位に存在するジキシンと同様、推定されるLPPコード化蛋白(図6)は3個のLIMドメインを持ち、古典的なDNA結合ホメオドメインを欠く。
【0085】
Li−501/SV40の3'−RACE分析において、融合転写物を含むHMGI−Cが同定され、ここからハイブリッド蛋白(324aa)を予想することができ、そして引き続きHMGI−Cの3個のDBD(83aa)と、これらのカルボキシ末端の、LPPによりコードされている3個のLIMドメイン(241aa)で構成されると予想された。適当な入れ子状のアンプリマーの組を使用するPCR分析では、類似のHMGI−C/LPPハイブリッド転写物が、t(3;12)を有する様々な一次脂肪腫および脂肪腫細胞系に、そして細胞遺伝学的に正常な脂肪腫にも検出された。これらのデータは、脂肪腫中の細胞遺伝学的に検出し得るおよび隠れたt(3;12)転座は常に、LPPコード化蛋白の仮定的モジュラー蛋白結合界面とHMGI−CのDNA結合分子との同調した融合をもたらし、それによりHMGI−Cの酸性ドメインがLIMドメインに置き換えられるように見える。その結果、これらの蛋白結合界面は、これら脂肪腫細胞の核環境で提供される可能性が高く、そこでそれらは遺伝子発現に影響を及ぼし、恐らくは異常な増殖調節を導き得る。染色体12q13−q15異常を伴う多岐にわたる良性間葉性腫瘍の中で、これは、明確に定義された腫瘍関連HMGI−C融合蛋白の形成に頻繁に且つ不断に寄与する染色体転座相手の最初の例である。図5は、分離された完全なLPP遺伝子のcDNA配列を示している。
【0086】
実施例5
脂肪腫のための診断試験
脂肪腫を有する患者の生検試料を取得した。このようにして得られた材料から、製造者のマニュアルに記載されるようにして、ギブコ/BRLの標準トリゾール(商標)LSプロトコルを用いて総RNAを抽出した。この総RNAを使用して、逆転写酵素(ギブコ/BRL)および結合させた短い余分のヌクレオチドを含むオリゴdT(17)プライマーを用いてcDNAの第一鎖を調製した。使用したプライマーの配列は、実施例2の2.5.の項に記載される通りである。引き続きRNアーゼHを使用して、合成されたDNA/RNAハイブリッド分子からRNAを除去した。遺伝子特異的プライマー(実施例2、2.5.項)および結合させた余分の短いヌクレオチドに対し相補的なプライマーを用いてPCRを実施した。このようにして得られたPCR生成物をゲル電気泳動により分析した。それらを同じ個体の正常細胞のバックグラウンドバンドと比較することにより、融合組み立て物が検出された。
さらなる実験において、1個の内部プライマーおよび短いヌクレオチドに対し相補的なプライマーを用いて半入れ子状PCRの第二回目を実施した。したがってこの試験の感受性は有意に改善された。
図8は典型的なゲルを示す。
【0087】
実施例6
肺軟骨様過誤腫における12q14−15および6p21の異常
1.序
肺軟骨様過誤腫(PCH)は、いわゆる貨幣病変として肺のX線検査中にしばしば検出される。しかし、悪性腫瘍の肺転移および稀に肺癌もまた貨幣病変として存在し得る。この実施例は、最少量の腫瘍細胞しか必要としないFISHを使用して、PCHの大多数と悪性腫瘍とを正しく識別できることを示すものである。したがって、この試験は、例えば微細な針での吸引により取得した腫瘍細胞にうまく適用することができる。
【0088】
2.材料および方法
この研究には、組織学的に特性決定された合計80のPCHから得た試料が含まれる。細胞培養、染色体調製およびFISHは、前記実施例に記載のように取得または実施した。
【0089】
3.結果
細胞遺伝学的研究は、細胞遺伝学的に研究された80のPCHのうち51が、12q14−15または6p21のいずれかを含む検出可能な異常を表すことを明らかにした。HMGI−C遺伝子に属するコスミドのプールまたは前記実施例に記載されたHMGI(Y)のPACクローンのいずれかを使用するFISHにより、本発明者等は、さらなる4例においてそれらの領域の隠された構造的再編成を検出することができた(3例に12q、そして1例に6pの関与)。故に、FISH試験単独をキットに使用して、PCHの50%以上にHMGI−Cの再配置またはHMGI(Y)遺伝子再配置のいずれかを正確に検出することができ、したがってこれは、これらの腫瘍の診断のための価値あるさらなる手段である(他の2つの実施例に示されるように、この型の腫瘍に制限される訳ではない)。
【0090】
実施例7
軟組織腫瘍、特に含脂肪細胞起源の腫瘍の診断
1.序
含脂肪細胞組織腫瘍は、特に微細な針での吸引生検または低温切片を評価せねばならない場合には、しばしば診断上の困難をもたらす。この実施例は、含脂肪細胞組織腫瘍および稀な軟組織腫瘍の鑑別診断のためのFISH試験の妥当性を証明するものである。
【0091】
2.材料および方法
2.1.腫瘍試料
3つの軟組織腫瘍からの腫瘍試料をFISHにより調査した。試料1(1)は含脂肪細胞腫瘍からのものであり、組織学的にはそれは異型性脂肪腫または良く分化した脂肪肉腫のいずれかであった。第二の事例(腫瘍2)は、恐らく粘液様脂肪肉腫であろうと診断されたが、攻撃的な血管粘液腫を包含する他の型の悪性軟組織腫瘍もまた考慮された。第三の腫瘍(腫瘍3)もまた含脂肪細胞起源のものであって、脂肪腫および良く分化した脂肪肉腫の両者が考えられた。
【0092】
2.2.細胞の分離およびFISH
腫瘍試料は常法に従い酵素で分散させた。得られた単一細胞懸濁液を遠心し、この懸濁液をメタノール:氷酢酸(3:1)を使用して室温で1時間固定した。次にこの細胞懸濁液を清浄な乾燥したスライド上に滴下し、60℃で6時間経過させた。前記実施例に記載のようにHMGI−C遺伝子からの分子プローブを用いてFISHを実施した。
【0093】
3.結果
間期のレベルにおいて、腫瘍1および2はいずれも対立遺伝子の一方についての分断シグナルを示した。これらの発見は、良性腫瘍、即ち第一の事例では異型性脂肪腫、そして第二の事例では攻撃的な血管粘液腫であるとの診断と矛盾しない。それらは悪性の含脂肪細胞組織腫瘍の存在を除外することができる。
第三の事例では、FISHはMAR領域またはその一部の高度の増幅を明らかにした。良く分化した脂肪肉腫において、巨大マーカーまたは環状染色体で観察される増幅単位はMAR領域を含むことができることから、これらの発見は、良く分化した脂肪肉腫という診断へとつながる。この実施例に提示された3つの事例は、記載されたDNAプローブの有用性を示す。それらは、軟組織腫瘍の診断用のさらなる手段を提供する、比較的単純且つ迅速な間期FISH実験用のキットに使用することができる。
【0094】
実施例8
正常組織におけるHMGI−Cの発現
1.序
HMGI−C遺伝子の発現は主として胚および胎児の発達中の人間の組織に限定されるという事を示すのが、この実施例の目的である。対照的に、特にHMGI−C再編成を伴う腫瘍が発生し得る組織および器官を包含する成人の殆どの正常組織においては、発現は現れない。この事は、該遺伝子の転写の再活性化でも腫瘍形成を開始させ得ることを示すものである。他方では、これは、腫瘍の成長を阻害または止めるためのアンチセンス法(正常HMGI−C mRNAに対するアンチセンス分子を包含する)の有用性を強調するものである。
【0095】
2.材料および方法
2.1.組織試料
この研究のために使用される全ての成人組織試料は、採取後15分以内液体窒素中で凍結させた外科的に採取された組織から得た。試料の殆どは、腫瘍手術の間に採取された隣接する正常組織由来のものであった。詳細には、本発明者等は、様々な解剖学的部位の脂肪組織から採った8個の試料、子宮筋層組織から採った20個の試料、肺組織から採った8個の試料、唾液腺(耳下腺および顎下腺)から採った4個の試料、心筋から採った1個の組織試料、異なった年齢の患者の胸部組織から採った25個の試料、脳由来の2個の試料、3個の肝臓試料、腎臓組織から採った7個の試料、および社会経済的理由での人工妊娠中絶後の胚/胎児(10−14妊娠週)由来の胚/胎児組織(四肢、6個の試料)を使用した。
さらに、3つの細胞系を使用した:HMGI−C発現用の対照として本発明者等は、肝癌細胞系Hep3Bおよび典型的な転座t(3;12)を伴う脂肪腫から確立された細胞系L14を使用した。10回再現したRT実験では本発明者等自身の研究においてHMGI−C発現を表さなかったため、負の対照としてHeLa細胞を使用した。
【0096】
2.2.HMGI−Cの発現のためのRT−PCR
組織試料100mgをホモジナイズし、フェノールおよびイソチオシアナートを含有するトリゾール試薬(ギブコBRL、エッゲンシュタイン、ドイツ)を用いてRNAを分離した。ポリ(A)−オリゴ(dt)17プライマーおよびM−MLV逆転写酵素(ギブコBRL、エッゲンシュタイン、ドイツ)を用いてcDNAを合成した。次いで半入れ子状PCRを実施した。
第一および第二のPCRのために同じ下部プライマー(レヴェックス4)(5'−TCC TCC TGA GCA GGC TTC−3'(エキソン4/5)を使用した。PCRの第一回目では特異的上部プライマー(SE1)(5'−CTT CAG CCC AGG GAC AAC−3'(エキソン1))を、そしてPCRの第二回目で入れ子状上部プライマー(P1)(5'−CGC CTC AGA AGA GAG GAC−3'(エキソン1))を使用した。いずれの回のPCRも10mMトリス/HCl pH8.0、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001%ゼラチン、100μM dATP、100μM dTTP、100μM dGTP、100μM dCTP、200nM上部プライマー、200nM下部プライマー、および1単位/100μlアンプリタクポリメラーゼ(パーキン・エルマー、ヴァイターシュタット、ドイツ)を含有する100μl容量で実施した。増幅は30周期の間実施した(94℃1分間、53℃1分間、72℃2分間)。第1回目のPCRでの鋳型としては250ng総RNAから誘導したcDNAを、そして第2回目のPCRでは第一のPCR反応混合物1μlを使用した。
【0097】
2.3.無傷のmRNA/cDNAのための対照検定
無傷のRNAおよびcDNAのPCRのための対照反応として、試験はハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド3−燐酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のcDNAの増幅を基礎とした。PCR反応は、HMGI−C発現のPCRの第一回目について上に記載したものと同じ条件の下で35周期実施した。
【0098】
3.結果
発現実験については、全ての実験は少なくとも2回反復した。RT−PCRに使用されたRNAおよびcDNA調製物が全て無傷であることを確実とするため(さもなければ偽陰性結果が導かれる)、定型的にハウスキーピング遺伝子GAPDHの発現のためのRT−PCRを行った。陽性のGAPDH RT−PCR結果は299bpフラグメントを生成した。陽性のGAPDH RT−PCRを示す試料のみをこの研究に使用した。Hep 3BおよびL14のようなHMGI−C陽性細胞におけるRT−PCRの結果、特異的220bpフラグメントが検出できる。HeLa細胞はHMGI−Cの発現を示さなかった。2つの子宮筋層試料を除いて(ごく微少レベルの筋腫のためである可能性が高い)、成人個体から採取した全ての正常組織試料は、検出し得るレベルのHMGI−C発現を示さなかった。対照的に、試験された全ての胎児/胚組織はHMGI−C発現を表した。
【0099】
実施例9
白血病の早期検出のための診断手段としてのHMGI−C遺伝子の発現
1.序
HMGI−C遺伝子を冒す細胞遺伝学的に検出し得る異常が、間葉起源の様々な良性充実性腫瘍中に発見されている。明らかにこの異常は該遺伝子の転写活性化をも導く。血液細胞もまた間葉起源であることから、白血病細胞をHMGI−C発現について調べることに興味が持たれた。本実施例は、末梢血の細胞中の遺伝子の活性化が、白血病に見いだされる未熟な細胞/異常な幹細胞を示す好適なマーカーであることを示すものである。HMGI−Cの発現は高度の感受性を持って測定されるため、該遺伝子の発現のためのRT−PCRは、様々な血液疾患のごく早期の検出に使用することができる。
【0100】
2.材料および方法
フィラデルフィア染色体陽性CMLの患者19人、AMLの患者5人、およびALLの患者3人を包含する異なった型の白血病の患者27人の末梢血由来の試料をHMGI−C発現の測定に使用した。15人の健康な家系発端者からの血液試料を対照として使用した。
HMGI−Cの発現のためのRT−PCRは実施例8に概説されるように実施した。
【0101】
3.結果
白血病患者からの血液試料にはHMGI−Cの発現が明白に検出できたのに対し、対照の人間から採取された血液試料のいずれにも発現は認められなかった。該遺伝子の転写活性化が遺伝子またはその周囲を冒している突然変異によるという事の証拠はなかった。活性化はむしろ、細胞の未熟性またはそれらの異常な増殖に関連する二次的効果であると想像することの方が、より理にかなっている。とは言え、高い、且つ改善され得る感受性は、例えばHMGI−C遺伝子の発現のためのRT−PCRに基づくキットを極めて好適な診断手段とする。
【0102】
実施例10
HMGI−C遺伝子の転写再発現は腫瘍の始動を導き得る。
1.序
この実施例は、幾つかの腫瘍実体については、HMGI−C遺伝子の5'に位置する染色体切断点もまた事実存在することを明確に示し、この事は、該遺伝子の転写の上方調節が、対応する腫瘍型の増殖を開始させるのに充分であることを示唆している。
【0103】
2.材料および方法
2.1.細胞培養
外科手術の後、腫瘍試料(肺軟骨様過誤腫3個、子宮平滑筋腫1個)を、ペニシリン(200IU/ml)およびストレプトマイシン(200μg/ml)を添加したハンク溶液で洗浄した。腫瘍をコラゲナーゼにより37℃で5−6時間分離させた。小フラグメントおよび単一細胞を含むこの懸濁液を、20%ウシ胎児血清、200IU/mlペニシリン、および200μg/mlストレプトマイシンを添加したアール塩を伴う培養基TC199中に再懸濁した。
【0104】
2.2.染色体の調製
染色体の調製は常法に従った。細胞をコルセミド(10μg/ml)30μlで2−3時間処理し、次いで、トリプシン法(0.05%トリプシン、0.02%EDTA)、その後室温下で20分間の6倍希釈の培地TC199中の低張性ショックおよびメタノール:酢酸(3:1)固定を用いて収穫した。次いで染色体をGTGバンド化した。
【0105】
2.3.FISH研究
染色体を確実に同定するため、同じ中期拡散のGTGバンド化の後、FISHを実施した。DNAプローブとして、本発明者等は、図2のレジェンダに記載されるような、HMGI−C遺伝子にまでかかっているYAC−コンティグに属する5個のコスミドを使用した。これらのコスミドのうち3個(27E12、185H2、142H1)はHMGI−Cの第三イントロンにマッピングされ、一方コスミド260C7および245E8はそれぞれ3'または5'末端に位置する。スライドをザイス(ザイス、オバーコッヘン、ドイツ)アキシオプラン蛍光顕微鏡を用いて分析した。結果をパワー・ジーン・カリオタイピング・システム(PSI、ハラデイル、英国)で処理し記録した。cDNA末端の迅速増幅(RACE)は前記実施例の一つに記載されるようにして実施した。
【0106】
3.結果
4つの腫瘍は全て同じ型の細胞遺伝学的異常、即ち2個の見掛け上正常な12番染色体および余分の誘導体14 der(14)t(12;14)(q14−15;q24)を含むが、対応するder(12)の無い47の染色体の存在を示した。HMGI−Cの3'−5'の向きは動原体に向かっているため、HMGI−C遺伝子内部の一つの破損はその5'部分の喪失ならびにder(12)の喪失を導くであろう。故に本発明者等は、切断点をより正確に決定するため一連のFISH実験を行った。5個のコスミド260C7、27E12、185H2、142H1、および245E8を使用して、同じ強度のハイブリダイゼーションシグナルが、正常な12番染色体および余分のder(14)のいずれにも観察された。このFISH結果は、4つの事例全てにおいて、染色体切断点はHMGI−C遺伝子の5'に位置することを明らかにした。
【0107】
4つの事例全てにおいて切断点がHMGI−C遺伝子の5'に割り当てられたことは、RACE−PCRの結果と良好に合致する。正常なHMGI−C転写物に加えて本発明者等は、3つの腫瘍全てに異常転写物を検出することができた。配列は、それらが第14染色体からではなく、恐らくは潜在性スプライス部位のためにHMGI−Cのイントロン3から誘導されていることを示した。しかし、RACE結果は、実際に4つの事例全てでHMGI−C発現があることを明らかにした。
【0108】
実施例11
白血病細胞の再分化
1.序
HMGI−C遺伝子の発現は、多岐にわたる腫瘍、充実性腫瘍、および白血病においてしばしば非常に上昇する。HMGI−C蛋白が細胞の形質転換で重要な役割を果たしているのではないかと考えられた。この実施例は、HMGI−C遺伝子の発現がアンチセンスHMGI−C配列を発現することにより大きく低下し得ること、そして腫瘍細胞におけるHMGI−Cレベルの低下は形質転換された表現型の復帰をもたらすことを示すものである。したがって、アンチセンス分子の発現または投与は、治療上成功裏に適用することができる。
【0109】
2.材料および方法
2.1.腫瘍細胞系
腫瘍細胞系は悪性一次唾液腺腫瘍および一次乳癌から作成した。細胞系は、B.カズミールチャク、B.ソード、S.バートニッケ、J.ブラーディエク、およびW.シュルート、「多形態性腺腫細胞は最初の核型に応じてそれらのSV40形質転換に対する感受性を変える」、Genes Chrom.Cancer、5巻35−39頁(1992)に記載のように確立した。
【0110】
2.2.形質転換された状態の検定
軟寒天コロニー検定を、マクファーソンおよびモンタニアー、「ポリオーマウイルスにより形質転換された細胞の選択検定のための寒天懸濁培養」、Virology、23巻291−294頁(1964)に記載のように実施した。
唾液腺および胸部腫瘍細胞を、20%ウシ胎児血清(ギブコ)、200IU/mlペニシリン、および200μg/mlストレプトマイシンを添加したアール塩を伴うTC199培養基中で増殖させた。
トランスフェクトさせた唾液腺(AD64)および胸の細胞系の腫瘍形成性を、無胸腺マウスに細胞を皮下注射することにより試験した。
【0111】
2.3.トランスフェクション検定
トランスフェクションは種々のプロトコルを用いて実施した。即ち:
1.グラハムおよびヴァン・デル・エプの燐酸カルシウム法(「ヒトアデノウイルスの感染性の検定のための新しい技術」、Virology、52巻456−467頁(1973))。
2.リポフェクション:製造者の指針に従い、リポソーム仲介DNA輸送(リポフェクタミン、ギブコBRL)を用いてトランスフェクションを実施した。
【0112】
2.4.アンチセンス組み立て物
種々のプロモーター状況、例えばモロニーマウス白血病ウイルスの長末端反復、CMVプロモーター、またはSV40の初期プロモーターの転写調節の下で、ヒトHMGI−C cDNA配列を、発現ベクター中に、センスおよびアンチセンスの両方向に挿入することにより、HMGI−C遺伝子のセンスおよびアンチセンス組み立て物を得た。例えば、ヒトHMGI−Cの全コード化配列を含むヒトHMGI−C cDNAフラグメントを、ヒトサイトメガロウイルス初期プロモーターおよびエンハンサーの調節下での発現、およびG418耐性についての選択を可能にするpRC/CMV(インビトロゲン)中にクローニングすることによって、CMV/HMGI−Cプラスミドを組み立てた。
【0113】
3.結果
3.1.形質転換された表現型の復帰
胸および唾液腺の腫瘍細胞にアンチセンスHMGI−C発現を誘導した後、これらの腫瘍細胞に、形質転換された表現型の復帰が観察された。軟寒天コロニー検定により測定されたように、そしてインビボ無胸腺マウスで、腫瘍形成性の著しい低下が観察された。免疫沈降およびウェスタンブロット分析は、アンチセンスHMGI−C配列を発現している細胞にHMGI−C蛋白レベルの著しい低下を示した。故に、このアプローチは、HMGI−Cの関与する腫瘍に治療的に使用することができる。
【0114】
実施例12
インビボ治療薬試験の手段としての、HMGI−Cを含む動物腫瘍モデル
得られたHMGI−Cの知識に基づき、インビボ薬物試験の手段としての動物腫瘍モデルを開発することができる。この目的(例えば子宮平滑筋腫のための)を達成するため、2つのアプローチを使用することができる。即ち、一方は遺伝子転移(形質転換動物の作成)であり、他方は遺伝子標的化技術(胚の幹細胞(ES細胞)でのホモローガスな組換えを介して特異的遺伝子異常をインビボで模倣する)である。
【0115】
これらの技術は、複雑な生態系の遺伝子機構の操作を特異的且っ予め設計されたように行うことを可能にする。広範な技術的詳細については、B.ホーガン、R.ベディングトン、F.コンスタンティーニ、およびE.レイシー、マウス胚の操作、研究室マニュアル、コールド・スプリング・ハーバー・プレス、1994;ISBN 0−87969−384−3を参照されたい。
【0116】
HMGI−C遺伝子の不活性化または突然変異を、特に選択された細胞型において選択された時点で起こすために、近年記載されたCre/LoxP系を使用することができる(H.グー等、細胞型特異的遺伝子標的化を用いたT細胞のDNAポリメラーゼβ遺伝子セグメントの除去、Science、265、103−106、1994)。Cre酵素は、その生理的役割が、感染の間に互いに結合するようになったファージゲノムを分離する事である、バクテリオファージP1由来の組換え酵素である。これを達成するため、Creは、loxP部位と呼ばれるファージDNAの短い配列に並び、1個のloxP部位を残してそれらの間のDNAを除去する。この系は現在、哺乳動物細胞中で、染色体DNAを高い効率で切り取るのに有効であることが示されている。この系を用いた遺伝子の組織特異的不活性化または突然変異は、Cre酵素の組織特異的発現を介して獲得することができる。
【0117】
一例として、該モデルが治療薬のインビボ試験の助けになるような、MAG遺伝子ファミリーの一員を使用した子宮平滑筋腫のための動物モデル系の開発を下に概説する。
2つのアプローチに従うことができる:
a)人間の患者に観察されるような特異的遺伝子異常のインビボ誘導((条件的)遺伝子(同質遺伝子の)標的化アプローチ);および、
b)患者に観察される遺伝子異常を代表するDNA組み立て物の導入(遺伝子転移アプローチ)。
【0118】
遺伝子転移に使用されるDNA組み立て物は、構造および発現調節に関する限り、子宮平滑筋腫に罹患している患者でなされた観察に基づいて作成することができる;例えば、種々の転座相手遺伝子を伴うHMGI−C融合遺伝子、特に、CEPH YAC 6C3、89C5、308H7、336H12、460A6、489F4、902F10、952F5、958C2、961E1、および971F5により表されるYACコンティグに位置する第14染色体の優先的転座相手遺伝子、基本的にHMGI−Cの3個のDNA結合ドメインをコードしている末端切除遺伝子、ならびに完全なHMGI−Cまたは強力なプロモーターの調節下でのHMGI−Cの誘導体。
【0119】
実施例13
HMGI−Cに対する抗体の調製
診断および治療に使用するための好適な分子の一つの型は、MAG遺伝子に対する抗体である。HMGI−Cに対するウサギポリクローナル抗体の製造のためには、リサーチ・ジェネティクス・Inc.、ハンツヴィル、AL、USAから入手し得る以下の3個の市販のペプチドを使用した:
(H−ARGEGAGQPSTSAQGQPAAPAPQKR)8−多抗原ペプチド(MAP)、
(H−SPSKAAQKKAEATGEKR)8−MAP、
(H−PRKWPQQVVQKKPAQEE)8−MAP。
ポリクローナル抗体は標準技術に従って作製した。
【0120】


【0121】

【0122】
表2
PCRプライマー

【0123】
表2(続き)
PCRプライマー

【0124】

【0125】

【0126】

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【0129】

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【0131】

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【0135】

【0136】

【0137】

【0138】

【0139】
原発性多形態性唾液腺腫から由来した7種の細胞系における染色体腕12qの切断点を、9種のDNAプローブに関してFISH分析によりマッピングした。これらのプローブは、すべて染色体断片12q13−q15の2.8MbゲノムDNA領域に存在し、以前に発表された配列標識部位(STS)に対応する。それらの相対的位置は、YACクローニング並びに長距離物理的及びSTS含量マッピングにより確認した。5種の細胞系の12q切断点は、最近STSRM33及びRM98間の12番染色体子宮平滑筋腫クラスター領域の切断点と定義された445kbDNA区間の3個の異なる亜領域内にマッピングされていることがわかった。7種の切断点は、すべてSTSRM36およびRM103間の1.7MbDNA区間内に位置しているようであった。さらに、3種の原発性多形態性唾液腺腫の12番染色体切断点もRM36及びRM103間にマッピングされることがわかった。最後に、12q13−q15異常をもつ2種の脂肪腫細胞系のFISH分析が、これらの切断点について、2種の原発性脂肪腫のものと同様にRM36とRM103間に位置すると見られる比較的小さな隣接DNA断片を鋭く指向していた。我々は、3種の明確な充実性腫瘍の12q切断点のクラスター観察から、RM36とRM103間の12番染色体長腕1.7MbDNA領域が、我々がMARと名付ける多重異常領域であると結論する。
【0140】

【0141】
緒論
12番染色体のq13−q15領域が関係する染色体転座は、広範囲の充実性腫瘍で観察されている(ミテルマン、1991年)。細胞遺伝学的に異常な子宮平滑筋腫(ニルバートおよびハイム、1990年;パンディスら、1991年)、多形態性唾液腺腫(サンドロスら、1990年;ブラーディークら1993年)及び良性脂肪組織腫(スリーカンティアら、1993年)のサブグループにおいて、12q13−q15の異常はしばしば観察されている。最近の研究(シェーンメーカーズら、1994年b)において、我々は、12番染色体切断点の子宮平滑筋腫クラスター領域であるULCR12を同定し、分子として確認した。本研究では、我々は大または小唾液腺由来の良性上皮腫である多形態性唾液腺腫における染色体12q切断点に焦点を合わせる。これは最も一般的な型の唾液腺腫であり、この器官の全新生物中のほぼ50%を説明する。腫瘍の約85%は耳下腺に見られ、10%は小唾液腺に、5%は顎下腺に見られる(ザイフェルトら、1986年)。これら腺腫の多数は正常な核型をもつようであるが、細胞遺伝学的研究は、頻発性の特異的染色体異常を明らかにした(サンドロスら、1990年;ブラーディークら、1993年)。8番染色体の異常に加えて、しばしば、12番染色体の異常であるt(3;8)(p21;q12)を最も一般的な異常として伴う、8q12における切断点での転座も頻繁であり、転座は通常12q13−q15が関係する。非頻発性のクローン性異常も報告されている。明確な充実性腫瘍タイプにおける頻繁な12q13−q15領域の関与は、この染色体領域が、これらの腫瘍の発生と関係を持つ可能性がある遺伝子(類)を宿していることを示唆する。したがって、これらの腫瘍における12番染色体の切断点の分子クローニング及び接合フラグメントの確認は、このような遺伝子(類)の同定に通ずる。
【0142】
我々は、先に、蛍光系内ハイブリダイゼーション(FISH)データに基づいて、原発性多形態性唾液腺腫由来の幾つかの細胞系における12番染色体切断点(カズミールチャックら、1990年;シェーンメーカーズら、1994年a)が、12番染色体長腕上でD12S19及びD12S8座間の区間に位置することを報告した(シェーンメーカーズら、1994年a)。このDNA区間は、約7cMであると推定されている(キーツら、1989年;クレイグら、1993年)。これらの腫瘍細胞の12番染色体切断点を含む区間は、さらに、すべての切断点が粘液脂肪肉腫に特徴的なt(12;16)転座により直接影響され(アマンら、1992年;クロザットら、1993年;ラビッツら、1993年)、D12S19及びD12S8間に位置する、CHOP遺伝子から遠位に位置することが示されることにより狭められた。さらに最近の研究(クールスら、1995年)によると、多形態性唾液腺腫細胞系Ad−312/SV40の12番染色体切断点は、165kbより小さい大きさの配列標識部位(STS)RM110及びRM111間のDNA領域を鋭く指向する。その他の多形態性唾液腺腫細胞系の12番染色体切断点のFISHによる評価は、それらがAd−312/SV40に近位に800kbより大きな距離で位置すべきことを示した(クールスら、1995年)。これらの結果は、12番染色体切断点が12番染色体長腕上の比較的大きなゲノム領域に亘り分散する可能性を指向するものであった。
ここでは、我々は、原発性腫瘍から得た多形態性唾液腺腫細胞及び樹立腫瘍細胞系における12番染色体切断点の物理的マッピングを報告する。細胞に見られた核型の異常はすべて異なるが、常に12番染色体のq13−q15領域に関係する。我々は、6MbDNA領域の長距離物理的マップにおける配列標識部位(STS)に対応し、染色体歩行実験で得られたD12S8とCHOP間のDNAプローブを使用して、FISH実験を実施し、多形態性唾液腺腫の大きな12番染色体切断点クラスター領域をさらに精細に定義した。この切断点クラスター領域は、ULCR12と重なるようであった。さらに、我々は、脂肪腫の12q13−q15切断点もまた多形態性唾液腺腫及び子宮平滑筋腫のものと同じ領域内に位置するか否かについて試験した。
【0143】
材料及び方法
原発性充実性腫瘍及び誘導細胞系
多形態性唾液腺腫、脂肪腫及び子宮平滑筋腫を含む原発性充実性腫瘍は、ベルギー国ルーベン(I.ド・ウイバー博士);ドイツ連邦共和国ブレーメン(R.チリ博士);ドイツ連邦共和国クレフェルト(J.ハウプリッヒ博士)の大学診療所;及びスウェーデン国ゲーテボルクの病理学研究所(G.ステンマン博士)から入手した。細胞培養およびその後のFISH分析のために、腫瘍細胞を微細にみじん切りし、0.8%コラーゲナーゼ(ベーリンガーマンハイムFRG)で4−6時間処理し、常法によりFISH分析用操作を行った。
この研究に用いたヒト腫瘍細胞系は、既報の多形態性唾液腺腫細胞系Ad−211/SV40、Ad−248/SV40、Ad−263/SV40、Ad−295/SV40、Ad−302/SV40、Ad−366/SV40、及びAd−386/SV40(カズミールチャックら、1990年;シェーンメーカーズら、1994年a)並びに最近開発されたLi−14/SV40を含んでいた。これらの細胞に見られた12番染色体異常は表1に記載する。細胞は20%ウシ胎児血清を補充したアール塩含有TC199培地中で増殖させた。
【0144】

【0145】
DNAプローブ
我々は、12番染色体の長腕に焦点を合わせたヒトゲノムプロジェクトに関連して、12番染色体特異配列コスミドライブラリーLINL12NC01(モンゴメリーら、1993年)からコスミドクローンcRM33、cRM36、cRM51、cRM69、cRM72、cRM76、cRM98、cRM103、及びcRM133を分離した。これらのコスミドの詳細は、第2回国際12番染色体ワークショップ(1994年)で発表し、他の文献に記載する(クチャーラパチら、1994年)。概略を述べると、先に報告したように(シェーンメーカーズら、1994年b)、最初のスクリーニングはPCRベースのスクリーニング法(グリーン及びオルソン、1990年)を用いて実施し、その後最終スクリーニング段階としてフィルターハイブリダイゼーション分析を行った。コスミドクローンはYACクローン由来のSTS類を用いて分離した。STS類は、ベクトレットPCRを含む方法を用いてYAC挿入物末端の回収後PCR産物の直接固相蛍光配列決定法(ゲーツら、1994年)またはAlu間PCR(ネルソンら、1989年)を行って得た。コスミドクローンは標準的方法(サムブルックら、1989年)により増殖させ処理した。
12番染色体の長腕テロメア領域に向かって位置するコスミドクローンcPK12qter(クールズら、1995年)を参照マーカーに使用した。
【0146】
染色体調製及び蛍光系内ハイブリダイゼーション
多形態性唾液腺腫細胞系または正常ヒトリンパ球中期塗抹を、先に報告したように調製した(シェーンメーカーズら、1993年)。FISH実験における染色体の同一性を間違いなく確認するため、同じ中期塗抹のGTGバンド形成後にFISH分析を行った。GTGバンド形成は、基本的にシュミットら(1990年)が報告したように実施した。系内ハイブリダイゼーションは、キービッツら(1990年)が報告したプロトコールに従い若干の修正を施して(クールズら、1994年;シェーンメーカーら、1994年b)行った。コスミド及びYACのDNAは、先に報告したように(シェーンメーカーズら、1994年b)ビオチン−11−dUTP(ベーリンガーマンハイム)またはビオチン−14−ATP(BRL)で標識した。検体は、FITCフィルター(ツァイス)を用いてツァイスアクシオフォト蛍光顕微鏡で分析した。結果は、スコッチ(3M)のASA640フィルムに記録した。
【0147】
結果
多形態性唾液腺腫細胞系における12q切断点のFISHマッピング
我々は、先の研究(シェーンメーカーら、1994年a)において、若干の唾液腺の多形態性アデノームにおける幾つかの12番染色体切断点を種々のDNAマーカーに関してマッピングし、これらがすべてD12S8座の近位でCHOP遺伝子から遠位に位置することを確認した。この領域は、連結座D12S8及びD12S19に包まれる7cMより若干小さい領域である(キーツら、1989年)。YACクローニングを使用し、最近報告されたようにして(クチャーラパチら、1994年)、この7cM領域の大部分を覆う長距離物理的/STS地図を作図した。さらに、多数のゲノムクローン(コスミドクローン)を分離し、この地図内におけるその相対的位置を確認した(クチャーラパチら、1994年)。これらのコスミド中、cRM33、cRM36、cRM51、cRM69、cRM72、cRM76、cRM98、cRM103、及びcRM133を含めた9種をFISH研究に使用して、唾液腺の多形態性腺腫に由来する7種の細胞系(表1)における12番染色体切断点の位置を確認した。約2.8Mbの12番染色体長腕上ゲノム領域を覆うこれら9種のコスミドクローンの相対的マッピング順位を図1に示し、種々のコスミドプローブによるFISH実験結果を同図に概略的に示す。実例として、cRM76及びcRM103をプローブとして使用しAd−195/SV40細胞系の中期細胞で得られたFISH結果を図2に示す。染色体の同定については、FISH前GTGバンド形成を常に使用したことに注意すべきである。このようなバンド形成に基づき、ハイブリダイゼーションシグナルが既知の存在としての染色体のものとして決定的に帰属決定された。交差及び背景ハイブリダイゼーションシグナルがしばしば観察されるので、これらがある場合このことは大きな重要性をもつ。ハイブリダイゼーションシグナルが弱いかまたは不明確なバンド形成のために、GTGバンド形成とFISH分析の組み合わせが決定的でない結果をもたらした場合、参照プローブとしてコスミドクローンcPK12qter(クールズら、1995年)を用いてFISH分析を実施した。
【0148】
cRM103を用いて行ったた7種の多形態性唾液腺腫細胞系のそれぞれに関する中期染色体のFISH分析は、このコスミドが、ここで実験した7種の細胞系すべての12番染色体切断点の遠位に位置することを示した。また、7種の細胞系中6種の中期染色体は、プローブcRM69で試験し、2つの場合についてはcRM51で試験した。後者の実験の結果はすべてcRM103で得た結果と矛盾しなかった。プローブとしてcRM36を用いて行った同様なFISH分析は、このプローブがすべての切断点の近位に位置することを示した。これらの結果はすべて、cRM72を用いた実験における7種の細胞系中5種について得た結果と矛盾しなかった。全体として、我々のFISH実験の結果は、7種の細胞系すべてにおける12番染色体切断点が、約1.7Mbのゲノム領域に広がるcRM36及びcRM103間に位置することを示した。
【0149】
唾液腺の多形態性アデノーム由来細胞系における12q切断点の精細マッピング
7種の多形態性唾液腺腫細胞系における12番染色体切断点の精細マッピングのため、図1に概略を示すように別のFISH実験を行った。細胞系Ad−211/SV40、Ad−295/SV40、及びAd−366/SV40の切断点は、約75kbと推定されるcRM76及びcRM133間のDNA領域に位置すると思われた。他の4種の細胞系の切断点は、cRM36及びcRM103間の別の1.7Mb域に見つかった。Ad−248/SV40細胞系のものはcRM33及びcRM76間の約270kb断片に、Ad−263/SV40細胞系のものはcRM98及びcRM103間の約1Mb断片に、Ad−302/SV40細胞系のものはcRM33及びcRM36間の約240kb断片に、Ad−386/SV40細胞系のものはcRM98及びcRM133間の約100kb断片にあった。結論として、これらの結果は、殆ど(7種中5種)の細胞系の12番染色体切断点が、cRM33及びcRM98間の12番染色体長腕上の445kbゲノム領域に亘って分散していることを示した。ここで、正確にこの領域が最近原発性子宮平滑筋腫由来細胞系における染色体12q切断点を含むことが示され(図3参照)、したがってULCR12と命名されたこと(シェーンメーカーズら、1994年b)に注意することが重要である。この12番染色体長腕断片は少なくとも2種の型の充実性腫瘍に関係し(シェーンメーカーズら、1994年b;本研究)、また、下に示すように、第3の充実性腫瘍型に関係しているため、我々は、以下cRM36及びcRM103間のDNA区間をMAR(多重異常領域)と称する。
【0150】
原発性多形態性唾液腺腫における12q切断点のFISHマッピング
以上に提示した唾液腺の多形態性腺腫中期染色体に関する我々のFISH研究は、原発性腫瘍由来の細胞系に限定されていた。細胞系における12番染色体切断点が、対応する原発性腫瘍のものと、たとえ同一でないとしても類似はしていると仮定することが合理的ではあるが、細胞系の樹立またはその後の培養の結果相違が出ることは完全には除外できない。したがって、我々は、3種の原発性唾液腺腫における12番染色体切断点もMARにマッピングされるか否かについて研究した。この可能性を試験するため、分子プローブとしてコスミドクローンcRM33及びcRM103の組み合わせを使用した。3つの場合すべてにおいて、このコスミドプールは12番染色体切断点に広がったが(データは記載せず)、これはこれらの切断点が実際にMARに局在することを示す。最近の研究(バンシュラら、投稿中)において、12q14−15異常をもつ5種の原発性子宮平滑筋腫の12番染色体切断点が、すべて原発性子宮平滑筋腫由来の種々の細胞系の切断点を含むことが知られている1.5MbDNA断片内のクラスターに見出されることが報告された(図3に概略を示す)。細胞系を使用した切断点マッピング研究の結果と一致して、2種の原発性充実性腫瘍型で得た結果から、原発性腫瘍細胞の切断点がMARに位置することが確認された。
【0151】
脂肪腫染色体断片12q13−q15切断点のMAR内マッピング
12q13−q15異常をもつ他の充実性腫瘍の12番染色体切断点もまたMAR内に位置する可能性を試験するため、我々は、2種の脂肪腫細胞系−−−Li−14/SV40およびLi538/SV40についてFISH分析により実験した。これら2種の12番染色体異常を表1に示す。分子プローブとして、コスミドクローンcRM33、cRM53、cRM72、cRM76、cRM99、cRM103、及びcRM133を使用した。図3に略図を示すように、Li−14/SV40の切断点は、RM76及びRM133間の75kbDNA区間にマッピングされ、Li538/SV40のそれは、RM76及びRM99間の90kbp区間にマッピングされた(データは記載せず)。分子プローブとしてcRM36及びcRM103を用いて行った2種の原発性脂肪腫のFISH分析は、ハイブリダイゼーションパターンをもたらしたが、これはプローブ混合物が切断点の両側の配列を検出したことを示す。これらの結果は、脂肪腫においても、MAR内に位置する染色体12q13−q15切断点が存在することの最初の徴候である。この観察に関する適当な説明を可能にするためには、さらに脂肪腫の事例について試験する必要がある。
【0152】
検討
我々は、この研究において、3種の原発性多形態性唾液腺腫及びこの腫瘍から由来した7種の樹立細胞系における12番染色体の切断点をマッピングした。すべての切断点は、先に分子クローニングし確認された、約1.7Mbの大きさの、12番染色体の長腕上の染色体DNA断片内に位置するようであり、そのうち5種は、500kb未満のDNA区間に密集していた。1.7MbDNA領域は、明らかにこの型の腫瘍の大きな切断点クラスター領域を含んでいた。我々は、先の研究において、多形態性唾液腺腫細胞系Ad−312/SV40における12番染色体切断点の確認を報告した(クールズら、1995年)。この細胞系の切断点は、現在ここに報告された大きな切断点クラスターから遠位に2Mbより大きな距離に位置することが知られている。Ad−312/SV40切断点が、群がった切断点の影響を受けたもの以外の病原的に関係がある遺伝子配列を含む可能性がある。しかし、B細胞悪性腫瘍における11q13切断点が想起されるように(レイノードら、1993年)、今までマッピングされた多形態性唾液腺腫における12q13−q15切断点のすべてが同じカテゴリーに属し、この染色体の比較的大きなDNA領域に亘って分散する可能性もまだ排除されるべきでない。種々の切断点に関するさらに精細な指摘により、これに対してさらに光を注ぐことができるであろう。
【0153】
多形態性唾液腺腫の群がった12q切断点を含むDNA断片が、最近ULCR12として知られる(シェーンメーカーズら、1994年b)12番染色体切断点の子宮平滑筋種クラスター領域として定義されたDNA領域と一致するとの観察結果は重要である。この12番染色体領域が、原発性脂肪腫及び12q13−q15異常をもつ原発性腫瘍に由来する脂肪腫細胞系の切断点をも含むことにはさらに興味がある。全体として、すべてのこれらの研究の結果は、ここに、3種の明確な充実性腫瘍型における12番染色体切断点が同じ12番染色体長腕上の1.7Mbゲノム領域に位置することを明らかに示すが、これは、この領域が多重異常領域であることを確認するものである。この特徴を反映するため、我々は、このDNA断片をMARと命名した。
【0154】
染色体領域12q13−15が関係する遺伝子異常は、既述の3種以外の種々の充実性腫瘍における細胞遺伝学的研究に関係がある。12q13−q15の関係は、子宮内膜ポリープ(ウオルターら、1989年;バニら、1993年)、再発性t(12;22)(q13;q13)を特徴とする明細胞肉腫(フレッチャー、1992年;リーブスら、1992年;ロドリゲスら、1992年)、横紋筋肉腫亜群(ロバーツら、1992年)および血管外皮腫(マンダールら、1993年b)軟骨腫様腫瘍(マンダールら、1989年;ブリッジら、1992年;ヒラバヤシら、1992年;マンダールら、1993年b)、及び肺過誤腫(ダル・チンら、1993年)についても報告された。最後に、染色体領域12q13−q15が関与する充実性腫瘍の若干の事例の報告が発表された−−−例えば、乳腫瘍(バードサルら、1992年;ローエンら、1993年)、散在性星状細胞腫(ジェンキンスら、1989年)、及び骨巨細胞腫(ノゲラら、1989年)。細胞遺伝学的研究の結果に基づいても、これらの腫瘍型の相対的切断点分布に関して全く予言はできない。本研究の結果に照らすと、これらの充実性腫瘍の何れかにおける切断点がMAR内または近傍に位置するか否かを知ることには興味があるであろう。入手できる種々のコスミドクローンが今これを容易に試験する手段を提供する。
【0155】
少なくとも3種の異なる型の充実性腫瘍における12q切断点が同じDNA領域に位置するという観察結果は、それが、MAR内の同じ遺伝子配列が種々の組織における腫瘍の発生に病因的に関係する可能性を指向し得るため、興味がそそられる。もしそうならば、遺伝子異常を含む遺伝子(類)は成長の調節に関係するかも知れないということを考えることができる。他方、観察されたMAR内遺伝子異常の群がりは、単に、種々の充実性腫瘍で明らかになるこの領域内の遺伝子の不安定性を反映しているという理由から、MARの遺伝子配列が病因的に関係しない可能性もまだ除外することができない。これに対するより多くの洞察を得るためには、MAR内に存在する遺伝子を同定確認することが必要であり、これは若干の技術を用いた種々の方法で達成することができる(パリッシュ及びネルソン、1993年)。
【0156】
謝辞
常務取締役G.エベラーッの組織上の支持に感謝する。著者は、本報で研究した充実性腫瘍の検体提供について、P.ダル・チン、J.ハウプリッヒ、R.ヒル、G.ステンマン及びI.ド・ウエーバーに対し;優れた技術的補助につきC.ハイスマンス、E.マイアン、K.マイアーボルト、R.モルス及びM.ウイレムスに対し;図版につきM.レイスに対し感謝する。本研究は、ドイチェ・フォルシュングスミッテルシャフト及びテンイェス−ファクト・スティフトゥンクのバイオメド1プログラム「モレキュラー・サイトジェネティックス・オブ・ソリッド・テュマー」、「ヘコンセルテールデ・オンデルゼカクティース1992−1996」、ザ・ナショナル・ファンド・フォー・サイエンティフィック・リサーチ(NFWO;コム・オプ・テーヘン・カンカー)、「ALSK−プログラマ・フォール・カンケロンデルゼク」、「シュベルプンクトプログラム:モレクラーレ・ウント・クラシッシェ・テュモルチトゲンエティク」を通してECにより一部支援された。本書は、ベルジアン・ステート、プライム・ミニスターズ・オフィス、サイエンス・ポリシー・プログラミングにより提出されたベルジアン・プログラム・オン・インターユニバーシティ・ポールズ・オブ・アトラクションの結果を提示するものである。科学的信頼性は著者が責任を負う。J.W.M.ゲーツはザ・ナショナル・ファンド・フォー・サイエンティフィック・リサーチ(NFWO;コム・オプ・テーヘン・カンカー)の「アスピラント」である。
【0157】
文献

【0158】

【0159】

【0160】

【0161】

【0162】

【0163】
付属文書1の図の説明
図1.この研究で試験した7種の多形態性唾液腺腫細胞系について得られたFISHマッピングデータの略図。FISHマッピング研究でプローブとして用いたコスミドクローンは、重複YACクローンで得られた配列標識部位に位置する。これらは、枠内に示すように、STSの頭文字にしたがって命名され、その相対的順位は図示のようである。RM69とRM72間のDNA区間は約2.8Mbと推定される。実線は、種々の細胞系の切断点が位置するDNA区間を示す。点線は、分子プローブとして上記のSTSに対応するコスミドクローンを用いて種々の細胞系の中期染色体に実施したFISH実験を示す。MAR及びULCR12の相対的位置は図の下部に示す。Ad:多形態性唾液腺腫、MAR:多重異常領域、ULCR12:12番染色体切断点の子宮平滑筋腫クラスター領域。
【0164】
図2.a:der(8)、der(12)、der(18)及び対応する正常染色体を示すAd−295/SV40の部分的核型。b:分子プローブとしてコスミドクローンcRM76のDNAを用いたAd−295/SV40細胞中期染色体のFISH分析。12番正常染色体(矢印)及びder(12)(矢頭)のハイブリダイゼーションシグナル。c:bに示したAd−295/SV40中期染色体のGTG−バンド形成パターン。d:分子プローブとしてコスミドクローンcRM103のDNAを用いたAd−295/SV40細胞中期染色体のFISH分析。12番正常染色体(矢印)及びder(18)(矢頭)のハイブリダイゼーションシグナル。
【0165】
図3.原発性多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫及び脂肪腫並びにこれら充実性腫瘍に由来する細胞系について得られた12番染色体マッピングデータの略図。結果は、原発性子宮平滑筋腫(バンシュラら、投稿中)及びこれらの腫瘍由来の細胞系(シェーンメーカーら、1994年b)に対するデーダと比較して示す。FISHマッピング研究に用いたコスミドクローンは重複YACクローンから得られた配列標識部位に対応する。コスミドクローンは、枠内に示すように、STSの頭文字にしたがって命名され、その相対的順位は図示のようである。STS間のDNA区間の推定サイズは図に示す。Ad:多形態性唾液腺腫、Li:脂肪腫、LM:子宮平滑筋腫。
【0166】
付属文書2

【0167】
要約:t(1;12)(p22;q15)をもつ原発性多形態性唾液腺腫由来の細胞系Ad−312/SV40を、蛍光系内ハイブリダイゼーション(FISH)で使用して、その12番染色体上の転座切断点を確認した。先の研究結果によると、Ad−312/SV40の12番染色体切断点は、D12S8座の近位でCHOP遺伝子の遠位に位置している。ここでは、我々は、我々がD12S8及びCHOPを出発点とする染色体歩行プロジェクトに関係して分離した2種の部分的重複酵母人工染色体(YAC)クローンY4854(500kbp)及びY9091(460kbp)を報告する。ついで、我々は、これらYACクローンの挿入物内に位置する種々の配列標識部位(STS類)に対応するコスミドクローンを分離した。これらは、cRM51、cRM69、cRM85、cRM90、cRM91、cRM110、およびcRM111を含むものであった。
我々は、これら2種のYACクローンの挿入物を包含する複合長距離制限地図を提示し、FISH分析により、両YACがAd−312/SV40細胞に存在する12番染色体切断点にまたがることを示す。FISH研究では、コスミドクローンcRM85、cRM90及びcRM111は12番染色体切断点の遠位に位置すると思われたが、他方コスミドクローンcRM51、cRM69、cRM91及びcRM110はその近位に位置することが見出された。これらの結果から、Ad−312/SV40の12番染色体切断点は165kbpより小さいDNA領域に帰属される。他の5種の多形態性唾液腺腫細胞系12番染色体切断点のFISH分析の評価は、これらがSTS RM91から0.9Mbより大きな距離でAd−312/SV40のものの近位に位置することを示した。これらの結果は、12番染色体上の重要と思われる領域を指向するものであるが、また他の場所に位置する染色体12q13−q15配列が関与する可能性に関する証拠をも提供するものである。
【0168】
緒論
多形態性唾液腺腫は、大及び小唾液腺から由来する良性上皮性腫瘍の構成要素である。これは最も一般的な型の唾液腺腫であり、この器官の全新生物中のほぼ50%を説明する。腫瘍の約85%は耳下腺に見られ、10%は小唾液腺に、5%は顎下腺に見られる[1]。これらアデノームの約50%は正常な核型をもつようであるが、細胞遺伝学的研究は、頻発する特異的染色体異常を明らかにした[2,3]。頻繁に見られる異常は、通常8q12−q13領域が関係する8番染色体の異常、最も一般的な異常であるt(3;8)(p21;q12)及び通常12q13−q15が関係する転座である12番染色体の異常を含む。非頻発性のクローン性染色体異常も報告されている。一貫して8q12−q13及び12q13−q15切断点をもつ染色体再編成の高度に特異的なパターンは、この染色体領域が、これらの腫瘍の発生と関係を持つ可能性がある遺伝子類を宿していることを示唆する。染色体切断点の分子クローニング及び接合フラグメントの確認は、病原的に関係がある遺伝子類の同定に通ずる可能性がある。現在、これらの腫瘍に関してこのような分子データはまだ報告されていない。
蛍光系内ハイブリダイゼーション(FISH)データに基づいて、最近、6種の多形態性唾液腺腫細胞系の12番染色体切断点が、12q13−q15領域、さらに詳細にはD12S19とD12S8間のゲノム区間にマッピングされることが示された[4,5]。このゲノムDNA区間の性平均遺伝子サイズは、HGM10において7cMであると報告された[6]。また我々は、多形態性唾液腺腫の12番染色体切断点がCHOP遺伝子の遠位に位置すると報告したが、これは、唾液腺腫の12q13−q15転座切断点が粘液腫様脂肪肉腫のそれと異なることを示す以前の研究を支持する[7]。本報では、我々は、唯一の細胞遺伝学的異常としてt(1;12)(p22;q15)を有する多形態性唾液腺腫細胞系Ad−312/SV40における12番染色体切断点の物理的マッピングについて報告する。
【0169】
材料及び方法
腫瘍細胞系
この研究に用いたヒト腫瘍細胞系は、既報の多形態性唾液腺腫細胞系Ad−248/SV40、Ad−263/SV40、Ad−295/SV40、Ad−302/SV40、Ad−312/SV40、及びAd−366/SV40[5,8]を含んでいる。細胞は20%ウシ胎児血清を補充したアール塩含有TC199培地中で増殖させた。この研究に用いたその他の細胞系としては、ハムスターの遺伝背景中に唯一のヒト染色体として12番染色体を含む体細胞雑種PK89−12[9]及び体細胞雑種LIS−3/SVB40/A9−B4[4]を含んでいる。後者の細胞系は、特異的t(12;16)(q13;p11.2)を有する粘液腫様脂肪肉腫細胞系LIS−3/SV40とマウスA9細胞の融合で得られた。この体細胞雑種は、先にder(16)を含むことが示されているが、der(12)も正常な12番染色体も含まない[4]。PK89−12及びLIS−3/SVB40/A9−B4細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したDMA−F12培地で増殖させた。細胞系は、標準的細胞遺伝学的技術により規則的な間隔をおいて分析した。
【0170】
YAC及びコスミドクローンの分離
我々は、詳細を他の場所で報告する(シェーンメーカーズら、準備中)ヒトゲノムマッピング研究に関連して、第1世代CEPH YACライブラリー[10]からYACクローンY4854及びY9091を分離し、12番染色体特異配列コスミドライブラリーLINLNC01[11]からコスミドクローンcRM51、cRM69、cRM85、cRM90、cRM91、cRM103、cRM110、及びcRM111を分離した。YAC及びコスミドクローンは、既報のように分離した[5]。YAC及びコスミドライブラリーの最初のスクリーニングは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含むスクリーニング法[12]を用いて実施した。最終スクリーニング段階として、既報[5]のようにフィルターハイブリダイゼーション分析を使用した。コスミドクローンはSTS類を用いて分離し、YACクローンY4854及びY9091の挿入物内のSTS類に対応するものは、図1に示す。STS類は、ベクトレットPCR[13]またはAlu−PCR[14,15]を用いてYAC挿入物末端の回収後に得た。PCR産物は、直接固相蛍光配列決定法により配列決定した。コスミドクローンは標準的方法[16]により増殖させ処理した。YACクローンは、既報[5]のように、パルスフィールドゲル電気泳動[17]、制限地図作製及びハイブリダイゼーションにより確認した。
【0171】
染色体調製及び蛍光系内ハイブリダイゼーション
多形態性唾液腺腫腫瘍細胞系は、コルセミド(0.04μg/ml)で30分間処理し、次いで常法により採取した。腫瘍細胞の中期塗抹は、既報[4]のように調製した。FISH実験における染色体の同一性を確認するため、同じ中期塗抹のGバンド形成後にFISH分析を行った。Gバンド形成は、基本的にシュミットら[18]が報告したように実施した。系内ハイブリダイゼーションは、キービッツら[19]が報告したプロトコールに従い若干の小修正を施して[5,20]行った。コスミド及びYACのDNAは、先に報告したように[5]ビオチン−11−dUTP(ベーリンガーマンハイム)またはビオチン−14−ATP(BRL、ゲザースバーグ)で標識した。染色体は、よう化プロピディウムで対比染色後、FITCフィルター(ツァイス)を用いてツァイスアクシオフォト蛍光顕微鏡で分析した。結果は、スコッチ(3M)のASA640フィルムに記録した。
【0172】
結果
多形態性唾液腺腫細胞系Ad−312/SV40における12番染色体切断点にまたがるYACクローンの分離と確認
我々は、先の研究[5]において、D12S8座の近位でCHOPの遠位にある6種の多形態性唾液腺腫細胞系12番染色体切断点をマッピングした。これらの座間のDNA区間は7cMより若干小さかったが(D12S8とD12S19座間の推定距離[6])、それでも本質的に大きかった。Ad−312/SV40の転座切断点を分子的に明確にするため、我々は、D12S8座とCHOP遺伝子間のDNA区間についてヒトゲノムマッピング実験を行った。D12S8とCHOP遺伝子から出発する直接染色体歩行法において、我々は、重複YACクローンY9091及びY4854を得た。Y9091のDNA挿入物は460kbpであり、Y4854のそれは500kbpであると思われた。さらに、下に示すように、YACクローンのDNA挿入物は、Ad−312/SV40の12番染色体切断点にまたがるようであった。これらYACクローン類の挿入物の長距離制限地図を、パルスフィールドゲル電気泳動とハイブリダイゼーション分析を用いて作成した(図1)。STS含量マッピング及びサザンブロット分析に基づくと、YACクローンY9091及びY4854の挿入物は図1に示すように重複するようであった。試験したSTS類は、ここに記載しない他の重複YACクローンの末端配列またはAlu間PCRにより得られた配列に対応する。これらの中、RM90及びRM91はこのYAC Y9091末端STS類を表し、RM110及びRM111はAlu間PCR由来STS類を表す。YACクローンY4854とY9091挿入物内にマッピングする幾つかのSTS類について、対応コスミドをFISH分析に使用するために分離したが、その例は、cRM51、cRM69、cRM85、cRM90、cRM91、cRM110、及びcRM111である。
【0173】
2種の重複するYACクローンの挿入物は、以下の観察から推論されるように、全くキメラとは思われない。Y4854またはY9091を分子プローブとする正常ヒトリンパ球中期染色体のFISH分析は、染色体領域12q13−q15でのみハイブリダイゼーションシグナルを示した。Y9091については、これはさらにコスミドクローンcRM90またはcRM91をプローブとするFISH実験での観察により確認された。これら2種のコスミドそれぞれにおけるDNA挿入物は、もう一つのYACクローンY9091末端配列に対応する。最後に、ハムスター遺伝子背景中における唯一のヒト染色体としてヒト12番染色体を含むPK89−12、及び粘液腫様脂肪肉腫の特異的t(12;16)からのder(16)を含むがder(12)も正常12番染色体も含まないことが前に示されているLIS−3/SV40/A9−B4[4]に対するPCR分析で確認されたように、Y9091の末端配列STS類は、12番染色体上で、CHOP遺伝子の遠位に位置するようであった。染色体歩行実験から、我々は、2種のYACクローンの重複挿入物が、染色体12q上でD12S8とCHOP間に位置する約640kbpのDNA領域を表すと結論した。YAC整列群の640kbp複合体長距離制限地図は少なくとも全領域を2重にカバーして構成されているので、この点での微小欠失は排除できないけれども、640kbp領域が染色体DNAと連続すると仮定するのは合理的でない。
【0174】
染色体歩行は、常にYACクローン及び/またはYAC挿入物配列に対応するコスミドクローンのFISHマッピングにより調べた。染色体の同定については、殆どの場合G−バンド形成を使用したことに注意すべきである。このG−バンド形成に基づき、ハイブリダイゼーションシグナルが既知の存在としての染色体のものとして最終的に帰属決定された。これは、時に観察される交差及び背景ハイブリダイゼーションシグナルをもつ場合に重要である。時にFISH分析前のG−バンド形成が弱いハイブリダイゼーションシグナルまたは不明確なバンドパターンをもたらした。したがって、我々は、調べるべきYAC及びコスミドクローンを参照プローブと組み合わせて使用するFISH実験を行った。コスミドライブリーのスクリーニング中に幸運に得られたコスミドクローンcPK12qterを、参照マーカーとして選択した。正常リンパ球中期染色体のFISH分析(図2A)は、cPK12qterが12番染色体の長腕テロメア領域に位置することを明らかにした。この実験における12番染色体を同定するため、12番動原体特異的プローブpα12H8[21]を使用した。YACクローンY4854(図2B)またはY9091(図2C)を参照プローブcPK12qterと組み合わせて用いるAd−312/SV40細胞中期染色体のFISH分析は、何れの場合にも、der(1)及びder(12)上のYAC挿入物のハイブリダイゼーションシグナルを示した。これらの結果から、我々は、各YACクローンの挿入物DNAがこの細胞系の12番染色体切断点にまたがると結論した。Gバンド形成が、図2Cにおける12番染色体短腕が関与するテロメア会合を明らかにしたことに注意すべきである。YACクローンY9091がAd−312/SV40における12番染色体切断点にまたがるという観察結果が、コスミドクローンcRM90またはcRM91を分子プローブとするFISH実験で独立に確認された。それらは、別のY9091末端配列を含むことが示された。cRM90は、12番染色体切断点の遠位に位置するようであり、cRM91は近位に位置することがわかった(データは記載せず)。これらの結果から、また図1に示すYAC整列群の染色体上の配向をも確認した。要約すると、我々は、これらのFISH実験から、Ad−312/SV40の12番染色体転座切断点が2種のYACクローンの重複配列(約300kbp)に対応するDNA区間に位置すべきと結論した。
【0175】
Ad−312/SV40の12番染色体転座切断点の精細マッピング
Ad−312/SV40の12番染色体転座切断点をさらに狭める方法として、YACクローンY9091内に異なるマッピング位置をもつコスミドクローンを分離した。これらは、cRM69、cRM85、cRM110、及びcRM111を含む。cRM65及びcRM85は、ここに記載しないYACクローンのSTS配列に基づいて分離した。cRM110及びcRM111は、Alu間PCRを経て得られた。cRM110は、サザンブロット分析で、テロメア末端配列としてのRM69をもつ重複YACクローンのDNA挿入物ではなく、Y9091の末端MluI断片にハイブリダイズすることが示された。RM110の位置は図1に示すとおりである。RM111は、Y9091のBssHII、MluI、PvuI及びSfiI断片にハイブリダイズすることが示され、したがってSTSRM48もまた位置するY9091のPvuI−SfiI断片内に位置する(図1)。cRM69またはcRM110をプローブとするAd312/SV40中期染色体のFISH分析は、図3AでcRM69について示すように、これらコスミドのDNA挿入物がこの細胞系の12番染色体転座切断点の近位に位置することを示した。続いて行ったcRM85またはcRM111をプローブとするAd−312/SV40のFISH分析は、図3BでcRM111について示すように、転座切断点の遠位にハイブリダイゼーションシグナルを示した。cRM85及びcRM111による結果は、YACクローンY4854のテロメア末端をマークするSTS RM48の遠位にcRM85が位置し近くにcRM111が位置するので、YACクローンY4854により観察された切断点の広がりと一致している。結論として、Ad−312/SV40の12番染色体転座切断点は、図4に略示するように、cRM110とcRM111間のDNA区間に位置するはずである。
【0176】
その他の多形態性唾液腺腫細胞系における12番染色体切断点のFISH評価
Ad−312/SV40との関係で12番染色体切断点の位置を決定するため、図4に略示するように、5種の他の多形態性唾液腺腫細胞系をFISH分析により調べた。原発性腫瘍から開発した[5,8]これらの細胞系は、Ad−248/SV40、Ad−263/SV40、Ad−295/SV40、Ad−302/SV40およびAd−366/SV40を含むものであった。これらの細胞系の染色体異常を図4に示す。cRM91を用いたこれらの細胞系中期染色体のFISH分析は、これらの細胞系すべての12番染色体切断点がこのコスミドクローンの近位に位置することを示した(データは記載せず)。同様なFISH分析を、プローブとして配列標識部位RM103に対応するコスミドクローンを用いて行った。RM103は、RM91の近位に約0.9Mbpの距離で位置することがわかった。全ての場合に、cRM103は12番染色体転座切断点の遠位に位置するようであり、このことは、これら5種の多形態性唾液腺腫細胞系における12番染色体切断点が、Ad312/SV40のそれから比較的大きな距離で位置することを示す。
【0177】
検討
ここに提示する研究において、我々は、多形態性唾液腺腫細胞系Ad−312/SV40の転座切断点が位置すると思われる12番染色体長椀上の、分子クローンされ確認された染色体領域を同定した。先の研究[5]において、我々は、既にこの細胞系の12番染色体切断点がD12S8とCHOP間に位置することの証拠を提出した。ここに記載する2種の切断点に拡がるYACクローンは、最初の出発点としてD12S8及びCHOP遺伝子を用いる指向性染色体歩行実験で得られたので、ここに提出する12番染色体切断点マッピング結果は先に示した我々の主張を確認した。分子プローブとしてY9091の完全YAC挿入物を用いて得たFISH結果は、独立に、このYACクローンの挿入物の種々の領域に対応する配列を含むコスミドクローンを用いたFISH実験で確認された。独立の確認結果は、Y9091完全挿入物で見られる分裂シグナルが、YACに示される配列の実際の分裂以外のもので説明できる可能性を減らすので、このことは重要である。例えば、染色体切断点の両側にある関連性が高い遺伝子配列は、もしYAC挿入物のFISH結果のみに基づくならば容易に誤った結論に導くであろう。最後に、我々のマッピング実験はまた、この研究で我々が作り出した長距離制限地図の染色体配向を決定的に確認するものであった。この配向は、2色FISH実験(未公表の観察結果)に基づいて既に予想されていたものである。
【0178】
ここに記載するFISH実験により、我々は、Ad312−/SV40細胞における12番染色体切断点を、確認されているSTS RM48とRM69間の190kbpd区間にマッピングするのが可能になった。しかし、切断点領域は、以下に基づいてさらに若干狭めることができる。Y4854が切断点にまたがることが示されたということは、少なくともこのYACクローンのテロメア半片のかなりの部分が切断点の遠位に位置べきことを示している。精細に確認されていないことがまだ多く残存する。他方、STS RM69は、コスミドクローンcRM69DNA挿入物のほぼ中央に位置すると思われ、これは切断点がRM69のほぼ25kpb遠位にあることを示唆する。さらに、cRM69はRM110を欠くと思われ(データは記載せず)、cRM110はAd−312/SV40細胞の12番染色体切断点の近位に見られるので、切断点は先に述べた25kbpよりもさらにRM69の遠位にあるべきである。全体的に見て、このことは12番染色体切断点領域を、165kbpよりかなり小さくあるべきDNA区間に狭める。さらに、切断点へ鋭く指向することにより、我々が、12番染色体を分子クローニングし、病理学的に関係がある配列の同定を導く可能性がある切断点結合領域の遺伝子配列を確認することができた。配列決定、直接ハイブリダイゼーション、直接選択またはエクソントラッピングによるYACクローンY4854及びY9091DNA挿入物内遺伝子の同定は、多形態性唾液腺腫の腫瘍化に病理学的に必要である可能性があるこの12番染色体長腕領域内の遺伝子の同定のための別の有用な方法をなす可能性がある。
【0179】
他の多形態性唾液腺腫における12番染色体切断点が、12番染色体長腕上の、離れた、より近位の領域に位置するという観察には、興味がそそられる。これは、多形態性唾液腺腫における12番染色体切断点が、B細胞悪性腫瘍における11q13切断点[22]を思わせるような、12番染色体長腕の比較的大きなDNA領域に亘って分散することを示唆する可能性がある。他の多形態性唾液腺腫細胞系における12番染色体切断点の精細な解明がこの問題にさらに光を注ぐ可能性がある。他方、それは、重要であるかも知れない、おそらく多形態性唾液腺腫の成長調節のような、12番染色体長腕上の別の配列を指向する可能性がある。ここに記載する12番染色体切断点領域が今までAd−312細胞系でしか見つかっていないということは、染色体の12q13−q15異常をもつ多数の唾液腺腫を分析して、研究した細胞系に対する12番染色体配列の影響が腫瘍形成と関連性をもつ可能性を検討する必要を生じさせるものである。もしこの12番染色体の特定領域の異常が多くの事例に見つかるならば、これらの腫瘍が臨床的に亜群を形成するかどうかを知ることに興味がそそられる。最後に、ヒト12番染色体のq13−q15領域が関係する染色体転座は他の種々の充実性腫瘍:良性脂肪組織腫、子宮平滑筋腫、横紋筋肉腫、血管外皮腫、明細胞肉腫、軟骨腫様腫瘍及び肺過誤腫について報告されている。これらの腫瘍の幾つかにおいて12番染色体切断点がAd−312/SV40のそれと同一領域内に位置するか否かについてはまだ確認されていない。本報告に記載したYAC及びコスミドクローンはこれを研究するための有用な手段を構成する。
【0180】
第1世代CEPH YACライブラリー[10]の複製及び配置12番染色体特異的コスミドライブラリー(LINL12NC01)[11]の複写の入手につき深く感謝する。コスミドライブラリーは、契約番号W−7405−Eng−48のアメリカエネルギー省LLNLの援助下のナショナル・ラボラトリー・ジーン・ライブラリー・プロジェクトの一部として構築された。著者は、優れた技術的補助につきM.ドヘイン、C.ハイスマンス、E.マイアン、K.マイアーボルト及びM.ウイレムスに対し感謝し、図版につきM.レイスに対し感謝する。本研究は、ドイチェ・フォルシュングスミッテルシャフト及びテンイェス−ファクト・スティフトゥンクのバイオメド1プログラム「モレキュラー・サイトジェネティックス・オブ・ソリッド・テュマー」、「ヘコンセルテールデ・オンデルゼカクティース1992−1996」、ザ・ナショナル・ファンド・フォー・サイエンティフィック・リサーチ(NFWO;コム・オプ・テーヘン・カンカー)、「ALSK−プログラマ・フォール・カンケロンデルゼク」、「シュベルプンクトプログラム:モレクラーレ・ウント・クラシッシェ・テュモルチトゲンエティク」を通してECにより一部支援された。本書は、ベルジアン・ステート、プライム・ミニスターズ・オフィス、サイエンス・ポリシー・プログラミングにより提出されたベルジアン・プログラム・オン・インターユニバーシティ・ポールズ・オブ・アトラクションの結果を提示するものである。科学的信頼性は著者が責任を負う。J.W.M.ゲーツはザ・ナショナル・ファンド・フォー・サイエンティフィック・リサーチ(NFWO;コム・オブ・テーヘン・カンカー)の「アスピラント」である。
【0181】
文献

【0182】

【0183】

【0184】

【0185】
付属文書2の図の説明
図1.YACクローンY4854及びY9091の重複DNA挿入物の複合物理的地図。YACクローンの相対的位置は、長距離物理的地図の下の横線により示す。ここに記載しないYACを含めたYAC類の末端クローンに対応する配列標識部位(STS類)は、制限地図上のに枠内RMコードにより示す。Alu間PCR産物から得られたSTS類は制限地図の下に示し、そのマッピングに対するDNA領域は矢印で示す。B:BssHII;M:MluI;P:PvuI;Sf:SfiI。
【0186】
図2.A)12番染色体長腕テロメア領域に対するコスミドクローンcPK12qterのマッピング。12番動原体特異的プローブpα12H8を、12番染色体の同定確認に使用した。対照ヒトリンパ球の中期染色体についてFISH分析を実施した。cPK112qterのハイブリダイゼーションシグナルは小矢頭で示し、12番動原体特異的プローブに対するそれはアステリスクで示す。B),C)YACクローンY4854(B)またはY9091(C)のDNAを分子プローブとし参照マーカーとしてコスミドクローンcPK12qterを組み合わせて用いるAd−312/SV40細胞中期染色体のFISH分析。12番染色体上のYACクローンのハイブリダイゼーションシグナルは大矢頭で示し、der(1)上のものは大矢印で、der(12)上のものは小矢印でそれぞれ示す。コスミドクローンcPK12qterのハイブリダイゼーションシグナルは小矢頭で示す。
【0187】
図3.コスミドクローン。RM69(A)またはcRM111(B)を分子プローブとし参照マーカーとしてコスミドクローンcPK12qterを組み合わせて用いるAd−312/SV40細胞中期染色体のFISH分析。cPK12qterのハイブリダイゼーションシグナル位置は小矢頭で示す。(A)において、正常12番染色体上のcRM69のハイブリダイゼーションシグナル位置は大矢頭で、der(12)のものは小矢印で示す。(B)において、正常12番染色体上のcRM111のハイブリダイゼーションシグナル位置は大矢頭で、der(1)のものは大矢印で示す。
【0188】
図4.この研究で試験した6腫の多形態性唾液腺腫細胞系で得たFISHマッピングデータの略図。種々の細胞系における特異的12番染色体異常を示す。FISHマッピング実験でプローブとして用いたコスミドクローンは重複YACクローンから得た配列標識部位に対応する。個々のFISH実験は点で示す。コスミドクローンは、枠内に示すように、STSの頭文字により命名し、これらの相対的順位を提示した。RM90とRM103間のDNA区間は約1.3Mbと推定される。挿入図:t(1;12)(p22;q15)を有するAd−312/SV40細胞系のGバンド形成性誘導染色体der(1)及びder(12)の略図。Ad−248/SV40、Ad−263/SV40、Ad−295/SV40、Ad−302/SV40およびAd−366/SV40の12番染色体切断点の位置は矢印で示すようにRM103の遠位である。
【0189】
付属文書1図1

【0190】
付属文書1図2

【0191】
付属文書1図3

【0192】
付属文書2図1

【0193】
付属文書2図2

【0194】
付属文書2図3

【0195】
付属文書2図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速移動群タンパク質遺伝子またはLIMタンパク質遺伝子(これらの修飾体を含む)の成員の一つの鎖の一つのヌクレオチド配列を有する多重腫瘍異常生長(MAG)遺伝子。
【請求項2】
図7に示されたHMGI−C遺伝子のヌクレオチド配列またはその相補的鎖(両鎖の修飾体または伸長体を含む)を基本的に有する、請求項1の多重腫瘍異常生長因子。
【請求項3】
図5に示されたLPP遺伝子のヌクレオチド配列またはその相補的鎖(両鎖の修飾体または伸長体を含む)を基本的に有する、請求項1の多重腫瘍異常生長因子。
【請求項4】
ヒトまたは動物における非生理的増殖現象の処置のための適切な発現調節の化合物または技術を設計するための開始点として使用する、請求項1または3の多重腫瘍異常生長因子。
【請求項5】
非生理的増殖能を有する細胞を野生型細胞と比較して(臨床的に/医学的に)診断するための適切なヌクレオチド・プローブを設計するための開始点として使用する、請求項1または3の多重腫瘍異常生長因子。
【請求項6】
非生理的増殖能を有する細胞を野生型細胞と比較して(臨床的に/医学的に)診断するための適切な抗体を製造するための開始点として使用する、請求項1または3の多重腫瘍異常生長因子。
【請求項7】
MAG遺伝子の誘導体がセンスおよびアンチセンスcDNAまたはそのフラグメント、該遺伝子の転写物またはその実際に用い得るフラグメント、アンチセンスRNA、該遺伝子のフラグメントまたはその相補的鎖、該遺伝子よりコードされたタンパク質またはそのフラグメント、該遺伝子、該cDNA、該転写物、該タンパク質またはそれらのフラグメントに対する抗体および抗体フラグメントからなる群より選ばれ、診断および治療的組成物の調製に使用される、請求項1または3のMAG遺伝子の、またはその直接の近隣の誘導体。
【請求項8】
下記の段階
a)請求項1または3のMAG遺伝子のヌクレオチド配列から得られる情報に基づく1セットのヌクレオチド・プローブを設計する(該プローブの一つは、野生型遺伝子の対応領域として、同じ座に実質的に位置する異常遺伝子の領域にハイブリダイズ可能であり、他のプローブは、野生型遺伝子の対応領域より異なる座に位置する異常遺伝子の領域にハイブリダイズ可能である)段階、
b)非生理的増殖能を有する1以上の中間層または間層染色体または細胞をプローブと共にハイブリダイズ条件でインキュベートする段階、
c)プローブと遺伝子とのハイブリダイゼイションを可視化する段階、
の少なくともいくつかを含む、非生理的増殖能を有する細胞を診断するためのインサイトゥ診断法。
【請求項9】
下記の段階
a)診断すべき細胞の生検を採取する段階、
b)前記生検より適当なMAG遺伝子関連マクロ分子を単離する段階、
c)前記得られたマクロ分子を望ましくは同じ個体からの野生型参考分子と比較することにより分析する段階、
の少なくともいくつかを含む、非生理的増殖能を有する細胞を診断する方法。
【請求項10】
下記の段階
a)診断すべき細胞の生検を採取する段階、
b)前記生検の全RNAを抽出する段階、
c)全RNA抽出物中のmRNA種の少なくとも一つの第一鎖cDNA(cDNAは適当なティルを有する)を調製する段階、
d)MAG遺伝子特異cDNAを増幅するために、MAG遺伝子特異プライマーおよびティル−特異および/または相手特異/整列プライマーを用いてPCRおよび/またはRT−PCRを行う段階、
e)バンドのパターンを得るために、ゲル上でPCR産物を分離する段階、
f)異常バンドの存在を、望ましくは同じ個体からの野生型バンドとの比較により調べる段階、
の少なくともいくつかを含む、請求項9の方法。
【請求項11】
下記の段階
a)診断すべき細胞の生検を採取する段階、
b)前記生検から全タンパク質を単離する段階、
c)基本的に個々のバンドを得るためにゲル上で全タンパク質を分離し、そして任意でバンドをウエスタン・ブロットに移行する段階、
d)前記得られたバンドを、MAG遺伝子の残り部分によりコードされるタンパク質の部分に対する、およびMAG遺伝子の置換部分によりコードされたタンパク質の部分に対する抗体と共にハイブリダイズする段階、
e)抗原−抗体反応を可視化し、望ましくは同じ個体の野生型タンパク質のバンドと比較して、異常バンドの存在を確認する段階、
の少なくともいくつかを含む、請求項9の方法。
【請求項12】
下記の段階
a)診断すべき細胞の生検を採取する段階、
b)前記生検から全DNAを単離する段階、
c)前記DNAを1以上のいわゆる“希切断”制限酵素で消化する段階、
d)分離パターンを得るために、前記調製した消化物を分離する段階、
e)任意で分離パターンをサザンブロットに移行する段階、
f)ゲル中またはブロット上の分離パターンを1以上の情報プローブと共にハイブリダイズ条件でハイブリダイズする段階、
g)ハイブリダイゼンションを可視化し、望ましくは同じ個体からの野生型タンパク質のバンドとの比較で異常バンドの存在を確認する段階、
の少なくともいくつかを含む、請求項9の方法。
【請求項13】
下記の段階
a)診断すべき細胞の生検を採取する段階、
b)前記生検からmRNAを抽出する段階、
c)MAG遺伝子から誘導されるmRNAの存在または(比較の)量を確認する段階、
d)段階c)の結果を望ましくは同じ個体からの野生細胞での同様の実験結果と比較する段階、
の少なくともいくつかを含む、請求項9の方法。
【請求項14】
非生理的増殖能を有する細胞が、間葉腫瘍過誤腫(例えば乳房および肺)、脂肪性組織腫瘍(例えば脂肪腫)、多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫、血管筋腫、胸部線維腺腫、子宮内膜のポリープ、動脈硬化性プラークおよび他の良性腫瘍、さらに肉腫(例えば横紋筋肉腫、骨肉腫)および癌腫(例えば乳房、肺、皮膚、甲状線の)などの種々の悪性腫瘍、さらに白血病およびリンパ腫のような血液学的悪性腫瘍からなる群より選択される、請求項8−13のいずれかの方法。
【請求項15】
非生理的増殖能を有する細胞が関与する疾患を該遺伝子の発現を調節することにより処置するのに用いる、請求項1または3のMAG遺伝子のアンチセンス分子。
【請求項16】
非生理的増殖能を有する細胞が関与する疾患の処置に用いる、請求項1または3のMAG遺伝子の阻害剤または促進剤(リボチームを含む)などの発現調節剤。
【請求項17】
非生理的増殖能を有する細胞が関与する疾患の処置に用いる、請求項1または3のMAG遺伝子のmRNA分子に相補的なアンチセンスRNA分子および/またはMAG遺伝子の遺伝子産物に対する抗体。
【請求項18】
標識ヌクレオチド・プローブの適当なセットを含む、請求項8の方法を実施するための診断キット。
【請求項19】
標識ヌクレオチド・プローブの適当なセットを含む、請求項10の方法を実施するための診断キット。
【請求項20】
標識MAG遺伝子特異的およびティル特異的PCRプライマーの適当なセットを含む、請求項11の方法を実施するための診断キット。
【請求項21】
標識プローブの適当なセットおよび適当な希切断制限酵素を含む、請求項11の方法を実施するための診断キット。
【請求項22】
請求項7の誘導体を1以上および/または請求項16の発現調節剤を1以上含む、非生理的増殖能を有する細胞におけるMAG遺伝子発現レベルを低下せしめるための医薬組成物。
【請求項23】
非生理的増殖能を有する細胞が、間葉腫瘍過誤腫(例えば乳房および肺)、脂肪性組織腫瘍(例えば脂肪腫)、多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫、血管筋腫、胸部線維腺腫、子宮内膜のポリープ、動脈硬化性プラークおよび他の良性腫瘍、さらに肉腫(例えば横紋筋肉腫、骨肉腫)および癌腫(例えば乳房、肺、皮膚、甲状線の)などの種々の悪性腫瘍、さらに白血病およびリンパ腫のような血液学的悪性腫瘍からなる群より選択される、請求項22の医薬組成物。
【請求項24】
非生理的増殖能を有する細胞に関連する疾患または障害の診断または処置のための診断キットまたは医薬組成物の製造のための請求項7の誘導体の使用方法。
【請求項25】
非生理的増殖能を有する細胞に関連する疾患または障害の診断または処置のための診断キットまたは医薬組成物の製造のための請求項16の発現調節剤の使用方法。
【請求項26】
非生理的増殖能を有する細胞が、間葉腫瘍過誤腫(例えば乳房および肺)、脂肪性組織腫瘍(例えば脂肪腫)、多形態性唾液腺腫、子宮平滑筋腫、血管筋腫、胸部線維腺腫、子宮内膜のポリープ、動脈硬化性プラークおよび他の良性腫瘍、さらに肉腫(例えば横紋筋肉腫、骨肉腫)および癌腫(例えば乳房、肺、皮膚、甲状線の)などの種々の悪性腫瘍、さらに白血病およびリンパ腫のような血液学的悪性腫瘍からなる群より選択される、請求項24および25の使用方法。
【請求項27】
分子トゥール(プローブ、プライマーなど)を設計するためのMAGタンパク質の少なくとも一部分を用いて腫瘍細胞における融合遺伝子、融合転写物または融合タンパク質の存在に基づく他のMAG遺伝子を単離するための方法。
【請求項28】
請求項27の方法により得られるMAG遺伝子。
【請求項29】
診断的または治療的方法に使用するための請求項28のMAG遺伝子。
【請求項30】
動物がそのゲノムにMAG遺伝子を所有する形質転換動物である、非生理的増殖能を有する細胞に関連する疾患または障害の処置における化合物または組成物の有用性検定のための動物モデル。
【請求項31】
MAG遺伝子が、遺伝子の残り部分およびその転座相手の置換部分の融合産物などの異常MAG遺伝子である、請求項30の動物モデル。
【請求項32】
MAG遺伝子が非生理的発現レベルを示す、請求項30の動物モデル。
【請求項33】
動物がその細胞の、少なくとも部分のゲノムにおいて請求項1または3のMAG遺伝子に影響を及ぼす特異的遺伝子異常を所有し、その異常が胚胎幹細胞における相同組換えを経由して誘導される、非生理的増殖能を有する細胞に関連する疾患または障害の処置における化合物または組成物の有用性検定のための動物モデル。
【請求項34】
動物が哺乳動物、特にマウス、ラット、イヌ、ブタまたはチンパンジーのような高等霊長動物である、請求項30−33のいずれかの動物モデル。
【請求項35】
詳細な説明および図面に開示したポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド・プローブおよびプライマー。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−254378(P2009−254378A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173847(P2009−173847)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【分割の表示】特願2007−290671(P2007−290671)の分割
【原出願日】平成8年2月19日(1996.2.19)
【出願人】(506291911)
【Fターム(参考)】