説明

多関節ロボット

【課題】アクチュエータ間の配線の絡みを防止することで電気配線の設置の好適化を図り、その上でしかも多関節ロボットの小型化を実現する。
【解決手段】関節アクチュエータ10は、モータモジュール11と、このモータモジュール11に組み付けられる配線ユニット13とを備えている。モータモジュール11の軸方向両端にはそれぞれトップカバー12とエンドカバー14とが設けられており、これらトップカバー12とエンドカバー14とに配線ユニット13のコネクタ83,84がそれぞれ取り付けられている。配線ユニット13のFPCケーブル82はモータハウジング27の外周に周回させて設けられている。また、配線ユニット13はモータハウジング27を回転軸として回転する筒体73を備えており、筒体73にFPCケーブル82が固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば産業用の多関節ロボットであって、複数の関節アクチュエータを用いて構成された多関節ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より産業用ロボットとして多関節ロボットが実用化されており、その多関節ロボットに用いられる関節アクチュエータにおいて電力供給や信号送信のための電気配線を設置する構成として種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ロボット手首部の回転軸の外周面にカバー部材を回転可能に装着して回転軸とカバー部材との間に円筒状空間部を形成し、カバー部材の側方に電気コネクタを設け、この電気コネクタに一端が接続されたフラットケーブルを円筒状空間部で渦巻状に巻回した構成が開示されている。そしてかかる構成により、ロボット手首部が回転する場合にロボット手首内での電線の捩じりを吸収できるとしていた。
【0004】
また、特許文献2では、ロボット用電動回転継手において、回転継手にその軸方向に延びる中空部を設けるとともに、その中空部に電線や信号サービス線を挿通させる構成が開示されている。そしてこれにより、複数の回転継手モジュールを有するロボットにおいて電線や信号サービス線を引き回しする上で好適であるとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−79684号公報
【特許文献2】特開平6−315879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された先行技術では、回転軸を囲んで設けられるカバー部材の側方に電気コネクタが設けられており、その電気コネクタにフラットケーブルの一端が接続される構成となっている。つまりこの構成では、カバー部材の外周面に、回転軸の軸線とは直交する向きにフラットケーブルが引き出されている。かかる場合、フラットケーブルがカバー部材の外周側方に引き出され、さらに電気コネクタが張り出して設けられることにより、手首アクチュエータとしての小型化が損なわれると考えられる。産業用ロボットにおいてはアクチュエータの小型化の要望が強く、その意味からも改善の必要性があると考えられる。
【0007】
また、特許文献2に開示された先行技術では、回転継手モジュールの中心部分に形成された中空部に電線や信号サービス線を挿通させることで、それら電線等の引き回しの改善を図っている。しかしながら、これは、単に回転継手モジュールの中空部を配線ルートとして利用しているだけであり、回転継手モジュールにおいてモータに接続された電線自体はハウジングの側方に引き出される構成となっている。この場合、回転継手ではモータ用電線が内装配線されているものではなく、モータ用電線がハウジング外周部から径方向に展開されるように引き出される構成は、小型化を図る上での妨げになり得ると考えられる。
【0008】
また、中空部に電線等を挿通させて設ける構成は、必ずしも回転継手の回転動作時における電線等の絡まりを回避できるものではなく、その点も改善の余地があると考えられる。つまり、特許文献2に開示された構成では、回転継手モジュールにおいて回転機構と電線とが別々に設けられ、電線は回転機構の周囲において任意の位置及び状態で存在している。そのため、回転継手モジュールの回転部分に電線が絡まってしまうことが懸念される。
【0009】
本発明は、アクチュエータ間の配線の絡みを防止することで電気配線の設置の好適化を図り、その上でしかも小型化を実現することができる多関節ロボットを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。
【0011】
第1の発明の多関節ロボットは、
複数の関節アクチュエータを備えた多関節ロボットであって、
前記関節アクチュエータは、
通電により回転駆動されるロータを有するモータと、前記ロータの回転を所定の減速比で減速させる減速機と、前記ロータの回転を停止させるブレーキ装置と、前記ロータと同軸となる外周面を有し前記モータ及び前記ブレーキ装置を収容する円筒状のモータハウジングとを備えてなるモータモジュールと、
ロボットシステムの電力供給及び信号伝達に用いられるアクチュエータ電気配線を有し、前記モータモジュールに対して組み付けられる配線ユニットと、
を備え、
前記モータモジュールにはその軸方向両端部を塞ぐ端面部材がそれぞれ設けられ、そのうち一方が前記減速機の出力軸と一体に回転する出力側端面部材、他方が前記モータハウジングに一体化されている固定側端面部材であり、
前記アクチュエータ電気配線は、配線両端部にそれぞれ設けられ外部接続端子を含んでなるアクチュエータコネクタを有し、それら各コネクタが、前記出力側端面部材及び前記固定側端面部材にそれぞれ取り付けられるとともに、前記各コネクタの間の中間部分となる配線中間部分が、前記モータハウジングの外周に周回させて設けられ、
前記配線ユニットは、前記モータハウジングの外周側に設けられ前記減速機の出力軸の回転時に前記モータハウジングを回転軸として回転する筒状部材を備え、前記筒状部材に前記アクチュエータ電気配線の一部が固定されており、
さらに、一の関節アクチュエータの前記出力側端面部材と、他の関節アクチュエータの前記固定側端面部材とにそれぞれ連結されてそれら両関節アクチュエータを一体結合する連結アームを有し、
前記連結アームにおいて前記出力側端面部材との連結部分及び前記固定側端面部材との連結部分には、それぞれ前記アクチュエータコネクタに対して結合されるアームコネクタが設けられていることを特徴とする。
【0012】
要するに、多関節ロボットの関節アクチュエータでは、モータ通電によりロータが回転すると、その回転が減速機において所定の減速比で減速されて出力側端面部材に伝わり、出力側端面部材が回転する。この場合、出力側端面部材とそれとは反対側の固定側端面部材とにはアクチュエータ電気配線の各アクチュエータコネクタがそれぞれ取り付けられており、それら各コネクタのうち出力側端面部材に取り付けられたコネクタは、配線ユニットの筒状部材がモータハウジングを回転軸として回転するのに伴いその回転方向に変位する。このとき、各コネクタでは互いの相対的な回転位置が変化するが、アクチュエータ電気配線の配線中間部分がモータハウジングの外周に周回させて設けられており、その配線中間部分により両コネクタの相対位置の変化分(ロータ軸方向に対する電気配線の捩れ)が吸収される。またこの場合、各アクチュエータコネクタはそれぞれ端面部材に取り付けられており、モータモジュールの径方向に展開されて引き出されるものでないため、モータモジュールの径方向における張出を極力小さくできる。
【0013】
なお、特開平6−79684号公報に記載されている先行技術と比較すれば、その先行技術では回転軸を囲うカバー部材(モータハウジングに相当)が設けられ、そのカバー部材の外周方向外側に、電気コネクタを有するブロックが設けられているのに対し、本発明の構成では、モータモジュールの端面側にコネクタが設けられている。そのため、モータハウジングの大きさを同じとすれば、本発明の方がモータモジュールの外周側の体格が小さくなる。したがって、モータモジュール外周側の張出を抑えることができ、小型化できると言える。
【0014】
さらに、モータハウジングの内外に分けて内側にはモータとブレーキ装置とが設けられ、外側にはアクチュエータ電気配線が周回されて設けられており、こうした二重構造によれば、アクチュエータ全体の小型化が可能となる。例えば特開平6−79684号公報のようにロータ(回転軸)にケーブルを周回させる構成を採用すれば、ロータの軸方向にモータとブレーキ装置とケーブルの周回部分とが並ぶことになるが、本発明ではこうした不都合を回避して小型化を図ることができる。
【0015】
また、複数の関節アクチュエータを一体結合させる構成として、出力側端面部材と固定側端面部材とを連結アームに連結させる構成を採用しており、複数の関節アクチュエータについての機械的な連結と電気的な接続とを連結アームにより簡易に実施できる。かかる構成では、関節アクチュエータが回転する場合に、その回転動作に伴う電気ケーブルの動作、すなわち電気ケーブルが引っ張れたり緩められたりする動作は各配線ユニットのアクチュエータ電気配線(内装配線部分)で生じるのみであり、それ以外のケーブルでは生じない。したがって、外部に露出するケーブルの捻れや絡まりに起因する機械系又は電気系の不具合を回避できる。
【0016】
以上により、アクチュエータ間の配線の絡みを防止することで電気配線の設置の好適化を図り、その上でしかも多関節ロボットの小型化を実現することができる。
【0017】
第2の発明の多関節ロボットでは、前記アクチュエータ電気配線は、薄板状をなすFPCケーブルを有して構成されており、前記FPCケーブルは、前記複数の関節アクチュエータについて各々のモータ及びブレーキ装置に対する電力供給及び信号伝達を可能とする複数系統の回路配線を有している。
【0018】
上記構成によれば、FPCケーブルにて複数系統の回路配線が確保されるため、多関節ロボットにおいて、その系統数分の範囲で、共通のFPCケーブルを用いつつ関節アクチュエータの増設を容易に実施できる。
【0019】
また、FPCケーブルは、モータモジュールに周回された状態で設けられ、その周回方向に力が加わるが、同FPCケーブルが面状をなしているため、周回方向に力が加わった時の変形は主にケーブル面方向に撓んだり伸びたりするだけであり、変形の方向が任意となる線状の電気ケーブルを用いる場合とは異なり、変形時の絡まりが生じにくい。また、FPCケーブルは、一般に合成樹脂製の絶縁性フィルムを有してなりその表面は平滑面となっている。したがって、多関節ロボットの関節アクチュエータにおいて該アクチュエータが高速動作する場合であっても、アクチュエータ電気配線として好適な状態を維持でき、本発明の構成は多関節ロボットにとっては極めて好都合である。
【0020】
第3の発明の多関節ロボットでは、前記モータモジュールにおいて、前記モータハウジングの内側には前記モータ及び前記ブレーキ装置に接続されこれらモータ及びブレーキ装置に対する電力供給及び信号伝達を行うモジュール電気配線が設けられ、前記モジュール電気配線は、前記アクチュエータ電気配線に対して配線振分部を介して接続され、前記配線振分部において前記アクチュエータ電気配線の複数系統の回路配線のうちいずれかが前記モジュール電気配線に電気的に接続されている。
【0021】
上記構成によれば、アクチュエータ電気配線(システム用配線)とモジュール電気配線とは、モータハウジングの内外にそれぞれ設けられている。この場合、アクチュエータ電気配線の複数系統の回路配線のうちいずれかが、配線振分部によりモジュール電気配線に電気的に接続されているため、電力供給や信号伝達の対象となるアクチュエータごとのモータやブレーキ装置(複数の関節アクチュエータの各モータや各ブレーキ装置)に対して好適に電力供給や信号伝達を好適に行わせることができる。
【0022】
第4の発明の多関節ロボットでは、関節アクチュエータにおいて前記FPCケーブルは複数用いられ、該複数のFPCケーブルが内外に重なった状態で前記モータハウジングの外周に周回させて設けられており、前記複数のFPCケーブルでは各々の周回数が異なっている。
【0023】
上記構成によれば、複数のFPCケーブルについて、ケーブル両端部の各コネクタのうち少なくともいずれかを、出力側端面部材及び固定側端面部材のいずれかにおいて周方向に分散させて設けることができる。この場合、複数のFPCケーブルについてコネクタを分散させて設けることで、出力側端面部材及び固定側端面部材のいずれかにおいて複数のコネクタを設けつつも径方向の寸法の拡大を抑制できる。
【0024】
また、複数のFPCケーブルの周回数が各々異なっている構成では、各FPCケーブルがロータの回転により周回数を多くする方向に又は周回数を少なくする方向に捩れる(回転する)場合に、各FPCケーブルにおいて回転動作に伴う径方向の変位量が各々相違するため、各FPCケーブルの回転の挙動が各々異なるものとなると考えられる。かかる場合、ロータが正逆両方向に回転することで、ケーブル周回部において複数のFPCケーブルが互いに離れたり近づいたりするため、ケーブル同士の固着等の不都合を抑制できる。
【0025】
第5の発明の多関節ロボットでは、前記モータモジュールにおいて、前記ロータに回転力を生じさせるためのステータが前記ロータの軸方向の一部に対向して設けられているとともに、前記ロータの軸方向において前記ステータに対向していない部位に対向させて、前記減速機と前記ブレーキ装置とが設けられている。
【0026】
上記構成によれば、ロータの軸方向に沿ってステータ、減速機及びブレーキ装置が並んで設けられている。この場合、ロータを中心にしてこれらステータ、減速機及びブレーキ装置をコンパクトに配置できる。したがって、アクチュエータ全体の小型化を実現できる。
【0027】
なお、ロータにおいてステータとの対向部分を大径に、それ以外を小径にする構成が望ましい。これにより、モータモジュールとしての回転能力を確保しつつ、径方向における大型化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】1つの関節アクチュエータについてそれを4方向から見た外観形状を示す図。
【図2】関節アクチュエータの要部構成を分解して示す分解図。
【図3】モータモジュールの内部構造を示す断面図。
【図4】配線ユニットの構成を示す断面図。
【図5】ケーブルセットの構成を示す図。
【図6】FPCケーブルが巻回された状態を説明するための図。
【図7】関節アクチュエータの内部構成を示す断面図。
【図8】多関節ロボットの構成を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、産業用の多関節ロボット(多軸ロボット)に用いられる関節アクチュエータについて具体化し、関節アクチュエータとして、複数の関節部で同様に使用できる構成を構築するものとしている。つまり、各関節部の関節アクチュエータは基本的に同じ構造を有し、ロボットの関節の数に合わせて必要数分の関節アクチュエータが用いられるようになっている。まずは、関節アクチュエータの構成を説明する。図1は、1つの関節アクチュエータ10についてそれを4方向から見た外観形状を示す図であり、図2は、関節アクチュエータ10の主要構成を分解して示す分解図である。
【0030】
図1,図2に示すように、関節アクチュエータ10は大別して、モータモジュール11と、そのモータモジュール11の一端側(出力端側)に設けられるトップカバー12と、モータモジュール11に被せるようにしてモータモジュール11の外周側に設けられる略円筒状の配線ユニット13と、モータモジュール11の他端側(固定端側)に設けられるエンドカバー14とを備えている。そして、これら構成要素11〜14を軸方向に組み付けるとともに、ボルト等からなる複数の締結具15,16により締結して一体化することで、関節アクチュエータ10が構築されている。トップカバー12とエンドカバー14とが、モータモジュール11の軸方向両端部を塞ぐ端面部材に相当する。
【0031】
次に、関節アクチュエータ10の各構成要素11〜14の構成を詳細に説明する。まずはモータモジュール11の構成を説明する。図3は、モータモジュール11の内部構造を示す断面図である。
【0032】
モータモジュール11は減速機付サーボモータとして構成されており、モータ回転速度を所定の減速比で減速する減速機能を有している。またこれに加え、ブレーキ機能や回転検出機能を有している。モータモジュール11の回転中心にはロータ21が設けられており、そのロータ21の軸線方向に沿って出力側(図の左端側)から順に減速部22、回転駆動部23、ブレーキ部24、回転検出部25が設けられている。このうち、回転駆動部23とブレーキ部24とは、略円筒状をなすモータハウジング27に収容して設けられている。したがって、モータモジュール11の外観からすれば、モータハウジング27の一端側に減速部22が設けられ、他端側に回転検出部25が設けられる構成となっている(図2参照)。
【0033】
モータハウジング27は、ロータ21と同軸であってかつ真円状の外周面を有する円筒状をなしており、その一端側(減速部22側)にはハウジング外方に延びる外フランジ部27aが形成され、他端側(回転検出部25側)にはハウジング内方に延びる内フランジ部27bが形成されている。内フランジ部27bの径方向内側は開口部27cとなっている。なお、モータハウジング27の円筒部分の直径(外径)はD1である。また、外フランジ部27aも中央の円筒部分と同様、真円状の外周面を有しており、その直径(外径)はD2である。
【0034】
また、ロータ21は、断面円形状の中実構造をなしており、その軸線方向に沿って外周面が多段に形成されている。回転駆動部23の構成として、ロータ21の軸方向略中央部には他よりも外径寸法が大きい大径部21aが形成されており、その大径部21aの外周側に永久磁石31が装着されている。また、永久磁石31を囲むようにしてその外周側には、ロータ21に回転力を生じさせるためのステータ32が設けられている。ステータ32は、モータハウジング27の円筒部分においてその内側に圧入により固定されている。
【0035】
ロータ21は、軸方向に見て2カ所でベアリング34,35により回転可能に支持されている。ベアリング34,35は、ロータ21との摺動面にシール部材(図示略)が設けられたシール付ベアリングとして構成されており、ロータ21の大径部21aを挟んで両側にそれぞれ設けられている。
【0036】
2つのベアリング34,35のうち減速部22側のベアリング34は、モータハウジング27の外フランジ部27aに固定されたベアリングホルダ36により支持されている。ベアリングホルダ36は、外フランジ部27aと同じ外径寸法を有し、その中心部の貫通孔部にはベアリング34を設置する設置凹部36aが形成されている。設置凹部36aにおいて、その径方向端面(ロータ軸に対して直交する方向に延びる端面)とベアリング34との間には皿ばね37が設けられている。皿ばね37は、ベアリング34をロータ21の大径部21a側に付勢する付勢手段であり、この皿ばね37によりロータ21に対して軸方向の荷重が付加されている。かかる場合、熱の影響等に起因してロータ21が軸方向に伸びたとしても又は軸方向に縮んだとしても、その伸び分又は縮み分を皿ばね37により吸収できる。
【0037】
ベアリングホルダ36は、減速部22と回転駆動部23との間に設けられており、その減速部22側にはオイルシール38が配設されている。オイルシール38により、外部からの塵埃やオイルの侵入が抑制される。
【0038】
また、ブレーキ部24側のベアリング35は、ブレーキ部24として設けられたブレーキ本体41により支持されている。ブレーキ本体41は、モータハウジング27に対してネジ等により固定されており、ロータ21を挿通させてこれを囲むようにして設けられている。そして、ブレーキ本体41の内周部とロータ21の外周部との間にベアリング35が配設されている。また、モータハウジング27の開口部27cには、ブレーキ本体41に対してネジ等により固定された押さえプレート42が設けられており、ロータ21の外周部分に形成された段差部(ベアリング保持用の段差部)と押さえプレート42とにより、ベアリング35のロータ軸方向の位置固定がなされている。
【0039】
上述したロータ21の支持構造によれば、ステータ32に対向する大径部21aを挟んでその両側が大径部21aよりも小径の小径部となっており、その小径部がベアリング34,35により支持されている。これにより、ロータ21の外径寸法の大型化を抑制できる。また、2つのベアリング34,35及び皿ばね37により、ロータ21のラジアル荷重とスラスト荷重と好適に受けることができるものとなっている。
【0040】
ブレーキ部24は電磁式ブレーキ装置として構成されており、ブレーキ本体41への通電状態に応じて、ロータ21の回転を許容又は禁止するものとなっている。具体的には、ロータ21には、ロータ外周側に突き出た状態でロータ側外歯44が設けられている。また、ブレーキ部24には、ロータ側外歯44に対して係止可能であって、ブレーキ本体41への通電状態に応じてロータ軸方向に進退移動するブレーキ側内歯45が設けられている。ブレーキ部24は、ブレーキ本体41に対する非通電時には、ロータ側外歯44に対してブレーキ側内歯45が係止状態とされ(図示の状態)、ブレーキオン状態に保持されている(常時ブレーキオン)。そして、ブレーキ本体41が通電されることに伴い、ロータ側外歯44に対するブレーキ側内歯45の係止が解除され、ブレーキオフ状態に移行する構成となっている。
【0041】
回転検出部25は、エンコーダを有する構成となっており、ロータ21の回転位置に応じたパルス信号を出力する。回転検出部25は、ロータ21の端部にネジにより取り付けられたエンコーダプレート47と、そのエンコーダプレート47を囲って設けられる保護カバー48とを有している。
【0042】
回転駆動部23のステータ32、ブレーキ部24のブレーキ本体41、及び回転検出部25のエンコーダには、これら各々への電力供給や信号伝達を行うためのモータモジュールケーブル51が接続されている。各モータモジュールケーブル51は、それぞれモータハウジング27や保護カバー48からその外側に引き出されており、各ケーブル51の先端側にはモータモジュールコネクタ52が取り付けられている。なお、各モータモジュールケーブル51のうちステータ32及びブレーキ本体41に接続されるケーブルはモータハウジング27の内側に設けられている。
【0043】
また、減速部22の構成として、ロータ21の出力先端側には減速機ユニット61が連結されている。減速機ユニット61は、ハーモニックドライブ(登録商標)構造を有する減速装置であり、ロータ21の回転を所定の減速比(例えば1/100)で減速し出力する。減速機ユニット61は、モータハウジング27の円筒部分よりも外径寸法が大きいものであり、モータハウジング27の外フランジ部27aやベアリングホルダ36と同じ外径寸法を有している。
【0044】
減速機ユニット61は、より具体的には、楕円状のカムの外周にボールベアリングが組み付けられてなるウェーブジェネレータ62と、その外側に配置される薄肉かつ弾性変形可能なフレクスプライン(弾性歯車)63と、その外側に配置される剛体環状のサーキュラスプライン(内歯車)64とを備えて構成されている。フレクスプライン63の外周部には多数の外歯が形成されるとともに、サーキュラスプライン64の内周部にはフレクスプライン63よりも所定数(例えば2つ)だけ歯数が多い内歯が形成されており、それらフレクスプライン63の外歯とサーキュラスプライン64の内歯とがウェーブジェネレータ62の長軸の部分(カム山部分)で噛み合う構成となっている。また、サーキュラスプライン64の外側にはクロスローラベアリングからなる軸受65が一体的に設けられている。
【0045】
ウェーブジェネレータ62には、その中心部に複数のネジ等の締結具66によりカップリング67が固定されており、カップリング67がロータ21の先端部に固定されている。また、軸受65はネジ等からなる複数の締結具68によりベアリングホルダ36に固定されている。
【0046】
上記構成の減速部22では、ロータ21が回転すると、ロータ21と一体でウェーブジェネレータ62が回転し、その回転がフレクスプライン63を介してサーキュラスプライン64に伝達される。これにより、ロータ21の回転に対してサーキュラスプライン64が所定の減速比で減速されて回転する。
【0047】
次に、配線ユニット13の構成を説明する。図4は、配線ユニット13の内部構成を示す断面図である。
【0048】
配線ユニット13は、ロボットシステムの電力供給や信号伝達を実現するものであり、特に、多関節ロボットに設けられる複数の関節アクチュエータ10に相当する複数系統の電力供給や信号伝達を可能にするものとなっている。本実施形態では、多関節ロボットの最大8つの関節アクチュエータ10について電力供給や信号伝達を可能にするものとなっている。
【0049】
配線ユニット13は、大別してユニット本体71と配線カバー72とにより構成されている。なお、ユニット本体71と配線カバー72との分離状態は図2を参照されたい。ユニット本体71は、モータモジュール11のモータハウジング27に対して組み付けられる略筒状の筒体73を有しており、その直径(内径)はD3であり、これはモータハウジング27の直径D1+微小隙間の寸法となっている。微小隙間は、モータハウジング27に対して筒体73を組み付けた状態で、筒体73を回転可能とするのに要する摺動クリアランスである。なお、モータハウジング27と筒体73との摺動部にすべり軸受を設けることも可能である。
【0050】
筒体73の一方の端面73aは、モータハウジング27に対する組み付け状態で外フランジ部27aに当接する当接面となっている(図7参照)。端面73aの直径(外径)はD4であり、これはモータハウジング27の外フランジ部27aの直径D2と同じ寸法となっている。
【0051】
また、筒体73には、その周方向において1カ所に、後述するケーブルセット81の一部を固定するためのケーブル固定部が設けられている。ケーブル固定部は、筒体73の外周側の1カ所に形成された凹部73bと、その凹部73bから筒体73の軸方向に延びる突出部73cとからなる。そして、そのケーブル固定部にコネクタケース74が設置されることで、そのケース内部に収容スペースSが形成されるようになっている。
【0052】
また、ユニット本体71は、モータモジュール11への電力供給や信号伝達を行うアクチュエータ電気配線としてのケーブルセット81を備えている。ケーブルセット81は、所定幅の長尺状をなし合成樹脂等の絶縁性フィルム上に銅箔等により電気回路が形成された薄板状のFPC(フレキシブルプリントサーキット)からなるFPCケーブル82と、そのFPCケーブル82の両端に設けられたコネクタ83,84とを有している。FPCケーブル82が配線中間部分に相当する。FPCケーブル82は、複数(本実施形態では4つ)の関節アクチュエータ10について共通バスラインを構築できるものであり、本実施形態では特に、2つのケーブルセット81を用いてユニット本体71が構成されている。そして、コネクタ83,84により、自アクチュエータのFPCケーブル82が他アクチュエータのFPCケーブル82に電気的に接続される構成となっている。
【0053】
ケーブルセット81の詳細を図5を用いて説明する。図5において(a)は、ユニット本体71への組み付け前におけるケーブルセット81を示す斜視図であり、(b)は、FPCケーブル82を平面状に展開した状態を示す平面図である。
【0054】
FPCケーブル82は、渦巻き状に巻回される巻回部82aと、その巻回部82aの両端部にそれぞれ形成され、巻回部82aに直交する向きに延びる非巻回部82bとを有する形状となっており、巻回部82aが巻回された状態で、その巻回部82aを挟んで両側に非巻回部82bが引き出される構成となっている(図5(a)参照)。説明の便宜上、図5(b)では、FPCケーブル82のうち巻回部82aに相当する部位に網掛けを付している。コネクタ83,84は、絶縁基板よりなる配線基板83a,84aと、この配線基板83a,84a上に設けられる中継コネクタ83b,84bと、中継コネクタ83b,84bから延びる外部接続端子83c,84cとを有している。
【0055】
そして、図4に示すように、ケーブルセット81は、FPCケーブル82の巻回部82aと筒体73とが筒体73の軸方向に並ぶようにして、ユニット本体71に組み付けられている。かかる場合、FPCケーブル82は、一方の非巻回部82bの付け根部分(巻回部82aと非巻回部82bとの境界部分)においてFPCクランパ(FPC保持部材)86に取り付けられており、そのFPCクランパ86が筒体73とコネクタケース74とに対して固定されることで、FPCケーブル82が筒体73に対して取り付けられるようになっている。
【0056】
図6は、FPCケーブル82が巻回された状態を説明するための図であり、(a)、(b)は2つのケーブルセット81をそれぞれ示している。なお、説明の便宜上、モータハウジング27を仮想線にて図示している。
【0057】
2つのケーブルセット81のうち一方は、(a)に示すように、巻回角度を360°(巻回数=1周)として、モータハウジング27の外周にFPCケーブル82を巻回させて設けられている。また、他方は、(b)に示すように、巻回角度を540°(巻回数=1周半)として、モータハウジング27の外周にFPCケーブル82を巻回させて設けられている。つまり、各FPCケーブル82では、その巻回数(モータハウジング外周の周回数)が互いに異なるものとなっている。
【0058】
また、本実施形態の関節アクチュエータ10では、初期状態(図示の状態)を基準に正逆両方向に回転が可能となっており、回転出力部(トップカバー12)は±θの角度範囲で正方向及び負方向にそれぞれ回転する。例えば、θ=170°である。この場合、回転出力部(トップカバー12)が回転すると、コネクタ83の位置(周方向における回転位置)が−θ〜+θの範囲内で変更され、それに伴い2つのコネクタ83,84の相対位置が変更されるものとなっている。なお、FPCケーブル82は、巻回角度が大きくなる場合(+θ方向に回転する場合)を想定して巻回部82aのケーブル長が設定されており、本実施形態の場合、図6(a)に示すFPCケーブル82は約1.5周分の長さを有し、(b)に示すFPCケーブル82は約2周分の長さを有するものとなっている。
【0059】
図4の説明に戻り、モータハウジング27の外周には内外に重なった状態で2枚のFPCケーブル82が設けられている。各FPCケーブル82の巻回部82aの外周側には、巻回部82aを囲むようにして円筒状の配線カバー72が取り付けられている。この場合、FPCケーブル82の巻回部82aは配線カバー72の内側に配設されている。配線カバー72の設置により、FPCケーブル82の保護と防塵対策を実現できる。なお、配線カバー72は、筒体73ではなくエンドカバー14に対して固定されるものとなっており、筒体73は配線カバー72に対して相対回転する構成となっている。
【0060】
ケーブルセット81が筒体73に取り付けられた状態では、FPCケーブル82の非巻回部82bとコネクタ83(詳しくはコネクタ83の一部)とが収容スペースS内に収容されている。そして、コネクタ83において外部接続端子83c側の一部がケース外部に突出した状態となっている。また、2つのケーブルセット81について、各々のコネクタ83が上下二段に設けられている。一方、筒体73とは反対側では、2つのコネクタ84が、周方向に分散して、すなわち筒体73の中心軸を挟んで互いに反対側となる位置に設けられている。
【0061】
コネクタ84には、モータモジュール11に設けられるモータモジュールケーブル51(図3参照)をFPCケーブル82に電気的に接続するための連結基板部87が設けられている。連結基板部87は、FPCケーブル82に設けられた複数系統の回路配線のうちいずれかをモータモジュールケーブル51(図3参照)に振り分けて電気的に接続する振分機能を有するものである。また、連結基板部87には、モータモジュールコネクタ52を結合させるための結合穴部52aが形成されている。連結基板部87に対してモータモジュールコネクタ52が接続されることにより、FPCケーブル82が複数系統の回路配線を有していても、そのうち1系統の回路配線がモータモジュールケーブル51に電気的に接続され、モータモジュール11の各部(回転駆動部23、ブレーキ部24、回転検出部25)に対して電力供給や信号伝達が行われるようになっている。
【0062】
ここで、モータモジュール11の出力側端面部に設けられるトップカバー12には、コネクタ83を取り付けるための開口部12aが形成されている(図1参照)。また、モータモジュール11の固定側端面部に設けられるエンドカバー14には、コネクタ84を取り付けるための開口部14aが形成されている(図1参照)。
【0063】
次に、上記各構成要素により構成される関節アクチュエータ10をあらためて説明する。図7は、関節アクチュエータ10の内部構成を示す断面図である。つまりこれは、図3で説明したモータモジュール11に対して、図4で説明した配線ユニット13を組み付け、さらにその両端部にトップカバー12とエンドカバー14とを取り付けた状態を示すものである。
【0064】
図7に示す関節アクチュエータ10では、モータモジュール11の減速機ユニット61のサーキュラスプライン64に締結具15によりトップカバー12が結合されている。また、モータハウジング27の外周側に配線ユニット13が組み付けられ、その状態で配線ユニット13のユニット本体71がトップカバー12に固定されている。この場合、トップカバー12と配線ユニット13の筒体73との間に挟まれた状態で減速機ユニット61が設けられている。配線ユニット13のコネクタ83は、トップカバー12の開口部12aに挿通させて設けられている。
【0065】
なお、減速機ユニット61の固定部分(本実施形態では軸受65)には、トップカバー12の回転範囲を規制するための複数の回転規制ネジ88が設けられており、トップカバー12は、一の回転規制ネジ88から他の回転規制ネジ88までの回転範囲(例えば340°)内で回転可能となっている。
【0066】
また、トップカバー12の反対側にはエンドカバー14がボルト等の締結具により取り付けられている。この場合、エンドカバー14は、その内側凹部14bにてエンコーダを覆うようにして取り付けられている。また、エンドカバー14と配線ユニット13の筒体73との間に挟まれた状態で配線カバー72が設けられている。モータハウジング27と配線カバー72との間に形成される環状空間部には、モータハウジング27に周回させた状態で2枚のFPCケーブル82が設けられている。また、コネクタ84の連結基板部87には、モータモジュールコネクタ52が結合されている。
【0067】
ここで、エンドカバー14は、モータハウジング27の円筒部分(筒体73が組み付けられる部分)の外径寸法よりも大径に形成されており、そのエンドカバー14においてモータハウジング27よりも大径となる張出部分を用いて、コネクタ84を挿通配置するための開口部14aが形成されている。そして、そのエンドカバー14の開口部14aに挿通させて配線ユニット13のコネクタ84が設けられている。
【0068】
上記構成の関節アクチュエータ10では、モータモジュールケーブル51やFPCケーブル82を通じて、回転駆動部23のステータ32やブレーキ部24のブレーキ本体41に対して電力供給や信号伝達が行われる。また、同様にケーブル51,82を通じて、回転検出部25のエンコーダの検出信号の出力が行われる。そして、これら電力供給や信号伝達に基づいて関節アクチュエータ10の動作が制御される。ここで、モータモジュール11のロータ21が回転すると、減速機ユニット61の出力軸であるサーキュラスプライン64と共にトップカバー12が正逆いずれかの方向に回転するとともに、配線ユニット13がモータハウジング27を回転軸として回転する。このとき、トップカバー12及びエンドカバー14にそれぞれ設けられた各コネクタ83,84では互いの相対的な回転位置が変化するが、モータハウジング27の外周に周回させて設けられたFPCケーブル82により両コネクタ83,84の相対位置の変化分(ロータ軸方向に対するFPCケーブル82の捩れ)が吸収される。
【0069】
次に、関節アクチュエータ10を用いた多関節ロボットの構成事例を説明する。図8は、多関節ロボット90の構成を示す正面図である。なお、図8には3軸の水平多関節ロボット(3軸スカラロボット)を例示するが、本実施形態の関節アクチュエータ10によれば、ロボットシステムにおける電気系統を最大8系統にすることができ、4軸以上の多関節ロボットの構築も可能となっている。また、水平多関節ロボットに代えて、垂直多関節ロボットでの具体化も可能である。
【0070】
多関節ロボット90は、3つの関節アクチュエータ10を備えるものであり、各関節アクチュエータ10の回転軸として、鉛直方向に延びる3つの軸J1,J2,J3が定められている。詳しくは、多関節ロボット90は、ロボット設置場所に固定される基台91を備え、その基台91の上に、出力端(トップカバー12側)を上、固定端(エンドカバー14側)を下にして第1関節アクチュエータ10Aが設置されている。また、第1関節アクチュエータ10A以外に、第2関節アクチュエータ10Bと第3関節アクチュエータ10Cとが設けられており、第1関節アクチュエータ10Aと第2関節アクチュエータ10Bとはクランク状をなす連結アーム92により連結され、第2関節アクチュエータ10Bと第3関節アクチュエータ10Cとは平板状をなす連結アーム93により連結されている。
【0071】
第2関節アクチュエータ10Bは、出力端(トップカバー12側)を上、固定端(エンドカバー14側)を下にして設置され、第3関節アクチュエータ10Cは、出力端(トップカバー12側)を下、固定端(エンドカバー14側)を上にして設置されている。そして、第3関節アクチュエータ10Cの出力端(トップカバー12側)には、被搬送物を把持するツール等を有するハンド部94が取り付けられている。
【0072】
多関節ロボット90の電気的構成として、基台91において関節アクチュエータ10Aを搭載する搭載部には基台コネクタ95が設けられており、基台91上に関節アクチュエータ10Aが搭載されることで、その関節アクチュエータ10Aのコネクタ84に対して基台コネクタ95が電気的に結合されるようになっている。また、連結アーム92において関節アクチュエータ10A,10Bとの連結部分にはそれぞれアームコネクタ96,97が設けられており、関節アクチュエータ10A,10Bに対して連結アーム92が連結されることで、それら関節アクチュエータ10A,10Bのコネクタ83,84に対してアームコネクタ96,97がそれぞれ電気的に結合されるようになっている。連結アーム93についても同様に、関節アクチュエータ10B,10Cとの連結部分にはそれぞれアームコネクタ98,99が設けられており、関節アクチュエータ10B,10Cに対して連結アーム93が連結されることで、それら関節アクチュエータ10B,10Cのコネクタ83,84に対してアームコネクタ98,99がそれぞれ電気的に結合されるようになっている。さらに、ハンド部94において関節アクチュエータ10Cとの連結部分にはコネクタ100が設けられており、関節アクチュエータ10Cに対してハンド部94が連結されることで、関節アクチュエータ10Cのコネクタ83に対してコネクタ100が電気的に結合されるようになっている。
【0073】
連結アーム92にはコネクタ96,97を電気的に接続するアーム配線101が設けられ、連結アーム93にはコネクタ98,99を電気的に接続するアーム配線102が設けられている。このアーム配線101,102についても、関節アクチュエータ内の電気配線(アクチュエータ電気配線)と同様、FPCケーブルにより構成されている。なお、各FPCケーブルにより構築される複数系統の電気経路には、ハンド部94への電力供給及び信号伝達の経路も含まれる。
【0074】
上記構成の多関節ロボット90では、3つの関節アクチュエータ10A〜10Cが直列に機械連結されており、それらのうち前段の第1関節アクチュエータ10Aの動きにより中段の第2関節アクチュエータ10Bが変位し、さらに、第2関節アクチュエータ10Bの動きにより後段の第3関節アクチュエータ10Cが変位する。また、基台91からハンド部94までの一連の電気系統(バスライン)として、第1関節アクチュエータ10AのFPCケーブル82→アーム配線101→第2関節アクチュエータ10BのFPCケーブル82→アーム配線102→第3関節アクチュエータ10CのFPCケーブル82が構築されており、このバスラインを通じて、各アクチュエータへの電力供給や信号伝達が行われる。この場合、各関節アクチュエータ10A〜10CのFPCケーブル82は、全アクチュエータ(ハンド部94を含む)に共通のバスラインとして使用される。
【0075】
なお、多関節ロボット90では、関節アクチュエータ10A〜10Cに設けられるケーブル類は全て内装配線とされ、連結アーム92,93に設けられるケーブル類は概ね全て内部配線とされている。図示の構成では、関節アクチュエータ10Bの固定端部付近でアーム配線101が外部に露出しているが、その露出部分は回転が生じる部位でないため、回転に起因するケーブル類の絡まり等が生じないものとなっている。言い換えれば、連結アーム92,93に設けられるケーブル類は、少なくとも回転部分に設けられるケーブルが内装配線となっていればよい。
【0076】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0077】
関節アクチュエータ10において、モータハウジング27の外周に周回させてFPCケーブル82が設けられており、ロータ回転時にはFPCケーブル82の捩れが好適に吸収される。また、関節アクチュエータ10の端面部材であるトップカバー12とエンドカバー14とにケーブルセット81の各コネクタ83,84がそれぞれ取り付けられているため、それら各コネクタ83,84がモータモジュール11の径方向(外周方向)に展開されて引き出される構成に比べて、その径方向における張出を極力小さくできる。さらに、モータハウジング27の内外に分けて内側には回転駆動部23とブレーキ部24とが設けられ、外側にはFPCケーブル82が周回されて設けられており、こうした二重構造によれば、アクチュエータ全体の小型化が可能となる。
【0078】
またこのとき、関節アクチュエータ10の小型化のために、新規にモータやブレーキ等の小型品を開発、設計することが強いられることもない。
【0079】
多関節ロボット90において、各関節アクチュエータ10のトップカバー12及びエンドカバー14をそれぞれ連結アーム92,93に連結させ、さらに連結アーム92,93に設けたアームコネクタ96〜99により多関節ロボット90(ロボットシステム)における一連の電気経路を構築する構成とした。これにより、複数の関節アクチュエータ10についての機械的な連結と電気的な接続とを連結アーム92,93を介して簡易に実施できる。
【0080】
また、上記構成では、各関節アクチュエータ10が回転する場合に、その回転動作に伴う電気ケーブルの捻れは各配線ユニット13のアクチュエータ電気配線(アクチュエータ内の内装配線)で生じるのみであり、それ以外のケーブルでは生じない。したがって、外部に露出するケーブルの捻れや絡まりに起因する機械系又は電気系の不具合を回避できる。
【0081】
以上により、関節アクチュエータ間の配線の絡みを防止することで電気配線の設置の好適化を図り、その上でしかも多関節ロボットの小型化を実現することができる。
【0082】
上記のとおりコネクタ83,84によるケーブル取り出しがモジュール軸方向のみになっている構成は、モータモジュール11の外周側を配線ユニット13の回転軸とする本実施形態の関節アクチュエータ10にとって好適な構成であると言える。
【0083】
ロボットシステムのアクチュエータ電気配線として用いられるFPCケーブル82は、複数の関節アクチュエータ10に対応する複数系統の回路配線を有するものであるため、電気系統における構成の簡素化を大いに図ることができる。また、多関節ロボットにおいて、FPCケーブル82により電力供給や信号伝達が可能な系統数分の範囲で、共通のFPCケーブル82を用いつつ関節アクチュエータ10の増設を容易に実施できる。
【0084】
また、アクチュエータ電気配線としてFPCケーブル82を採用したことにより、以下の効果を奏する。例えば、フラットケーブル(FFC)を用いる構成と比べると、FPCケーブル82はフラットケーブルに比べて薄肉であり、それ故にその薄さで耐久性を出すためにFPCケーブル同士の接触面の構造はフラットケーブルに比べて硬く、その硬さの分だけ互いに面接触しても滑りやすい。よって、ロボットの関節のような高速回転する部分に巻きつける配線としても絡み難いといえる。よって、より配線の絡み問題に対する性能向上を図ることができる。
【0085】
また、FPCケーブル82は、その実体は薄いと言っても基板であることから、FPCケーブル82の周回部分において径方向に余分な負荷をかけることは望ましくない。この点、本実施形態の構成では、FPCケーブル82は、モータハウジング27の外周側での動きが許容されており、モータ駆動時における負荷の軽減が図られている。産業用ロボットの場合、生産効率の観点から、ロボットの運転を中止して修理等を行うことは極力避けたいことであるが、FPCケーブル82が故障要因になる可能性が低いことから、生産効率を高める点からも望ましい構成であると言える。
【0086】
配線ユニット13に複数(本実施形態では2つ、3つ以上も可)のFPCケーブル82を設けたため、回路配線の系統数の一層の増加が可能となっている。この場合、FPCケーブル82は薄板状でかつ可撓性を有するものであるため、複数のFPCケーブル82を重ねた状態でモータハウジング27の外周に周回させて設けることができ、モータモジュール11の限られた設置領域(モータハウジング27と配線カバー72との間に形成される環状空間部)であっても複数のFPCケーブル82の設置が可能となっている。
【0087】
複数のFPCケーブル82を用いた構成において各FPCケーブル82の巻回数(巻回角度)を各々相違させ、各FPCケーブル82のエンドカバー14側のコネクタ84を分散して設ける構成とした。これにより、関節アクチュエータ10においてエンドカバー14側での径方向の寸法の拡大を抑制できる。
【0088】
また、各FPCケーブル82の巻回数(モータハウジング外周の周回数)が各々異なっている構成では、各FPCケーブル82がロータ21の回転により巻回数を多くする方向に又は巻回数を少なくする方向に捩れる(回転する)場合に、各FPCケーブル82において回転動作に伴う径方向の変位量が各々相違するため、各FPCケーブル82の回転の挙動が各々異なるものとなると考えられる。かかる場合、ロータ21が正逆両方向に回転することで、ケーブル巻回部において複数のFPCケーブル82が互いに離れたり近づいたりするため、ケーブル同士の固着等の不都合を抑制できる。
【0089】
モータモジュール11において回転駆動部23やブレーキ部24に対する電力供給及び信号伝達を行うモータモジュールケーブル51が、配線ユニット13のコネクタ84においてFPCケーブル82に電気的に接続され、さらにコネクタ84においてFPCケーブル82の複数系統の回路配線のうちいずれかがモータモジュールケーブル51に振り分けられる構成となっている。これにより、複数系統の回路配線を有するFPCケーブル82を用いつつも、電力供給や信号伝達の対象となる各アクチュエータの回転駆動部23やブレーキ部24に対して好適に電力供給や信号伝達を好適に行わせることができる。
【0090】
エンドカバー14を、モータハウジング27の円筒部分(筒体73が組み付けられる部分)の外径寸法に比べて大径に形成し、そのエンドカバー14には、モータハウジング27よりも大径となる張出部分に開口させて、コネクタ84を挿通配置するための開口部14aを形成した。これにより、モータハウジング27の外周にFPCケーブル82を周回させて設ける構成において、そのFPCケーブル82の端部に設けられたコネクタ84を容易に取り付けることができる。
【0091】
モータモジュール11において、ステータ32がロータ21の軸方向の一部に対向して設けられているとともに、ロータ21の軸方向においてステータ32に対向していない部位に対向させて、減速部22(減速機ユニット61)とブレーキ部24(ブレーキ本体41)とが設けられているため、ロータ21を中心にして同軸上にこれらステータ32、減速機ユニット61及びブレーキ本体41をコンパクトに配置できる。したがって、これら各部材が多軸で配置される構成に比べて、アクチュエータ全体の小型化を実現できる。
【0092】
また、ロータ21においてステータ32との対向部分を大径に、それ以外を小径にしているため、モータモジュール11としての回転能力を確保しつつ、径方向における大型化を抑制できるものとなっている。
【0093】
関節アクチュエータ10において、当該アクチュエータ10の構成要素であるモータモジュール11、トップカバー12、配線ユニット13、及びエンドカバー14は、ボルトやネジ等からなる複数の締結具により締結可能であってかつ締結具の締結解除により分離も可能となっている。したがって、関節アクチュエータ10において、モータモジュール11に組み合わせる配線ユニット13を変更する等を容易に実施できる。例えば、FPCケーブル82の設置形態が異なる複数の配線ユニット13(具体的には、FPCケーブル82の枚数や、FPCケーブル82の回路配線数が異なる複数の配線ユニット13)を用意しておき、それら配線ユニット13の交換を実施する構成であってもよい。
【0094】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0095】
・上記実施形態では、モータモジュール11においてモータハウジング27内に回転駆動部23(モータ)とブレーキ部24とを収容する構成としたが、これら回転駆動部23やブレーキ部24に加えて、モータハウジング27内に減速機ユニット61を収容する構成としてもよい。
【0096】
・モータモジュール11の減速機として、ハーモニックドライブ構造の減速装置に代えて、遊星歯車式の減速装置を用いることも可能である。
【0097】
・配線ユニット13において、FPCケーブル82を1枚のみ設ける構成であってもよい。また、3枚以上のFPCケーブル82を設ける構成であってもよい。
【0098】
・上記実施形態では、アクチュエータ電気配線としてFPCケーブルを用いたが、これを変更してもよい。例えば、アクチュエータ電気配線として、平角導体を並列に配置してなるFFC(フレキシブルフラットケーブル)を用いてもよいし、複数の線状導体からなるワイヤハーネスを用いてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…関節アクチュエータ、11…モータモジュール、12…トップカバー(出力側端面部材)、13…配線ユニット、14…エンドカバー(固定側端面部材)、21…ロータ、22…減速部、23…回転駆動部(モータ)、24…ブレーキ部、25…回転検出部、27…モータハウジング、32…ステータ、34,35…ベアリング、51…モータモジュールケーブル(モジュール電気配線)、61…減速機ユニット(減速機)、64…サーキュラスプライン(減速機の出力軸)、73…筒体(筒状部材)、81…ケーブルセット(アクチュエータ電気配線)、82…FPCケーブル、83,84…コネクタ(アクチュエータコネクタ)、83c,84c…外部接続端子、87…連結基板部(配線振分部)、90…多関節ロボット、92…連結アーム、96〜99…アームコネクタ、101,102…アーム配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関節アクチュエータを備えた多関節ロボットであって、
前記関節アクチュエータは、
通電により回転駆動されるロータを有するモータと、前記ロータの回転を所定の減速比で減速させる減速機と、前記ロータの回転を停止させるブレーキ装置と、前記ロータと同軸となる外周面を有し前記モータ及び前記ブレーキ装置を収容する円筒状のモータハウジングとを備えてなるモータモジュールと、
ロボットシステムの電力供給及び信号伝達に用いられるアクチュエータ電気配線を有し、前記モータモジュールに対して組み付けられる配線ユニットと、
を備え、
前記モータモジュールにはその軸方向両端部を塞ぐ端面部材がそれぞれ設けられ、そのうち一方が前記減速機の出力軸と一体に回転する出力側端面部材、他方が前記モータハウジングに一体化されている固定側端面部材であり、
前記アクチュエータ電気配線は、配線両端部にそれぞれ設けられ外部接続端子を含んでなるアクチュエータコネクタを有し、それら各コネクタが、前記出力側端面部材及び前記固定側端面部材にそれぞれ取り付けられるとともに、前記各コネクタの間の中間部分となる配線中間部分が、前記モータハウジングの外周に周回させて設けられ、
前記配線ユニットは、前記モータハウジングの外周側に設けられ前記減速機の出力軸の回転時に前記モータハウジングを回転軸として回転する筒状部材を備え、前記筒状部材に前記アクチュエータ電気配線の一部が固定されており、
さらに、一の関節アクチュエータの前記出力側端面部材と、他の関節アクチュエータの前記固定側端面部材とにそれぞれ連結されてそれら両関節アクチュエータを一体結合する連結アームを有し、
前記連結アームにおいて前記出力側端面部材との連結部分及び前記固定側端面部材との連結部分には、それぞれ前記アクチュエータコネクタに対して結合されるアームコネクタが設けられていることを特徴とする多関節ロボット。
【請求項2】
前記アクチュエータ電気配線は、薄板状をなすFPCケーブルを有して構成されており、
前記FPCケーブルは、前記複数の関節アクチュエータについて各々のモータ及びブレーキ装置に対する電力供給及び信号伝達を可能とする複数系統の回路配線を有している請求項1に記載の多関節ロボット。
【請求項3】
前記モータモジュールにおいて、前記モータハウジングの内側には前記モータ及び前記ブレーキ装置に接続されこれらモータ及びブレーキ装置に対する電力供給及び信号伝達を行うモジュール電気配線が設けられ、
前記モジュール電気配線は、前記アクチュエータ電気配線に対して配線振分部を介して接続され、
前記配線振分部において前記アクチュエータ電気配線の複数系統の回路配線のうちいずれかが前記モジュール電気配線に電気的に接続されている請求項2に記載の多関節ロボット。
【請求項4】
前記関節アクチュエータにおいて前記FPCケーブルは複数用いられ、該複数のFPCケーブルが内外に重なった状態で前記モータハウジングの外周に周回させて設けられており、
前記複数のFPCケーブルでは各々の周回数が異なっている請求項2又は3に記載の多関節ロボット。
【請求項5】
前記モータモジュールにおいて、前記ロータに回転力を生じさせるためのステータが前記ロータの軸方向の一部に対向して設けられているとともに、前記ロータの軸方向において前記ステータに対向していない部位に対向させて、前記減速機と前記ブレーキ装置とが設けられている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の多関節ロボット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−35372(P2012−35372A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178505(P2010−178505)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】