説明

大引載架用鋼製束及びその装着方法

【課題】鋼製大引にワンタッチで装着できるようにした大引載架用鋼製束及びその装着方法を提供する。
【解決手段】束本体11の上部に上下可動に支持される平面視略矩形状の支持板12の対辺には、鋼製大引1の開口部5に嵌入される一対の立上嵌入部13,13がそれぞれ形成され、前記一対の立上嵌入部13,13と90°位相を異にする支持板12の他の対辺からそれぞれ立上壁141,151が形成され、一方の立上壁141には、内方に折曲形成されて鋼製大引1の一方の係合部4に抜け止め状に係合される抜止被係合部14が形成され、他方の立上壁151の内側には、鋼製大引1の他方の係合部4に押込み係合可能な傾斜面152aを有する押込被係合部15が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建屋の床板支持部材(根太)を受載する鋼製大引を基礎上に支持するための大引載架用鋼製束及びその装着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時は、建屋の根太を支持するために鋼製大引が用いられ、その鋼製大引をコンクリート基礎に立設した金属製の束部材(鋼製束)に支持させて、両者をボルトやナット等の締結部材で固定するような施工が行われるようになった。しかし、締結部材を用いて鋼製大引と鋼製束を固定するのは大変面倒で手間がかかるため、このような締結部材を用いることなく、鋼製大引を一体化させることができる鋼製大引用束金物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この鋼製大引用束金物は、少なくとも天面と、該天面の両側から下方に向けて折曲形成される側壁と、を有し、該側壁の下部には外方に突出する係合部が形成され、かつ、両側壁の下部内側には開口部が形成された弾性変形可能な鋼製大引を支持するように構成され、束本体の上部に上下可動に支持される支持板には、鋼製大引の係合部を係合させるための被係合部と鋼製大引の開口部に挿入可能な挿入部が設けられ、鋼製大引の係合部に被係合部を係合させた後、ハンマー等で挿入部を鋼製大引の開口部に叩き込んで塑性変形させることで、支持板を鋼製大引に固定することができる。従って、ボルトやナット等の締結部材は必要としない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−115629公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例のように、ハンマー等で挿入部を叩き込む作業も面倒で手間がかかるものであった。即ち、挿入部を開口部に能率よく叩き込むためには、鋼製大引の天面を下向けにして開口部を上に向けた状態に載置して、その上に、鋼製束を倒置した状態に載せて、挿入部を上方から叩き込めばよい。しかし、このような叩き込み作業は、多大の労力を要するため、現場への搬入前に工場内等で行われるのが普通であり、いわゆる現場合わせは容易ではなかった。現場合わせを可能とするためには、ハンマー等を用いることなく、もっと簡単な操作で鋼製大引に装着できることが要件とされる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、鋼製大引にワンタッチで装着できるようにした大引載架用鋼製束及びその装着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る大引載架用鋼製束は、少なくとも天面と、該天面の両側から下方に向けて折曲形成される側壁と、を有し、該側壁の下部には、外方に突出する係合部が形成され、かつ、両側壁の内側下部には開口部が形成される弾性変形可能な鋼製大引を載架するための大引載架用鋼製束にあって、
束本体の上部に上下可動に支持される平面視略矩形状の支持板の対辺には、前記鋼製大引の開口部に嵌入される一対の立上嵌入部がそれぞれ形成され、前記一対の立上嵌入部と90°位相を異にする前記支持板の他の対辺からそれぞれ立上壁が形成され、一方の前記立上壁には、内方に折曲形成されて前記鋼製大引の一方の係合部に抜け止め状に係合される抜止被係合部が形成され、他方の前記立上壁の内側には、前記鋼製大引の他方の係合部に押込み係合可能な傾斜面を有する押込被係合部が形成されることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、鋼製大引の一方の係合部に抜止被係合部を係合させた後、その一方の係合部を支点として、大引載架用鋼製束を鉛直面内に回動させて鋼製大引の他方の係合部を弾性変形させつつ該係合部に押込被係合部を押込み係合させる際に、鋼製大引の開口部に一対の立上嵌入部を嵌入させることで、ワンタッチで鋼製大引に装着することができる。従って、ハンマー等の工具を必要とせず、現場合わせが容易となる。
【0009】
また、鋼製大引を載架した状態では、鋼製大引下部の開口部に大引載架用鋼製束の立上部が嵌入されており、かつ、両係合部に、大引載架用鋼製束の抜止被係合部と押込被係合部が弾性的に係合しているので載架状態が安定化する。従って、ボルトやナット等の締結部材で鋼製大引と大引載架用鋼製束を固定する必要はない。
【0010】
さらに、施工前に、鋼製大引に一旦装着した大引載架用鋼製束を取り外すには、鋼製大引の両側壁を挟み付けて係合部の係合方向とは逆方向に少し弾性変形させ、大引載架用鋼製束の押込被係合部の他方の係合部に対する係合状態を解除させる方向に大引載架用鋼製束を回動させれば容易に取り外すことができるので、現場での位置調整(現場合わせ)も容易である。
【0011】
(2)前記支持板には、前記鋼製大引との間に間装される緩衝材が被着されていてもよい。このようにすれば、鋼製大引と大引載架用鋼製束の間で衝撃が緩衝されるため、建物に何らかの外力(例えば、地震等)が作用しても、衝撃が緩衝されると共に、鋼製大引との接触部分に金属の摩擦音が発生するのを防止することができる。その緩衝材には、例えば、発泡EPDM等の高分子材料を用いることができる。
【0012】
(3)本発明に係る大引載架用鋼製束の装着方法は、前記(1)項又は(2)項に記載の大引載架用鋼製束を鋼製大引にワンタッチで装着するための方法にあって、
前記鋼製大引を前記両係合部を上に向けた倒置状態に載置し、前記一方の係合部に前記抜止被係合部を係合させた後、前記一方の係合部を支点として、前記大引載架用鋼製束を鉛直面内に回動させて前記他方の係合部を弾性変形させつつ該係合部に前記押込被係合部を押込み係合させる際に、前記開口部に前記一対の立上部を嵌入させることを特徴とする。
【0013】
このような方法によれば、大引載架用鋼製束の押込被係合部を鋼製大引の係合部に押し込むだけの簡単な操作で、ハンマー等の打撃工具を必要とすることなく、ワンタッチで大引載架用鋼製束を鋼製大引に装着することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る大引載架用鋼製束は、鋼製大引の一方の係合部に抜止被係合部を係合させた後、前記一方の係合部を支点として、大引載架用鋼製束を鉛直面内に回動させて鋼製大引の他方の係合部を弾性変形させつつ該係合部に押込被係合部を押込み係合させる際に、鋼製大引の開口部に一対の立上嵌入部を嵌入させることにより、ハンマー等の打撃工具を必要とすることなく、ワンタッチで大引載架用鋼製束を鋼製大引に装着することができ、現場合わせも容易に行える。
【0015】
また、鋼製大引を載架した状態では、鋼製大引下部の開口部に大引載架用鋼製束の立上嵌入部が嵌入されており、かつ、両係合部には、大引載架用鋼製束の抜止被係合部と押込被係合部に弾性的に係合しているので載架状態が安定化するため、ボルトやナット等の締結部材で鋼製大引と大引載架用鋼製束を固定する必要はない。
【0016】
さらに、施工前に、鋼製大引に一旦装着した大引載架用鋼製束を取り外すには、鋼製大引の両側壁を挟み付けて係合部の係合方向とは逆方向に少し弾性変形させ、大引載架用鋼製束の抜止被係合部の他方の係合部に対する係合状態を解除させる方向に大引載架用鋼製束を回動させれば、容易に取り外すことができ、現場での位置調整(現場合わせ)も容易である。
【0017】
本発明に係る大引載架用鋼製束の装着方法は、大引載架用鋼製束の押込被係合部を鋼製大引の係合部に押し込むだけの簡単な操作で、ハンマー等の打撃工具を必要とすることなく、ワンタッチで大引載架用鋼製束を鋼製大引に装着することができ、現場合わせも容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る大引載架用鋼製束について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
〔実施の形態1〕
図1は、鋼製大引を載架した状態の大引載架用鋼製束の正面図、図2(a)は大引載架用鋼製束の正面図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図、(c)は平面図、(d)は底面図、図3(a)乃至(d)は鋼製大引への装着手順を示す説明図である。まず、図1にて、符号1は弾性変形可能な素材で形成された鋼製大引、2は天面、3は天面2の両側から下方に向けて折曲形成される側壁、4は、側壁3の下部に外側に向けて突出形成される係合部、5は、両側壁3,3の内側下部に形成される開口部である。
【0020】
より詳しくは、鋼製大引1の側壁3はその下部をやや内側に向けて若干傾斜させて形成され、その側壁3の下部を外方に向けて段違い状に少し突出させて係合部4を高剛性に形成し、該係合部4から下方に折曲させて垂下壁41を形成し、該垂下壁41の下端を内方に折曲させて底壁42を形成し、該底壁42の内端から上方に折曲させて立上壁43を形成し、その立上壁43の上端を外方に折曲して剛性を向上させ、その左右の立上壁43の間に剛性の高い開口部5を形成している。
【0021】
10は大引載架用鋼製束で、11は束本体(ターンバックル)、12は束本体11の上部に上下可動に支持される支持板で平面視略矩形状に形成される。13は、鋼製大引1の開口部5に嵌入される立上嵌入部で、支持板12の一対の対辺の中央部を切り欠いて上方に向けて折曲形成され、その両肩部は開口部5への嵌入を容易とするために先細りのテーパー状に形成されている。
【0022】
14は、鋼製大引1の一方の係合部4に係合する抜止被係合部で、立上嵌入部13,13と90°位相を異にする支持板12の他の対辺の一方を上方に折曲して立上壁141を形成し、該立上壁141の上端を内方に折曲して、逆L字状に形成され、鋼製大引1の一方の係合部4に係合に抜け止め状に係合される。
【0023】
15は、鋼製大引1の他方の係合部4に押込み係合可能な傾斜面152aを有する押込被係合部で、抜止被係合部14に対向する支持板12の対辺を上方に折曲して立上壁151を形成し、該立上壁151の上部の一部を内側に向けて斜めに切り起こして、切起片152を2つ形成し、切起片152の内側に傾斜面152aを形成している。
【0024】
束本体11の上部と下部には、それぞれ上ボルト21と下ボルト22が螺合し、その上ボルト21と下ボルト22には、それぞれナット23と座金24が装着されており、下ボルト22とこれに螺合する束本体11の下部とナット23は逆ねじに形成されている。
【0025】
鋼製大引1を載架する支持板12は、鋼製大引1の載架方向に直行する方向の底面に一対の補強溝12a,12aを有し、底面中央部には円形の凹状部12bが形成され、該凹状部12bに上ボルト21が嵌挿されてスポット溶接されている。一方、コンクリート基礎25に着座するベースプレート26は、平面視で略矩形状に形成され、その中央部に円形の凹状部が形成され、該凹状部に下ボルト22が嵌挿されて溶接されている。
【0026】
このように構成される大引載架用鋼製束10は、束本体11を回動操作することで、支持板12の高さを調整することができ、高さを調整した後、それぞれ、ナット23を束本体11に対して締め付けることで、上ボルト21と下ボルト22を束本体11に固定し、支持板12の高さ位置を固定することができる。
【0027】
以上のような大引載架用鋼製束10を鋼製大引1に装着する手順の一例について、図3(a)乃至(d)に基づいて説明する。まず、鋼製大引1を天面2を下にして両係合部4,4を上に向けた倒置状態に載置し、一方の係合部4に大引載架用鋼製束10の抜止被係合部14を係合させ(図3(a)参照)、その一方の係合部4を支点として、大引載架用鋼製束10を鉛直面内に図示反時計回りに回動させ(図3(b)参照)、他方の係合部4を弾性変形させつつ該係合部4に押込被係合部15を押込み係合させる際に(図3(c)参照)、鋼製大引1の開口部5に一対の立上部13,13を嵌入させれば装着作業が完了する(図3(d)参照)。
【0028】
図3(a)乃至(d)に示す一連の動作は、鋼製大引1の一方の係合部4に大引載架用鋼製束10の抜止被係合部14を係合させて、その大引載架用鋼製束10を回動させて押込被係合部15を他方の係合部4に押込み係合させるだけであるから、ハンマー等の工具を必要とすることなく、また、熟練を要することもなく、ワンタッチ動作で作業性よく行うことができる。従って、現場合わせも容易である。
【0029】
大引載架用鋼製束10を鋼製大引1に装着した状態では(図1参照)、下部の開口部5を形成する両立上壁43,43間に大引載架用鋼製束10の立上部13,13が所定の間隔をおいて密に嵌入されており、かつ、鋼製大引1の垂下壁41と底壁42が、大引載架用鋼製束10の立上壁141と支持板12の底面に密接した状態で、鋼製大引1の両係合部4,4に大引載架用鋼製束10の抜止被係合部14と押込被係合部15が弾性的に係合しているため、鋼製大引1の載架状態がきわめて安定なものとなる。従って、ボルトやナット等の締結部材で鋼製大引1を大引載架用鋼製束10に固定する必要は全くない。
【0030】
さらに、一旦、鋼製大引1に装着した大引載架用鋼製束10を取り外すには、鋼製大引1の両側壁3,3を挟み付けて係合部4,4の係合方向とは逆方向に少し弾性変形させ、大引載架用鋼製束10の押込被係合部15の他方の係合部4に対する係合状態を解除させる方向に大引載架用鋼製束10を回動させれば、容易に取り外すことができるので、現場での位置調整も容易である。
【0031】
〔実施の形態2〕
図4は別の実施の形態を示す。なお、前実施の形態と同一又は同等部材については、同一符号を付し、その説明を省略する。この例では、支持板12に、鋼製大引1との間に間装される緩衝材31を被着させている。即ち、緩衝材31は、支持板12の底面からそれぞれ左右の立上壁141、151にかけて接着剤等により略L状に被着されている。緩衝材31の素材としては、例えば、発泡EPDM等の高分子材料を用いることができる。このようにすれば、鋼製大引1と大引載架用鋼製束10の間で衝撃が緩衝されるため、建物に何らかの外力(例えば、地震等)が作用しても、衝撃を緩衝することができ、また、鋼製大引1との接触部分に金属の摩擦音が発生するのを防止することができる。
【0032】
なお、本発明は、実施の形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、設計変更や改良等は自由であり、例えば、鋼製大引1については、少なくとも、天面2と側壁3と、側壁3の下部に外方に突出するように形成される係合部4と、両側壁3,3の内側下部に形成される開口部5と、を有して弾性変形可能であれば、その形状の如何を問わない。また、実施の形態では、押込被係合部15に形成される切起片152を2つ形成しているが、これを連続的に形成してもよく、また、3つ以上形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鋼製大引を載架した状態の大引載架用鋼製束の正面図である。
【図2】(a)は同大引載架用鋼製束の正面図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図、(c)は平面図、(d)は底面図である。
【図3】(a)乃至(d)は大引載架用鋼製束の装着手順の段階的な説明図である。
【図4】(a)は本発明の実施の形態2に係る大引載架用鋼製束の正面図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図、(c)は平面図、(d)は底面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…鋼製大引、2…天面、3…側壁、4…係合部、5…開口部、11…束本体、12…支持板、13…立上嵌入部、14…抜止被係合部、15…押込被係合部、141,151…立上壁、152a…傾斜面、31…緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも天面と、該天面の両側から下方に向けて折曲形成される側壁と、を有し、該側壁の下部には、外方に突出する係合部が形成され、かつ、両側壁の内側下部には開口部が形成される弾性変形可能な鋼製大引を載架するための大引載架用鋼製束であって、
束本体の上部に上下可動に支持される平面視略矩形状の支持板の対辺には、前記鋼製大引の開口部に嵌入される一対の立上嵌入部がそれぞれ形成され、前記一対の立上嵌入部と90°位相を異にする前記支持板の他の対辺からそれぞれ立上壁が形成され、一方の前記立上壁には、内方に折曲形成されて前記鋼製大引の一方の係合部に抜け止め状に係合される抜止被係合部が形成され、他方の前記立上壁の内側には、前記鋼製大引の他方の係合部に押込み係合可能な傾斜面を有する押込被係合部が形成されることを特徴とする大引載架用鋼製束。
【請求項2】
前記支持板には、前記鋼製大引との間に間装される緩衝材が被着されていることを特徴とする大引載架用鋼製束。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の大引載架用鋼製束を鋼製大引にワンタッチで装着するための方法であって、
前記鋼製大引を前記両係合部を上に向けた倒置状態に載置し、前記一方の係合部に前記抜止被係合部を係合させた後、前記一方の係合部を支点として、前記大引載架用鋼製束を鉛直面内に回動させて前記他方の係合部を弾性変形させつつ該係合部に前記押込被係合部を押込み係合させる際に、前記開口部に前記一対の立上部を嵌入させることを特徴とする大引載架用鋼製束の装着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−152615(P2006−152615A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342762(P2004−342762)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000108638)タカヤマ金属工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】