説明

天然ガス貯蔵タンク

【課題】天然ガスから成分分離・凝集を抑制し、天然ガスの貯蔵を良好に行なう。
【解決手段】天然ガスを貯蔵するガス貯蔵容器に接続されたNG流通管11の接続部における内断面の面積pとNG貯蔵容器12の内断面の最大面積qとの比(p:q)を1:225〜1:64とする。ガス貯蔵容器には天然ガスを吸着する天然ガス吸着剤が収容されている。さらにガス供給時の温度低下を防ぐために昇温手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスを貯蔵し、排出するのに好適な天然ガス貯蔵タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、天然ガスを貯蔵する場合、天然ガスを圧縮してボンベに充填したり、天然ガスを吸着等する材料などを用いる方法が広く利用されている。
【0003】
ところが、ボンベでは容積が大きい割りに壁厚が大きいために内容量が小さく、重量も大きいことから、特に吸着などの化学的もしくは物理的な方法による貯蔵技術に関する検討が盛んに行なわれている。このような貯蔵技術は、貯蔵タンクや装置のコンパクト化、軽量化が可能であり、配置空間に制限を受ける例えば車載用等の用途において期待されている。
【0004】
上記に関連して、側壁の長手方向軸線が形成する平面に垂直な中心軸線周りに単一の平面内で巻かれた細長い管状部材よりなる車両用圧縮天然ガスタンクが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実登第3036588号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、天然ガスは一般に、主成分であるメタン以外にプロパン、ブタン等の重成分を含んでおり、これらの重成分は通常はメタンと混合ガスの状態にあるが、何らかの原因で分離してしまうと、再び混合ガスの状態には戻りにくく、天然ガスを貯蔵する材料の貯蔵性能を損なう。例えば、天然ガスの吸着する吸着サイトとなる細孔を有する吸着材では、細孔中で分離後の重成分が凝集しやすくなり、凝集してしまうと細孔を塞いで本来の貯蔵性能を得ることができない。
【0006】
例えば天然ガスを高圧タンク等に充填する際、天然ガスがこれを流通するガス管より容積の大きい高圧タンク等に導入されると、急激な断熱膨張によりガス温度が急激に低下して、ブタン等の重成分が混合ガス中から分離し、凝集する。この凝集は、吸着材などの内部で生じやすく、例えば吸着材の化学もしくは物理吸着に寄与する細孔で凝集が起きると、細孔を塞ぎ、吸着材中へのガス流入の妨げとなる。一旦凝集が生ずると、これに伴なって凝集が起こりやすくなり、この繰り返しにより悪化する。そのため、天然ガスの充填・放出を繰り返すにしたがって次第に貯蔵量は低下し、一回の充填で使用可能なガス量(放出量)も低下する。
【0007】
このように、吸着などの化学的もしくは物理的な方法は有用とされているものの、かかる方法により貯蔵を行なうメリットが得られていないのが実状である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、天然ガスからの成分分離・凝集を抑制して天然ガスを良好に貯蔵することができる天然ガス貯蔵タンクを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、配管から容積の大きい容器内に天然ガスが供給される等、急激な断熱膨張を伴なう供給系では、断熱膨張による冷却が大きいために天然ガス中に混在するプロパンやブタン等の重成分が分離し、ひいては凝集を起こすことにより、貯蔵材料の細孔等の貯蔵サイトを減少させ、貯蔵/放出効率および貯蔵/放出量を低下させるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の発明である天然ガス貯蔵タンクは、天然ガスを貯蔵するガス貯蔵容器に接続されたガス流通管の接続部における内断面の面積pと、前記ガス貯蔵容器の前記接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積qとの比率(p:q)が1:225〜1:64の範囲になるように構成したものである。
【0011】
第1の発明においては、天然ガスを流通するガス流通管とこのガス流通管から天然ガスが供給されるガス貯蔵容器との間の、ガス流通方向と直交する各内断面の断面積の比率(p:q)に着目し、ガス貯蔵容器に接続されたガス流通管の接続部における内断面の面積pに対し、ガス貯蔵容器の、ガス流通管との接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積qが大きくなりすぎないように、両内断面の面積比率(p:q)を1:225〜1:64の範囲内にすることで、天然ガスがガス流通管からガス貯蔵容器に流入した際の断熱膨張による温度低下が抑えられ、天然ガスからのプロパンやブタン等の重成分の分離、凝集を抑制し、ガス貯蔵容器へのガス貯蔵特性(特に天然ガスの貯蔵/放出量および貯蔵/放出効率)の劣化を低減することができる。
【0012】
特に、ガス貯蔵容器内に、天然ガスの吸着サイトになる細孔を有する吸着材(カーボンナノチューブなどの炭素材料等)が収容されている場合に有効である。上記のように、天然ガス中のブタン等の重成分が凝集することで吸着サイトである細孔が閉塞されることによる吸着サイトの減少を回避することができるので、短期間に所期のガス貯蔵/放出量が大幅に低下することなく、長期間ガス貯蔵/放出性能を保持することができる。
【0013】
第2の発明である天然ガス貯蔵タンクは、ガス貯蔵容器に器壁から器内方向に一端を突出させて接続されたガス流通管の接続部と前記一端との間の管壁に少なくとも1つの孔を有し、前記孔の総面積rと、前記ガス貯蔵容器の前記接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積sとの比率(r:s)が1:225〜1:64となるように構成したものである。
【0014】
第2の発明においては、天然ガスを放出する孔の開口サイズとこの孔から天然ガスが供給されるガス貯蔵容器のサイズとの間の比率に着目し、天然ガスを流通するガス流通管に設けられた孔の総面積rに対し、ガス貯蔵容器の、ガス流通管との接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積sが大きくなりすぎないように、総面積rおよび最大面積sの面積比率(r:s)を1:225〜1:64の範囲内にすることで、天然ガスがガス流通管からガス貯蔵容器に流入した際の断熱膨張による温度低下を抑えることが可能であり、天然ガスからのプロパンやブタン等の重成分の分離、凝集を抑制し、ガス貯蔵容器へのガス貯蔵特性(特に天然ガスの貯蔵/放出量および貯蔵/放出効率)の劣化を低減することができる。
【0015】
また、第2の発明におけるガス流通管には、複数の孔を設けることができ、複数の孔を設ける場合は、ガス貯蔵容器の器壁から器内方向に突出した突出端である一端に最も近い孔の面積sと最も遠い孔、つまり器壁(接続部)に最も近い孔の面積s(n>2)との間の比率(s:s)が2:1〜3:1であることが、天然ガスがガス貯蔵容器に流入した際の断熱膨張による温度低下をより効果的に抑制することができる。
第1の発明と同様に、ガス貯蔵容器内に、天然ガスの吸着サイトになる細孔を有する吸着材(カーボンナノチューブなどの炭素材料等)が収容されている場合に特に有効である。
【0016】
第1および第2の発明である天然ガス貯蔵タンクには、ガス流通管からガス貯蔵容器に供給された天然ガスの温度を上昇させる昇温手段を設けることができる。ガス貯蔵容器に天然ガスを供給する場合に、供給された天然ガスの温度が供給時の断熱膨張により大きく低下しないように、昇温手段により加熱されるので、供給時の断熱膨張が原因で天然ガス中の重成分が分離、凝集するのを抑えることができる。凝集の抑制により、カーボンナノチューブなどの炭素材料等吸着材など、吸着サイトになる細孔を有する場合などのガス貯蔵特性(特に天然ガスの貯蔵/放出量および貯蔵/放出効率)の低下を低減することができる。
【0017】
昇温手段による天然ガスの加熱は、断熱膨張に伴なう冷却で生じる重成分の分離、凝集をより効果的に防止する観点から、50℃以上の温度に上昇されるように行なわれるのが望ましい。
【0018】
本発明の天然ガス貯蔵タンクは、ガスの供給が行なわれるときには一般に細長い管がこれより内容積の大きい容器に接続された構造に構成されるが、このような構造のまま天然ガスを供給して充填する場合における、充填/放出効率および充填/放出量の安定したシステムを構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、天然ガスから成分分離・凝集を抑制して天然ガスを良好に貯蔵することができる天然ガス貯蔵タンクを提供することができる。特に、天然ガスの貯蔵/放出量および貯蔵/放出効率の良好な天然ガス貯蔵タンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の天然ガス貯蔵タンクの実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の天然ガス貯蔵タンクの第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。本実施形態の天然ガス貯蔵タンクは、天然ガス(以下、NGと略記することがある。)が流通するNG流通管の内断面の面積(面積pという)と、NGが供給されるNG貯蔵容器の内断面の断面積(最大面積qという)との比(p:q)を1:100とし、供給された天然ガスの分離、凝集が起きない構成としたものである。
【0022】
本実施形態では、NG貯蔵タンク内に天然ガス吸着材として「やしがら炭」を収容した場合を例に説明する。但し、本発明においては、下記実施形態に制限されるものではない。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の天然ガス貯蔵タンクは、NG(天然ガス)が流通するガス流通管であるNG流通管11と、天然ガス吸着材である「やしがら炭」を収容し、NG流通管11から供給されたNGを貯蔵するガス貯蔵容器であるNG貯蔵容器12と、を備えている。
【0024】
NG流通管11は、天然ガス(NG)が流通し、流通するNGの流通方向下流側となる一端でNG貯蔵タンク12と接続されている。また、他端は、天然ガス貯蔵タンクとは別に外部に設置された図示しない天然ガス供給装置と接続できるようになっている。
【0025】
このNG流通管11は、図1のように、内径Aが4mmであるSUS316(またはSUS310等)製の筒状構造を有しており、NG流通方向と直交する断面は略一様な円形状になっている。ここで、内径4mmの円形断面がNG流通管の内断面であり、内断面の面積pは4πmmである。
【0026】
NG貯蔵容器12は、内径B40mm、長さ3.0m、内容積3.7LであるSUS316(またはSUS310等)製の筒状体の、長手方向の両端が曲面で閉塞された構造になっており、その一方の曲面(閉塞端)にはNG給排口13が形成され、このNG給排口13においてNG流通管11の一端が接続されている。NGの充填は、NGの供給開始から5分間で行なえるようになっている。なお、材質として、自動車用などでは軽量化が重要であるため、アルミニウムのライナーの周囲がカーボンファイバーやグラスファイバー等で補強されたCFRP、FRP耐圧容器も用いられる。
【0027】
NGは、図1に示すように、NG流通管11からNG貯蔵容器12中を他方の曲面(閉塞端)の方向に向かって流通していくが、このNGの流通方向と直交するNG貯蔵容器12の断面、すなわち内径40mmの円形断面がNG貯蔵容器の内断面であり、この内断面は両閉塞端の一方から他方に至るまで略一様な円形に構成されている。したがって、NG貯蔵容器12の内断面の最大面積qは、400πmmである。
【0028】
NG貯蔵容器12の内部には、天然ガスを吸着して貯蔵する天然ガス吸着材である「やしがら炭」14が収容されており、NG流通管11を流通してNG貯蔵容器12内にNGが供給されたときには、供給されたNGをNG貯蔵容器12内のやしがら炭14に吸着させて貯蔵する。また、外部に設置された天然ガスで動作する不図示のNG使用装置(例えば、エンジン、NG改質器)からNG排出要求があったときには、NG流通管11に設置されているバルブ(レギュレータバルブ)を開放する等により貯蔵されているNGをNG使用装置に供給できるようになっている。
【0029】
天然ガス吸着材には、やしがら炭以外に、例えば、カーボンナノチューブ等のカーボン繊維や、活性炭、フラーレン等の炭素材料、FSM(SiO系)、MOF(金属錯体系)等のメソ多孔体などを用いることができる。
なお、天然ガス吸着材の種類やNG貯蔵容器内への収容量については、特に制限はなく、フル充填した際の充填量や充填時間など場合に応じて適宜選択することができる。
【0030】
また、NG貯蔵容器12内には、内部の雰囲気温度を昇温するため、熱媒体(加熱された水等)を流通させるための熱媒体通路15が設けられており、連続的にあるいは必要に応じて、断熱膨張によるNGの大きな温度低下を抑制できるようになっている。熱媒体の流通を開始し、供給されたNGの温度を、天然ガス中の重成分の分離、凝集が起きない温度域に保つことが可能である。なお、加熱手段としては、熱媒体に限らずヒータ等でもよい。
【0031】
熱媒体通路15によるNGの昇温は、NG温度が50℃以上になるように行なうことが好ましい。NGの供給を行なう場合に、断熱膨張で温度が低下した際にNG温度が凝集を起こす温度低下幅(温度差15℃以上)より大きくなるおそれを回避することができる。
中でも、50℃〜70℃の範囲に加熱するのが、天然ガス中の成分分離、凝集防止の点で望ましい。熱し過ぎると、ガス自体の膨張のため、本来の高密度貯蔵に反する。
【0032】
本実施形態では、NG流通管11の内断面の面積pと、NG貯蔵容器12の内断面の最大面積qとの比(p:q)は1:100であるが、比率(p:q)は1:225〜1:64の範囲であればよく、NG供給時における断熱膨張によるNGの分離、凝集を防止して、長期間にわたり良好なNGの吸着/放出効率を保持し、所期の吸着/放出量を確保することができる。
【0033】
ここで、NGの貯蔵量(貯蔵率)の低下は1%以内であることが望ましい。例えば、フル充填時にV/V(V:NG充填量、V:タンク内容積)が300であるNG貯蔵タンクを想定した場合、貯蔵量は、図2に示すように、NG流通管の内断面の面積pに対するNG貯蔵容器の内断面の最大面積qの比がより低下し、pのqに対する比率が1:64より大きくなると貯蔵効率の低下が1%より大きく低下してしまう。
一方、NG供給時の温度低下は、図3に示すように、NG流通管の内断面の面積pに対するNG貯蔵容器の内断面の最大面積qの比が小さくなるにつれ小さくなるため、pのqに対する比率が1:225よりさらに小さくなると、天然ガス中のプロパンやブタン等の重成分が分離、凝集を起こす温度幅ΔTが15(deg)を超えてしまう。
【0034】
すなわち、NG流通管の内断面の面積pとNG貯蔵容器の内断面の最大面積qとの比(p:q)を1:225〜1:64とすることにより、NG供給時の大幅な温度低下を抑えることができ、これによりNG中の重成分の分離、凝集が防止される。その結果、NGの吸着サイトが減少するのを回避し、長期間にわたり良好なNGの吸着/放出効率を保持し、所期の吸着/放出量を確保することができる。
【0035】
上記の理由から、前記比(p:q)の中でも、1:144〜1:100の範囲がより好ましい。
【0036】
本実施形態のように、加熱器として熱媒体通路をNG貯蔵容器に取り付けて必要に応じて熱媒体を流通して供給されたNG温度を高く保持するようにすることによって、例えば、供給時のNG温度、充填速度、NG貯蔵容器の材質や内部構造などの影響でNGが分離、凝集しやすくなるのを解消することができ、既述の比(p:q)の範囲(1:225〜1:64)ではより安定的にNGの供給(充填)を行なうことが可能である。
【0037】
天然ガスの温度を上昇させる熱媒体通路や加熱器等の加熱手段は、ガス貯蔵容器および/またはガス流通管に設けることができ、ガス貯蔵容器に設ける場合は容器内部もしくは外部のいずれに設けられてもよい。具体的には、例えばガス貯蔵容器のNG供給側(ここでは、例えばNG流通管の接続部(NG給排口)から容器本体の一部領域)や、NG流通管の管外壁などに例えば電気ヒータを取り付けることができる。
さらに、加熱器をNG吸着材(ここでは、やしがら炭)の温度を上げて、やしがら炭から熱を与えるように構成されてもよい。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の天然ガス貯蔵タンクの第2実施形態を図4〜図5を参照して説明する。本実施形態は、ガス貯蔵容器に器壁から器内方向に一端を突出させて接続されたガス流通管の接続部とこの一端との間の管壁に異径の孔を6個設け、全ての孔の合計面積rと、NGが供給されるガス貯蔵容器の内断面の断面積(最大面積sという)との比(r:s)を1:100とし、供給された天然ガスの分離、凝集が起きない構成としたものである。
【0039】
なお、天然ガス吸着材は、第1実施形態で使用した「やしがら炭」並びに第1実施形態に記載した他の天然ガス吸着材を用いることができ、また、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0040】
図4に示すように、本実施形態の天然ガス貯蔵タンクは、NG(天然ガス)が流通するガス流通管であるNG流通管21と、天然ガス吸着材である「やしがら炭」を収容し、NG流通管21から供給されたNGを貯蔵するガス貯蔵容器であるNG貯蔵容器22と、を備えている。
【0041】
NG流通管21は、NG流通方向と直交する断面が内径4mmの略一様な円形状であるSUS316(またはSUS310等)製の筒状構造を有しており、管内を天然ガス(NG)が流通し、流通するNGの流通方向下流側となる一端がNG貯蔵容器12の器壁から器内方向に突出するようにして設けられている。他端は、天然ガス貯蔵タンクとは別に外部に設置された図示しない天然ガス供給装置と接続できるようになっている。
NG流通管21は、NG貯蔵容器22と器壁を貫通する貫通部分で固定されている。
【0042】
このNG流通管21の管壁には、NG貯蔵容器22との接続部とこの接続部から器内に突出した一端(以下、突出端ともいう)との間に、6個の孔(S1,S2,S3,S4,S5,S6)が開口されており、各孔からNG流通管21を流通してきたNGが放出され、NG貯蔵容器22に供給される構成となっている。
【0043】
孔S1,S2,S3,S4,S5およびS6は、図4のように、NG流通管21の器内の突出端からNG貯蔵容器22との接続部(貫通部)に向かって開口面積が小さくなるように設けられており、孔S1の面積sは0.94πmmであり、孔S2〜孔S4の面積s、sおよびsは各々、面積s:0.82πmm、面積s:0.71πmm、面積s:0.60πmmであり、孔S5および孔S6の面積s、sは各々、面積s:0.51πmm、面積s:0.41πmmである。
【0044】
孔S1,S2,S3,S4,S5およびS6は、突出端である器内の一端に最も近い孔S1の面積sと最も遠い孔S6の面積sとの比率(s:s)が2.29:1であり、NGが供給されたときの断熱膨張による冷却が抑制され、ひいてはNGの成分分離、凝集を回避できるようになっている。
【0045】
NG流通管12に複数の孔を設ける場合、全ての孔が同一面積で開口されたものでもよいし、孔の一部もしくは全部が異なる面積で開口されたものでもよい。
後者のように、一部もしくは全部の面積が異なる複数の孔が設けられるのが望ましく、この場合には、供給されたNGの断熱膨張による冷却を抑制し、NG中のプロパンやブタン等の重成分の分離、凝集を防止してNGの貯蔵、放出を良好に行なえる点で、NG流通管の突出端である器内の一端(突出端)に最も近い孔S1の面積sと最も遠い孔S6の面積s(n>2)の比率(s:s)が2:1〜3:1の範囲であるのが、均一な流速を得る点で望ましい。より好ましくは、2.25:1〜2.56:1の範囲内である。
【0046】
孔の間隔は、特に制限なく選択することができるが、図5に示すように、孔を断面に対して螺旋状に設ける方が「タンク全体のへのガス拡散」という観点から、より均一なガス流となり望ましい。
【0047】
また、形成する孔の数には、特に制限はなく、NGの充填速度、NG流通管の内径や長さ、各孔の面積、面積の異なる孔の組合せ、NG貯蔵容器の内断面の最大面積s、などを考慮して適宜選択することができる。
【0048】
NG貯蔵容器22は、図4のように、内径Bが40mm、内容積3.7LであるSUS316(またはSUS310等)製の筒状体の、長手方向の両端が曲面で閉塞された構造になっており、その一方の曲面(閉塞端)にはNG給排口13が形成され、このNG給排口13においてNG流通管21の一端が接続されている。また、NGの流通方向と直交するNG貯蔵容器22の断面、すなわち内径40mmの円形断面がNG貯蔵容器の内断面であり、この内断面は両閉塞端の一方から他方に至るまで略一様な円形の構造になっている。すなわち、NG貯蔵容器22の内断面の最大面積sは、400πmmである。
【0049】
本実施形態では、孔S1,S2,S3,S4,S5およびS6の合計面積rと、NG貯蔵容器22の内断面の最大面積sとの比(r:s)は、1:100となっており、供給されたNGの断熱膨張による冷却が抑制され、NG中のプロパンやブタン等の重成分の分離、凝集を防止してNGの貯蔵、放出を良好に行なえるように構成されている。
【0050】
本実施形態では、前記比(r:s)は1:100であるが、比率(r:s)は1:225〜1:64の範囲であればよく、NG供給時の大幅な温度低下を抑えることができ、これによりNG中の重成分の分離、凝集が防止される。その結果、NGの吸着サイトが減少するのを回避し、長期間にわたり良好なNGの吸着/放出効率を保持し、所期の吸着/放出量を確保することができる。
前記比(r:s)の中でも、1:144〜1:100の範囲がより好ましい。
【0051】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に熱媒体通路(または加熱器等)を取り付け、必要に応じて熱媒体を流通(または加熱器をオン)して供給されたNG温度を高く保持するようにすることによって、例えば、供給時のNG温度、充填速度、NG貯蔵容器の材質や内部構造などの影響でNGが分離、凝集しやすくなるのをより解消することができ、既述の比(r:s)の範囲(1:225〜1:64)ではより安定的にNGの供給(充填)を行なうことが可能である。
【0052】
本実施形態では、1本のNG流通管のNG貯蔵容器の内部に位置する管壁に複数の孔を開口して設けた場合を説明したが、1本の管に孔を形成するのではなく、1本のNG流通管がNG貯蔵容器内で複数本に分岐し、上記した比(r:s)を満たすように複数の分岐端(すなわち分岐端の端面の面積)が設けられた構造に構成された場合も同様である。分岐は、例えば1本のNG流通管がまず内径の同じまたは異なる2本(または3本以上)の管に分岐し、分岐された2本の管がさらに各々内径の同じまたは異なる3本(または2本もしくは4本以上)に分岐し、合計6本またはそれ以上の分岐端が形成されるように構成することができる。また更に、分岐させた構造にしてもよい。
このような分岐構造に構成した場合も、上記した比(r:s)を満たす様に構成することにより、本実施形態の複数の孔を設けた場合と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、天然ガスは「NG」と略記する。
【0054】
(実施例1)
まず、図1と同様の構造に構成されたNG貯蔵タンクを用意した。
このNG貯蔵タンクは、天然ガス吸着材として「やしがら炭」14を収容し、供給された天然ガス(NG)をやしがら炭に吸着して貯蔵するNG貯蔵容器(内径40mm、内容積3.7LのSUS310製)12と、NG貯蔵容器12のNG給排口13に接続され、内径4mmの管内を流通してNG貯蔵容器12にNGを供給するNG流通管11とを設けて構成されたものである。また、NG流通方向におけるNG給排口13のやや下流側に位置するNG貯蔵容器12内には、NG貯蔵容器の器内に入ってきたNGの温度を検出するための温度センサ(不図示)が取り付けられており、NG温度を所定のタイミングで検出できるようになっている。
【0055】
本実施例におけるNG流通管の内断面の面積p(4πmm)とNG貯蔵容器の内断面の最大面積q(400πmm)との比p:qは、1:100となっている。
また、フル充填時のNG貯蔵率V/V(V:NG充填量、V:タンク内容積)は300とし、NGの充填時間は5分間とした。
【0056】
このNG貯蔵タンクに室温(15℃)下、20MPaのNG(13A組成)をNG流通管11を流通してNG貯蔵容器12に吹き込んだところ、NG流通管およびNG貯蔵容器の接続部であるNG給排口13近傍でNGが断熱膨張し、NG温度は5℃まで低下した。このとき、NG温度の低下幅は10degであり、天然ガスが凝集を起こす温度低下幅(ΔT≧15deg)には達しておらず、フル充填時のNG貯蔵率V/Vに変化はみられなかった。また、NG中のブタン等の分離を、放出ガスのマススペクトル分析により観察したが、ブタン等の分離も認められなかった。この操作を10回繰り返し行なったが、NG成分の分離はなく、NG貯蔵率V/Vの低下は1%未満であった。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、NG貯蔵容器の内断面の最大面積qを22500πmm(内径300mm、内容積80LのSUS310製)に代え、比p:qを1:5625とした以外は(フル充填時のNG貯蔵率V/V=300、充填時間=5分間)、実施例1と同様にして、NGを充填し、さらにNG温度を測定した。
【0058】
その結果、NG温度は−20℃まで低下した。このとき、NG温度の低下幅は35degであり、天然ガスが凝集を起こす温度低下幅(ΔT≧15deg)を超えており、NG中のブタンの分離が確認された。また、NG貯蔵率V/Vの低下が見られ、その低下幅は15deg程度もあった。
【0059】
(比較例2〜3)
実施例1において、NG貯蔵容器の内断面の最大面積qを、960πmm(内径62mm、内容積8.9L;比較例2)、225πmm(内径30mm、内容積2.1L;比較例3)に代え、比p:qをそれぞれ1:240、1:56とした以外は(フル充填時のNG貯蔵率V/V=300、充填時間=5分間)、実施例1と同様にして、NGを充填し、さらにNG温度を測定した。
【0060】
その結果、NG温度は比較例2では−3℃まで低下し、NG温度の低下幅は18degであった。また、比較例3では10℃まで低下し、NG温度の低下幅は5degであった。比較例2では、天然ガスが凝集を起こす温度低下幅(ΔT≧15deg)を超えており、NG中のブタンの分離が確認され、NG貯蔵率V/Vの低下も見られ、低下幅は5deg程度であった。比較例3では、ブタンの分離は見られなかったが、タンクの肉部の割合が増大することに基づき、NG貯蔵率V/Vにて1%以上の低下が生じる(図2)。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態に係るNG貯蔵タンクの構成を示す概略断面図である。
【図2】NG流通管の内断面積p/NG貯蔵容器の内断面の最大面積qとV/Vとの関係を示す関係図である。
【図3】NG流通管の内断面積p/NG貯蔵容器の内断面の最大面積qとΔTとの関係を示す関係図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るNG貯蔵タンクの構成を示す概略断面図である。
【図5】(A)はNG流通管を一端からみた概略構成図であり、(B)はNG流通管を側方からみた概略構成図である。
【符号の説明】
【0062】
11,21…NG流通管
12,22…NG貯蔵容器
14…やしがら炭
15…熱媒体通路
S1〜S6…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスを貯蔵するガス貯蔵容器に接続されたガス流通管の接続部における内断面の面積pと、前記ガス貯蔵容器の前記接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積qとの比率(p:q)が1:225〜1:64である天然ガス貯蔵タンク。
【請求項2】
ガス貯蔵容器に器壁から器内方向に一端を突出させて接続されたガス流通管の接続部と前記一端との間の管壁に少なくとも1つの孔を有し、前記孔の総面積rと、前記ガス貯蔵容器の前記接続部からガス流通方向において拡大した該ガス流通方向と直交する内断面の最大面積sとの比率(r:s)が1:225〜1:64である天然ガス貯蔵タンク。
【請求項3】
前記ガス流通管は、複数の孔を有し、突出端である前記一端に最も近い孔の面積sと最も遠い孔の面積s(n>2)との比率(s:s)が2:1〜3:1であることを特徴とする請求項2に記載の天然ガス貯蔵タンク。
【請求項4】
前記ガス貯蔵容器は、器内に天然ガスを吸着する天然ガス吸着材が収容されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の天然ガス貯蔵タンク。
【請求項5】
前記ガス流通管から前記ガス貯蔵容器に供給された天然ガスの温度を上昇させる昇温手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の天然ガス貯蔵タンク。
【請求項6】
前記昇温手段は、50℃以上の温度に上昇させる請求項5に記載の天然ガス貯蔵タンク。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291885(P2008−291885A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136471(P2007−136471)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】