説明

太陽光発電モジュール用保護シート、保護シートの製造方法及び太陽光発電モジュール保護方法

【課題】太陽光発電モジュールがおかれる過酷な気象環境に耐え得る耐久性と強度及び柔軟性を兼ね備え、かつ、ガスバリヤー性、水蒸気遮断性、耐熱・難燃性、電気絶縁性及び低熱膨張性等に優れた太陽光発電モジュール用保護シートの提供。
【解決手段】粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を含んでなる太陽光発電モジュール用保護シートを提供する。この太陽光発電モジュール用保護シートは、対水接触角が60度以上であり、厚さが1〜1000μmである疎水性樹脂膜層を、前記粘土膜層に積層して構成されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電モジュール用保護シート、保護シートの製造方法及び太陽光発電モジュール保護方法に関する。より詳しくは、所定重量比の粘土成分から構成された粘土膜層を含む太陽光発電モジュール用保護シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅用太陽光発電システムや独立電源システム、集中太陽光発電所などに用いられる太陽光発電モジュールは、過酷な気象環境下での使用に耐え得る耐久性が求められる。特に、火山や海上のような腐食性が高い場所や、砂漠や高地、極地のような激しい温度変化や低温、乾燥や風雪に曝される場所や、熱帯雨林のように高温多雨な場所で使用される場合には、高い耐久性が要求される。
【0003】
太陽光発電モジュールの耐久性を高めるため、モジュール外表面の受光面(表面)側はガラスを用いて形成される場合が多い。また、モジュール内部には、軟質樹脂からなる封止材で保護されて、発電セルや配線が配設される。受光面と反対面のモジュール外表面(裏面)側には、空気(特に、酸素と水蒸気)を遮断して内部の発電セルの劣化を防止するため、裏面保護部材が装着されている。
【0004】
この裏面保護部材には、太陽光発電モジュールがおかれる過酷な気象環境に耐え得る耐久性と強度が必要である。また、モジュール内部への空気(特に、酸素と水蒸気)の拡散、侵入を遮断するためのガスバリヤー性と水蒸気遮断性も求められる。
【0005】
従来、この裏面保護部材には、ガラスや金属板、金属箔と樹脂フィルムの複層シートなどが用いられてきた。しかし、裏面保護部材として、受光面と同様にガラスを用いた場合には、モジュールの表裏両面がともに剛直となり、貼り合わせ時に発電セルや配線に歪みがかかって破損が生じるおそれがある。また、高温高圧の貼り合わせが可能な設備が必要となる。裏面保護部材として、金属板や金属箔を用いた場合にも、腐食による部材の破損やこれに伴う漏電といった課題がある。
【0006】
他方、化学産業分野における高温条件下での生産プロセスでは、配管連結部からの液体や気体のリークを防止するため、近年、粘土を主成分とする膜(粘土膜)用いたガス遮蔽材が開発されている。従来は、高耐熱性の有機高分子や金属製のパッキンが用いられてきたが、これらのパッキンでは、耐熱性や柔軟性、耐薬品性、ガスバリヤー性などに課題が残されていた。特許文献1には、層状無機化合物(粘土)を主要構成成分とする膜(粘土膜)からなるガス遮蔽材が開示されている。この粘土膜は、自立膜として利用可能な機械的強度を有するものである。
【0007】
上記の自立粘土膜は、非特許文献1及び2に記載されるように、厚さ3〜100μmで折り鶴を作製できる柔軟性を備える。また、炎で直接炙っても燃焼しない耐熱・難燃性と、水素や酸素、窒素、ヘリウムなどに対してアルミホイルと同等のガスバリヤー性を備えている。耐熱・難燃性に関しては、粘土膜は、700℃位までは吸着水の脱水以外の重量減少がないことが知られている。また、ガスバリヤー性に関しては、300℃/30分×10回の加熱サイクルでも変化が生じないことが知られている。さらに、不純物の少ない合成粘土からは、透明な粘土膜を作製することが可能である。
【0008】
【特許文献1】特開2006−265517号公報
【非特許文献1】蛯名 武雄、FC Report、23(2005年)No.3、p109−112
【非特許文献2】蛯名 武雄、セラミックス、43(2008年)No.1、p46―49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、太陽光発電モジュールの裏面保護部材には、ガラスや金属板、金属箔と樹脂フィルムの複層シートなどが用いられてきたが、剛直なガラスを用いる場合には、貼り合わせ時の発電セルや配線の破損等の問題があり、金属板や金属箔を用いる場合にも、腐食による部材の破損や漏電の問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、太陽光発電モジュールがおかれる過酷な気象環境に耐え得る耐久性と強度及び柔軟性を兼ね備え、かつ、ガスバリヤー性、水蒸気遮断性、耐熱・難燃性、電気絶縁性及び低熱膨張性等に優れた太陽光発電モジュール用保護シートを提供することを
を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題解決のため、本発明は、粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を含んでなる太陽光発電モジュール用保護シートを提供する。
この太陽光発電モジュール用保護シートは、対水接触角が60度以上であり、厚さが1〜1000μmである疎水性樹脂膜層を、前記粘土膜層に積層して構成されてもよい。水性樹脂膜層の積層によって、粘土膜層への水の接触を効果的に抑制することができる。
粘土膜層と疎水性樹脂膜層は、直接積層されて構成されることが望ましい。また、疎水性樹脂膜層は、フッ素系樹脂の構成重量比が50%以上であることが好ましい。
本発明に係る太陽光発電モジュール用保護シートにおいて、前記粘土成分は、雲母、タルク、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群から選択される一以上、又は、ハイドロタルサイト様化合物とすることができる。これらの粘土成分は、アンモニウム塩、ホスフォニウム塩及びイミダゾリウム塩からなる群から選択される有機性カチオン化合物により有機化されたものであってもよい。
【0012】
本発明は、また、粘土成分の重量比が80重量%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層と、対水接触角が60度以上であり、厚さが1〜1000μmである疎水性樹脂膜層と、を、加熱圧着する工程を含む太陽光発電モジュール用保護シートの製造方法と、粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を含んでなる太陽光発電モジュール用保護シートを用いる太陽光発電モジュール保護方法を、提供する。
本発明は、さらに、上記の太陽光発電モジュール用保護シートを装着した太陽光発電モジュール、及び、この太陽光発電モジュールを含む太陽光発電システムをも提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、太陽光発電モジュールがおかれる過酷な気象環境に耐え得る耐久性と強度及び柔軟性を兼ね備え、かつ、ガスバリヤー性、水蒸気遮断性、耐熱・難燃性、電気絶縁性及び低熱膨張性等に優れた太陽光発電モジュール用保護シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<太陽光発電モジュール用保護シート>
1.粘土膜層
(1)粘土成分
本発明に係る太陽光発電モジュール用保護シート(以下、単に「保護シート」ともいう)は、粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を備える。この粘土膜層を構成する粘土膜の粘土成分には、層間に負電荷を有する雲母、タルク、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイトのうちの1種以上が用いられる。また、粘土成分は、層間に正電荷を有するハイドロタルサイト様化合物を用いてもよい。これらの粘土成分は、天然あるいは合成物であってよい。
【0015】
ハイドロタルサイト様化合物は、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oなどに代表される天然に産出する粘土鉱物の一種であり、正に帯電した基本層[Mg1-xAlx(OH)2]x+と負に帯電した中間層[(CO3)x/2・mH2O]xからなる層状の無機化合物である。多くの2価、3価の金属がこれと同様の層状構造をとり、これらは次のような一般式で表される。
【0016】
【数1】

(式中、「M2+」は、Mg2+, Zn2+などの2価金属イオンを、「M3+」は、Al3+, Fe3+などの3価金属イオンを、「An」は、CO32-, Cl-, NO3-などのn価アニオンを示す。また、式中、「X」は、0<X≦0.33の範囲とされる)
【0017】
粘土膜の切断面は、層状の粘土粒子が配向して緻密に積層している。粘土粒子は一般的に電気絶縁性が高く、熱膨張率も小さい。さらに、素粘土粒子の熱伝導性は厚み方向では小さく、層方向では大きいことが知られている。従って、粘土粒子からなる粘土膜層は、電気絶縁性及び低熱膨張性に優れ、異方性の熱伝導性を有するものとなる。
【0018】
(2)粘土成分の有機化
雲母等は、アンモニウム塩、ホスフォニウム塩、イミダゾリウム塩等の有機性カチオン化合物や有機酸又はそのアルカリ金属塩などで有機化されたものを用いることも可能である。粘土成分を有機化することにより、得られる粘土膜の乾燥性及び水蒸気遮蔽性を高めることができる。ただし、有機化によってガスバリヤー性が低下し、燃焼し易くなる場合がある。
【0019】
ハイドロタルサイト様化合物の有機化に関しては、例えば、ハイドロタルサイトをステアリン酸ナトリウムによって有機化処理し、これをSEBSと溶融混練してナノコンポジットを作製することが行われている(「有機化ハイドロタルサイトの合成と熱可塑性エラストマー系コンポジットへの応用」、愛知県産業技術研究所2007年度研究報告、http://www.aichi-inst.jp/html/reports/news_reports_idx.html参照)。
【0020】
(3)添加物
粘土膜には、構成重量比20%未満の添加剤を添加してもよい。この添加剤としては、添加剤としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、フェノール類、安息香酸類化合物、シリコン樹脂が挙げられる。この他、鉱物繊維、グラスウール、セラミックス繊維、植物繊維、有機高分子繊維を配合することが可能である。
【0021】
(4)粘土膜の製造
粘土膜は、例えば以下の工程によって得られる。まず、粘土成分と、必要に応じて添加物とを、溶剤に分散させ、ダマを含まない均一な分散液を調製する。有機化された粘土成分を用いる場合には、有機系溶剤を用いて分散液を調製する。次に、この分散液を表面が平坦な支持体に塗布し、分散媒である溶剤を適宜の固液分離方法で分離し、膜状に成形する。その後、必要に応じて乾燥・加熱・冷却するなどの方法によって支持体から剥離することにより、粘土結晶が配向した粘土膜を得る。固液分離方法としては、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などが例示される。以上の粘土膜の製造工程は、上記特許文献1等に記載された公知の方法によって行なうことができる(例えば、特開2007-277078号公報参照)。
【0022】
粘土成分と添加物の組み合わせや混合比率、分散液の固液比、支持体材料及び分散方法等は、適宜所望の条件に設定される。水溶性ポリマーやポリマー乳化物などの有機系添加物は、乾燥工程前に加えると、製膜を容易にし、膜強度を向上させることができるが、一方で、得られる膜のガスバリヤー性や難燃性を低下させる。このため、本発明に係る保護シート及びその製造方法においては、粘土成分の構成重量比は、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上とし、可能であれば添加物を全く添加しなくてもよい。
【0023】
粘土膜層の厚さは、1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜100μmとされる。粘土膜層が厚いと、強度やガスバリヤー性、絶縁性などが向上する。しかし、乾燥に時間がかかり、生産性が低下する。一方、粘土膜層が薄いと、乾燥は容易になるが、均一で欠陥の無い粘土膜を形成するのが難しくなり、ガスバリヤー性や水蒸気遮蔽性も低下する。
【0024】
2.疎水性樹脂層
(1)疎水性樹脂層の樹脂組成
本発明に係る保護シートは、上述の粘土膜層のみによって構成することもできるが、粘土膜層に疎水性樹脂膜層を積層した構成とすることが望ましい。粘土膜は高い耐久性を有するものであるが、太陽光発電モジュールがおかれる過酷な環境に長期に晒されると、粘土成分に由来する親水性のために、粘土粒子の配向が乱れ、膜が崩壊する可能性がある。
【0025】
これを防止するため、粘土成分の有機化によって親水性を抑制し、耐水性を高めることも有効であるが、さらに疎水性樹脂膜との複層化によって粘土膜層への水の接触を抑制することが望ましい。疎水性樹脂膜層を積層することで、単純な多層構造によって粘土膜層の耐久性を高めることができ、保護シートの水蒸気遮断性を高めることも可能となる。
【0026】
疎水性樹脂膜層は、純水に対して実質的に全く溶解しない樹脂によって形成される。このような樹脂としては、スチレン系やオレフィン系、エステル系、アクリル系、アミド系、ビニル系、シリコーン系、ジエン系などの重合体やそれらの共重合体や混合物が挙げられる。このうち、耐光性や耐加水分解性、撥水性、水蒸気遮断性、強度などから、ビニル系重合体が好ましい。
【0027】
疎水性樹脂膜層を構成する樹脂膜は、さらに、分子中にフッ素元素を含むフッ素系樹脂膜であることが好ましい。フッ素系樹脂膜は、溶融性や結晶性が特殊な場合が多く、粘土膜層との複層化が困難な場合がある。このような場合、フッ素系樹脂以外の樹脂を混合した樹脂膜を用いることができるが、この場合にも、太陽光発電モジュール用保護シートに求められる高い耐候性を満足するため、フッ素系樹脂の構成重量比は少なくとも50%以上、好ましくは70%以上とされる。
【0028】
また、フッ素系樹脂とフッ素系樹脂以外の樹脂膜を用いると、樹脂同士が相溶せず、フッ素系樹脂以外の樹脂が分離して劣化する場合がある。これを防止するため、混合樹脂膜は、特に、相溶系であるポリフッ化ビニリデン系樹脂とポリアクリル酸エステル系樹脂の混合物により形成することが好ましい。
【0029】
疎水性樹脂膜層は、粘土膜層への水の接触を効果的に抑制するため、対水接触角(静的接触角)が60度以上、好ましくは80度以上、さらに好ましくは90度以上とされる。対水接触角は、大きいほど望ましい。対水接触角が大きいほど疎水性樹脂膜表面に接触した水を速やかに排除することができ、保護シート及びその粘土膜層への水の接触を効果的に抑制できる。
【0030】
(2)粘土膜層と疎水性樹脂層の積層
粘土膜層と疎水性樹脂膜層の複層化は、公知のラミネート方法が適用できる。ラミネート方法としては、接着剤や接着層などを用いて粘土膜層と疎水性樹脂膜層を貼り合わせる方法と、粘土膜層と疎水性樹脂膜層を直接貼り合わせる方法とがある。接着剤や接着層などを用いた場合、過酷な環境に晒されると、接着剤や接着層が劣化する場合が多い。このため、本発明に係る保護シート及びその製造方法においては、粘土膜層と疎水性樹脂膜層を直接積層することが望ましい。
【0031】
粘土膜層と疎水性樹脂膜層を直接積層するためには、例えば、双方の膜を加熱圧着する方法や、一方の膜上に他方の膜を形成する方法がある。粘土膜表面には微細な凹凸が存在するため、加熱圧着を行うことで、この凹凸に疎水性樹脂膜層が入り込んで硬化し、アンカー効果によって両層を強固に接着することができる。
【0032】
疎水性樹脂膜層の厚さは、1〜1000μm、好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜100μmとされる。疎水性樹脂膜層が厚いと、強度は向上するが、粘土膜層への水の接触を抑制する効果は余り変わらない。一方、疎水性樹脂膜層が薄いと、均一な膜形成が難しく、ピンホールなどによって効果が乏しくなる可能性がある。
【0033】
<太陽光発電モジュール保護方法>
一般に、太陽光発電モジュールは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子と、発生した電気を外部に導く配線と、受光面を保護する透明な表面保護部材と、遮光性の裏面保護部材などによって構成される。光電変換素子は、1つのモジュール内に通常複数個装着され、直列に配線される場合が多い。表面保護部材と裏面保護部材との間は、光電変換素子や配線を固定する軟質樹脂で封止された構造となっている。
【0034】
本発明に係る太陽光発電モジュール用保護シートは、太陽光発電モジュールの表面及び/又は裏面に装着されて、モジュールを保護するために用いることができる。本発明に係るシートは、粘土膜層のみ、又は粘度膜層とこれに積層された疎水性樹脂膜層とから構成され得る。さらに、この保護シートは、単独で用いることも、他のフィルムや不織布などと組み合わせて用いることもできる。
【0035】
例えば、透明な粘土膜層のみからなる保護シートは、表面保護部材として、ガラス板に貼り合わされて使用できる。また、粘土膜層と疎水性樹脂層とからなる用保護シートは、裏面保護部材として、強度を強化するためのポリエステル系やポリアミド系のフィルムと組み合わされて使用される。なお、本発明に係る保護シートは、表面及び裏面ともに、最も過酷な環境に晒される最外層に用いられることが好ましい。
【0036】
このようにして発明にかかる保護シートを装着した太陽光発電モジュールは、外枠や固定具などと組み込まれ、発電した電気を統合する配線などと共に太陽光発電システムとして使用され得る。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
1.粘土膜シートの作製
天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)2gと蒸留水60mlをガラス製フラスコ中に秤量し、テフロン(登録商標)被覆攪拌板を付けた高粘土用攪拌モーター(スリーワンモーターBL300FT,新東科学株式会社)で激しく攪拌して均一な分散液を得た。この分散液を、ステンレス板上に長さ約30cm×幅20cm×厚さ2mmに塗布し、強制送風式オーブン中に水平に静置して60℃で24時間乾燥した後、剥離した。これを鏡面加工したステンレス板に挟み、油圧プレスで250℃/10MPaで10分圧着し、粘土膜1Cを得た。
【0038】
2.保護シートの初期特性評価
(1)対水接触角
全自動接触角計(DM−100、協和界面化学株式会社)で測定した。シートの中心と対角線と中心点の中点4点を測定し、5点の測定結果を平均した。なお、表裏はプレス時の上下面で区別した。
(2)シート強度
JIS K7127に準拠して、引張破断強度と破断伸びを測定した。測定は同じシートから切り出したダンベル型試験片を5点測定し、中間3点の平均とした。
(3)ガスバリヤー性
差圧式ガス・蒸気透過率測定装置(GTR−30XATS、GTRテック株式会社)で40℃/90%における酸素と水蒸気の透過率を測定した。測定はシート中心の1点とした。
(4)燃焼性
JIS K7201:1995に従って酸素指数を測定した。
(5)線膨張率
熱分析装置(TMA100,セイコー電子株式会社)で−100〜100℃を測定した。測定は同じシートから切り出した10mm×10cmの試験片3点の平均とした。
(6)電気絶縁性
JIS K6911:1995に準じ、室温でシート中心の体積抵抗値を測定した。
【0039】
3.保護シートの耐光性評価
紫外線劣化促進試験機(アイスーパーUVテスター SUV−W131、岩崎電気株式会社)で、UV照射量100mW/cm2で60℃×50%RH環境下30日照射し、シート強度とガスバリヤー性、電気絶縁性を測定した。
【0040】
4.模擬太陽光発電モジュール評価
(1)模擬モジュール作製
10cm×20cm×厚さ3mmのガラス板の上に、同じ大きさで厚みが0.8mmのEVAシート(SOLAR EVA、三井ファブロ株式会社)を重ね、中央に太さ0.1mmの銅線を両側に2cmずつ出るように通し、保護シートを積層した。保護シートが複層の場合、フッ素樹脂膜層が上になるように積層した。これを120℃で15分真空脱泡した後、大気圧プレスで150℃×30分圧着した。
(2)密着性評価
90度剥離試験機(株式会社アマダ)で、ガラス/EVA/複層シートが密着した部分と、保護シートのはみ出た部分と、で90度剥離強度を測定した。
(3)耐久性評価
はみ出た銅線をはみ出た保護シートで覆い、さらにアクリル系2液型接着剤で密封して、温度85℃×相対湿度85%で3000時間保持し、密着性と銅線の腐食による断線を確認した。
【0041】
実施例1で作製した保護シート(粘土膜1C)の評価結果を、「表1」に示す。
【0042】
<実施例2>
1.粘土膜シートの作製
実施例1と同様の操作で、天然モンモリロナイト40gと蒸留水600mlで得た均一な分散液を、ステンレス板上に厚さ3mmに塗布して60℃で24時間分乾燥した。さらに、実施例1と同様にプレスして、粘土膜2Cを得た。作製した保護シート(粘土膜2C)の評価結果を、「表1」に示す。
【0043】
<実施例3>
1.粘土膜シートの作製
実施例1と同様の操作で、天然モンモリオナイト0.4gと蒸留水60gで得た均一な分散液を、ステンレス板上に厚さ2mmに塗布して60℃で24時間乾燥した。さらに、実施例1と同様にプレスして、粘土膜3Cを得た。作製した保護シート(粘土膜3C)の評価結果を、「表1」に示す。
【0044】
<実施例4>
1.粘土膜シートの作製
実施例2と同様にして得た均一な分散液をステンレス板状に厚さ20mmに塗布して60℃で24時間乾燥し、さらに実施例1と同様にプレスして、粘土膜4Cを得た。作製した保護シート(粘土膜4C)の評価結果を、「表1」に示す。
【0045】
<比較例1>
1.樹脂膜シートの作製
二軸延伸PETフィルム(厚さ190μm、ルミラーT60、東レ株式会社)を用いてPET樹脂膜1Rを作製した。作製した保護シート(PET樹脂膜1R)の評価結果を、「表1」に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
<実施例5〜8>
1.粘土膜/疎水性樹脂膜複層シートの作製
粘土膜1C〜4Cと、ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリメチルメタクリレート樹脂の8:2混合物のフッ素系樹脂膜(デンカDXフィルム、平均厚さ20μm、電気化学工業株式会社製)を重ね、上側をフッ素樹脂フィルムにして鏡面加工したステンレス板に挟み、油圧プレスで250℃/10MPaで10分圧着した。冷却後に剥離して得た保護シート(粘土膜/フッ素系樹脂複層シート1F〜4F)の評価結果を、「表2」に示す。
【0048】
<比較例2>
1.樹脂膜複層シートの作製
粘土膜1Cの替わりに二軸延伸PETフィルム(厚さ190μm、ルミラーT60、東レ株式会社)を用いてPET樹脂フィルム/フッ素系樹脂複層シート2Rを作製し、特性評価を行った。結果を「表2」に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
<実施例9〜12>
1.粘土膜/疎水性樹脂膜複層シートの作製
粘土膜1C〜4Cと、無延伸ポリプロピレン樹脂膜(パイレンフィルムCT、P−1128,平均厚さ20μm、東洋紡株式会社)で、圧着温度を135℃とした以外は実施例5〜8と同様の操作で粘土膜/ポリプロピレン樹脂膜複合シート1P〜4Pを作製し、特性評価を行った。結果を「表3」に示す。
【0051】
<比較例3>
1.樹脂膜複層シートの作製
粘土膜1Cの替わりに二軸延伸PETフィルム(厚さ190μm、ルミラーT60、東レ株式会社)を用いてPET樹脂膜/ポリプロピレン樹脂膜複合シート3Rを作製し、特性評価を行った。結果を「表3」に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
<実施例13〜16>
1.有機化粘土膜シートの作製
攪拌機を付けたガラスフラスコ中にモンモリロナイト(クニピアF,クニミネ工業株式会社)50gとテトラメチルアンモニウムクロリド34g及びイオン交換水500mlを秤量し、70℃で24時間攪拌した。遠心分離とイオン交換水分散を5回繰り返した後、強制循環式乾燥機中で60℃、24時間乾燥し、有機化モンモリロナイトを得た。
【0054】
天然モンモリトナイトの替わりに、有機化モンモリロナイト/モンモリロナイトの1/1混合物(重量比)を用いて、実施例1〜4と同様にして粘土膜5C〜8Cを作製し、特性評価を行った。結果を「表4」に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
<実施例17〜20>
1.有機化粘土膜/疎水性樹脂膜複層シートの作製
粘土膜5C〜8Cを用いて、実施例5〜8と同様にして粘土膜/フッ素樹脂膜複合シート5F〜8Fを作製し、特性評価を行った。結果を「表5」に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
<実施例21〜24>
1.有機化粘土膜シートの作製
攪拌機を付けたガラスフラスコ中に500℃で2時間加熱処理したハイドロタルサイト(アルカマイザーDHT−4A,協和化学工業株式会社)50gとステアリン酸ナトリウム34g及びイオン交換水500mlを秤量し、80℃で6時間攪拌した。遠心分離とイオン交換水分散を5回繰り返した後、エタノールで洗浄した後、減圧乾燥機中60℃で24時間乾燥し、有機化ハイドロタルサイトを得た。
【0059】
有機化及び有機化しないモンモリロナイトの替わりに有機化及び有機化しないハイドロタルサイトを用いて、実施例13〜16と同様に、粘土膜9C〜12Cを作製し、特性評価を行った。結果を「表6」に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
<実施例25〜28>
1.有機化粘土膜/疎水性樹脂膜複層シートの作製
粘土膜9C〜12Cを用いて、実施例5〜8と同様にして有機化粘土膜/フッ素樹脂膜複合シート9F〜12Fを作製し、特性評価を行った。結果を「表7」に示す。
【0062】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る太陽光発電モジュール用保護シートは、太陽光発電モジュールがおかれる過酷な気象環境に耐え得る耐久性と強度及び柔軟性を兼ね備え、かつ、ガスバリヤー性、水蒸気遮断性、耐熱・難燃性、電気絶縁性及び低熱膨張性等に優れる。従って、この保護シートを太陽光発電モジュールに装備することにより、太陽光発電モジュールの耐久性を高め、長期信頼性に優れた太陽光発電システムを構築することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を含んでなる太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項2】
対水接触角が60度以上であり、厚さが1〜1000μmである疎水性樹脂膜層が、前記粘土膜層に積層された請求項1記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項3】
前記疎水性樹脂膜層におけるフッ素系樹脂の構成重量比が50%以上である請求項2記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項4】
前記粘土成分が、雲母、タルク、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトからなる群から選択される一以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項5】
前記粘土成分が、ハイドロタルサイト様化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項6】
前記粘土成分が、アンモニウム塩、ホスフォニウム塩及びイミダゾリウム塩からなる群から選択される有機性カチオン化合物により有機化された請求項1〜4のいずれか一項に記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項7】
粘土膜層と疎水性樹脂膜層が直接積層された請求項2〜6のいずれか一項に記載の太陽光発電モジュール用保護シート。
【請求項8】
外表面の少なくとも一部に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の太陽光発電モジュール用保護シートを装着した太陽光発電モジュール。
【請求項9】
請求項8記載の太陽光発電モジュールを含む太陽光発電システム。
【請求項10】
粘土成分の重量比が80重量%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層と、対水接触角が60°以上であり、厚さが1〜1000μmである疎水性樹脂膜層と、を、加熱圧着する工程を含む太陽光発電モジュール用保護シートの製造方法。
【請求項11】
粘土成分の構成重量比が80%以上であり、厚さが1〜1000μmである粘土膜層を含んでなる太陽光発電モジュール用保護シートを用いる太陽光発電モジュール保護方法。

【公開番号】特開2010−135349(P2010−135349A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306970(P2008−306970)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】