説明

太陽光発電衛星システム及び放射位相設定方法

【課題】送受両用の機能を有するアンテナ素子を用いることなく、送電用アレーアンテナを構成して、製造コスト、輸送コスト、維持コストなどを低減することができるようにする。
【解決手段】位相合成器34−nが、送電用アンテナ素子31−nと組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を抽出して、その受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成し、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相φ(t)を導出し、移相器35−nが、マイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波に対して放射位相φ(t)を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、宇宙空間に展開されているソーラーパネルが発電する電力をマイクロ波に重畳して地上に送信し、地上でマイクロ波に重畳されている電力を抽出する太陽光発電衛星システムと、そのマイクロ波を送信する送電用アンテナ素子の放射位相を設定する放射位相設定方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電衛星システム(Solar Power Satellite System)では、宇宙空間に展開されている広大なソーラーパネルが発電する電力をマイクロ波に重畳し、直径約100m以上の巨大な送電用アレーアンテナ(例えば非特許文献1を参照)が、そのマイクロ波を地球上に設置されている直径約2kmの巨大な受電用アレーアンテナ(例えば非特許文献1を参照)に向けて送信する。
また、太陽光発電衛星システムは、地球上に設定されている整流回路が、受電用アレーアンテナにより受信されたマイクロ波に重畳されている電力を抽出する。
【0003】
図9は以下の特許文献1に開示されている太陽光発電衛星システムを示す全体概要図である。
図9において、ソーラーパネル1は宇宙空間に展開されており、太陽光を受けて電力を発電する光電変換機器である。
ロータリージョイント2はソーラーパネル1とマイクロ波変換部3の間に接続されている接続部材であり、ソーラーパネル1により発電された電力をマイクロ波変換部3に伝達する。
なお、ソーラーパネル1が太陽から適正な角度で太陽光を受けることができるように、太陽光発電衛星と太陽の位置関係によってソーラーパネル1が回転させられるが、その場合でも、ロータリージョイント2は、ソーラーパネル1により発電された電力を確実にマイクロ波変換部3に伝達することができる。
【0004】
マイクロ波変換部3はソーラーパネル1により発電された電力をマイクロ波に重畳し、電力マイクロ波(電力が重畳されているマイクロ波)を送電用アレーアンテナ4に出力する。
送電用アレーアンテナ4は複数の送受信両用アンテナ素子5から構成されており、送受信両用アンテナ素子5はマイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波を地球7上の受電用アレーアンテナ8に向けて送信する一方、地球7上のパイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11を受信する。
図中、6は送電用アレーアンテナ4から送信された電力マイクロ波のビームである。
【0005】
受電用アレーアンテナ8は地球7上の所定の場所に設置されており、送電用アレーアンテナ4から送信された電力マイクロ波を受信する複数の受電用アンテナ素子9から構成されている。
パイロット信号送信機10は受電用アレーアンテナ8の中心に設置されており、パイロット信号11を送電用アレーアンテナ4に向けて送信する。
整流回路12は複数の受電用アンテナ素子9により受信されたマイクロ波に重畳されている電力を抽出する回路である。
【0006】
図10は特許文献1に開示されている太陽光発電衛星システムの衛星側の詳細内部構成を示す構成図である。
図10において、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nは、送電用アレーアンテナ4を構成しているアンテナ素子(図9の送受信両用アンテナ素子5)であり、移相器23−1〜23−Nから出力された電力マイクロ波を地球7上の受電用アレーアンテナ8に向けて送信する一方、地球7上のパイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11を受信する。
受信機21−1〜21−Nは送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nにより受信されたパイロット信号11を復調する。
【0007】
位相共役器22−1〜22−Nは送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nにおけるパイロット信号の受信位相を抽出し、その受信位相から送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nの放射位相を導出する。
移相器23−1〜23−Nはマイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波の放射位相として、位相共役器22−1〜22−Nにより導出された放射位相を設定する。
図中、24はパイロット信号11の等位相面(位相が揃っている面)である。
【0008】
以下、図9及び図10を参照しながら、太陽光発電衛星システムの処理内容を説明する。
太陽光発電衛星システムの宇宙構造体は、高度約1100kmの低軌道(LEO:Low Earth Orbit)上に位置し、その宇宙構造体の1つである送電用アレーアンテナ4は、直径が100m以上の巨大アンテナであり、発電量が10GWである(地球上の発電所1基分の容量に匹敵している)。
このため、送電用アレーアンテナ4は、多数の送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nから構成される。
【0009】
このとき、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nが等間隔又は均一に配置される場合、送電用アレーアンテナ4から送信される電力マイクロ波のビーム6には、受電用アレーアンテナ8に向けられる主ビームのほかに、サイドローブと呼ばれるビームが発生する。また、送受信両用アンテナ素子5の重ね合わせによる電力マイクロ波の素子間の位相干渉に応じて生じるグレーティングローブが発生する。
そのサイドローブやグレーティングローブは、送信目標である受電用アレーアンテナ8以外の方向に散乱や散逸してしまうため、電力伝送効率の低下を招く要因になり、また、他の装置に対して、EMI(Electro Magnetic Interference)による誤動作を引き起こす要因になり、可能な限り抑圧する必要がある。
そこで、特許文献1では、サイドローブやグレーティングローブの発生を抑圧するため、図11に示すように、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nを不等間隔又は不均一に配置するようにしている。
【0010】
太陽光発電衛星システムにおける最も重要な要素は、ソーラーパネル1により発電された電力が重畳されている電力マイクロ波の主ビームを、地球7上の所定地点に設置されている受電用アレーアンテナ8に対して、如何に指向・追尾させるかということである。
最適な指向・追尾方式として、レトロディレクティブ方式が挙げられる。図12はレトロディレクティブ方式の概念を示す説明図である。
図9の太陽光発電衛星システムでは、レトロディレクティブ方式を採用しているものとして説明する。
【0011】
受電用アレーアンテナ8の中心に設置されているパイロット信号送信機10は、特定周波数のパイロット信号11を送電用アレーアンテナ4に向けて送信する。
パイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11の等位相面24が送電用アレーアンテナ4を構成している送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nに到達すると、受信機21−1〜21−Nがパイロット信号11を検出して復調する。
位相共役器22−1〜22−Nは、受信機21−1〜21−Nがパイロット信号11を復調すると、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nにおけるパイロット信号11の受信位相を抽出する。
即ち、送電用アレーアンテナ4上の位相基準点から見て、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nが配置されている位置に依存している下記の式(1)で表される位相成分を抽出する。
【0012】

式(1)において、φは送電用アレーアンテナ4を構成している第n番目(1≦n≦N、Nは全素子数)の送受信両用アンテナ素子5−nにおけるパイロット信号11の受信位相である。
また、θはパイロット信号11の等位相面24と送受信両用アンテナ素子5−nが構成する平面とのなす角度であり、一般にパイロット信号11の入射角と呼ばれる。
λは伝送するマイクロ波の波長であり、Dは送電用アレーアンテナ4上の位相基準点(図12の例では、送受信両用アンテナ素子5−1が配置されている位置)から各送受信両用アンテナ素子5(図12の例では、送受信両用アンテナ素子5−2)が配置されている位置までの距離である素子間隔を表している。
【0013】
位相共役器22−1〜22−Nは、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nにおけるパイロット信号11の受信位相φを抽出すると、その受信位相φから送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nの放射位相を導出する。
即ち、位相共役器22−1〜22−Nは、下記の式(2)に示すように、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nの放射位相として、その受信位相φの複素共役成分φを算出する。

【0014】
マイクロ波変換部3は、ソーラーパネル1により発電された電力をマイクロ波に重畳し、電力マイクロ波(電力が重畳されているマイクロ波)を移相器23−1〜23−Nに出力する。
移相器23−1〜23−Nは、マイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波の放射位相として、位相共役器22−1〜22−Nにより導出された放射位相φを設定する。
これにより、放射位相φが設定された電力マイクロ波は送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nから送信されるが、パイロット信号11の入射角と全く同一方向に電力マイクロ波を放射するための等位相面24が形成される。
【0015】
図12では、1次元のリニアアレーの例を用いて説明したが、2次元の平面アレーについても同様に成立する。
このようにして、電力マイクロ波は、パイロット信号11の方向へ自動的に指向制御される。
このレトロディレクティブ方式は、構造が比較的単純であり、式(2)を演算するだけで演算負荷も小さく、処理反応速度も速いため、衛星の軌道からのずれや摺動(ある点を中心としてガウス分布上に起動が変動すること)などの衛星の姿勢誤差への対応にも優れ、常に地上のパイロット信号送信機10(受電用アレーアンテナ8)の方向へ電力マイクロ波を指向・追尾させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−136542号公報(図2)
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】宇宙科学研究所、“太陽発電衛星SPS2000研究成果報告”、宇宙科学研究所報告 特集 第43号(抜粋版)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来の太陽光発電衛星システムは以上のように構成されているので、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nが不等間隔又は不均一に配置されている。このため、サイドローブやグレーティングローブの発生を抑圧することができるが、送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nでは、電力マイクロ波の送信とパイロット信号11の受信を同時に行う必要がある。一般に、送受両用の機能を有するアンテナ素子(モジュール)は、送信機能単体又は受信機能単体に機能を限定しているアンテナ素子(モジュール)よりも構造が複雑で構成品点数が多い。そのため、送受両用の機能を有するアンテナ素子は、単機能のアンテナ素子と比較して、製造単価が高額で、重量が重く、故障率が高いという大きな問題を有している。このことは、宇宙空間で稼動する太陽光発電衛星システムの製造コスト、輸送コスト、維持コストの増大を招き、システムにおける費用対効果に著しいデメリットを引き起こしかねない課題があった。
【0019】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、送受両用の機能を有するアンテナ素子を用いることなく、送電用アレーアンテナを構成して、製造コスト、輸送コスト、維持コストなどを低減することができる太陽光発電衛星システム及び放射位相設定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明に係る太陽光発電衛星システムは、送電用アレーアンテナが、電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を送信する複数の送電用アンテナ素子と、受電用アレーアンテナから送信されたパイロット信号を受信する複数のパイロット信号受信用アンテナ素子とから構成されており、複数の送電用アンテナ素子が不等間隔又は不均一に配置され、複数のパイロット信号受信用アンテナ素子が送電用アンテナ素子が配置されていない隙間部分に配置されており、放射位相設定手段が、各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子におけるパイロット信号の受信位相を抽出して、その抽出した複数の受信位相を合成し、合成後の受信位相に応じて当該送電用アンテナ素子の放射位相を設定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、送電用アレーアンテナが、電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を送信する複数の送電用アンテナ素子と、受電用アレーアンテナから送信されたパイロット信号を受信する複数のパイロット信号受信用アンテナ素子とから構成されており、複数の送電用アンテナ素子が不等間隔又は不均一に配置され、複数のパイロット信号受信用アンテナ素子が送電用アンテナ素子が配置されていない隙間部分に配置されており、放射位相設定手段が、各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子におけるパイロット信号の受信位相を抽出して、その抽出した複数の受信位相を合成し、合成後の受信位相に応じて当該送電用アンテナ素子の放射位相を設定するように構成したので、送受両用の機能を有するアンテナ素子を用いることなく、送電用アレーアンテナを構成することが可能になり、製造コスト、輸送コスト、維持コストなどを低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムを示す全体概要図である。
【図2】この発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムの衛星側の詳細内部構成を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムの処理内容の一部(放射位相設定方法)を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムで使用している座標系を示す説明図である。
【図5】送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
【図6】送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
【図7】送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
【図8】送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
【図9】特許文献1に開示されている太陽光発電衛星システムを示す全体概要図である。
【図10】特許文献1に開示されている太陽光発電衛星システムの衛星側の詳細内部構成を示す構成図である。
【図11】送受信両用アンテナ素子5−1〜5−Nが不等間隔又は不均一に配置されている送電用アレーアンテナ4を示す説明図である。
【図12】レトロディレクティブ方式の概念を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.
本発明は、送電用アレーアンテナとして、送受両用の機能を有するアンテナ素子ではなく、マイクロ波の送信だけを行う送電用アンテナ素子と、パイロット信号の受信だけを行うパイロット信号受信用アンテナ素子とを用いるものであるが、単純に送電用アンテナ素子とパイロット信号受信用アンテナ素子に分離しただけでは、送電用アレーアンテナとしての機能を損なう可能性がある。
それは先に説明したレトロディレクティブ方式において、送電用アンテナ素子とパイロット信号受信用アンテナ素子を同一平面上の異なる位置に配置することになるため、パイロット信号受信用アンテナ素子におけるパイロット信号の受信位相と、そのパイロット信号受信用アンテナ素子と位置が異なる送電用アンテナ素子の放射位相が異なる問題である。
【0024】
本発明では、この問題を送電用アンテナ素子の位置を中心とする線対称又は点対称となる最低2個のパイロット信号受信用アンテナ素子におけるパイロット信号の受信位相を合成するだけで、特別な補正処理を実施することなく、送電用アンテナ素子の放射位相を設定することにより、レトロディレクティブ方式を維持可能とするものである。
また、太陽光発電衛星システムとしての電力送電量を維持するために、送電用アンテナ素子の総数を変えない場合、送電用アンテナ素子と別個にパイロット信号受信用アンテナ素子を搭載する分だけ、送電用アレーアンテナの大型化を招く可能性があるが、本発明では、不等間隔又は不均一に配置している送電用アンテナ素子の間に存在する不定形な間隙を利用して、パイロット信号受信用アンテナ素子を配置するようにしているため、送電用アレーアンテナ自体の大きさは、従来と変化しないという利点も享受することができる。
【0025】
図1はこの発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムを示す全体概要図である。
図1において、ソーラーパネル1は宇宙空間に展開されており、太陽光を受けて電力を発電する光電変換機器である。
ロータリージョイント2はソーラーパネル1とマイクロ波変換部3の間に接続されている接続部材であり、ソーラーパネル1により発電された電力をマイクロ波変換部3に伝達する。
なお、ソーラーパネル1が太陽から適正な角度で太陽光を受けることができるように、太陽光発電衛星と太陽の位置関係によってソーラーパネル1が回転させられるが、その場合でも、ロータリージョイント2は、ソーラーパネル1により発電された電力を確実にマイクロ波変換部3に伝達することができる。
【0026】
マイクロ波変換部3はソーラーパネル1により発電された電力をマイクロ波に重畳し、電力マイクロ波(電力が重畳されているマイクロ波)を送電用アレーアンテナ4に出力する処理を実施する。なお、マイクロ波変換部3は電力重畳手段を構成している。
送電用アレーアンテナ4は複数の送電用アンテナ素子31と複数のパイロット信号受信用アンテナ素子32から構成されており、送電用アンテナ素子31はマイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波を地球7上の受電用アレーアンテナ8に向けて送信する一方、地球7上のパイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11を受信する。
なお、複数の送電用アンテナ素子31は不等間隔又は不均一に配置され、複数のパイロット信号受信用アンテナ素子32は送電用アンテナ素子31が配置されていない隙間部分に配置されている。
図中、6は送電用アレーアンテナ4から送信された電力マイクロ波のビームである。
【0027】
受電用アレーアンテナ8は地球7上の所定の場所に設置されており、送電用アレーアンテナ4から送信された電力マイクロ波を受信する複数の受電用アンテナ素子9から構成されている。
パイロット信号送信機10は受電用アレーアンテナ8の中心に設置されており、パイロット信号11を送電用アレーアンテナ4に向けて送信する。
整流回路12は複数の受電用アンテナ素子9により受信されたマイクロ波に重畳されている電力を抽出する回路である。なお、整流回路12は電力抽出手段を構成している。
【0028】
図2はこの発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムの衛星側の詳細内部構成を示す構成図である。
図2において、送電用アンテナ素子31−1〜31−Nは送電用アレーアンテナ4を構成しているアンテナ素子(図1の送電用アンテナ素子31)であり、移相器35−1〜35−Nから出力された電力マイクロ波を地球7上の受電用アレーアンテナ8に向けて送信する。
パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−Nは送電用アレーアンテナ4を構成しているアンテナ素子(図1のパイロット信号受信用アンテナ素子32の一部)であり、地球7上のパイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11を受信する。
パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1〜32b−Nは送電用アレーアンテナ4を構成しているアンテナ素子(図1のパイロット信号受信用アンテナ素子32の一部)であって、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−Nと組をなしており、地球7上のパイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号11を受信する。
【0029】
受信機33a−1〜33a−Nはパイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−Nにより受信されたパイロット信号11を復調する。
受信機33b−1〜33b−Nはパイロット信号受信用アンテナ素子32b−1〜32b−Nにより受信されたパイロット信号11を復調する。
【0030】
位相合成器34−1〜34−Nは受信機33a−1〜33a−N,33b−1〜33b−Nの出力信号から、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−N,33b−1〜33b−Nにおけるパイロット信号の受信位相を抽出して、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−Nにおけるパイロット信号の受信位相と、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1〜32b−Nにおけるパイロット信号の受信位相とを合成し、合成後の受信位相から送電用アンテナ素子31−1〜31−Nの放射位相を導出する。
移相器35−1〜35−Nはマイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波の放射位相として、位相合成器34−1〜34−Nにより導出された放射位相を設定する。
なお、受信機33a−1〜33a−N,33b−1〜33b−N、位相合成器34−1〜34−N及び移相器35−1〜35−Nから放射位相設定手段が構成されている。
図中、24はパイロット信号11の等位相面(位相が揃っている面)である。
【0031】
次に動作について説明する。
図3はこの発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムの処理内容の一部(放射位相設定方法)を示すフローチャートである。
図4はこの発明の実施の形態1による太陽光発電衛星システムで使用している座標系を示す説明図である。
図4の例では、XYZの3次元直交座標系の原点は、送電用アレーアンテナ4の中心にとり、送電用アレーアンテナ4はYZ平面上の平面アレーとしている。
つまり、送電用アレーアンテナ4上に配置される送電用アンテナ素子31−1〜31−N及びパイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−N,32b−1〜32b−Nは全てYZ平面上に位置している。座標原点を送電用アレーアンテナ4の中心におき、これを位相基準点とすれば、レトロディレクティブ方式について示した図12の素子間隔Dは、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−N,32b−1〜32b−Nの座標値と見なせる。
【0032】
また、図4の例では、パイロット信号送信機10から送電用アレーアンテナ4に到来するパイロット信号11の到来角度を、そのパイロット信号11の到来方向をXY平面に射影した線分ABとX軸のなす角をアジマスAZ、パイロット信号11の到来方向と線分ABのなす角をエレベーションELとして定義している。
このとき、YZ平面にある送電用アレーアンテナ4上の座標(Y(r),Z(r))に配置される第n番目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n(または、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−n)におけるパイロット信号11の受信位相φ(r)は、下記の式(3)で与えられる。ただし、1≦n≦N、Nはパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n(または、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−n)の総数である。
以降の表現では、(r)はパイロット信号受信用アンテナ素子32、(t)は送電用アンテナ素子31を表すものとする。

【0033】
太陽光発電衛星システムが図12に示すレトロディレクティブ方式を採用している場合、パイロット信号受信用アンテナ素子32におけるパイロット信号11の受信位相φ(r)の複素共役値(下記の式(4)で示される位相値φ(r))を電力マイクロ波の放射位相として、送電用アンテナ素子31から放射すれば、パイロット信号11と同一方向に電力マイクロ波を指向することができるはずである。

【0034】
しかし、この実施の形態1では、送電用アンテナ素子31−nとパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを分離し、YZ平面上の異なる位置に配置する必要があるため、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標を(Y(t),Z(t))とすると、(Y(t),Z(t))≠(Y(r),Z(r))の関係が成立する。
送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標(Y(t),Z(t))におけるパイロット信号11の受信位相φ(t)は、下記の式(5)で与えられる。

【0035】
このように、(Y(t),Z(t))≠(Y(r),Z(r))であるため、φ(t)≠φ(r)となり、レトロディレクティブ方式の概念が成立しなくなる。したがって、このままでは、電力マイクロ波のビーム6はパイロット信号11の到来方向へは指向しなくなる問題が発生する。
この実施の形態1では、この問題を解決するために、各々の送電用アンテナ素子31−nに対して、特定の位置関係を有する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを組み合わせ、2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号11の受信位相φ(r)を合成し、合成後の受信位相φ(r)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相φ(t)を導出することで、レトロディレクティブ方式を成立させている。
【0036】
具体的には、以下の通りである。
図5は送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
図5では、N個の送電用アンテナ素子31−1〜31−Nのうち、送電用アンテナ素子31−nと組となる2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nの配置例を示している。
即ち、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標(Y(t),Z(t))を中心として、Y軸に線対称な位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置している。
このとき、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nは、送電用アンテナ素子31−nから+Δzだけ離れ、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nは、送電用アンテナ素子31−nから−Δzだけ離れている。したがって、送電用アンテナ素子31−nの座標を(Y(t),Z(t))とすると、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nの座標は(Y(t),Z(t)+Δz)、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nの座標は(Y(t),Z(t)−Δz)と表せる。
【0037】
したがって、受信機33a−nは、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nがパイロット信号11を受信すると(図3のステップST1)、そのパイロット信号11を検出して復調する(ステップST2)。
また、受信機33b−nは、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nがパイロット信号11を受信すると(ステップST1)、そのパイロット信号11を検出して復調する(ステップST2)。
【0038】
位相合成器34−nは、受信機33a−n,33b−nがパイロット信号11を復調すると、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)を抽出する(ステップST3)。
パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号11の受信位相φa−n(r)は、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nの座標が(Y(t),Z(t)+Δz)なので、下記の式(6)で与えられる。ただし、1≦n≦N、Nはパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nの総数である。

パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号11の受信位相φb−n(r)は、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nの座標が(Y(t),Z(t)−Δz)なので、下記の式(7)で与えられる。ただし、1≦n≦N、Nはパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nの総数である。

【0039】
位相合成器34−nは、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)と、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)とを合成して合成位相φ(t)を算出する(ステップST4)。

【0040】
位相合成器34−nは、受信位相φa−n(r)と受信位相φb−n(r)の合成位相φ(t)を算出すると、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相を導出する(ステップST5)。
即ち、位相合成器34−nは、下記の式(9)に示すように、送電用アンテナ素子31−nの放射位相として、その合成位相φ(t)の複素共役成分φ(t)を算出する。

式(9)において、conj{・}は複素共役値を得る演算子である。
式(9)の演算結果である複素共役成分φ(t)は、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nとパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nに挟まれている送電用アンテナ素子31−nの座標(Y(t),Z(t))におけるレトロディレクティブ方式に合致する位相値となっている。
【0041】
移相器35−nは、位相合成器34−nが送電用アンテナ素子31−nの放射位相として、合成位相φ(t)の複素共役成分φ(t)を算出すると、マイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波に対して放射位相φ(t)を与える(ステップST6)。
これにより、送電用アンテナ素子31−nから放射位相φ(t)で電力マイクロ波が放射される。
【0042】
ここでは、送電用アンテナ素子31−nの放射位相φ(t)を設定する処理内容を示したが、全ての送電用アンテナ素子31−1〜31−Nの放射位相φ(t)〜φ(t)を同様に設定する。
その結果、送電用アンテナ素子31−1〜31−Nから送信される電力マイクロ波の等位相面は、パイロット信号11の等位相面24が全く同一になる。つまり、パイロット信号11の到来方向に対して電力マイクロ波を指向することができる。
【0043】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、送電用アレーアンテナ4が、電力マイクロ波を送信する複数の送電用アンテナ素子31−nと、パイロット信号送信機10から送信されたパイロット信号を受信する複数のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nとから構成されており、複数の送電用アンテナ素子31−nが不等間隔又は不均一に配置され、複数のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nが、送電用アンテナ素子31−nが配置されていない隙間部分に配置されており、位相合成器34−nが、送電用アンテナ素子31−nと組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を抽出して、その受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成し、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相φ(t)を導出し、移相器35−nが、マイクロ波変換部3から出力された電力マイクロ波に対して放射位相φ(t)を与えるように構成したので、送受両用の機能を有するアンテナ素子を用いることなく、送電用アレーアンテナを構成することが可能になり、製造コスト、輸送コスト、維持コストなどを低減することができる効果を奏する。
【0044】
即ち、この実施の形態1によれば、組となる2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを「Y軸に線対称」の位置に配置するという制約だけで、送電用アレーアンテナ4の開口上に配置することができ、両対称点の中心点である送電用アンテナ素子31−nからパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nまでの距離には制約事項がない。
つまり、不等間隔又は不均一に配置された送電用アンテナ素子31−nの間隙部分を利用して、組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置するものであるため、例えパイロット信号受信用アンテナ素子32を増やしても、送電用アレーアンテナ4の開口を広くする必要がない。このため、送電用アレーアンテナ4の大型化や重量増を抑制することができる。
【0045】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標(Y(t),Z(t))を中心として、Y軸に線対称な位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置するものを示したが、図6に示すように、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標(Y(t),Z(t))を中心として、Z軸に線対称な位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置するようにしてもよい。
【0046】
このとき、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nは、送電用アンテナ素子31−nからΔyだけ離れ、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nは、送電用アンテナ素子31−nから−Δyだけ離れている。
送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標を(Y(t),Z(t))とすると、組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nの座標は(Y(t)+Δy,Z(t))で表され、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nの座標は(Y(t)−Δy,Z(t))で表される。
【0047】
したがって、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)は、下記の式(10)で与えられる。

また、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)は、下記の式(11)で与えられる。

【0048】
位相合成器34−nは、下記の式(12)に示すように、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)と、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)とを合成して合成位相φ(t)を算出する。

【0049】
位相合成器34−nは、受信位相φa−n(r)と受信位相φb−n(r)の合成位相φ(t)を算出すると、上記実施の形態1と同様に、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相を導出する。
即ち、位相合成器34−nは、下記の式(13)に示すように、送電用アンテナ素子31−nの放射位相として、その合成位相φ(t)の複素共役成分φ(t)を算出する。

【0050】
式(13)の演算結果である複素共役成分φ(t)は、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nとパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nに挟まれている送電用アンテナ素子31−nの座標(Y(t),Z(t))におけるレトロディレクティブ方式に合致する位相値となっている。
したがって、Z軸に線対称な位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nが配置されている場合も、上記実施の形態1と同様に動作する。
【0051】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、送電用アンテナ素子31−nから放射されるレトロディレクティブ方式に則っている電力マイクロ波のZ軸位相成分を、Y軸に線対称な位置に配置されている2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相の合成から取得し、上記実施の形態2では、送電用アンテナ素子31−nから放射されるレトロディレクティブ方式に則っている電力マイクロ波のY軸位相成分を、Z軸に線対称な位置に配置されている2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相の合成から取得しているものを示したが、これらの場合、一方の軸に対する放射位相のみを得る場合に限られる。
【0052】
即ち、上記実施の形態1では、電力マイクロ波のZ軸位相成分だけを得ているので、図4におけるEL方向にしか、電力マイクロ波のビーム6を指向制御することができない。
また、上記実施の形態2では、電力マイクロ波のY軸位相成分だけを得ているので、図4におけるAZ方向にしか、電力マイクロ波のビーム6を指向制御することができない。
この実施の形態3では、電力マイクロ波のZ軸位相成分とY軸位相成分を同時に取得して、EL方向及びAZ方向に対して、電力マイクロ波のビーム6を指向制御できるようにしている。
【0053】
図7は送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
図7の例では、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標(Y(t),Z(t))を中心として、点対称となる位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置している。
このとき、組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nの座標は(Y(t)+Δy,Z(t)+Δz)で表され、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nの座標は(Y(t)−Δy,Z(t)−Δz)で表される。
【0054】
したがって、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)は、下記の式(14)で与えられる。

また、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)は、下記の式(15)で与えられる。

【0055】
位相合成器34−nは、下記の式(16)に示すように、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)と、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)とを合成して合成位相φ(t)を算出する。

【0056】
位相合成器34−nは、受信位相φa−n(r)と受信位相φb−n(r)の合成位相φ(t)を算出すると、上記実施の形態1と同様に、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相を導出する。
即ち、位相合成器34−nは、下記の式(17)に示すように、送電用アンテナ素子31−nの放射位相として、その合成位相φ(t)の複素共役成分φ(t)を算出する。

【0057】
式(17)の演算結果である複素共役成分φ(t)は、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nとパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nに挟まれている送電用アンテナ素子31−nの座標(Y(t),Z(t))におけるレトロディレクティブ方式に合致する位相値となっている。
この実施の形態3では、送電用アンテナ素子31−nから放射されるレトロディレクティブ方式に則っている電力マイクロ波のZ軸位相成分とY軸位相成分を同時に得ることができ、図4におけるAZ方向とEL方向に対する電力マイクロ波のビーム指向制御を行うことができる。
【0058】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3では、送電用アンテナ素子31−nの位置を中心とする線対称の位置(または点対称の位置)に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置するものを示したが、送電用アンテナ素子31−1〜31−Nを不等間隔又は不均一に配置にしているため、送電用アンテナ素子31−1〜31−Nの間にできる間隙は不定形である。
そのため、送電用アンテナ素子31−nの位置を中心とする線対称の位置(または点対称の位置)に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置することができない場合もある。
【0059】
図8は送電用アンテナ素子31に対する2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32の配置例を示す説明図である。
図8では、送電用アンテナ素子31−1の位置を中心とする点対称の位置に2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置する際、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1を配置する位置に、別の送電用アンテナ素子31−2が存在しているために、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1を配置することができない例を示している。先にも述べているように、電力マイクロ波のビーム6が最適になるように、送電用アンテナ素子31−1〜31−Nの配置を決めているため、送電用アンテナ素子31−2の位置を移動することはできない。
【0060】
そこで、この実施の形態4では、別の送電用アンテナ素子31が存在するために、組となる2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nのうち、例えば、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nを配置することができない場合、送電用アンテナ素子31−nとパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nを結ぶ線分上の定数倍の外分点にパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nを配置するようにする。
図8の例では、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1を2倍の外分点の位置に配置している。
即ち、送電用アンテナ素子31−nが配置されている座標が(Y(t),Z(t))であるとすると、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−1は座標(Y(t)−Δy,Z(t)−Δz)の位置に配置され、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−1は座標(Y(t)+2Δy,Z(t)+2Δz)の位置に配置される。
【0061】
したがって、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)は、下記の式(18)で与えられる。

また、位相合成器34−nにより抽出されるパイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)は、下記の式(19)で与えられる。

【0062】
位相合成器34−nは、下記の式(20)に示すように、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r)と、パイロット信号受信用アンテナ素子32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φb−n(r)とを合成して合成位相φ(t)を算出する。

【0063】
式(20)において、最後の第1項目はパイロット信号受信用アンテナ素子32a−nのレトロディレクティブ方式に合致する電力マイクロ波の放射位相になっている。
第2項目はΔy、Δz及び外分点を与える定数値(ここでは、2)により一意に求まる余剰項である。
したがって、送電用アレーアンテナ4上に全ての送電用アンテナ素子31−1〜31−N及びパイロット信号受信用アンテナ素子32a−1〜32a−N,32b−1〜32b−Nを配置したときに、各々の送電用アンテナ素子31−nと組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nの座標から、Δy、Δz及び外分点を与える定数値を補正値として、図2における位相合成器34−n内のメモリテーブル(位置記憶部)に予め記憶させておくようにする。
そして、実際の運用時に、このように外分点の関係にある2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号11の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成する際に、位相合成器34−n内の位相補正部が、上記の補正値で余剰項をキャンセルするようにすればよい。
以降、位相合成器34−n内の放射位相設定部が、補正後の受信位相を合成して合成位相φ(t)を算出し、その合成位相φ(t)から送電用アンテナ素子31−nの放射位相を導出する。
【0064】
この実施の形態4によれば、送電用アンテナ素子31−nの周囲に、組となる2個のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置する自由度が大きく向上し、複数の送電用アンテナ素子31を不等間隔又は不均一に配置しているにもかかわらず、その間隙部分を有効に利用して、パイロット信号受信用アンテナ素子32を配置することが可能になる。
【0065】
実施の形態5.
この実施の形態5では、上記実施の形態3,4をより一般化したものである。
即ち、上記実施の形態3,4では、送電用アンテナ素子31−nと組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nが2個であるものを示したが、パイロット信号受信用アンテナ素子32の配置制約が許す範囲であれば、2個で1組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを複数組配置するようにしてもよい。
【0066】
例えば、1組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nについては、上記実施の形態3,4と同様の方法で配置する。
2組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nについては、1組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを結ぶ線分に交差する形で(文字Xを模するように)配置する。
【0067】
このように、1つの送電用アンテナ素子31−nに対して、2組のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置することで、以下の効果が得られる。
一般に送電用アレーアンテナ4は、宇宙空間に構築される巨大な平面アレーアンテナであり、それを支える構造体によって平面が維持される。
しかし、構造体の問題や急激な軌道のずれによって、送電用アレーアンテナ4が完全な平面でなく、凹凸を持つような状態になる場合がある。
このような場合、組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号11の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成することで、送電用アンテナ素子31−nの放射位相を算出しても、平面とは異なる微妙な凹凸で素子の座標が変わっているため、レトロディレクティブ方式に合致する正しい位相値を算出することができない。
【0068】
これに対して、1組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを結ぶ線分に交差する形で、2組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置する場合、1組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nでは吸収できていない送電用アレーアンテナ4の凹凸の影響を、別のカット面に配置されている2組目のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nが吸収できる場合がある。
【0069】
この実施の形態5では、1つの送電用アンテナ素子31−nに対して、複数組のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置する際、各組のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nは、異なる交差角度となるように配置する。
理想的には、送電用アンテナ素子31−nを中心とする円周上に、複数組のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置する。
これにより、どのカット面に対しても、送電用アレーアンテナ4の凹凸の影響を吸収することが可能になる。
また、複数組のパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nを配置することで、パイロット信号11の受信位相を合成する際の受信位相のサンプル数が増えるため、送電用アンテナ素子31−nに与える放射位相の精度が向上する効果が得られる。
【0070】
実施の形態6.
上記実施の形態1〜5では、位相合成器34−nが、送電用アンテナ素子31−nと組となるパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を抽出し、その受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成するものを示したが、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成する処理については、デジタル的に処理(デジタル回路などによる演算)してもよいし、アナログ的に処理(RFデバイスのみによる合成)してもよく、同様の効果が得られる。
【0071】
パイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成する処理をデジタル的に行う場合、位相合成器34−n内のA/D変換器が、受信機33a−n,33b−nにより復調されたパイロット信号をアナログ値からデジタル値に変換し、このデジタル値からパイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nにおけるパイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を抽出すればよい。
【0072】
パイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成する処理をアナログ的に行う場合、受信機33a−nにより復調されたパイロット信号と受信機33b−nにより復調されたパイロット信号とを合成するアナログ合成器(マジックTなどのRFデバイス)を用いて位相合成器34−nを構成し、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nから位相合成器34−nまでの各伝送線路の電気長の全てが同一になるように調整していればよい。
【0073】
パイロット信号の受信位相φa−n(r),φb−n(r)を合成する処理をデジタル的に行う場合でも、アナログ的に行う場合でも、同様の効果が得られるが、運用における抗堪性が高く、メンテナンスを容易に行えない宇宙空間で処理の自由度が高いのは、デジタル的処理の方である。
アナログ的に行う場合、パイロット信号受信用アンテナ素子32a−n,32b−nから位相合成器34−nまでの各伝送線路の電気長が完全に一致するとは限らないが、デジタル的に行う場合、その電気長の誤差を補正値として観測値に寄与することができる。
【0074】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 ソーラーパネル、2 ロータリージョイント、3 マイクロ波変換部(電力重畳手段)、4 送電用アレーアンテナ、5−1〜5−N 送受信両用アンテナ素子、6 電力マイクロ波のビーム、7 地球、8 受電用アレーアンテナ、9 受電用アンテナ素子、10 パイロット信号送信機、11 パイロット信号、12 整流回路(電力抽出手段)、21−1〜21−N 受信機、22−1〜22−N 位相共役器、23−1〜23−N 移相器、24 パイロット信号の等位相面、31−1〜31−N 送電用アンテナ素子、32a−1〜32a−N,32b−1〜32b−N パイロット信号受信用アンテナ素子、33a−1〜33a−N,33b−1〜33b−N 受信機(放射位相設定手段)、34−1〜34−N 位相合成器(放射位相設定手段)、35−1〜35−N 移相器(放射位相設定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間に展開されており、太陽光を受けて電力を発電するソーラーパネルと、上記ソーラーパネルにより発電された電力をマイクロ波に重畳する電力重畳手段と、上記電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を地上に向けて送信する一方、地上から送信されてくるパイロット信号を受信する送電用アレーアンテナと、地上に設置されており、上記送電用アレーアンテナにより送信されたマイクロ波を受信する一方、上記パイロット信号を送信する受電用アレーアンテナと、上記受電用アレーアンテナにより受信されたマイクロ波に重畳されている電力を抽出する電力抽出手段とを備えた太陽光発電衛星システムにおいて、
上記送電用アレーアンテナは上記電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を送信する複数の送電用アンテナ素子と、上記受電用アレーアンテナから送信されたパイロット信号を受信する複数のパイロット信号受信用アンテナ素子とから構成されており、
上記複数の送電用アンテナ素子は不等間隔又は不均一に配置され、上記複数のパイロット信号受信用アンテナ素子は上記送電用アンテナ素子が配置されていない隙間部分に配置されており、
各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子における上記パイロット信号の受信位相を抽出して、その抽出した複数の受信位相を合成し、合成後の受信位相に応じて当該送電用アンテナ素子の放射位相を設定する放射位相設定手段を設けたことを特徴とする太陽光発電衛星システム。
【請求項2】
送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子は、上記送電用アンテナ素子の位置を中心とする線対称の位置に配置される2個のパイロット信号受信用アンテナ素子であることを特徴とする請求項1記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項3】
送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子は、上記送電用アンテナ素子の位置を中心とする点対称の位置に配置される2個のパイロット信号受信用アンテナ素子であることを特徴とする請求項1記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項4】
送電用アンテナ素子の位置を中心とする点対称の位置に配置される2個のパイロット信号受信用アンテナ素子である第1及び第2のパイロット信号受信用アンテナ素子のうち、第2のパイロット信号受信用アンテナ素子の配置位置が、当該送電用アンテナ素子と異なる他の送電用アンテナ素子の配置位置と重なる場合、第1のパイロット信号受信用アンテナ素子と当該送電用アンテナ素子の配置位置を結ぶ線分上の定数倍の外分点に第2のパイロット受信用アンテナ素子が配置されることを特徴とする請求項3記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項5】
放射位相設定手段は、各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子が配置されている位置を記憶している位置記憶部と、上記複数のパイロット信号受信用アンテナ素子におけるパイロット信号の受信位相を抽出する位相抽出部と、上記位置記憶部により記憶されている位置にしたがって上記位相抽出部により抽出された受信位相を補正する位相補正部と、上記位相補正部により補正された複数の受信位相を合成し、合成後の受信位相に応じて当該送電用アンテナ素子の放射位相を設定する放射位相設定部とから構成されていることを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項6】
送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子は、上記送電用アンテナ素子の位置を中心とする点対称の位置に配置される4以上の偶数個のパイロット信号受信用アンテナ素子であることを特徴とする請求項1記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項7】
放射位相設定手段は、各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子により受信されたアナログ信号であるパイロット信号を合成するアナログ合成器と、上記複数のパイロット信号受信用アンテナ素子と上記アナログ合成器間を結び、上記複数のパイロット信号受信用アンテナ素子により受信されたパイロット信号を上記アナログ合成器まで導く複数の伝送線路とから構成され、上記複数の伝送線路の電気長が同一長に調整されていることを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の太陽光発電衛星システム。
【請求項8】
宇宙空間に展開されており、太陽光を受けて電力を発電するソーラーパネルと、上記ソーラーパネルにより発電された電力をマイクロ波に重畳する電力重畳手段と、上記電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を地上に向けて送信する一方、地上から送信されてくるパイロット信号を受信する送電用アレーアンテナと、地上に設置されており、上記送電用アレーアンテナにより送信されたマイクロ波を受信する一方、上記パイロット信号を送信する受電用アレーアンテナと、上記受電用アレーアンテナにより受信されたマイクロ波に重畳されている電力を抽出する電力抽出手段とを備えた太陽光発電衛星システムに適用される放射位相設定方法において、
上記送電用アレーアンテナが、上記電力重畳手段により電力が重畳されたマイクロ波を送信する複数の送電用アンテナ素子と、上記受電用アレーアンテナから送信されたパイロット信号を受信する複数のパイロット信号受信用アンテナ素子とから構成されており、
上記複数の送電用アンテナ素子が、不等間隔又は不均一に配置され、上記複数のパイロット信号受信用アンテナ素子が、上記送電用アンテナ素子が配置されていない隙間部分に配置されており、
放射位相設定手段が、各々の送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子における上記パイロット信号の受信位相を抽出して、その抽出した複数の受信位相を合成し、合成後の受信位相に応じて当該送電用アンテナ素子の放射位相を設定することを特徴とする放射位相設定方法。
【請求項9】
送電用アンテナ素子と組となる複数のパイロット信号受信用アンテナ素子は、上記送電用アンテナ素子の位置を中心とする線対称又は点対称の位置に配置される2個のパイロット信号受信用アンテナ素子であることを特徴とする請求項8記載の放射位相設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−5378(P2013−5378A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137250(P2011−137250)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】