説明

太陽電池モジュールおよびその設置方法

【課題】種々の建造物に適用でき、かつ、設置者の技巧を要さずに簡便に設置することのできる新たな太陽電池モジュールとその設置方法を提供すること。
【解決手段】光起電力素子4と、前記素子4に直接に又は他の層3を介して接着剤2で貼付された布帛層1とを有し、前記接着剤2は前記素子4側から前記布帛層1の内部にしみ込んで硬化していて、かつ、前記接着剤は前記布帛層の前記素子とは反対側の表面には達していない、太陽電池モジュール100。該モジュール100の設置方法では、被着体への設置のために接着剤が用いられ、該モジュール100が有する布帛層1の光起電力素子4とは反対側の面が接着剤を介して被着体に押し付けられ、接着後の前記布帛層1の内部には光起電力素子4側および被着体側の両方から接着剤がしみ込んで硬化していて、布帛層1を構成する繊維材料と相俟ってFRP化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールおよびその設置方法に関する。本発明によれば、構造物の壁、天面、屋上などに太陽電池モジュールを設置、固定することが容易になる。
【背景技術】
【0002】
(1)フレキシブル太陽電池モジュールの多くはその両面に保護層としてETFE等のフッ素樹脂層が積層されている。一般にフッ素樹脂は濡れ性が悪く、接着剤を塗布して構造物に貼付しても、長期間の接着力の持続は期待できない。そこで、特許文献1によれば、接着剤塗布面の保護層の表面に酸素及び窒素を含ませることにより、接着剤の濡れ性を改善して、長期間の接着力の保持を可能にしている。
【0003】
(2)フレキシブル太陽電池モジュールを各種建材(金属板建材)に貼付する技術として、特許文献2によれば、フレキシブル太陽電池の最裏面(光入射側の逆面)にフィラー、繊維を含有する接着性オレフィン樹脂層を積層し、その樹脂層を熱風等の熱で溶融させながら被着体に直ちに圧着して固定する接着方法が提案されている。
【0004】
(3)フレキシブル太陽電池モジュールを屋上スラブ上のアスファルトシートルーフィングに設置する場合、特許文献1の方法により貼付しても、高温時等において、アスファルトシートとフレキシブル太陽電池モジュールとでは線膨張率が異なる為、接着剤の付着力を高めても剥がれが発生する恐れがある。そこで、特許文献3によれば、フレキシブル太陽電池モジュールとアスファルトシートとの間に弾性モルタルを積層させることにより、弾性モルタルが異なる線膨張率を緩衝し、熱による剥がれが無くなる。
【0005】
(4)屋上スラブ上のシンダーコンクリートとして、あるいは外壁用としてのALC版に太陽電池を設置する場合、特許文献1の方法により貼付しても、高温時等において、ALC版とフレキシブル太陽電池モジュールとでは線膨張率が異なる為、接着剤の付着力を高めても剥がれが発生する恐れがある。そこで、特許文献4によれば、フレキシブル太陽電池モジュールとALC版の間に少なくとも、シート防水層、断熱層を設けることにより断熱し、膨張を抑えることにより、熱による剥がれが無くなる。
【0006】
(5)特許文献5によれば、屋根用基板として使用される各種金属材料やプラスチック材料など幅広い材料に太陽電池モジュールを設置固定する技術として、フレキシブル太陽電池モジュールの裏面側保護層が無い状態(封止材面が露出)のサブモジュールを被着体に反応硬化型接着剤と感圧型シート接着剤により貼付接着固定する技術が挙げられる。特許文献5によれば、感圧型シート状接着剤と、反応硬化型接着剤との長所、短所がお互いの接着剤でカバーされ、安定した接着性能が得られ、結果として、幅広い材料に対して安定した接着性能を有し、接着不良はなくなって、屋外環境での長時間使用に耐え得る耐久性に優れる。
【特許文献1】特開平10−284745号公報
【特許文献2】特開2002−111036号公報
【特許文献3】特開2007−120237号公報
【特許文献4】特開2007−208213号公報
【特許文献5】特開2008−53419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
太陽電池は通常、直射日光下に設置される為に、時期によってはかなり高温になり、モジュールと構造物の線膨張率の違いを接着剤の接着力、凝集力等で抑制することは難しく、特許文献1の技術では、容易に剥がれてしまう問題がある。又、平滑なフレキシブル太陽電池モジュールの裏面に接着剤を介して被着体に貼付しても、接着剤が硬化する前に容易に被着体とずれや浮きが発生してしまうから、接着剤が硬化するまでは仮固定等が必要となる。しかし、被着体の環境によっては仮固定が難しい壁面や傾斜した天井面等もある為、仮固定だけの設備も必要となってしまい経済的では無い。特許文献2の技術を実施する場合、熱を掛ける設備や、固定しながら熱可塑性オレフィン系接着樹脂を冷却するための大掛かりな設備が必要となり、形状や条件がそれぞれ異なり、さまざまな環境にある被着体に直接貼付することは難しい。特許文献3の技術で用いる弾性モルタルは通常、現場で成型し、実用強度になるには数日以上掛かる為、作業日数が増加してしまう上に、成型は、太陽電池モジュールに平滑に積層されるようにする為に、左官作業が難易である。又、弾性モルタル自体、重量が嵩む為、耐力が限界に近い構造物には許容されない問題がある。特許文献4の技術は、耐風性、耐震性に優れた設置方法であるが、それぞれの材料を接着剤により現場で貼付するのは手間や工期が多く掛かる作業である。
【0008】
これらのことに鑑みて、本発明は種々の建造物に適用でき、かつ、設置者の技巧を要さずに簡便に設置することのできる新たな太陽電池モジュールとその設置方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
(1)光起電力素子と、前記素子に直接に又は他の層を介して接着剤で貼付された布帛層とを有し、前記接着剤は前記素子側から前記布帛層の内部にしみ込んで硬化していて、かつ、前記接着剤は前記布帛層の前記素子とは反対側の表面には達していない、太陽電池モジュール。
(2)上記接着剤がウレタン系接着剤、エステル系接着剤、アクリル系接着剤、オレフィン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の接着剤であることを特徴とする(1)記載の太陽電池モジュール。
(3)上記帛布層が織布、編布、不織布及び積層布からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、その繊維材料がポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、セルロース繊維からなる群から選ばれる1種又は2種以上の繊維であることを特徴とする(1)または(2)記載の太陽電池モジュール。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールを接着剤を用いて被着体に設置する方法であって、上記太陽電池モジュールが有する布帛層を接着剤を介して被着体に押し付ける工程を有し、接着後の前記布帛層の内部には光起電力素子側および被着体側の両方からしみ込んだ接着剤が硬化している、太陽電池モジュールの設置方法。
(5)上記太陽電池モジュールを被着体へ設置するために用いる上記接着剤が、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、ビニルエステル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリマーセメント系接着剤、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤および樹脂モルタルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の接着剤であることを特徴とする(4)記載の設置方法。
(6)上記被着体が既存建築物の壁体である(4)または(5)記載の設置方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、太陽電池モジュールは工場などの生産設備の整った環境で製造して、その設置のみを屋外などの作業現場で行うことができる。そして、太陽電池モジュールの最下面、つまり、被着体に貼り付けるべき面は、FRP化していない布帛層であるから、作業現場において接着剤がしみ込み易く、被着体への設置が容易になる。
太陽電池の主要素子である光起電力素子と布帛層との接着に用いる接着剤、ならびに、太陽電池モジュールと被着体との接着に用いる接着剤は、各々独立に最適なものを選択できる。このように、接着剤の選択の余地が広がることにより、より強固な接着を期待することができる。
本発明によれば、以上のように、強固な接着が得られやすいため、現場作業者の熟練に大きく依存することなく、被着体の形状、場所、環境などが劣悪であっても太陽電池モジュールの設置が可能になる。また、被着体と太陽電池モジュールとの線膨張率の違いを吸収することも可能な為、長期的に品質を保持することも可能である。特に、被着体が既存建築物の壁体である場合など、太陽電池モジュールの設置のために穿孔したり削ったりすることが好ましくない場合であっても、本発明によれば、接着剤で強固に設置することができる。
【0011】
本発明によれば、太陽電池モジュールの被着体への設置面は布帛層であり、布帛層は繊維状で表面積が大きいから、接着剤がしみ込み易く、この接着剤が硬化すれば布帛の繊維材料と相俟って繊維強化プラスチック(FRP)を構成して強度向上に資する。すなわち、被着体と太陽電池モジュールとの線膨張率の違いや被着体の動きに対して、緩衝する能力を有し、長期に渡る安定な設置が可能である。また、接着剤が硬化する前の段階では、未硬化の接着剤を布帛層がよく保持するから、太陽電池モジュールが被着体から浮いたりずれたりしにくい。
本発明では、被着体に太陽電池モジュールを設置する直前までは、該モジュールがフレキシブルであってもよく、さらに、該モジュールの設置の際には機械的な加工は特段要さずに接着剤を用いて貼付するだけであるため、被着体が平面である必要はなく、設置が容易である。
このように、本発明によれば、被着体の種類や、設置環境、敷設条件などについての選択の余地が広く、太陽電池モジュール自体は工場などといった生産設備の整ったところで製造でき、設置現場では作業者の熟練を要さずに容易に太陽電池モジュールを設置することができ、また、設置状態が長期にわたって安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明を詳述する。しかし、本発明は図示された態様に限定されない。
図1は、本発明による太陽電池モジュールの断面の模式図である。この太陽電池モジュール100は、光起電力素子4の両面に樹脂フィルム3が設けられていて、片側の樹脂フィルム3には接着剤層2を介して布帛層1が接着されている。接着剤は布帛層1の内部に厚さ方向に途中までしみ込んで硬化している。布帛層1のうち、接着剤がしみ込んで硬化した部分は繊維強化プラスチック(FRP)になったと評価することができる。このように繊維強化プラスチックになった部分を、図1では符号12として示している。本発明では、布帛層1において、光起電力素子4の反対側の面にまでは接着剤がしみ込まず、FRP化していない布帛層11が存在している。
【0013】
本発明によれば、こういった太陽電池モジュール100は、建築物などへの設置を主とした目的として想定され、本発明では、特に断らない限り、太陽電池モジュールは未だ設置されていないものを指す。典型的には、このような太陽電池モジュールを生産効率のよい工場などで調製しておき、既存建築物などの施工現場にて被着体の材質などに適合した接着剤を用いて設置される。
【0014】
光起電力素子4は太陽光に代表される光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であり、結晶シリコン、アモルファスシリコンやその他の公知のものを特に限定無く用いることができる。図面では省略されているが、一般的には、太陽電池モジュールには、前記素子4により得られる電気エネルギーを取り出すための端子なども存在する。
光起電力素子4の選択によって、太陽電池モジュール100をフレキシブルなものにすることも可能である。
【0015】
本発明によれば、布帛層1は光起電力素子4に直接に接着していてもよいが、通常は、封止作用や、物理的な保護などを目的として樹脂フィルム3などが設けられる。樹脂フィルム3に直接に布帛層1を積層する形態が一般的である。樹脂フィルム3が設けられる場合、該フィルム3の材質、厚さや形状などは適宜設計することができ、材質としてはETFE等のフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。樹脂フィルム3には表面処理などを適宜施して、隣接する層との接着性を高めることが好ましい。樹脂フィルム3の表面処理としては、接着剤に対する濡れ性を高めるための金属ナトリウム処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられ、さらに他の公知の濡れ性を高める表面改質方法の採用が可能である
【0016】
本発明では、太陽電池モジュール100には、金属層や封止層、防湿層、接着層などを、樹脂フィルム3にさらに加えてもよいし、あるいは、樹脂フィルム3と置き換えてもよい。また、本発明では樹脂フィルム3は必須ではない。
【0017】
図1に示された太陽電池モジュール100は、図面の上方から受光して発電することが意図される。したがって、最上層の樹脂フィルム3は光を透しやすくかつ耐候性を有することが好ましい。
【0018】
布帛層1は本発明における特徴的な構成である。
布帛層1は光起電力素子4に直接にまたは他の層を介して接着剤で貼り付けられている。布帛層1の内部を層厚方向にみたとき、光起電力素子4側は、しみ込んだ接着剤が硬化して繊維強化プラスチック(FRP)を構成しており、光起電力素子4の逆側は、接着剤が到達しておらずFRPになっていない。このような布帛層1の態様を、図1では、FRP化していない布帛層11およびFRP化した布帛層12として模式的に描写している。光起電力素子4とは逆側にあるFRP化していない布帛層11は、この太陽電池モジュール100を被着体へ設置するときに接触させることを意図する層である。被着体への設置のときに、未だFRP化していない布帛層11には被着体への設置用の接着剤がしみ込み易いため、設置作業者の技巧に大きく依存することなく強固な接着が実現し、また、布帛層11内にしみ込んだ接着剤が硬化することによって布帛層1全体がFRPとして作用するため、設置した太陽電池モジュール100の強度向上にも資する。
【0019】
本発明によれば、布帛は、繊維材料を原料とする平面状の部材であり、いわゆる布状物ということもできる。布帛としては、糸状の繊維材料を織って得られる織布、糸状の繊維材料を編んで得られる編布、繊維材料を接着材料を用いたり繊維材料同士の接着力を用いるなどしてシート状に加工してなる不織布、複数種類の布帛を積層してなる積層布などが挙げられる。布帛を構成する繊維材料(繊維基材)としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、セルロース繊維などが非限定的に挙げられる。これらの繊維は単一種類を用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0020】
具体的な布帛層1の例として、目付けが10〜100g/mのポリエステル不織布を好適に挙げることができる。目付け量が上記範囲内であれば、施工用の接着剤が布帛層1に充分に含浸しやすく、かつ、FRP化していない布帛層11の厚さが十分に確保できることから、結果として、太陽電池モジュール100自体の強度と該モジュール100の設置強度のさらなる向上を図ることができる。
【0021】
光起電力素子4と布帛層1との間には他の層が介在していてもしていなくてもよい。図1の例では、樹脂フィルム3が介在している。布帛層1は、接着剤を用いて光起電力素子4と直接にまたは他の層を介して接着される。図1では、樹脂フィルム3と布帛層1との間に接着剤層2を描写している。接着剤の大部分が布帛層1にしみ込んで、硬化後に接着剤層2の存在が認められない場合もあり得るが、そういった態様も本発明の範囲内である。
【0022】
布帛層1を光起電力素子4に直接に又は他の層を介して接着するための接着剤としては、ウレタン系接着剤(ウレタン系2液硬化型接着剤や、ウレタン系湿気硬化型接着剤など)、エステル系接着剤、シリコーン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ゴム系接着剤等の接着剤が使用可能である。これらの接着剤は、単一種類を用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。本発明の太陽電池モジュール100は屋外に設置されて長期にわたって使用することが想定されるから、ウレタン系接着剤の使用が好ましい。接着剤の長期耐久性を向上させるために、紫外線吸収剤や酸化防止剤等の紫外線による接着剤の劣化を防止する材料の添加も可能である。
【0023】
接着剤の塗布方法は特に限定されず公知の方法を適宜援用してよい。いくつかの例として、グラビアコーター、各種ロールコーター、各種スプレー塗布等による塗布が挙げられる。接着剤の塗布量は、接着剤および布帛層1の種類や、布帛層1の厚さや目付け量などによって適宜設定することができる。布帛層1と光起電力素子4との接着を確保し、かつ、FRP化していない布帛層11を確保するという観点から、固形分塗布量は3〜100g/mが好適である。
【0024】
本発明によれば、上述のような太陽電池モジュール100を接着剤を用いて被着体に接着させることによって、該モジュール100が設置される。このとき、該モジュール100のうちFRP化していない布帛層11に接着剤がしみ込んで該接着剤が硬化することによって、布帛層1の被着体側もFRP化する。
【0025】
図2は、被着体に設置した太陽電池モジュールの模式図である。図2に示される太陽電池モジュール100は、光起電力素子4と、その両面に設けられた2層の樹脂フィルム3と、一方の樹脂フィルム3側に設けられた接着剤層2と、該接着剤層2を介して設けられたFRP化した布帛層10とを有している。FRP化した布帛層10は接着剤層5を介して被着体6に接着されている。FRP化した布帛層10は、当初は布帛層であったものの内部に、両側から接着剤がしみ込み、それら接着剤が硬化してFRP化したものである。上述したとおり、樹脂フィルム3の存在は任意であり、金属層やその他の層を樹脂フィルム3にさらに加えてもよいし、あるいは、樹脂フィルム3と置き換えて用いてもよい。
【0026】
被着体6において太陽電池モジュール100を設置する面は好ましくは平滑である。被着体6において太陽電池モジュール100を設置する面が平滑ではない場合は、太陽電池モジュール100が被着体6から浮いてしまう可能性を低減させるために、不陸修正材等で平滑にすることが好ましい。
【0027】
被着体6への太陽電池モジュール100の設置のための接着剤は、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、ビニルエステル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリマーセメント系接着剤、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、樹脂モルタルなどから適宜選択することができる。ポリマーセメント系接着剤とは、樹脂エマルジョンが添加されたセメントモルタルであり、樹脂モルタルとは、合成樹脂接着剤と砂が配合されたモルタルである。これらの接着剤は単一の種類を用いてもよいし、複数種類のものを混合して用いてもよい。本発明によれば、光起電力素子4と布帛層1との間の接着剤の種類にかかわらず、被着体6との接着性を考慮して自由に被着体6と太陽電池モジュール100との間の接着剤の種類を選択できる。つまり、光起電力素子4と布帛層1との間の接着剤と、被着体6と太陽電池モジュール100との間の接着剤とは、同一種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0028】
被着体6と太陽電池モジュール100との間の接着剤の量は、接着剤、被着体6、布帛層10の種類などに応じて適宜設定される。太陽電池モジュール100が剥がれにくくなる程度の塗布量の確保と、接着剤層5を薄くして接着剤層5への局部応力集中を減らすことにより剥離がより生じにくくするという観点から、被着体6と太陽電池モジュール100との間の接着剤の量(固形分量)は、150〜2000g/mが好ましい。なお、図2では接着剤層5を示しているが、接着剤層5が極めて薄く存在が確認できない程度であっても本発明の範囲内である。
【0029】
太陽電池モジュール100を被着体へ設置する方法としては、被着体6の太陽電池モジュール100を設置しようとする箇所に接着剤を塗布するか、あるいは、太陽電池モジュール100のFRP化していない布帛層に接着剤を塗布し、次いで、好ましくは、布帛層の端部から被着体6に貼り合わせて、布帛層の内部に接着剤がしみ込むように押し付けて、残留気泡が無いように貼り合せて接着固定する。接着剤が硬化すると、布帛層を構成する繊維材料と相俟ってFRPとなり、設置された太陽電池モジュール100の強度向上に資する。好ましくは、設置後は、布帛層10の全てがFRP化している。しかし、布帛層10の少なくとも一部分がFRP化していれば強度向上の効果を奏することから、設置後の布帛層10の一部に接着剤が行き渡らずにFRP化していない部分が残存している態様もまた本発明の範囲内である。
【0030】
本発明によれば、太陽電池モジュール100を工場などの生産設備の整った環境で作製し、屋外などの設置現場では、該モジュール100を接着剤を用いて被着体6に設置することが好ましい。該モジュール100の設置側には未だFRP化していない布帛層(図1における符号11)があるので、接着剤がしみ込み易く、被着体6との接着が容易であるので、現場施工者の技量に大きく依存することなく、強固な設置が達成される。
【0031】
本発明によれば、被着体6は太陽電池モジュール100を支持するに足る大きさおよび強度を備える物品・部材であれば特に限定はない。新規に建築される建築物の一部を被着体6として、そこに太陽電池モジュール100を組み込むこともできる。被着体6は既存建築物の壁体であってもよい。新築の際に太陽電池モジュール100を設置する場合には、その設置を考慮して建築物を設計できるのに対して、既存建築物の場合には、太陽電池モジュール100の設置を考慮していない場合が殆どであるから、設置のために穿孔することができなかったり、設置のための広い作業スペースが取れなかったりというように、設置環境が必ずしも良好であるとはいえない。本発明の設置方法では、太陽電池モジュール100の設置が容易であるから、必ずしも設置環境が良好であるとは限らない既存建築物の壁体に対して太陽電池モジュール100を設置することができる。ここで、壁体は、水平方向、鉛直方向、斜め方向のいずれであってもよい。
【実施例1】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
<使用材料>
フレキシブル太陽電池:裏面ETFE
ラミネート接着剤:2液ウレタン接着剤(三井化学ポリウレタン製 タケラックA910,タケネートA3)
布帛層:ポリエスエル不織布(日本バイリーン製 OL150)30g/m
【0034】
<太陽電池モジュールの製造>
アモルファスシリコン系の光起電力素子と該素子から電気を引出す端子と該素子の両面に設けられたETFEフィルムとを有するフレキシブル太陽電池を用意し、受光側とは反対側のETFEフィルムの表面にコロナ処理を施し、濡れ張力を40mN/mにした。この処理の直後に、2液ウレタン接着剤を固形分20g/mになるようにメイヤーバーで塗布した。その後、60℃雰囲気のオーブンで2液ウレタン接着剤中の溶剤を揮発させ、次いで、ポリエステル不織布(厚さ60μm)を貼り合わせた。この時、ポリエステル不織布の厚さ方向で約5〜10%程度に、上記2液ウレタン接着剤がしみ込んで、この接着剤が硬化することによってポリエステル不織布の素子側がFRPを構成し、該不織布の残りはFRP化しないままであった。このようにして、太陽電池モジュールを得た。
【0035】
<コンクリート壁面への設置>
コンクリート壁面(鉛直面)にエポキシプライマーを塗布後、不陸部分をポリマーセメントで修正した。次いで、エポキシ接着剤を壁面に300g/m塗布した。この時、貼付後に太陽電池モジュールとエポキシ接着剤との間に気泡が残らないように、エポキシ接着剤に櫛引をして空気が抜けやすくなるように施した。
その後、上述の太陽電池モジュールの布帛層のうちFRP化していない部分を、エポキシ接着剤を塗布したコンクリート壁面に押し付けて、布帛層の端部から空気を押出すように貼付して放置した。このときエポキシ接着剤が布帛層のFRP化していない部分にまでしみ込むように押し付けた。24時間後、接着剤の硬化を確認し、太陽電池モジュールが浮いたりズレが発生せずに、コンクリート壁面に設置されていることを確認した。その後、コンクリートへの太陽電池シートの付着力を確認する為に、建研式接着力試験機で3回測定したところ、コンクリート凝集破壊がみられる各測定値は、3.4N/mm、2.8N/mm、3.2N/mmであった。この結果からみて、太陽電池モジュールは、コンクリート壁面に充分に強固に設置されたと判断した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、太陽電池モジュールを種々の被着体に設置することができ、太陽光発電の利用がさらに促進されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による太陽電池モジュールの断面の模式図である。
【図2】被着体に設置した太陽電池モジュールの模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 布帛層
2 接着剤層
3 樹脂フィルム
4 光起電力素子
5 接着剤層
6 被着体
10 FRP化した布帛層
11 FRP化していない布帛層
12 FRP化した布帛層
100 太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力素子と、前記素子に直接に又は他の層を介して接着剤で貼付された布帛層とを有し、前記接着剤は前記素子側から前記布帛層の内部にしみ込んで硬化していて、かつ、前記接着剤は前記布帛層の前記素子とは反対側の表面には達していない、太陽電池モジュール。
【請求項2】
上記接着剤がウレタン系接着剤、エステル系接着剤、アクリル系接着剤、オレフィン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の接着剤であることを特徴とする請求項1記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
上記帛布層が織布、編布、不織布及び積層布からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、その繊維材料がポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、セルロース繊維からなる群から選ばれる1種又は2種以上の繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池モジュールを接着剤を用いて被着体に設置する方法であって、上記太陽電池モジュールが有する布帛層を接着剤を介して被着体に押し付ける工程を有し、接着後の前記布帛層の内部には光起電力素子側および被着体側の両方からしみ込んだ接着剤が硬化している、太陽電池モジュールの設置方法。
【請求項5】
上記太陽電池モジュールを被着体へ設置するために用いる上記接着剤が、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、ビニルエステル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリマーセメント系接着剤、アクリル系接着剤、ポリオレフィン系接着剤および樹脂モルタルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の接着剤であることを特徴とする請求項4記載の設置方法。
【請求項6】
上記被着体が既存建築物の壁体である請求項4または5記載の設置方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−67622(P2010−67622A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229627(P2008−229627)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000128083)株式会社 NTTファシリティーズ総合研究所 (42)
【出願人】(000226714)日新工業株式会社 (12)
【出願人】(391054187)株式会社三洋 (8)
【出願人】(508009493)有限会社アズモ技研 (6)
【Fターム(参考)】