説明

太陽電池モジュール用保護シート、及びそれを用いてなる太陽電池モジュール

【課題】水蒸気バリア性および濡れ性に優れる、フッ素含有樹脂からなる基材シートを有する太陽電池モジュール用保護シートの提供。該太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールの提供。
【解決手段】フッ素含有樹脂からなる基材シート24の少なくとも一方の面がイオン注入されていることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シート101,102。該太陽電池モジュール用保護シート101,102を用いてなる太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールの表面保護シートまたは裏面保護シートとして用いられる太陽電池モジュール用保護シートに関する。さらに本発明は、前記太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置である太陽電池モジュールは、二酸化炭素を排出せずに発電できるシステムとして注目されている。
図4は、一般的な太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。
この太陽電池モジュール100は、結晶シリコン、アモルファスシリコンなどからなる太陽電池セル104と、太陽電池セル104を封止する電気絶縁体からなる封止材(充填層)103と、封止剤103のおもて面に積層されたフロントシート(光透過性表面保護シート)101と、封止材103の裏面に積層されたバックシート(裏面保護シート)102とから概略構成されている。なお、前記フロントシート101は、基材がガラス板であることもある。
【0003】
本明細書および特許請求の範囲においては、フロントシート(光透過性表面保護シート)101およびバックシート(裏面保護シート)102を総称して、「保護シート」という。
【0004】
屋外および屋内において長期間の使用に耐えうる耐候性および耐久性を太陽電池モジュールにもたせるためには、太陽電池セル104および封止材103を風雨、湿気、砂埃、機械的な衝撃などから守り、太陽電池モジュールの内部を外気から完全に遮断して密閉した状態に保つことが必要である。このため、前記太陽電池モジュール用保護シート101,102には、耐候性に優れることが求められる。
【0005】
そのような耐候性に優れる太陽電池モジュール用保護シートとしては、フッ素含有樹脂シートを用いるものが今日までに複数提案されている。該フッ素含有樹脂シートは、その樹脂を構成する分子内の炭素−フッ素結合の高い結合エネルギーおよび低い分極率のために耐候性および撥水性に優れる。しかしながら、該フッ素含有樹脂シートだけで構成される太陽電池モジュール用保護シートは通常、水蒸気バリア性が低い(水蒸気透過性が高い)。そこで、耐候性の優れた前記フッ素含有樹脂シートに無機酸化物(酸化珪素)を蒸着することによって無機薄膜層を積層し、水蒸気バリア性を高めた太陽電池モジュール用保護シートが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−308521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フッ素含有樹脂シートに無機薄膜層を積層した従来の太陽電池モジュール用保護シートの場合、当該無機薄膜層が損なわれて、該太陽電池モジュール用保護シートが劣化するおそれがある。すなわち、フッ素含有樹脂シートから当該無機薄膜層が剥離しやすいこと(密着性の低さ)、およびそれに伴い、太陽電池モジュールの製造工程における折り曲げ等の機械的なストレス(荷重)によって、当該太陽電池モジュール用保護シートの当該無機薄膜層にひび割れが発生すること(耐屈曲性の低さ)といった問題があり、この解決が求められている。
【0008】
また、前記フッ素含有樹脂シートに無機薄膜層を積層する方法に留まらず、その他の方法によって、さらに水蒸気バリア性を向上することが求められている。
また、フッ素含有樹脂シートからなる太陽電池モジュール用保護シートの表面の濡れ性は一般に低いため、その表面に、仕様表示等の目的でラベルを貼り付けても、該ラベルが剥がれやすい。さらに、同様の理由で、フッ素含有樹脂シートからなる太陽電池モジュール用保護シートの表面に印字や印刷をすることが困難である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水蒸気バリア性および濡れ性に優れる、フッ素含有樹脂からなる基材シートを有する太陽電池モジュール用保護シートを提供することを課題とする。また、該太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明は、フッ素含有樹脂からなる基材シートの少なくとも一方の面がイオン注入されていることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シートである。
本発明の太陽電池モジュール用保護シートは、プラズマイオン注入方法によってイオン注入されていることが好ましい。
本発明の太陽電池モジュール用保護シートは、He、Ar、N、Ne、Kr、およびOから選択される1種以上がイオン注入されていることが好ましい。
本発明の太陽電池モジュール用保護シートは、前記フッ素含有樹脂からなる基材シートのイオン注入された面に、さらに無機薄膜層が積層されていることが好ましい。
本発明の太陽電池モジュールは、前記本発明の太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる。
また、本発明は、前記本発明の太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の太陽電池モジュール用保護シートは、フッ素含有樹脂からなる基材シートがイオン注入されているため、基材シート自体が水蒸気バリア性および濡れ性に優れる。さらに、フッ素含有樹脂からなる基材シートがイオン注入されていることにより、イオン注入された面の濡れ性が向上するため、その面に積層された無機薄膜層との密着性が高くなる。それに伴い該無機薄膜層の耐屈曲性も高くなり、クラックの発生が抑制される。また、本発明の前記太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールでは、太陽電池モジュール内部への水蒸気の侵入が低減される。したがって、本発明の太陽電池モジュールの安定した長期使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第一の実施形態の断面図
【図2】本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第二の実施形態の断面図
【図3】本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第三の実施形態の断面図
【図4】太陽電池モジュールの構成を示した模式図
【図5】プラズマイオン注入装置の概略を示した構成図
【図6】窒化珪素の成膜に用いる反応性スパッタ装置の概略を示した構成図
【図7】実施例での耐屈曲性試験を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【0014】
<第一の実施形態>
図1は、本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第一の実施形態を示す概略断面図である。
図1に示す、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フッ素含有樹脂からなる基材シート24の少なくとも一方の面がイオン注入されている。
【0015】
前記基材シート24において、一方の面にのみイオン注入されている場合は、その一方の面にのみイオン注入層24aが形成されている(図1)。一方、基材シート24の両方の面にイオン注入されている場合は、基材シート24の両方の面にイオン注入層24a,24bが形成されている。当該イオン注入層は、基材シート24の一方の面のみに形成されていてもよく、基材シート24の両方の面に形成されていてもよい。
【0016】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102において、前記フッ素含有樹脂シートからなる基材シート24は、その両方の面がイオン注入されていると水蒸気バリア性をより高めることができる。
また、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102において、前記フッ素含有樹脂シートからなる基材シート24の一方の面のみがイオン注入されている場合、当該イオン注入面は、外側の面(ここで、封止材103の側を内側とする)であることが好ましい。外側の面がイオン注入されていることにより濡れ性が高まり、ラベル等を貼り付けた際の粘着力を高めることができ、また、その面に対する印刷や印字等もより容易になる。
【0017】
前記フッ素含有樹脂としては、本発明の効果を損なわず、後述するイオン注入を行うことができるものであれば特に制限されず、四フッ化エチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等からなるフッ素樹脂シートが好ましいものとして用いられ、例えば、Dupont社製のPVFフィルムであるTedlar(商品名)が挙げられる。
【0018】
さらに、前記フッ素含有樹脂として、上記フッ素樹脂シートに加えて、フッ素含有樹脂を含む塗料を、樹脂フィルム等のキャリアシート上に塗布して得られる塗膜を用いることもできる。例えば、旭硝子株式会社製のLUMIFLON(商品名)、セントラル硝子株式会社製のCEFRAL COAT(商品名)、DIC株式会社製のFLUONATE(商品名)等の三フッ化塩化エチレン(CTFE)を主成分としたポリマー類や、ダイキン工業株式会社製のZEFFLE(商品名)等のテトラフルオロエチレン(TFE)を主成分としたポリマー類や、E.I.du Pont de Nemours and Company製のZonyl(商品名)、ダイキン工業株式会社製のUnidyne(商品名)等のフルオロアルキル基を有するポリマー、およびフルオロアルキル単位を主成分としたポリマー類などが好ましいものとして挙げられる。
【0019】
前記LUMIFLON(商品名)は、CTFEと数種類の特定のアルキルビニルエーテル(VE)、ヒドロキシアルキルビニルエーテルとを主な構成単位として含む非結晶性のポリマーである。LUMIFLON(商品名)のように、ヒドロキシアルキルビニルエーテルのモノマー単位を有するポリマーは、溶剤可溶性、架橋反応性、顔料分散性、硬さ、および柔軟性に優れるので好ましい。
前記ZEFFLE(商品名)は、TFEと有機溶媒可溶性の炭化水素オレフィンとの共重合体であり、なかでも反応性の高い水酸基を備えた炭化水素オレフィンを有する場合には、溶剤可溶性、架橋反応性、および顔料分散性に優れるので好ましい。
【0020】
また、前記フッ素含有樹脂の例として、硬化性官能基を有するフルオロオレフィンのポリマーが挙げられ、その具体例としては、TFE、イソブチレン、フッ化ビニリデン(VdF)、ヒドロキシブチルビニルエーテルおよびその他のモノマーからなる共重合体、ならびにTFE、VdF、ヒドロキシブチルビニルエーテルおよびその他のモノマーからなる共重合体が好ましいものとして挙げられる。
【0021】
また、前記フッ素含有樹脂における共重合可能なモノマーとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、および安息香酸ビニル等のカルボン酸のビニルエステル類や、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルおよびシクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類や、CTFE、フッ化ビニル(VF)、VdF、およびフッ素化ビニルエーテル等のフッ素含有モノマー類が挙げられる。
【0022】
さらに、前記フッ素含有樹脂は、1種以上のモノマーからなるポリマーであってもよく、三元重合体であってもよい。例えば、VdFとTFEとヘキサフルオロプロピレンとの三元重合体であるDyneon THV(商品名;3M Company製)が挙げられる。そのような多元重合体は、それぞれのモノマーが有する特性をポリマーに付与することができるので好ましい。例えば前記Dyneon THV(商品名)は、比較的低温で製造することができ、エラストマーや炭化水素ベースのプラスチックにも接着でき、柔軟性や光学的透明度にも優れるので好ましい。
【0023】
前記フッ素含有樹脂には、必要に応じて、架橋剤(硬化剤)、触媒(架橋促進剤)、顔料、及びその他の添加剤などを含んでいてもよい。
【0024】
前記架橋剤(硬化剤)としては、本発明の効果を損なわず、前記フッ素含有樹脂からなる基材シート24の強度を高めることができるものであれば特に限定されず、例えば、アミノプラスト、尿素樹脂などのアミン類、金属キレート類、シラン類、イソシアネート類、およびメラミン類が好ましいものとして挙げられる。
【0025】
前記触媒(架橋促進剤)としては、本発明の効果を損なわず、前記架橋剤による架橋を促すものであれば特に限定されず、例えば、有機金属化合物、酸およびそれらのアンモニウム塩、低級アミン塩、多価金属塩、およびアミン類や有機過酸化物などが好ましいものとして挙げられる。当該フッ素含有樹脂を構成する分子が水酸基を有する場合には、有機金属化合物がより好ましい。
【0026】
前記顔料、及びその他の添加剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されない。例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ペリレン顔料、色素、染料、マイカ、ポリアミドパウダー、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、紫外線吸収剤、防腐剤、乾燥剤等が好ましいものとして挙げられる。より具体的には、耐久性を付与するために二酸化珪素で処理したルチル型二酸化チタンであるTi−Pure R105(商品名;E.I.du Pont de Nemours and Company製)、およびジメチルシリコーンの表面処理によってシリカ表面の水酸基を修飾した疎水性シリカであるCAB−O−SIL TS 720(商品名;Cabot社製)が好ましいものとして例示できる。
【0027】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102において、前記フッ素含有樹脂からなる基材シート24は、前記フッ素含有樹脂を用いて、公知の方法で製膜することができる。
前記フッ素含有樹脂からなる基材シート24の厚さとしては、太陽電池モジュールに要求される電気絶縁性等に基づいて、適宜設定される。例えば、電気絶縁性、耐候性、水蒸気バリア性、および軽量性の観点から、10〜200μmが好ましく、15〜100μmがより好ましく、20〜60μmがさらに好ましい。
【0028】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102におけるフッ素含有樹脂からなる基材シート24に注入されるイオン種としては、Ar、He、N、Ne、Kr、及びOから選択される1種以上であることが好ましく、Ar、He、及びNから選択される1種以上であることがより好ましい。これらのイオン種であると、本発明の効果を高めることができる。
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102において、当該フッ素含有樹脂からなる基材シート24に注入されるイオン種は、1種単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102におけるフッ素含有樹脂からなる基材シート24の表面に対して、イオン注入を行う方法としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限されず、公知の方法で行うことができる。例えば、特開2006−070238に記載のプラズマイオン注入装置を用いて、長尺の基材シート24に対してイオン注入する方法が好ましい方法として挙げられる。
当該プラズマイオン注入法であると、基材シート24の表面により均一なイオン注入層が形成されるので好ましい。
【0030】
前記プラズマイオン注入装置を用いれば、イオン注入時の圧力を0.01〜0.5Paとし、プラズマ雰囲気中、長尺の基材シート24を一定方向に搬送しながら、プラズマイオン注入法(PBII:Plasma−Based Ion Implantation)によって、当該基材シート24の表面部に均一なイオン注入層24aを形成することができる。この場合、長尺の基材シート24を一定方向に搬送しながら連続的にイオン注入できるので効率がよく、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102の量産に適している。
【0031】
前記プラズマイオン注入装置は、マイクロ波等の高周波電源等によって発生する外部電界を用いることなく、高電圧パルスの印加により発生する電界のみでプラズマを生成させる。すなわち、該プラズマイオン注入装置では、長尺の基材シート24が一定方向に搬送されると同時に、該基材シート24に負の高電圧が印加されることによりプラズマが発生し、該プラズマ中のイオンが該基材シート24の表面部に注入され、イオン注入層24aが形成される。
【0032】
前記プラズマイオン注入装置の構成を図5に示す。
図5(a)において、24’は長尺の基材シート24、51はチャンバー、60はターボ分子ポンプ、43はイオン注入される前の基材シート24’を送り出す巻き出しロール、45はイオン注入された基材シート24をロール状に巻き取る巻き取りロール、42は高電圧印加回転キャン、50はガス導入口、47は高電圧パルス電源である。図5(b)は、前記高電圧印加回転キャン42の斜視図であり、55は高電圧導入端子(フィードスルー)である。
【0033】
図5に示す連続的イオン注入装置においては、基材シート24’は、チャンバー51内において、巻き出しロール43から図5中矢印A方向に搬送され、高電圧印加回転キャン42を通過して、巻き取りロール45に巻き取られる。基材シート24の巻き取りの方法や、基材シート24’を搬送する方法等は特に制限はないが、例えば、高電圧印加回転キャン42を一定速度で回転させることにより、基材シート24’の搬送が行われる。また、高電圧印加回転キャン42の回転は、高電圧導入端子55の中心軸53をモーターにより回転させることにより行われる。
【0034】
高電圧導入端子55、及び基材シート24’が接触する複数の送り出し用ロール46等は絶縁体からなり、例えば、アルミナの表面をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂で被覆して形成される。また、高電圧印加回転キャン42は導体からなり、例えば、ステンレス、SUS(Steel special Use Stainless)等で形成される。
【0035】
基材シート24’の搬送速度は適宜設定できる。基材シート24’が巻き出しロール43から搬送され、巻き取りロール45に巻き取られるまでの間に当該基材シート24の表面部にイオン注入され、所望のイオン注入層24aが形成されるだけの時間が確保される速度であれば、特に制限されない。基材シート24の巻き取り速度(ライン速度)は、印加電圧や高電圧印加回転キャンの直径にもよるが、通常0.1〜2m/min、好ましくは0.2〜0.7m/minである。
【0036】
当該イオン注入処理の手順としては、先ず、チャンバー51内をターボ分子ポンプ60により排気して減圧とする。減圧度は、通常1.0×10−4〜3.0×10−3Paである。
【0037】
次に、ガス導入口50よりチャンバー51内に、イオン注入用のガス(以下、「イオン注入用ガス」ということがある。)を導入する。
用いるイオン注入用ガスとしては、前述のように、He、Ar、N、Ne、Kr、またはOであることが好ましい。
【0038】
次に、基材シート24’を、図5中Aの方向に搬送させながら、高電圧パルス電源47から高電圧導入端子55を介して高電圧印加回転キャンに負の高電圧パルス49を印加する。
【0039】
高電圧印加回転キャン42に負の高電圧が印加されると、高電圧印加回転キャン42の周囲の基材シート24’に沿ってプラズマが生成し、そのプラズマ中のイオンが誘因され、高電圧印加回転キャン42外周に巻き付けられた基材シート24’の表面に注入される(図5(a)中、矢印B)。当該基材シート24’の表面部にイオンが注入されると、該表面部が改質されて、該表面部にイオン注入層24aが形成される。
【0040】
イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)としては、0.01〜0.5Paが好ましい。また、プラズマを生成させるときのパルス幅は、1〜10μsecが好ましい。
プラズマイオン注入時の圧力、およびプラズマを生成させるときのパルス幅が前記範囲内にあると、当該フッ素含有樹脂コート層の表面部に均一なイオン注入層24aを形成することができ、本発明の効果をより高めることができる。
【0041】
高電圧印加回転キャン42に負の高電圧を印加する際の印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、特に好ましくは−5kV〜−25kvである。該印加電圧が前記範囲内にあると、当該基材シート24’の表面部に充分なイオン注入層24aを形成することができ、本発明の効果をより高めることができる。
【0042】
上記例のように、フッ素含有樹脂からなる基材シート24の表面にイオンを注入すると、当該イオン注入面が改質されて、その表面部にイオン注入層24aが形成される。
【0043】
イオン注入後の基材シート24の表面部にはイオン注入層24aが形成されているが、該基材シート24の極表層部のみが改質されてイオン注入層24aに変化しているため、耐候性等の基材シート24の特性は損なわれていない。
【0044】
当該イオン注入層24aの厚みは、前記基材シート24の巻き取り速度(ライン速度)、イオン注入の処理時間、印加電圧等により制御することができる。
上記例のようにイオン注入された、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102のフッ素含有樹脂からなる基材シート24のイオン注入層24aの厚みは、通常、0.1〜100nmである。
【0045】
当該イオン注入層24aが形成された前記基材シート24のおもて面と裏面とを入れ替え、上述の方法でさらにイオン注入することにより、イオン注入層24aが形成された面とは逆の面に、さらにイオン注入層24bを形成することができる。
【0046】
以上で説明した第一の実施形態としての、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フッ素含有樹脂からなる基材シート24がイオン注入されているため、水蒸気バリア性および濡れ性に優れる。
したがって、当該太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールでは、太陽電池モジュール内部への水蒸気の侵入が低減され、太陽電池モジュールの安定した長期使用が可能となる。また、当該太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュールでは、その表面の濡れ性が高められているので、その表面に貼り付けたラベルの粘着力が向上し、また、保護シートの表面に印刷や印字をすることがより容易となる。
【0047】
<第二の実施形態>
図2は、本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第二の実施形態を示す概略断面図である。
図2に示す、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フッ素含有樹脂からなる基材シート24の少なくとも一方の面がイオン注入され、そのイオン注入された面に、さらに無機薄膜層26が積層されている。
【0048】
前記基材シート24において、当該イオン注入面は、基材シート24の一方の面だけであってもよく、基材シート24の両方の面であってもよい。このことは、第一の実施形態と同様である。
基材シート24の一方の面にのみイオン注入されている場合は、そのイオン注入面に無機薄膜層26が積層されている(図2)。また、基材シート24の両方の面にイオン注入されている場合は、当該無機薄膜層26は、当該基材シート24の一方の面にのみ積層されていてもよく、両方の面に積層されていてもよい。
【0049】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102において、前記無機薄膜層26が積層されることにより、水蒸気バリア性が高められる。また、この観点から、基材シート24の両方の面に無機薄膜層26が積層されているとさらに水蒸気バリア性が高められる。
また、その無機薄膜層26が積層されている基材シート24の面がイオン注入面であることにより、基材シート24と無機薄膜層26との密着性が高められ、当該無機薄膜層26の耐屈曲性が向上する。この理由としては、基材シート24のイオン注入面の濡れ性が向上したためであると考えられる。
【0050】
無機薄膜層26を構成する無機物としては、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102の水蒸気バリア性を高めることができるものであれば特に制限されない。
例えば、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素などの珪素化合物、酸化アルミニウム、酸窒化アルミニウムなどのアルミニウム化合物、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズなどの無機酸化物などが挙げられる。これらの中でも、水蒸気バリア性、密着性、耐屈曲性に優れる点から、珪素化合物が好ましく、窒化珪素がより好ましい。
前記窒化珪素(SiN)の組成としては、0<X<(4/3)であることが好ましい。
前記以外の無機物としては、例えば、炭素(C)、珪素(Si)が挙げられ、さらにはチタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)などの金属単体及びそれらの化合物も挙げられる。
【0051】
無機薄膜層26は、1種類の無機物からなるものであっても、2種類以上の無機物からなるものであってもよい。
無機薄膜層26が2種類以上の無機物からなる場合、該無機薄膜層26は、各無機物からなる層が順に積層された多層構造を有するものであってもよく、2種類以上の無機物が混合された一層が積層されたものであってもよい。
【0052】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102におけるフッ素含有樹脂からなる基材シート24に、無機薄膜層26を積層する方法としては、公知の方法で行うことができる。
例えば、前記珪素化合物からなる無機薄膜層26を積層する場合、当該珪素化合物を主として含む物質をターゲットとして、不活性ガス雰囲気中でスパッタリングする方法、或いは図6に示すように珪素をターゲットとして、窒素ガス、酸素ガス、又は窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスを含む不活性ガス雰囲気中で、反応性スパッタリングする方法によって、基材シート24の一方の面に窒化珪素、酸化珪素、又は酸窒化珪素からなる無機薄膜層26を積層することができる。
前記「基材シート24の一方の面」は、前述のように、基材シート24と無機薄膜層26との密着性を高め、当該無機薄膜層26の耐屈曲性を高める観点から、イオン注入面であることが好ましい。
前記「基材シート24の一方の面」に無機薄膜層26を積層した後に、基材シート24のもう一方の面にも同様の方法で無機薄膜層26を積層することができる。
【0053】
前記珪素化合物以外の、前記アルミニウム化合物、前記無機酸化物、または前記金属の酸化物からなる無機薄膜層26を積層する場合も、前記珪素化合物の場合と同様の方法で行うことができる。
【0054】
図6に示す連続的マグネトロンスパッタ装置において、91はチャンバー、94はターボ分子ポンプ、93は基材シート24’を送り出す巻き出しロール、95は無機薄膜層が形成された基材シート24をロール状に巻き取る巻き取りロール、96は送り出しロール、90はガス導入口である。92は回転キャンであり、97はターゲット発生部である。
ターゲット発生部97の詳細を図6(b)、図6(c)に示す。図6(b)は断面図、図6(c)は上面図である。図6(b)、(c)中、8はターゲット、12は磁場発生手段である。12aはドーナツ状の永久磁石、12bは棒状の永久磁石である。
基材シート24’は、回転キャン92を回転させることによって巻き出しロール93から図6中矢印X方向に搬送され、巻取りロール95に巻き取られる。
【0055】
まず、図5に示すプラズマイオン注入装置と同様にして、チャンバー91内に、基材シート上に無機薄膜層が形成されるように基材シートを設置し、チャンバー91内をロータリーポンプに接続されているターボ分子ポンプ94により排気して減圧とする。 そこへ、ガス導入口90よりチャンバー91内に、供給ガスとして、不活性ガス(例えばアルゴン)及び窒素ガス(又は酸素ガス、若しくは窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス)を導入しながらターゲット8に高周波電力を印加してプラズマ放電させる。すると、不活性ガス及び窒素ガスがイオン化してターゲット8に衝突する。その衝撃でターゲット8を構成している原子がスパッタ粒子として飛び出し、基材シートの表面に堆積する。(図6(a)中、矢印Y)この時、供給ガスとして前記混合ガスを用いることで、弾き飛ばされたターゲット原子と反応し、生成した無機薄膜が基材シート上に堆積される。ターゲットが珪素の場合、窒化珪素膜が堆積される。
なお、ここで、磁場発生手段12により形成された磁場が、ターゲットからたたき出された二次電子にサイクロイド運動させ、窒素ガス等とのイオン化衝突の頻度を増大させ、ターゲット付近にプラズマを生成し、成膜速度を高速化している。
【0056】
ここで、成膜された窒化珪素は、化学量論的な組成成分(Si)とはならず、非化学量論的な組成成分(Si)を有する場合がある。さらに、前記混合ガスとして、不活性ガスと窒素ガスとの混合ガス中に微量の酸素ガスを混入させた場合には、窒化珪素の窒素の一部が酸素によって置換された組成の膜を得ることができる。
【0057】
以上、反応性スパッタリングによって無機薄膜層26を積層する場合について記載したが、無機薄膜層26の積層方法としては反応性スパッタリングにのみ限定されるものではなく、PVD法、CVD法、レーザ蒸着法などの他の成膜方法を用いて積層することもできる。
【0058】
無機薄膜層26の厚さとしては、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102の水蒸気バリア性を高めることができる厚さであれば特に制限されないが、10〜1000nmであることが好ましく、20〜500nmであることがより好ましく、50〜200nmであることが特に好ましい。無機薄膜層26の厚さが10nm未満では十分な水蒸気バリア性が得られず、また、1000nmを超えると高コスト化、処理時間が長く生産性に優れないなどの問題が発生したり、耐屈曲性および透明性が低下することがある。
【0059】
本発明において、太陽電池モジュール用保護シート101,102におけるフッ素含有樹脂からなる基材シート24のイオン注入された面に、無機薄膜層26を積層する方法としては、前述の方法のように、イオン注入工程を終えた後に無機薄膜層の積層工程を行う2段階の工程で行ってもよいが、以下に説明するように、これらの工程を同時に行う方法(ダイナミックイオンミキシング法)でも本発明の効果を同様に得ることができる。
【0060】
前記ダイナミックイオンミキシング法では、基材シート24に高周波電力を印加して該基材シート24の周辺でイオン注入用のプラズマ生成ガスをプラズマ化させ、更に、該基材シート24に負の直流高電圧のパルスを印加して、当該イオン注入を行うと同時に、ターゲット材料をスパッタする方法により、当該無機薄膜層26を積層する。
当該ダイナミックイオンミキシング法における、印加電圧、プラズマガス圧力、イオン種、イオン濃度、ターゲット材料等の具体的な条件は、目的に応じて適宜調節することによって行うことができる。
【0061】
以上で説明した第二の実施形態としての、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フッ素含有樹脂からなる基材シート24のイオン注入された面に、さらに無機薄膜層26が積層されているため、水蒸気バリア性により優れる。また同時に、該基材シート24がイオン注入されているため、そのイオン注入された面と、その面に積層された無機薄膜層26との密着性、および該無機薄膜層26の耐屈曲性が優れる。その結果、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102に対して、通常の使用に伴う折り曲げ等の機械的なストレス(荷重)がかかった場合でも、当該無機薄膜層26のクラックの発生が抑制される。
したがって、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102を用いてなる太陽電池モジュールでは、太陽電池モジュール内部への水蒸気の侵入がいっそう低減され、太陽電池モジュールの安定した長期使用が可能となる。
<第三の実施形態>
図3は、本発明の太陽電池モジュール用保護シートの第三の実施形態を示す概略断面図である。
図3に示すように、本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フッ素含有樹脂からなる基材シート24に、さらに、別のシート(以下、支持シート28という。)が積層されていてもよい。該支持シート28を積層することにより、該支持シート28の有する性質を本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102に付加することができる。
【0062】
図3では、接着層30を介して、基材シート24と支持シート28とが積層されている。しかし、この積層方法には限定されない。例えば基材シート24の両面に無機薄膜層26が積層されている場合には、該基材シート24の一方の面に積層されている無機薄膜層26に接着層30が積層され、該接着層30を介して支持シート28が積層されていてもよい。
【0063】
支持シート28としては、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の太陽電池モジュール用保護シートに使用される金属シート、樹脂シート、および熱接着性シート等を用いることができる。ただし、該金属シートを支持シート28として用いた場合には、電気絶縁性を付与するために、該金属シートに加えて電気絶縁性の高い樹脂シートをさらに積層することが通常必要である。
また、該金属シートを支持シート28として用いた場合は、当該太陽電池モジュール用保護シートは光透過性を有さないので、フロントシート101としては用いられず、バックシート102として用いられる。
【0064】
支持シート28における金属シートとしては、アルミニウムシートが好適である。この場合、当該バックシート102の耐候性、水蒸気バリア性をより向上させることができる。
【0065】
支持シート28における樹脂シートとしては、太陽電池モジュール用保護シートにおける樹脂シートとして一般に用いられるものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエステルウレタン、ポリm−フェニレンイソフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミド等のポリマーからなるシートが挙げられる。
これらのなかでも、支持シート28における樹脂シートとしては、PET、PBT、PEN等のポリエステルからなるシートが好適であり、PETシートがより好適である。これらの好適な樹脂シートを支持シート28として用いた場合、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102の電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性をより向上させることができる。
【0066】
支持シート28における樹脂シートの厚さとしては、太陽電池システムが要求する電気絶縁性に基づいて調節すればよく、通常、当該シートの厚さは10〜300μmの範囲であることが好ましい。より具体的には、前記樹脂シートがPETシートである場合には、軽量性および電気絶縁性の観点から、該PETシートの厚さは10〜300μmの範囲であることが好ましく、20〜250μmの範囲であることがより好ましく、30〜200μmの範囲であることがさらに好ましく、40〜150μmの範囲であることが特に好ましく、50〜125μmであることが最も好ましい。
【0067】
また、支持シート28における樹脂シートには、耐候性、耐湿性等を高めるための表面改質処理を施すこともできる。例えば前記PETシートにシリカ(SiO)および/またはアルミナ(Al)を蒸着させることにより、当該太陽電池モジュール用保護シートの耐候性、耐湿性等を高めることができる。なお、当該シリカおよび/またはアルミナの蒸着処理は、前記樹脂シートの両面に行ってもよく、いずれか一方の面にのみ行ってもよい。
【0068】
支持シート28における熱接着性シートとしては、熱接着性を有する樹脂シートであれば特に限定されない。ここで、熱接着性とは、加熱処理によって接着性を発現する性質のことである。該加熱処理における温度としては、通常50〜200℃の範囲である。
熱接着性シートを支持シート28として使用することにより、太陽電池モジュール100を構成する封止材103に対して、当該太陽電池モジュール用保護シート101,102を容易に熱接着することができる。
【0069】
前記熱接着性を有する樹脂シートとしては、例えばエチレン酢酸ビニル(EVA)やポリオレフィンを主成分とするポリマーからなる樹脂シートが好ましく、EVAを主成分とするポリマーからなる樹脂シートであることがより好ましい。一般に、前記封止材103がEVAからなる封止樹脂であることが多く、その場合において、前記熱接着性シートがEVAを主成分とするポリマーからなる樹脂シートであることにより、前記封止材103と前記熱接着性シートとの適合性および接着性を向上させることができる。
【0070】
支持シート28における熱接着性シートの厚さとしては、当該熱接着性シートの種類によって適宜調節すればよく、通常、その厚さは1〜200μmの範囲であることが好ましい。より具体的には、当該熱接着性シートがEVAからなるシートである場合には、軽量性および電気絶縁性等の観点から、その厚さは、10〜200μmの範囲であることが好ましく、50〜150μmの範囲であることがより好ましく、80〜120μmの範囲であることが最も好ましい。
【0071】
支持シート28における熱接着性シートを基材シート24に積層する方法としては、前述のように、接着層30を介して積層させてもよいし、熱接着性樹脂を溶剤に溶解または水に分散したものを基材シート24に塗布して塗膜を形成させてもよい。
【0072】
接着層30としては、基材シート24および支持シート28に対して接着性を有する接着剤を含むものであることが好ましい。
【0073】
前記接着剤としては、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限されず、例えばアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤などが挙げられる。その接着性を向上させるために、基材シート24および支持シート28の接着層30側の面をコロナ処理および/または化学薬品処理してもよい。
【0074】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、従来公知の太陽電池モジュールを構成する部品および材料を組み合わせて、本発明の太陽電池モジュール100として使用することができる。
本発明の太陽電池モジュール100は、例えば、図4に示すように、結晶シリコン、アモルファスシリコンなどからなる太陽電池セル104と、該太陽電池セル104を封止する電気絶縁体からなる封止材(充填層)103と、封止材103のおもて面に積層された表面保護シート(フロントシート)101と、封止材103の裏面に積層された裏面保護シート(バックシート)102とから主に構成される。
封止材103としては、酢酸ビニル―エチレン共重合体(EVA)、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの透明な樹脂を主成分とする接着剤を使用することができる。
【0075】
本発明にかかる太陽電池モジュール用保護シート101,102を、図4におけるフロントシート101および/またはバックシート102として使用し、太陽電池セル104を内包する封止材103からなる封止面に積層させることにより、当該太陽電池モジュール100内の太陽電池セル104および封止材103を風雨、湿気、砂埃、機械的な衝撃などから守り、当該太陽電池モジュール100の内部を外気から遮断して密閉した状態に保つことができる。
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102を前記封止面に積層させる方法としては、真空熱圧着等、公知の方法を適用することができる。
【0076】
本発明の太陽電池モジュール用保護シート101,102は、フロントシート101としてもバックシート102としても好ましく用いられるものであるが、光透過性の観点から、バックシート102としてより好ましく用いられる。
【0077】
本明細書において、太陽電池モジュール用保護シートの水蒸気バリア性を評価するために測定される水蒸気透過度は、ISO15106−1:2003の規格で定められる。より具体的には、該水蒸気透過度は、前記規格に準じた感湿センサ法によって、透過セルの温度40℃、相対湿度差90%の条件にて測定される。
本発明の太陽電池モジュール用保護シートの水蒸気透過度としては、5g/(m・24h)以下が好ましく、3g/(m・24h)以下が特に好ましい。
本明細書において、太陽電池モジュール用保護シートの表面の濡れ性を評価するために測定される接触角は、JIS R3257:1999「静滴法」の規格で定められる。
本発明の太陽電池モジュール用保護シートを構成するフッ素含有樹脂シートからなる基材シート24のイオン注入面の接触角としては、60°以下が好ましく、50°以下が特に好ましい。
本明細書において、太陽電池モジュール用保護シートにおけるフッ素含有樹脂からなる基材シートと無機薄膜層との密着性は、JIS K−5600−5−6「塗料一般試験方法−塗膜の機械的性質−付着性(クロスカット法)」に準拠する方法で評価される。
【実施例】
【0078】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1〜3]
厚さ25μmのPVFシート{商品名:Tedlar(DuPont社製)}の一方の面(片面)に、図5に示すプラズマイオン注入装置を用いて、表1に示すイオン種をイオン注入し、太陽電池モジュール用保護シートを作製した。
当該プラズマイオン注入の条件としては、チャンバー内の圧力を0.2Paとし、イオン注入用ガスの種類を表1に示すものとし、そのガス流量を100sccm(mL/min)とし、高電圧印加回転キャンに負の高電圧を印加する際の電圧、Duty比、パルス幅、パルスの繰り返し周波数を、それぞれ、−10kV、0.5%、5μsec、1000Hzとした。また、太陽電池モジュール用保護シートの搬送速度を0.2m/minとして、5分間のイオン注入処理を行った。
【0080】
[実施例4]
高電圧印加回転キャンに負の高電圧を印加する際の電圧を−15kVに変更した以外は、実施例1と同じ条件で太陽電池モジュール用保護シートを作製した。
【0081】
[実施例5]
高電圧印加回転キャンに負の高電圧を印加する際の電圧を−20kVに変更した以外は、実施例1と同じ条件で太陽電池モジュール用保護シートを作製した。
【0082】
[比較例1]
前記PVFシートに対してイオン注入処理を行わないものを、比較例1の太陽電池モジュール用保護シートとした。
【0083】
実施例1〜5および比較例1の太陽電池モジュール用保護シートに対して、水蒸気透過度および接触角の測定を、下記方法で行った。これらの結果を表1に併記する。
【0084】
<水蒸気透過度の測定>
実施例1〜5で得られた太陽電池モジュール用保護シートのイオン注入面の側から透過する水蒸気の量(水蒸気透過度)を測定した。また、比較例1の太陽電池モジュール用保護シートは、おもて面と裏面とは区別されず、いずれか一方の側から透過する水蒸気の量(水蒸気透過度)を測定した。
具体的には、ISO15106−1:2003の規格に従い、透過セルの温度40℃、相対湿度差90%の条件で、感湿センサ法によって、水蒸気透過度計{商品名:L80−5000(LYSSY社製)}を使用して測定した。
これらの結果を表1に併記する。
【0085】
<接触角の測定>
実施例1〜5で得られた太陽電池モジュール用保護シートのイオン注入面の接触角を測定した。また、比較例1の太陽電池モジュール用保護シートは、おもて面と裏面とは区別されず、いずれか一方の面の接触角を測定した。
具体的には、JIS R3257:1999の規格に従い、接触角測定器{商品名:DSA100(Kruess GmbH社製)}を使用して測定した。
その結果を表1に併記する。
【0086】
【表1】

【0087】
表1の結果から、本発明にかかる実施例1〜5の太陽電池モジュール用保護シートは、比較例1の太陽電池モジュール用保護シートに比べて、水蒸気バリア性に優れることが確認された。
さらに、本発明にかかる実施例1〜5の太陽電池モジュール用保護シートのイオン注入面の接触角は、比較例1の太陽電池モジュール用保護シートの表面の接触角よりも小さいことから、本発明にかかる実施例1〜5の太陽電池モジュール用保護シートのイオン注入面は濡れ性に優れることが確認された。
したがって、該イオン注入面に対するラベルの粘着力がより大きい(該イオン注入面からラベルがより剥がれにくい)こと、並びに該イオン注入面に印刷および印字することがより容易であることも明らかである。
【0088】
[実施例6]
実施例1で得られた太陽電池モジュール用保護シートのイオン注入面に、窒化珪素からなる無機薄膜層を積層した太陽電池モジュール用保護シートを作製した。
当該無機薄膜層の積層方法としては、反応性スパッタリング法を用いた。
より具体的には、図6に示す反応性スパッタ装置{装置名:巻き取り式スパッタ装置RS−0549(ロック技研工業社製)}を用いて、50nmの窒化珪素からなる無機薄膜層を積層した。
該反応性スパッタリングの条件としては、チャンバー内の圧力を0.2Paとし、プラズマ生成ガスであるアルゴンおよび窒素のガス流量を、それぞれ100sccm(mL/min)および60sccm(mL/min)とし、電力値を2500Wとした。また、ターゲット材料として珪素を使用した。
【0089】
当該無機薄膜層の厚さ(膜厚)の測定は、触針式段差表面・形状測定装置(装置名:XP−1(Ambios TECHNOLOGY社製)で行った。
【0090】
[比較例2]
比較例1のPVFシートの一方の面に、実施例6と同様の方法で、膜厚50nmの窒化珪素からなる無機薄膜層を積層し、比較例2の太陽電池モジュール用保護シートとした。
【0091】
実施例6および比較例2の太陽電池モジュール用保護シートに対して、水蒸気透過度の測定、並びに当該無機薄膜層の密着性および耐屈曲性の評価を下記方法で行った。
これらの結果を表2に併記する。
【0092】
<水蒸気透過度の測定>
実施例6および比較例2で得られた太陽電池モジュール用保護シートの無機薄膜層が積層された側から透過する水蒸気の量(水蒸気透過度)を測定した。具体的な測定方法は、実施例1と同様である。
【0093】
<密着性の評価>
実施例6および比較例2で得られた太陽電池モジュール用保護シートの無機薄膜層の密着性の評価は、日本工業規格JIS K−5600−5−6「塗料一般試験方法−塗膜の機械的性質−付着性(クロスカット法)」に準拠し、セロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製)を用いて行った。その結果を表2に併記する。なお、当該評価は0〜5の6段階で示され、0は最も密着性が高いことを、5は最も密着性が低いことを表す。
【0094】
<耐屈曲性の評価>
実施例6および比較例2で得られた太陽電池モジュール用保護シートの無機薄膜層の耐屈曲性試験は、図7に示すように実施した。すなわち、直径3mmのステンレス鋼製の棒61に、無機薄膜層が積層されていない面が接するように太陽電池モジュール用保護シート60を巻き、耐折試験機{装置名:IMC−15AE(株式会社井元製作所製)}を使用して、荷重1.2kgをかけながら10往復させた。その後、当該無機薄膜層のひび割れ(クラック)の発生の有無を、デジタルマイクロスコープ(倍率2000倍){ 装置名:VHX−100(株式会社キーエンス製)}で観察して、耐屈曲性として評価した。その結果を表2に併記する。
【0095】
【表2】

【0096】
表2の結果から、本発明にかかる実施例6の太陽電池モジュール用保護シートは、比較例2の太陽電池モジュール用保護シートに比べて、密着性および耐屈曲性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0097】
100 …太陽電池モジュール
101 …フロントシート(光透過性表面保護シート)
102 …バックシート(裏面保護シート)
103 …封止材 104 …太陽電池セル
24 …基材シート 26 …無機薄膜層
28 …支持シート 30 …接着層
42 …高電圧印加回転キャン 43 …巻き出しロール
45 …巻き取りロール 46 …送り出しロール
47 …高電圧パルス電源 49 …高電圧パルス
50 …ガス導入口 51 …チャンバー
53 …中心軸 55 …高電圧導入端子
60 …ターボ分子ポンプ
91 …チャンバー 92 …回転キャン
93 …巻き出しロール 94 …ターボ分子ポンプ
95 …巻き取りロール 96 …送り出しロール
97 …ターゲット発生部
8 …ターゲット
12 …磁場発生手段
12a…ドーナッツ状の永久磁石
12b…棒状の永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有樹脂からなる基材シートの少なくとも一方の面がイオン注入されていることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シート。
【請求項2】
プラズマイオン注入方法によってイオン注入されていることを特徴とする請求項1記載の太陽電池モジュール用保護シート。
【請求項3】
He、Ar、N、Kr、Ne、およびOから選択される1種以上がイオン注入されていることを特徴とする請求項1または2記載の太陽電池モジュール用保護シート。
【請求項4】
前記フッ素含有樹脂からなる基材シートのイオン注入された面に、さらに無機薄膜層が積層されていることを特徴とする請求項1〜3記載の太陽電池モジュール用保護シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の太陽電池モジュール用保護シートを用いてなる太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−238816(P2010−238816A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83505(P2009−83505)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】