説明

太陽電池モジュール用裏面保護シートの製造方法

【課題】基材シートに顔料を含むフッ素樹脂層が積層された太陽電池モジュール用裏面保護シート(バックシート)においてフッ素樹脂層の密着性を確保しつつ、水蒸気バリア性や耐候性を高めることが可能な技術の提供。
【解決手段】フッ素樹脂と顔料と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を基材シートに塗工し、次いでこの塗膜を乾燥させる際に、乾燥工程を、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜内全体の溶剤量が70%になるまでの期間である乾燥初期と、その後の乾燥後期とに分け、前記乾燥初期の乾燥温度を溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことにより、乾燥後のフッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっているフッ素樹脂層を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用裏面保護シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置である太陽電池モジュールは、二酸化炭素を排出せずに発電できるシステムとして注目されている。その太陽電池モジュールには、高い発電効率とともに、屋外で使用した場合にも長期間の使用に耐えうる耐久性が求められている。
図3は太陽電池モジュールの一例を示す概略図である。
太陽電池モジュール50の主な構成は、光発電素子である太陽電池セル40、電気回路のショートを防ぐ電気絶縁体である封止材30、および封止材30の表面側に積層された表面保護シート10、封止材30の裏面側に積層された裏面保護シート20(以下、バックシートと記す)とから概略構成されている。
【0003】
従来、バックシートに耐久性や耐候性、光反射性、水蒸気バリア性などを持たせるために、基材シートにフッ素樹脂層を積層すると共に、二酸化チタン(TiO)やシリカ(SiO)などの無機顔料をフッ素樹脂層中に均一に分散させたバックシートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、紫外線硬化型塗料等の塗料を基材に塗布した後、紫外線硬化させるまでの温度条件を調整し、硬化膜表面の状態を制御するための従来技術としては、特許文献2,3に開示された技術が提案されている。
特許文献2には、艶消し剤、防曇剤、導電剤、研磨剤、離型剤の少なくとも1種を添加剤として含有する架橋硬化型塗料を基材の表面に塗布した後、加温して所定温度に調温しながら架橋硬化型塗料を乾燥、硬化させることを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。特許文献2の実施例には、シリカ粉末を含む紫外線硬化型塗料を基材に塗布し、表面温度20℃に調温した加温ロールに巻きつけ、そのままの状態で5秒後に紫外線照射して紫外線硬化型塗料を硬化させるプロセスが記載されている。
特許文献3には、光硬化性被覆組成物を化学光線照射により硬化せしめるに当り、前処理として該組成物塗装物を溶剤蒸気が爆発限界に達しない限度での最小限排気速度による換気雰囲気中で加熱して塗膜からの溶剤蒸発を制御しつつ塗料をフローさせ、次いで熱風加熱処理により溶剤を除去せしめることを特徴とする光硬化性被覆組成物の硬化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−35694号公報
【特許文献2】特開平3−4969号公報
【特許文献3】特開昭59−162978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたバックシートのように、フッ素樹脂層中に顔料を均一に分散した構造では、水蒸気バリア性や耐候性の改善には限界があった。バックシートの水蒸気バリア性や耐候性を高めるために、フッ素樹脂層中の顔料を増量した場合には、フッ素樹脂層と基材シートとの密着性が低下してフッ素樹脂層が剥がれやすくなったり、フッ素樹脂層が割れ易くなるなどの問題が生じてしまう。
そこで、フッ素樹脂層中の顔料の分散状態を制御して、フッ素樹脂層の厚さ方向の外面側(基材シート反対面側)に顔料が高密度に存在する構造とすれば、顔料の配合量が同じであっても水蒸気バリア性や耐候性に優れたフッ素樹脂層を形成できる可能性がある。
しかしながら、フッ素樹脂層中の顔料の分散状態を制御するための有効な方法は、これまで知られていなかった。
前述したように、特許文献2,3には、紫外線硬化型塗料等の塗料を基材に塗布した後、乾燥、硬化させるまでの温度条件を調整し、硬化膜表面の状態を制御することは記載されているものの、特許文献2,3には、硬化前の塗膜におけるシリカ粉末や二酸化チタンなどの顔料の挙動に関して一切記載されておらず、硬化させるまでの温度条件等の調整の目的も、硬化膜の表面の艶の改善などであるため、特許文献2,3に記載された技術をフッ素樹脂層中の顔料の分散状態を制御する目的で適用することは困難である。また、特許文献2,3には、硬化前の塗膜における溶剤の挙動に関しても詳細な検討はなされていない。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、基材シートに顔料を含むフッ素樹脂層が形成された構成のバックシートにおいて、水蒸気バリア性や耐候性を高めることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、基材シートの少なくとも一方の面に顔料を含むフッ素樹脂層が形成された太陽電池モジュール用バックシートの製造方法において、フッ素樹脂と顔料と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を基材シートに塗工し、次いでこの塗膜を乾燥させる際に、乾燥工程を、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜内全体の溶剤量が70%になるまでの期間である乾燥初期と、その後の乾燥後期とに分け、前記乾燥初期の乾燥温度を前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度(ただし、この温度は室温を最低温度とする)とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことにより、乾燥後のフッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっているフッ素樹脂層を得ることを特徴とする太陽電池モジュール用バックシートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フッ素樹脂と顔料と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を基材シートに塗工し、次いでこの塗膜を乾燥させる際に、乾燥初期の乾燥温度を前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことにより、基材シートの少なくとも一方の面に顔料を含むフッ素樹脂層が積層されたバックシートにおいて、フッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっているフッ素樹脂層を有するバックシートを得ることができる。本発明の製造方法により得られたバックシートは、フッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっていることから、フッ素樹脂層中に同量の顔料を均一に分散したバックシートと比べ、水蒸気バリア性、耐候性を向上させることができる。また、フッ素樹脂層の厚さ方向における基材シート側の顔料密度が低いので、フッ素樹脂層と基材シートとの密着性が十分に得られ、フッ素樹脂層の剥がれを防止することができ、耐久性に優れている。従って、本発明によれば、水蒸気バリア性、耐候性に優れ、屋外での長期間の使用に耐えうる耐久性を備えたバックシートを簡単に製造することができる。
また、本発明の製造方法は、基材シート反対面側の顔料密度が高いフッ素樹脂層を有するバックシートを得るための簡便でロールtoロールの製造に適した方法であり、従来の製造方法と同等の生産コストでより高性能なバックシートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】バックシートの構造を例示する断面図である。
【図2】本発明の製造方法における塗膜乾燥初期工程を示す要部拡大図である。
【図3】本発明の製造方法により得られたフッ素樹脂層の顔料偏在状態を示す要部拡大図である。
【図4】太陽電池モジュールの概略構成図である。
【図5】塗膜乾燥における塗膜厚さ方向での溶剤量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図4は、太陽電池モジュールの概略構成図である。
図4に例示するように、この太陽電池モジュール50は、太陽電池セル40とこれを被覆する封止材30と、該封止材30の表面(受光面)側に固定された表面保護シート10と、封止材30の裏面(背面)側に固着されたバックシート20とを有する構成になっている。屋外および屋内において長期間の使用に耐えうる耐候性および耐久性を太陽電池モジュールにもたせるためには、太陽電池セル40および封止材30を風雨、湿気、砂埃、機械的な衝撃などから守り、太陽電池モジュールの内部を外気から遮断して密閉した状態に保つことが必要である。このため、バックシート20には、高い水蒸気バリア性や耐候性が求められている。さらに、このバックシートには、太陽電池モジュール50の受光面から入射した光が、複数の太陽電池セル40間の隙間を通って裏面側に抜け出すことによる受光ロスを少しでも減少させるために、バックシート20になるべく高い反射率を持たせることが求められている。
【0011】
図1は、バックシートの構造を例示する断面図である。図1(a)は、基材シート21の一方の面にフッ素樹脂層22が積層され、基材シート21の他方の面に接着層23が積層された構成になっている。
図1(b)は、基材シート21の一方の面にフッ素樹脂層22が積層され、基材シート21の他方の面にラミネート用接着剤層24を介して接着層23が積層された構成になっている。
前記フッ素樹脂層22は、ベースとなるフッ素樹脂中に二酸化チタンなどの顔料25が含まれている。
【0012】
本発明の製造方法は、図3に示すように、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面22B側(外面側)の方が高くなっている構造(顔料偏在構造)を持ったフッ素樹脂層22を有するバックシート20の製造方法に関する。このようにフッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなっているバックシート20は、フッ素樹脂層中に同量の顔料を均一に分散したバックシートと比べ、水蒸気バリア性、耐候性を向上させることができる。また、フッ素樹脂層22の厚さ方向における基材シート側の顔料密度が低いので、フッ素樹脂層22と基材シート21との密着性が十分に得られ、フッ素樹脂層22の剥がれを防止することができ、耐久性に優れている。
【0013】
本発明の製造方法では、まず、フッ素含有ポリマーと、顔料と、溶剤とを混合し、均一に分散させた塗工液を調製する。
前記塗工液に配合するフッ素含有ポリマーとしては、本発明の効果を損なわず、フッ素を含有するポリマーであれば特に限定されないが、前記塗工液の溶剤(有機溶剤または水)に溶解し、架橋可能であるものが好ましい。該フッ素含有ポリマーの好ましい例としては、旭硝子社製のルミフロン(商品名)、セントラル硝子社製のCEFRALCOAT(商品名)、DIC社製のFLUONATE(商品名)等のクロロトリフルオロエチレン(CTFE)を主成分としたポリマー類や、ダイキン工業社製のゼッフル(商品名)等のテトラフルオロエチレン(TFE)を主成分としたポリマー類や、デュポン社製のZonyl(商品名)、ダイキン工業社製のUNIDYNE(商品名)等のフルオロアルキル基を有するポリマー、およびフルオロアルキル単位を主成分としたポリマー類が挙げられる。これらの中でも、耐候性および顔料分散性等の観点から、CTFEを主成分としたポリマーおよびTFEを主成分としたポリマーがより好ましく、なかでも前記ルミフロン(商品名)および前記ゼッフル(商品名)が最も好ましい。
【0014】
前記ルミフロン(商品名)は、CTFEと数種類の特定のアルキルビニルエーテル(VE)、ヒドロキシアルキルビニルエーテルとを主な構成単位として含む非結晶性のポリマーである。該ルミフロン(商品名)のように、ヒドロキシアルキルビニルエーテルのモノマー単位を有するポリマーは、溶剤可溶性、架橋反応性、基材密着性、顔料分散性、硬さ、および柔軟性に優れるので好ましい。
前記ゼッフル(商品名)は、TFEと有機溶剤可溶性の炭化水素オレフィンとの共重合体であり、なかでも反応性の高い水酸基を備えた炭化水素オレフィンを有する場合には、溶剤可溶性、架橋反応性、基材密着性、および顔料分散性に優れるので好ましい。
【0015】
また、フッ素含有ポリマーとして、硬化性官能基を有するフルオロオレフィンのポリマーを使用することもでき、該具体例としては、TFE、イソブチレン、フッ化ビニリデン(VdF)、ヒドロキシブチルビニルエーテルおよびその他のモノマーからなる共重合体、ならびにTFE、VdF、ヒドロキシブチルビニルエーテルおよびその他のモノマーからなる共重合体が好ましいものとして挙げられる。
【0016】
また、前記塗工液には、前記フッ素含有ポリマーと共重合可能なモノマーを配合してもよく、このようなモノマーとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ブチル、イソ酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、および安息香酸ビニル等のカルボン酸のビニルエステル類や、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルおよびシクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類が挙げられる。
【0017】
さらに、前記塗工液に配合するフッ素含有ポリマーは、1種以上のモノマーからなるポリマーであってもよく、三元重合体であってもよい。例えば、VdFとTFEとヘキサフルオロプロピレンとの三元重合体であるDyneon THV(商品名;3M社製)が挙げられる。そのような多元重合体は、それぞれのモノマーが有する特性をポリマーに付与することができるので好ましい。例えば前記Dyneon THV(商品名)は、比較的低温で製造することができ、エラストマーや炭化水素ベースのプラスチックにも接着でき、柔軟性や光学的透明度にも優れるので好ましい。
【0018】
前記塗工液に含まれる溶剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、例えばメチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、キシレン、メタノール、イソプロパノール、エタノール、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、またはn−ブチルアルコールのうち、いずれか1種以上を有する溶剤を好ましく用いることができる。なかでも、塗工液中のベース樹脂成分の溶解性および塗膜中への残留性の低さ(低い沸点温度)、シリカの分散性の観点から、前記溶剤はキシレン、シクロヘキサノン、またはMEKのうち、いずれか1種以上を有するものであることがより好ましい。
【0019】
前記フッ素樹脂層22は耐候性、耐擦傷性を向上させるため、架橋剤により硬化していることが好ましい。該架橋剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、金属キレート類、シラン類、イソシアネート類、およびメラミン類が好ましく用いられるものとして挙げられる。前記バックシートを屋外において30年以上使用することを想定した場合、耐候性の観点からは、前記架橋剤として、脂肪族のイソシアネート類が好ましい。
【0020】
前記塗工液に加える顔料25は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、フッ素樹脂層22中の分散が良好で、高い反射率が得られ、耐久性に優れたフッ素樹脂層22を形成し得るものが好ましく、例えば、二酸化チタン、表面処理二酸化チタン、カーボンブラック、マイカ、ポリアミドパウダー、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、表面処理シリカなどが挙げられ、二酸化チタン、表面処理二酸化チタン、シリカ、表面処理シリカがより好ましい。これら金属化合物は単独で用いても良いし、2種以上組み合わせてよい。また、蒸着層も単層で用いても良いし、2層以上でもよい。
具体的には、充填剤としては、耐久性や紫外線遮蔽性を付与するため、被覆および表面処理されたルチル型二酸化チタンであるタイピュア R105(商品名、デュポン社製)および、ジメチルシリコーンの表面処理によってシリカ表面の水酸基を修飾した疎水性シリカであるCAB−O−SIL TS 720(商品名、キャボット社製)などが挙げられる。
【0021】
前記塗工液中に配合する顔料25の量は、固形分比でフッ素含有ポリマー100質量部に対し、10〜100質量部の範囲が好ましく、20〜90の範囲がより好ましい。
顔料25の配合量が前記範囲未満であると、顔料25を基材シート反対面22B側に高密度で集めたとしても、フッ素樹脂層22の水蒸気バリア性や耐候性の改善効果が十分に得られなくなる。一方、顔料25の含有量が前記範囲を超えると、顔料が過剰になって、顔料25の密度を基材シート側で低くしても、フッ素樹脂層22と基材シート21との密着性が悪くなる。
【0022】
前記塗工液には、前記フッ素含有ポリマー、前記顔料25及び前記溶剤の他に、硬化剤(架橋剤)、架橋促進剤、触媒、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤などの添加剤を含めることもできる。
【0023】
前記塗工液の組成は、本発明の効果を十分に発揮できれば特に限定されない。一例として、フッ素含有ポリマーとしてクロロトリフルオロエチレン(CTFE)系共重合体を用いた場合の塗工液の組成例を記すと、固形分比で前記CTFE系共重合体100質量部に対し、顔料5〜100質量部、硬化剤5〜20質量部、架橋促進剤0.0001〜0.01)質量部、メチルエチルケトンなどの溶剤50〜250質量部を配合する塗工液組成が挙げられる。塗工液は、前述した各材料を混合し、分散機などによって顔料を十分に分散させることによって調製する。
【0024】
次に、前述したように調製した塗工液を、基材シート21の表面に塗布する。
前記基材シート21として用いうる樹脂としては、一般に太陽電池モジュール用保護シートにおける樹脂として使用されているものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66)、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエステルウレタン、ポリm−フェニレンイソフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミド、アクリル樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン樹脂(ABS樹脂)、エポキシ樹脂、ポリスチレン‐ポリカーボネートアロイ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂からなるシートが挙げられる。なかでも、PET、PBT、PEN等のポリエステルからなるシートが好ましく、より具体的にはPETシートが好ましいものとして挙げられる。
また、前記PET、PBT、PEN等のポリエステルからなる基材シート21は、公知の方法で耐加水分解性が付与されたものであることがより好ましい。これらの好適な樹脂シートを基材シート21として用いた場合、当該バックシート20の水蒸気バリア性、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性をより向上させることができる。
【0025】
なお、上記基材シート21は、有機フィラー、無機フィラー、紫外線吸収剤等の各種添加剤を含んだものであってもよい。また、基材シート21表面には、耐候性、耐湿性等を高めるための蒸着層がさらに設けられていてもよい。蒸着層は、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法などの化学気相法、または、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理気相法により形成される。蒸着層は、無機酸化物から構成されるものであり、二酸化ケイ素(SiO)や酸化アルミニウム(Al)などの金属酸化物からなるものが好適である。これら金属化合物は単独で用いても良いし、2種以上組み合わせてよい。また、蒸着層も単層で用いても良いし、2層以上でもよい。
【0026】
前記基材シート21の厚さとしては、太陽電池システムが要求する電気絶縁性に基づいて選択すればよい。例えば、前記基材シート21が樹脂シートである場合には、該膜厚が10〜300μmの範囲であることが好ましい。より具体的には、前記基材シート21がPETシートである場合には、軽量性および電気絶縁性の観点から、該PETシートの厚さは10〜300μmの範囲であることが好ましく、30〜200μmの範囲であることがより好ましく、50〜150μmであることがさらに好ましい。
【0027】
前記塗工液を基材シート21の上面に塗布する方法としては、バーコート法、リバースロールコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、グラビアコート法、エアドクターコート法、ドクターブレードコート法など、従来公知の方法で行うことができ、所望の膜厚になるように塗布すればよい。
この時の塗工液の塗布量は、前記塗工液が硬化して形成されるフッ素樹脂層の膜厚が5〜100μmの範囲となるように塗布することが好ましく、10〜60μmの範囲となるように塗布することがより好ましい。
【0028】
次に、基材シート21の表面に塗布された塗膜28を乾燥させる。
本発明の製造方法では、この塗膜28の乾燥工程において、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜28内の溶剤量が70%になるまでの期間である乾燥初期と、その後残りの溶剤を留去する乾燥後期とに分け、乾燥初期の乾燥温度を前記塗工液に配合した溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことを特徴としている。なお、乾燥後期の乾燥温度は特に規定しないが、乾燥工程の短縮化を図るためには溶剤の沸点以上の温度で乾燥させることが好ましい。
【0029】
図2は、塗膜28の乾燥工程における乾燥初期の状態を示す断面図である。図2に示すように、基材シート21上に塗布された直後の塗膜28は、塗工液26の液相中に顔料25がほぼ均一に分散された状態になっている。この状態で恒温で急速に塗膜を乾燥させると、得られるフッ素樹脂層は顔料が該層の厚さ方向にわたって均一に分散された状態のものとなる。
【0030】
本発明の製造方法では、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜28内の溶剤量が70%になるまでの乾燥初期は、溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度(ただし、この温度は室温を最低温度とする)で行う。具体的には、塗工液に溶剤として沸点が79.6℃であるメチルエチルケトンを配合した場合、乾燥初期の乾燥温度を69.6℃以下とし、30〜65℃の範囲とすることが好ましい。
前記乾燥初期の温度が、溶剤の沸点−10℃よりも高いと、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなる顔料偏在構造が得られず、フッ素樹脂層の厚さ方向にわたり顔料が均一に分散したフッ素樹脂層が形成される。
【0031】
また、この乾燥初期の塗膜乾燥方式は、図2に示すように、少なくとも塗膜表面22A側に熱風を吹きつけて乾燥する熱風乾燥方式とする。基材シート21側から加熱して乾燥させる場合には、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなる顔料偏在構造が得られず、フッ素樹脂層の厚さ方向にわたり顔料が均一に分散したフッ素樹脂層が形成される。
【0032】
ここで、本発明において「乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜内全体の溶剤量が70%になるまでの乾燥初期」を規定した理由について説明する。
基材シート21に塗工液を塗布し、この塗膜28を乾燥させる場合、乾燥は塗膜表面22Aから進行し、表面の固形物濃度が増加する。 その結果、膜厚方向の濃度差を低減する流れが生じる。すなわち塗膜表面に向けて流れが生じ、分散している顔料もその流れに沿って表面に移動し、結果的に表面側の顔料濃度は基材側に比べて高くなる。
これには条件があり、(1)乾燥初期から高い温度で急激に乾燥させると表面が一気に膜張りしてしまい、顔料が表面に移動できない、(2)基材シート側に熱風を吹きつけても表面方向への流れは発生するが、一方で基材シート付近の顔料沈降を誘発するために表面での顔料偏在構造が得られにくいためである。
【0033】
前述したように、本発明において「乾燥初期」とは、塗膜28内の溶剤量が初期の70%となるまでの期間とする。
前述の通り、乾燥は塗膜表面側から進行するため、必ず塗膜表面の濃度が高くなる。溶剤量が初期の70%未満となると、表面は膜張りした状態となり、この状態では顔料の移動がなくなる。
よって、溶剤量が70%より高い乾燥期間においてのみ顔料の移動が可能となる。
【0034】
これを検証するためにリンテック社製の乾燥シミュレータ(計算ソフト:マイクロソフト社製、Visual Fortrun 5.0A)を用いて塗膜内の溶剤分布を計算した。
計算は、後述する実施例2に相当する塗工液を対象とした。
塗膜厚み(60μm)方向で40分割に離散化した領域それぞれに対して、次式(1)の物質収支式と次式(2)の熱収支式が設定された、前述の乾燥シミュレータを用いて、経時での塗膜内溶剤量を計算した。なお、計算開始時は初期値として乾燥速度R=0.0025(kg/(m・s))、塗膜温度Tm=24.0(℃)を与え、以降の経時での計算は一回前の計算で求まった値を式(1)、(2)に与えて繰り返し計算を行った。
【0035】
【数1】

【0036】
【数2】

【0037】
(ここで、
R: 乾燥速度 [kg/(m・s)]
W: 塗膜質量 [kg]
Tm: 塗膜温度 [℃]
Ta: 乾燥温度 [℃]
kg: 境膜物質移動係数 [kg/(ms)]
Pm: 蒸気圧 [Pa]
P0: 大気圧 [Pa]
α: 活量 [−]
Q: 流入熱量 [J]
h: 伝熱係数[J/(m・s・℃)]
Δhw: 蒸発潜熱 [J/kg]
CP: 比熱 [J/(kg・℃)]
T: 時間[s]
を表す。)
式中の各物性値は化学工学便覧(化学工学会編 改訂六版)に記載されている文献値を用いた。
【0038】
各領域に対して得られた溶剤量を初期の溶剤量に対する比率で表したものが図5である。 図5中、符号Uは塗膜全体の初期溶剤量に対するある時間での溶剤量を表した比率である。
横軸は、基材からの距離、すなわち塗膜厚(μm)を表し、縦軸は、40分割した領域での初期溶媒量に対するある時間での溶媒量比率を表している。本定義から、Uが小さくなるほど乾燥時間が経過し、乾燥が進行していることになる。
例えば、U=0.9の曲線は塗膜全体で乾燥前の溶剤量(U=1.0)から乾燥が進行して10%分(U=0.1分)の溶剤量が蒸発したことになる。その曲線の各々のプロットが40分割した領域での溶媒量比率となっている。すなわち、各々のプロットでの溶媒量の低下分を合算した値が、塗膜全体の溶媒量の低下分(この場合は10%分)に等しい。
図5から、U≦0.7では、塗膜表面(曲線プロットの一番右のプロット)の溶剤量比率はほぼゼロとなっていることが分かる。この状態が前述した膜張りした状態に相当し、顔料の移動が起こらないと考えられる。
よって顔料の移動が起こりえるのはU>0.7の場合である。本発明においては顔料の移動が起こりえる期間を乾燥初期と呼び、よってU>0.7がその期間となる。
U≦0.7以降の乾燥(乾燥後期)における乾燥条件は、塗膜の表面状態に影響を与えず、溶剤を蒸発させるために、任意の高い温度に設定しても構わない。
【0039】
本発明の製造方法では、前記「乾燥初期」の乾燥温度を溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度に制御し、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行い、その後は前記沸点よりも高温で乾燥を行うことにより、図3に示すように、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなる顔料偏在構造を有するフッ素樹脂層22を形成することができる。
【0040】
図1に示すバックシート20は、このフッ素樹脂層22の形成後、基材シート21の他方の面側に、ラミネート用接着剤層24を介して接着層23を積層させてもよいし(図1(b))、後述する接着層23の材料を溶剤に溶解または分散させた塗工液を基材シート21に直接塗布、乾燥して積層させてもよい(図1(a))。
【0041】
前記接着層23の材料としては、バックシートとして使用する場合に太陽電池モジュール50の背面に積層する際に、封止剤30との密着性向上の観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、アセタール系樹脂、アクリロニトリル‐スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)、アクリルウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂などが挙げられる。さらに、封止剤30と熱接着することが可能なように、熱接着性を有していることが好ましい。ここで、熱接着性とは、加熱処理によって接着性を発現する性質のことである。該加熱処理における温度としては、通常50〜200℃の範囲である。熱接着性を有する観点から、接着層23としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、アイオノマー樹脂、およびそれらの混合物からなる群から選択される1種からなる樹脂が好ましい。一般に、前記封止材30はEVAからなる封止樹脂であることが多く、この場合、前記接着層23がEVAを主成分とするポリマーからなる樹脂であることにより、封止材30と接着層23との密着性を向上させることができる。
【0042】
前記接着層23の厚さとしては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。より具体的には、接着層23のベース樹脂がEVAである場合には、軽量性および電気絶縁性等の観点から。その厚さは、10〜200μmの範囲であることが好ましく、20〜150μmの範囲であることがより好ましい。
【0043】
前記接着層23には、必要に応じてその他のポリマーや各種の配合剤を添加してもよい。その他のポリマーとしては軟質重合体や、その他の有機高分子充填剤が用いられる。
また各種の配合剤としては、有機化合物、無機化合物のいずれであってもよく、樹脂工業において通常用いられる配合剤が用いられる。例えば、老化防止剤、安定剤、二酸化チタンなどの顔料、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、無機フィラー、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤が用いられる。
【0044】
また前記ラミネート用接着剤層24に用いる接着剤としては、例えばアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤などが挙げられる。これらの接着剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の製造方法は、フッ素樹脂と顔料と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を基材シートに塗工し、次いでこの塗膜を乾燥させる際に、乾燥初期の乾燥温度を溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことにより、基材シート22に顔料25を含むフッ素樹脂層22が積層されたバックシート20において、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなっているフッ素樹脂層22を有するバックシート20を得ることができる。本発明の製造方法により得られたバックシート20は、フッ素樹脂層22の厚さ方向における顔料25の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面22B側の方が高くなっていることから、フッ素樹脂層中に同量の顔料を均一に分散したバックシートと比べ、水蒸気バリア性、耐候性を向上させることができる。また、フッ素樹脂層22の厚さ方向における基材シート21側の顔料密度が低いので、フッ素樹脂層22と基材シート21との密着性が十分に得られ、フッ素樹脂層22の剥がれを防止することができ、耐久性に優れている。従って、本発明によれば、水蒸気バリア性、耐候性に優れ、屋外での長期間の使用に耐えうる耐久性を備えたバックシート20を簡単に製造することができる。
また、本発明の製造方法は、基材シート反対面22B側の顔料密度が高いフッ素樹脂層22を有するバックシート20を得るための簡便でロールtoロールの製造に適した方法であり、従来の製造方法と同等の生産コストでより高性能なバックシート20を製造することができる。
【0046】
本発明の製造方法により得られたバックシート20は、図4に示すように、太陽電池モジュール50の裏面(背面)の封止材30に接着し、使用される。
この太陽電池モジュール50の種類や構造は特に限定されず、a−Si太陽電池、c−Si太陽電池、μc−Si太陽電池、GaAsなどの化合物半導体型太陽電池、色素増感型太陽電池とすることができる。
この太陽電池モジュール50は、前記バックシート20をモジュールの裏面(背面)に接着してなるものなので、水蒸気バリア性、耐候性に優れ、屋外での長期間の使用に耐えうる耐久性を保持したものとなる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
[フッ素樹脂層形成用塗工液]
フッ素樹脂としてCTFE系共重合体(旭硝子社製、商品名:ルミフロンLF200、固形分濃度60質量%)100質量部、顔料として疎水性シリカ(キャボット社製、商品名:CAB−O−SIL TS−720、固形分濃度100質量%)6.65質量部、及び二酸化チタン(デュポン社製、商品名;タイピュア R−105)36.5質量部、脂肪族系イソシアネート架橋剤(住化バイエルウレタン社製、商品名:スミジュールN3300、固形分濃度2.5質量%)10.7質量部、架橋促進剤(ジオクチルジラウリン酸スズ、東洋インキ製造社製、商品名:BXX3778−10)0.004質量部、メチルエチルケトン(沸点79.6℃)153.8質量部をディスパー(特殊機化工業社製、製品名:T. K. ホモディスパー)で所定時間分散・混合させてフッ素樹脂層形成用塗工液を作製した。
【0048】
[接着剤層形成用塗工液]
ウレタン系接着剤の主剤(Bostik社製、商品名:AL−13)を100質量部、架橋剤(Bostik社製、商品名:TC−24)を10.5質量部、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング社製、商品名:Z−6040)を0.24質量部、トルエンを94.5質量部、MEKを94.5質量部の量で配合し、接着剤層形成用塗工液とした。
【0049】
PETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、商品名:MYLAR A、厚さ125μm)の一方の面(片面)に、前記フッ素樹脂形成用塗工液を乾燥後塗膜厚みが15μmとなるようにグラビアコーターにて塗工した。
その後、塗膜表面側に乾燥初期の乾燥温度が40℃となるように熱風を10秒間吹き付け、その後乾燥後期の乾燥温度が80℃となるように熱風を90秒間吹き付け、塗膜を完全に乾燥、硬化させフッ素樹脂層が形成されたPETフィルムを得た。
【0050】
得られたフッ素樹脂層が形成されたPETフィルムの裏面(フッ素樹脂層の非形成面)に、前記接着剤層形成用塗工液を、乾燥後の厚みが5μmとなるようにバーコーターを用いて塗工し、80℃で1分間乾燥後、縦100mm、横100mm、厚さ100μmのEVAフィルム(Berry Plastics社製、商品名:EVA−M 67 X0040 WHITE)を貼り合せた。その後、23℃50%RH環境下で7日間放置してバックシート作製した。
【0051】
[実施例2]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の温度を60℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のバックシートを作製した。
【0052】
[実施例3]
実施例1において、フッ素樹脂として硬化性TFE系共重合体(ダイキン工業社製、商品名:ゼッフルGK570、固形分濃度60質量%)、メチルエチルケトンの替わりに酢酸ブチル(沸点126.5℃)を用いた以外同様にしてフッ素樹脂形成用塗工液を作製した。
この塗工液を基材シートにSi蒸着PETフィルム(三菱樹脂社製、商品名:テックバリアH、厚さ12μm)を用い、Si蒸着PETフィルムの非蒸着面に乾燥後塗膜厚みが15μmとなるようにグラビアコーターにて塗工した。
その後、塗膜表面に乾燥初期の乾燥温度が90℃となるように熱風を10秒間吹き付け、その後、乾燥後期の乾燥温度が120℃となるように熱風60秒間を吹き付け、塗膜を完全に乾燥、硬化させフッ素樹脂層が形成されたPETフィルムを得た。
【0053】
得られたフッ素樹脂層が形成されたPETフィルムに、実施例1と同様に接着層を形成後EVAフィルムを貼り合わせ実施例3のバックシートを作製した。
【0054】
[実施例4]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥温度を60℃とし、熱風を塗膜表面及び基材シート側の両方に吹きつけたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のバックシートを作製した。
【0055】
[比較例1]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥温度を80℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のバックシートを作製した。
【0056】
[比較例2]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥温度を120℃としたこと以外は、実施例3と同様にして、比較例2のバックシートを作製した。
【0057】
[比較例3]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥温度を60℃とし、熱風を基材シート側のみに吹きつけたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のバックシートを作製した。
【0058】
[比較例4]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥時間を3秒間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のバックシートを作製した。
【0059】
[比較例5]
フッ素樹脂層形成時の乾燥初期の乾燥温度を80℃となるように熱風を2秒間吹き付け、その後、乾燥後期の乾燥温度が40℃となるように熱風を210秒間吹き付けた以外は、実施例1と同様にして、比較例5のバックシートを作製した。
【0060】
前記実施例1〜4、比較例1〜5における乾燥工程の加熱条件を表1にまとめて記す。なお、表1中、「T1」は乾燥初期、「T2」は乾燥後期を表し、T1時の溶剤量比率(%)は乾燥シミュレータ(リンテック社製)を用いて算出した。
【0061】
【表1】

【0062】
前記実施例1〜4、比較例1〜5でそれぞれ作製したバックシートについて、光沢(グロス値)及び密着性について下記の条件で測定・評価した。その結果をまとめて表2に記す。
【0063】
<光沢(グロス値)>
JIS K7361に従って、日本電色工業社製、グロスメーターVG2000を用いて、作製したバックシートのフッ素樹脂層表面の60°グロス値を測定した。
【0064】
<密着力>
JIS K5600−5−6に準拠し、作製した実施例1〜4、比較例1〜5の各バックシートのフッ素樹脂層に1mm角の碁盤目を10×10マス作製し、セロハンテープ(ニチバン社製:CT24)を貼着し、該テープを剥がした際、100マスの内、剥離しないマス目の数を調べ、下記の評価基準で密着力を評価した。
◎:非常に良好 0マス以上5マス未満の剥離
○:良好 5マス以上10マス未満の剥離
△:やや悪い 10マス以上20マス未満の剥離
×:悪い 20マス以上の剥離
【0065】
【表2】

【0066】
表2の結果より、本発明に係る実施例1〜4で得られたバックシートは、フッ素樹脂層表面のグロスが10.4〜10.8と低い値を示した。これは、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜内全体の溶剤量が70%になるまでの期間である乾燥初期に、塗工液中の溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度として、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行ったことにより、乾燥後のフッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっているフッ素樹脂層が形成されたため、フッ素樹脂層表面のグロス値が低くなったことを示している。
実施例1〜4で得られたバックシートは、フッ素樹脂層の密着性が良好であった。また、熱風を塗膜表面及び基材シート側の両方に吹きつけた実施例4のバックシートよりも、熱風を塗膜表面のみに吹きつけた実施例1〜3のバックシートの方が密着性に優れていた。
【0067】
一方、乾燥初期の温度を塗工液中の溶剤の沸点より高くした比較例1、乾燥初期の温度を沸点−10℃より高い温度とした比較例2、熱風を基材シート側のみに吹きつけた比較例3、乾燥初期の塗膜溶剤量が85.0%及び86.0%とした比較例4及び比較例5で作製したバックシートは、フッ素樹脂層表面のグロス値が17.8〜18.0と実施例1〜4よりも高くなった。これは、比較例1〜5の塗膜乾燥条件が本発明の範囲外であったために、乾燥後のフッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっている顔料偏在構造が形成されず、フッ素樹脂層中に顔料が均一に分散している状態のフッ素樹脂層が形成されたために、実施例1〜4よりもフッ素樹脂層表面の光沢が増したことを示している。
比較例1〜5で得られたバックシートは、いずれもフッ素樹脂層の密着性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製造方法によれば、水蒸気バリア性や耐候性に優れたバックシートを製造することができる。このバックシートは太陽電池モジュール用のバックシートとして有用である。
【符号の説明】
【0069】
10 …表面保護シート
20 …裏面保護シート(バックシート)
21 …基材シート
22 …フッ素樹脂層
22A …塗膜表面
22B …基材シート反対面
23 …接着層
24 …ラミネート用接着剤層
25 …顔料
26 …塗工液
27 …熱風
28 …塗膜
30 …封止材
40 …太陽電池セル
50 …太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの少なくとも一方の面に顔料を含むフッ素樹脂層が形成された太陽電池モジュール用裏面保護シートの製造方法において、
フッ素樹脂と顔料と溶剤とを含む塗工液を調製し、この塗工液を基材シートに塗工し、次いでこの塗膜を乾燥させる際に、乾燥工程を、乾燥前塗膜の溶剤量に対して塗膜内全体の溶剤量が70%になるまでの期間である乾燥初期と、その後の乾燥後期とに分け、
前記乾燥初期の乾燥温度を前記溶剤の沸点よりも10℃以上低い温度(ただし、この温度は室温を最低温度とする)とし、少なくとも塗膜表面側に熱風を吹きつける乾燥方式で行うことにより、乾燥後のフッ素樹脂層の厚さ方向における顔料の密度が、基材シート側よりも基材シート反対面側の方が高くなっているフッ素樹脂層を得ることを特徴とする太陽電池モジュール用裏面保護シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−232442(P2010−232442A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78708(P2009−78708)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】