説明

太陽電池用ウェーハ、太陽電池セルおよび太陽電池モジュール

【課題】シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハの表面に多孔質層を有し、該表面における光の反射ロスをより低減することが可能な太陽電池用ウェーハを提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用ウェーハ100は、半導体ウェーハ10の少なくとも片面10Aに、孔径が10nm以上45nm以下であり、層厚みが50nm超え450nm以下の多孔質層11を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用ウェーハ、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールに関する。本発明は、特に、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハの表面に多孔質層を有し、該表面における光の反射ロスをより低減することが可能な太陽電池用ウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池セルは、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハを用いて形成される。太陽電池セルの変換効率を高めるためには、太陽電池セルの受光面で反射してしまう光および太陽電池セルを透過してしまう光を低減する必要がある。ここで例えば、シリコンウェーハを用いて結晶系太陽電池を作製する場合、シリコンウェーハは光電変換に寄与する可視光の透過率が低いため、変換効率を向上させるためには、受光面となるシリコンウェーハ表面における可視光の反射ロスを低く抑え、入射する光を有効に太陽電池の中に閉じ込めることを考慮すればよい。
【0003】
シリコンウェーハ表面における入射光の反射ロスを低減する技術としては、表面に反射防止膜を形成する技術と、表面にテクスチャ構造とよばれるミクロなピラミッド型の凹凸などの凹凸構造を形成する技術とがある。後者の技術のうち、表面にテクスチャ構造を形成する方法は、単結晶シリコンに適した方法であり、(100)単結晶シリコン表面をアルカリ液でエッチングする方法が代表的である。これは、アルカリを用いたエッチングでは、(111)面のエッチング速度が(100)面、(110)面のエッチング速度よりも遅いことを利用するものである。さらに、後者の技術として近年は、シリコン表面を多孔質化することによって表面に凹凸構造を形成し、入射光の反射ロスを低減する手法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、単結晶シリコン基板を陽極、Ptを陰極としてフッ化水素酸中で電流を流す陽極化成処理により、表面に多数の微細孔を形成する方法が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、ミクロンサイズのテクスチャ構造が形成されたシリコン基板表面にさらに微細なサブミクロンオーダーの凹凸を形成するために、この表面に金属粒子を無電解メッキした後、基板を酸化剤およびフッ化水素酸の混合水溶液でエッチングする技術が記載されている。具体的には、アルカリテクスチャー処理を施したp型の単結晶シリコン基板を過塩素酸銀と水酸化ナトリウムを含む水溶液に浸漬させ、表面に銀微粒子を形成する。その後、過酸化水素水、フッ化水素酸および水の混合溶液に浸漬させ、サブミクロンオーダーの凹凸を形成する。
【0006】
また、特許文献3には、反応性イオンエッチング(RIE)により、ウェーハ表面に垂直な方向の多数の規則的な孔からなる多孔質層を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−169097号公報
【特許文献2】特開2007−194485号公報
【特許文献3】特表2004−506330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの多孔質化方法で得た太陽電池用ウェーハでは、入射光の反射ロスの低減効果が十分ではなく、より変換効率の高い太陽電池セルが求められている現在の状況においては、入射光の反射ロスをより低減可能な太陽電池ウェーハが求められている。
【0009】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、シリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハの表面に多孔質層を有し、該表面における光の反射ロスをより低減することが可能な太陽電池用ウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、本発明者が鋭意検討し、様々な多孔質化処理方法で試行錯誤をくり返した結果、従来にない新たな手法により所定の構造の多孔質層を形成した太陽電池用ウェーハによれば、効果的に表面における光の反射ロスを低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、上記の知見に基づくものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0011】
(1)半導体ウェーハの少なくとも片面に、孔径が10nm以上45nm以下であり、層厚みが50nm超え450nm以下の多孔質層を有することを特徴とする太陽電池用ウェーハ。
(2)前記多孔質層における孔が蛇行している上記(1)に記載の太陽電池用ウェーハ。
(3)波長600nmにおける表面反射率が10%以下である上記(1)または(2)に記載の太陽電池用ウェーハ。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の太陽電池用ウェーハと、該ウェーハ上に形成された電極とを有することを特徴とする太陽電池セル。
(5)上記(4)に記載の太陽電池セルを基板上に複数個配置してなる太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0012】
本発明の太陽電池用ウェーハによれば、入射光の反射ロスをより低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に従う太陽電池用ウェーハ100の模式的な断面図である。
【図2】本発明の一実施例による太陽電池用ウェーハの表面をSEMにより観察した写真である。
【図3】本発明の一実施例による太陽電池用ウェーハの断面をTEMにより観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(太陽電池用ウェーハ)
以下、図面を参照しつつ本発明の太陽電池用ウェーハの実施形態を説明する。図1は、本発明に従う太陽電池用ウェーハ100の模式的な断面図である。図1においては、半導体ウェーハ10の厚みに対して多孔質層11の厚みおよび孔12の寸法を誇張して描いている。
【0015】
本発明は、半導体ウェーハの少なくとも片面に多孔質層を有する太陽電池用ウェーハである。すなわち、本明細書において「太陽電池用ウェーハ」とは、半導体ウェーハの少なくとも片面を多孔質化処理した状態のウェーハを意味するものである。この片面は、太陽電池セルにおいて受光面となる面である。すなわち、太陽電池用ウェーハ100は、半導体ウェーハ10の片面10Aに多孔質層11を有する。
【0016】
半導体ウェーハ10は特に限定されないが、例えば単結晶または多結晶シリコンウェーハを挙げることができる。
【0017】
単結晶シリコンウェーハは、チョクラルスキー法(CZ法)などにより育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。また、ウェーハ表面の面方位についても、(100),(001)および(111)など、必要に応じて選択することができる。多結晶シリコンウェーハは、多結晶シリコンインゴットからスライス加工により得ることができる。
【0018】
単結晶シリコンウェーハ、多結晶シリコンウェーハいずれの場合も、インゴットから切り出したウェーハ表面にはスライス加工によりシリコン層へ導入されたクラックや結晶歪などのダメージが生じている。このため、スライス加工後、ウェーハを洗浄し、酸またはアルカリでウェーハ表面にエッチング処理を施し、ダメージが生じている表面を除去することが好ましい。スライス加工由来の上記ダメージの侵入深さは、スライス加工条件により決定される因子であるが、概ね10μm以下の深さである。よって、KOHなどのアルカリもしくはフッ化水素酸(HF)/硝酸(HNO)混合酸により一般的に実施されているエッチング処理で対応可能である。
【0019】
太陽電池用ウェーハ100の特徴的構成は、その表面10Aに、孔径が10nm以上45nm以下であり、層厚みが50nm超え450nm以下の多孔質層11を有することである。本発明者は、従来の多孔質化処理方法により得た太陽電池用ウェーハよりさらに入射光の反射ロスを低減することを試み、上記の所定の構造の多孔質層11を形成した太陽電池用ウェーハ100によれば、表面外観は黒色となり、可視光全域の波長において反射率を顕著に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明者の検討によれば、多孔質層11における孔12の孔径が10nm未満の場合、多孔質層内の孔内部へ光が到達せず、多孔質層表層付近で光が反射するため、可視光の反射率を十分に低減することができず、45nmより大きい場合、多孔質層の底部まで光が容易に到達し、底部より表層方向へ光の反射が発生するため、やはり可視光の反射率を十分に低減することができない。また、反射率をより低減させる観点から、孔径は20〜40nmの範囲内とすることが好ましい。
【0021】
多孔質層11の層厚みが50nm以下の場合、多孔質層の底部まで光が容易に到達し、底部より表層方向へ光の反射が発生するため、可視光の反射率を十分に低減することができず、450nmより大きい場合、可視光波長と同程度の穴深さとなるため、多孔質層にて共鳴作用が発生し、やはり可視光の反射率を十分に低減することができない。また、反射率をより低減させる観点から、多孔質層11の層厚みは100〜400nmの範囲内とすることが好ましく、150〜400nmの範囲内とすることがより好ましく、250〜350nmの範囲内とすることがさらに好ましい。
【0022】
本発明は、従来よりも小さな孔径の微細孔を多数設けて多孔質層とした点に特徴がある。特許文献1のように陽極酸化で多孔質化した場合、その実施例で多孔質層の厚さが50μmまたは25μmと記載されているとおり、表面には本発明とは寸法が大きく異なる大きな孔の多孔質層が形成される。また、特許文献2には多孔質層の層厚みおよび孔の孔径が記載されていないものの、SEM像から観察される孔径は、本発明よりも大きいものである。
【0023】
ここで本明細書における「孔径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)で太陽電池ウェーハの任意の表面を観察したときに表示される複数の孔についての、半導体ウェーハ表面における開口部分の径の平均とする。図2は、本発明の一実施例による太陽電池用ウェーハの表面をSEMにより観察した写真である。この場合、この写真中に表示された複数の孔について、それぞれ開口部分の径を求め、その平均を算出することにより、孔径を求めることができる。図2中、(B)はある特定の孔の径を示す。
【0024】
また、本明細書において「多孔質層の層厚み」とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で太陽電池ウェーハの任意の断面を観察したときに表示される複数の孔の平均の深さ(表面から孔底までの最短距離)とする。図3は、本発明の一実施例による太陽電池用ウェーハの断面をTEMにより観察した写真である。この場合、この写真中に表示された複数の孔について、それぞれ孔の深さを求め、その平均を算出することにより、多孔質層の層厚みを求めることができる。図3中、(A)はある特定の孔の深さを示す。
【0025】
多孔質層11における孔12が蛇行していることが好ましい。光の吸収は、光が孔内壁などの半導体ウェーハ表面に当たることで発生するため、孔内に入射した光の反射回数が多いほど、入射光を効率的に吸収でき、反射ロスを低減する効果が高い。ここで、孔が蛇行している場合は、直線性を有する孔の場合よりも、孔内に入射した光の反射回数が多くなる。そのため、同一の層厚みで比較した場合、ウェーハ表面の反射率をより低くすることができる。直線性の孔からなる多孔質層によって蛇行性の孔を有する多孔質層と同等の光吸収性を得るためには、層厚みを厚くする必要があるが、孔のアスペクト比が大きくなり、孔の深さ方向に対する横方向への強度が低下するため、孔壁強度の問題が発生する。
【0026】
また、多孔質層11における複数の孔12は、それぞれ蛇行の方向性がランダムであり、発泡スポンジ状の形態で形成されることが好ましい。これにより、多孔質層11の強度を十分に確保することができ、接触等による外部圧力に対し多孔質層11が破壊されにくい。
【0027】
入射光の反射率低減の効果を十分に得る観点から、多孔質層11における孔12の密度は、多孔質層表面から見た孔数として50〜300(個/μm)程度であることが好ましい。
【0028】
このような太陽電池用ウェーハ100においては、可視光全域において低い反射率を得ることができるが、特に波長600nmにおける表面反射率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。太陽光には波長500〜700nmの光が多く含まれるため、太陽電池用ウェーハとしての性能評価にはこの波長領域での反射率を用いればよい。
【0029】
次に、このような太陽電池用ウェーハ100の製造方法の一例を説明する。まず、この製造方法は、半導体ウェーハ10の少なくとも片面に低級アルコール液を接触させる第1工程と、この第1工程の後に、この半導体ウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含むフッ化水素酸を接触させる第2工程とを少なくとも有する。
【0030】
詳細な工程は実施例で後述するが、本発明者は、酸エッチング処理後、風乾したp型(100)単結晶シリコンウェーハを2−プロパノール(イソプロピルアルコール;IPA)などの低級アルコール中に所定時間浸漬させ、その後銅(Cu)を溶解させたフッ化水素酸中に所定時間浸漬させ、その結果得られたウェーハ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を確認したところ、数μm程度の凹凸表面上にさらに微細な多数の孔からなる多孔質層が形成されていた。そして、多孔質層の構造と反射率との関係を詳細に検討したところ、上記のような所定構造の多孔質層において、特に低い反射率が得られることを見出したのである。
【0031】
このような表面処理によって半導体ウェーハ表面を多孔質化できる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のような反応メカニズムで多孔質化されたと推定している。第2工程で、Cuを溶解させたフッ化水素酸にウェーハを浸漬させると、ウェーハ表面の何らかの核を基点として、Cuが微粒子として多数析出する。この反応は、Cu2++2e→Cuの還元反応であり、この際の電荷移動に伴い、ウェーハ表面のSiから電子が奪われ、Cu微粒子の析出箇所ではSiの溶解が発生する。ここで、フッ化水素酸の役割については、Siの溶解箇所でSiが水と反応して生成したSiOをその都度瞬間的に溶解して、多孔質構造を作るとのモデル(大見モデル)と、フッ素イオンがSiを直接酸化するとのモデル(Chemlaモデル)が考えられる。このような反応の詳細は、J. Electrochem. Soc. 144, 3275 (1997)“The Role of Metal Induced Oxidation for Copper Deposition on Silicon Surface”およびJ. Electrochem. Soc. 144, 4175 (1997)“Electrochemical and radiochemical study of copper contamination mechanism from HF solution onto silicon substrates”に詳細に記載されている。そして、本発明においては、第1工程で無極性溶媒である低級アルコールで処理することにより、ウェーハ表面の表面電位を制御し、フッ化水素酸浸漬時に金属析出が進行しやすい状態にすることができ、第2工程におけるSi溶解反応を均一に促進させることができるものと考えられる。さらに、低級アルコールで処理することにより、ウェーハ表面の有機物を除去して、上記反応が進行するようにする作用もあると考えられる。
【0032】
そして、上記反応により本発明のような小さな孔径の孔を形成できる理由は、反応の進行に伴い、上記還元反応がウェーハ内部に進行するため、結果として反応孔が小さな孔径の孔として形成されるためである。
【0033】
(第1工程:低級アルコール処理)
本明細書において「低級アルコール」とは、炭素数10以下の直鎖または分岐の任意のアルコールを意味する。炭素数が10を超えると、アルコールの粘性が高くなり、ウェーハ表面をアルコールでコーティングすることになってしまう。炭素数が10以下であれば、粘性が低い無極性溶媒としてウェーハ表面を無極性状態にすることができる。典型的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール、フェニルアルコールなどが挙げられるが、毒性面、価格面を考慮すると、エタノールおよび2−プロパノール(イソプロピルアルコール;IPA)を用いることが好ましい。第1工程の条件は、上記孔径および層厚みとなるよう適宜設定すればよい。処理時間、すなわちウェーハに低級アルコール液を接触させる時間(以下、各工程において処理液との接触時間を「処理時間」という)は、特に制限されないが、0.5分以上10分以下とすることが好ましく、3分以下とすることがより好ましい。低級アルコール液の温度は、アルコールが蒸発または凝固しない温度であれば問題なく、常温とすればよい。
【0034】
(第2工程:金属イオン含有フッ化水素酸処理)
金属イオンはSiより貴な金属、例えばCu,Ag,Pt,Auなどのイオンであることが好ましい。これにより、第2工程において、ウェーハ表面への金属の微粒子の析出およびSiの溶出が効率的に起こるからである。価格面を考慮すれば、Cuのイオンとすることが好ましい。第2工程の条件も、上記孔径および層厚みとなるよう適宜設定すればよい。金属を溶解させたフッ化水素酸において、金属濃度は、10ppm以上1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以上400ppm以下とすることがより好ましい。また、フッ化水素酸の濃度は、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上30%質量以下である。さらに、処理時間は、特定の条件においては、好ましくは0.5分以上10分未満、より好ましくは1分以上7分以下である。金属含有フッ化水素酸の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。ここで、この第2工程における処理時間を長くするほど、孔径・層厚みともに大きくなる。よって、多孔質層の孔の孔径および層厚みは、この第2工程における処理時間を調節し、他の条件は固定することにより、制御することができる。特に、孔径は、この第2工程における処理時間および金属濃度に依存するところ、処理時間による制御が適している。
【0035】
また、第2工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面に金属イオンを含まないフッ化水素酸を接触させる第3工程をさらに行ってもよい。具体的には、第2工程後のウェーハを、金属イオンを含まないフッ化水素酸に所定時間浸漬させることができる。この工程により、第2工程で形成された孔の深さを制御することができる。
【0036】
(第3工程:金属イオン非含有フッ化水素酸処理)
第3工程の条件も、上記孔径および層厚みとなるよう適宜設定すればよい。フッ化水素酸の濃度は、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは20質量%以上30質量%以下である。また、本明細書において「金属イオンを含まないフッ化水素酸」とは、厳密に金属イオンの含有量がゼロの場合のみならず、不純物として10ppm未満の金属が含まれている場合をも含むものとする。例えばCu,Ag,Pt,AuなどのSiより貴な金属のイオンが10ppm未満であれば、これらの金属微粒子が新たに析出して、ウェーハ表面に新たな凹凸が形成されるよりも、第2工程ですでに形成された凹凸をより深くする反応が支配的になる。処理時間は長くするほど孔が深くなるため、目標とする多孔質層の層厚みに合わせて設定すればよく、一般的には0.5分以上60分以下である。金属非含有フッ化水素酸の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。
【0037】
さらに、第2工程の後、または第3工程を行う場合は第3工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面に、前記金属イオンから析出した金属(微粒子)をこの片面から除去する溶液を接触させる第4工程をさらに行うことが好ましい。第2工程において金属としてCuを用いる場合、Cu微粒子の除去を硝酸(HNO)溶液で行うことができる。このとき、硝酸濃度は、好ましくは0.001〜70%の範囲であり、より好ましくは0.01%〜0.1%の範囲内である。処理時間は、プロセスタクトタイムに合わせて設定すればよく、好ましくは0.5分以上10分以下であり、より好ましくは1分以上3分未満である。硝酸溶液の温度は、処理時間や蒸発損失などを考慮して適宜選択すればよく、常温〜100℃とすることが好ましい。この工程で用いる処理液は硝酸に限定されず、除去する対象の金属に合わせて、これを溶解可能な溶液を選択すればよい。例えば、Ag,Pt,Auの場合は、王水(HCl/HNO)やヨウ化カリウム溶液(KI)などを用いることができる。好適な濃度および処理時間は、Cuの場合と同様である。
【0038】
これらの工程の後に、このウェーハの少なくとも前記片面にアルカリ溶液を接触させる第5工程をさらに行い、多孔質化構造に軽度のエッチングを施してもよい。これにより、多孔質層の層厚みを減らして、目標とする多孔質層の層厚みに設定することができる。
【0039】
(第5工程:アルカリ溶液処理)
第5工程に使用するアルカリの種類は特に限定されない。例えば、無機アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、ヒドラジン、有機アルカリとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、コリンなどのアルカリを1種以上含む溶液であればよい。また、このアルカリ溶液のpHおよび処理時間は、目標とする多孔質層の層厚みに向けてエッチングする厚みに合わせて設定すればよい。pHは例えば9.0〜14.0の範囲であり、より好ましくは10.0〜12.0の範囲内である。処理時間は例えば600秒以下、例えば、10〜140秒の範囲内とし、好ましくは30秒〜120秒の範囲内とする。
【0040】
各工程において、ウェーハ表面に処理液を接触させる方法としては、例えば浸漬法、スプレー法が挙げられる。また、受光面となるウェーハの片面に処理液を滴下させるキャスト法を用いてもよい。
【0041】
また、第1〜第5工程の少なくとも1工程の後に、水による洗浄工程を行ってもよい。
【0042】
(太陽電池セル)
次に、本発明の太陽電池セルの実施形態を説明する。本発明の太陽電池セルは、これまで説明した本発明に従う太陽電池用ウェーハと、このウェーハ上に形成された電極とを有する。この太陽電池セルは、本発明に従う太陽電池用ウェーハに対して、セル作製工程を施すことにより製造することができる。セル作製工程は、ドーパント拡散熱処理でpn接合を形成する工程と、電極を形成する工程とを少なくとも含む。ドーパント拡散熱処理は、p型基板に対してはリンを熱拡散させる。
【0043】
なお、pn接合形成工程は、半導体ウェーハに多孔質層を形成する前に行ってもよい。すなわち、スライス加工によるダメージ除去のためのエッチング処理後、ドーパント拡散熱処理でpn接合を形成したウェーハの状態で多孔質化処理を行う。こうして得た太陽電池用ウェーハに対して電極を形成して、太陽電池セルとすることもできる。
【0044】
本発明に従う太陽電池セルによれば、セルの受光面における入射光の反射ロスをより低減することができる。
【0045】
(太陽電池モジュール)
次に、本発明の太陽電池モジュールの実施形態を説明する。本発明の太陽電池モジュールは、上記太陽電池セルを基板上に複数個配置してなる。この太陽電池モジュールは、複数の太陽電池セルを配列し、電極を配線する工程と、強化ガラス基板上に配線された太陽電池セルを配置し、樹脂と保護フィルムで封止する工程と、アルミフレームを組み立てて、端子ケーブルを配線と電気的に接続する工程とを含むモジュール作製工程により得ることができる。
【0046】
本発明に従う太陽電池モジュールによれば、太陽電池セルの受光面における入射光の反射ロスをより低減することができる。
【0047】
以上、本発明を説明したが、これらは代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0048】
本発明の効果をさらに明確にするため、以下に説明する実施例・比較例の実験を行った比較評価について説明する。
【0049】
(実験例1)
<試料の作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハ(厚さ:4.25mm)を用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%のエタノールに1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液5mLと、50質量%フッ化水素酸15mLと、水5mLとの混合液に所定時間浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、その後窒素雰囲気にて乾燥させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定時間を10秒、1分、3分、5分、7分、10分として6種類の試料を作製した。
【0050】
<評価1:電子顕微鏡観察>
各試料について、ウェーハの被処理面を走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、各試料とも、数μm程度の凹凸表面上にさらに微細な多数の孔からなる多孔質層が形成されていた。上記所定時間を3分とした試料について、ウェーハ表面をSEMにより観察した写真を図2に、ウェーハ表面近傍の断面をTEMにより観察した写真を図3に示す。図2より、図中(B)の距離を測定することにより孔径を求めたところ、20nmであった。また、図3より、図中(A)の距離を求めることにより層厚みを求めたところ、260nmであった。その他の試料についても同様に、孔径および層厚みを求めた。結果を表1に示す。また、図3から明らかなとおり、多孔質層を構成する孔は蛇行しており、その方向性はランダムであった。
【0051】
<評価2:反射率測定>
反射率測定器(島津製作所社製:SolidSpec3700)により、各試料についてウェーハの被処理面における反射スペクトルを300〜1200nmの範囲で測定し、波長600nmの相対反射率を表1に示した。本実施例によれば、孔径を10nm以上45nm以下としつつ、層厚みを50nm超え450nm以下とすることができた。そして、実施例は比較例よりも波長600nmにおける反射率を低くすることができ、10%以下の反射率を得ることができた。
【0052】
【表1】

【0053】
(実験例2)
<試料の作製>
まず、20mm角のp型(100)単結晶シリコンウェーハ(厚さ:4.25mm)を用意し、50質量%フッ化水素酸/70質量%硝酸/水=1:4:5(体積比)にて調合した酸性溶液を用いて、室温で3分間エッチング処理を施し、その後ウェーハを乾燥させた。以降の工程は全て室温で行った。このウェーハを99質量%のエタノールに1分間浸漬させた。その後、このウェーハを、Cuを1000ppm含む硝酸銅溶液5mLと、50質量%フッ化水素酸15mLと、水10mLとの混合液に10分浸漬させた。なお、この工程は、通常の室内環境すなわち光照射環境下にておこなった。その後、このウェーハを0.1質量%硝酸に5分間浸漬させ、その後窒素雰囲気にて乾燥させた。そして、アルカリ溶液処理として0.1質量%KOHに所定時間浸漬し、その後窒素雰囲気にて乾燥させ、太陽電池用ウェーハを製造した。上記所定時間を5,10,20,30,60,90,120,125,150,180秒として10種類の試料を作製した。
【0054】
<評価>
実験例1と同様に、電子顕微鏡写真による観察と、反射率測定を行った。各試料とも、数μm程度の凹凸表面上にさらに微細な多数の孔からなる多孔質層が形成されていた。各試料についての孔径、層厚み、波長600nmの相対反射率を表2に示した。本実施例によれば、層厚みを50nm超え450nm以下としつつ、孔径を10nm以上45nm以下とすることができた。そして、実施例は比較例よりも波長600nmにおける反射率を低くすることができ、10%以下の反射率を得ることができた。
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の太陽電池用ウェーハによれば、入射光の反射ロスをより低減することが可能となった。
【符号の説明】
【0057】
100 太陽電池用ウェーハ
10 半導体ウェーハ
10A 半導体ウェーハの表面
11 多孔質層
12 孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの少なくとも片面に、孔径が10nm以上45nm以下であり、層厚みが50nm超え450nm以下の多孔質層を有することを特徴とする太陽電池用ウェーハ。
【請求項2】
前記多孔質層における孔が蛇行している請求項1に記載の太陽電池用ウェーハ。
【請求項3】
波長600nmにおける表面反射率が10%以下である請求項1または2に記載の太陽電池用ウェーハ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用ウェーハと、該ウェーハ上に形成された電極とを有することを特徴とする太陽電池セル。
【請求項5】
請求項4に記載の太陽電池セルを基板上に複数個配置してなる太陽電池モジュール。





【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−12705(P2013−12705A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8368(P2012−8368)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】