説明

太陽電池用接着シート及びその製造方法、並びに太陽電池モジュール

【課題】接着強度及び水蒸気バリア性に優れ、かつ高温高湿及び太陽光に長時間晒されても透明性が低下しない太陽電池用接着シートを提供する。
【解決手段】太陽電池モジュール内における太陽電池素子を固定する接着シートであって、ガラス転移温度が55℃以下である環状オレフィン系共重合体と、有機過酸化物とを含む架橋性組成物をシート状に成形してなることを特徴とする太陽電池用接着シートである。環状オレフィン系共重合体としては、エチレンと環状オレフィンとの共重合体、あるいはエチレンとノルボルネンとのランダム共重合体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子を固定するための接着シート及びその製造方法、並びに太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールの代表的な構成として、太陽電池素子をその両面側から一対の接着シートで狭み、さらに太陽光受光側の接着シートにはガラス等の透明基材を固着し、背面側の接着シートには保護材(バックシート)を固着したものが知られている。このような構成において、接着シートとしては、接着性、耐候性などの諸特性が要求され、特に太陽光の受光側は、高い透明性が要求され、これらの要求を満足する接着シートが種々提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
特許文献1には、有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる保護シート(接着シート)が記載され、特許文献2には、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の架橋性組成物を使用した接着シートが記載され、特許文献3には、所定の架橋剤を配合したエチレン共重合体からなる接着シートが記載されている。いずれの接着シートも、ベース樹脂としてエチレン系の共重合体が用いられており、十分な透明性が得られないことに加えて、水蒸気バリア性が低いために太陽電池素子の劣化を抑えられず、電池寿命が短くなるという欠点をもつ。
【0004】
一方、特許文献4には、ノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する封止剤が記載されているが、当該ノルボルネン系開環重合体水素化物は、融点が110〜145℃の範囲と規定されており、融点で規定できるが故に結晶性が高く、透明性が十分とは言えない。
【0005】
特許文献5には、太陽電池モジュールに用いるフィルム、シートの材料として有効なオレフィン共重合体として、α−オレフィンに由来する繰り返し単位と、環状オレフィンに由来する繰り返し単位とを有し、α−オレフィンに由来する繰り返し単位の含有率が80〜99.9モル%であるオレフィン系共重合体が記載されている。当該オレフィン系共重合体は非結晶であり、十分な透明性が得られるが、接着力が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−26791号公報
【特許文献2】特開平6−299125号公報
【特許文献3】特開平6−322334号公報
【特許文献4】特開2009−79101号公報
【特許文献5】特開平5−97933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、接着強度及び水蒸気バリア性に優れ、かつ高温高湿及び太陽光に長時間晒されても透明性が低下しない太陽電池用接着シート及びその製造方法、並びに耐候性・耐熱性に優れた太陽電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)太陽電池モジュール内における太陽電池素子を固定する接着シートであって、
ガラス転移温度が55℃以下である環状オレフィン系共重合体と、有機過酸化物とを含む架橋性組成物をシート状に成形してなることを特徴とする太陽電池用接着シート。
【0009】
(2)環状オレフィン系共重合体が、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体である前記(1)に記載の太陽電池用接着シート。
【0010】
(3)環状オレフィン系共重合体が、α−オレフィンとノルボルネンとのランダム共重合体であり、ガラス転移温度が−13〜55℃の範囲である前記(1)又は(2)に記載の太陽電池用接着シート。
【0011】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池用接着シートを製造する製造方法であって、
環状オレフィン系共重合体と有機過酸化物とを含む架橋性樹脂組成物を、混練温度120℃以下に保ちながら、シート状に成形する工程を含むことを特徴とする太陽電池用接着シートの製造方法。
【0012】
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池用接着シートを備えたことを特徴とする太陽電池モジュール。
【0013】
(6)太陽電池用接着シートが架橋されてなる前記(5)に記載の太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接着強度及び水蒸気バリア性に優れ、かつ高温高湿及び太陽光に長時間晒されても透明性が低下しない太陽電池用接着シート及びその製造方法、並びに耐候性・耐熱性に優れた太陽電池モジュールを提供することができる。また、本発明の太陽電池用接着シートは、優れた水蒸気バリア性を示すことから、太陽電池素子の劣化が抑えられて電池寿命が延びるという効果をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの構成例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<太陽電池用接着シート>
本発明の太陽電池用接着シートは、太陽電池モジュール内における太陽電池素子を固定する接着シートであって、非晶性の環状オレフィン系共重合体と、有機過酸化物とを含む架橋性組成物をシート状に成形してなることを特徴としている。
以下にまず、本発明に係る架橋性組成物について詳述する。
【0017】
[環状オレフィン系共重合体]
環状オレフィン系共重合体とは、ガラス転移温度が55℃以下のものであって、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、環状オレフィン開環重合体、環状オレフィン開環重合体の水素添加物からなる群より選ばれるものである。また、本発明に使用する環状オレフィン系共重合体は、透明性を確保するために非晶性であることが必要である。ここで、本発明においては、「非晶性」とは、JIS K 7122 プラスチックの転移熱測定方法に従って、DSC測定で結晶融解ピークが認められない状態を言う。
【0018】
また、環状オレフィン系共重合体としては、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0019】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ) アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0020】
また、本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、55℃以下のガラス転移温度を示し、かつ200℃におけるせん断速度100rad/secでのせん断粘度が500〜2000Pa・secの範囲であることが、有機過酸化物の分解を抑えるために低温での押出成形を可能とする意味で好ましい。
【0021】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(独Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、さらに環状オレフィン成分を出発原料にしてメタセシス触媒で開環重合し、水素添加して製造される市販されている環状オレフィン系ポリマーとしては、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標) (日本ゼオン社製) 、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0022】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体のα−オレフィンとしては、特に制限はないが炭素数2〜20のα−オレフィンが好ましい。例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等を挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0023】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体における環状オレフィン成分として好適なものは、下記一般式(A)で示される環状オレフィンを挙げることができる。
【0024】
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ独立に、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0025】
一般式(A)におけるR〜R12は、それぞれ独立に、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0026】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0027】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基; ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0028】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0029】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組合せからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0030】
一般式(A)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;
【0031】
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;
【0032】
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
【0033】
8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0034】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0035】
炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、一般式(A)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0036】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。本発明に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0037】
メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58−127728号公報、同58−129013号公報などに記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素−炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0038】
本発明に係る環状オレフィン系共重合体は、以上の中でも、少量の過酸化物によって効果的に架橋構造を形成できる点で、α−オレフィン(特に、エチレン)とノルボルネンとのランダム共重合体が好ましく、この場合、ガラス転移温度が−13〜55℃であることが、高温高湿及び太陽光に長時間晒されても透明性が低下しない点で好ましい。なお、当該共重合体のガラス転移温度はエチレンとノルボルネンとの比率によって調整することができ、ガラス転移温度が−13〜55℃となるエチレンとノルボルネンとの比率は、85:15(mol%)〜70:30(mol%)であり、好ましくは80:20〜70:30である。
【0039】
[有機過酸化物]
有機過酸化物は特に限定されず2種以上の任意割合の混合物を使用することもできるが、有機過酸化物の少なくとも1種は1時間半減期温度が130〜160℃、とりわけ135〜150℃であることが好ましい。その理由はシート成形の際に架橋反応が進行するとシート表面にブツ状の欠点が発生し透明性が損なわれるからである。具体的な有機過酸化物を例示すると、ジクミルパーオキサイド(135℃)、1,3−ビス(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(137℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(138℃)、t−ブチルクミルパーオキサイド(142℃)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(149℃)などが挙げられる(括弧内は1時間半減期温度)。また、これら過酸化物を溶媒で希釈したものを使用することも可能である。
【0040】
有機過酸化物の配合量は環状オレフィン系共重合体100質量部に対し、0.05〜4質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部であることがより好ましい。有機過酸化物の合計使用量が0.05質量部より少ないと、環状オレフィン系共重合体を十分架橋することが難しく、耐熱性や接着性が不足する虞がある。また4質量部を超えて使用すると、保護シートの着色や膨れの原因となるので好ましくない。
【0041】
[他の成分]
本発明の太陽電池用接着シートに用いる架橋性組成物には、他に、耐候性向上の目的で、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系安定剤、耐光安定剤など、長期熱安定性向上の目的で、酸化防止剤など、柔軟性を増す目的で、滑剤などを配合してもよい。
【0042】
本発明の太陽電池用接着シートの厚みは、特に制限はないが、例えば0.01〜10mmとすることができ、0.1〜3mmであることが好ましい。
【0043】
本発明の太陽電池用接着シートは、以上の架橋性組成物をシート状に成形して得られるが、その方法については後述する本発明の太陽電池用接着シートの製造方法において説明する。
【0044】
以上の本発明の太陽電池用接着シートは、非晶性の環状オレフィン系共重合体を使用していることから高い透明性が得られる。また、架橋剤として機能する有機過酸化物を有し、太陽電池モジュールの作製時において、所定の積層構造を作製後に加熱架橋するため高接着強度及び高耐熱性が得られる。
【0045】
<太陽電池用接着シートの製造方法>
本発明の太陽電池用接着シートの製造方法は、以上の本発明の太陽電池用接着シートを製造する製造方法であって、環状オレフィン系共重合体と有機過酸化物とを含む架橋性樹脂組成物を、混練温度120℃以下に保ちながら、シート状に成形する工程を含むことを特徴としている。
【0046】
本発明の製造方法においては、まず、環状オレフィン系共重合体と有機過酸化物とを含む架橋性樹脂組成物を調製するのであるが、例えば、一軸又は二軸の押出機を使用し、環状オレフィン系共重合体と有機過酸化物とを、上述の好ましい配合比率で配合するとともに、必要に応じて他の成分を配合し、架橋性樹脂組成物のペレットを作製することができる。次いで、作製したペレットを、Tダイを備えた押出機に投入してシート状に成形することで、太陽電池用接着シートを得ることができる。
あるいは、太陽電池用接着シートを製造するまでの樹脂への熱履歴を最小にするために、Tダイを備えた押出機に架橋性樹脂組成物の原料を投入して混練とシート成形を一度に行うことも可能である。なお、混練時やシート成形時に有機過酸化物の分解が進行するのを抑えるために混練温度は120℃以下に保つことが好ましい。さらに好ましくは110℃以下である。
【0047】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、既述の本発明の太陽電池用接着シートを備えたことを特徴としている。
【0048】
図1は、本発明の太陽電池モジュールの一例を示す模式断面図である。図1に示す太陽電池モジュール10は、受光側の表面基板たる透明ガラス板12から順に、接着シート14、太陽電池素子16、接着シート18、及びバックシート20を有してなる。接着シート14及び18が既述の本発明の太陽電池用接着シートであり、それぞれ、透明ガラス板12及び太陽電池素子16、バックシート20及び太陽電池素子16を接着・固定している。以上の図1に示した太陽電池モジュールの構成は一例であり、本発明の太陽電池モジュールはその構成に限定されることはない。
【0049】
本発明においては、接着シート14は透明性に優れるため、光電変換効率が高い太陽電池モジュールを得ることができる。
また、本発明の太陽電池モジュールにおいて、接着シート18及び20を架橋することにより、環状オレフィン系共重合体のみでは得られない高い耐熱性及び高い接着強度を得ることができる。
架橋は加熱処理により行うが、加熱温度は使用する有機過酸化物により異なり、例えば、ジクミルパーオキサイドの場合、120〜250℃の加熱温度とすることが好ましい。
また、接着シート内の有機過酸化物がすべて分解するまで加熱処理を行うことが好ましい。
【0050】
本発明の太陽電池モジュールに使用する太陽電池素子としては、特に限定はなく、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、III−V族やII−VI族化合物(ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、銅−インジウム−ガリウム−セレン、カドミウム−テルルなど)などの半導体半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。
【0051】
また、本発明の太陽電池モジュールにおいて、太陽光受光側の表面基板としては、透明基材としてガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などを用いることができる。また、反対側のバックシートとしては、樹脂シートや金属シートなどの単層もしくは多層のシートが挙げられ、例えば、樹脂シートとしては、フッ素樹脂フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂フィルム、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂フィルム等が挙げられ、金属しシートとしては、アルミ、ステンレススチールなどのシートが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[合成例1] シクロオレフィン/エチレンコポリマーの合成
環状オレフィン系共重合体として、シクロオレフィン/エチレンコポリマーを以下のようにして合成した。
攪拌機を備えた75l重合反応器を、窒素、次いでエチレンでフラッシュし、12kgのノルボルネン及び15lのトルエンで満たし、300mlのトリイソブチルアルミニウム溶液(トルエン中の20%w/w)を加えた。次いで、エチレン圧を上げて18×10Pa(18バール)に調整し、反応温度は70℃に調整した。20mgのイソプロペニル(シクロペンタジエニル)(1−インデニル)−ジルコニウムジクロリドを、メチルアルミノキサンのトルエン溶液(凝固点降下測定による分子量が1300g/モルのメチルアルミノキサン10質量%)500mlに溶解し、次に、溶液を反応器に計り入れた。補充することによってエチレン圧は18×10Pa(18バール)に保った。90分の重合反応の後、反応器の内容物を150lの攪拌層に移した。これには、水素化ジーゼル油フラクション(Exxsol、沸点100〜120℃、エクソン社)50l中のセライト500gおよび水200mlをあらかじめ導入しておいた。混合物を60℃で20分攪拌した。10lのExxsol中に懸濁させたセライト500gのフィルターケーキを120l圧力吸引フィルターの濾布上に形成した。ポリマー溶液を圧力吸引フィルターで濾過した。溶液上の窒素圧を2.8×10Pa(2.8バール)にした。次に、混合物を7つのフィルターキャンドル(フルイッド・ダイナミック社、DynalloyXS64.5μm0.1m/キャンドル)で濾過し、これらをスチール社製のハウジングに載せた。ポリマー溶液を分散機(Ultraturrax)によって500lのアセトンに攪拌しながら入れて沈殿させた。懸濁液を、底のバルブを開けた状態で680l攪拌圧力吸引フィルター上に循環させた。底のバルブを閉じた後、残留物を200lのアセトンで3回洗浄した。最後の洗浄の後、生成物を60℃の窒素流中で予備乾燥し、乾燥キャビネット内で24時間、0.2×10Pa(0.2バール)、80℃で乾燥し、5.37kgのシクロオレフィン/エチレンコポリマー(環状オレフィン系共重合体)を得た。粘度数は51ml/gであり、ガラス転移温度は105℃であった。
【0054】
上記の方法でのノルボルネン含有量を変更することによって、様々なTgのシクロオレフィン/エチレンコポリマー(環状オレフィン系共重合体)を合成した。ノルボルネン含有量を減少させ、エチレンを増加すると、それに応じてTgが低下した。
一般に、本発明に係る環状オレフィン系共重合体のTgは、
ノルボルネン含有量=(Tg+65)/4
の関係に従う。下記表1に、以上のように合成した様々な環状オレフィン系共重合体(A−1〜A−4)を、ノルボルネンの含有率およびTgと共に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例1]
表1に示す環状オレフィン系共重合体(A−1)100質量部に、有機過酸化物としてジクミルパーオキシド1質量部、紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ4−n−オクトキシベンゾフェノン0.3質量部、耐光安定剤としてビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート0.1質量部を、日本製鋼所製、二軸押出機TEX−30αを用いて溶融樹脂温度105℃で混練し、環状オレフィン系樹脂組成物ペレットを得た。次いでこのペレットを300mm幅T−ダイを備えた単軸押出し成形機に投入し、T−ダイ部での樹脂温度100℃で0.2mm厚の接着シートを作製した。
【0057】
さらに、作製した接着シートを3mm厚のガラス板と100μm厚のPETフィルムとの間にはさみ、真空貼り合わせ機で125℃にて5分間貼り合わせた後、加熱オーブン中で145℃30分間加熱して太陽電池評価用の多層構造体を作製した。
【0058】
<架橋特性(ゲル分率)>
前述の多層構造体とは別に、接着シート単体から約1g分を切りだして質量を精秤し、加熱オーブン中で145℃30分加熱した後に100mlのトルエンに溶解し、100メッシュの金網でろ過し回収した不溶分を乾燥秤量してゲル分率を求めた。ゲル分率が高いほど架橋特性は良好といえる。結果を表2に示す。
【0059】
<バックシート接着強度>
100μm厚のPETフィルム2枚の間に接着シートをはさみ、真空貼り合わせ機で125℃にて5分間貼り合わせた後、加熱オーブン中で145℃30分間加熱してバックシート接着評価用の多層シートを作製した。この多層シートを10mm幅で切り出して、引っ張り試験機により引張速度50mm/分の速度で貼り合わせ部を180°剥離して、室温でのバックシートに対する接着力[N]を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
<透明性>
積層体としての透明性を、ヘイズメーターを用いてJIS−K7106に準じてヘイズ値を測定した。
また、温度70℃、湿度95%環境中で16時間暴露した後、温度23℃、湿度50%環境中で1.5時間冷却し、再びヘイズ値(湿熱試験後のヘイズ値)を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
[実施例2]
実施例1における環状オレフィン系共重合体(A−1)を、表1に示す環状オレフィン系共重合体(A−2)に変更したこと以外は実施例1と同様にして多層シート及び多層構造体を作製し、各評価を行った。
【0062】
[比較例1]
実施例1における環状オレフィン系共重合体(A−1)を、表1に示す環状オレフィン系共重合体(A−3)に変更したこと以外は実施例1と同様にして多層シート及び多層構造体を作製し、各評価を行った。
【0063】
[比較例2]
実施例1における環状オレフィン系共重合体(A−1)を、表1に示す環状オレフィン系共重合体(A−4)に変更したこと以外は実施例1と同様にして多層シート及び多層構造体を作製し、各評価を行った。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より、実施例1及び2においては、バックシート接着強度が高く、湿熱試験前後において透明性に有意な変化が見られなかったことが分かる。つまり、本発明の太陽電池用接着シートは、高い接着強度を有し、かつ高温高湿及び太陽光に長時間晒されても透明性が低下しないということが示された。
これに対して、比較例1及び2においては、各実施例と比較してバックシート接着強度が劣り、湿熱試験後における透明性が著しく劣化した。
【0066】
[実施例3]
実施例1における0.2mm厚の太陽電池用接着シートについて、JIS K7126−2等圧法(モコン法)によって40℃、90%RHの条件での水蒸気透過性を調べたところ、0.9g/m・dayの値が得られた。
【0067】
[比較例3]
酢酸ビニル含有率26%の市販EVAシート(0.2mm)について、実施例3と同様にして水蒸気透過性を調べたところ、実施例3に対して約50倍の48g/m・dayの値となった。
【0068】
実施例3及び比較例3の比較より、本発明の太陽電池用接着シートは、水蒸気透過性が極めて小さく、優れた水蒸気バリア性を有することが分かる。
【符号の説明】
【0069】
10 太陽電池モジュール
12 透明ガラス板
14 18 接着シート
16 太陽電池素子
20 バックシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュール内における太陽電池素子を固定する接着シートであって、
ガラス転移温度が55℃以下である環状オレフィン系共重合体と、有機過酸化物とを含む架橋性組成物をシート状に成形してなることを特徴とする太陽電池用接着シート。
【請求項2】
環状オレフィン系共重合体が、α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体である請求項1に記載の太陽電池用接着シート。
【請求項3】
環状オレフィン系共重合体が、α−オレフィンとノルボルネンとのランダム共重合体であり、ガラス転移温度が−13〜55℃の範囲である請求項1又は2に記載の太陽電池用接着シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用接着シートを製造する製造方法であって、
環状オレフィン系共重合体と有機過酸化物とを含む架橋性樹脂組成物を、混練温度120℃以下に保ちながら、シート状に成形する工程を含むことを特徴とする太陽電池用接着シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用接着シートを備えたことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項6】
太陽電池用接着シートが架橋されてなる請求項5に記載の太陽電池モジュール。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−41911(P2013−41911A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176668(P2011−176668)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】