説明

太陽電池用接着シート

【課題】 本発明は、太陽電池モジュールの製造時に、エチレン系共重合体がはみ出すことがほとんどなく、太陽電池モジュールの製造に好適に使用することのできる太陽電池用接着シートを提供する。
【解決手段】 本発明の太陽電池用接着シートは、押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、シート層のうちの少なくとも一のシート層が、エチレン系共重合体のメルトフローレイトが20g/10分以下の低メルトフローレイト層であると共に、低メルトフローレイト層以外の残余のシート層が、エチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であり、低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールを作製する際に太陽電池素子と保護材とを接合するのに好適に用いられる太陽電池用接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやセレンの半導体ウェハーからなる太陽電池モジュールは、上下面に太陽電池用接着シートを積層した太陽電池素子の上面に上部透明保護材を、下面に下部基板保護材を重ね合わせた積層体を用意し、この積層体を減圧下で加熱圧着することにより、太陽電池素子の上下面に太陽電池用接着シートを介して保護材を積層一体化させて製造されている。
【0003】
このような太陽電池用接着シートとしては、透明性及び接着性に優れている点からエチレン系共重合体からなるものが多く用いられている。しかしながら、上記エチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートは、耐熱性に劣るため、太陽電池モジュールの製造工程における高温条件下や、得られた太陽電池モジュールを夏場などの高温条件下で使用した際に、変形してしまうという問題があった。
【0004】
そこで、上記エチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートに有機過酸化物を含有させ、太陽電池用接着シートの製造時に加えられる熱によってエチレン系共重合体を架橋させることにより、太陽電池用接着シートの耐熱性を向上させていた。
【0005】
そして、上記太陽電池用接着シートに含有される有機過酸化物としては、太陽電池モジュールの製造時における加熱時間を短縮して、太陽電池モジュールの生産効率を向上させる目的で、半減期温度の低いものが使用されるようになってきている。
【0006】
このような半減期温度の低い有機過酸化物を含有してなる太陽電池用接着シートとしては、例えば、特許文献1に、有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートにおいて、有機過酸化物として、ジアルキルパーオキサイドと、アルキルパーオキシエステル及び/又はパーオキシケタールを特定割合で配合したものを用いることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シートが提案されており、上記ジアルキルパーオキサイドの1時間半減期温度は130〜160℃、アルキルパーオキシエステル及びパーオキシケタールの1時間半減期温度は100〜135℃であることが好ましく、その製膜にはTダイ押出成形機を使用することが開示されている。
【0007】
上記太陽電池モジュール用保護シートのような半減期温度の低い有機過酸化物を含有してなる太陽電池用接着シートは、押出機により製膜する際に、高温で行うとエチレン系共重合体の架橋が進行してしまうため、低温で製膜する必要があった。そして、このように低温で太陽電池用接着シートを押出製膜する場合、押出機内及びTダイ内のエチレン系共重合体の粘度が高くなって、流動しにくくなるので、シートを製膜するのが困難になる傾向にあった。そこで、太陽電池用接着シートに半減期温度の低い有機過酸化物を含有させる場合、エチレン系共重合体としてはメルトフローレイト(MFR)が高いものを使用し製膜性を向上させていた。
【0008】
しかしながら、上記のようなメルトフローレイトの高いエチレン系共重合体からなる太陽電池用接着シートは、太陽電池モジュールの製造時の加熱工程において、樹脂成分が太陽電池モジュールの端部からはみ出し、太陽電池モジュール本体や太陽電池モジュールの製造装置を汚染してしまうという問題が生じた。
【0009】
【特許文献1】特開平11−26791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、太陽電池モジュールの製造時の加熱工程において、太陽電池用接着シートを構成しているエチレン系共重合体がはみ出すことがほとんどなく、太陽電池モジュールの製造に好適に使用することのできる太陽電池用接着シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の太陽電池用接着シートは、押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、両側最外シート層が、これらのシート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が、該シート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下の低メルトフローレイト層であり、更に、上記低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とする。
【0012】
又、上記太陽電池用接着シートにおいて、中間シート層の両面に最外シート層が積層一体化されてなり、上記中間シート層が低メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層が高メルトフローレイト層であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の太陽電池用接着シートは、押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、両側最外シート層が、これらのシート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が、該シート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下の低メルトフローレイト層であり、更に、上記低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とし、低メルトフローレイト層は、その溶融時において、高い粘度を有し形態保持性に優れており、しかも、低メルトフローレイト層は太陽電池用接着シートの厚みの50%以上を占めているので、太陽電池用接着シートは、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程において加えられる熱によって形態が崩れ、得られる太陽電池モジュールの端部からはみ出し、太陽電池モジュールや製造装置を汚染するようなことはない。
【0014】
又、両側最外シート層が高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が低メルトフローレイト層であるので、太陽電池用接着シートの製造時において、流動性の高い高メルトフローレイト層をTダイ内面に接触させてTダイ内面に対する流動摩擦力を低減させて押出性を向上させることができ、よって、太陽電池用接着シートは、その表面性に優れていると共に均質に形成されており、太陽電池モジュールの製造において、太陽電池素子と保護材とを全面的に強固に且つ確実に接着一体化することができる。
【0015】
更に、上記太陽電池用接着シートにおいて、中間シート層の両面に最外シート層が積層一体化されてなり、上記中間シート層が低メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層が高メルトフローレイト層である場合には、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程において、低メルトフローレイト層は、その溶融粘度が低いことから確実に形態を保持している一方、高メルトフローレイト層は、加熱圧着工程に加えられる熱によって流動性を有しているものの、低メルトフローレイト層に接しており、低メルトフローレイト層によってはみ出しが抑制されると共に、太陽電池用接着シートにおける高メルトフローレイト層の占める厚み割合も小さいので、太陽電池モジュールの製造時の加熱圧着工程における低メルトフローレイト層のはみ出しを防止することができ、得られる太陽電池モジュールや製造装置の汚染を防止し、優れた品質の太陽電池モジュールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の太陽電池用接着シートの一例を図面を参照しながら説明する。太陽電池用接着シートAは、図1に示したように、中間シート層1cの両面に最外シート層1a、1bが積層一体化されてなり、上記両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cはそれぞれ、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなる。
【0017】
両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cを構成しているエチレン系共重合体は、エチレンと、エチレンと共重合し得る共重合性モノマーとの共重合体であり、上記共重合性モノマーとしては、特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステルなどが挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。なお、上記共重合性モノマーは、単独でエチレンと共重合されていても、2種以上がエチレンと共重合されていてもよい。
【0018】
そして、上記エチレン系共重合体における共重合性モノマーの含有量は、少ないと、太陽電池用接着シートの透明性が低下し、得られる太陽電池モジュールの発電効率が低下したり、太陽電池用接着シートの接着性が低下したりすることがある一方、多いと、太陽電池用接着シートの製膜性や機械的強度が低下することがあるので、5〜50重量%が好ましい。
【0019】
本発明の太陽電池用接着シートAでは、中間シート層1cを、エチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下である低メルトフローレイト層とする一方、両側最外シート層1a、1bを、エチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層としている。
【0020】
このように、太陽電池用接着シートAの中間シート層1cを低メルトフローレイト層とすることによって溶融時の粘度を高めて、太陽電池モジュールを作製する際の加熱、圧着時に、太陽電池モジュールの端部から太陽電池用接着シートAがはみ出すことを阻止し、得られる太陽電池モジュールや製造装置が不測に汚染されるのを防止していると共に、両側最外シート層1a、1bを高メルトフローレイト層とすることによって溶融時の粘度を低くし、押出機に接続されたTダイ内面との間の流動摩擦抵抗を低減させて押出性を向上させており、太陽電池用接着シートAは、その表面性及び均質性に優れたものとなっており、太陽電池素子と保護材とを良好に接着一体化することができる。
【0021】
具体的には、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1bを構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、低いと、太陽電池用接着シートを低温で製膜する際の製膜性が低下するので、20g/10分を超える値に限定されるが、高過ぎると、太陽電池モジュールの作製時に太陽電池用接着シートのはみ出しを生じることがあるので、25〜250g/10分が好ましい。
【0022】
又、上記太陽電池用接着シートAの中間シート層1cを構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、高いと、太陽電池モジュールの製造時の加熱、圧着時に、太陽電池用接着シートのはみ出しを生じ、或いは、両側最外シート層のはみ出しを防止することができないので、20g/10分以下に限定されるが、低過ぎると、太陽電池用接着シートの製膜性が低下することがあるので、1〜18g/10分であることが好ましく、5〜15g/10分がより好ましい。
【0023】
そして、エチレン系共重合体のメルトフローレイトの調整は公知の要領でもって行うことができ、例えば、エチレン系共重合体の重合度を調整したり、共重性モノマーの種類及び含有量を調整することによって行うことができる。
【0024】
なお、本発明におけるエチレン系共重合体のメルトフローレイトは、JIS K6922−2に準拠して190℃で測定された値をいう。エチレン系共重合体を複数種類混合させて用いている場合には、エチレン系共重合体のメルトフローレイトとは、混合したエチレン系共重合体全体の見掛け上のメルトフローレイトをいう。
【0025】
そして、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cに含有される有機過酸化物としては、特に限定されず、例えば、ビス(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(138℃)、ジクミルパーオキサイド(136℃)、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(136℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(138℃)、t−ブチルクミルパーオキサイド(137℃)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(144℃)、p−メンタンハイドロパーオキサイド(151℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(150℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン(102℃)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(106℃)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(107℃)、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(111℃)、2,2−ビス(4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(114℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(115℃)、t−ブチルパーオキシマレイン酸(119℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(119℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(118℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(118℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(119℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(119℃)、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(119℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(121℃)、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン(122℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(125℃)、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート(127℃)などが挙げられ、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。なお、上記括弧内の温度は1時間半減期温度を表す。
【0026】
又、上記太陽電池用接着シートAの両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cにおける有機過酸化物の含有量は、少ないと、エチレン系共重合体の架橋が不十分になって、太陽電池用接着シートの耐熱性が不足することがある一方、多いと、太陽電池用接着シートの製膜時に、エチレン系共重合体の架橋が進行し、均一な厚みの太陽電池用接着シートが得られなくなることがあるので、エチレン系共重合体100重量部に対して、0.05〜3重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
【0027】
更に、上記太陽電池用接着シートA全体の厚みに対する中間シート層1cの厚みの占める割合は、低いと、太陽電池モジュールの製造時の加熱、圧着工程において、太陽電池用接着シートのはみ出しを防止できなくなる一方、高いと、太陽電池用接着シートを低温で製膜する際の製膜性が低下するので、50%以上に限定され、60〜85%が好ましい。
【0028】
上記太陽電池用接着シートAでは、中間シート層が1層である場合について説明したが、中間シート層1cは、複数の低メルトフローレイト層が積層一体化されてなるものであってもよく、又、中間シート層1cは、一又は複数の低メルトフローレイト層と、一又は複数の高メルトフローレイト層とを任意の順序にて積層一体化させたものであってもよい。
【0029】
なお、上記太陽電池用接着シートの両側最外シート層1a、1b及び中間シート層1cには、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、架橋助剤、スコーチ防止剤、カップリング剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどの酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0030】
上記架橋助剤としては、アリル基、ビニル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を2個以上有する多官能モノマーが挙げられ、これらは、ポリマーラジカルを安定化して架橋効率を高めると共に、架橋点を集中させて、ゲルの生成を促進させる。上記多官能モノマーとしては、例えば、フタル酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルフォスフェート、ジビニルベンゼン;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールの(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールの(メタ)アクリレートなどが挙げられ、単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
中間シート層1cに含有される架橋助剤の量は、少ないと、太陽電池モジュールの製造時に、エチレン系共重合体の架橋が不充分となって太陽電池用接着シートの耐熱性が低下し、その結果、太陽電池用接着シートを用いて得られた太陽電池モジュールの耐久性が低下することがある一方、多いと、Tダイ内でエチレン系共重合体が架橋されて粘度が高くなり、エチレン系共重合体がTダイ内で滞留し、均一な厚みの太陽電池用接着シートを得ることができなくなったり、或いは、Tダイ内でエチレン系共重合体が架橋されて固化し、太陽電池用接着シートをTダイから押出すことができなくなったりするので、エチレン系共重合体100重量部に対して0.1〜3重量部が好ましく、0.2〜2.5重量部がより好ましい。
【0032】
そして、中間シート層1cの架橋後のゲル分率が70重量%以上となるように調整することが好ましい。これは、中間シート層1cの架橋後のゲル分率が低いと、太陽電池モジュールの製造時に、エチレン系共重合体の架橋が不充分となって太陽電池用接着シートの耐熱性が低下し、その結果、太陽電池用接着シートを用いて得られた太陽電池モジュールの耐久性が低下することがあるからである。
【0033】
又、両側最外シート層1a、1b中に含有される架橋助剤の量は、多いと、Tダイ内でエチレン系共重合体が架橋されて粘度が高くなり、エチレン系共重合体がTダイ内で滞留し、均一な厚みの太陽電池用接着シートを得ることができなくなったり、或いは、Tダイ内でエチレン系共重合体が架橋されて固化し、太陽電池用接着シートをTダイから押出すことができなくなったりするので、エチレン系共重合体100重量部に対して0.4重量部未満が好ましい。
【0034】
更に、上記スコーチ防止剤としては、特に限定されず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ヒドロキノン、2−メルカプトベンゾチアゾール、オクチルメタクリレート、N−ニトロソジフェニルアミンなどが挙げられ、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
そして、両側最外シート層1a、1b中に含有されるスコーチ防止剤の量は、少ないと、太陽電池用接着シートの製膜時において、エチレン系共重合体の架橋が進行してTダイ内に滞留し、均一な厚みの太陽電池用接着シートを得ることができなくなったり、或いは、エチレン系共重合体がTダイ内で固化して、太陽電池用接着シートを押出すことができなくなる一方、多いと、太陽電池モジュールの製造時において、エチレン系共重合体の架橋が不十分となって、太陽電池用接着シートの耐熱性が不足し、得られる太陽電池モジュールの耐久性が低下するので、エチレン系共重合体100重量部に対して0.01〜2重量部が好ましい。
【0036】
又、中間シート層1c中にもエチレン系共重合体の架橋を阻害しない範囲内においてスコーチ防止剤が添加されていてもよいが、スコーチ防止剤が含有されていないことが好ましい。
【0037】
上記カップリング剤は、太陽電池用接着シートの接着性を高める目的で添加され、カップリング剤としては、アミノ基、グリシジル基、メタクリロキシ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1種又は2種以上の官能基を有するシランカップリング剤が好適に用いられ、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0038】
次に、上記太陽電池用接着シートAの製造方法について説明する。本発明の太陽電池用接着シートAは、2機以上の押出機が同一のフィードブロックを介して同一のTダイに接続された多層共押出装置を用いて製造することができ、例えば、3機の押出機が同一のフィードブロックを介して同一のTダイに接続された3層共押出装置を用意し、これらの押出機のうち2機を最外シ−ト層1a、1b用とし、残りの1機を中間シート層1c用として、最外シ−ト層1a、1b用の2機の押出機に、メルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超えるエチレン系共重合体、有機過酸化物、及び、必要に応じて加えられる添加剤からなる樹脂組成物を供給する一方、中間シート層1c用の押出機に、メルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下のエチレン系共重合体、有機過酸化物、及び、必要に応じて加えられる添加剤からなる樹脂組成物を供給して、それぞれの押出機中で樹脂組成物を溶融混練した後、フィードブロックに供給して、フィードブロックの先端に配設されたTダイより最外シート層1a、中間シート層1c及び最外シート層1bがこの順序で且つ中間シート層1cの厚みが太陽電池用接着シートA全体の厚みの50%以上となるように積層一体化された状態にシート状に押出製膜し、押出された溶融状態のシートを冷却ロールで冷却、固化して巻き取ることにより製膜することができる。なお、同一の樹脂組成からなるシート層が複数ある場合には、一の押出機で溶融混練を行い、押出機より押出された樹脂組成物を所定の層数分に分岐させた上でフィードブロックに供給して製膜してもよい。
【0039】
又、中間シート層が複数層の低メルトフローレイト層からなる場合の太陽電池用接着シートを製膜する方法としては、例えば、太陽電池用接着シートを構成しているシート層の層数分の押出機が同一のフィードブロックを介して同一のTダイに接続された多層共押出装置を用意し、この多層共押出装置の2機の押出機を両側最外シート層1a、1b用の押出機とし、残余の押出機を低メルトフローレイト層用の押出機として、上述と同様の要領で押出製膜すればよい。
【0040】
そして、上記太陽電池用接着シートAの製造工程において、上記樹脂組成物を押出機内で溶融混練させる際の温度は、高いと、樹脂組成物中の有機過酸化物が分解して、エチレン系共重合体の架橋が進行してしまうので、使用する有機過酸化物の1時間半減期温度よりも10℃以上低い温度であることが好ましく、2種以上の有機過酸化物を用いる場合においては、使用する有機過酸化物のうち、最も低い有機過酸化物の1時間半減期温度よりも10℃以上低い温度であるのが好ましい。
【0041】
更に、上記太陽電池用接着シートAは、太陽電池モジュール製造時の加熱、圧着工程における脱気性を向上させるために、表面にエンボス加工が施されるのが好ましい。なお、太陽電池用接着シートAの表面にエンボス加工を施す方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、Tダイから押出された直後の太陽電池用接着シートを、表面にエンボス模様が施されたエンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融状態の太陽電池用接着シートに押圧させて、太陽電池用接着シートの表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。なお、一旦製造された太陽電池用接着シートAを再度、加熱して軟化状態とした上で上述の要領でエンボス加工を施してもよい。
【0042】
そして、本発明の太陽電池用接着シートAを用いて太陽電池モジュールを製造する方法としては、太陽電池素子の上面に太陽電池用接着シートAを介して上部透明保護材を積層させると共に、太陽電池素子の下面に太陽電池用接着シートAを介して下部基板保護材を積層させた積層体を作製し、この積層体を減圧下で加熱圧着することにより、太陽電池素子の上下面に太陽電池用接着シートAを介して保護材が積層一体化された太陽電池モジュールを得ることができる。
【0043】
なお、上記積層体を減圧下にて加熱圧着する際の加熱条件としては、太陽電池用接着シート中の有機過酸化物を確実に分解させて、エチレン系共重合体を十分に架橋させるために、使用する有機過酸化物の1時間半減期温度よりも10℃以上高い温度で5〜10分加熱することが好ましく、2種以上の有機過酸化物を用いる場合においては、使用する有機過酸化物のうち、最も高い有機過酸化物の1時間半減期温度よりも10℃以上高い温度で5〜10分加熱することが好ましい。
【実施例】
【0044】
(実施例1〜3、比較例1,2)
3機の押出機が同一のフィードブロックを介して同一のTダイに接続された3層共押出装置を用意し、これらの押出機のうちの2機を両側最外シ−ト層1a、1b用とし、残りの1機を中間シート層1c用として、両側最外シ−ト層1a、1b用の2機の押出機に、表1に示すような酢酸ビニル含有量及びメルトフローレイト(MFR)を有するエチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(1時間半減期温度:138℃)1重量部、トリアリルイソシアヌレート0.3重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン0.3重量部からなる樹脂組成物を供給する一方、中間シート層1c用の押出機に、表1に示すような酢酸ビニル含有量及びメルトフローレイトを有するエチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(1時間半減期温度:138℃)1重量部、トリアリルイソシアヌレート0.3重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン0.3重量部からなる樹脂組成物を供給した。
【0045】
次に、3機それぞれの押出機にて、樹脂組成物を90℃で溶融混練し、溶融状態の樹脂組成物をフィードブロックに供給して、フィードブロックの先端に配設されたTダイより、最外シ−ト層1a、中間シート層1c、最外シ−ト層1bの順に積層一体化された状態で且つその厚み比(最外シート層1aの厚み/中間シート層1cの厚み/最外シート層1bの厚み)が表1に示した厚み比となるように押出して太陽電池用接着シートAを製膜した。そして、Tダイより押出された直後の溶融状態の太陽電池用接着シートAを、エンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融状態の太陽電池用接着シートAに押圧させて、太陽電池用接着シートAの表面に深さ0.2mmのエンボス加工を施した後、冷却ロールによって冷却しながら巻き取ることにより、低メルトフローレイト層である中間シート層1cの両面に、高メルトフローレイト層である最外シート層1a、1bが積層一体化されてなる厚みが0.5mmの太陽電池用接着シートAを得た。
【0046】
(比較例3)
押出機の先端にTダイが配設されてなる単層押出装置を用意し、この単層押出装置の押出機に、酢酸ビニル含有量が33重量%で且つメルトフローレイトが30g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(1時間半減期温度:138℃)1重量部、トリアリルイソシアヌレート0.3重量部、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部及び2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン0.3重量部からなる樹脂組成物を供給し、90℃で溶融混練した後、押出機の先端に配設されたTダイからシート状に押出して、太陽電池用接着シートを製膜した。そして、Tダイより押出された直後の溶融状態の太陽電池用接着シートを、エンボスロールと、このエンボスロールに対峙して配設されたゴムロールとの間に供給し、エンボスロールを溶融状態の太陽電池用接着シートに押圧させて、太陽電池用接着シートの表面に深さ0.2mmのエンボス加工を施した後、冷却ロールによって冷却しながら巻き取ることにより、厚みが0.5mmの単層の太陽電池用接着シートを得た。
【0047】
次に、上記のようにして得られた太陽電池用接着シートについて、はみ出し防止性能の評価及び耐温湿度サイクル試験を下記の要領にて行い、その結果を表1に示した。
【0048】
(はみ出し防止性能)
得られた太陽電池用接着シートから一辺が150mmの平面正方形状の試験片を2枚、切り出して互いに重ね合わせ、この重ね合わせた試験片の下面に一辺が150mmの平面正方形状のポリフッ化ビニルシートを、上面に一辺が150mmの平面正方形状の透明平板ガラスを積層して積層体を作製した。
【0049】
次に、上記積層体を1.3kPaの減圧下にて150℃で10分間に亘って加熱した後、積層体の端部からはみ出したエチレン系共重合体のはみ出した距離を測定し、下記基準により評価した。
○:エチレン系共重合体のはみ出した距離の最大値が3mm未満であった。
△:エチレン系共重合体のはみ出した距離の最大値が3mm以上且つ10mm未満であった。
×:エチレン系共重合体のはみ出した距離の最大値が10mm以上であった。
【0050】
(耐温湿度サイクル試験)
インターコネクターを介して接続された複数個の太陽電池用シリコン半導体ウェハーを一列に配置し、これらの太陽電池用シリコン半導体ウェハーの上面に、得られた太陽電池用接着シートを介して透明平板ガラスを積層し、太陽電池用シリコン半導体ウェハーの下面に、得られた太陽電池用接着シートを介してポリフッ化ビニルシートを積層させて積層体を作製した。
【0051】
この積層体を1.3kPaの減圧下にて150℃で10分間加熱し、太陽電池用シリコン半導体ウェハーの上面に太陽電池用接着シートを介して透明平板ガラスが積層一体化され且つ太陽電池用シリコン半導体ウェハーの下面に太陽電池用接着シートを介してポリフッ化ビニルシートが積層一体化された太陽電池モジュールを製造した。
【0052】
このようにして得られた太陽電池モジュールを−20℃の条件下にて6時間に亘って放置した後、1時間かけて湿度85%RHにて温度を−20℃から85℃まで昇温して再び6時間放置し、更に、1時間かけて湿度85%RHにて温度を85℃から−20℃まで冷却する工程を1サイクルとして、このサイクルを10回繰り返し行なった後の太陽電池モジュールの外観を目視観察し、太陽電池用接着シートの変色や、透明平板ガラス及びポリフッ化ビニルシートと、太陽電池用シリコン半導体ウェハーとの剥離などの外観異常の有無を評価した。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の太陽電池用接着シートの一例を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 シート層
1a、1b 最外シート層
1c 中間シート層
A 太陽電池用接着シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に接続されたTダイより製膜された、エチレン系共重合体及び有機過酸化物を含有してなるシート層が3層以上、積層一体化されてなる太陽電池用接着シートであって、両側最外シート層が、これらのシート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分を超える高メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層を除いた残余のシート層のうちの少なくとも一層が、該シート層を構成しているエチレン系共重合体のメルトフローレイト(MFR)が20g/10分以下の低メルトフローレイト層であり、更に、上記低メルトフローレイト層の合計厚みが上記太陽電池用接着シートの厚みの50%以上であることを特徴とする太陽電池用接着シート。
【請求項2】
中間シート層の両面に最外シート層が積層一体化されてなり、上記中間シート層が低メルトフローレイト層であると共に、上記両側最外シート層が高メルトフローレイト層であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用接着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2008−117925(P2008−117925A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299374(P2006−299374)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】