好中球によって媒介される疾患の処置のためのヒスタミン結合化合物
本発明は、好中球によって媒介される疾患状態を処置のための新規の方法に関する。この方法は、治療有効量のヒスタミン結合化合物をこのような状態に罹患する患者に投与する工程を包含する。多くの疾患状態が、好中球によって媒介される。これらの疾患状態としては、アレルギー状態、炎症状態、および自己免疫常態が挙げられる。本発明の方法に従って使用されるヒスタミン結合性化合物は、ヒスタミンスカベンジャーとして作用し、これは、ヒスタミン分子に結合して、系の外へと滴定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球細胞によって媒介される疾患状態の処置のための新規な方法に関する。この方法は、このような状態に罹患する患者に、治療有効量のヒスタミン結合化合物を投与する工程を包含する。
【0002】
本明細書中に引用される全ての刊行物、特許および特許出願が、その全体において参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
多くの炎症性状態および自己免疫状態が、疾患部位への好中球の流入によって特徴付けられる。いくつかの場合において、この流入は、不適切であり、正常組織に損傷を引き起こす。
【0004】
多くのタイプの好中球媒介疾患において、組織損傷は、活性化好中球によって放出される酸化性フリーラジカルと関連していると考えられ(Dahlgren C,Karlsson A.Respiratory burst in human neutrophils.J Immunol Methods 1999 Dec 17;232(1−2):3−14)、そして組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性がこれを定量するために使用され得る。
【0005】
好中球によって媒介される疾患状態の例としては、成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細管漏出症候群;血栓性発作、冠状動脈血栓症、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、肢もしくは指の再移植、臓器移植、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害および挫滅傷害を含む再灌流障害;手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、乾癬;乾癬関節症;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス症候群を含む免疫脈管炎;アルコール性肝臓疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化;痛風;歯周疾患、ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭状結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、白内障、緑内障、角膜移植およびレーザー生体内角膜曲率形成(LASIK)のための手術を含む術後の炎症、重症のアレルギー性結膜炎、春季カタル(VKC)、びまん性層状角膜炎、感染性結膜炎および非限定的結膜炎、角膜炎および眼瞼炎、シールド潰瘍を含む眼の炎症が挙げられる。
【0006】
ヒスタミンが実質的に全てのアレルギー性プロセスおよび炎症性プロセスに関与していることが公知であるものの、以前において、好中球媒介疾患において任意の役割を有するとして意味されていなかった。特定の抗ヒスタミン剤が、この性質の疾患を打ち消すことにおける有用性について試験されているが、これらは、ヒスタミン自体を標的化するというよりもむしろ、ヒスタミンレセプターを標的とする薬剤であった。さらに、他の薬物との併用療法において使用される場合でさえ、このような薬剤は、エンドトキシン誘導肺損傷の動物モデルにおいて試験される場合の制限された用途であった(Byrne K,Sielaff TD,Michna B,Carey PD,Blocher CR,Vasquez A,Sugerman HJ.Crit Care Med.1990 Mar;18(3):303−8;Byrne K,Sielaff TD,Carey PD,Tatum JL,Blocher CR,Vasquez A,Hirsh JI,Sugerman HJ,Circ Shock.1990 Feb;30(2):117−27,Sielaff TD, Sugerman HJ,Tatum JL,Kellum JM,Blocher CR.,J Trauma.1987 Dec;27(12):1313−22;Sielaff TD,Sugeman HJ,Tatum JL,Blocher CR.,Surgery.1987 Aug;102(2):350−7)。ヒト処置プロトコルは、この性質の状態を処置するためにヒスタミン遮断剤を含まない(Bernard GR,Artigas A,Brigham KL,Carlet J,Falke K,Hudson L,Lamy M,Legall JR,Morris A,Spragg R.Am J Respir Crit Care Med 1994 Mar;149(3 Pt 1):818−24)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
好中球媒介疾患は、重要な健康問題であり、有意な罹患率および死亡率に関連している。これらの状態を標的化するための現在の方法は、まったく有効性が足りていない。本発明者らは、現在、これらの疾患状態が、ヒスタミンに直接的に結合し、従って、システムからこの血管作用性アミンを手規定する因子を使用して、非常に有効に処置され得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、患者における好中球細胞によって媒介される疾患状態を処置する方法を提供し、ヒスタミン結合化合物を治療的有効量で、患者に投与する工程を包含する。
【0009】
本発明者らの発見は、疾患部位からヒスタミンを完全に除去することによって、好中球媒介性疾患が打ち消され得ることである。これは、ヒスタミンに対する高い親和性で結合する因子を使用する場合のみ可能であり、これは、これらの状態に対するヒスタミンの効果が以前に同定されていなかった理由の一部を説明する;このタイプのヒスタミン結合因子は、ほんの最近発見され、幅広い使用はない。以前の研究がヒスタミンレセプターに結合する因子を使用することによってヒスタミンについての潜在的な役割を調査していたが、ほんの周辺的な効果が示された。試験状態に影響しないことは、おそらく、存在する種々のヒスタミンレセプター(H1、H2、H3、H4、ならびにまだ発見されていない可能な他のレセプター)に起因していた。結果として、ヒスタミン分子自体よりもむしろヒスタミンレセプターを標的化することによって、使用される因子が、有効でなく、従って、これらの状態におけるヒスタミンの役割が見落とされていた。
【0010】
好中球細胞は、骨髄細胞において産生および成熟し、この組織からそれらの作用部位に移動する。一旦、これらが、この点に達すると、これらの正常な役割は、オプソニン作用または補体系のようなプロセスによって除去のためにマークされた病原性の侵襲性生物を破壊するように作用することである。これらは、細胞傷害性酸化性フリーラジカルの放出および食作用によってこれを達成する。これらはまた、アポトーシスを受けた損傷組織細胞を除去する。これらが定量的または定性的に不適切な化学誘因物質シグナルによって誘因される場合に、これらが、正常な細胞を攻撃し得、好中球媒介性疾患に特徴的な損傷を引き起こし得る。ヒスタミンが、生成されるこのような不適切な化学誘因物質シグナルを引き起こすことに重要であり得るということが、本発明者らの主張である。
【0011】
好中球は、ヒスタミンレセプターを発現することが公知である(Wescott S,Kaliner M.,Inflammation 1983 Sep;7(3):291−300;Burde R,Seifert R,Buschauer A,Schultz G.,Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 1989 Dec;340(6):671−8)。しかし、この化合物が、循環から非常に迅速に代謝および除去されるので、骨髄におけるそれらの産生および成熟の部位からの好中球の代謝において、ヒスタミンが有意な役割を果たすことはなさそうである。(Ferreira SH,Ng KK,Vane JR.,Br J Pharmacol.1973 Nov;49(3):543−53)。本発明者らが任意の特定の理論によって束縛されることを望まないものの、疾患の部位に好中球を誘因し、それら自体が少なくとも部分的にヒスタミン依存性であることが公知の種々の他の機構によって間接的に作用し得ることがよりありそうであると考えられる。これらとしては、とりわけ以下が挙げられる:脈管内皮細胞(Jones DA,Abbassi O,McIntire LV,McEver RP,Smith CW.,Biophys J 1993 Oct;65(4):1560−9)、ケモカインサイトカイン誘導好中球誘因物質の阻害(Harris JG,Flower RJ,Watanabe K,Tsurufuji S,Wolitzky BA,Perretti M.,Biochem Biophys Res Commun 1996 Apr 25;221(3):692−6)、LTB4の放出(Takeshita K,Sakai K,Bacon KB,Gantner F.J Pharmacol Exp Ther.2003 Dec;307(3):1072−8)およびTリンパ球によるIL−16の放出(Gantner F,Sakai K,Tusche MW,Cruikshank WW,Center DM,Bacon KB,J Pharmacol Exp Ther.2002 Oct;303 (1):300−7)。これらの活性が、異なるヒスタミンレセプターによって媒介されていること、および例えば、IL−16放出がH2レセプターおよびH4レセプターの両方によって制御されるようであるように、かなり重複が存在することが以前に示されている。さらなるヒスタミンレセプターが同定されたままであることもあり得る。
【0012】
さらに、現在、血管内皮によるL−セレクチン接着分子の発現におけるヒスタミンの重要な役割、および骨髄からの好中球のザイモサン誘導性移動におけるヒスタミンH4レセプターの重要な役割についての証拠が存在する(Takeshita K,Bacon KB,Gantner F.J Pharmacol Exp Ther.2004 Mar 2[印刷物に先立つ電子出版])。これらとともに、最近のデータは、好中球の補充および活性化における、多くのレセプターを通じて、しかしほとんどはH4レセプターを通じて作用するヒスタミンの役割、およびヒト疾患の種々のモデルにおけるそれらの関与を支持する。
【0013】
系におけるこの程度の重複性および乱雑性により、単一ヒスタミンレセプター型のブロックが好中球の補充を妨害する可能性は低く、かつこのことが従来調べられたヒスタミンアンタゴニストの明らかな障害の理由である可能性は低い。対照的に、遊離ヒスタミンを除去する化合物は、この薬剤が、まだ発見されていないレセプターを含めそのあらゆるレセプターに到達するのを防止する。この性質は、有用な治療剤としてのその効力に寄与する。
【0014】
多くの疾患状態が、好中球によって媒介される。これらの疾患状態としては、アレルギー状態、炎症状態、および自己免疫常態が挙げられる。特に、注目すべき好中球媒介性疾患状態としては、以下が挙げられる:成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細血管漏出症候群(capillary leak syndrome);再潅流傷害(血栓性脳卒中、冠動脈血栓、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、四肢もしくは指の再移植、器官移植、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害、および挫傷後の傷害が挙げられるが、これらに限定されない);手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、乾癬;乾癬性関節炎;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;免疫性血管炎(ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス病が挙げられるが、これらに限定されない);アルコール性肝疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化症;痛風;歯周病、眼の炎症(ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、手術後の炎症(白内障、緑内障、角膜移植、およびレーザーインサイチュ角膜曲率形成術(LASIK)に対する手術が挙げられる)、重症アレルギー性結膜炎、春季結膜炎(VKC)、びまん性層間角膜炎、感染性および非特異性結膜炎、角膜炎ならびに眼瞼炎が挙げられる)、そしてシールドの潰瘍(shield ulcer)。他の好中球媒介性状態は、当業者に公知である。これらの状態のうちのいずれか一つは、本発明に従って処置され得る。
【0015】
本発明の方法に従って使用されるヒスタミン結合性化合物は、ヒスタミンスカベンジャーとして作用するはずであり、これは、ヒスタミン分子に結合して、系の外へと滴定する。したがって、このようなスカベンジャーは、疾患もしくは傷害の部位に存在する全身性ヒスタミンを「一掃する」。
【0016】
上記ヒスタミン結合性化合物は、好ましくは少なくとも10−5Mの親和性、より好ましくは10−6M未満か、10−7M未満か、10−8M未満か、10−9M未満か、10−10M未満かまたはより低い親和性で、ヒスタミンに結合すべきである。試験化合物のヒスタミンに対する親和性を試験し得る適切なヒスタミン結合アッセイは、国際特許出願WO97/44451に示される。
【0017】
上記ヒスタミン結合性化合物は、好ましくは、血管作用性アミン、特にヒスタミンに対して特異的であるべきである。特異性を測定するための方法は、当業者に公知であり、そしてこの方法としては、競合アッセイなどが挙げられる。好ましくは、ヒスタミン結合性化合物によって表されるヒスタミンに対する親和性は、非関連性化合物に対して示される親和性よりも100倍大きい。より好ましくは、103倍,104倍,105倍,106倍またはそれ以上大きい。
【0018】
本発明で使用されるヒスタミン結合性化合物は、合成化合物でも、天然の化合物(例えば、タンパク質)でもよい。多くのタンパク質は、ヒスタミンに対する特異的な高親和性結合を示すことが知られている。一つの可能性は、ヒスタミンに特異的な抗体または抗体フラグメントを使用することである。好ましいタンパク質は、国際特許出願WO97/44451(この内容は、本明細書においてその全体が参考として援用される)において血管作用性アミン結合分子と称される化合物である。用語「血管作用性アミン結合分子」としては、以下を包含することが意図される:
(a)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合し、国際特許出願番号WO97/44451に開示されるMS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2と同じタンパク質ファミリーに属する、あらゆる血管作用性アミン結合タンパク質(タンパク質は、そのタンパク質の一次成熟モノマー配列が260アミノ酸以上を有さず、かつそのタンパク質の完全配列中のアミノ酸のうち少なくとも30個が、そのタンパク質と、タンパク質MS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2とのアラインメントで同一の残基として保存されている場合、上記タンパク質ファミリーに属するとみなされる。上記アラインメントは、好ましくは、ClustalW(Thompsonら,1994,NAR,22(22),4673−4680)または同様の配列アラインメントプログラムを用いて得られている);
(b)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合し、そして配列モチーフD/E A W K/R(好ましくはDAWK、より好ましくはQDAWK)およびY/C E/D L/I/F W(好ましくはY/C ELW)を含む、haematophagous arthropod由来のタンパク質;
(c)上記(a)または(b)で定義されたタンパク質の、天然の生物学的改変体(例えば、対立遺伝子改変体もしくは地理的改変体);
(d)上記(a)、(b)または(c)で定義されたタンパク質の機能的等価物(この等価物は、ヒスタミンに結合する生物学的機能に影響を及ぼさない、野生型タンパク質配列からの単一もしくは複数のアミノ酸の置換、挿入および/もしくは欠失、ならびに/または化学的に修飾されたアミノ酸の置換を含む);
(e)上記(a)、(b)、(c)または(d)で定義されたタンパク質の活性フラグメント(「活性フラグメント」とは、ヒスタミンに結合する生物学的機能を残す短縮型タンパク質を指す);そして
(f)ペプチドまたは他のタンパク質(例えば標識であって、例えば、生物活性、放射活性、酵素、もしくは蛍光であり得るか、または抗体であり得る)に融合された上記(a)、(b)、(c)、(d)または(e)で定義されたタンパク質を含む、融合タンパク質。
【0019】
WO97/44451において、FS−HBP2(EV131としても知られる)と称されるタンパク質、または上記(a)、(b)、(c)、(d)または(e)で引用される、その改変体もしくはそれらの活性フラグメントが、特に好ましい。
【0020】
このタンパク質は、ヒスタミンに高親和性および高特異的に結合し、そして本明細書において、好中球媒介性疾患の動物モデルにおいて有効であるであることが示される。
【0021】
上記(e)に従う活性フラグメントは、ヒスタミンとの結合を担うタンパク質の配列由来の少なくともn個の連続するアミノ酸を含むべきである。特定の配列に依存して、nは、好ましくは7以上(例えば、8、10、12、14、16、18、20、50、100、150、200、250またはそれ以上)である。このようなフラグメントは、「独立(free−standing)」(すなわち、他のアミノ酸のしくはポリペプチドの一部でもなく、それらに融合してもいない)であり得るか、またはこれらのフラグメントは、それらが一部をなす、より大きなポリペプチド内に含まれ得る。より大きなポリペプチド内に含まれる場合、本発明のフラグメントは、最も好ましくは、単一の連続領域を形成する。さらに、いくつかのフラグメントは、単一のより大きなポリペプチド内に含まれ得る。
【0022】
本発明における使用のためのヒスタミン結合タンパク質は、宿主細胞中に含まれるベクター内のそれらをコードする核酸分子の発現によって、組み換え形態で調製され得る。このような発現方法は、当業者に周知であり、多くの方法が、Sambrookら(上述)ならびにFernandezおよびHoeffler(1998(編)「Gene expression systems.Using nature for the art of expression」Academic Press,San Diego,London,Boston,New York,Sydney,Tokyo,Toronto)によって詳細に記載される。血管作用性アミン結合タンパク質についてのこれらのコード配列は、上述されており、そして国際特許出願WO97/44451に示される。これらの分子(適切なベクター、宿主細胞が挙げられる)の作製のための方法およびタンパク質を精製する方法もまた、この特許出願に記載される。
【0023】
ヒスタミン結合化合物は、薬学的組成物に処方され得る。この薬学的組成物は、例えば、単回用量容器または複数回用量容器で提示される。例えば、密封されたアンプルおよびバイアルであって、使用直前における滅菌液体キャリアの添加のみを必要とするフリーズドライ状態で保存され得る。投与量は、ヒスタミン結合性化合物の特定の活性に依存し、慣習的な実験によって容易に決定され得る。
【0024】
薬学的組成物はまた、治療剤の投与のため、薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。このようなキャリアとしては、抗体および他のポリペプチド、遺伝子、ならびに他の治療剤(例えば、ポソーム)が挙げられる。ただし、このキャリアは、それ自身はこの組成物を受容する個体に有害な抗体の産生を誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る。適切なキャリアは、大きな、ゆっくりと代謝される高分子(例えば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー、および不活化ウイルス粒子)であり得る。
【0025】
薬学的に受容可能な塩が、上記中で使用され得る。例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸など);および有機酸の塩(例えば、アセテート、プロピオネート、マロネート、ベンゾエートなど)である。薬学的に受容可能なキャリアの全体的な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において得られる。
【0026】
治療用組成物における薬学的に受容可能なキャリアは、液体(例えば、水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノール)をさらに含み得る。さらに、補助的物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝物質など)が、このような組成物中に存在し得る。このようなキャリアは、薬学的組成物の、患者が摂取するための錠剤、丸剤、糖剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などとしての処方を可能にする。
【0027】
一旦処方された場合、本発明の組成物は、被験体に直接的に投与され得る。処置されるべき被験体は、動物であり得る。特に、ヒト被験体が処置され得る。
【0028】
本発明で利用されるヒスタミン結合化合物または薬学的組成物は、多数の経路で投与され得る。この経路としては、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、鞘内、脳室内、経皮(transdermal)、もしくは経皮(transcutaneous)塗布(例えば、WO98/20734を参照のこと)、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、膣内もしくは直腸手段が挙げられるが、これらに限定されない。ヒスタミン結合タンパク質の場合、タンパク質は胃で分解され得るので、これらのタンパク質は、好ましくは非経口的に投与され得る(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内注入)。非経口投与のために適切な処方物としては、水性および非水性の滅菌注入溶液(これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬およびレシピエントの血液と等張の処方物を提供する溶質を含み得る)、ならびに水性および非水性の滅菌懸濁液(これらは、懸濁剤もしくは増粘剤を含み得る)が挙げられる。
【0029】
組成物の直接送達は、一般的に、皮下、腹腔内、静脈内、もしくは筋肉内への注入によって達成されるか、または組織の間質空間に送達され得る。組成物はまた、病変に投与され得る。投薬処置はまた、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「治療有効量」とは、標的の好中球媒介性疾患状態を処置、回復、もしくは予防し、または検出可能な治療効果もしくは予防効果を示すのに必要なヒスタミン結合性化合物の量を指す。任意の化合物に対して、この治療有効用量は、細胞培養アッセイ(例えば、新生物細胞)または動物モデル(通常、マウス、ウサギ、イヌ、もしくはブタ)のいずれかにおいて、最初に推定され得る。動物モデルはまた、適切な濃度範囲および投与経路を決定するために使用され得る。次いで、このような情報は、ヒトにおいて有用な用量および投与経路を決定するために使用され得る。
【0031】
ヒト被験体についての正確な有効量は、疾患状態の重篤度、被験体の全身の健康状態、被験体の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応の感受性、ならびに、治療に対する耐性/応答に依存する。この量は、慣用的な実験によって決定され得、そして、臨床医の診断の範囲内である。一般に、有効用量は、0.005mg/kg〜50mg/kg、好ましくは、0.125mg/kg〜20mg/kgである。例えば、血管作用性のアミン結合分子(例えば、EV131およびEV504)の特に好ましい投薬量は、本明細書において、0.1〜20mg/kgの間、好ましくは、0.5〜10mg/kgの間、なおより好ましくは、1〜2mg/kgの間といわれる。組成物は、患者に個々に投与され得るか、または、他の薬剤、薬物もしくはホルモンと組み合わせて投与され得る。
【0032】
遺伝子治療は、患者における特定の細胞による、ヒスタミン結合タンパク質の内因性の産生を達成するように用いられ得る。遺伝子治療は、インビボまたはエキソビボのいずれかで行われ得る。エキソビボの遺伝子治療は、患者の細胞の単離、治療遺伝子の導入、ならびに、遺伝子的に変更された細胞の患者への逆導入を必要とする。対照的に、インビボの遺伝子治療は、患者の細胞の単離および精製を必要としない。
【0033】
治療遺伝子は、代表的に、患者への投与のために「パッケージング」されている。遺伝子送達ビヒクルは、非ウイルス性のもの(例えば、リポソーム)であっても、複製欠損型ウイルスベクター(例えば、Berkner,K.L.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158,39−66(1992)に記載されるアデノウイルスベクター、またはMuzyczka,N.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158,97−129(1992)および米国特許第5,252,479号に記載されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)であってもよい。例えば、ヒスタミン結合タンパク質をコードする核酸分子は、複製欠損型レトロウイルスベクターにおいて発現させるために遺伝子操作され得る。この発現構築物は、次いで、単離され、そして、このポリペプチドをコードするRNAを含むレトロウイルスプラスミドベクターを用いて形質導入されたパッケージング細胞に導入され、その結果、このパッケージング細胞は、ここで、目的の遺伝子を含む感染性ウイルス粒子を産生する。これらの産生細胞は、インビボで細胞を遺伝子操作するため、およびインビボでのポリペプチドを発現させるために、被験体に投与され得る(Gene Therapy and other Molecular Genetic−based Therapeutic Approaches,第20章,Human Molecular Genetics(1996),T StrachanおよびA P Read,BIOS Scientific Publishers Ltd(およびその中で引用されている参考文献)を参照のこと)。
【0034】
別のアプローチは、治療用ヒスタミン結合化合物が、血流または筋肉組織に直接注射される、「裸のDNA」の投与である。
【0035】
本発明のなおさらなる局面によれば、好中球により媒介される疾患状態(特に、本明細書中に明記されている疾患)の処置のための医薬の製造における、上記の本発明の局面のいずれか1つにおいて列挙されたようなヒスタミン結合化合物の使用が提供される。
【0036】
本発明は、ここで、一例として、マウスのエンドトキシン誘発性ARDSの実験モデルにおけるEV131タンパク質の使用を明示的に参照して説明される。詳細の改変が、本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0037】
(実施例1:アレルギー性喘息)
組換え型の、節足動物由来のヒスタミン結合タンパク質EV131は、高い親和性で結合する(Paesen,G.C.,P.L.Adams,K.Harlos,P.A.NuttallおよびD.I.Stuart.1999,Mol Cell 3:661;Paesen,G.C.,P.L.Adams,P.A.NuttallおよびD.L.Stuart.2000,Biochim Biophys Acta 1482:92)。
【0038】
最初に、EV131が、ヒスタミンにより媒介される病理学を阻害し得るかどうかを確認するために、試験を行なった。それゆえ、EV131を、アレルギー性喘息において試験した。免疫したマウスの抗原チャレンジ前に与えたEV131は、気道の反応性亢進を70%防止し、気管支周囲の炎症、肺の好酸球増加、粘膜の過分泌およびIL−4の分泌を抑止したことを見出した(Couilllinら、投稿中)。EV131の、気管支の反応性亢進に対する阻害効果は、糖質コルチコイドステロイドの阻害効果に匹敵した。これらの結果は、ヒスタミンが、アレルギー性喘息の臨床的メディエーターであることを示している。
【0039】
アレルギー性喘息と共通する特定の特徴を示すこれらの試験の結果は、本発明者らが、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を調査することを促した。ARDSについてのモデルを、E.coliのエンドトキシンの単回投与を使用して確立した(Lefort,J.,L.MotreffおよびB.B.Vargaftig.2001,Am J Respir Cell Mol Biol 24:345)。ここで、EV131が、気管支収縮および好中球の漸増を劇的に阻害することが示される。
【0040】
(方法)
(E.coliのエンドトキシンによる急性気管支収縮の誘発)
まず、マウスを殺傷することなく、最大の気道応答を生じるエンドトキシンの最適用量を、コントロールとして生理食塩水のみを使用して確立した。これは、1μgであると決定した(データ示さず)。E.coliのエンドトキシン(055:B5,Sigma)を生理食塩水に溶解し、(咳を防止するための)i.v.ケタミン麻酔下で、鼻腔内経路を介して、40μl中1μgの用量で、C57BL/6マウスに与えた。rEV131を、3つの用量レベル(90、180および360μg、4.5〜18mg/Kg)で、異なる群のマウスに与え、その直後に、同じ経路でエンドトキシンを与えた。コントロールには、生理食塩水のみを与えた。
【0041】
このモデルを使用する実験の第2のセットにおいて、350μgのブデノシド(ポジティブコントロール)、生理食塩水(ネガティブコントロール)および182μgのrEV131を、1μgのLPS投与(ここでも、鼻腔吸入により与えた)の1時間前に、注射により腹腔内に与えた。
【0042】
(気道抵抗性:プレチスモグラフィ)
気道抵抗性を、エンドトキシン投与の3時間後の全身プレチスモグラフィにより評価した。次いで、回復期間の後、エアロゾルで投与したメタコリンに対する気管支の反応性亢進(BHR)を調べた。エンドトキシン、および活性投薬またはコントロール投薬のいずれかを受けた、抑制されていない意識のあるマウスを、まず、全身プレチスモグラフィチャンバー(Buxco Electronic,Sharon,CO,USA)に入れた。このマウスを、一定気流を保証する吸引ポンプに接続された、2つのバロメトリックプレチスモグラフィチャンバーのうちの一方に入れる。動物を、第2のチャンバーと隔てられた第1のチャンバーに入れ、この第2のチャンバーにおいては、圧力が、大気圧に相当する。各コンパートメントを、それ自体が、電子増幅器に接続された差次的圧力カプトール(captor)の2つの部品に接続し、信号をソフトウェアにより分析する。このシステムは、連続した呼吸サイクルの間に、多くのパラメータの定量化を可能にする。このシステムを使用し、気道抵抗性の指標としてEnhanced Respiratory Pause(Penh)を使用して、気管支収縮を3時間にわたって評価した。
【0043】
Penhは、胸部流量および鼻流量の曲線の位相シフトとして概念化され得る;位相シフトの増加は、呼吸器系の抵抗性の増加と相関する。Pehnは、式:Penh=(Te/RT−1)×PEF/PIFによって計算され、この式において、Teは呼気時間であり、RTは弛緩時間であり、PEFはピーク呼気流量であり、そして、PIFは、ピーク弛緩流量である。Penh値は、観察期間の間の、5秒ごとの11の事象(サイクル)の平均に相当する。
【0044】
180分後に実験を終了し、高酸素濃度で換気することによってマウスを回復させ、その後、残存するBHRについて調べた。
【0045】
この実験の期間に、300mMのメタコリンをエアロゾルで投与し、20秒間、プレチスモグラフィチャンバーに入れ、15分の期間にわたって、Penhにより評価した平均気道気管支収縮の読みを取得し、この読みは、メタコリン誘発性のBHRの持続時間である。
【0046】
データを分析した後の、Penh値を図1に示す(エンドトキシン投与後36回の点、メタコリン噴霧後5回の点について)。各点のPenh値は、これらの点の5分前と3分後の間のPenh値の平均に相当する。(図1において、回復期間は、180分におけるPenhの見かけの下降に相当することに注意すること)。
【0047】
(気管支肺胞洗浄(BAL))
鼻腔内エンドトキシン投与後3.5時間に、強力なケタミンおよびキシラジン麻酔下で、各々0.5mlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)の4容量で気道をリンスすることによって、BALを実施した。洗浄流体を遠心分離し、再懸濁し、全細胞を血球細胞計測器(haematocytometer)チャンバーを使用して計数し、そして、Shandon細胞遠心分離機を使用してサイトスピン調製物を調製した。May−Gruenwald−Giemsaで差次的に染色した後、この細胞を分析した。
【0048】
(肺のミエロペルオキシダーゼアッセイ(MPO))
肺における好中球含量を評価するために、本発明者らは、以前に記載されたように、肺におけるミエロペルオキシダーゼ(好中球の主要な酵素)の量を分析した(また、Hoy A,Leininger−Muller B,Kutter D,Siest G,Visvilds S.Clin Chem Lab Med 2002;40(1):2−8を参照のこと)。
【0049】
(肺組織学)
気管支肺胞洗浄後に、マウスを屠殺した。全肺を、摘出し、H&E染色を使用する標準的な顕微鏡分析のために、4%緩衝化ホルムアルデヒド中で固定した。2つの別個の観察者によって、気管支周囲の浸潤および平滑筋の肥厚を半定量的なスコア(0〜3)により評価した。
【0050】
(結果)
(エンドトキシンにより誘導される気管支収縮は、EV131により阻害される)
第1に、本発明者らは、エンドトキシン(1〜100μg)の用量依存性効果を確立し、このエンドトキシンは、致命的でない気管支収縮を誘導した。エンドトキシンは、15〜30分以内に実質的な気管支収縮を誘導することが分かった(データは示さず)。本発明者らは、rEV131の効果を試験するために、さらなる試験について1μgのエンドトキシンの用量を選択した。
【0051】
コントロール群において、LPSは、実質的な気管支収縮を誘導し、この気管支収縮は、約80分でピークに達し、高酸素条件においてマウスを回復させるまで、180分間にわたって、持続した。360μgのrEV131の用量において鼻内に与えた場合、この応答を部分的に阻害したが、90μgおよび180μgがより大きな阻害性効果を有した(図1)。この結果は、最初に驚くべきことであったが、その後、360μgのrEV131を与えたマウスが感染を受けることが分かった。そしておそらく好中球増加症予備処置は、よって代表的であるとは考えられなかった。このマウスからの結果は、その後の分析から排除した。
【0052】
これらのデータは、内因性のヒスタミンがエンドトキシンによって誘導される気管支収縮において役割を果たし、よって、rEV131によるヒスタミンの中和が、ARDSを改善しうることを示唆する。
【0053】
図4は、腹腔内に与えられたrEV131についての類似の効果を示し、これによって、rEV131がLSPを直接結合することができないことが判明した。このことはまた、rEV131がこの経路で投与される場合に有効であることを実証する。
【0054】
(気管支反応亢進(BHR)は、EV131によって阻害される)
本発明者らはまた、エンドトキシン投与し、高酸素条件において回復させた3時間後に、メタコリン誘導性BHRを試験した。第1に、本発明者らは、メタコリン媒介性BHRが、生理食塩水コントロールと比較して、エンドトキシン投与後に生じることを実証した(データは示さず)、この後、本発明者rは、rEV131投与マウスおよびコントロールマウスにおけるメタコリンの効果を調査した。メタコリンは、コントロールマウスにおいて気管支収縮を引き起こしたが、任意の用量レベルのrEV131で処置したマウスにおいては引き起こさなかった(図1)。従って、このデータは、エンドトキシン誘導性反応亢進がヒスタミン依存性であり、rEV131によって弱められ得ることを示唆する。
【0055】
(BALおよび肺における好中球の増員の減少)
エンドトキシンの投与は、BAL流体中の好中球の有意な増員を生じる。本発明者らは、エンドトキシン吸入の3時間後に、コントロール動物に由来するBAL流体中の約105白血球を回収した。rEV131の投与は、そのBAL流体中の総細胞数を減価させなかったが、対照的に、好中球の増員は、180および90μgのrEV131により減少したが、このことは、統計学的有意に達しなかった(p<0.2)。その360μg用量は、効果がなかった(図2);しかし、1匹の動物のみ、この用量で評価し、上記のように、この動物は、その後、感染を受けていると同定された。
【0056】
本発明者らはまた、肺における活性化好中球の増員が変化したか否かを調査した。その好中球増員を定量するために、本発明者らは、新鮮な肺ホモジネートのMPO活性を試験した。このことは、180μgの(p<0.05)および90μg(p<0.01)のrEV131による好中球活性の有意な減少を示した(図3)。360μgを投与した感染マウスにおいて、効果はなかった。
【0057】
図5、6および7は、rEV131およびブデソニド(budenoside)を腹腔内に投与した場合に、BAL流体中の細胞増員を評価するために行った等価な実験である。これらのグラフから明らかであるように、BAL中の総細胞数は、rEV131によって有意に減少し、特に好中球は、有意に減少した。さらに、BAL流体中のTNFの量はまた、rEV131によって減少した(図8を参照のこと)。
【0058】
(肺組織病理)
エンドトキシンを受けたマウスの肺は、多くの好中球による有意な気管支周囲細胞浸潤を示す(データは示さず)。rEV131は、180μgおよび90μgの用量で、好中球の増員を実質的に減少させた(データ示さず)。
【0059】
(結論)
本データは、ヒスタミン結合タンパク質rEV131が、ARDSのマウスモデルにおいて、エンドトキシン誘導性気管支収縮、BHRおよび好中球増員を有意に阻害することを実証する。この効果は、鼻内および腹腔内に投与された場合、両方で明らかである。
【0060】
(実施例2:逆転受身Arthus反応)
(方法)
古典的な逆転受身Arthus反応を、マウスにおいて行い、これは、皮膚における抗血清の注射、続いて抗原の静脈内注射によって誘導される局所免疫複合体病理を示す。使用したこの方法は、以下の通りであった:
(受身Arthus反応の誘導)
C57/BL6(129またはFVB)マウス(6〜8週齢、雄性および雌性)の背部を剃毛した。まず、25μlのニワトリ抗オボアルブミンIgG(抗Ova)(12.5〜200μg)または生理食塩水を、イソフルラン麻酔下で、背部皮膚の皮内に注射した。その直後、100μlのオボアルブミン(Ova)(1mg(0.2% エバンスブルー含有))を、尾静脈に注射した。コントロールマウスには、生理食塩水もしくはウシ血清アルブミンの皮内注射、または生理食塩水もしくはBSAの静脈内注射を与えた(0.2%エバンスブルー含有)。
【0061】
図9に示すスキームは、EVタンパク質による受身Arthus反応の阻害を試験するために使用したプロトコルを記載する:受身Arthus阻害のための最適量の抗オボアルブミンIgG(25μg)または生理食塩水を、試験タンパク質ありまたはなしで、皮内に注射した。
【0062】
(脈管漏出の定量)
免疫複合体の形成およびそれらの局所的沈着は、急性炎症性応答を誘導する。血管拡張および内皮損傷に引き続く血漿タンパク質管外遊出の徴候として、青色変色が、0.2% エバンスブルーを含有するオボアルブミンのi.v.注射を受けたマウスの抗Ova血清の経皮注射部位で15分以内に認められる。その変色を、デジタルカメラで記録した(図10)。
【0063】
その注射部位を、30分で切除し、ハサミで細かくし、ホルムアミド中で一晩消化した。そしてその吸光度を、OD 610nmでELISAプレートリーダーにより測定した。
【0064】
(顕微鏡による注射部位での細胞反応の評価)
その注射部位を、注射して6時間後に切除し、4%緩衝化ホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋し、Leicaミクロトームで5μmに切り出し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、スコアリングシステム(多核型好中球(PMN)による、0、浸潤なし、1、最小限、2、中程度、および3重篤な浸潤)を使用して、顕微鏡によって半定量的に分析した。
【0065】
(結果)
(脈管漏出)
ポジティブコントロール。試験タンパク質の非存在下で、皮膚の注射部位は、15分以内に深い青色に染まった。このことは、脈管漏出を示す(結果は示さず)。
【0066】
ネガティブコントロール。0.2% エバンスブルーを含有する生理食塩水(抗原なし)の静脈内注射は、いかなる脈管漏出も引き起こさなかった(例えば、青色変色なし(結果は示さず))。
【0067】
(EV131およびEV504による脈管漏出の阻害)
その試験タンパク質を、単独で、または抗Ova抗体(部位毎に12.5μg)と一緒にかのいずれかで、皮膚に注射した。その抗Ova抗体を注射した場合、EV131によりほぼ完全に防御され、EV504により部分的に防御された(示さず)。その予測IC50は、EV131およびEV504それぞれについて、16μgと31μgと間の範囲である。これらの実験からの結果は、非常に再現性が高い。対照的に、その試験タンパク質単独での経皮的注射は、いかなる脈管漏出も引き起こさなかった(データは示さず)。
【0068】
(EV131およびEVS04による阻害の用量依存性)
阻害効果の用量依存性を、切除し、消化した皮膚の顕微鏡検査により定量下。EV131およびEV504についてのIC50は、それぞれ、20μgおよび60μgの範囲内であった(図11)。
【0069】
(好中球浸潤)
皮内注射部位を、抗Ovaを注射して56時間後に切除し、組織学のために処理した。抗Ova注射したコントロールマウスの表皮は、異なる脈管周囲好中球浸潤を示した。生理食塩水注射コントロールにおいては浸潤は見出されなかった(図12)。EV131、およびより低い程度でEV504は、皮膚へのPMNのの免疫複合体誘導性増員を有意に減少させた(62.5μg)。正確な定量のために、皮膚サンプリングの間にいくつかの技術的失敗に起因して、その実験を反復することが必要である、この実験の結果を、以下の表1にまとめる。
【0070】
従って、試験タンパク質はともに、逆転Arthus反応において初期の脈管漏出に対して阻害効果を有する。EV131は、このマウスにおける免疫複合体モデルにおいて、EV504より局力であるようである。その脈管漏出の阻害についてのIC50は、EV131およびEV504について、それぞれ、20μgおよび60μgであった(図11)。高用量において、PMNの浸潤は、ほぼ回避された。
【0071】
【表1】
(実施例3:アレルギー性結膜炎)
結膜炎のアレルゲンチャレンジモデル(Abelson MB,Chambers WAおよびLM Smith;Ophthalmology,1990;108:84−88)で誘導されるアレルギー性結膜炎の徴候および症状の予防において、FS−HBP2(rEV131)の安全性および効力を評価するために研究を行った。3種の濃度のrEV131(0.06%、0.12%および0.24% 点眼液)に対して、rEV131ビヒクルの比較を含め、4つの処置を適用した。60被験体を、研究に登録した。
【0072】
測定される一次効力変数には、眼のかゆみおよび発赤を含めた。二次効率変数の一部が測定される場合、好中球数を測定した。これを実行するために、研究に参加した23人の被験体から涙サンプルを回収した。もちろん、19人の被験体が検出可能な好中球数を有した。一方の眼に0.12%(N=3)および0.24%(N=7)の濃度のrEV131を与え、そしてもう片方の眼にプラセボを与えた被験体において、好中球数は、薬物で処置した眼において有意に少なかった(図13を参照のこと)。しかし、片方の眼に0.06%rEV131を与え、そしてもう一方の眼にプラセボを与えた群において、好中球数は、薬物適用を与えた眼において有意に多かった。両側にビヒクルを与えた眼(N=5)において、好中球数に有意差は見られなかった。
【0073】
これらの結果は、未加工の(unpreserved)rEV131が、結膜アレルゲンチャレンジの間または直後に、眼に補充された好中球の数を有意に減少し得ることを示唆する。
【0074】
これらの結果は、実施例1および2で示した結果と組み合わせた場合、未加工のrEV131(すなわち、防腐作用を有する塩化ベンザルコニウムを含まないrEV131溶液であって、これによりタンパク質が複合体化すると推測される)が、眼における急性アレルギー反応において、より特異的に好中球媒介性疾患に関連する炎症およびその後の組織損傷を軽減することに、より有意な役割を果たし得ることを示唆する。後期アレルギー反応は、初期相急性反応中に肥満細胞によって放出される走化因子を介して、白血球が組織中に浸潤することによって媒介される。眼において、細胞浸潤物を伴う生理的後期が存在するが、アレルギー性結膜炎のほとんどの場合は、臨床的に関連する後期を有さない。眼において、重篤な慢性アレルギー性反応のみが、後期反応からなり、これは、特定の閾値に達し、そして臨床的兆候および症状(例えば、角結膜炎で見られる角膜炎およびシールド(shield)潰瘍)を誘導する。しかし、鼻および肺は、眼よりも顕著な臨床的後期反応を現す。このことは、先の臨床研究での結膜アレルゲンチャレンジ(CAC)によって誘導される鼻の症状で見られるrEV131の効果を説明し得る。CACによる、鼻におけるアレルギー反応、および鼻の症状に関して眼に滴下される薬剤の効果は期待されない。なぜなら、アレルゲン、メディエーター、および活性製剤が、眼の表面から鼻涙管を通って鼻腔の下鼻へすべて流れ得、それが、鼻組織における効果を誘発し得るからである。
【0075】
その後の研究は、rEV131のようなヒスタミン結合分子が、好中球媒介性反応(例えば、手術後の炎症または周囲浸潤)を特異的に低減する可能性に焦点を当てる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1B】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1C】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1D】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図2】EV131は、BALにおけるエンドトキシン誘発性の好中球の漸増を阻害する。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、そして、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。全細胞は異ならなかったが、EV131の180μgおよび90μgでは、BALにおいて好中球が減少した。
【図3】EV131は、MPO活性により評価される、肺におけるエンドトキシン誘発性の好中球の漸増を阻害する。180μgおよび90μgのEV131は、肺におけるMPO活性を阻害したが、360μgのEV131は阻害しなかった。
【図4】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮および注射により腹腔内投与されたEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、182μgのEV131をで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。
【図5】rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における全細胞の漸増。
【図6】細胞型により区別した、rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における細胞の漸増。
【図7】rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における全細胞の漸増。
【図8】BAL流体におけるTNFは、腹腔内で与えられたrEV131により減少する。
【図9】皮膚の背部の皮内注射部位1〜8についての概略図。1、2 ネガティブコントロール(生理食塩水);7、8 ポジティブコントロール(抗Ova);3〜6 抗Ova血清と同時に、皮内注射で投与されたEVタンパク質(漸減濃度)によるOvaの効果の阻害。
【図10】WB/ReJ C57Bl/6j−kit wマウス(w/w)における、rEV131による脈管漏出の阻害。
【図11】免疫複合体媒介性の脈管漏出の分光光度定量化。EV131およびEV504の阻害効果の用量依存性。
【図12A】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。ネガティブコントロール
【図12B】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。ポジティブ反応(抗Ova)
【図12C】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。EV131による全阻害(抗Ova+EV131)
【図12D】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。EV504による部分阻害(抗Ova+EV504)
【図13】涙液サンプルにおける好中球数は、ヒト患者における結膜アレルゲンチャレンジの間もしくはその直後に、新鮮なrEV131が、眼に補充された好中球の数を有意に減少することを示唆する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球細胞によって媒介される疾患状態の処置のための新規な方法に関する。この方法は、このような状態に罹患する患者に、治療有効量のヒスタミン結合化合物を投与する工程を包含する。
【0002】
本明細書中に引用される全ての刊行物、特許および特許出願が、その全体において参考として援用される。
【背景技術】
【0003】
多くの炎症性状態および自己免疫状態が、疾患部位への好中球の流入によって特徴付けられる。いくつかの場合において、この流入は、不適切であり、正常組織に損傷を引き起こす。
【0004】
多くのタイプの好中球媒介疾患において、組織損傷は、活性化好中球によって放出される酸化性フリーラジカルと関連していると考えられ(Dahlgren C,Karlsson A.Respiratory burst in human neutrophils.J Immunol Methods 1999 Dec 17;232(1−2):3−14)、そして組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性がこれを定量するために使用され得る。
【0005】
好中球によって媒介される疾患状態の例としては、成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細管漏出症候群;血栓性発作、冠状動脈血栓症、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、肢もしくは指の再移植、臓器移植、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害および挫滅傷害を含む再灌流障害;手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、乾癬;乾癬関節症;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス症候群を含む免疫脈管炎;アルコール性肝臓疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化;痛風;歯周疾患、ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭状結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、白内障、緑内障、角膜移植およびレーザー生体内角膜曲率形成(LASIK)のための手術を含む術後の炎症、重症のアレルギー性結膜炎、春季カタル(VKC)、びまん性層状角膜炎、感染性結膜炎および非限定的結膜炎、角膜炎および眼瞼炎、シールド潰瘍を含む眼の炎症が挙げられる。
【0006】
ヒスタミンが実質的に全てのアレルギー性プロセスおよび炎症性プロセスに関与していることが公知であるものの、以前において、好中球媒介疾患において任意の役割を有するとして意味されていなかった。特定の抗ヒスタミン剤が、この性質の疾患を打ち消すことにおける有用性について試験されているが、これらは、ヒスタミン自体を標的化するというよりもむしろ、ヒスタミンレセプターを標的とする薬剤であった。さらに、他の薬物との併用療法において使用される場合でさえ、このような薬剤は、エンドトキシン誘導肺損傷の動物モデルにおいて試験される場合の制限された用途であった(Byrne K,Sielaff TD,Michna B,Carey PD,Blocher CR,Vasquez A,Sugerman HJ.Crit Care Med.1990 Mar;18(3):303−8;Byrne K,Sielaff TD,Carey PD,Tatum JL,Blocher CR,Vasquez A,Hirsh JI,Sugerman HJ,Circ Shock.1990 Feb;30(2):117−27,Sielaff TD, Sugerman HJ,Tatum JL,Kellum JM,Blocher CR.,J Trauma.1987 Dec;27(12):1313−22;Sielaff TD,Sugeman HJ,Tatum JL,Blocher CR.,Surgery.1987 Aug;102(2):350−7)。ヒト処置プロトコルは、この性質の状態を処置するためにヒスタミン遮断剤を含まない(Bernard GR,Artigas A,Brigham KL,Carlet J,Falke K,Hudson L,Lamy M,Legall JR,Morris A,Spragg R.Am J Respir Crit Care Med 1994 Mar;149(3 Pt 1):818−24)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
好中球媒介疾患は、重要な健康問題であり、有意な罹患率および死亡率に関連している。これらの状態を標的化するための現在の方法は、まったく有効性が足りていない。本発明者らは、現在、これらの疾患状態が、ヒスタミンに直接的に結合し、従って、システムからこの血管作用性アミンを手規定する因子を使用して、非常に有効に処置され得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、患者における好中球細胞によって媒介される疾患状態を処置する方法を提供し、ヒスタミン結合化合物を治療的有効量で、患者に投与する工程を包含する。
【0009】
本発明者らの発見は、疾患部位からヒスタミンを完全に除去することによって、好中球媒介性疾患が打ち消され得ることである。これは、ヒスタミンに対する高い親和性で結合する因子を使用する場合のみ可能であり、これは、これらの状態に対するヒスタミンの効果が以前に同定されていなかった理由の一部を説明する;このタイプのヒスタミン結合因子は、ほんの最近発見され、幅広い使用はない。以前の研究がヒスタミンレセプターに結合する因子を使用することによってヒスタミンについての潜在的な役割を調査していたが、ほんの周辺的な効果が示された。試験状態に影響しないことは、おそらく、存在する種々のヒスタミンレセプター(H1、H2、H3、H4、ならびにまだ発見されていない可能な他のレセプター)に起因していた。結果として、ヒスタミン分子自体よりもむしろヒスタミンレセプターを標的化することによって、使用される因子が、有効でなく、従って、これらの状態におけるヒスタミンの役割が見落とされていた。
【0010】
好中球細胞は、骨髄細胞において産生および成熟し、この組織からそれらの作用部位に移動する。一旦、これらが、この点に達すると、これらの正常な役割は、オプソニン作用または補体系のようなプロセスによって除去のためにマークされた病原性の侵襲性生物を破壊するように作用することである。これらは、細胞傷害性酸化性フリーラジカルの放出および食作用によってこれを達成する。これらはまた、アポトーシスを受けた損傷組織細胞を除去する。これらが定量的または定性的に不適切な化学誘因物質シグナルによって誘因される場合に、これらが、正常な細胞を攻撃し得、好中球媒介性疾患に特徴的な損傷を引き起こし得る。ヒスタミンが、生成されるこのような不適切な化学誘因物質シグナルを引き起こすことに重要であり得るということが、本発明者らの主張である。
【0011】
好中球は、ヒスタミンレセプターを発現することが公知である(Wescott S,Kaliner M.,Inflammation 1983 Sep;7(3):291−300;Burde R,Seifert R,Buschauer A,Schultz G.,Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol 1989 Dec;340(6):671−8)。しかし、この化合物が、循環から非常に迅速に代謝および除去されるので、骨髄におけるそれらの産生および成熟の部位からの好中球の代謝において、ヒスタミンが有意な役割を果たすことはなさそうである。(Ferreira SH,Ng KK,Vane JR.,Br J Pharmacol.1973 Nov;49(3):543−53)。本発明者らが任意の特定の理論によって束縛されることを望まないものの、疾患の部位に好中球を誘因し、それら自体が少なくとも部分的にヒスタミン依存性であることが公知の種々の他の機構によって間接的に作用し得ることがよりありそうであると考えられる。これらとしては、とりわけ以下が挙げられる:脈管内皮細胞(Jones DA,Abbassi O,McIntire LV,McEver RP,Smith CW.,Biophys J 1993 Oct;65(4):1560−9)、ケモカインサイトカイン誘導好中球誘因物質の阻害(Harris JG,Flower RJ,Watanabe K,Tsurufuji S,Wolitzky BA,Perretti M.,Biochem Biophys Res Commun 1996 Apr 25;221(3):692−6)、LTB4の放出(Takeshita K,Sakai K,Bacon KB,Gantner F.J Pharmacol Exp Ther.2003 Dec;307(3):1072−8)およびTリンパ球によるIL−16の放出(Gantner F,Sakai K,Tusche MW,Cruikshank WW,Center DM,Bacon KB,J Pharmacol Exp Ther.2002 Oct;303 (1):300−7)。これらの活性が、異なるヒスタミンレセプターによって媒介されていること、および例えば、IL−16放出がH2レセプターおよびH4レセプターの両方によって制御されるようであるように、かなり重複が存在することが以前に示されている。さらなるヒスタミンレセプターが同定されたままであることもあり得る。
【0012】
さらに、現在、血管内皮によるL−セレクチン接着分子の発現におけるヒスタミンの重要な役割、および骨髄からの好中球のザイモサン誘導性移動におけるヒスタミンH4レセプターの重要な役割についての証拠が存在する(Takeshita K,Bacon KB,Gantner F.J Pharmacol Exp Ther.2004 Mar 2[印刷物に先立つ電子出版])。これらとともに、最近のデータは、好中球の補充および活性化における、多くのレセプターを通じて、しかしほとんどはH4レセプターを通じて作用するヒスタミンの役割、およびヒト疾患の種々のモデルにおけるそれらの関与を支持する。
【0013】
系におけるこの程度の重複性および乱雑性により、単一ヒスタミンレセプター型のブロックが好中球の補充を妨害する可能性は低く、かつこのことが従来調べられたヒスタミンアンタゴニストの明らかな障害の理由である可能性は低い。対照的に、遊離ヒスタミンを除去する化合物は、この薬剤が、まだ発見されていないレセプターを含めそのあらゆるレセプターに到達するのを防止する。この性質は、有用な治療剤としてのその効力に寄与する。
【0014】
多くの疾患状態が、好中球によって媒介される。これらの疾患状態としては、アレルギー状態、炎症状態、および自己免疫常態が挙げられる。特に、注目すべき好中球媒介性疾患状態としては、以下が挙げられる:成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細血管漏出症候群(capillary leak syndrome);再潅流傷害(血栓性脳卒中、冠動脈血栓、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、四肢もしくは指の再移植、器官移植、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害、および挫傷後の傷害が挙げられるが、これらに限定されない);手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、乾癬;乾癬性関節炎;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;免疫性血管炎(ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス病が挙げられるが、これらに限定されない);アルコール性肝疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化症;痛風;歯周病、眼の炎症(ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、手術後の炎症(白内障、緑内障、角膜移植、およびレーザーインサイチュ角膜曲率形成術(LASIK)に対する手術が挙げられる)、重症アレルギー性結膜炎、春季結膜炎(VKC)、びまん性層間角膜炎、感染性および非特異性結膜炎、角膜炎ならびに眼瞼炎が挙げられる)、そしてシールドの潰瘍(shield ulcer)。他の好中球媒介性状態は、当業者に公知である。これらの状態のうちのいずれか一つは、本発明に従って処置され得る。
【0015】
本発明の方法に従って使用されるヒスタミン結合性化合物は、ヒスタミンスカベンジャーとして作用するはずであり、これは、ヒスタミン分子に結合して、系の外へと滴定する。したがって、このようなスカベンジャーは、疾患もしくは傷害の部位に存在する全身性ヒスタミンを「一掃する」。
【0016】
上記ヒスタミン結合性化合物は、好ましくは少なくとも10−5Mの親和性、より好ましくは10−6M未満か、10−7M未満か、10−8M未満か、10−9M未満か、10−10M未満かまたはより低い親和性で、ヒスタミンに結合すべきである。試験化合物のヒスタミンに対する親和性を試験し得る適切なヒスタミン結合アッセイは、国際特許出願WO97/44451に示される。
【0017】
上記ヒスタミン結合性化合物は、好ましくは、血管作用性アミン、特にヒスタミンに対して特異的であるべきである。特異性を測定するための方法は、当業者に公知であり、そしてこの方法としては、競合アッセイなどが挙げられる。好ましくは、ヒスタミン結合性化合物によって表されるヒスタミンに対する親和性は、非関連性化合物に対して示される親和性よりも100倍大きい。より好ましくは、103倍,104倍,105倍,106倍またはそれ以上大きい。
【0018】
本発明で使用されるヒスタミン結合性化合物は、合成化合物でも、天然の化合物(例えば、タンパク質)でもよい。多くのタンパク質は、ヒスタミンに対する特異的な高親和性結合を示すことが知られている。一つの可能性は、ヒスタミンに特異的な抗体または抗体フラグメントを使用することである。好ましいタンパク質は、国際特許出願WO97/44451(この内容は、本明細書においてその全体が参考として援用される)において血管作用性アミン結合分子と称される化合物である。用語「血管作用性アミン結合分子」としては、以下を包含することが意図される:
(a)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合し、国際特許出願番号WO97/44451に開示されるMS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2と同じタンパク質ファミリーに属する、あらゆる血管作用性アミン結合タンパク質(タンパク質は、そのタンパク質の一次成熟モノマー配列が260アミノ酸以上を有さず、かつそのタンパク質の完全配列中のアミノ酸のうち少なくとも30個が、そのタンパク質と、タンパク質MS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2とのアラインメントで同一の残基として保存されている場合、上記タンパク質ファミリーに属するとみなされる。上記アラインメントは、好ましくは、ClustalW(Thompsonら,1994,NAR,22(22),4673−4680)または同様の配列アラインメントプログラムを用いて得られている);
(b)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合し、そして配列モチーフD/E A W K/R(好ましくはDAWK、より好ましくはQDAWK)およびY/C E/D L/I/F W(好ましくはY/C ELW)を含む、haematophagous arthropod由来のタンパク質;
(c)上記(a)または(b)で定義されたタンパク質の、天然の生物学的改変体(例えば、対立遺伝子改変体もしくは地理的改変体);
(d)上記(a)、(b)または(c)で定義されたタンパク質の機能的等価物(この等価物は、ヒスタミンに結合する生物学的機能に影響を及ぼさない、野生型タンパク質配列からの単一もしくは複数のアミノ酸の置換、挿入および/もしくは欠失、ならびに/または化学的に修飾されたアミノ酸の置換を含む);
(e)上記(a)、(b)、(c)または(d)で定義されたタンパク質の活性フラグメント(「活性フラグメント」とは、ヒスタミンに結合する生物学的機能を残す短縮型タンパク質を指す);そして
(f)ペプチドまたは他のタンパク質(例えば標識であって、例えば、生物活性、放射活性、酵素、もしくは蛍光であり得るか、または抗体であり得る)に融合された上記(a)、(b)、(c)、(d)または(e)で定義されたタンパク質を含む、融合タンパク質。
【0019】
WO97/44451において、FS−HBP2(EV131としても知られる)と称されるタンパク質、または上記(a)、(b)、(c)、(d)または(e)で引用される、その改変体もしくはそれらの活性フラグメントが、特に好ましい。
【0020】
このタンパク質は、ヒスタミンに高親和性および高特異的に結合し、そして本明細書において、好中球媒介性疾患の動物モデルにおいて有効であるであることが示される。
【0021】
上記(e)に従う活性フラグメントは、ヒスタミンとの結合を担うタンパク質の配列由来の少なくともn個の連続するアミノ酸を含むべきである。特定の配列に依存して、nは、好ましくは7以上(例えば、8、10、12、14、16、18、20、50、100、150、200、250またはそれ以上)である。このようなフラグメントは、「独立(free−standing)」(すなわち、他のアミノ酸のしくはポリペプチドの一部でもなく、それらに融合してもいない)であり得るか、またはこれらのフラグメントは、それらが一部をなす、より大きなポリペプチド内に含まれ得る。より大きなポリペプチド内に含まれる場合、本発明のフラグメントは、最も好ましくは、単一の連続領域を形成する。さらに、いくつかのフラグメントは、単一のより大きなポリペプチド内に含まれ得る。
【0022】
本発明における使用のためのヒスタミン結合タンパク質は、宿主細胞中に含まれるベクター内のそれらをコードする核酸分子の発現によって、組み換え形態で調製され得る。このような発現方法は、当業者に周知であり、多くの方法が、Sambrookら(上述)ならびにFernandezおよびHoeffler(1998(編)「Gene expression systems.Using nature for the art of expression」Academic Press,San Diego,London,Boston,New York,Sydney,Tokyo,Toronto)によって詳細に記載される。血管作用性アミン結合タンパク質についてのこれらのコード配列は、上述されており、そして国際特許出願WO97/44451に示される。これらの分子(適切なベクター、宿主細胞が挙げられる)の作製のための方法およびタンパク質を精製する方法もまた、この特許出願に記載される。
【0023】
ヒスタミン結合化合物は、薬学的組成物に処方され得る。この薬学的組成物は、例えば、単回用量容器または複数回用量容器で提示される。例えば、密封されたアンプルおよびバイアルであって、使用直前における滅菌液体キャリアの添加のみを必要とするフリーズドライ状態で保存され得る。投与量は、ヒスタミン結合性化合物の特定の活性に依存し、慣習的な実験によって容易に決定され得る。
【0024】
薬学的組成物はまた、治療剤の投与のため、薬学的に受容可能なキャリアを含有し得る。このようなキャリアとしては、抗体および他のポリペプチド、遺伝子、ならびに他の治療剤(例えば、ポソーム)が挙げられる。ただし、このキャリアは、それ自身はこの組成物を受容する個体に有害な抗体の産生を誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る。適切なキャリアは、大きな、ゆっくりと代謝される高分子(例えば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー、および不活化ウイルス粒子)であり得る。
【0025】
薬学的に受容可能な塩が、上記中で使用され得る。例えば、鉱酸塩(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸など);および有機酸の塩(例えば、アセテート、プロピオネート、マロネート、ベンゾエートなど)である。薬学的に受容可能なキャリアの全体的な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.,N.J.1991)において得られる。
【0026】
治療用組成物における薬学的に受容可能なキャリアは、液体(例えば、水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノール)をさらに含み得る。さらに、補助的物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝物質など)が、このような組成物中に存在し得る。このようなキャリアは、薬学的組成物の、患者が摂取するための錠剤、丸剤、糖剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などとしての処方を可能にする。
【0027】
一旦処方された場合、本発明の組成物は、被験体に直接的に投与され得る。処置されるべき被験体は、動物であり得る。特に、ヒト被験体が処置され得る。
【0028】
本発明で利用されるヒスタミン結合化合物または薬学的組成物は、多数の経路で投与され得る。この経路としては、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、鞘内、脳室内、経皮(transdermal)、もしくは経皮(transcutaneous)塗布(例えば、WO98/20734を参照のこと)、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、膣内もしくは直腸手段が挙げられるが、これらに限定されない。ヒスタミン結合タンパク質の場合、タンパク質は胃で分解され得るので、これらのタンパク質は、好ましくは非経口的に投与され得る(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内注入)。非経口投与のために適切な処方物としては、水性および非水性の滅菌注入溶液(これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌薬およびレシピエントの血液と等張の処方物を提供する溶質を含み得る)、ならびに水性および非水性の滅菌懸濁液(これらは、懸濁剤もしくは増粘剤を含み得る)が挙げられる。
【0029】
組成物の直接送達は、一般的に、皮下、腹腔内、静脈内、もしくは筋肉内への注入によって達成されるか、または組織の間質空間に送達され得る。組成物はまた、病変に投与され得る。投薬処置はまた、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールであり得る。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「治療有効量」とは、標的の好中球媒介性疾患状態を処置、回復、もしくは予防し、または検出可能な治療効果もしくは予防効果を示すのに必要なヒスタミン結合性化合物の量を指す。任意の化合物に対して、この治療有効用量は、細胞培養アッセイ(例えば、新生物細胞)または動物モデル(通常、マウス、ウサギ、イヌ、もしくはブタ)のいずれかにおいて、最初に推定され得る。動物モデルはまた、適切な濃度範囲および投与経路を決定するために使用され得る。次いで、このような情報は、ヒトにおいて有用な用量および投与経路を決定するために使用され得る。
【0031】
ヒト被験体についての正確な有効量は、疾患状態の重篤度、被験体の全身の健康状態、被験体の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応の感受性、ならびに、治療に対する耐性/応答に依存する。この量は、慣用的な実験によって決定され得、そして、臨床医の診断の範囲内である。一般に、有効用量は、0.005mg/kg〜50mg/kg、好ましくは、0.125mg/kg〜20mg/kgである。例えば、血管作用性のアミン結合分子(例えば、EV131およびEV504)の特に好ましい投薬量は、本明細書において、0.1〜20mg/kgの間、好ましくは、0.5〜10mg/kgの間、なおより好ましくは、1〜2mg/kgの間といわれる。組成物は、患者に個々に投与され得るか、または、他の薬剤、薬物もしくはホルモンと組み合わせて投与され得る。
【0032】
遺伝子治療は、患者における特定の細胞による、ヒスタミン結合タンパク質の内因性の産生を達成するように用いられ得る。遺伝子治療は、インビボまたはエキソビボのいずれかで行われ得る。エキソビボの遺伝子治療は、患者の細胞の単離、治療遺伝子の導入、ならびに、遺伝子的に変更された細胞の患者への逆導入を必要とする。対照的に、インビボの遺伝子治療は、患者の細胞の単離および精製を必要としない。
【0033】
治療遺伝子は、代表的に、患者への投与のために「パッケージング」されている。遺伝子送達ビヒクルは、非ウイルス性のもの(例えば、リポソーム)であっても、複製欠損型ウイルスベクター(例えば、Berkner,K.L.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158,39−66(1992)に記載されるアデノウイルスベクター、またはMuzyczka,N.,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158,97−129(1992)および米国特許第5,252,479号に記載されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター)であってもよい。例えば、ヒスタミン結合タンパク質をコードする核酸分子は、複製欠損型レトロウイルスベクターにおいて発現させるために遺伝子操作され得る。この発現構築物は、次いで、単離され、そして、このポリペプチドをコードするRNAを含むレトロウイルスプラスミドベクターを用いて形質導入されたパッケージング細胞に導入され、その結果、このパッケージング細胞は、ここで、目的の遺伝子を含む感染性ウイルス粒子を産生する。これらの産生細胞は、インビボで細胞を遺伝子操作するため、およびインビボでのポリペプチドを発現させるために、被験体に投与され得る(Gene Therapy and other Molecular Genetic−based Therapeutic Approaches,第20章,Human Molecular Genetics(1996),T StrachanおよびA P Read,BIOS Scientific Publishers Ltd(およびその中で引用されている参考文献)を参照のこと)。
【0034】
別のアプローチは、治療用ヒスタミン結合化合物が、血流または筋肉組織に直接注射される、「裸のDNA」の投与である。
【0035】
本発明のなおさらなる局面によれば、好中球により媒介される疾患状態(特に、本明細書中に明記されている疾患)の処置のための医薬の製造における、上記の本発明の局面のいずれか1つにおいて列挙されたようなヒスタミン結合化合物の使用が提供される。
【0036】
本発明は、ここで、一例として、マウスのエンドトキシン誘発性ARDSの実験モデルにおけるEV131タンパク質の使用を明示的に参照して説明される。詳細の改変が、本発明の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0037】
(実施例1:アレルギー性喘息)
組換え型の、節足動物由来のヒスタミン結合タンパク質EV131は、高い親和性で結合する(Paesen,G.C.,P.L.Adams,K.Harlos,P.A.NuttallおよびD.I.Stuart.1999,Mol Cell 3:661;Paesen,G.C.,P.L.Adams,P.A.NuttallおよびD.L.Stuart.2000,Biochim Biophys Acta 1482:92)。
【0038】
最初に、EV131が、ヒスタミンにより媒介される病理学を阻害し得るかどうかを確認するために、試験を行なった。それゆえ、EV131を、アレルギー性喘息において試験した。免疫したマウスの抗原チャレンジ前に与えたEV131は、気道の反応性亢進を70%防止し、気管支周囲の炎症、肺の好酸球増加、粘膜の過分泌およびIL−4の分泌を抑止したことを見出した(Couilllinら、投稿中)。EV131の、気管支の反応性亢進に対する阻害効果は、糖質コルチコイドステロイドの阻害効果に匹敵した。これらの結果は、ヒスタミンが、アレルギー性喘息の臨床的メディエーターであることを示している。
【0039】
アレルギー性喘息と共通する特定の特徴を示すこれらの試験の結果は、本発明者らが、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を調査することを促した。ARDSについてのモデルを、E.coliのエンドトキシンの単回投与を使用して確立した(Lefort,J.,L.MotreffおよびB.B.Vargaftig.2001,Am J Respir Cell Mol Biol 24:345)。ここで、EV131が、気管支収縮および好中球の漸増を劇的に阻害することが示される。
【0040】
(方法)
(E.coliのエンドトキシンによる急性気管支収縮の誘発)
まず、マウスを殺傷することなく、最大の気道応答を生じるエンドトキシンの最適用量を、コントロールとして生理食塩水のみを使用して確立した。これは、1μgであると決定した(データ示さず)。E.coliのエンドトキシン(055:B5,Sigma)を生理食塩水に溶解し、(咳を防止するための)i.v.ケタミン麻酔下で、鼻腔内経路を介して、40μl中1μgの用量で、C57BL/6マウスに与えた。rEV131を、3つの用量レベル(90、180および360μg、4.5〜18mg/Kg)で、異なる群のマウスに与え、その直後に、同じ経路でエンドトキシンを与えた。コントロールには、生理食塩水のみを与えた。
【0041】
このモデルを使用する実験の第2のセットにおいて、350μgのブデノシド(ポジティブコントロール)、生理食塩水(ネガティブコントロール)および182μgのrEV131を、1μgのLPS投与(ここでも、鼻腔吸入により与えた)の1時間前に、注射により腹腔内に与えた。
【0042】
(気道抵抗性:プレチスモグラフィ)
気道抵抗性を、エンドトキシン投与の3時間後の全身プレチスモグラフィにより評価した。次いで、回復期間の後、エアロゾルで投与したメタコリンに対する気管支の反応性亢進(BHR)を調べた。エンドトキシン、および活性投薬またはコントロール投薬のいずれかを受けた、抑制されていない意識のあるマウスを、まず、全身プレチスモグラフィチャンバー(Buxco Electronic,Sharon,CO,USA)に入れた。このマウスを、一定気流を保証する吸引ポンプに接続された、2つのバロメトリックプレチスモグラフィチャンバーのうちの一方に入れる。動物を、第2のチャンバーと隔てられた第1のチャンバーに入れ、この第2のチャンバーにおいては、圧力が、大気圧に相当する。各コンパートメントを、それ自体が、電子増幅器に接続された差次的圧力カプトール(captor)の2つの部品に接続し、信号をソフトウェアにより分析する。このシステムは、連続した呼吸サイクルの間に、多くのパラメータの定量化を可能にする。このシステムを使用し、気道抵抗性の指標としてEnhanced Respiratory Pause(Penh)を使用して、気管支収縮を3時間にわたって評価した。
【0043】
Penhは、胸部流量および鼻流量の曲線の位相シフトとして概念化され得る;位相シフトの増加は、呼吸器系の抵抗性の増加と相関する。Pehnは、式:Penh=(Te/RT−1)×PEF/PIFによって計算され、この式において、Teは呼気時間であり、RTは弛緩時間であり、PEFはピーク呼気流量であり、そして、PIFは、ピーク弛緩流量である。Penh値は、観察期間の間の、5秒ごとの11の事象(サイクル)の平均に相当する。
【0044】
180分後に実験を終了し、高酸素濃度で換気することによってマウスを回復させ、その後、残存するBHRについて調べた。
【0045】
この実験の期間に、300mMのメタコリンをエアロゾルで投与し、20秒間、プレチスモグラフィチャンバーに入れ、15分の期間にわたって、Penhにより評価した平均気道気管支収縮の読みを取得し、この読みは、メタコリン誘発性のBHRの持続時間である。
【0046】
データを分析した後の、Penh値を図1に示す(エンドトキシン投与後36回の点、メタコリン噴霧後5回の点について)。各点のPenh値は、これらの点の5分前と3分後の間のPenh値の平均に相当する。(図1において、回復期間は、180分におけるPenhの見かけの下降に相当することに注意すること)。
【0047】
(気管支肺胞洗浄(BAL))
鼻腔内エンドトキシン投与後3.5時間に、強力なケタミンおよびキシラジン麻酔下で、各々0.5mlの氷冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)の4容量で気道をリンスすることによって、BALを実施した。洗浄流体を遠心分離し、再懸濁し、全細胞を血球細胞計測器(haematocytometer)チャンバーを使用して計数し、そして、Shandon細胞遠心分離機を使用してサイトスピン調製物を調製した。May−Gruenwald−Giemsaで差次的に染色した後、この細胞を分析した。
【0048】
(肺のミエロペルオキシダーゼアッセイ(MPO))
肺における好中球含量を評価するために、本発明者らは、以前に記載されたように、肺におけるミエロペルオキシダーゼ(好中球の主要な酵素)の量を分析した(また、Hoy A,Leininger−Muller B,Kutter D,Siest G,Visvilds S.Clin Chem Lab Med 2002;40(1):2−8を参照のこと)。
【0049】
(肺組織学)
気管支肺胞洗浄後に、マウスを屠殺した。全肺を、摘出し、H&E染色を使用する標準的な顕微鏡分析のために、4%緩衝化ホルムアルデヒド中で固定した。2つの別個の観察者によって、気管支周囲の浸潤および平滑筋の肥厚を半定量的なスコア(0〜3)により評価した。
【0050】
(結果)
(エンドトキシンにより誘導される気管支収縮は、EV131により阻害される)
第1に、本発明者らは、エンドトキシン(1〜100μg)の用量依存性効果を確立し、このエンドトキシンは、致命的でない気管支収縮を誘導した。エンドトキシンは、15〜30分以内に実質的な気管支収縮を誘導することが分かった(データは示さず)。本発明者らは、rEV131の効果を試験するために、さらなる試験について1μgのエンドトキシンの用量を選択した。
【0051】
コントロール群において、LPSは、実質的な気管支収縮を誘導し、この気管支収縮は、約80分でピークに達し、高酸素条件においてマウスを回復させるまで、180分間にわたって、持続した。360μgのrEV131の用量において鼻内に与えた場合、この応答を部分的に阻害したが、90μgおよび180μgがより大きな阻害性効果を有した(図1)。この結果は、最初に驚くべきことであったが、その後、360μgのrEV131を与えたマウスが感染を受けることが分かった。そしておそらく好中球増加症予備処置は、よって代表的であるとは考えられなかった。このマウスからの結果は、その後の分析から排除した。
【0052】
これらのデータは、内因性のヒスタミンがエンドトキシンによって誘導される気管支収縮において役割を果たし、よって、rEV131によるヒスタミンの中和が、ARDSを改善しうることを示唆する。
【0053】
図4は、腹腔内に与えられたrEV131についての類似の効果を示し、これによって、rEV131がLSPを直接結合することができないことが判明した。このことはまた、rEV131がこの経路で投与される場合に有効であることを実証する。
【0054】
(気管支反応亢進(BHR)は、EV131によって阻害される)
本発明者らはまた、エンドトキシン投与し、高酸素条件において回復させた3時間後に、メタコリン誘導性BHRを試験した。第1に、本発明者らは、メタコリン媒介性BHRが、生理食塩水コントロールと比較して、エンドトキシン投与後に生じることを実証した(データは示さず)、この後、本発明者rは、rEV131投与マウスおよびコントロールマウスにおけるメタコリンの効果を調査した。メタコリンは、コントロールマウスにおいて気管支収縮を引き起こしたが、任意の用量レベルのrEV131で処置したマウスにおいては引き起こさなかった(図1)。従って、このデータは、エンドトキシン誘導性反応亢進がヒスタミン依存性であり、rEV131によって弱められ得ることを示唆する。
【0055】
(BALおよび肺における好中球の増員の減少)
エンドトキシンの投与は、BAL流体中の好中球の有意な増員を生じる。本発明者らは、エンドトキシン吸入の3時間後に、コントロール動物に由来するBAL流体中の約105白血球を回収した。rEV131の投与は、そのBAL流体中の総細胞数を減価させなかったが、対照的に、好中球の増員は、180および90μgのrEV131により減少したが、このことは、統計学的有意に達しなかった(p<0.2)。その360μg用量は、効果がなかった(図2);しかし、1匹の動物のみ、この用量で評価し、上記のように、この動物は、その後、感染を受けていると同定された。
【0056】
本発明者らはまた、肺における活性化好中球の増員が変化したか否かを調査した。その好中球増員を定量するために、本発明者らは、新鮮な肺ホモジネートのMPO活性を試験した。このことは、180μgの(p<0.05)および90μg(p<0.01)のrEV131による好中球活性の有意な減少を示した(図3)。360μgを投与した感染マウスにおいて、効果はなかった。
【0057】
図5、6および7は、rEV131およびブデソニド(budenoside)を腹腔内に投与した場合に、BAL流体中の細胞増員を評価するために行った等価な実験である。これらのグラフから明らかであるように、BAL中の総細胞数は、rEV131によって有意に減少し、特に好中球は、有意に減少した。さらに、BAL流体中のTNFの量はまた、rEV131によって減少した(図8を参照のこと)。
【0058】
(肺組織病理)
エンドトキシンを受けたマウスの肺は、多くの好中球による有意な気管支周囲細胞浸潤を示す(データは示さず)。rEV131は、180μgおよび90μgの用量で、好中球の増員を実質的に減少させた(データ示さず)。
【0059】
(結論)
本データは、ヒスタミン結合タンパク質rEV131が、ARDSのマウスモデルにおいて、エンドトキシン誘導性気管支収縮、BHRおよび好中球増員を有意に阻害することを実証する。この効果は、鼻内および腹腔内に投与された場合、両方で明らかである。
【0060】
(実施例2:逆転受身Arthus反応)
(方法)
古典的な逆転受身Arthus反応を、マウスにおいて行い、これは、皮膚における抗血清の注射、続いて抗原の静脈内注射によって誘導される局所免疫複合体病理を示す。使用したこの方法は、以下の通りであった:
(受身Arthus反応の誘導)
C57/BL6(129またはFVB)マウス(6〜8週齢、雄性および雌性)の背部を剃毛した。まず、25μlのニワトリ抗オボアルブミンIgG(抗Ova)(12.5〜200μg)または生理食塩水を、イソフルラン麻酔下で、背部皮膚の皮内に注射した。その直後、100μlのオボアルブミン(Ova)(1mg(0.2% エバンスブルー含有))を、尾静脈に注射した。コントロールマウスには、生理食塩水もしくはウシ血清アルブミンの皮内注射、または生理食塩水もしくはBSAの静脈内注射を与えた(0.2%エバンスブルー含有)。
【0061】
図9に示すスキームは、EVタンパク質による受身Arthus反応の阻害を試験するために使用したプロトコルを記載する:受身Arthus阻害のための最適量の抗オボアルブミンIgG(25μg)または生理食塩水を、試験タンパク質ありまたはなしで、皮内に注射した。
【0062】
(脈管漏出の定量)
免疫複合体の形成およびそれらの局所的沈着は、急性炎症性応答を誘導する。血管拡張および内皮損傷に引き続く血漿タンパク質管外遊出の徴候として、青色変色が、0.2% エバンスブルーを含有するオボアルブミンのi.v.注射を受けたマウスの抗Ova血清の経皮注射部位で15分以内に認められる。その変色を、デジタルカメラで記録した(図10)。
【0063】
その注射部位を、30分で切除し、ハサミで細かくし、ホルムアミド中で一晩消化した。そしてその吸光度を、OD 610nmでELISAプレートリーダーにより測定した。
【0064】
(顕微鏡による注射部位での細胞反応の評価)
その注射部位を、注射して6時間後に切除し、4%緩衝化ホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋し、Leicaミクロトームで5μmに切り出し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、スコアリングシステム(多核型好中球(PMN)による、0、浸潤なし、1、最小限、2、中程度、および3重篤な浸潤)を使用して、顕微鏡によって半定量的に分析した。
【0065】
(結果)
(脈管漏出)
ポジティブコントロール。試験タンパク質の非存在下で、皮膚の注射部位は、15分以内に深い青色に染まった。このことは、脈管漏出を示す(結果は示さず)。
【0066】
ネガティブコントロール。0.2% エバンスブルーを含有する生理食塩水(抗原なし)の静脈内注射は、いかなる脈管漏出も引き起こさなかった(例えば、青色変色なし(結果は示さず))。
【0067】
(EV131およびEV504による脈管漏出の阻害)
その試験タンパク質を、単独で、または抗Ova抗体(部位毎に12.5μg)と一緒にかのいずれかで、皮膚に注射した。その抗Ova抗体を注射した場合、EV131によりほぼ完全に防御され、EV504により部分的に防御された(示さず)。その予測IC50は、EV131およびEV504それぞれについて、16μgと31μgと間の範囲である。これらの実験からの結果は、非常に再現性が高い。対照的に、その試験タンパク質単独での経皮的注射は、いかなる脈管漏出も引き起こさなかった(データは示さず)。
【0068】
(EV131およびEVS04による阻害の用量依存性)
阻害効果の用量依存性を、切除し、消化した皮膚の顕微鏡検査により定量下。EV131およびEV504についてのIC50は、それぞれ、20μgおよび60μgの範囲内であった(図11)。
【0069】
(好中球浸潤)
皮内注射部位を、抗Ovaを注射して56時間後に切除し、組織学のために処理した。抗Ova注射したコントロールマウスの表皮は、異なる脈管周囲好中球浸潤を示した。生理食塩水注射コントロールにおいては浸潤は見出されなかった(図12)。EV131、およびより低い程度でEV504は、皮膚へのPMNのの免疫複合体誘導性増員を有意に減少させた(62.5μg)。正確な定量のために、皮膚サンプリングの間にいくつかの技術的失敗に起因して、その実験を反復することが必要である、この実験の結果を、以下の表1にまとめる。
【0070】
従って、試験タンパク質はともに、逆転Arthus反応において初期の脈管漏出に対して阻害効果を有する。EV131は、このマウスにおける免疫複合体モデルにおいて、EV504より局力であるようである。その脈管漏出の阻害についてのIC50は、EV131およびEV504について、それぞれ、20μgおよび60μgであった(図11)。高用量において、PMNの浸潤は、ほぼ回避された。
【0071】
【表1】
(実施例3:アレルギー性結膜炎)
結膜炎のアレルゲンチャレンジモデル(Abelson MB,Chambers WAおよびLM Smith;Ophthalmology,1990;108:84−88)で誘導されるアレルギー性結膜炎の徴候および症状の予防において、FS−HBP2(rEV131)の安全性および効力を評価するために研究を行った。3種の濃度のrEV131(0.06%、0.12%および0.24% 点眼液)に対して、rEV131ビヒクルの比較を含め、4つの処置を適用した。60被験体を、研究に登録した。
【0072】
測定される一次効力変数には、眼のかゆみおよび発赤を含めた。二次効率変数の一部が測定される場合、好中球数を測定した。これを実行するために、研究に参加した23人の被験体から涙サンプルを回収した。もちろん、19人の被験体が検出可能な好中球数を有した。一方の眼に0.12%(N=3)および0.24%(N=7)の濃度のrEV131を与え、そしてもう片方の眼にプラセボを与えた被験体において、好中球数は、薬物で処置した眼において有意に少なかった(図13を参照のこと)。しかし、片方の眼に0.06%rEV131を与え、そしてもう一方の眼にプラセボを与えた群において、好中球数は、薬物適用を与えた眼において有意に多かった。両側にビヒクルを与えた眼(N=5)において、好中球数に有意差は見られなかった。
【0073】
これらの結果は、未加工の(unpreserved)rEV131が、結膜アレルゲンチャレンジの間または直後に、眼に補充された好中球の数を有意に減少し得ることを示唆する。
【0074】
これらの結果は、実施例1および2で示した結果と組み合わせた場合、未加工のrEV131(すなわち、防腐作用を有する塩化ベンザルコニウムを含まないrEV131溶液であって、これによりタンパク質が複合体化すると推測される)が、眼における急性アレルギー反応において、より特異的に好中球媒介性疾患に関連する炎症およびその後の組織損傷を軽減することに、より有意な役割を果たし得ることを示唆する。後期アレルギー反応は、初期相急性反応中に肥満細胞によって放出される走化因子を介して、白血球が組織中に浸潤することによって媒介される。眼において、細胞浸潤物を伴う生理的後期が存在するが、アレルギー性結膜炎のほとんどの場合は、臨床的に関連する後期を有さない。眼において、重篤な慢性アレルギー性反応のみが、後期反応からなり、これは、特定の閾値に達し、そして臨床的兆候および症状(例えば、角結膜炎で見られる角膜炎およびシールド(shield)潰瘍)を誘導する。しかし、鼻および肺は、眼よりも顕著な臨床的後期反応を現す。このことは、先の臨床研究での結膜アレルゲンチャレンジ(CAC)によって誘導される鼻の症状で見られるrEV131の効果を説明し得る。CACによる、鼻におけるアレルギー反応、および鼻の症状に関して眼に滴下される薬剤の効果は期待されない。なぜなら、アレルゲン、メディエーター、および活性製剤が、眼の表面から鼻涙管を通って鼻腔の下鼻へすべて流れ得、それが、鼻組織における効果を誘発し得るからである。
【0075】
その後の研究は、rEV131のようなヒスタミン結合分子が、好中球媒介性反応(例えば、手術後の炎症または周囲浸潤)を特異的に低減する可能性に焦点を当てる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1B】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1C】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図1D】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮およびEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。3時間において、メタコリンに対する応答を分析した。コードS01、S02などは、各々、個々のマウスを表す(souris)。
【図2】EV131は、BALにおけるエンドトキシン誘発性の好中球の漸増を阻害する。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、そして、EV131を360μg、180μgおよび90μgで与えた。全細胞は異ならなかったが、EV131の180μgおよび90μgでは、BALにおいて好中球が減少した。
【図3】EV131は、MPO活性により評価される、肺におけるエンドトキシン誘発性の好中球の漸増を阻害する。180μgおよび90μgのEV131は、肺におけるMPO活性を阻害したが、360μgのEV131は阻害しなかった。
【図4】エンドトキシン(LPS)誘発性の気管支収縮および注射により腹腔内投与されたEV131による阻害。LPSを、鼻腔内経路により1μgで与え、182μgのEV131をで与えた。PenH値を3時間にわたって測定した。
【図5】rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における全細胞の漸増。
【図6】細胞型により区別した、rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における細胞の漸増。
【図7】rEV131およびブデノシドが腹腔内で与えられる場合の、BAL流体における全細胞の漸増。
【図8】BAL流体におけるTNFは、腹腔内で与えられたrEV131により減少する。
【図9】皮膚の背部の皮内注射部位1〜8についての概略図。1、2 ネガティブコントロール(生理食塩水);7、8 ポジティブコントロール(抗Ova);3〜6 抗Ova血清と同時に、皮内注射で投与されたEVタンパク質(漸減濃度)によるOvaの効果の阻害。
【図10】WB/ReJ C57Bl/6j−kit wマウス(w/w)における、rEV131による脈管漏出の阻害。
【図11】免疫複合体媒介性の脈管漏出の分光光度定量化。EV131およびEV504の阻害効果の用量依存性。
【図12A】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。ネガティブコントロール
【図12B】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。ポジティブ反応(抗Ova)
【図12C】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。EV131による全阻害(抗Ova+EV131)
【図12D】Arthus反応の部位におけるPMNの浸潤。6時間における注射部位の顕微鏡研究。EV504による部分阻害(抗Ova+EV504)
【図13】涙液サンプルにおける好中球数は、ヒト患者における結膜アレルゲンチャレンジの間もしくはその直後に、新鮮なrEV131が、眼に補充された好中球の数を有意に減少することを示唆する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における好中球によって媒介される疾患状態を処置する方法であって、該方法は、該患者に治療有効量のヒスタミン結合化合物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記疾患状態は、アレルギー状態、炎症状態または自己免疫状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記疾患状態は、以下:
成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸器症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細管漏出症候群;血栓性発作、冠状動脈血栓症、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、肢もしくは指の再移植、臓器移植、手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害および挫滅傷害を含む再灌流障害;乾癬;乾癬関節症;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス病症候群を含む免疫脈管炎;アルコール性肝臓疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化;痛風;歯周疾患、ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭状結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、白内障の手術後の炎症、緑内障の手術後の炎症、角膜移植の手術後の炎症および角膜内切削形成術(LASIK)の手術後の炎症を含む術後の炎症、重症のアレルギー性結膜炎、春季カタル(VKC)、びまん性層状角膜炎、感染性結膜炎および非限定的結膜炎、角膜炎および眼瞼炎、シールド潰瘍を包含する眼の炎症、
からなる群より選択される、方法。
【請求項4】
前記ヒスタミン結合化合物は、ヒスタミンスカベンジャーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒスタミンスカベンジャーは、10−7Mより大きい解離定数でヒスタミンに結合する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒスタミン結合化合物は、タンパク質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒスタミン結合タンパク質は、血管作用性アミン結合タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、前記血管作用性アミン結合タンパク質は、
a)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合する任意の血管作用性アミン結合タンパク質であって、該タンパク質は、国際特許出願番号WO97/44451において開示されるタンパク質であるMS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2と同じタンパク質ファミリーに属し、ここで、タンパク質は、該タンパク質の1次成熟モノマー配列が260アミノ酸以下を有し、かつ該タンパク質の完全配列中のアミノ酸のうちの少なくとも30個、好ましくは、少なくとも40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個以上が、該タンパク質と該タンパク質MS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2のとのアライメントにおいて同一の残基として保存される場合に、該タンパク質ファミリーに属すると考えられており、該アライメントは、好ましくは、ClustalWを用いて得られた(Thompsonら、1994,NAR,22(22),4673−4680)、血管作用性アミン結合タンパク質;
b)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合する吸血性節足動物由来のタンパク質であって、該タンパク質は、配列モチーフD/E A W K/R(好ましくはDAWK、より好ましくはQDAWK)およびY/C E/D L/I/F W(好ましくはY/C ELW)を含む、タンパク質;
c)上記の(a)または(b)において規定されるタンパク質の天然の生物学的改変体(例えば、対立遺伝子改変体または地理的改変体);
d)上記の(a)、(b)または(c)において規定されるタンパク質の機能的等価物であって、該等価物は、ヒスタミンに結合する生物学的機能に影響しない、野生型タンパク質配列からの1つまたは複数のアミノ酸置換、アミノ酸付加、アミノ酸挿入および/またはアミノ酸欠失、ならびに/あるいは、化学的に改変されたアミノ酸の置換を含む、機能的等価物;
e)上記の(a)、(b)、(c)または(d)において規定されるタンパク質の活性フラグメントであって、ここで、「活性フラグメント」とは、ヒスタミンに結合する生物学的機能を保持する、切断されたタンパク質を意味する、活性フラグメント;および
f)ペプチドまたは他のタンパク質に融合した、上記の(a)、(b)、(c)、(d)または(e)において規定されるタンパク質を含む融合タンパク質であって、該ペプチドまたは該たのタンパク質は、例えば、標識、例えば、生体活性標識、放射性標識、酵素標識もしくは蛍光標識、または抗体であり得る、融合タンパク質、
である、血管作用性アミン結合タンパク質。
【請求項9】
前記血管作用性アミン結合タンパク質は、EV131またはそのフラグメントである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
好中球によって媒介される疾患状態を処置するための医薬の製造における、請求項1〜9のいずれか1項に記載の記載のヒスタミン結合化合物の使用。
【請求項1】
患者における好中球によって媒介される疾患状態を処置する方法であって、該方法は、該患者に治療有効量のヒスタミン結合化合物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記疾患状態は、アレルギー状態、炎症状態または自己免疫状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記疾患状態は、以下:
成人呼吸窮迫症候群(ARDS);乳児呼吸窮迫症候群(IRDS);重症急性呼吸器症候群(SARS);慢性閉塞性気道疾患(COPD);嚢胞性線維症;人工呼吸器誘発性肺傷害(VILI);毛細管漏出症候群;血栓性発作、冠状動脈血栓症、心肺バイパス(CPB)、冠状動脈バイパス移植(CABG)、肢もしくは指の再移植、臓器移植、手術後の炎症もしくは辺縁性浸潤、バイパス腸炎、バイパス関節炎、熱性傷害および挫滅傷害を含む再灌流障害;乾癬;乾癬関節症;慢性関節リウマチ;クローン病;潰瘍性大腸炎;ヴェーゲナー肉芽腫症およびチャーグ−ストラウス病症候群を含む免疫脈管炎;アルコール性肝臓疾患;好中球媒介性糸球体腎炎;全身性エリテマトーデス;ループス腎炎;アテローム性動脈硬化症;全身性硬化;痛風;歯周疾患、ドライアイ、シェーグレン症候群、コンタクトレンズに関連する乳頭状結膜炎(CLAPC)、コンタクトレンズに関連する辺縁性浸潤、白内障の手術後の炎症、緑内障の手術後の炎症、角膜移植の手術後の炎症および角膜内切削形成術(LASIK)の手術後の炎症を含む術後の炎症、重症のアレルギー性結膜炎、春季カタル(VKC)、びまん性層状角膜炎、感染性結膜炎および非限定的結膜炎、角膜炎および眼瞼炎、シールド潰瘍を包含する眼の炎症、
からなる群より選択される、方法。
【請求項4】
前記ヒスタミン結合化合物は、ヒスタミンスカベンジャーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒスタミンスカベンジャーは、10−7Mより大きい解離定数でヒスタミンに結合する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒスタミン結合化合物は、タンパク質である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒスタミン結合タンパク質は、血管作用性アミン結合タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、前記血管作用性アミン結合タンパク質は、
a)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合する任意の血管作用性アミン結合タンパク質であって、該タンパク質は、国際特許出願番号WO97/44451において開示されるタンパク質であるMS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2と同じタンパク質ファミリーに属し、ここで、タンパク質は、該タンパク質の1次成熟モノマー配列が260アミノ酸以下を有し、かつ該タンパク質の完全配列中のアミノ酸のうちの少なくとも30個、好ましくは、少なくとも40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個以上が、該タンパク質と該タンパク質MS−HBP1、FS−HBP1およびFS−HBP−2のとのアライメントにおいて同一の残基として保存される場合に、該タンパク質ファミリーに属すると考えられており、該アライメントは、好ましくは、ClustalWを用いて得られた(Thompsonら、1994,NAR,22(22),4673−4680)、血管作用性アミン結合タンパク質;
b)10−7M未満の解離定数でヒスタミンに特異的に結合する吸血性節足動物由来のタンパク質であって、該タンパク質は、配列モチーフD/E A W K/R(好ましくはDAWK、より好ましくはQDAWK)およびY/C E/D L/I/F W(好ましくはY/C ELW)を含む、タンパク質;
c)上記の(a)または(b)において規定されるタンパク質の天然の生物学的改変体(例えば、対立遺伝子改変体または地理的改変体);
d)上記の(a)、(b)または(c)において規定されるタンパク質の機能的等価物であって、該等価物は、ヒスタミンに結合する生物学的機能に影響しない、野生型タンパク質配列からの1つまたは複数のアミノ酸置換、アミノ酸付加、アミノ酸挿入および/またはアミノ酸欠失、ならびに/あるいは、化学的に改変されたアミノ酸の置換を含む、機能的等価物;
e)上記の(a)、(b)、(c)または(d)において規定されるタンパク質の活性フラグメントであって、ここで、「活性フラグメント」とは、ヒスタミンに結合する生物学的機能を保持する、切断されたタンパク質を意味する、活性フラグメント;および
f)ペプチドまたは他のタンパク質に融合した、上記の(a)、(b)、(c)、(d)または(e)において規定されるタンパク質を含む融合タンパク質であって、該ペプチドまたは該たのタンパク質は、例えば、標識、例えば、生体活性標識、放射性標識、酵素標識もしくは蛍光標識、または抗体であり得る、融合タンパク質、
である、血管作用性アミン結合タンパク質。
【請求項9】
前記血管作用性アミン結合タンパク質は、EV131またはそのフラグメントである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
好中球によって媒介される疾患状態を処置するための医薬の製造における、請求項1〜9のいずれか1項に記載の記載のヒスタミン結合化合物の使用。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13】
【公表番号】特表2006−522083(P2006−522083A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506075(P2006−506075)
【出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001428
【国際公開番号】WO2004/087188
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505367408)エボリューテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001428
【国際公開番号】WO2004/087188
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505367408)エボリューテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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