説明

好中球に対するアポトーシス促進剤、並びに好中球に対するアポトーシス促進による抗炎症剤及び免疫調節剤

【課題】好中球に対するアポトーシス促進剤を提供する。
【解決手段】下記式I


(ここで式I中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から選択される)で表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又はその薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する、好中球に対するアポトーシス促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球に対するアポトーシス促進剤、並びに好中球に対するアポトーシス促進による抗炎症剤及び免疫調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
好中球は免疫細胞の一つであり、バクテリアを殺す為の手段である活性酸素の生成を行う。活性酸素は例えば、スーパーオキシド(O)及び過酸化水素(H)である。しかしながら、活性酸素は、好中球が活性化された部位において炎症を引き起こし、好中球周囲の細胞の細胞障害さらには好中球自身の細胞死も引き起こす。その結果、好中球周囲の細胞並びに好中球自身の細胞内容物の放出、特にはタンパク質分解酵素の放出によりさらに周囲の細胞の破壊がなされる。従って、活性酸素は人体に対しても毒性である(下記非特許文献1及び2)。
【0003】
好中球の免疫認識機構は、Toll様受容体類などの非自己物質をパターン認識することによる。当該免疫認識機構はヒトが生まれながらに先天的に保持しているものである。従って、好中球による免疫は自然免疫といわれている。一方、リンパ球はその発生過程で、生体が生後に暴露した特定の免疫原(抗原)に反応する細胞が選択されるよう制御されている。すなわち、リンパ球の免疫認識の選択性は生後に獲得される。従って、リンパ球による免疫は獲得免疫といわれている。好中球の寿命は短く大量に消費(死滅)される一方で、好中球は骨髄で大量に産生されて常に末梢に大量に供給されるので、生体内の好中球の細胞数が維持されている。一方、リンパ球は寿命が長いが、特定の免疫原による刺激に対して選択性を有する細胞のみに増殖刺激を与えることにより(すなわち環境に応じた増殖機構により)、リンパ球の細胞数は制御されている。一度罹患した感染症に対し、長期にわたり免疫的に防御されることは、長期生存しているリンパ球による獲得免疫系の発動によるものであり、免疫記憶とも呼ばれる。以上のように、好中球は自然免疫の中心的な免疫細胞であり、リンパ球は獲得免疫の中心的な免疫細胞である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Akgut C, Moulding DA, Edwards SW. Molecular control of neutrophil apoptosis. FEBS Letters, 487, 318-322 (2001)
【非特許文献2】Yoshida LS, Chiba T, Kakinuma K., Determination of flavin contents in neutrophils by a sensitive chemiluminescence assay: evidence for no translocation of flavoproteins from the cytosol to the membrane upon cell stimulation. Biochim et Biophysica Acta, 1135, 245-252 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
好中球が生成する活性酸素の生成量を減らすために、好中球のアポトーシスを促進することが求められている。一方で、当該アポトーシスの促進に付随してリンパ球などの他の免疫細胞に影響が及ぶことは、回避されなければならない。そこで、選択的に好中球のアポトーシスを促進する薬剤が必要とされている。
また、好中球自体が、免疫機能に関する病理学的状態に関与する。従って、この病理学的状態の予防又は処置の為に、好中球のアポトーシスを促進する薬剤が必要である。一方で、当該薬剤がリンパ球などの他の免疫細胞に影響しないことが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式Iで表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又は薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する、好中球に対するアポトーシス促進剤、並びに好中球に対するアポトーシス促進による抗炎症剤及び免疫調節剤を提供する。
【0007】
式I
【化1】

【0008】
ここで、式I中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から選択される。
【0009】
上記式Iの化合物が、抗腫瘍効果を有すること(特開平2−193984号公報又は特開2003−2878号公報)、抗ウィルス効果を有すること(特開2004−143101号公報)、ヘリコバクター属細菌に対する抗菌効果を有すること(特開2005−060325号公報)、クラミジアに対する抗菌効果を有すること(特開2005−272334号公報)及び2型糖尿病に対して有効であること(特開2006−089399号公報)は知られている。しかし、上記式Iの化合物が、好中球に対するアポトーシス促進効果を有することは、本発明者らによって初めて見いだされた。
【発明の効果】
【0010】
本発明の剤は、好中球のアポトーシスを促進し、その結果抗炎症効果及び免疫調節効果を奏する。一方で、当該剤は、リンパ球及び単球に対して細胞毒性を発揮しない。従って、当該剤は、アポトーシス促進において、好中球に対する非常に高い選択性を有する。また、上記したように好中球は自然免疫の中心的な免疫細胞である。従って、当該選択性によって、特には自然免疫に起因する疾患が、本発明の剤により有効に処置される。
また、活性化好中球からは、IL-1, IL-6,TNFα,IL-8,G-CSF, GM-CSFなどの炎症性サイトカインが放出される。これらのサイトカインは細胞障害性T細胞、ヘルパーT細胞を減少させ、抑制性T細胞を増加させる。よって、活性化好中球の異常な生存によりこれらのサイトカイン濃度が高くなると、細胞性免疫は抑制され、そして生体にとって各種疾患をもたらす。従って、本発明の剤により、活性化好中球をアポトーシスさせることで、細胞障害性T細胞及びヘルパーT細胞の機能を維持することができ、細胞性免疫能が保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フェノキサジン化合物による処理をしたリンパ球、好中球及び単球の写真である。
【図2】無添加陰性対照及び溶媒陰性対照におけるリンパ球及び好中球の写真である。
【図3】好中球の死細胞の出現率を示すグラフである。
【図4】リンパ球の死細胞の出現率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の剤は、下記式Iで表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又は薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する。ここで式I中、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から任意に選択される。好ましくは、R、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基及びエトキシメチル基からなる群から選択される。さらに好ましくは、Rが水素原子又はメチル基であり、Rは水素原子又はメチル基、より好ましくはRは水素原子である。
【0013】
式I
【化2】

【0014】
本発明において「好中球に対するアポトーシス促進」とは、好中球のアポトーシスを促進すること、好中球にアポトーシスを誘発すること、及び/又は好中球がより早くアポトーシスに至るようにすることをいう。
【0015】
本発明の「アポトーシス促進剤」は、好中球のアポトーシスの促進が必要とされる疾患に対して、特には好中球により生成された活性酸素又は好中球から放出されるタンパク質分解酵素に起因する疾患に対して用いられうる。さらに、本発明のアポトーシス促進剤は、好中球が放出する炎症性サイトカインに起因する疾患に対しても用いられうる。そのような疾患の例として、全身性炎症性症候群(systemic inflammatory syndrome, SIRS)、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)、虚血再還流障害、慢性関節リュウマチ、潰瘍性大腸炎、壊疽性膿皮症、スウィート症候群、ベーチェット病を挙げることができるがこれらに限定されない。また、本発明の「アポトーシス促進剤」は、好中球のアポトーシス促進が必要とされる各種試験又は検査においても用いられうる。
【0016】
本発明の「抗炎症剤」は、好中球のアポトーシスの促進が必要とされる炎症性疾患、特には自然免疫に起因する炎症性疾患、さらに特には好中球により生成された活性酸素若しくは好中球から放出されたタンパク質分解酵素によりもたらされる炎症性疾患又は好中球それ自体によりもたらされる炎症性疾患に対して用いられうる。そのような疾患として例えば、好中球の増加に伴う皮膚炎、好中球の増加に伴う腸炎(消化器炎症性疾患)、口腔・歯肉炎、肺炎、膵炎、腎炎、肝炎、脳脊髄炎、腫瘍性疾患に伴う炎症、感染症や代謝障害に起因する炎症、火傷や凍傷などの組織壊死に伴う炎症、その他好中球の増加に伴う各種炎症性疾患、自己免疫疾患又はアレルギー性疾患を挙げることができるがこれらに限定されない。すなわち、本発明の抗炎症剤は、これらの疾患の予防又は処置のために用いられうる。
【0017】
本発明の「免疫調節剤」は、好中球のアポトーシスの促進が必要とされる免疫関連疾患、特には自然免疫に起因する疾患、さらに特には好中球にアポトーシスを引き起こすことによる免疫機能調節が必要とされる疾患に対して用いられうる。そのような疾患として例えば、自己免疫疾患、アレルギー性疾患、臓器移植後の移植片拒絶、又は非生体材料等(医療機器又は医療材料、例えば、血管ステント、心臓カテーテル、骨、歯牙など)の埋植後反応を挙げることができるがこれらに限定されない。すなわち、本発明の免疫調節剤は、これらの疾患の予防又は処置のために用いられうる。
【0018】
さらに、本発明の剤は、他の薬剤とのセットで用いられる。該薬剤として、本発明の剤以外の抗炎症剤、免疫調節剤、アポトーシス促進剤、抗ガン剤、抗HIV薬、抗生物質、抗真菌薬、酵素剤、酵素阻害剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、免疫賦活剤、プロテアーゼ阻害剤、逆転写酵素阻害剤、ヒト成長ホルモン、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、メイラード反応抑制剤、アミロイドーシス阻害剤、NOS阻害剤、AGEs阻害剤あるいはラジカルスカベンジャーなどが挙げられる。特に、本発明の剤は、炎症性疾患又は免疫疾患を有する患者に対する治療のために用いられる剤とのセット(組み合わせ)で用いられうる。
【0019】
本発明の剤は、ヒト又は動物(イヌ、ネコなどのペット;ウシ、ウマ、ブタなどの家畜;ニワトリなどの家禽;マグロ、ハマチなどの魚類など)のために使用される。
【0020】
本発明の剤で使用しうる塩は、例えば無機塩として、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;銅塩、亜鉛塩などの金属塩類;有機塩として、ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩などのアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩などのヘテロ環アミン塩;アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩などの塩基性アミノ酸塩を挙げることができるがこれらに限定されない。ここで、塩基性アミノ酸は、D−体、L−体或いはこれらの混合物であってもよい。
【0021】
本発明の剤で使用しうるエステルとして、例えば、蟻酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステルを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0022】
式Iで表される化合物は、好ましくは特開平02−193984号公報、特開2003−2878号公報に記載の方法に従い製造されるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の剤は、一般的な医薬製剤の形態として用いられうる。該製剤に、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤、或いは賦形剤を配合することができる。本発明の剤は、各種の形態が治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとして、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、液剤、懸濁剤などの注射剤、点眼剤、または軟膏剤が挙げられる。
【0024】
錠剤の形態に成形する担体として、慣用されている各種の担体を使用することができる。例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、塩化ナトリウム、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸などの賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖などの崩壊剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤を使用できるがこれらに限定されない。さらに錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或いは二重錠、多層錠とすることができる。
【0025】
丸剤の形態に成形するに際して、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用できる。その例として、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤;ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤を使用できる。
【0026】
カプセル剤は、常法に従い、通常有効成分化合物を上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセルなどに充填して調製される。
【0027】
坐剤の形態に成形するに際して、担体として従来公知のものを広く使用できる。その例として、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライドなどを挙げることができる。
【0028】
注射剤として調製される場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましい。これらの形態に成形するに際して、希釈剤としてこの分野において慣用されているものをすべて使用できる。例えば、水、エタノール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などを使用できるがこれらに限定されない。なお、この場合等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖またはグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤などを添加してもよい。
【0029】
軟膏剤として調製される場合、この分野で従来公知の油性基剤を広く使用することができる。例えば、ラッカセイ油、ゴマ油、ダイズ油、サフラワー油、アボカド油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ナタネ油、メンジツ油、ヒマシ油、ツバキ油、ヤシ油、オリーブ油、ケシ油、カカオ油、牛脂、豚脂、羊毛油などの油脂類;ワセリン、パラフィン、シリコン油、スクワランなどの鉱物油;イソプロピルミリステート、n−ブチルミリステート、イソプロピルリノレート、アセチルリシノレート、ステアリルリシノレート、ジエチルセバケート、ジイソプロピルアジペート、セチルアルコール、ステアリルアルコール、サラシミツロウ、鯨ロウ、木ロウなどの高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール及びワックス類、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸;炭素原子数12〜18の飽和又は不飽和脂肪酸のモノ−、ジ−、トリグリセライド混合物である。本発明の剤では、これら基剤を1種単独で或いは2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
本発明の剤に、慣用の添加剤、例えば金属石鹸、動物・植物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸などの薬効剤、界面活性剤、色素、染料、顔料、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0031】
本発明の剤の配合量は、その効能効果を有する限り特に限定されないが、通常、本発明の剤を含む組成物中に0.0001〜10重量%程度、好ましくは0.001〜10重量%程度、より好ましくは0.01〜10重量%程度、特に好ましくは0.1〜5重量%程度含有させるのがよい。
【0032】
本発明の剤の使用方法は、特に制限はなく、各種製剤形態、患者又は使用者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じた方法で使用される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合は、経口投与されうる。また、液剤、噴霧剤、エアゾール剤、乳剤、軟膏剤の場合は、経鼻投与又は点眼投与されうる。さらに、噴霧剤、エアゾール剤の場合は吸入投与されうる。また、注射剤の場合は単独で又はブドウ糖、アミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与されうる。坐剤の場合には直腸内投与されうる。外用剤の場合には患部に塗布されうる。
【0033】
本発明の剤の使用量は、用法、対象となる患者又は動物或いは、使用者或いは動物の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などにより適宜選択されるが通常、有効成分化合物の量が、一日当たり体重1kg当たり、約1〜20mg程度となるようにするのがよく、1日に1〜3回程度に分けて使用されるのがよい。
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
実施例で使用したフェノキサジン化合物は、2−アミノ−4,4α−ジヒドロ−4α−7−ジメチル−3H−フェノキサジン−3−オン(以下、「Phx−1」という。)及び2−アミノ−フェノキサジン−3−オン(以下、「Phx−3」という。)である。Phx−1は、上記式Iにおいて、Rがメチル基であり且つRが水素原子である。Phx−3は、上記式Iにおいて、R及びRがいずれも水素原子である。Phx−1及びPhx−3をそれぞれ、下記の式II及びIIIに示す。
【0036】
式II
【化3】

【0037】
式III
【化4】

【0038】
比較例のフェノキサジン化合物として、3−アミノ−1,4α−ジヒドロ−4α−8−ジメチル−2H−フェノキサジン−2−オン(以下、「Phx−2」という。)を用いた。Phx−2を、下記の式IVに示す。
【0039】
式IV
【化5】

【0040】
Phx−1及びPhx−3、並びにPhx−2は、ウシヘモグロビンを用いて既出の方法により製造された(特開2003−2878号公報、Shimizu S, Suzuki M, Tomoda A, Arai S, Taguchi H, Hanawa T, Kamiya S. Phenoxazine compounds produced by the reactions with bovine hemoglobin showantimicrobial activity against non-tuberculosis mycobacteria. Tohoku J Exp Med.2004年; 第203巻: 第47-52頁、Tomoda A,Arai S, Ishida R, Shimamoto T, Ohyashiki K. An improved method for the rapid preparation of 2-amino-4,4α-dihydro-4α-7-dimethyl-3H-phenoxazine-3-one, a novel antitumor agent. Biorg Med Chem Lett. 2002年; 第11巻: 第1057-1058頁)。
【実施例1】
【0041】
フェノキサジン溶液の調製
上記により製造された3種のフェノキサジン化合物を夫々、3:1(体積比)のジメチルスルホキシド(DMSO)及びエチルアルコール中に溶解し、10mM溶液を作製した。
【0042】
血液の採取
同意が得られた健常成人から、5mlの血液を、ヘパリン入り無菌採血ガラス管(ベノジェクトII真空採血管、テルモ株式会社)に採取した。該ヘパリン化血液の半分が、採血後1時間以内に、以下の血液培養試験に付された。残りの血液から、遠心分離(3000rpm、10分)を行うことにより血漿を得た。該血漿は4℃で保管され、そして、以下に記載する血液の再構成において用いられた。
【0043】
血液培養試験
55mlのFBS(非働化済み)(Fetal Bovine Serum、J R Scientific, Inc.)を500mlのRPMI−1640(RPMI−1640 Medium、Sigma)に添加した。FBSの添加後、900μlの当該RPMI−1640を24穴培養プレート(IWAKI Non-treated Microplate, ASAHI TECHNO GLASS)に添加した。次に、10、5又は2.5μlの10mMのPhx−1、Phx−2又はPhx−3を添加した。各ウェル中の溶液を十分に攪拌したのち、100μlの上記ヘパリン化血液を夫々のウェルに添加し、さらに攪拌した。なお、各フェノキサジン化合物の最終濃度は、10、5又は2.5μlの添加量のそれぞれについて、100μM、50μM又は25μMであった。
次に、上記ウェル中の培養液を、5%のCOを有する加湿雰囲気下で18時間、37℃で培養した。培養終了後ただちに該培養液を攪拌し、該培養液1mlを1.5ml用エッペンドルフチューブに移し、そして、遠心分離を行って血液細胞(赤血球、白血球、リンパ球及び血小板を含む)を沈殿させた。上清である血漿を除去した後、上記4℃で保管されている血漿50μlを、上記沈殿した血液細胞に添加して、血液を再構成した。次に、当該再構成された血液を、スライドグラスに塗布して、血液スメア標本を作製した。該スライドグラスを風乾し、メタノールにより固定し、Diff-Quick染色(ディフクイック染色液I、ディフクイック染色液II、シスメックス国際試薬株式会社)して、染色標本を作製した。対照群として、無添加の陰性対照、ならびにDMSO−エチルアルコール(3:1(体積比))溶媒を10μl/ml添加した溶媒陰性対照を設け、これらについても染色標本を作製した。これらの染色標本について、好中球、単球及びリンパ球の形態学的変化を顕微鏡下で観察した(300倍)。形態学的変化が観察された場合、その変化の出現率(死細胞の出現率)を百分率で表した。
【0044】
結果
図1は、100μMのPhx−1、Phx−2又はPhx−3によりリンパ球、好中球及び単球を処理した結果の写真である。図2は、上記無添加の陰性対照及び上記溶媒陰性対照について結果を示す写真である。
Phx−1により処理した場合、好中球において、核凝縮、クロマチン濃染及び細胞質内の空胞形成が観察された(図1)。Phx−3により処理した場合も、好中球において、核凝縮、クロマチン濃染及び細胞質内の空胞形成が観察された(図1)。これらの現象は、Phx−1又はPhx−3により、好中球のアポトーシスが誘発されたことを示す。
Phx−2により処理した場合、上記現象は観察されなかった(図1)。無添加の陰性対照及び溶媒陰性対照においても、上記現象は観察されなかった(図2)。
また、Phx−1又はPhx−3により処理した場合、単球及びリンパ球における形態学的変化は観察されなかった(図1)。これは、Phx−1及びPhx−3が、単球及びリンパ球にアポトーシスを引き起こさないことを示す。すなわち、Phx−1及びPhx−3は、これらの細胞に対して細胞毒性を有さないことを示す。
【0045】
表1は、スメア標本における好中球の生細胞及び死細胞の数、並びに死細胞の出現率を示す。これらの細胞数の計数において、細胞総数が200を超えるように、スメア標本1〜2枚を用いた。なお、当該計数は、スメア標本上の位置によるばらつきを抑えるために、スメアの引き始めから引き終わりまでを1単位として、スメア標本の同じ位置を計数しないように移動しながら実施した。図3は、当該死細胞出現率のグラフを示す。
【0046】
【表1】

【0047】
Phx−1又はPhx−3によりそれぞれ処理された場合、無添加陰性対照及び溶媒陰性対照と比べて、死細胞の数が多かった。また、Phx−1又はPhx−3により処理された場合に、Phx−2により処理された場合よりも死細胞の数が多かった。これらの結果は、Phx−1及びPhx−3が、アポトーシス促進効果を有することを示す。
また、Phx−1又はPhx−3によりそれぞれ処理された場合の死細胞の数は、濃度依存的に増加した。すなわち、Phx−1及びPhx−3によるアポトーシス促進効果は、濃度依存的である。
さらに、Phx−1により処理された場合は、Phx−3により処理された場合よりも、死細胞の数が多かった。すなわち、Phx−1は、Phx−3よりも強力なアポトーシス促進効果を有する。
Phx−2は、濃度100μMにおいてアポトーシス促進効果をわずかに示すが、濃度25μM及び50μMでは無添加陰性対照及び溶媒陰性対照と同様に、アポトーシス促進効果を示さなかった。
【0048】
表2は、スメア標本におけるリンパ球の生細胞及び死細胞の数、並びに死細胞の出現率を示す。これらの細胞数の計数は、上記したとおりに行われた。図4は、当該死細胞出現率のグラフを示す。
【0049】
【表2】

【0050】
Phx−2及びPhx−3は、ヒト末梢血中のリンパ球に対して細胞毒性を示さなかった。Phx−1は、その溶液の濃度が100μMの場合にのみ、ヒト末梢血中のリンパ球に対してわずかに細胞毒性を示した(表2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

(ここで式I中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から選択される)で表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又は薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する、好中球に対するアポトーシス促進剤。
【請求項2】
及びRが、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基及びエトキシメチル基からなる群から選択される、請求項1に記載のアポトーシス促進剤。
【請求項3】
が水素原子又はメチル基であり、且つRが水素原子である、請求項1又は2に記載のアポトーシス促進剤。
【請求項4】
式I
【化2】

(ここで式I中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から選択される)で表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又は薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する、好中球に対するアポトーシス促進による抗炎症剤。
【請求項5】
及びRが、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基及びエトキシメチル基からなる群から選択される、請求項4に記載の抗炎症剤。
【請求項6】
が水素原子又はメチル基であり、且つRが水素原子である、請求項4又は5に記載の抗炎症剤。
【請求項7】
式I
【化3】

(ここで式I中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4の低級アルキル基、炭素原子数1〜4のアシル基及び炭素原子数1〜4のアシルオキシ基からなる群から選択される)で表される2−アミノフェノキサジン−3−オン誘導体又は薬理学的に許容される塩若しくはエステルを有効成分として含有する、好中球に対するアポトーシス促進による免疫調節剤。
【請求項8】
及びRが、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシメチル基及びエトキシメチル基からなる群から選択される、請求項7に記載の免疫調節剤。
【請求項9】
が水素原子又はメチル基であり、且つRが水素原子である、請求項7又は8に記載の免疫調節剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256141(P2011−256141A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133123(P2010−133123)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(597032985)
【出願人】(510162768)
【出願人】(510162779)
【出願人】(510162780)
【出願人】(510162333)
【Fターム(参考)】