説明

始動性予測装置及び電源制御装置

【課題】車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測することが可能な始動性予測装置の提供。
【解決手段】計測したバッテリ1の電圧値及び電流値に基づき、バッテリ1の電圧電流特性を算出し、算出した電圧電流特性に基づき、エンジンがスタータ10により始動可能であるか否かを予測する予測手段14を備える始動性予測装置。バッテリ1が充電中でないときに、バッテリ1の電圧値及び電流値を計測する。予測手段14は、エンジンの始動時にバッテリ1の始動電圧値を検出し、検出した始動電圧値及びバッテリ1の電圧電流特性に基づき、スタータ10の抵抗を算出し、算出した抵抗をバッテリ1の電圧電流特性に適用したときのバッテリ1の電圧値を算出し、算出した電圧値が所定電圧値より低いと判定したときに、エンジンが始動不能であると予測する構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載バッテリの計測した電圧値及び電流値に基づき、車載バッテリの電圧電流特性を算出し、算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、エンジンが始動可能であるか否かを予測する始動性予測装置、及びこの始動性予測装置を備える電源制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエンジンは、自力では始動できないので、始動用の電動モータ(スタータ、セルモータ、始動装置)を備えている。一般的には、イグニッションスイッチでエンジンの点火装置をオンにした状態で、更にイグニッションスイッチを回すことにより、車載バッテリから電力が供給され、スタータが駆動する。その際、スタータには数百アンペアの始動電流(突入電流)が瞬間的に流れ、そのときの車載バッテリの下限電圧値が低下し過ぎると、点火装置等の制御回路の電源電圧が正常範囲より低下して、制御回路が作動できなくなるので、所謂エンスト状態となる。
【0003】
特許文献1には、アイドルストップ・スタート機能を有する車両に搭載されたバッテリの残容量を、エンジン始動時に算出されるバッテリの内部抵抗と、バッテリに流れる積算電流との組合せにより推定するバッテリ残容量推定方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−42799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、スタータ(エンジン)を始動させることが車載バッテリの重要な機能であり、エンジンを停止させたときに、エンジンを再始動させることができるか否かを示す始動性は最重要な情報である。エンジンを始動させることができるか否かは、車載バッテリの残容量に関係するが、車載バッテリの残容量は、バッテリ液の分極の影響により正確な測定が困難である為、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測するのは難しいという問題がある。
また、エンジンを再始動させるときに、温度が低下していることがあるが、温度が低下すると、エンジンが始動し難くなるので、温度条件を含めて、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを予測することも必要である。
【0005】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであり、第1発明では、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測することが可能な始動性予測装置を提供することを目的とする。
第2発明では、温度が低下した場合でも、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測することが可能な始動性予測装置を提供することを目的とする。
第3発明では、第1又は第2発明に係る始動性予測装置を備え、始動性予測装置がエンジンは始動不能であると予測したときに、車載バッテリの充電量を増加させることができる電源制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る始動性予測装置は、車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する計測手段と、該計測手段が計測した電圧値及び電流値に基づき、前記車載バッテリの電圧電流特性を算出する手段と、該手段が算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、前記エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する予測手段とを備える始動性予測装置であって、前記計測手段は、前記車載バッテリが充電中でないときに、前記車載バッテリの電圧値及び電流値を計測するように構成してあり、前記予測手段は、前記エンジンの始動時に前記車載バッテリの始動電圧値を検出する手段と、該手段が検出した始動電圧値及び前記電圧電流特性に基づき、前記スタータの抵抗を算出する手段と、該手段が算出した抵抗を前記電圧電流特性に適用したときの前記車載バッテリの電圧値を算出する手段と、該手段が算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定する判定手段とを備え、該判定手段が所定電圧値より低いと判定したときに、前記エンジンが始動不能であると予測するように構成してあることを特徴とする。
【0007】
この始動性予測装置では、計測した車載バッテリの電圧値及び電流値に基づき、車載バッテリの電圧電流特性を算出し、算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する。車載バッテリが充電中でないときに、車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する。エンジンの始動時に車載バッテリの始動電圧値を検出し、検出した始動電圧値及び車載バッテリの電圧電流特性に基づき、スタータの抵抗を算出する。算出した抵抗を車載バッテリの電圧電流特性に適用したときの車載バッテリの電圧値を算出し、算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定する。所定電圧値より低いと判定したときに、エンジンが始動不能であると予測する。
【0008】
第2発明に係る始動性予測装置は、車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する計測手段と、該計測手段が計測した電圧値及び電流値に基づき、前記車載バッテリの電圧電流特性を算出する手段と、該手段が算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、所定温度であるときに、前記エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する予測手段とを備える始動性予測装置であって、前記計測手段は、前記車載バッテリが充電中でないときに、前記車載バッテリの電圧値及び電流値を計測するように構成してあり、前記予測手段は、前記エンジンの始動時に前記車載バッテリの始動電圧値を検出する手段と、該手段が検出した始動電圧値及び前記電圧電流特性に基づき、前記スタータの抵抗及び前記車載バッテリの内部抵抗を算出する手段と、該手段が算出した前記抵抗及び内部抵抗に基づき、前記所定温度であるときの前記抵抗及び内部抵抗を推定する手段と、該手段が推定した抵抗及び内部抵抗を前記電圧電流特性に適用したときの前記車載バッテリの電圧値を算出する手段と、該手段が算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定する判定手段とを備え、該判定手段が所定電圧値より低いと判定したときに、前記エンジンが始動不能であると予測するように構成してあることを特徴とする。
【0009】
この始動性予測装置では、計測した車載バッテリの電圧値及び電流値に基づき、車載バッテリの電圧電流特性を算出し、算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、所定温度であるときに、エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する。車載バッテリが充電中でないときに、車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する。エンジンの始動時に車載バッテリの始動電圧値を検出し、検出した始動電圧値及び車載バッテリの電圧電流特性に基づき、スタータの抵抗及び車載バッテリの内部抵抗を算出する。算出したスタータの抵抗及び内部抵抗に基づき、所定温度であるときのスタータの抵抗及び内部抵抗を推定し、推定したスタータの抵抗及び内部抵抗を車載バッテリの電圧電流特性に適用したときの車載バッテリの電圧値を算出する。次いで、算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定し、所定電圧値より低いと判定したときに、エンジンが始動不能であると予測する。
【0010】
第3発明に係る電源制御装置は、第1又は第2発明に係る始動性予測装置と、該始動性予測装置がエンジンは始動不能であると予測したときに、車載バッテリに接続された電気負荷のうち、予め定められた電気負荷の前記車載バッテリからの切断、又は前記電気負荷への供給電力の削減を実行する手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
この電源制御装置では、本発明に係る始動性予測装置がエンジンは始動不能であると予測したときに、車載バッテリに接続された電気負荷のうち、予め定められた電気負荷の車載バッテリからの切断、又は電気負荷への供給電力の削減を実行する。
【発明の効果】
【0012】
第1発明に係る始動性予測装置によれば、車載バッテリの状態に応じて、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測することが可能な始動性予測装置を実現することができる。
【0013】
第2発明に係る始動性予測装置によれば、温度が低下した場合でも、車載バッテリの状態に応じて、車載バッテリがエンジンを始動させることができるか否かを正確に予測することが可能な始動性予測装置を実現することができる。
【0014】
第3発明に係る電源制御装置によれば、始動性予測装置がエンジンは始動不能であると予測したときに、車載バッテリの充電量を増加させることができる電源制御装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態1の概略構成を示すブロック図である。
この始動性予測装置及び電源制御装置は、マイクロコンピュータを有する電源制御部12に内蔵されたパラメータ記憶部13、始動性判定部14及び電圧電流特性算出部15を備えている。電流センサ2が、バッテリ1(車載バッテリ)の入出力電流値を検出して、電圧電流特性算出部15に与え、電圧センサ3が、バッテリ1の出力電圧値(端子電圧値)を検出して、電圧電流特性算出部15に与える。
車両のオルタネータ16(交流発電機)が発電し、電圧調整及び整流した電力が、電流センサ2を通じてバッテリ1に与えられる。
【0016】
バッテリ1が出力する電力、及びオルタネータ16が発電した電力は、始動スイッチ7を通じてスタータ10(始動装置、セルモータ)に、イグニッションスイッチ8を通じて点火装置11に、アクセサリスイッチ9を通じてラジオ及びデフォッガ等の負荷5,6・・・にそれぞれ与えられる。アクセサリスイッチ9、イグニッションスイッチ8及び始動スイッチ7は、イグニッションキーが操作されることにより順次オンされる。
また、リレー4が、電圧電流特性算出部15から制御されて、バッテリ1を負荷5(例えばデフォッガ)にパルス放電させる。
【0017】
電圧電流特性算出部15は、バッテリ1が充電中でないときに、バッテリ1にパルス放電させて、その電流値I(充電プラス、放電マイナス)及び電圧値Vを計測する。次いで、1回前の計測電圧Vn-1 、今回の計測電流In 、及び1回前の計測電流In-1 を説明変数として、式(1)の係数x,y,z,wを最小二乗法により求めて、バッテリ1の電圧電流特性を算出する。
n =x・Vn-1 +y・In +z・In-1+w (1)
【0018】
計測された電流値I及び電圧値Vにより、
1 =x・V0 +y・I1 +z・I0+w
2 =x・V1 +y・I2 +z・I1+w
・ ・ ・ ・ ・
n =x・Vn-1 +y・In +z・In-1+w
【0019】
算出されるべきVn と、計測された電流値I及び電圧値Vにより算出されたx・Vn-1+y・In+z・In-1 +wとの誤差をen とすると、
1 =V1 −(x・V0 +y・I1+z・I0 +w)
2 =V2 −(x・V1 +y・I2+z・I1 +w)
・ ・ ・ ・ ・
n =Vn −(x・Vn-1 +y・In+z・In-1 +w)
【0020】
式(2)により、誤差en 2 の合計Sを求めて、
S=Σek 2 =Σ{Vk −(x・Vk-1+y・Ik +z・Ik-1 +w)}2
(2)
式(2)においてSを最小にするようにx,y,z,wを定める。
dS/dx=0,dS/dy=0,dS/dz=0,dS/dw=0
ΣVk-1 {Vk −(x・Vk-1+y・Ik +z・Ik-1 +w)}=0
(3)
【0021】
ΣIk {Vk −(x・Vk-1 +y・Ik+z・Ik-1 +w)}=0
(4)
ΣIk-1 {Vk −(x・Vk-1+y・Ik +z・Ik-1 +w)}=0
(5)
Σ{Vk −(x・Vk-1 +y・Ik+z・Ik-1+w)}=0 (6)
式(3)〜(6)をまとめて、
【0022】
【数1】

【0023】
式(7)を解いて、x,y,z,wを求める。
【0024】
【数2】

【0025】
ところで、図2に示す、内部抵抗Rb 、及び内部抵抗Rb に直列接続された内部抵抗Rk と容量Ck との並列回路を備えるバッテリモデルを想定し、開放電圧値をVO 、内部抵抗Rk と容量Ck との並列回路にかかる電圧値v1 、出力電流値I、出力電圧値Vとすると、式(9)(10)の関係が成り立つ。
V=VO −Rb ・I−v1 (9)
I=v1 /Rk −Ck ・dv1/dt (10)
【0026】
式(9)より、
1 =VO −V−Rb ・I
v1 /dt=dVO /dt−dV/dt−Rb・dI/dt
これらを式(10)に代入して、
I=(VO −V−Rb ・I)/Rk
+Ck (dVO /dt−dV/dt−Rb・dI/dt)
=−V/Rk +VO /Rk −Rb・I/Rk
+Ck (−dV/dt−Rb ・dI/dt)
次に、これを差分化する。
【0027】
【数3】

【0028】
式(1)と式(11)との係数比較により、バッテリモデルの開放電圧値VO 、内部抵抗Rb ,Rk 、容量Ck が、計測された電流値I及び電圧値Vにより最小二乗法で求めた式(1)の係数x,y,z,wにより下記のように求められる。
O =w/(1−x) (12)
b =z/x (13)
k =−(xy+z)/x(1−x) (14)
【0029】
スタータ10の始動時の電圧値(=バッテリ1の端子電圧値)は、図3に示すように、突入電流により瞬間的に大きく低下し、突入電流が収束した後は、定常状態へ移行する。スタータ10に突入電流が流れているときのバッテリ1の下限電圧値が低下し過ぎると、点火装置等の制御回路の電源電圧が正常範囲より低下して、制御回路が作動できなくなるので、エンジンは回転できない。
【0030】
ここで、図4に示すように、バッテリ1の開放電圧値VO 、バッテリ1の内部抵抗R、スタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗RS とすると、スタータ10に突入電流が流れているときのバッテリ1の端子電圧値VS は、式(15)で算出される。
S =VOS /(R+RS)=VO /(1+R/RS ) (15)
【0031】
バッテリ1の内部抵抗Rは、式(13)(14)から式(16)で算出される。
R=(y+z)/(1−x) (16)
従って、スタータ10に突入電流が流れているときのバッテリ1の端子電圧値VS (下限電圧値、始動電圧値)を検出し、計測及び最小二乗法によりバッテリ1の電圧電流特性を算出して、内部抵抗R及び開放電圧値VOを得ることにより、式(17)でスタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗RS を算出することができる。
S =RVS /(VO −VS) (17)
【0032】
抵抗RS が既知になれば、計測によりバッテリ1の電圧電流特性を算出して行くことにより、計測時のバッテリ1の状態での下限電圧値を、式(15)で算出し予想することができる。予想した下限電圧値と実測に基づく所定電圧値との大小を判定することにより、その時点で、エンジンを停止させた場合に、再始動させることが可能か否かを予測することができる。
【0033】
以下に、このような構成の始動性予測装置及び電源制御装置の動作を、それを示す図5のフローチャートを参照しながら説明する。
電源制御部12の電圧電流特性算出部15は、先ず、フラグFをリセット(=0)した(S1)後、イグニッションキーがオンになり、始動スイッチ7がオンになれば(S2)、スタータ10に突入電流が流れたときの下限電圧値VS を検出する(S3)。
電圧電流特性算出部15は、次に、バッテリ1の状態が変化するのに充分な所定時間が経過したか否かを判定し(S5)、経過していれば、電流センサ2が検出した電流値Iを読込む(S7)。次いで、読込んだ電流値Iが、バッテリ1が充電中でないことを示す0以下であるか否かを判定し(S9)、電流値Iが0以下でなく充電中であれば、所定時間待機し(S5)、電流値Iを読込む(S7)。
【0034】
電圧電流特性算出部15は、電流値Iが0以下であり、バッテリ1が充電中でなければ(S9)、リレー4に負荷5(例えばデフォッガ)へパルス放電させ、そのときの電流センサ2の検出電流値、及び電圧センサ3の検出電圧値を計測する(S11)。
電圧電流特性算出部15は、次に、電流値及び電圧値の計測数を計数し(S13)、計測数が所定数(例えば12)以上であるか否かを判定し(S15)、所定数以上でなければ、所定時間待機し(S5)、電流値Iを読込む(S7)。
【0035】
電圧電流特性算出部15は、計測数が所定数以上であれば(S15)、計測数をリセットする(S17)。次いで、計測した電流値及び電圧値(S11)を使用して、バッテリ1の電圧電流特性を表す式(1)の係数x,y,z,wを最小二乗法により算出する(S19)。
【0036】
始動性判定部14は、次に、フラグFがリセット(=0)されているか否かを判定し(S20)、リセットされていれば、スタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗値RS を式(17)で算出し、パラメータ記憶部13に記憶する(S21)。次いで、フラグFをセット(=1)して(S22)、所定時間待機し(S5)、電流値Iを読込む(S7)。
【0037】
始動性判定部14は、フラグFがセット(=1)されていれば(S20)、電圧電流特性算出部15が算出した係数x,y,z,w(S19)及び抵抗値RS を使用して、パラメータ記憶部13に記憶してある式(12)(15)(16)により、下限電圧値VS を算出し推定する(S23)。次いで、推定した下限電圧値VS が、実測により求めパラメータ記憶部13に記憶してある下限電圧値(所定電圧値)以上であるか否かを判定し、現在のバッテリ1の状態で、エンジンを停止させた場合に、エンジンを再始動させることができるか否かを判定する(S25)。
【0038】
始動性判定部14は、エンジンを再始動させることができると判定したとき(S27)は、所定時間待機し(S5)、電流値Iを読込む(S7)。エンジンを再始動させることができないと判定したとき(S27)は、電源制御部12が、バッテリ1に接続された電気負荷5,6・・のうち、所定の電気負荷5,6・・へのバッテリ1からの給電停止、又は給電電力の削減を実行して、負荷制御又は充電制御を行った(S29)後、所定時間待機し(S5)、電流値Iを読込む(S7)。
【0039】
(実施の形態2)
図6は、本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態2の概略構成を示すブロック図である。
この始動性予測装置及び電源制御装置は、温度センサ17が、バッテリ1の温度を検出して、始動性判定部14に与え、温度センサ18が、スタータ10のワイヤハーネスの温度を検出して、始動性判定部14に与える。その他の構成は、上述した図1の始動性予測装置及び電源制御装置の構成と同様であるので、同一部分には同一符号を付して、説明を省力する。
【0040】
本実施の形態2では、現在の状態から、例えば温度が−30℃となった場合に、バッテリ1がエンジンを始動させることができるか否かを予測する。
先ず、温度が−30℃となった場合に、スタータ10に突入電流が流れているときのバッテリ1の端子電圧値VS (-30 )(下限電圧値、始動電圧値)を予測する。
【0041】
その為には、バッテリ1の内部抵抗R及びスタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗RS を、温度が−30℃となった場合の、バッテリ1の内部抵抗R(-30 )及びスタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗RS(-30 )に補正する。
現在のバッテリ1の内部抵抗Rは、上述したように、式(16)で算出される。
R=(y+z)/(1−x) (16)
また、スタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗RS は、上述したように、式(17)で算出される。
S =RVS /(VO −VS) (17)
【0042】
バッテリの内部抵抗は、温度により例えば図7〜9に示すような特性を取る。
開放電圧が同じであるとすると、温度t℃であるときの内部抵抗R(t)は、次式で表すことができる。
R(t)=f(t−20)×R(20)
尚、関数f(t)は、実測に基づき、最小二乗法等で求めておく。
【0043】
現在の温度をt0 とすると、
R(20)=R(t0 )/f(t0 −20)
である。
従って、−30℃であるときの内部抵抗R(-30 )は、
R(-30 )=f(−30−20)×R(t0 )/f(t0 −20)
=f(−50)×R(t0 )/f(t0 −20) (18)
で表すことができる。
【0044】
スタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗(ハーネス抵抗)RS は、銅線の抵抗であり、銅線の抵抗特性は、温度により例えば図10に示すような特性を取り、温度がt℃であるときに、一般に次式のような線形式で表すことができる。
S (t)=g(t)×RS (20)
尚、関数g(t)は、実測に基づき、最小二乗法等で求めておく。
【0045】
現在の温度をt1 とすると、
S (t)=g(t1 )×RS (20)
である。
従って、−30℃であるときのハーネス抵抗RS (-30 )は、
S (-30 )=g(-30 )×RS (20)
=g(-30 )×RS (t1 )/g(t1 ) (19)
で表すことができる。
【0046】
以上から、−30℃であるときの下限電圧予測値VS (-30 )は、式(15)に基づき、式(20)のようになる。
S (-30 )=VO /{1+R(-30 )/RS(-30 )}
=VO /[1+{f(−50)×R(t0 )/f(t0−20)}/{g(-30 )×RS (t1 )/g(t1 )}] (20)
【0047】
以下に、このような構成の始動性予測装置及び電源制御装置の動作を、それを示す図11のフローチャートを参照しながら説明する。
電源制御部12の電圧電流特性算出部15は、先ず、フラグFをリセット(=0)した(S31)後、イグニッションキーがオンになり、始動スイッチ7がオンになれば(S32)、スタータ10に突入電流が流れたときの下限電圧値VS を検出する(S33)。
電圧電流特性算出部15は、次に、バッテリ1の状態が変化するのに充分な所定時間が経過したか否かを判定し(S35)、経過していれば、電流センサ2が検出した電流値Iを読込む(S37)。次いで、読込んだ電流値Iが、バッテリ1が充電中でないことを示す0以下であるか否かを判定し(S39)、電流値Iが0以下でなく充電中であれば、所定時間待機し(S35)、電流値Iを読込む(S37)。
【0048】
電圧電流特性算出部15は、電流値Iが0以下であり、バッテリ1が充電中でなければ(S39)、リレー4に負荷5(例えばデフォッガ)へパルス放電させ、そのときの電流センサ2の検出電流値、及び電圧センサ3の検出電圧値を計測する(S41)。
電圧電流特性算出部15は、次に、電流値及び電圧値の計測数を計数し(S43)、計測数が所定数(例えば12)以上であるか否かを判定し(S45)、所定数以上でなければ、所定時間待機し(S35)、電流値Iを読込む(S37)。
【0049】
電圧電流特性算出部15は、計測数が所定数以上であれば(S45)、計測数をリセットする(S47)。次いで、計測した電流値及び電圧値(S41)を使用して、バッテリ1の電圧電流特性を表す式(1)の係数x,y,z,wを最小二乗法により算出する(S49)。
【0050】
始動性判定部14は、次に、フラグFがリセット(=0)されているか否かを判定し(S51)、リセットされていれば、スタータ10のワイヤハーネスを含む抵抗値RS を式(17)で算出し、パラメータ記憶部13に記憶する(S53)。また、バッテリ1の内部抵抗Rを式(16)で算出し、パラメータ記憶部13に記憶する(S53)。
【0051】
始動性判定部14は、次に、温度センサ17が検出したバッテリ1の温度t0 、及び温度センサ18が検出したスタータ10のワイヤハーネスの温度t1を読込む(S55)。
始動性判定部14は、次に、読込んだ温度t0 に基づき、パラメータ記憶部13に記憶してある式(18)より、−30℃であるときの内部抵抗R(-30 )を算出する。また、読込んだ温度t1 に基づき、パラメータ記憶部13に記憶してある式(19)より、−30℃であるときのハーネス抵抗RS(-30 )を算出して、内部抵抗R(-30 )及びハーネス抵抗RS (-30 )をパラメータ記憶部13に記憶する(S57)。次いで、フラグFをセット(=1)して(S59)、所定時間待機し(S35)、電流値Iを読込む(S37)。
【0052】
始動性判定部14は、フラグFがセット(=1)されていれば(S51)、電圧電流特性算出部15が算出した係数x,y,z,w(S49)、内部抵抗R(-30 )及びハーネス抵抗RS (-30 )を使用して、パラメータ記憶部13に記憶してある式(12)(20)により、−30℃であるときの下限電圧値VS(-30 )を算出し推定する(S61)。次いで、推定した下限電圧値VS (-30 )が、実測により求めパラメータ記憶部13に記憶してある下限電圧値(所定電圧値、例えば5V)以上であるか否かを判定し、現在のバッテリ1の状態で、エンジンを停止させた場合に、温度が−30℃であれば、エンジンを再始動させることができるか否かを判定する(S63)
【0053】
始動性判定部14は、エンジンを再始動させることができると判定したとき(S65)は、所定時間待機し(S35)、電流値Iを読込む(S37)。エンジンを再始動させることができないと判定したとき(S65)は、電源制御部12が、バッテリ1に接続された電気負荷5,6・・のうち、所定の電気負荷5,6・・へのバッテリ1からの給電停止、又は給電電力の削減を実行して、負荷制御又は充電制御を行った(S67)後、所定時間待機し(S35)、電流値Iを読込む(S37)。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】バッテリモデルの例を示す回路図である。
【図3】スタータの電圧特性を示す特性図である。
【図4】スタータに突入電流が流れているときのバッテリ及びスタータの状態を示す説明図である。
【図5】本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態の概略構成を示すブロック図である。
【図7】バッテリの内部抵抗の温度特性例を示す特性図である。
【図8】バッテリの内部抵抗の温度特性例を示す特性図である。
【図9】バッテリの内部抵抗の温度特性例を示す特性図である。
【図10】銅線の抵抗の温度特性例を示す特性図である。
【図11】本発明に係る始動性予測装置及び電源制御装置の実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
1 バッテリ(車載バッテリ)
2 電流センサ
3 電圧センサ
4 リレー
5,6 負荷
7 始動スイッチ
8 イグニッションスイッチ
9 アクセサリスイッチ
10 スタータ(始動装置、セルモータ)
11 点火装置
12 電源制御部
13 パラメータ記憶部
14 始動性判定部(予測手段)
15 電圧電流特性算出部(算出手段)
16 オルタネータ(交流発電機)
17,18 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する計測手段と、該計測手段が計測した電圧値及び電流値に基づき、前記車載バッテリの電圧電流特性を算出する手段と、該手段が算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、前記エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する予測手段とを備える始動性予測装置であって、
前記計測手段は、前記車載バッテリが充電中でないときに、前記車載バッテリの電圧値及び電流値を計測するように構成してあり、前記予測手段は、前記エンジンの始動時に前記車載バッテリの始動電圧値を検出する手段と、該手段が検出した始動電圧値及び前記電圧電流特性に基づき、前記スタータの抵抗を算出する手段と、該手段が算出した抵抗を前記電圧電流特性に適用したときの前記車載バッテリの電圧値を算出する手段と、該手段が算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定する判定手段とを備え、該判定手段が所定電圧値より低いと判定したときに、前記エンジンが始動不能であると予測するように構成してあることを特徴とする始動性予測装置。
【請求項2】
車載バッテリの電圧値及び電流値を計測する計測手段と、該計測手段が計測した電圧値及び電流値に基づき、前記車載バッテリの電圧電流特性を算出する手段と、該手段が算出した車載バッテリの電圧電流特性に基づき、所定温度であるときに、前記エンジンがスタータにより始動可能であるか否かを予測する予測手段とを備える始動性予測装置であって、
前記計測手段は、前記車載バッテリが充電中でないときに、前記車載バッテリの電圧値及び電流値を計測するように構成してあり、前記予測手段は、前記エンジンの始動時に前記車載バッテリの始動電圧値を検出する手段と、該手段が検出した始動電圧値及び前記電圧電流特性に基づき、前記スタータの抵抗及び前記車載バッテリの内部抵抗を算出する手段と、該手段が算出した前記抵抗及び内部抵抗に基づき、前記所定温度であるときの前記抵抗及び内部抵抗を推定する手段と、該手段が推定した抵抗及び内部抵抗を前記電圧電流特性に適用したときの前記車載バッテリの電圧値を算出する手段と、該手段が算出した電圧値が所定電圧値より低いか否かを判定する判定手段とを備え、該判定手段が所定電圧値より低いと判定したときに、前記エンジンが始動不能であると予測するように構成してあることを特徴とする始動性予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された始動性予測装置と、該始動性予測装置がエンジンは始動不能であると予測したときに、車載バッテリに接続された電気負荷のうち、予め定められた電気負荷の前記車載バッテリからの切断、又は前記電気負荷への供給電力の削減を実行する手段とを備えることを特徴とする電源制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−260506(P2008−260506A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149671(P2007−149671)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】