説明

媒体中の化合物の光学遠隔検出方法

本発明は、少なくとも3nm幅の光の短パルスを媒体中へと放射し、時間分解能を有する装置を用いて媒体による後方散乱光の一部を検出することによって検出測定が実施され、放射光又は後方散乱光がアドレス可能なフィルタリング手段を用いてフィルタリングされ、調べるべき少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における光の光学スペクトルをシミュレートする基準測定が実施され、調べられる前記化合物が媒体中に存在する可能性を推論するため、検出測定と基準測定とが比較され、アドレス可能なフィルタリング手段が動的に変更され、一連の基準測定及び一連の対応する比較が、媒体中に存在し得る一連の異なる化合物について実施される、媒体中の化合物を遠隔光学検出する方法と装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔検出の技術分野に関し、より具体的には、雰囲気中のエーロゾル又は汚染物質の検出に適合された遠隔検出の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
LIDAR(光検知測距)技術は、従来、所与のガスの濃度を検出及び測定するのに使用されている。ライダーはまた、雰囲気の懸濁液中の液体若しくは固体粒子の検出、又はさらには液体中に溶解した化合物の検出に使用されることがある。ライダーは、レーザーパルスを対象の媒体に送ることと、時間に対するそれらパルスの後方散乱を測定することから成る。レーザーがパルス化されているという事実により、時間tの関数として、したがってレーザーと測定点との間の距離z(z=c.t/2、cは媒体中における光速度)の関数として検出することができる。
【0003】
ライダーによる化合物の遠隔検出は、検出すべき化合物の吸収帯及びその直近にそれぞれ調節した一対の近接した波長を使用する、DIAL技術によって実施される場合が多い(差分吸収)。この技術は、他の潜在的に存在する化合物が吸収帯を有さない範囲内で、少なくとも1つの精密な吸収線を有する化合物にしか適用できない。実際には、同じ波長範囲で吸収する他の化合物の干渉を受けやすい。さらに、波長範囲によっては、測定に適合された調整可能な単色源を生成するのが困難なことがある。
【0004】
測定すべき化合物のスペクトルによってDIAL技術を適用できないとき、相関分光法が適用されてもよい。相関分光法は、測定すべき化合物を含有する基準試料との交差に関して変調された、スペクトル幅の大きい光源を使用することから成る。しかし、この技術は、測定ごとに適合された基準が利用可能でなければならないので、柔軟性を欠いている。さらに、測定すべき化合物によって吸収されることが意図される強度は、基準試料において予め減衰される。したがって、十分な測定信号を得るため、強い光源を有する必要があり、そのことによって、操作者及び一般大衆の両方に対して目の安全性に関する問題が引き起こされることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに関連して、本発明は、容易に適用でき、且つ多数の汚染物質の存在を検出することを可能にする、媒体中の汚染物質を検出する新規な方法及び新規な装置を提供することを提案する。
【0006】
この方法はまた、高い検出感度を有するとともに、検出された化合物(1つ又は複数)の濃度を決定するように適合されなければならない。
【0007】
この方法はまた、目の安全性に関する要件を満たさなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、媒体中の化合物を遠隔光学検出する方法に関し、その方法において、
検出光源と呼ばれる光源から、少なくとも3nm幅、好ましくは少なくとも10nm幅の光の短パルスを媒体中へと放射することによって、また時間分解能を有する検出装置を用いて媒体からの後方散乱光の一部分を検出することによって、検出測定が実施され、
検出光源と同一の特性を有する基準光源と呼ばれる光源から、光の短パルスを媒体中へと放射することによって、また時間分解能を有する検出装置を用いて媒体からの後方散乱光の一部分を検出し、放射光又は後方散乱光を、アドレス可能なフィルタリング手段を用いてフィルタリングし、調べるべき少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における光の光学スペクトルをシミュレートすることによって、基準測定が実施され、
調べられる化合物(1つ又は複数)が媒体中に存在する可能性を推論するため、検出測定と基準測定とが比較され、
アドレス可能なフィルタリング手段が動的に変更され、一連の基準測定及び一連の対応する比較が、媒体中に存在し得る一連の異なる化合物について実施される。
【0009】
本発明の目的はまた、媒体中の化合物を遠隔光学検出するための装置であり、その装置は、
少なくとも3nm幅、好ましくは少なくとも10nm幅の広い波長帯をカバーする光の短パルスを媒体中へと放射する、検出光源と呼ばれる光源と、媒体による後方散乱光の一部分を検出する、時間分解能を有する装置とを備え、検出測定を行う検出測定用の一連の構成要素と、
前記検出光源と同一の特性を有する、光の短パルスを前記媒体中へと放射する、基準光源と呼ばれる光源と、放射光又は後方散乱光をフィルタリングし、調べるべき少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における光の光学スペクトルをシミュレートするアドレス可能なフィルタリング手段と、媒体からの後方散乱光の一部分を検出する、時間分解能を有する装置とを備え、基準測定を行う基準測定用の一連の構成要素と、
調べられる化合物(1つ又は複数)が前記媒体中に存在する可能性を推論するため、検出測定と基準測定とを比較する手段と、
アドレス可能なフィルタリング手段を変更して、媒体中に存在し得る一連の異なる化合物に対して一連の基準測定を実施できるようにする自動手段とを備える。
【0010】
本発明による方法及び装置は、ガス媒体中の大気汚染物質など、ガス化合物の遠隔検出に特に適している。また、本発明による方法を、ガス状媒体中の固体若しくは液体粒子又はエーロゾル、或いは液体媒体中に溶解したさらなる化合物の検出に適用することができる。水などの液体媒体中の検出は、例えば、海底の汚染物質を検出するために重要である。
【0011】
添付図面を参照する以下の説明により、本発明をさらに理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フィルタリング手段が対象の媒体の上流側に位置する、本発明による装置の代替例を示す概略図である。
【図2】フィルタリング手段が対象の媒体の下流側に位置する、本発明による装置の代替例を示す概略図である。
【図3】フィルタリング手段が対象の媒体の下流側に位置する、本発明による装置の代替例を示す概略図である。
【図4】検出測定に使用されるものと基準測定に使用されるものとの2つの別個の光源を備える、本発明による装置の別の代替例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の範囲内において、大きな波長帯をカバーするパルスが使用され、それによって、広範囲の化合物が存在する可能性を判断することが可能になる。パルスは、少なくとも3nm、好ましくは少なくとも10nmの幅を有することが好ましい。好ましくは、これらのパルスは白色光パルスである。従来、白色光とは、少なくとも100nm幅の波長のスペクトルをカバーする継続的な多色光信号を意味する。
【0014】
白色光源の例として、アーク灯、白熱灯、又は他のあらゆる類似の装置について言及することができる。代替実施形態によれば、検出光源及び基準光源は、波長スペクトルが拡幅される光パルスを送達するレーザーを含む。一般に、レーザーダイオードを使用することができる。例えば、強いパルス、特に3GWを超える出力のパルスを送達する単色レーザーの場合、自己誘導フィラメント(self-guided filament)の原理に従って、位相自己変調(phase self-modulation)が雰囲気中に生じる(J. Kasparian et al., Science, 2003, 301, 61)。このフィラメントは、非常に短く高出力の、一般的には空気中で3GWを超えるパルスがその光路において空気の屈折率を変更するときに生じ、屈折率のこの変化が結果的に光フィラメント上へのビームの自己集束及び案内に結び付く。それによって、波長のスペクトルと、強いパルスを持つレーザー源からの白色光パルスとの自発的な拡幅が得られる。この場合、光源は、直接白色光パルスを送達するのではなく単色パルスを送達し、それらが、伝搬する間に、且つ対象の媒体に達する前に多色になる。白色光源はまた、強力レーザーであってもよく、その波長スペクトルは、例えば位相自己変調によって、又は、ガスなどのセル、水セル、若しくは他のあらゆる非線形媒体のセルにおけるラマン効果によって拡幅される。この場合、セルはレーザーの出力側に直接位置してもよい。強力レーザーとして、Nd:YAGタイプの固体レーザーについて言及することができる。代替実施形態によれば、検出光源及び基準光源は、持続時間が20fs〜10ps、好ましくは100fs〜300fsであり、また好ましくは、出力が3GW〜100TW、好ましくは0.5TW〜5TWであるパルスを送達する。
【0015】
検出光源及び基準光源は、パルス持続時間、出力、及びスペクトル範囲に関して同じ特性を有する。検出光源は基準光源とは別個であってもよい。また、検出測定(1回又は複数回)及び基準測定(1回又は複数回)を、単一光源を用いて実施することができ、その場合、検出測定はフィルタリングを伴わずに実施される。この場合、検出測定と基準測定とを交互に行うため、またその結果、光源及び/又は媒体のレベルの潜在的なゆらぎによる誤差を排除するため、フィルタリング手段は順次的且つ迅速に変調されてもよい。
【0016】
一般に、時間的に接近して実施された2つの測定の比較を実施するため、例えば、以下に詳述するように検出測定と基準測定とを交互に行うか、又は同時に実施することによって、各基準測定に対して新たな検出測定を実施することが好ましい。したがって、装置は、検出測定及び基準測定を交互にもたらす制御手段を含んでもよい。
【0017】
ただし、異なる基準測定を同じ検出測定と比較すべき場合、或いは、一連の基準測定後に、比較に使用される新たな検出測定を周期的に実施すべき場合を除外するものではない。
【0018】
アドレス可能なフィルタリング手段は、光空間位相(optical spatial phase)及び/又は振幅変調器、或いは反射式又は干渉式超小形電子系、或いは他のあらゆる類似の装置を備えてもよい。フィルタリング手段は、少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における光の光学スペクトルをシミュレートする。フィルタリング手段は、異なる化合物について、それらの使用波長におけるそれらの光学スペクトルを連続的にシミュレートするように、周期的に自動的に変調される。本発明の意味において、放射光に対するフィルタリングが生じるとき、使用波長における光の光学スペクトルは、1つ若しくは複数の所与の化合物によって弱吸収される波長での、又は好ましくは強吸収される波長での放射光の光学スペクトルに相当する。弱吸収される波長とは、特に、所与の化合物について、測定中、光がカバーする光路全体にわたって、最大で10%の光強度の減衰が観察される波長を意味する。強吸収される波長とは、特に、所与の化合物について、測定中、光がカバーする光路全体にわたって、少なくとも30%の光強度の減衰が観察される波長を意味する。
【0019】
基準測定及び検出測定を実施して、線形現象又は非線形現象を検出することができる。線形現象の場合、媒体中の放射波長と後方散乱波長との間に一致がある。他方では、特に、例えば1GWを超える出力の強パルスの場合に観察される非線形現象の場合、放射波長に対して後方散乱波長の変調が観察される。やはり線形現象の測定の際に、フィルタリングが後方散乱光に対して生じるとき、使用波長における光学スペクトルは、調べるべき1つ又は複数の所与の化合物によって弱吸収される波長における、又は好ましくは強吸収される波長における後方散乱光のスペクトルに相当することがある。他方では、非線形現象が検出される場合、使用波長における後方散乱光のスペクトルは、調べられる化合物によって後方散乱する波長における後方散乱光のスペクトルに相当し、これは、調べられる化合物によって弱吸収又は強吸収される波長における放射光のスペクトルとは異なる。基準測定が単に、1つ若しくは複数の所与の化合物によって弱吸収又は強吸収される波長において後方散乱する光信号に相当すると仮定すると、系の感度を高めるため、媒体全体にわたってこれらの波長に相当する放射光の出力を増加させることができる。後方散乱光の出力が制限されるので、目の安全性に関する標準を観察することがより容易である。
【0020】
フィルタリング手段は、一連の異なる化合物の使用波長におけるスペクトルを連続的にシミュレートするため、自動的に変調される。フィルタリング手段は、例えば、フィルタホルダ上に位置付けられた異なるフィルタを含んでもよい。フィルタの電動変位手段により、所望のフィルタが確実に選択される。また、好ましいやり方で、化合物の異なるスペクトル特性を、制御手段を介してフィルタリング手段が接続される分光器データベースに格納することができる。
【0021】
また、フィルタリング手段を、パルスが放射される媒体がもつ温度、圧力、速度、風の方向などの特定の条件をシミュレートするように適合することができる。
【0022】
本発明の範囲内で、検出装置は、後方散乱光子の少なくとも一部分を検出する手段を備える。望遠鏡などの収集手段が検出手段の前に位置付けられてもよい。これらの収集手段を用いて、特に、検出手段によって後方散乱光から検出される信号を増加させることができる。検出手段は、一般に、検出手段によって伝達される信号を獲得し利用する獲得及び処理手段と関連付けられる。例えば、受け取った光子は光電子に変換され、それに対応する電気信号は、ベールランバートの法則を適用することによって、放射の吸収及び分析すべきガス分子と直接関連する。放射光がパルスの形態であり、検出手段が時間の関数として信号を検出すると仮定すると、検出された光子を後方散乱する媒体がどの距離で見出されるかを判断することができる。その結果、光源の範囲であると規定される限界までの、光源の射出軸に沿った濃度の分布を計算することができる。
【0023】
本発明を適用するように適合された検出手段として、光電子増倍管、フォトダイオード、又は他のあらゆる類似の装置について言及することができる。時間分解能を伴って使用される検出手段により、検出した信号の展開を長時間にわたって記録することが可能になる。好ましくは、検出手段の時間分解能は、例えば10nm未満の非常に精密なものである。上述したように、検出手段は信号を空間的に分解する手段を組み込み、それを用いて、検出された光を後方散乱する媒体がどの距離に位置するかを判断することができる。空間分解能は検出手段の時間分解能によって得られる。したがって、検出された信号は、それを放射する媒体の放射距離と相関していてもよい。好ましくは、検出手段の空間分解能は1メートル未満である。信号の獲得は短い期間にわたって実施される場合がほとんどである。
【0024】
検出装置において、信号の処理を変更するように信号を処理する手段を選択することができる。例えば、基準測定中に得られた信号は、過去の反復において測定された濃度に適合されるように、閉ループアルゴリズムによって調節及び/又は最適化されてもよい。したがって、波長の区画又はスペクトル成分それぞれに対する伝達の適合は、試行錯誤によって最適な解が、すなわち検出すべき種に最も近い合成スペクトルが得られる、遺伝的アルゴリズムなどの多パラメータ最適化アルゴリズムによって独立に変更されてもよく、試行は、最適な解を作成するため、組み合わされる好ましい結果を与える(T. Back, H. Schwefel, An Overview of evolutionary algorithms forparameter optimization, Evolutionary computing 1, 1 (1993)、及びR. S. Judson and H.Rabitz, Teaching lasers to control molecules, Physical Review Letters, 68, 1500(1992)を参照)。
【0025】
検出測定及び基準測定は、単一の検出装置を用いて、又は2つの別個の検出装置を用いて実施することができる。
【0026】
有利には、検出された存在する化合物の濃度を判断するため、測定及び比較が実施される。これについて、比較は、処理手段と、検出された化合物の濃度を計算する手段とを用いて実施され、計算手段は、例えば、LIDAR若しくはDIAL技術に、又は相関分光法に使用されるものに類似したアルゴリズムを適用する。例えば、使用される計算方法は、DIAL技術(吸収差ライダー、例えば、R.M. Measures, Laser remote sensing - Fundamentals and applications,1984, New York: Wiley Interscienceを参照)に使用されるものから導き出される。
【0027】
基準光源の光スペクトル全体にわたって組み込まれる吸収断面積がσであり、測定光源の光スペクトル全体にわたって組み込まれる吸収断面積はσである種又は化合物が考慮される場合、距離zにおけるこの種の濃度(単位体積当たりの分子数で表される)は、次式のとおりである。
【数1】


式中、S(z)及びS(z)はそれぞれ、測定検出器及び基準検出器でそれぞれ測定された信号を表す。
【0028】
光波長全体と弱吸収された波長との間で、又は強吸収された波長と弱吸収された波長との間で比較を実施する場合、この式が直接適用されてもよい。
【0029】
光波長全体Sと弱吸収された波長Sとの間で比較を実施する場合、断面積σ及びσは実質的に等しい。この方法の数学的安定性を確保するため、補助値S’=S−Sを次に使用するが、その場合の吸収断面積はσ’=σ−σ≒0である。その結果、調べられる種の濃度は次式のとおりである。
【数2】

【0030】
フィルタリング手段が、いくつかの対象の化合物の使用波長における光スペクトルを同時にシミュレートする場合、混合比の計算は、閉ループ最適化によって、又はいずれかの類似したアルゴリズムによって実施されてもよい。
【0031】
第1の代替例によれば、基準測定の間に放射光をフィルタリングするように、アドレス可能なフィルタリング手段は基準測定に使用される光源と媒体との間に位置する。フィルタリング手段は、例えば、光空間位相及び/又は振幅変調器、或いは反射又は干渉超小形電子系を備える。
【0032】
第2の代替例によれば、基準測定中に後方散乱光をフィルタリングするように、アドレス可能なフィルタリング手段は媒体と基準測定に使用される検出手段との間に位置する。そのようなフィルタリングを実施するため、フィルタリング手段は、特に、検出すべき化合物(1つ若しくは複数)によって強吸収された波長を検出装置に向けてもよく、且つ検出すべき化合物(1つ若しくは複数)によって弱吸収された波長を別の検出装置に向けてもよい手段を備え、その結果、検出測定及び基準測定が同時に実施される。
【0033】
上述した本発明の第1の代替例は、特に、図1に示される。装置Iは、検出測定(1回又は複数回)及び基準測定に使用される単一の光源1を備える。フィルタリング手段2は、基準測定中に放射光をフィルタリングするため、光源1の出力側で、基準測定に使用される光源とガス媒体との間に位置する。基準測定中、これらのフィルタリング手段2は、検出すべき1つ又は複数の化合物によって強吸収される波長に対応する特定波長のみを放射できるようにするため、光源1による放射光をフィルタリングする。検出測定中、フィルタリング手段は使用不能にされる。短パルスの形態の放射光3は、対象のガス媒体4に向かって伝搬する。後方散乱光5の一部分は、時間分解能を有する検出手段を含む検出装置6によって検出される。フィルタリングなしに実施される検出測定と、フィルタリングを伴って実施される基準測定との間の強度差は、調べられる化合物(1つ又は複数)の濃度に正比例する。代替の操作によれば、フィルタリング手段により、強吸収された波長ではなく弱吸収された波長の放射を媒体に向けることが可能になる。
【0034】
フィルタリング手段がガス媒体の上流に位置付けられるような代替実施形態により、放射光の出力を低減することが可能になり、その結果、対象の化合物で後方散乱が観察される波長まで低減される。この場合、目の安全性に関する標準を観察するのがより容易である。
【0035】
上述した本発明の第2の代替例は、例えば図2に示される。装置IIは、検出測定(1回又は複数回)及び基準測定に使用される単一の光源11を備える。光源11によって放射される短パルスとしての光12は、対象のガス媒体13に向かって伝搬する。後方散乱光14の一部分は、時間分解能を有する検出手段を含む検出装置15によって検出され、その上流にはフィルタリング手段16が位置する。基準測定中、これらのフィルタリング手段16はガス媒体13による後方散乱光をフィルタリングするので、検出すべき1つ又は複数の化合物によって強(若しくは弱)吸収される波長に対応する特定波長のみが検出装置15に向けられる。検出測定中、フィルタリング手段は使用不能にされる。フィルタリングなしに実施される検出測定と、フィルタリングを伴って実施される基準測定との間の強度差は、調べられる化合物(1つ又は複数)の濃度に正比例する。
【0036】
この代替例では、フィルタリング手段は、基準光源による放射光全体ではなく、媒体による後方散乱光のみを受け取る。したがって、フィルタの経時変化又は劣化のリスクが減少する。
【0037】
図3は、基準測定及び検出測定を同時に行う際に後方散乱光をフィルタリングするように、アドレス可能なフィルタリング手段がガス媒体と基準測定及び検出測定に使用される検出装置との間に位置する、別の代替例を示す。図3では、装置IIIは、検出測定(1回又は複数回)及び基準測定に使用される単一の光源111を備える。光源111によって放射される短パルスとしての光112は、対象のガス媒体113に向かって伝搬する。後方散乱光114の一部分は、ガス媒体113の下流に位置するフィルタリング手段115によってフィルタリングされ、その手段は、検出すべき化合物(1つ又は複数)によって強吸収された波長を検出装置に向け、且つ検出すべき化合物(1つ又は複数)によって弱吸収された波長を別の検出装置に向ける手段を備える。図3では、フィルタリング手段115は、プリズムなどの光分散手段116と、得られた分散光を反射する手段117であって、光線をその波長に応じて検出装置118及び119のどちらか一方に向ける手段とを備える。理解を容易にするため、フィルタリング手段115は任意に大縮尺で示されている。実際には、検出手段は、対象の媒体から数キロメートルに達してもよい距離に位置する。反射手段117は、圧電アクチュエータ上に取り付けられたマイクロミラーのネットワークなどの超小型電磁装置、又は他のあらゆる反射装置であってもよく、その各要素は、制御信号によって独立に且つ迅速に向き付けられてもよい。
【0038】
検出装置118は、測定すべき化合物によって弱吸収された波長を受け取り、検出(又は基準)測定の実施を可能にする。検出装置119は、測定すべき化合物によって強吸収された波長を受け取り、基準(又は検出)測定の実施を可能にする。DIAL吸収差技術に使用される計算技術によれば、対象の化合物の濃度を測定することができる。したがって、基準測定及び検出測定が同時に実施され、それによって、2つの連続する測定の間に媒体に生じることがあるゆらぎを取り除くことができる。
【0039】
この場合、基準測定及び検出測定は同時に実施される。検出測定は、例えば、検出すべきガス化合物(1つ又は複数)によって弱吸収される波長(λoffと呼ばれる)を受け取る検出手段によって実施される測定に相当し、基準測定は、検出すべきガス化合物(1つ又は複数)によって強吸収される波長(λonと呼ばれる)を受け取る検出手段によって実施されるものに相当し、或いはその逆である。検出すべきガス化合物の濃度を得ることができる計算方法は、当業者には良く知られており、特に、DIAL吸収差技術に使用されるものに相当する。
【0040】
図4に示される装置IVは、検出測定に使用されるものと、基準測定に使用されるものとの2つの光源211及び212を備える。これらの光源211及び212それぞれによって交互に放射される光213は同じ経路を辿り、光線の方向は、光の伝搬経路を変える手段を含む装置214によって変更される。そのような装置214は、例えば移動ミラーとして現れ、その向きは、光を発する光源に応じて交互に変更される。装置214の出力側において、光源211による放射光の経路は光源212による放射光の経路に一致するので、光源に関わらず、放射光213は対象のガス媒体215に向かって同じ経路に沿って伝搬する。後方散乱光216の一部分は、時間分解能を有する検出手段を含む検出装置217によって検出され、その上流にはフィルタリング手段218が位置する。基準測定中、フィルタリング手段218はガス媒体215による後方散乱光をフィルタリングするので、検出すべき1つ又は複数の化合物によって強(若しくは弱)吸収される波長に相当する特定波長のみが検出装置217に向けられる。検出測定中、フィルタリング手段は使用不能にされる。フィルタリングなしに実施される検出測定と、フィルタリングを伴って実施される基準測定との間の強度差は、調べられる化合物(1つ又は複数)の濃度に正比例する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体(4、13、113、215)中の化合物を遠隔的に光学検出する方法であって、
光源(1、11、111、211)、いわゆる検出光源から、少なくとも3nm幅、好ましくは少なくとも10nm幅の広波長帯をカバーする光の短パルスを前記媒体(4、13、113、215)中へと放射することによって、かつ、時間分解能を有する検出装置(6、15、118、217)を用いて前記媒体による後方散乱光の一部分を検出することによって、検出測定が実施され、
前記検出光源と同一の特性を有する光源(1、11、111、212)、いわゆる基準光源から、光の短パルスを前記媒体(4、13、113、215)中へと放射することによって、かつ、時間分解能を有する前記検出装置(6、15、119、217)を用いて前記媒体による後方散乱光の一部分を検出し、前記放射光又は前記後方散乱光を、アドレス可能なフィルタリング手段(2、16、115、218)によってフィルタリングし、調べるべき少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における前記光の光学スペクトルをシミュレートすることによって、基準測定が実施され、
前記検出測定と前記基準測定とを比較して、調べられる前記化合物が前記媒体中に存在する可能性を推論し、
前記アドレス可能なフィルタリング手段(2、16、115、218)が動的に変更され、一連の基準測定及び一連の対応する比較が、前記媒体中に存在し得る一連の異なる化合物について実施される、方法。
【請求項2】
前記検出光源及び前記基準光源が、パルスを放射するレーザーを備え、前記パルスの波長スペクトルが拡幅される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出光源及び前記基準光源が、持続時間が20fs〜10ps、好ましくは100fs〜300fsであり、出力が好ましくは3GW〜100TW、優先的には0.5TW〜5TWであるパルスを送達する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記媒体中へと放射される前記パルスが白色光パルスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定及び前記比較が、前記検出される存在する化合物の濃度を判断するために実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記検出測定及び前記基準測定が単一光源(1、11、111)を用いて実施され、前記検出測定がフィルタリングを伴わずに実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基準測定のそれぞれに対して異なる検出測定が実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記基準測定中に前記放射光をフィルタリングするため、前記アドレス可能なフィルタリング手段(2)が前記基準測定に使用される前記光源と前記媒体との間に配置される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フィルタリング手段が、光空間位相及び/又は振幅変調器或いは反射式又は干渉式超小形電子系を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基準測定中に前記後方散乱光をフィルタリングするために、前記アドレス可能なフィルタリング手段(16、115、218)が前記媒体(13、113、215)と前記基準測定に使用される前記検出装置(15、119、217)との間に配置される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィルタリング手段(115)が、検出すべき前記化合物によって強吸収された波長を検出装置(119)に向けてもよく、且つ検出すべき前記化合物によって弱吸収された波長を別の検出装置(118)に向けられ得る手段(117)を備え、もって、前記検出測定及び前記基準測定が同時に実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
媒体(4、13、113、215)中の化合物を遠隔的に光学検出するための装置であって、
(a)少なくとも3nm幅、好ましくは少なくとも10nm幅の光の短パルスを媒体中へと放射する光源(1、11、111、211)、いわゆる検出光源と、前記媒体による後方散乱光の一部分を検出する、時間分解能を有する検出装置(6、15、118、217)とを備える、検出測定を行う検出測定用の一連の構成要素、
(b)前記検出光源と同一の特性を有する、光の短パルスを前記媒体中へと放射する、光源(1、11、111、212)、いわゆる基準光源と、前記放射光又は前記後方散乱光をフィルタリングし、調べるべき少なくとも1つの所与の化合物の使用波長における前記光の光学スペクトルをシミュレートするアドレス可能なフィルタリング手段(2、16、115、218)と、前記媒体による前記後方散乱光の一部分を検出する、時間分解能を有する検出装置(6、15、119、217)とを備える、基準測定を行う基準測定用の一連の構成要素、
(c)調べられる前記化合物が前記媒体中に存在する可能性を推論するため、前記検出測定と前記基準測定とを比較する手段、及び、
(d)前記アドレス可能なフィルタリング手段を変更して、前記媒体中に存在し得る一連の異なる化合物に対して一連の基準測定を実施できるようにする自動手段と
を備える、装置。
【請求項13】
前記検出光源及び前記基準光源がレーザーを備える、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記検出光源及び前記基準光源が、持続時間が20fs〜10ps、好ましくは100fs〜300fsであり、出力が好ましくは3GW〜100TW、優先的には0.5TW〜5TWであるパルスを放射する、請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
前記検出装置及び前記比較手段が、前記検出される存在する化合物の濃度を計算する手段を含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記検出光源(211)が前記基準光源(212)とは別個独立のものである、請求項12〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記検出光源及び前記基準光源が単一の同じ光源(1、11、111)であり、前記検出測定がフィルタリングを伴わずに実施される、請求項12〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
検出測定及び基準測定を交互に行う制御手段を含む、請求項12〜17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記基準測定中に前記放射光をフィルタリングするため、前記アドレス可能なフィルタリング手段が前記基準媒体に使用される前記光源と前記媒体との間に配置される、請求項12〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記フィルタリング手段が、光空間位相及び/又は振幅変調器或いは反射式又は干渉式超小形電子系を備える、請求項12〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記基準測定中に前記後方散乱光をフィルタリングするように、前記アドレス可能なフィルタリング手段(16、115、218)が前記媒体(13、113、215)と前記基準測定に使用される前記検出装置(15、119、217)との間に配置される、請求項12〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記フィルタリング手段(115)が、検出すべき前記化合物によって強吸収された波長を検出装置(119)に向けてもよく、且つ検出すべき前記化合物によって弱吸収された波長を別の検出装置(118)に向けてもよい手段(117)を備え、もって、前記検出測定及び前記基準測定が同時に実施される、請求項21に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528309(P2010−528309A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509871(P2010−509871)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050903
【国際公開番号】WO2008/152286
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(596096180)ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ (16)
【出願人】(502017261)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (15)
【Fターム(参考)】