説明

子宮内膜症の治療のためのミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト

本発明は、子宮内膜症の治療のための医薬の調製のためのミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用を提供する。本発明は、特に、現在利用できる治療よりも優れた活性及び副作用特性を有する、子宮内膜症のための改善させた治療用組成物に関する。ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストを使用することにより、骨量の損失を伴うことなく、子宮内膜症を恒久的に治療することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内膜症の治療のためのミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストに関する。特に、本発明は現在利用できる治療法よりも優れた活性又は副作用特性を有する子宮内膜症の治療のための改善された治療組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症の臨床像は、子宮腔の外側の子宮内膜組織の転移である。これらの、いわゆる子宮内膜病変(endometriotic lesion)は、本来の組織の特性を保っている腹膜腔の多様な領域、例えば腸壁、卵巣又は直腸膣に見られる。子宮内膜症は本質的に炎症の特徴を有し、そして出産年齢の女性の10〜20%が罹患している。子宮内膜症の主な症状は、慢性的な腹痛、月経困難症、性交疼痛症、排尿障害、月経障害及び不妊症である。多くの場合において、これらの症状は複合的に発症する。該病変は、卵管を介する腹膜腔への、いわゆる逆行性月経を介して移動するものと考えられている。
【0003】
診断された子宮内膜症の治療のための現在の治療法は極めて制限されている。これらはGnRHアゴニスト、アンドロゲン、又はそのほかにゲスターゲンの使用を含む。
【0004】
GnRHアゴニストは、視床下部/下垂体/卵巣軸と干渉することによりエストロゲンの体内生産を抑制する。その結果、子宮内膜症に関連する症状の随伴的な減少を伴い、エストロゲン濃度は閉経後のレベルまで減少する。アンドロゲンは同じように作用し、そしてさらに卵巣における直接的な作用が想定される。副作用特性により、これらの2つの治療法は、短期間の適用(6〜9ヶ月間)のみ適当である。
【0005】
GnRHアゴニストは、閉経後症状、例えば顔面紅潮及び骨量の減少を誘発する。アンドロゲンの場合にはさらに、アクネ、体重増加及び不可逆的気分変動が観察される。
【0006】
現在、デポ型MPA(酢酸メドロキシプロゲステロン)は、子宮内膜症の治療のために承認されている唯一のゲスターゲンである。しかしながら、わずか6ヶ月の投与後に、骨量が減少するおそれがある。したがって、いかなる場合でも、2年以上の期間にわたり使用するべきではない(Physician Information for depe−subQ provera 104; Subcutaneous depot medroxyprogesterone acetate versus leuprolide acetate in the treatment of endometriosis−associated pain; P.G.Crosignani et al., Human Reproduction Vol.21, No.1 pp.248-256, 2006)。
【0007】
EP 1 257 280 B1は、微粒化ドロスピレノンが子宮内膜症の治療に好適となりうることを示す。該文献の段落45において、低含有量のエストロゲンを有する又はエストロゲンを含まないドロスピレノンの組成物は、子宮内膜症の治療のために特に好適であることが記載されている。この開示によれば、これはドロスピレノンの黄体ホルモン特性によるものである。したがって、ドロスピレノンは、黄体ホルモン活性により子宮内膜症の治療に好適であることが記載されている。EP 1 257 280 B1は、0.5〜10mgのドロスピレノンが有効であることを記載する。EP 1 257 280 B1は、ドロスピレノンによる子宮内膜症の治療期間に関しては何ら言及していない。
【0008】
子宮内膜症はさらに、腹腔鏡手術における子宮内膜病変の外科的除去によっても治療できる。しかしながら、このような治療介入後の再発率は極めて高いものである(25〜30%)。特に困難な場合には、子宮摘出、すなわち子宮の完全な除去が最終的な治療選択となる。
【0009】
したがって、これまでのところ、副作用、治療の有効性及び再発率のバランスがよくとれている子宮内膜症の適応のための長期間の治療法は存在しない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、現在利用できる治療法よりも優れた活性又は副作用特性を有する子宮内膜症の治療のための新規な治療法を提供することである。特に、本発明の治療法は、子宮内膜症の持続的又は長期的な治療を許容する。
【0011】
このような目的は、子宮内膜症の持続的な治療のための新規な治療法により、発明によって達成される。
【0012】
本発明にしたがい、子宮内膜症の治療のための医薬を調製するためにミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストが使用される。
【0013】
本明細書において、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストによる治療期間は、少なくとも6ヶ月間、好ましくは24ヶ月間以上にわたり延長できる。治療を6ヶ月未満の期間で行うことが意図される場合、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとしてドロスピレノンが除外される。
【0014】
この目的のため、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは、これら自体において、あるいは他の物質との組み合わせにおいて使用することができる。
【0015】
このような併用において、
・ ゲスターゲン、
・ いわゆるSERM(選択性エストロゲン受容体モジュレーター)、
・ SPRM(選択性プロゲステロン受容体モジュレーター)、
・ ゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせ、
・ プロゲステロン受容体アンタゴニスト、
・ エストロゲン受容体アンタゴニスト、
・ グルココルチコイド、
・ エストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンド(ER−βリガンド)、
・ アンドロゲン、
・ 抗アンドロゲン、及び
・ SARM(選択性アンドロゲン受容体モジュレーター)
の群に由来する少なくとも1つの化合物と一緒に使用することが好ましい。
【0016】
本発明はまた、子宮内膜症の治療のための医薬の調製のための、抗ミネラルコルチコイド作用と他の受容体における作用とを組み合わせる化合物の使用に関する。
【0017】
本明細書において、好ましくは、抗ミネラルコルチコイドであり、かつプロゲステロン受容体において、エストロゲン受容体において、エストロゲン受容体βにおいて、グルココルチコイド受容体において及び/又はアンドロゲン受容体において活性を示す物質であり、ここで特に言及した受容体における作用は、アゴニストとして、部分的なアゴニストとして又はアンタゴニストしてのものであってよい。
【0018】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは、ミネラルコルチコイド受容体において結合親和性を有し、そして天然のミネラルコルチコイドアルドステロンの作用を阻害する物質である。本明細書において言及される例は、スピロノラクトン、エプレロノン及びドロスピレノンである。本発明にしたがい使用されるミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは、アルドステロンの受容体に近似的に対応するミネラルコルチコイド受容体において結合親和性を有し、あるいはアルドステロンのものよりも優れているべきである。本明細書において、受容体においてアルドステロンをブロックするが、アルドステロンの体内生産を阻害しない物質のみが、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストを意味する。
【0019】
本発明のゲスターゲンは、天然のプロゲステロン、又は排卵阻害用量よりも高い投与量においてプロゲステロンのようにプロゲステロン受容体と結合し、排卵を阻害する合成誘導体のいずれかを意味するものと理解される。言及することができる合成誘導体の例は、ドロスピレノン、ゲストデン、レボノルゲストレル、酢酸シプロテロン、デソゲストレル及び3−ケトデソゲストレル、ノルエチステロン、酢酸ノルエチステロン及びジエノゲストである。
【0020】
本発明のSERM(選択性エストロゲン受容体モジュレーター)は、組織選択的に、抗エストロゲン作用又はエストロゲン作用のいずれかを有し、そして例えば子宮においてエストロゲンの作用を阻害するが、骨においては中立的な作用又はエストロゲン様作用を有する化合物である。言及することができる例は、タモキシフェン、ラロキシフェン及びバシドキシフェンがある。
【0021】
本発明において、SPRM(選択性プロゲステロン受容体モジュレーター;メソプロゲスチンとも称される)は、生体内のプロゲステロン受容体において、アゴニスト活性又はアンタゴニスト活性のいずれかを有する化合物として理解される。ゲスターゲンやプロゲステロン受容体アンタゴニストのように、SPRMは、プロゲステロン受容体に対して高い結合親和性を有する。しかしながら、ゲスターゲン及びプロゲステロン受容体アンタゴニストと比較して、SPRMは異なる薬力学的特性を有する。慣習的な生物試験(例えばマクフェイル試験、Selye, H.)を使用して生体内において測定されるSPRMのプロゲステロン−アゴニスト活性は、これらの化合物の基本的な特性である。しかしながら、この活性はプロゲステロンよりも弱い。卵巣切除した妊娠した齧歯動物、例えばマウス又はラットにおける妊娠維持は、SPRMによって達成することはできない。一方でSPRMは、プロゲステロンの作用に拮抗する。しかしながら、最大拮抗作用は、RU486又は他の純粋なプロゲステロンアンタゴニストにより誘発できるものよりも低い。更なる詳細については、WO 01/15679等の参考文献がある。言及することができる該化合物クラスの典型例は、4−[17β−メトキシ−17α−(メトキシメチル)−3−オキソエストラ−4,9−ジエン−11β−イル]ベンズアルデヒド(1E)−オキシム、4−[17β−メトキシ−17α−(メトキシメチル)−3−オキソエストラ−4,9−ジエン−11β−イル]ベンズアルデヒド (1E)−[O−(エチルアミノ)カルボニル]オキシム及び4−[17β−メトキシ−17α−(メトキシメチル)−3−オキソエストラ−4,9−ジエン−11β−イル]ベンズアルデヒド(1E)−[O−(エチルチオ)カルボニル]オキシムである。
【0022】
SARM(選択性アンドロゲン受容体モジュレーター)は、組織選択的に、アンドロゲン又は抗アンドロゲンとして、例えば抗アンドロゲンとして皮膚中で作用する物質であるが、リビドーにおいてポジティブな効果を有さない。
【0023】
ゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせは、例えばYasmin、Femovan、Marvelon、YAZ等として知られる経口避妊薬中に見られる活性化合物の組み合わせである。
【0024】
プロゲステロン受容体アンタゴニストは、その受容体においてプロゲステロンの作用を阻害する化合物である。言及できる例は、RU486、オナプリストン及び11β−(4−アセチルフェニル)−17β−ヒドロキシ−17α−(1,1,2,2,2−ペンタフルオロエチル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン(WO 98/34947)である。
【0025】
エストロゲン受容体アンタゴニストは、その受容体(エストロゲン受容体α及びエストロゲン受容体β)においてエストロゲンの作用をブロックする化合物である。言及することができるエストロゲン受容体αブロッキング化合物は、例えば7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル]−n−ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールである。
【0026】
グルココルチコイドは、グルココルチコイド受容体においてアゴニスト作用を誘発し、これにより免疫抑制剤として作用する化合物である。言及できる例は、デキサメタソンである。
【0027】
本発明にしたがい、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは以下の用量で使用される:
スピロノラクトン10〜50mg/ヒト、1回又は半分用量で2回投与、好ましくは25〜250;
エプレレノン10〜500mg/ヒト、1回又は半分用量で2回投与、好ましくは25〜250;
ドロスピレノン1〜5mg、好ましくは2〜4mg。
【0028】
他のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは、同様の活性の投与量、すなわち、上述の化合物の量と比較できるような子宮内膜症の治療をもたらす投与量において使用される。
【0029】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストが、他の化合物と一緒に使用される場合(上記を参照のこと)、これらの化合物はこれらの他の化合物についてすでに記載されている投与量範囲において使用される。
【0030】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、及び適当な場合には、更なる使用される化合物は、当業者に既知の方法において処方される。
【0031】
レニン/アンジオテンシン/アルドステロン系のエフェクターとしてのアルドステロンの古典的な生理的機能は、細胞外体積とカリウム代謝の恒常性の制御である。しかしながら、ミネラルコルチコイド受容体の活性化は、ミネラルコルチコイド受容体が発現する多様な組織、例えば脳、心臓又は血管において病的な症状をもたらす。本明細書において言及できる例は、高血圧、血管障害、腎機能障害、偏頭痛、神経障害、網膜症、圧受容体機能障害、肝臓障害及び浮腫である。これらのアルドステロンの悪影響は、非古典的な標的組織、例えば血管におけるミネラルコルチコイド受容体により生じるものと想定される(Rudolph et al., 2004)。
【0032】
利尿薬であるスピロノラクトン及びエプレロノンの作用は、標的組織の腎臓におけるアルドステロンの作用によるものである。アルドステロンの存在下において、これらは腎臓のナトリウム排出を増加し、そしてカリウムの排出を低める。これにより、水分の排出が増加する。したがって、これらは、高血圧の治療のために使用される(Weinberger et al., 2002; Weinberger et al., 2005)。しかしながら、エプレロノン等の物質の助けにより、アルドステロンの阻害は、いかなる血圧の測定可能な低下、又はいかなる利尿作用も伴うことなく、多様な標的組織において保護的な効果を有する(Rudolph et al., 2004)。動物モデルにおいて、例えば、エプレロノンが心筋不全モデルにおける血管の心筋線維症のアルドステロン媒介初期炎症性傷害を阻害することを実証することが可能である(Rocha et al., 2002a; Rocha et al., 2002b)。より最近の試験管内実験は、スピロノラクトンが、免疫系の細胞における一定のサイトカインの生合成において効果を有しうることが示されている(Mikkelsen et al., 2006)。
【0033】
子宮内膜症の開始及び進行におけるアルドステロン又はミネラルコルチコイド受容体の生理学的又は病態生理学的な機能はこれまでに記載されていない。
【0034】
本発明にしたがい、このたび驚くべきことに、子宮内膜症において、ミネラルコルチコイド受容体が、改変された発現特性を有することが見出された。これは、例えば、参照遺伝子と比較してmRNA含有量が測定される定量型RT−PCRによって測定することができる。病理組織、子宮内膜病変において、ミネラルコルチコイド受容体は、健康な組織、子宮の子宮内膜と比較して2〜3倍高いmRNA含有量を示す(図1を参照のこと)。子宮内膜におけるミネラルコルチコイド受容体の発現を月経周期の異なる段階で比較した場合、発現レベル(mRNA含有量)の変化は明らかではない(図1)。これは、子宮内膜の正常な生理学において、すなわち健康な子宮内膜においては、アルドステロンとミネラルコルチコイド受容体は制御機能を有さないことを示唆している。
【0035】
さらに、本発明にしたがい、齧歯動物(この場合はラット)子宮内膜モデル中の子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現は、子宮の子宮内膜と比較して、同様に増加する可能性を示す(図2)。しがたって、子宮内膜におけるミネラルコルチコイド受容体の役割は異種についても一貫しているように見える。
【0036】
さらに、本発明にしたがい、ミネラルコルチコイド受容体においてアルドステロンの作用を阻害する物質は、霊長類モデルにおいて、ヒトにおける子宮内膜症の治療においてポジティブな効果を有することを示唆する子宮内膜症における効果を有することが見出された(図3)。この試験において、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストであるスピロノラクトン(このクラスの活性化合物由来の標準的な化合物)が使用された。
【0037】
これらの観察(これは実施例1〜3においてより詳細に記載する)に基づき、霊長類モデルにおける治療は、子宮内膜病変のサイズを減少し、かつこれらの病変の増殖を阻害したことから、子宮内膜症に罹患する女性患者におけるミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストによる治療は症状の低下をもたらすことが推測される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】定量RT−PCRによる子宮内膜及び子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現を示す。
【図2】ラット子宮内膜症モデルにおける定量RT−PCRによる子宮内膜及び子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現を示す。
【図3】スピロノラクトンによる治療後のアカゲザルにおける子宮内膜症モデルにおける子宮内膜病変の増殖の割合の試験を示す。
【0039】
本発明の1つの実施形態は、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、及びゲスターゲン、プロゲステロン受容体アンタゴニスト、グルココルチコイド、ゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせ、SERM、SPRM、及びエストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンド(選択性ERβアゴニスト)から選択される少なくとも1つの化合物の組み合わせの使用を提供する。
【0040】
子宮内膜症の治療のためのこれらのクラスの活性化合物由来の化合物の使用は既知である。SPRMとプロゲステロン受容体アンタゴニストによる子宮内膜症の治療について示唆する文献が存在し(Kettel et al., 1996)、そして同じ目的のためのゲスターゲン及びゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせの使用について記載されている(Rodgers and Falcone, 2008)。さらに、前臨床動物モデルは、エストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンドが、子宮内膜症においてポジティブな効果を有しうることを示唆する(Harris et al., 2005)。さらに、グルココルチコイドは免疫抑制剤として作用し、そして子宮内膜症の進行においてポジティブな効果を有しうることが知られている。しかしながら、女性における安全かつ長期間の使用は記載されておらず、また上述の方法についても何ら開示されていない。ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストと先行技術のこれらの活性成分の1つの組み合わせは、第1に相加的な作用を有し、そして第2に長期間の使用を許容するものでなければならない。併用治療においては、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストに追加的に投与される物質は、すでに記載された医薬的に有効な投与量において使用するべきであり、SPRM及びプロゲステロン受容体アンタゴニストは、例えば女性1日あたり1mg〜100mgの投与量において、またグルココルチコイドは1日あたり0.01〜2mg/kgにおいて使用するべきである。
【0041】
この場合において、特に好適なものは、黄体ホルモン活性を同時に示すか、あるいはプロゲステロン受容体−アンタゴニスト活性、又はグルココルチコイド活性、又はエストロゲン受容体イソタイプ−特異的活性を有するミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用である。
【0042】
全ての場合において、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは連続的又は非連続的に投与することができる。
【0043】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストが毎日投与される治療プロトコルが好ましい。
【0044】
特に好ましくは、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストが経口形態において毎日投与される治療プロトコルである。
【0045】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、及びゲスターゲン、プロゲステロン受容体アンタゴニスト、ゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせ、エストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンドと、SERM、SPRM及びグルココルチコイドの組み合わせも同様に連続的又は非連続的に投与することができる。
【0046】
特に好ましくは、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとゲスターゲンの組み合わせ、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとプロゲステロン受容体アンタゴニストの組み合わせ、及びミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとエストロゲンとゲスターゲンの組み合わせである。
【0047】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとゲスターゲンの組み合わせについて、好ましくはゲスターゲンが毎日の投与量において連続的に投与される治療プロトコルが好ましい。
【0048】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストとエストロゲンとゲスターゲンの組み合わせの場合、これらは連続的又は非連続的に投与することができる。非連続的な投与の場合、好ましくは特に21/7又は24/4周期(21日の組み合わせの投与後、プラセボの投与か治療の中止による7日間の停止;24/4についても同様である)が与えられる。
【0049】
好ましくは、ゲスターゲンは、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸シプロテロン、レボノルゲストレル、ノルゲスチメート、デソゲストレル、ゲストデン、ジエノゲストである。このような組み合わせにおいて、好ましいエストロゲンはエチニルエストラジオールである。
【0050】
他の受容体において活性をさらに示すミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの場合、特に好ましくは、プロゲステロン受容体において更に活性であるか、アンドロゲン受容体においてアンタゴニストとして更に活性である化合物である。特に好ましくは、黄体ホルモン活性を同時に示すミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストである。
【0051】
これらは連続的に又は非連続的に投与できる。
【0052】
特に好ましくは、毎日の経口投与を含む治療プロトコルである。
【0053】
黄体ホルモン活性を同時に有するミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストは、エストロゲンとの組み合わせにおいても投与することができる。
【0054】
特に好ましいエストロゲンはエチニルエストラジオールである。
【0055】
このような組み合わせは、連続的な(毎日)又は非連続的な治療プロトコルにおいて投与することができる。
【0056】
特に好ましい非連続的な治療プロトコルは、24日間の投与後4日間の停止を与えるもの、あるいは21日間の治療後7日間の停止を与えるものである。これらの治療プロトコルにおける停止は、プラセボの投与によるか、あるいは治療の単なる中断によるものであってよい。
【0057】
本発明は、以下の実施例1〜3及び付随の図1〜3によって、より詳細に説明されるが、本発明をこれらの実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1:
ヒト子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現を、正常なヒト子宮内膜におけるものと比較した。この目的のために、適当な組織バイオプシーから、フェノール/クロロホルム抽出によりミネラルコルチコイド受容体NAを単離し、逆転写を介してcDNAに転写し、そしてミネラルコルチコイド受容体/ミネラルコルチコイド受容体NAの相対含量について標準的なプロトコルに従いTaqMan−RT−PCR分析により試験した。使用したTaqManプローブは、ミネラルコルチコイド受容体及び対照遺伝子サイクロフィリンのためにBD Biosciencesより商業的に入手可能なプライマー/プローブの組み合わせである。
【0059】
図1:
定量RT−PCRによる子宮内膜及び子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現。
健康な子宮内膜と比較して、子宮内膜病変は、顕著に上昇した発現を示す(試料1−8と試料1*−8*とを比較する。1−8は8人の異なる女性患者であり、子宮内膜病変はアスタリスクで示している)。月経周期の段階は、子宮内膜における発現レベルに何ら影響しない(卵胞期と黄体期とを比較する)。さらに、健康な対象と子宮内膜症患者間の正所性子宮内膜におけるミネラルコルチコイド受容体の発現において差は存在しない(黄体期と黄体期子宮内膜症とを比較する)。これらは全て、子宮内膜症の病理学におけるミネラルコルチコイド受容体の役割を示唆する。
【0060】
正常な子宮内膜(1−8、一番左のグループ、白色)と比較して、子宮内膜病変におけるMRは2〜3倍上昇したmRNA発現を示す(1*−8*、左から2番目のグループ、黒色)。健康な子宮内膜を、月経周期の異なる段階と比較すると、発現レベルにおける明確な違いはない(黄体期と卵胞期とを比較、右から3番目のグループ、白色と右から2番目のグループ、淡灰色とを比較)。子宮内膜症患者の子宮内膜におけるMR発現は、健康な女性患者のものと変わらない(黄体期と黄体期子宮内膜症とを比較、一番右のグループと右から2番目のグループ、淡灰色とを比較)。
【0061】
実施例2:
子宮内膜症の齧歯類モデル(Matsuzaki et al., 2004)を使用して、子宮内膜病変のミネラルコルチコイド受容体の発現と正常な子宮内膜とを比較した。この目的のために、成体の雌ラットから子宮内膜症組織を除去し、そして自己移植において、腹膜腔の2つの位置、第1の結腸壁と第2の腹膜に移植した。この実験方法において、再付着又は閉塞した子宮(子宮内膜の除去後)は対照組織として貢献する。病変の設置から4週間後、該病変と対照組織を除去し、そしてフェノール/クロロホルム抽出によりこれらの組織バイオプシーからミネラルコルチコイド受容体NAを単離し、逆転写を介してcDNAに転写し、そして最後にミネラルコルチコイド受容体/ミネラルコルチコイド受容体NAの相対含量について標準的なプロトコルに従いTaqMan−RT−PCR分析により試験した。病変は、正常な子宮と比較してミネラルコルチコイド受容体の顕著に増加した発現を示す(図2を参照のこと)。したがって、ミネラルコルチコイド受容体の増加した発現は、このモデルにおいても保存され、これはミネラルコルチコイド受容体の病理学的機能を明確に示す。
【0062】
図2:
ラット子宮内膜症モデルにおける定量RT−PCRによる子宮内膜及び子宮内膜病変におけるミネラルコルチコイド受容体の発現。
病変は、対照組織と比較してミネラルコルチコイド受容体の極めて増加した発現を示す(子宮対照、腹膜における病変及び腸における病変における各々の比較;全部で4匹の動物を該実験に使用した)(番号14、20、26及び32)。
【0063】
試験した4匹全ての動物(動物番号14、20、26及び32)において、両病変(淡灰色、腹膜における病変及び灰色、腸における病変)は、子宮対照(黒色)と比較してMRの増加した発現を示す。
【0064】
実施例3:
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、スピロノラクトン、の活性を非ヒト霊長類における子宮内膜症モデルで試験した。非ヒト霊長類は、子宮内膜症が自然条件下において自発的に生じる点でヒトと異なる唯一の種である。したがって、これらは該障害を調査するための最も関連したモデルである。このモデルにおいて、子宮内膜組織は卵巣摘出後の再現性の理由のために、皮下的及び腹膜内的に、自己移植においてアカゲザル中に移植し、そして人工的に誘発した月経周期後、生理的濃度のエストラジオール(対照)又はエストラジオールとスピロノラクトン(30mg/kd/日)のいずれかで60日間処理する。この手順において、80〜100pg/mlにおける血清レベルを保つエストラジオール置換のための持続性薬剤(depot)を与える。この方法において、子宮内膜病変が生理的濃度のエストラジオールに暴露することを保証する。該持続性薬剤により、ホルモン濃度の個々の変化及びその結果における影響を排除することができる。該処理後、子宮内膜病変のサイズを測定し、そしてこれらの病変の増殖を組織分析により検出した。対照動物と比較して、スピロノラクトン処理動物は、子宮内膜病変の有意な減少を示す(表1)。有糸分裂抗原Ki67の染色及びブロモデオキシウリジン(BrDU)による対応する処理は、腹部病変における増殖の減少を示す(図3を参照のこと)。したがって、ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニスト、スピロノラクトンは、子宮内膜症の発生においてポジティブな効果を有する。
【0065】
【表1】

【0066】
表1:
マカクモデルにおける60日間の治療後における子宮重量及び子宮内膜病変の重量。
自己移植において、子宮内膜組織からの複数の病変を、アカゲザルに皮下的、腹膜内的/腹部的に移植した。人工的に月経周期を誘発させた後、該動物を、エストラジオール(対照)又はエストラジオールとスピロノラクトンのいずれかで60日間処理した。スピロノラクトンによる処理後、両方のタイプの病変は重量の減少を示した。スピロノラクトンによる治療は、子宮においてはこのような有意な効果を示さない。
【0067】
図3:
スピロノラクトンによる治療後のアカゲザルにおける子宮内膜症モデルにおける子宮内膜病変の増殖速度の実験。
【0068】
Ki67(有糸分裂のためのマーカー)による免疫組織学的染色及びブロモデオキシウリジン(BrDU)による対応する処理は、病変の分泌細胞における増殖が、子宮内膜移植の処理の結果として強く減少することを示す。
【0069】
Ki67(上段)による子宮内膜病変における細胞分裂の検出及びBrDUの組み込み(下段)は、スピロノラクトンにより治療した動物において、減少した値を示す(対照、左、とスピロノラクトン、右とを比較)。
【0070】
【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも6ヶ月間にわたる子宮内膜症の持続的な治療のための医薬の調製のためのミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項2】
少なくとも24ヶ月間にわたる、請求項1に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項3】
子宮内膜症の治療のための医薬の調製のためのドロスピレノンを除くミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項4】
請求項1、2又は3のいずれか1項に記載のスピロノラクトンの使用。
【請求項5】
請求項1、2又は3のいずれか1項に記載のエプレレノンの使用。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のドロスピレノンの使用。
【請求項7】
前記ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストが、これらの抗ミネラルコルチコイド作用と他の受容体における作用とを組み合わせることを特徴とする、請求項1に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項8】
ゲスターゲン、SERM(選択性エストロゲン受容体モジュレーター)、SPRM(選択性プロゲステロン受容体モジュレーター)、ゲスターゲンとエストロゲンの組み合わせ、プロゲステロン受容体アンタゴニスト、エストロゲン受容体アンタゴニスト、グルココルチコイド、エストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンド(ER−βリガンド)、アンドロゲン、抗アンドロゲン及びSARM(選択性アンドロゲン受容体モジュレーター)から成る群から選択される少なくとも1つの化合物を伴う、請求項1〜7のいずれか1項に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項9】
グルココルチコイドを伴う請求項8に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項10】
プロゲステロン受容体アンタゴニストを伴う請求項8に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項11】
エストロゲン受容体アンタゴニストを伴う請求項8に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項12】
エストロゲン受容体イソタイプ−特異的リガンド(ER−βリガンド)を伴う請求項8に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項13】
ゲスターゲンとエストロゲンを伴う請求項8に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項14】
前記エストロゲンがエチニルエストラジオールである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの投与が連続的(毎日)に行われることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項16】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの投与が非連続的に行われることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。
【請求項17】
ミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの投与が経口形態において毎日行われることを特徴とする、請求項15に記載のミネラルコルチコイド受容体アンタゴニストの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−520178(P2010−520178A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551220(P2009−551220)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052456
【国際公開番号】WO2008/107373
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】