説明

安全靴用先芯及びそれを用いた安全靴

【課題】JIS T8101規格のS級を満たす安価な樹脂製安全靴用先芯を提供する。
【解決手段】繊維強化熱可塑性樹脂からなる安全靴用先芯において、前記先芯の先端から終端に至る外表面天頂線を5等分に分割した各分割線分を先端側から順に分割線分A,分割線分B,分割線分C,分割線分D、分割線分Eとし、それぞれの分割線分についてその両端と中央の3点で当該先芯の肉厚を測定し、測定したそれぞれの分割線分における最大肉厚と最小肉厚とを合計し2で割った値を当該分割線分領域における平均肉厚とするとき、前記分割線分C領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、かつ前記分割線分B領域及び/又は前記分割線分D領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、前記分割線分A〜E領域以外の領域における先芯肉厚が、前記分割線分C領域の最大肉厚と略同等かそれ以下である構造を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全靴用先芯及びそれを用いた安全靴に関する。
【背景技術】
【0002】
安全靴の先芯は、重量物の落下等による衝撃や圧迫から足の指先を保護するものであり、JIS T8101によって、作業用途別に耐衝撃性、耐圧迫性が規定されている。従来、安全靴用先芯の材料としては、強度に優れる鋼材が用いられていた。しかし、鋼製先芯は、重い、保温性が悪い、焼却廃棄できないという欠点を有しているため、近年では、先芯の材料として繊維強化樹脂材料が用いられるようになって来ている。
【0003】
上記繊維強化樹脂としては、一般にガラス繊維を配合した樹脂が用いられているが、先芯の強度を高めるためには、繊維長の長いガラス繊維を配合するのがよく、また先芯肉厚を厚くするのがよい。
【0004】
ところで、繊維強化樹脂を用いた先芯の成型方法としては、コンプレッション成型法、ペレット押し出しした後に射出成形する方法等があり、この中で射出成形法が生産性の点で優れている。
【0005】
しかし、押出法により一旦繊維強化樹脂ペレットを作製した後に、このペレットを用いて射出成形する方法は、ペレット押し出し、射出成形という2回の工程を必要とするので、生産効率が悪くなる。また、この方法では、ペレット押し出しと射出成形の2工程において繊維に剪断力が加わるため繊維長が短くなり易い。このため、この方法によると十分な先芯強度を得にくい。
【0006】
これに対して、ガラス繊維に樹脂を含浸させた繊維樹脂シートを作製し、このシートを成型金型内に入れて加熱加圧成型するコンプレッション成型法は、ガラス繊維に剪断力が加わらないので繊維が切断されないため、この方法によると高強度の先芯を作製し易い。
【0007】
しかし、この方法によると、加圧対象である繊維樹脂シートの組成分が加熱加圧成型時に成型金型内を移動・流動しないので、成型金型内に繊維樹脂シートを過剰気味に配置する必要があるが、繊維樹脂シート組成分が移動・流動しないので加圧ムラが生じ易い。このため、成型物の強度が不均一になり易いとともに、加圧成形後に余剰な樹脂シート部分を切断し成型物の形状を整える必要がある。また、加圧成型ごとに繊維樹脂シートを成型金型内に配置する必要があるため、生産効率が悪い。更にまた、繊維樹脂シートの作製にコストがかかるという問題がある。
【0008】
ここで、強化樹脂材料を用いた安全靴用先芯に係る技術としては、下記特許文献1〜3が挙げられる。
【0009】
【特許文献1】特開2002−85109号公報(要約書)
【0010】
【特許文献2】特開2003−52409号公報(段落0006、0007、0022)
【0011】
【特許文献3】特開2003−102509号公報(段落0010〜0013)
【0012】
上記特許文献1に係る技術を、図4を用いて説明する。この技術は、長繊維強化熱可塑性樹脂を材料とし、先芯先端の立ち上がり部分aの肉厚を3.5mm以上とし、肩部bの平均曲率rを20以下とする技術である。この技術によると、圧迫及び衝撃荷重の大部分が集中する先端部(先芯先端の立ちあがり部分a)の肉厚を3.5mm以上とすることにより十分な強度が得られ、また、肩部の平均曲率rを20以下とすることにより、圧迫及び衝撃荷重の大部分が先芯の側面部分、特に先芯先端の肩部b及び立ち上がり部分aで吸収されることになるので、天井後部の変形量が極めて低減され、許容応力以内に抑制することができるとされる。
【0013】
しかしながら、この技術は、図4に示すように、衝撃を最も吸収する肩部bから天井部分cの肉厚が小さいために、圧迫・衝撃によって先芯が破損する危険性がある。また、予めガラス長繊維熱可塑性樹脂ペレットを作製した後、射出成形又は圧縮成型により作製する必要があるため、生産効率が悪い。
【0014】
上記特許文献2に係る技術は、長繊維強化熱可塑性樹脂を材料とし、本体部に対するスカート部の強化繊維含有率が70〜100%とし、先芯の肉厚を2〜6mmとする技術である。この技術によると、成形品の強度のバラツキや外観不良を生ずることがなく、軽量、均質でしかも高強度の安全靴先芯を得られるとされる。
【0015】
しかしながら、この技術は、予め長繊維強化熱可塑性樹脂繊維ペレット材を作製する工程、このペレット材を擬似成形型内に入れ、これを加熱下に圧縮することにより擬似先芯を一次成形する工程、更に得られた擬似先芯を安全靴先芯成形型内に配し、加熱・加圧して安全靴先芯を圧縮成形する工程を必要とし、各々の工程が独立しているので生産効率が悪い。
【0016】
上記特許文献3は、質量平均繊維長が0.6mm以上で、かつ最大繊維長が50mmであるガラス繊維と、熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性樹脂とを含有する技術である。この技術によると、射出成形によるガラス繊維の折損・破壊を少なくできるので、質量平均繊維長が0.6mm以上の長いガラス繊維を射出成形品中に残存させることができ、これによりJIS T8101のS級(普通作業用)規格を満たす安全靴用先芯が得られるとされる。
【0017】
しかしながら、この技術は、予め熱可塑性樹脂をガラス繊維に含浸させる工程、樹脂とガラス繊維とを混合、射出してペレットとなす工程、ペレットを射出成形機に入れて射出成形する工程等を必要とし、各々の工程が独立しているので生産効率が悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
発明者は、樹脂製の安全靴用先芯について鋭意研究を行った。その結果、樹脂と樹脂を含浸していないガラス繊維とを射出成形機に投入し、直接先芯金型内に射出成形する方法(直接射出成形法)によっても、軽量性を犠牲にすることなく、JIS T8101(S級)規格を満たす強度を有する安全靴用先芯が得られることを知った。
【0019】
本発明は、JIS T8101(S級)規格を満たす十分な耐衝撃性、耐圧迫性を有し、しかも生産性にも優れた樹脂製の安全靴用先芯構造を提供することを目的とする。また、この先芯を用いて安全性に優れかつ軽量な安全靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための安全靴用先芯にかかる本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂からなる安全靴用先芯において、前記先芯の先端から終端に至る外表面天頂線を5等分に分割した各分割線分を先端側から順に分割線分A,分割線分B,分割線分C,分割線分D、分割線分Eとし、それぞれの分割線分についてその両端と中央の3点で当該先芯の肉厚を測定し、測定したそれぞれの分割線分における最大肉厚と最小肉厚とを合計し2で割った値を当該分割線分領域における平均肉厚とするとき、前記分割線分C領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、かつ前記分割線分B領域及び/又は前記分割線分D領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、前記分割線分A〜E領域以外の領域における先芯肉厚が、前記分割線分C領域の最大肉厚と略同等かそれ以下であることを特徴とする。
【0021】
上記構成による効果を、図1を用いて説明する。図1は本発明に係る先芯を示す図であって、図1(a)は足首側(終端側)から見た斜視図、図1(b)は足の指先側(先端側)から見た斜視図、図1(c)は、図1(b)の外表面天頂線11を含む平面で切断した縦断面図である。なお、断面の各々の領域(A〜E)を分割線分A〜E領域と称する。
【0022】
先芯1は、図1(a)に示すように、足指先を保護する天面部1aと、前記天面部に連なり、大きく湾曲した肩部1bと、前記肩部に連なり、略垂直に立ち上がった立ち上がり部1cと、前記立ち上がり部に連なり、先芯を接地する鍔部1dとから構成される。
【0023】
このような構造において、外部より強い衝撃が加えられたときに最も衝撃を吸収するのは、天面部1bの外周線Oに平行で、天頂線11の中点Hから10mm足首側で、且つ天頂線を中心とする長さ20mmの線分Pと、天面部1bの外周線Oに平行で、天頂線11の中点Hから10mm指先側で、且つ天頂線を中心とする長さ20mmの線分Qと、前記線分Pと線分Qの両末端を接続する2つの線分で囲まれた領域X(図1(b)参照)であり、特に天頂線11に沿った領域の強度が特に求められる。この領域Xは、先芯に衝撃が加えられた場合に、最も大きく衝撃を吸収し、衝撃を受けた部分(領域Xの外部であってもよい)の破壊を防止する。よって、この領域Xの肉厚を大きくし、強度を増すことが好ましく、特にこの領域の天頂線近傍の強度を高めることが好ましい。
【0024】
図1(c)に外表面天頂線11で切断した縦断面図を示す。図1(c)において、外表面天頂線の全長を5等分に分割し、これらの分割線分を足の指先側から足首側方向の順に分割線分A〜Eとし、これらの分割線分A〜Eを含む先芯厚み方向の断面を分割線分A〜E領域と称することとする。なお、前記領域Xは、分割線分C領域を包含する領域である。以下、図1(c)を中心として本発明を説明する。
【0025】
本発明では、分割線分C領域の平均肉厚を6.5mm以上としている。繊維強化熱可塑性樹脂からなる先芯においてこの肉厚とすると、JIS T8101のS級(普通作業用)規格を十分に充足する強度となる。
【0026】
但し、分割線分C領域を足指先側(先端側)から支持する分割線分B領域と、足首側(終端側)から支持する分割線分D領域の強度が共に低いと、分割線分C領域のみ強度を高めても先芯の全体としての衝撃耐性が高まらない。これは、分割線分B領域や分割線分D領域もまた、先芯に加えられる衝撃の一部を吸収するように作用するためである。よって、先芯の耐衝撃性を高めるには中心となる分割線分C領域のみならず、これに続く領域の強度をも高める必要があるからである。このため、本発明では、分割線分B領域及び/又は分割線分D領域の平均肉厚をも6.5mm以上としている。
【0027】
その一方、本発明では、分割線分A〜E領域以外の領域の肉厚が、分割線分C領域の最大肉厚の略同等かそれ以下としているので、先芯の軽量化を図ることができる。なお、略同等という用語を用いたのは、製造誤差を考慮したからであり、この誤差は通常、分割線分C領域の最大肉厚の+10%以内である。
【0028】
ここで、図2を用いて外表面天頂線について説明する。図2(a)は先芯の底面図であり、図2(b)は先芯を足指先側から見た斜視図である。図2(a)に示すように、先芯足首側の両端部を結ぶ直線Xを引き、この直線Xに平行で且つ先芯の指先側外表面に接する直線Yを引く。このときの接点Pが先芯の先端である。次に直線Xに垂直で且つ接点Pを通る直線Zを定める。そして、先芯設置面(靴底面)に垂直で且つ前記直線Zを含む平面と、先芯の外表面(鍔部を除く)とが交わる線を定める。この交線を外表面天頂線11とする(図2(b)参照)。
【0029】
上記した本発明にかかる安全靴用先芯は、数式1で定義される前記先芯の平均肉厚が4.0mm以上であり、前記先芯の最小肉厚が2.5mm以上であり、前記先芯の最大肉厚が15mm以下である構成とすることができる。なお、ここでいう最小肉厚及び最大肉厚は、実際の厚み測定における最小肉厚及び最大肉厚を意味している。
【0030】
(数式1)
先芯の全平均肉厚(mm)=鍔を除く先芯の質量(g)/〔先芯の外表面積(mm2)×先芯密度(g/mm3)〕
【0031】
平均肉厚が4.0mm未満または最小肉厚が2.5mm未満であると、分割線分C領域における衝撃吸収能が優れていても、肉厚の薄い領域が破壊されるおそれがあるので好ましくない。また、最大肉厚が15mm以上であると、十分な強度が得られるが、肉厚が厚くなった分重量が増加するので軽量性が損なわれるとともに、嵩高になるため安全靴に実装し難くなる。また、より多くの樹脂が必要になるためその分コスト高となる。よって、上記範囲内とするのがよい。
【0032】
また、上記本発明においては、前記繊維強化熱可塑性樹脂中の繊維がガラス繊維であり、前記安全靴用先芯が、ガラス繊維と樹脂とを混練り機構を備えた射出成形機により直接射出成形されてなるものである構成とすることができる。
【0033】
熱可塑性樹脂中に含まれる強化繊維としては、強度、コストの面からガラス繊維が好ましく、また繊維に1回しか剪断力が加わらない点で直接射出成形法を用いてなる先芯が好ましい。直接射出成形法であると、ガラス繊維の折れが少ないので、長いガラス繊維を有する高強度の樹脂製先芯が実現するとともに、直接射出成形法は生産性に優れる。よって、上記構成によると、低コストでもって軽量性、耐衝撃性に優れた先芯を提供することができる。
【0034】
上記目的を達成するための安全靴にかかる本発明は、上記本発明にかかる安全靴用先芯を靴先に組み込んだ安全靴である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、軽量で安全性に優れ、しかも低コストな安全靴用先芯及び安全靴を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明を実施するための最良の形態を、実施例を用いて以下に詳細に説明する。
【0037】
(実施例1、2、比較例1、2)
ナイロン(宇部興産製2020)45質量部と、ガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3mm)55質量部とを用意し、図3に示す構造の混練り機構を備えた射出成形機を用いて、下記表1に示す肉厚分布を有する先芯を作製した。尚、分割線分A〜Eの各領域の肉厚分布は、各分割線分領域の両端及び中央における肉厚を測定し、その最大値と最小値の和を2で除した値を平均肉厚とした。
【0038】
また、全平均肉厚は、下記式により算出した。なお、表面積は、先芯の外表面全体に紙を隙間なく貼り付け、その紙の重さを量り、その重さを紙の比重と厚みとの積で割ることにより表面積を算出した。
【0039】
先芯の全平均肉厚(mm)=鍔を除く先芯の質量(g)/〔先芯の外表面積(mm2)×先芯密度(g/mm3)〕
【0040】
上記で用いた射出成形機は、加熱筒20と回転スクリュー30により、熱可塑性樹脂とガラス繊維等の強化材、充填材等を溶融混練し、射出成形品を製造する射出成形機であって、上記スクリュー30の軸径を段階的に変えることにより、軸径の小さい原料供給ゾーン301と、徐々に軸径が大きくなる圧縮ゾーン302と、他のゾーンよりも軸径を大きくして原料の通過を抑制した計量ゾーン303とで構成されている点に特徴を有する装置である。この装置を用いると、繊維と樹脂との混練が十分になされる。
【0041】
なお、図3における符号12は、原料を投入するためのホッパーであり、32はフライト、35は逆流防止弁、40は先端ノズルである。更に符号31は、ブリスターリングであり、この外周は平坦であり、近傍のフライトのある部分の軸よりも直径が大きくなるようにしてある。ブリスターリング31が設けられていることにより、溶融した樹脂とガラス繊維等の混合物がブリスターリングと加熱筒内周との間に形成された狭い隙間を通過するとき、急圧縮されるので、各成分の混合、分散が更に促進されるという効果が得られる。
【0042】
【表1】

【0043】
〔物性試験〕
ナイロン(宇部興産製2020)45質量部と、ガラス繊維(繊維径13μm、繊維長3mm)55質量部とを用意し、図3に示すような射出成形機を用いて、引張試験(ASTM D368)、曲げ試験(ASTM D790)、アイゾット衝撃値試験(ASTM D256、ノッチ付き)用の試験片を作製した。
【0044】
これらの試験片を、ISO 1110 に基づいて23℃、50%RHで平衡状態に吸湿させた後に、試験を行った。なお、引張強度はASTM D368、曲げ試験はASTM D790、アイゾット衝撃値はASTM D256(ノッチ付き)に基づいて試験を行った。
【0045】
その結果、引張強度は23kgf/mm2、曲げ強さは38kgf/mm2、アイゾット衝撃値は23kgf・cm/cm2であった。
【0046】
〔性能試験〕
以上で作製した先芯を、JIS T8101規格に基づいて、耐衝撃性を測定した。この結果、実施例1及び2に係る先芯は、S級(普通作業用)を満たしていた。これに対して比較例1及び2に係る先芯は、S級条件の衝撃で破壊した。
【0047】
このことは、以下の理由によると考えられる。実施例1では、最も衝撃を吸収する分割線分C領域(領域X)の平均肉厚が6.5mm以上(8.0mm)と、十分な強度に設定されている。また、分割線分C領域を足指先側から支持する分割線分B領域の平均肉厚が6.5mm以上(7.9mm)に形成されている。よって、分割線分C領域が先芯に加えられる衝撃の大部分を吸収し、分割線分B領域が先芯に加えられる衝撃の一部を吸収するので、衝撃が加えられた際に先芯が破壊されない。
【0048】
また、実施例2では、最も衝撃を吸収する分割線分C領域の平均肉厚が8.1mmと、十分な強度に設定されている。また、分割線分C領域を足首側から支持する分割線分D領域の平均肉厚が7.0mmに形成されている。分割線分C領域が先芯に加えられる衝撃の大部分を吸収し、分割線分D領域が先芯に加えられる衝撃の一部を吸収するので、衝撃が加えられた際に先芯が破壊されない。
【0049】
他方、比較例1では、A〜E各分割領域の肉厚が全て6.0mmに設定されている。このため、分割線分C領域の強度が低く衝撃吸収能が十分ではないので、全平均肉厚が5.1mmと、実施例1、2の4.1mm、4.3mmよりも厚く形成されていても、衝撃試験で先芯が破壊してしまう。
【0050】
また、比較例2では、最も衝撃を吸収する分割線分C領域の平均肉厚が7.5mmと十分な強度に設定されているが、分割線分C領域を支持する分割線分B領域、分割線分D領域の平均肉厚が6.1mm、5.8mmであり、強度が不十分(衝撃吸収能が不十分)である。よって、分割線分C領域は先芯に加えられる衝撃の大部分を吸収できるものの、分割線分B領域、分割線分D領域ともに先芯に加えられる衝撃をほとんど吸収できないため、これもまた破壊に至る。
【0051】
なお、比較例1では全ての領域の肉厚を6.0mmとしたが、平均肉厚は5.1mmとなっている。これは、全平均肉厚を上記数式1により求めたことによる誤差である。
【0052】
(その他の事項)
なお、上記実施例では、分割線分B領域と分割線分C領域、又は分割線分C領域と分割線分D領域の2つの分割領域を平均肉厚6.5mm以上としたが、分割線分B領域、分割線分C領域、分割線分D領域の3つの分割領域全てを平均肉厚6.5mm以上であってもよいことは勿論のことである。また、分割線分B領域と分割線分C領域、又は分割線分C領域と分割線分D領域の2つの分割領域のみを6.5mm以上とする場合、残りの1分割領域の平均肉厚は5.0mm以上であることが好ましく、5.5mm以上であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明にかかる先芯に用いる樹脂としては、強度に優れ、安価なナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂が例示されるが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂のような汎用樹脂や、ポリカーボネート、PBT、PET、PPSのようなエンジニアリング樹脂も使用することができる。また、上述した樹脂材料を混合したポリマーアロイであってもよい。
【0054】
但し、繊維強化樹脂の強度は、使用する樹脂自体の強度(引張強度、曲げ強さ、アイゾット衝撃値等)、ガラス繊維の配合量、ガラス繊維の長さ等により大きく影響を受ける。従って、強度の低い樹脂を用いる場合には、ガラス繊維の配合量を多くする、直接射出成形法における混練りにおいて、成型品である先芯内に含まれるガラス繊維長が長くなるように混練り条件を設定する等の手段を講じることが好ましい。
【0055】
ここで、繊維強化樹脂の強度を示す指標としては、上記実施例での試験法に基づいた繊維強化樹脂の引張強度(kgf/mm2)と、曲げ強さ(kgf/mm2)と、アイゾット衝撃値(kgf・cm/cm2、ノッチ付き)との和が、65以上であることが好ましく、75以上であることがさらに好ましく、78以上であることがさらに好ましい。
【0056】
また、ガラス繊維の配合量としては、35〜70質量%であることが好ましく、40〜
68質量%であることがより好ましく、45〜65質量%であることがさらに好ましい。ガラス繊維配合量が35質量%未満であると、十分な強度を得にくく、70質量%より多いと、ガラス繊維量が過剰であるため、繊維強化熱可塑性樹脂の流動性が悪くなり、射出成形が困難となるためである。
【0057】
また、上記実施例では繊維径13μm、繊維長3mmのガラス繊維を用いたが、この太さ、長さに限定されないことは勿論である。
【0058】
また、成型品である先芯に、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、光安定剤、滑剤、消臭剤、着色剤、顔料、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、混練り時にガラス繊維と樹脂との親和性を高めるために、カップリング剤を用いてもよい。
【0059】
また、上記実施例では、表面積の測定に紙を用いたが、紙に限られるものではない。表面積を測定し易いものであればよく、例えば貼り付け取り剥がしが容易なテープを用いるのもよい。
【0060】
また、上記実施例では、先芯の作製を低コストな直接射出成形法を用いて行ったが、本発明は直接射出成形法に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上で説明したように、本発明によると、JIS T8101規格のS級を満たし、かつ軽量な安全靴用先芯を生産性よく提供することができるので、その産業上利用性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は本発明に係る先芯を示す図であって、図1(a)は足首側から見た斜視図、図1(b)は足指先側から見た斜視図、図1(c)は、図1(b)の外表面天頂線11を含む平面で切断した縦断面図である。
【図2】図2は、外表面天頂線の説明に用いるための図面であって、図2(a)先芯の底面図、図2(b)は足指先側から見た先芯の斜視図である。
【図3】実施例および比較例で用いた射出成形機の構造を説明するための断面模式図である。
【図4】特許文献1に係る技術の先芯を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 先芯
1a 天面部
1b 肩部
1c 立ち上がり部
1d 鍔部
11 外表面天頂線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化熱可塑性樹脂からなる安全靴用先芯において、
前記先芯の先端から終端に至る外表面天頂線を5等分に分割した各分割線分を先端側から順に分割線分A,分割線分B,分割線分C,分割線分D、分割線分Eとし、それぞれの分割線分についてその両端と中央の3点で当該先芯の肉厚を測定し、測定したそれぞれの分割線分における最大肉厚と最小肉厚とを合計し2で割った値を当該分割線分領域における平均肉厚とするとき、
前記分割線分C領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、
かつ前記分割線分B領域及び/又は前記分割線分D領域の平均肉厚が6.5mm以上であり、
前記分割線分A〜E領域以外の領域における先芯肉厚が、前記分割線分C領域の最大肉厚と略同等かそれ以下である、
ことを特徴とする安全靴用先芯。
【請求項2】
請求項1記載の安全靴用先芯において、
前記先芯の数式1で定義される全平均肉厚が4.0mm以上であり、
前記先芯の最小肉厚が2.5mm以上であり、
前記先芯の最大肉厚が15mm以下である、
ことを特徴とする安全靴用先芯。
(数式1)
先芯の全平均肉厚(mm)=鍔を除く先芯の質量(g)/〔先芯の外表面積(mm2)×先芯密度(g/mm3)〕
【請求項3】
請求項1記載の安全靴用先芯において、
前記繊維強化熱可塑性樹脂中の繊維がガラス繊維であり、
前記安全靴用先芯が、ガラス繊維と樹脂とを混練り機構を備えた射出成形機により直接射出成形されてなるものである、
ことを特徴とする安全靴用先芯。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の安全靴用先芯を、靴先に組み込んだ安全靴。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−70090(P2006−70090A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252399(P2004−252399)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000157887)岸本産業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】