説明

安定した固体レーザジャイロスコープ

本発明の分野は、固体レーザジャイロの分野である。この技術に固有の主要な問題の1つは、この種のレーザの光キャビティが、本来ひどく不安定であるということである。
この不安定性を低減するために、本発明は、キャビティ(1)に光アセンブリを配置することによって、偏向方向に依存する制御された光損失をキャビティ(1)に導入することを提案するが、このアセンブリには、偏光素子(71)と、波の偏光に作用する相反効果を示す第1の要素(7)と、また波の偏光に作用する非相反効果を示す第2の要素(8)と、を含み、これらの2つの効果の少なくとも1つは、可変であり、これらの損失を、逆伝播モード間の強度の差異に電子的に連結する。
可変非相反効果と組み合わされた固定相反効果か、または逆の場合のどちらかを実現するいくつかの装置が説明される。これらの装置は、特に一体構造のキャビティレーザ、およびとりわけネオジムをドープしたYAGタイプのレーザ、およびまたファイバキャビティレーザに適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、回転速度の測定のために用いられる固体レーザジャイロの分野である。この種の装置は、特に、航空用途に用いられる。
【背景技術】
【0002】
レーザジャイロは、約30年前に開発され、現在では商業的規模で広く用いられている。その動作原理はサニャック効果に基づくが、このサニャック効果によって、回転運動を受ける2方向レーザリングキャビティの、反対方向に伝播する2つの光伝送モード(逆伝播モードと呼ばれる)間の周波数差異Δvが誘起される。従来的には、周波数差異Δvは、次に等しい。すなわち、
Δv=4AΩ/λL。
ここで、LおよびAは、それぞれ、キャビティの長さおよび面積であり、λは、サニャック効果を除いたレーザ放射波長であり、Ωはアセンブリの回転速度である。
【0003】
2つの放射光線のビートのスペクトル分析によって測定されたΔvの値は、Ωの値を非常に正確に決定するために用いられる。
【0004】
レーザジャイロは、インターモーダル結合の影響を低減するために必要な一定の回転速度以上のみで、正確に動作することがまた実証可能である。この限界以下に位置する回転速度範囲は、従来的には不感地帯と呼ばれている。
【0005】
ビートを観察するため、したがってレーザジャイロの動作を観察するための条件は、2方向に放射される強度の安定性および相対的な相等性である。これは、先験的に達成の容易なことではない。なぜなら、2つの逆伝播モードのうちの1つが、他のモードの損失になるほど、利用可能な利得を独占する傾向を有し得るという意味でのインターモーダルな競合現象のためである。
【0006】
この問題は、室温で動作する一般にはヘリウム/ネオン混合物のガス増幅媒体を用いることによって、標準レーザジャイロにおいて解決される。ガス混合物の利得曲線は、原子の熱擾乱によりドップラー幅を示す。したがって、所与の周波数モードに利得を与えることができる唯一の原子は、その速度が、原子を問題のモードと共振させる遷移振動数において、ドップラーシフトを生じる原子である。利得曲線の中央以外でレーザ放射を起こさせる(光路長の圧電調節により)ことによって、キャビティと共振する原子がゼロ以外の速度を有することが保証される。したがって、2方向のうちの1つにおいて利得に寄与できる原子は、反対方向において利得に寄与できる原子の速度と反対の速度を有する。したがって、システムは、1つがそれぞれの方向のための、あたかも2つの独立した増幅媒体があるかのように動作する。かくしてインターモーダルな競合が消えたので、安定し、かつバランスの取れた2方向放射が発生する(実際上、他の問題を緩和するために、2つの異なるネオン同位体からなる混合物が用いられる)。
【0007】
しかしながら、増幅媒体のガス的性質は、レーザジャイロを製造するときの技術的な複雑化(特に、要求されるガスの高純度のために)、および使用中の早すぎる磨耗(ガス漏れ、電極の劣化、反転分布を確立するために用いられる高電圧等)の原因となる。
【0008】
現在では、ヘリウム/ネオンガス混合物の代わりに、たとえば、ネオジムをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶に基づいた増幅媒体を用いて、可視光または近赤外線で動作する固体レーザジャイロを製造することが可能であり、かくして、近赤外線において動作するダイオードレーザによって、光ポンピングが提供される。また、増幅媒体として、希土類に属するイオン(エルビウム、イッテルビウム等)をドープした半導体材料、結晶マトリックスまたはガラスを用いることが可能である。かくして、増幅媒体の気相に固有の問題は全て、事実上除去される。しかしながら、このような構成は、達成が非常に困難である。それは、非常に強いインターモーダルな競合を誘起する、固体媒体における利得曲線の幅の均質な特性と、多数の異なる動作型の存在とのためであり、これらの動作型の中で、「ビート型」と呼ばれる、強度のバランスが取れた2方向型は、1つの非常に不安定な特別のケースである(N.クラフツォフ(N.Kravtsov)およびE.ラリオツェフ(E.Lariotsev)、「Self−modulation oscillations and relaxations processes in solid−state ring lasers」、Quantum Electronics 24(10)、ページ841〜856(1994年))。この主な物理的障害によって、これまで固体レーザジャイロの開発が非常に制限されてきた。
【0009】
この欠点を緩和するための1つの技術的解決法は、光モードの伝播方向およびその強度に依存する光損失をキャビティへ導入することによって、固体リングレーザにおける逆伝播モード間の競合の影響を減じることにある。原理は、他方の損失でより弱いモードを支援するために、2つの送信モード間の強度の差に従うフィードバック装置によってこれらの損失を調節することであり、2つの逆伝播モードの強度を共通の値に絶えず従動する。
【0010】
1984年にフィードバック装置が提案されたが、そこでは、損失は、可変ファラデー効果を示す要素および偏光素子で本質的に構成された光アセンブリによって得られた(A.V.ドツェンコ(A.V.Dotsenko)およびE.G.ラリオンツェフ(E.G.Lariontsev)、「Use of a feedback circuit for the improvement of the characteristics of a solid−state ring laser」、Soviet Journal of Quantum Electronics 14(1)、ページ117〜118(1984年)、ならびにA.V.ドツェンコ(A.V.Dotsenko)、L.S.コミエンコ(L.S.Komienko)、N.V.クラフツォフ(N.V.Kravtsov)、E.G.ラリオンツェフ(E.G.Lariontsev)、O.E.ナイー(O.E.Nanii)およびA.N.シラーエフ(A.N.Shelaev)、「Use of a feedback loop for the stabilization of a beat regime in a solid−state ring laser」、Soviet Journal of Quantum Electronics 16(1)、ページ58〜63(1986年))。
【0011】
このフィードバック装置の原理を図1に示す。この原理は、3つのミラー11、12および13、ならびに増幅媒体19からなるリングキャビティ1に、逆伝播光モード5および6の経路に配置された光アセンブリを導入することにあり、前記アセンブリは、偏光素子71、およびファラデー効果を示し、かつ誘導コイル73で巻かれた光学ロッド72からなる。キャビティの出力部において、2つの光モード5および6は、測定フォトダイオード3に送られる。これらのビーム5および6の一部分は、2つの半反射板43によって取り去られ、2つの光検出器42に送られる。これらの光検出器によって出力される信号は、2つの逆伝播光モード5および6の光強度を表わす。前記信号は、電子フィードバックモジュール4に送られ、このモジュール4が、2つの光モード間における光強度の差に比例した電流を生成する。この電流は、逆伝播モード5および6のそれぞれに課される損失の値を決定する。ビームのうちの一方が他方より強い光強度を有する場合には、その強度は、出力ビームを同じ強度レベルにするように、より多く減衰される。かくして、2方向型は、強度が安定される。
【0012】
固体レーザジャイロは、フィードバック装置のパラメータがシステムの力学と調和する場合にのみ、この原理に従って動作できる。フィードバック装置が正確な結果を与えることができるためには、3つの条件が満たされなければならない。
・フィードバック装置によってキャビティに導入される追加の損失は、キャビティにおける固有の損失と同じオーダの大きさでなければならない。
・フィードバック装置の反応速度は、フィードバックが満足に動作するように、放射されたモードの強度における変化の速度より大きくなければならない。
・最後に、フィードバック装置のフィードバック力は、強度変化を効果的に補正するために、キャビティに誘起された効果に対して十分でなければならない。
【0013】
マクスウェル−ブロッホ方程式は、逆伝播光モードのフィールドにおける複素振幅E、および反転分布密度Nを決定するために用いられる。これらは、半従来的なモデルを用いて取得される(N.クラフツォフ(N.Kravtsov)およびE.ラリオツェフ(E.Lariotsev)、「Self−modulation oscillations and relaxations processes in solid−state ring lasers」、Quantum Electronics 24(10)、ページ841〜856(1994年))。
【0014】
これらの方程式は次の通りである。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
ここで、添え字1および2は、2つの逆伝播光モードを表わす。
ωは、サニャック効果を除くレーザ放射周波数である。
は、2つの伝播方向におけるキャビティのQ係数である。
は、2つの伝播方向におけるキャビティの後方散乱係数である。
σは、有効なレーザ放射断面積である。
lは、走行される利得媒体の長さである。
T=L/cは、キャビティの各モードの走行時間である。
k=2π/λは、波数ベクトルのノルムである。
Wは、ポンピング速度である。
は、励起準位の寿命である。
飽和パラメータaは、
【数3】

【0018】
に等しい。
【0019】
方程式1の右辺には、4つの項がある。第1項は、キャビティの損失による、フィールドにおける変化に相当し、第2項は、キャビティ内に在る散乱要素の存在下で、一方のモードの、他方のモードへの後方散乱によって誘起された、フィールドにおける変化に相当し、第3項は、サニャック効果による、フィールドにおける変化に相当し、第4項は、増幅媒体の存在による、フィールドにおける変化に相当する。この第4項には2つの成分があり、第1は誘導放出に相当し、第2は、増幅媒体内における反転分布格子の存在下で、一方のモードの、他方のモードへの後方散乱に相当する。
【0020】
方程式2の右辺には3つの項があり、第1項は、光ポンピングによる、反転分布密度における変化に相当し、第2項は、誘導放出による、反転分布密度における変化に相当し、第3項は、自然放出による、反転分布密度における変化に相当する。
【0021】
光モードの完全な回転の後、キャビティによる平均損失Pは、したがって、方程式1の右辺の第1項により、
=ωT/2Q1、2となる。
【0022】
フィードバック装置Pによって導入される損失は、これらの平均損失Pと同じオーダの大きさでなければならない。一般に、これらの損失は、1パーセントのオーダである。
【0023】
フィードバック装置の反応速度は、前記フィードバック装置の帯域幅γによって特徴付けることが可能である。方程式1および2を用いて、次のことが実証された。すなわち、回転速度を超える安定した2方向型を確立するための十分条件は、
γ>>ηω/[Q1、2(ΔvT
として書き表すことができ、ここで、η=(W−Wthresho1d)/Wであり、ηは、閾値Wthresholdを超える相対的なポンピング速度に相当する(A.V.ドツェンコ(A.V.Dotsenko)およびE.G.ラリオンツェフ(E.G.Lariontsev)、「Use of a feedback circuit for the improvement of the characteristics of a solid−state ring laser」、Soviet Journal of Quantum Electronics 14(1)、ページ117〜118(1984年)ならびにA.V.ドツェンコ(A.V.Dotsenko)、L.S.コミエンコ(L.S.Komienko)、N.V.クラフツォフ(N.Kravtsov)、E.G.ラリオンツェフ(E.G.Lariontsev)、O.E.ナイー(O.E.Nanii)およびA.N.シラーエフ(A.N.Shelaev)、「Use of a feedback loop for the stabilization of a beat regime in a solid−state ring laser」、Soviet Journal of Quantum Electronics 16(1)、ページ58〜63(1986年))。
【0024】
10%の相対的なポンピング速度η、18×1014の光周波数ω、10の性質係数Q1、2、15kHzの周波数差異Δvおよび0.2msの励起状態寿命Tに対して例を挙げると、帯域幅γは40kHzを超えなければならない。
【0025】
ループが正確に動作するためには、次の関係もまた満たさなければならない。すなわち、
(ΔvT>>1。
【0026】
従来的には、フィードバック装置のフィードバック力qは、次のように定義される。すなわち、
q=[(Q−Q)/(Q+Q)]/[(I−I)/(I+I)]
ここで、IおよびIは、2つの逆伝播モードの光強度である。
【0027】
この種の用途において、フィードバック装置が正確に動作できるためには、パラメータqは、1/(ΔvTより大きくなければならないことが実証された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的は、固体ジャイロレーザのために安定装置を提案することであり、この装置は、3つの物理的効果、すなわち相反回転、非相反回転および偏光の組合せに基づいて、伝播方向に依存する光損失を課すフィードバックシステムからなる。本発明による安定装置によって、ジャイロレーザの適切な動作に必要な条件を得ることが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
光学構成要素に非相反光学効果があるのは、最初の偏光状態を有する光に関して、この光の偏光状態が、前記構成要素におけるラウンドトリップの後で、この初期状態とは異なるときである。ファラデー効果を示す材料は、磁場にさらされたときに、磁場を通過する直線偏光されたビームの偏光方向を回転させる材料である。この結果は、相反的ではない。したがって、反対方向に移動する同じビームは、同じ向きに、偏向方向の回転を経験する。この原理を図2aに示す。直線偏光されたビーム5の偏向方向51は、ファラデー効果を示す構成要素8を順方向に通過するとき、角度βを通じて回転する(図2aにおける上部のダイアグラム)。反対方向に伝播し、かつ偏光方向を最初にβを通じて回転された同一のビーム6が、ファラデー効果を示す構成要素に再注入された場合には、その偏向方向51は、構成要素を通過するときに、角度βを通じて再び回転され、かくして、全回転角は、ラウンドトリップの後で2βになる(図2aにおける中央のダイアグラム)。相反効果を示す従来の構成要素7において、偏向方向51は、その初期位置を再び占めるために、−βを通じて回転するであろう(図2aにおける下部のダイアグラム)。
【0030】
より正確には、本発明の主題は、少なくとも3つのミラーと、固体増幅媒体と、フィードバックシステムとからなる少なくとも1つの光リングキャビティを含むレーザジャイロであって、キャビティおよび増幅媒体が、2つの逆伝播光モードが前記光キャビティの内部でそれぞれに対して反対方向に伝播できるように、するものであり、フィードバックシステムが、2つの逆伝播するモードの強度をほとんど同じに保つことを可能とし、フィードバックシステムが、偏光素子と、逆伝播モードの偏光状態に作用する非相反効果を示す装置と、からなる光アセンブリをキャビティ内部に少なくとも含み、前記光アセンブリが逆伝播モードの偏光状態にまた作用する相反効果を示す装置をさらに含むこと、を特徴とし、フィードバックシステムが、相反効果および非相反効果を示す前記装置の効果の少なくとも1つを制御するための制御手段を含むレーザジャイロである。
【0031】
次に、2つの大まかな技術的な選択を行なうことができる。
・ 相反効果が固定される。この場合には、フィードバック装置が動作できるように、非相反効果は調節できなければならない。
・ または、非相反効果が固定される。この場合には、フィードバック装置が動作できるように、相反効果は調節できなければならない。
【0032】
非限定的な例によって与えられた次の説明の読解および添付の図面から、本発明はより明瞭に理解され、他の利点も明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
相反光学効果を非相反光学効果と組み合わせる原理が、図2bに示す例で説明されているが、ここにおいて、相反および非相反効果は、単に、直線偏光の回転である。この図における2つのダイアグラムは、2つの逆伝播光ビーム5および6が循環できるリングキャビティの一部分を示す。このキャビティには、とりわけ、光アセンブリが含まれるが、この光アセンブリは、直線偏光子71と、直線偏光される光の偏向方向に作用する相反効果を示す第1の要素7と、光の偏向方向にまた作用する非相反効果を示す第2の要素8とからなる。はっきりさせるために、この光アセンブリを含むキャビティの部分は、ラインとして表わした。光ビームの偏向方向は、矢印によって示した。第1の要素7は、角度αを通じて、順方向に光の偏光を回転させ、第2の要素8は、角度βを通じて、また順方向に偏光を回転させる。要素7は、特に、二分の一波長板であってもよく、その軸は、直線偏光子71の偏光軸に対して、角度α/2を通じて回転される。要素8は、上述のように、ファラデー回転子であってもよい。図2bの上部におけるダイアグラムに示すように、直線偏光子71によって直線偏光され、かつ第1および第2の要素を連続して通過する第1の光ビーム5を検討してみると、第1の要素を通過した後、その偏向方向は角度αを通じて回転し、第2の要素を通過した後、その偏向方向は、α+βに等しい角度θforwardを通じて回転した。完全な1回転の後に、このビームが再び直線偏光子71を通過するとき、その相対的な透過率Tforwardは、次によって与えられる。すなわち、
forward=cos(α+β)。
【0034】
また検討してみると、回転角が小さいとき、相対的な強度損失Pforwardは、次によって与えられる。すなわち、
forward=(α+β)
これは、余弦関数の二次元有限展開によって得られる。
【0035】
図2bの下部におけるダイアグラムに示すように、直線偏光され、かつ第1のビーム5に対して反対方向に、第2の要素、続いて第1の要素を連続して通過する第2の光ビーム6を検討してみると、第2の要素を通過した後、その偏向方向は角度βを通じて回転し、第1の要素を通過した後、その偏向方向は−α+βに等しい角度θreverseを通じて回転した。このビームが、ビームの最初の偏光方向と軸が平行方向の直線偏光子を通過するとき、その相対的な透過率Treverseは、次によって与えられる。すなわち、
reverse=cos(β−α)。
【0036】
また検討してみると、回転角が小さいときには、相対的な強度損失Preverseは、次によって与えられる。すなわち、
reverse=(β−α)
これは、余弦関数の二次元有限展開によって得られる。
【0037】
したがって、反対伝播方向における損失は、順方向で記録されたものとは異なり、実は、それが、所望の結果に一致する。したがって、2つの回転角αまたはβのうちの1つを変えることによって、逆伝播モードの強度を別々に変えることが可能になる。
【0038】
もちろん、上記の例は、光の偏光状態に作用する相反効果および非相反効果の任意の組合せに一般化でき、前記組合せを、偏光素子による光強度の変化に変換できるようにする。実際のキャビティにおいて、様々なタイプの構成要素(キャビティミラー、増幅媒体、偏光子等)が、光ビームおよびそれらの強度の偏光状態に影響を及ぼすことがあり得る。キャビティにおける完全な1回転の後、逆伝播ビームの偏光状態について正確に知るために、ジョーンズマトリックスの形式が用いられる。これは、ビームの伝播方向に垂直な平面に関連付けられた2×2マトリックスによって、偏光状態に対する構成要素の影響を表わすことからなる。一般に、選択される参照フレームの軸は、キャビティ内偏光子の主軸に相当し、それによって、数学的な表現を単純化する。キャビティ内の全ての構成要素が結果としてもたらす影響を決定するために、必要なことの全ては、これらの構成要素を表わす様々なマトリックスの積の固有状態を決定することである。この積は必ずしも可換ではないので、影響は、ビームの伝播方向に依存して異なる可能性がある。
【0039】
図2bに示す例において、偏光子71、相反効果を示す要素7、および非相反効果を示す要素8を含むキャビティのジョーンズマトリックスMforwardは、順方向において次のように表現できる。
【0040】
【数4】

【0041】
完全な1回転の後の結果としての偏光は、偏光子の偏光軸に対して角度α+β傾いた直線偏光であり、偏光子を通した強度透過率は、cos(α+β)に等しい。
【0042】
偏光子71、相反効果を示す要素7、および非相反効果を示す要素8を含む同じキャビティのジョーンズマトリックスMreverseは、反対方向において次のように表現される。
【数5】

【0043】
完全な1回転の後の結果としての偏光は、偏光子の偏光軸に対して角度−α+β傾いた直線偏光であり、偏光子を通した強度透過率は、cos(−α+β)に等しい。
【0044】
図3は、本発明によるレーザジャイロ全体のダイアグラムを示す。これには、リングキャビティ1が含まれるが、このリングキャビティは、少なくとも3つのミラー11、12および13、固体増幅媒体19、ならびに逆伝播光モード5および6の経路に配置された光アセンブリからなり、また前記アセンブリは、偏光素子71、逆伝播モードの偏光状態に作用する相反効果を示す装置7、および逆伝播モードの偏光状態にまた作用する非相反効果を示す装置8からなり、前記装置の効果の少なくとも1つは調節可能である。キャビティの出力部において、2つの光モード5および6は、測定フォトダイオード3に送られる。これらのビーム5および6の一部分は、2つの半反射板43によって取り去られ、2つの光検出器42に送られる。これらの2つの光検出器からの信号は、2つの逆伝播光モード5および6の光強度を表わす。前記信号は、電子フィードバックモジュール4に送られ、このモジュール4が、受信した信号の強度に従って、可変効果(ダイアグラムにおける点線矢印)で装置を制御する。これは、2つの逆伝播ビームの偏光状態における変化に帰着する。したがって、偏光状態におけるこれらの変化は、完全な1回転をした後でモードが再び偏光素子71を通過するたびに、逆伝播光モード5および6に異なる光損失を生じさせる。これらの損失は、出力ビームの強度に依存する。ビームのうちの一方が他方より強い光強度を有する場合には、その強度は、出力ビームを同じ強度レベルに導くために、より多く減衰される。かくして、2方向型は、強度が安定される。
【0045】
様々なタイプの偏光素子71が存在する。偏光素子は、特に、直線偏光子であってもよい。それはまた、キャビティミラーのうちの1つで行う処理によって得てもよい。また、たとえば、モード5および6の伝播方向に対して、ブルースター角で傾いたガラス板をキャビティに配置するか、またはキャビティにおける要素(特に、増幅媒体または非相反効果を示す装置)のうちの1つの面を入射ブルースター角でカットすることによって、異なる添え字を有する2つの媒体間の界面における反射特性を利用することが可能である。
【0046】
固定相反効果を示す光学装置を製造するための様々な方法が存在する。
【0047】
特に、図4aおよび4bで説明するような非平面のキャビティを用いることが可能である。少なくとも4つのミラー11、12、13および14を有するキャビティ1を検討すると、図4aに示すように、逆伝播ビームが1つの平面(図4aにおける(X、Y)平面)を伝播するような方法で、4つのミラーを配置することが可能である。この場合、キャビティは、そこを伝播するモードに相反回転は誘起しない。また、たとえば図4bに示すように、逆伝播ビームがもはや1つの平面を伝播するのではないような方法で、4つのミラーを配置することが可能であり、ここでは、ミラー12はZ軸に沿って置き換えられた。この場合、逆伝播ビームの偏光方向が、ビームがキャビティ内を完全に1回転したときに、キャビティの形状に依存する角度を通じて回転したことが実証された(A.C.ニルソン(A.C.Nilsson)、E.K.グスタフソン(E.K.Gustafson)、およびR.L.バイヤー(R.L.Byer)、「Eigenpolarization Theory of Monolithic Nonplanar Ring Oscillators」、IEEE Journal of Quantum Electronics 25(4)、ページ767〜790(1989年))。言いかえれば、非平面キャビティは、その中を伝播するモードに対して相反回転効果を誘起するが、この効果は固定され、キャビティの形状に依存する。
【0048】
また、直線偏光子をキャビティに加えることによって、固定相反効果を示す装置を製造することが可能であり、前記直線偏光子の偏向方向は、最初の偏光素子のそれと平行でない。この場合、相反回転角αは、偏光素子の2つの軸によって形成される角度に等しい。
【0049】
最後に、複屈折の光学板をキャビティに加えることによって、固定相反効果を得ることが可能である。この板が二分の一波長板である場合、回転角αは、二分の一波長板の軸と偏光素子の軸との間に作られた角度の2倍である。もちろん、この二分の一波長板は、装置の構成を単純化するために、キャビティにおけるミラーのうちの1つと一体化してもよい。
【0050】
可変相反効果を示す装置を製造するための1つの可能な解決法は、制御可能な複屈折を示す装置を用いることにある。制御可能な複屈折を誘起するために、次のものを用いることが可能である。
・ 鉛、ランタン、ジルコニウムおよびチタンのセラミックス(PB1−xLaZr1−yTi)。その中立軸の方向および複屈折は両方とも、電極で囲みかつ数百ボルトの電場を印加した領域において、制御可能である。これらのセラミックスは、厚さが1ミリメートル未満であり、近赤外線において透過性であり、かつ数百ボルトの制御電圧と、数十kHzと決められた必要な帯域幅と適合した、1マイクロセカンドのオーダの応答時間とを有する。
・ 約1ミリメートルの厚さ(その活性領域の厚さは約20ミクロンである)を備え、約100ボルトの制御電圧を有する液晶バルブ。
・ またはポッケルスセル。その位相シフトは、印加電圧(典型的には、得られる位相シフトがπ/2と等しくなるような1kV)を変えることによって修正される。たとえばKDPまたはニオブ酸リチウムで作られるこれらのセルは、レーザを誘起するために用いられるものと同一である。それらの厚さは、1〜2センチメートルで、挿入損失はゼロである。
【0051】
非相反結果を示す装置を製造するために、たとえばファラデー効果を示す装置などの磁気光学装置を用いることが一般的に行われているが、これらの装置は、動作するために、磁場の生成を必要とする。これらのファラデー効果素子は、特に、磁気光学材料の層によって、キャビティミラー上に直接製造してもよい。固定の非相反効果を得ることが望ましい場合に、必要なことの全ては、磁石ベースの磁気回路によって永久磁場を生成することである。可変非相反効果を得ることが望ましい場合、必要なことの全ては、たとえば、ファラデー効果を示す材料を囲む誘導コイルによって、可変磁場を生成することである。
【0052】
媒体がそれを許すときには、増幅媒体をファラデー効果媒体として用い、それにより、キャビティの構造を実質的に単純化することが有利である。したがって、近赤外線において動作するレーザ用の増幅媒体として用いられる、ネオジムをドープしたYAGは、そのようなものとして用いるのに十分なファラデー効果を発生することができる。なぜなら、そのベルネ定数が約103°T−1−1に等しく、これは、1テスラ未満の磁場がある状態で、数センチメートルを越えない厚さの走行に対して1度のオーダのファラデー回転を誘起するのに十分だからである。
【0053】
有利なことに、本発明による固体レーザは、図5に示すような一体構造のキャビティから製造される。この構成には、いくつかの利点がある。
【0054】
次に、キャビティは、増幅媒体として働く材料に直接製造してもよい。キャビティの面は、キャビティミラーとして、またはキャビティミラーを支持するための面として用いてもよく、それによって、製造作業がより簡単にされ、より大きな幾何学的な安定性ならびに熱および振動環境に対するよりよい抵抗性が保証される。図6は、このタイプのキャビティを用いた、本発明によるレーザジャイロの一実施形態のダイアグラムを示す。ミラー11、12および13は、一体構造のキャビティの面に直接配置される。キャビティの材料19はまた、増幅媒体として働く。この材料は、特に、ネオジムをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)に基づく。この場合、光ポンピングは、ダイオードレーザ2によって実行され、そのビーム22は、レンズ21によって、増幅媒体内に合焦される。
【0055】
図7に示すように、一体構造のキャビティはまた、非平面であってもよい。したがって、相反効果は、キャビティのまさに形状によって直接得られる。この例において、キャビティは、2つの平らな平行面195および196と、それらの間に4つの傾斜した側面191、192、193および194とを有する厚い板である。板の一般的な形状は、先端を切り取ったくさび形状である。側面の傾きは、キャビティを通って移動する光ビームが、図7に示すような不完全な菱形たどるような方法で、選択される。
【0056】
一体構造のキャビティにおける他の利点の1つは、増幅媒体19を、ファラデー効果を示す媒体として利用可能なことである。この場合、図8aに示すように、可変磁場は、一体構造のキャビティの回りに誘導コイル73を巻き付けることによって得られる。ファラデー効果の有効性を改善するために、図8bに示すように、キャビティの一部分の回りだけに1つまたは複数の誘導コイルを巻き付けて、磁場が伝播方向と常に平行であるようにすることもまた可能である。この場合、伝導コイルを構成する電線がキャビティを通過できるように、キャビティには穴を開けなければならない。
【0057】
固定磁場は、図9に示すように、一体構造のキャビティに永久磁石74を配置することによって得てもよい。
【0058】
また、光ファイバからなるキャビティから、本発明によるレーザジャイロを製造することが可能である。図10はこの原理を示すが、この場合、キャビティには、リング形状の光ファイバ100が本質的に含まれ、また光ファイバに部分的にドープして、増幅媒体として働くようにすることが可能である。たとえばシングル−コアファイバ、ダブル−コアファイバ(光ポンプビームとの結合を容易にするために)または偏波保持ファイバなどの全てのファイバ形状をイメージしてもよい。Yカプラ101は、2つの逆伝播ビーム5および6を抽出するために用いられる。第3のカプラ101は、光ポンプビーム102を光ファイバに注入するために用いられる。いくつかの技術、特に光電気通信用に開発された技術によって、このような結合を達成することが可能になる(たとえばV溝技術)。光ポンピングは、たとえばポンプダイオードレーザ(図10には図示せず)によって実行される。
【0059】
相反光学効果は、矩形7によって象徴的に示すように、たとえば局所的な機械的変形をファイバに加えることによって、容易に得ることが可能である。非相反効果もまた、矩形8によって象徴的に示すように、ファラデー効果によって得てもよい。電気通信技術の発展のおかげで、全てのファイバのファラデーアイソレータが存在し、入出力部が光ファイバコネクタを備えている。これらのアイソレータには、直線偏光される光の偏向方向を45°回転させる非相反要素が含まれる。これらのアイソレータは、異なる非相反回転を導入するために、それらの幾何学的な特性またはそれらに印加される磁場のいずれかを変更することによって、修正してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】先行技術によるフィードバック装置の動作原理を示す。
【図2a】非相反ファラデー効果の原理を示す。
【図2b】本発明による、伝播方向に依存する損失を誘起するための装置の概括的な原理を示す。
【図3】本発明によるフィードバック装置の概括的なダイアグラムを示す。
【図4a−4b】非平面キャビティによって導入される相反効果の概括的な原理を示す。
【図5】一体構造のキャビティの概括図を示す。
【図6】一体構造のキャビティを含むレーザジャイロの概括図を示す。
【図7】一体構造の非平面キャビティの基本的なダイアグラムを示す。
【図8a−8b】ファラデー効果を示す一体構造のキャビティにおける可変磁場生成の基本的なダイアグラムを示す。
【図9】ファラデー効果を示す一体構造のキャビティにおける固定磁場生成の基本的なダイアグラムを示す。
【図10】光ファイバから製造されたレーザジャイロキャビティの基本的なダイアグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのミラー(11、12、13)と、固体増幅媒体(19)と、フィードバックシステム(4、42、43)とからなる少なくとも1つの光リングキャビティ(1)を含むレーザジャイロであって、前記キャビティ(1)および前記増幅媒体(19)が、2つの逆伝播光モード(5、6)が前記光キャビティの内部でそれぞれに対して反対方向に伝播できるように、するものであり、前記フィードバックシステムが、前記2つの逆伝播モードの強度をほとんど同じに保つことを可能とし、前記フィードバックシステムが、偏光素子(71)と、前記逆伝播モードの偏光状態に作用する非相反効果を示す装置(8)と、からなる光アセンブリを前記キャビティ内部に少なくとも含むレーザジャイロであって、
前記光アセンブリが前記逆伝播モードの偏光状態にまた作用する相反効果を示す装置(7)をさらに含み、前記フィードバックシステムが、前記装置(7)または(8)の前記効果の少なくとも1つを制御するための制御手段を含むことを特徴とするレーザジャイロ。
【請求項2】
前記偏光素子(71)が直線偏光子であることを特徴とする、請求項1に記載のレーザジャイロ。
【請求項3】
前記偏光素子(71)が、前記キャビティの前記ミラー(11、12、13)の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載のレーザジャイロ。
【請求項4】
前記偏光素子(71)が、傾いたガラス板であって、前記光モード(5、6)に対する傾斜角がブルースター角と等しいガラス板か、または入射ブルースター角でカットされた、前記キャビティにおける要素(7、8または19)の面の1つの少なくともどちらかであることを特徴とする、請求項1に記載のレーザジャイロ。
【請求項5】
相反効果を示す前記装置(7)が第2の直線偏光子であり、その偏向方向が、前記第1の偏光子のそれと平行ではないとき、前記フィードバックシステムが、非相反効果を示す前記装置(8)の非相反効果を調節するための手段からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項6】
相反効果を示す前記装置(7)が複屈折の光学板であるとき、前記フィードバックシステムが、非相反効果を示す前記装置(8)の非相反効果を調節するための手段を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項7】
前記光キャビティが非平面キャビティであるとき、前記フィードバックシステムが、非相反効果を示す前記装置(8)の非相反効果を調節するための手段からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項8】
相反効果を示す前記装置(7)が、電気的に制御された複屈折を示す光学板であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項9】
非相反効果を示す前記装置(8)が、ファラデー効果を示しかつ永久磁石によって偏光される材料からなるとき、前記フィードバックシステムが、相反効果を示す前記装置(7)の相反効果を調節するための手段からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項10】
非相反効果を示す前記装置(8)が、ファラデー効果を示しかつ調節可能な電流によって制御される誘導コイル(73)によって偏光される材料からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項11】
前記増幅媒体およびファラデー効果を示す前記材料が、同じ材料で製造されることを特徴とする、請求項9または10に記載のレーザジャイロ。
【請求項12】
前記キャビティ(1)が一体構造であり、前記逆伝播光モード(5、6)が、前記キャビティ内で、固形材料の中だけ伝播することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項13】
前記増幅媒体(19)が、ネオジムをドープしたYAG(イットリウム−アルミニウム−ガーネット)に基づくことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項14】
前記キャビティ(1)が、少なくとも1つのダイオードレーザ(2)によって光学的にポンプされることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。
【請求項15】
前記キャビティがリング形状をした少なくとも1つの光ファイバ(100)を含み、前記光ファイバが、前記逆伝播ビームおよび少なくとも1つの光ポンピングビーム(102)の入射および出射のための光カプラ(101)を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載のレーザジャイロ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a−4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a−8b】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−521545(P2006−521545A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505483(P2006−505483)
【出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/050349
【国際公開番号】WO2004/094952
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【Fターム(参考)】