説明

安定な全塗布型(allsolutionprocessable)量子ドット発光ダイオード

本発明の実施形態は、電子注入および輸送層が無機ナノ粒子(I−NP)を含む量子ドット発光ダイオード(QD−LED)を対象とする。I−NPを使用すると、従来の有機系電子注入および輸送層を有するものと比べて改善されたQD−LEDが得られ、無機層を形成するために化学反応を必要としない。本発明の一実施形態では、正孔注入および輸送層は、金属酸化物ナノ粒子(MO−NP)とすることができる。これにより、デバイス全体が全無機系の安定性を持つことができ、ナノ粒子の懸濁液を堆積させるステップと、懸濁媒体を除去するステップとを含む比較的低コストの一連のステップによってQD−LEDを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2009年7月7日に出願された米国仮特許出願第61/223,445号の利益を主張するものである。この米国仮特許出願は、いかなる図、表または図面をも含めて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ARO(助成番号W911NF−07−1−0545)およびDOE(助成番号DE−FC26−06NT42855)にサポートされた研究プロジェクトの下で政府の支援で行われた。政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発光ダイオード(LED)は、最新式のディスプレイ技術における使用がますます増えている。LEDは、低いエネルギー消費、長い寿命、頑強性、小型および速いスイッチングなど、従来の光源と比べて多くの利点を有する。LEDは、従来の光源に比べて、比較的高価なままであり、精密な電流および熱管理を必要とする。加工費はかなり高く、材料費を超えるLEDもある。通常のLEDは、無機化合物半導体、典型的にはAlGaAs(赤色)、AlGalnP(橙−黄−緑色)、およびAlGalnN(緑−青色)から作られる。これらは、使用する半導体化合物のバンドギャップに対応する周波数の単色光を発する。これら通常のLEDは、混合色の光(例えば白色光)を発しない。白色LEDを光源として使用することができ、既存の色フィルタ技術でフルカラーディスプレイを作ることができる。白色光を作るために使用されている1つの方法は、個々のLEDを組み合わせて同時に三原色を発することである。三原色は混合して白色光を作る。別の方法は、黄色蛍光体を使用してLEDからの単色の青色光を広域スペクトルの白色光に変換すること、または様々な色を発する2つ以上の蛍光体を使用してLEDからのUV光を広域スペクトルの白色光に変換することである。但し、この手法では色管理は限定されている。有機LED(OLED)も比較的低コストで製作することができ、様々な色および白色光を提供することができるが、一般にOLEDは無機デバイスに比べて効率と寿命の難点がある。何故ならば、有機材料からなる発光層は、高輝度を達成するために、典型的には比較的高い電流密度とドライブ電圧を必要とするが、これにより、特に酸素、水およびUV光子の存在下でOLEDの劣化が促進されるからである。
【0004】
量子ドット発光ダイオード(QD−LED)はディスプレイおよび光源用に開発されている。無機量子ドット発光体は、OLEDおよび他の発光ダイオードに対していくつかの利点を有するが、これには、安定性、塗布性(solution processability)および優れた色純度が含まれる。量子ドット(QD)は、その半径がバルク励起子ボーア半径より小さい半導体ナノ微結晶である。三次元すべてにおける電子と正孔の量子閉じ込めは、微結晶サイズが小さくなるとともにQDの実効バンドギャップの上昇をもたらす。この場合、量子ドットの光吸収および放射は、ドットのサイズが小さくなるにつれてより高いエネルギーにシフトする(ブルーシフト)。例えば、CdSe QDは、QDのサイズのみに左右される任意の単色可視色の光を発することができ、白色光を発するQD−LEDアレイを形成するために使用することができる。
【0005】
現在のQD−LEDでは、効率的な電荷輸送および注入のために、有機材料と反応性金属からなるいくつかの層が使用される。有機物の使用により、QD−LEDのいくつかの利点が相殺され、QD−LEDの商業化が妨げられた。例えば、Sunら、Nature Photonics、2007年、1巻、717頁は、効率的なカラーQD−LEDを得るために、電子輸送層としてトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を、電子注入層としてカルシウムを開示している。不都合なことに、長期安定性は、有機層の劣化および反応性金属の酸化により不十分である。装置の製作にはコストの高い真空蒸着法が必要となる。殆どのQD−LEDでは、欠陥は、QD発光層と有機電子輸送層の間の有機/無機界面で起こる可能性があり、これはQD発光層内への不十分な電子注入をもたらす。Carugeら、Nature Photonics、2008年、2巻、247頁は、優れた長期安定性を有する完全無機QD−LEDを開示している。しかし、電荷輸送層は複雑でコストの高い真空スパッタ堆積法で製作される。
【0006】
Choらの米国特許出願公開第20090039764号は、有機薄膜の代わりに連続無機薄膜を使用して電子輸送層を構成したQD−LEDを開示している。この無機薄膜は、発光層上に堆積させた後に無機薄膜材料を形成するために、スピンコーティング、印刷、キャスティングおよび噴霧などのコスト効率の良い溶液塗布プロセスの後に化学反応、ゾルゲル法を行うことによって製造することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
費用のかかる加工ステップまたは反応プロセスによる層の形成を必要としない、全無機QD−LEDまたは少なくとも無機電子輸送層を備えたデバイスの製造が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、複数の量子ドット(QD)を有する発光層と、複数の無機ナノ粒子(I−NP)を有する電子注入および輸送層とを含む量子ドット発光ダイオード(QD−LED)を対象とする。このQDは、以下のものとすることができる:CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTeまたはこれらの任意の組合せなどのII−VI族化合物半導体ナノ結晶;GaP、GaAs、GaSb、InP、InAsおよびInSb;PbS、PbSe、PbTeまたはこれらの任意の組合せなどのIII−V族またはIV−VI族化合物半導体ナノ結晶;CuInSe2ナノ結晶;ZnO、TiO2、またはこれらの組合せなどの金属酸化物ナノ粒子;CdSe/ZnSe、CdSe/ZnS、CdS/ZnSe、CdS/ZnS、ZnSe/ZnS、InP/ZnS ZnO/MgO、またはこれらの任意の組合せなどのコア−シェル構造のナノ結晶。半導体ナノ粒子は、ドープされていなくてもよく、あるいはEu、Er、Tb、Tm、Dyもしくはこれらの任意の組合せなどの希土類元素でドープされていても、またはMn、Cu、Agもしくはこれらの任意の組合せなどの遷移金属元素でドープされていてもよい。I−NPは以下のものとすることができる:ドープされていないZnO;Al、Cd、Cs、Cu、Ga、Gd、Ge、In、Liおよび/またはMgでドープされているZnO;TiO2;SnO2;WO3;Ta23;CdS;ZnSe;ZnS;あるいはこれらの任意の組合せ。I−NPは、およそ20nm未満の平均特性粒子径(mean characteristic diameter)を有し、5nm未満の平均特性粒子径を有することができる。QD−LEDは、NiO、MoO3、MoS2、Cr23およびBi23、p型ZnO、p型GaN、またはこれらの任意の組合せなどの、複数の金属酸化物ナノ粒子(MO−NP)を含む正孔注入および輸送層をさらに含むことができる。
【0009】
本発明の他の実施形態は、上記QD−LEDの製造方法であって、電極を準備するステップと、I−NPを含む電子注入および輸送層を堆積させるステップと、複数のQDを含む発光層を堆積させるステップと、正孔注入および輸送層を堆積させるステップと、QD−LEDを対向電極でキャッピングするステップとを含む方法を対象とする。堆積させる各ステップは非反応性流体堆積法(non-reactive fluid deposition method)を含む。電子注入および輸送層の堆積は、I−NPの懸濁液を、電極または発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧した後、堆積した懸濁液からすべての懸濁媒体を除去することによって行なうことができる。正孔注入および輸送層の堆積は、MO−NPの懸濁液を、電極または発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧し、堆積した前記懸濁液からすべての懸濁媒体を除去することによって行なうことができる。正孔注入および輸送層の堆積は、1種または複数の無機材料の溶液を、電極または発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧し、無機材料の堆積した前記溶液から溶媒を除去することによって行うことができる。あるいは、正孔注入および輸送層の堆積は、化学気相蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着または真空蒸着を含むことができる。本方法の一実施形態では、すべての堆積ステップは、溶液または懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧するステップと、引き続いて、堆積した溶液または懸濁液から溶媒または懸濁媒体を除去するステップとを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態によるナノ微粒子電子注入層を有するQD−LEDの構造の図を示す。
【図2】本発明の実施形態による図1の設計からなる個々の緑色、青色および橙色QD−LEDのエレクトロルミネセンススペクトルを示す。
【図3】本発明の実施形態による図2の緑色(三角形)、青色(正方形)、および橙色(円)QD−LEDについて、電流密度に対する輝度(右軸)および外部量子効率(左軸)のグラフを示す。
【図4】電子輸送としてZnO NPを有する本発明の一実施形態による緑色QD−LED(三角形)と、電子輸送層としてBCP/Alq3/LiFを有する従来の緑色QD−LED(正方形)とについて、電流密度に対する輝度(右軸)および外部量子効率(左軸)の比較グラフを示す。
【図5】図4の2つのQD−LEDのエレクトロルミネセンススペクトルを重ねて示す。
【図6】本発明の一実施形態による、ナノ微粒子電子輸送層およびナノ微粒子正孔輸送層を有する全無機QD−LED(QD−ILED)の構造の図を示す。
【図7】本発明の実施形態による、正孔輸送層がNiO(三角形)およびMoO3(正方形)である無機ナノ粒子QD−ILEDについて、電流密度に対する輝度(右軸)および発光効率(左軸)のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態は、電子輸送層がナノ微粒子無機材料を含む量子ドット発光ダイオード(QD−LED)を対象とする。本発明のいくつかの実施形態では、正孔輸送層もナノ微粒子無機材料を含む。この新規QD−LEDは、デバイス安定性に関して現在のQD−LEDの欠点を克服するものである。
【0012】
本発明の実施形態は、ナノ粒子層を堆積した後に反応ステップを必要としない流体プロセス(fluid process)を使用して、この新規QD−LEDを製作する方法を対象とする。この新規プロセスは、蒸着などの他の方法に比べて加工費を低下させ、かつ、ばらつきのない加工を可能にする。このばらつきは、層と同時に材料が形成される際、温度、圧力、化学量論性、触媒作用レベル、または反応性不純物などが一定しないために、反応プロセスで発生する恐れがある。
【0013】
図1は、電子注入および輸送層としてZnOナノ粒子(NP)の不連続層を使用した本発明の一実施形態によるQD−LED構造を示す。電子は、Alカソードから受け入れられ、このZnO NP層からQD発光層に注入される。QD発光層は、図示された実施形態に、CdSe−ZnSコア−シェルNPとして示されている。この実施形態では、正孔注入および輸送層は、ガラス基板上に支持されたインジウムスズ酸化物(ITO)ガラスアノード上のポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルフィナートPEDOT:PSS上に、ポリ[N,N−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N−ビス(フェニル)ベンジジン](ポリ−TPD)として示されている。コア−シェルNP CdSe−ZnS発光層は、多数の単分散単一サイズNPとして設けることができる。例えば、3つの異なる色を発する3つの異なるサイズのNPからなるCdSe−ZnS NPは、組み合わせて白色光を発することができるLEDを形成することができる。
【0014】
図2は、半値全幅(FWHM)が20〜40nmの狭い形状を有する3つの異なる色:青色、緑色および橙色の発光を示す適切なQDを有する、図1に示したように構築された3色QD−LEDのエレクトロルミネセンススペクトルを示す。QD−LEDの3つの波長について観察されたQD−LED最大輝度および外部量子効率は、図3に示したように、青色では2,248cd/m2、0.17%;緑色では68,139cd/m2、1.83%;橙色では9,440cd/m2、0.65%である。
【0015】
図3の実験的デバイスについては、有機または無機材料からなるQD−LEDの活性層はすべて流体加工を用いて堆積させることができる。緑色ZnO系デバイスの輝度は、デバイスを封入せずにグローブボックス内で40mA/cm2で連続運転した後、300cd/m2から600cd/m2まで上昇した。こうした時間に依存して明るくなる効果は、これらのQDからの光ルミネセンスに関する研究で観察されており、この現象が表面安定化(surface passivation)プロセスに由来する可能性があることを示唆している。
【0016】
本発明の実施形態による実験的な緑色および橙色QD−LEDデバイスについては、最大発光値および外部量子効率値は、従来のQD−LEDについて報告されたものを超えている。従来のQD−LEDは、正孔ブロックおよび電子注入/輸送層として、真空熱蒸着を用いて順に堆積させた構造(2,9−ジメチル−4,7−ジ−フェニル−1,10−フェナントロリン)/(トリス(8−ヒドロキシ−キノレート)アルミニウム)/フッ化リチウム(BCP/Alq3/LiF)の構造を有する。対照的に、本発明の新規ZnO NP電子注入および輸送層はスピンコーティング技術を用いて堆積させる。ZnO系緑色デバイスは従来のデバイスより一桁高い効率を示すことが図4で分かる。また、図5に示すように色純度も優れている。従来のデバイスと比較してナノ微粒子ZnO系デバイスが10倍を超えて上昇していることは、ナノ微粒子ZnO層による効率的な電子注入および輸送によるものである。
【0017】
完全に流体加工可能なQD無機発光ダイオード(QD−ILED)を図6に示す。ここで、電子注入および輸送層はZnO NPからなり、正孔注入および輸送層はNiOまたはMoO3 NPのいずれかからなる。図7は、実験的NiOおよびMoO3系デバイスの輝度電圧特性を示す。ここで、180cd/m2および26cd/m2の最高輝度値がそれぞれ達成されている。図7に示すように、2つのQD−ILEDのピーク電流効率はほぼ同じで、約0.2cd/Aである。
【0018】
アノードは透明基板上に形成することができ、これはガラスであっても、たとえポリマーであってもよい。アノードは、それだけに限らないが、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウム銅酸化物(ICO)、Cd:ZnO、SnO2、In23、F:SnO2、In:SnO2、Ga:ZnO、およびAl:ZnOを含めたドープされているまたはドープされていない酸化物とすることができるが、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、およびイリジウム(Ir)を含めた金属層または混合カーボンナノチューブであってもよい。アノードは、連続フィルムであってもよく、マイクロまたはナノワイヤから構成することもできる。これらのワイヤは、パターン化させてもランダムに分布させてもよい。
【0019】
正孔注入および輸送層は、材料の溶液または懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティングおよび噴霧した後、懸濁媒体、一般に、堆積させる材料から蒸発または他の方法で除去することができる有機液体、水、または液体の混合物を除去して層を形成するなどの、流体に基づく方法によってアノードまたはQD発光層上に堆積させることができる。図1に示したデバイスについては、堆積させる材料は、それだけに限らないが、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリフェニレン−ビニレン、ポリパラフェニレン、ポリメタクリレート誘導体、ポリ(9,9−オクチルフルオレン)、ポリ(スピロ−フルオレン)、TPD、NPB、トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレン−co−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン(TFB)、ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)およびポリ[2−メトキシ−5−(3’,7’−ジメチルオクチルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](MDMO−PPV)を含む有機ポリマーまたはテトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)でドープされた上記ポリマーの何れかとすることができる。正孔輸送層の厚みは約10nm〜約200nmとすることができる。
【0020】
図6に示したデバイスの新規微粒子正孔輸送層は、それだけに限らないが、NiO、MoO3、Cr23、Bi23、またはp型ZnOなどのナノ微粒子金属酸化物(MO−NP)、MoS2またはp型GaNなどの非酸化物の等価物、あるいはこれらの任意の組合せとすることができる。ナノ微粒子正孔輸送層は10nm〜約100nmとすることができ、アノードまたは発光層上にナノ粒子の懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティングおよび噴霧させ、引き続いて蒸発または他の手段によって有機液体、水、または液体の組合せなどの液状懸濁媒体を除去してナノ微粒子層を形成するなどの、流体に基づく方法によってアノードまたはQD発光層上に堆積させることができる。
【0021】
QD発光層は、以下のものからなる群から選択することができる:CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSeおよびHgTeなどのII−VI族化合物半導体ナノ結晶;GaP、GaAs、GaSb、InP、InAsおよびInSb;PbS、PbSe、およびPbTeなどのIII−V族またはIV−VI族化合物半導体ナノ結晶;CuInSe2;ZnO、TiO2などの金属酸化物ナノ粒子;または、CdSe/ZnSe、CdSe/ZnS、CdS/ZnSe、CdS/ZnS、ZnSe/ZnS、InP/ZnSおよびZnO/MgOなどのコア−シェル構造のナノ結晶。半導体ナノ結晶はドープされていなくてもよく、あるいはEu、Er、Tb、Tm、および/もしくはDyなどの希土類元素でドープされていてもよく、ならびに/または遷移金属元素Mn、Cu、Ag;またはこれらの任意の組合せでドープされていてもよい。量子ドット発光層は、好ましくは約5nm〜約25nmの厚みを有しており、QDの懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティングおよび噴霧させ、液状懸濁媒体を除去してQD発光層を形成するなどの、流体に基づく方法によって正孔または電子輸送層上に堆積させることができる。
【0022】
新規微粒子電子注入および輸送層は、無機ナノ粒子(I−NP)である。このI−NPとしては、それだけに限らないが、ドープしていないZnO、またはAl、Cd、Cs、Cu、Ga、Gd、Ge、In、Liおよび/またはMgでドープされたZnO(ドーパント濃度0.001重量%〜99.999重量%)、TiO2、SnO2、WO3、Ta23、CdS、ZnSe、ZnS、またはこれらの任意の組合せを挙げることができる。この層のナノ粒子は、およそ20nm未満、好ましくは5nm未満の平均特性粒子径を有する。この層の厚みは5nm未満〜約200nmとすることができ、この層は、I−NPの懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティングおよび噴霧した後、懸濁媒体を除去して微粒子電子注入および輸送層を残すなどの方法によってカソードまたはQD発光層上に形成することができる。懸濁媒体は、有機液体、水または液体の組合せとすることができる。
【0023】
本発明の実施形態によるカソードは、ITO、Ca、Ba、Ca/Al、LiF/Ca、LiF/Al、BaF2/Al、BaF2/Ca/Al、Al、Mg、CsF/Al、CsCO3/Al、Au:MgまたはAg:Mgとすることができる。フィルムの厚みは、約50nm〜約300nmの範囲とすることができる。
【0024】
要約すると、両方のQD−LEDデバイス構造は、全塗布型であるという明瞭な利点を有する。これは、QD−LEDの加工費を著しく低下させる。さらに、有機層の部分的または完全な除去はより長い寿命をもたらす。上記2種類のデバイス構造のさらなる最適化により、さらにより優れた性能が得られるはずである。
【0025】
方法および材料
ZnO、NiOおよびMoO3などの金属酸化物のナノ粒子は、熱溶液、コロイド溶液、またはゾル−ゲル法を含むいくつかの技術によって合成することができる。ZnOの典型的なゾルゲルプロセスでは、ナノ粒子は、エタノールに溶解した化学量論量のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(0.55M)を、DMSOに溶解した0.1M酢酸亜鉛二水和物30mLに滴下した後、室温で1時間撹拌することによって合成された。容積比1:3のヘプタン/エタノールで複数回洗浄した後、ZnOナノ粒子を純エタノールに分散した。
【0026】
QLEDの活性層用の量子ドットは、熱溶液またはコロイド溶液の方法を含むいくつかの技術によって合成することができる。524nm(緑色)に発光ピークを有するCdSe/ZnS量子ドットの典型的な熱溶液合成では、50mLフラスコ中で0.1mmolのCdOと4mmolの酢酸亜鉛を5mLのオレイン酸と混合し、150℃に加熱し、30分間ガス抜きした。引き続いて、反応容器を乾燥純窒素下に維持しながら、15mLの1−オクタデセンを反応フラスコに注入し300℃に加熱した。300℃の温度で、2mLのトリオクチルホスフィンに溶解した0.2mmolのSeと3mmolのSを容器に速やかに注入した。10分後、0.5mLの1−オクタンチオールを反応器へ導入して量子ドットを不動態化し、反応器の温度を室温に下げた。精製した後、得られたCdSe/ZnS量子ドットをトルエンに分散した。
【0027】
ITO/PEDOT:PSS/ポリ[−ビス(4−ブチルフェニル)−ビス(フェニル)ベンジジン](ポリ−TPD)/量子ドット発光層/ドープされたまたはドープされていないZnOナノ粒子層/Alのデバイス構造を有するQD−LEDの典型的な製作プロセスは、以下のようにして製作することができる。ITO透明電極を有するガラス基板を、脱イオン水、アセトンおよびイソプロパノールで順次洗浄した後、UVオゾン処理した。PEDOT:PSS(Baytron AI 4083)をITO層の上にスピンコーティングした後、空気中150℃で焼成した。ポリ−TPDを、クロロベンゼン溶液からPEDOT:PSS層の上に2000rpmでスピンコーティングし、窒素中110℃で30分間アニールした。量子ドット発光層を、5〜20mg/mlの間の濃度のトルエン溶液から500〜6000rpmの間の様々な速度でスピンコーティングを用いてポリ−TPD層の上に堆積させた。ドープされたまたはドープされていないZnOナノ粒子をエタノールに分散し、量子ドット層の上に4000rpmでスピンコーティングして40nmの厚い層を設けた。次いで、組み立てられたデバイスを60℃窒素下で30分間アニールした後、Alカソードを堆積するために真空室に装填した。
【0028】
ITO/MoO3またはNiOナノ粒子層/量子ドット発光層/ドープされたまたはドープされていないZnOナノ粒子層/Alの構造を有する典型的なQD−ILEDを、以下のように製作した。上記QD−LEDと同じようにしてITO層を有するガラス基板を準備した後、10〜50mg/mlの間の濃度のエタノール溶液から500〜4000rpmの間の様々な速度でITO層の上にMoO3またはNiOのナノ粒子層をスピンコーティングした。部分的に組み立てられたデバイスを大気中室温〜500℃の間の温度で30分間アニールした後、引き続いて上記のようにして量子ドット/ZnOナノ粒子/Al層を堆積させた。
【0029】
本明細書で言及または引用したすべての特許、特許出願、仮出願および公開は、それらが本明細書の明示的な教示と矛盾しない範囲で、すべての図および表を含めてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
本明細書に記載された実施例および実施形態は、例示のみを目的とするものであること、ならびに、これらの観点からの様々な修正または変更は当業者に示唆されており、本出願の趣旨および範囲に含まれていることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の量子ドット(QD)を含む発光層と、
複数の無機ナノ粒子(I−NP)を含む電子注入および輸送層と
を含む量子ドット発光ダイオード(QD−LED)。
【請求項2】
前記QDが、II−VI族化合物半導体ナノ結晶、III−V族またはIV−VI族化合物半導体ナノ結晶、CuInSe2ナノ結晶、金属酸化物ナノ粒子、コア−シェル構造のナノ結晶、希土類元素または遷移金属元素でドープされた半導体ナノ結晶またはこれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載のQD−LED。
【請求項3】
前記II−VI族化合物半導体ナノ結晶が、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe、CdSTe、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項2に記載のQD−LED。
【請求項4】
前記III−V族またはIV−VI族化合物半導体ナノ結晶が、GaP、GaAs、GaSb、InP InAsおよびInSb;PbS、PbSe、PbTeまたはこれらの任意の組合せを含む、請求項2に記載のQD−LED。
【請求項5】
前記金属酸化物ナノ粒子が、ZnO、TiO2またはこれらの組合せを含む、請求項2に記載のQD−LED。
【請求項6】
前記コア−シェル構造のナノ結晶が、CdSe/ZnSe、CdSe/ZnS、CdS/ZnSe、CdS/ZnS、ZnSe/ZnS、InP/ZnS ZnO/MgO、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項2に記載のQD−LED。
【請求項7】
希土類元素でドープされた前記半導体ナノ粒子が、Eu、Er、Tb、Tm、Dyまたはこれらの任意の組合せを含む、請求項2に記載のQD−LED。
【請求項8】
前記I−NPが、ドープされていないZnO;Al、Cd、Cs、Cu、Ga、Gd、Ge、In、Liおよび/またはMgでドープされたZnO;TiO2;SnO2;WO3;Ta23;CdS;ZnSe;ZnS;あるいはこれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載のQD−LED。
【請求項9】
前記I−NPが、およそ20nm未満の平均特性粒子径を有する、請求項1に記載のQD−LED。
【請求項10】
前記QDが、5nm未満の平均特性粒子径を有する、請求項1に記載のQD−LED。
【請求項11】
低仕事関数電極と透明な高仕事関数電極とをさらに含む、請求項1に記載のQD−LED。
【請求項12】
複数の金属酸化物ナノ粒子(MO−NP)を含む正孔注入および輸送層をさらに含む、請求項11に記載のQD−LED。
【請求項13】
前記MO−NPが、NiO、MoO3、MoS2、Cr23およびBi23、p型ZnO、p型GaN、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項12に記載のQD−LED。
【請求項14】
前記電子注入および輸送層が前記低仕事関数電極と前記発光層の間にあり、前記正孔注入および輸送層が前記発光層と前記透明な高仕事関数電極の間にある、請求項12に記載のQD−LED。
【請求項15】
前記電子注入および輸送層が前記高仕事関数透明電極と前記発光層の間にあり、前記正孔注入および輸送層が前記発光層と前記低仕事関数電極の間にある、請求項12に記載のQD−LED。
【請求項16】
前記低仕事関数電極が、アルミニウム;マグネシウム;カルシウム;バリウム;あるいはアルミニウムで覆われたLiF、CsF、またはCs2CO3の薄層を含む、請求項11に記載のQD−LED。
【請求項17】
前記透明な高仕事関数電極が、インジウムスズ酸化物(ITO)上に、ポリ(ペルフルオロエチレン−ペルフルオロエーテルスルホン酸(PFFSA)でドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシレンチオフェン):ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)またはポリチエノチオフェン(PTT)を含む、請求項11に記載のQD−LED。
【請求項18】
前記透明な高仕事関数電極が、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、亜鉛スズ酸化物(ZTO)、銅インジウム酸化物(CIO)、銅亜鉛酸化物(CZO)、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、またはカーボンナノチューブを含む、請求項11に記載のQD−LED。
【請求項19】
前記透明な高仕事関数電極が、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、ポリ(N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン)(ポリ−TPD)、またはポリ−n−ビニルカルバゾール(PVK)をさらに含む、請求項18に記載のQD−LED。
【請求項20】
QD−LEDの製造方法であって、
電極を準備するステップと、
電子注入および輸送層を堆積させるステップと、
複数のQDを含む発光層を堆積させるステップと、
正孔注入および輸送層を堆積させるステップと、
前記QD−LEDを対向電極でキャッピングするステップとを含み、堆積させる前記ステップが非反応性流体堆積法を含み、前記電子注入および輸送層がI−NPを含む、方法。
【請求項21】
前記I−NPが、ドープされていないZnO、Al、Cd、Cs、Cu、Ga、Gd、Ge、In、Liおよび/またはMgでドープされたZnO、TiO2、SnO2、WO3、Ta23、CdS、ZnSe、ZnS、あるいはこれらの任意の組合せを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
電子注入および輸送層を堆積させる前記ステップが、前記I−NPの懸濁液を、前記電極または前記発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧するステップと、前記堆積したI−NPの懸濁液から懸濁媒体を除去するステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
正孔注入および輸送層を堆積させる前記ステップが、MO−NPの懸濁液を、前記電極または前記発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧するステップと、前記堆積したMO−NPの懸濁液から懸濁媒体を除去するステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記MO−NPが、NiO、MoO3、MoS2、Cr23およびBi23、p型ZnO、p型GaN、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
正孔注入および輸送層を堆積させる前記ステップが、1種または複数の無機材料の溶液を、前記電極または前記発光層の表面にスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧するステップと、前記堆積した無機材料の溶液から溶媒を除去するステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
正孔注入および輸送層を堆積させる前記ステップが、化学気相蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着または真空蒸着を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
堆積させる前記ステップの各々が、溶液または懸濁液をスピンコーティング、印刷、キャスティング、または噴霧するステップと、引き続いて、堆積した前記溶液または懸濁液から溶媒または懸濁媒体を除去するステップとを含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−533156(P2012−533156A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519698(P2012−519698)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/041208
【国際公開番号】WO2011/005859
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(504433168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インク. (10)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEATCH FOUNDATION,INC.
【Fターム(参考)】